説明

デュプレクサの受信側フィルタ及びデュプレクサ

【課題】受信側フィルタの通過帯域における挿入損失を小さく抑えつつ、受信側フィルタの通過帯域の中心周波数fと送信側フィルタの通過帯域の中心周波数fとの差分に対応する周波数f(f>0)を持つ妨害波が当該受信側フィルタに回り込むことを抑えること。
【解決手段】アンテナポート1と受信ポート3との間に互いに直列に設けられた第1の直列腕21及び第2の直列腕21との間の接続点とアースとの間に、補助インダクタ素子25を設ける。そして、第1の直列腕21の容量値、第2の直列腕21の容量値及び補助インダクタ素子25のインダクタンス値について、第1の直列腕21、第2の直列腕21及び補助インダクタ素子25からなる構成が周波数fに減衰域が位置するハイパスフィルタとなるように夫々設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯端末などに用いられるデュプレクサの受信側フィルタ及びデュプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機等の双方向無線通信機能を持つ装置やこの種の装置を通信端末とする無線通信システムでは、当該通信端末が持つ1本の共通のアンテナにより信号を送受信するために、互いに異なる周波数帯域に通過帯域が夫々設定された送信側(TX)フィルタと受信側(RX)フィルタとを備えたデュプレクサ(弾性波共用器)が用いられる。このようなデュプレクサに用いられるフィルタ(送信側フィルタや受信側フィルタ)の一例としては、SAW(Surface Acoustic Wave)共振子をラダー型に接続したラダー型フィルタが挙げられる。各々の送信側フィルタ及び受信側フィルタの通過帯域における中心周波数f、fは、夫々例えば1.95GHz及び2.14GHz程度に設定される場合がある。
【0003】
このデュプレクサにおいて、送信側フィルタからアンテナに向かって信号を送信している時、ある周波数の信号が送信側フィルタから受信側フィルタに妨害波として回り込もうとする。この妨害波の周波数fとしては、既述の中心周波数f、fの加算や減算により算出される周波数となり、具体的には例えば(f−f)、(2×f−f)、(f+f)、(2×f+f)等が挙げられる。そのため、例えば受信側フィルタにおいて、このような妨害波が当該受信側フィルタに回り込むことを抑制する必要がある。即ち、受信側フィルタでは、妨害波に対応する周波数に減衰域を設けておく必要がある。
【0004】
しかし、これら妨害波のうち、例えば周波数が(f−f)(=2.14GHz−1.95GHz=190MHz)の妨害波については、デュプレクサにおいて送受信を行っている帯域よりも極めて低域側の周波数となっており、そのためラダー型フィルタの設計だけでは減衰させることが困難である。
特許文献1〜3には、SAW共振子を用いたフィルタについて記載されているが、デュプレクサにおける既述の課題については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2007/023643
【特許文献2】特開2002−314372
【特許文献3】特開2007−202136
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、デュプレクサの受信側フィルタにおいて、当該受信側フィルタの通過帯域における挿入損失を小さく抑えつつ、受信側フィルタ及び送信側フィルタの各通過帯域の中心周波数の差分周波数の妨害波が受信側フィルタに回り込むことを抑えることのできる受信側フィルタ及びデュプレクサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のデュプレクサの受信側フィルタは、
アンテナポート、送信側フィルタ及び受信側フィルタを備えたデュプレクサに用いられ、圧電基板上にSAW共振子を設けてなる受信側フィルタにおいて、
各々SAW共振子からなる複数の直列腕と、
互いに隣接する2つの直列腕同士の接続点とアースとの間に設けられた補助インダクタ素子と、を備え、
前記互いに隣接する2つの直列腕及び前記補助インダクタ素子からなる回路は、送信側フィルタ及び受信側フィルタの各通過帯域における中心周波数の差分周波数に減衰域が位置するハイパスフィルタを構成していることを特徴とする。
互いに隣接する直列腕の間の接続点とアースとの間に、SAW共振子からなる並列腕及びインダクタ素子が当該接続点側からアース側に向かってこの順番で互いに直列に配置された直列回路を配置しても良い。
