説明

データ記録装置

【課題】 コピー元記録媒体に記録されているデジタルデータを一旦アナログ信号に変換し再度デジタルデータに変換してコピー先記録媒体へ記録する際に、不要なデータが記録されることを回避する。
【解決手段】 コピー元記録媒体に記録されているデータを読み取りD/AおよびA/D変換を施してバッファへ蓄積し、コピー元またはコピー先記録媒体の種別に応じて定まる速度で後者へ記録するデータ記録装置に、上記両変換により生じる遅延の度合いを表すデータがその速度毎に格納されたテーブルを記憶させておく。そして、コピー元またはコピー先の種別に応じて定まる速度に対応する遅延の度合いを上記テーブルを参照して特定する処理と、上記バッファに蓄積されたデータがその遅延に応じた量に達するまでは、コピー先への記録を待機し、達した時点から記録を開始する処理とを上記データ記録装置に実行させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽曲や映像を表すデジタルデータを記録媒体へ記録する技術に関し、特に、そのデジタルデータを一旦アナログ信号に変換した後に再度デジタルデータへ変換して記録する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる音楽CDにデジタル記録されている楽曲データについては、著作権保護の観点から、その楽曲データをそのままコピーすることを禁止する仕組みが設けられている。このため、係る楽曲データを他の記録媒体へコピーする場合には、その楽曲データを一旦アナログ信号へ変換しそのアナログ信号にデジタル変換を施して得られるデータをコピー先の記録媒体へ記録することが従来より提案されている(例えば、特許文献1:段落0008参照)。このようにすることによって、音質が若干劣化するものの、楽曲データを他の記録媒体へデジタルコピーすることが可能になる。
【特許文献1】特開平05−198094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、楽曲アルバムのように複数の楽曲データが記録されている音楽CDを、上記D/A変換およびA/D変換を行ってデータのコピーを行うデータ記録装置を用いて複製する場合、コピー元記録媒体における各楽曲データの記録位置と、コピー先記録媒体における各楽曲データの記録位置とが、D/A変換およびA/D変換による遅延の分だけずれてしまう、といった問題がある。
特に、各楽曲データを1つづつコピー先記録媒体へ記録する場合には、図8に示すように、各楽曲データの記録位置のずれが顕著になってしまい、最後尾の楽曲データの末尾が途切れてしまう場合もある。加えて、コピー先記録媒体にて1曲目の楽曲データの手前や各楽曲データの間に書き込まれるデータ(図8にてハッチングで示した部分に対応するデータ)は、コピー元記録媒体には記録されていなかった不要なデータであり、コピー先記録媒体を用いて楽曲アルバムの再生を行った場合に、不自然な無音区間や雑音の原因になってしまう。
本発明は上記課題に鑑みて為されたものであり、コピー元記録媒体に記録されているデジタルデータを一旦アナログ信号に変換し再度デジタルデータに変換してコピー先記録媒体へ記録する際に、不要なデータがコピー先記録媒体へ記録されることを回避する技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明は、第1の記録媒体に書き込まれているデジタルデータを読み取って出力するデータ読み取り手段と、前記データ読み取り手段から出力されたデジタルデータにD/A変換を施してアナログ信号に変換し、そのアナログ信号にA/D変換を施して得られるデジタルデータを出力する信号処理手段と、前記信号処理手段から出力されたデジタルデータをその出力順に蓄積するバッファと、前記バッファに蓄積されているデジタルデータを読み出して前記第1の記録媒体とは異なる第2の記録媒体へ記録するデータ記録手段と、前記第1の記録媒体からのデジタルデータの読み取り、または、前記第2の記録媒体へのデジタルデータの記録が、前記第1の記録媒体または前記第2の記録媒体の種別に応じて定まる速度で行われるように前記データ読み取り手段および前記データ記録手段を制御する制御手段と、前記信号処理手段にてD/A変換およびA/D変換を施すことにより生じる遅延の度合いを表すデータが前記速度毎に書き込まれている遅延量管理テーブルと、を有し、前記制御手段は、前記第1の記録媒体または前記第2の記録媒体の種別に応じて定まる速度に対応する前記信号処理手段の遅延の度合いを前記遅延量管理テーブルを参照して特定し、前記データ読み取り手段によるデジタルデータの読み取りを開始してから前記バッファに蓄積されたデジタルデータがその遅延に応じたデータ量に達するまでは、前記データ記録手段を待機させ、そのデータ量に達した時点から前記データ記録手段にデジタルデータの記録を開始させることを特徴とするデータ記録装置、を提供する。
