説明

データ記録装置

【課題】波形の細かな変動を確実に記録しながら記録データ量を抑えることができ、記録後における波形の異常変動部分の検出が容易に行えるデータ記録装置を提供すること。
【解決手段】アナログ入力信号をA/D変換器でデジタルデータに変換してデータメモリに格納するように構成されたデータ記録装置において、前記A/D変換器とデータメモリの間に、前記A/D変換器から変換出力されるデジタルデータに基づきアナログ入力信号の極値点を検出する極値点検出部を設け、前記データメモリには、検出した各極値点の波形データ値および極値点間におけるサンプリング回数をペアにした極値点データを格納することを特徴とするもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ記録装置に関し、詳しくは、異常発生時におけるデータ記録の改善に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6は、従来のデータ記録装置の一例を示すブロック図である。アナログ入力波形は、入力部1に入力されてA/D変換動作に適した振幅に調整され、A/D変換器2に入力される。
【0003】
A/D変換器2は、クロック発生器3から入力されるサンプルクロックの周波数に応じてアナログ入力波形をデジタルデータに変換し、変換したデジタルデータをデータメモリ4に格納する。たとえばサンプルクロックの周波数が10kS/sの場合には、A/D変換器2は1秒間に10000回サンプリングを行うことになる。
【0004】
データメモリ4に格納されたデジタルデータは、波形表示部5に読み出されて測定波形として表示される。この波形表示部5の表示画面に表示される波形により、アナログ入力波形を確認できる。
【0005】
図7は図6の動作説明図であり、(A)はサンプルクロック周波数が高く設定されている場合の高サンプル点記録例を示し、(B)はサンプルクロック周波数が低く(Aの1/5)設定されている場合の低サンプル点記録例を示している。
【0006】
(A)の高サンプル点記録例によれば、短い間隔でアナログ入力波形のデータサンプリングを行うことから、波形の細かな変動状態もデジタルデータに変換してデータメモリ4に取り込むことができ、波形の異常(通常とは異なる波形の変動)が再現表示できる。
【0007】
これに対し、(B)の低サンプル点記録例によれば、長い間隔でアナログ入力波形のデータサンプリングを行うことから、波形の細かな変動状態はサンプリングの谷間に埋没することになり、デジタルデータに変換してデータメモリ4に取り込むことはできず、波形の異常を再現表示できない。
【0008】
図8は図6の装置におけるサンプルデータ例図であり、(A)はサンプルクロック周波数が高く設定されている場合の高サンプル点データ例を示し、(B)はサンプルクロック周波数が低く(Aの1/5)設定されている場合の低サンプル点データ例を示している。(A)のクロック周波数は(B)の5倍であることから、高サンプル点データ量は低サンプル点データ量の5倍になっている。
【0009】
特許文献1は、記録紙を用いた記録計に関するものであり、入力信号の異常を検出した場合には記録紙の送り速度を正常状態よりも高速にするとともにサンプリング周波数も正常状態よりも高くすることにより入力信号の異常状態を記録紙に細かく記録し、記録紙の消費量を減らすことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実公平1−24568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、高サンプル点記録によれば、より細かい波形の変動を記録できる一方で記録するデータ量が多くなり、メモリを大量に使用することになる。
【0012】
また、大量のデータから波形の異常波形部を検出しなければならず、データ処理に時間がかかるという問題もある。
【0013】
これに対し、低サンプル点記録によれば、高サンプル記録に比べ記録すべきデータ量を削減できるものの、波形の細かな変化を記録できないため、波形の異常を検出できないことになる。
【0014】
本発明は、これらの問題を解決するものであり、その目的は、波形の細かな変動を確実に記録しながら記録データ量を抑えることができ、記録後における波形の異常変動部分の検出が容易に行えるデータ記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
アナログ入力信号をA/D変換器でデジタルデータに変換してデータメモリに格納するように構成されたデータ記録装置において、
前記A/D変換器とデータメモリの間に、前記A/D変換器から変換出力されるデジタルデータに基づきアナログ入力信号の極値点を検出する極値点検出部を設け、
