説明

デンプン汚れ防止剤及びデンプン汚れ防止方法

【課題】
本発明の課題は、酵素配合製剤、及び酵素を用いた方法に代わる、デンプン汚れ防止剤及びデンプン汚れ防止方法を提供することである。
【解決手段】
水溶性尿素類化合物がデンプン汚れに対して優れた洗浄、及び付着防止効果を示し、更にエチレンオキシド―プロピレンオキシドブロック共重合体、及び/又は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルケニルエーテルを上記水溶性尿素類化合物と組合せることにより、デンプン汚れに対して、より優れた洗浄、及び付着防止効果を示すことを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デンプン汚れ防止剤及びデンプン汚れ防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デンプン汚れは、デンプン含有食品を扱う生活場面やデンプンを使用する各種産業において日常的に発生しており、それに対して、従来から、デンプン汚れ洗浄剤あるいはデンプン汚れ防止剤に関する提案が為されているが、その多くは酵素を組み合わせる組成物が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、カレー等の食べこぼし汚れに対して効果的な衣料用洗浄剤組成物として、プルラナーゼ、イソプルラナーゼ及びイソアミラーゼからなる群から選ばれる澱粉枝切り酵素とα−アミラーゼ及びβ−アミラーゼからなる群から選ばれる酵素と石鹸、及び石鹸以外の界面活性剤を組み合わせて用いることが提案されている。また、特許文献2には、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩及び/又はアルキル硫酸塩を含有する界面活性剤と、アクリル酸とマレイン酸の共重合体、及びアミラーゼを含有する洗浄剤組成物が提案されている。更に、特許文献3には、アミラーゼと起泡促進剤を含有し過酸化水素や特定のキレート剤を含まない食器洗浄用洗剤組成物が提案されている。また、特許文献4には、天然α−アミラーゼとアセトニトリル誘導体型の漂白活性化物質との組合せを用いた繊維製品洗濯用洗剤や食器洗浄用洗剤が提案されている。
【0004】
一方、デンプンを使用する各種産業の中でも特に紙パルプ工業の製紙工程では、近年、環境面の配慮から古紙パルプの配合率が増加しているため、紙力低下を補う目的で従来の合成系紙力増強剤(ポリアクリルアマイド)に代えて、比較的安価で紙力増強効果も大きく、歩留り、サイズ剤の定着にも良好な効果を生み出すデンプンが多く用いられるようになってきた。更に、製紙工程のサイズプレス装置では、デンプン等のサイズ効果を発現する薬品が塗布され再び乾燥工程に送られ紙製品となっている。デンプンは、冷水に不溶性であるが、水に懸濁して加熱すると、60℃前後でデンプン粒子が膨潤を始め、さらに高温になるに従い膨潤した粒子が崩壊、デンプン分子が水中に分散して非常に粘性の高い溶液(いわゆる糊液)となる性質があるため、紙に定着しない余剰デンプンが製紙工程各所で乾燥すると粘着性を帯びたデンプン汚れになり、また、そのデンプン汚れが紙製品に付着するなどして製品品質を低下させる原因の一つとなっている。更に、古紙や損紙パルプから持ち込まれたデンプンは、水中でパルプから離れ糊液状態に戻るため、製紙工程にて同様に障害を引き起こす要因となっている。
【0005】
製紙工程のうち抄紙工程のプレスパートにおいては、主にカチオン化デンプンが工程に添加されるが、抄紙用フェルトにおいては、添加されたデンプンの残留、堆積に起因する搾水不良等が発生し、それによる操業性の低下が問題となっている。また、サイズプレスにおいては、主に酸化デンプンが使用されるが、プレスのロールの側面、軸受けへ飛散したデンプンが紙製品へ付着することによる品質低下が問題となっている。更に、カチオン化デンプン、酸化デンプンに加えて古紙・損紙由来の各種デンプンも含めたデンプンの汚れは工程内の疎水性物質や無機物を包含した複合汚れを形成し、装置や用具に汚れを固着させて障害を生じる。
【0006】
これらの問題を解決する方法として、特許文献5にはポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル又は/及びポリプロピレングリコール・ポリエチレングリコール縮合物とα−アミラーゼと水からなる抄紙用フェルト洗浄剤が提案され、特許文献6にはα−アミラーゼ、β−アミラーゼおよびグルコアミラーゼからなる群より選ばれる少なくとも1種のデンプン分解酵素と防腐剤および/または無機塩と水からなる、サイズプレス装置周辺でのデンプン汚れの付着防止剤組成物および付着防止方法が提案されている。
