説明

データ復元装置、データ復元方法及びデータ復元プログラム

【課題】本発明は、少ない処理負荷でかつ簡素な回路構成で、データ圧縮時に失われた高周波成分を復元し、高音質な再生音声を提供できるようにする。
【解決手段】本発明は、MP3によって圧縮された音楽データD1を構成している左チャンネルデータD1Lと右チャンネルデータD1Rとの差分データD2を算出し、当該差分データD2の信号レベルが所定の閾値レベルを超えたか否かを判定し、超えたときはその閾値レベルに信号レベルを固定するディジタルリミッタ処理を施すことにより圧縮前に失われた高調波成分データD5を生成し、当該高調波成分データD5を左チャンネルデータD1L及び右チャンネルデータD1Rにそれぞれ加算することにより圧縮前の高周波成分が失われていない音楽データD7を復元するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ復元装置、データ復元方法及びデータ復元プログラムに関し、例えばCDDA(Compact Disc Digital Audio)等の元となるオリジナルの音楽データをMP3(MPEG-1 Audio Layer 3)等に代表されるディジタル圧縮方式で圧縮したときに失われる高周波成分を復元する場合に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、記録媒体から読み出したPCM(Pulse Code Modulation)ディジタルオーディオ信号のサンプリング周波数をn倍(nは2以上の整数)して新たなサンプリング点を補間する所謂オーバーサンプリングによって生成した高調波成分を原信号成分に重畳することにより、原信号がそもそも持っていない可聴帯域以上の高調波成分によって一段と自然な再生音を出力するオーディオ信号再生装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3140273号公報
【0003】
また、シリコンダイオードが用いられた非線形回路により原信号成分の波形をクリップすることにより可聴帯域以上の高次調波成分を発生させ、これを原信号成分に加えることにより、自然界の音のスペクトラム分布に近い音質を再生する音響再生装置がある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献2】特公平8-2119号公報
【0004】
ところで、CDDA等のオリジナルの音楽データを例えばMP3に代表されるディジタル圧縮方式で圧縮し、それをMP3プレーヤーにより再生して聴取する形態が一般的になっている。
【0005】
音楽データを圧縮する場合、その圧縮率を上げるほどハードディスクやフラッシュメモリ等の記憶媒体に格納可能な楽曲数を多くすることができるため、ユーザとしては圧縮率を上げたくなるが、圧縮率が上がれば上がるほど、一般的には元の原信号成分が失われる度合いが大きくなる。
【0006】
図1に示すように、圧縮率が上がる(すなわちビットレートが低くなる)に連れて再生周波数帯域の上限が低くなり、原信号の高周波成分が多く失われてしまう。このことは、図2(A)に示すように、CDDAの音楽データにおける再生スペクトラムではサンプリング周波数F(44.1[KHz])の半分の22.05[KHz]まで全帯域に渡って信号成分が出力されているのに対し、図2(B)に示すようにビットレート64[Kbps]でCDDAの音楽データを圧縮したときの再生スペクトラムでは約8[KHz]よりも上の高周波成分が出力されておらず、失われてしまっていることが分かる。
【0007】
このように圧縮率を上げれば音楽データのデータサイズが小さくなって、多くの楽曲数を記憶媒体に格納できるようになるが、その一方、圧縮率に応じて所定周波数帯域以上の高周波成分が失われてしまうため、ディジタル圧縮前の音楽データに比べて音質が損なわれてしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで引用文献1に開示されたオーディオ信号再生装置及び引用文献2に開示された音響再生装置においても、その対象が、原信号成分にない可聴帯域以上の高周波成分を作り出して原信号成分に重畳させるというものであって、CDDAの元となるオリジナルの音楽データをMP3等に代表されるディジタル圧縮方式で圧縮したときに失われる高周波成分を復元するものとは次元を異にし、かつオーバーサンプリングによる処理負荷が増加したり、非線形回路を新たに設けるというように回路規模が増大するという問題があった。
