説明

トイレ用消臭フィルター

【課題】多くの悪臭ガスのうち特にトイレの3大臭気(硫化水素の臭気、アミン系の臭気、メルカプタン系の臭気)の即効的消臭に極めて有効で、しかも圧力損失が少なく消臭効果の持続するトイレ用消臭フィルターを提供することを課題としている。
【解決手段】カチオン化処理をした活性炭混抄紙に金属フタロシアニン錯体と、弱アルカリ性の金属塩と、水溶性の銅化合物を担持させ、JIS B9908規格で測定した圧力損失が、フィルターの通過風速が1.0m/秒の条件下で、フィルターの厚み1cm当たり15Pa以下であることに特徴のあるトイレ用消臭フィルター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレ等のいやな臭を取り除くフィルター材等として使用し、特に硫化水素、アミン系、メルカプタン系の三大臭気を即効的に吸着分解し、その効果の持続することができ、しかも圧力損失の少ないトイレ用消臭フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
消臭フィルターは、様々な用途に利用されており、その消臭方法は大きく分類して活性炭やゼオライト等の吸着材を利用した吸着タイプと、オゾンや光触媒、金属フタロシアニン錯体等により悪臭物質を分解除去する触媒タイプ、あるいはこの吸着タイプと触媒タイプを併用した併用タイプに分けられる。このうち例えば、活性炭の優れた吸着作用を利用した技術がよく知られているが、これらは悪臭成分を吸着し、周辺の臭気濃度を短期的に低下さす働きには優れているが、悪臭成分の量が減少するわけではなく、有効期間に限りのある消臭方法といわれ、最近では悪臭物質を分解除去する触媒タイプあるいは併用タイプのものが多くなっている。
【0003】
特許文献1においては、金属フタロシアニンとケイ酸塩を組み合わせることにより、メルカプタン等の硫黄化合物やアミン等の窒素化合物に対して相乗的に消臭効果を発揮する消臭組成物が得られるとして開示している。
【0004】
特許文献2では、トイレ洗浄装置において、脱臭剤としてMn/Co/Cu及び疎水性ゼオライトの混合物を作成し、硫化水素系の臭気をMn/Co/Cu複合酸化物に吸着させ、アンモニア系の臭気を疎水性ゼオライトに吸着させ、メルカプタン系の臭気をMn/Co/Cu複合酸化物により二硫化ジメチルに転化させた後に疎水性ゼオライトに吸着させることにより、排便時の3大臭気を2種類の吸着剤によって脱臭する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献3において、4価金属リン酸塩、ケイ酸アルミニウムより選ばれる少なくとも1種の化合物Aと、水和酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、ハイドロタルサイト化合物もしくはその焼成物、銅イオン、亜鉛イオン又はマンガンイオンの内の、少なくとも1種のイオンを担持させた無機化合物よりなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物Bとよりなる、消臭組成物を示し、糞尿臭を効率よく消臭する技術を開示している。
【0006】
さらに、特許文献4において出願人は、金属フタロシアニン錯体を、カチオン化処理をした活性炭混抄紙で構成したフィルター基材に担持させ、さらに弱アルカリ性の金属塩と、水溶性の銅化合物とを担持させることによって、3大臭気をワンパス(一回通し)で効率よく吸着分解する技術を開示している。
【0007】
【特許文献1】特開2005−304763号
【特許文献2】特開2002−213000号
【特許文献3】特開2006−316401号
