説明

デンタルケア用チューイング材

【課題】 嗜好性に優れ、胃腸への負担が少なく、かつ歯周病の予防や改善効果が向上したペットのデンタルケア用チューイング材を提供することを目的とする。
【解決手段】 歯周病の原因菌の繁殖抑制成分と、細胞活性化成分と、動物皮のペーストから成る基材とを含む混合物を乾燥して得られるペットのデンタルケア用チューイング材を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペットのデンタルケア用チューイング材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、動物の室内飼育の増加から、それらの動物の口腔環境に対する飼い主の関心が増加している。なかでも歯周病は、3歳以上の犬・猫の約8割が発症していると言われている。歯周病の進行具合によっては、心疾患や腎疾患等を引き起こす可能性がある。また、歯周病を発症していることが分かったとしても、その時点で歯周組織に損傷があった場合、抜歯という方法でしか対応できない場合が多い。従って、歯周病を重症化させないことが重要である。
【0003】
このため、歯周病の予防や歯周病による様々な症状や口臭などを改善することを目的とした製品が開発されている。例えば、咀嚼により歯垢や歯石を除去するための、動物の硬い皮を棒状や骨の形状などにしたデンタルケア用チューイング材が製品化されている(特許文献1)。しかし、動物の硬い皮を棒状や骨の形状にしたデンタルケア用チューイング材では、歯の先端にしか当たらないため、歯の間の歯垢や歯石を除去できない場合がある。
【0004】
歯と歯の隙間や歯周縁などの歯垢や歯石を除去でき、さらに歯茎のマッサージ効果も得られるように、動物の皮を糸状、紐状に撚り合わせてロープ状体としたデンタルケア用チューイング材(特許文献2)、牛や豚の骨と同程度の硬さを有し、棒状の周面に三角状の突条により凹凸を形成したデンタルケア用チューイング材(特許文献3)、牛等の骨と同じ硬さを有し長手方向に延在する3本の突条を放射状に形成した棒状のデンタルケア用チューイング材(特許文献4)などのデンタルケア用チューイング材なども提案されている。
【0005】
また、牛や豚などの動物の皮に代えて、トウモロコシ穂軸画分セルロース繊維物質を配合した澱粉ベースの軟質気泡質マトリックスを用いたデンタルケア用チューイング材(特許文献5)や、植物性と動物性のタンパク質の混合物、澱粉、水、食物繊維、金属塩水和物で形成したデンタルケア用チューイング材などが提案されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】登録実用新案第3114876号公報
【特許文献2】特許第3776938号公報
【特許文献3】特開2002−58436号公報
【特許文献4】特開2005−304475号公報
【特許文献5】特許第3686426号公報
【特許文献6】特開平9−28312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、牛や豚などの動物の硬い皮を用いて形成されるか、牛などの骨と同じ硬さを有するように形成されている従来のデンタルケア用チューイング材では、犬や猫は、ヒトよりもエナメル質が薄い歯を有するため、歯が欠けてしまったり、チューイング材の破断面が胃腸で消化されないため胃腸閉塞や下痢を引き起こしたりする場合がある。さらに、牛や豚などの動物の皮を用いたデンタルケア用チューイング材は、犬や猫の咀嚼行動により直ちに破壊され、歯垢や歯石を十分に除去できるだけの時間咀嚼させることができない場合がある。また、澱粉ベースのデンタルケア用チューイング材は、犬や猫といった動物が好んで食べるような成分をさらに添加しなければ食いつきを良くすることができず、原材料数の増加による製造の手間やコストが増大するという問題がある。また、歯垢や歯石を取ることを目的とするデンタルケア商品は市場に多数存在するものの、歯周病の軽減に優れた効果が確認された商品は存在していなかった。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、嗜好性に優れ、胃腸への負担が少なく、かつ歯周病の予防や改善効果が向上したペットのデンタルケア用チューイング材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明は、ペットのデンタルケア用チューイング材であって、歯周病の原因菌の繁殖抑制成分と、細胞活性化成分と、動物皮のペーストから成る基材とを含む混合物を乾燥して得られる。前記デンタルケア用チューイング材は、表層に皮膜を有することが好適である。
