説明

トイレ水槽用排水制御弁の取付け構造

【課題】水洗トイレにおいて水槽に貯水された水を排水し、排水後に排水動作を停止させて再び貯水を開始するための排水制御弁を従来型排水制御弁から改良型排水制御弁に交換する作業を、既存の排水管をそのまま利用しつつ簡便に行うことを可能にする取付け構造を提供する。
【解決手段】トイレ水槽内に開口する排水管の排水口を環状の鍔部を介して開閉可能な中空の弁体と、弁体を排水口を開閉する方向に回動可能に支持する弁体支持機構と、弁体の鍔部と底部との間に設けられ、弁体の中空部内から排気可能な排気孔と、弁体の底部に設けられ、弁体の中空部内へ注水可能な注水孔とを有するトイレ水槽用排水制御弁の弁体支持機構を、排水管に対し着脱可能に固定する取付け構造であって、取付け構造が、弁体支持機構に連結され、排水口の径方向に拡開、収縮可能な、排水管外周面上への嵌着手段を備えていることを特徴とする、トイレ水槽用排水制御弁の取付け構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗トイレにおいて水槽に貯水された水を排水し、排水後に排水動作を停止させて再び貯水を開始するためのトイレ水槽用排水制御弁について、従来型排水制御弁から改良型排水制御弁への交換を、既存の排水管をそのまま利用しつつ簡便に行うためのトイレ水槽用排水制御弁の取付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
水洗トイレの水槽内には、一般に、水槽に貯水された水を排水し、排水後に排水動作を停止させて再び貯水を開始するためのトイレ水槽用排水制御弁と、水槽内の貯水量が所定量に達すると水槽内への水の供給を停止する水供給制御弁(通常、フロートを備えた制御弁)が設けられている。このうち、トイレ水槽用排水制御弁としては、弁体がトイレ水槽内に開口する排水管の排水口を閉じた位置にあるときに排水口を密封する環状シールリングを備え、載頭円錐形側壁を有し該側壁に内部浮力室からの排気が可能な排気孔が設けられた弁本体と、前記載頭円錐形側壁の内部に円錐キャップが挿入され、該円錐キャップに前記浮力室への水流入流量(注水流量)を調節可能なサイズの異なる複数の注水孔が設けられた構成のフラッパ弁が知られている(特許文献1)。この円錐キャップの下部には、さらに一つの孔を有するエンドキャップが設けられており、エンドキャップの孔と、選択された円錐キャップの注水孔との位置合わせを行うことにより、弁体の中空部内と弁体外部とが連通できるようになっている。
【0003】
このようなフラッパ弁においては、弁体が排水管の排水口を閉じている間に水槽内に貯水され、その状態では、弁体の中空部内には空気が充満され、水槽内に貯留されている水の圧力(水圧)によって、弁体は排水口を閉じた状態に保たれる。そして水洗のために弁体を引っ張って排水口を開放すると、水槽内に貯水されていた水が排水管を通して排出され、水洗に供される。このとき開弁された弁体は、その中空部内に空気が充満されていたため、その中空部が一旦浮力室として機能し、排出されつつある水槽内に貯留されていた水の水面に一旦浮くが、弁体の底部側に設けられた注水孔から中空部内(浮力室内)に徐々に水が流入するとともに、その水流入量に相当する分、中空部内に充満されていた空気が排気孔を通して排出されるので、浮力が低減され、やがて浮力に打ち勝った弁体の自重により弁体が水中を沈降して排水管の排水口を閉じる。排水口を閉じると、再び水槽内への貯水が開始され、水洗のための待機状態とされる。上記特許文献1における機構では、浮力室内への水の流入流量を、サイズの異なる複数の注水孔のいずれを選択するかによって調節することが可能となっており、それによって弁体が排水口を閉じる速さ(弁体が排水口を閉じるまでの時間)を調節することができ、水洗毎に使用される水量を調節可能となって、節水等に寄与できるようになっている。
【0004】
