説明

トップエミッション型有機エレクトロルミネッセンス素子およびその製法

【課題】
低コストで製造でき、しかも長寿命である、照明用途に適するトップエミッション型の有機エレクトロルミネッセンス素子およびその製法を提供する。
【解決手段】
金属基板1上に、透明材料からなる第1電極3と、有機EL層4と、透明材料からなる第2電極5とがこの順に積層され、上記金属基板1と第1電極3との間に、光路長調整層2が設けられ、この光路長調整層2の作用により、取り出す光の波長範囲を広くするようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低コストで製造できる、照明用途に適するトップエミッション型有機エレクトロルミネッセンス素子およびその製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
次世代の低消費電力の発光装置として期待されている有機エレクトロルミネッセンス(以下「有機EL」とする)発光装置は、有機発光材料に由来する多彩な色彩の発光が得られ、また、自発光素子からなるため、TVなどのディスプレイ用としても注目されている。
【0003】
このような有機EL発光装置に用いられる有機EL素子は、無機EL素子に比べると薄膜素子であり、また、面発光素子であるという特徴を有しているため、この特徴を活かした照明機器、液晶ディスプレイのバックライト、展示デコレーション用の発光部品やデジタルサイネージ等の用途も期待されている。
【0004】
一方、有機EL素子は、発光時に発生する熱のために寿命が短い、という問題を有している。このため、照明機器等に用いられるような比較的広い発光面積を有する有機EL素子には、特にその熱の発散性が求められるため、基板に熱伝導性の高い金属を用いることがある。
【0005】
しかし、基板に金属を用いる場合、基板を通して光を取り出すことができないため、有機EL素子は、基板と反対側(第2電極側)から光を取り出すトップエミッション構造をとることになる。この場合、第1電極、有機EL層、第2電極からなる共振器構造を有し、有機EL層が共振部となるため、有機EL層内の有機発光層で発生した光が有機EL層内の多重反射により、共振波長の光だけが増幅されて第2電極側から取り出される。このため、取り出される光は、発光スペクトルにおけるピークが強く、かつ、鋭い(ピークトップが高く、幅が狭い)ものとなる。このような発光スペクトルにおけるピークの狭線化は、色純度の上昇につながるため、有機EL素子を、例えば、ディスプレイに用いる場合のように、各画素の色調を明確化するには有効であるが、照明機器に用いる場合のように、発光スペクトルにおけるピークの幅が広い白色発光を得るには問題となる。
【0006】
有機EL素子をトップエミッション型とした場合において、発光スペクトルにおけるピークの狭線化を防止することに関し、特許文献1には、光反射材料からなる第1電極と透明材料からなる第2電極との間に有機EL層を挟み、第2電極及び有機EL層の少なくとも一方が共振器構造の共振部となるように構成された表示素子において、有機EL層や第2電極の厚みを厚くするか、別途パッシベーション膜を設けることにより、その共振部の光路長が特殊な数式を満たすようにしたディスプレイ用途の表示装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4174989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このディスプレイ装置において、上記共振部の光路長が特殊な数式を満たすようにするために、有機EL層の厚みを必要以上に厚くすると、有機発光材料の移動度が低いこと等から素子特性が悪くなる傾向がみられる。また、有機EL層自体の厚みによって、その発光が遮られるおそれがあるため、現実的ではない。また、第2電極の厚みを増加させることや、酸化シリコン等からなるパッシベーション膜を別途設けることは、真空蒸着またはスパッタリングの成膜速度が遅いこと、また、余分な工程が増える等から製造に時間がかかる、という問題がある。
【0009】
一方、有機EL素子を低コストで製造するための手法として、ロールトゥロールプロセスが知られている。このロールトゥロールプロセスで有機EL素子を効率良く製造するには、有機EL層を含む各層の形成工程のすべてのライン速度を一致させる必要がある。しかし、全工程のなかに、他の工程より時間の掛かる工程が一部分でも含まれると、間欠運転が必要となるため、製造効率が悪くなるとともに、複雑で大型の製造装置が必要になる。したがって、上記特許文献1に開示の手法により、有機EL素子をトップエミッション構造とした場合における光のスペクトルの狭線化を防止しようとすると、膜厚の厚いものを、真空蒸着またはスパッタリングのように成膜速度の著しく遅い方法で成膜する工程が必要となるため、間欠運転および複雑で大型の製造装置が必要となり、たとえロールトゥロールプロセスによっても効率良く製造することができず、結果的に高コストとなる。