説明

トナーの製造方法、及びトナー

【課題】狭粒度分布、小粒径、低温定着性、且つフィルミングのないトナーを生産性良く得ることができるトナーの製造方法の提供。
【解決手段】少なくとも1つ以上の吐出口が形成された液柱共鳴液室内のトナー組成液に振動を付与することで液柱共鳴による定在波を形成させ、前記定在波の腹となる領域に配置された前記吐出口から前記トナー組成液を吐出する液滴形成工程を含み、前記トナー組成液は、結着樹脂および着色剤を含有するトナー組成物を有機溶剤に溶解又は分散させており、液滴が固化すると微粒子となるものであって、前記結着樹脂が、少なくとも結晶性ポリエステル樹脂を含有し、前記結晶性ポリエステル樹脂が、液滴化する前のトナー組成液中に分散していることを特徴とするトナーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真、静電記録、静電印刷等における静電荷像を現像するために使用されるトナーの製造方法、及びトナーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、市場においては、出力画像の高品質化のためのトナーの小粒径化や、省エネルギーのためのトナーの低温定着性が要求されている。また、環境負荷低減の観点からも省資源、省エネルギーなトナー製造工程が要求されている。
【0003】
従来、電子写真、静電記録、静電印刷などに用いられる乾式トナーとしては、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等のトナーバインダーを着色剤などと共に溶融混練し微粉砕した、いわゆる粉砕型トナーが広く用いられている。
しかしながら、近年高画質な画像を得るためトナーが小粒径化する傾向にあり、前記粉砕法では、6μm以下の小粒径にすると粉砕効率が低下するとともに分級によるロスが大きくなり、生産性が低くコストアップとなってしまう点で問題である。
【0004】
また、懸濁重合法、乳化重合凝集法といったいわゆる重合型トナーや、ポリマー溶解懸濁法とよばれる体積収縮を伴う工法が提案され実用化もされている(特許文献1参照)。これらのトナーは、小粒径のトナーを製造する点では優れている。
しかしながら、水系媒体中で分散剤を使用することを前提としているためにトナーの帯電特性を損なう分散剤がトナー表面に残存し、環境安定性が損なわれるなどの不具合が発生したり、これを除去するために非常に大量の洗浄水を必要としたりすることが知られており、必ずしも製法として満足のいくものではない点で問題である。
【0005】
これに代わるトナーの製造方法として、圧電パルスを利用して微小ノズルから微小液滴を形成し、更にこれを乾燥固化してトナー化する工法が提案されている(特許文献2参照)。
また、ノズル内の熱膨張を利用し、微小液滴を形成し、これを乾燥固化してトナー化する工法が提案されている(特許文献3参照)。更に、音響レンズを利用し、微小液滴を形成し、これを乾燥固化してトナー化する工法が提案されている(特許文献4参照)。
しかしながら、これらの方法では、トナーの小粒径化は容易であるが、一つのノズルから単位時間あたりに吐出できる液滴数が少なく、生産性が悪いという問題があると同時に、液滴同士の合一による粒度分布の広がりが避けられず、均一粒径のトナーが得られないばかりでなく、分級によるロスを伴う場合がある点で問題であった。
【0006】
また、省エネルギー化のため、低温で溶融するトナーを使用して、定着工程で発生するエネルギーを低減している。そのため、低温で溶融できる結晶性樹脂をトナーに用いることが提案されている(特許文献5〜8参照)。
特許文献9、10では低温定着性を改善するために、重合法に結晶性ポリエステルを導入しているが、安定的に小粒径の分散液を得ることができず、トナーの粒度分布の悪化を引き起こす。さらに結晶性樹脂のトナー表面への露出により、フィルミングを引き起こす点が問題である。
同様に低温定着性を改善するために、微小液滴形成によるトナー製法に結晶性ポリエステルを、導入した場合は、結晶性樹脂が吐出口で詰まり、生産性が低い点で問題であった。
【0007】
したがって、狭粒度分布、小粒径、低温定着性、且つフィルミングのないトナーを生産性良く得ることができるトナーの製造方法の提供が求められているのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明は、狭粒度分布、小粒径、低温定着性、且つフィルミングのないトナーを生産性良く得ることができるトナーの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の(1)〜(9)項に記載の「トナーの製造方法」、「トナー」及び「該トナーを用いた現像剤」包含する本発明によって解決される。
