説明

デンドライト伸長促進剤及びメラニン排出促進剤

【課題】デンドライト伸長促進剤ならびにメラニン代謝促進剤の提供。
【解決手段】下記化学式で表される2分子のフラバノンがクロマノン環の3位の位置同士で結合した化合物を有効成分とするデンドライト伸長促進剤ならびにメラニン代謝促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラノサイトのデンドライトの伸長促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
メラノサイトは、発生学的には神経堤由来の遊走性、樹枝状の細胞で、皮膚においては基底層と毛母に分布する細胞である。メラノサイトは、メラノソームと呼ばれる細胞小器官を有しており、このメラノソーム内においてメラニンを合成する。合成されたメラニンは、成熟し中間系線維関与のもと、隣接する基底細胞や有棘細胞に供与される。供与された基底細胞はメラノソームを核の情報に集合させ、角帽を形成して紫外線からDNAを守る働きを持つ。
【0003】
メラニンの合成は、紫外線刺激によって促進する。紫外線照射を受けたメラノサイトは、α-MSHを産生し、その刺激によりメラニン合成酵素であるチロシナーゼ、TRP-1、TRP-2の合成が促進される(非特許文献1)。
メラノサイトからのメラノソームの輸送は、デンドライトの伸長が重要な働きを持つ。デンドライトの伸長により、メラノサイトのモータータンパクであるMyosinVaとRab27、メラノフィリンがコンプレックスを形成し、F-actinを介してデンドライト先端に存在するSlp2-aより細胞外に排泄されることが知られている(非特許文献2)。このデンドライトの伸長を促進する物質として、α-MSHが知られている(非特許文献3)。またムラサキ科ヒレハリソウ属の植物エキスにデンドライトの伸長作用が存在することが知られている(特許文献1)。さらにまたリンドウ科センブリ属の植物体に含有されているキサンタン誘導体にもこの作用が存在することが知られている(特許文献2)。
【0004】
合成されたメラニンは伸長したデンドライトを介してケラチノサイトへと輸送される。この時、デンドライトの伸長が妨げられ、トランスファーに支障を来すと、メラノサイトが細胞死を起こし、メラニン産生が妨げられ白斑などを生ずるようになると言われている。メラニン・トランスファーの障害となる最も大きな原因としては、メラノサイトのデンドライトの伸長が阻害されることが挙げられる(例えば、特許文献3を参照)。このような知見から、デンドライトの伸長をコントロールすることがヒトの肌の健康状態を維持するのに重要であると考えられている。
【0005】
近年、植物由来の化合物について種々の研究が進められている。本願発明者らはまた、化学式(1)の構造であらわされる化合物がメラノサイトのメラニン産生を抑制し、美白効果をもたらすことを見出して特許出願を行った(特許文献4)。
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−1327845号公報
【特許文献2】特開2005−2056号公報
【特許文献3】特開平01−207225号公報
【特許文献4】特開2011−46683号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Yuji Yamaguchi, Vincent J. Hearing Biofactors. (2009) ; 35(2): 193-199. Physiological factors that regulate skin pigmentation
【非特許文献2】Kuroda, T.S. and Fukuda, M. Rab27A-binding protein Slp2-a is required for peripheral melanosome distribution and elongated cell shape in melanocytes. Nature Cell Biol. (2004) 6, 1195-1203
【非特許文献3】Yuji Yamaguchi, Vincent J. Hearing Biofactors. (2009) ; 35(2): 193-199. Physiological factors that regulate skin pigmentation
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
デンドライト伸長促進剤ならびにメラニン代謝促進剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の構成である。