このような従来型排水制御弁には、すでに本発明者らによって改良が加えられ、従来よりも注水精度等が向上した改良型排水制御弁が提案されている。この改良型排水制御弁は、特願2007−132916に記載されるように、環状の鍔部を備え、トイレ水槽内に開口する排水管の排水口を前記鍔部を介して開閉可能な中空の弁体と、該弁体を前記排水口を開閉する方向に回動可能に支持する弁体支持機構と、前記弁体における前記鍔部と底部との間に設けられ、前記弁体の中空部内から排気可能な排気孔と、前記弁体の底部に設けられ、前記弁体の中空部内へ注水可能な注水孔とを有するトイレ水槽用排水制御弁において、前記弁体の中空部内に弁体の底部上面に沿って回転可能に配置され、前記注水孔と連通可能で該連通により弁体の中空部内への注水路を形成可能な互いにサイズの異なる複数の貫通孔が周方向に配列された平板状の注水流量調節板と、該注水流量調節板から弁体の中空部内を通して弁体の上面まで延びる注水流量調節板回転用の回転軸と、該回転軸の上端に接続され、弁体の上面上での自身の回転により前記回転軸を介して前記注水流量調節板を回転させ、該回転により前記複数の貫通孔のうち前記注水孔と連通する貫通孔を選択可能な操作ハンドルとを備えた注水流量調節機構を設けたことを特徴とするものからなる。
【特許文献1】特許第2825348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の改良型排水制御弁を、既存のトイレ水槽に設置されている従来型排水制御弁と交換しようとすると、いくつかの困難を生じる場合がある。すなわち、既存のトイレ水槽のオーバーフロー管には、弁体支持機構を取り付けるための構造が通常設けられていないため、オーバーフロー管に固定ピン等を加工する必要が生じる。また、オーバーフロー管がトイレ水槽に取り付けられている部位は、さほど高い精度が取付け精度が要求されていないため、同種のトイレ水槽であっても、鉛直方向とオーバーフロー管の長手方向のなす角度が若干異なるなど、オーバーフロー管の取付け寸法には個体差がみられる。このような個体差があるため、改良型排水制御弁を、弁体支持機構を介して既存のトイレ水槽のオーバーフロー管に取り付けると、弁体部分で水漏れが生じるなど、排水制御機能に支障をきたす場合がある。
【0006】
このような現状に鑑み、本発明の課題は、水洗トイレにおいて水槽に貯水された水を排水し、排水後に排水動作を停止させて再び貯水を開始するための排水制御弁を従来型排水制御弁から改良型排水制御弁に交換する作業を、既存の排水管をそのまま利用しつつ簡便に行うことを可能にする取付け構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るトイレ水槽用排水制御弁の取付け構造は、環状の鍔部を備え、トイレ水槽内に開口する排水管の排水口を前記鍔部を介して開閉可能な中空の弁体と、該弁体を前記排水口を開閉する方向に回動可能に支持する弁体支持機構と、前記弁体の前記鍔部と底部との間に設けられ、前記弁体の中空部内から排気可能な排気孔と、前記弁体の底部に設けられ、前記弁体の中空部内へ注水可能な注水孔とを有するトイレ水槽用排水制御弁の前記弁体支持機構を、前記排水管に対し着脱可能に固定する取付け構造であって、該取付け構造が、前記弁体支持機構に連結され、前記排水口の径方向に拡開、収縮可能な、前記排水管外周面上への嵌着手段を備えていることを特徴とするものからなる。
【0008】
このような本発明に係るトイレ水槽用排水制御弁の取付け構造によれば、既存のトイレ水槽に設置された従来型排水制御弁を、注水孔の選択動作や確認が極めて容易で、かつ簡素な弁体内部構造により所定の組立が容易で、目標とする注水機能を精度よく発揮可能な改良型排水制御弁と交換する際に、改良型排水制御弁を、オーバーフロー管ではなく排水管の外周面上に容易に所定の形態にて嵌着固定させることができる。そのため、オーバーフロー管の取付け寸法の精度が低い場合であっても、弁体部分における水漏れなどを生じさせず、常に排水制御の機能を正常に発揮させることが可能となる。
【0009】
また、本発明に係るトイレ水槽用排水制御弁の取付け構造において、上記嵌着手段を、自身の弾性変形を介して上記排水管に嵌着されるように形成することができる。嵌着手段をこのように形成することにより、嵌着手段を、外力を加えながら排水口の径方向に拡開させて排水管の外周面に沿わせ、この状態から、加えていた外力を取り去ることで、嵌着手段が自身の弾性力により径方向に収縮し、その弾性変形を介して排水管外周面に嵌着されるようにすることができるので、改良型排水制御弁の取付け作業が容易となる。
