説明

データ処理装置、データ処理方法、及びデータ処理プログラム

【課題】ピークの波形に応じた適切な波形処理を行って計算精度を向上させる。
【解決手段】データ処理装置1は、試料から分離された対象成分を検出して得られる信号強度の時間変化または位置変化を示す測定データを処理するデータ処理装置である。データ処理装置1は、測定データのノイズ除去を、所定の条件に基づきノイズ除去手法を切り替えながら実行するノイズ除去部11と、ノイズ除去部11によってノイズ除去された測定データに対して波形解析処理を実行する解析部12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に含まれる成分を検出して得られる測定データを処理するデータ処理装置、それを用いた分析装置、データ処理方法、及びデータ処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
分離分析法を用いた分析装置は、試料中の測定対象成分を分離デバイスで分離し、分離された成分を検出する。検出により得られる信号強度の時間変化または位置変化は、測定データとしてコンピュータで処理され、測定対象成分の量を示す値として出力される。
【0003】
測定データの処理においては、例えば、信号強度の時間変化または位置変化を示す波形を解析する。その際、解析に先立って、検出により得られた測定データの示す波形からノイズを除去する処理を行うことが好ましい。ノイズ除去方法としては、例えば、移動平均法等を用いることができる(例えば、特許文献1参照)。移動平均法は、アナログ信号を一定間隔でサンプリングしてデジタル信号に変換し、各サンプリング点の前後所定数のサンプリング点(以下、移動平均の幅と称する)における平均を計算するというものである。
【0004】
従来の移動平均法を用いるノイズ除去においては、測定データの波形におけるピークの特徴点が失われる可能性があった。例えば、ピーク幅に対してサンプリング数が少ないものに関しては、移動平均の幅を広くするとピークの高さが低くなり、移動平均の幅を狭くとるとノイズ除去効果が低くなるという事態が生じる。その結果、ピークの波形によっては、ノイズ除去処理によりピーク形状が変形したり、ノイズ除去処理後にもノイズが残ったりして、目的のピークを正確に定量することが困難になる。
【0005】
そこで、クロマトグラムの波形処理の精度を向上させるため、各ピークに対して、ピーク面積、ピーク高さ、ピーク位置を計算する際に、異なるクロマトグラムの波形計算処理のアルゴリズムを所定の条件に基づき切り替えながら計算を行うことが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3428417号公報
【特許文献2】特許第3520814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2に記載の方法では、波形計算処理のアルゴリズムを切り替えることによって、アルゴリズムの癖が計算結果に現れる可能性があり、十分に正確な定量ができない場合がある。
【0008】
そこで、本発明は、ピークの波形に応じた適切な波形処理を行って計算精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の開示するデータ処理装置は、試料から分離された対象成分を検出して得られる信号強度の時間変化または位置変化を示す測定データを処理するデータ処理装置であって、前記測定データのノイズ除去を、所定の条件に基づきノイズ除去手法を切り替えながら実行するノイズ除去部と、前記ノイズ除去部によってノイズ除去された測定データに対して波形解析処理を実行する解析部とを備える。
【0010】
上記構成によれば、ノイズ除去手法を切り替えながらノイズを除去するので、測定データの波形に応じた適切なノイズ除去が可能になる。その結果、ピークの波形に応じた適切な波形処理が可能になり、計算精度が向上する。
【0011】
上記データ処理装置において、前記ノイズ除去部は、前記測定データにおいて前記信号強度の波形の特徴部を含む特徴区間と、前記特徴部がないか又は少ない非特徴区間とを判定し、それぞれの区間で異なるノイズ除去手法を用いてノイズ除去を実行することができる。
【0012】
これにより、特徴的な波形を示す区間と、そうでない区間とでノイズ除去手法を切り替えることができる。そのため、波形に応じた適切なノイズ除去が可能になる。
【0013】
