説明

トイレ装置

【課題】トイレまたは便器1における臭気を検知する臭気検知手段の検知精度を高めるのに有利なトイレ装置を提供する。
【解決手段】トイレ装置は、臭気に関する物理量を監視する臭気検知手段と、脱臭処理を行う脱臭手段5と、脱臭手段5を制御する制御手段とを備える。制御手段は、脱臭処理に関する基準物理量を格納する基準物理量格納手段と、臭気検知手段で監視したトイレまたは便器1の臭気に関する現在の物理量が、基準物理量格納手段に格納されている基準物理量に対して第1設定時間T1以内に第1所定値A1以上変化するとき、脱臭手段5による脱臭処理を促進させる脱臭処理手段と、トイレ不使用時において臭気検知手段で監視している物理量が経時的に変動するとき、変動した物理量を基準物理量として基準物理量格納手段に格納し、基準物理量を更新する基準物理量更新手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脱臭機能を有するトイレ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、便所内の臭気を検知する臭気センサと、臭気を含む空気を吸引して脱臭工程を行うファンと、臭気センサによって検知された臭気濃度によってファンを作動または停止させる制御部とを備える便所装置が開示されている(特許文献1)。排便時に発生する臭気の濃度を臭気センサによって検知し、この臭気の濃度が臨界値を超えると、ファンによって送風することにしている。このため、臭気の発生の程度に応じた臭気の除去放出が可能となる。また、臭気の強弱によってファンの作動時間が変化するので、ファンの無駄な作動が抑制される。
【特許文献1】特開平1−295932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した装置によれば、便所内の臭気を検知する臭気センサの検知精度は必ずしも充分ではなく、更なる改善が要望されている。
【0004】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、トイレまたは便器における臭気を検知する臭気検知手段の検知精度を高めるのに有利なトイレ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記した課題のもとにトイレ装置について長年にわたり開発を進めている。そして、臭気センサ等の臭気検知手段は、使用環境の温度、湿度、水蒸気、トイレ内に設置される芳香剤・洗剤等化学物質などの外乱の影響を受けることがあり、これが検知精度を高めるのに限界となることを知見し、この知見に基づいて本発明に係るトイレ装置を開発した。
【0006】
本発明に係るトイレ装置は、トイレまたは便器における臭気に関する物理量を検知する臭気検知手段と、トイレまたは便器に対して脱臭処理を行う脱臭手段と、脱臭手段を制御する制御手段とを具備するトイレ装置において、
制御手段は、脱臭処理に関する基準物理量を格納する基準物理量格納手段と、
臭気検知手段で監視したトイレまたは便器の臭気に関する現在の物理量が、基準物理量格納手段に格納されている基準物理量に対して第1設定時間T1以内に第1所定値A1以上臭気濃度が増加する方向に変化するとき、脱臭手段による脱臭処理を促進させる脱臭処理手段と、
トイレ不使用時において臭気検知手段で監視している物理量が経時的に変動するとき、変動した物理量を基準物理量として基準物理量格納手段に格納し、基準物理量を更新する基準物理量更新手段とを具備していることを特徴とするものである。
【0007】
トイレまたは便器の臭気に関する現在の物理量が、基準物理量格納手段に格納されている基準物理量に対して第1設定時間T1以内に第1所定値A1以上臭気濃度が増加する方向に変化するとき、臭気濃度の変化速度が高いため、臭気有りと考えられる。そこで、脱臭処理手段は、脱臭手段による脱臭処理を促進させる。脱臭処理を促進させるとは、脱臭処理を実行していなかった状態から脱臭処理を開始する形態、あるいは、脱臭処理の弱モードから、弱モードよりも脱臭能力が相対的に高い強モードにする形態を含む。
【0008】
