説明

デンドリマー修飾磁気微粒子の製造方法

【課題】公知の方法よりも短時間で安価にデンドリマー修飾磁気微粒子を製造することができ、かつ、ロット間ごとの性能のばらつきが小さくなる、デンドリマー修飾磁気微粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】デンドリマー修飾磁気微粒子の製造方法は、(1)表面に官能基を有する磁気微粒子を準備する工程と、(2)官能基を基端部分に有し、所望の世代まで合成したデンドリマーを準備する工程と、(3)前記磁気微粒子の前記官能基と、前記デンドリマーの前記官能基を直接又は架橋剤を介して間接的に結合させる工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面にデンドリマーが固定化されたデンドリマー修飾磁気微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
古くから用いられてきた核酸抽出方法では、フェノールやクロロフォルムといった有毒な有機溶剤を使用するフェノール抽出が代表的である。近年、これに代わる手法として、シリカ微粒子やシリカメンブレンフィルタなどのシリカ担体の表面に核酸を高濃度のカオトロピック塩(塩酸グアニジン、グアニジンチオシアネート等)を含む溶液中で選択的に吸着させる方法が用いられるようになってきた(非特許文献1参照)。この原理により、危険な有機溶媒を用いることなく、効率的に核酸を精製することが可能となった。中でも、シリカコーティングした磁気微粒子を用い、カオトロピック反応により核酸の吸着、脱離を行うBoom法が多く用いられている(非特許文献2参照)。また、同様の原理に基づく技術で、ポリエチレングリコール(PEG)存在下において、カルボキシル基で修飾された磁気微粒子に核酸が選択的に結合する現象を利用したsolid-phase reversible immobilization(SPRI) 法が開発されている(非特許文献3参照)。これらの磁気微粒子を利用した核酸精製法は、遠心、ろ過、沈殿などの操作を必要としないため、簡単・迅速に高純度核酸抽出・精製が可能である。
【0003】
しかしながら、Boom法は、核酸吸着工程において、刺激性、毒性を有するカオトロピック塩を高濃度条件において使用することが必須であるため、高濃度の塩が洗浄工程を経た後も残存し、続いて行われる遺伝子増幅やDNAの酵素切断など酵素を用いる反応に悪影響を及ぼす可能性がある。更に、核酸が結合した磁気微粒子を洗浄する操作では、70%エタノールが使用されるが、このエタノールも同様の悪影響を及ぼすことが指摘されている。特に、マイクロチップデバイスのように、非常に微量な反応容量で核酸をハンドリングする必要がある場合には、その混入の危険性が高い。SPRI法でも、核酸吸着工程で用いられる高濃度塩(NaCl)の残存や洗浄工程におけるエタノールの混入による悪影響はやはり問題となっている。
【0004】
これらの問題点に対し、核酸を固定化させる固相表面と核酸との電荷相互作用を利用した核酸の単離方法が公表されている(特許文献1,2及び非特許文献4参照)。また、この単離方法とほぼ同様の原理(Charge-Switch technology)に基づくDNA抽出キットが市販されている。これらの方法は、生体サンプル中の核酸をあるpH条件下で活性化固相と接触せしめ、負電荷を持つ核酸を、固相表面に導入されたキトサンなどの正に帯電した極性基と静電的に結合させた後、溶液のpHを変化させて固相表面の電荷を正から負に切り替えることにより、固相表面から核酸を容易に脱離させる方法である。これらの方法は、カオトロピック塩や高濃度塩、エタノールを使用しないため、安全性や核酸抽出後に続く反応への悪影響少なさの点で優れている。このような磁気微粒子を用いた電荷による核酸の精製手法は、マイクロデバイスへの応用にも期待がもたれている。微小流路内での応用に際して、分散性の高さと磁気応答性の良さが重要になる。それらを満たす手法が、非特許文献5において示されている。単磁区構造を有するため、ナノサイズでありながら磁気応答性の良い磁気細菌微粒子をコアとし、核酸を結合させるためにポリアミドアミンデンドリマーを微粒子表面に形成している。デンドリマーの樹状構造により高密度に表面アミノ基を固定化することが可能であり、加えて、微粒子どうしは表面電荷の反発から高い分散性を有することが明らかにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第99/29703号