上記データ処理装置において、前記ノイズ除去部は、前記信号強度の変化量を基に、前記特徴区間の判定を行ってもよい。これにより、例えば、変化が顕著に現れている区間のように、特徴的な波形の部分を特徴区間と判定することができる。
【0014】
上記データ処理装置において、前記ノイズ除去部は、前記信号強度の大きさを基に、前記特徴区間の判定を行ってもよい。これにより、例えば、信号強度が他より大きいピークの区間など、特徴的な波形の部分を特徴区間と判定することができる。
【0015】
上記データ処理装置において、前記ノイズ除去部は、前記特徴区間においては、波形の特徴を強く残すノイズ除去手法を用い、前記非特徴区間では、移動平均法を用いてノイズ除去を行ってもよい。これにより、波形の特徴部の劣化を抑えつつも、より効果的なノイズ除去が可能になる。そのため、波形の特徴を保持したまま、効果的なノイズ除去を行うことができる。
【0016】
なお、上記データ処理装置が実行するデータ処理方法、コンピュータを上記データ処理装置として機能させるためのコンピュータ読み取り可能なデータ処理プログラム、及びデータ処理プログラムを記録した記録媒体も、本願発明に含まれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ピークの波形に応じた適切な波形処理を行って計算精度を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態におけるデータ処理装置を含む分析装置の構成例を示す機能ブロック図
【図2】測定データが示す吸光度波形の一例を示すグラフ
【図3】吸光度波形のノイズを除去する処理の一例を示すフローチャート
【図4】微分後波形のノイズを除去する処理の一例を示すフローチャート
【図5】分析装置の他の構成例を示す機能ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1の実施形態]
[分析装置10の構成例]
図1は、本発明の第1の実施形態におけるデータ処置装置を含む分析装置の構成例を示す機能ブロック図である。図1に示す分析装置10は、分離分析法を用いた分析装置であり、試料に含まれる成分を分離し、分離した成分の定量分析を行う。分析装置10は、データ処理装置1及び測定部5を備える。測定部5は、分離デバイス4と検出器2を有する。データ処理装置1は、検出器2と通信可能となるよう接続される。
【0020】
測定部5における分離デバイス4は、試料から測定対象成分を分離するデバイスである。検出器2は、分離デバイス4で分離された測定対象成分を検出する。データ処理装置1は、検出器2を制御して、測定データを取得し、試料の測定対象成分を分析する。分離デバイス4の動作は、例えば、分析装置10全体を動作させる制御部により制御することができる。分析装置10は、分離デバイス4の試料及びその他必要な流体、電圧等の供給のタイミングや量を制御することができる。
【0021】
なお、本実施形態は、一例として、分離分析法を用いた分析装置を挙げているが、本願発明の分析装置は、分離分析法を用いたものに限られない。
【0022】
「分離分析法」とは、試料に含まれる分析対象物を個別に分離しながら分析を行う方法であって、例えば、液体クロマトグラフィ法(HPLC法)、キャピラリ電気泳動法(CE法)、又はキャピラリ電気クロマトグラフィ法が挙げられる。液体クロマトグラフィ法としては、例えば、陽イオン交換クロマトグラフィ法、陰イオン交換クロマトグラフィ法、分配クロマトグラフィ法、逆相分配クロマトグラフィ法、ゲルろ過クロマトグラフィ法、及びアフィニティクロマトグラフィ法等が挙げられる。キャピラリ電気泳動法としては、例えば、キャピラリゾーン電気泳動法、キャピラリ等速電気泳動法、キャピラリ等電点電気泳動法、キャピラリ動電クロマトグラフィ法、及びキャピラリゲル電気泳動法等が挙げられる。
【0023】
分離デバイス4は、試料中の測定対象成分を分離するためのデバイスである。例えば、液体クロマトグラフィでは、分離デバイスとしてカラムを含むデバイスが用いられる。この場合、図示しないが、例えば、カラムに溶離液や洗浄液等を供給する液体供給ユニットや、試料をカラムに供給する試料供給ユニット、試料と溶離液の流量を調整するバルブ等の調整機構、その他必要な部材が、カラムとともに設けられてもよい。
【0024】
キャピラリ電気泳動法では、キャピラリを含むデバイスが分離デバイスとして用いられる。この場合、図示しないが、例えば、高電圧電源、検体供給ユニット、その他必要な部材が分離デバイスとともに設けられてもよい。また、分離デバイスには、キャピラリ及びキャピラリに電圧を印加するための電極等が設けられる。
