説明

トイレの排水構造

【課題】便器から排出される排水と、手洗器から排出される排水と、を下流で合流させて、下水に流下させるトイレの排水構造であって、手洗器用排水管上に噴出や破封の虞がある封水を用いずに、下水からの臭気などの逆流を確実に防止することができるトイレの排水構造を提供する。
【解決手段】トイレの排水構造は、便器から排出される排水を流下させる便器用排水流路と、トイレ内に設置される手洗器から排出される排水を流下させる手洗器用排水流路と、を下流で合流させて下水に排出するトイレの排水構造であって、前記手洗器用排水流路上にメンブレン式の自封トラップを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレの排水構造に関し、特に、便器から排出される排水と、手洗器から排出される排水と、を下流で合流させて、下水に流下させるトイレの排水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、トイレの排水構造として、図7に示すように、便器100から排水を排出する排水流路が、トイレ床面に埋設された排水配管101に連通しており、便器100とは離れた位置に形成された手洗器102から排出される排水を流下させる手洗器用排水管103が、この排水配管101に合流したトイレの排水構造104が知られている(例えば特許文献1、特許文献2)。このトイレの排水構造104においては、下水からの臭気などの逆流を抑えるために、便器内に一定の封水を貯留するトラップ106が形成されているとともに、手洗器用排水管103にもU字に湾曲させたU字トラップ105を形成している。
【0003】
このように形成したトイレの排水構造104は、便器100からの排水と手洗器102からの排水とをともに同一の排水配管101に排出するので、建屋側に別途手洗器用の排水配管を敷設する必要がないので、設置コストを下げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−248603号公報
【特許文献2】特開2003−313925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、便器100からの排水は汚物を下水まで流下させる必要であるので、便器100の背面上方に設置される貯留タンク107に貯留されている水及び便器に形成されているトラップ106に貯留されている封水を、勢い良く排水配管101側に排出する。便器100から排水配管101側に排水が勢い良く排出されると、排水配管101内に強い圧力が発生することになり、この排水配管101に連通している手洗器用排水管103にも逆流方向にも高い圧力が加わることになる。そして、手洗器用排水管103が逆流方向に加圧されると、この手洗器用排水管103の経路上に形成されたU字トラップ105に下流側から圧力が加わることになり、このU字トラップ105に貯留されている封水が手洗器102側に噴出する虞がある。
【0006】
また、多くの水洗トイレでは、便器100から排出された排水により下流側でサイフォン現象を発生させ、その吸引力で汚物を排出しているが、便器100のみならず手洗器用排水管側103にもサイフォン現象による負圧がかかることになる。そして、手洗器用排水管103の経路上に形成されているU字トラップ105にも下流側に吸引される負圧がかかることになり、このU字トラップ105に貯留されている封水が下流側に流出して、U字トラップ105内に封水が足りない破封が発生する虞がある。
【0007】
そこで、本発明は、便器から排出される排水と、手洗器から排出される排水と、を下流で合流させて、下水に流下させるトイレの排水構造であって、手洗器用排水管上に噴出や破封の虞がある封水を用いずに、下水からの臭気などの逆流を確実に防止することができるトイレの排水構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載のトイレの排水構造は、便器から排出される排水を流下させる便器用排水流路と、トイレ内に設置される手洗器から排出される排水を流下させる手洗器用排水流路と、を下流で合流させて下水に排出するトイレの排水構造であって、前記手洗器用排水流路上にメンブレン式の自封トラップを形成したことを特徴としている。
【0009】
なおここで、「メンブレン式の自封トラップ」とは、上流側が開放された筒状に形成されるとともに、下流側に前記上流側から連続しており互いに当接する2枚の板状の弁体が形成される弾性体により形成されたトラップであり、上流側から排水が流れる場合には、排水の圧力によりトラップの下流側の2枚の弁体が互いに離反する方向に弾性変形して開口するので排水を下流側に排出することができるとともに、下流側から臭気が上がってくる場合には、上流側から連続して形成された互いに当接する2枚の弁体により臭気を遮断することができるものである。