【0010】
本発明に係るデンタルケア用チューイング材は、その一形態において、前記歯周病の原因菌の繁殖抑制成分が、前記歯周病の原因菌に対する抗体、および/または抗菌作用を有するポリフェノールである。
【0011】
本発明に係るデンタルケア用チューイング材は、その一形態において、前記歯周病の原因菌に対する抗体が、鶏卵卵黄由来である。ここで、該歯周病の原因菌に対する抗体は、歯周病の原因菌または歯周病の原因菌が産生する物質を抗原として得られる抗体であってよく、歯周病の原因菌が産生する酵素タンパク、または歯周病菌の原因菌の表面タンパクを抗原として免疫した鶏の鶏卵卵黄から得られることが好適である。
【0012】
本発明に係るデンタルケア用チューイング材は、その一形態において、前記抗菌作用を有するポリフェノールを、シソ種子から得られる抽出物または精油として含む。
【0013】
本発明に係るデンタルケア用チューイング材は、その一形態において、前記細胞活性化成分が、コエンザイムQ10である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、嗜好性に優れ、胃腸への負担が少なく、かつ歯周病の予防や改善効果が向上したペットのデンタルケア用チューイング材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係るデンタルケア用チューイング材について、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0016】
本発明に係るデンタルケア用チューイング材は、歯周病の原因菌の繁殖抑制成分と、細胞活性化成分と、動物皮のペーストから成る基材とを含む混合物を乾燥して得られる。
【0017】
歯周病の病原菌としては、犬や猫において多数の菌が知られており、例えば、Porphyromonas gingivalis、Porphyromonas Denticanis、Porphyromonas Gulae、Porphyromonas Salivosa等が挙げられる。
【0018】
歯周病の原因菌の繁殖を抑制する成分は、好適には、歯周病の原因菌に対する抗体、および抗菌作用を有するポリフェノールである。
【0019】
歯周病の原因菌に対する抗体は、好適には、歯周病の原因菌または歯周病の原因菌が産生する物質を抗原として得られる鶏卵抗体である。該歯周病の原因菌は、上記に列挙された細菌のいずれかまたはそれらの組み合わせであり、好ましくは、Porphyromonas Gulae、Porphyromonas gingivalis、Porphyromonas Denticanis、もしくはPorphyromonas Salivosa、またはこれらの組み合わせである。抗体は、1種類のみが配合されてもよく、2種以上が同時に配合されてもよい。
【0020】
鶏卵抗体は、抗原物質を産卵鶏に免疫して得られる。このような鶏卵抗体の調製は、公知の方法によって行うことができる。免疫する鶏としては、白色レグホン等を用いることができる。免疫方法としては、静脈注射、皮下注射、筋肉注射、腹腔内投与等、鶏に免疫することのできる方法であれば特に制限されない。抗原物質としては、例えば、Porphyromonas gingivalisの産生する酵素タンパク、およびPorphyromonas gingivalisの菌体表面タンパク、並びにこれらの組み合わせを使用することができる。
【0021】
具体的には、例えば、初回免疫を行い、その数週間後に追加免疫を実施すると、卵黄中に鶏卵抗体が得ることができる。その後、数ヶ月ごとに追加免疫を行い、抗体価を維持することができる。抗原物質の投与量は所望の抗体価が得られ、かつ鶏に対して悪影響を与えない程度の量に適宜調整することができる。必要に応じてフロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント、水酸化アルミニウム等のアジュバントを併用して免疫してもよい。