【0008】
本発明のデュプレクサは、
前記受信側フィルタと、
信号の送受信が行われるアンテナポートと、
このアンテナポートから前記受信側フィルタを介して信号が受信される受信ポートと、
SAW共振子または縦結合共振器型フィルタを圧電基板上に配置した送信側フィルタと、
前記アンテナポートから前記送信側フィルタを介して信号が送信される送信ポートと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、互いに隣接する2つの直列腕の接続点とアースとの間に、補助インダクタ素子を設けている。そして、前記互いに隣接する2つの直列腕及び補助インダクタ素子からなる回路について、送信側フィルタ及び受信側フィルタの各通過帯域の中心周波数の差分周波数に減衰域が位置するハイパスフィルタとなるように構成している。そのため、受信側フィルタでは、アンテナポート及び受信ポートに対するインピーダンスの整合を図りつつ(通過帯域における挿入損失を抑えつつ)、前記差分周波数に対応する妨害波が送信側フィルタから当該受信側フィルタに回りこむことを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態に係るデュプレクサの構成例を示した回路図である。
【図2】従来のデュプレクサを示す回路図である。
【図3】前記従来のデュプレクサのシミュレーションによって得られた結果を示す特性図である。
【図4】本発明におけるシミュレーションによって得られた結果を示す特性図である。
【図5】本発明におけるシミュレーションによって得られた結果を示す特性図である。
【図6】本発明においてシミュレーションに用いたデュプレクサの回路図である。
【図7】本発明におけるシミュレーションによって得られた結果を示す特性図である。
【図8】本発明においてシミュレーションに用いたデュプレクサの回路図である。
【図9】本発明におけるシミュレーションによって得られた結果を示す特性図である。
【図10】本発明においてシミュレーションに用いたデュプレクサの回路図である。
【図11】本発明におけるシミュレーションによって得られた結果を示す特性図である。
【図12】本発明のデュプレクサのシミュレーションによって得られた結果を示す特性図である。
【図13】本発明のデュプレクサの一部の回路において得られる特性図である。
【図14】本発明のデュプレクサの特性を模式的に示す模式図である。
【図15】本発明のデュプレクサの概観の一例を示す平面図である。
【図16】本発明のデュプレクサの他の例を示す回路図である。
【図17】前記他の例のシミュレーションにより得られた結果を示す特性図である。
【図18】本発明のデュプレクサの別の例を示す回路図である。
【図19】前記別の例のシミュレーションにより得られた結果を示す特性図である。
【図20】前記別の例のデュプレクサの一部の回路において得られる特性図である。
【図21】本発明のデュプレクサの更に他の例を示した回路図である。
【図22】本発明のデュプレクサの更にまた他の例を示した回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[デュプレクサの回路]
本発明のデュプレクサ(弾性波共用器)の実施の形態の一例について、始めに回路図について説明する。このデュプレクサは、図1に示すように、信号の送受信を行う共通のアンテナポート1と、このアンテナポート1に対して信号の送信を行う送信側(TX)フィルタ10と、アンテナポート1を介して信号を受信する受信側(RX)フィルタ20と、を備えている。送信側フィルタ10及び受信側フィルタ20における夫々の通過帯域の中心周波数をf及びfと呼ぶと、この例ではこれら通過帯域同士が互いに重なり合わないように、中心周波数f及び中心周波数fは、夫々例えば1.95GHz及び2.14GHz程度に設定されている。即ち、送信側フィルタ10及び受信側フィルタ20は、3GPP(Third Generation Partnership Project)規格におけるBAND1(2GHz帯)のデュプレクサとなるように夫々構成されている。そして、受信側フィルタ20では、後述するように、中心周波数fと中心周波数fとの差分を周波数f(f>0、f=f−f=2.14GHz−1.95GHz=190MHz)とすると、この周波数fに減衰域が形成されるようにしている。
【0012】