【0010】
請求項2に記載のトイレの排水構造は、前記手洗器用排水流路は、その一部に略水平に設けられた水平流路部に前記自封トラップが形成されるものであって、当該自封トラップは、上流側に筒状の基端部が形成されるとともに、下流側に当該基端部から連続して形成された弾性を有する板状であって、その先端が開閉自在に当接する上下一対の弁体が形成されており、当該弁体は、互いに当接する先端が上下方向の中央よりも下方に形成されたことを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載のトイレの排水構造は、前記水平流路部を形成する排水管の内周面、及び前記自封トラップの外側面には、互いに嵌合する上下方向が特定可能な凹凸が形成されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載のトイレの排水構造によると、手洗器用排水流路上にメンブレン式の自封トラップが形成されているので、封水を貯留した従来のトラップを設ける必要がない。そして、このメンブレン式の自封トラップは、上流から下流側に排水が流下するときには、排水の流れを妨げることがなく、一方、便器から排水配管側に排水が勢い良く排出されて、手洗用排水管に逆流方向に高い圧力が加わっても、その圧力を利用してより強固に弁体を閉ざすので、臭気や排水が手洗器側に逆流することを確実に防止できる。また、下流側でサイフォン現象が発生して吸引され場合でも、単に自封トラップの弁体が互いに離反して、上流側から下流側に空気が流れるのみであり、サイフォン現象が収束すると、再び弁体が互いに当接しあって、下流からの臭気の逆流を防止するので、封水を貯留した従来のトラップのように破封する虞もない。
【0013】
請求項2に記載のトイレの排水構造によると、手洗器用排水流路には水平流路部が形成されており、この水平流路部に自封トラップが形成されており、しかもこの自封トラップの上下一対の弁体の互いに当接する先端は、上下方向の中央よりも下方に形成されているので、上流側に排水があるときには、弁体同士が離反して開口しやすく、自封トラップの上流側に排水が滞留することを抑制できる。
【0014】
請求項3に記載のトイレの排水構造によると、水平流路部を形成する排水管の内周面、及び自封トラップの外側面に、互いに嵌合する上下方向が特定可能な凹凸が形成されているので、自封トラップを上下逆に取付けることができない。したがって、施工の際に自封トラップの上下を間違える不具合の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】トイレの排水構造の全体構成を説明する斜視図。
【図2】便器本体の構造を説明する一部省略断面図。
【図3】(A)は自封トラップの形状を説明する正面図、(B)は自封トラップの形状を説明する側面図、(C)は自封トラップの形状を説明する背面図、(D)は自封トラップの形状を説明する断面図。
【図4】(A)は、手洗器用排水流路上に設置された自封トラップが閉じた状態を示す断面図、(B)は、手洗器用排水流路上に設置された自封トラップが開いた状態を示す断面図。
【図5】水平流路部を形成する排水管の内周面の形状に沿うように、中心が下方に膨らむ円弧状に湾曲して弁体が形成された自封トラップを説明する正面図、側面図、斜視図。
【図6】水平流路部を形成する排水管の内周面の形状に沿うように、中心が下方に膨らむように湾曲して形成され、且つ、先端が下流方向に向かって細くなるように円弧状に形成された自封トラップを説明する上面図及び斜視図。
【図7】従来のトイレの排水構造を説明する斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、各図を参照しつつ、本発明のトイレの排水構造1の最良の実施形態について説明する。本実施形態のトイレの排水構造1は、図1に記載のように、洋式便器2と、この洋式便器2とは離れた位置に形成される手洗器3とを備えたトイレに敷設されている。なお、本実施形態においては洋式便器2を用いて説明するが、本発明のトイレの排水構造1は例えば和式便器が設置されたトイレにおいても用いることができる。
【0017】
洋式便器2は、図1及び図2に示すように、便座4、貯水タンク5、蓋体6、及び便器本体7を備えており、この便器本体7には、封水8を貯留して下流からの臭気や虫などの侵入を防ぐトラップ9が形成されるとともに、このトラップ9の下流側に、トイレ床面に埋設される排水配管10に連通する便器用排水流路11が形成されている。また、手洗器3は、蛇口12、水の出し止めを操作するレバー13、及び蛇口12から出た水を受けるシンク14を備えており、図示しないがシンク14の底には排水口が形成されいて、手洗器用排水流路15を形成する排水管16に連通している。
【0018】