【0010】
本発明のトイレ水槽用排水制御弁の取付け構造においては、上記嵌着手段を、周方向に少なくとも1つの隙間を有しており、該隙間の拡大、縮小を介して上記排水管に嵌着されるように形成することができる。これにより、排水管への排水制御弁の取付け/取り外しの作業が容易になる。また、この隙間に対し、該隙間を縮める方向に作用する付勢手段を設けることで、嵌着状態をより強固にし、トイレ水槽内で排水制御弁が排水管から脱落することを防止することができる。
【0011】
また、本発明に係るトイレ水槽用排水制御弁の取付け構造において、上記トイレ水槽用排水制御弁には、上記弁体の中空部内に弁体の底部上面に沿って回転可能に配置され、上記注水孔と連通可能で該連通により弁体の中空部内への注水路を形成可能な互いにサイズの異なる複数の貫通孔が周方向に配列された平板状の注水流量調節板と、該注水流量調節板から弁体の中空部内を通して弁体の上面まで延びる注水流量調節板回転用の回転軸と、該回転軸の上端に接続され、弁体の上面上での自身の回転により上記回転軸を介して上記注水流量調節板を回転させ、該回転により上記複数の貫通孔のうち上記注水孔と連通する貫通孔を選択可能な操作ハンドルとを備えた注水流量調節機構を設けることができる。
【0012】
このトイレ水槽用排水制御弁に対して本発明の取付け構造を適用することにより、排水制御弁の取付け後においては、互いにサイズの異なる複数の貫通孔が周方向に配列された注水流量調節板を、それに連結された回転軸を介して、弁体の上面上で操作ハンドルを回転させることにより、回転させることができ、それによって選択しようとする貫通孔を、上方からの操作ハンドルの回転操作のみで、極めて簡単に選択、設定できる。また、操作ハンドルの回転位置も、上方から簡単に確認でき、それによって現在選択されている貫通孔を極めて容易に確認できる。つまり、上記注水孔と選択された貫通孔は、弁体の中空部内への注水路を形成するので、注水路の選択、設定および確認が極めて容易に行えるようになる。また、注水流量調節板が平板状に形成され、その平板状の注水流量調節板が弁体の底部上面に沿って回転される内部構造であるので、組立が容易であり、かつ各部材の精度および組立精度を容易に確保でき、目標とする注水機能が精度よく確実に発揮可能となる。
【0013】
この本発明に係る取付け構造におけるトイレ水槽用排水制御弁においては、上記弁体の上面に、上記注水孔と連通するように選択された貫通孔のサイズの表示または目盛りあるいはそれに相当する表示または目盛りが、上記操作ハンドルの回転位置に対応させて付されていることが好ましい。表示または目盛りを上方から見ることにより、現在設定されている注水路を一目で確認できるようになる。
【0014】
また、上記回転軸周りにばねが設けられており、該ばねは、注水流量調節板を弁体の底部上面に向けて常時付勢している構成を採用することが好ましい。このような構成とすることにより、注水流量調節板が適度な面圧をもって常時弁体の底部上面に押圧されることになり、両者間に不要な隙間が発生することが防止され、弁体の底部に設けられた注水孔と注水流量調節板に設けられた貫通孔が確実に直接連通されて、目標とする注水路がより確実に精度よく形成されることになる。
【0015】
また、平板状の上記注水流量調節板の外周部に環状のフランジが設けられており、該フランジが、弁体の底部に設けられた環状の溝に回転自在に嵌合されている構成とすることもできる。このような構成においては、注水流量調節板のフランジが弁体の底部の環状溝に沿って回転できるので、回転動作が所定の姿勢でより確実にかつ円滑に行われるようになり、所望の貫通孔の選択操作がより容易に行われる。
【0016】
また、上記弁体が排水口を閉じる際に該排水口と弁体の鍔部の間に介在して両者間をシールするパッキンが、弁体の鍔部に対して着脱可能に装着されている構成とすることもできる。従来一般のこの部分においては、シール用パッキンが接着された構造であったため、パッキンが劣化したりパッキンに剥離や反り等の変形が生じた場合にパッキンの交換が困難であった。このような劣化や変形は、不要時の水槽内から排水管内への漏水の原因となる。しかし本発明における上記構成においては、パッキンを着脱可能な装着構造とするため(たとえば、パッキンの周縁部を嵌合する構造とするため)、装着のみならず交換も極めて容易に行うことができるようになり、しかも、接着構造を採用しないため、パッキンの剥離や反り等の変形も基本的には発生しなくなる。