アンテナポート1と送信側フィルタ10及び受信側フィルタ20との接続点よりも当該アンテナポート1側の部位とアースとの間には、送信側フィルタ10と受信側フィルタ20との位相を調整するためのインダクタ素子4が設けられている。図1中2は送信側フィルタ10を介してアンテナポート1に対して信号の送信を行うための送信ポート、3はアンテナポート1にて受信された信号を受信側フィルタ20を介して受信するための受信ポートである。
【0013】
各々のフィルタ10、20は、この例ではSAW共振子5をラダー型に組み合わせたラダー型フィルタとして構成されている。始めに送信側フィルタ10について説明すると、アンテナポート1と送信ポート2との間には、複数この例では3つのSAW共振子5が各々直列腕11として配置されている。また、互いに隣接する直列腕11、11間の接続点とアースとの間には、SAW共振子5からなる並列腕12と位相調整用のインダクタ素子13とが当該接続点側からアース側に向かってこの順番で互いに直列に配置された直列回路14が各々設けられている。
【0014】
続いて、受信側フィルタ20について説明する。アンテナポート1と受信ポート3との間には、複数この例では3つのSAW共振子5からなる直列腕21が互いに直列に配列されている。これら直列腕21の容量値は、例えば各々1.5pFとなっている。また、互いに隣接する直列腕21、21間の接続点とアースとの間には、SAW共振子5からなる並列腕22と位相調整用のインダクタ素子23とが当該接続点側からアース側に向かってこの順番で互いに直列に配置された直列回路24が各々設けられている。この直列回路24は、受信ポート3と、3つの直列腕21のうち当該受信ポート3側における直列腕21との間にも設けられている。即ち、受信ポート3及び当該受信ポート3に隣接する直列腕21の間の接続点とアースとの間には、当該接続点側に直列回路24の並列腕22が設けられ、アース側にインダクタ素子23が配置されている。尚、図1では直列腕11、21及び並列腕12、22は簡略化して模式的に示している。
【0015】
そして、互いに隣接する2つの直列腕21、21のうちアンテナポート1側の直列腕21と、アンテナポート1側から2番目の直列腕21と、を夫々第1の直列腕21及び第2の直列腕21と呼ぶと、これら第1の直列腕21及び第2の直列腕21の間の接続点とアースとの間には、本発明の補助インダクタ素子25が設けられている。この補助インダクタ素子25は、後述するように、この例では外付けのコイルなどのチップ部品26として構成されており、周波数f(=f−f)に減衰域が形成されるようなインダクタンス値を有し、例えば50nHとなっている。このように補助インダクタ素子25を設けた理由について、以下に詳述する。尚、既述のインダクタ素子13、23の各々のインダクタンス値は、例えば1〜2nH程度となっている。
【0016】
[従来のデュプレクサの構成及び特性]
始めに、図2及び図3として、補助インダクタ素子25を配置しない従来のデュプレクサの回路図及びこの従来のデュプレクサにおいて得られる周波数特性を示す。図3(a)に示すように、受信側フィルタ20の通過帯域(2110〜2170MHz)における挿入損失は、2110MHzで2.07dB、2170MHzで1.97dBとなっている。また、既述の周波数f(190MHz)における減衰量は、図3(b)に示すように、66.9dBとなっている。尚、図2において、既述の図1と同じ部位については同じ符号を付して説明を省略する。以降のデュプレクサの回路図についても同様である。また、図3には、従来のデュプレクサの特性と以降のシミュレーション結果との比較を行うために、図3(c)に送信側フィルタ10の挿入損失、図3(d)にフィルタ10、20の夫々の特性、図3(e)にアンテナポート1のインピーダンス、図3(f)に受信ポート3のインピーダンスを夫々示している。
【0017】
ここで、このようなデュプレクサでは、送信側フィルタ10からアンテナポート1に向かって信号を送信している時に、例えば既述の周波数f(f=f−f=190MHz)の信号が妨害波として受信側フィルタ20に回り込もうとする。この妨害波が受信側フィルタ20に回り込むと、例えばアイソレーション特性などの劣化してしまうおそれがある。そこで、受信側フィルタ20では周波数fにおいて70〜80dB以上もの大きな減衰量が得られるように、以下に詳述するように受信側フィルタ20の構成を検討した。この時、送信側フィルタ10及び受信側フィルタ20における夫々の通過帯域では、挿入損失ができるだけ劣化しない(大きくならない)構成を検討した。
【0018】
[検討1:ラダー段数やSAW共振子の容量値]