(1)「少なくとも1つ以上の吐出口が形成された液柱共鳴液室内のトナー組成液に振動を付与することで液柱共鳴による定在波を形成させ、前記定在波の腹となる領域に配置された前記吐出口から前記トナー組成液を吐出する液滴形成工程を含み、前記トナー組成液は、結着樹脂および着色剤を含有するトナー組成物を有機溶剤に溶解又は分散させており、液滴が固化すると微粒子となるものであって、前記結着樹脂が、少なくとも結晶性ポリエステル樹脂を含有し、前記結晶性ポリエステル樹脂が、液滴化する前のトナー組成液中に分散していることを特徴とするトナーの製造方法。」。
(2)「前記結晶性ポリエステル樹脂が、2価のアルコール成分及び2価の酸成分を少なくとも含有し、前記2価のアルコール成分及び前記2価の酸成分の少なくともいずれかが、少なくとも2種のモノマーを含有することを特徴とする前記(1)項に記載のトナーの製造方法」。
(3)「前記吐出口の開口径に対する前記トナー組成液中の前記結晶性ポリエステル樹脂の分散径(体積平均粒径)の比が1%以上30%以下であることを特徴とする前記(1)項又は(2)項に記載のトナーの製造方法)」。
(4)「前記結着樹脂中に結晶性ポリエステル樹脂を3質量%〜50質量%含有することを特徴とする前記(1)項乃至(3)項のいずれか一項に記載のトナーの製造方法」。
(5)「前記結晶性ポリエステル樹脂の有機溶剤100質量部に対する70℃における溶解度は10質量部以上であることを特徴とする前記(1)項乃至(4)項のいずれか一項に記載のトナー製造方法」。
(6)「前記結晶性ポリエステル樹脂の、融点が65℃以上75℃未満であることを特徴とする前記(1)項乃至(5)項のいずれか一項に記載のトナー製造方法」。
(7)「前記結晶性ポリエステル樹脂は、オルトジクロロベンゼンの可溶分のGPCによる分子量分布が、重量平均分子量(Mw)で3000〜30000、数平均分子量(Mn)で1000〜10000、Mw/Mnが1〜10であることを特徴とする前記(1)項乃至(6)項のいずれか一項に記載のトナー製造方法」。
(8)「前記(1)項乃至(7)項のいずれかに記載のトナーの製造方法により得られ、重量平均粒径が1μm〜10μmであり、粒度分布(重量平均粒径/個数平均粒径)が、1〜1.10の範囲にあることを特徴とするトナー」。
(9)「前記(8)項に記載のトナーとキャリアとを少なくとも含有することを特徴とする現像剤」。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、狭粒度分布、小粒径、低温定着性、且つフィルミングのないトナーを生産性良く得ることができるトナーの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】液柱共鳴液滴形成手段の構成を示す断面図である。
【図2】液柱共鳴液滴ユニットの構成を示す断面図である。
【図3】吐出口の断面図である。
【図4】N=1、2、3の場合の速度及び圧力変動の定在波を示す概略図である。
【図5】N=4、5の場合の速度及び圧力変動の定在波を示す概略図である。
【図6】液柱共鳴液滴形成手段の液柱共鳴流路で生じる液柱共鳴現象の様子を示す概略図である。
【図7】液柱共鳴液滴形成手段の別構成を示す断面図である。
【図8】トナー製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態を図面に基づいて詳細に説明するが、これら説明は、本発明についての理解を容易ならしめるためのものであって、本発明を制限するためのものではない。充分理解させるための各形態例を含む以下の詳細な説明によれば、いわゆる当業者は、本件の特許請求の範囲内で、開示されている形態例に変更・修正を加えて他の実施形態をなすことは容易であり、而してそれらの変更・修正によって本発明の技術的範囲を逸脱できるものになるとは解すべきでない。
【0013】
本発明のトナーの製造手段の一例を以下、図1〜図8を用いて説明する。本発明のトナー製造手段は液滴吐出手段、液滴固化捕集手段に分けられるトナー粒子調製手段を包含する。それぞれ下記で解説する。
【0014】
[液滴吐出手段]
本発明で用いる液滴吐出手段は吐出する液滴の粒径分布が狭ければ、特に制限はなく、公知のものを用いることができる。液滴吐出手段としては1流体ノズル、2流体ノズル、膜振動タイプ吐出手段、レイリー分裂タイプ吐出手段、液振動タイプ吐出手段、液柱共鳴タイプ吐出手段等が挙げられ、膜振動タイプとしては例えば、特開2008−292976、レイリー分裂タイプとしては特許第4647506号、液振動タイプとしては特開2010−102195に記載されている。
液滴の粒径分布が狭く、トナーの生産性を確保するためには、複数の吐出口が形成された液柱共鳴液室内の液体に振動を付与して液柱共鳴による定在波を形成し、該定在波の腹となる領域に形成された吐出口から液体を吐出する液滴化液柱共鳴があり、これらのいずれかを用いるが好ましい。