【0017】
上記構造においては、パッキンの排水口側の面に、該排水口の上面に対して勾配が付与されている構造とすることもできる。後述のように適当な勾配を付与しておくことにより、このパッキン設置部での漏水をより確実に防止できるようになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るトイレ水槽用排水制御弁の取付け構造によれば、排水口の径方向に拡開、収縮可能な、排水管外周面上への嵌着手段を備えているので、従来型排水制御弁を改良型排水制御弁に交換する作業を、既存の排水管をそのまま利用しつつ極めて短時間のうちに簡便に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1〜図4は、本発明の取付け構造に採用可能なトイレ水槽用排水制御弁の一例を示しており、図1、図2において、1はトイレ水槽用排水制御弁全体を示している。トイレ水槽用排水制御弁1は、上蓋構成部材2と下部構成部材3との合わせ構造によって形成される内部の中空部4を有する弁体5を備えている。上蓋構成部材2には、その外周部に環状の鍔部6が上蓋構成部材2と一体に設けられており、本実施態様では、この上蓋構成部材2の一方側に、弁体5がトイレ水槽内7に開口する排水管8の排水口9を開閉する方向(図1の矢印方向)に弁体5を回動可能に支持する弁体支持機構10が、上蓋構成部材2と一体に(主として鍔部6の一部と一体に)設けられている。本実施態様では、上蓋構成部材2と弁体支持機構10が、弾性を有する樹脂の一体成形体として形成されている。
【0020】
弁体5の下部構成部材3には、上記鍔部6と下部構成部材3の底部11との間に、中空部4内から排気可能な排気孔12が設けられているとともに、底部11に、中空部4内へ注水可能な注水孔13が設けられている。排気孔12は、図1に示すように、弁体5が排水口9を閉じた状態にて、排水管8内に開口できる位置に配設されており、その状態では、排水管8内から空気を吸入可能となっている。
【0021】
中空部4内には、下部構成部材3の底部11の上面に沿って回転可能に平板状の注水流量調節板14が配置されている。この注水流量調節板14には、図3にも示すように、上記注水孔13と連通可能で該連通により弁体5の中空部4内への注水路を形成可能な、互いにサイズの異なる複数の貫通孔15が周方向に配列されている。どの貫通孔15を注水孔13に連通させるかは、注水流量調節板14を回転させることによって選択される。注水孔13とそれに連通する選択された貫通孔15は、弁体5の外部から弁体5の中空部4内への注水路16を形成するが、各貫通孔15は注水孔13よりも小径に形成されているので、注水孔13と貫通孔15によって形成される注水路16における注水流量の設定においては、貫通孔15のサイズの方が律則となっている。したがって、互いにサイズの異なる複数の貫通孔15のうち、どの貫通孔15を注水孔13に連通させるかによって、注水路16の注水流量が変更されることになる。注水流量調節板14からは、中空部4内を通して弁体5の上面(つまり、上蓋構成部材2の上面)まで注水流量調節板回転用の回転軸17が延びており、回転軸17は、その組み付け後に、注水流量調節板14と一体回転可能に、注水流量調節板14に嵌着固定、あるいは嵌着後に接着固定されている。この回転軸17の上端には、自身の回転により回転軸17を介して注水流量調節板14を回転させ、該回転により複数の貫通孔15のうち注水孔13と連通する貫通孔15を選択可能な操作ハンドル18が設けられている。本実施態様では、操作ハンドル18と回転軸17は一体に成形されている。この操作ハンドル18は、弁体5の上面上(上蓋構成部材2の上面上)に配置されており、該操作ハンドル18の回転操作は上方から行うことができるようになっているとともに、操作ハンドル18の操作位置を、その矢印形状に形成された先端部18aの位置を介して、上方から確認できるようになっている。これら操作ハンドル18から注水孔13に至るまでの一連の機構が、本発明で言う注水流量調節機構を構成している。