トイレ不使用時において臭気検知手段で監視している物理量が、温度、湿度、水蒸気等、トイレ内に設置される芳香剤・洗剤等化学物質等の外乱の影響を受けて経時的に変動するときには、基準物理量更新手段は、変動した物理量を基準物理量として基準物理量格納手段に格納し、基準物理量を更新する。このようにトイレ不使用時において臭気検知手段で監視している物理量が経時的に変動するときであっても、脱臭処理の基準となり得る基準物理量を更新するため、上記外乱の影響が軽減または回避される。便器は排泄物を受ける容器の意味であり、陶器製、樹脂製を問わず、ポータブルトイレでも良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るトイレ装置によれば、臭気検知手段に対する温度、湿度、水蒸気、トイレ内に設置される芳香剤・洗剤等化学物質などの等の外乱の影響を抑制できるため、トイレまたは便器における臭気を検知する臭気検知手段の検知精度を高めるのに有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
臭気検知手段は、トイレまたは便器における臭気に関する物理量を監視するものであり、臭気センサを例示できる。臭気センサとしては、臭気の要因となる成分が吸着すると、電気抵抗等の電気的特性が変化するものを例示できる。脱臭手段は、トイレまたは便器に対して脱臭処理を行うものであり、トイレ内または便器内の臭気をトイレ外に排出する方式、トイレ内または便器内の空気を脱臭材に透過させて吸着させる方式、芳香剤をトイレ内または便器内に供給する方式を例示できる。
【0011】
また、電源投入後において臭気検知手段の検出精度が安定しないことがある。そこで好ましい形態によれば、臭気検知手段は、電源投入後に第2設定時間T2経過したときに、トイレまたは便器における臭気に関する物理量の検出を開始する。
【0012】
脱臭処理を促進させた後において、脱臭処理を終了すべく、脱臭終了を判定する必要がある。そこで好ましい形態によれば、制御手段は、脱臭手段による脱臭処理を促進させた後において脱臭終了を判定する脱臭終了判定手段を具備していることが好ましい。脱臭終了判定手段は、臭気検知手段が監視するトイレまたは便器における臭気に関する現在の物理量が、脱臭処理を促進させる前の基準物理量に対して第3所定値A3以上離間しているとき、臭気成分が存在しており、脱臭終了と判定せず、脱臭手段による脱臭処理の促進を継続させることができ、且つ、脱臭処理を促進させる前の基準物理量に対して第3所定値A3未満よりも下方となり、且つ、第3所定値A3よりも下方において第3設定時間T3以上安定しているとき、臭気成分が減っているので、脱臭終了と判定し、脱臭手段による脱臭処理を元に戻す。
【0013】
臭気検知手段で監視している物理量が、温度、湿度、水蒸気、トイレ内に設置される芳香剤・洗剤等化学物質等の外乱の影響を受けて、経時的に変化することがある。この場合、臭気検知手段による検出精度が低下する。そこで好ましい形態によれば、基準物理量更新手段は、臭気検知手段で監視している経時的に変化する物理量の変動量が第4設定時間T4に対して第4所定値A4未満のとき更新しない。なお第3所定値A3、第4所定値A4、第5所定値A5、第6所定値A6は、一般的には、第1所定値A1よりも小さい(A4<A1)。
【0014】
前記したように臭気検知手段で監視している物理量が、温度、湿度、水蒸気等の外乱の影響を受けて、経時的に変化することがある。この場合、臭気検知手段による検出精度が低下する。そこで好ましい形態によれば、基準物理量更新手段は、臭気検知手段で監視している物理量が増加方向に第5所定値A5以上変動し、その後、物理量が第5設定時間T5以上安定するとき、その物理量を基準物理量として基準物理量格納手段に格納して基準物理量を更新し、且つ、臭気検知手段で監視している物理量が減少方向に第6所定値A6以上変動し、その後、物理量が第6設定時間T6以上安定するとき、その物理量を基準物理量として基準物理量格納手段に格納して基準物理量を更新する。ここで、第5設定時間T5としては第6設定時間T6よりも長く設定することができる(T5>T6)。なお第5所定値A5は、例えば、第4所定値A4と同じ値または近似した値とすることができる。第6所定値A6は、例えば、第4所定値A4と同じ値または近似した値とすることができる。なお第2所定値A5及び第6所定値A6は同じ値でも異なる値でも良い。
【0015】
脱臭処理が終了したとき、基準物理量更新手段は、臭気検知手段で監視している物理量が脱臭処理の直前の基準物理量よりも増加しているものの、第7設定時間T7以上安定したとき、その安定した物理量を基準物理量として基準物理量格納手段に格納して基準物理量を更新する形態を採用することができる。
【0016】
脱臭処理が終了したとき、臭気検知手段で監視している物理量が次第に安定する。そこで好ましい形態によれば、脱臭処理が終了したとき、基準物理量更新手段は、臭気検知手段で監視している物理量が、脱臭処理の直前の基準物理量よりも減少し、且つ、第8設定時間T8安定したとき、その安定した物理量を基準物理量として基準物理量格納手段に格納して基準物理量を更新する。
