説明

データ処理装置

【課題】ランダムなノイズを有する時間軸や空間軸のデータにおいて、高周波部分や高SNR部分のデータを保持しつつノイズを選択的に低減させるようにSNRに対して適応的にデータを補正する。
【解決手段】データ処理装置は、ノイズを有する投影データの信号強度が投影データのSNRと非線形相関または負相関の関係にある場合に信号強度がSNRと正相関の関係となるように投影データを変換する手段と、信号強度がSNRと正相関の関係である投影データに基づいて投影データのSNR分布データを作成する手段と、投影データに対してフィルタ処理を施すことで投影データのSNRを向上させたフィルタ処理データを生成する手段と、SNR分布データに基づいて重み関数を作成する手段と、重み関数を用いて投影データとフィルタ処理データとの重み付き演算を行うことで補正データを作成する手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ランダムなノイズを有する時間軸や空間軸のデータにおけるノイズを低減することでSNR(signal to noise ratio)を向上させるデータ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空間軸や時間軸を有するデータに存在するランダムなノイズを低減するためにフィルタリングが行われている。ノイズ低減用のフィルタには、時間的および空間的にフィルタ強度が変わらない線形(linear)フィルタの他、データに応じてフィルタ強度を決定する適応型フィルタがある。空間的または時間的なランダムノイズを低減する適応型フィルタとしては、構造適応型フィルタやSNR適応型フィルタが提案されている。
【0003】
構造適応型フィルタは、データの構造に応じてフィルタ強度を決定し、エッジ、ライン、点などの高周波成分の局所的な構造を保持するようにしたフィルタである。構造適応型フィルタには、エッジやラインの方向を検出し、検出したエッジやラインの方向に応じてフィルタリングの方向を制御するタイプやフィルタ強度を制御するタイプがある。
【0004】
例えば、画像データから検出したエッジに応じてフィルタ強度を制御する構造適応型フィルタとして、シグマフィルタと呼ばれるフィルタが知られている。シグマフィルタは、画像データにおける中間周波成分または高周波成分を強調したデータから重み関数を作成し、作成した重み関数を用いて画像データと中間周波成分または高周波成分を強調したデータとを重み付加算することによって画像データにおけるエッジを保存しつつノイズを低減する、いわゆるエッジ保存(edge preservation)またはエッジ強調(edge enhancement)を行うフィルタである。
【0005】
このシグマフィルタによるデータの補正処理(フィルタリング)は、フィルタリングの対象となる一次元の位置(x)における原データをSorig(x)、原データSorig(x)にハイパスフィルタ(HPF: high pass filter)を掛けることによって得られる高周波成分(high pass filtered data)をShigh(x)、原データSorig(x)にローパスフィルタ(LPF: low pass filter)を掛けることによって得られる低周波成分(low pass filtered data)をSlow(x)、重み関数をWhigh(x)、フィルタリング後の補正データをScor(x)とすると、式(1-1)および式(1-2)のように表すことができる。
【0006】
[数1]
Whigh(x)=Shigh(x)/max[Shigh(x)] (1-1)
Scor(x)=Whigh(x)*Sorig(x)+{1-Whigh(x)}Slow(x) (1-2)
【0007】
すなわち、式(1-1)に示すように、原データSorig(x)のエッジ部分として高周波成分Shigh(x)が抽出され、抽出された高周波成分Shigh(x)は高周波成分Shigh(x)の最大値max[Shigh(x)]で正規化される。そして、この正規化された高周波成分が重み関数Whigh(x)とされる。次に、重み関数Whigh(x)を用いて原データSorig(x)とsmoothingデータである低周波成分Slow(x)とが重み付け加算されることによって補正データScor(x)が得られる。
【0008】
一方、SNR適応型フィルタは、データのSNRに応じてフィルタ強度を最適化するようにしたフィルタである。SNR適応型フィルタの具体例としては、Wiener Filter (WF)が提案されている。より具体的には、通常の周波数空間で作用するFourier WF (FTW)やフレネル変換で帯域分割して得られるFREBAS空間で作用するFREBAS WF (FRW)が提案されている(例えば非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】伊藤聡志, 山田芳文: 「フレネル変換の複式解法を利用したMR映像のSNR改善法」(英語名:Ito S, Yamada Y. “Use of Dual Fresnel Transform Pairs to Improve Signal-to-Noise Ratio in Magnetic Resonance Imaging)”Med. Imag. Tech. 19 (5), 355-369 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来提案されているFTWは、周波数空間における処理によってデータのSNRを向上させるフィルタである。一般に周波数空間ではノイズ成分(N)はほぼ一定であるが、信号成分は高周波ほど低減するため、WFを用いてデータのSNR補正を行うとデータの高周波成分における劣化が避けられないという問題がある。一方、FREBAS空間はある程度の空間情報維持した空間なので、FRWはFTWに比べて、エッジ等の高周波成分を多少は保存し得るフィルタであるが、低周波成分のSNRには適応的には作用しないという問題がある。このように、広い周波数帯域に亘ってSNRの空間分布に応じて適応的に作用するSNR適応型フィルタは特に提案されていない。
【0011】
SNRはデータの周波数のみならず位置にも依存する。すなわちSNRは実データ空間において一様ではなく高信号部分ほど大きく低信号部分ほど小さい。
また、SNRはデータを視覚的に表示する表示系における処理によって影響を受ける場合がある。
【0012】
さらに、多様なモダリティや各モダリティにおいて画像処理されたデータの中には、データの値とSNRが正相関しないものがある。データの値とSNRが正相関しないデータの例としては、特にX線コンピュータ断層撮影(CT: computed tomography)装置において得られるCT値や磁気共鳴イメージング(MRI: Magnetic Resonance Imaging)装置において得られる拡散係数(ADC: Apparent Diffusion Coefficient)等の処理データが挙げられる。
【0013】
尚、ADCを求めるための拡散強調信号は傾斜磁場因子bに応じて変化し、SNRと負相関する。しかし、ADCは、拡散強調信号の信号強度S(b)から式(2)により算出される。このため、S(b)<S(0)の場合に拡散強調信号の信号強度S(b)が大きくなると、ADCの値は小さくなる。すなわち、ADCのSNRは、拡散強調信号の信号強度S(b)のSNRに対して非線型の相関を示す。また、ADCのSNRは、拡散強調信号S(b)からみれば、S(0)/S(b)=3のときピークを有する関係となる。さらに、ADCのSNRをADCの値との関係でみれば、b×ADC=1.1のときにピークを有することとなる。
【0014】
[数2]
ADC = ln{S(0) / S(b)}/b (2)
【0015】
このため、データの値とSNRとが正相関する場合と正相関しない場合とでSNRの最適化処理方法が異なることとなる。しかしながら、現状では、データの値とSNRとが正相関するか否かが考慮されているフィルタは提案されていない。
【0016】
本発明の一実施形態は、ランダムなノイズを有する時間軸や空間軸のデータにおいて、高周波部分や高SNR部分のデータを保持しつつノイズを選択的に低減させるようにSNRに対して適応的にデータを補正することが可能なデータ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
一実施形態のデータ処理装置は、ノイズを有する投影データの信号強度が前記投影データのSNRと非線形相関または負相関の関係にある場合に信号強度がSNRと正相関の関係となるように投影データを変換する変換手段と、信号強度がSNRと正相関の関係である投影データに基づいて投影データのSNR分布データを作成するSNR分布データ生成手段と、投影データに対してフィルタ処理を施すことで投影データのSNRを向上させたフィルタ処理データを生成するフィルタ処理手段と、SNR分布データに基づいて重み関数を作成する重み関数作成手段と、重み関数を用いて投影データとフィルタ処理データとの重み付き演算を行うことで補正データを作成する補正データ作成手段とを有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一実施形態に係るデータ処理装置では、ランダムなノイズを有する時間軸や空間軸のデータにおいて、高周波部分や高SNR部分のデータを保持しつつノイズを選択的に低減させるようにSNRに対して適応的にデータを補正できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るデータ処理装置の実施の形態を示す構成図。