【0022】
上記注水流量調節機構においては、回転軸17周りでかつ上蓋構成部材2の下面と注水流量調節板14の上面との間に、コイルスプリングからなるばね19が介装されており、該ばね19は、注水流量調節板14を弁体5(下部構成部材3)の底部11の上面に向けて常時付勢(押圧)しており、平板状の注水流量調節板14と底部11の上面との間に不要な漏水の原因となる隙間が発生しないようになっている。また、平板状の注水流量調節板14の外周部には、下方に突出する環状のフランジ20が注水流量調節板14と一体に形成されており、弁体5(下部構成部材3)の底部11には、フランジ20が回転自在に嵌合される環状の溝21が形成されている。フランジ20が溝21に回転自在に嵌合されることにより、注水流量調節板14は、所定の姿勢に保たれながら円滑に回転されるようになっている。さらに、上蓋構成部材2の上面には、図2に示すように、選択する貫通孔15に対応した操作ハンドル18の回転操作位置に対応させて複数のV溝22が放射状に刻設されており、その回転操作位置に対応した操作ハンドル18の先端部18aの位置に対応させて、選択された貫通孔15のサイズの表示または目盛り23が付されている。一方、操作ハンドル18の裏面側には、図3、図4に示すように、断面V字状の突条24が形成されている。操作ハンドル18を回転させるとき、V溝22の形成されていない部位では、ばね19の力に抗して突条24が上蓋構成部材2の上面に乗り上げるように移動されるが、突条24がV溝22の形成されている位置に到達すると、ばね19の力を利用して突条24がV溝22に嵌まり込み、所定の操作位置、つまり選択された注水流量調節板14の貫通孔15が注水孔13に連通する位置に、精度よく位置決めされることになる。なお、上記注水流量調節機構の組立においては、一体成形された操作ハンドル18および回転軸17を上蓋構成部材2に上方から装着し、下方からばね19を挿入した後、注水流量調節板14を回転軸17に嵌着し、しかる後に、下方から下部構成部材3を上蓋構成部材2に装着すればよい。
【0023】
弁体5の上蓋構成部材2の鍔部6の下面側には、弁体5が排水口9を閉じる際に該排水口9と弁体5の鍔部6の間に介在して両者間をシールするパッキン25が、弁体5の鍔部6に対して着脱可能に装着されている。より詳しくは、弾力性を有するパッキン25が、鍔部6の下面側において、鍔部6の外周側に内方に向けて形成された嵌合部26と下部構成部材3の外周面側に外方に向けて形成された嵌合部27との間に、着脱可能に装着されている。両嵌合部間での嵌合による固定であるから、パッキン25は接着固定されてはおらず、パッキン25が劣化したりパッキン25に剥離や反り等の変形が生じた場合にも容易に交換できるようになっている。また、接着固定ではないので、パッキン25の剥離や反り等の変形は基本的に発生しない。本実施態様では、このパッキン25の排水口9側の面が、該排水口9の上面28に対して勾配が付与された面30に形成されており、このパッキン25設置部での漏水をより確実に防止できるようになっている。
【0024】
弁体5は、水洗時に、弁体支持機構10を介して、固定軸32を回動中心として、図1の矢印方向に回動される。この回動は、例えば、上蓋構成部材2の上面に設けられた取手35の孔36に、適当な条体37を連結し、その条体37を引き上げることによって行われる。
【0025】
このように構成されたトイレ水槽用排水制御弁1においては、水洗操作は上記条体37の引き上げ操作によって開始される。条体37を介した弁体5の引き上げ操作は、水槽内7に貯水され、弁体5が貯水されている水の水圧によって排水口9を閉じていた状態で開始されるが、弁体5が排水口9を閉じていた際には、弁体5の中空部4内には空気が充満された状態にあるので、弁体5が引き上げられ排水口9が開放され弁体5が貯水されていた水の中に移動されると、直ちに弁体5に浮力が発生し、弁体5は、排水されつつある水の水面に向けて浮上する。このとき、中空部4内は注水孔13と貫通孔15によって形成された注水路16を介して中空部4外と連通しているので、注水路16を通して水槽内7の水(排水されつつある水)の一部が中空部4内に流入し始め、同時に流入した水の体積分、中空部4内に充満していた空気が排気孔12を通して中空部4外に排出される。