【0017】
臭気検知手段は長い間使用されると、経時的に劣化し、出力電圧が変動するおそれがある。このため制御手段は、臭気検知手段を回復させる回復処理を定期的にまたは不定期的に行うことが好ましい。回復処理は、排便による臭気が不存在である状態で、空気を強制的に臭気検知手段に供給する形態を例示することができる。
【0018】
なお、第1設定時間T1、第1所定値A1等の各設定時間、各所定値におけるT1、A1等は各設定時間、各所定値を区別するためのものである。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の一実施例について図面を参照して説明する。本実施例に係るトイレ装置は便器1に搭載される人体局部洗浄装置2に適用されている。人体局部洗浄装置2は、便器1の後部に搭載される基部20と、基部20に上下回動可能に設けられた便座22と、基部20に上下回動可能に設けられた便蓋24と、基部20に設けられたお尻洗浄用のノズル30と、基部20に設けられたビデ洗浄用のノズル32とを備えている。更に、図2に示すように、人体局部洗浄装置2は、基部20内に配置され便器1における臭気に関する物理量を検知して監視する臭気検知手段としての臭気センサ4と、基部20内に配置されトイレまたは便器1に対して脱臭処理を行う脱臭手段5とを備えている。
【0020】
図2に示すように、脱臭手段5は、空気が通る複数の通路50aを有するハニカム構造体で形成された脱臭機能を有する脱臭材50と、トイレまたは便器1の空気を脱臭材50に供給する空気搬送装置としてのファン52とを備えている。人がトイレに入室すると同時に、制御装置6はこれを検知してファン52をオンしてファン52を所定の回転数N1で回転させ、弱モードで脱臭する。この場合、ファン52の回転により便器1内の空気を脱臭材50に供給し、臭気成分を脱臭材50に吸着させる。基部20内には、脱臭手段5を制御する制御手段としての制御装置6が配置されている。図3に示すように制御装置6は、臭気センサ4の出力電圧に関する信号をA/D変換器4aを介して入力する入力処理回路60と、マイコン61と、基準物理量格納手段として機能するメモリ62と、ファン52を駆動回路52aを介して制御する出力処理回路63とを有する。
【0021】
図4は脱臭処理を行う場合のグラフを示す。図4の縦軸は臭気センサ4の出力電圧を示し、横軸は時間を示す。排便時には臭気濃度が増加していくため、臭気センサ4の現在の出力電圧Vが次第に増加していく。ここで、メモリ62のエリアに格納されている基準物理量ACに対して、臭気センサ4の現在の出力電圧Vが第1設定時間T1(例えば15秒)以内において第1所定値A1(例えば1.5ボルト)以上上昇しているとき(図4参照)、制御装置6は臭気有りと判定する。そして、制御装置6はファン52の回転数N1からN2(N1<N2)に増加させる。これにより、脱臭材50に供給する単位時間当たりの空気量を増加させて強モードの脱臭を行い、脱臭処理を促進させ、トイレ内または便器1内の臭気を除去する。
【0022】
これに対して、メモリ62に格納されている基準物理量ACに対して臭気センサ4の出力電圧Vが第1設定時間T1(例えば15秒)において第1所定値A1(例えば1.5ボルト)以上、上昇しないときには、臭気濃度の増加速度が小さいため、制御装置6は臭気なしと判定し、ファン52の回転数を増加せず、ファン52の回転数N1を維持する。この場合、ファン52は回転数N1で回転しているため、弱モードの脱臭は行われる。
【0023】
上記したように脱臭処理を促進させたときには、図4に示すように、臭気濃度が次第に低下するため、臭気センサ4の現在の出力電圧Vが次第に低下する。臭気センサ4の現在の出力電圧Vが、脱臭処理を行う前の基準物理量ACよりも高いものの、基準物理量ACに対して、基準物理量ACよりも高い方向に第3所定値A3(例えば0.5ボルト)以内の領域、あるいは、基準物理量AC以下の領域に到達したときには、その後、臭気センサ4の現在の出力電圧Vが第3設定時間T3(例えば0.5秒)以上安定するという条件が満足されたとき、制御装置6は脱臭終了と判定する。脱臭終了であれば、制御装置6はファン52の回転数をN2から元の回転数N1に戻す。これにより脱臭処理の促進を中止するが、ファン52は回転数N1で回転しているため、弱モードの脱臭は行われる。
【0024】