【図2】図1に示す画像診断装置がX線CT装置である場合におけるデータ処理部の処理手順を示すフローチャート。
【図3】図1に示す画像診断装置がX線CT装置である場合にデータ処理装置の処理対象データとして収集された投影データを示す図。
【図4】図1に示す画像診断装置がMRI装置である場合にデータ処理装置の処理対象データとしてradial scanによって収集された投影データを示す図。
【図5】図1に示すデータ処理装置により処理対象データのデータ値に対してSNRに適応的にノイズ低減処理を行うための処理手順を示すフローチャート。
【図6】図1に示すデータ処理装置において、処理対象データのデータ値に対してSNRに適応的にノイズ低減処理を行うために行われる演算の手順を示すフローチャート。
【図7】図6に示す演算によってそれぞれ生成されるローパスフィルタ処理データ、重み関数、エッジ部分用の重み関数および補正データの一例を時系列に示す図。
【図8】図1に示すデータ処理装置において、SNR分布関数を非線形変換することによって重み関数を作成する場合に用いられる非線形関数の例を示す図。
【図9】図1に示すデータ処理装置において、SNRに対してピークを有する非線形の相関関係を有する原データをSNR分布作成用の非線形関数で変換することによって得られるSNR分布関数をそのまま重み関数とする場合の例を示す図。
【図10】図1に示すデータ処理装置によりウィンドウ変換に用いられる情報を用いて重み関数を作成することによって処理対象データのデータ値に対してSNRに適応的にノイズ低減処理を行うための処理手順を示すフローチャート。
【図11】図1に示す画像診断装置のデータ処理部において画像データを線形ウィンドウ変換する場合の例を示す図。
【図12】図10のステップS31において、ウィンドウ設定値に基づく変換関数を用いてSNR分布関数を変換することにより重み関数を作成する場合の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0021】
(構成および機能)
図1は、本発明の一実施形態に係るデータ処理装置の実施の形態を示す構成図である。
データ処理装置1は、コンピュータ2にプログラムを読み込ませることによって構築される。
【0022】
ただし、各種機能を備えた回路を設けることによってデータ処理装置1を構成することもできる。データ処理装置1は、時間軸および空間軸の少なくとも一方を有するデータに重畳するランダムなノイズを低減することによりSNRを向上させるデータ処理を行う機能を備えている。特に、データ処理装置1は、データの高周波部分や高SNR部分のデータを保持しつつノイズを選択的に低減させるようにSNRに対して適応的にデータを補正する機能を備えている。
【0023】
データ処理装置1による補正対象となる処理対象データとしては、ランダムなノイズを有し、時間軸および空間軸の少なくとも一方を有するデータであればあらゆるデータを適用することが可能である。例えば、医用診断装置にデータ処理装置1を内蔵し、医用診断装置において収集された生データ、画像データまたは時間軸データ等の収集データをデータ処理装置1による処理対象データとすることができる。ただし、医用機器において得られたデータに限らずデジタルカメラにより撮影した画像、衛星写真、動画像等のデジタル画像をデータ処理装置1の処理対象データとすることができる。
【0024】
時間軸を有する処理対象データの例としては、脳波(EEG: electroencephalogram)、心電図(ECG: electro cardiogram)、筋電図(EMG: electromyogram)、心磁図(MCG: magnetocardiogram)、筋磁図(MMG: magnetomyogram)、脳磁図(MEG: magnetoencephalogram)が挙げられる。また、空間軸を有する処理対象データの例としては、医用画像診断装置において収集されたデータが挙げられる。さらに、医用画像診断装置の具体例としては、単純レ(X)線診断装置、デジタルフルオログラフィ(DF: digital fluorography)装置、コンピュータ断層撮影(CT: computed tomography)装置、MRI装置、単光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT :single photon emission computed tomography)装置、陽電子放出コンピュータ断層撮影(PET: positron emission computed tomography)装置、超音波(US: ultrasonic)診断装置が挙げられる。
【0025】
また、医用画像診断装置において収集されたデータを処理対象データとする場合には、画像データや時間軸データのみならず、投影(projection)データを処理対象データとすることができる。投影データには、単純レ線装置、CT装置、SPECT装置、PET装置、MRI装置等の医用画像診断装置において得られる投影データがある。また、他の実用的な処理対象データとしては、MRI装置において得られるT1(縦緩和時間)強調画像(weighted image)、T2(横緩和時間)強調画像(weighted image)、ADCが挙げられる。
【0026】
従って、データ処理装置1は、医用画像診断装置や脳波計等の医用機器に内蔵することも可能であるし、ネットワークを介して医用画像診断装置と接続することもできる。図1は、データ処理装置1を画像診断装置3に内蔵した場合の例を示している。
【0027】
画像診断装置3は、センサ4、データ記憶部5、データ処理部6、入力装置7および表示装置8を備えている。センサ4は、処理対象データを計測、検出または受信することによって取得する機能を備えている。画像診断装置3がMRI装置である場合には、RF (radio frequency)コイルがセンサ4であり、画像診断装置3がX線CT装置である場合にはX線検出器がセンサ4である。
【0028】
データ記憶部5は、センサ4において取得された処理対象データを記憶する機能を備えている。データ処理部6は、データ記憶部5から処理対象データを取得して、画像診断装置3における画像データの生成に必要なデータ処理を行う機能と、データ処理後の処理対象データをデータ記憶装置に書き込む機能を有する。
【0029】
そして、データ処理装置1はデータ記憶部5から処理対象データを取得してノイズ低減補正を行うことによって補正データを生成し、生成した補正データをデータ記憶装置に出力するように構成されている。そのために、データ処理装置1は、データ取得部9、ローパスフィルタ部10、重み関数作成部11、エッジ強調部12および重み付け加算部13を有する。
【0030】
データ取得部9は、医用画像診断装置や脳波計等の医用機器(図1の例では、画像診断装置3のデータ記憶装置)から空間的または時間的にランダムなノイズを有する処理対象データを取得して原データとしてローパスフィルタ部10、重み関数作成部11およびエッジ強調部12に与える機能を有する。また、データ取得部9には、処理対象データの値が処理対象データのSNR分布と非線形相関または負相関である場合に、処理対象データの値がSNR分布と正相関するように処理対象データを変換して原データとしてローパスフィルタ部10およびエッジ強調部12に与える機能が必要に応じて備えられる。
【0031】
ローパスフィルタ部10は、データ取得部9から取得した原データに線形または非線形のローパスフィルタリングを行うことにより、ノイズを低減したローパスフィルタ処理データを生成する機能と、ローパスフィルタ処理データを重み関数作成部11および重み付け加算部13に与える機能を有する。
【0032】
重み関数作成部11は、データ取得部9から取得した原データに基づいてSNR分布データを求め、SNR分布データを反映させた重み関数を作成する機能と、作成した重み関数を重み付け加算部13に与える機能とを有する。ただし、入力装置7からSNR分布および重み関数をローパスフィルタ部10において生成されたローパスフィルタ処理データから作成する指示がデータ処理装置1に入力された場合には、重み関数作成部11は、ローパスフィルタ部10からローパスフィルタ処理データを取得し、ローパスフィルタ処理データに基づいてSNR分布データおよび重み関数を作成するように構成される。
【0033】
エッジ強調部12は、入力装置7から処理対象データのエッジ強調処理を行う指示がデータ処理装置1に入力された場合に、データ取得部9から原データを取得し、原データにおいて保存すべきエッジ、ライン、点状の構造部分に相当するエッジ部分を抽出する機能、抽出したエッジ部分の値に基づいてエッジ部分用の重み関数を求める機能、抽出したエッジ部分の値および求めたエッジ部分用の重み関数を重み付け加算部13に与える機能を有する。また、入力装置7から処理対象データのエッジ強調処理を行わない指示がデータ処理装置1に入力された場合には、エッジ強調部12は、必要に応じて常にゼロの値をとるエッジ部分用の重み関数を重み付け加算部13に与えるように構成される。
