説明

デュロキセチンを用いる胃腸障害の処置

本発明は、医薬品化学および薬化学の分野に属し、デュロキセチンの投与による胃腸障害の処置の新規方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品化学および薬化学の分野に属し、デュロキセチンの投与による胃腸障害の処置の新規方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
ここ数年、セロトニンとノルエピネフリンの化学が神経学的過程において非常に重要であることが認識されており、薬理学者および医学研究者たちは、脳におけるそれら神経伝達物質のメカニズムの研究を非常に活発に行っている。同時に、脳におけるセロトニンおよびノルエピネフリンプロセスに影響を及ぼす薬物の合成や研究に大きな関心が示されており、薬化学者と医学研究者の両方によって重点的に研究もされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
デュロキセチンは、セロトニンとノルエピネフリン両方の再摂取を阻害し、現在、抗鬱薬として、また尿失禁、糖尿病性神経因性疼痛および線維筋肉痛の処置について、臨床試験中である。本発明は、さらなる重要な目的、即ち胃腸障害の処置のためのデュロキセチンの使用を提供する。
【0004】
よくある胃腸疾患としては、炎症性腸疾患(IBD)や機能性腸疾患(FBD)があり、消化不良もこれに含まれる。これらの胃腸障害には、現時点である程度しか抑制されない、クローン病、回腸炎、虚血性腸疾患、および潰瘍性大腸炎、並びにIBD、過敏性腸症候群、消化不良、胃食道逆流、FBD、および他の形態の内臓痛(および/または胃腸管機能不全)を含む、広範囲の病的状態が含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、有効量のデュロキセチンを患者に投与することを含む、患者における胃腸障害を処置する方法を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
デュロキセチンは、N−メチル−3−(1−ナフタレニルオキシ)−3−(2−チエニル)プロパンアミンである。この化合物は、一般的に(+)エナンチオマーとして、そして塩酸塩として投与される。この化合物は、米国特許第4,956,388号においてはじめて教示され、そこには、この化合物の合成、並びにセロトニンとノルエピネフリン両方の摂取阻害剤としてのその高い効力が教示されている。「デュロキセチン」なる語は、本明細書では、この分子の遊離塩基の任意の酸付加塩、並びにエナンチオマーまたはラセミ体を意味するものとして用いる。但し、(+)エナンチオマーが好ましいと理解される。
【0007】
いずれかの特定の胃腸障害を有するある特定の患者の処置のためのデュロキセチンの最も好ましい用量は、全ての臨床医や医師が認識するように、その患者の特性に応じて変化し得る。患者が患っている他の疾患、患者の年齢および身体の大きさ、および患者が用いるかもしれない他の薬の服用などの因子は、デュロキセチンの用量に影響し、考慮される。但し、デュロキセチンの日用量は、一般に、約1〜120mgである。最も好ましい用量範囲は60mgQD〜80mgの間である。
【0008】
デュロキセチンは経口で利用可能であり、現在、腸溶コーティングされた顆粒で満たされたカプセル剤の形態で経口投与される。本発明の実施に際しては、そのような形態での経口投与が好ましい。但し、他の投与経路もまた実用的であり、ある特定の場合においては好ましいであろう。例えば、忘れっぽい、または経口服用を嫌う患者に対しては非常に望ましいであろう。
【0009】
一般に、本発明において使用するためのデュロキセチンの製剤化は、他の目的のためのデュロキセチンの製剤化において用いられる方法に従い、実際には、薬科学において一般的な方法が好ましい。但し、デュロキセチンの好ましい製剤は、腸溶ペレットまたは顆粒を含んでなり、それらがゼラチンカプセルに入れられているものである。デュロキセチン腸溶ペレット製剤は、米国特許第5,508,276号に記載されている。
【0010】
本発明の実践によって恩恵を受ける患者は、以下に記載する1以上の胃腸障害を有する患者である。これらの障害の診断、または1以上のこれら障害の危険のある患者の同定は、医師によって行われる。現在、セロトニンおよびノルエピネフリンの摂取阻害におけるデュロキセチンの効能は、患者が患っている障害の影響を軽減することによって、またはさらには障害を完全に排除することによって患者が恩恵を受けるようなメカニズムであると考えられている。
【0011】