このようなデータ記録装置によれば、上記信号処理手段における遅延に起因して上記バッファに書き込まれる不要なデータが、コピー先記録媒体である上記第2の記録媒体へ記録されることが確実に回避される。
【0005】
より好ましい態様においては、前記制御手段は、前記第1の記録媒体または前記第2の記録媒体の状態を検出し、前記第1の記録媒体または前記第2の記録媒体の種別に応じて定まる速度をその検出結果に応じてより遅い速度に補正することを特徴としている。
このような態様においては、上記第1または第2の記録媒体の状態に応じた速度でデータの記録が行われるように前記データ読み取り手段および前記データ記録手段が制御される。このため、上記第1または第2の記録媒体が、例えば、CD−RW(Compact Disk ReWritable)のようにデータの書き込み回数が増加するほど、エラーを発生させることなくデータの読み出しや書き込みを行うことが可能な速度が遅くなる記録媒体であっても、読み出しエラーや書き込みエラーを発生させることなくデータの記録を行うことが可能になる。
【0006】
また、別の好ましい態様においては、前記第2の記録手段へのデジタルデータの記録速度を優先するのか、それとも、その記録品質を優先するのかをユーザに設定させる設定手段を有し、前記制御手段は、記録品質を優先する旨の設定が前記設定手段へ為された場合には、前記第1の記録媒体または前記第2の記録媒体の種別に応じて定まる速度を、より遅い速度に補正することを特徴としている。
このような態様においては、記録品質を優先する旨の設定が為された場合には、上記各記録媒体の種別に応じて定まる速度よりも遅い速度でデータの記録が行われるように前記データ読み取り手段および前記データ記録手段が制御される。一般に、記録媒体へのデータの記録速度とその記録品質とはトレードオフの関係にあるから、上記のような制御が為されることによって、記録媒体の種別に応じて定まる速度でデータを記録する場合に比較して、その記録品質を向上させることが可能になる。
【0007】
また、本発明の別の態様においては、コンピュータ装置に、第1の記録媒体に記録されているデジタルデータを読み取り、そのデジタルデータにD/A変換およびA/D変換を施して得られるデジタルデータを自装置のバッファに順次蓄積し、該バッファに蓄積されているデジタルデータを前記第1の記録媒体とは異なる第2の記録媒体へ記録する処理を前記第1の記録媒体または前記第2の記録媒体の種別に応じて定まる速度で実行させるプログラムにおいて、前記コンピュータ装置に、前記第1または第2の記録媒体の種別に応じて定まる速度に対応する前記遅延の度合いを前記コンピュータ装置に予め記憶されている遅延量管理テーブルであって、その遅延の度合いを表すデータが前記速度毎に書き込まれている遅延量管理テーブルの格納内容を参照して特定する第1の処理と、前記第1の記録媒体からのデジタルデータの読み取りを開始してから前記バッファに蓄積されたデジタルデータが前記第1の処理にて特定された遅延に応じたデータ量に達するまでは、前記第2の記録媒体へのデジタルデータの書き込みを行わず、そのデータ量に達した時点で書き込みを開始する第2の処理とを実行させるプログラムを提供するとしても良く、また、コンピュータ装置読み取り可能な記録媒体にそのプログラムを書き込んで提供するとしても良い。
このようなプログラムおよびそのプログラムが書き込まれた記録媒体によれば、一般的なコンピュータ装置を本発明に係るデータ記録装置として機能させることが可能になる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コピー元記録媒体に記録されているデジタルデータを一旦アナログ信号に変換し再度デジタルデータに変換してコピー先記録媒体へ記録する際に、不要なデータがコピー先記録媒体へ記録されることが確実に回避される、といった効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ本発明を実施する際の最良の形態について説明する。
(A:第1実施形態)
(A−1:構成)
図1は、本発明に係るデータ記録装置の1実施形態に係るハードディスクレコーダ100の構成例を示すブロック図である。
【0010】
図1のデータ読み取り部110は、例えばCDドライブであり、CD−R(Compact Disk Recordable)などのコピー元記録媒体の各トラックに記録されている楽曲データを順次読み出し、スイッチSW1を介して信号処理部120へ出力するためのものである。なお、本実施形態では、コピー元記録媒体に複数の楽曲データが記録されている場合について説明するが、1の楽曲データが記録されている場合であっても良いことは勿論であり、また、1または複数の映像データがコピー元記録媒体に記録されているとしても勿論良い。要は、後述する信号処理部120によって所定の信号処理(本実施形態では、D/A変換およびA/D変換)を施した後にコピー先記録媒体へ記録されるデジタルデータであれば、どのようなデータであっても良い。また、本第1実施形態では、コピー元記録媒体の最内週に、そのコピー元記録媒体に記録されている各楽曲データのデータサイズ(各楽曲データが書き込まれているトラックのサイズ)を示すTOCが書き込まれているものとする。