なお、脱臭処理後において臭気センサ4の出力電圧が基準物理量AC(脱臭処理開始前の臭気センサ4の出力電圧)に戻っていないものの、基準物理量ACに対して、基準物理量ACよりも高い方向に第3所定値A3(例えば0.5ボルト)以内の領域に到達したとき脱臭終了と判定するのは、臭気が発生した直後では人は臭気を感じる臭気感度が敏感であるが、時間経過につれて人の感度が低下すること等を考慮しているものである。
【0025】
なお、臭気濃度が次第に低下しているものの、臭気センサ4の現在の出力電圧Vが、脱臭処理を促進させる前の基準物理量ACに対して第3所定値A3以上上昇しているときには、臭気がまだ残留しているため、制御装置6は脱臭終了と判定せず、ファン52の回転数N2に維持し、強モードの脱臭を行い、脱臭手段5による脱臭処理の促進を継続させる。
【0026】
次に、メモリ62のエリアに格納されている基準物理量ACの更新について説明を加える。トイレの不使用時において排便時の臭気が特にないときには、本来的には、臭気センサ4の出力電圧Vが変動しないことが望ましい。しかしながら、上記外乱の影響を受けて、臭気センサ4の出力電圧Vが経時的に上昇したり、低下したりすることがある。例えば、外乱の影響を受けて、臭気センサ4の出力電圧Vが上昇したときには、排便時の臭気発生前の臭気センサ4の出力電圧Vと、排便時の臭気発生後の臭気センサ4の出力電圧Vとの差が小さくなり、高い検知精度が得られにくく、脱臭処理の開始タイミングが適切でなくなるおそれがある。
【0027】
図5は電源投入時から臭気センサ4の出力電圧の変動を表すグラフを示す。図5の縦軸は出力電圧を示し、横軸は時間を示す。図5において領域100aでは脱臭処理は行われていないが、領域100bでは脱臭処理は行われている。電源投入時から第2設定時間T2(例えば5秒)内においては、臭気センサ4の出力電圧が安定しないため、臭気に関する物理量(臭気センサ4の出力電圧)の検出を行わない。第2設定時間T2が経過した後、臭気に関する物理量(即ち、臭気センサ4の出力電圧)の検出を開始する。この場合、臭気センサ4の現在の出力電圧を一定時間TB(例えば0.1秒)間隔ごとに決定する。具体的には、臭気センサ4の出力電圧をN個(例えば10個)サンプリングする。そして複数のサンプリング値の最小値及び最大値を除いた残りの数の平均値をとる。これをその時刻における臭気センサ4の現在の出力電圧Vとする。
【0028】
まず、臭気センサ4の現在の出力電圧Vの初期値(第2設定時間T2経過後の出力電圧)が基準物理量ACとしてメモリ62のエリアに格納される。そして、臭気センサ4による臭気の監視を継続する。メモリ62に格納されている基準物理量ACに対して、臭気センサ4の現在の出力電圧Vが第1設定時間T1(例えば15秒)以内において第1所定値A1(例えば1.5ボルト)以上、上昇しているとき、臭気濃度の上昇速度が速いため、制御装置6は臭気有りと判定する。この場合、前述したように、制御装置6はファン52の回転数N1からN2(N1<N2)に増加させ、脱臭材50に供給する単位時間当たりの空気量を増加させて強モードの脱臭を行い、脱臭処理を促進させ、トイレ内または便器1内の臭気を除去する。
【0029】
これに対して、メモリ62に格納されている基準物理量ACに対して臭気センサ4の出力電圧Vが、第1設定時間T1(例えば15秒)において第1所定値A1(例えば1.5ボルト)以上上昇しないときには、臭気濃度の上昇速度が低いため、制御装置6は臭気なしと判定し、ファン52の回転数を増加せず、ファン52の回転数N1を維持する。この場合、ファン52は回転数N1で回転しているため、弱モードの脱臭は行われる。
【0030】
なお、トイレの不使用時において、臭気センサ4の出力電圧Vの変動量が、メモリ62のエリアに格納されている基準物理量ACに対して、第4設定時間T4で第4所定値A4(例えばプラス0.1ボルト)未満であるとき、変動幅が少ないため、制御装置6の基準物理量更新手段はこれを無視し、基準物理量ACを更新しない。
【0031】
臭気センサ4の出力電圧Vが、温度、湿度、水蒸気、トイレ内に設置される芳香剤・洗剤等化学物質等の外乱の影響を受けて、メモリ62のエリアに格納されている基準物理量ACに対して第5所定値A5(例えばプラス0.1ボルト)以上上昇するときには、その後、出力電圧Vが第5設定時間T5(例えば15秒)以上安定するという条件が満たされたとき、制御装置6の基準物理量更新手段は、その安定した出力電圧V(第5設定時間T5経過後の出力電圧)を、新しい基準物理量としてメモリ62のエリアに格納する。これによりメモリ62に格納されている基準物理量を更新する。本実施例では、出力電圧が安定するとは、各条件判定ごとに設定されている設定時間において、メモリ62のエリアに格納されている基準物理量ACに対してプラスマイナス0.1ボルト(これに限定されるものではないが、プラスマイナス0.3ボルト以内の微小電圧値とすることが好ましい)以内の変動量(微小物理量)に納まることを意味する。
