説明

トウモロコシ種子中の脂肪含量関連遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを検出するプライマーセット及びその使用

【課題】トウモロコシの種子中の脂肪含量に関連する量的形質遺伝子座に連鎖したDNAマーカーを検出するためのプライマーセット及びその使用を提供する。
【解決手段】トウモロコシ種子中の脂肪含量に関与する第1、第4及び第6染色体上に座乗するQTLに連鎖するDNAマーカーを検出するためのプライマーセット、上記プライマーセットを用いてトウモロコシゲノムDNAを用いたPCRを行い、増幅されるDNA断片の長さの違いにより脂肪含量関連QTLの遺伝子型を識別する方法、上記方法により、高脂肪含量系統に由来する脂肪含量関連QTLを有する個体を選抜し、その後代において種子中の脂肪含量の高い系統を作出する高脂肪含量系統の作出方法。
【効果】簡便、確実に脂肪含量の向上した個体を選抜することができ、また、本手法を用いることで、幼苗段階での選抜が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トウモロコシ自殖系統の育成過程における高脂肪含量個体の選抜方法に関するものであり、更に詳しくは、トウモロコシ種子中の脂肪含量関連遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを検出するプライマーセット及び該プライマーセットを用いてトウモロコシゲノムDNAのPCRを行い、増幅されるDNA断片の長さの違いにより脂肪含量関連QTLの遺伝子型を識別し、高脂肪含有系統に由来する脂肪含量関連QTLを有する個体を選抜し、その後代においてトウモロコシ種子中の脂肪含量の高い高脂肪含量系統を作出する方法に関するものである。
【0002】
本発明は、脂肪含量関連量的形質遺伝子座(QTL)に連鎖するDNAマーカーを検出できるプライマーセットを用いて、トウモロコシゲノムDNAのPCRを行い、増幅されるDNA断片長により遺伝子型を判別することにより、従来の脂肪含量の測定を行うことなく、脂肪含量の向上した個体の選抜を可能とする新しい高脂肪含量系統の作出方法を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
飼料用トウモロコシにおいて、トウモロコシ種子の脂肪含量の向上は子実の栄養強化に有効であることから、従来、多くの高脂肪含量系統の品種が作出されている。通常、トウモロコシ種子の粗脂肪含量は、3−4%であるが、高脂肪含量系統ではそれ以上の脂肪含量を示し、10%を超えるものも少なくない。
【0004】
一般に、高脂肪含量系統の選抜では、脂肪含量以外の重要な形質(耐病性や耐倒伏性などの農業特性)に基づいて個体選抜し、自殖(戻し交配の場合、反復親との交配)し、その後、得られた種子の脂肪含量を測定し、更に、選抜を行う手法が採られている。
【0005】
この時の脂肪含量の測定は、一般的な食品の分析と同様に、ソックスレー抽出法等の化学的手法によって行われるが、これらの分析法は、高度な技術を要するうえ、数10グラムの検体を必要とする。したがって、上記手法では、1個体(1雌穂)から得られる種子量が少ないと、分析を行い、かつ次世代での播種に用いる種子を確保することができなくなる場合もある。また、脂肪含量に基づく選抜では、脂肪含量に関与する遺伝子の有無を確認していないため、交配を重ねるにつれ、高脂肪含量系統由来の遺伝子が失われる危険がある。
【0006】
本発明以前に、先行技術として、高脂肪含量系統のIllinois High Oilに由来する解析集団による脂肪含量関連QTLの探索が行われている(非特許文献1、2)。しかしながら、これらは、制限酵素断片長多型(RFLP)マーカーを用いており、マーカー選抜のためには、より緊密で簡便に調査することを可能とするポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を利用したマーカーの開発が望まれていた。
【0007】
また、トウモロコシ種子の脂肪含量は、量的形質であり、同形質に関与する遺伝子は数10個存在すると考えられており、解析集団が異なれば、また、新たなQTLが明らかになることが予想された。
【0008】
【非特許文献1】Goldman et al.,Crop Sci.,34:908−915(1994)