【0015】
[液柱共鳴吐出手段]
液柱の共鳴を利用して吐出する液柱共鳴タイプ吐出手段について解説する。
図1に液柱共鳴液滴吐出手段(11)を示す。液共通供給路(17)及び液柱共鳴液室(18)を含んで構成されている。液柱共鳴液室(18)は、長手方向の両端の壁面のうち一方の壁面に設けられた液共通供給路(17)と連通されている。また、液柱共鳴液室(18)は、両端の壁面と連結する壁面のうち一つの壁面に液滴(21)を吐出する吐出口(19)と、吐出口(19)と対向する壁面に設けられ、かつ液柱共鳴定在波を形成するために高周波振動を発生する振動発生手段(20)とを有している。なお、振動発生手段(20)には、図示していない高周波電源が接続されている。
【0016】
本発明で吐出手段より吐出される液体としては、得ようとしている微粒子の成分が溶解又は分散させた分散された状態のもの「微粒子成分含有液」または、吐出させる条件下で液体であれば溶媒を含まなくてもよく、微粒子成分が溶融している状態「微粒子成分溶融液」である。(以下、トナーを製造する場合についての説明のため、これらを「トナー成分液」と記して説明する)トナー成分液(14)は図示されない液循環ポンプにより液供給管を通って、図2に示す液柱共鳴液滴形成ユニット(10)の液共通供給路(17)内に流入し、図1に示す液柱共鳴液滴吐出手段(11)の液柱共鳴液室(18)に供給される。
そして、トナー成分液(14)が充填されている液柱共鳴液室(18)内には、振動発生手段(20)によって発生する液柱共鳴定在波により圧力分布が形成される。そして、液柱共鳴定在波において振幅の大きな部分であって圧力変動が大きい、定在波の腹となる領域に配置されている吐出口(19)から液滴(21)が吐出される。この液柱共鳴による定在波の腹となる領域とは、定在波の節以外の領域を意味するものである。好ましくは、定在波の圧力変動が液を吐出するのに十分な大きさの振幅を有する領域であり、より好ましくは圧力定在波の振幅が極大となる位置(速度定在波としての節)から極小となる位置に向かって±1/4波長の範囲である。定在波の腹となる領域であれば、吐出口が複数で開口されていても、それぞれからほぼ均一な液滴を形成することができ、更には効率的に液滴の吐出を行うことができ、吐出口の詰まりも生じ難くなる。なお、液共通供給路(17)を通過したトナー成分液(14)は図示されない液戻り管を流れて原料収容器に戻される。液滴(21)の吐出によって液柱共鳴液室(18)内のトナー成分液(14)の量が減少すると、液柱共鳴液室(18)内の液柱共鳴定在波の作用による吸引力が作用し、液共通供給路(17)から供給されるトナー成分液(14)の流量が増加し、液柱共鳴液室(18)内にトナー成分液(14)が補充される。そして、液柱共鳴液室(18)内にトナー成分液(14)が補充されると、液共通供給路(17)を通過するトナー成分液(14)の流量が元に戻る。
【0017】
液柱共鳴液滴吐出手段(11)における液柱共鳴液室(18)は、金属やセラミックス、シリコンなどの駆動周波数において液体の共鳴周波数に影響を与えない程度の高い剛性を持つ材質により形成されるフレームがそれぞれ接合されて形成されている。また、図1に示すように、液柱共鳴液室(18)の長手方向の両端の壁面間の長さ(L)は、後述するような液柱共鳴原理に基づいて決定される。また、図2に示す液柱共鳴液室(18)の幅(W)は、液柱共鳴に余分な周波数を与えないように、液柱共鳴液室(18)の長さ(L)の2分の1より小さいことが望ましい。更に、液柱共鳴液室(18)は、生産性を飛躍的に向上させるために1つの液滴形成ユニット(10)に対して複数配置されているほうが好ましい。その範囲に限定はないが、100〜2000個の液柱共鳴液室(18)が備えられた1つの液滴形成ユニットであれば操作性と生産性が両立でき、もっとも好ましい。
また、液柱共鳴液室毎に、液供給のための流路が液共通供給路(17)から連通接続されており、液共通供給路(17)は複数の液柱共鳴液室(18)と連通している。
【0018】
また、液柱共鳴液滴吐出手段(11)における振動発生手段(20)は所定の周波数で駆動できるものであれば特に制限はないが、圧電体を、弾性板(9)に貼りあわせた形態が望ましい。弾性板は、圧電体が接液しないように液柱共鳴液室の壁の一部を構成している。圧電体は、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電セラミックスが挙げられるが、一般に変位量が小さいため積層して使用されることが多い。この他にも、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の圧電高分子や、水晶、LiNbO3、LiTaO3、KNbO3等の単結晶などが挙げられる。更に、振動発生手段(20)は、1つの液柱共鳴液室毎に個別に制御できるように配置されていることが望ましい。また、上記の1つの材質のブロック状の振動部材を液柱共鳴液室の配置にあわせて、一部切断し、弾性板を介してそれぞれの液柱共鳴液室を個別制御できるような構成が望ましい。