【0034】
重み付け加算部13は、重み関数作成部11から取得した重み関数を用いてデータ取得部9から取得した原データおよびローパスフィルタ部10から取得したローパスフィルタ処理データを、エッジ強調部12から取得したエッジ部分用の重み関数を用いてエッジ強調部12から取得した原データのエッジ部分を、それぞれ重み付け加算することによってランダムなノイズを低減させた補正データを生成する機能を有する。また、重み付け加算部13は、入力装置7から出力先を示した出力指示がデータ処理装置1に入力された場合に、生成した補正データを指定された出力先に出力させるように構成される。図1の例では、重み付け加算部13は、補正データを画像診断装置3のデータ記憶部5に出力するように構成されている。ただし、重み付け加算部13が表示装置8またはネットワークを介して所望の機器に補正データを出力させるように構成しても良い。
【0035】
つまり、データ処理装置1は信号強度とSNRが正相関の関係にある原データから原データのSNR分布を求め、SNR分布に基づいて高SNR部分ほど重みが大きく、低SNR部分ほど重みが小さい重み関数を作成する。さらに、原データに対してローパスフィルタリングを行うことによってスムージングを施したローパスフィルタ処理データと、原データとをSNR分布に応じた重み関数を用いて重み付け加算することによって、高SNR部分ほど弱い強度でローパスフィルタリングされ、かつ低SNR部分ほど強い強度でローパスフィルタリングした補正データを得ることができる。
【0036】
このようにして得られた補正データは、高SNR部分ほど原データが保存され、低SNR部分ほど強い強度のスムージングによってノイズ低減されたデータとなる。つまり、補正データは不均一なノイズを有するデータに対して、不均一なノイズ低減処理を施したデータとなる。また、付加的に、原データからエッジ部分を抽出して重み付け加算することによってエッジ強調を行うこともできる。
【0037】
(動作)
次にデータ処理装置1の動作および作用について説明する。
尚、ここでは処理対象データが画像診断装置3において収集されたデータであり、かつ重み関数をローパスフィルタ部10において生成されたローパスフィルタ処理データから作成する場合について説明する。
【0038】
まず予め画像診断装置3のセンサ4において被検体の処理対象データが収集され、収集された処理対象データがデータ記憶部5に記憶される。データ記憶部5に記憶された処理対象データは、画像データの生成のためのデータ処理部6におけるデータ処理の対象とされる。しかし、処理対象データにランダムなノイズが存在する場合には、データ処理の過程においてノイズ低減補正を処理対象データに施すことが重要となる。ここで、どの処理が終わったタイミングでノイズの低減処理を行うかによって、処理対象データがSNR分布と非線形相関(または負相関)の関係になる場合と、正相関の関係になる場合とがある。
【0039】
具体例として、X線CT装置において収集された投影データをデータ処理装置1の処理対象データとする場合について説明する。
【0040】
図2は、図1に示す画像診断装置3がX線CT装置である場合におけるデータ処理部6の処理手順を示すフローチャートであり、図中Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
【0041】
図2に示すようにステップS1においてX線CT装置のセンサ4であるX線検出器により被検体を透過したX線が検出される。そして、X線検出器からは、純生データとして透過線量分布I/I0が出力される。次に、ステップS2においてデータ処理部6において純生データである透過線量分布I/I0に対する対数変換や感度補正を含む前処理が行われる。これにより透過線量分布I/I0は、吸収係数μの積分値に変換される。そして、X線CT装置では、X線の透過線量分布I/I0ではなく、前処理後におけるX線の吸収係数μの積分値が生データとしてデータ記憶部5に保存される場合が多い。
【0042】
次に、ステップS3において、データ処理部6において生データは、水補正を含む後処理に施されて水補正データとなる。次にステップS4において、データ処理部6において水補正データに逆投影(back projection)処理が施されることによって逆投影データとなる。次に、ステップS5において、1枚の画像に対応する複数の逆投影データの画像再構成処理によって、1枚分の画像データが生成される。尚、逆投影処理前における純生データ、生データおよび水補正データは、総称して投影データと呼ばれる。
【0043】
図3は、図1に示す画像診断装置3がX線CT装置である場合にデータ処理装置1の処理対象データとして収集された投影データを示す図である。
【0044】
尚、ここでは簡単のため投影データが投影方向に垂直なx軸方向に1次元の分布を有する場合について説明する。従って、処理対象データによっては、x軸方向のみならず、x軸と交わるy軸方向やz軸方向に分布を有する場合もある。また、処理対象データが時間軸データである場合には、時間t軸方向にも分布を有することとなる。後述する空間軸や時間軸を有する図7等の各図に示されるデータについても同様であり、x軸、y軸、z軸、t軸方向に分布するn次元データ(nは自然数)となる場合もある。
【0045】
図3(a)は、処理対象データの検出対象となる被検体の断面図、図3(b)は、図3(a)に示す被検体を透過したX線がX線CT装置のセンサ4であるX線検出器により検出された位置xにおけるX線の透過線量分布I/I0、図3(c)は、図3(b)に示すX線の透過線量分布I/I0に基づいて得られる位置xにおけるX線の吸収線量分布ln(I0/I)、図3(d)は、図3(c)に示すX線の吸収線量のSNR分布Ssnr(x)を示す。
【0046】
図3(a)に示すように被検体の断面は脂肪で覆われており、内部に骨や臓器が存在する。このような被検体に対してX線検出器が具備する複数の検出素子のうち1つ当たりI0の入射カウント値のX線が照射される。そうすると、各X線検出素子において被検体を透過したX線が検出される。そして、図3(b)に示すようなX線の透過線量分布I/I0がX線検出器から出力される。X線の透過線量分布I/I0は、被検体への検出素子1つ当たりの入射カウント値I0および被検体からのX線の出力カウント値である透過線量、すなわち被検体透過後に1つの検出素子が受けるX線のカウント値Iの透過線量比である。
【0047】
被検体へのX線の入射カウント値I0と被検体からのX線の出力カウント値Iは、ある投影線(パス)p上におけるX線の吸収係数をμ(p)とすると式(3)の関係にある。
【0048】
[数3]
I= I0 exp[-∫pμ(p)dp] (3)
【0049】
従って、式(3)よりX線の透過線量分布I/I0の逆数を対数変換して得られるX線の吸収線量分布は、式(4)に示すように吸収係数μ(p)の積分値となる。
【0050】
[数4]
pμ(p)dp =ln [I0/I] (4)
【0051】
図3(b)に示すようにX線の透過線量分布I/I0、すなわち純生データの信号値は、SNRと正の相関関係を有する。すなわち、X線の透過線量分布I/I0は、骨(カルシウム)や人工骨頭等のメタル物質のように、X線の吸収の度合いを示す吸収係数が大きい物質を通過するパスでは小さくなる。特に、X線検出素子の感度がチャンネル間で一定であると仮定すると、各検出素子におけるカウント値IのSNR分布Ssnrは、X線の透過線量分布I/I0に比例することとなる。すなわち、式(5)が成立する。
【0052】
[数5]
Ssnr∝I/I0 (5)
【0053】
一方、X線の吸収係数μ(p)の分布を示す位置xにおける吸収線量分布ln [I0/I]、画像再構成後の吸収係数μ(x)およびCT値(CT#)は、図3(c)および(d)に示すようにSNRと非線形の相関関係を有する。具体的には、吸収線量分布ln [I0/I]はI0/I=3のときにSNRがピークとなるような非線形関係をSNRとの間に有する。すなわち、骨等の吸収係数が大きい物質を通過するパスや殆ど吸収がないパスではSNRが小さくなる。尚、図3(a)に示す被検体の断層像では、輝度によってCT値の分布を示している。
【0054】
次に、別の具体例として、MRI装置において収集された投影データをデータ処理装置1の処理対象データとする場合について説明する。
図4は、図1に示す画像診断装置3がMRI装置である場合にデータ処理装置1の処理対象データとしてradial scanによって収集された投影データを示す図である。
【0055】
図4(a)は、処理対象データの検出対象となる被検体の断面図、図4(b)は、MRI装置においてradial scanによって図4(a)に示す被検体から収集された位置xにおけるMR (magnetic resonance)信号強度I(x)=∫Sx(p)dpまたはSNR分布Ssnr(x)を示す図である。