(1)化学式(1)で表される2,2’,3,3’-Tetrahydro-5,5’,7,7’-tetrahydro-2,2’-bis(4-hydroxyphenyl)-3,3’-bi[4H-benzopyran]-4,4’-dioneを有効成分とするデンドライト伸長促進剤。
【化1】

(2)(1)のデンドライト伸長促進剤を有効成分とするメラニン代謝促進剤。
(3)(1)のデンドライト伸長促進剤を有効成分とする白斑症改善剤。
【0010】
本特許明細書においては本発明に使用する化学式(1)の化合物を便宜上カメジャスミンと呼ぶ場合がある。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上記化学式(1)の化合物をヒフに投与することによってメラノサイトのデンドライトを伸長させる効果を有する。デンドライトが伸長することによってメラニンのメラノサイトへの転送が速やかに行われ、メラニン代謝が促進される。メラニンのヒフ基底層への移行が促進され、日焼けなどによる色素沈着がすみやかに回復する。またメラノサイトへのメラニン移行が促進されるため白斑症を改善する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】カメジャスミンをヒトメラノサイトに投与したときの細胞内外のメラニン量の変化を測定したグラフ。
【図2】ヒト表皮メラノサイトにカメジャスミンを投与したとき細胞外に出現するメラニンの比率を測定したグラフ。
【図3】カメジャスミン投与ヒト表皮メラノサイトの細胞生存率を示すグラフ。
【図4】カメジャスミン投与によるデンドライトの伸長を観察した画像。
【図5】カメジャスミン投与によるメラノサイトのデンドライトの伸長を測定したグラフ。
【図6】三次元皮膚モデルにカメジャスミン投与して培養15日目における組織底面のメラノサイトの様子を観察した画像。
【図7】カメジャスミンを添加した時の三次元皮膚モデルの細胞生存率。
【図8】三次元皮膚モデルにカメジャスミンを添加した時の組織内におけるメラノソームの分布を観察した画像。図中の矢印がメラニン顆粒の位置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明の実施形態を更に詳細に説明する。
本発明に用いる次の化学式(1)の化合物は、2,2’,3,3’-Tetrahydro -5,5’,7,7’-tetrahydro xy-2,2’-bis(4-hydroxyphenyl)-3,3’-bi[4H-1-benzopyran]-4,4’-dione、組成式は、C302210である。
【化1】

化学式(1)の化合物は、2分子のフラバノンがクロマノン環の3位の位置同士で結合した化合物である。
【0014】
化学式(1)の化合物は、市販品を用いることができ、例えばAnalytiCon社から購入することができる。
【0015】
本発明のデンドライト伸長促進剤ならびにメラニン代謝促進剤を使用するにあたって、各種化粧品用又は外用剤の基剤や添加剤等と混合して、本発明の剤とすることができる。
【0016】
本発明のデンドライト伸長促進剤ならびにメラニン代謝促進剤を、種々の公知の形態及び用途、例えば化粧料、クリーム、化粧水、パック剤等として用いることができる。また、本発明のデンドライト伸長促進剤ならびにメラニン代謝促進剤は皮膚外用医薬、医薬部外品を含む。また、経口剤、注射剤、経口医薬としても良い。
【0017】
本発明の化学式(1)の化合物を含有するデンドライト伸長促進剤ならびにメラニン代謝促進剤は通常使用される製剤化方法にしたがって、製造することができる。
本発明のデンドライト伸長促進剤ならびにメラニン代謝促進剤には、植物油のような油脂類、高級脂肪酸、高級アルコール、シリコーン、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、防腐剤、糖類、金属イオン封鎖剤、水溶性高分子のような高分子、増粘剤、粉体成分、紫外線吸収剤、紫外線遮断剤、ヒアルロン酸のような保湿剤、香料、pH調整剤等を含有させることができる。ビタミン類、皮膚賦活剤、血行促進剤、常在菌コントロール剤、活性酸素消去剤、抗炎症剤、他の美白剤、殺菌剤等の他の薬効成分、生理活性成分を含有させることもできる。
【0018】
油脂類としては、例えば、ツバキ油、月見草油、マカデミアナッツ油、オリーブ油、ナタネ油、トウモロコシ油、ゴマ油、ホホバ油、胚芽油、小麦胚芽油、トリグリセリン、トリオクタン酸グリセリン、等の液体油脂、カカオ脂、ヤシ油、硬化ヤシ油、パーム油、パーム核油、モクロウ、モクロウ核油、硬化油、硬化ヒマシ油等の固体油脂、ミツロウ、キャンデリラロウ、綿ロウ、ヌカロウ、ラノリン、酢酸ラノリン、液状ラノリン、サトウキビロウ等のロウ類、流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。