【0019】
更に、吐出口(19)の開口部の直径は、1[μm]〜40[μm]の範囲であることが望ましい。1[μm]より小さいと、形成される液滴が非常に小さくなるためトナーを得ることができない場合があり、またトナーの構成成分として顔料などの固形微粒子が含有された構成の場合吐出口(19)において閉塞を頻繁に発生して生産性が低下する恐れがある。また、40[μm]より大きい場合、液滴の直径が大きく、これを乾燥固化させて、所望のトナー粒子径3〜6μmを得る場合、有機溶媒でトナー組成を非常に希薄な液に希釈する必要がある場合があり、一定量のトナーを得るために乾燥エネルギーが大量に必要となってしまい、不都合となる。また、図2からわかるように、吐出口(19)を液柱共鳴液室(18)内の幅方向に設ける構成を採用することは、吐出口(19)の開口を多数設けることができ、よって生産効率が高くなるために好ましい。また、吐出口(19)の開口配置によって液柱共鳴周波数が変動するため、液柱共鳴周波数は液滴の吐出を確認して適宜決定することが望ましい。
【0020】
吐出口(19)の断面形状は図1等で開口部の径が小さくなるようなテーパー形状として記載されているが、適宜断面形状を選択することができる。
図3に吐出口(19)の取りうる断面形状を示す。(a)は吐出口(19)の接液面から吐出口に向かってラウンド形状を持ちながら開口径が狭くなるような形状を有しており、薄膜(41)が振動した際に吐出口(19)の出口付近で液にかかる圧力が最大となるため、吐出の安定化に際しては最も好ましい形状である。
(b)は吐出口(19)の接液面から吐出口に向かって一定の角度を持って開口径が狭くなるような形状を有しており、このノズル角度(44)は適宜変更することができる。(a)と同様のこのノズル角度によって薄膜(41)が振動したときの吐出口(19)の出口付近で液にかかる圧力を高めることができるが、その範囲60〜90°が好ましい。60°未満では液に圧力がかかりにくく、さらに薄膜(41)の加工もし難いため好ましくない。ノズル角度44が90°を超えた場合は(c)が相当するが出口に圧力がかかりにくくなるため、90°が最大値となる。90°を越えると孔(12)の出口に圧力がかからなくなるため、液滴吐出が非常に不安定化する。
(d)は(a)と(b)を組み合わせた形状である。このように段階的に形状を変更しても構わない。
【0021】
次に、液柱共鳴における液滴形成ユニットによる液滴形成のメカニズムについて説明する。
先ず、図1の液柱共鳴液滴吐出手段(11)内の液柱共鳴液室(18)において生じる液柱共鳴現象の原理について説明すると、液柱共鳴液室内のトナー成分液の音速を(c)とし、振動発生手段(20)から媒質であるトナー成分液に与えられた駆動周波数を(f)とした場合、液体の共鳴が発生する波長(λ)は、
λ=c/f ・・・計算式(1)
の関係にある。
【0022】
また、図1の液柱共鳴液室(18)において固定端側のフレームの端部から液共通供給路(17)側の端部までの長さを(L)とし、更に液共通供給路(17)側のフレームの端部の高さ(h1(=約80[μm]))は連通口の高さ(h2(=約40[μm]))の約2倍あり当該端部が閉じている固定端と等価であるとした両側固定端の場合には、長さ(L)が波長(λ)の4分の1の偶数倍に一致する場合に共鳴が最も効率的に形成される。つまり、次の計算式(2)で表現される。
L=(N/4)λ ・・・計算式(2)
(但し、Nは偶数)
【0023】
更に、両端が完全に開いている両側開放端の場合にも上記計算式(2)が成り立つ。
同様にして、片方側が圧力の逃げ部がある開放端と等価で、他方側が閉じている(固定端)の場合、つまり片側固定端又は片側開放端の場合には、長さ(L)が波長(λ)の4分の1の奇数倍に一致する場合に共鳴が最も効率的に形成される。つまり、上記計算式(2)のNが奇数で表現される。
【0024】
最も効率の高い駆動周波数(f)は、上記計算式(1)と上記計算式(2)より、
f=N×c/(4L) ・・・計算式(3)
と導かれる。しかし、実際には、液体は共鳴を減衰させる粘性を持つために無限に振動が増幅されるわけではなく、Q値を持ち、後述する計算式(4)、計算式(5)に示すように、計算式(3)に示す最も効率の高い駆動周波数(f)の近傍の周波数でも共鳴は発生する。
【0025】
図4にN=1、2、3の場合の速度及び圧力変動の定在波の形状(共鳴モード)を示し、かつ図5にN=4、5の場合の速度及び圧力変動の定在波の形状(共鳴モード)を示す。