先ず、受信側フィルタ20のラダー段数(直列腕21及び並列腕22の数量)を既述の図2の構成よりも増やすことを検討した。即ち、前記ラダー段数を増やすことによって、周波数fにおける減衰量を大きく取ることができると考えられる。しかし、ラダー段数を増やすと、通過帯域における挿入損失が劣化してしまう。
一方、受信側フィルタ20の直列腕21の容量値を下げたり、あるいは並列腕22の容量値を上げたりすることにより、図4(b)及び図5(b)に示すように、いずれの場合においても周波数fにおける受信側フィルタ20の減衰量を大きく取ることができた。しかし、図4(a)及び図5(a)に示すように、受信側フィルタ20の通過帯域における挿入損失がどちらの場合も劣化していた。尚、図4は直列腕21の容量値を下げた場合(後述の電極指54、54同士の交差領域(タップ)の数量を減らしたり、電極指54、54同士の交差長を減らしたりした場合)の特性、図5は並列腕22の容量値を上げた場合(前記交差領域の数量を増やしたり、交差長を増やしたりした場合)の特性を示している。
【0019】
[検討2:外付け部品(コンデンサ及びコイル)、受信ポート側]
ここで、受信側フィルタ20において周波数fの減衰量を大きくする手法としては、デュプレクサの外部に外付けでチップ部品を挿入する方法も挙げられる。そこで、このような外付けの部品について以下のように検討した。この時、部品をアンテナポート1側に挿入した場合、送信側フィルタ10には例えば通過帯域における挿入損失が劣化してしまうなどの影響が出てしまうため、受信ポート3側に挿入した場合について検討する。
【0020】
先ず、チップ部品として、コンデンサ31及びコイル32を検討した。具体的には、図6に示すように、コンデンサ31を受信ポート3と当該受信ポート3側の直列腕21との間に直列に接続した。また、このコンデンサ31及び受信ポート3の間の接続点とアースとの間にコイル32を配置することにより、コンデンサ31及びコイル32からなるハイパスフィルタを構成した。そして、このハイパスフィルタの減衰域が既述の周波数fに位置するように、これらコンデンサ31及びコイル32の夫々の容量値及びインダクタンス値を設計した。その結果、図7(a)、(b)に示すように、受信側フィルタ20の通過帯域の挿入損失の劣化を抑えつつ、周波数fにおいて良好な減衰量が得られた。しかしながら、図6の構成では、コンデンサ31及びコイル32を夫々外付けのチップ部品として用いているので、既述の図2の構成と比べて部品点数が多くなり、コストやデュプレクサの実装面積が増えてしまう。
【0021】
[検討3:外付け部品(コンデンサまたはコイル)、受信ポート側]
そこで、チップ部品の点数を図6よりも少なくするために、図6の構成においてコイル32を取り外した状態の構成を検討した。具体的には、図8に示すように、受信ポート3と当該受信ポート3側における直列腕21との間にコンデンサ31を直列に挿入した。その結果、図9に示すように、周波数fにおける減衰量が図3の特性よりも大きくなっていたが、通過帯域における挿入損失は劣化していた。
【0022】
また、同様にチップ部品の点数を図6よりも小さくするために、図10に示すように、受信ポート3及び当該受信ポート3側における直列腕21の間の接続点とアースとの間にコイル32を配置した場合について検討した。その結果、図11に示すように、図9と同様に周波数fにおける減衰量が図3よりも大きくなっていたものの、通過帯域における挿入損失が劣化していた。即ち、通常であれば、デュプレクサ単体で受信ポート3のインピーダンスが最適となるように設計しているため、このようなチップ部品を後付けで挿入すると、受信ポート3のマッチングがずれてしまい通過帯域における挿入損失が劣化してしまうことになる。
【0023】
[検討4:外付け部品(コイル)、互いに隣接する直列腕同士の間]
そこで、本発明では、図6の構成よりもチップ部品の挿入点数を少なく保ちながら、受信側フィルタ20の通過帯域における挿入損失の劣化を抑える(受信ポート3のインピーダンスの不整合を抑える)と共に、周波数fにおける減衰量を大きく取ることのできる構成を検討した。具体的には、既述の図1に示したように、第1の直列腕21及び第2の直列腕21の間の接続点とアースとの間に、補助インダクタ素子25を設けた構成を検討した。この構成により得られる特性を既述の各例と同様にシミュレーションしたところ、受信側フィルタ20の通過帯域における挿入損失は、図12(a)に示すように、2110MHzにおいて2.05dB、2170MHzにおいて1.93dBとなっており、既述の図2の特性とほぼ同程度となっていた。また、アンテナポート1のインピーダンス及び受信ポート3のインピーダンスについても図3と比較して同レベルであった(図12(e)、(f)参照)。そして、周波数fにおける減衰量は、図12(b)に示すように、83.7dBとなっており、図3(b)(66.9dB)の結果と比べて極めて大きな値となっていた。この時、送信側フィルタ10の通過帯域における挿入損失と、各々のフィルタ10、20における通過帯域の外側(低周波数側及び高周波数側)の減衰量については、図3の特性と比べて劣化は見られなかった。