【0007】
しかし、これらの酵素を組み合わせる組成物(酵素配合製剤)や酵素を用いる処理方法では、酵素が温度の影響を受け易いため、衣料用・食器用洗浄剤においても、また、製紙工程での洗浄剤や汚れ付着防止剤においても、冬季低温時には十分な効果が得られないという欠点がある。また、特に製紙工程では、デンプン汚れと疎水性物質や無機物が複合した汚れに対して、構成する疎水性物質や無機物を洗浄除去するために酸やアルカリを含む製剤が使用されることが多いが、酵素は強酸性や強アルカリ性のpH領域では効果が失われるため、酵素配合製剤をこれらの酸やアルカリを含む製剤と併用することが困難である。更に、酵素は、製紙工程で一般的に添加されているスライムコントロール剤の影響により、その活性が低下しやすく、また、古紙由来のデンプン量や工程に添加されたデンプン量の変動に対して酵素配合製剤や酵素を用いる処理方法では素早い対応がしづらいという欠点がある。そのため、酵素配合製剤、及び酵素を用いた方法に代わる、デンプン汚れの洗浄剤、付着防止剤及び付着防止方法の開発・改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平06−172796号公報
【特許文献2】特開2001−64693号公報
【特許文献3】特表2002−536500号公報
【特許文献4】特表2002−517553号公報
【特許文献5】特開昭63−120192号公報
【特許文献6】特開2006−16718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、酵素配合製剤、及び酵素を用いた方法に代わる、デンプン汚れ防止剤及びデンプン汚れ防止方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、デンプンの付着、堆積に起因する汚れを効果的に防止するデンプン汚れ防止剤及びデンプン汚れ防止方法について鋭意検討した結果、特定の水溶性尿素類化合物がデンプン汚れに対して優れた洗浄、及び付着防止効果を示し、更にエチレンオキシド―プロピレンオキシドブロック共重合体、及び/又は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルケニルエーテルを上記水溶性尿素類化合物と組合せることにより、デンプン汚れに対して、より優れた洗浄、及び付着防止効果を示すことを見出した。
【0011】
すなわち、請求項1に係る発明は、(A)一般式[1]で表される構造を有する水溶性尿素類化合物を有効成分として含有するデンプン汚れ防止剤である。
(化1)
(RN)(RNH)C=X…[1]
(ただし、式中、Xは酸素原子、イオウ原子、NH基のいずれかであり、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4の直鎖又は分岐のアルキル基、アセチル基、NH基、水酸基のいずれかである。)
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1の(A)一般式[1]で表される構造を有する水溶性尿素類化合物と、さらに(B)一般式[2]又は一般式[3]で表される構造を有するエチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック共重合体、及び/又は、(C)一般式[4]で表される構造を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキレンエーテルとを有効成分として含有するデンプン汚れ防止剤である。
(化2)
HO−(C24O)a−(C36O)b−(C24O)cH …[2]
(ただし、式中、a+cは16〜80であり、a及びcはいずれも0ではなく、bは20〜70であり、(a+c)/bは0.8以上である。)

(化3)
HO−(C36O)d−(C24O)e−(C36O)fH …[3]
(ただし、式中、d+fは20〜70であり、d及びfはいずれも0ではなく、eは16〜80であり、e/(d+f)は0.8以上である。)

(化4)
R−O−(C24O)gH …[4]
(ただし、式中、Rは炭素数6〜22の、直鎖又は分岐の、アルキル基又はアルケニル基であり、gは4〜50であり、g/(Rの炭素数)は0.6以上である。)
【0013】
請求項3に係る発明は、(A)の水溶性尿素類化合物が尿素、チオ尿素、グアニジン、及びそれらの塩から選ばれる請求項1又は請求項2記載のデンプン汚れ防止剤である。
【0014】
請求項4に係る発明は、(A)一般式[1]で表される構造を有する水溶性尿素類化合物を製紙工程の洗浄水に添加することを特徴とする製紙工程のデンプン汚れ防止方法である。
【0015】
