説明

トイレ装置

【課題】洗浄水が便器から溢れることを防止することができるトイレ装置を提供することを目的とする。
【解決手段】水洗大便器のボウル部内の水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかを検知可能な検知部と、前記検知部の検知情報に基づいて前記水洗大便器の詰まり状態を判定する詰まり判定部と、を備え、前記詰まり判定部は、前記水洗大便器の詰まり状態を判定するときの基準となる前記検知部の基準値を変更可能であることを特徴とするトイレ装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、一般的に、トイレ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、水洗式便器は広く普及している。水洗式便器において便器洗浄を行う場合には、例えばシスターンのボールタップや便器洗浄弁(フラッシュバルブ)などを操作する。そうすると、所定量の洗浄水が便器に供給される。これにより、便器洗浄が行われる。
【0003】
例えば公共施設などのように不特定多数の人がトイレ装置を使用する環境下においては、使用者がトイレットペーパを多量に使用したり、大便以外の異物をボウル部(便鉢)内へ投入したりする場合がある。そうすると、トイレ装置のトラップ排水路等において詰まりが生ずる場合がある。この場合には、詰まりが生じた後にトイレ装置を使用する使用者は、トラップ内を直接目視することができないため、詰まりが生じたことを知らずに便器洗浄を行うことになる。そのため、詰まりが生じてから例えば2回や3回程度の便器洗浄が行われると、便器に供給された洗浄水がボウル部から溢れ出るおそれがある。
【0004】
これに対して、ボウル部内の水位を検出する水位検出手段が設けられ、この水位検出手段の出力が予め設定した値を超えた場合に信号を発生する監視装置を備えた水洗式便器がある(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、予め設定した水位により便器の詰まりを判定する場合において、予め設定した水位と通常(詰まりが生じていないとき)の水位との差が小さいと、便器が設置されている使用環境や便器の使用者の使用状況によっては、詰まりが生じていないにもかかわらず詰まりが生じたと誤判定をする場合がある。また、予め設定した水位と通常の水位との差が大きいと、詰まりが生じたにもかかわらず詰まりが生じていないと誤判定をする場合がある。この場合に便器洗浄が行われると、便器洗浄の途中で詰まりが生じたと判定しても便器洗浄を途中で止めることはできないため、便器の種類によっては洗浄水がボウル部から溢れ出る場合がある。
【0006】
また、便器は、洗浄方式やそれに関連する洗浄水量などによって便器形状が決められている。その結果、リム面からの溢流水位や便器洗浄をもう1回行うと洗浄水が便器から溢れる限界の水位(限界水位)が異なっている。従って、便器詰まりを水位で判定する場合、其々の便器に対応した溢流水位や限界水位を便器に応じて調整する必要がある。また、同一便器においても、便器の製造バラつきによって、溢流水位や限界水位を最適値に調整する必要がある。これらの点においては、改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−224925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、洗浄水が便器から溢れることを防止することができるトイレ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、水洗大便器のボウル部内の水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかを検知可能な検知部と、前記検知部の検知情報に基づいて前記水洗大便器の詰まり状態を判定する詰まり判定部と、を備え、前記詰まり判定部は、前記水洗大便器の詰まり状態を判定するときの基準となる前記検知部の基準値を変更可能であることを特徴とするトイレ装置である。
【0010】
このトイレ装置によれば、詰まり判定部は、検知部の基準値を変更可能であるため、水洗大便器の種類やトイレ装置の設置環境などに応じて、詰まり状態を判定するための検知部の基準値を設定することができる。これにより、水洗大便器の種類やトイレ装置の設置環境などにかかわらず、より確実に水洗大便器の詰まり状態を検知し、洗浄水が水洗大便器から溢れることを防止することができる。
【0011】
また、第2の発明は、第1の発明において、前記水洗大便器の種類を入力可能な入力部をさらに備え、前記詰まり判定部は、前記入力部に入力された情報に基づいて前記水洗大便器の種類に応じた前記基準値を設定することを特徴とするトイレ装置である。