【特許文献4】特開2011−025118号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの従来技術は、トイレの悪臭に特化した消臭剤としては有用な方法ではあるが、例えば、温水便座等の消臭装置のフィルターに使用したときの消臭能力、圧力損失としては未だ満足できるものではなかった。本発明は多くの悪臭ガスのうち特にトイレの3大臭気(硫化水素の臭気、アミン系の臭気、メルカプタン系の臭気)の即効的消臭に極めて有効で、しかも圧力損失が少なく消臭効果の持続するトイレ用消臭フィルターを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、硫化水素、アミン系、メルカプタン系の臭気に対して即効的消臭能力を有し、消臭効果の持続する消臭フィルターを提供すべく検討を行なった結果、金属フタロシアニン錯体を、カチオン化処理をした活性炭混抄紙で構成したフィルター基材に担持させ、さらに弱アルカリ性の金属塩と、水溶性の銅化合物とを担持させることによって、3大臭気をワンパス(一回通し)で効率よく吸着分解し、しかも圧力損失が少なく消臭効果の持続するトイレ用消臭フィルターを見出し、本発明に至ったものである。前記課題を解決するために本発明は以下の手段を提供する。
【0010】
[1]活性炭混抄紙に金属フタロシアニン錯体と、弱アルカリ性の金属塩と、水溶性の銅化合物を担持させ、JIS B9908規格で測定した圧力損失が、フィルターの通過風速が1.0m/秒の条件下で、フィルターの厚み1cm当たり15Pa以下であることに特徴のあるトイレ用消臭フィルター。
【0011】
[2]前記トイレ用消臭フィルターにおいて、活性炭混抄紙の密度が0.3〜1.0g/cmの範囲であり、かつ活性炭を0.2〜0.7g/cm、金属フタロシアニン錯体を0.13〜13mg/cm担持させた前項1に記載のトイレ用消臭フィルター。
【0012】
[3]前記トイレ用消臭フィルターにおいて、活性炭混抄紙に、さらに二酸化マンガンを0.04〜0.14g/cm混抄させて坦持させたことに特徴のあるトイレ用消臭フィルター。
【0013】
[4]前記トイレ用消臭フィルターはハニカム形状のフィルターであって、フィルターの開口率が65〜80%の範囲である前項1〜3のいずれか1項に記載のトイレ用消臭フィルター。
【0014】
[5]前記金属フタロシアニン錯体は、コバルトフタロシアニン錯体、鉄フタロシアニン錯体、マンガンフタロシアニン錯体から選ばれる1種または複数の金属フタロシアニン錯体であることに特徴のある前項1〜4のいずれか1項に記載のトイレ用消臭フィルター。
【0015】
[6]前記弱アルカリ性の金属塩は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムから選ばれる1種または複数のpH8.0〜12.0の弱アルカリ性の金属塩であることに特徴のある前項1〜5のいずれか1項に記載のトイレ用消臭フィルター。
【0016】
[7]前記弱アルカリ性の金属塩を2〜50g/cm活性炭混抄紙に担持させたことに特徴のある前項1〜6のいずれか1項に記載のトイレ用消臭フィルター。
【0017】
[8]前記水溶性の銅化合物は、硫酸銅、塩化銅、酢酸銅、ポリアクリル酸銅から選ばれる1種または複数の水溶性の銅化合物であることに特徴のある前項1〜7のいずれか1項に記載のトイレ用消臭フィルター。
【0018】
[9]前記水溶性の銅化合物を1〜10mg/cm活性炭混抄紙に担持させたことに特徴のある前項1〜8のいずれか1項に記載のトイレ用消臭フィルター。
【発明の効果】
【0019】