請求項5に係る発明は、(A)一般式[1]で表される構造を有する水溶性尿素類化合物と、さらに(B)一般式[2]又は一般式[3]で表される構造を有するエチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック共重合体、及び/又は、(C)一般式[4]で表される構造を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキレンエーテルとを製紙工程の洗浄水に添加することを特徴とする製紙工程のデンプン汚れ防止方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のデンプン汚れ防止剤及びデンプン汚れ防止方法を適用することにより、デンプン含有食品を扱う生活場面で日常的に発生している付着デンプン汚れを洗浄除去でき、また、デンプンを使用する各種産業、特に紙パルプ工業の製紙工程各所に付着・堆積するデンプン汚れ、及びデンプン汚れと疎水性物質や無機物が複合した汚れを防止、又は洗浄し紙製品の品質の維持に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明のデンプン汚れ防止剤に用いられる、一般式[1]で表される構造を有する水溶性尿素類化合物における「水溶性」とは、水に溶解すること、及び親水性溶媒に溶解後に水に溶解することを意味する。該水溶性尿素類化合物としては尿素、チオ尿素、グアニジン、グアニジン・硝酸塩、1−エチルチオ尿素、1−ブチル尿素、1,1−ジメチル尿素、1,3−ジメチル尿素、1、3−ジエチルチオ尿素、1,1,3−トリメチルチオ尿素、1−アミノ尿素(セミカルバジド)、1−アセチルチオ尿素、1−ヒドロキシ尿素、N−ヒドロキシチオ尿素等が挙げられ、水に溶解した状態でこれらの化合物を生成するそれぞれの塩も本発明のデンプン汚れ防止剤に用いることができる。その中でも、尿素、チオ尿素、グアニジン、及びそれらの塩が好ましい。
【0018】
本発明のデンプン汚れ防止剤は、有効成分である(A)一般式[1]で表される構造を有する水溶性尿素類化合物を水に溶解する、又は親水性溶媒に溶解後に水に溶解することによって調製できる。そのデンプン汚れ防止剤における含有量は、用いられる(A)化合物の水、及び親水性溶媒に対する溶解度によって異なり、その溶解度の範囲内で任意に選択できるが、一般的には1〜50重量%の範囲で含有させる。含有量が1%未満では、該デンプン汚れ防止剤をデンプン汚れに適用する場合に多量に使用する必要が生じるため、実用的ではない。尚、該デンプン汚れ防止剤の調製に用いられる水は、清水、軟化水、及びイオン交換水などが利用できる。
【0019】
本発明のデンプン汚れ防止剤では、上記の一般式[1]で表される構造を有する水溶性尿素類化合物に、さらに一般式[2]又は一般式[3]で表される構造を有するエチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック共重合体、及び/又は、一般式[4]で表される構造を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキレンエーテルを含有することができる。
【0020】
本発明のデンプン汚れ防止剤に用いられる、一般式[2]で表される構造を有するエチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック共重合体は、ポリプロピレングルコールにエチレンオキシドを付加反応させることによって得ることができる。該エチレンオキシド―プロピレンオキシドブロック共重合体としては、例えば三洋化成工業株式会社のニューポールPEシリーズ、青木油脂工業株式会社のBLAUNON Pシリーズ、株式会社アデカのプルロニックL、P、Fシリーズ、あるいはBASFジャパン株式会社のプルロニックPEシリーズを利用することができる。
【0021】
本発明のデンプン汚れ防止剤に用いられる、一般式[3]で表される構造を有するエチレンオキシド―プロピレンオキシドブロック共重合体は、ポリエチレングルコールにプロピレンオキシドを付加反応させることによって得ることができる。該エチレンオキシド―プロピレンオキシドブロック共重合体としては、例えば青木油脂工業株式会社のBLAUNON EPシリーズ、株式会社アデカのプルロニックRシリーズ、あるいはBASFジャパン株式会社のプルロニックRPEシリーズを利用することができる。
【0022】