【0012】
このトイレ装置によれば、例えばトイレ装置の施工業者あるいは使用者は、より簡単に水洗大便器の種類を入力部により設定することができる。そのため、洗浄水が水洗大便器から溢れることをより確実に防止することができる。
【0013】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、前記詰まり判定部は、便器洗浄後の詰まりが発生していない状態において前記検知部が検知した前記ボウル部内の水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかに基づいて前記水洗大便器の種類を読み取り前記基準値を設定することを特徴とするトイレ装置である。
【0014】
このトイレ装置によれば、例えば施工業者がトイレ装置を設置し便器洗浄を行うだけで、詰まり判定部は、詰まり状態を判定するための検知部の基準値を設定することができる。そのため、例えば施工業者がトイレ装置を設置した後に行う便器洗浄の試運転と兼ねて、詰まり判定部は、詰まり状態を判定するための検知部の基準値を設定することができる。これにより、詰まり状態を判定するための検知部の基準値をより効率的に設定することができ、設定のための手間を省くことができる。
【0015】
また、第4の発明は、第1〜第3のいずれか1つの発明において、前記詰まり判定部は、便器洗浄後の詰まりが発生していない状態において前記検知部が検知した前記ボウル部内の水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかに一定値を付加し前記水洗大便器の詰まり状態を判定するときの基準となる第1の基準値と、前記第1の基準値よりも高い第2の基準値と、を設定し、前記第1の基準値は、前記詰まり判定部により変更可能とされ、前記第2の基準値は、一定であることを特徴とするトイレ装置である。
【0016】
このトイレ装置によれば、第2の基準値は、一定であるため、例えば水洗大便器の種類や排水配管にかかる圧力などに影響を受けることはない。そのため、詰まり判定部は、例えば水洗大便器の種類を誤検知し、詰まりが生じたにもかかわらず詰まりが生じていないと判定したとしても、第2の基準値により詰まりが生じたことをより確実に判定することができる。これにより、洗浄水が水洗大便器から溢れることをより確実に防止することができる。
【0017】
また、第5の発明は、第4の発明において、前記水洗大便器の詰まりが発生したことを報知する報知部をさらに備え、前記詰まり判定部は、前記検知部が検知した前記ボウル部内の水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかが前記第1の基準値よりも高くなると前記報知部により前記水洗大便器の詰まりが発生したことを報知する制御を実行し、前記検知部が検知した前記ボウル部内の水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかが前記第2の基準値よりも高くなると前記水洗大便器の洗浄を禁止する制御を実行することを特徴とするトイレ装置である。
【0018】
このトイレ装置によれば、詰まりが発生し、検知部が検知した水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかが第1の基準値よりも高く第2の基準値よりも低い場合には、詰まり判定部は、便器洗浄を止めるわけではない。これによれば、特に、詰まりが生じているが、僅かな詰まりで、水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかが第1の基準値よりも僅かに高いような場合で、次回の便器洗浄を許容することで、異物が詰まった部分の水圧上昇により詰まりが解消される可能性がある。そのため、使用者にとって、使い勝手のよいトイレ装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の態様によれば、洗浄水が便器から溢れることを防止することができるトイレ装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態にかかるトイレ装置を表す平面模式図である。
【図2】本実施形態にかかるトイレ装置の要部構成を表すブロック図である。
【図3】正常時と詰まり発生時との比較を説明するための平面模式図である。
【図4】便器ボウル部内の水位の揺れについて説明するための断面模式図である。
【図5】洗浄水が便器装置から溢れる状態を説明するための断面模式図である。
【図6】基準値の設定の操作の一例を例示するフローチャート図である。
【図7】便器装置200の品番とリモコンの表示との対応の一例を例示する対応表である。