【0024】
[検討4において得られる特性の考察]
ここで、本発明(検討4)において以上説明した特性が得られる理由について述べる。図13の右下に示すように、受信側フィルタ20の第1の直列腕21と、第2の直列腕21と、これら第1の直列腕21及び第2の直列腕21間に設けられた並列腕22と、からなる構成を3素子T型フィルタ27と呼ぶと、この3素子T型フィルタ27の特性は、図13の上側のグラフに細線で示すように、周波数fにおいて27dB程度となっている。一方、図13の左下に示すように、この3素子T型フィルタ27に本発明の補助インダクタ素子25を加えると、即ちこれら第1の直列腕21及び第2の直列腕21の間の接続点とアースとの間に補助インダクタ素子25を設けると、図13に太線で示すように、周波数fにおける減衰量は35dB程度と良好に(大きく)なっていることが分かる。
【0025】
この時、3素子T型フィルタ27における共振点付近の周波数(受信側フィルタ20の通過帯域付近)では、挿入損失は補助インダクタ素子25の有無によってほとんど変化していない。従って、3素子T型フィルタ27に補助インダクタ素子25を設けることにより、図14に模式的に示すように、デュプレクサの周波数帯域(例えば2GHz付近)において減衰量が小さくなる(信号を通過させる)と共に、この周波数帯域よりも低周波数側(例えば周波数f)において大きな減衰量が得られるハイパスフィルタとなっていることが分かる。即ち、本発明では、第1の直列腕21の容量値、第2の直列腕21の容量値及び補助インダクタ素子25のインダクタンス値について、これら第1の直列腕21、第2の直列腕21及び補助インダクタ素子25からなる構成が以上説明したハイパスフィルタとなるように(周波数fに反共振点が位置するように)夫々設定していると言える。そして、補助インダクタ素子25をアンテナポート1側あるいは受信ポート3側に設けずに、互いに隣接する直列腕21、21の間に設けているので、これらアンテナポート1や受信ポート3におけるインピーダンスの整合を図った状態を維持している。
【0026】
[デュプレクサの概観]
以上述べた本発明のデュプレクサ(図1の構成)の概観について、図15を参照して簡単に述べておく。このデュプレクサは、例えばアルミナ(Al)などのセラミックスからなるパッケージ基板41上に配置されている。このパッケージ基板41上には、例えばタンタル酸リチウム(LiTaO)やニオブ酸リチウム(LiNbO)あるいは水晶などの圧電体からなる圧電基板51と、インダクタ素子13、23に夫々対応する引き回し電極42と、補助インダクタ素子25及びインダクタ素子4に夫々対応するチップ部品(コイル)26、26と、各ポート1、2、3が配置されている。引き回し電極42は、パッケージ基板41の互いに対向する2辺のうち一方側から他方側に向かって蛇腹状に引き回されている。図15中43は、各々の引き回し電極42及びチップ部品26をアース(接地)するために、パッケージ基板41を上下方向(厚み方向)に貫通するように形成された接地用電極であり、当該パッケージ基板41の裏面側(圧電基板51の配置された面の裏側)においてアースされている。
【0027】
圧電基板51の表面には、既述の図1の直列腕11、21及び並列腕12、22に夫々対応するように配置されたSAW共振子5が配置されている。即ち、圧電基板51上における弾性表面波の伝搬方向における一方側及び他方側を夫々右側及び左側と呼ぶと、送信側フィルタ10及び受信側フィルタ20は夫々右側及び左側に配置されている。そして、圧電基板51上において、各々のフィルタ10、20の直列腕11、21は、弾性表面波の伝搬方向における中央領域寄りに夫々配置され、各々のフィルタ10、20の並列腕12、22は、弾性表面波の伝搬方向における端部領域側に夫々配置されている。
【0028】