【0009】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、少ない処理負荷でかつ簡素な回路構成で、データ圧縮時に失われた高周波成分を復元し、高音質な再生音声を提供し得るデータ復元装置、データ復元方法及びデータ復元プログラムを提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため本発明においては、所定の圧縮方式によって圧縮された左チャンネルデータと右チャンネルデータとの差分データを算出し、当該差分データの信号レベルが所定の閾値を超えたか否かを判定し、超えたときはその閾値に信号レベルを固定するディジタルリミッタ処理を施すことにより圧縮前に失われた高調波成分を生成し、当該高調波成分を左チャンネルデータ及び右チャンネルデータにそれぞれ加算することにより圧縮前のオリジナルデータを復元するようにしたことにより、左チャンネルデータ及び右チャンネルデータの双方に含まれているデータ成分を除去し、左チャンネルデータ及び右チャンネルデータにのみそれぞれ含まれているデータ成分のみを抽出し、当該抽出したデータ成分を基にディジタルリミッタ処理を施すことにより圧縮時に失われている高周波成分を生成し、それを左チャンネルデータ及び右チャンネルデータに加算することにより、データ圧縮時に失われた高周波成分を含むオリジナルデータを容易に復元することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、左チャンネルデータ及び右チャンネルデータの双方に含まれているデータ成分を除去し、左チャンネルデータ及び右チャンネルデータにのみそれぞれ含まれているデータ成分のみを抽出し、当該抽出したデータ成分を基にディジタルリミッタ処理を施すことにより圧縮時に失われている高周波成分を生成し、それを左チャンネルデータ及び右チャンネルデータに加算することにより、データ圧縮時に失われた高周波成分を含むオリジナルデータを容易に復元することができ、かくして少ない処理負荷でかつ簡素な回路構成で、データ圧縮時に失われた高周波成分を復元し、高音質な再生音声を提供し得るデータ復元装置、データ復元方法及びデータ復元プログラムを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0013】
(1)カーオーディオ装置の全体構成
図3において、1は全体として本実施の形態におけるカーオーディオ装置を示し、ユーザインタフェース5を介してユーザに選択された音楽ソース選択信号S1をCPU(Central Processing Unit)構成でなるマイクロコンピュータ2が受け付けると、当該マイクロコンピュータ2からの制御により音楽ソース出力部4からCD−R(Compact Disc-Recordable)やDVD−R(Digital Versatile Disc-Recordable)等のディスク状記録媒体、フラッシュメモリ、ハードディスク、ディジタルテレビ放送等から供給されるディジタル圧縮された音楽データD1をDSP3に送出する。
【0014】
DSP3は、音楽データD1に対して、データ復元プログラムに従ってデータ圧縮時に失われた高周波成分を復元する処理(後述する)を実行し、それを元の音楽データD1に付加することにより、データ圧縮前の高周波成分を含む高音質なオリジナルの音楽データD7を復元し、それを電子ボリューム7及びアンプ8を介して所定の信号レベルに調整した後、スピーカ9から高音質な再生音声として出力するようになされている。
【0015】
なおマイクロコンピュータ2は、スピーカ9から出力する再生音声の信号レベルをスペクトラムアナライザーのように表示したり、楽曲タイトル、アーティスト名、再生経過時間等について表示するようになされている。
【0016】
(2)DSPによる高調波成分生成処理
図4に示すように、DSP3は、音楽ソース出力部4から供給されるデータ圧縮されたLチャンネル用の音楽データD1L及びRチャンネル用の音楽データD1Rを演算回路21へ送出すると共に、音楽データD1Lを第1加算回路26へ送出し、音楽データD1Rを第2加算回路27へ送出する。
【0017】
演算回路21は、Lチャンネル用の音楽データD1Lと、Rチャンネル用の音楽データD1Rとの差分を算出し、その差分データD2を帯域制限フィルタ22へ送出する。ここで、音楽データD1L及びD1Rでは、データ圧縮されたときに所定周波数帯域以上の高周波成分が失われているが、この高周波成分はボーカル成分よりも主に楽器の周波数成分である場合が多い。
【0018】
例えば、ピアノでは約4[KHz]までの基音を出力し、シンバルのような楽器では約10[KHz]を超える周波数成分の音を出力する。一方、ボーカル成分となる人間の声は、ソプラノ歌手の場合であっても、およそ約2[KHz]以下の周波数帯域の音であり、楽器の音に比べて周波数が低く、高調波を含めても、データ圧縮により失われる周波数帯域(ビットレート64[Kbps]の場合で約8[KHz]以上の高周波成分)の中で人間の声の成分は楽器の音ほど多くない。
【0019】