【図8】本実施形態のリモコンを例示する斜視模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本発明の実施の形態にかかるトイレ装置を表す平面模式図である。
また、図2は、本実施形態にかかるトイレ装置の要部構成を表すブロック図である。
【0022】
本実施形態にかかるトイレ装置100は、便器装置(水洗大便器)200と、便座装置300と、を備える。
便器装置200は、洗浄水給水部210と、便器ボウル部220と、トラップ230と、を有する。
【0023】
図1に表したように、便座装置300は、本体部301と、本体部301に対して開閉自在に軸支された便座303と、を有する。また、図2に表したように、便座装置300は、便座装置制御部310と、検知部320と、便器洗浄機能部330と、リモートコントロール装置(以下、説明の便宜上「リモコン」と称する)340と、報知部350と、を有する。例えば便座装置制御部310や便器洗浄機能部330などは、本体部301の内部に設けられている。リモコン(入力部)340は、例えば本体部301とは別体としてトイレブースの壁面などに設置されている。
【0024】
検知部320は、便器装置200の便器ボウル部220内の水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかを検知することができる。「水位に関連する指標」とは、例えば、便器ボウル部220内の水位の変動の周波数や、便器ボウル部220内の水位の変化の速度や、便器ボウル部220内の溜水の圧力などである。これらについては、後に詳述する。
検知部320としては、例えば、便器ボウル部220内の水位や水位の変動を検知するマイクロ波センサや超音波センサや対電極、あるいは便器ボウル部220内の溜水の圧力を検知する圧力センサなどが挙げられる。但し、検知部320は、これだけに限定されるわけではない。
【0025】
便座装置制御部310は、詰まり判定部311と、便器情報保存部313と、を有する。詰まり判定部311は、検知部320が検知した情報に基づいて便器装置200の詰まり状態を判定する。便器情報保存部313には、便器装置200の種類に関する情報が格納されている。「便器装置200の種類に関する情報」とは、例えば、便器装置200の大きさや、サイホン式などの洗浄方式や、洗浄水量や、溜水部の大きさや、便器装置200の形状などの情報である。
【0026】
便座装置300は、便座303に着座した使用者を検知する人体検知部361や、便座303に着座した使用者の「おしり」などを洗浄する局部洗浄装置363や、便座303に着座した使用者の「おしり」などに温風を吹き付けて乾燥させる乾燥装置365や、便座303を暖める暖房便座装置367などを有していてもよい。但し、本実施形態では、人体検知部361や局部洗浄装置363や乾燥装置365や暖房便座装置367などは、必ずしも設けられていなくともよい。
【0027】
リモコン340は、例えばスイッチなどを有し、使用者の意志を入力可能とされている。例えば、使用者が「大」または「小」の洗浄水を流すための所定の操作をリモコン340により実行すると、リモコン340は、その操作内容に応じた制御信号を送信部341から便座装置制御部310へ送信する。この制御信号は、例えば赤外線や電波などを媒体として送信される。
【0028】
そうすると、便座装置制御部310は、リモコン340から受信した制御信号に基づいて便器洗浄機能部330を制御し、便器装置200の洗浄水給水部210へ洗浄水を供給する。洗浄水給水部210に供給された洗浄水は、便器ボウル部220内を流れ、トラップ230を介して図示しない排水配管へ排出される。これにより、「大」または「小」の洗浄動作が実行される。
【0029】
ここで、本実施形態にかかるトイレ装置100が例えば公共施設などのように不特定多数の人が利用する環境下に設けられた場合には、使用者がトイレットペーパを多量に使用したり、大便以外の異物を便器ボウル部220内へ投入したりする場合がある。そうすると、トラップ230において詰まりが生ずる場合がある。この場合には、詰まりが生じた後にトイレ装置100を使用する使用者は、トラップ230を直接目視することができないため、詰まりが生じたことを知らずに便器洗浄を行うことになる。そのため、詰まりが生じてから例えば2回や3回程度の便器洗浄が行われると、便器装置200に供給された洗浄水が便器ボウル部220から溢れ出るおそれがある。
【0030】