本来は疎密波(縦波)であるが、図4及び図5のように表記することが一般的である。
実線が速度定在波、点線が圧力定在波である。例えば、N=1の片側固定端の場合を示す図3の(a)からわかるように、速度分布の場合閉口端で速度分布の振幅がゼロとなり、開口端で振幅が最大となり、直感的にわかりやすい。液柱共鳴液室の長手方向の両端の間の長さを(L)としたとき、液体が液柱共鳴する波長を(λ)とし、整数Nが1〜5の場合に定在波が最も効率よく発生する。また、両端の開閉状態によっても定在波パターンは異なるため、それらも併記した。後述するが、吐出口の開口や供給側の開口の状態によって、端部の条件が決まる。なお、音響学において、開口端とは長手方向の媒質(液)の移動速度がゼロとなる端であり、逆に圧力は極大となる。閉口端においては、逆に媒質の移動速度がゼロとなる端と定義される。閉口端は音響的に硬い壁として考え、波の反射が発生する。理想的に完全に閉口、もしくは開口している場合は、波の重ね合わせによって図4及び図5のような形態の共鳴定在波を生じるが、吐出口数、吐出口の開口位置によっても定在波パターンは変動し、上記式3より求めた位置からずれた位置に共鳴周波数が現れるが、適宜駆動周波数を調整することで安定吐出条件を作り出すことができる。例えば、液体の音速(c)が1,200[m/s]、液柱共鳴液室の長さ(L)が1.85[mm]を用い、両端に壁面が存在して、両側固定端と完全に等価のN=2の共鳴モードを用いた場合、上記計算式(2)より、最も効率の高い共鳴周波数は324kHzと導かれる。他の例では、液体の音速(c)が1,200[m/s]、液柱共鳴液室の長さ(L)が1.85[mm]と、上記と同じ条件を用い、両端に壁面が存在して、両側固定端と等価のN=4の共鳴モードを用いた場合、上記計算式(2)より、最も効率の高い共鳴周波数は648kHzと導かれ、同じ構成の液柱共鳴液室においても、より高次の共鳴を利用することができる。
【0026】
図1に示す液柱共鳴液滴吐出手段(11)における液柱共鳴液室は、両端が閉口端状態と等価であるか、吐出口の開口の影響で、音響的に軟らかい壁として説明できるような端部であることが周波数を高めるためには好ましいが、それに限らず開放端であってもよい。
ここでの吐出口の開口の影響とは、音響インピーダンスが小さくなり、特にコンプライアンス成分が大きくなることを意味する。よって、図4の(b)及び図5の(a)のような液柱共鳴液室の長手方向の両端に壁面を形成する構成は、両側固定端の共鳴モード、そして吐出口側が開口とみなす片側開放端の全ての共鳴モードが利用できるために、好ましい構成である。
【0027】
また、吐出口の開口数、開口配置位置、吐出口の断面形状も駆動周波数を決定する因子となり、駆動周波数はこれに応じて適宜決定することができる。例えば吐出口の数を多くすると、徐々に固定端であった液柱共鳴液室の先端の拘束が緩くなり、ほぼ開口端に近い共鳴定在波が発生し、駆動周波数は高くなる。更に、最も液供給路側に存在する吐出口の開口配置位置を起点に緩い拘束条件となり、また吐出口の断面形状がラウンド形状となったりフレームの厚さによる吐出口の体積が変動したり、実際上の定在波は短波長となり、駆動周波数よりも高くなる。このように決定された駆動周波数で振動発生手段に電圧を与えたとき、振動発生手段が変形し、駆動周波数にて最も効率よく共鳴定在波を発生する。また、共鳴定在波が最も効率よく発生する駆動周波数の近傍の周波数でも液柱共鳴定在波は発生する。つまり、液柱共鳴液室の長手方向の両端間の長さを(L)、液供給側の端部に最も近い吐出口までの距離を(Le)としたとき、(L)及び(Le)の両方の長さを用いて下記計算式(4)及び計算式(5)で決定される範囲の駆動周波数(f)を主成分とした駆動波形を用いて振動発生手段を振動させ、液柱共鳴を誘起して液滴を吐出口から吐出することが可能である。
N×c/(4L)≦f≦N×c/(4Le) ・・・計算式(4)
N×c/(4L)≦f≦(N+1)×c/(4Le) ・・・計算式(5)
【0028】
なお、液柱共鳴液室の長手方向の両端間の長さ(L)と、液供給側の端部に最も近い吐出口までの距離(Le)の比がLe/L>0.6であることが好ましい。
【0029】
以上説明した液柱共鳴現象の原理を用いて、図1の液柱共鳴液室(18)において液柱共鳴圧力定在波が形成され、液柱共鳴液室(18)の一部に配置された吐出口(19)において連続的に液滴吐出が発生するのである。なお、定在波の圧力が最も大きく変動する位置に吐出口(19)を配置すると、吐出効率が高くなり、低い電圧で駆動することができる点で好ましい。また、吐出口(19)は1つの液柱共鳴液室(18)に1つでも構わないが、複数個配置することが生産性の観点から好ましい。具体的には、2〜100個の間であることが好ましい。
