説明

トイレ装置

【課題】油分に起因する菌の繁殖や汚物の固着を抑制し、便器のボウル面の清潔性を維持することができるトイレ装置を提供することを目的とする。
【解決手段】親水性を有し汚物を受けるボウルが形成された便器と、前記ボウルの表面に水および次亜塩素酸水の少なくともいずれかを噴出する噴出部と、前記便器の使用状態を検知する検知部と、前記検知部の検知結果に基づいて前記便器の使用前および使用後に前記噴出部を制御し、前記使用前において前記噴出部から前記水および次亜塩素酸水の少なくともいずれかを噴出し、前記使用後において前記噴出部から前記次亜塩素酸水を噴出する制御を実行する制御部と、を備えたことを特徴とするトイレ装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、一般的に、トイレ装置に関し、具体的には便器を殺菌あるいは洗浄可能なトイレ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
汚物が便器のボウル面に当たると、便の成分の1つの脂肪酸がボウル面に付着する。一般的な便器洗浄が実行されると、便の固形成分は流れる一方で、便に含まれる脂肪酸などの油分はボウル面に残存する場合がある。そうすると、油分の皮膜がボウル面に形成される。油分は菌の栄養分となるため、油分がボウル面に残存すると菌が繁殖するおそれがある。菌が繁殖すると、例えばバイオフィルムなどと呼ばれるバクテリアおよびその分泌物の集まりが形成される。バイオフィルムが形成されると、ボウル面がくすんでくる。
【0003】
また、バイオフィルムが形成されたボウル面に汚物が当たると、便がボウル面に固着する場合がある。そうすると、一般的な便器洗浄では便の固形成分をボウル面から剥離させることが困難となる。そのため、ボウル面に汚物が残存する場合がある。
【0004】
これに対して、次亜塩素酸を吐出するノズル機構を有する大便器および便座装置がある(特許文献1)。しかしながら、使用者が便器を使用した後に特許文献1に記載されたノズル機構が次亜塩素酸を吐出する場合には、次亜塩素酸の吐出量は比較的多くなる。そのため、次亜塩素酸を生成する電解槽の寿命は比較的短くなる。この点においては、改善の余地がある。
【0005】
また、吐出水の吐出温度や洗剤混入量を使用者が制御できる吐出水性状制御手段と、便器洗浄用ノズルにより自動的に便器内をプレ洗浄させる自動プレ洗浄制御手段と、を備えた局部洗浄装置がある(特許文献2)。特許文献2に記載された局部洗浄装置では、視認可能な汚物の付着汚れに対しては、所定の効果が期待できる。しかしながら、便に含まれる脂肪酸などの油分はボウル面に残存するおそれがある。この点においては、改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−144846号公報
【特許文献2】特開2000−248601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、油分に起因する菌の繁殖や汚物の固着を抑制し、便器のボウル面の清潔性を維持することができるトイレ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、親水性を有し汚物を受けるボウルが形成された便器と、前記ボウルの表面に水および次亜塩素酸水の少なくともいずれかを噴出する噴出部と、前記便器の使用状態を検知する検知部と、前記検知部の検知結果に基づいて前記便器の使用前および使用後に前記噴出部を制御し、前記使用前において前記噴出部から前記水および次亜塩素酸水の少なくともいずれかを噴出し、前記使用後において前記噴出部から前記次亜塩素酸水を噴出する制御を実行する制御部と、を備えたことを特徴とするトイレ装置である。
【0009】
このトイレ装置によれば、便器のボウルは、親水性を有する。制御部は、便器の使用状態を検知する検知部の検知結果に基づいて、便器の使用前に噴出部から水および次亜塩素酸水の少なくともいずれかを噴出する制御を実行する。これにより、便器の使用前においてボウルの表面に水膜が形成される。そのため、汚物がボウルの表面に付着あるいは固着することを抑えることができる。
【0010】
また、制御部は、便器の使用状態を検知する検知部の検知結果に基づいて、便器の使用後に噴出部から次亜塩素酸水を噴出する制御を実行する。ボウルは親水性を有するため、次亜塩素酸水は、ボウルの表面に付着した汚物の油分を取り囲むように存在することができる。これにより、ボウルの表面に付着した汚物の油分を効率よく分解することができ、ボウルの表面に残存する汚物を抑制することができる。また、汚物の油分がボウルの表面に残存し、油分の被膜がボウルの表面に形成されることを抑制することができる。そのため、汚物の油分に起因する菌の繁殖や汚物の固着を抑制し、ボウルの表面の清潔性を維持することができる。
【0011】
また、第2の発明は、第1の発明において、前記噴出部は、前記水および次亜塩素酸水を霧状に噴霧するノズルであることを特徴とするトイレ装置である。
【0012】
このトイレ装置によれば、噴霧部は、水および次亜塩素酸水を霧状に噴霧する。そのため、噴霧部から噴霧された水および次亜塩素酸水は、ボウルの表面のより広い範囲に万遍なく付着する。これにより、汚物がボウルの表面に付着あるいは固着することをより効率的に抑えることができる。また、噴霧部から噴霧された殺菌水は、ボウルの表面に残存した汚物の周囲に位置することができる。そのため、ボウルの表面に付着した汚物の油分をより効率よく分解することができる。