SAW共振子5は、IDT(インターデジタルトランスデューサ)電極52と、このIDT電極52を弾性表面波の伝搬方向における一方側及び他方側から挟むように各々配置された一対の反射器53と、を備えている。図15中54及び55は夫々電極指及びバスバー、56及び57は夫々反射器電極指及び反射器バスバーである。尚、圧電基板51は、各々のSAW共振子5がパターニングされた面がパッケージ基板41に当接するように配置されているが、図15ではSAW共振子5が見えるように当該SAW共振子5の配置された面が上側となるように描画している。
【0029】
そして、各々のSAW共振子5は、圧電基板51上において各々のIDT電極52同士(詳しくはバスバー55)同士が導電路58を介して接続されている。また、送信側フィルタ10においてアンテナポート1に向かって伸びる導電路58と、受信側フィルタ20においてアンテナポート1に向かって伸びる導電路58と、が圧電基板51上において互いに接続されると共に、例えばワイヤやパッケージ基板41上を引き回された伝送線路などの接続電極59によってパッケージ基板41上のアンテナポート1に接続されている。並列腕12、22と、各々のインダクタ素子13、23とは、前記接続電極59によって各々互いに接続されている。また、送信ポート2及び当該送信ポート2側の直列腕11の間と、受信ポート3及び当該受信ポート3側の直列腕21の間と、についても接続電極59により夫々接続されている。そして、受信側フィルタ20では、第1の直列腕21及び第2の直列腕21の間の接続点に、補助インダクタ素子25から伸びる接続電極59が接続されている。尚、図15では接続電極59について模式的に示している。
【0030】
上述の実施の形態によれば、アンテナポート1と受信ポート3との間に互いに直列に設けられた第1の直列腕21及び第2の直列腕21の間の接続点とアースとの間に、補助インダクタ素子25を設けている。そして、送信側フィルタ10及び受信側フィルタ20における夫々の通過帯域の中心周波数をf及びfとすると共に、これら中心周波数fと中心周波数fとの差分を周波数f(f>0)とすると、第1の直列腕21の容量値、第2の直列腕21の容量値及び補助インダクタ素子25のインダクタンス値について、第1の直列腕21、第2の直列腕21及び補助インダクタ素子25からなる構成が周波数fに減衰域が位置するハイパスフィルタとなるように夫々設定している。そのため、受信側フィルタ20では、アンテナポート1及び受信ポート3に対するインピーダンスの整合を図りつつ(通過帯域における挿入損失を抑えつつ)、周波数fに対応する妨害波が送信側フィルタ10から受信側フィルタ20に回り込むことを抑えることができる。即ち、既述の特性を持つハイパスフィルタを構成するにあたり、本発明ではハイパスフィルタを構成する容量素子として外部のチップ部品を設けることに代えて、いわば受信側フィルタ20における第1の直列腕21及び第2の直列腕21を利用していると言える。従って、部品点数(コスト)やデュプレクサの設置面積の増大を極力抑えながら、既述の特性を持つハイパスフィルタを構成できる。また、第1の直列腕21と第2の直列腕21との間に補助インダクタ素子25を配置しているので、言い換えると補助インダクタ素子25よりもアンテナポート1側に第1の直列腕21を配置しているので、送信側フィルタ10への例えば通過帯域における挿入損失の劣化などの影響を抑えることができる。
[本発明の他の例]
【0031】
補助インダクタ素子25については、図16に示すように、アンテナポート1側から2番目の直列腕21とアンテナポート1側から3番目の直列腕21との間に設けても良い。即ち、この例では、前記2番目の直列腕21及び前記3番目の直列腕21が夫々既述の第1の直列腕21及び第2の直列腕21をなしている。この場合においても、図17に示すように、通過帯域における挿入損失を抑えつつ、周波数fにおける減衰量を大きく取ることができる。具体的には、受信側フィルタ20の通過帯域における挿入損失は、2110MHzでは2.11dB、2170dBでは1.96dBとなっており、図3の特性と比べて同程度となっていた。また、アンテナポート1及び受信ポート3におけるインピーダンスについても整合が取られていた。そして、周波数fにおける減衰量は、75.9dBもの大きな値となっていた。
【0032】