【0022】
歯周病の原因菌に対する鶏卵抗体は、精製されている必要はなく、免疫した鶏卵の卵黄液、または該卵黄液を通常の方法により乾燥して調製した粉末を用いることができる。乾燥は、一般的に用いられる適宜の噴霧乾燥機を用いて、公知の噴霧乾燥法により、140〜180℃、数分間程度行う。歯周病の原因菌に対する抗体を含有する鶏卵粉末は、市販のものを用いてもよく、例えば、株式会社ゲン・コーポレーションより入手することが可能である。あるいは、歯周病の原因菌に対する鶏卵抗体は、タンパク質精製のための公知の手法により、鶏卵から精製したものを用いてもよい。
【0023】
歯周病の原因菌に対する抗体の配合量は、その抗体価により大幅に異なるため、抗体価の測定を行い適宜調整することが望ましい。一般的には、公知の方法で免疫された鶏の鶏卵抗体を用いた場合、精製された抗体がデンタルケア用チューイング材の完成品において16〜51mg/g配合されることが好適である。該抗体を卵黄粉末として配合する場合は、デンタルケア用チューイング材の完成品において20〜60mg/g配合することができる。この範囲の配合量とすることにより、歯周病の予防効果がより確実に得られるという有利な効果がある。
【0024】
抗菌作用を有するポリフェノールとしては、ロスマリン酸や、フラボノイドであるルテオニン、アピゲニン、クリソエリオール等の化合物が挙げられる。これらのポリフェノールは、歯周病の原因菌をはじめとする口腔病原性細菌に抗菌活性を有している。例えば、ルテオリンは、齲食菌であるStreptococcus mutansや歯周病原因菌であるPorphyromonas gingivalisに対して強い抗菌作用を示す。また、ロスマリン酸も、Porphyromonas gingivalisに対して抗菌活性を示すことが知られている。
【0025】
ポリフェノール化合物は、精製されている必要はなく、植物の抽出物または精油としてデンタルケア用チューイング材に配合することができる。ポリフェノールは、好ましくはシソの抽出物または精油として配合され、より好ましくはシソ種子の抽出物または精油として配合される。ロスマリン酸や、フラボノイドであるルテオニン、アピゲニン、クリソエリオール等を比較的高濃度に含むものであれば、シソ以外の植物の抽出物または精油も用いることができる。しかし、シソ種子からの抽出物が、他の植物等からの抽出物や各ポリフェノールを単体で含有させた場合よりも高い効果が得られるので好ましい。この理由は明確ではないが、シソ種子の抽出物は、ポリフェノールをフラボノイド活性の高いアグリコンの形で含むことが関係していることが考えられる。
【0026】
植物抽出物は、公知の方法により抽出することができ、例えば、熱水、含水エタノール等に、植物の葉、種子、根または茎を浸漬させ、沸点以下で適宜の時間加熱する。植物の精油も同様に、公知の方法により調製することができ、例えば、蒸留法(水蒸気蒸留法、直接蒸留法)、冷浸法、圧搾法、有機溶剤法等により調製可能である。精油もまた、公知の方法により調製することができ、例えば、水蒸気蒸留法、圧搾法、および油脂吸着法等がある。さらに、ポリフェノール化合物は、公知の精製方法により精製されていてもよい。
【0027】
ポリフェノールのデンタルケア用チューイング材における配合量は、抗菌作用を発揮させることができ、かつ嗜好性を損なわず、犬や猫の健康に悪影響を与えない範囲に、その種類に応じて適宜調整することができる。例えば、ポリフェノールを、シソ種子の抽出物として配合する場合は、ポリフェノールを3%以上含有した抽出物を、デンタルケア用チューイング材の完成品において0.2〜4mg/g配合することが好適である。0.2mg/gより少ないと効果を得難くなる場合があり、また、4mg/gよりも多く配合しても効果が変わらないばかりか、犬や猫の健康や嗜好性への影響が生じる場合がある。
【0028】
細胞活性化成分は、口腔内およびその他の組織の細胞を活性化できる成分である。細胞活性化成分としては、例えば、コエンザイムQ10、アミノ酸、ミネラル、ビタミンB2などのビタミン類およびフラボノイド等が挙げられる。細胞活性化成分は、好ましくはコエンザイムQ10であり、より好ましくはコエンザイムQ10包接体である。ここで、コエンザイムQ10包接体とは、コエンザイムQ10をγシクロデキストリンで包接することにより、安定性および吸収率が向上したものである。