【0011】
図1のスイッチSW1およびSW2は、制御部150の制御下でオン/オフが切り替えられるスイッチング素子である。制御部150によってスイッチSW1がオン状態にセットされると、データ読み取り部110から出力されたデータは、そのスイッチSW1を介して信号処理部120へと入力される。一方、制御部150によってスイッチSW2がオン状態にセットされると、信号処理部120から出力されたデータは、そのスイッチSW2を介してバッファ130へと入力される。
【0012】
信号処理部120は、図1に示すように、D/A変換回路120aとA/D変換回路120bとを含んでいる。D/A変換回路120aは、スイッチSW1を介して入力されたデジタルデータをアナログ信号へ変換して出力するものであり、A/D変換回路120bは、D/A変換回路120aから出力されたアナログ信号にデジタル変換を施して出力するものである。この信号処理部120は、スイッチSW1を介して入力されたデジタルデータにアナログ変換およびデジタル変換を施して得られるデジタルデータ(以下、「処理済みデータ」と呼ぶ)をスイッチSW2を介してバッファ130へ出力する。
【0013】
図1のバッファ130は、例えばRAM(Random Access Memory)であり、スイッチSW2を介して信号処理部120から出力された処理済みデータをその出力順に蓄積するためのものである。
図1のデータ記録部140は、例えば、ハードディスクドライブを含んでおり、バッファ130に蓄積されている処理済みデータを、制御部150からの指示に応じて読み出し記憶するものである。つまり、このデータ記録部140は、バッファ130に蓄積されている処理済みデータを読み出し、コピー元記録媒体とは異なるコピー先記録媒体(本実施形態では、データ記録部140に内蔵されているハードディスク)へ書き込んで記録するためのものである。詳細については後述するが、データ記録部140は、コピー元記録媒体の各トラックに記録されている楽曲データをそれぞれ1つのファイルとしてコピー先記録媒体へ記録する。
【0014】
そして、図1の制御部150は、CPU(Central Processing Unit)であり、図1の記憶部160は、例えばEEPROM(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory)である。この記憶部160には、データ読み取り部110や信号処理部120、データ記録部140など他の構成要素の作動制御を制御部150に行わせるための制御プログラムであるファームウェアが書き込まれている。一方、制御部150は、このファームウェアを記憶部160から読み出して実行することによって、本発明に係るデータ記録装置に特徴的な処理を実行する。また、記憶部160には、図1に示すように、速度管理テーブル160aと、遅延量管理テーブル160bと、遅延測定用データ160cとが格納されている。
【0015】
図2(a)は、速度管理テーブル160aの一例を示す図である。
図2(a)に示すように、速度管理テーブル160aには、コピー元記録媒体の製品種別を表す媒体識別子(例えば、記録媒体の製品名や製品型番を表す文字列など)に対応付けてその記録媒体についての最大読み出し速度を表す最大速度データが格納されている。ここで、最大読み出し速度とは、その記録媒体からのデータ読み出しを行う際に、読み出しエラーを発生させることなくデータ読み出しが可能な読み出し速度であり、176.4キロバイト/秒を基準の速度(1倍速)とした場合にその何倍であるかにより表されている。本実施形態のハードディスクレコーダ100は、データ読み取り部110によってデジタルデータの読み取りが行われるコピー元記録媒体の製品種別毎にその最大読み出し速度を表す速度管理テーブル160が記憶部160に書き込まれた状態で工場出荷される。この速度管理テーブル160aは、コピー元記録媒体に記録されている楽曲データを読み出す際の速度をその製品種別に基づいて制御部150に特定させる際に利用される。
【0016】
図2(b)は、遅延量管理テーブル160bの一例を示す図である。
図2(b)に示すように、遅延量管理テーブル160bには、信号処理部120にて信号処理を施すことにより生じる遅延の度合いを表す遅延量データが、その信号処理部120へのデータの転送速度毎に格納されている。本実施形態では、この遅延量管理テーブル160bについても記憶部160に書き込まれた状態で工場出荷される。この遅延量管理テーブル160bは、コピー元記録媒体に記録されている楽曲データを所定の転送速度で信号処理部120へと転送し、信号処理済みデータをデータ記録部140に記録させる際に、信号処理部120にて生じる遅延の度合いを制御部150に特定させる際に利用される。