またボーカル成分は、通常ステレオスピーカ(フロント左スピーカ及びフロント右スピーカ)の中央(センター)に定位するように録音されている場合が多い。これは、Lチャンネル及びRチャンネルの2つのチャンネルに同様の信号成分が含まれているということ、すなわちモノラル信号に近いことを意味している。
【0020】
従って、演算回路21によってLチャンネル用の音楽データD1LとRチャンネル用の音楽データD1Rとの差分を算出すると、Lチャンネル及びRチャンネルの双方に含まれているボーカル成分が除去され、中央に定位しない楽器を中心とした成分に相当する差分データD2だけが抽出されることになる。
【0021】
このようにDSP3では、楽器を中心とした成分に相当する差分データD2に対し、以降の処理ブロックにより高調波成分の生成処理を実行するようになされており、Lチャンネル用の音楽データD1LやRチャンネル用の音楽データD1Rに対してそれぞれ高調波成分の生成処理を行う場合に比べて、差分データD2を対象として高調波成分の生成処理を行う分、少ないデータ処理量により処理負荷を軽減し得るようになされている。
【0022】
帯域制限フィルタ22は、例えばカットオフ周波数が約10[KHz]のローパスフィルタでなり、差分データD2における約10[KHz]以上の周波数成分を除去し、その結果得られる差分データD3を高調波生成回路23へ送出する。
【0023】
帯域制限フィルタ22によって約10[KHz]以上の周波数成分を除去する理由は、データ圧縮前のオリジナルの例えばCDDAの音楽データの再生帯域(この場合、約20[KHz]程度)を超える高調波成分の生成を意図していないからである。
【0024】
実際、CDDAのサンプリング周波数が44.1[KHz]であるため、再生帯域はサンプリング定理より、その半分の22.05[KHz]であるが、ここでは再生帯域を20[KHz]に想定し、帯域制限フィルタ22のカットオフ周波数を約10[KHz]としている。
【0025】
高調波生成回路23では、帯域制限フィルタ22から供給される差分データD3に対して高調波生成処理を行うようになされており、具体的には、図5に示すように、差分データD3の信号レベルが所定の閾値(Thres,−Thres)を超えていた場合、その閾値(Thres,−Thres)に強制的に固定する、所謂ディジタルリミッタ処理を施すことにより方形波データD4を生成し、これを帯域制限フィルタ24へ送出する。
【0026】
この高調波生成回路23におけるディジタルリミッタ処理としては、C言語的記述によって表現すると、入力対象の差分データD3をInput、出力対象の方形波データD4をOutput、閾値レベルをThres,−Thresとした場合、
Output=Input;
If(Input>Thres)
Output=Thres;
If(Input<−Thres)
Output=−Thres;
と表現される。
【0027】
この高調波生成回路23によって出力される方形波(Square Wave)データD4は、一般に次式で表現される。
【0028】
【数1】

【0029】
この(1)式のように、方形波データD4は、基本周波数(n=1)に奇数倍周期の周波数成分が加えられたものであることが分かる。実際上、図6(A)に示す1[KHz]の正弦波に対して、図6(B)に示すように、(1/3)3[KHz]の高調波成分を加えた2波合成結果、図6(C)に示すように(1/3)3[KHz]及び(1/5)5[KHz]の高調波成分を加えた3波合成結果のように、奇数次高調波が現れている様子が見える。
【0030】
そして、図6(D)に示すように、奇数倍周期の高調波成分を無限大(∞)まで加えた最終合成結果が方形波データD4であり、この場合は目視確認することは出来ないが、図7に示すように1[KHz]の基本周波数に対して複数の奇数次高調波成分が含まれていることが分かる。
【0031】
すなわち方形波データD4には、奇数次高調波成分が含まれているものの、基本波周波数成分と、元のLチャンネル用の音楽データD1L及びRチャンネル用の音楽データD1Rに対してそれぞれ加えるべき周波数上限を超える高調波成分を除去する必要がある。
【0032】
帯域制限フィルタ24は、方形波データD4の基本周波数成分と、Lチャンネル用の音楽データD1L及びRチャンネル用の音楽データD1Rに対してそれぞれ加えるべき周波数上限を超える高調波成分とを除去するためのバンドパスフィルタでなり、データ圧縮によって失われている約8[KHz]以上の周波数成分からCDDAの音楽データの再生帯域である22.05[KHz](サンプリング周波数fs/2)以下の周波数成分までを抽出し、その結果得られる高調波成分データD5をゲインコントロール回路25へ送出する。
【0033】
ゲインコントロール回路25は、高調波成分データD5のゲインを調整し、その結果得られる高調波成分データD6を第1加算回路26及び第2加算回路27へそれぞれ送出する。