【0013】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、前記ボウルの表面におけるオレイン酸の水中接触角は、90度以上であることを特徴とするトイレ装置である。
【0014】
このトイレ装置によれば、ボウルの表面におけるオレイン酸の水中接触角は、90度以上である。そのため、水および次亜塩素酸水は、汚物の油分を取り囲むように存在することができる。そのため、汚物の油分は、ボウルの表面から剥離しやすい。あるいは、汚物の油分は、次亜塩素酸により分解されやすい。これにより、ボウルの表面の栄養残存率を抑えことができる。また、汚物の油分に起因する菌の繁殖や汚物の固着を抑制し、ボウルの表面の清潔性を維持することができる。
【0015】
また、第4の発明は、第1〜第3のいずれか1つの発明において、前記ボウルの表面の算術平均粗さRaは、0.07μm以下であることを特徴とするトイレ装置である。
【0016】
このトイレ装置によれば、ボウルの表面の算術平均粗さRaは、0.07μm以下である。これによれば、ボウルの表面におけるオレイン酸の水中接触角は、より大きくなる。一方、ボウルの表面における水の接触角は、より小さくなる。そのため、水膜がボウルの表面により確実に形成され、水および次亜塩素酸水は、汚物の油分を取り囲むように存在することができる。そのため、汚物の油分は、ボウルの表面から剥離しやすい。あるいは、汚物の油分は、次亜塩素酸により分解されやすい。これにより、ボウルの表面の栄養残存率を抑えことができる。また、汚物の油分に起因する菌の繁殖や汚物の固着を抑制し、ボウルの表面の清潔性を維持することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の態様によれば、油分に起因する菌の繁殖や汚物の固着を抑制し、便器のボウル面の清潔性を維持することができるトイレ装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態にかかるトイレ装置を表す模式図である。
【図2】本実施形態にかかるトイレ装置の要部構成を表すブロック図である。
【図3】比較例にかかるトイレ装置のボウル面を表す断面模式図である。
【図4】本実施形態にかかるトイレ装置のボウル面を表す断面模式図である。
【図5】次亜塩素酸の分解作用を説明するためのグラフ図である。
【図6】次亜塩素酸の分解作用を説明するためのグラフ図である。
【図7】本発明者が実施した汚物の除去時間の実験結果の一例を例示する結果表である。
【図8】テストピースの表面に残存した疑似汚物の油分の一例を例示する写真である。
【図9】本発明者が実施した栄養残存率の実験結果の一例を例示するグラフ図である。
【図10】本発明者が実施した栄養残存率とオレイン酸の水中接触角との実験結果の一例を例示するグラフ図である。
【図11】本発明者が実施した加速年数とオレイン酸の水中接触角との実験結果の一例を例示するグラフ図である。
【図12】本発明者が実施した表面粗さとオレイン酸の水中接触角との実験結果の一例を例示するグラフ図である。
【図13】本実施形態の殺菌水生成部の具体例を例示する断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本発明の実施の形態にかかるトイレ装置を表す模式図である。
また、図2は、本実施形態にかかるトイレ装置の要部構成を表すブロック図である。
なお、図1においては、説明の便宜上、衛生洗浄装置を表す模式図は平面模式図であり、洋式腰掛便器を表す模式図は断面模式図である。また、図2は、水路系と電気系の要部構成を併せて表している。
【0020】
図1に表したトイレ装置10は、洋式腰掛便器(以下説明の便宜上、単に「便器」と称する)800と、その上に設けられた衛生洗浄装置100と、を備える。便器800は、ボウル801を有する。衛生洗浄装置100は、ケーシング400と、便座200と、便蓋300と、を有する。便座200と便蓋300とは、ケーシング400に対して開閉自在にそれぞれ軸支されている。なお、便蓋300は、必ずしも設けられていなくともよい。
【0021】
ボウル801は、使用者が排泄した汚物を受けることができる。ボウル801の表面は、親水性を有する。ここで、本願明細書において「親水性を有する」とは、例えばアクリルなどの樹脂により形成された便器のボウル面と比較して水との親和性が大きいことをいうものとする。具体的には、例えば、水の接触角で比較した場合に、樹脂により形成された便器のボウル面における水の接触角よりも小さい接触角を有するボウル面は、親水性を有するといえる。本実施形態のボウル801の表面が有する親水性については、後に詳述する。
【0022】
例えばケーシング400の下部には、便器800のボウル801の表面に水や殺菌水を噴出する噴霧ノズル(噴出部)480が設けられている。噴霧ノズル480は、水や殺菌水を霧状に噴霧することができる。噴霧ノズル480は、ケーシング400の内部に設けられていてもよいし、ケーシング400の外部に付設されていてもよい。
【0023】
なお、本願明細書において「水」という場合には、冷水のみならず、加熱されたお湯も含むものとする。また、本願明細書において「殺菌水」とは、例えば次亜塩素酸などの殺菌成分を水道水(単に「水」ともいう)よりも多く含む液をいうものとする。
【0024】