本発明のデンプン汚れ防止剤に用いられる、一般式[4]で表される構造を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキレンエーテルは、該当するアルコールにエチレンオキサイドを4〜50モル付加させる事によって得ることができ、用いられるアルコールとしては、例えばヘキサノール、オクチルアルコール、2−エチルヘキサノール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール、及びヤシアルコールなどの天然アルコールなどがある。該ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキレンエーテルとしては、例えば青木油脂工業株式会社のBLAUNON EL、CH、SR、EN、EHシリーズ、COCOSURFシリーズなどを利用することができる。
【0023】
本発明のデンプン汚れ防止剤に用いられる、(A)一般式[1]で表される構造を有する水溶性尿素類化合物の作用は十分解明されてはいないが、デンプン分子構造中の水素結合を緩めてデンプン汚れを付着部位から剥がす効果を有すると考えられる。また、同様に(B)一般式[2]又は一般式[3]で表される構造を有するエチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック共重合体の作用は、(A)化合物のデンプン汚れへの浸透を促進する効果を有すると考えられ、(C)一般式[4]で表される構造を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキレンエーテルの作用は、付着部位から剥がれたデンプン汚れの表面を湿潤させ、水中に分散させる効果を有すると考えられる。
【0024】
本発明のデンプン汚れ防止剤に(A)化合物、(B)化合物及び/又は(C)化合物を含有させる場合のそれぞれの比率は、重量比で(A):{(B)+(C)}が9:1〜1:9の範囲内で対象となるデンプン汚れの性状や付着部位の状態によって最適な割合を選択することができる。また、(B)化合物と(C)化合物を含有させる場合の両者の比率も重量比で9:1〜1:9の範囲内で適宜選択できる。対象となるデンプン汚れがデンプン主体であって、汚れの付着防止、あるいは剥離が目的であれば(A)化合物の比率を増し、また、さらに剥離効果を上げたい場合は(B)化合物の比率を増し、小さな汚れの粒子が集積して大きな付着汚れになることを防ぎ、デンプン汚れを細かく分散して系内から効率的に排出したい場合には、(C)化合物の比率を増し、更に、対象がデンプンと油脂などの疎水性物質との複合汚れである場合は、疎水性物質に対する乳化分散作用も期待できる(B)化合物及び/又は(C)化合物の比率を増すことが望ましい。
【0025】
本発明のデンプン汚れ防止剤に(A)化合物、(B)化合物及び/又は(C)化合物を含有させる場合の調製方法は、(A)化合物、(B)化合物及び/又は(C)化合物を水に溶解させれば良く、特にそれぞれの化合物の溶解順序は無い。また、各化合物は必要に応じて親水性溶媒に溶解後に水に溶解しても良い。そのデンプン汚れ防止剤における含有量は、用いられる(A)〜(C)化合物の水、及び親水性溶媒に対する溶解度によって異なり、その溶解度の範囲内で任意に選択できるが、一般的には(A)〜(C)化合物の合計として、1〜50重量%の範囲で含有させる。含有量が1%未満では、該デンプン汚れ防止剤をデンプン汚れに適用する場合に多量に使用する必要が生じるため、実用的ではない。尚、該デンプン汚れ防止剤の調製に用いられる水は、清水、軟化水、及びイオン交換水などが利用できる。
【0026】
本発明の効果を損なわない範囲で、本発明のデンプン汚れ防止剤と他の汚れ防止剤を併用してもよく、また、本発明のデンプン汚れ防止剤の効果や安定性を損なわない範囲で可能であれば他の汚れ防止剤成分を本発明のデンプン汚れ防止剤中に含有させてもよい。このような他の汚れ防止剤成分としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、スルファミン酸、クエン酸、グリコール酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、マレイン酸、酒石酸、ニトリロトリメチレンホスホン酸(NTMP)、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP)、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTP)、及びホスホノブタントリカルボン酸(PBTC)などが挙げられる。
【0027】
本発明のデンプン汚れ防止剤は、衣料用・食器用洗浄剤としても、また、製紙工程各所でのデンプン汚れの洗浄剤や付着防止剤、及びデンプン汚れと疎水性物質や無機物が複合した汚れに対する洗浄剤や付着防止剤しても使用できるが、特に抄紙工程のプレスパートにおいては、工程に添加されたデンプン紙力増強剤による抄紙用フェルトへのデンプン汚れの付着・堆積を防止するために、また、サイズプレスにおいては、プレスのロールの側面、軸受けへ飛散するデンプン汚れの付着・堆積を防止するために、本発明のデンプン汚れ防止剤が適用できる。