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、低コストで製造でき、しかも長寿命である、照明用途に適するトップエミッション型の有機EL素子およびその製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のトップエミッション型有機EL素子は、金属基板と、第1電極と、上記第1電極上に形成された有機EL層と、上記有機EL層上に形成された第2電極を有し、上記金属基板と上記第1電極との間に、上記第2電極側から射出される光の波長範囲を広くするための光路長調整層が形成されているトップエミッション型有機エレクトロルミネッセンス素子であることを第1の要旨とする。
【0012】
そして、一方のロールからシート状金属基板を送り出し、他方のロールに巻き取ることにより上記シート状金属基板を搬送する工程と、上記シート状金属基板上に光路長調整層を形成する工程と、上記光路長調整層上に第1電極を形成する工程と、上記第1電極上に有機EL層を形成する工程と、上記有機EL層上に第2電極を形成する工程とを備えたことを特徴とする、トップエミッション型有機エレクトロルミネッセンス素子の製法を第2の要旨とする。
【0013】
すなわち、本発明者らは、照明用途に用いる有機EL素子の長寿命化を図るため、研究を重ねた。そして、有機EL層に含まれる有機発光層から生じる熱によるダメージを軽減させるために、まず、基板に熱伝導率の高い金属を用いることにした。そして、この基板に金属を用いたトップエミッション型有機EL素子が、共振器構造を有することに起因する、発光スペクトルにおけるピークが狭線化する問題を解消するため、一連の研究を重ねた。そして、上記共振器構造において、共振部の光路長が長くなるに従って、発光スペクトルに現れるピークの間隔が狭くなり、取り出される光に多数のピークが存在し、白色光に近くなることに着目してさらに研究を重ねた結果、金属基板と第1電極との間に光路長調整層を設けて、有機EL素子の共振部の光路長を長くすることにより、発光スペクトルにおけるピークを可視光域に多数出現させ、広い波長範囲の光を取り出せることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明のトップエミッション型有機EL素子は、金属基板を用いるようになっている。したがって、有機発光層で発生する熱を効率よく分散させることができるため、長寿命になる。しかも、金属基板上に、透明材料からなる第1電極と、有機発光層を含む有機EL層と、透明材料からなる第2電極とがこの順に積層され、上記金属基板と第1電極との間に、光路長調整層が設けられている。このため、有機発光層で発光された光が、金属基板上面(金属基板と光路長調整層との境界面)と第2電極の下面(有機EL層と第2電極との境界面)とで反射し、光路長調整層、第1電極、有機EL層を共振部として取り出される。すなわち、上記光路長調整層の存在により光路長を長くすることができるため、有機EL層の厚みを厚くすることなく共振部の光路長を長くすることができる。そして、共振部の光路長を長くすることにより、発光スペクトルにおけるピークを可視光域に多数出現させることができるため、広い波長範囲の光、すなわち、白色に近い光を第2電極側から取り出すことができる。また、有機EL層の厚みを厚くする必要がないため、ロールトゥロールプロセスにより連続的に効率よく製造することができる。
【0015】
そして、上記光路長調整層が、透明な合成樹脂材料により形成されている場合には、簡単な手法で迅速に形成可能であるとともに、その厚みの調整が容易であるため、光路長調整層がより寸法精度よく形成される。
【0016】
また、上記光路長調整層の厚みが、1.4μm以上10.0μm以下である場合には、光路長を長くする効果を充分に有するとともに、金属基板と第1電極との短絡を防止でき、しかも、作製時に、気泡,クラックが生じることが少なく好適である。
【0017】
さらに、上記光路長調整層において、その厚みと、同屈折率との積からなる光路長が、2.1以上15.0以下である場合には、可視光領域に少なくとも3つの発光スペクトルにおけるピークが現れるため、より白色に近い光を得ることができる。
【0018】
そして、上記金属基板の表面粗さ(Ra)が、30nm以上400nm以下である場合には、有機発光層で発光された光が様々な角度で反射し、様々な光路長を有することになるため、実質的に発光スペクトルにおけるピークの半値幅を広げる効果があると考えられ、より白色に近い光を得ることができる。
【0019】
また、上記金属基板が、表面に反射層を有してなるものである場合には、金属基板の有する特性によらず、効率よく光を反射させることができるため、発光スペクトルにおけるピーク強度を減衰させることなく、より多くの光を第2電極側から取り出すことができる。