【非特許文献2】Sughroue and Rocheford,Theor.Appl.Genet.,87:916−924(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況の中で、本発明者らは、上記問題を解決すべく、Illinois High Oilとは異なった遺伝的背景を持つ高脂肪含量集団R Alexho C23(M)より選抜された高脂肪含量系統GY220を片親とする品種KY115より派生した3解析集団を育成し、AFLPマーカーやSSRマーカーを用いた連鎖地図を作成し、各個体の脂肪含量測定結果とともにQTL解析を行うことにより、脂肪含量に関連する量的形質遺伝子座(QTL)及びこれらに連鎖するDNAマーカーを検出するために好適なプライマーセットの構築を試みた。
【0010】
その結果、トウモロコシ種子の脂肪含量に関する3つの量的形質遺伝子座(QTL)が第1、第4及び第6染色体上に座乗することを見出した。更に、各QTLの周辺に関してSSRマーカーを増やし、より高密度の連鎖地図を作成することにより、上記遺伝子座に、より緊密に連鎖するSSRマーカーを検出できるプライマーセットを構築することに成功し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、脂肪含量に関連する量的形質遺伝子座(QTL)に連鎖するDNAマーカーの検出を可能とするプライマーセット、該プライマーセットを用いてトウモロコシゲノムDNAのPCRを行い、増幅されるDNA断片の長さの違いにより脂肪含量関連QTLの遺伝子型を識別する方法、該方法により高脂肪含量系統に由来する脂肪含量関連QTLを有する個体を選抜し、その後代においてトウモロコシ種子中の脂肪含量の高い高脂肪含量系統を作出する方法、及びその高脂肪含量系統を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)トウモロコシ種子中の脂肪含量関連遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを検出するためのプライマーセットであって、トウモロコシ種子中の脂肪含量に関与する第1、第4及び第6染色体上に座乗する量的形質遺伝子座(QTL)に連鎖するDNAマーカーを検出することができるプライマーセット。
(2)DNAマーカーが、トウモロコシゲノムDNA中に存在し、脂肪含量関連QTLから10センチモルガンの範囲内に位置するDNAマーカーである、前記(1)に記載のプライマーセット。
(3)配列表の配列番号1〜23の順方向プライマー及び24〜46の逆方向プライマーの中から選択される一対の塩基配列を有する、前記(1)又は(2)に記載のプライマーセット。
(4)前記(1)から(3)のいずれかに記載したプライマーセットを用いてトウモロコシ個体より抽出したゲノムDNAを用いたPCRを行い、増幅されるDNA断片の長さの違いにより脂肪含量関連QTLの遺伝子型を識別する方法。
(5)前記(4)に記載の方法により、高脂肪含量系統に由来する脂肪含量関連QTLを有する個体を選抜し、その後代においてトウモロコシ種子中の脂肪含量の高い高脂肪含量系統を作出することを特徴とする高脂肪含量系統の作出方法。
(6)前記(5)に記載の系統作出方法により作出されたトウモロコシの系統であって、トウモロコシ種子中の脂肪含量の高い、第1、第4及び第6染色体上に脂肪含量関連QTLを有することを特徴とする高脂肪含量系統。
【0013】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、トウモロコシ種子中の脂肪含量関連遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを検出するためのプライマーセットであって、トウモロコシ種子の脂肪含量に関与する第1、第4及び第6染色体上に座乗する量的形質遺伝子座(QTL)に連鎖するDNAマーカーを検出することができることを特徴とするものである。本発明では、上記DNAマーカーが、トウモロコシゲノムDNA中に存在し、脂肪含量関連QTLから10センチモルガンの範囲内に位置するDNAマーカーであること、上記プライマーセットが、配列表の配列番号1〜23の順方向プライマー及び24〜46の逆方向プライマーの中から選択される一対の塩基配列を有すること、を好ましい実施の態様としている。