100個を超えた場合、100個の吐出口(19)から所望の液滴を形成させようとすると、振動発生手段(20)に与える電圧を高く設定する必要が生じ、振動発生手段(20)としての圧電体の挙動が不安定となる。また、複数の吐出口(19)を開孔する場合、吐出口間のピッチは20[μm]以上、液柱共鳴液室の長さ以下であることが好ましい。
吐出口間のピッチが20[μm]より小さい場合、隣あう吐出口より放出された液滴同士が衝突して大きな滴となってしまう確率が高くなり、トナーの粒径分布悪化につながる。
【0030】
次に、液滴形成ユニットにおける液滴吐出ヘッド内の液柱共鳴液室で生じる液柱共鳴現象の様子について当該様子を示す図6を用いて説明する。なお、同図において、液柱共鳴液室内に記した実線は液柱共鳴液室内の固定端側から液共通供給路側の端部までの間の任意の各測定位置における速度をプロットした速度分布を示し、液共通供給路側から液柱共鳴液室への方向を+とし、その逆方向を−とする。また、液柱共鳴液室内に記した点線は液柱共鳴液室内の固定端側から液共通供給路側の端部までの間の任意の各測定位置における圧力値をプロットした圧力分布を示し、大気圧に対して正圧を+とし、負圧は−とする。
また、正圧であれば図中の下方向に圧力が加わることになり、負圧であれば図中の上方向に圧力が加わることになる。更に、同図において、上述したように液共通供給路側が開放されているが液共通供給路(17)と液柱共鳴液室(18)とが連通する開口の高さ(図1に示す高さ(h2))に比して固定端となるフレームの高さ(図1に示す高さ(h1))が約2倍以上であるため、液柱共鳴液室(18)はほぼ両側固定端であるという近似的な条件のもとでの速度分布及び圧力分布の時間的なそれぞれの変化を示している。
【0031】
図6の(a)は液滴吐出時の液柱共鳴液室(18)内の圧力波形と速度波形を示している。
また、図6の(b)は液滴吐出直後の液引き込みを行った後再びメニスカス圧が増加してくる。これらの同図の(a),(b)に示すように、液柱共鳴液室(18)における吐出口(19)が設けられている流路内での圧力は極大となっている。その後、図6の(c)に示すように、吐出口(19)付近の正の圧力は小さくなり、負圧の方向へ移行して液滴(21)が吐出される。
【0032】
そして、図6の(d)に示すように、吐出口(19)付近の圧力は極小になる。このときから液柱共鳴液室(18)へのトナー成分液(14)の充填が始まる。その後、図6の(e)に示すように、吐出口(19)付近の負の圧力は小さくなり、正圧の方向へ移行する。この時点で、トナー成分液(14)の充填が終了する。そして、再び、図6の(a)に示すように、液柱共鳴液室(18)の液滴吐出領域の正の圧力が極大となって、吐出口(19)から液滴(21)が吐出される。このように、液柱共鳴液室内には振動発生手段の高周波駆動によって液柱共鳴による定在波が発生し、また圧力が最も大きく変動する位置となる液柱共鳴による定在波の腹に相当する液滴吐出領域に吐出口(19)が配置されていることから、当該腹の周期に応じて液滴(21)が吐出口(19)から連続的に吐出される。
【0033】
次に、実際に液柱共鳴現象によって液滴が吐出された構成の一例について説明する。この一例は、図1において液柱共鳴液室(18)の長手方向の両端間の長さ(L)が1.85[mm]、N=2の共鳴モードであって、第一から第四の吐出口がN=2モード圧力定在波の腹の位置に吐出口を配置し、駆動周波数を340[kHz]のサイン波で行った吐出をレーザーシャドウグラフィ法にて撮影した様子を図7に示す。同図からわかるように、非常に径の揃った、速度もほぼ揃った液滴の吐出が実現していた。また、図7は駆動周波数290[kHz]〜395[kHz]の同一振幅サイン波にて駆動した際の液滴速度周波数特性を示す特性図である。同図からわかるように、第一〜第四のノズルにおいて駆動周波数が340[kHz]付近では各ノズルからの吐出速度が均一となって、かつ最大吐出速度となっていた。この結果から、液柱共鳴周波数の第二モードである340[kHz]において、液柱共鳴定在波の腹の位置で均一吐出が実現していることがわかる。また、図7の特性結果から、第一モードである130[kHz]においての液滴吐出速度ピークと、第二モードである340[kHz]においての液滴吐出速度ピークとの間では液滴は吐出しないという液柱共鳴の特徴的な液柱共鳴定在波の周波数特性が液柱共鳴液室内で発生していることがわかる。
【0034】
[液滴固化]
先に説明した液滴吐出手段から気体中に吐出させたトナー成分液の液滴を固化させた後に、捕集することで本発明のトナーを得ることができる。
【0035】
[液滴固化手段]
固化させるには、トナー成分液の性状しだいで、考え方は異なるが、基本的にトナー成分液を固体状態にできれば手段を問わない。