【特許文献2】特開2004-521881号公報
【特許文献3】特開2005-176613号公報
【特許文献4】特開2005-75993号公報
【特許文献5】特開2004-150797号公報
【特許文献6】特開2009-65849号公報
【特許文献7】特開2006-280277号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Vogelstein B., Gillespie D., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 1979, Vol.76, p615-619
【非特許文献2】Boom R., Sol CJ., Salimans MM., Jansen CL., Wertheim-van Dillen PM., van der Noordaa J., J. Clinmicrobiol., 1990, Vol.28., p495-503
【非特許文献3】Hawkins TL., O'Connor-Morin T., Roy A., Santillan C., Nucleic Acids Res., 1994, Vol.22, p4543-4544
【非特許文献4】Weidong Cao et al., Anal. Chem., 2006, Vol.78 No.20, p7222-7228
【非特許文献5】Yoza. B et al., J Biosci. Bioeng. 2003, Vol.95 No.1, p21-26
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献5に記載された方法では磁気微粒子をコアとして、段階的な反応を繰り返すことで表面アミノ基の高密度化を実現している。しかし、従来のサイクル反応による合成法には複数の問題点が挙げられる。
【0008】
まず、合成が完了するまでに段階が多いため、非常に時間を必要とすることが挙げられる。表面アミン数が飽和し正電荷が最大となるとされる、6世代の反応を行った際には、7〜10日間かかることになる。そのうえ、合成のために必要な試薬量も増加し、各段階における生成物のロスが発生することから、コストが上がってしまう。また、各段階において反応効率がばらつくため、最終的に作製されるデンドリマー磁気微粒子上の表面アミノ基数もばらついてしまうことになる。そのため、ロット間ごとの核酸回収能や分散性といった性能が安定しないという問題にもつながる。
【0009】
従って、本発明の目的は、上記した公知の方法よりも短時間で安価にデンドリマー修飾磁気微粒子を製造することができ、かつ、ロット間ごとの性能のばらつきが小さくなる、デンドリマー修飾磁気微粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、デンドリマーを磁気微粒子上で成長させるのではなく、基端部分に官能基を有する、所望の世代のデンドリマーを予め合成し、これを磁気微粒子表面に直接的又は間接的に結合することにより、製造に要する時間とコストを大幅に削減でき、かつ、ロット間ごとの性能のばらつきも小さくすることができることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1) 表面に官能基を有する磁気微粒子を準備する工程と、
(2) 官能基を基端部分に有し、所望の世代まで合成したデンドリマーを準備する工程と、
(3) 前記磁気微粒子の前記官能基と、前記デンドリマーの前記官能基を直接又は架橋剤を介して間接的に結合させる工程とを含む、デンドリマー修飾磁気微粒子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、公知の方法よりも短時間で安価にデンドリマー修飾磁気微粒子を製造することができる。また、デンドリマーを固相である磁気微粒子上で成長させるのではなく、別途、液相での反応で合成されたものを利用できる。液相での反応は、固相での反応よりも効率が良く、微粒子の凝集も起きないので、反応効率のばらつきもほとんどない。従って、固相上での反応のように各段階における反応効率のばらつきの問題を回避することができ、ロット間ごとの性能のばらつきが小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例で採用した製造方法の1例の反応スキームを示す図である。
