説明

デンタルフロス用糸

【課題】 単糸繊度が10dtex以下の細いフィラメントを使用したデンタルフロスにおいて、歯間に挿入しやすくフィラメントが切れ難い(糸がほつれ難い)デンタルフロス用糸を提供する。
【解決手段】 単糸繊度が10dtex以下のフィラメントを束ねた繊度500〜1500dtexの糸が水溶性高分子でコーティングされていることを特徴とするデンタルフロス用糸とする。溶性高分子がポリエチレングリコールであることが、撚り数は20〜200T/mであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デンタルフロス用の糸に関する。
【背景技術】
【0002】
歯と歯の間はプラーク(歯垢)が付きやすい。プラークは、水分と有機質で構成されていて有機質の大半は口腔常在菌とその代謝物である。歯の状態を良好に保つにはまず歯磨きが有効であるが、歯ブラシでは歯と歯の隙間に届き難いのでプラークを効果的に落とすためにデンタルフロスが広く使用されている。
【0003】
デンタルフロスとしては断面が円形に近いナイロンのフィラメント(単繊維)を束ねて糸にしたものや、歯間に入り易くするためにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のフィラメントを束ねた糸が広く使用されている。しかし、これら従来のデンタルフロス用の糸は比較的太いフィラメントを使用しているため歯間へ挿入し難く歯の隙間の細い所まで届かないことが多かった。また、挿入しやすいように蝋等の非水溶性の樹脂でコーティングすることもあるが、樹脂でコーティングするとフィラメントが纏まってしまい清掃効率が低下してしまう。また、樹脂で固めたことにより糸が硬くなってしまい歯間への挿入時に糸が歯肉へ当たると痛みを伴う問題もあった。
【0004】
フィラメントを熱融着や溶解融着、接着剤接着の方法で結束させ清掃効率を高めたデンタルフロス用糸もある(例えば、特許文献1参照。)。しかしながらこの糸は結束部分が硬化してしまうことがあり、歯間への挿入時に違和感があるという欠点があった。極細繊維とそれに添って配した糸を芯にして周囲に巻糸を巻いた撚糸から成る織編物を用途の一つとしてデンタルフロスに利用する方法もあるが(例えば、特許文献2参照。)、このような糸は径が太くなり歯間に挿入し難い。これらの問題は単糸繊度が2dtex以下の細いフィラメントを使用したデンタルフロスも提案されている(例えば、特許文献3参照。)。しかしこのような細いフィラメントは清掃効率が高いがそれ故に清掃時の抵抗が大きく歯間への挿入し難いことが多い。またこれはフィラメントが切れやすく、その結果、糸がほつれやすい欠点もある。この欠点を回避するために非水溶性の樹脂でコーティングすると前述のように清掃効率が大きく低下してしまう。
【特許文献1】特開平8−117252号公報
【特許文献2】特表平10−500110号公報
【特許文献3】特開2007−215703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、単糸繊度が10dtex以下の細いフィラメントを使用したデンタルフロスにおいて、歯間に挿入しやすくフィラメントが切れ難い(糸がほつれ難い)デンタルフロス用糸を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は課題を解決するために鋭意検討した結果、単糸繊度が10dtex以下のフィラメントからなる500〜1500dtexのデンタルフロス用糸を水溶性高分子でコーティングすると前記課題を解決することが可能であることを見い出して本発明を完成した。
【0007】
即ち本発明は、単糸繊度が10dtex以下のフィラメントを束ねた繊度500〜1500dtexの糸が水溶性高分子でコーティングされていることを特徴とするデンタルフロス用糸である。中でも、水溶性高分子はポリエチレングリコールであったり、単糸繊度が1dtex以下であったり、糸の撚り数が20〜200T/mであったりすることが好ましいデンタルフロス用糸である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るデンタルフロス用糸は、水溶性高分子でコーティングすることによって単糸繊度が10dtex以下のフィラメントを使用したデンタルフロス用糸の高い清掃効率や糸の柔らかさ維持しながら歯間への挿入がしやすく糸がほつれ難い優れたデンタルフロス用糸である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係るデンタルフロス用糸は、単糸繊度が10dtex以下のフィラメントを束ねた500〜1500dtexの糸を使用する。歯間への挿入時に細いフィラメントの集合体であることにより、清掃性に必要な単位面積を持ちながら狭い歯間に入れるため体積を減らして抵抗を減らすことができる。単糸繊度が10dtexを超える場合は、デンタルフロス用糸の単位繊維表面積が小さくなり清拭性が悪化する。