【0032】
また、臭気センサ4の出力電圧Vが外乱の影響を受けて基準物理量ACに対して第6所定値A6(例えばプラス0.1ボルト)以上低下したときには、その後、出力電圧Vが第6設定時間T6(例えば0.5秒)以上安定するという条件が満たされたとき、制御装置6の基準物理量更新手段は、その安定した出力電圧Vを新しい基準物理量としてメモリ62のエリアに格納する。これによりメモリ62の基準物理量を更新する。
【0033】
臭気センサ4の性質上、臭気センサ4の出力電圧Vが増加するときには、一般的には、出力電圧Vが減少するときに比較して、出力電圧Vの変化速度が速いものである。このように臭気センサ4の出力電圧Vの変化速度が速いときには、基準物理量ACを更新する目安となる設定時間が短いと、メモリ62に格納される基準物理量ACが過剰の頻度で更新されるおそれがある。このため臭気センサ4の出力電圧Vが増加するときには、更新頻度の過剰化を防止すべく、出力電圧Vが安定したか否かの判定の際に、第5設定時間T5を第6設定時間T6よりも相対的に長くすることが好ましい。このため第5設定時間T5を第6設定時間T6よりも長く設定している(T5>T6)。
【0034】
ところで、排便により臭気が発生したときには、臭気濃度が高くなるため、臭気センサ4の出力電圧Vが増加するが、脱臭処理が行われたときには、その後、臭気センサ4の出力電圧Vが次第に低下することになる。この場合、脱臭処理が終了したときには、図5の特性線W1に示すように、臭気センサ4の出力電圧Vが脱臭処理直前の基準物理量ACよりも増加している場合がある。このように臭気センサ4の出力電圧Vが脱臭処理直前の基準物理量ACよりも増加している場合、第7設定時間T7(例えば15秒)以上安定したとき、制御装置6の基準物理量更新手段は、その安定した物理量(第7設定時間T7経過後の出力電圧)を基準物理量としてメモリ62のエリアに格納して基準物理量を更新する。
【0035】
また、脱臭処理が終了したときには、図5の特性線W2に示すように臭気センサ4の出力電圧Vが次第に安定する。そこで脱臭処理が終了したとき、特性線W2に示すように、臭気センサ4の出力電圧Vが脱臭処理直前の基準物理量ACよりも低下することがある。このように臭気センサ4の出力電圧Vが脱臭処理直前の基準物理量ACよりも低下するときには、出力電圧Vが第8設定時間T8(例えば0.5秒)安定したとき、制御装置6の基準物理量更新手段は、その安定した出力電圧V(第8設定時間T8経過後の出力電圧)を基準物理量としてメモリ62のエリアに格納して基準物理量を更新する。
【0036】
ここで、第7設定時間T7が第8設定時間T8よりも長く設定されるのは(T8<T7)、次の事情(1)(2)を考慮しているためである。
(1)脱臭処理が終了の際に、臭気センサ4の出力電圧Vが脱臭処理直前の基準物理量AC(脱臭処理開始前の臭気センサ4の出力電圧)よりも低下しているときには、臭気が充分に除去されて臭気濃度が低いと考えられる。このため、メモリ62のエリアに格納されている基準物理量ACの更新を早期に行うことが好ましい。そこで、第8設定時間T8を第7設定時間T7よりも相対的に短くすることが好ましい。
(2)脱臭処理が終了しているものの、臭気センサ4の出力電圧Vが脱臭処理直前の基準物理量ACよりも増加しているとき、臭気が僅かに残留しているおそれがある。このため、第8設定時間T8を第7設定時間T7よりも長く設定し、臭気センサ4の出力電圧Vが長時間にわたり安定していることを確実に検知することが好ましい。
【0037】
さて、制御装置6のマイコン61が実行するフローチャートの一例について図6〜図10を参照して説明する。但し、フローチャートはこれに限定されるものではない。図6に示すように、まず、レジスタ及び脱臭フラグ等を初期設定する(ステップS1)。初期設定では脱臭フラグが0とされる。脱臭フラグが0であることは、脱臭処理が行われていないことを意味する。脱臭フラグが1であることは、脱臭処理が行われていることを意味する。次に、内部タイマをスタートさせる(ステップS2)。次に、第2設定時間T2待機する(ステップS3)。次に、第2設定時間T2経過すると、臭気センサ4の出力電圧Vが安定するため、読込処理を行う(ステップS4)。脱臭フラグが1であるか確認し(ステップS5)、脱臭フラグが1であれば、脱臭処理を行う(ステップS6)。脱臭フラグが0であれば、基準物理量ACを更新する更新処理を行う(ステップS7)。初回では脱臭フラグが0であるため、基準物理量ACを更新する更新処理を行う。