例えばトナー成分液が固体原材料を揮発可能な溶媒に溶解または分散させたものであれば、液滴噴射後、搬送気流中液滴を乾燥させる、すなわち溶媒を揮発させることで達成することができる。溶媒の乾燥にあたっては、噴射する気体の温度や蒸気圧、気体種類等を適宜選定して乾燥状態を調整することが出来る。また、完全に乾燥していなくとも、捕集された粒子が固体状態を維持していれば、回収後に別工程で追加乾燥させても構わない。
前記例に従わなくとも、温度変化や化学的反応等の適用で達成しても良い。
【0036】
[固化粒子捕集手段]
固化した粒子は公知の粉体捕集手段、例えばサイクロン捕集、バックフィルター等によって気中から回収することができる。
【0037】
図7は、本発明のトナーの製造方法を実施する装置一例の断面図である。トナー製造装置(1)は、主に、液滴吐出手段2及び乾燥捕集ユニット(60)を含んで構成されている。
液滴吐出手段(2)には、トナー成分液(14)を収容する原料収容器(13)と、原料収容器(13)に収容されているトナー成分液(14)を液供給管(16)を通して液滴吐出手段(2)に供給し、更に液戻り管(22)を通って原料収容器(13)に戻すために液供給管(16)内のトナー成分液(14)を圧送する液循環ポンプ(15)とが連結されており、トナー成分液(14)を随時液滴吐出手段(2)に供給できる。液供給管(16)には(P1)、乾燥捕集ユニットには(P2)の圧力測定器が設けられており、液滴吐出手段(2)への送液圧力および、乾燥捕集ユニット内の圧力は圧力計(P1)、(P2)によって管理される。このときに、P1>P2の関係であると、トナー成分液(1)が孔(12)から染み出す恐れがあり、P1<P2の場合には吐出手段に気体が入り、吐出が停止する恐れがあるため、P1≒P2があることが望ましい。
チャンバ(61)内では、搬送気流導入口(64)から作られる下降気流(101)が形成されている。液滴吐出手段2から吐出された液滴(21)は、重力よってのみではなく、搬送気流(101)によっても下方に向けて搬送され、固化粒子捕集手段(62)によって捕集される。
【0038】
[搬送気流]
噴射された液滴同士が乾燥前に接触すると、液滴同士が合体し一つの粒子になってしまう(以下この現象を合着と呼ぶ)。均一な粒径分布の固化粒子を得るためには、噴射された液滴どうしの距離を保つ必要がある。しかしながら、噴射された液滴は一定の初速度を持っているが空気抵抗により、やがて失速する。失速した粒子には後から噴射された液滴が追いついてしまい、結果として合着する。この現象は定常的に発生するため、この粒子を捕集すると粒径分布はひどく悪化することとなる。合着を防ぐためには液滴の速度低下を無くし、液滴同士を接触させないように搬送気流(101)によって合着を防ぎながら、液滴を固化させつつ搬送する必要があり、最終的には固化粒子捕集手段まで固化粒子を運ぶ。
例えば搬送気流(101)は図1に示されるように、その一部を第一の気流として液滴吐出手段近傍に液滴吐出方向と同一方向に配置することで、液滴吐出直後の液滴速度低下を防ぎ、合着を防止することができる。あるいは、図8に示すように吐出方向に対して横方向であってもよい。あるいは図示していないが角度を持っていても良く、液滴吐出手段より液滴が離れるような角度を持っていることが望ましい。図8のように液滴吐出に対して横方向から合着防止気流を与える場合は吐出口から合着防止気流によって液滴が搬送された際に軌跡が重ならないような方向であることが望ましい。
上記のように第一の気流によって合着を防いだ後に、第二の気流によって固化粒子捕集手段まで固化粒子を運んでもよい。
第一の気流の速度は液滴噴射速度と同じかそれ以上であることが望ましい。液滴噴射速度より合着防止気流の速度が遅いと、合着防止気流本来の目的である液滴粒子を接触させないという機能を発揮させることが難しい。
第一の気流の性状は、液滴同士が合着しないような条件を追加することができ、第二の気流と必ずしも同じでなくとも良い。また、合着防止気流に粒子表面の固化を促進させるような化学物質を混入したり、物理的作用期待して付与しても良い。
搬送気流(101)は特に気流の状態として限定されることはなく層流や旋回流や乱流であっても構わない。搬送気流(101)を構成する気体の種類は特に限定はなく、空気であっても窒素等の不燃性気体を用いても良い。また、搬送気流(101)の温度は適宜調整可能であり、生産時において変動の無いことが望ましい。またチャンバ(61)内に搬送気流(101)の気流状態を変えるような手段をとっても構わない。搬送気流(101)は液滴(21)同士の合着を防止すだけでなく、チャンバ(61)に付着することを防止することに用いても良い。
【0039】
[二次乾燥]