図2に表したように、本実施形態にかかるトイレ装置10は、水道や貯水タンクなどの給水源から供給された水を噴霧ノズル480に導く第1の流路21を有する。第1の流路21の上流側には、電磁弁431が設けられている。電磁弁431は、開閉可能な電磁バルブであり、ケーシング400の内部に設けられた制御部405からの指令に基づいて水の供給を制御する。なお、第1の流路21は、電磁弁431から下流側の2次側とする。
【0025】
電磁弁431の下流には、殺菌水を生成可能な殺菌水生成部450が設けられている。殺菌水生成部450については、後に詳述する。殺菌水生成部450の下流には、水勢(流量)の調整を行ったり、噴霧ノズル480や図示しない洗浄ノズルなどへの給水の開閉や切替を行う流調・流路切替弁471が設けられている。第1の流路21は、流調・流路切替弁471において分岐されている。第1の流路21を導かれた殺菌水や上水は、流調・流路切替弁471を通過した後に噴霧ノズル480へ導かれる。一方、流調・流路切替弁471において分岐された第2の流路23に導かれた殺菌水や上水は、例えば図示しない洗浄ノズルやノズル洗浄室などへ導かれる。流調・流路切替弁471は、制御部405からの指令に基づいて、殺菌水や上水を第1の流路21へ導く状態と、殺菌水や上水を第2の流路23へ導く状態と、を切り替えることができる。
【0026】
例えばケーシング400には、便器800の使用状態を検知する検知部が設けられている。より具体的には、トイレ室への使用者の入室を検知する入室検知センサ(検知部)402と、便座200の前方にいる使用者を検知する人体検知センサ(検知部)403と、使用者が便座200に座ったことを検知する着座検知センサ(検知部)404と、がケーシング400に設けられている。
【0027】
入室検知センサ402は、トイレ室のドアを開けて入室した直後の使用者や、トイレ室に入室しようとしてドアの前に存在する使用者を検知することができる。つまり、入室検知センサ402は、トイレ室に入室した使用者だけではなく、トイレ室に入室する前の使用者、すなわちトイレ室の外側のドアの前に存在する使用者を検知することができる。このような入室検知センサ402としては、焦電センサや、ドップラーセンサなどのマイクロ波センサなどを用いることができる。マイクロ波のドップラー効果を利用したセンサや、マイクロ波を送信し反射したマイクロ波の振幅(強度)に基づいて被検知体を検出するセンサなどを用いた場合、トイレ室のドア越しに使用者の存在を検知することが可能となる。つまり、トイレ室に入室する前の使用者を検知することができる。
【0028】
人体検知センサ403は、便器800の前方にいる使用者、すなわち便座200から前方へ離間した位置に存在する使用者を検知することができる。つまり、人体検知センサ403は、トイレ室に入室して便座200に近づいてきた使用者を検知することができる。このような人体検知センサ403としては、例えば、赤外線投受光式の測距センサなどを用いることができる。
【0029】
着座検知センサ404は、使用者が便座200に着座する直前において便座200の上方に存在する人体や、便座200に着座した使用者を検知することができる。すなわち、着座検知センサ404は、便座200に着座した使用者だけではなく、便座200の上方に存在する使用者を検知することができる。このような着座検知センサ404としては、例えば、赤外線投受光式の測距センサなどを用いることができる。
【0030】
図3は、比較例にかかるトイレ装置のボウル面を表す断面模式図である。
また、図4は、本実施形態にかかるトイレ装置のボウル面を表す断面模式図である。
また、図5および図6は、次亜塩素酸の分解作用を説明するためのグラフ図である。
【0031】
本実施形態にかかるトイレ装置10では、制御部405は、便器800の使用状態を検知する検知部の検知結果に基づいて、使用者が便器800を使用する前に噴霧ノズル480から便器800のボウル801の表面に水および殺菌水の少なくともいずれかを噴出させる制御を実行する。例えば、入室検知センサ402がトイレ室への使用者の入室を検知すると、制御部405は、噴霧ノズル480から便器800のボウル801の表面に水および殺菌水の少なくともいずれかを噴出させる制御を実行する。つまり、制御部405は、使用者が便器800を使用する前に便器800のボウル801の表面を水および殺菌水の少なくともいずれかで濡らす制御を実行することができる。
【0032】
また、本実施形態にかかるトイレ装置10では、制御部405は、便器800の使用状態を検知する検知部の検知結果に基づいて、使用者が便器800を使用した後に噴霧ノズル480から便器800のボウル801の表面に殺菌水を噴出させる制御を実行する。例えば、入室検知センサ402がトイレ室内の使用者を検知しなくなってから所定時間が経過すると、制御部405は、噴霧ノズル480から便器800のボウル801の表面に殺菌水を噴出させる制御を実行する。つまり、制御部405は、使用者が汚物を流し便器800の使用を終了した後にボウル801の表面を殺菌水で濡らす制御を実行することができる。以下の説明では、殺菌水が次亜塩素酸水すなわち次亜塩素酸を含む液である場合を例に挙げて説明する。
【0033】
ここで、図3に表した比較例のボウル801aについて説明する。
図3に表した比較例のボウル801aの表面は、親水性ではなく撥水性を有する。ここで、本願明細書において「撥水性」とは、例えば釉薬などが施された便器のボウル面と比較して水との親和性が小さい性質あるいは水をはじきやすい性質をいうものとする。そのため、使用者が便器800を使用する前に制御部405が噴霧ノズル480からボウル801aの表面に水や殺菌水を噴出させても、ボウル801aの表面に水膜は形成されない。つまり、ボウル801aの表面に噴出された水や殺菌水は、例えば水滴などとして凝集し溜水面へ流下する。