前記データメモリには、検出した各極値点の波形データ値および極値点間におけるサンプリング回数をペアにした極値点データを格納することを特徴とする。
【0016】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のデータ記録装置において、
前記極値点検出部は、前記A/D変換器から変換出力されるデジタルデータに基づき前記アナログ入力信号の傾きを求める微分演算部と、この微分演算部で求めたアナログ入力信号の傾きの符号が逆転する位置を検出するゼロクロス点検出部で構成されていることを特徴とする。
【0017】
請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2記載のデータ記録装置において、
前記A/D変換器の前段または後段に、前記アナログ入力信号のノイズ成分を除去するスムージング処理部を設けたことを特徴とする。
【0018】
請求項4記載の発明は、請求項3記載のデータ記録装置において、
前記スムージング処理部は、ローパスフィルタであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、波形の細かな変動を確実に記録しながら記録データ量を抑えることができ、波形の異常変動部分を容易に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態の一例を示すブロック図である。
【図2】図1の動作説明図である。
【図3】図1の装置におけるサンプルデータ例図である。
【図4】1周期T=1秒の正弦波をサンプルクロック10kS/sでサンプリング記録する場合の動作説明図である。
【図5】図4のサンプルデータ例図である。
【図6】従来のデータ記録装置の一例を示すブロック図である。
【図7】図6の動作説明図である。
【図8】図6の装置におけるサンプルデータ例図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の実施形態の一例を示すブロック図であり、図6と同一のものは同一符号を付し説明を省略する。図1と図6の相違点は、図1では、A/D変換器2とデータメモリ4の間に極値点検出部6を設けていることである。
【0022】
図1において、アナログ入力波形は、入力部1に入力されてA/D変換動作に適した振幅に調整され、A/D変換器2に入力される。
【0023】
A/D変換器2は、クロック発生器3から入力されるサンプルクロックの周波数に応じてアナログ入力波形をデジタルデータに変換し、変換したデジタルデータを極値点検出部6に出力する。たとえばサンプルクロックの周波数が10kS/sの場合には、A/D変換器2は1秒間に10000回サンプリングを行うことになる。
【0024】
極値点検出部6は、微分演算部61とゼロクロス点検出部62で構成されている。極値点検出部6において、微分演算部61は、A/D変換器2がサンプリングした波形データに基づき波形の傾きを求める。ゼロクロス点検出部62は、微分演算部61で求めた波形の傾きの符号が逆転する位置(ゼロクロス点)を検出する。
【0025】
そして、検出した各極値点の波形データ値および極値点間におけるサンプリング回数をペアにし、極値点データとしてデータメモリ4に格納する。
【0026】
データメモリ4に格納された極値点データは、時間的に一定間隔ではない。そこで、ペアとして記録した極値点間のサンプリング回数データから隣接する極値点の時間情報を取得し、波形を補間再生して波形表示部5に表示する。この波形表示部5の表示画面に表示される波形により、アナログ入力波形を確認できる。
【0027】
なお、波形にノイズなどの高周波成分が加算されていることがある。この場合には、必要に応じて、A/D変換器2の前段の入力部1にたとえばローパスフィルタよりなるスムージング処理部を設けてノイズ成分を除去することにより、適切な極値点を得ることができる。スムージング処理部は、A/D変換器2の後段に設けてもよい。
【0028】
図2は図1の動作説明図である。極値点検出部6は、実線で示すアナログ入力波形をA/D変換器2により高サンプル点記録と同じ周波数でサンプリングした波形データから極値点を検出して、データメモリ4に格納する。
【0029】
極値点データとして記録された波形データは、極値点間における波形の変動は再現できないものの、C点およびD点に示すような細かい波形の変化部を逃さず記録している。
【0030】
波形再生にあたっては、データメモリ4にペアとして格納されている極値点データの極値点間のサンプリング回数データから隣接する極値点の時間情報を取得し、極値点間の線分を破線で示すように直線で補間して波形表示部5に表示する。この波形表示部5の表示画面に表示される極値点と極値点間を結ぶ補間線よりなる近似波形により、アナログ入力波形を確認できる。
【0031】