【0019】
高級脂肪酸として、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)等が挙げられる。
【0020】
高級アルコールとして、例えば、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコール、セトステアリルアルコール等の直鎖アルコール、モノステアリルグリセリンエーテル、ラノリンアルコール、コレステロール、フィトステロール、オクチルドデカノール等の分枝鎖アルコール等が挙げられる。
【0021】
シリコーンとして、例えば、鎖状ポリシロキサンのジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等、環状ポリシロキサンのデカメチルポリシロキサン等が挙げられる。
【0022】
アニオン界面活性剤として、例えば、ラウリン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の高級アルキル硫酸エステル塩、POEラウリル硫酸トリエタノールアミン等のアルキルエーテル硫酸エステル塩、N−アシルサルコシン酸、スルホコハク酸塩、N−アシルアミノ酸塩等が挙げられる。
【0023】
カチオン界面活性剤として、例えば、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム等のアルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。
【0024】
両性界面活性剤として、例えば、アルキルベタイン、アミドベタイン等のベタイン系界面活性剤等が挙げられる。
【0025】
非イオン界面活性剤として、例えば、ソルビタンモノオレエート等のソルビタン脂肪酸エステル類、硬化ヒマシ油誘導体が挙げられる。
【0026】
防腐剤として、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン等を挙げることができる。
【0027】
金属イオン封鎖剤として、例えば、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エデト酸、エデト酸ナトリウム塩等のエデト酸塩を挙げることができる。
【0028】
高分子として、例えば、アラビアゴム、トラガカントガム、ガラクタン、グアーガム、カラギーナン、ペクチン、寒天、クインスシード、デキストラン、プルラン、カルボキシメチルデンプン、コラーゲン、カゼイン、ゼラチン、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、アルギン酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー(CARBOPOL等)等のビニル系高分子、ベントナイト等を挙げることができる。
【0029】
増粘剤として、例えば、カラギーナン、トラガカントガム、クインスシード、カゼイン、デキストリン、ゼラチン、CMC、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシビニルポリマー、グアーガム、キサンタンガム等を挙げることができる。
【0030】
粉末成分としては、例えば、タルク、カオリン、雲母、シリカ、ゼオライト、ポリエチレン粉末、ポリスチレン粉末、セルロース粉末、無機白色顔料、無機赤色系顔料、酸化チタンコーテッドマイカ、酸化チタンコーテッドタルク、着色酸化チタンコーテッドマイカ等のパール顔料、赤色201号、赤色202号等の有機顔料を挙げることができる。
【0031】
紫外線吸収剤としては、例えば、パラアミノ安息香酸、サリチル酸フェニル、パラメトキシケイ皮酸イソプロピル、パラメトキシケイ皮酸オクチル、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0032】
紫外線遮断剤として、例えば、酸化チタン、タルク、カルミン、ベントナイト、カオリン、酸化亜鉛等を挙げることができる。
【0033】
保湿剤として、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、キシリトール、マルチトール、マルトース、ソルビトール、ブドウ糖、果糖、ショ糖、乳糖、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、ピロリドンカルボン酸、シクロデキストリン等が挙げられる。
【0034】