【0014】
また、本発明は、上記したプライマーセットを用いてトウモロコシ個体より抽出したゲノムDNAを用いたPCRを行い、増幅されるDNA断片の長さの違いにより脂肪含量関連QTLの遺伝子型を識別する方法、上記方法により、高脂肪含量系統に由来する脂肪含量関連QTLを有する個体を選抜し、その後代においてトウモロコシ種子中の脂肪含量の高い系統を作出する高脂肪含量系統の作出方法、上記の系統作出方法によって得られる、第1、第4及び第6染色体上に脂肪含量QTLを有する高脂肪含量系統の点に特徴を有するものである。
【0015】
本発明は、トウモロコシ種子中の脂肪含量に関連する量的形質遺伝子座に連鎖し、遺伝子型の判定に利用可能なDNAマーカーを検出するためのプライマーセットに関するものである。以下、本発明のプライマーセット及びその効果的な利用方法について説明する。
【0016】
本発明では、第1、第4及び第6染色体上に座乗する脂肪含量関連QTLに対し、緊密に連鎖するマーカーをそれぞれ複数個見出している。しかしながら、本発明に係るDNAマーカーはこれらに限定されるものではなく、育種素材として用いる高脂肪含量系統及び任意の通常系統間でこれらのマーカーで多型が見られない場合には、新たなマーカーが必要になる。
【0017】
本発明では、各々のマーカーを調査するためのプライマーセットを用いてトウモロコシ個体より抽出したゲノムDNAを用いたPCRを行い、増幅されるDNA断片の長さの違いによりマーカーの遺伝子型を判定する。本発明が対象とするDNAマーカーは、脂肪含量関連QTLの近傍に座乗しているため、上記PCRによる遺伝子型の判別結果から、各個体の脂肪含量関連QTLが、高脂肪含量系統或いは通常系統のいずれに由来するかを判別することが可能となる。
【0018】
また、本発明では、上記の方法で高脂肪含量系統由来の脂肪含量関連QTLを有する個体を選抜し、後代においてトウモロコシ種子中の脂肪含量の高い高脂肪含量系統を得ることにより、高脂肪含量系統を作出することが可能となる。
【0019】
本発明を利用する際に用いる高脂肪含量系統には、例えば、本発明者らが解析に用いたR Alexho(M)C23由来の系統GY220を用いることが望ましいが、これらに制限されるものではない。トウモロコシ種子中の脂肪含量は、量的形質であり、複数の遺伝子座によって決定される形質である。そのため、本発明で見出されたQTLが、必ずしもすべての高脂肪含量系統の脂肪含量向上に寄与しているとは限らない。他の高脂肪含量系統を育種素材として用いる場合、まず、本発明で見出された各遺伝子座がその系統の脂肪含量向上に寄与していることを確認しておくことが望ましい。
【0020】
上記のDNAマーカーの遺伝子型判定に用いるゲノムDNAの抽出法には、特別な制約は無く、植物の葉片からのDNA抽出で一般的に用いられているCTAB法などを必要に応じて改変し行えば良い。また、市販のDNA抽出キットを用いることもできる。
【0021】
DNAマーカーの遺伝子型判定の際に行うPCRの条件は、後記する実施例に例示されているが、これらに限定されるものではなく、プライマーセットや使用機器に合わせて適宜変更することができる。同様に、電気泳動条件も変更可能であり、増幅断片長の差が十分にあれば、アガロースゲルを用いることもできる。
【0022】
本発明では、脂肪含量関連遺伝子座の解析のための解析集団が用いられる。解析集団としては、例えば、高脂肪含量F品種KY115(GY220/1145)を自殖、或いは自殖系統Na42又はH95との交配により得られる、解析用集団(例えば、KY115 F 199個体、KY115/Na42 F 127個体、KY115/H95 BC1 214個体)が例示されるが、これらに制限されるものではない。各個体は、例えば、葉片より適宜の手法によりDNAを抽出し、後の解析に用いる。得られる自殖種子は、ジエチルエーテル抽出法等で脂肪含量を測定する。
【0023】
次に、連鎖地図の作成には、例えば、増幅断片長多型(AFLP)マーカー及び単純反復配列(SSR)マーカーが用いられる。AFLP解析には、例えば、Vosらの方法及びMyburgらの方法が用いられる。AFLP解析におけるゲノムDNAの制限酵素消化は、例えば、EcoRI及びMseI、もしくはPstI及びMseIの組合せで行う。EcoRIプライマー及びPstIプライマーは、例えば、蛍光色素で標識して用いる。多型の検出は、DNAシークエンサで行うことができる。