【0020】
そして、上記第2電極の透過率が、15%以上である場合には、共振した光をより多く外部へ射出させることができるため、よりその輝度を高めることができる。
【0021】
さらに、一方のロールからシート状金属基板を送り出し、他方のロールに巻き取ることにより上記シート状金属基板を搬送する工程と、上記シート状金属基板上に光路長調整層を形成する工程と、上記光路長調整層上に第1電極を形成する工程と、上記第1電極上に有機EL層を形成する工程と、上記有機EL層上に第2電極を形成する工程とを備えたことを特徴とする、トップエミッション型有機EL素子の製法は、金属基板と第1電極との間に有機材料からなる光路長調整層を塗工等により設けるものであり、ロールトゥロールプロセスで連続的に効率よく有機EL素子を製造することができる。そして、得られた有機EL素子は、有機EL層の厚みを厚くする必要がないため、有機EL層の厚みが厚いことに基づく発光効率の低下は生じない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施の形態の説明図である。
【図2】本発明の他の実施の形態の説明図である。
【図3】従来技術の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
つぎに、本発明を実施するための形態について説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施例である有機EL素子の説明図である。この有機EL素子は、トップエミッション構造を有しており、略平板状の金属基板1上に、光路長調整層2、第1電極3、有機EL層4、第2電極5がこの順に積層されている。この有機EL素子は、要約すると、有機EL層4で発光した光を金属基板1上面(金属基板1と光路長調整層2との境界面)と、第2電極5の下面(有機EL層4と第2電極5との境界面)とで反射させ、光路長調整層2と第1電極3と有機EL層4とを合わせてひとつの共振部とするようにし、共振部の光路長Lを長くすることにより、取り出す光の波長範囲を広くしたものである。以下に、上記各構成について詳細に説明する。なお、図1において、各部分は模式的に示したものであり、実際の大きさ等とは異なっている(以下の図においても同じ)。
【0025】
金属基板1は、反射層を兼ねた基板として用いられるもので、例えば、ステンレス(SUS)、36アロイ、42アロイなどの合金、銅(Cu)、ニッケル、鉄、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)などで構成することができる。なかでも、有機EL層4の熱を効率良く分散させるために熱伝導率が高いという観点から、SUS、Cu、Al、Tiが好ましく用いられる。
【0026】
そして、金属基板1の表面粗さ(Ra)は、10nm以上1000nm以下であることが好ましく、特に好ましくは30nm以上400nm以下である。表面粗さ(Ra)が大きすぎると、光路長調整層2を塗布することでも表面が平滑にならず、有機EL素子に短絡が生じる傾向がみられるためであり、逆に、小さすぎると、発光スペクトルの半値幅を広げる効果を得にくい傾向がみられるためである。
【0027】
光路長調整層2は、上記共振部の光路長を長くするために形成するものであり、絶縁性を有する透明部材からなる。このような透明部材としては、例えば、透明樹脂(ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シリコーン系樹脂等)、透明無機材料(二酸化ケイ素、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン等)があげられ、取り扱いの容易性や耐久性の点から、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂が好ましく用いられる。また、光路長調整層2の形成は、スピンコート法やドクターブレード法等のウェットコーティング法、蒸着やスパッタリング等の真空成膜法等によって行うことができる。しかし、成形精度がよく、しかも迅速に形成でき、真空装置が不要になる点で、ウェットコーティング法により形成することが好ましい。
【0028】