この中空部4内への注水、中空部4内からの排気の進行に伴い、弁体5の浮力が徐々に減少していき、やがて、弁体5の自重が浮力よりも大きくなった時、弁体5は排水されつつある水の水中へ沈降し始め、その沈降によって排水口9を閉じる。排水口9が閉じられると、排水管8からの排水が停止される。一方、排水による水槽内7の水面低下により、周知のフロート機構などにより止水弁が開放されて水槽内7に水が供給され始め、水槽内7の水面が所定のレベルに達すると止水弁が閉じられて水の供給が停止され、次の水洗操作に備えられる。排水管8からの排水が停止されてから水槽内7の水面の所定のレベルへの復帰までの間には、排水口9を閉じている弁体5には水槽内7の水の水圧がかかるので、弁体5は閉じた状態に保たれる。また、弁体5が閉じられた状態にて、つまり、水槽内7の水とは隔離された状態にて、弁体5の排気孔12と注水路16は図1に示すように排水管8内の空気中に開放された状態にあるので、中空部4内の水は注水路16を通して下方に排出され、同時に排水管8内の空気が排気孔12を通して中空部4内に吸入され、やがて中空部4内に空気が充満されて初期状態に戻る。
【0026】
上記一連の動作においては、水洗に使用される水の量(排水量)は、弁体5が排水口9を開いてから閉じるまでの時間によって決められ、その時間は、弁体5の浮力が減じられた沈降するまでの時間、つまり、注水路16を介しての弁体5の中空部4内への注水の速度(流量)に左右されることになる。この注水流量は、注水路16のサイズによって制御可能であり、注水路16のサイズは、注水孔13にどの貫通孔15を連通させるかによって決められる。そして、互いにサイズの異なる複数の貫通孔15のうち、連通させる貫通孔15の選択は、操作ハンドル18を回転させ、操作ハンドル18とともに回転軸17、注水流量調節板14を回転させ、目標とする貫通孔15と注水孔13との位置合わせを行うことによって達成される。この貫通孔15選択のための操作は、上方からの操作ハンドル18の回転操作によって行うので、極めて容易に行われる。また、操作ハンドル18の操作位置を上方から容易に確認でき、しかも、その操作に対応した表示または目盛り23も付されているので、正確に目標とした貫通孔15の選択と位置合わせが行われる。さらに、操作ハンドル18の所定位置での回転停止は、V溝22への突条24の嵌合によって確保されるから、選択された貫通孔15と注水孔13との位置合わせ精度も自動的に確保されることになる。適切な貫通孔15の選択によって、水洗毎に使用される水量が目標とする水量に精度よく設定され、節水等に寄与できることになる。
【0027】
また、注水流量調節板14を平板状の部材に形成し、それを貫通孔15の選択のために回転させるようにしたので、貫通孔15の選択動作を円滑に行うことが可能になり、かつ、弁体5内の内部機構の簡素化をはかることも可能になる。
【0028】
図5は、本発明の一実施態様に係るトイレ水槽用排水制御弁の取付け構造の要部を示しており、(A)は正面図、(B)は上面図、(C)は下面図、(D)は左側面図、(E)は(B)のX−X断面を矢印の方向からみた横断面図である。図5において、取付け構造51は、嵌着部52、上端部53、下端部54およびヒンジ部55から構成され、これらの部位は弾性を有する樹脂の一体成形体として形成されている。取付け構造51は、全体としてリング形状をなしているが、周方向の1箇所に隙間56を有しているので、隙間56を排水口9の系方向に拡開させることにより、嵌着部52を排水管8の外周側から、あるいは排水口9の上面28側から嵌め込んで固定することができる。
【0029】
本実施態様において、嵌着部52は、取付け構造51を排水管8の外周面に嵌着させる嵌着手段として機能する。現在、一般家庭等に普及しているフロート弁などの従来型排水制御弁では、図1に示されるように、排水口9の上面28において排水管8の径が広がっているものが多い。このような従来型排水制御弁と交換することを可能にするために、嵌着部52は、上方に向けてコーン状に径が広がるリング形状をなす上部嵌着部52と、単純なリング形状をなす下部嵌着部53とから形成されている。また、ヒンジ部55には固定軸挿通孔33が設けられている。固定軸挿通孔33には、排水制御弁の取付け構造51を図1の弁体支持機構10と係合するための固定軸32が挿通される。それと同時に、固定軸32は図1の固定軸挿通孔31にも挿通される。このような機構により、排水制御弁の取付け構造51と弁体支持機構10とが、弁体5を排水口9を開閉する方向に回動可能に支持される。