【0017】
遅延測定用データ160cは、図3(a)に示すような信号波形(本実施形態では、所定時間の無音区間とその無音区間に後続する1波長分の正弦波で構成される信号波形)を表す一連のデジタルデータ(例えば、図3(b)に示す一連の1バイトデータ)である。この遅延測定用データ160cは、ハードディスクレコーダ100の工場出荷時点で、信号処理部120にて生じる遅延の度合いをその信号処理部120への転送速度毎に制御部150に特定させ、上述した遅延量管理テーブル160bを生成させる際に利用される。
以上が、ハードディスクレコーダ100の構成である。
【0018】
(A−2:動作)
次いで、前述したファームウェアにしたがって制御部150が行う動作について説明する。以下では、まず、前述した遅延量管理テーブル160bを生成する際に制御部150が実行する遅延測定処理について説明する。前述したように、この遅延測定処理は、ハードディスクレコーダ100の工場出荷前に実行される処理である。
【0019】
図4は、上記ファームウェアにしたがって作動している制御部150が、操作部(図示省略)を介して遅延量の測定を行うことを指示された場合に行う遅延測定処理の流れを示すフローチャートである。図4に示すように、制御部150は、上記操作部を介して転送速度の設定が行われると(ステップSA100)、スイッチSW1およびSW2をそれぞれオンにし、前述した遅延測定用データをその転送速度でデータ読み取り部110から出力させる(ステップSA110)。例えば、ステップSA100にて転送速度として“1倍速”が設定された場合には、制御部150は、“1倍速”(すなわち、176.4キロバイト/秒)の転送速度で遅延測定用データをデータ読み取り部110から出力させる。このようにして出力された遅延測定用データは、スイッチSW1を介して信号処理部120へ入力され所定の信号処理が施された後に、スイッチSW2を介して出力され、バッファ130へと書き込まれる。以下では、図3(b)に示す遅延測定用データが上記転送速度で信号処理部120へと入力され、図3(d)に示す処理済みデータが信号処理部120から出力されてバッファ130へ書き込まれた場合について説明する。そして、図3(d)に示す処理済みデータは、図3(c)に示す信号波形を表しているものとする。
【0020】
次いで、制御部150は、信号処理部120へと入力されたデータ(すなわち、図3(b)に示す遅延測定用データ)のバイナリダンプと、信号処理部120から出力されバッファ130へ書き込まれたデータ(すなわち、図3(d)に示す処理済みデータ)のバイナリダンプとを比較して信号処理部120における遅延を特定する(ステップSA120)。具体的には、制御部150は、図3(b)に示す遅延測定用データのうち、図3(a)に示す信号波形のピーク位置に対応するデータ(本実施形態では、先頭から16バイト目の“77”)の位置と、図3(d)に示す処理済みデータのうち、図3(c)に示す信号波形のピーク位置に対応するデータ(本実施形態では、先頭から21バイト目の“77”)の位置との差(21−16=5バイト)を上記遅延量として特定する。
なお、本動作例では、図3(a)に示す信号波形のピーク位置と図3(c)に示す信号波形のピーク位置との差を算出することによって上位遅延量を特定する場合について説明したが、図3(a)に示す信号波形の立ち上がり位置(本実施形態では、先頭から10バイト目の“11”の位置)と図3(c)に示す信号波形の立ち上がり位置(本実施形態では、先頭から15バイト目の“11”の位置)との差を算出することによって上記遅延量を算出することも不可能ではない。しかしながら、両信号波形の立ち上がり部分では、ノイズによる影響が顕著であり、遅延量を正確に測定することができなくなってしまう虞があるため、本実施形態にて説明したように、両信号波形のピーク位置により遅延量を測定するほうが望ましい。
【0021】
そして、制御部150は、ステップSA120にて特定された遅延量を表す遅延量データとその測定を行った際の転送速度(すなわち、ステップSA100にて設定された転送速度)を表すデータとを対応付けて遅延量管理テーブル160bへ書き込み(ステップSA130)、本遅延測定処理を終了する。以降、ステップSA100にて設定する転送速度を“2倍速”、“4倍速”…と異ならせて上記遅延測定処理を実行させることによって、ハードディスクレコーダ100の工場出荷時点で、図2(b)に示す遅延量管理テーブル160bをその記憶部160に予め書き込んでおくことが可能になる。