また、光路長調整層2の厚みは、1.0μm以上20μm以下であることが好ましく、特に好ましくは1.4μm以上10μm以下である。厚みが薄すぎると、ピンホールが生じ易くなり、金属基板1と第1電極3とが短絡するおそれが生じるためであり、逆に、厚すぎると、形成時に、気泡やクラックが発生する傾向がみられるためである。また、光路長調整層2の光の透過率は、80%以上であることが好ましい。透過率が低すぎると、発光光が共振する間に光路長調整層2で吸収され、射出光の光強度が低下するため、有機EL素子の発光効率が減少する傾向がみられるからである。そして、光路長調整層2の屈折率は、1.4以上であることが好ましい。屈折率が小さすぎると、そうでないものと同等の効果を得るために、光路長調整層2の厚みをより厚くする必要が生じる。すると、光路長調整層2を形成する材料の量が増えるとともに、有機EL素子が意味なく厚膜化するおそれがあるからである。さらに、光路長調整層2に用いる材料の分解温度は、80℃以上であることが好ましい。分解温度が低すぎると、有機EL素子製造時のプロセスによる熱や有機EL素子駆動時の発熱により材料が分解し、分解によって生じた低分子成分が揮発することによって光路長調整層2に発泡が生じ、有機EL素子にダメージを与え、寿命を低下させる傾向がみられるためである。
【0029】
そして、光路長調整層2における、厚みと屈折率との積からなる光路長は、2.9以上58.0以下であることが好ましく、特に好ましくは2.1以上15.0以下である。上記光路長が長すぎると、気泡やクラックが発生する傾向がみられるためであり、逆に、短すぎると、所望する波長範囲の光を取り出すことができない傾向がみられるためである。
【0030】
第1電極3は、アノード電極として用いられるもので、透明性を有する必要があるため、例えば、酸化インジウム錫(ITO)や酸化インジウム亜鉛(IZO)等の各種透明電極として用いられる材料で構成される。第1電極3の厚みは、10nm〜500nmの範囲であることが好ましい。また、スパッタリングにより形成することが、精度、工程の簡便化の点から好ましい。
【0031】
有機EL層4は、有機発光層を有し、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層などが、用途に応じて、適宜、組み合わせて用いられる。これらの層を合わせた有機EL層4の厚みは、数nm〜数百nmであり、発光効率や寿命等の観点から、目的に応じた膜厚が選択されるが、好適には、10nm〜500nmの範囲である。より好適には、30nm〜200nmである。これは、真空蒸着で行うことが作業性の点から好適である。
【0032】
第2電極5は、カソード電極として用いられるもので、透明性を有する必要があるため、例えば、フッ化リチウム(LiF)、Al、銀(Ag)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、金(Au)をごく薄膜に積層したものや、これらの合金、さらにITO、IZO、ガリウムをドープした酸化亜鉛(GZO)等の各種透明電極として用いられる材料で構成される。第2電極5の厚みは、5nm〜200nmの範囲であることが好ましい。この第2電極5の形成は、真空成膜で、有機EL層4の形成後に一挙に行うことが作業性の点で好ましい。
【0033】
この構成によると、図1において矢印で示すように、有機EL層4からの光が、金属基板1上面(金属基板1と光路長調整層2との境界面)と、第2電極5の下面(有機EL層4と第2電極5との境界面)とで反射し、この間で共振する。そして、本発明のトップエミッション型有機EL素子は、この共振部(光路長調整層2、第1電極3、有機EL層4)の光路長Lが、従来の有機EL素子の光路長L1(図3参照)に比べ長くなっている。このため、発光スペクトルにおけるピークの間隔が狭くなり、可視光領域に数多くのピークが出現し、広い波長範囲の光を第2電極5側から取り出すことができる。また、有機EL層4等の膜厚を増加させないように、ロールトゥロールプロセスで製造する場合において、連続的に効率よく製造できる。すなわち、供給ロールと巻き取りロールにシート状の金属基板を掛け渡し、ロールの回転により連続的に金属基板を送りながら、その基板上に光路長調整層2、第1電極3、有機EL層4、第2電極5を順次積層形成し、目的とする有機EL素子を製造する際に、有機EL層4の厚膜化や各電極の厚膜化を要しないため、効率よく連続製造することができる。したがって、低コストで迅速な製造ができる。そして、基板に金属基板1を用いているため、有機EL層4で発生する熱を効率よく分散させることができ、長寿命化が図られている。
【0034】
上記の例では、金属基板1上に、直接、光路長調整層2を形成しているが、図2に示すように、金属基板1として、表面に反射層6が設けられたものを用い、この上に光路長調整層2を形成するようにしてもよい。この場合、金属基板1の性質とは関係なく、上記反射層6によって、より有効に光を反射できる。このため、共振により現れる透過ピークを減衰させることなく、より多くの光を第2電極5側から取り出すことができる。この反射層6は、例えば、Ag、Al、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、パラジウムおよび銅を含有する銀系合金(APC)等を、金属基板1上に単層または複層にして形成することによって得られる。また、この反射層6の厚みは、20nm〜500nmの範囲である事が好ましい。厚みが薄すぎると反射性が充分でない傾向がみられ、逆に厚すぎると成膜時の残存応力のため、反射層6が剥がれるおそれがあるためである。さらに、金属基板1と反射層6との間に密着層を設け、金属基板1に対する反射層6の密着性を高めてもよい。このような密着層は、金属基板1および反射層6の材質を鑑み最適なものが選択され、なかでもITOやIZOのような金属酸化膜が好適に用いられる。