【0024】
SSRマーカーは、例えば、Maize Genetics and Genomics Database(MaizeGDB,http://www.maizegdb.org/)で公開されたものが用いられる。各SSRマーカーのプライマーペアのうち、例えば、順方向プライマーはIRD800等の蛍光色素で標識して用いる。SSR断片増幅のためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、例えば、MaizeGDBに記載の通りの条件で行うことができる。
【0025】
PCRの条件として、好適には、例えば、1)94℃ 5分、2)94℃ 1分間、65℃ 1分間、72℃ 1.5分間 2サイクル、3)94℃ 1分間、65℃(1サイクル毎に1℃下げる)1分間、72℃ 1.5分間 10サイクル、4)94℃ 1分間、55℃ 1分間、72℃ 1.5分間 30サイクル、5)72℃ 7分間が例示されるが、これらに制限されるものではなく、これらの条件は適宜変更することができる。
【0026】
連鎖地図は、AFLP及びSSRマーカーでの多型調査の結果をもとに、連鎖解析ソフトウェアで作成する。QTL解析は、上述の連鎖地図と各個体の脂肪含量をもとに、QTL解析ソフトウェアを用いて行う。各マーカーの多型調査結果をもとに、例えば、LOD=3.0で連鎖解析を行い、連鎖地図を作成する。例えば、KY115 F集団では、239マーカー(SSRマーカー42個及びAFLPマーカー197個)をもとに、2〜4個のマーカーからなる小さな連鎖群を除き、11個の大きな連鎖群が形成される。これらの連鎖群は、座乗しているSSRマーカーからそれぞれ10本のトウモロコシ染色体に対応することが示された。
【0027】
同様に、KY115/H95 BC1集団では、240マーカーにより10本の染色体に対応する10個の大きな連鎖群と4つの小さな連鎖群が見られた。KY115/Na42 F集団では、341マーカーにより30連鎖群が形成され、そのうちの9連鎖群が第1から第9染色体に対応していた。ただし、第10染色体に関しては、連鎖解析に用いたSSRマーカーに、第10染色体に座乗するものが無かったため、対応する連鎖群は確認されていない。
【0028】
解析集団の連鎖地図と各個体の脂肪含量に基づき、単純区間マッピング法によりQTL解析を行い、その結果、14個のQTLが検出され、このうち、複数の解析集団でほぼ同位置に検出された第1、第4及び第6染色体上のQTLに注目した。第1染色体上のQTLは、KY115 F集団及びKY115/Na42 F集団で検出され、それぞれ16.9%と16.8%の寄与率が示された。
【0029】
同様に、第4染色体上のQTLは、KY115 F集団及びKY115/H95 BC1集団で検出され、12.6%と28.0%の寄与率を示し、第6染色体上のQTLは、KY115 F集団及びKY115/Na42 F集団で検出され、20.6%と26.8%の寄与率を示した。
【0030】
トウモロコシでは、染色体上のおおよその位置をBin番号で表記するが、これは、遺伝地図を約20cM(センチモルガン)ずつ100の領域に分割したもので、染色体番号と二桁の数字で表す。第1、第4及び第6染色体上のQTLは、それぞれ1.03、4.07〜4.08、6.01〜6.05の領域に座乗していることが判明した。
【0031】
上記の3つの脂肪含量関連QTLに、より緊密に連鎖するマーカーを見出すため、Bin番号をもとに、Maize Genetics and Genomics Databaseより、各QTLの周辺に座乗すると思われるSSRマーカーを選び出した。KY115 F集団に対して、これらのマーカーの多型を調査し、上述のAFLP及びSSRマーカーの調査結果に加えて、同QTL周辺の高密度連鎖地図を作成した。
【0032】
その後、QTL解析ソフトウェアによる複合区間マッピング法によるQTL解析を行った。解析の結果、調査した第1、第4及び第6染色体上にLODスコア2.5以上の領域がそれぞれ1箇所ずつ存在し、QTLの存在が示された。各染色体のLODスコアのピークより10cM(センチモルガン)以内にあるSSRマーカーは、第1染色体上のQTLには7個、第4染色体上のQTLには12個、第6染色体上のQTLには4個見られた。そこで、各QTLの遺伝子型を検出できるプライマーセットを構築した。