【0034】
汚物(便)には、脂肪酸などの油分が含まれる。便に含まれる脂肪酸の成分としては、例えばオレイン酸や、パルミチン酸や、ステアリン酸などが挙げられる。そのため、図3(a)に表したように、使用者が排泄した汚物601は、撥水性を有するボウル801aの表面に当たるとより広い範囲に広がり付着する。続いて、使用者が便器800の使用した後に制御部405が噴霧ノズル480から次亜塩素酸水(殺菌水)651を噴出させると、次亜塩素酸水651は、図3(b)に表したように、ボウル801aの表面に付着した汚物601の上に付着する。
【0035】
ここで、本発明者の検討の結果、次亜塩素酸が脂肪酸などの油分を分解できることが判明した。これは、図5に表した二点鎖線Aの範囲内のように、炭素間二重結合が100ppmの濃度を有する次亜塩素酸により減少することで確認される。またこれは、図6に表した二点鎖線Bの範囲内のように、オレイン酸のピークが100ppmの濃度を有する次亜塩素酸により減少することで確認される。
そのため、図3(c)に表したように、汚物601の上に付着した次亜塩素酸水は、ボウル801aの表面に付着した汚物601の上部を分解できる。
【0036】
しかしながら、ボウル801aの表面に水膜が形成されないため、汚物601とボウル801aの表面との接触面積は、ボウルの表面に水膜が形成される場合よりも広い。また、ボウル801aの表面は撥水性を有し、ボウル801aの表面に水膜が形成されないため、ボウル801aの表面と汚物601の油分との間の接触角θ1は、ボウルの表面に水膜が形成される場合よりも小さい。ここで、本願明細書において「接触角」とは、所定の固体表面と液体表面との界面において、固体表面と液体表面とがなす角度であって液体の側で測定される角度をいうものとする。
【0037】
そのため、次亜塩素酸水651は、ボウル801aの表面に付着した汚物601の下部に入り込むことはできない。これにより、図3(c)に表したように、ボウル801aの表面に付着した汚物601の下部は、次亜塩素酸により分解されず、ボウル801aの表面に残存するおそれがある。あるいは、汚物601に含まれる脂肪酸などの油分がボウル801aの表面に残存し、油分の被膜がボウル801aの表面に形成されるおそれがある。
【0038】
油分は菌の栄養分となるため、油分がボウル801aの表面に残存すると菌が繁殖するおそれがある。菌が繁殖すると、例えばバイオフィルムなどと呼ばれるバクテリアおよびその分泌物の集まりが形成される。バイオフィルムが形成されたボウル801aの表面に汚物601が当たると、汚物601がボウル801aの表面に固着する場合がある。そうすると、一般的な便器洗浄では汚物601の固形成分をボウル801aの表面から剥離させることが困難となる。
【0039】
これに対して、本実施形態のボウル801の表面は、親水性を有する。そのため、図4(a)に表したように、使用者が便器800を使用する前に制御部405が噴霧ノズル480からボウル801の表面に水や殺菌水を噴出させることで、使用者が排泄した汚物601がボウル801の表面に当たる前にボウル801の表面に水膜653を形成することができる。汚物601の油分は、水膜653にはじかれたり、あるいは油分自身の浮力によりボウル801の表面から剥離する。これにより、汚物601がボウル801の表面に付着あるいは固着することを抑えることができる。
【0040】
また、図4(a)に表したように、ボウル801の表面に汚物601が残存した場合でも、ボウル801の表面に水膜653が形成されているため、汚物601の油分は水膜653にはじかれる。そのため、本実施形態のボウル801の表面と汚物601の油分との間の接触角θ2は、ボウルの表面に水膜が形成されない場合の接触角θ1(図3(a)参照)よりも大きい。そのため、図4(b)に表したように、使用者が便器800の使用した後に制御部405が噴霧ノズル480から次亜塩素酸水651を噴出させると、次亜塩素酸水651は、ボウル801の表面に付着した汚物601の上に付着するとともに汚物601の下部に入り込むあるいは回り込むことができる。言い換えれば、次亜塩素酸水651は、汚物601の油分を取り囲むように存在することができる。
【0041】
そのため、図4(c)に表したように、次亜塩素酸は、ボウル801の表面に付着した汚物601の上部および下部を分解できる。これにより、ボウル801の表面に付着した汚物601の油分を効率よく分解することができ、ボウル801の表面に残存する汚物601を抑制することができる。また、汚物601の油分がボウル801の表面に残存し、油分の被膜がボウル801の表面に形成されることを抑制することができる。そのため、汚物601の油分に起因する菌の繁殖や汚物601の固着を抑制し、ボウル801の表面の清潔性を維持することができる。
【0042】
また、ボウル801の表面に水膜653が形成されることで汚物601のボウル801の表面への付着が抑制されるため、汚物601がボウル801の表面に付着していない領域は、ボウルの表面に水膜が形成されない場合よりも広い。そのため、ボウルの表面に水膜が形成されない場合と比較して、次亜塩素酸水651は、汚物601がボウル801の表面に付着していない領域に付着あるいは定着しやすい。そのため、ボウルの表面に水膜が形成されない場合と比較して、次亜塩素酸水651は、汚物601の油分を取り囲むように存在しやすい。これにより、ボウル801の表面に付着した汚物601の油分をより効率よく分解することができる。