[1]の発明によれば、金属フタロシアニン錯体と、弱アルカリ性の金属塩と、水溶性の銅化合物とを活性炭混抄紙に担持させるので、pHが7.5〜12.0の高いpH環境に保たれ、硫化水素ガスのような酸性ガスは、金属フタロシアニン錯体によって分解される。この時硫化水素ガスと金属フタロシアニン錯体が反応して生じる副生成物が、消臭フィルター周囲のpHを下げ触媒反応を遅らせてしまうのであるが、弱アルカリ性の金属塩を担持させているので、前記副生成物を前記弱アルカリ性の金属塩が捕捉し、pHの低下を防止することから、消臭効果を持続することができる。また、水溶性の銅化合物を担持しているので、金属フタロシアニン錯体によって分解しきれなかった悪臭を化学吸着することができ、一度該フィルターを通過するだけで、大部分の悪臭を除去することができ、消臭効果の持続したトイレ用消臭フィルターとすることができる。また、アミン系の臭気は活性炭や水溶性の銅化合物に吸着させ、メルカプタン系の臭気は金属フタロシアニン錯体によって副生成物に転化させた後に活性炭に吸着させ、さらに金属フタロシアニン錯体によって分解される。さらに、JIS B9908規格で測定した圧力損失が、フィルターの通過風速が1.0m/秒の条件下で、フィルターの厚み1cm当たり15Pa以下であるので便器内に存在する便臭を素早く消臭することができる。
【0020】
[2]の発明によれば、活性炭混抄紙の密度が0.3〜1.0g/cmの範囲であるので悪臭を効率よく吸着または分解できる。活性炭や金属フタロシアニン錯体、金属塩を多量に含ませることができ、かつ空気を通したときに生じる通気抵抗を小さく抑えることができる。活性炭混抄紙に活性炭を0.2〜0.7g/cm、金属フタロシアニン錯体を0.13〜13mg/cm担持させているので、活性炭の強力な吸着力によって吸着した臭気を、金属フタロシアニン錯体の酸化力によって消臭することができる。金属フタロシアニン錯体は、光触媒のように担持体を侵すことがなく、バインダー樹脂を介さなくても活性炭混抄紙に直接担持され、消臭剤として非常に有効である。
【0021】
[3]の発明によれば、[2]の効果に加えて活性炭混抄紙に二酸化マンガンを0.04〜0.14g/cm混抄させて坦持させさせているので、硫化水素、メチルメルカプタンの単位時間当たりの分解能力を高めることができる。
【0022】
[4]の発明によれば、フィルターの開口率が65〜80%の範囲なので圧力損失を小さく抑えることができ、ファンモーター等の通風装置をより小型にすることができる。
【0023】
[5]の発明によれば、前記金属フタロシアニン錯体が、コバルトフタロシアニン錯体、鉄フタロシアニン錯体、マンガンフタロシアニン錯体から選ばれる1種または複数の金属フタロシアニン錯体であるので、十分な消臭効果が得られる。
【0024】
[6]の発明によれば、前記弱アルカリ性の金属塩は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムから選ばれる1種または複数のpH8.0〜12.0の弱アルカリ性金属塩であるので、硫化水素ガスと金属フタロシアニン錯体が反応した時に生じる副生成物を前記弱アルカリ性の金属塩が捕捉し、消臭フィルター周囲のpH値が下がるのを防ぐことができる。
【0025】
[7]の発明によれば、前記弱アルカリ性の金属塩を2〜50g/cm活性炭混抄紙に担持させているので、消臭フィルター周囲のpH値が下がるのを防ぐことができ、十分な消臭効果を持続することができる。
【0026】
[8]の発明によれば、前記水溶性の銅化合物は、硫酸銅、塩化銅、酢酸銅、ポリアクリル酸銅から選ばれる1種または複数の水溶性の銅化合物であるので、金属フタロシアニン錯体によって分解しきれなかった硫化水素やメルカプタン系の悪臭を化学吸着することができ、悪臭を一度該フィルターに通過させるだけで、大部分の悪臭を除去することができ、消臭効果の持続したトイレ用消臭フィルターとすることができる。
【0027】
[9]の発明によれば、前記水溶性の銅化合物を1〜10mg/cm活性炭混抄紙に担持させているので、フィルター基材に対して大きな空間速度(SV値)で、硫化水素やメルカプタン系の悪臭をワンパス条件で作用させた場合でも、効率よく消臭ことができる。(SV値は、単位時間当たりにフィルター材体積の何倍相当分の悪臭に作用処理しているかを示す値で、SV値が大きい程、処理量すなわちファン等で送られてくる悪臭を含んだ空気の量が多いことになる。)