そして、手洗器用排水流路15を形成する排水管16は、複数の管体19,20を連結して形成したものであり、シンク14の排水口から下方に略鉛直に伸びて、その下方で湾曲して略水平方向に伸びる水平流路部17を形成しており、この排水管16はトイレの壁沿いにさらに洋式便器2にまで伸びて、便器本体7に形成された便器用排水流路11に合流している。そして、水平流路部17の中間位置には、図1及び図4に示すように、メンブレン式の自封トラップ18が設けられている。自封トラップ18は、水平流路部17を形成する排水管16の上流側管体19と下流側管体20との連結部に設置されている。本実施形態のトイレの排水構造1を施工する際には、自封トラップ18の基端部21を上流側管体19の端部に挿入して固定した後、上流側管体19に下流側管体20を外嵌して固定することにより、水平流路部17内に自封トラップ18を設置している。
【0019】
自封トラップ18は、図3に示すように、弾性を有する樹脂により形成されており、上流側の端部が開放された基端部21を形成するとともに、下流側の端部は、この基端部21から連続して先端側に向かって細くなる側部が互いに閉じ合わされた板状に形成された上下一対の弁体22が形成されている。この上下一対の弁体22は、その先端が自封トラップ18の上下方向の中央よりも下方に位置するように、下側の弁体22bが略水平に形成されるとともに、上側の弁体22aが下方に傾斜して形成されており、上下一対の弁体22の先端で互いに当接している。
【0020】
このように、本実施形態の自封トラップ18は、上下一対の弁体22の先端が下方に位置しており、下側の弁体22bが略水平に形成されているので、水平方向に伸びる水平流路部17に設置されても、上流側から流下する排水が下側の弁体22bに阻まれる量を少なくすることができ、自封トラップ18の上流側に排水が滞留することを抑制できる。
【0021】
また、自封トラップ18には、図3及び図4に示すように、基端部21の上部に突出する凸部23が形成されており、上流側管体19の端部の内周面の上部にも、この凸部23に嵌合する凹部24が形成されている。これにより上流側管体19の上下が特定されれば、凹部24に凸部23が嵌合することにより、自封トラップ18の上下も特定されることになるので、施工の際に自封トラップ18の上下を間違える不具合の発生を抑制することができる。なお、本実施形態においては、基端部21の上部に凸部23が形成され、上流側管体19の端部の内周面の上部に凹部24が形成されているが、凸部23及び凹部24の位置はこれに限定されるものではない。凸部23及び凹部24は、それぞれ側部に形成されてもよく、また下部に形成されてもよい。互いに対応する位置に形成されていれば、自封トラップ18の上下方向を特定することができるからである。また、自封トラップ18側に凹部24が形成され、上流側管体19の端部内周面に凸部23が形成されるものであってもよい。さらに、凸部23又は凹部24の位置は上流側管体19の端部内周面に限られず、例えば、下流側管体20の端部内周面に形成されるものであってもよい。
【0022】
自封トラップ18は、圧力が加わらない状態のとき又は下流側から圧力が加わった場合には、図4(A)に示すように、2枚の弁体22の先端が互いに密着した状態を維持し、上流側に臭気などの流体が移動することを規制する。一方、この自封トラップ18に上流側から圧力が加わった場合には、図4(B)に示すように、基端部21の内側から連続する2枚の弁体22の内側に圧力が加わり、2枚の弁体22が互いに離反するように弾性変形し、2枚の弁体22の間に流体が通過できる間隔が生じる。
【0023】
なお、本実施形態においては、水平流路部17を形成する排水管16の形状は円筒状であるが、例えば多角形状の筒状に形成された排水管16を用いることもでき、このような場合、自封トラップ18の基端部21の形状も排水管16の形状に合わせて多角形状とすることができる。
【0024】
また、自封トラップ18の形状はこれに限定されるものではない。例えば、図5に示すように、自封トラップ18の上下一対の弁体22の形状は、水平流路部17を形成する排水管16の内周面の形状に沿うように、中心が下方に膨らむ円弧形状に湾曲して形成されていてもよい。このように形成すると、下側の弁体22bの最も低い位置が排水管16の内周面の最も低い位置に近接することになり、上流側から流れてきた排水がこの下側の弁体22bに妨げられて、自封トラップ18の上流側で滞留することをより効果的に防止することができる。
【0025】