【0034】
第1加算回路26は、Lチャンネル用の音楽データD1Lと、高調波成分データD6とを加算することにより、データ圧縮前の高周波成分が失われていないときに相当するLチャンネル用の音楽データD7Lを生成し、出力する。
【0035】
また第2加算回路27は、Rチャンネル用の音楽データD1Rと、高調波成分データD6とを加算することにより、データ圧縮前の高周波成分が失われていないときに相当するRチャンネル用の音楽データD7Rを生成し、出力する。
【0036】
すなわちDSP3では、データ圧縮前の高周波成分が失われていないであろうLチャンネル用の音楽データD7L及びRチャンネル用に音楽データD7Rを、データ圧縮前の高音質なオリジナルの音楽データD7として電子ボリューム7へ出力するようになされている。
【0037】
(3)ビットレートに応じた高調波成分自動生成処理手順
続いて、カーオーディオ装置1において、音楽ソース出力部4から出力される音楽データD1のビットレートに合わせた最適な高調波成分データD6を自動的に生成する高調波成分自動生成処理手順について説明する。
【0038】
カーオーディオ装置1のマイクロコンピュータ2は、所定の高調波成分自動生成プログラムを起動し、それに従って、図8に示すルーチンRT1の開始ステップから入り、次のステップSP1へ移る。
【0039】
ステップSP1においてマイクロコンピュータ2は、音楽ソース出力部4からDSP3へ供給された音楽データD1のビットレートを検出し、次のステップSP2へ移る。ここでマイクロコンピュータ2は、音楽データD1に付加されている情報を読み出すことによりビットレートを検出したり、インターネットを介して供給された情報に基づいてビットレートを検出する。
【0040】
ステップSP2においてマイクロコンピュータ2は、図9に示すようなビットレート毎に再生周波数帯域上限が対応付けられたテーブルT1を保持しており、ステップSP1でビットレート64[Kbps]を検出したときは約8[KHz]以上の高周波成分を抽出するように、帯域制限フィルタ24における下のカットオフ周波数を設定し、ビットレート96[Kbps] を検出したときは約12[KHz]以上の高周波成分を抽出するように、帯域制限フィルタ24における下のカットオフ周波数を設定し、ビットレート128[Kbps]を検出したときは約16[KHz]以上の高周波成分を抽出するように、帯域制限フィルタ24における下のカットオフ周波数を設定し、ビットレート256[Kbps] を検出したときは約20[KHz]以上の高周波成分を抽出するように、帯域制限フィルタ24における下のカットオフ周波数を設定し、ビットレート320[Kbps]を検出したときも約20[KHz]以上の高周波成分を抽出するように、帯域制限フィルタ24における下のカットオフ周波数を設定するように可変させることにより、ビットレートに合わせた最適な高調波成分データD5を生成させ、次のステップSP3へ移る。
【0041】
なおステップSP2においてマイクロコンピュータ2は、ステップSP1で検出したビットレートに基づいて音楽データD1がデータ圧縮されていないCDDA等のオリジナルであると認識した場合、テーブルT1に従って当該音楽データD1の再生周波数上限が再生帯域の22.05[KHz]であって、高調波生成処理が不要であると認識することができるので、DSP3による高調波生成処理及びアンプ8によるゲイン調整を実行させることのないように制御する。
【0042】
ステップSP3においてマイクロコンピュータ2は、ステップSP2で生成した高調波成分データD5を、Lチャンネル用の音楽データD1L及びRチャンネル用の音楽データD1Rに対してそれぞれ加算することによりデータ圧縮前の音楽データD7を復元し、これを電子ボリューム7及びアンプ8を介して高音質な再生音声としてスピーカ9から出力させ、次のステップSP4へ移って処理を終了する。
【0043】
(4)動作及び効果
以上の構成において、カーオーディオ装置1のマイクロコンピュータ2は、Lチャンネル用の音楽データD1L及びRチャンネル用の音楽データD1Rの差分データD2を算出することにより、ボーカル成分だけを除去し、データ量の低減された主に楽器を中心とした周波数成分だけを基にDSP3のディジタルリミッタ処理によりデータ圧縮時に失われた高調波成分を生成するようにしたことにより、従来のようにステレオチャンネルのそれぞれに対して個別に処理を行う場合に比べて、高調波成分を生成するための処理負荷を半分に軽減することができる。
【0044】
またDSP3では、(1)式に示したような簡易な信号処理だけで奇数次高調波が含まれた方形波データD4を生成することができるので、そこから帯域制限フィルタ24により高調波成分データD5を抽出し、元のLチャンネル用の音楽データD1L及びRチャンネル用の音楽データD1Rに加算するだけで、データ圧縮前の高周波成分が失われていないであろうLチャンネル用の音楽データD7L及びRチャンネル用に音楽データD7Rを容易に復元することができる。