【0043】
また、次亜塩素酸は、ボウル801の表面に残存した汚物601を分解することに利用される。そのため、次亜塩素酸水の生成量を抑えることができる。これにより、次亜塩素酸水を生成する電解槽の負荷を軽減し、電解槽の寿命が短くなることを抑えることができる。なお、次亜塩素酸水を生成する電解槽については、後に詳述する。
【0044】
さらに、図1および図2に関して前述したように、噴霧ノズル480は、水や殺菌水を霧状に噴霧することができる。そのため、噴霧ノズル480から噴霧された水や殺菌水は、ボウル801の表面のより広い範囲に万遍なく付着する。これにより、汚物601がボウル801の表面に付着あるいは固着することをより効率的に抑えることができる。また、噴霧ノズル480から噴霧された殺菌水は、ボウル801の表面に残存した汚物601の周囲に位置することができる。そのため、ボウル801の表面に付着した汚物601の油分をより効率よく分解することができる。
【0045】
次に、本発明者が実施した実験の結果の一例について、図面を参照しつつ説明する。
図7は、本発明者が実施した汚物の除去時間の実験結果の一例を例示する結果表である。
【0046】
本発明者は、所定の表面性状を有するテストピースに疑似汚物を付着させ、その後に疑似汚物を洗い流した。疑似汚物は、汚物の成分であるオレイン酸を含み、汚物と性状を近似させたものである。本発明者は、疑似汚物を洗い流した後の各テストピースの表面を撮影した。また、本発明者は、各テストピースに付着させた疑似汚物を除去するために必要な時間をそれぞれ測定した。各テストピースの表面写真の一例は、図7に表した「表面写真」の如くである。また、各テストピースに付着した疑似汚物601を除去するために必要な時間の一例は、図7に表した「除去時間(秒)」の如くである。
【0047】
試料(1)および(2)のテストピース810の表面は、親水性を有する。試料(2)のテストピース810では、本発明者は、疑似汚物601をテストピース810に付着させる前にテストピース810の表面に水を噴出させた。そのため、試料(2)のテストピース810の表面には、水膜653が形成されている。なお、図7に表した試料(2)のテストピース810の「表面状態」では、水膜653は水滴の状態で点在している。
【0048】
試料(3)(第1の比較例)のテストピース810aは、例えば光触媒などを利用して形成されている。光触媒などを利用して形成されたテストピース810aの表面は、例えば「超親水性」などと呼ばれている。従って、試料(3)の親水性は、試料(1)の親水性よりも優れている。試料(4)(第2の比較例)のテストピース810bの表面には、疑似汚物601が付着している。さらに、テストピース810bの表面に付着した疑似汚物601の上には、疑似バイオフィルム657が形成されている。バイオフィルムは、タンパク質とアミノ酸誘導体と多糖類からなるものである。そこで、タンパク質、アミノ酸誘導体、及び多糖類を含む市販のガムシロップで代用可能であり、ガムシロップを被覆して疑似バイオフィルムとして評価した(以下説明の便宜上、疑似バイオフィルムを単に「バイオフィルム」と称す)。試料(5)(第3の比較例)のテストピース810bの表面には、バイオフィルム657が形成されている。さらに、テストピース810bの表面に形成されたバイオフィルム657の上には、疑似汚物601が付着している。
【0049】
本実験結果によれば、親水性を有するテストピース810(試料(1)および(2))の「除去時間」は、バイオフィルムが形成されているテストピース810b(試料(4)および(5))の「除去時間」よりも短い。そのため、親水性を有するテストピース810は、バイオフィルムが形成されているテストピース810bと比較して、疑似汚物601がボウル801の表面に付着あるいは固着することを抑制できることが分かる。また、試料(2)の「除去時間」は、試料(1)の「除去時間」よりも短い。そのため、疑似汚物601がテストピース810の表面と接触する前にテストピース810の表面に水を噴出させることで、疑似汚物601がテストピース810の表面に付着あるいは固着することを抑え、超親水性を有するテストピース810a(試料(3))の「除去時間」に近づけることができることが分かる。
【0050】
また、試料(4)の「表面写真」に表したように、疑似汚物601の上にバイオフィルム657が形成されると、疑似汚物601を294秒間洗い流した後でもテストピース810bの上に疑似汚物601が残存している。そのため、バイオフィルム657が形成されると、疑似汚物601を洗い流すことは困難であることが分かる。
【0051】
図8は、テストピースの表面に残存した疑似汚物の油分の一例を例示する写真である。
また、図9は、本発明者が実施した栄養残存率の実験結果の一例を例示するグラフ図である。
本発明者は、所定の表面性状を有するテストピースに所定量のオレイン酸を含有している疑似汚物を付着させ、その後に疑似汚物に所定時間の吐水を行い、洗い流した。そして、本発明者は、疑似汚物を洗い流した後のテストピースの表面に残存しているオレイン酸の濃度により栄養残存率を測定した。
【0052】
図8に表したように、疑似汚物を洗い流しても、テストピースの表面には疑似汚物の油分が残存する。本発明者は、テストピースの表面に残存する疑似汚物の油分に含まれる栄養成分の濃度すなわち栄養残存率を測定した。テストピースの表面の栄養残存率は、テストピースの表面での菌繁殖速度に相当する。各テストピースの表面の栄養残存率の一例は、図9に表したグラフ図の如くである。なお、図8に表した写真は、図9に表した試料(1)の表面の拡大写真である。