また、図18は、第1の直列腕21を2つに分けた(多重化した)例、即ち見かけ上4つの直列腕21を配置して、アンテナポート1側から1番目の直列腕21と2番目の直列腕21との間には並列腕22を配置せず、前記1番目の直列腕21及び2番目の直列腕21の容量値を各々例えば図1における第1の直列腕21の容量値の2倍の値に設定した例を示している。言い換えると、2つの容量素子(SAW共振子5)を互いに直列に接続し、特性上は既述の図1における第1の直列腕21と同じ容量値となるようにしている。そして、アンテナポート1側から1番目の直列腕21(第1の直列腕21)と2番目の直列腕21(第2の直列腕21)との間に、補助インダクタ素子25を設けている。この場合であっても、既述の図1と同様に、受信側フィルタ20の通過帯域における挿入損失(インピーダンスの不整合の発生)を抑えながら、周波数fにおける減衰量を大きく取ることができる。受信側フィルタ20の通過帯域における挿入損失は、図19に示すように、2110MHzでは2.04dB、2170dBでは1.93dBとなっていた。また、ポート1、3におけるインピーダンスのズレもほとんど見られず、そして周波数fにおける減衰量は93.1dBもの値になっていた。
【0033】
図20の上側のグラフに細線で示す特性は、図18の受信側フィルタ20におけるアンテナポート1側から1番目の直列腕21及びアンテナポート1側から2番目の直列腕21からなる構成(図20の右下の構成)の特性をシミュレーションした結果を示している。この構成(即ち図1における第1の直列腕21だけを配置した構成)では、周波数fにおける減衰量は18dB程度となっていた。一方、前記2つの直列腕21、21の間に補助インダクタ素子25を配置する(図20の左下の構成)と、図20の上側のグラフに太線で示すように、周波数fにおける減衰量は30dBもの大きさとなっていた。従って、この例においても、補助インダクタ素子25を配置することによって、周波数fに減衰域が位置するハイパスフィルタの得られることが分かる。
【0034】
図18では、アンテナポート1側の第1の直列腕21を2つの直列腕21、21に多重化したが、アンテナポート1側から2番目の直列腕21あるいはアンテナポート1側から3番目(受信ポート3側)の直列腕21を多重化しても良い。また、図18では直列腕21を2つに多重化したが、例えば3つに多重化しても良い。この場合には、多重化した直列腕21の各々の容量値は、元の直列腕21の容量値の3倍に設定される。更に、これら3つの直列腕21のうち複数を多重化しても良い。
【0035】
また、図21に示すように、受信側フィルタ20における同電位点に、補助インダクタ素子25、25を2つ並列に設けても良い。図21は、アンテナポート1側から1番目の直列腕21及びアンテナポート1側から2番目の直列腕21の間の接続点とアースの間に、2つの補助インダクタ素子25、25を互いに並列に接続した例を示している。この場合には、補助インダクタ素子25、25のインダクタンス値は、各々100nH程度(図1の補助インダクタ素子25のインダクタンス値の2倍)となる。
【0036】
更に、図22に示すように、補助インダクタ素子25、25を互いに直列に設けても良い。図22では、アンテナポート1側から1番目の直列腕21及びアンテナポート1側から2番目の直列腕21の間の接続点とアースとの間に、2つの補助インダクタ素子25、25を互いに直列に接続した例を示している。この場合には、補助インダクタ素子25、25のインダクタンス値は、各々25nH程度(図1の補助インダクタ素子25のインダクタンス値の半分)となる。
【0037】
以上説明したように、第1の直列腕21、第2の直列腕21及び補助インダクタ素子25によって周波数fに減衰域が位置するハイパスフィルタを構成するためには、これら第1の直列腕21の容量値C1、第2の直列腕21の容量値C2及び補助インダクタ素子25のインダクタ素子のインダクタンス値Lは、以下のように設定される。即ち、既述のように送信側フィルタ10及び受信側フィルタ20における夫々の通過帯域の中心周波数f、fと、これら中心周波数f、fの差分である周波数fとを用いると、既述の3GPP規格で定められるバンドでは、f=30〜400MHzとなり、各バンドにおける必要特性により種々変化するが、実使用上はL=5nH〜100nH、C1、C2=0.5pF〜10pFとなる。具体的な数値としては、既述のように中心周波数f、fが夫々1.95GHz及び2.14GHzの場合には、L=30〜70nH、C1=1pF〜2pF、C2=1pF〜2pF程度となる。
【0038】
既述の例では、補助インダクタ素子25としてチップ部品26を用いたが、インダクタ素子13、23と同様にパッケージ基板41上に引き回し電極42として配置しても良いし、この場合には圧電基板51上に配置しても良い。また、補助インダクタ素子25は、ワイヤなどであっても良い。