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の消臭フィルターについて、さらに詳しく説明する。本発明の消臭フィルターを構成する活性炭混抄紙は通常の湿式抄紙法により製造できる。例えば活性炭と天然パルプを水に添加し、水スラリーを作成する。そのスラリーを攪拌しながら所定の固形分濃度に調整し、その後カチオン系ポリマー又はアニオン系ポリマーを添加し、得られた凝集体水分散液を抄紙機を使い湿式抄紙法によりシート化し、乾燥処理を行ない活性炭混抄紙を得る。この活性炭混抄紙にヒートプレス機を用いてプレス加工を施す。この活性炭混抄紙をコルゲート加工機を用いハニカム形状に加工しフィルターの形状にする。フィルターの開口率を、ヒートプレス機を用いたプレス加工による紙厚、およびコルゲート加工機によるコルゲートの山高さと、コルゲート間隔(ピッチ)から65〜80%の範囲にするのが好ましい。
【0029】
この活性炭混抄紙によるハニカムフィルターは活性炭の強い吸着力によって悪臭ガスの吸着体の役割をなすものである。本発明に使用する活性炭としては、椰子殻活性炭、石油ピッチ系球状活性炭、活性炭素繊維、木質系活性炭等の活性炭系炭素多孔質体が、吸着比表面積が非常に高いことから好ましく用いられる。中でも、椰子殻活性炭が好ましい。また、この活性炭混抄紙に使用する繊維は天然パルプ、ポリオレフィン及びアクリル繊維などのフィブリル化繊維を用いればよいが、金属フタロシアニン錯体の担持のし易さからも天然パルプが好ましい。
【0030】
活性炭混抄紙における活性炭の担持量は、0.2〜0.7g/cm担持させるのが好ましい。0.2g/cmを下回る活性炭の担持量では、硫化水素ガスの十分な吸着量とならない。また、0.7g/cmを上回って活性炭を担持させても、十分に大きな吸着量とはならず、活性炭混抄紙の強度も得られず好ましくない。
【0031】
本発明の消臭フィルターに使われる金属フタロシアニン錯体は、特に限定されるものではないが、例えば鉄フタロシアニン錯体、コバルトフタロシアニン錯体、マンガンフタロシアニン錯体が挙げられる。これらの中でもコバルトフタロシアニン錯体、または鉄フタロシアニン錯体を用いるのが好ましい。前記コバルトフタロシアニン錯体としては、特に限定されるものではないが、例えばコバルトフタロシアニンポリスルホン酸ナトリウム、コバルトフタロシアニンオクタカルボン酸、コバルトフタロシアニンテトラカルボン酸等が挙げられる。前記鉄フタロシアニン錯体としては、鉄フタロシアニンテトラカルボン酸、鉄フタロシアニンオクタカルボン酸等が挙げられる。
【0032】
金属フタロシアニン錯体を活性炭混抄紙に担持する前に、活性炭混抄紙をカチオン化処理することが望ましい。これは、金属フタロシアニン錯体の担持量を増大するための処理で、カチオン化処理は活性炭混抄紙の化学構造中にカチオン基を導入付与し得るものであればどのような処理であっても良いが、中でも4級アンモニウム塩によりカチオン化処理が行われるのが好ましい。この場合には、金属フタロシアニン錯体の担持量をより増大させることができる利点がある。前記4級アンモニウム塩としては、例えば3―クロロ―2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、グリシジルトリメチルアンモニウムクロライド、3―クロロ―2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドの縮合ポリマー等が挙げられる。
【0033】
金属フタロシアニン錯体を活性炭混抄紙に担持する量としては、0.13〜13mg/cm担持させることが好ましい。0.13mg/cmを下回ると、悪臭ガスの分解能力が劣るものとなり、13mg/cmを上回るものとしても、それ以上の悪臭ガスの分解能力の向上は得られない。より好ましくは、0.5〜5mg/cmである。
【0034】