また、便器ボウル部220内の水位を検出する水位検出手段が設けられ、この水位検出手段の出力が予め設定した値を超えた場合に詰まり判定部311が詰まりの発生を判定する場合を考える。この場合には、予め設定した水位と通常(詰まりが生じていないとき)の水位との差が比較的小さいと、トイレ装置100が設置されている使用環境や便器装置200の使用者の使用状況によっては、詰まりが生じていないにもかかわらず詰まりが生じたと判定される場合がある。また、予め設定した水位と通常の水位との差が比較的大きいと、詰まりが生じたにもかかわらず詰まりが生じていないと判定される場合がある。この場合に便器装置200の洗浄が行われると、便器洗浄の途中で詰まりが生じたと判定されても便器洗浄を途中で止めることはできないため、便器装置200の種類によっては洗浄水が便器ボウル部220から溢れ出るおそれがある。
【0031】
これに対して、本実施形態にかかるトイレ装置100の詰まり判定部311は、便器装置200の詰まり状態を判定する検知部320の基準値を変更可能である。例えば、詰まり判定部311は、便器装置200の種類やトイレ装置100の設置環境などに応じて、詰まり状態を判定するための検知部320の基準値を設定することができる。これにより、本実施形態にかかるトイレ装置100は、便器装置200の種類やトイレ装置100の設置環境などにかかわらず、より確実に便器装置200の詰まり状態を検知し、洗浄水が便器装置200から溢れることを防止することができる。
【0032】
具体的には、トイレ装置100の施工業者あるいは使用者は、便器装置200の種類をリモコン340に入力することができる。リモコン340に入力された便器装置200の種類に関する信号(情報)は、送信部341から便座装置制御部310へ送信される。そうすると、詰まり判定部311は、リモコン340から受信した便器装置200の種類に関する信号に基づいて、詰まり状態を判定するための検知部320の基準値を設定する。この際、詰まり判定部311は、便器情報保存部に格納されている便器装置200の種類に関する情報を参照し、詰まり状態を判定するための検知部320の基準値を設定する。便器装置200の種類に関する情報は、例えばテーブルなどとして便器情報保存部に格納されていてもよい。この具体例については、後に詳述する。
【0033】
あるいは、検知部320は、便器洗浄後の詰まりが生じていない状態における水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかを検知し、その検知信号を便座装置制御部310へ送信する。そうすると、詰まり判定部311は、検知部320から受信した信号に基づいて、便器情報保存部に格納されている便器装置200の種類に関する情報を読み取り、詰まり状態を判定するための検知部320の基準値を設定する。
【0034】
これによれば、例えば施工業者がトイレ装置100を設置し便器洗浄を行うだけで、詰まり判定部311は、詰まり状態を判定するための検知部320の基準値を設定することができる。そのため、例えば施工業者がトイレ装置100を設置した後に行う便器洗浄の試運転と兼ねて、詰まり判定部311は、詰まり状態を判定するための検知部320の基準値を設定することができる。これにより、詰まり状態を判定するための検知部320の基準値をより効率的に設定することができ、設定のための手間を省くことができる。
【0035】
詰まり判定部311は、例えばトラップ230において詰まりが生じたと判定すると、報知部350に信号を送信する。報知部350は、詰まり判定部311から信号を受信すると、詰まりが生じたことを使用者あるいは公共施設の管理者などへ報知することができる。報知方法としては、例えば光や音などによる方法が挙げられる。具体的には、例えば、報知部350は、便座装置300の本体部301に設けられた発光ダイオードを有し、詰まり判定部311から信号を受信すると発光ダイオードを点滅させる。あるいは、報知部350は、トイレブースの扉や、便座303や図示しない便蓋などに設けられた光電部を有し、詰まり判定部311から信号を受信すると光電部を点灯させる。あるいは、報知部350は、図示しないスピーカを有し、詰まり判定部311から信号を受信するとスピーカから音声を出力する。あるいは、報知部350は、詰まり判定部311から信号を受信すると、公共施設の管理者室とデータ通信を行い、詰まりが生じたことを管理者へ報知する。使用者あるいは公共施設の管理者は、これらの報知方法を使用環境に応じて適宜選択することができる。
【0036】
次に、便器ボウル部220内の水位の変動、および詰まり状態を判定するための検知部320の基準値について、図面を参照しつつ説明する。
図3は、正常時と詰まり発生時との比較を説明するための平面模式図である。
また、図4は、便器ボウル部内の水位の揺れについて説明するための断面模式図である。
図5は、洗浄水が便器装置から溢れる状態を説明するための断面模式図である。
なお、図5(a)は、洗浄水量が約4.8リットル程度の便器装置を例示する断面模式図である。図5(b)は、洗浄水量が約8リットル程度の便器装置を例示する断面模式図である。