なお、本第1実施形態では、上記遅延測定処理が実行された状態でハードディスクレコーダ100が工場出荷される場合について説明したが、ハードディスクレコーダ100の工場出荷後、そのハードディスクレコーダ100を購入したユーザに上記遅延測定処理を実行させるようにしても勿論良い。また、上記遅延測定処理を工場出荷前にのみ実行させる場合には、遅延測定処理の実行が完了した時点で上記遅延測定用データを記憶部160から消去するようにしても勿論良い。
【0022】
次いで、コピー元記録媒体に記録されている複数の楽曲データをコピー先記録媒体へ記録することを指示された場合に制御部150が行う動作について説明する。なお、以下に説明する動作例では、上記楽曲データの記録を行う際に、記録速度(本実施形態では、コピー元記録媒体からのデータ読み出し速度)を優先する「速度優先モード」と、記録品質(本実施形態では、音質)を優先する「品質優先モード」と、両者の中間の「通常記録モード」(すなわち、品質優先モードよりは記録速度が速く、速度優先モードよりは記録品質が高いモード)のうちの何れかを指定することが可能であるとする。
【0023】
コピー元記録媒体がデータ読み取り部110の図示せぬトレイにセットされ、図示せぬ操作部をユーザが適宜操作することによって、そのコピー元記録媒体についての媒体識別子や上記3つのモードの何れかを指定して、記録の開始を指示すると、前述したファームウェアにしたがって作動している制御部150は、図5に示すデータ記録処理を開始する。図5に示すように、制御部150は、まず、上記操作部を介して設定された内容とコピー元記録媒体の状態とに応じて、記録速度を特定する(ステップSB100)。
【0024】
具体的には、制御部150は、まず、操作部を介して設定された媒体識別子に対応する最大速度データを速度管理テーブル160aから読み出し、その最大速度データの表す速度を上記記録速度として設定する。そして、制御部150は、その記録速度でコピー元記録媒体の外周部分を読み取り、読み取りエラーが発生したか否かを判定し、読み取りエラーが発生した場合には、読み取りエラーが発生しなくなるまで、記録速度を低下させてゆく。つまり、制御部150は、コピー元記録媒体の種別に応じて定まる記録速度を、そのコピー元記録媒体の状態に応じて、より遅い記録速度へと補正する。このような補正を行うことによって、コピー元記録媒体の状態が悪く(例えば、媒体表面に多数のキズがあるなど)その媒体種別から定まる最大速度でデータ読み出しを行うと読み取りエラーが発生するような場合であっても、読み取りエラーを発生させることなくそのコピー元記録媒体から楽曲データを読み出すことが可能になる。
次いで、制御部150は、ユーザによって指定されたモードに応じて、上記記録速度を更に補正し記録速度を特定する。具体的には、制御部150は、「速度優先モード」が指定された場合には、コピー元記録媒体の状態に応じて補正された記録速度を本データ記録処理における記録速度として特定する。前述したように、コピー元記録媒体の状態に応じて補正された記録速度は、そのコピー元記録媒体から楽曲データの読み出しを行う際に、読み出しエラーを発生させることなく、その楽曲データの読み出しが可能な速度の最大値だからである。
これに対して、ユーザによって設定されたモードが「通常記録モード」である場合には、上記記録速度と1倍速との中間の速度を、本データ記録処理における記録速度として特定する。記録速度と記録品質とは一般にトレードオフの関係にあり、「速度優先モード」よりも高い記録品質でコピー先記録媒体へのデータ記録を行うためである。
そして、ユーザによって設定されたモードが「品質優先記録モード」である場合には、制御部150は、本データ記録処理における記録速度を“1倍速”と特定する。「品質優先モード」が指定された場合には、最も高い記録品質でコピー先記録媒体へのデータ記録を行うためである。
【0025】
次いで、制御部150は、ステップSB100にて特定された記録速度と遅延量管理テーブル160bの格納内容とを比較して、信号処理部120における遅延の度合いを表す遅延量を特定する(ステップSB110)。例えば、ステップSB100にて特定された記録速度が“4倍速”である場合には、制御部150は、遅延量を“20バイト”と特定する。
【0026】
次いで、制御部150は、楽曲データを書き込むためのファイルをデータ記録部140のハードディスク内に生成する一方、スイッチSW1およびSW2の両者を同時にオンにセットし(ステップSB120)、その後、コピー元記録媒体の第1トラックに記録されている楽曲データから順にデータ読み取り部110にその読み込みを開始させる(ステップSB130)。このようにしてデータ読み取り部110によって読み込まれた楽曲データはスイッチSW1を介して信号処理部120へ入力され、D/A変換およびA/D変換が施された後にスイッチSW2を介してバッファ130へ出力され、バッファ130に蓄積される。
【0027】