【0030】
図6は、図5のトイレ水槽用排水制御弁の取付け構造を用いて、図1に示した排水制御弁1が排水管に装着された状態を示す正面図である。図を見やすくするために、排水管8を示す部位には斜線が付されている。排水制御弁1と取付け構造51は、排水制御弁1に設けられた固定軸挿通孔31および取付け構造51に設けられた固定軸挿通孔33に挿通された固定軸32によって、弁体3を排水口9を開閉する方向に回動可能に支持されている。
【0031】
図7は、本発明の他の実施態様に係るトイレ水槽用排水制御弁の取付け構造の要部を示しており、(A)は正面図、(B)は上面図、(C)は下面図、(D)は左側面図、(E)は(B)のX−X断面を矢印の方向からみた横断面図である。図6において、取付け構造51は、図5の実施態様と同様に、嵌着部52、上端部53、下端部54およびヒンジ部55から構成され、これらの部位は弾性を有する樹脂の一体成形体として形成され、全体としてリング形状をなしているが、隙間56を形成する位置が異なっている。このように、隙間56を形成する位置は、排水制御弁を装着する既存のトイレ水槽中の空きスペースに合わせて任意に設計することができる。また、本実施態様においては、隙間56を縮める方向に作用する付勢手段としてのばね60および61が隙間付勢軸58の周りに設けられている。隙間付勢軸58は、取付け構造51上で両側から隙間56を挟むように位置する部位に設けられた隙間付勢軸挿通孔(図示せず)に挿通されている。隙間付勢軸58の両端には、隙間付勢軸挿通孔よりも断面積が大きいストッパ59が設けられており、ばね60および61が隙間付勢軸58から抜けないようになっているので、これらのばねの弾性力を利用して、取付け構造51を排水管8に対して確実に嵌着させることが可能である。なお、隙間56を両ストッパ59の間隔よりも拡大することができないので、図5の実施態様のように嵌着部52を排水管8の外周側から嵌め込むことはできないが、嵌着部52を排水口9の上面28側から嵌め込むことができる程度に隙間56を拡大することにより、取付け構造51を排水管8の外周面上に嵌着固定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係るトイレ水槽用排水制御弁の取付け構造は、あらゆるタイプの水洗トイレの水槽内において適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施態様に係る取付け構造に採用可能なトイレ水槽用排水制御弁の縦断面図である。
【図2】図1のトイレ水槽用排水制御弁の平面図である。
【図3】図1のトイレ水槽用排水制御弁の部分斜視図である。
【図4】図4の操作ハンドル部の縦断面図である。
【図5】本発明の一実施態様に係るトイレ水槽用排水制御弁の取付け構造の要部を示し、(A)は正面図、(B)は上面図、(C)は下面図、(D)は左側面図、(E)は(B)のX−X断面を矢印の方向からみた横断面図である。
【図6】図5の取付け構造を用いて、排水制御弁が排水管に装着された状態を示す正面図である。
【図7】本発明の他の実施態様に係るトイレ水槽用排水制御弁の取付け構造の要部を示し、(A)は正面図、(B)は上面図、(C)は下面図、(D)は左側面図、(E)は(B)のX−X断面を矢印の方向からみた横断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 トイレ水槽用排水制御弁
2 上蓋構成部材
3 下部構成部材
4 中空部
5 弁体
6 鍔部
7 トイレ水槽内
8 排水管
9 排水口
10 弁体支持機構
11 底部
12 排気孔
13 注水孔
14 注水流量調節板
15 貫通孔
16 注水路
17 回転軸
18 操作ハンドル
18a 先端部
19、60、61 ばね
20 フランジ
21 環状の溝
22 V溝
23 表示または目盛り