【0037】
まず、正常時(詰まりが生じていないとき)について説明する。図3に表した「正常時」の「待機状態」において、排水配管に圧力がかかっていない場合には、便器ボウル部220内の溜水水位は、溢流水位WL1(図4および図5参照)と同じである。一方、排水配管の設置環境によっては、排水配管に圧力がかかる場合がある。そうすると、溜水水位は、上下に変動し、溢流水位WL1とは異なる場合がある。
【0038】
ここで、本願明細書において「溢流水位」とは、詰まりが生じていないときに洗浄水がトラップから溢れて排水配管に排出されるときの水位をいうものとする。また、本願明細書において「溜水水位」とは、便器ボウル部内の溜水の水位をいうものとする。
【0039】
図4に表したように、排水配管に正圧がかかると、溜水水位は、溢流水位WL1から上昇する。一方、排水配管に負圧がかかると、溜水水位は、溢流水位WL1から下降する。そして、給排水衛生設備規準・同解説 SHASE−S206では、排水配管の圧力変動は、±40ミリメートルエーキュー(mmAq)と認められている。これにより結果として、圧力がかかっていないときの溜水水位(溢流水位)を基準として±20ミリメートル(mm)の溜水水位の変動が発生する。つまり、正常時であっても、溜水水位が上下に揺れる(変動する)ことがある。
【0040】
溜水水位の変動の度合は、例えば排水配管の径や、便器装置200の連立数や、空気抜き穴の有無などといった排水配管の設置環境によって変わる。また、溜水水位の変動の周波数は、例えばトラップ230の形状や、便器ボウル部220の形状などによって変わる。本発明者の検討の結果、どのような便器装置200であっても、溜水水位の変動の周波数は、約1ヘルツ(Hz)〜3Hz程度の範囲内に含まれることが分かった。
【0041】
このように、正常時であっても、溜水水位が上下に変動することがあるため、図1および図2に関して前述したように、便器ボウル部220内の水位の規定水位からの増減を検知するだけでは、正確に詰まりの判定を行うことは困難である。
【0042】
続いて、1回目の便器洗浄を開始すると、洗浄水が便器ボウル部220内に供給される。そして、洗浄水が便器ボウル部220の表面を流れトラップ230に吸い込まれる。そのため、図3に表した「正常時」の「1回目の洗浄中」のように、便器ボウル部220内の水位は、下降する。なお、便器装置200の洗浄方式がサイホン式である場合には、便器ボウル部220内の水位は、サイホンが発生する直前に一旦上昇する。また、便器ボウル部220内の水位が下降する速度は、便器装置200の大きさや形状などによって変わる。
【0043】
続いて、洗浄水が便器ボウル部220内に溜められ、1回目の便器洗浄が終了する。そして、図3に表した「正常時」の「1回目の洗浄後」において、排水配管に圧力がかかっていない場合には、便器ボウル部220内の溜水水位は、溢流水位WL1と同じとなる。これは、図3に表した「正常時」の「待機状態」に関して前述した如くである。
【0044】
この状態において、使用者が排泄行為を行うと、溜水水位は、排泄物が溜水に着水することで上下に変動する。また、トイレットペーパが便器ボウル部220内に投入され溜水に着水した場合にも、溜水水位は、上下に変動する。このように、使用者が排泄行為を行っているときにも、溜水水位が上下に変動することがある。また、前述したように、便器洗浄の状態は、便器装置200の洗浄方式や大きさや形状などによって変わる。そのため、検知部320は、便器ボウル部220内の水位が安定した後に、水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかの検知を行うことがより好ましい。
【0045】
続いて、図3に表した「正常時」の「2回目の洗浄中」のように、2回目の便器洗浄を開始すると、便器ボウル部220内の水位は、下降する。これは、図3に表した「正常時」の「1回目の洗浄中」に関して前述した如くである。
【0046】
これに対して、詰まり発生時について説明する。図3に表した「詰まり発生時」の「待機状態」のように、異物401が便器ボウル部220内へ投入された場合において、排水配管に圧力がかかっていない場合には、便器ボウル部220内の溜水水位は、溢流水位WL1と同じである。一方、排水配管に圧力がかかった場合には、溜水水位は、上下に変動し、溢流水位WL1とは異なる場合がある。これは、図3に表した「正常時」の「待機状態」に関して前述した如くである。
【0047】