【0053】
試料(1)および(2)のテストピースの表面は、図7に関して前述した試料(1)および(2)のテストピース810と同様の表面性状すなわち親水性を有する。試料(2)のテストピースでは、本発明者は、疑似汚物601をテストピースに付着させる前にテストピースの表面に水を噴出させた。そのため、試料(2)のテストピースの表面には、水膜653が形成されている。これは、図7に関して前述した試料(2)と同様である。
【0054】
試料(3)のテストピースの表面は、親水性を有する。但し、試料(3)のテストピースの表面が有する親水性は、試料(1)および(2)のテストピースの表面が有する親水性ほどには高くない。試料(3)のテストピースの表面性状は、本実施形態の便器800のボウル801の表面性状の範囲に含まれる。
【0055】
試料(4)(第1の比較例)のテストピースは、図7に関して前述した試料(3)(第1の比較例)と同様である。つまり、試料(4)のテストピースの表面は、超親水性を有する。試料(5)(第3の比較例)のテストピースは、図7に関して前述した試料(5)(第3の比較例)と同様である。つまり、試料(5)のテストピースの表面は、バイオフィルムが形成されている。試料(6)(第4の比較例)のテストピースの表面は、親水性表面に撥水性被膜を施したもので、撥水性を有する。
【0056】
本実験結果によれば、親水性を有する試料(1)〜(3)のテストピースの表面の栄養残存率は、バイオフィルムおよび撥水性をそれぞれ有する試料(5)および(6)のテストピースの表面の栄養残存率よりも低い。そのため、親水性を有する試料(1)〜(3)のテストピースは、バイオフィルムおよび撥水性をそれぞれ有する試料(5)および(6)のテストピースと比較して、菌の繁殖を抑制できることが分かる。また、親水性を有する試料(1)〜(3)のテストピースは、バイオフィルムおよび撥水性をそれぞれ有する試料(5)および(6)のテストピースと比較して、菌の栄養分となる油分の残存量を抑制できることが分かる。
【0057】
また、試料(2)のテストピースの表面の栄養残存率は、試料(1)のテストピースの表面の栄養残存率よりも低い。そのため、疑似汚物601がテストピースの表面と接触する前にテストピースの表面に水を噴出させることで、菌がテストピースの表面で繁殖することを抑制し、超親水性を有するテストピース(試料(4))の表面の栄養残存率に近づけることができることが分かる。
【0058】
また、試料(5)のテストピースの表面の栄養残存率は、試料(6)のテストピースの表面の栄養残存率よりも高い。そのため、試料(5)のテストピースの表面のように、バイオフィルムが形成されると、菌の繁殖を抑制することが困難となることが分かる。
【0059】
図10は、本発明者が実施した栄養残存率とオレイン酸の水中接触角との実験結果の一例を例示するグラフ図である。
また、図11は、本発明者が実施した加速年数とオレイン酸の水中接触角との実験結果の一例を例示するグラフ図である。
水中接触角は、テストピース上にオレイン酸を滴下した状態で、水槽に沈め、その状態で、オレイン酸とテストピースとの接触角を接触角計(協和界面化学(株)製、自動接触角計DM−500)にて測定したものである。
【0060】
本発明者は、テストピースの表面の栄養残存率とオレイン酸の水中接触角との関係を測定した。ここで、本願明細書において「水中接触角」とは、水中における接触角をいうものとする。便に含まれる脂肪酸の成分の1つであるオレイン酸の接触角は、水中と空気中とにおいて互いに異なる。図4に関して前述したように、本実施形態の制御部405は、使用者が便器800を使用する前に便器800のボウル801の表面に水や殺菌水を噴出させることで水膜653を形成する。そのため、本発明者は、水中におけるオレイン酸の接触角を評価することが空気中におけるオレイン酸の接触角を評価することよりも適切であると考えた。テストピースの表面の栄養残存率の測定方法は、図8および図9に関して前述した如くである。
【0061】
テストピースの表面の栄養残存率とオレイン酸の水中接触角との関係の一例は、図10に表したグラフ図の如くである。試料(1)および(2)のテストピースの表面は、図7に関して前述した試料(1)のテストピース810と同様の表面性状すなわち親水性を有する。試料(2)のテストピースの表面が有する親水性は、試料(1)のテストピースの表面が有する親水性ほどには高くない。試料(2)のテストピースの表面性状は、本実施形態の便器800のボウル801の表面性状の範囲に含まれる。
【0062】
試料(3)(第1の比較例)のテストピースは、図7に関して前述した試料(3)(第1の比較例)と同様である。つまり、試料(3)のテストピースの表面は、超親水性を有する。試料(4)(第4の比較例)のテストピースは、図9に関して前述した試料(6)(第4の比較例)と同様である。つまり、試料(4)のテストピースの表面は、撥水性を有する。試料(5)(第5の比較例)のテストピースの表面は、アクリル樹脂からなり、撥水性を有する。
【0063】
試料(1)のテストピースの表面におけるオレイン酸の水中接触角の一例は、例えば約123.9度程度である。試料(2)のテストピースの表面におけるオレイン酸の水中接触角の一例は、例えば約106.0度程度である。試料(3)のテストピースの表面におけるオレイン酸の水中接触角の一例は、例えば約169.4度程度である。試料(4)のテストピースの表面におけるオレイン酸の水中接触角の一例は、例えば約33.1度程度である。試料(5)のテストピースの表面におけるオレイン酸の水中接触角の一例は、例えば約2.5度程度である。