【0010】
単糸繊度は、好ましくは5dtex以下であり、より好ましくは、2dtex以下である。なお、細すぎる場合、水溶性高分子でコーティングしても清掃時にフィラメントが切れやすくなり糸がほつれてしまうことを考慮すると、単糸繊度の下限は0.05dtex程度である。
【0011】
本発明に係るデンタルフロス用糸の繊度は、糸そのものを糸束としてデンタルフロスとする場合、使用感や清拭効果の点から500〜1500dtexである。好ましくは、600〜1100dtexである。編織物とする場合は、400〜1000dtexが好ましい。
【0012】
本発明に係るデンタルフロス用糸は、単糸繊度が10dtex以下のフィラメントを束ねた繊度500〜1500dtexをそのままコーティングして用いてもよいし、デンタルフロス用糸を製編織して、編物や織物としたものをコーティングして用いてもよい。製造工程が簡単で、口腔内用に好適に用いることができる点、及び安価に提供可能であるという点等から考えれば、織編物とせずそのまま糸束としてデンタルフロス糸として用いる方が良い。
【0013】
デンタルフロス用糸を構成するフィラメント材としては、例えば、ポリエステル,ナイロン,ダクロン,レーヨン,アセテート,ポリエチレン,ポリプロピレン,熱可塑性エラストマー、クラトン(例えば、スチレン−エチレンブロックコポリマー,スチレン−ブチレンブロックコポリマー),ペバックス(例えば、ポリエーテル−ポリアミドブロックコポリマー)及び熱可塑性ウレタン,ポリ塩化ビニル等のプラスチックフィラメントが好適に用いられ、特に、通常の押出成形によって製造できるものが好ましい。また、これらを組合せて用いてもよい。中でも、特許文献3のナイロンとポリエステルの混合繊維が清掃効果が高くて好ましい。
【0014】
フィラメントの断面形状は、真円の他、どのような形状であっても良いが、食物片や歯垢の除去効率の点から角が立っている形状等、表面積が広いものが好ましく異形断面であることがより好ましい。また、軸方向に断面形状が順次変化していてもよい。異形断面形状のフィラメントは押し出し成形時に異形の孔形状を有するノズルあるいはダイスを用いるか、多成分で構成されるフィラメントを作って一成分を溶媒などにより除去する方法、剥離型複合フィラメントの製造方法等、公知の方法で製造することができる。
【0015】
本発明に係るデンタルフロス用糸は、プラークの掻き取りを効率的に行うことができる点から加工糸であることが好ましい。加工糸としては、通常、熱可塑性を利用して嵩高性を与えた糸を示し、加工としては、加撚,熱固定,解撚法,仮撚法,擦過法,押込法,賦型法,空気噴射法,複合捲縮法等が挙げられる。
【0016】
本発明のデンタルフロス用糸は撚糸であることが好ましい。撚糸は歯間への挿入時にモノフィラメントが纏まっているので挿入し易く、また自動的に歯間の大きさに合わせて径が変化するので抵抗も少ない。撚条件は、糸のポリマー材料,糸の太さ等により適宜設定される。例えば、ポリエステルのフィラメントからなるデンタルフロス用糸とする場合では150〜185℃程度で、仮撚数2700〜3700T/mの条件で仮撚加工を施し、得られた仮撚加工糸を複数本引き揃えて、撚り数20〜200T/m、好ましくは40〜150T/mで行う。このような条件であると、デンタルフロスを歯間に挿入しやすく、フロッシングもスムーズで、糸そのものをデンタルフロスとして用いた場合でも、より丸みのあるきれいな外観のデンタルフロスとなるので好ましい。
【0017】
本発明に係るデンタルフロス用糸は、前述したように単糸繊度が10dtex以下のフィラメントを束ねて500〜1500dtexの糸を作製し、これを水溶性高分子でコーティングする。コーティング方法は水溶性高分子の溶解液に糸を通過させ乾燥させる方法が最も簡単で効果的である。
【0018】
本発明に係るデンタルフロス用糸は水溶性高分子でコーティングすることによって、単糸繊度が10dtex以下のフィラメントからなる500〜1500dtexの糸の柔らかさを保ちながらを歯間に挿入するまで結束させることで歯間への挿入を容易にし、歯間への挿入直後には水溶性高分子が唾液で溶解してこの糸の本来の清掃性を発揮させることができる。そして清掃時にはデンタルフロス用糸の抵抗を低減させる効果があるので結果としてフィラメント切れ難くなる効果がある。
【0019】
水溶性高分子としては、ポリグリセリン,ポリエチレングリコール,ポリオキシアルキレングリコール,ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン,ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,キサンタンガム,デキストリン,カラギーナン等を例示することができる。特にポリエチレングリコールがコーティングの効果が高く、唾液による溶解性が高いので好ましい。ポリエチレングリコールの分子量は3000〜10000、特に好ましくは4000〜7000である。