【0028】
本発明のデンプン汚れ防止剤を適用する方法については特に制限は無いが、製紙工程におけるデンプン汚れの付着・堆積を防止するためには、薬注ポンプにて洗浄水に本発明のデンプン汚れ防止剤を添加し、その洗浄水を対象部位に散布する方法が好ましい。洗浄水としては水温50℃以下の清水や白水などを用いることができ、その散布方法も対象部位の状況に合わせて適宜選択できるが、例えばプレス工程の抄紙用フェルトに対しては洗浄シャワー水にデンプン汚れ防止剤を添加する方法が容易であり好ましい。
【0029】
本発明のデンプン汚れ防止剤の洗浄水への添加濃度は、製紙工程における汚れの付着、堆積の程度によって適宜選択可能であるが、一般的には該デンプン汚れ防止剤の有効成分として10〜5000mg/Lの範囲であり、その範囲内で、主目的が付着防止の場合は少ない添加濃度でも効果を発揮できる場合があるが、付着したデンプン汚れを洗浄する場合は、より高濃度を要する場合が通例である。尚、ここで言う有効成分とは、(A)化合物の固形分と(B)化合物の固形分と(C)化合物の固形分の和である。(A)化合物のみを用いる場合は(A)化合物の固形分量が有効成分量となり、(A)化合物と(B)化合物と(C)化合物を用いる場合は、三者の固形分量の和が有効成分量となる。
【0030】
本発明のデンプン汚れ防止方法としては、請求項1又は請求項2記載のデンプン汚れ防止剤を適用する方法以外に、(A)一般式[1]で表される構造を有する水溶性尿素類化合物を単独で洗浄水に添加してもよいし、(A)一般式[1]で表される構造を有する水溶性尿素類化合物と、(B)一般式[2]又は一般式[3]で表される構造を有するエチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック共重合体、及び/又は、(C)一般式[4]で表される構造を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキレンエーテルをそれぞれ別々に洗浄水に添加してもよい。
【0031】
(A)化合物、(B)化合物、又は(C)化合物が常温で固体の化合物や粘度の高い化合物の場合は、水などの適切な溶媒に溶解、もしくは希釈した上で、薬注ポンプにて洗浄水に添加する。
【0032】
(A)化合物、(B)化合物、及び(C)化合物をそれぞれ別々に洗浄水に添加する場合のそれぞれの添加比率は、重量比で(A):{(B)+(C)}が9:1〜1:9の範囲内で対象となるデンプン汚れの性状や付着部位の状態によって最適な割合を選択することができる。また、(B)化合物と(C)化合物の両者の比率も重量比で9:1〜1:9の範囲内で適宜選択できる。対象となるデンプン汚れがデンプン主体であって、汚れの付着防止、あるいは剥離が目的であれば(A)化合物の比率を増し、また、さらに剥離効果を上げたい場合は(B)化合物の比率を増し、小さな汚れの粒子が集積して大きな付着汚れになることを防ぎ、デンプン汚れを細かく分散して系内から効率的に排出したい場合には、(C)化合物の比率を増し、更に、対象がデンプンと油脂などの疎水性物質との複合汚れである場合は、疎水性物質に対する乳化分散作用も期待できる(B)化合物及び/又は(C)化合物の比率を増すことが望ましい。
【0033】
(A)化合物の単独添加の場合の洗浄水への添加濃度、又は、(A)化合物と、(B)化合物及び/又は(C)化合物の併用添加の場合の洗浄水への添加濃度は、製紙工程における汚れの付着、堆積の程度によって適宜選択可能であるが、一般的には(A)化合物、(B)化合物、及び(C)化合物の合計濃度は有効成分の合計として10〜5000mg/Lの範囲であり、その範囲内で、主目的が付着防止の場合は少ない添加濃度でも効果を発揮できる場合があるが、付着したデンプン汚れを洗浄する場合は、より高濃度を要する場合が通例である。尚、ここで言う有効成分とは、(A)化合物の固形分と(B)化合物の固形分と(C)化合物の固形分の和である。(A)化合物のみを用いる場合は(A)化合物の固形分量が有効成分量となり、(A)化合物と(B)化合物と(C)化合物を用いる場合は、三者の固形分量の和が有効成分量となる。
【0034】
本発明のデンプン汚れ防止剤の洗浄水への添加、あるいは、(A)化合物、(B)化合物、及び(C)化合物の個別の洗浄水への添加は、断続的に行うことも可能であるが、安定した汚れ防止効果を得るためには、常時連続的に添加することがより好ましい。
【0035】