前記カチオン化処理された活性炭混抄紙によるハニカムフィルターを水洗し乾燥したあと、金属フタロシアニン錯体と水酸化ナトリウムとを含んだアルカリ水溶液に含浸させ、水洗し乾燥して高いpH環境の消臭フィルターを得る。この時のpH値は7.5〜12.0が好ましく、pH値が7.5を下回ると硫化水素やメルカプタン等の酸性ガスのプロトン解離が起こりにくくなり(下記可逆反応が左に傾き)、金属フタロシアニン錯体と触媒反応をする化学種の生成速度が著しく低下することになる。また、pH値が12.0を上回ると金属フタロシアニン錯体が分解して触媒としての作用が失われる。より好ましいpH値は8.0〜11.5である。
【化1】

【0035】
次に前記の高いpH環境の消臭フィルターを弱アルカリ性の金属塩水溶液と水溶性の銅化合物の水溶液に含浸させ、乾燥して本発明の消臭フィルターを得る。該弱アルカリ性の金属塩は特に限定されるものではないが、水に対する溶解度が高いものが望ましい。水酸化カルシウムや炭酸マグネシウムなどは水に対する溶解度が非常に小さいことから、活性炭混抄紙への担持量も必然的に少なくなり好ましくない。また、弱アルカリ性の金属塩は不揮発性の弱酸とアルカリ金属の化合物であることが望ましい。このことは、硫化水素と金属フタロシアニン錯体が触媒反応をする際に発生する副生成物は酸性の化学種であることから、該副生成物と前記弱アルカリ性金属塩が吸着反応をしたときに弱酸が遊離し、該弱酸が悪臭となるような揮発性の金属塩、例えば酢酸ナトリウムなどは好ましくない。一方炭酸のアルカリ金属塩は、遊離した炭酸が速やかに水とニ酸化炭素に分解されるので好ましい。また、不揮発性であるが価数の高い弱酸のアルカリ金属塩、例えばクエン酸三ナトリウムは、1分子あたりに副生成物を吸着できる量が多いので好ましい。弱アルカリ性の金属塩水溶液は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムから選ばれる1種または複数の弱アルカリ性の金属塩を水に溶解させたものが好ましい。
【0036】
弱アルカリ性の金属塩の担持量は2〜50g/cmとするのがよい。2g/cmを下回ると硫化水素ガスを消臭する繰返し耐久性が低下するので好ましくない。50g/cmを上回って担持すると、活性炭の細孔が塞がれてしまい吸着性能が低下したり、金属フタロシアニン錯体の周囲を弱アルカリ性の金属塩が覆ってしまい触媒作用が低下することになり好ましくない。より好ましくは5〜25g/cmとするのがよい。弱アルカリ性の金属塩のpH値は8.0〜12.0が好ましい。pH値が8.0より低いと副生成物との反応性が低下するので好ましくない。また、pH値が12.0より高いと金属フタロシアニン錯体を分解するので好ましくない。
【0037】
また、水溶性の銅化合物としては、硫酸銅、塩化銅、酢酸銅、ポリアクリル酸銅から選ばれる1種または複数の水溶性の銅化合物が好ましい。水溶性の銅化合物は、硫化水素やメルカプタン系の悪臭を強力に化学吸着することができ、悪臭を一度該フィルターに通過させるだけで、大部分の悪臭を除去することができる。水溶性の銅化合物の担持量は、1〜10g/cmが好適である。水溶性の銅化合物は、フィルター基材に対して大きな空間速度(SV値)を形成し、硫化水素やメルカプタン系の悪臭をワンパス条件で作用させた場合でも、効率よく消臭することができる。本発明では、SV値は100,000〜250,000[H−1]が好適である。
【0038】
さらに、二酸化マンガンの混抄法による担持量は0.04〜0.14g/cmとするのがよい。二酸化マンガンを坦持することで硫化水素、メチルメルカプタンの単位時間当たりの分解能力を高めることができる。0.04g/cmを下回ると硫化水素あるいはメチルメルカプタンを消臭する繰返し耐久性が低下するので好ましくない。0.14g/cmを上回って担持すると、活性炭、パルプの含有率が少なくなり、吸着によるワンパス(一回通し)除去性能が低下したり、紙としての強度を保持できなくなり好ましくない。より好ましくは0.07〜0.10g/cmとするのがよい。
【0039】
