説明

トイレ汚れ検出シート及びその積層体、トイレの清掃範囲及び清掃時期決定方法、トイレの清掃方法

【課題】簡便な生化学反応を利用して、実際に臭気が発生する前に、臭気原因物質の存在を簡単にチェックして速やかな清掃作業を可能とする、トイレ汚れ検出シート及びその積層体、トイレの清掃範囲及び清掃時期決定方法、トイレの清掃方法を提供する。
【解決手段】トイレの被清掃領域の複数箇所に貼付される汚れ検出シート1であって、水分を吸収する基材シート2と、この基材シート2に含浸又は塗布されて、尿に含有される成分のph変化を促進する促進剤3と、前記基材シート2内の該促進剤によるph変化を表示する表示剤4と、から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駅のトイレなどに使用されて、トイレの清浄度の判定をする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
駅などの一般の人が多く利用する公的トイレでは、臭気に関する苦情が発生しやすく、頻繁に清掃を実施しても、臭気に関する苦情を完全になくすことは難しい。これは清掃を実施しても、臭気の元になる物質が十分に除去されていないためと考えられる。
【0003】
そして、このような臭気原因物質の状況を化学的に判定する技術として、例えば特許文献1に示される検知体が知られている。
この検知体は、反応の進行に伴って色変化する感応部と、感応部の色変化前の色調、色変化後の色調及びこれら色調間の色変化途中の色調を表す比色部とを有し、感応部に隣接して該比色部を、色変化前から色変化後までの順に配列してなる構造である。
そして、前記検知体により、食品、生ごみ、排泄臭の臭気成分となるアンモンニアを検知し、該検知に基づき変化した感応部と比色部との色比較により、該アンモニアの濃度を視覚的に認識できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−278926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に示される検知体では、食品、生ごみ、排泄物などから発生した臭気成分となるアンモンニアを直接検出するようにしているため、該検知体がアンモニア臭気を検知するときには、周囲の空気が既にアンモニア臭気で満たされた状況にある。すなわち、検知体がアンモニア臭気を検知するときには、人間が不快な臭気を感じる状況にあり、このような状況を改善するために、人間が臭気を感じる以前に臭気成分を分析できる技術の提供が望まれていた。
【0006】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、簡便な生化学反応を利用して、実際に臭気が発生する前に、臭気原因物質の存在を簡単にチェックして速やかな清掃作業を可能とする、トイレ汚れ検出シート及びその積層体、トイレの清掃範囲及び清掃時期決定方法、トイレの清掃方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明に係るトイレ汚れ検出シートによれば、トイレの被清掃領域の複数箇所に貼付される汚れ検出シートであって、水分を吸収する基材シートと、この基材シートに含浸又は塗布されて、尿に含有される成分のph変化を促進する促進剤と、前記基材シート内の該促進剤によるph変化を表示する表示剤と、から構成されることを特徴とする。
【0008】
また、上記トイレ汚れ検出シートでは、前記促進剤は、尿に含有される尿素のアンモニア分解を促進するウレアーゼ酵素を使用することが好ましい。
【0009】
また、上記トイレ汚れ検出シートでは、前記基材シートに、前記表示剤でのph変化と比較される比較例を表示する比較用表示部をさらに設けることが好ましい。
【0010】
また、上記トイレ汚れ検出シートを、前記基材シートより平面形状の大きなカバーシートの間に挟んで複数積層し、前記カバーシートを互いに粘着させることによって、複数のカバーシートの間に防水状態で封入することで、トイレ汚れ検出シート積層体を構成しても良い。
【0011】
また、上記トイレ汚れ検出シート又は上記トイレ汚れ検出シート積層体をトイレの被清掃領域の複数箇所に配置する設置行程と、設置されたシートの変色状態から前記複数個所の汚れの程度を判別する判別行程と、判別された汚れの程度によってトイレの清掃時期を決定する時期決定行程と、からトイレの清掃時期を決定しても良い。
【0012】