本発明のデンプン汚れ防止剤、(A)化合物単独、又は、(A)化合物と、(B)化合物及び/又は(C)化合物の併用による製紙工程への適用において、本発明における汚れ防止方法の効果を損なわない範囲において他の工程添加剤、例えば消泡剤、スケールコントロール剤等を併用する事に何ら制限を加えるものではない。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
以下に示す各成分を以下に示す配合比で混合溶解し、デンプン汚れ防止剤実施例1〜15と比較例1〜3を調製した。尚、「エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック共重合体」は「EO−POブロック共重合体」と略記した。
(1)実施例1
尿素 20重量%
水 80重量%
(2)実施例2
尿素 10重量%
EO(48モル)−PO(35モル)ブロック共重合体 10重量%
水 80重量%
(3)実施例3
尿素 10重量%
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(EO15モル) 10重量%
水 80重量%
(4)実施例4
尿素 10重量%
EO(48モル)−PO(35モル)ブロック共重合体 5重量%
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(EO15モル) 5重量%
水 80重量%
(5)実施例5
チオ尿素 10重量%
EO(48モル)−PO(35モル)ブロック共重合体 5重量%
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(EO15モル) 5重量%
水 80重量%
(6)実施例6
グアニジン 2重量%
EO(48モル)−PO(35モル)ブロック共重合体 9重量%
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(EO15モル) 9重量%
水 80重量%
(7)実施例7
グアニジン・硝酸塩 8重量%
EO(48モル)−PO(35モル)ブロック共重合体 6重量%
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(EO15モル) 6重量%
水 80重量%
(8)実施例8
尿素 10重量%
EO(16モル)−PO(20モル)ブロック共重合体 10重量%
水 80重量%
(9)実施例9
尿素 10重量%
EO(80モル)−PO(70モル)ブロック共重合体 10重量%
水 80重量%
(10)実施例10
尿素 10重量%
ポリオキシエチレンヘキシルエーテル(EO4モル) 10重量%
水 80重量%
(11)実施例11
尿素 10重量%
ポリオキシエチレン−2−エチルヘキシルエーテル(EO30モル)
10重量%
水 80重量%
(12)実施例12
尿素 10重量%
ポリオキシエチレンオレイルエーテル(EO50モル) 10重量%
水 80重量%
(13)実施例13
尿素 10重量%
ポリオキシエチレンベヘニルエーテル(EO20モル) 10重量%
水 80重量%
(14)実施例14
尿素 18重量%
EO(48モル)−PO(35モル)ブロック共重合体 1重量%
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(EO15モル) 1重量%
水 80重量%
(15)実施例15
尿素 2重量%
EO(48モル)−PO(35モル)ブロック共重合体 9重量%
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(EO15モル) 9重量%
水 80重量%
(16)比較例1
α−アミラーゼ 20重量%
(枯草菌製、20units/mg、和光純薬工業(株)製)
水 80重量%
(17)比較例2
α−アミラーゼ 10重量%
(枯草菌製、20units/mg、和光純薬工業(株)製)
アデカノールB−4001(商品名、(株)アデカ製) 10重量%
水 80重量%
(18)比較例3
EO(48モル)−PO(35モル)ブロック共重合体 10重量%
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(EO15モル) 10重量%
水 80重量%
【0038】
1.抄紙用フェルト付着デンプン洗浄試験(1)
抄紙用フェルトに付着したデンプンに対する洗浄効果を調べた。
(試験片の調製)
カチオン化デンプンである、日食ネオタック#130(商品名、日本食品化工(株)製)の5%水分散液を加温して糊化した後、常温まで冷却し、その中に新品の抄紙用フェルト試験片(6cm×6cm)を浸漬した。10分後に該試験片を取り出し軽く水洗後、105℃で2時間乾燥した。
(洗浄試験)