また、本発明の消臭フィルターにおいて、本発明の効果を損なわない範囲で、前記活性炭混抄紙にさらに他の消臭剤や臭気吸着剤や添加剤等を担持せしめた構成を採用しても良い。他の消臭剤としては例えばヒドラジン誘導体やポリビニルアミン化合物を例示できる。また、臭気吸着剤としては、活性炭の他に、ゼオライト等の多孔質無機物質を例示できる。
【0040】
次ぎに実施例により、本発明を具体的に説明する。なお実施例におけるフィルターの開口率の算出、圧力損失、硫化水素ガス、アミン系、メルカプタン系のガスの消臭性能の測定は次のように行った。
【0041】
(フィルターの開口率)
フィルターの開口率は、コルゲートの山の高さをh、紙厚さをtとして、次の式を用いて開口率(%)を算出した。
開口率(%)=(1−t(1+(h−t)/h)/h)×100
【0042】
(圧力損失試験)
JIS B9908形式3に準拠し測定した。すなわち、ハニカムフィルターを風洞のユニット固定部に保持し、送風機を作動させフィルター面風速が1.0m/秒になるように調整した。次に静圧測定孔に接続されたマノメーターによって、フィルターの上流側と下流側の静圧を測定しフィルターの厚み1cm当たりの圧力損失を算出した。評価基準は、圧力損失15Pa以下を「○」、15Pa超20Pa以下を「△」、20Pa超を「×」とした。
【0043】
(硫化水素ガス消臭性能)
消臭フィルターから切り出した試験片(50mm×30mm 厚さ10mm セル密度300セル/inch)を、試験片と同じ内寸の角型配管に配置されたサンプルホルダーに固定し、配管の一端から毎分135リットル(SV値=180,000H−1)の通気を行なうファンをセットした試験キットの一端から、濃度が5ppmの硫化水素ガスを断続的にワンパス条件で注入し、一分後の他端から流出する硫化水素ガスの濃度を測定し、この測定値を比較して硫化水素ガスの除去率(%)を算出した。この試験を4時間連続して性能維持試験とした。
【0044】
(アミン系(アンモニア)ガス消臭性能)
アンモニアガスの濃度を5ppmとした以外は、硫化水素ガス消臭性能と同様にして、消臭性能と性能維持試験とした。
【0045】
(メルカプタン系(メチルメルカプタン)ガス消臭性能)
メチルメルカプタンガスの濃度を5ppmとした以外は、硫化水素ガス消臭性能と同様にして、消臭性能と性能維持試験とした。
【実施例】
【0046】
<実施例1>
椰子殻活性炭70重量部と天然パルプ30重量部を水100重量部に添加し、水スラリーを作成する。得られた凝集体水分散液を抄紙機を使い湿式抄紙法によりシート化し、乾燥処理を行ない活性炭混抄紙を得る。続いて、この活性炭混抄紙にヒートプレス機を用いてプレス加工を施した。紙厚は0.17mm、坪量は130g/mであった。その後得られた活性炭混抄紙を3―クロロ―2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド水溶液にてカチオン化処理をし乾燥した。次に、この活性炭混抄紙をコルゲート加工機を用いハニカム形状に加工しフィルターの形状にした。コルゲートの山高さは1.4mm、コルゲート間隔(ピッチ)は3.0mmであった。次に0.5重量%のコバルトフタロシアニンポリスルホン酸ナトリウムと、10g/lの炭酸カリウムと、2.5g/lの硫酸銅水溶液に含浸させ、水洗し乾燥してpH10.0のフィルターを得る。この時コバルトフタロシアニンポリスルホン酸ナトリウムの活性炭混抄紙への担持量は10mg/cmで、炭酸カリウムの活性炭混抄紙への担持量は30g/cm、硫酸銅の活性炭混抄紙への担持量は7mg/cmで、フィルターの開口率は77%であった。上記の硫化水素、アミン系、メルカプタン系のガスの消臭性能の測定をおこない、試験開始直後、2時間後、4時間後のガス除去率を表に記載した。さらに、圧力損失試験をおこない評価した結果を表に記載した。
【0047】
<実施例2>
次に、実施例1において、ヒートプレス加工のプレス圧を弱くし紙厚0.25cmの活性炭混抄紙を得た以外は実施例1と同様にして、消臭フィルターを得た。フィルターの開口率は67%であった。