【0045】
すなわちカーオーディオ装置1では、従来のように、オーバーサンプリングによる処理負荷が増加したり、非線形回路を新たに設けることにより回路規模が増大するといった不都合を回避しながら、DSP3によるディジタルリミッタ処理によってデータ圧縮前の高周波成分を含むオリジナルの音楽データD7を容易に復元することができる。
【0046】
さらにカーオーディオ装置1のマイクロコンピュータ2は、DSP3に供給される音楽データD1のビットレートを検出し、その検出結果に合わせて最適な高調波成分データD5を生成するようにしたことにより、ユーザに対して何ら煩雑な操作を強いることなく、データ圧縮前に相当する高音質な再生音声をユーザに聴取させることができる。
【0047】
以上の構成によれば、カーオーディオ装置1のマイクロコンピュータ2は、データ圧縮された高周波成分の失われた音楽データD1を基に、そのデータ圧縮時に失われた高周波成分を一段と少ない処理で、かつ簡易な方法により復元し、データ圧縮前の高音質な再生音声としてユーザに聴取させることができる。
【0048】
(5)他の実施の形態
なお上述の実施の形態においては、サンプリング周波数fsが44.1[KHz]のCDDAが音源となるオリジナルの音楽データD1をMP3等の圧縮方式でデータ圧縮したときに失われた高周波成分を復元するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、サンプリング周波数fsが192[KHz]のDVDオーディオが音源となるオリジナルの音楽データをMP3以外の圧縮方式で圧縮したときに失われる高周波成分を復元するようにしても良く、要はサンプリング周波数fsや圧縮方式についてはこれに限るものではない。
【0049】
また上述の実施の形態においては、テーブルT1のビットレート64[kbps]、96[kbps]、128[kbps]、256[kbps]、320[kbps]を対象として帯域制限フィルタ24のカットオフ周波数を可変するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、これ以外のビットレートについても対応するように設定しても良い。
【0050】
さらに上述の実施の形態においては、カーオーディオ装置1に対してデータ復元装置としてのDSP3を搭載するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、携帯型ディジタルオーディオプレーヤ、音楽再生機能付き携帯電話機、家庭用オーディオ装置、PDA(personal Digital Assistant)、パーソナルコンピュータ等のその他種々の電子機器にデータ復元装置としてのDSP3を搭載するようにしても良い。
【0051】
さらに上述の実施の形態においては、DSP3が予めインストールされているデータ復元プログラムに従ってデータ圧縮時に失われた高周波成分を生成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、記録媒体からインストールしたデータ復元プログラムや、インターネットからダウンロードしたデータ復元プログラムに従ってデータ圧縮時に失われた高周波成分を復元するようにしても良い。
【0052】
さらに上述の実施の形態においては、マイクロコンピュータ2が予めインストールされている高調波成分自動生成プログラムに従ってルーチンRT1の高調波成分自動生成処理手順を実行するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、記録媒体からインストールした高調波成分自動生成プログラムや、インターネットからダウンロードした高調波成分自動生成プログラムに従ってルーチンRT1の高調波成分自動生成処理手順を実行するようにしても良い。
【0053】
さらに上述の実施の形態においては、演算手段としての演算回路21、高調波成分生成手段としての高周波生成回路23及び帯域制限フィルタ24、加算手段としての第1加算回路26及び第2加算回路27によって本発明のデータ復元装置としてのDSP3を構成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、その他種々の回路構成でなる演算手段、高調波成分生成手段及び加算手段によってデータ復元装置を構成するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のデータ復元装置、データ復元方法及びデータ復元プログラムは、オリジナルの音楽データをMP3以外の例えばAAC(Advanced Audio Coding)、WMA(Windows(登録商標) Media Audio)、ATRAC(Adaptive Transform Acoustic Coding)等のその他種々の圧縮方式で圧縮したときに失われる高周波成分を復元する場合に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】CDDAをMP3により圧縮したときの再生周波数帯域を示す図表である。