【0033】
本発明では、脂肪含量関連遺伝子座の解析集団としては、上述の解析用集団の場合と同様にして他の任意の解析用集団を利用することができる。連鎖地図の作成におけるAFLP及びSSRマーカーでの多型調査、連鎖解析、QTL解析の手法及び手段についても任意の手法及び手段を利用することができる。また、本発明において、脂肪含量関連QTLを有する個体の選抜、その後代の育成、作出の方法は常法に従って行うことが可能であり、特に制限されるものではない。
【0034】
本発明では、例えば、上述のプライマーセットを用いてトウモロコシ個体より抽出したゲノムDNAを用いたPCRを行う、増幅されるDNAの断片の長さの違いにより脂肪含量関連QTLの遺伝子座を識別するが、表1に、脂肪含量関連QTL近傍のマーカーの増幅断片長の例を示す。本発明では、このような増幅断片長の違いに基づいて供試した個体の系統を判定することが可能となる。表1において、増幅断片長は電気泳動像から推定した。
【0035】
【表1】

【発明の効果】
【0036】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明により、トウモロコシ種子中の脂肪含量に関与する第1、第4及び第6染色体上の量的形質遺伝子座(QTL)に連鎖するDNAマーカーを検出するためのプライマーセットを提供することができる。
(2)トウモロコシゲノムDNA中に存在し、上記脂肪含量関連QTLから10センチモルガンの範囲内に位置するDNAマーカーを検出可能とするプライマーセットを提供することができる。
(3)上記DNAマーカーにより脂肪含量関連QTLの遺伝子型を識別する方法を提供することができる。
(4)本発明により提供されるプライマーセットを用いて脂肪含量関連遺伝子座の遺伝子型を判定することにより、脂肪含量の向上したトウモロコシ自殖系統を効率的かつ確実に作出することができる。
(5)高脂肪含量系統に由来する脂肪含量関連QTLを有する個体を選抜し、その後代において種子中の脂肪含量の高い系統を作出する方法及びその高脂肪含量系統を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
1)解析集団
脂肪含量関連遺伝子座の解析のため、高脂肪含量F品種KY115(GY220/1145)を自殖、或いは自殖系統Na42又はH95との交配により、3つの解析用集団(KY115 F 199個体、KY115/Na42 F 127個体、KY115/H95 BC1 214個体)を用意した。各個体は、葉片よりCTAB法によりDNAを抽出し、後の解析に用いた。得られた自殖種子は、財団法人 日本食品分析センターに依頼し、ジエチルエーテル抽出法で脂肪含量を測定した。
【0039】
3集団それぞれの各個体の脂肪含量の分布は、正規分布に従っていた。脂肪含量の平均は、KY115 F集団が最も高かった(図1)。
【0040】
2)連鎖地図作成
連鎖地図の作成には、増幅断片長多型(AFLP)マーカー及び単純反復配列(SSR)マーカーを用いた。AFLP解析は、Vosらの方法(Nucleic Acids Res.23:4407−4414(1995))及びMyburgらの方法(BioTechniques 30:348−357(2001))に倣って行った。
【0041】
AFLP解析におけるゲノムDNAの制限酵素消化は、EcoRI及びMseI、もしくはPstI及びMseIの組合せで行い、EcoRIプライマー及びPstIプライマーは、IRD700或いはIRD800蛍光色素(アロカ社製)で標識されたものを用いた。多型の検出は、DNAアナリシスシステム LIC−4200L−2(アロカ社製)で行った。
【0042】
SSRマーカーは、Maize Genetics and Genomics Database(MaizeGDB,http://www.maizegdb.org/)で公開されたものを用いた。各SSRマーカーのプライマーペアのうち、順方向プライマーはIRD800蛍光色素で標識した。SSR断片増幅のためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、MaizeGDBに記載の通り、以下の条件で行った。
【0043】