図3は図1の装置におけるサンプルデータ例図であり、(A)はサンプルクロック周波数が高く設定されている場合の高サンプル点データ例を示し、(B)はサンプルクロック周波数が低く(Aの1/5)設定されている場合の低サンプル点データ例を示し、(C)は本発明に基づく極値点データ例を示している。
【0032】
高サンプル点記録および低サンプル記録は「サンプリング回数=記録データ点数」となるが、本発明に基づく極値点記録では「サンプリング回数≧記録データ点数」となり、特に高サンプル点記録に比べてデータメモリ4に格納される記録データ点数を大幅に削減できる。
【0033】
また、本発明の極値点記録では、極値点間におけるサンプリング回数を同時に記録することにより、時間的に一定間隔でない極値点間の時間情報を補っている。
【0034】
このような極値点記録にすることにより、高サンプル点記録でないと記録できなかった波形の細かい変化部分を確実に記録できるとともに、記録する波形データ点数を少なくすることができ、データメモリ4に格納するデータ量を大幅に抑えることができる。
【0035】
図4は1周期T=1秒の正弦波をサンプルクロック10kS/sでサンプリング記録する場合の動作説明図、図5は図4のサンプルデータ例図である。
【0036】
図6に示した従来の装置で測定した場合、前述のように1秒間に10000点のデジタルデータがA/D変換器2で変換されてデータメモリ4に格納される。
【0037】
これに対し、本発明の極値点記録によれば、1秒間にデータメモリ4に格納されるデータは、波形に異常がなければ正弦波1周期における正負の極値点の波形データ値および極値点間におけるサンプリング回数をペアとする2点のみとなり、波形に異常があった場合でも異常波形区間における各極値の数だけ波形データ値および極値点間におけるサンプリング回数がペアとして格納されるので、記録容量は大幅に削減される。
【0038】
データメモリ4に極値点の波形データ値および極値点間におけるサンプリング回数をペアとして格納することにより、正しい正弦波であればサンプリング回数の推移は一定となるが、波形変動が他と異なるような異常波形が発生した場合にはサンプリング回数が不規則に変化して一定とならないため、図5のようなデータリストからも異常波形を容易に検出できる。
【0039】
また、データメモリ4に格納された極値点の記録データを用いて波形を再生表示する場合、三角波であれば、記録された極値点をそのまま繋ぐことによりほぼ入力波形の形を再現表示できる。正弦波の場合、記録された極値点をそのまま繋いで表示すると三角波になってしまうが、スプライン補間などの補間処理を施すことで、ほぼ入力波形と近似した形を再現表示できる。
【0040】
以上説明したように、本発明によれば、波形の細かな変動を確実に記録しながら記録データ量を抑えることができ、記録後における波形の異常変動部分の検出が容易に行えるデータ記録装置を実現できる。
【符号の説明】
【0041】
1 入力部
2 A/D変換器
3 クロック発生器
4 データメモリ
5 波形表示部
6 極値点検出部
61 微分演算部
62 ゼロクロス点検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ入力信号をA/D変換器でデジタルデータに変換してデータメモリに格納するように構成されたデータ記録装置において、
前記A/D変換器とデータメモリの間に、前記A/D変換器から変換出力されるデジタルデータに基づきアナログ入力信号の極値点を検出する極値点検出部を設け、
前記データメモリには、検出した各極値点の波形データ値および極値点間におけるサンプリング回数をペアにした極値点データを格納することを特徴とするデータ記録装置。
【請求項2】
前記極値点検出部は、前記A/D変換器から変換出力されるデジタルデータに基づき前記アナログ入力信号の傾きを求める微分演算部と、この微分演算部で求めたアナログ入力信号の傾きの符号が逆転する位置を検出するゼロクロス点検出部で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のデータ記録装置。
【請求項3】
前記A/D変換器の前段または後段に、前記アナログ入力信号のノイズ成分を除去するスムージング処理部を設けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のデータ記録装置。
【請求項4】
前記スムージング処理部は、ローパスフィルタであることを特徴とする請求項3に記載のデータ記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−216925(P2010−216925A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62650(P2009−62650)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】