【0064】
本実験結果によれば、オレイン酸の水中接触角がより大きいほど、栄養残存率がより低いことが分かる。これは、図4に関して前述したように、オレイン酸の水中接触角がより大きいと、水や殺菌水が汚物601の油分を取り囲むように存在することができるためである。そのため、汚物601の油分は、オレイン酸の水中接触角がより大きいほどテストピースの表面から剥離しやすい。あるいは、オレイン酸の水中接触角がより大きいと、オレイン酸とテストピースとの接触面積が小さくなる。そのため、汚物601の油分は、オレイン酸の水中接触角がより大きいほど次亜塩素酸水651により効果的に分解され、剥離しやすい。これにより、親水性を有し表面におけるオレイン酸の水中接触角が大きいテストピース(試料(1)および(2))は、菌の繁殖を抑制できることが分かる。そのため、ボウル801の表面におけるオレイン酸の水中接触角は、より大きいことが望ましい。
【0065】
ここで、便器800のボウル801の表面性状は、便器800の使用年数により変化する。より具体的には、ボウル801の表面におけるオレイン酸の水中接触角は、便器800の使用年数により変化する。本発明者は、加速試験を実施し、加速年数とオレイン酸の水中接触角との関係を測定した。
【0066】
まず、本発明者は、質量百分率が5wt%の水酸化ナトリウム(NaOH)の溶液を生成した。続いて、本発明者は、生成した水酸化ナトリウムの溶液を70℃に設定し、その溶液の中にテストピースを浸漬させた。本条件では、生成した水酸化ナトリウムの溶液の中にテストピースを1時間浸漬させると、テストピース(便器800)が1年間使用されたことに相当する。
【0067】
加速年数とオレイン酸の水中接触角との関係の一例は、図11に表したグラフ図の如くである。図11に表した試料(1)〜(5)は、図10に関して前述した試料(1)〜(5)にそれぞれ対応している。図11に表したグラフ図のように、試料(2)および(3)のテストピースの表面におけるオレイン酸の水中接触角は、初期状態(加速年数:0年)から低下することが分かる。試料(4)のテストピースの表面におけるオレイン酸の水中接触角は、初期状態(加速年数:0年)から一旦上昇した後、加速年数が5年から10年になると低下することが分かる。これは、表面の撥水被膜が除去され、下の親水性表面が露出してきているものと思われる。試料(1)および(5)のテストピースの表面におけるオレイン酸の水中接触角は、初期状態(加速年数:0年)でほとんど維持されていることが分かる。
【0068】
図10に表したオレイン酸の水中接触角は、初期状態(加速年数:0年)のテストピースの表面におけるオレイン酸の水中接触角である。これらを考慮すると、オレイン酸の水中接触角は、初期状態において約90度以上であることが望ましい。また、オレイン酸の水中接触角は、初期状態において約110度以上、さらには約120度以上であることがより望ましい。これにより、次亜塩素酸水651が汚物601の油分を取り囲むように存在することができる。そのため、ボウル801の表面に付着した汚物601の油分を効率よく分解することができる。また、汚物601の油分に起因する菌の繁殖や汚物601の固着を抑制し、ボウル801の表面の清潔性を維持することができる。
【0069】
図12は、本発明者が実施した表面粗さとオレイン酸の水中接触角との実験結果の一例を例示するグラフ図である。
本発明者は、テストピースの表面粗さRa(算術平均粗さRa)とオレイン酸の水中接触角との関係を測定した。テストピースの表面粗さRaとオレイン酸の水中接触角との関係の一例は、図12に表したグラフ図の如くである。
表面粗さRaは、テストピースを表面粗さ計((株)ミツトヨ製、小型表面粗さ測定器SJ−400)で測定した値である。
【0070】
試料(1)は、図7に関して前述した試料(1)のテストピース810と同様の表面性状すなわち親水性を有する。試料(2)(第1の比較例)のテストピースは、図7に関して前述した試料(3)(第1の比較例)と同様である。つまり、試料(2)のテストピースの表面は、超親水性を有する。試料(3)(第4の比較例)のテストピースは、図9に関して前述した試料(6)(第4の比較例)と同様である。つまり、試料(3)のテストピースの表面は、撥水性を有する。試料(4)(第5の比較例)のテストピースは、図10および図11に関して前述した試料(5)(第5の比較例)と同様である。つまり、試料(4)のテストピースの表面は、撥水性を有する。
【0071】
本実験結果によれば、親水性を有するテストピース(試料(1))において、表面粗さRaとオレイン酸の水中接触角との間には相関があることが分かる。より具体的には、親水性を有するテストピース(試料(1))は、表面粗さRaがより小さいほどオレイン酸の水中接触角がより大きい傾向を有することが分かる。
【0072】
図10および図11に関して前述したオレイン酸の水中接触角と、図12に表した表面粗さRaとオレイン酸の水中接触角との関係の一例を考慮すると、ボウル801の表面粗さは、約0.07μm(ミクロン)以下であることが望ましい。また、ボウル801の表面粗さは、約0.04μm以下であることがより望ましい。これにより、次亜塩素酸水651が汚物601の油分を取り囲むように存在することができる。そのため、ボウル801の表面に付着した汚物601の油分を効率よく分解することができる。また、汚物601の油分に起因する菌の繁殖や汚物601の固着を抑制し、ボウル801の表面の清潔性を維持することができる。