【0035】
つぎに、実施例について、比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
実施例および比較例に先立ち、以下の材料を準備した。
〔光路長調整層の材料〕
・樹脂材料A:アクリル樹脂(JEM−477、JSR社製)
・樹脂材料B:下記〔表1〕に示すエポキシ樹脂
【0037】
【表1】

【0038】
【化1】

【0039】
〔実施例1〕
ロールトゥロールプロセスを用い、幅が300mm、長さが140m、厚み50μmのフレキシブル性を持たせたSUS製の金属基板1を用意し、この一端側を供給ロールに巻き回し、他端側を巻き取りロールに巻き回した。そして、上記金属基板1を連続的に送りながら、この金属基板1の表面に、IZO(厚み20nm)/APC(厚み100nm)をスパッタリングで形成し、反射層6とした。ついで、この反射層6の上に、上記樹脂材料Aを塗工により塗布し、厚み1.7μmの光路長調整層2を形成した。その後、長尺スパッタリング装置により、上記光路長調整層2の上に、IZO(厚み150nm)からなる第1電極3を形成した。この第1電極3の上に、ポリエチレンスルホン酸をドープしたPEDOT〔PEDOT−PSS〕分散水溶液を塗工により40nmの厚みに形成し、この上に、有機EL層4として、10-4Pa以下の真空でNPB(厚み50nm)/Alq3(厚み50nm)を0.1nm/secの速度で蒸着し、LiF(厚み0.5nm)を成膜した上に、第2電極5として、Al(厚み1nm)/Ag(厚み20nm)を成膜し、所定の長さで切断して、目的の有機EL素子(縦30mm×横30mm)を得た。
【0040】
〔実施例2〜4〕
光路長調整層2の厚みを〔表2〕に示すように変えた他は、実施例1と同様にして、目的の有機EL素子を得た。
【0041】
〔実施例5〜7〕
光路長調整層2の材料を材料Bにし、その厚みを〔表2〕に示すように変えた他は、実施例1と同様にして、目的の有機EL素子を得た。
【0042】
〔実施例8〕
反射層6を形成しなかった他は、実施例1と同様にして、目的の有機EL素子を得た。
【0043】
〔実施例9〜13〕
金属基板1を〔表3〕に示すように変えた他は、実施例1と同様にして、目的の有機EL素子を得た。
【0044】
〔実施例14〜19〕
第2電極5を〔表3〕および〔表4〕に示すように変えた他は、実施例3と同様にして、目的の有機EL素子を得た。
【0045】
〔比較例1〕
光路長調整層2を形成しなかった他は、実施例1と同様にして、目的の有機EL素子を得た。
【0046】
〔比較例2〕
光路長調整層2を形成しなかった他は、実施例8と同様にして、目的の有機EL素子を得た。
【0047】
〔比較例3〕
金属基板1をフレキシブル性を有するガラスに代え、第2電極5をAl(100nm)として、反射層6、光路長調整層2を設けず、ガラス基板側から光を取り出すボトムエミッション構造とした他は、実施例1と同様にして、目的の有機EL素子を得た。
【0048】
〔比較例4〕
金属基板1をフレキシブル性を有するガラスに代え、光路長調整層2を形成しなかった他は、実施例1と同様にして、目的の有機EL素子を得た。
【0049】
得られたこれらの実施例、比較例の有機EL素子に、それぞれ12.5mA/cm2の電流を流して発光させ、金属基板1と反対の第2電極5側から(比較例3は金属基板1に代えて用いたガラス基板側から)光を取り出した。取り出した光のスペクトルを、有機EL特性評価装置(EL−3000、プレサイスゲージ社製)により測定し、その発光スペクトルにおけるピークの半値幅を算出した。そして、この半値幅を用いて、取り出された光の波長範囲の検討を行った。なお、発光スペクトルに多数のピークが測定された場合は、発光スペクトルのピークトップの外装線を一つのピークとみなした。また、共振部の光路長Lを検討するにあたり、得られた実施例1〜19において、光路長調整層2以外の各層の構成および厚みは同一であるため無視できるとし、光路長調整層2の屈折率(n)×光路長調整層2の厚み(d)を、光路長(n)×(d)として表している。
【0050】
さらに、第2電極5の透過率は、各実施例および比較例で得た有機EL素子とは別に、下記に示す測定用の小片を作製し、各小片の波長550nmにおける値を分光光度計(U−4100、日立ハイテク社)により測定したものである。上記透過率の測定用の小片は、厚み100nmのポリエチレンテレフタレートフィルム基板上に、それぞれ規定の厚みとなるよう各薄膜を形成し、これを30mm×30mmに裁断することにより作製した。これらの結果を〔表2〕〜〔表4〕に併せて示した。