このようにしてバッファ130に処理済みデータが蓄積されると、制御部150は、そのデータ量がステップSB110にて特定した遅延量に達したか否かを判定し(ステップSB140)、その判定結果が“Yes”になるまで、データ記録部140によるデータの記録を待機させておくとともに、前述したステップSB130の繰り返し実行する。そして、その判定結果が“Yes”になると、制御部150は、ステップSB150以降の処理を実行する。
【0028】
ステップSB140の判定結果が“Yes”である場合に後続して実行されるステップSB150においては、制御部150は、バッファ130に格納されている処理済みデータを消去する。ステップSB140の判定結果が“Yes”になるまでにバッファ130に書き込まれた処理済みデータは、記録対象である楽曲データに先行して信号処理部120から出力された不要なデータ(雑音や無音に対応するデータ)であるから、上記ステップSB150の処理が実行されることによって、このような不要なデータはバッファ130から削除される。
【0029】
以降、制御部150は、データ読み取り部110による楽曲データの読み込みを継続させ(ステップSB160)、バッファ130にデータが蓄積されているか否かを判定する(ステップSB170)。そして、ステップSB170の判定結果が“No”である場合には、制御部150は、ステップSB160の処理を再度実行し、複製対象である楽曲データをデータ読み取り部110に読み込ませ、逆に、ステップSB170の判定結果が“Yes”である場合には、バッファ130に蓄積されているデータをデータ記録部140に記録させる(ステップSB180)。
【0030】
より詳細に説明すると、上記ステップSB180においては、制御部150は、記録対象である楽曲データのデータサイズを前述したTOCを参照して取得し、そのデータサイズに相当するデータ量がステップSB120にて作成したファイルに書き込まれたか否かを判定する。そして、その判定結果が“No”である場合には、制御部150は、そのファイルへの楽曲データの書き込みを継続し、その判定結果が“Yes”である場合には、そのファイルをクローズするとともに、バッファ130に楽曲データが蓄積されている場合には、新たなファイルを作成し、該新たなファイルへその楽曲データを書き込む。これにより、コピー元記録媒体の各トラックに記録されている楽曲データが夫々固有のファイルに書き込まれてデータ記録部140のハードディスクに記録されることになる。
以上に説明したように本第1実施形態に係るハードディスクレコーダ100によれば、複製対象である楽曲データの他に不要なデータがコピー先記録媒体にてその楽曲データに対応するファイルに書き込まれることが回避される。
【0031】
(B:第2実施形態)
次いで、本発明の第2実施形態について説明する。
図6は、本発明に係るデータ記録装置の第2の実施形態であるCD−Rレコーダ600の構成例を示すブロック図である。図6に示すCD−Rレコーダ600の構成が、前述したハードディスクレコーダ100の構成と異なっている点は、データ読み取り部110に替えてデータ読み取り部610を設けた点と、データ記録部140に替えてデータ記録部640を設けた点と、記憶部160に替えて記憶部660を設けた点とである。
【0032】
図6のデータ読み取り部610は、複数の楽曲データが夫々固有のファイルに書き込まれたハードディスク(図示省略)を備えており、それらファイルに書き込まれている楽曲データを読み出し、スイッチSW1を介して信号処理部120へ供給するものである。また、上記ハードディスクには、詳細な図示は省略したが、そのハードディスクに格納されている各楽曲データのデータサイズを表すデータベースが予め格納されている。
【0033】
一方、図6のデータ記録部640は、CD−Rドライブであり、バッファ130に蓄積されているデータを読み出し、自ドライブのトレイ(図示省略)にセットされているCD−Rに所定の記録速度で書き込むものである。
つまり、本第2実施形態に係るCD−Rレコーダ600においては、データ読み取り部610のハードディスクがコピー元記録媒体であり、データ記録部640にセットされるCD−Rがコピー先記録媒体である。
【0034】
そして、図6の記憶部660が、図1に示す記憶部160と異なっている点は、速度管理テーブル160aに替えて、速度管理テーブル660aが格納されている点のみである。この速度管理テーブル660aには、データ記録部640にセットされるコピー先記録媒体の製品種別毎に、書き込みエラーを発生させることなくそのコピー先記録媒体へデータの書き込みを行うことが可能な速度の最大値をあらわす最大速度データが格納されている。
【0035】
以上がCD−Rレコーダ600の構成である。次いで、CD−Rレコーダ600が行う動作について説明する。なお、CD−Rレコーダ600にて行われる遅延測定処理については、ハードディスクレコーダ100が行う遅延測定処理と同一であるため、説明を省略し、データ記録動作についてのみ説明する。