【0056】
尚、radial scanは、傾斜磁場を変化させてk空間(フーリエ空間)上において原点を通る放射状にデータを収集するスキャンである。k空間では、投影方向に直交し、かつ中心を通るデータが投影データに相当する。従って、radial scanによって収集されたMR信号は投影データに相当する。
【0057】
図4(a)に示すように被検体の断面は脂肪で覆われており、内部に骨や臓器が存在する。このような被検体からradial scanによってある方向を投影方向としてMR信号を収集すると、図4(a)に示すような投影方向に垂直な位置xにおいて信号強度I(x)=Sx(p)dpを有するMR信号またはSNR分布Ssnr(x)が得られる。図4(a)に示すように、radial scanによって収集されたMR信号の信号強度Sx(p)dpは、通常SNR分布Ssnr(x)と正の相関を示す。
【0058】
また、radial scanに類似するデータ収集法としてPROPELLER (periodically rotated overlapping parallel lines with enhanced reconstruction)が知られている。PROPELLERは、複数の平行するk空間軌跡によって構成される帯状の領域であるブレードをk空間の原点を中心に回転させながらk空間上のデータを収集する手法である。PROPELLERによって収集されたk空間上のデータは、必ずしもk空間の中心を通らないが、radial scanによって収集されたデータと同様にデータ処理装置1の処理対象データとすることができる。この場合、ブレード内に存在する平行なデータ列の数に対応して信号強度分布を有するMR信号のセットが得られることになる。
【0059】
このように、X線CT装置、SPECT装置およびPET装置等の画像診断装置3において投影法によって得られた投影データである吸収線量分布μ(p)は値が大きいか、または小さくなるパスpを通過して得られた投影データほどSNRが低下するという非線形相関の性質があるのに対し、MRI装置における投影データに相当するradial scanによって収集されたMR信号は、信号源における磁化が大きく、信号強度が高くなるパスを通過した投影データほどSNRが向上するという性質がある。
【0060】
データ処理装置1は、上述したような信号強度がSNRと正相関の関係にある処理対象データおよび信号強度がSNRと非線形相関または負相関の関係にある処理対象データのいずれであってもノイズの低減補正処理を行うことができる。従って所望のデータを処理対象データとしてデータ処理装置1に与えることができる。そして、処理対象データがデータ処理装置1に与えられると、処理対象データに重畳するランダムなノイズを低減する補正をSNRに適応的に行うことが可能となる。
【0061】
また、処理対象データの補正処理に先立って、処理対象データのエッジ部分を保存して強調するedge enhancementを行うか否かの指示が入力装置7からデータ処理装置1に与えられる。ただし、edge enhancementを行うか否かを入力装置7からの指示情報によらず、予め決定しておいてもよい。
【0062】
図5は、図1に示すデータ処理装置1により処理対象データのデータ値に対してSNRに適応的にノイズ低減処理を行うための処理手順を示すフローチャート、図6は、図1に示すデータ処理装置1において、処理対象データのデータ値に対してSNRに適応的にノイズ低減処理を行うために行われる演算の手順を示すフローチャートであり、各図中Sに数字を付した符号はそれぞれのフローチャートの各ステップを示す。また、図7は、図6に示す演算によってそれぞれ生成されるローパスフィルタ処理データ、重み関数、エッジ部分用の重み関数および補正データの一例を時系列に示す図である。
【0063】
まず、データ取得部9は、画像診断装置3のデータ記憶部5から所定の処理対象データを取得する。ここで、取得した処理対象データの信号強度がSNRと非線形の相関関係または負相関の関係にある場合には、データ取得部9は、処理対象データの信号強度がSNRと正相関の関係になるように処理対象データを変換する。そして信号強度がSNRと正相関の関係となったデータをノイズ低減補正用の位置xにおける原データSorig(x)とする。これにより後段のステップにおいて原データSorig(x)からSNR分布データを求めることが可能となる。特に、正相関となった原データSorig(x)をそのまま後述するSNR分布関数Ssnr(x)とすることができる。
【0064】
信号I(x)と変換後のデータ強度のSNRとが負相関の関係にある場合は、データ取得部9は、例えば式(6-1)に示すように、信号I(x)の逆数をノイズ低減補正用の位置xにおける原データSorig(x)のSNR分布データを表すSNR分布関数Ssnr(x)とすることができる。一方、図4に示すようなMRI装置におけるradial scanによって収集された位置xにおける投影データの信号強度I(x)は、SNRと正の相関関係にあるため式(6-2)に示すようにそのままSNR分布関数Ssnr(x)とすることができる。
【0065】
この例に限らず、処理対象データの信号強度がSNRと非線形の相関の関係にある場合には、非線形関係を示す関数fsnrを用いて処理対象データを原データSorig(x)やSNR分布関数Ssnr(x)に変換することができる。例えば、図3(c)および(d)に示すように、処理対象データがX線CT装置において収集され、保存されたX線の吸収係数μの積分値に相当する透過線量分布I/I0の逆数の対数変換値ln[I0/I(x)]である場合には、処理対象データの信号強度がSNRと非線形の相関の関係にある。そこで、データ取得部9は例えば、式(6-3)に示すようにX線の吸収線量分布ln[I0/I(x)]を非線形関数fsnrを用いてSNR分布関数Ssnr(x)に変換することもできる。
【0066】
[数6]
Ssnr(x)=1/I(x) (6-1)
Ssnr(x)=I(x) (6-2)
Ssnr(x)=fsnr[ln{I0/I(x)}] (6-3)
【0067】
一方、処理対象データの信号強度がSNRと正相関の関係にある場合には、データ取得部9は、処理対象データをそのままノイズ低減補正用の位置xにおけるSNR分布関数Ssnr(x)とすることができる。
【0068】
通常、X線CT装置には、信号強度がSNRと非線形相関の関係にある吸収係数μの積分値∫pμ(p)dp=ln(I0/I)が原データSorig(x)として保存されることから、新たな記憶装置の設置やデータの保存を不要とする観点からは、吸収係数μの積分値である生データを処理対象データとすることが現実的である。
【0069】
尚、X線CT装置のように投影法を利用して画像データを再構成する場合には、生データ等の逆投影処理前のデータをデータ処理装置1の処理対象データとすることが効果的である。何故なら、SNRの小さいデータは逆投影処理において投影線上に均一にばらまかれるため、予めノイズの低減補正を実行してから逆投影処理した方がSNRの劣化やメタルピンの存在に起因して投影方向に引くアーチファクトの発生のリスクを低減できるためである。
【0070】
ただし、画像データを処理対象データとすることも可能であり、投影データを処理対象データとする場合と同様な手法でデータ処理装置1においてノイズの低減処理を行うことができる。
【0071】
データ取得部9は、このように取得した原データSorig(x)をローパスフィルタ部10およびエッジ強調部12に与える。
【0072】
次に、図5のステップS11において、ローパスフィルタ部10は、データ取得部9から取得した原データSorig(x)に線形または非線形のローパスフィルタリングを行う。これによりノイズを低減したローパスフィルタ処理データSlow(x)が作成される。すなわち、図6のステップS21に示すように、ローパスフィルタ部10は、原データSorig(x)にローパスフィルタHlow(x)を掛けることにより、ローパスフィルタ処理データSlow(x)を計算する。
【0073】
図7(a)において、横軸は位置x、縦軸はデータの信号強度(SI: signal intensity)を示す。また、図7(a)中の実線は、ローパスフィルタ処理データSlow(x)の例を、点線は原データSorig(x)の例を示す。図7(a)に示すように局所的な信号強度の変化を有し、かつノイズを有する原データSorig(x)にローパスフィルタリングを行うことによってスムージングされたローパスフィルタ処理データSlow(x)を作成することができる。
【0074】
尚、ローパスフィルタを線形とすれば処理を簡易にすることが可能である。逆にローパスフィルタを非線形にすれば、例えば局所的にスムージングの強度を強くするといった高精度なノイズの低減処理が可能である。ローパスフィルタの例としては、LSI(linear space invariant)フィルタ、構造適応(structure adaptive)型フィルタ、Wiener Filter (WF)が挙げられる。LSIフィルタは、一様なカーネル(フィルタ強度)を有し、時間的および空間的に強度が変わらない線形フィルタである。構造適応型フィルタは、データの構造に応じてカーネルを決定するフィルタである。WFは、処理空間においてSNRが最適となるようにフィルタ強度を決定するフィルタである。