【0073】
次に、本実施形態の殺菌水生成部450の具体例について、図面を参照しつつ説明する。
図13は、本実施形態の殺菌水生成部の具体例を例示する断面模式図である。
本実施形態の殺菌水生成部450は、例えば電極を有する電解槽ユニットである。
【0074】
本具体例の殺菌水生成部450は、図13に表したように、その内部に陽極板451および陰極板452を有し、制御部405からの通電の制御によって、内部を流れる水道水を電気分解できる。ここで、水道水は、塩素イオンを含んでいる。この塩素イオンは、水源(例えば、地下水や、ダムの水や、河川などの水)に食塩(NaCl)や塩化カルシウム(CaCl)として含まれている。そのため、その塩素イオンを電気分解することにより次亜塩素酸が生成される。その結果、殺菌水生成部450において電気分解された水(電解水)は、次亜塩素酸水に変化する。
【0075】
次亜塩素酸は、殺菌成分として機能し、その次亜塩素酸水すなわち殺菌水は、アンモニアなどによる汚れを効率的に除去あるいは分解したり、殺菌することができる。また、前述したように、次亜塩素酸水は、便に含まれる脂肪酸などの油分を分解することができる。
【0076】
以上説明したように、本実施形態によれば、便器800のボウル801の表面は、親水性を有する。制御部405は、便器800の使用状態を検知する検知部の検知結果に基づいて、使用者が便器800を使用する前に噴霧ノズル480から便器800のボウル801の表面に水および殺菌水の少なくともいずれかを噴出させる制御を実行する。さらに、制御部405は、便器800の使用状態を検知する検知部の検知結果に基づいて、使用者が便器800を使用した後に噴霧ノズル480から便器800のボウル801の表面に殺菌水を噴出させる制御を実行する。これにより、汚物601がボウル801の表面に付着あるいは固着することを抑えることができる。また、ボウル801の表面に付着した汚物601の油分を効率よく分解することができ、ボウル801の表面に残存する汚物601を抑制することができる。また、汚物601の油分がボウル801の表面に残存し、油分の被膜がボウル801の表面に形成されることを抑制することができる。そのため、汚物601の油分に起因する菌の繁殖や汚物601の固着を抑制し、ボウル801の表面の清潔性を維持することができる。
【0077】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、トイレ装置10などが備える各要素の形状、寸法、材質、配置などや噴霧ノズル480の設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0078】
10 トイレ装置、 21 第1の流路、 23 第2の流路、 100 衛生洗浄装置、 200 便座、 300 便蓋、 400 ケーシング、 402 入室検知センサ、 403 人体検知センサ、 404 着座検知センサ、 405 制御部、 431 電磁弁、 450 殺菌水生成部、 451 陽極板、 452 陰極板、 471 流路切替弁、 480 噴霧ノズル、 601 汚物、 651 次亜塩素酸水(殺菌水)、 653 水膜、 657 バイオフィルム、 800 便器、 801 、801a ボウル、 810、810a、810b テストピース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性を有し汚物を受けるボウルが形成された便器と、
前記ボウルの表面に水および次亜塩素酸水の少なくともいずれかを噴出する噴出部と、
前記便器の使用状態を検知する検知部と、
前記検知部の検知結果に基づいて前記便器の使用前および使用後に前記噴出部を制御し、前記使用前において前記噴出部から前記水および次亜塩素酸水の少なくともいずれかを噴出し、前記使用後において前記噴出部から前記次亜塩素酸水を噴出する制御を実行する制御部と、
を備えたことを特徴とするトイレ装置。
【請求項2】
前記噴出部は、前記水および次亜塩素酸水を霧状に噴霧するノズルであることを特徴とする請求項1記載のトイレ装置。
【請求項3】
前記ボウルの表面におけるオレイン酸の水中接触角は、90度以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のトイレ装置。
【請求項4】
前記ボウルの表面の算術平均粗さRaは、0.07μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のトイレ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図7】
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【図8】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−207461(P2012−207461A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74214(P2011−74214)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【特許番号】特許第5029930号(P5029930)
【特許公報発行日】平成24年9月19日(2012.9.19)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】