【0048】
<実施例3>
次に、実施例1において、0.5重量%コバルトフタロシアニンポリスルホン酸ナトリウムと、20g/lの炭酸ナトリウムと、5g/lのポリアクリル酸銅水溶液に含浸させてpH12.0のフィルターを得た以外は実施例1と同様にして、消臭フィルターを得た。コバルトフタロシアニンポリスルホン酸ナトリウムの活性炭混抄紙への担持量は10mg/cmで、炭酸ナトリウムの活性炭混抄紙への担持量は45g/cm、ポリアクリル酸銅の活性炭混抄紙への担持量は11mg/cmであった。
【0049】
<実施例4>
次に、実施例1において、0.5重量%コバルトフタロシアニンポリスルホン酸ナトリウムと、10g/lの炭酸カリウムと、1.2g/lの硫酸銅水溶液に含浸させてpH10.0のフィルターを得た以外は実施例1と同様にして、消臭フィルターを得た。コバルトタロシアニンポリスルホン酸ナトリウムの活性炭混抄紙への担持量は10mg/cmで、炭酸カリウムの活性炭混抄紙への担持量は30g/cm、硫酸銅の活性炭混抄紙への担持量は3mg/cmであった。
【0050】
<実施例5>
次に、実施例1において、1.5重量%鉄フタロシアニンテトラカルボン酸と、5g/lの炭酸水素ナトリウムと、5g/lの硫酸銅水溶液に含浸させてpH8.5のフィルターを得た以外は実施例1と同様にして、消臭フィルターを得た。鉄フタロシアニンテトラカルボン酸の活性炭混抄紙への担持量は12mg/cmで、炭酸水素ナトリウムの活性炭混抄紙への担持量は10g/cm、硫酸銅の活性炭混抄紙への担持量は7mg/cmであった。
【0051】
<実施例6>
実施例1において、椰子殻活性炭63重量部と天然パルプ30重量部と二酸化マンガン7重量部を水100重量部に添加し、水スラリーを作成した以外は実施例1と同様にして、消臭フィルターを得た。コバルトフタロシアニンポリスルホン酸ナトリウムの活性炭混抄紙への担持量は10mg/cmで、炭酸カリウムの活性炭混抄紙への担持量は30g/cm、硫酸銅の活性炭混抄紙への担持量は7mg/cm、二酸化マンガンの活性炭混抄紙への担持量は0.06g/cmであった。
【0052】
<実施例7>
次に、実施例6において、二酸化マンガン14重量部とした以外は実施例6と同様にして、消臭フィルターを得た。コバルトフタロシアニンポリスルホン酸ナトリウムの活性炭混抄紙への担持量は10mg/cmで、炭酸カリウムの活性炭混抄紙への担持量は30g/cm、硫酸銅の活性炭混抄紙への担持量は7mg/cm、二酸化マンガンの活性炭混抄紙への担持量は0.12g/cmであった。
【0053】
<比較例1>
次に、実施例1において、コバルトフタロシアニンポリスルホン酸ナトリウムを坦持させないでフィルターとした以外は実施例1と同様にして、消臭フィルターを得た。
【0054】
<比較例2>
実施例1において、10g/lの炭酸カリウム水溶液に含侵させずにpH5.5の消臭フィルターを得た以外は実施例1と同様にして、消臭フィルターを得た。
【0055】
<比較例3>
実施例1において、2.5g/lの硫酸銅水溶液に含侵させずに消臭フィルターを得た以外は実施例1と同様にして、消臭フィルターを得た。
【0056】
<比較例4>
実施例1において、ヒートプレス機を用いてプレス加工を施し紙厚を0.4mmとした以外は実施例1と同様にして、消臭フィルターを得た。フィルターの開口率は49%であった。
【0057】
<比較例5>
実施例1において、椰子殻活性炭20重量部と天然パルプ30重量部を水100重量部に添加し、水スラリーを作成した以外は実施例1と同様にして、消臭フィルターを得た。
【0058】
<比較例6>
実施例1において、活性炭混抄紙へ活性炭を坦持しなかった以外は実施例1と同様にして、消臭フィルターを得た。
【0059】
【表1】

【0060】