CD―Rレコーダ600の制御部150が行うデータ記録処理の流れは、基本的に図5に示すデータ記録処理の流れと同一であるが、以下の3つの点が異なっている。
第1に、ステップSA100にて記録速度を特定する際に、データ記録部640のトレイ(図示省略)にセットされたコピー先記録媒体の状態を検出しその検出結果に応じて上記記録速度を補正する点である。
【0036】
第2に、ステップSB120において、新たなファイルを生成することに替えてデータ読み取り部610のハードディスクに記憶されているデータベースを読み取り、そのデータベースに格納されている各楽曲データのデータサイズに応じてその楽曲データの表す楽曲の演奏時間を算出し、コピー先記録媒体にて各楽曲データを格納するためのトラックの開始位置を表すCueSheet(図7参照)をその算出結果から生成する点である。このようにして生成されたCueSheetは、コピー先記録媒体への楽曲データの記録の開始に先立って、データ記録部640へと転送される。このCueSheetは、各楽曲データ毎に区切って(すなわち、トラックを区切って)コピー先記録媒体へ楽曲データを記録する際に利用されるとともに、前述したTOCを生成してコピー先記録媒体の最内周へ書き込む際にも利用される。
【0037】
そして、第3に、ステップSB180にて、楽曲データ毎に区切ってコピー先記録媒体へ記録する際に、前述したCueSheetにしたがって各楽曲データを区切ってコピー先記録媒体へ記録し、データ読み取り部610から送り出したデータ量が、そのCueSheetの表す各楽曲データのデータサイズの総和に達した時点で、データ記録処理を終了する点である。
以上に説明したように、本第2実施形態に係るCD−Rレコーダ600においても、図5に示すフローチャートにしたがってデータ記録処理が行われるため、コピー先記録媒体への不要なデータの記録が確実に回避される、といった効果を奏する。
【0038】
(C:変形例)
以上、本発明を実施する際の最良の形態について説明したが、上記各実施形態を以下に述べるように変形しても良いことは勿論である。
(1)上述した第1実施形態では、コピー元記録媒体がCD−Rである場合について説明し、上述した第2実施形態では、コピー先記録媒体がCD−Rである場合について説明した。しかしながら、コピー元記録媒体やコピー先記録媒体は、CD−Rに限定されるものではなく、CD−RWであっても勿論良く、また、コピー元記録媒体については、CD−DA(Compact Disc Digital Audio)であっても良い。要は、楽曲や映像などのコンテンツをデジタルデータとして記録することが可能な記録媒体であれば、どのような記録媒体であっても良い。なお、コピー元記録媒体或いはコピー先記録媒体がCD−RWである場合には、そのCD−RWに記録されているATIP情報のエラーレートに応じてその最大読み出し速度や最大書込み速度を特定するようにしても勿論良い。
【0039】
(2)上述した各実施形態では、コピー元記録媒体またはコピー先記録媒体の種別に応じて定まる記録速度を、その記録媒体の状態やユーザのモード指定に応じて補正し、実際にデータの記録を行う際の記録速度を特定する場合について説明した。しかしながら、記録媒体の状態を加味することが必須ではないことは言うまでもない。また、ユーザにモード指定を行わせず、記録媒体の製品種別に応じて定まる記録速度でデータの記録を行うようにしても勿論良い。
【0040】
(3)上述した各実施形態では、ハードディスクレコーダ100やCD−Rレコーダ600の工場出荷時点で、信号処理部120における信号処理(すなわち、D/A変換およびそのD/A変換に後続して実行されるA/D変換)による遅延の度合いを転送速度毎に計測しその計測結果を遅延量管理テーブルへ書き込んでおく場合について説明した。しかしながら、例えば、転送速度が“1倍速”である場合の遅延を計測しその計測結果のみ記憶部160や記憶部660に書き込んでおき、より高速でデータの記録を行う場合には、その速度に見合う遅延量をその測定結果に比例演算を施すことによって算出するようにしても良い。
【0041】
(4)上述した実施形態では、信号処理部120は、データ読み取り部110から入力されたデジタルデータにD/A変換およびA/D変換を施して出力する場合について説明したが、例えばD/A変換を施して得られるアナログ信号にフィルタリング処理を施してからA/D変換を施すようにしても良いことは勿論である。
【0042】