合計有効成分濃度として1000mg/L含有するように水で希釈した実施例1〜4、比較例1、2の試験液100mlを300ml三角フラスコに採り、所定の液温に保った。その試験液に、上記の方法で調製した乾燥試験片を1cm×1cmの細片に裁断した後、投入し、振とう機にセットして100rpmで10分間振とう撹拌した。撹拌終了後、試験片を試験液から取り出し水ですすいだ後、105℃で2時間乾燥した。また、ブランクとして所定の水温の水のみを用いて同じ洗浄試験を行った。
(洗浄率)
洗浄試験前と洗浄試験後のフェルト試験片に付着しているデンプンを90〜95℃の熱水で抽出し、フェノール硫酸法によりデンプン量を測定した。
付着デンプン洗浄率は次式にて求めた。結果を表1に示す。
付着デンプン洗浄率(%)
={(洗浄試験前のデンプン付着量(mg))―(洗浄試験後のデンプン付着量(mg))}÷(洗浄試験前のデンプン付着量(mg))×100
尚、洗浄試験前のデンプン付着量は約160mgであった。
【0039】
【表1】

【0040】
表1より、実施例1〜4の付着デンプン洗浄効果は比較例1、2よりも高く、特に低温域では酵素配合製剤である比較例1、2の効果が大きく低下するのに対し、実施例1〜4の効果低下は少なく、温度の影響を受けにくいことが判る。
【0041】
2.抄紙用フェルトにおけるデンプン付着防止試験(1)
抄紙用フェルトにおける、デンプンの付着防止効果を調べた。
(デンプン糊化液の調製)
カチオン化デンプンである、日食ネオタック#130(商品名、日本食品化工(株)製)の5%水分散液を加温して糊化した後、常温まで冷却しデンプン糊化液を調製した。
(付着防止試験)
デンプン紙力増強剤を使用した印刷用紙の古紙及び損紙や、デンプンサイズ剤を塗布した上質紙の古紙及び損紙を配合した原料を用い、通常のスライムコントロール剤を添加している製紙工程より採取した白水に、それぞれ実施例1〜4、比較例1、2を合計有効成分濃度として200mg/L含有するように添加した液4500mlに上記の方法で調製したデンプン糊化液を500ml添加し混合した試験液を調製した。次に、ブフナー漏斗の上に新品の抄紙用フェルト試験片(直径9cmの円形)を載せ減圧度40キロパスカルで吸引しながら、液温30℃に保った該試験液をろ過した。ろ過終了後、試験片を水ですすいだ後、105℃で2時間乾燥した。また、ブランクとして、上記の製紙工程より採取した白水4500mlに上記の方法で調製したデンプン糊化液を500ml添加し混合した試験液を用いて同じ付着防止試験を行った。
(デンプン付着防止率)
試験後のフェルト試験片に付着しているデンプンを90〜95℃の熱水で抽出し、フェノール硫酸法によりデンプン量を測定した。
デンプン付着防止率は次式にて求めた。結果を表2に示す。
デンプン付着防止率(%)
={(ブランクのデンプン付着量(mg))―(実施例・比較例のデンプン付着量(mg))}÷(ブランクのデンプン付着量(mg))×100
【0042】
【表2】

【0043】
表2より、実施例1〜4のデンプン付着防止効果は比較例1、2よりも高く、その効果はスライムコントロール剤など各種の薬剤が添加され、また、微細繊維が多く懸濁している白水条件下においても高いことが判る。
【0044】
3.抄紙用フェルト付着デンプン洗浄試験(2)
使用するデンプンをカチオン化デンプンに代えて、下記のデンプンを使用した以外は「抄紙用フェルト付着デンプン洗浄試験(1)」と同じ試験を行った。ただし、試験液の液温を30℃とした。
使用したデンプン(いずれも日本食品化工(株)製)
コーンスターチ: 日食コーンスターチ(商品名)
酸化デンプン: 日食MS#3600(商品名)
尿素リン酸エステル化デンプン: 日食MS#4400(商品名)
結果を表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
表3より、本発明の実施例1〜4の付着デンプン洗浄効果は比較例1、2よりも高く、対象となるデンプンがカチオン化デンプン以外の種類のデンプンであっても、本発明の洗浄効果が得られることが判る。尚、衣類の生地や食器に付着したデンプン汚れはコーンスターチに代表される生デンプンと称される種類のデンプンが主体であるが、これらの汚れに対しても本試験結果と同様な効果が期待できる。
【0047】
4.抄紙用フェルトにおけるデンプン付着防止試験(2)
使用するデンプンをカチオン化デンプンに代えて、以下の種類のデンプンを用いた以外は「抄紙用フェルトにおけるデンプン付着防止試験(1)」と同じ試験を行った。試験液の液温は30℃である。
使用したデンプン(いずれも日本食品化工(株)製)
コーンスターチ: 日食コーンスターチ(商品名)
酸化デンプン: 日食MS#3600(商品名)
尿素リン酸エステル化デンプン: 日食MS#4400(商品名)