【0075】
WF以外のフィルタのフィルタ強度は、被フィルタ処理信号Sのみまたは絶対SNRを指標として決定することが望ましい。尚、フィルタ強度は、Gaussian noiseの標準偏差(SD: standard deviation)の低減率で定義することができる。
【0076】
そして、ローパスフィルタ部10は、ローパスフィルタ処理データSlow(x)を重み関数作成部11および重み付け加算部13に与える。
【0077】
次に、図5のステップS12において、重み関数作成部11は、ローパスフィルタ部10から取得したローパスフィルタ処理データSlow(x)に基づいて原データSorig(x)のSNR分布データを表すSNR分布関数Ssnr(x)を作成する。この処理は、図6のステップS22に示すように表すことができる。すなわち、ローパスフィルタ処理データSlow(x)をSNR分布作成用の関数fsnr(S)で変換することにより、SNR分布関数Ssnr(x)を作成することができる。SNR分布作成用の関数fsnr(S)は、データのSNR分布特性に応じた非線形変換関数とすることができる。そして、得られたSNR分布関数Ssnr(x)は、そのままSNR分布データを反映させた重み関数Wsnr(x)とすることができる。
【0078】
ローパスフィルタ処理データSlow(x)は、そのままSNR分布関数Ssnr(x)とすることもできる。ただし、前述のように原データSorig(x)をそのままSNR分布関数Ssnr(x)としても良い。また、ローパスフィルタ処理データSlow(x)の作成に用いたローパスフィルタの強度と異なる強度で原データSorig(x)のローパスフィルタリングを行うことによってSNR分布関数Ssnr(x)を求めることもできる。すなわち、原データSorig(x)の値がSNRと正相関の関係にある場合には、原データSorig(x)、ローパスフィルタ処理データSlow(x)、原データSorig(x)またはローパスフィルタ処理データSlow(x)を非線形変換して得られるデータおよびこれらの特性を反映させたデータは、いずれもSNR分布を示すSNR分布関数Ssnr(x)として用いることができる。
【0079】
ただし、正規化を伴うことによって重み関数Wsnr(x)の重みの最大値を例えば1となるようにすることができる。そこで、図6のステップS23に示す演算により、SNR分布関数Ssnr(x)をSNR分布関数Ssnr(x)の最大値max{Ssnr(x)}で正規化した値を重み関数Wsnr(x)とすることができる。
【0080】
このように、SNR分布関数Ssnr(x)の特性を反映させた重み関数Wsnr(x)を作成すると、高SNR部分ほど値(重み)が大きく、低SNR部分ほど値が小さい重み関数Wsnr(x)を作成することができる。正規化を伴って重み関数Wsnr(x)を作成した場合には、最大値が1の重み関数Wsnr(x)となる。このため異なる処理対象データ間における信号強度のばらつきの影響を低減させて重み関数Wsnr(x)を作成することができる。さらに、SNR分布関数Ssnr(x)や重み関数Wsnr(x)をローパスフィルタ処理データSlow(x)から作成することにより、SNR分布関数W(x)や重み関数Wsnr(x)のノイズを低減することができる。
【0081】
図7(b)において、横軸は位置x、縦軸は重みWを示す。また、図7(b)中の破線は、重み関数Wsnr(x)の例を、一点鎖線は重み関数1-Wsnr(x)を、点線は原データSorig(x)を正規化したデータの例を示す。図7(b)に示すようにローパスフィルタ処理データSlow(x)を正規化することによって作成した重み関数Wsnr(x)は最大値が1で高SNR部分ほど値が大きく、低SNR部分ほど値が小さい関数となる。
【0082】
さらに、SNR分布関数Ssnr(x)をそのまま重み関数Wsnr(x)とせずに、SNR分布関数Ssnr(x)を式(7)に示すように非線形関数gにより非線形変換することによって重み関数Wsnr(x)を作成することもできる。SNR分布関数Ssnr(x)を非線形変換すれば、特定のSNR部分の重みを調整することができる。
【0083】
[数7]
Wsnr(x)=g{Ssnr(x)} (7)
【0084】
非線形関数gは、例えば、SNR分布関数Ssnr(x)のSNRが極端に小さい部分、つまり信号強度Sが閾値Smin以下の場合に重み関数Wsnr(x)の重みがゼロとなり、信号強度Sが閾値Sminより大きい場合には、SNRが小さい部分ほど重みが小さく、SNRが大きいほど重みが大きくなるような重み関数Wsnr(x)が作成されるような関数とすることができる。このように重み関数Wsnr(x)を作成すれば、後段のステップにおける重み付け加算によって、信号強度Sが閾値Smin以下の原データSorig(x)はそのまま保存されず、ローパスフィルタ処理データSlow(x)となるため、SNRが極端に小さい部分に対するスムージング強度を強くすることができる。
【0085】
加えて、非線形関数gは、閾値Smin以上である範囲において、エッジ部分と考えられる最大SNR部分および最小SNR部分の間の範囲の重みがエッジ部分から離れるにつれて徐々に相対的に小さくなる重み関数Wsnr(x)が作成されるような関数とすることができる。このように重み関数Wsnr(x)を作成すれば、後段のステップにおける重み付け加算によって、エッジ部分から離れた部分ほど原データSorig(x)の割合が減少する一方、ローパスフィルタ処理データSlow(x)の割合が増加するため、エッジ部分から離れた部分ほど強度が強いスムージングが行われることとなる。この結果、エッジ部分の抽出を伴うedge enhancementとは別にSNR分布に適応したedge enhancementを行うことができる。
上述した例の場合には、非線形関数gは、式(8)に示すように決定することができる。
【0086】
[数8]
g(S)=(S-Smin)n/Smax : S>Smin, 0: otherwise (8)
【0087】
ただし、Smaxは信号強度Sの最大値であり、nは、(S)が下に凸の関数となるような任意の係数である。従って、nが大きいほど(S)は下に凸の関数となる。
【0088】
図8は、図1に示すデータ処理装置1において、SNR分布関数を非線形変換することによって重み関数を作成する場合に用いられる非線形関数gの例を示す図である。
【0089】
図8(a)において縦軸は位置xを、横軸は信号強度Sを示す。また、図8(a)中の実線はSNR分布関数Ssnr(x)を、点線は原データSorig(x)(または正規化した原データSorig(x))をそれぞれ示す。また、図8(b)において縦軸は非線形変換gの結果となる重み関数の重みWsnrを、横軸は信号強度Sを示す。また、図8(b)中の実線は非線形関数Wsnr=g(S)を、点線は1次関数Wsnr=Sをそれぞれ示す。また、図8(c)において縦軸は重み関数の重みWsnrを、横軸は位置xを示す。また、図8(c)中の実線は非線形関数W=g(S)を用いてSNR分布関数Ssnr(x)を非線形変換することによって得られた重み関数Wsnr(x)を、点線は原データSorig(x)(または正規化した原データSorig(x))をそれぞれ示す。
【0090】
図8(a)に示すようにSNR分布関数Ssnr(x)には、位置xの端部に極端にSNRが低い部分が存在する場合やエッジ部分が存在する場合がある。このような場合に、図8(b)に示すように信号強度がある値以下で重みWsnrがゼロ、信号強度が中間程度の値で相対的に重みWsnrが小さくなるような非線形関数Wsnr=g(S)を用いてSNR分布関数Ssnr(x)を非線形変換すると、図8(c)に示すように、極端にSNRが低い部分の重みWsnrがゼロで、信号強度が中間部分以外のエッジ部分に対応する部分の重みWsnrが強調された重み関数Wsnr(x)を作成することができる。
【0091】
一方、上述したように、原データSorig(x)、ローパスフィルタ処理データSlow(x)、原データSorig(x)またはローパスフィルタ処理データSlow(x)を非線形変換して得られるデータをSNR分布関数Ssnr(x)とし、SNR分布関数Ssnr(x)をそのまま重み関数Wsnr(x)とすることもできる。
【0092】
図9は、図1に示すデータ処理装置1において、SNRに対してピークを有する非線形の相関関係を有する原データSorig(x)をSNR分布作成用の非線形関数fsnr(S)で変換することによって得られるSNR分布関数Ssnr(x)をそのまま重み関数Wsnr(x)とする場合の例を示す図である。
【0093】
以下、X線CTを例にSNR分布関数変換にする非線形関数fsnrを導出する場合について説明する。
【0094】