薬効成分としては、例えば、ビタミンA油、レチノール等のビタミンA類、リボフラビン等のビタミンB2類、ピリドキシン塩酸塩等のB6類、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸リン酸エステル、L−アスコルビン酸モノパルミチン酸エステル、L−アスコルビン酸ジパルミチン酸エステル、L−アスコルビン酸−2−グルコシド等のビタミンC類、パントテン酸カルシウム等のパントテン酸類、ビタミンD2、コレカルシフェロール等のビタミンD類;α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、ニコチン酸DL−α−トコフェロール等のビタミンE類等のビタミン類を挙げることができる。
【0035】
その他の薬効成分として、グルタチオン、ユキノシタ抽出物等の美白剤、ローヤルゼリー、ぶなの木エキス等の皮膚賦活剤、カプサイシン、ジンゲロン、カンタリスチンキ、イクタモール、カフェイン、タンニン酸、γ−オリザノール等の血行促進剤、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸誘導体、アズレン等の消炎剤、アルギニン、セリン、ロイシン、トリプトファン等のアミノ酸類、常在菌コントロール剤のマルトースショ糖縮合物、塩化リゾチーム等を挙げることができる。
【0036】
さらに、カミツレエキス、パセリエキス、ワイン酵母エキス、グレープフルーツエキス、スイカズラエキス、コメエキス、ブドウエキス、ホップエキス、コメヌカエキス、ビワエキス、オウバクエキス、ヨクイニンエキス、センブリエキス、メリロートエキス、バーチエキス、カンゾウエキス、シャクヤクエキス、サボンソウエキス、ヘチマエキス、トウガラシエキス、レモンエキス、ゲンチアナエキス、シソエキス、アロエエキス、ローズマリーエキス、セージエキス、タイムエキス、茶エキス、海藻エキス、キューカンバーエキス、チョウジエキス、ニンジンエキス、マロニエエキス、ハマメリスエキス、クワエキス等の各種抽出物を挙げることができる。
【0037】
経口剤としては、化学式(1)の化合物をそのまま、又は種々の栄養成分を加えて、若しくは飲食品中に含有せしめて、栄養補助食品、機能性食品、健康食品、特定保健用食品又は通常食品の素材として使用できる。例えば、澱粉、乳糖、麦芽糖、植物油脂粉末、カカオ脂末、ステアリン酸などの適当な助剤を添加することができる。
経口剤としての化学式(1)の化合物の有効投与量は、対象者の年齢、体重、症状、投与経路、投与スケジュール、製剤形態、素材の活性の強さ等により、適宜選択決定されるが、例えば、1日あたり1〜5000mgが好ましく、特に好ましくは10〜1000mgである。これを1日に数回に分けて投与しても良い。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がかかる実施例にのみ限定されないことは言うまでもない。
【0039】
<実施例1>
カメジャスミンの正常ヒト皮膚メラノサイトの細胞外へのメラニン排泄(メラニン代謝促進)作用
[方法]
細胞は、正常ヒト皮膚メラノサイトPDL12を用いた。細胞を24ウェルプレートに2x105cells/well培地1ml用いて播種し、24時間細胞を接着させたのち、α-MSH 100nM、 HMGS、Penisilin streptmysin1%を添加したMedium256を1ml用いて0.0μg/ml、0.4μg/ml、2.0μg/ml、10.0μg/mlにカメジャスミン(AnalytiCon社製 NP‐007193)を添加し48時間培養を行った。DMSOの濃度は終濃度0.5%となるように調整した。
培養終了後、培地と細胞を回収し、各試験区3検体についてはMTT試験を行った。培地は回収後2%SDS-PBSを回収培地と同量添加しメラニン量の測定用サンプルを作成した。細胞は、1%SDS、50%Medium256PBS 2mlを添加し、超音波破砕機で細胞を粉砕しメラニン量測定用サンプルを作成した。
メラニン量の測定は、ドットブロット法を用いて行った。ニトロセルロースメンブレン(Hybond-C Extra)を用いてドットブロット装置(Bio-dot BioRad社)でメラニン測定用サンプルを各100μlずつ添加しメンブレンにメラニンをブロットした。ブロットしたメラニンは、ImageJを用いてピクセル数を基に画像解析を行い、サンプル中に含まれるメラニン量を測定した。メラニン量の値は、カメジャスミンを添加していない試験区の細胞内および細胞外メラニン量の合計を100%とし、各試験区の値を相対値として求めた。
細胞生存率については、MTTの値からカメジャスミンを添加していない時の細胞生存率を100%とし、各試験区の値を相対値として求めた。