【0025】
キャピラリ動電クロマトグラフィ法では、充填剤が詰められたキャピラリを含むデバイスが分離デバイスとして用いられる。この場合、図示しないが、例えば、高電圧電源、検体供給ユニット、その他必要な部材が分離デバイスとともに設けられてもよい。また、分離デバイスには、キャピラリ及びキャピラリに電圧を印加するための電極等が設けられる。
【0026】
検出器2は、例えば、分離デバイス4で分離された試料の吸光度を検出することで、試料の各成分を検出することができる。例えば、透過率又は蛍光法等を用いて試料の分離された成分を検出することができる。
【0027】
検出器2が試料から分離された測定対象成分を検出することにより得られる測定データは、例えば、試料から分離された対象成分を検出して得られる信号強度の時間変化または位置変化(分布)を表す信号またはデジタルデータが含まれる。例えば、試料から分離された対象成分の検出量の時系列データまたは波形データが測定データとして検出器2からデータ処理装置1へ送信される。より具体的には、例えば、クロマトグラムやフェログラムを測定データとすることができる。
【0028】
[データ処理装置1の構成例]
データ処置装置1は、検出器2から受け取った測定データを処理して、測定対象成分の量を計算し、出力する機能を有する。そのため、データ処置装置1は、ノイズ除去部11、解析部12、記録部13及び出力部14を備える。
【0029】
図1に示すデータ処理装置1の機能は、例えば、パーソナルコンピュータ等のCPUを備えた汎用コンピュータあるいは測定装置に内蔵されたマイクロプロセッサ(組み込み演算器)が、所定のプログラムを実行することにより実現することができる。すなわち、データ処理装置1は、検出器2と連携動作可能なコンピュータにより構成することができる。検出器2とのデータ通信は、有線で行うことができる。また、コンピュータを上記データ処理装置1として機能させるためのプログラムまたはプログラムを記録した記録媒体も本発明の実施形態に含まれる。また、コンピュータが実行するデータ処理方法も、本発明の一側面である。ここで、記録媒体は、信号そのもののような、一時的な(non-transitory)メディアは含まない。
【0030】
記録部13は、データ処理装置1がアクセス可能な記録媒体であればよい。例えば、データ処理装置1が内部に備えるメモリであってもよいし、外部の記録装置であってもよい。
【0031】
[ノイズ除去部11]
ノイズ除去部11は、測定データのノイズ除去を、所定の条件に基づきノイズ除去手法を切り替えながら実行する。解析部12は、ノイズ除去部11によってノイズ除去された測定データに対して波形解析処理を実行する。記録部13には、検出器2から送れられる測定データ、及び測定データを処理して得られる解析データが記録される。
【0032】
例えば、ノイズ除去部11は、試料から分離された成分の吸光度を示すアナログ信号を検出器2から受信し、所定の間隔でサンプリングしてデジタル信号に変換する。変換されたデジタル信号は、各サンプリング点に対応する吸光度の系列であり、吸光度の時系列データと言える。なお、アナログ−デジタル変換は、必ずしもノイズ除去部11で行われなくてもよく、例えば、検出器2が、検出により得られるアナログ信号をデジタル信号に変換し、ノイズ除去部11へ送信してもよい。
【0033】
ノイズ除去部11は、測定データにおいて、波形の特徴部を含む特徴区間と、特徴部を含まない非特徴区間とを判定し、それぞれの区間で異なるノイズ除去手法を用いてノイズ除去を実行することができる。特徴部は、測定データが示す値の系列において特徴的な変化が現れている部分であり、試料の測定対象成分に関する情報としての価値が高い部分である。ノイズ除去部11は、例えば、値の変化や値そのものが前後に比べて大きくなっている部分を特徴部と判定することができる。具体的には、区間に含まれる値の変化量及び/又は値の大きさを閾値と比較することにより、その区間が特徴区間か否かを判定できる。なお、非特徴区間は、特徴部が全く含まれない区間に限られず、特徴部が無視できる程度に少ない区間も、非特徴区間と判定することもできる。
【0034】