X線CT装置において生データとして保存される吸収係数積分値である吸収線量分布の投影データlin(I0/I)のSNRは、I0/I=3、すなわちln(I0/I)=1.1のときにピークを有する非線型の相関関係を有する。同様に、MRI装置において取得されるADCも、傾斜磁場因子b値に対するDWIの信号強度をS(b)とすると、b>0のときDWIの信号強度S(b)との間に負相関ではなくS(0)/S(b)=3のときにピークを有する非線形の相関関係を有する。また、ADCのSNRをADC値との関係でみればb×ADC=1.1のときピークを有する非線形の相関関係となる。MRI装置において取得されるT2強調画像データ、T2緩和時間の逆数についても同様である。
【0095】
このように、基準となる信号値S0と位置xにおける信号値S(x)がそれぞれランダムなノイズを有し、信号値S(x)がゼロより大きく基準となる信号値S0以下である場合には、式(9)で定義される位置xにおけるデータM(x)のSNRはデータM(x)の信号強度に対してS(x)/S0=1/3、すなわちM(x)=1.1のときに最大値を有する特性を有することが知られている。
【0096】
[数9]
M(x)=-ln{S(x)/S0} (0<S(x)≦S0) (9)
【0097】
SNRの特性は以下のように求めることができる。すなわち、式(9)においてR=S/S0とし、データM(x)のノイズのSDをσM、RのSDをσRとすると式(10-1)の関係が成立するから、データM(x)のSNR(M)はRのSNR(R)を用いて式(10-2)のように求めることができる。
【0098】
[数10]
σMR(δM/δR)=σR(1/R) (10-1)
SNR(M)=M/σM=-ln(R)/{σR(1/R)}
=-R×ln(R)/σR=-ln(R)×(R/σR)
=-ln(R)×SNR(R) (0<R≦1) (10-2)
【0099】
式(10-2)において、0<R≦1の条件下では、Rの増加に対してln(R)は単調減少、SNR(R)は単調増加するためSNR(M)はR=1/3 (M(x)=ln(1/R)=1.1)のときにピークを有する関係となる。
また、式(10-2)において、σR=1として、SNR(M)をデータMで表すと、式(11)となる。
【0100】
[数11]
SNR(M)=-ln(R)×R=M×exp(-M) (M>0) (11)
【0101】
ここで、X線CTの場合の吸収係数の積分値M(または再構成後のCT値)のSNR分布関数fsnr(M)は、SNR(M)をSNR(M)の最大値で正規化して式(12)で与えられる。
【0102】
[数12]
fsnr(M)=SNR(M)/Max[SNR(M)] (12)
【0103】
式(12)に式(11)を代入すると、SNR分布関数fsnr(M)は、式(13)で与えられる。
【0104】
[数13]
fsnr(M)=e×M×exp(-M) (M>0) (13)
【0105】
図9(a)は、式(9)で定義されるlog変換を行ったデータM(x)の一例を示し、横軸はx軸、縦軸はデータM(x)の値を示す。図9(b)は式(10-2)により横軸をデータM (=-ln[R])、縦軸を式(13)で示されるSNR分布関数fsnr(M)の値として表した図である。図9(c)はSNR分布関数fsnr(M)によりSNR空間分布としてデータM(x)を変換して得られる重み関数Wsnr(x)を表す。
【0106】
このようにノイズ補正の対象とするデータM(x)の値とSNRが非線形関係にある場合には、データM(x)の値とSNRとの間における関係を表す非線型関数fsnrを用いることによってデータM(x)のSNR分布に基づいてX線の吸収係数分布やADC分布等のデータM(x)をSNR分布関数Ssnr(x)に変換することができる。
【0107】
そして、このようにして作成された重み関数Wsnr(x)は、重み関数作成部11から重み付け加算部13に与えられる。
【0108】
次に、図5のステップS13において、エッジ強調部12は、入力装置7から処理対象データのエッジ強調処理を行う指示がデータ処理装置1に入力されたか否かを判定する。そして、処理対象データのエッジ強調処理を行う指示がデータ処理装置1に入力されている場合には、エッジ強調部12は、データ取得部9から原データSorig(x)を取得し、原データSorig(x)において保存すべきエッジ、ライン、点状の構造部分に相当するエッジ部分を抽出する。
【0109】
すなわち、図6のステップS24においてエッジ強調部12において、edge enhancementが必要であるか否かが判定され、YESであると判定された場合には、エッジ部分が抽出される。具体的には、図6のステップS25に示す演算によって、原データSorig(x)にハイパスフィルタHhigh(x) を掛けることによって中間周波成分または高周波成分のエッジ部分データShigh(x)が抽出される。
【0110】
次に、図5のステップS14においてエッジ強調部12において、エッジ部分Shigh(x)を強調するためのエッジ部分用の重み関数Whigh(x)がエッジ部分データShigh(x)から求められる。すなわち、原データSorig(x)の中間周波成分または高周波成分からエッジ部分用の重み関数Whigh(x)が作成される。具体的には、例えば図6のステップS26に示す演算によって、エッジ部分データShigh(x)の絶対値|Shigh(x)|がエッジ部分データShigh(x)の絶対値|Shigh(x)の最大値max{|Shigh(x)|}によって正規化することによって、エッジ部分Shigh(x)の信号強度の特性が反映され、かつ最大値が1となるエッジ部分用の重み関数Whigh(x)が作成される。
【0111】
図7(c)において、横軸は位置x、縦軸は重みWを示す。また、図7(c)中の破線は、エッジ部分用の重み関数Whigh(x)の例を、点線は原データSorig(x)を正規化したデータの例を示す。図7(c)に示すようにエッジ部分用の重み関数Whigh(x)は最大値が1でエッジ部分にのみ重みWを有する関数となる。
【0112】
このようにして得られたエッジ部分データShigh(x)およびエッジ部分用の重み関数Whigh(x)は、エッジ強調部12から重み付け加算部13に与えられる。
【0113】
一方、エッジ強調部12が処理対象データのエッジ強調処理を行わない指示がデータ処理装置1に入力されたと判定した場合には、エッジ部分データShigh(x)の抽出処理およびエッジ部分用の重み関数Whigh(x)の作成処理は行われない。ただし、図6のステップS27に示すように、演算上必要な場合には、エッジ部分用の重み関数Whigh(x)にゼロが代入され、値がゼロのエッジ部分用の重み関数Whigh(x)が重み付け加算部13に与えられる。
【0114】
次に、図5のステップS14において重み付け加算部13は、図6のステップS28に示す演算を行うことによってランダムなノイズを低減させた補正データScor(x)を生成する。すなわち、重み関数作成部11から取得した重み関数Wsnr(x)を原データSorig(x)の重み、重み関数1-Wsnr(x)をローパスフィルタ部10から取得したローパスフィルタ処理データSlow(x)の重みとして重み付け加算する。さらに、edge enhancementを行う場合には、エッジ強調部12から取得したエッジ部分用の重み関数Whigh(x)を重みとしてエッジ強調部12から取得したエッジ部分データShigh(x)が重み付け加算される。
【0115】
これにより、原データSorig(x)のSNRが小さい部分ほど強度が強いスムージングによってノイズレベルが低減された補正データScor(x)を得ることができる。さらに、エッジ部分データShigh(x)を重み付け加算すれば、エッジ部分の強調を行うこともできる。
【0116】
図7(d)において、横軸は位置x、縦軸はデータの信号強度(SI: signal intensity)を示す。また、図7(d)中の実線は、補正データScor(x)の例を、点線は原データSorig(x)の例を示す。図7(d)に示すようにエッジが強調されつつSNRの低い部分ほど強い強度でスムージングされた補正データScor(x)を得ることができる。
【0117】
そして、このようにして作成された補正データScor(x)は、重み付け加算部13から画像診断装置3のデータ記憶部5に出力される。ただし、他の機器に補正データScor(x)を出力させることもできる。そして、画像診断装置3のデータ処理部6における補正データScor(x)に対するデータ処理によって表示用の画像データが再構成される。例えば、補正データScor(x)がX線CT装置において収集された投影データの補正によって得られた場合には、データ処理部6における補正データScor(x)に対する後処理、逆投影処理および画像再構成処理等の必要な処理を経て表示用の画像データを作成することができる。
【0118】
尚、ここまでは、重み関数Wsnr(x)の作成の際に表示処理の際に行われるウィンドウ変換に関する情報を用いない例について説明したが、データ処理装置1の処理対象データが画像データである場合には、表示系においてウィンドウ変換に用いられる情報を用いて新たな重み関数Wsnr(x)を作成することもできる。
【0119】
図10は、図1に示すデータ処理装置1によりウィンドウ変換に用いられる情報を用いて重み関数を作成することによって処理対象データのデータ値に対してSNRに適応的にノイズ低減処理を行うための処理手順を示すフローチャートであり、図中Sに数字を付した符号はそれぞれのフローチャートの各ステップを示す。