コエンザイムQ10は、ヒトでの知見であるが、他の細胞活性化等の作用を有する成分に比べて歯肉細胞における細胞活性化効果が高いことがわかった。これは、コエンザイムQ10が、他の細胞活性化等の作用を有する成分に比べて歯肉細胞の部分に少ないことを示す知見が得られていることから、このことが、コエンザイムQ10の歯肉細胞における細胞活性化作用を他の成分よりも高くしていると考えられる。加えて、コエンザイムQ10は、量が多すぎると逆に歯肉細胞における細胞活性化を抑制してしまうこともわかった。
これらの知見から、コエンザイムQ10包接体の場合は、デンタルケア用チューイング材の完成品に0.2〜4mg/g配合されることが好適である。0.2mg/gより少ないと効果を得難くなる場合があり、4mg/gよりも多くなると効果が得られなくなるばかりか、細胞活性化を抑制してしまう場合があるためである。デンタルケア用チューイング材に細胞活性化成分が配合されることにより、歯肉細胞の増殖を促進し、歯周病によって損傷した歯肉組織の修復を促進する効果がある。
【0029】
動物皮のペーストから成る基材は、豚皮や牛皮等から脂肪を取り除き、冷水にさらし、肉挽き機により細かく引いたもの、あるいは冷水にさらす工程を省略したものであり、その主成分のコラーゲンが未変性のものである。この動物皮ペーストは、コラーゲン、コラーゲンと共存するプロテオグリカン類およびその他含窒素成分を主成分とする。この動物皮ペーストは、約40℃以上に加熱すると、コラーゲンたんぱく質が変性してヘリックス構造は崩壊されるものの、コラーゲン分子間の架橋、プロテオグリカン類を介した架橋に伴う共有結合は切断されないので繊維構造が維持される。このため、それよりも凝固脱水してゲル状物を形成し、しかも再加熱してもゲル状を維持する特性を有している。
動物皮としては、豚、牛等の皮が挙げられるが、犬や猫の食用に適し、嗜好性を備えるものであれば特に限定されない。動物皮のペーストは、基材として、デンタルケア用チューイング材中に70%以上配合される。動物皮のペーストを基材とすることにより、犬や猫にとって嗜好性の高いチューイング材とすることができる。また、従来のデンタルケア商品の多くは消化しにくいことが問題となっていたが、本発明に係るデンタルケア用チューイング材はペースト状の動物皮を主成分としているため、胃液により消化しやすく、胃腸への負担を軽減できるという効果がある。
【0030】
なお、動物皮のペーストには、適当な繊維質が含まれているため、本発明に係るデンタルケア用チューイング材には、適宜の量の繊維質が含まれた状態となっている。また、使う動物皮の種類によって繊維質の量を増やす必要があるといった必要性に応じ、犬や猫が許容可能な食物繊維を添加することもできる。この場合、添加する繊維質には、例えばペクチン、グアーガム、アガロース等の植物に含まれる食物繊維が挙げられる。繊維質は、必ずしもこれらの植物からセルロースに精製される必要はないが、精製されたセルロースとしてデンタルケア用チューイング材に配合されてもよい。
【0031】
本発明に係るデンタルケア用チューイング材は、その他の構成成分として、抗体の作用を増強する成分、牛や豚の皮の歯垢除去効果を増強する成分、嗜好性を高める成分等をさらに含んでもよい。抗体の作用を増強する成分としては、例えば、β−グルカン、サポニン等が挙げられる。牛や豚の皮の歯垢除去効果を増強する成分としては、例えば、繊維質、コラーゲン等が挙げられる。嗜好性を高める成分としては、例えば、豚レバー、牛レバー、ビール酵母等がある。抗体の作用を増強する成分、牛や豚の皮の歯垢除去効果を増強する成分、嗜好性を高める成分の配合量は、当業者が適宜調整することができる。
【0032】
デンタルケア用チューイング材の形状は、犬や猫が咀嚼するために適する形状であれば特に限定されない。例えば、スティック、骨型、歯ブラシ等の形状が挙げられる。デンタルケア用チューイング材のサイズは、犬や猫の大きさによって適宜調整することができる。このとき、丸飲みを防止でき、咀嚼を促すようなサイズとすることが好ましい。
【0033】