なお、ノイズ除去部11による、所定の条件に基づいてノイズ除去手法を切り替える処理は、上記のように波形の特徴に基づいて行うものに限られない。例えば、予め決められた領域ごとにノイズ除去手法を切り替えてノイズ除去処理を実行することができる。ノイズ除去手法の切り替える領域は、例えば、時間軸、または吸光度(位置)等に基づき決定することができる。具体例としては、ノイズ除去対象の測定データにおいて、測定開始から検出時までの時間(例えば、保持時間)が、予め決められた範囲のデータである場合は第1のノイズ除去手法を、当該範囲外の場合は第2のノイズ除去手法を用いて、ノイズ除去処理を行うことができる。また、吸光度等の値が、閾値より大きい場合と小さい場合で、ノイズ除去手法を切り替えることもできる。このように、検出器2による検出値または検出時間の絶対値のみに依存してノイズ除去手法を切り替える領域を決定することができる。なお、このノイズ除去手法切り替えの基準となるデータ(保持時間の範囲を示すデータや閾値等)は、例えば、予め記録部13に記憶しておくことができる。
【0035】
図2は、測定データが示す吸光度波形の一例を示すグラフである。図2において縦軸は吸光度、横軸は時間を示す。例えば、図2に示す階段状の吸光度波形において、変化量が比較的小さい平坦な区間K1は非特徴区間と、急激な値が増加している区間K2は特徴区間と判断することができる。
【0036】
ノイズ除去部11は、特徴区間と非特徴区間とで、ノイズ除去処理を切り替える。例えば、ノイズ除去部11は、特徴区間においては、波形の特徴を強く残すノイズ除去手法を用い、前記非特徴区間では、単純移動平均法を用いてノイズ除去を行うことができる。
【0037】
波形の特徴を強く残すノイズ除去手法は、波形の特徴を劣化させることなくノイズを除去するのに適した方法であれば、特に限定されない。一つの例として、あるサンプリング点周辺のn個のサンプリング点において重み付け移動平均を計算して、そのサンプリング点の値とする重み付け移動平均法がある。さらに詳しくは、Savitzky-Golayの式を用いた移動平均を用いた方法を特徴区間のノイズ除去手法として採用することができる。あるいは、フーリエ変換を行ってノイズの周波数成分を除去する方法も、特徴区間のノイズ除去方法として採用することができる。
【0038】
一方、単純移動平均を用いたノイズ除去は、例えば、あるサンプリング点周辺のn個のサンプリング点において重み付けのない移動平均を計算して、そのサンプリング点の値とする方法とすることができる。なお、非特徴区間のノイズ除去法も、上記例に限られない。
【0039】
上記例では、波形の形状が比較的シャープになる箇所で効果の高い重み付け移動平均法や周波数に依存したノイズ除去方法を、特徴区間に用いている。一方、波形がなだらかな形状となる箇所で効果の高い単純移動平均法を非特徴区間に用いている。このように、波の形状によってノイズ除去の効果は異なる。そのため、上記例に限らず、ノイズ除去処理を行う区間の波形に応じてノイズ除去手法を切り替えて適用することが好ましい。例えば、ある区間の波形の形状に応じて適用するノイズ除去手法を設定することにより、その区間において元の波形の特徴をノイズ除去後にどの程度強く残すかを制御することができる。
【0040】
[解析部12]
解析部12は、ノイズ除去部11によりノイズが除去された測定データに対して波形解析処理を実行する。波形解析処理は、例えば、測定データが示す波形を、試料に含まれる成分ごとの波形に分離する処理とすることができる。測定対象成分の波形を特定することにより、測定対象成分の定量分析が可能になる。分析の結果は、解析データとして記録部13に記録され、出力部14によって、例えば、分析装置10のディスプレイ(図示せず)等に出力される。
【0041】
ここで、解析部12による波形解析について説明する。例えば、分光測定による定量定性分析においては、一つの試料中に含まれる複数の成分が、それぞれ異なる吸光特定を有することが多い。この場合、各成分に対応する波形は単一のピークを有する波形であったとしても、それらが重なると多数のピークを有する複雑な複合波形となって測定データに現れる。また、一つの化合物であっても、その構造上複数の光吸収部位が存在する場合、それぞれの吸収部位に応じた波形が重なり合った複合波形の測定データが得られる。このような複合波形を、各吸光特性に応じた成分に分離・解析することにより、試料に含まれる成分や構造の特定が可能になる。
【0042】