【0038】
次に、臭気センサ4の回復処理を行う(ステップS9)。その他の処理(ステップS10)を行い、タイマ終了か判定し(ステップS11)、タイマ終了であれば、ステップS4に戻る。ステップS11はメインルーチンの1ルーチンの時間を規定するためのものである。
【0039】
図7は読込処理のフローチャートの一例を示す。図7に示すように、臭気センサ4の出力電圧を読み込む読込時間がきたか否か判定する(ステップS402)。読込時間がきたならば、臭気センサ4の出力電圧のサンプリングを行い(ステップS404)、平均値を求め(ステップS406)、この平均値を臭気センサ4の現在の出力電圧とし(ステップS408)、メインルーチンにリターンする。
【0040】
図8は基準物理量更新手段として機能する更新処理のフローチャートの一例を示す。図8に示すように、メモリ62のエリアに格納されている基準物理量ACと、臭気センサ4の現在の出力電圧Vとを比較する(ステップS702)。基準物理量ACと臭気センサ4の現在の出力電圧Vとの差が小さく、つまり、プラスマイナス0.1ボルト未満であるときには、基準物理量を更新しないため、メインルーチンにリターンする。基準物理量ACと臭気センサ4の現在の出力電圧Vとの差が大きく、つまり、プラスマイナス0.1ボルト以上であるときには、出力電圧Vが増加傾向であるか(ステップS704)、出力電圧Vが減少傾向であるか(ステップS710)を判定する。出力電圧Vが増加傾向であるときには、出力電圧Vが安定しているか否か判定する(ステップS706)。出力電圧Vが安定していれば、安定した出力電圧Vをメモリ62のエリアに格納し、基準物理量ACを更新し(ステップS708)、メインルーチンにリターンする。前述したように出力電圧Vが増加傾向であるときには、メモリ62のエリアに格納されている基準物理量ACに対して、出力電圧Vが第5設定時間T5(例えば15秒)以上安定するという条件が満たされたとき、安定したと判定される。
【0041】
また出力電圧Vが減少傾向であるときには、出力電圧Vが安定しているか否か判定する(ステップS712)。出力電圧Vが安定していれば、安定した出力電圧Vをメモリ62のエリアに格納し、基準物理量ACを更新する(ステップS708)。前述したように出力電圧Vが減少傾向であるときには、メモリ62のエリアに格納されている基準物理量ACに対して、出力電圧Vが第6設定時間T6(例えば0.5秒)以上安定するという条件が満たされたとき、安定したと判定される。
【0042】
図9は脱臭処理手段として機能できる脱臭処理のフローチャートの一例を示す。図9に示すように、メモリ62に格納されている基準物理量ACと、臭気センサ4の現在の出力電圧Vとを比較する(ステップS602)。そして臭気センサ4の現在の出力電圧Vが、第1設定時間T1(例えば15秒)以内において、メモリ62に格納されている基準物理量ACに対して第1所定値A1(例えば1.5ボルト)以上、上昇しているとき、制御装置6は臭気有りと判定し、脱臭フラグを1に設定する(ステップS604)。そして、制御装置6はファン52の回転数N1からN2(N2>N1)に増加させて(ステップS606)、脱臭材50に供給する単位時間当たりの空気量を増加させ、脱臭処理を促進させ、トイレ内または便器1内の臭気を除去する。
【0043】
上記したように脱臭処理を促進させたときには、臭気が次第に低下するため、臭気センサ4の現在の出力電圧Vが次第に低下する。臭気センサ4の現在の出力電圧Vを読み込む(ステップS608)。そして、臭気センサ4の現在の出力電圧Vと脱臭処理直前の基準物理量ACとを比較し、脱臭終了であるか否か判定する(ステップS610)。脱臭終了であれば、ファン52の回転数をN1に戻すと共に脱臭フラグを0に設定し(ステップS612)、メインルーチンにリターンする。脱臭未終了であれば、ステップS606に戻り、ファン52の回転数をN2に維持する。
【0044】
これに対して、ステップS602において、メモリ62に格納されている基準物理量ACに対して臭気センサ4の出力電圧Vが第1設定時間T1(例えば15秒)において第1所定値A1(例えば1.5ボルト)以上、上昇しないときには、制御装置6は臭気なしと判定し、ファン52の回転数をN1に維持すると共に脱臭フラグを0に設定し、メインルーチンにリターンする(ステップS612)。