【図2】本発明の実施例で製造したデンドリマー修飾磁気微粒子の世代数と、アミノ基数及びゼータ電位との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の方法では、まず、表面に官能基を有する磁気微粒子を準備する。この工程自体は公知であり、例えば特許文献7に記載されている。磁気微粒子としては、磁力により収集可能な磁性を帯びた粒子であって、官能基を付与できるものであれば特に限定されず、磁性細菌由来の磁気微粒子、金属又はプラスチック製の磁気微粒子や磁気ビーズ等を挙げることができる。磁気微粒子の直径は、特に限定されないが、50〜100nm程度が好ましい。これらのうち、磁性細菌由来の磁気微粒子が、単磁区構造を有するため、ナノサイズでありながら磁気応答性が良いので好ましい。磁性細菌は、その菌体内に直径約50〜100nmのマグネタイトの微粒子が10〜20個ほど連なったマグネトソームを保持していることが知られており、このマグネタイト微粒子を本発明において好適に利用することができる。磁性細菌としては、Magnetospirillum magneticum AMB-1及びMGT-1、Magnetospirillum gryphiswaldense MSR-1並びにAquaspirillum magnetotacticum MS-1等が知られている。なお、磁性細菌由来の磁気微粒子を固定化担体とするアミノ基含有デンドリマー(後述)を用いて核酸の回収、精製を行う方法は既に本願発明者らにより発明され、公知となっている(例えば特許文献6等)。なお、磁性細菌由来の磁気微粒子は、表面に細菌由来の脂質二重膜を有するが、これにデンドリマーを共有結合させることは難しいので、細菌由来の脂質二重膜は、1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等の界面活性剤や、有機溶媒、強アルカリ等を作用させることにより除去することが好ましい。
【0015】
磁気微粒子の表面の官能基は、後述するデンドリマー又は架橋剤と結合可能な官能基であればよく、特にアミノ基が好都合である。磁性細菌由来の磁気微粒子へのアミノ基の付与は、微粒子の表面を、公知のアミノシランカップリング剤やアミノシリル化剤でアミノシラン処理することにより行うことができる。アミノシランカップリング剤の好ましい例としては、3-[2-(2-アミノエチル)-エチルアミノ]-プロピルトリメトキシシラン(AEEA)等のアミノ基含有シラン誘導体を挙げることができる。上記アミノシランカップリング剤により粒子表面にアミノシラン処理を施す際には、粒子に存在するヒドロキシル基を表面に露出させることが好ましい。例えば、粒子として磁性細菌由来の磁気微粒子を採択した場合、該表面をアミノシラン処理するためには粒子表面に存在する細菌由来の脂質二重膜を除去することによって表面のヒドロキシル基を活性化させ、アミノシリル化反応、アミノシランカップリング反応を促進することができる。具体的な反応条件の1例は下記実施例に詳細に記載されている。
【0016】
一方、官能基を基端部分に有し、所望の世代まで合成したデンドリマーを準備する。デンドリマーは、樹状ポリマーであり、ポリマーに所望の官能基を持たせることにより、担体の単位面積当たりに固定化できる所望の官能基の数を大幅に増加させることができる優れた性質を有するものであり、広く研究されている。後述のとおり、本発明の微粒子を用いて核酸を回収、精製するためには、デンドリマーが正に帯電していることが好ましく、アミノ基を有するものが好ましく、特にポリ(アミドアミン)(PAMAM)デンドリマーが好ましい。PAMAMデンドリマー自体は周知であり(例えば、非特許文献5)、通常、アルキルジアミン(シスタミンのように、一部の炭素原子がイオウ原子に置き換わっているものも用いられる)のコア(炭素数は通常2〜12程度)と三級アミンの分岐構造から成る。PAMAMデンドリマーは、各種コアを用いた各種世代(コアから第何番目の分岐にあたるかを世代といい、分岐を成長させる反応のサイクル数により制御される)のものが市販されており、本発明では、このような市販のPAMAMデンドリマーを好ましく用いることができる。また、本願発明者らは、既に、磁気微粒子の表面にPAMAMデンドリマーを固定化した、デンドリマー修飾磁気微粒子を発明し、これを用いて核酸やタンパク質を抽出する方法を発明し、出願している(特許文献5)。PAMAMデンドリマーの場合、分岐の末端に存在する、単位面積当たりのアミノ基の数が第6世代で最も多くなることがわかっている(非特許文献5、下記実施例参照)ので、第6世代のデンドリマーを用いることが最も好ましいが、他の世代のデンドリマーを用いることも可能である。