デンタルケア用チューイング材の表層には、皮膜が形成されていることが好ましい。皮膜とは、乾燥して硬くなった膜状の部分をいい、デンタルケア用チューイング材の表面からの距離が0.3〜1.5mmの領域に形成されていることが好ましい。水分含有量は、デンタルケア用チューイング材全体、つまり、皮膜および皮膜より内側の領域を一緒に粉砕し混在した状態で計測して5〜15質量%であることが好ましい。
【0034】
表層に皮膜が形成されていることにより、デンタルケア用チューイング材に適度な硬さを付与することができ、咀嚼時間を長めることができる。よって、歯周病の原因菌に対する抗体やポリフェノール等の機能性成分を、口腔内に長時間滞留させることを可能にするという効果がある。咀嚼時間が長くなることにより、歯垢や歯石の除去効果の向上に加え、唾液の分泌を促進し歯周病菌の繁殖を抑制できるという効果もある。さらに、デンタルケア用チューイング材は柔軟性を併せ持つため、歯と歯茎との接触時間が長くなるという効果もある。このため、咀嚼時間が短い場合でも機能性成分と歯や歯茎との接触を増加させることが可能となる。また、極端な硬さではないため、歯周病等の疾患や老化により歯がぐらついている動物や、咀嚼時に歯茎に痛みを伴う動物であっても食べやすい設計となっている。
【0035】
以下に、本発明に係るデンタルケア用チューイング材の製造方法の一例を説明する。まず、歯周病の病原菌の繁殖抑制成分と、細胞活性化成分と、動物皮のペーストから成る基材とを、一般に用いられる適宜のボウルカッターを用いて混合する。動物皮のペーストから成る基材は、動物皮に対し水分を80〜85質量%含有する物を用いることが好適である。歯周病の病原菌の繁殖抑制成分として、歯周病の病原菌に対する抗体を加える場合は、動物皮のペーストから成る基材100質量部に対して2.4〜2.5質量部とし、抗菌作用を有するポリフェノールを加える場合は、動物皮のペーストから成る基材100質量部に対して0.08〜0.1質量部とする。細胞活性化成分は、動物皮のペーストから成る基材100質量部に対して0.2〜0.21質量部とする。なお、繊維質は、動物皮のペーストに含まれるものであるが、動物皮のペーストから成る基材100質量部に対して2.0〜2.1質量部となることが好ましい。抗体の作用を増強する成分、牛や豚の皮の歯垢除去効果を増強する成分、および嗜好性を高める成分も適宜配合してもよい。混合物に適宜水分を加え、混合物の水分含有量を60〜65質量%に調整する。
【0036】
混合を十分に行った後、混合物の成形を行う。成形は、公知の方法により行うことができるが、例えば、一般に用いられる適宜の押し出し充填機により行うことができる。次いで、成形物を乾燥させる。乾燥は、例えばオーブン等により65〜110度の温度で15〜60分間加熱することにより行う。ここで、乾燥は、歯周病の病原菌に対する抗体が失活しない程度の温度および時間で行う必要がある。例えば、87度では30分以内、100度では15分以内とすることが好ましい。乾燥後の成形物の水分含有量は、好ましくは、成形物全体、つまり、皮膜および皮膜より内側の領域を一緒に粉砕し混在した状態で計測して5〜15質量%である。この乾燥の工程により、表層に皮膜を有するデンタルケア用チューイング材の完成品が得られる。
【0037】
本発明に係るデンタルケア用チューイング材は、歯周病を軽減するための複数の機能性成分を含有し、かつ適度な柔軟性を有しているため、歯の先端だけでなく、歯茎などにも当たり、歯茎のマッサージによる血行促進効果、唾液の分泌により歯の間の歯垢や歯石を除去でき、口内浄化の効果を得ることができる。さらに、該機能性成分は唾液に溶けて口腔内の隙間に入り込むため、歯磨きやチューイング材による物理的な刺激では届かない部分にまで効果を及ぼすことができる。このため、本発明に係るデンタルケア用チューイング材は、従来の硬い動物の皮や骨を用いたデンタルケアチューイング材に比べて咀嚼時間は短くなったとしても、適度な柔軟性や機能性成分により、歯周病菌をはじめとする口腔病原性細菌の繁殖を抑制し、炎症を軽減させる効果を短期間で得ることができる。従って、本発明によれば、犬や猫の歯周病の予防・改善効果を向上することが可能となる。