【0045】
ところで臭気センサ4は長い間使用すると、臭気センサ4の出力電圧が変動するおそれがある。殊に、臭気が存在しないときであっても、臭気センサ4の出力電圧が増加すると、臭気が存在するときにおける臭気センサ4の出力電圧値と、臭気が存在しないときにおける臭気センサ4の出力電圧値との差が小さくなるおそれがある。この場合、臭気を検知する際における高い検知精度が得られないおそれがある。そこで、臭気センサ4を回復させる回復処理を定期的にまたは不定期的に行うことが好ましい。図10は臭気センサ回復処理のフローチャートの一例を示す。図10に示すように、脱臭フラグが1であり、脱臭処理が行われているときには、臭気センサ回復処理を行わず(ステップS902)、メインルーチンにリターンする。脱臭フラグが0であり、脱臭処理が行われていないときには、回復時間が到達したか否か判定する(ステップS904)。回復時間は、臭気センサ4の種類、使用環境等に応じて適宜設定されている。回復時間が到達していなければ、メインルーチンにリターンする。回復時間が到達していれば、ファン52の回転数を強々モードのN3(N3>N2>N1)に設定し、臭気なしの状態でファン52を回転数N3で所定時間回転させる(ステップS906、S908)。これにより臭気がない清浄な空気が臭気センサ4に多量に供給されるので、臭気センサ4が清浄化され、臭気が存在しない環境下における臭気センサ4の出力電圧つまり基準物理量を低下させることができる。
【0046】
(他の例)
上記した実施例において、各設定時間及び各所定値は上記した値に限定されるものではなく、適宜設定できるものである。即ち、上記した実施例において、第1設定時間T1は例えば15秒とされているが、これに限定されるものではない。第1所定値A1は例えば1.5ボルトとされているが、これに限定されるものではない。また第3所定値A3は例えば0.5ボルトとされているが、これに限定されるものではない。第3設定時間T3は0.5秒とされているが、これに限定されるものではない。
【0047】
また上記した実施例によれば、人がトイレに入室すると同時にファン52を回転させ、臭気が存在すると判定されると、ファン52の回転数を増速させて脱臭処理を促進させることにしているが、これに限らず、人がトイレに入室したときファン52は停止しており、臭気が存在すると判定されると、ファン52を始動させて脱臭処理を開始することにしても良い。上記した実施例によれば、便器1に取り付けられる人体の局部を洗浄する機能を有する人体局部洗浄装置2に適用されているが、これに限らず、局部洗浄機能を有しないものの便座22を有する便座22装置に適用することにしても良い。更に、トイレ室内に設置されるトイレ脱臭装置に適用することにしても良い。更にまた、トイレ室の壁体に組み込むことにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は人体局部洗浄装置、便座装置、トイレ脱臭装置、ポータブルトイレ等のトイレ装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】人体局部洗浄装置を搭載する便器の斜視図である。
【図2】人体局部洗浄装置に装備されている脱臭手段を示す概念図である。
【図3】制御装置のブロック図である。
【図4】脱臭処理を行うときにおける臭気センサの出力電圧と時間との関係を示すグラフである。
【図5】臭気センサの出力電圧と時間との関係を示すグラフである。
【図6】メインルーチンのフローチャートである。
【図7】読込処理を示すフローチャートである。
【図8】更新処理を示すフローチャートである。
【図9】脱臭処理を示すフローチャートである。
【図10】臭気センサの回復処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0050】
図中、1は便器、2は人体局部洗浄装置、20は基部、22は便座、24は便蓋、30及び32はノズル、4は臭気センサ(臭気検知手段)、5は脱臭手段、52はファン(空気搬送装置)、6は制御装置(制御手段)、61はマイコン、62はメモリ(基準物理量格納手段)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トイレまたは便器における臭気に関する物理量を検知する臭気検知手段と、
トイレまたは便器に対して脱臭処理を行う脱臭手段と、
前記脱臭手段を制御する制御手段とを具備するトイレ装置において、