【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
上記の結果より、実施例1〜19品はいずれも、共振部の光路長が長くなっているため、ボトムエミッション構造である比較例3品と同等かそれ以上の広い波長範囲の光を取り出せることがわかった。特に、実施例1〜9、11、12品は、比較例3品よりも広い波長範囲を取り出すことができ、より白色度が高められていた。また、実施例1〜19品はいずれも第2電極の透過率が15%以上あるため、共振した光をより多く第2電極を透して射出させることができ、その輝度も高いものであった。しかし、実施例4、7品は、広い波長範囲の光を取り出せるものの、他の実施例品に比べてやや性能が劣るものと思われる。すなわち、実施例4品は、一部に短絡が起こる可能性があると思われ、実施例7品はわずかにクラックが発生すると思われる。一方、共振部の光路長が従来品と同等の長さである比較例1および2品では、素子が短絡したため半値幅の測定ができなかった。また、比較例4品では、発光スペクトルにおけるピークの狭線化現象が起こり、取り出す光の波長範囲が狭いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のトップエミッション型有機EL発光素子は、照明機器、液晶ディスプレイのバックライト、展示デコレーション用の発光部品やデジタルサイネージ等に利用でき、特に照明用途に適している。
【符号の説明】
【0056】
1 金属基板
2 光路長調整層
3 第1電極
4 有機EL層
5 第2電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板と、第1電極と、上記第1電極上に形成された有機エレクトロルミネッセンス層と、上記有機エレクトロルミネッセンス層上に形成された第2電極とを有し、上記金属基板と上記第1電極との間に、上記第2電極側から射出される光の波長範囲を広くするための光路長調整層が形成されていることを特徴とするトップエミッション型有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
上記光路長調整層が、透明な合成樹脂材料により形成されている請求項1記載のトップエミッション型有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
上記光路長調整層の厚みが、1.4μm以上10.0μm以下である請求項1または2記載のトップエミッション型有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
上記光路長調整層において、その厚みと、同屈折率との積からなる光路長が、2.1以上15.0以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載のトップエミッション型有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
上記金属基板の表面粗さ(Ra)が、30nm以上400nm以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載のトップエミッション型有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
上記金属基板が、表面に反射層を有してなるものである請求項1〜5のいずれか一項に記載のトップエミッション型有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
上記第2電極の透過率が、15%以上である請求項1〜6のいずれか一項に記載のトップエミッション型有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
一方のロールからシート状金属基板を送り出し、他方のロールに巻き取ることにより上記シート状金属基板を搬送する工程と、上記シート状金属基板上に光路長調整層を形成する工程と、上記光路長調整層上に第1電極を形成する工程と、上記第1電極上に有機エレクトロルミネッセンス層を形成する工程と、上記有機エレクトロルミネッセンス層上に第2電極を形成する工程とを備えたことを特徴とする、トップエミッション型有機エレクトロルミネッセンス素子の製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−164630(P2012−164630A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199632(P2011−199632)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】