【0120】
図10に示すフローチャートでは、重み関数の作成のためにウィンドウ変換に用いられる情報を用いる点および補正データScorに対してWINDOW変換を施すことによって輝度値Sdispを求める点のみ図5に示すフローチャートと相違する。従って、図10に示すフローチャートにおいて、図5に示すフローチャートと同様のステップには同符号を付して説明を省略する。
【0121】
図10のステップS31に示すように、処理対象データが画像データである場合には、重み関数作成部11において、SNR分布のみならず、ウィンドウ変換に用いられる情報に応じた重み関数Wsnr(x)を作成することができる。重み関数Wsnr(x)の作成に用いられるウィンドウ変換に用いられる情報の例としては、ウィンドウレベル(WL: window level)やウィンドウ幅(WW: window width)等のウィンドウ設定値およびガンマカーブが挙げられる。
【0122】
また、ステップS32において、重み関数Wsnr(x)を用いた重み付け加算後の補正データScorである画像データは、ウィンドウ変換される。画像データはウィンドウ設定値(WL,WW)に基づいてウィンドウ変換され、信号強度が表示装置8の輝度値であるコントラスト値として表示される場合が多い。ウィンドウ変換は線形変換である場合の他、ガンマカーブを用いた非線形変換である場合もある。
【0123】
図11は、図1に示す画像診断装置3のデータ処理部6において画像データを線形ウィンドウ変換する場合の例を示す図である。
【0124】
図11(a)において縦軸は位置xを、横軸は位置xにおける信号強度Sをそれぞれ示し、図11(a)中の実線は位置xにおける画像データIMAGE(x)を示す。また、図11(b)において縦軸はコントラスト値(輝度値)Cを、横軸は信号強度Sを示す。また、図11(b)中の実線はウィンドウ変換関数Wdisp(S)を、破線は1次関数Wdisp=aS+bをそれぞれ示す。また、図11(c)において縦軸はコントラスト値Sdispを、横軸は位置xを示す。また、図11(c)中の実線はウィンドウ変換関数Wdisp(S)を用いて画像データIMAGE(x)を線形ウィンドウ変換することによって得られる表示画像の輝度分布Ic(x)を示す。
【0125】
図11(a)に示すような信号強度Sで示される画像データIMAGE(x)は、図11(b)に示すウィンドウ変換関数Wdisp(S)によりウィンドウ変換され、図11(c)に示すようにコントラスト値Sdispで示される表示画像の輝度分布Ic(x)に変換される。そのためにウィンドウ設定値WL,WWが任意に決定される。ウィンドウ設定値WL,WWが決定されるとウィンドウ変換関数Wdisp(S)は、信号強度S=WLのとき信号強度Sが中間コントラスト値Sdisp(WL)に、信号強度S≧WL+WW/2のとき信号強度Sが最高コントラスト値Sdisp(WL+WW/2)に、信号強度S≦WL-WW/2のとき信号強度Sが最低コントラスト値SdispC(WL-WW/2)にそれぞれ変換されるような関数として作成される。
【0126】
そこで、ウィンドウ設定値(WL,WW)に基づいてウィンドウ変換関数Wdisp(S)を作成し、画像データIMAGE(x)のSNR分布関数Ssnr(x)をウィンドウ変換関数Wdisp(S)で変換することによって画像データの表示系における表示処理を考慮した重み関数Wsnr(x)を作成することができる。すなわち、重み関数Wsnr(x)を表示系における表示処理に適合させることによって、ノイズ低減補正処理を視覚効果に合わせることができる。
【0127】
ウィンドウ変換関数Wdisp(S)は、例えば、画像データIMAGE(x)の信号強度SがWLのとき(S=WLのとき)表示画像の輝度分布Ic(x)のSNRが最も大きくなり、画像データIMAGE(x)の信号強度SがWLから離れ、信号強度SとWLとの差分|S-WL|が大きくなるにつれて表示画像の輝度分布Ic(x)のSNRは小さくなっても良いという方針に沿って決定することができる。
【0128】
図12は、図10のステップS31において、ウィンドウ設定値に基づく変換関数を用いてSNR分布関数を変換することにより重み関数を作成する場合の例を示す図である。
【0129】
図12(a)において縦軸は位置xを、横軸は位置xにおける信号強度Sをそれぞれ示し、図12(a)中の実線は画像データIMAGE(x)のSNR分布関数Ssnr(x)を示す。また、図12(b)において縦軸は変換関数Wsnr(S)による信号強度Sの変換値である重み関数の重みWsnr(S)を、横軸は信号強度Sを示す。また、図12(b)中の実線は変換関数Wsnr(S)を示す。また、図12(c)において縦軸は重み関数の重みWsnr(x)を、横軸は位置xを示す。また、図12(c)中の実線は変換関数Wsnr(S)を用いてSNR分布関数Ssnr(x)を変換することによって得られた重み関数Wsnr(x)を示す。
【0130】
図12(a)に示すようなSNR分布関数Ssnr(x)を上述した方針によって決定された図12(b)に示す変換関数Wsnr(S)により変換することによって、図12(c)に示すようなウィンドウ変換処理に適応させた重み関数Wsnr(x)を作成することができる。尚、図12(b)に示す変換関数Wsnr(S)は、SNR分布関数Ssnr(x)の信号強度S=WLのとき重みWがゼロとなり、信号強度S≧WL+WW/2のときおよび信号強度S≦WL-WW/2のときに重みWが1となるような関数とした場合の例を示す。すなわち、ウィンドウ変換が線形である場合には、変換関数Wsnr(S)は例えば式(14)のように決定することができる。
【0131】
[数14]
Wsnr(S)=|S-WL|/(WW/2): WL-WW/2<S<WL+WW/2, 1: otherwise (14)
【0132】
そして、このように作成された重み関数Wsnr(x)を用いた重み付け加算によって画像データIMAGE(x)の補正データScor(x)が生成される。さらに、図11に示すようなウィンドウ変換によって補正データScor(x)からランダムなノイズが低減され、かつ視覚効果に合わせてSNRが調整された表示画像が作成されて、表示装置8に表示される。
【0133】
尚、ウィンドウ設定値(WL,WW)やガンマカーブ等のウィンドウ条件は、入力装置7の操作によってユーザにより任意に設定することができる。従って、ユーザがウィンドウ条件を変化させた場合には、重み関数作成部11が、設定されたウィンドウ条件に同期してダイナミックに重み関数Wsnr(x)を作成するようにすることができる。さらに、重み関数Wsnr(x)の同期により補正データScor(x)およびウィンドウ変換後の表示画像もそれぞれダイナミックに同期させて生成および表示させることができる。
【0134】
ただし、ウィンドウ条件のうちガンマカーブは一度設定されると頻繁には変更されない。また、ウィンドウ設定値(WL,WW)は、X線CT画像のように絶対値を有する画像や信号強度を正規化したMR画像を表示させる場合には、通常データ種によりほぼ決められる場合が多い。そこで、予めウィンドウ設定値(WL,WW)やガンマカーブ等のウィンドウ条件をプリセット値としてデータ処理装置1に記憶させ、重み関数作成部11がプリセット値から自動的に重み関数Wsnr(x)を作成するようにすることもできる。これにより、ウィンドウ条件を頻繁に変更する必要がなくなるので、重み関数Wsnr(x)の作成を含むデータ補正処理を複数回に亘ってダイナミックに行うことなく、より少ない処理で表示画像を作成および表示させることができる。
【0135】
これとは別に、予め任意に決定した条件に応じて自動的にウィンドウ条件が設定されるようにし、重み関数作成部11が自動設定されたウィンドウ条件から重み関数Wsnr(x)を作成するようにすることもできる。例えば空気等の背景以外における画像値のヒストグラム上で最も大きい画像値をWLに、WLの2倍をWWにするというようなウィンドウ条件の設定条件を予め決定しておけば、設定条件に従ってデータ処理装置1または画像診断装置3が自動的にウィンドウ条件を設定することができる。このため、重み関数Wsnr(x)の作成や重み付け加算を含む1回のデータ補正処理で表示画像を作成および表示させることが可能となる。このようにウィンドウ条件の設定を自動化することによっても、より少ない処理で表示画像を作成および表示させることができる。
【0136】
さらに、ウィンドウ条件のみならず、上述した重み関数Wsnr(x)の作成に必要な非線形変換の度合いや、edge enhancementを行う場合におけるエッジ部分用の重み関数Whigh(x)の値のようなデータ補正処理に関する諸条件を決定するパラメータを入力装置7の操作によってマニュアル調整できるようにすることもできる。特に、非線形変換の度合いや、エッジ成分の重みについてはユーザの嗜好に応じて調整できることが望ましい場合がある。そこで、例えば、音声トーンコントロールのようなダイアルの調整によりリアルタイムでダイナミックなデータの補正処理を行えるようにすれば、ユーザは表示装置8に表示される画像を参照しながら表示画像の補正精度を最適化することができる。
【0137】