また、本発明に係るデンタルケア用チューイング材は、胃液で消化され易く、胃腸に障害を生じることがない。加えて、歯がぐらつくなど、歯が弱くなっている老犬や老猫などでも咀嚼することができ、従来の硬いチューイング材を与えられなかった老犬や老猫でも歯周病を予防・改善することができる。
【実施例1】
【0038】
[デンタルケア用チューイング材の製造]
豚皮のペースト(水分含有率:80〜85%)に、グロビゲン(株式会社ゲン・コーポレーション)、シソの実エキス末(オリザ油化株式会社)、コエンザイムQ10(新興貿易株式会社)を混合した。グロビゲンは、ヒトの歯周病菌であるPorphyromonas gingivalisに対する抗体を840mg/gの濃度で含む卵黄粉末であり、犬や猫の歯周病菌に対する効果は知られていない。混合は、一般に用いられる適宜のボウルカッターを用いて、10〜15分間行った。デンタルケア用チューイング材1個当たりの配合量を以下に示す。ここで、デンタルケア用チューイング材の完成品は、1個当たり5gである。
・卵黄粉末(グロビゲン) : 250mg
・シソの実エキス末 : 5mg
・コエンザイムQ10包接体 : 1.3mg
【0039】
材料を十分に混合した後、一般に用いられる適宜の押し出し充填機を用いて、直径7.5mm、長さ12.5cmの円柱の形状に成形した。この成形体を、100℃の設定のオーブンで30分間焼きを入れた。次いで、一般に用いられる適宜の乾燥庫内で水分含有量が全体として約15質量%になるまで乾燥させ、デンタルケア用チューイング材を製造した。ここで、成形物全体、つまり、皮膜および皮膜より内側の領域を一緒に粉砕し混在した状態で計測した水分含有量は5〜15質量%であった。
【0040】
[投与]
デンタルケア用チューイング材の犬歯周病に対する効果の確認を目的とし、犬における投与実験を行った。犬の品種は、ビーグル、パピオン、ヨークシャー・テリア、ウェルシュ・コーギー、およびチワワとした。投与対象の犬は、歯周病疾患犬であり、口臭および左右口腔内歯肉溝に歯周ポケットが確認され、被験物質の基材であるガムに忌避を示さない個体を選抜した。
【0041】
投与群の犬には、上記のようにして製造したデンタルケア用チューイング材を8週間連続して投与し、対照群(無投与群)の犬には投与しなかった。投与群および無投与群は、両者共に10頭とした。デンタルケア用チューイング材の投与は、1日1回、自由摂取させた。投与量は、小型犬には1本/日、中型犬には2本/日とした。ここで、小型犬は、パピオン、ヨークシャー・テリア、およびチワワを指し、中型犬は、ビーグル、およびウェルシュ・コーギーを指す。
【0042】
[一般状態の観察]
一般状態の観察は、活力、食欲、糞便性状、定量給与である試料の残量有無等について投与直前から投与後8週間まで毎日観察を行った。この観察結果を表1に示す。
【表1】

【0043】
一般状態の観察では、活力、糞便性状等、その他特筆すべき一般状態の異常は認められなかったが、投与群では、残餌が著しく減少した。具体的には、残餌が試験開始時(以下、0週という)から試験開始後4週間(以下、4週という)で投与群において4頭で延べ日数8日、無投与群で3頭、延べ日数7日認められ、4週から試験終了時(以下、8週という)では、投与群で1頭、延べ日数2日、対照(無投与群)で3頭、延べ日数59日認められた。また、血液学的検査(平均赤血球容積(MCV)および平均赤血球血色素濃度(MCHC)、白血球数等)および血液性化学的検査(総タンパク質、TNF−α等)においても異常は認められず、デンタルケア用チューイング材の犬に対する安全性が確認された(データは示さず)。
【0044】
[口腔内観察]
口腔内の観察は、投与開始直前、投与開始後4週および8週に行った。口腔内の状態は、表2に示すスコアに従い、左右別々に評価を行った。歯肉溝の深さは個体別に重度の歯根膜炎を示す歯を定め、各時点で同一箇所の歯で測定した。口腔内スコアの投与時期による比較はSigned−Wilcoxon検定、試験群間の口腔内スコアおよび歯石の落ち具合の比較はWilcoxonの順位和検定、歯周ポケットの深さはt検定を用いて統計解析を行った。口腔内観察の結果を表3に示す。
【表2】


【表3】

*:p<0.05で有意差あり、**:p<0.01で有意差あり、
n.s.:有意差なし
【0045】