1)94℃ 5分、2)94℃ 1分間、65℃ 1分間、72℃ 1.5分間 2サイクル、3)94℃ 1分間、65℃(1サイクル毎に1℃下げる)1分間、72℃ 1.5分間 10サイクル、4)94℃ 1分間、55℃ 1分間、72℃ 1.5分間 30サイクル、5)72℃ 7分間。そして、多型の検出は、DNAアナリシスシステム LIC−4200L−2(アロカ社製)で行った。
【0044】
連鎖地図は、AFLP及びSSRマーカーでの多型調査の結果をもとに、連鎖解析ソフトウェアとして、JoinMap(Stam,Plant J.3:739−744(1993))を用いて作成した。QTL解析は、上述の連鎖地図と各個体の脂肪含量をもとに、QTL解析ソフトウェアとして、MapQTL(Van OoijenとMaliepaard,Plant Genome IV Conference(1996))を用いて行った。
【0045】
各マーカーの多型調査結果をもとに、LOD=3.0で連鎖解析を行い、連鎖地図を作成した結果、KY115 F集団では、239マーカー(SSRマーカー42個及びAFLPマーカー197個)をもとに、2〜4個のマーカーからなる小さな連鎖群を除き、11個の大きな連鎖群が形成された。これらの連鎖群は、座乗しているSSRマーカーからそれぞれ10本のトウモロコシ染色体に対応することが示された。
【0046】
同様に、KY115/H95 BC1集団では、240マーカーにより10本の染色体に対応する10個の大きな連鎖群と4つの小さな連鎖群が見られた。KY115/Na42 F集団では、341マーカーにより30連鎖群が形成され、そのうちの9連鎖群が第1から第9染色体に対応していた。ただし、第10染色体に関しては、連鎖解析に用いたSSRマーカーに、第10染色体に座乗するものが無かった。そのため、対応する連鎖群は確認できなかった。
【0047】
3解析集団の連鎖地図と各個体の脂肪含量に基づき、単純区間マッピング法によりQTL解析を行った。その結果、14個のQTLが検出された。このうち、複数の解析集団でほぼ同位置に検出された第1、第4及び第6染色体上のQTLに注目した。第1染色体上のQTLは、KY115 F集団及びKY115/Na42 F集団で検出され、それぞれ16.9%と16.8%の寄与率が示された。
【0048】
同様に、第4染色体上のQTLは、KY115 F集団及びKY115/H95 BC1集団で検出され、12.6%と28.0%の寄与率を示し、第6染色体上のQTLは、KY115 F集団及びKY115/Na42 F集団で検出され、20.6%と26.8%の寄与率を示した(表2)。
【0049】
【表2】

【0050】
トウモロコシでは、染色体上のおおよその位置をBin番号で表記するが、これは、遺伝地図を約20cM(センチモルガン)ずつ100の領域に分割したもので、染色体番号と二桁の数字で表す(Gardiner et al.1993 Genetics 134:917−930)。第1、第4及び第6染色体上のQTLは、それぞれ1.03、4.07〜4.08、6.01〜6.05の領域に座乗していた。
【0051】
上記の3つの脂肪含量関連QTLに、より緊密に連鎖するマーカーを見出すため、Bin番号をもとに、Maize Genetics and Genomics Databaseより、各QTLの周辺に座乗すると思われるSSRマーカーを選び出した。KY115 F集団に対して新たに追加したSSRマーカーの多型を調査し、上述のAFLP及びSSRマーカーの調査結果に加えて、同QTL周辺の高密度連鎖地図を作成した。
【0052】
その後、QTL解析ソフトウェアとして、Windows(登録商標) QTL Cartographer(Wang S.,C.J.Basten,and Z.−B.Zeng(2006).Department of Statistics,North Carolina State University,Raleigh,NC.(http://statgen.ncsu.edu/qtlcart/WQTLCart.htm))を用いて、複合区間マッピング法によるQTL解析を行った。
【0053】
解析の結果、調査した第1、第4及び第6染色体上にLODスコア2.5以上の領域がそれぞれ1箇所ずつ存在し、QTLの存在が示された。各染色体のLODスコアのピークより10cM(センチモルガン)以内にあるSSRマーカーは、第1染色体上のQTLには7個、第4染色体上のQTLには12個、第6染色体上のQTLには4個見られた。これらのマーカーを検出できるプライマーセットを構築し、利用することで、各QTLの遺伝子型判定が可能となった(表3、図2)。