結果を表4に示す。
【0048】
【表4】

【0049】
表4より、実施例1〜4のデンプン付着防止効果は比較例1、2よりも高く、スライムコントロール剤など各種の薬剤が添加され、微細繊維が多く懸濁している白水条件下において、対象となるデンプンがカチオン化デンプン以外の種類のデンプンであっても、本発明の高いデンプン付着防止効果が得られることが判る。
【0050】
5.抄紙用フェルト付着デンプン洗浄試験(3)
実施例5〜15、及び比較例3を用いて「抄紙用フェルト付着デンプン洗浄試験(1)」と同じ試験を行った。ただし、試験液の液温を30℃とした。使用したデンプンは日食ネオタック#130である。結果を表5に示す。
【0051】
6.抄紙用フェルトにおけるデンプン付着防止試験(3)
実施例5〜15、及び比較例3を用いて「抄紙用フェルトにおけるデンプン付着防止試験(1)」と同じ試験を行った。使用したデンプンは日食ネオタック#130である。結果を表5に示す。
【0052】
【表5】

【0053】
表5より、特定の水溶性尿素類化合物を含有しない比較例3は、実施例5〜15に比べて、明らかに付着デンプン洗浄効果、デンプン付着防止効果ともに低い。特定の水溶性尿素類化合物がデンプン汚れに対して優れた洗浄、及び付着防止効果を示し、更にエチレンオキシド―プロピレンオキシドブロック共重合体、及び/又は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルケニルエーテルを上記水溶性尿素類化合物と組合せることにより、デンプン汚れに対して、より優れた洗浄、及び付着防止効果を示すことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のデンプン汚れ防止剤及びデンプン汚れ防止方法は、紙パルプ工業の製紙工程各所に付着・堆積するデンプン汚れの防止、又は洗浄に利用でき、その他、デンプンを使用する各種産業やデンプン含有食品を扱う生活場面で日常的に発生しているデンプン汚れの洗浄除去にも利用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式[1]で表される構造を有する水溶性尿素類化合物を有効成分として含有するデンプン汚れ防止剤。
(化1)
(RN)(RNH)C=X…[1]
(ただし、式中、Xは酸素原子、イオウ原子、NH基のいずれかであり、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4の直鎖又は分岐のアルキル基、アセチル基、NH基、水酸基のいずれかである。)
【請求項2】
(A)一般式[1]で表される構造を有する水溶性尿素類化合物と、さらに(B)一般式[2]又は一般式[3]で表される構造を有するエチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック共重合体、及び/又は、(C)一般式[4]で表される構造を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキレンエーテルとを有効成分として含有するデンプン汚れ防止剤。
(化2)
HO−(C24O)a−(C36O)b−(C24O)cH …[2]
(ただし、式中、a+cは16〜80であり、a及びcはいずれも0ではなく、bは20〜70であり、(a+c)/bは0.8以上である。)

(化3)
HO−(C36O)d−(C24O)e−(C36O)fH …[3]
(ただし、式中、d+fは20〜70であり、d及びfはいずれも0ではなく、eは16〜80であり、e/(d+f)は0.8以上である。)

(化4)
R−O−(C24O)gH …[4]
(ただし、式中、Rは炭素数6〜22の、直鎖又は分岐の、アルキル基又はアルケニル基であり、gは4〜50であり、g/(Rの炭素数)は0.6以上である。)
【請求項3】
(A)の水溶性尿素類化合物が尿素、チオ尿素、グアニジン、及びそれらの塩から選ばれる請求項1又は請求項2記載のデンプン汚れ防止剤。
【請求項4】
(A)一般式[1]で表される構造を有する水溶性尿素類化合物を製紙工程の洗浄水に添加することを特徴とする製紙工程のデンプン汚れ防止方法。
【請求項5】
(A)一般式[1]で表される構造を有する水溶性尿素類化合物と、さらに(B)一般式[2]又は一般式[3]で表される構造を有するエチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック共重合体、及び/又は、(C)一般式[4]で表される構造を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキレンエーテルとを製紙工程の洗浄水に添加することを特徴とする製紙工程のデンプン汚れ防止方法。