【0017】
基端部分(デンドリマーの最初の分岐よりも根本の部分)の官能基としては、他の官能基と結合可能なものであればよいが、チオール基が好都合である。基端部分にチオール基を有するデンドリマーは、コアとして、シスタミンのようにS-S結合を有するジアミンを用い、所望の世代まで合成後、デンドリマーをジチオスレイトールのような還元剤で処理してS-S結合を切断することにより容易に調製できるので好ましい。また、シスタミンをコアとする種々の世代のデンドリマーが市販されているので、市販のデンドリマーを好ましく用いることもできる。なお、コアを切断したデンドリマーは、デンドロンとも呼ばれ、本明細書及び図面においてもデンドロンと呼ぶことがあるが、本明細書及び特許請求の範囲においては、「デンドリマー」は、文脈からそうでないことが明らかな場合を除き、デンドロンを包含する意味で用いている。
【0018】
次に、上記した磁気微粒子と、デンドリマーを結合する。この結合は上記した官能基同士を直接結合してもよいが、各官能基と結合する官能基をそれぞれ有する架橋剤を介して間接的に結合するのが容易であり好都合である。好ましい態様では、上記のとおり、磁気微粒子表面上の官能基がアミノ基であり、デンドリマー基端部の官能基がチオール基である。この場合、架橋剤としては、アミノ基と結合する官能基と、チオール基と結合する官能基をそれぞれ有するものであれば利用可能であるが、アミノ基と結合する官能基としてヒドロキシスクシンイミジルエステル基、チオール基と結合する官能基としてマレイミド基を有するものが好ましい。このような架橋剤の例として、N-(4-マレイミドブチリロキシ)スクシンイミド(GMBS)(図1参照)を挙げることができる。
【0019】
磁気微粒子、架橋剤、デンドリマーの反応は、逐次的に行うことも同時に行うことも可能であるが、反応効率の観点から逐次的に行うことが好ましい。磁気微粒子と架橋剤の反応は、リン酸緩衝液(PBS)のような水系緩衝液中、通常、10℃〜40℃、好ましくは室温下で、通常、30分から2時間程度、好ましくは40分から80分程度反応させることにより行うことができる。磁気微粒子の濃度は、通常、0.2mg/ml〜1.0mg/ml程度、好ましくは0.4mg/ml〜0.6mg/ml程度であり、架橋剤の濃度は、通常、0.5mM〜2mM、好ましくは0.8mM〜1.2mM程度である。反応は、超音波で磁気微粒子を分散させながら行うことが好ましい。
【0020】
続くデンドリマーとの反応は、リン酸緩衝液(PBS)のような水系緩衝液中、通常、10℃〜40℃、好ましくは室温下で、通常、30分から2時間程度、好ましくは40分から80分程度反応させることにより行うことができる。架橋剤結合磁気微粒子の濃度は、通常、0.2mg/ml〜1.0mg/ml程度、好ましくは0.4mg/ml〜0.6mg/ml程度であり、デンドリマーの濃度は、通常、0.001mM〜0.02mM程度、好ましくは0.005mM〜0.015mM程度である。反応は、超音波で磁気微粒子を分散させながら行うことが好ましい。
【0021】
上記の工程により、デンドリマーが表面に固定化された磁気微粒子が得られる。この磁気微粒子は、使用前にPBSのような水系緩衝液で洗浄することが好ましい。
【0022】
本発明のデンドリマー修飾磁気微粒子は、特許文献5や特許文献6等に記載されている公知のデンドリマー修飾磁気微粒子と全く同様にして、核酸やタンパク質の回収や精製に利用することができる。デンドリマーが、好ましくはアミノ基等を有することにより水中で正電荷を帯びている場合、DNAやRNAのような核酸は水中で負電荷を帯びているので、両者の間の静電的な相互作用を利用して核酸を磁気微粒子上に吸着することができる。すなわち、本発明の磁気微粒子を、核酸含有溶液と接触させ、該核酸を前記デンドリマーに吸着させ、次いで、核酸を吸着させた微粒子を、磁気を用いて収集することにより、溶液中の核酸を回収することができる。核酸含有溶液としては、例えば、培養細胞、動物由来の細胞又は組織(血液、血清、バフィーコート、体液、リンパ球等)、植物由来の細胞又は組織、あるいは細菌、真菌、ウィルス等、種々の生物を対象とした材料を含む溶液がいずれも使用可能である。核酸含有溶液と接触させる磁気微粒子の量は、予想される核酸の濃度や、回収目的とする核酸量等に応じて適宜設定できるが、通常、0.1mg/ml〜1.0mg/ml程度である。吸着反応は室温下でよく、時間は、通常、30秒〜5分程度である。また、磁気微粒子を、マイクロデバイスのマイクロ流路内に配置して核酸を吸着することも可能である。