本発明の実践において処置または予防される障害を以下に記載することができる:
炎症性腸疾患(IBD)、
機能性腸疾患(FBD)、
消化不良、
クローン病、
回腸炎、
虚血性腸疾患、
潰瘍性大腸炎
過敏性腸疾患、および
胃食道逆流。
【0012】
炎症性腸疾患としては、クローン病および潰瘍性大腸炎が挙げられるがこれに限定されない。
【0013】
本発明の恩恵を受ける患者の1つのタイプは、IBSを患っている患者である。そのような患者は、「ローマII診断基準(Rome II Criteria)」によって特徴付けられる症状を有する。Practitioner, 217:276-280 (1976)を参照。症状として、断続的な下痢、不快感、腹痛および/または便秘または膨満感が挙げられるがこれに限定されない。デュロキセチンの投与すると、患者はIBSに伴う症状の緩和を体験するであろう。
【0014】
本明細書において用いられる「有効量」は、1回または複数回の用量を患者に投与することにより、診断または治療下でその患者における所望の効果をもたらす、化合物の量または投与量を意味する。
【0015】
有効量は、既知の技術を使用することによって、および同様の状況下で得られた結果を観察することによって、当業者としての担当医師が容易に決定することができる。投与する化合物の有効量または用量の決定に際しては、哺乳類の種、その大きさ、年齢および健康状態全般、関係する具体的疾患、その疾患の程度または関連性または重得度、患者個人の応答、投与する具体的な化合物、投与の形式、投与する調製物のバイオアベイラビリティー特性、選択した投与レジメ、同時服用の使用、および他の関係する状況を含むがこれに限定されない数多くの因子が担当医師により考慮される。例えば、典型的な日用量は、約25mg〜約300mgの活性成分を含有し得る。デュロキセチンは、経口、直腸、経皮、皮下、静脈内、筋肉内、口腔内または鼻内経路を含む様々な経路で投与することができる。あるいは、化合物を継続的な輸注により投与してもよい。
【0016】
本明細書において用いられる用語「患者」は、例えば、マウス、モルモット、ラット、イヌまたはヒト等の哺乳類を意味する。好ましい患者はヒトであると理解される。
【0017】
本明細書において用いられる用語「処置」(または「処置する」)には、結果として生じる症状または目的とする過程の進行の禁止(prohibiting)、予防(preventing)、抑制(restraining)、および遅延(slowing)、停止(stopping)、または逆転(reversing)を含む、その一般的に受け入れられている意味が含まれる。したがって、本発明の方法は、治療的および予防的投与の両方を包含する。
【0018】
本発明の化合物は、好ましくは投与する前に製剤化する。したがって、本発明の別の態様は、式Iの化合物、製薬的に許容し得る代謝的に活性なそのエステル、または製薬的に許容しうるその塩と、製薬的に許容し得る担体、希釈剤または賦形剤とを含有する医薬製剤である。医薬製剤は、当業者に周知の手順を用いることによって製造することができる。本発明の組成物の製造に際しては、一般に、活性成分を担体と混合し、または担体によって希釈し、カプセル、サシェ、紙または他の容器の形態であってよい担体内に封入する。担体が希釈剤として供する場合、その担体は、活性成分のためのビークル、賦形剤または媒体として働く、固体、半固体、または液体の物質であってよい。組成物は、錠剤、丸剤、粉末剤、トローチ剤、サシェ剤、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、溶液剤、シロップ剤、エアロゾル剤、例えば10重量%までの活性化合物を含有する軟膏、軟質および硬質ゼラチンカプセル剤、坐剤、滅菌注射液、および滅菌包装された粉末剤の形態であってよい。
【0019】
適当な担体、賦形剤および希釈剤の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、ガム、アラビアゴム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、トラガカント、ゼラチン、珪酸カルシウム、微晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、ウォーター・シロップ、メチルセルロース、ヒドロキシ安息香酸メチルおよびヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、およびミネラルオイルが挙げられる。製剤にはさらに、滑沢剤、湿潤剤、乳化剤および懸濁剤、保存剤、甘味料または香料を添加することができる。本発明の組成物は、当分野において周知の手順を用いることより、患者に投与した後、迅速な、徐放性のまたは遅延された放出をもたらすように製剤化することができる。