表1から解るように、実施例1〜5の活性炭、金属フタロシアニン錯体、弱アルカリ性の金属塩、水溶性の銅化合物を担持させたフィルターは、3大臭気をワンパス(一回通し)で効率よく吸着分解し、消臭効果の持続するトイレ用消臭フィルターとして有効なものであり、実施例6と実施例7から解るように、実施例1にさらに二酸化マンガンを混抄して坦持させたトイレ用消臭フィルターは、硫化水素、メチルメルカプタンに対しさらに高い消臭性能を示した。これに対して、比較例1〜3、及び比較例6のように活性炭、金属フタロシアニン錯体、弱アルカリ性の金属塩、水溶性の銅化合物のうち一つでも欠くと、トイレ用消臭フィルターとして満足のいくものではなかった。さらに、フィルターの開口率が49%の比較例4から解るように圧力損失評価は「×」で満足いくものではなかった。また、活性炭混抄紙の密度が0.2g/cmの比較例5では活性炭を充分に坦持させることが困難となり、満足できる消臭性能を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の技術は、トイレ等のいやな臭を瞬間的に取り除く消臭フィルター材等として開発したが、温水便座に用いたり、介護施設等の空気清浄機等のフィルター材としても有効で広く利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭混抄紙に金属フタロシアニン錯体と、弱アルカリ性の金属塩と、水溶性の銅化合物を担持させ、JIS B9908規格で測定した圧力損失が、フィルターの通過風速が1.0m/秒の条件下で、フィルターの厚み1cm当たり15Pa以下であることに特徴のあるトイレ用消臭フィルター。
【請求項2】
前記トイレ用消臭フィルターにおいて、活性炭混抄紙の密度が0.3〜1.0g/cmの範囲であり、かつ活性炭を0.2〜0.7g/cm、金属フタロシアニン錯体を0.13〜13mg/cm担持させた請求項1に記載のトイレ用消臭フィルター。
【請求項3】
前記トイレ用消臭フィルターにおいて、活性炭混抄紙に、さらに二酸化マンガンを0.04〜0.14g/cm混抄させて坦持させたことに特徴のあるトイレ用消臭フィルター。
【請求項4】
前記トイレ用消臭フィルターはハニカム形状のフィルターであって、フィルターの開口率が65〜80%の範囲である請求項1〜3のいずれか1項に記載のトイレ用消臭フィルター。
【請求項5】
前記金属フタロシアニン錯体は、コバルトフタロシアニン錯体、鉄フタロシアニン錯体、マンガンフタロシアニン錯体から選ばれる1種または複数の金属フタロシアニン錯体であることに特徴のある請求項1〜4のいずれか1項に記載のトイレ用消臭フィルター。
【請求項6】
前記弱アルカリ性の金属塩は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムから選ばれる1種または複数のpH8.0〜12.0の弱アルカリ性の金属塩であることに特徴のある請求項1〜5のいずれか1項に記載のトイレ用消臭フィルター。
【請求項7】
前記弱アルカリ性の金属塩を2〜50g/cm活性炭混抄紙に担持させたことに特徴のある請求項1〜6のいずれか1項に記載のトイレ用消臭フィルター。
【請求項8】
前記水溶性の銅化合物は、硫酸銅、塩化銅、酢酸銅、ポリアクリル酸銅から選ばれる1種または複数の水溶性の銅化合物であることに特徴のある請求項1〜7のいずれか1項に記載のトイレ用消臭フィルター。
【請求項9】
前記水溶性の銅化合物を1〜10mg/cm活性炭混抄紙に担持させたことに特徴のある請求項1〜8のいずれか1項に記載のトイレ用消臭フィルター。

【公開番号】特開2012−192089(P2012−192089A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59421(P2011−59421)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(390014487)住江織物株式会社 (294)
【Fターム(参考)】