また、上記トイレ汚れ検出シート又は上記トイレ汚れ検出シート積層体をトイレの被清掃領域の複数箇所に配置する設置行程と、配置されたシートの変色状態から前記複数個所の汚れの程度を判別する判別行程と、判別された汚れの程度によってトイレの清掃範囲を決定する範囲決定行程と、から構成されたトイレの清掃範囲を決定しても良い。
【0013】
また、上記に決定された清掃範囲、清掃時期の少なくとも一方に基づき、トイレの清掃を実行しても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水分を吸収する基材シートに含浸又は塗布されて尿に含有される成分のph変化を促進する促進剤と、該促進剤によるph変化を表示する表示剤と、からトイレ汚れ検出シートを構成したので、促進剤として、例えば尿に含有される尿素のアンモニア分解を促進するウレアーゼ酵素を使用することで、尿に含有される尿素を速やかにアンモニアに分解させ、該分解によるph変化を表示剤により表すことができる。
すなわち、本発明に係るトイレ汚れ検出シートでは、尿の自然分解により不快なアンモニア臭が広く発生する以前に、促進剤よる強制的かつ局所的なアンモニア分解により尿の存在をいち早く知ることができ、その結果、臭気原因物質の存在を簡単にチェックして速やかな清掃作業を可能とする。
【0015】
そして、このようなトイレ汚れ検出シートを、トイレの被掃除領域に複数箇所に配置し、各所の変色状態から汚れの程度を判別するようにすれば、判別された汚れの程度によってトイレの清掃範囲、清掃時期を容易に決定することができ、更には、これらトイレの清掃範囲及び清掃時期から最適な掃除のパターン、掃除スケジュールを決定することができる。
【0016】
また、上述したトイレ汚れ検出シートを、基材シートより大きなカバーシートの間に挟んで複数積層し、これらカバーシートの間を防水状態で封入することで、トイレ汚れ検出シート積層体を構成すると良い。
そして、このようなトイレ汚れ検出シート積層体を用いれば、表示剤がph変化を表示する毎に、上層のカバーシートを剥がして行くことで、使用済みのトイレ汚れ検出シートを除去し、かつ下層のカバーシート上の新たなトイレ汚れ検出シートを表面に露出させることができ、表面に次々と露出するトイレ汚れ検出シートにより、何度も尿の有無の検査を実施することが可能となる。その結果、トイレの被清掃領域に、検査を行う毎にトイレ汚れ検出シートを貼る必要がなくなり、検査作業の効率化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(A)はトイレ汚れ検出シート1を示す平面図、(B)複数連結したトイレ汚れ検出シート1を示す平面図、(C)端部に比較用表示部5を設けたトイレ汚れ検出シート1を示す平面図である。
【図2】(A)トイレ汚れ検出シート積層体Sに使用するカバーシート10を示す斜視図、(B)カバーシート10にトイレ汚れ検出シート1を貼付した状態を示す斜視図である。
【図3】トイレ汚れ検出シート積層体Sの正面図である。
【図4】トイレ汚れ検出シート1又はトイレ汚れ検出シート積層体Sをトイレの被清掃領域に貼付した例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態について図1〜図4を参照して説明する。
図1(A)は、本発明に係るトイレ汚れ検出シート1であって、水分を吸収する基材シート2と、基材シート2に含浸されて尿に含有される成分のph変化を促進する促進剤3と、前記基材シート2に含浸されて該基材シート2内の促進剤3によるph変化を表示する表示剤4と、から構成されている。
【0019】
前記促進剤3として、尿に含有される尿素を分解してアンモニア生成を促進するウレアーゼ酵素などの尿素分解酵素が使用される。また、前記表示剤4として、基材シート2のpH変化を検出するフェノールレッド、リトマス、メチルレッドなどのpH指示薬が使用される。
【0020】
そして、上記トイレ汚れ検出シート1は、例えば、尿が飛散する恐れのある便器周囲の被清掃領域に貼付しておくことで、尿汚れが存在した場合に、尿の主成分であるウレア(尿素)が、促進剤であるウレアーゼの作用によって分解され、アンモニアに変化する。アンモニアは強アルカリ性物質であるため、表示剤であるpH指示薬が色変化(フェノールレッドの場合は赤に変化)する。すなわち、上記トイレ汚れ検出シート1での色の変化は、その場所にウレアがある(尿汚れがある)ことを示すものである。
【0021】
なお、上記トイレ汚れ検出シート1では、基材シート2に促進剤3及び表示剤4を含浸させるようにしたが、これに限定されず、該基材シート2の表面に塗布するようにしても良い。また、便器周辺の被清掃領域への貼付は、両面テープ又は接着剤による他、様々な取付け方式が選択可能である。