また、自封トラップ18の形状は、例えば、図6に示すように、上下一対の弁体22が水平流路部17を形成する排水管16の内周面の形状に沿うように中心が下方に膨らむように湾曲して形成され、且つ、先端が下流方向に向かって細くなるように円弧状に形成されていてもよい。上下一対の弁体22を排水管16の内周面に沿うように湾曲させると、下側の弁体22bは排水管16の内周面に密接して弾性変形しにくくなり、上側の弁体22aが持ち上がって弁体22が離反する際及び上側の弁体22aが下がって弁体22が当接する際に、下側の弁体22bと固着されている側部が動かないことにより、上側の弁体22aが持ち上がりにくく、また、下がりにくくなる。そこで、上述のように、上下一対の弁体22の先端が下流方向に向かって細くなるように円弧状に形成されていることにより、上下一対の弁体22の先端付近の側部が互いに固着されていないので、上側の弁体22aの弾性変形を妨げることがなく、上側の弁体22aが持ち上がりにくく下がりにくい問題点を緩和することができる。
【0026】
以上のように、本実施形態のトイレの排水構造1によると、封水を貯留した従来のトラップを設ける必要がないのでメンテナンス性に優れている。また、メンブレン式の自封トラップ18は、洋式便器2から排水配管10側に排水が勢い良く排出された場合に、手洗用排水流路15に逆流方向に高い圧力が加わっても、その圧力を利用してより強固に弁体22を閉ざすことができるので臭気や排水が手洗器3側に逆流することを確実に防止できる。さらに、下流側でサイフォン現象が発生して手洗器用排水流路15内の空気が吸引され場合でも、単に自封トラップ18の弁体22が互いに離反して、上流側から下流側に空気が供給されるのみであり、サイフォン現象が収束すると、再び弁体22が互いに当接しあうので、下流からの臭気の逆流を防止することができ、封水を貯留した従来のトラップのように破封する虞もない。
【0027】
そして、手洗器用排水流路15の水平流路部17に自封トラップ18が設置されており、この自封トラップ18の弁体22の互いに当接する先端は、上下方向の中央よりも下方に形成されているので、上流側に排水があるときには、弁体22同士が離反して開口しやすく、自封トラップ18の上流側に排水が滞留することを抑制できる。手洗器3は便器2と離れて設置される場合も多く、このような場合には、手洗器用排水流路15には長い水平流路部17が設置されることになり、設計上、この水平流路部17にトラップを設置したいこともあるので、このような場合に適切な場所に自封トラップ18を設置することができる。また、水平流路部17を形成する排水管16の内周面、及び自封トラップ18の外側面に、互いに嵌合する凹凸が形成されているので、施工の際に自封トラップ18の上下を間違える虞もない。
【0028】
なお、本発明の実施の形態は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の思想の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上のように、本発明に係るトイレの排水構造1は、便器から排出される排水と、手洗器3から排出される排水と、を下流で合流させて、下水に流下させるトイレの排水構造1として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 トイレの排水構造
2 洋式便器(便器)
3 手洗器
11 便器用排水流路
15 手洗器用排水流路
17 水平流路部
18 自封トラップ
21 基端部
22 弁体
23 凸部(凸)
24 凹部(凹)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器から排出される排水を流下させる便器用排水流路と、トイレ内に設置される手洗器から排出される排水を流下させる手洗用排水流路と、を下流で合流させて下水に排出するトイレの排水構造であって、
前記手洗用排水流路上にメンブレン式の自封トラップを形成したことを特徴とするトイレの排水構造。
【請求項2】
前記手洗用排水流路は、その一部に略水平に設けられた水平流路部に前記自封トラップが形成されるものであって、
当該自封トラップは、上流側に筒状の基端部が形成されるとともに、下流側に当該基端部から連続して形成された弾性を有する板状であって、その先端が開閉自在に当接する上下一対の弁体が形成されており、当該弁体は、互いに当接する先端が上下方向の中央よりも下方に形成されたことを特徴とする請求項1に記載のトイレの排水構造。
【請求項3】
前記水平流路部を形成する排水管の内周面、及び前記自封トラップの外側面には、互いに嵌合する上下方向が特定可能な凹凸が形成されたことを特徴とする請求項2に記載のトイレの排水構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−127135(P2012−127135A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280398(P2010−280398)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000157212)丸一株式会社 (158)
【Fターム(参考)】