【0054】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0055】
以上詳述したように、本発明は、トウモロコシ種子中の脂肪含量関連遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを検出するためのプライマーセット及びその使用に係るものであり、本発明により、トウモロコシ種子中の脂肪含量に関与する第1、第4及び第6染色体上の量的形質遺伝子座(QTL)に連鎖するDNAマーカーを検出するためのプライマーセットを提供することができる。トウモロコシゲノムDNA中に存在し、上記脂肪含量関連QTLから10センチモルガンの範囲内に位置するDNAマーカーを検出するためのプライマーセットを提供することができる。本発明により提供されるプライマーセットを用いて脂肪含量関連遺伝子座の遺伝子型を判定することにより、脂肪含量の向上したトウモロコシ自殖系統を効率的かつ確実に作出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明で用いた解析集団における各個体の脂肪含量の分布を示す図である。グラフは、上からKY115 F集団、KY115とNa42間のF集団、KY115とH95間のBC1集団の結果を示す。中段及び下段の図では、両親(KY115及びNa42もしくはH95)の脂肪含量を図中に矢印で示す。
【図2】脂肪含量関連遺伝子座に連鎖することが示されたDNAマーカーでの遺伝子型判定の一例を示す図である。図中では、umc2318、phi452693、umc2135の3マーカーについて同時に遺伝子型の調査を行っている。図中、“M”はサイズマーカーを示し、図左にサイズマーカーの塩基数を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トウモロコシ種子中の脂肪含量関連遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを検出するためのプライマーセットであって、トウモロコシ種子中の脂肪含量に関与する第1、第4及び第6染色体上に座乗する量的形質遺伝子座(QTL)に連鎖するDNAマーカーを検出することができるプライマーセット。
【請求項2】
DNAマーカーが、トウモロコシゲノムDNA中に存在し、脂肪含量関連QTLから10センチモルガンの範囲内に位置するDNAマーカーである、請求項1に記載のプライマーセット。
【請求項3】
配列表の配列番号1〜23の順方向プライマー及び24〜46の逆方向プライマーの中から選択される一対の塩基配列を有する、請求項1又は2に記載のプライマーセット。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載したプライマーセットを用いてトウモロコシ個体より抽出したゲノムDNAを用いたPCRを行い、増幅されるDNA断片の長さの違いにより脂肪含量関連QTLの遺伝子型を識別する方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法により、高脂肪含量系統に由来する脂肪含量関連QTLを有する個体を選抜し、その後代においてトウモロコシ種子中の脂肪含量の高い高脂肪含量系統を作出することを特徴とする高脂肪含量系統の作出方法。
【請求項6】
請求項5に記載の系統作出方法により作出されたトウモロコシの系統であって、トウモロコシ種子中の脂肪含量の高い、第1、第4及び第6染色体上に脂肪含量関連QTLを有することを特徴とする高脂肪含量系統。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−220269(P2008−220269A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63311(P2007−63311)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(501025388)社団法人日本草地畜産種子協会 (11)
【Fターム(参考)】