【図2】圧縮前後の再生スペクトラムを示す略線図である。
【図3】カーオーディオ装置の全体構成を示す略線的ブロック図である。
【図4】DSPにおける高調波生成処理ブロックを示す略線図である。
【図5】ディジタルリミッタ処理の説明に供する略線図である。
【図6】方形波生成過程の説明に供する略線図である。
【図7】奇数次高調波成分を示す略線図である。
【図8】高調波成分自動生成処理手順を示すフローチャートである。
【図9】ビットレート毎の再生周波数帯域上限を表したテーブルを示す略線図である。
【符号の説明】
【0056】
1……カーオーディオ装置、2……マイクロコンピュータ、3……DSP、4……音楽ソース出力部、5……ユーザインタフェース、6……ディスプレイ、7……電子ボリューム、8……アンプ、9……スピーカ、21……演算回路、22、24……帯域制限フィルタ、23……高調波生成回路、25……アンプ、26……第1加算回路、27……第2加算回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の圧縮方式によって圧縮された左チャンネルデータと右チャンネルデータとの差分データを算出する演算手段と、
上記差分データの信号レベルが所定の閾値を超えたとき、その閾値に上記信号レベルを固定するディジタルリミッタ処理を施すことにより上記圧縮する時に失われた高調波成分を生成する高調波成分生成手段と、
上記高調波成分を上記左チャンネルデータ及び上記右チャンネルデータにそれぞれ加算することにより圧縮前のオリジナルデータを復元する加算手段と
を具えることを特徴とするデータ復元装置。
【請求項2】
上記高調波成分生成手段は、上記ディジタルリミッタ処理を施すことにより方形波データを生成し、当該方形波データから上記高調波成分を生成する
ことを特徴とする請求項1に記載のデータ復元装置。
【請求項3】
上記データ復元装置は、
上記高調波成分を生成する前に、所定のカットオフ周波数が設定されたローパスフィルタにより上記差分データを帯域制限することにより、上記高調波成分生成手段によって上記オリジナルデータの再生帯域を超える上記高調波成分を生成しないようにする第1のフィルタ手段と
を具えることを特徴とする請求項1に記載のデータ復元装置。
【請求項4】
上記データ復元装置は、
上記高調波成分を上記左チャンネルデータ及び上記右チャンネルデータにそれぞれ加算する前に、当該高調波成分に含まれている不要な帯域の信号成分を除去する第2のフィルタ手段と
を具えることを特徴とする請求項1に記載のデータ復元装置。
【請求項5】
所定の圧縮方式によって圧縮された左チャンネルデータと右チャンネルデータとの差分データを演算手段によって算出する差分算出ステップと、
上記差分データの信号レベルが所定の閾値を超えたか否かを判定し、超えたときはその閾値に上記信号レベルを固定するディジタルリミッタ処理を高調波生成手段によって施すことにより上記圧縮前に失われた高調波成分を生成する高調波成分生成ステップと、
上記高調波成分を所定の加算手段によって上記左チャンネルデータ及び上記右チャンネルデータにそれぞれ加算することにより圧縮前のオリジナルデータを復元する復元ステップと
を具えることを特徴とするデータ復元方法。
【請求項6】
情報処理装置に対して、
所定の圧縮方式によって圧縮された左チャンネルデータと右チャンネルデータとの差分データを演算手段によって算出する差分算出ステップと、
上記差分データの信号レベルが所定の閾値を超えたか否かを判定し、超えたときはその閾値に上記信号レベルを固定するディジタルリミッタ処理を高調波生成手段によって施すことにより上記圧縮前に失われた高調波成分を生成する高調波成分生成ステップと、
上記高調波成分を所定の加算手段によって上記左チャンネルデータ及び上記右チャンネルデータにそれぞれ加算することにより圧縮前のオリジナルデータを復元する復元ステップと
を実行させることを特徴とするデータ復元プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−227974(P2008−227974A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64077(P2007−64077)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】