続いて、1回目の便器洗浄を開始すると、洗浄水が便器ボウル部220内に供給される。そして、洗浄水が便器ボウル部220の表面を流れトラップ230に吸い込まれようとする。しかしながら、異物401がトラップ230において詰まると、洗浄水は、トラップ230を通過して排水配管へ流れることはできない、あるいは正常時と比較して流れにくくなる。そうすると、図3に表した「詰まり発生時」の「1回目の洗浄中」のように、便器ボウル部220内の水位は、上昇する。また、洗浄水がトラップ230を通過して排水配管へ流れることができても、正常時と比較して流れにくいため、便器ボウル部220内の水位が下降する速度は、正常時と比較して遅い。
【0048】
そして、図3に表した「詰まり発生時」の「1回目の洗浄後」のように、便器ボウル部220内の水位は、給排水衛生設備規準・同解説 SHASE−S206に基づいた溜水水位の変動の範囲よりも上昇する場合がある。さらに、便器ボウル部220内の水位は、便器洗浄をもう1回行うと洗浄水が便器装置200から溢れる限界の水位(限界水位)よりも上昇する場合がある。この状態において、2回目の便器洗浄を開始すると、図3に表した「詰まり発生時」の「2回目の洗浄中」のように、洗浄水が便器装置200から溢れる。
【0049】
一方、図3に表した「詰まり発生時」の「1回目の洗浄中」あるいは「1回目の洗浄後」のように便器ボウル部220内の水位が上昇すると、異物401が詰まった部分の水圧が上昇する。これにより、異物401がトラップ230を通過し排水配管へ排出される場合がある。この場合には、便器ボウル部220内の水位は、図3に表した「正常時」の「待機状態」のようになる。そのため、洗浄水が便器装置200から溢れることを回避することができる。
【0050】
限界水位は、便器装置200の種類によって異なる。図5(a)に表した便器装置200aの洗浄水量は、例えば約4.8リットル程度である。つまり、1回の便器洗浄により、約4.8リットルの洗浄水が便器ボウル部220内に供給される。洗浄水量や便器装置200aの形状などに基づいて算出すると、便器ボウル部220が満水となる水位(便器装置のリム上面201の高さ)から1回分の便器洗浄による水位を差し引いた水位(限界水位)WL2は、図5(a)に表した如くである。例えば、図5(a)に表した便器装置200aの限界水位WL2は、リム上面201から約47mm程度下降した水位である。
【0051】
一方、洗浄水量や便器装置200aの形状などに基づいて算出すると、溢流水位WL1に1回分の便器洗浄による水位を足した加算水位WL3は、図5(a)に表した如くである。例えば、図5(a)に表した便器装置200aの加算水位WL3は、リム上面201から約46mm程度下降した水位である。図5(a)に表したように、加算水位WL3は、限界水位WL2よりも高い。そのため、便器ボウル部220内の水位が加算水位WL3であるときに、1回分の便器洗浄を行うと、洗浄水が便器装置200aから溢れる。つまり、図5(a)に表した便器装置200aでは、詰まりが発生すると、2回目の便器洗浄において洗浄水が便器装置200aから溢れる場合がある。
【0052】
また、例えば図5(b)に表した便器装置200bの洗浄水量は、約8リットル程度である。洗浄水量や便器装置200bの形状などに基づいて算出すると、便器装置200bの限界水位WL2は、図5(b)に表した如くである。例えば、図5(b)に表した便器装置200bの限界水位WL2は、リム上面201から例えば約78mm程度下降した水位である。一方、洗浄水量や便器装置200bの形状などに基づいて算出すると、便器装置200bの加算水位WL3は、図5(b)に表した如くである。例えば、図5(b)に表した便器装置200bの加算水位WL3は、リム上面201から約38mm程度下降した水位である。図5(b)に表したように、便器装置200bの加算水位WL3は、便器装置200bの限界水位WL2よりも高い。そのため、図5(b)に表した便器装置200bでは、詰まりが発生すると、2回目の便器洗浄において洗浄水が便器装置200bから溢れる場合がある。
【0053】
このように、限界水位WL2は、便器装置200の種類によって異なる。
そこで、本実施形態の詰まり判定部311は、便器洗浄後に詰まりが発生していない状態において検知部320が検知した水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかに一定値を付加した第1の基準値を設定する。ここでいう「一定値」とは、例えば排水配管にかかる圧力の変動に伴う水位の変動分や、使用者の排泄行為に伴う水位の変動分などよりも高い水位の変動分に相当する値である。これによれば、詰まり発生時以外における溜水水位の変動による誤判定を防止することができる。
【0054】
また、本実施形態の詰まり判定部311は、第1の基準値よりも高い第2の基準値を設定する。第2の基準値は、例えば、多種類の便器装置200の限界水位WL2のうちの最小値である。例えば、図5(a)および図5(b)に関して前述した便器装置の例の場合には、第2の基準値は、便器装置200bの限界水位WL2、すなわちリム上面201から約78mm程度下降した水位となる。