(5)上述した実施形態では、本発明に係るデータ記録装置に特徴的な遅延計測処理やデータ記録処理を制御部150に実行させるための制御プログラム(ファームウェア)を記憶部160や記憶部660に予め書き込んでおく場合について説明した。しかしながら、例えば、CD−ROM(Compact Disk-Read Only Memory)などのコンピュータ装置読み取り可能な記録媒体に上記制御プログラムを書き込んで配布するとしても良く、また、インターネットなどの電気通信回線を介して上記制御プログラムを配布するとしても良い。このようにして配布された制御プログラムをインストールすることによって、一般的なコンピュータ装置や従来のデータ記録装置に、本発明に係るデータ記録装置と同一の機能を付与することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係るデータ記録装置の第1実施形態であるハードディスクレコーダ100の構成例を示すブロック図である。
【図2】同ハードディスクレコーダ100の記憶部160に格納されている速度管理テーブル160aおよび遅延量管理テーブル160bの一例を示す図である。
【図3】同記憶部160に格納されている遅延測定用データの一例を示す図である。
【図4】同ハードディスクレコーダ100の制御部150がファームウェアにしたがって行う遅延測定処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】同制御部150が、同ファームウェアにしたがって行うデータ記録処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】本発明の第2実施形態に係るCD−Rレコーダ600の構成例を示すブロック図である。
【図7】同CD−R書込み装置600の制御部150が生成するCueSheetの一例を示す図である。
【図8】従来のデータ記録装置の不具合を説明するための図である。
【符号の説明】
【0044】
100…ハードディスクレコーダ、110,610…データ読み取り部、120…信号処理部、120a…D/A変換回路、120b…A/D変換回路、130…バッファ、140,640…データ記録部、150…制御部、160,660…記憶部、160a、660a…速度管理テーブル、160b…遅延量管理テーブル、160c…遅延測定用データ、600…CD−Rレコーダ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の記録媒体に書き込まれているデジタルデータを読み取って出力するデータ読み取り手段と、
前記データ読み取り手段から出力されたデジタルデータにD/A変換を施してアナログ信号に変換し、そのアナログ信号にA/D変換を施して得られるデジタルデータを出力する信号処理手段と、
前記信号処理手段から出力されたデジタルデータをその出力順に蓄積するバッファと、
前記バッファに蓄積されているデジタルデータを読み出して前記第1の記録媒体とは異なる第2の記録媒体へ記録するデータ記録手段と、
前記第1の記録媒体からのデジタルデータの読み取り、または、前記第2の記録媒体へのデジタルデータの記録が、前記第1の記録媒体または前記第2の記録媒体の種別に応じて定まる速度で行われるように前記データ読み取り手段および前記データ記録手段を制御する制御手段と、
前記信号処理手段にてD/A変換およびA/D変換を施すことにより生じる遅延の度合いを表すデータが前記速度毎に書き込まれている遅延量管理テーブルと、
を有し、
前記制御手段は、
前記第1の記録媒体または前記第2の記録媒体の種別に応じて定まる速度に対応する前記信号処理手段の遅延の度合いを前記遅延量管理テーブルを参照して特定し、
前記データ読み取り手段によるデジタルデータの読み取りを開始してから前記バッファに蓄積されたデジタルデータがその遅延に応じたデータ量に達するまでは、前記データ記録手段を待機させ、そのデータ量に達した時点から前記データ記録手段にデジタルデータの記録を開始させる
ことを特徴とするデータ記録装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記第1の記録媒体または前記第2の記録媒体の状態を検出し、前記第1の記録媒体または前記第2の記録媒体の種別に応じて定まる速度をその検出結果に応じてより遅い速度に補正する
ことを特徴とする請求項1に記載のデータ記録装置。
【請求項3】
前記第2の記録手段へのデジタルデータの記録速度を優先するのか、それとも、その記録品質を優先するのかをユーザに設定させる設定手段を有し、
前記制御手段は、
記録品質を優先する旨の設定が前記設定手段へ為された場合には、前記第1の記録媒体または前記第2の記録媒体の種別に応じて定まる速度を、より遅い速度に補正する
ことを特徴とする請求項1に記載のデータ記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−35167(P2007−35167A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−217547(P2005−217547)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】