各成分や構造に対応する波形を特定するためのデータ処理として、各成分また構造の特性を複数のパラメータ群で表し、パラメータの値を順次更新して測定データとの誤差を最小にしたパラメータ群を得る、最適化処理(フィッティング処理)が挙げられる。最適化処理の一例として、複合波形をコンポーネント波形に分離する波形分離方法を用いた処理がある。例えば、カーブフィッティング法、またはカーブリゾルビング法である。これらの方法では、複合波形は、複数の独立した波形成分に分解される。各波形成分は、ローレンツやガウス波形など簡単な解析関数を用いて表すことができる。各波形成分の解析関数のパラメータ(ピーク位置、ピーク高さ、半値幅等)を逐次反復変化させながら、合成重畳する処理を繰り返し、各波形成分の合成波形を測定データの波形に近づけることができる。例えば、最小二乗法等を用いて、合成波形が測定データに近くなる、最適な各波形成分のパラメータを決定することができる。このようにして得られた各波形成分のピークの、ピーク面積とピーク高さとピーク位置を計算することで、各成分または構造の定量解析がなされる。
【0043】
なお、解析部12による解析処理は、上記フィッティング処理に限られない。例えば、微分法を用いた解析も可能である。微分法を用いた場合、解析部12は、測定データの波形(例えば、クロマトグラム)に沿って順次その傾きを計算し、傾きが予め設定された値以上になったときをピーク開始位置とし、負の傾きが予め設定された値以下となったときをピーク終了位置と判定することができる。そして、ピーク開始位置とピーク終了位置の間を成分ピークとし、成分ピーク内の極大点をピーク位置として、ピーク面積とピーク高さとを計算することができる。上記の解析部12の波形解析の説明は、本実施形態のみならず、下記の本発明の実施形態全てに適用することができる。
【0044】
解析部12は、ノイズ除去部11によりノイズ除去された後の測定データに対して、上記の波形解析を実行する。そのため、波形の特徴点を劣化させることなく効率的にノイズが除去された測定データに対して波形解析処理を実行することができる。その結果、処理結果の精度が向上する。
【0045】
[ノイズ除去部11の動作例1]
図3は、ノイズ除去部11が吸光度波形のノイズを除去する処理の一例を示すフローチャートである。図3に示す例では、ノイズ除去部11は、検出器2で検出された吸光度データを取得する(S1)。ここで、吸光度データは、一例として、図2に示すような階段状の波形を示す時系列データとする。
【0046】
次に、ノイズ除去部11は、平均化区間幅を設定する(S2)。平均化区間幅は、例えば、後のノイズ除去処理(S6、S7)における移動平均を取る幅(サンプリング数)とすることができる。本例では、平均化区間は、移動平均を取る区間である。平均化区間幅は、例えば、予め設定された値を用いてもよいし、測定データのサンプリング間隔(サンプリング周波数)に応じて算出してもよい。
【0047】
ノイズ除去部11は、解析対象とする測定データの全区間における変化量(全データの変化量)を計算する(S3)。ここでは、一例として、全区間における最大値と最小値の差を、全区間のデータ幅で割った値を、全データの変化量として算出している。データ幅は、例えば、全データのサンプリング数とすることができる。
【0048】
ノイズ除去部11は、1つの平均化区間内の変化量を計算する(S4)。ここでは、一例として、平均化区間における極大値と極小値の差を、その平均化区間の幅(区間幅)で割った値を、平均化区間内の変化量として算出している。区間幅は、例えば、平均化区間におけるサンプリング数とすることができる。
【0049】
ノイズ除去部11は、S3で計算した全データの変化量と、S4で計算した平均化区間内の変化量とを比較する(S5)。このように、本例では、ノイズ除去部11は、ノイズ除去手法の切り替えの閾値にデータの変化量を用いている。
【0050】
全データの変化量より平均化区間の変化量が大きい場合(S5でYES)、ノイズ除去部11は、Savitzky-Golay法を用いたノイズ除去を実行する(S6)。具体的には、ノイズ除去部11は、Savitzky-Golayの式を用いて、その平均化区間における移動平均を計算する。
【0051】
平均化区間の変化量が全データの変化量を越えない場合(S5でNO)、ノイズ除去部11は、単純移動平均法によるノイズ除去を実行する(S7)。具体的には、ノイズ除去部11は、その平均化区間における重み付けのない移動平均を計算する。
【0052】
S6又はS7のノイズ除去処理が終了すると、ノイズ除去部11は、平均化区間を1つ進めて(S8)、次の平均化区間について、S4、S5、(S6又はS7)及びS8の処理を繰り返す。このようにして、ノイズ除去部11は、対象とする測定データの終端になるまで(S9でYESとなるまで)、平均化区間を進めてノイズ除去処理を繰り返す。