口腔内観察では、投与群全体について明らかに歯茎が引き締まってきており、歯周病による炎症も軽減していることが見た目で判断することができた。具体的には、表3に示されるように、投与群で各観察項目における改善傾向が認められた。投与前後の比較では、歯肉の充血、出血、腫腸、流涎および歯根膜炎の各項目で4週および8週において投与前に比べ有意に減少していた。また、歯周ポケットの深さも0週に比べ8週では有意に減少しており、改善したことが示された。これに対し、無投与群では、投与前後で差は認められなかった。また、試験群間の比較では、歯肉の充血、出血、腫脹、歯根膜炎、歯周ポケットの深さおよび歯石の落ち具合において、投与群は無投与群と比較して有意な低値を示した。流涎は、投与群では0週に全頭で認められたが、4週および8週では全頭で認められなくなり、投与群は無投与群と比較して4週および8週で有意な差を示した。
【0046】
[体重測定]
体重測定は、0週、4週、および8週において、各個体について測定した。体重測定の結果を表4に示す。
【表4】


体重に関しては、各測定時点とも試験群間に統計的な差は認められなかったものの、体重増加を認めた個体の割合についての統計解析では投与群で有意に多かった。具体的には、投与群では0週から8週の期間で体重増加が認められた個体が4頭であったのに対し、無投与群では体重増加を示した個体はなかった。
【0047】
[口臭測定]
口臭の判定は、3人(A、B、C)の判定者が、口臭の程度を0〜3の段階で行った。
口臭の判定結果を表5に示す。ここで、「0」は「無臭」であり、「1」は「わずかに匂う」であり、「2」は「明らかに匂う」であり、「3」は「かなり匂う」という基準で口臭の程度を段階分けした。
【表5】


表5を参照すると、無投与群では、8週でも変化がなかったが、投与群では、4週および8週では有意に低い値を示した。試験群間の比較においても、0週には差がなかったが、4週および8週で有意に低い値を示した。
【0048】
[まとめ]
デンタルケア用チューイング材を投与した群では、歯肉の充血、出血、腫脹、歯根膜炎、歯周ポケットの深さに有意な改善が確認され、歯石が落ちた個体も6頭観察されるなど、口腔内環境が全般的に大きく改善されることが示された。さらに、体重の増加が投与群にのみ観察されたのは、投与により口腔内の環境が改善され、食欲が増したためであると示唆された。従って、ペット用のデンタルケア用チューイング材は、歯周病疾患を持った犬にとって、口腔内環境を改善するための優れた効果を有しており、非常に有用であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係るデンタルケア用チューイング材は、嗜好性に優れ、胃腸への負担が少なく、かつペットの歯周病の予防や改善するために有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯周病の原因菌の繁殖抑制成分と、
細胞活性化成分と、
動物皮のペーストから成る基材と
を含む混合物を乾燥して得られるペットのデンタルケア用チューイング材。
【請求項2】
表層に皮膜を有する請求項1に記載のデンタルケア用チューイング材。
【請求項3】
前記歯周病の原因菌の繁殖抑制成分が、前記歯周病の原因菌に対する抗体、および/または抗菌作用を有するポリフェノールである、請求項1または2に記載のデンタルケア用チューイング材。
【請求項4】
前記歯周病の原因菌に対する抗体が、鶏卵卵黄由来である請求項1〜3のいずれかに記載のデンタルケア用チューイング材。
【請求項5】
前記抗菌作用を有するポリフェノールを、シソ種子から得られる抽出物または精油として含む請求項1〜4のいずれかに記載のデンタルケア用チューイング材。
【請求項6】
前記細胞活性化成分が、コエンザイムQ10である請求項1〜5のいずれかに記載のチューイング材。

【公開番号】特開2011−79779(P2011−79779A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233827(P2009−233827)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(599098518)株式会社ディーエイチシー (31)
【Fターム(参考)】