【0055】
検知部320が検知する水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかは、例えば便器装置200の種類の違いや排水配管にかかる圧力の違いなどにより変動する。そのため、それらの変動の応じて、詰まり判定部311は、第1の基準値を変更可能である。一方で、詰まり判定部311は、第2の基準値を変更することはできない。つまり、第2の基準値は、一定(固定)である。
【0056】
そして、検知部320が検知した水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかが第1の基準値よりも高くなると、詰まり判定部311は、報知部350に信号を送信し、報知部350により詰まりが生じたことを報知する。また、検知部320が検知した水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかが第2の基準値よりも高くなると、詰まり判定部311は、便器洗浄機能部330に信号を送信し便器洗浄を止める。例えば、便器洗浄機能部330は、便器洗浄のための洗浄水の供給を制御する図示しない電磁弁を有する。そして、詰まり判定部311は、便器洗浄機能部330が有する電磁弁を強制的に閉じる。あるいは、待機状態において、検知部320が検知した水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかが第2の基準値よりも高い場合には、使用者が洗浄水を流すための所定の操作をリモコン340により実行しても、詰まり判定部311は、リモコン340から送信された制御信号を無視し便器洗浄を実行させない。つまり、検知部320が検知した水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかが第2の基準値よりも高くなると、詰まり判定部311は、次回の便器洗浄を禁止する。
【0057】
これによれば、第2の基準値は、一定であるため、例えば便器装置200の種類や排水配管にかかる圧力などに影響を受けることはない。そのため、詰まり判定部311は、例えば便器装置200の種類を誤検知し、詰まりが生じたにもかかわらず詰まりが生じていないと判定したとしても、第2の基準値により詰まりが生じたことをより確実に判定することができる。これにより、洗浄水が便器装置200から溢れることをより確実に防止することができる。
【0058】
また、詰まりが発生し、検知部320が検知した水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかが第1の基準値よりも高く第2の基準値よりも低い場合には、詰まり判定部311は、便器洗浄を止めるわけではない。これによれば、特に、詰まりが生じているが、僅かな詰まりで、水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかが第1の基準値よりも僅かに高いような場合で、次回の便器洗浄を許容することで、異物401が詰まった部分の水圧上昇により詰まりが解消される可能性がある。そのため、使用者にとって、使い勝手のよいトイレ装置100を提供することができる。
【0059】
次に、施工業者あるいは使用者が便器装置200の種類を入力することで、詰まり状態を判定するための検知部320の基準値を詰まり判定部311が設定する具体例について、図面を参照しつつ説明する。
図6は、基準値の設定の操作の一例を例示するフローチャート図である。
また、図7は、便器装置200の品番とリモコンの表示との対応の一例を例示する対応表である。
また、図8は、本実施形態のリモコンを例示する斜視模式図である。
【0060】
まず、トイレ装置100の施工業者等は、リモコン340に設けられた「便器設定」ボタン345を押す(ステップS101)。そうすると、図8に表したように、便器装置200の種類を選択および設定するための数値343aが、リモコン340の表示部343に表示される。続いて、トイレ装置100の施工業者等は、図7に表した対応表を参照し、設置した便器装置200の品番に対応する数値をリモコン340に設けられた「上下矢印」ボタン347で選択する(ステップS103)。そして、トイレ装置100の施工業者等は、リモコン340の表示部343に表示された数値343aが設置した便器装置200の品番に対応する数値と一致しているか否かを図7に表した対応表を参照し確認する。
【0061】
続いて、トイレ装置100の施工業者等は、リモコン340に設けられた「便器設定」ボタン345を再度押す(ステップS105)。これにより、詰まり判定部311は、リモコン340から受信した便器装置200の種類に関する信号に基づいて、詰まり状態を判定するための検知部320の基準値の設定を完了する(ステップS107)。