【0053】
上記処理では、特徴部と非特徴部とで切り替えるノイズ除去手法を、Savitzky-Golay法と単純移動平均法としている。Savitzky-Golay法は、波形の特徴点を劣化させることなくノイズを除去するのに効果的な手法であるが、波形が平坦な部分においては、単純移動平均法ほどのノイズ除去効果を望むことは難しい。一方、単純移動平均法は、平坦部分に効果的な手法であるが、データ自体がなまってしまう欠点がある。そこで、Savitzky-Golay法と単純移動平均法とを、上記のように値の変化量に応じて切り替えることにより、互いの弱点を補って、効果的にノイズ除去ができる。その結果、波形の特徴点の形状を保つことができ、平坦部のノイズも効果的に除くことができる。
【0054】
[ノイズ除去部11の動作例2]
図4は、ノイズ除去部11が微分後波形のノイズを除去する処理の一例を示すフローチャートである。図4に示す例では、ノイズ除去部11は、微分処理後の吸光度データ(微分波形データ)を取得する(S11)。ここで、微分波形データは、検出器2によって得られる吸光度の波形データ(例えば、図2参照)を微分又は差分する演算によって求めた波形とする。
【0055】
次に、ノイズ除去部11は、平均化区間幅を設定する(S12)。また、ノイズ除去部11は、微分波形データにおける平坦部(ピークを形成していない部分)の標準偏差S.D.を計算する(S13)。
【0056】
ノイズ除去部11は、1つの平均化区間内の値と、S13で計算したS.D.とを比較する(S14)。例えば、ノイズ除去部11は、平均化区間内で5S.D.より大きい値があるか否かを判断する。このように、本例では、ノイズ除去部11は、ノイズ除去手法の切り替えの閾値に値の大きさを用いている。
【0057】
平均化区間内の値が5S.D.より大きい場合(S14でYES)、ノイズ除去部11は、Savitzky-Golay法を用いたノイズ除去を実行する(S15)。平均化区間の値が5S.D.を越えない場合(S14でNO)、ノイズ除去部11は、単純移動平均法によるノイズ除去を実行する(S16)。
【0058】
S15又はS16のノイズ除去処理が終了すると、ノイズ除去部11は、平均化区間を1つ進めて(S17)、次の平均化区間について、S14、(S15又はS16)及びS17の処理を繰り返す。このようにして、ノイズ除去部11は、対象とする測定データの終端になるまで(S18でYESとなるまで)、平均化区間を進めてノイズ除去処理を繰り返す。
【0059】
上記処理では、ノイズ除去手法の切り替えの閾値にデータ(信号強度)の大きさを用いている。これにより、値が閾値を越えない部分、すなわちピーク以外の平坦部では、ノイズ除去効果の大きいノイズ除去法を用いてノイズを除去し、値が閾値を越えるピーク部分では、ピーク形状を強く残すことができるノイズ除去法を用いてノイズを除去することができる。これは、例えば、微分波形の一例であるクロマトグラムにおいて特に有効である。ピークの形状がノイズ除去処理により変形するのを抑えることができるので、ピークの位置、面積などの計算精度を向上させることができる。
【0060】
なお、S14の判断処理は、上記の平坦部の標準偏差を用いる処理に限られず、平坦部とピーク部とを判別する処理でれば、任意の判断処理とすることができる。例えば、平均化区間の値と比較する値は、3S.D.から5S.D.の値が好ましく用いられる。また、標準偏差を用いなくても、予め決められた固定値と、平均化区間内のデータとを比較することもできる。
【0061】
ノイズ除去処理は、上記の2例に限られない。平均化区間は任意であり特定の態様に限定されない。また、Savitzky-Golay法と単純移動平均法の組み合わせは一例であり、その他同等のノイズ除去の組み合わせを採用することができる。また、ノイズ除去処理の切り替えは、データ変化量や値の大きさ等の判定値と閾値との比較結果に基づいて行っているが、例えば、判定値が閾値に近い場合等は、2以上のノイズ除去法を混合したノイズ除去を実行することができる。
【0062】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の適用範囲は、上記第1の実施形態に限定されない。
【0063】