【0022】
(変形実施例1)
上記トイレ汚れ検出シート1は1枚のみを使用しても良いが、図1(B)に示すように複数枚を隣接配置する、又は1枚のトイレ汚れ検出シート1を複数の区画に分割し、複数ある各部においてそれぞれトイレの汚れを検出しても良い。そして、各部において色の変化を比較することで、精度の高い尿検出が可能となる。
【0023】
また、このとき、図1(C)に示すように、上記トイレ汚れ検出シート1の一端部に、アンモニアを検出した際の表示剤4の色(フェノールレッドの場合は赤色)を、比較用表示部5として設けても良い。そして、このような色比較により、上記トイレ汚れ検出シート1の色変化を確実に認識することが可能となる。この比較用表示部5は、上述したトイレ汚れ検出シート1に尿を染み込ませて変色させたものを使用しても良いし、別途、作成した色見本を使用しても良い。
【0024】
(変形実施例2)
図1(A)〜(C)では、トイレ汚れ検出シート1が尿を検出して変色する毎に取り替える必要があるが、この取り替えの手間を軽減するために、図2及び図3に示すトイレ汚れ検出シート積層体Sを用いても良い。
【0025】
このトイレ汚れ検出シート積層体Sは、図2(A)に示すように基材シート2より平面形状の大きなカバーシート10を複数枚用意し、図2(B)及び図3に示すように、これら各カバーシート10上の中央部にトイレ汚れ検出シート1を貼り付けた上で、各カバーシート10の周縁部10A(図2に斜線で示す部分であって、この範囲に粘着剤が塗布されている)を互いに粘着させた構造である。これによって、トイレ汚れ検出シート積層体S内には、複数のカバーシート10の各間にトイレ汚れ検出シート1が防水状態で封入される。
このとき、カバーシート10上のトイレ汚れ検出シート1には、粘着剤が塗布されていない範囲に接しているので、上層のカバーシート10を剥がす際に、下層のカバーシート10上のトイレ汚れ検出シート1を破損させることなく、表面に露出させることができる。
【0026】
そして、このようなトイレ汚れ検出シート積層体Sでは、トイレ汚れ検出シート1上の表示剤4がph変化を表示する毎に、カバーシート10を剥がして行くことで、上層の使用済みのトイレ汚れ検出シート1を除去し、かつ下層の新たなトイレ汚れ検出シート1を表面に露出させることができ、表面に次々と露出するトイレ汚れ検出シート1により、何度も尿の有無の検査を実施することが可能となる。その結果、トイレの被清掃領域に、検査を行う毎にトイレ汚れ検出シート1を貼る必要がなくなり、検査作業の効率化が可能となる。
【0027】
次に、上記トイレ汚れ検出シート1又はトイレ汚れ検出シート積層体Sを用いたトイレ清掃方法について、図3を参照して説明する。
【0028】
図4に示すように、まず、上述したトイレ汚れ検出シート1又はトイレ汚れ検出シート積層体Sを、尿が飛散する恐れのある便器周囲の壁、床といった被清掃領域に貼付する。このとき、これらトイレ汚れ検出シート1又はトイレ汚れ検出シート積層体Sは、尿の飛散分布が分かるように互いに一定の間隔をおいて(例えば、マトリックス状に)複数箇所配置する(設置工程)。
【0029】
次に、各箇所におけるトイレ汚れ検出シート1又はトイレ汚れ検出シート積層体Sにおいて、尿が付着することによる表示剤4の変色状態を観察することで、どの場所が汚れ易いのか、どの場所が汚れないのか等の判別を行う(判別工程)。このような判別は、表示剤4が変色した場合、トイレ汚れ検出シート1を取り換える、又はトイレ汚れ検出シート積層体Sのカバーシート10を剥がし、複数回のデータ収集により、高い精度で実行すると良い。
【0030】
そして、上述した判定工程で判別された各箇所の汚れの程度によって、トイレの清掃時期、トイレの清掃範囲を決定し、この決定結果に基づき、最適な掃除のパターン(集中的に清掃すべき個所)、掃除スケジュールを決定する(決定工程)。
【0031】
以上詳細に説明したように、本実施形態に示すトイレ汚れ検出シート1は、水分を吸収する基材シート2に含浸又は塗布されて尿に含有される成分のph変化を促進する促進剤3と、該促進剤3によるph変化を表示する表示剤4と、から構成したので、促進剤3として、例えば尿に含有される尿素のアンモニア分解を促進するウレアーゼ酵素を使用することで、尿に含有される尿素を速やかにアンモニアに分解させ、該分解によるph変化を表示剤4により表すことができる。