【0020】
本発明に係るデンタルフロス用糸には、抗微生物剤,抗歯肉炎剤,抗炎症剤,抗う食剤,脱臭剤,知覚鈍麻剤,抗結石剤,抗歯垢剤,抗ウイルス酸,無機質補給剤,起泡剤,香味料,芳香剤,白化剤,研磨剤,顔料,染料、及びそれらの組み合わせを含めることができる。
【実施例】
【0021】
<実施例1>
単糸繊度18dtexのナイロン・ポリエステル複合フィラメントを複数束ねて860dtexとし、この糸に100T/mで撚りをかけたものを用意した。水溶性高分子としてポリエチレングリコール粉末(分子量4000)を混合しエタノールを入れ攪拌した。このコーティング剤混合液体が入った容器に、用意した糸を一定の速度で通過させ、その後冷却・乾燥装置を通過し、エタノールを完全に揮発させたものを、デンタルフロス用糸とした。
【0022】
<実施例2>
単糸繊度10dtexのナイロンフィラメントを複数束ねて700dtexとし、この糸に70T/mで撚りをかけたものを用意した。水溶性高分子としてポリエチレングリコール粉末(分子量3500)を使用し、実施例1と同様の方法にて糸にコーティングし、これをデンタルフロス用糸とした。
【0023】
<実施例3>
単糸繊度10dtexのナイロンフィラメントを複数束ねて700dtexとし、この糸に120T/mで撚りをかけたものを用意した。水溶性高分子としてポリエチレングリコール粉末(分子量6000)を使用し、実施例1と同様の方法にて糸にコーティングし、これをデンタルフロス用糸とした。
【0024】
<比較例1>
コーティングしていない実施例1の糸を比較例1のデンタルフロス用糸とした。
【0025】
<比較例2>
単糸繊度18dtexのナイロン・ポリエステル複合フィラメントを複数束ねて860dtexとし、この糸に100T/mで撚りをかけたものを用意した。蜜蝋・合成ワックスを80〜90度の温度で溶融した。次にこの混合物に用意した糸を一定の速度で通過させ、その後冷却・乾燥工程を経て、比較例2のデンタルフロス用糸とした。
【0026】
デンタルフロス用糸の評価
<<使用感>>
実施例1〜3、比較例1,2のデンタルフロス用糸を、歯科医院に来院した患者43名に歯間清掃用として使用してもらい、以下の評価項目によって5段階評価の回答を得た。
【0027】
<評価項目>
1.全体的な使用感
2.プラークの除去性
3.挿入時の痛み
4.歯間への入りやすさ
5.糸の ほつれにくさ
【0028】
<評価基準>
◎:平均点数4点以上
○:平均点数3点以上4点未満
△:平均点数2点以上3点未満
×:平均点数2点未満
【0029】
<<清掃効果>>
人工プラーク(株式会社ニッシン製)と赤色色素を混合して、樹脂で包埋した牛歯エナメル質表面に塗布し、これを歯ブラシ強さ試験機の固定台に設置した。デンタルフロス用糸は、200gの荷重をかけて、強さ試験機の台の上方に固定した。牛歯エナメルを設置した固定台を毎秒10mmの速度で糸の下を1回通過させ、汚れの落ち具合を確認した。除去率は、歯科用色彩計を用いて実験前後の色差Lを測定し、以下の計算式により除去率△Eabを算出した。
【0030】
△Eab=[(△L+(△a+(△b1/2
【0031】
<評価基準>
◎: △Eab ≧ 60
○: 45 ≦ △Eab <60
△: 30 ≦ △Eab < 45
×: △Eab < 30
【0032】
<<デンタルフロス用糸の耐久性>>
フロス(長さ10cm)の両端に50gの重りを付け、トータルで100gの荷重がかかるようにした。カッターの刃の反対側部分にフロスをぶら下げ両側に取り付けた重りを往復5回、交互に手で引っ張り、その後のフロスを拡大鏡で観察し糸のほつれ具合の比較を行った。
【0033】
<評価基準>
◎:全くほつれなし
○:所々にほつれがある
×:全体的にほつれがある
【0034】
<表1>


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸繊度が10dtex以下のフィラメントを束ねた繊度500〜1500dtexの糸が水溶性高分子でコーティングされていることを特徴とするデンタルフロス用糸。
【請求項2】
水溶性高分子がポリエチレングリコールである請求項1に記載のデンタルフロス用糸。
【請求項3】
単糸繊度が1dtex以下である請求項1または2に記載のデンタルフロス用糸。
【請求項4】
撚り数20〜200T/mで撚られている請求項1ないし3の何れか一項に記載のデンタルフロス用糸。

【公開番号】特開2010−214017(P2010−214017A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66888(P2009−66888)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】