例えば、図5に示すように、データ処理装置1が、ノイズ除去部11、ピーク判定部15、解析部12を含む構成であってもよい。この場合、ノイズ除去部11がノイズ除去した測定データに対して、ピーク判定部15が、測定データにおいて、前記測定データにおいて、目的とする前記信号強度のピークの位置を特定する。記録部13は、目的とするピークの出現位置を示す基準データを予め記録する。ピーク判定部15は、記録部13の基準データを用いて、目的とするピークを含む区間を切り出すことができる。解析部12では、ピーク判定部15が特定した位置におけるピークの波形解析のための初期値を他のピークとは別に設定し、フィッティング処理を実行する。解析部12は、測定データに対して、測定データの波形を表すパラメータの初期値を設定し、当該パラメータを変更して評価する処理を順次繰り返し、最適化するフィッティング処理を実行する。また、解析部12は、フィッティング処理において、前記繰り返しが所定回数に達しないうちに、より良い評価が得られなくなった場合、再度初期値を設定し、前記フィッティング処理を実行することもできる。これにより、最適化演算の結果がより正確なものとなる。
【0064】
また、測定データは、クロマトグラムに限定されない。また、上述した、HPLC法、キャピラリ電気泳動法(CE法)、又はキャピラリ電気クロマトグラフィ法等の分離分析方法を用いた分析装置の他に、その他の分光分析、分離分析等の分析装置にも、上記データ処理装置を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、例えば、分離分析法等を用いた分析装置の分野において、分析結果の精度向上のために、利用または使用することが可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 データ処理装置
2 検出器
4 分離デバイス
5 測定部
10 分析装置
11 ノイズ除去部
12 解析部
13 記録部
14 出力部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料から分離された対象成分を検出して得られる信号強度の時間変化または位置変化を示す測定データを処理するデータ処理装置であって、
前記測定データのノイズ除去を、所定の条件に基づきノイズ除去手法を切り替えながら実行するノイズ除去部と、
前記ノイズ除去部によってノイズ除去された測定データに対して波形解析処理を実行する解析部とを、備える、データ処理装置。
【請求項2】
前記ノイズ除去部は、前記測定データにおいて前記信号強度の波形の特徴部を含む特徴区間と、前記特徴部がないか又は少ない非特徴区間とを判定し、それぞれの区間で異なるノイズ除去手法を用いてノイズ除去を実行する、請求項1に記載のデータ処理装置。
【請求項3】
前記ノイズ除去部は、前記信号強度の変化量を基に、前記特徴区間の判定を行う、請求項2に記載のデータ処理装置。
【請求項4】
前記ノイズ除去部は、前記信号強度の大きさを基に、前記特徴区間の判定を行う、請求項2に記載のデータ処理装置。
【請求項5】
前記ノイズ除去部は、前記特徴区間においては、波形の特徴を強く残すノイズ除去手法を用い、前記非特徴区間では、重み付けのない単純移動平均を用いてノイズ除去を行う、請求項2〜4のいずれか1項に記載のデータ処理装置。
【請求項6】
試料から分離された対象成分を検出して得られる信号強度の時間変化または位置変化を示す測定データの処理をコンピュータに実行させるデータ処理プログラムであって、
前記測定データのノイズ除去を、所定の条件に基づきノイズ除去手法を切り替えながら実行するノイズ除去処理と、
前記ノイズ除去処理によってノイズ除去された測定データに対する解析処理とを、コンピュータに実行させる、データ処理プログラム。
【請求項7】
試料から分離された対象成分を検出して得られる信号強度の時間変化または位置変化を示す測定データをコンピュータが処理するデータ処理方法であって、
コンピュータが、前記測定データのノイズ除去を、所定の条件に基づきノイズ除去手法を切り替えながら実行するノイズ除去工程と、
前記ノイズ除去部によってノイズ除去された測定データに対して波形解析処理をコンピュータが実行する解析工程とを含む、データ処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−177568(P2012−177568A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39563(P2011−39563)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)