前記制御手段は、
前記脱臭処理に関する基準物理量を格納する基準物理量格納手段と、
前記臭気検知手段で監視したトイレまたは便器の臭気に関する現在の物理量が、前記基準物理量格納手段に格納されている基準物理量に対して第1設定時間T1以内に第1所定値A1以上臭気濃度が増加する方向に変化するとき、前記脱臭手段による脱臭処理を促進させる脱臭処理手段と、
トイレ不使用時において前記臭気検知手段で監視している物理量が経時的に変動するとき、変動した物理量を基準物理量として前記基準物理量格納手段に格納し、基準物理量を更新する基準物理量更新手段とを具備していることを特徴とするトイレ装置。
【請求項2】
請求項1において、前記臭気検知手段は、電源投入後に第2設定時間T2経過したときに、トイレまたは便器における臭気に関する物理量の検出を開始することを特徴とするトイレ装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記制御手段は、前記脱臭手段による前記脱臭処理を促進させた後において脱臭終了を判定する脱臭終了判定手段を具備しており、
前記脱臭終了判定手段は、
前記臭気検知手段が監視するトイレまたは便器における臭気に関する現在の物理量が、前記脱臭処理を促進させる前の基準物理量に対して第3所定値A3以上離間しているとき、脱臭終了と判定せず、前記脱臭手段による脱臭処理の促進を継続させ、且つ、前記脱臭処理を促進させる前の基準物理量に対して第3所定値A3よりも下方となり、且つ、第3所定値A3よりも下方において第3設定時間T3以上安定しているとき、脱臭終了と判定し、前記脱臭手段による前記脱臭処理の促進を中止することを特徴とするトイレ装置。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか一項において、前記基準物理量更新手段は、前記臭気検知手段で監視している物理量が増加方向に第5所定値A5以上変動し、その後、物理量が第5設定時間T5以上安定するとき、その物理量を基準物理量として前記基準物理量格納手段に格納して基準物理量を更新し、且つ、
前記臭気検知手段で監視している物理量が減少方向に第6所定値A6以上変動し、その後、物理量が第6設定時間T6以上安定するとき、その物理量を基準物理量として前記基準物理量格納手段に格納して基準物理量を更新することを特徴とするトイレ装置。
【請求項5】
請求項4において、第5設定時間T5は第6設定時間T6よりも長く設定されている(T5>T6)ことを特徴とするトイレ装置。
【請求項6】
請求項1〜3のうちのいずれか一項において、前記基準物理量更新手段は、臭気検知手段で監視している経時的に変化する物理量の変動量が第4設定時間T4に対して第4所定値A4未満のとき更新しないことを特徴とするトイレ装置。
【請求項7】
請求項1〜6のうちのいずれか一項において、前記脱臭処理が終了したとき、前記基準物理量更新手段は、前記臭気検知手段で監視している物理量が、脱臭処理の直前の基準物理量よりも増加しており、且つ、第7設定時間T7以上安定したとき、その安定した物理量を基準物理量として前記基準物理量格納手段に格納して基準物理量を更新することを特徴とするトイレ装置。
【請求項8】
請求項1〜7のうちのいずれか一項において、脱臭処理が終了したとき、前記基準物理量更新手段は、前記臭気検知手段で監視している物理量が、脱臭処理の直前の基準物理量よりも減少し、且つ、第8設定時間T8安定したとき、その安定した物理量を基準物理量として前記基準物理量格納手段に格納して基準物理量を更新することを特徴とするトイレ装置。
【請求項9】
請求項8において、第7設定時間T7は第8設定時間T8よりも長く設定されていることを特徴とするトイレ装置。
【請求項10】
請求項1〜9のうちのいずれか一項において、前記制御手段は、前記臭気検知手段を回復させる回復処理を定期的にまたは不定期的に行うことを特徴とするトイレ装置。
【請求項11】
請求項1〜10のうちのいずれか一項において、前記脱臭手段は、脱臭材と、臭気を含む空気を前記脱臭材に供給する空気搬送装置とを備えていることを特徴とするトイレ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−138177(P2006−138177A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−330893(P2004−330893)
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】