【0023】
核酸を吸着した磁気微粒子は、常法により、磁力を用いて収集される。
【0024】
収集した磁気微粒子に吸着されている核酸を脱離することにより、核酸を精製することができる。脱離の方法も、特許文献5や特許文献6に記載されている通り公知であり、熱処理、界面活性剤処理、リン酸基を含む脱離剤による処理等により行うことができる。ここで、熱処理の条件は、通常、70℃〜90℃程度で10分〜30分程度でよい。界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム、Triton X-100(商品名)、Tween20(商品名)等を用いることができ、使用時の濃度は、通常、0.01重量%〜1重量%程度である。また、リン酸基を含む脱離剤としては、ADP等のデオキシリボヌクレオシド二リン酸やATP等のデオキシリボヌクレオシド三リン酸等を用いることができ、使用時の濃度は、通常、1.0mM〜500mM程度であり、エタノールのような低濃度の有機溶媒を共存させることも好ましい。
【0025】
磁気微粒子から脱離した核酸は、所望の目的に用いることができ、もちろん、PCR等の核酸増幅法に供して増幅することができる。この場合、上記した脱離工程は、PCRの反応液中で行い、核酸が脱離した磁気微粒子の存在下で核酸増幅法を行うことも可能である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0027】
実施例1 磁気微粒子の製造
図1に示す反応スキームに従い、デンドリマー修飾磁気微粒子を製造した。
【0028】
まず、微粒子に結合させるデンドロンの調製を行った。0.5 mM G6 デンドリマー (市販品、PAMAMデンドリマー、シスタミンコア、第6世代) 1のメタノール溶液100μlに対し、PBSで0.5 mMに調製したDTTを400 μl加えた。その後、攪拌しながら室温で12 時間インキュベーションすることでシスタミンコアを還元し、G6 デンドロン 2とした。シスタミンコアが開裂することで、チオール基が反応可能な状態となる。
【0029】
次に、チオール基と反応するマレイミド基が露出した磁気微粒子の調製を行った。磁性細菌(Magnetospirillum magneticum AMB-1)を従来公知の手順に従って分離・調製した後、磁気微粒子(平均粒径80nm)の表面の脂質二重膜の除去を行うことにより得た(Biotechnology and Bioengineering; Volume 94, Issue 5 , Pages 862 868 (2006)参照)。得られた磁気微粒子から表面に存在する脂質二重膜を1%SDS溶液で除去した。蒸留水を用いて3回洗浄後、Ammonium peroxide溶液 (H20 : H2O2 : NH3 = 5 : 1 : 1) 20 ml を添加し、超音波による分散後、10分間静置することで磁気微粒子表面のヒドロキシル基の活性化を行った。脱水メタノールで3回洗浄を行った磁気微粒子を、2%AEEAのエタノール溶液を超音波分散させながら10分間反応させた。反応後の磁気微粒子をメタノールで3回洗浄した。DMFで1回洗浄した後、DMF中において120℃で30分間処理することで、シランカップリングの安定化を行うことでAEEA磁気微粒子 3を作製した。
【0030】
AEEA磁気微粒子表面に存在するアミノ基と反応性のあるヒドロキシスクシンイミジルエステル基を有し、かつマレイミド基も有するN-(4-Maleimidobutyryloxy)succinimide(GMBS)を架橋剤として用いた。AEEA磁気微粒子に対し、PBSを用いて調製した1 mMのGMBSを、微粒子濃度が0.5 mg/mlとなるように加えた。その後、超音波により微粒子を拡散させながら室温で1 時間反応させ、GMBS磁気微粒子 4 を作製した。PBSを用いてG6 デンドロンを10 倍希釈し(デンドロン濃度: 0.02 mM)、GMBS修飾磁気微粒子に対して微粒子濃度が0.5 mg/mlとなるように加えた。超音波により微粒子を拡散させながら室温で1 時間反応後、脱水メタノールを用いて3 回洗浄し、G6 デンドリマー磁気微粒子 6を作製した。
【0031】
実施例2 評価