尚、カメジャスミンの立体構造を解析した結果、化学式(2)の構造であった。
【化2】

【0040】
[結果]
細胞内、細胞外のメラニン量の測定結果を表1及び図1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
細胞内メラニン量と培地中メラニン量の合計である総メラニン量は、表1、図1で明らかなとおりカメジャスミンの添加によって変化は認められなかった。しかし、細胞内メラニン量は濃度依存的に減少し、培地中メラニン量は濃度依存的に上昇する結果が得られた。図2に示すように培地中のメラニン量は、カメジャスミンを添加していない群の培地中メラニン量に比較して、2.0μg/ml、10.0μg/mlのカメジャスミンを添加した群においては有意にメラニン量が上昇した。またこの細胞外のメラニンは、図3に示すように細胞の死滅によって培地中に出現したものではないことが確認できた。
メラノサイトにおいては、メラニンは細胞内で産生され、細胞のデンドライトを介して細胞外へと排泄されることがわかっている。細胞内に比較して細胞外にメラニンが多いことは、カメジャスミンがメラニンを細胞外に排泄を促進させる作用を持つことが確認できた。メラニンは細胞内に蓄積するとシミの原因になることがある。本発明の剤はこのようなシミを改善する効果がある。
【0043】
<実施例2>
カメジャスミンのメラノサイトの形態変化とデンドライト伸長作用
[測定方法]
細胞は、正常ヒト皮膚メラノサイトPDL12を用いた。細胞を24ウェルプレートに2×105cells/well で播種し、HMGS、Penisilin streptmysin1%を添加したMedium256を1ml用いて播種し、24時間細胞を接着させたのち、α-MSH100nMとカメジャスミンを添加し48時間培養を行った。カメジャスミン濃度は終濃度0.0μg/ml、0.4μg/ml、2.0μg/ml、10.0μg/ml、DMSO濃度は終濃度0.5%となるようにした。培養終了後、顕微鏡下で撮影を行いデンドライトの様子を確認した。また、それぞれのカメジャスミン添加条件において、ランダムに15細胞ずつデンドライトの長さを測定した。デンドライトの長さの測定は、1つの細胞より出るデンドライトの長さの合計値を各細胞のデンドライトの長さとした。デンドライトの長さは分散分析を行い、Dunnettの検定により、カメジャスミンを添加していない時をコントロールとして比較を行った。
【0044】
[結果]
デンドライトの伸長を観察した画像を図4に示す。図4から明らかなように、カメジャスミンを添加することにより、メラノサイトはデンドライトの数を増やし、伸長した。デンドライトは、カメジャスミン濃度10μg/mlにおいてもっとも伸長し、図5のグラフで示すとおり、コントロール比で201.8%となった。このことから、カメジャスミンはメラノサイトのデンドライトを伸長する作用を有することが確認できた。
デンドライトの伸長作用は紫外線などの刺激により産生されるα-MSHにより起こることが知られている。α-MSHにはメラニン産生を促す作用が知られているが、カメジャスミンは、メラニン産生を促すことなくデンドライトを伸長することが確認できた。
【0045】
<実施例3>
三次元皮膚モデルによる評価
[方法]
三次元皮膚モデルはヒフの構造を再現したインビトロの試験系である。この試験系の結果は皮膚に演繹できることが確認されている。
三次元皮膚モデルはMEL-300A(Lot#10892,MatTek Corp.)を用いて行った。三次元皮膚モデルは取り扱い説明書に従い、MEL-300推奨の方法によって角化を開始させた。培地は、EPI-100-LLMM維持培地(Lot#302410PND)を用いて行った。サンプルは、カメジャスミン溶解液、ネガティブコントロールを用いた。カメジャスミン溶解サンプル溶液はカメジャスミン(NP-010092 AnalytiCon Discovery Co. Ltd.)を、ジメチルスルホキシド(049-07213和光純薬工業株式会社)で溶解し、ジメチルスルホキシド濃度が0.5%となるようにD-PBSに添加し調整をしたものとした。カメジャスミン溶解サンプル溶液の終濃度は、0.4 μg/ml、2.0μg/ml、10μg/ml、50μg/mlとした。ネガティブコントロールはジメチルスルホキシド濃度が0.5%となるようにD-PBSに添加し調整をしたものとした。ネガティブコントロール溶液の終濃度は、重量比0.05%とした。