【0039】
また、送信側フィルタ10、受信側フィルタ20の各々の段数(直列腕21と並列腕22との構成)については、3段以上であっても良い。更に、受信側フィルタ20としては、既述の例では直列腕21及び並列腕22をラダー型に組み合わせたラダー型フィルタを用いたが、このラダー型フィルタに縦結合共振器型フィルタを接続しても良い。更にまた、送信側フィルタ10は、ラダー型フィルタと縦結合共振器型フィルタとを組み合わせても良いし、ラダー型フィルタに代えて縦結合共振器型フィルタを用いても良い。送信側フィルタ10や受信側フィルタ20に縦結合共振器型フィルタを設ける場合、この縦結合共振器型フィルタの一例としては、弾性表面波の伝搬方向に複数のIDT電極52を並べると共に、これらIDT電極52の並びの一方側及び他方側に夫々反射器53を配置した構成が採られる。
【0040】
更に、送信側フィルタ10の通過帯域よりも受信側フィルタ20の通過帯域を高域側に設定し、送信側フィルタ10及び受信側フィルタ20を夫々低域側フィルタ及び高域側フィルタとして構成したが、これらフィルタ10、20の通過帯域を例えば互いに入れ替えて、送信側フィルタ及び受信側フィルタを夫々高域側フィルタ及び低域側フィルタとして用いても良い。この場合には、既述の周波数fは、f=f−f(f>0)となる。
【0041】
また、既述の例では送信側フィルタ10及び受信側フィルタ20を共通の圧電基板51上に配置したが、各々のフィルタ10、20を互いに別の圧電基板51、51上に夫々配置すると共に、これら圧電基板51、51をパッケージ基板41上に積載しても良い。この場合には、送信側フィルタ10においてアンテナポート1に向かって伸びる導電路58と受信側フィルタ20においてアンテナポート1に向かって伸びる導電路58とがパッケージ基板41上においてアンテナポート1に夫々接続される。
【0042】
更に、既述の図18及び図19を参照して説明したように、互いに隣接する直列腕21、21間に並列腕22を配置せずに、これら直列腕21、21間に補助インダクタ素子25を設けても本発明の効果が得られることから、本発明の受信側フィルタ20としては、並列腕22を配置せずに、複数の直列腕21及び補助インダクタ素子25により構成しても良い。
【符号の説明】
【0043】
1 アンテナポート
2 送信ポート
3 受信ポート
5 SAW共振子
10 送信側フィルタ
20 受信側フィルタ
21 直列腕
22 並列腕
25 補助インダクタ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナポート、送信側フィルタ及び受信側フィルタを備えたデュプレクサに用いられ、圧電基板上にSAW共振子を設けてなる受信側フィルタにおいて、
各々SAW共振子からなる複数の直列腕と、
互いに隣接する2つの直列腕同士の接続点とアースとの間に設けられた補助インダクタ素子と、を備え、
前記互いに隣接する2つの直列腕及び前記補助インダクタ素子からなる回路は、送信側フィルタ及び受信側フィルタの各通過帯域における中心周波数の差分周波数に減衰域が位置するハイパスフィルタを構成していることを特徴とするデュプレクサの受信側フィルタ。
【請求項2】
互いに隣接する直列腕の間の接続点とアースとの間に設けられ、SAW共振子からなる並列腕及びインダクタ素子が当該接続点側からアース側に向かってこの順番で互いに直列に配置された直列回路を備えたことを特徴とする請求項1に記載の受信側フィルタ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の受信側フィルタと、
信号の送受信が行われるアンテナポートと、
このアンテナポートから前記受信側フィルタを介して信号が受信される受信ポートと、
SAW共振子または縦結合共振器型フィルタを圧電基板上に配置した送信側フィルタと、
前記アンテナポートから前記送信側フィルタを介して信号が送信される送信ポートと、を備えたことを特徴とするデュプレクサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−244551(P2012−244551A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115153(P2011−115153)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】