作製されたG6デンドリマー磁気微粒子の性状を評価した。その際、G6以外の世代の市販のデンドロンを用いた磁気微粒子についても同様に行った。各微粒子表面のアミノ基の定量は、以下に示す方法に従って行った。磁気微粒子250 μgに対し、PBSで10 mMに調製したSulfo-LC-SPDP溶液 200 μLを添加し、5 分毎に超音波分散を行いながら遮光下で30 分間反応させた。Sulfo-LC-SPDPはアミノ基と反応する官能基を有する架橋剤であり、微粒子表面に一対一対応で結合する。続いて、20400 gで5 分遠心回収し、PBSで超音波分散による洗浄を3回行った。洗浄後、Sulfo-LC-SPDP 分子中に存在するジスルフィド結合を開裂させるため、PBSを用いて20 mMに調製したDTT 300μLを添加して5 分毎に超音波分散を行いながら遮光下で15 分間還元反応を行った。再度20400 gで5 分遠心し、回収した上清中に存在するSulfo-LC-SPDPより遊離したピリジン-2-チオンの343 nmにおける吸光度測定を行った。検量線から、各世代のデンドロンで修飾された磁気微粒子250 μg上に存在するアミノ基数を定量した。また、微粒子の直径を80 nmとして、1 微粒子あたりのアミノ基数を算出した。また、超純水中に分散させた各世代のデンドロン修飾磁気微粒子(0.5 μg/ml)のゼータ電位についても、レーザーゼータ電位計 (ELS-8000, 大塚電子製) により測定した。
【0032】
結果を図2に示す。世代依存的にアミノ基数およびゼータ電位が増加したことから、想定通りの反応が進み、磁気微粒子上にデンドロンが固定化されていることが確認された。図中の黒丸で示した理論上の最大アミノ基数に対し、G5以降で解離が見られた。これはデンドロンどうしの立体障害によるものと考えられ、G5もしくはG6のデンドロンを用いることで、アミノ基の密度を最大にすることが可能であると考えられた。
【0033】
G4以上のデンドロンを用いて作製したデンドリマー磁気微粒子を10 μg用いた場合、約150 ngのλDNAを回収可能であった。G6デンドリマー磁気微粒子のアミノ基数あたりのλDNA吸着量は約70 fg/104aminesであった。一方、これまでのDivergent法で作製したデンドリマー修飾磁気微微粒子では約90 fg/104aminesであり、ほぼ同等のDNA吸着能を有することが確認された。また、G4以上のデンドロンを用いて作製したデンドリマー磁気微粒子を用いた時のλDNA吸着量に対する脱離量の割合は約70〜82 %であり、従来法により作製した微粒子を用いた場合(約67 %) と比較して高い値を示した。このことから、本手法を用いても従来法で作製した微粒子と同等のDNA回収能を保持したデンドリマー修飾磁気微粒子が作製できていることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1) 表面に官能基を有する磁気微粒子を準備する工程と、
(2) 官能基を基端部分に有し、所望の世代まで合成したデンドリマーを準備する工程と、
(3) 前記磁気微粒子の前記官能基と、前記デンドリマーの前記官能基を直接又は架橋剤を介して間接的に結合させる工程とを含む、デンドリマー固定化磁気微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記磁気微粒子上の前記官能基がアミノ基であり、前記デンドリマーが有する前記官能基がチオール基であり、前記磁気微粒子と前記デンドリマーは、アミノ基及びチオール基とそれぞれ反応する2種類の官能基を有する架橋剤を介して結合されている請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記架橋剤は、ヒドロキシスクシンイミジルエステル基とマレイミド基を有する請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記デンドリマーは、S-S結合を有するコアを用いて所望の世代まで合成され、次いで該S-S結合を還元処理により切断されて生じた前記チオール基を有する請求項2記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−55751(P2011−55751A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207757(P2009−207757)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】