つまり以上のようなデータ処理装置1は、与えられた処理対象データからSNR分布を求め、SNR分布の特徴を反映させた重み関数を用いて処理対象データと処理対象データに線形または非線形のフィルタリングを施したデータとの重み付加算を行うことにより補正データを求めるものである。
【0138】
(効果)
このため上述したデータ処理装置1においては、処理対象データが局所的にSNRが変化するデータであってもSNRに応じて適応的にノイズを低減しつつSNRの向上を図ることができる。すなわち、ノイズの低減のみならず、高周波成分の保存割合を制御することができる。加えて、データ処理装置1では、必要に応じて局所におけるエッジ成分の保存や強調が可能である。
【0139】
また、データ処理装置1では、簡易な線形処理で非線形な処理と等価な処理を行うことができるため高速処理が可能である。これによりリアルタイムでダイナミックな処理を実現することができる。
【0140】
さらに、データ処理装置1には、補正処理を適用することが可能な空間の自由度が大きいという利点がある。例えば、実空間、投影データ空間、周波数空間等の様々な空間において補正処理を行うことができる。すなわち、フィルタリングにLSI filter等の線形フィルタを用いるため、処理対象データが実空間におけるconvolution法によって処理されるデータであっても周波数空間におけるFT (Fourier transform)法によって処理されるデータであっても補正処理の対象として適用可能である。
【0141】
また、データ処理装置1では、処理対象データの値とSNRとが正の相関関係を有する場合のみならず、処理対象データの値とSNRとが非線形または負の相関関係を有する場合であっても処理対象データの補正処理を行うことが可能である。すなわち、処理対象データが信号値とSNRが正相関する通常のデータである場合には、信号値が小さくSNRも小さい部分ほど強い強度でスムージングを施すことができる。一方、処理対象データの信号値とSNRが非線形相関または負相関する場合には、信号値が大きくSNRが小さい部分ほどスムージング強度を強くすることができる。
【0142】
また、データ処理装置1では、重み関数を画像値等のデータ値である信号の絶対強度のみならず表示装置8において出力される輝度値を決定するためのガンマカーブやウィンドウ設定値(WL, WW)に同期して最適化することが可能である。従って、視覚効果に合わせた処理対象データの補正を行うことができる。
【0143】
さらに、データ処理装置1には、SNR分布を求めるために処理対象データを用いるため、センサ4の感度分布のような他のデータが不要であるという利点がある。
【0144】
特に、近年のMRI装置には、複数の表面コイル(サーフェスコイル)がセンサ4であるRFコイルのコイル要素として備えられる場合が多い。この場合、各表面コイルは、感度分布を有するため、表面コイルによって収集されたデータは、ランダムなノイズを有することとなる。従って、複数の表面コイルからのデータに重畳する感度分布に起因するノイズを低減する補正処理を行うことが重要となる。そのための1つの方法として、表面コイルの感度分布データまたは感度分布の推定値を用いてSNR分布を求め、SNR分布に応じて表面コイルの感度分布に起因するノイズの低減補正を行う手法が考えられる。
【0145】
これに対し、データ処理装置1を用いれば、表面コイルの感度分布データや感度分布の推定が不要となり、表面コイルからのデータそのものからSNR分布を求めることができる。すなわち、データ処理装置1では、処理対象データや処理対象データをフィルタ処理したデータが、SNR分布が反映された重み関数として用いられる。このため、処理対象データを収集するセンサ4の感度分布データがなくても処理対象データの空間的なSNR分布或いはノイズ分布が一定である場合には局所的なSNR分布を求めることができる。
【0146】
尚、感度分布データを用いてSNR分布を求める場合には、センサ4固有の感度分布データに従ってSNR分布を処理対象データの処理に先立って予め求めておくことができる。これに対し、処理対象データからSNR分布を求める場合には、SNR分布が処理対象データに依存して求められるため、処理対象データを補正処理する度に毎回SNR分布を求める必要が生じる。従って、感度分布データを用いてSNR分布を求める場合に比べ、処理対象データからSNR分布を求める場合の方が処理時間が長くなる恐れがある。
【0147】
しかしながら、データ処理装置1において、単純な線形フィルタリングによって重み関数Wsnr(x)を作成するようにすれば、重み関数Wsnr(x)の作成が不要な場合に比べて単純なフィルタ処理が1回増加するのみである。また、重み付加算処理自体の処理時間は無視できる程度である。このため、データ処理装置1では、上述したような高速処理が可能である。
【0148】
尚、複数の表面コイルをセンサとして備えるMRI装置によってパラレルイメージング(PI)を行うことにより収集された表面コイルごとまたは受信チャンネルごとの磁気共鳴信号をそれぞれデータ処理装置1の処理対象データとする場合には、各処理対象データに対してそれぞれ上述したノイズ補正処理を行った後に各補正データScor(x)を合成すればよい。
【0149】
PIは、複数の表面コイルを用いてエコーデータを受信し、かつ位相エンコードをスキップさせることによって画像再構成に必要な位相エンコード数を減らす撮像法である。PIによりエコーデータが収集される場合には、各表面コイルに対応する画像データに対してPIの条件に基づいてPIにおける後処理であるunfolding処理を行うことにより、展開された画像データが生成される。
【0150】
この場合には、複数の表面コイルを用いて収集された複数の処理対象データに対してそれぞれフィルタ処理を施すことによって複数のフィルタ処理データが生成され、複数のSNR分布データに基づいてそれぞれ複数の重み関数が作成される。そして、複数の重み関数を用いて複数の処理対象データと複数のフィルタ処理データとの重み付き演算を行うことにより複数の補正データが作成される。さらに、複数の補正データが合成される。そのため、複数のセンサまたは受信チャンネルからの処理対象データを補正する場合には、複数の処理対象データにそれぞれ対応する複数の補正データを合成するための合成ユニットがデータ処理装置1に備えられる。
【0151】
マルチコイルで収集されたチャンネル毎のデータには空間的な感度分布が必ずあるため、たとえ均一な感度分布を有するコイルを用いてデータを収集した後に均一なフィルタリングを行って画像再構成をする場合には問題とならない部分であっても、ノイズに埋もれる程度の低信号部分が必ず存在する。このため、特にMRI装置でPIを行う場合には、従来の均一なフィルタを用いたsum of square合成に比べてSNRを向上させることができる。
【0152】
また、マルチチャンネルの検出器を備えた画像診断装置としては、複数組のX線検出器を備えたX線CT装置があげられる。この場合にも同様にチャンネルごとの各補正データScor(x)を合成すればよい。
【符号の説明】
【0153】
1 データ処理装置
2 コンピュータ
3 画像診断装置
4 センサ
5 データ記憶部
6 データ処理部
7 入力装置
8 表示装置
9 データ取得部
10 ローパスフィルタ部
11 重み関数作成部
12 エッジ強調部
13 重み付け加算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノイズを有する投影データの信号強度が前記投影データのSNRと非線形相関または負相関の関係にある場合に、信号強度がSNRと正相関の関係となるように前記投影データを変換する変換手段と、
信号強度がSNRと正相関の関係である前記投影データに基づいて、前記投影データのSNR分布データを作成するSNR分布データ生成手段と、
前記投影データに対してフィルタ処理を施すことで、前記投影データのSNRを向上させたフィルタ処理データを生成するフィルタ処理手段と、
前記SNR分布データに基づいて重み関数を作成する重み関数作成手段と、
前記重み関数を用いて前記投影データと前記フィルタ処理データとの重み付き演算を行うことで、補正データを作成する補正データ作成手段と
を有することを特徴とするデータ処理装置。
【請求項2】
前記投影データは、X線CT装置で生成された投影データであることを特徴とする請求項1記載のデータ処理装置。
【請求項3】
前記投影データは、MRI装置においてradial scanにより収集された投影データであることを特徴とする請求項1記載のデータ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−99680(P2013−99680A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−45248(P2013−45248)
【出願日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【分割の表示】特願2008−79660(P2008−79660)の分割
【原出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】