培養およびサンプル添加条件は、次のように行った。調整したサンプル溶液は、MEL−300皮膚モデルカップに50μlずつそれぞれ4カップに直接投与を行った。培養は、6ウェルプレート内の中央にStelile Washers(MatTek Corp.)を2個ずつ重ね、EIL-LMM維持培地を5mlずつ添加し、その上に皮膚モデルカップを設置し行った。培地およびサンプルは2日ごとに行い、15日間培養を行った。
培養終了時、各試験条件において3サンプルずつをMTT試験により細胞生存率を測定した。MTT試験は、MatTek社の取扱い説明書に準じて行った。
培養開始から15日後に組織底面のメラノサイトの観察を行った。観察は、皮膚モデルカップを倒立顕微鏡によってCCDカメラ撮影で撮影を行った。観察時の倍率はX10X10の100倍とした。組織底面の観察画像を図6に示す。
三次元皮膚モデルをD-PBSで洗浄後、10%中性緩衝ホルマリンで24時間固定後、パラフィン包埋をし、切片を切ったのちHE染色により染色を行った。染色後、メラノソームの分布を観察した。メラノソームの分布を確認した画像を図8に示す。
【0046】
[結果]
図7のグラフに示すとおり、三次元皮膚モデルによるアッセイの結果、カメジャスミン濃度50μg/ml以下では細胞毒性は認められなかった。三次元皮膚モデルにおけるメラノサイトの形態変化は、図6に示すとおり、単層細胞で行った結果と同様にカメジャスミンを添加することによってデンドライトが伸長した。また、三次元皮膚モデルにより培養することにより、メラノサイトで産生されたメラニンは、ケラチノサイトへ受け渡され、コントロールに比較して明らかにメラニンをケラチノサイトへ早く移行することが図8の画像を観察することで確認できた。図中の矢印がメラニン顆粒であり、カメジャスミン濃度が高まるにつれて、三次元皮膚モデルの底面から培養表面(基底層から角質層)へと移動している。このことから、カメジャスミンはメラニンの皮膚での代謝を促進する作用を有することが確認できた。
【0047】
以下に、本発明の処方例を示す。それぞれ常法に従って製造した。
処方例1
美容用ローション
成分 配合量(質量%)
1.グリセリン 10
2.1,3-ブチレングリコール 5
3.ブドウ糖 2
4.エタノール 5
5.カルボキシビニルポリマー 0.02
6.グリチルリチン酸ジカリウム 0.1
7.ヒアルロン酸ナトリウム 0.001
8.化学式(2)の化合物 0.1
9.クエン酸 0.05
10.クエン酸ナトリウム 0.1
11.水酸化カリウム 0.01
12.精製水 残余
【0048】
処方例2 美容用クリーム
成分 配合量(質量%)
1.ステアリルアルコール 6
2.ステアリン酸 2
3.スクワラン 10
4.オクチルドデカノール 5
5.オリーブ油 5
6.1,3-ブチレングリコール 8
7.ポリエチレングリコール1500 4
8.POE(25)セチルアルコールエーテル 3
9.モノステアリン酸グリセリル 2
10.化学式(2)の化合物 0.1
11.精製水 残余
【0049】
処方例3 美容用パック
成分 配合量(質量%)
1.ポリビニルアルコール 15
2.カルボキシメチルセルロース 5
3.1,3-ブチレングリコール 5
4.エタノール 12
5.化学式(2)の化合物 0.05
6.POEオレイルアルコールエーテル 0.5
7.クエン酸 0.02
8.クエン酸ナトリウム 0.04
9.精製水 残余
【0050】
処方例4 美容用錠剤
成分 配合量(質量%)
1.化学式(2)の化合物 63
2.乳糖 24
3.コーンスターチ 12
4.グアーガム 1
【0051】
処方例5 美容用飲料
成分 配合量(質量%)
1.化学式(2)の化合物 10
2.果糖ブトウ糖液糖 15
3.クエン酸 10
4.ビタミンC 5
5.香料 1
6.色素 1
7.精製水 残余

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(2)で表される2,2’,3,3’-Tetrahydro-5,5’,7,7’-tetrahydro-2,2’-bis(4-hydroxyphenyl)-3,3’-bi[4H-benzopyran]-4,4’-dioneを有効成分とするデンドライト伸長促進剤。
【化1】

【請求項2】
請求項1記載のデンドライト伸長促進剤を有効成分とするメラニン代謝促進剤。
【請求項3】
請求項1記載のデンドライト伸長促進剤を有効成分とする白斑症改善剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−229172(P2012−229172A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97717(P2011−97717)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】