【0062】
以上説明したように、本実施形態によれば、詰まり判定部311は、便器装置200の詰まり状態を判定する検知部320の基準値を変更可能である。例えば、詰まり判定部311は、便器装置200の種類やトイレ装置100の設置環境などに応じて、詰まり状態を判定するための検知部320の基準値を設定することができる。これにより、本実施形態にかかるトイレ装置100は、便器装置200の種類やトイレ装置100の設置環境などにかかわらず、より確実に便器装置200の詰まり状態を検知し、洗浄水が便器装置200から溢れることを防止することができる。
【0063】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、便器装置200や便座装置300などが備える各要素の形状、寸法、材質、配置などやリモコン340や報知部350の設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0064】
100 トイレ装置、 200、200a、200b 便器装置、 201 リム上面、 210 洗浄水給水部、 220 便器ボウル部、 230 トラップ、 300 便座装置、 301 本体部、 303 便座、 310 便座装置制御部、 311 詰まり判定部、 313 便器情報保存部、 320 検知部、 330 便器洗浄機能部、 340 リモコン、 341 送信部、 343 表示部、 343a 数値、 345 「便器設定」ボタン、 347 「上下矢印」ボタン、 350 報知部、 361 人体検知部、 363 局部洗浄装置、 365 乾燥装置、 367 暖房便座装置、 401 異物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水洗大便器のボウル部内の水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかを検知可能な検知部と、
前記検知部の検知情報に基づいて前記水洗大便器の詰まり状態を判定する詰まり判定部と、
を備え、
前記詰まり判定部は、前記水洗大便器の詰まり状態を判定するときの基準となる前記検知部の基準値を変更可能であることを特徴とするトイレ装置。
【請求項2】
前記水洗大便器の種類を入力可能な入力部をさらに備え、
前記詰まり判定部は、前記入力部に入力された情報に基づいて前記水洗大便器の種類に応じた前記基準値を設定することを特徴とする請求項1記載のトイレ装置。
【請求項3】
前記詰まり判定部は、便器洗浄後の詰まりが発生していない状態において前記検知部が検知した前記ボウル部内の水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかに基づいて前記水洗大便器の種類を読み取り前記基準値を設定することを特徴とする請求項1または2に記載のトイレ装置。
【請求項4】
前記詰まり判定部は、
便器洗浄後の詰まりが発生していない状態において前記検知部が検知した前記ボウル部内の水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかに一定値を付加し前記水洗大便器の詰まり状態を判定するときの基準となる第1の基準値と、
前記第1の基準値よりも高い第2の基準値と、
を設定し、
前記第1の基準値は、前記詰まり判定部により変更可能とされ、
前記第2の基準値は、一定であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のトイレ装置。
【請求項5】
前記水洗大便器の詰まりが発生したことを報知する報知部をさらに備え、
前記詰まり判定部は、前記検知部が検知した前記ボウル部内の水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかが前記第1の基準値よりも高くなると前記報知部により前記水洗大便器の詰まりが発生したことを報知する制御を実行し、前記検知部が検知した前記ボウル部内の水位および水位に関連する指標の少なくともいずれかが前記第2の基準値よりも高くなると前記水洗大便器の洗浄を禁止する制御を実行することを特徴とする請求項4記載のトイレ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−72222(P2013−72222A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212347(P2011−212347)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】