24 突条
25 パッキン
26、27 嵌合部
28 排水口の上面
30 勾配が付与された面
31、33 固定軸挿通孔
32 固定軸
34 隙間付勢軸
35 取手
36 孔
37 条体
51 トイレ水槽用排水制御弁の取付け構造
52 嵌着部
52a 上部嵌着部
52b 下部嵌着部
53 上端部
54 下端部
55 ヒンジ部
56 隙間
58 隙間付勢軸
59 ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の鍔部を備え、トイレ水槽内に開口する排水管の排水口を前記鍔部を介して開閉可能な中空の弁体と、該弁体を前記排水口を開閉する方向に回動可能に支持する弁体支持機構と、前記弁体の前記鍔部と底部との間に設けられ、前記弁体の中空部内から排気可能な排気孔と、前記弁体の底部に設けられ、前記弁体の中空部内へ注水可能な注水孔とを有するトイレ水槽用排水制御弁の前記弁体支持機構を、前記排水管に対し着脱可能に固定する取付け構造であって、該取付け構造が、前記弁体支持機構に連結され、前記排水口の径方向に拡開、収縮可能な、前記排水管外周面上への嵌着手段を備えていることを特徴とする、トイレ水槽用排水制御弁の取付け構造。
【請求項2】
前記嵌着手段は、自身の弾性変形を介して前記排水管に嵌着される、請求項1に記載のトイレ水槽用排水制御弁の取付け構造。
【請求項3】
前記嵌着手段は周方向に少なくとも1つの隙間を有しており、該隙間の拡大、縮小を介して前記排水管に嵌着される、請求項1または2に記載のトイレ水槽用排水制御弁の取付け構造。
【請求項4】
前記隙間に対し、該隙間を縮める方向に作用する付勢手段を有する、請求項3に記載のトイレ水槽用排水制御弁の取付け構造。
【請求項5】
前記トイレ水槽用排水制御弁には、前記弁体の中空部内に弁体の底部上面に沿って回転可能に配置され、前記注水孔と連通可能で該連通により弁体の中空部内への注水路を形成可能な互いにサイズの異なる複数の貫通孔が周方向に配列された平板状の注水流量調節板と、該注水流量調節板から弁体の中空部内を通して弁体の上面まで延びる注水流量調節板回転用の回転軸と、該回転軸の上端に接続され、弁体の上面上での自身の回転により前記回転軸を介して前記注水流量調節板を回転させ、該回転により前記複数の貫通孔のうち前記注水孔と連通する貫通孔を選択可能な操作ハンドルとを備えた注水流量調節機構が設けられている、請求項1〜4のいずれかに記載のトイレ水槽用排水制御弁の取付け構造。
【請求項6】
前記弁体の上面に、前記注水孔と連通するように選択された貫通孔のサイズの表示または目盛りあるいはそれに相当する表示または目盛りが、前記操作ハンドルの回転位置に対応させて付されている、請求項5に記載のトイレ水槽用排水制御弁の取付け構造。
【請求項7】
前記回転軸周りにばねが設けられており、該ばねは、前記注水流量調節板を前記弁体の底部上面に向けて常時付勢している、請求項5または6に記載のトイレ水槽用排水制御弁の取付け構造。
【請求項8】
平板状の前記注水流量調節板の外周部に環状のフランジが設けられており、該フランジが、前記弁体の底部に設けられた環状の溝に回転自在に嵌合されている、請求項5〜7のいずれかに記載のトイレ水槽用排水制御弁の取付け構造。
【請求項9】
前記弁体が前記排水口を閉じる際に該排水口と弁体の前記鍔部の間に介在して両者間をシールするパッキンが、弁体の鍔部に対して装着されている、請求項1〜8のいずれかに記載のトイレ水槽用排水制御弁の取付け構造。
【請求項10】
前記パッキンの前記排水口側の面に、該排水口の上面に対して勾配が付与されている、請求項9に記載のトイレ水槽用排水制御弁の取付け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−48009(P2010−48009A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214007(P2008−214007)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(300071731)株式会社ヴィクトリー (8)
【出願人】(594023744)荒川金属株式会社 (8)
【Fターム(参考)】