すなわち、上記トイレ汚れ検出シート1では、尿の自然分解により不快なアンモニア臭が広く発生する以前に、促進剤3よる強制的かつ局所的なアンモニア分解により尿の存在をいち早く知ることができ、その結果、臭気原因物質の存在を簡単にチェックして速やかな清掃作業を可能とする。
【0032】
そして、このようなトイレ汚れ検出シート1を、トイレの被掃除領域に複数箇所に配置し、各所の変色状態から汚れの程度を判別するようにすれば、判別された汚れの程度によってトイレの清掃範囲、清掃時期を容易に決定することができ、更には、これらトイレの清掃範囲及び清掃時期から最適な掃除のパターン、掃除スケジュールを決定することができる。
【0033】
また、上述したトイレ汚れ検出シート1を、カバーシート10の間に挟んで複数積層したトイレ汚れ検出シート積層体Sを用いれば、表示剤4がph変化を表示する毎に、カバーシート10を剥がして行くことで、使用済みの上層のトイレ汚れ検出シート1を除去し、かつ下層の新たなトイレ汚れ検出シート1を表面に露出させることができ、表面に次々と露出可能なトイレ汚れ検出シート1により、何度も尿検査を実施することができる。その結果、トイレの被清掃領域に、検査を行う毎にトイレ汚れ検出シート1を貼る必要がなくなり、検査作業の効率化が可能となる。
【0034】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、駅のトイレなどに使用されて、トイレ清浄度の判定をするトイレ汚れ検出シート及びその積層体、トイレの清掃範囲及び清掃時期決定方法、トイレの清掃方法に関する。
【符号の説明】
【0036】
1 トイレ汚れ検出シート
2 基材シート
3 促進剤
4 表示剤
5 比較用表示部
10 カバーシート
S トイレ汚れ検出シート積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被清掃領域の複数箇所に貼付される汚れ検出シートであって、
水分を吸収する基材シートと、
この基材シートに含浸又は塗布されて、尿に含有される成分のph変化を促進する促進剤と、
前記基材シート内の該促進剤によるph変化を表示する表示剤と、から構成されることを特徴とするトイレ汚れ検出シート。
【請求項2】
前記促進剤は、尿に含有される尿素のアンモニア分解を促進するウレアーゼ酵素であることを特徴とする請求項1に記載のトイレ汚れ検出シート。
【請求項3】
前記基材シートに、前記表示剤でのph変化と比較される比較例を表示する比較用表示部をさらに設けたことを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載のトイレ汚れ検出シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のトイレ汚れ検出シートを、前記基材シートより平面形状の大きなカバーシートの間に挟んで複数積層し、前記カバーシートを互いに粘着させることによって、複数のカバーシートの間に防水状態で封入したことを特徴とするトイレ汚れ検出シート積層体。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のトイレ汚れ検出シート、又は請求項4に記載のトイレ汚れ検出シート積層体をトイレの被清掃領域の複数箇所に配置する設置行程と、
設置されたシートの変色状態から前記複数個所の汚れの程度を判別する判別行程と、
判別された汚れの程度によってトイレの清掃時期を決定する時期決定行程と、から構成されたトイレの清掃時期決定方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のトイレ汚れ検出シート、又は、請求項4に記載のトイレ汚れ検出シート積層体をトイレの被清掃領域の複数箇所に配置する設置行程と、
配置されたシートの変色状態から前記複数個所の汚れの程度を判別する判別行程と、
判別された汚れの程度によってトイレの清掃範囲を決定する範囲決定行程と、から構成されたトイレの清掃範囲決定方法。
【請求項7】
請求項5により決定された清掃範囲および請求項6により決定された清掃時期の少なくとも一方に基づき、トイレの清掃を実行することを特徴とするトイレの清掃方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−36189(P2013−36189A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171634(P2011−171634)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】