【0020】
本明細書において用いられる用語「活性成分」は、デュロキセチンを意味する。
【0021】
「単位投与剤型」とは、ヒトの患者および他の哺乳類に対する単位用量として適当な物理的に分離した単位を意味し、各単位は、適当な製薬的な担体、希釈剤または賦形剤と共に、所望の治療効果をもたらすように計算された予め決まった量の活性物質を含有する。
【0022】
本発明に従って胃腸障害を処置するデュロキセチンの能力は、臨床試験プロトコルにしたがって証明することができ、以下はその例である。
【実施例】
【0023】
実施例1
これは、過敏性腸症候群についてローマII診断基準を満たす465人の患者の、プラセボを対照とした二重盲検並行群間比較試験である。
【0024】
1回目および2回目の診察で導入基準を満たした患者は、1週間の非投薬期間を継続し、その間症状日誌を完成させ、次いで、以下の3つの処置群のいずれかに無作為にグループ分けされる:デュロキセチン60mgQD、デュロキセチン60mgBID、またはプラセボ。ランダム化は1:1:1の割合で行う。患者を、現在大うつ病性障害を有する患者と、現在大うつ病性障害を有しない患者の2つの群に階層化する。スクリーニング相の後、患者を二重盲検形式で14週間処置し、そのうちの2人を滴定(titration)および漸減療法(tapering)に用いる。
【0025】
デュロキセチン60mgQDおよびデュロキセチン60mgBIDの効力を、大うつ病を有するまたは有しない過敏性腸炎(IBS)の患者において、12週間の二重盲検の治療期間の間の疼痛程度の減少についてプラセボと比較する。疼痛の程度は、患者のIBS検査日誌の1日の平均疼痛度スコアを用いることにより評価する。デュロキセチンの効力は、以下の測定値の1つまたはすべての改善によっても示すことができる。
重篤度のクリニカル・グローバル・インプレッション(Clinical Global Impression(CGI))における改善
改善のペイシェント・グローバル・インプレッション(Patient Global Impression(PGI))における改善
ブリーフ・ペイン・インベントリー(Brief Pain Inventory(BPI))における改善
デイリー・ペイシェント・ダイアリー(Daily Patient Diary)における改善(症状の記載を通じて)
過敏性腸症候群症状評価スケール(Irritable Bowel Syndrome Symptoms Assessment Scale(IBS−SAS))における改善
ブリストール・スツール・スケール(Bristol Stool Scale)における改善
プラセボと比較した、デュロキセチン60mgQDおよびデュロキセチン60mgBIDの投与によるIBSの改善は、中止パターン、治療中に発生した有害反応、生命兆候、心電図(ECG)、および実験室での解析についてのこのプロトコルの実施結果の解析によって評価することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性腸疾患(IBD)、
機能性腸疾患(FBD)、
消化不良、
回腸炎、
虚血性腸疾患、
過敏性腸疾患、
胃食道逆流、および
下痢
である障害を有する患者における障害の処置において使用するためのデュロキセチン。
【請求項2】
障害が過敏性腸疾患である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
障害が請求項1または2のいずれかに記載の障害である患者における障害を処置するための医薬の製造のためのデユロキセチンの使用。
【請求項4】
障害が請求項1または2のいずれかに記載の障害である患者における障害を処置するための、1以上の製薬的に許容し得る担体とともに活性成分としてデュロキセチンを含有する医薬組成物。

【公表番号】特表2006−508978(P2006−508978A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−553511(P2004−553511)
【出願日】平成15年11月18日(2003.11.18)
【国際出願番号】PCT/US2003/035051
【国際公開番号】WO2004/045606
【国際公開日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【出願人】(590005922)イーライ・リリー・アンド・カンパニー (15)
【氏名又は名称原語表記】ELI LILLY AND COMPANY
【Fターム(参考)】