図7で示された乾燥捕集手段によって得られたトナー粒子に含まれる残留溶剤量が多い場合はこれを低減するために必要に応じて、二次乾燥が行われる。二次乾燥としては流動床乾燥や真空乾燥のような一般的な公知の乾燥手段を用いることができる。有機溶剤がトナー中に残留すると耐熱保存性や定着性、帯電特性等のトナー特性が経時で変動するだけでなく。加熱による定着時において有機溶剤が揮発するため、使用者および周辺機器へ悪影響を及ぼす可能性が高まるため、充分な乾燥を実施する。
【0040】
[トナー]
本発明のトナーは少なくとも結着樹脂、着色剤および離型剤を含有し、必要に応じて、帯電調整剤、添加剤およびその他の成分を含有する。
【0041】
本発明で用いる、「トナー組成液」について説明する。トナー組成液は上記トナー成分が溶媒に溶解又は分散させた液体状態であるか、または吐出させる条件下で液体であれば溶媒を含まなくてもよく、トナー成分の一部または全てが溶融した状態で混合され液体状態を呈しているものである。
トナー材料としては、上記のトナー組成液を調整することが出来れば、従来の電子写真用トナーと全く同じ物が使用できる。これを前記のように液滴吐出手段より微小液滴とし、液滴固化捕集手段により、目的とするトナー粒子を作製することが可能である。
【0042】
(有機溶剤)
有機溶剤としては、高温で結晶性ポリエステル樹脂を完全に溶解して均一溶液を形成し、その反面、低温に冷却すると結晶性ポリエステル樹脂と相分離し、不均一溶液を形成するものが好ましい。換言すると有機溶剤は、高温では結晶性ポリエステル樹脂を完全に溶解した溶液となり、低温では結晶性ポリエステル樹脂の少なくとも一部が溶液から析出することで固液混合状態となるものが好ましい。
具体例としてトルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどを単独あるいは2種以上組合せて用いることができる。
【0043】
(結着樹脂)
前記結着樹脂は、少なくとも結晶性ポリエステル樹脂を含有し、必要に応じて更に、前記結晶性ポリエステル樹脂以外の結着樹脂等のその他の成分を含有する。
【0044】
(結晶性ポリエステル樹脂)
−結晶性ポリエステル樹脂の効果−
本発明に係るトナー中の結晶性ポリエステル樹脂は、高い結晶性をもつがゆえに定着開始温度付近において、急激な粘度低下を示す熱溶融特性を示す。つまり本発明者等は、かかる結晶性ポリエステル樹脂を用いることで、溶融開始温度直前までは結晶性による耐熱保存性が良く、溶融開始温度では急激な粘度低下(シャープメルト性)を起こし定着することから、良好な耐熱保存性と低温定着性とを兼ね備えたトナーが得られることを知見した。また、離型幅(定着下限温度とホットオフセット発生温度との差)についても、良好な結果を示すことを知見した。
【0045】
結晶性ポリエステル樹脂は、例えば、アルコール成分として炭素数2〜12の飽和脂肪族ジオール化合物、特に1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、1,12ドデカンジオールおよびこれらの誘導体と、少なくとも酸性分として二重結合(C=C結合)を有する炭素数2〜12のジカルボン酸、もしくは、炭素数2〜12の飽和ジカルボン酸、特にフマル酸、1,4−ブタン二酸、1,6−ヘキサン二酸、1,8−オクタン二酸、1,10−デカン二酸、1,12ドデカン二酸およびこれらの誘導体と、を用いて合成される結晶性ポリエステル樹脂が好ましいものとして挙げられる。
【0046】
中でも、結晶性ポリエステル樹脂のピーク半値幅が小さく、結晶性が高い点で、特に1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、1,12ドデカンジオールのいずれか一種類のアルコール成分、及び、フマル酸、1,4−ブタン二酸、1,6−ヘキサン二酸、1,8−オクタン二酸、1,10−デカン二酸、1,12−ドデカン二酸のいずれか一種類のジカルボン酸成分のみで構成されることが好ましい。
【0047】
また、結晶性ポリエステル樹脂の結晶性および軟化点を制御する方法として、ポリエステル樹脂合成時にアルコール成分にグリセリン等の3価以上の多価アルコールや、酸成分に無水トリメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸を追加して縮重合を行った非線状ポリエステル樹脂などを設計、使用するなどの方法が挙げられる。
【0048】
本発明における結晶性ポリエステル樹脂の分子構造は、溶液や固体によるNMR測定の他、X線回折、GC/MS、LC/MS、IR測定などにより確認することができる。簡便には赤外線吸収スペクトルにおいて、965±10cm−1もしくは990±10cm−1にオレフィンのδCH(面外変角振動)に基づく吸収を有するものを結晶性ポリエステル樹脂として検出する方法を例としてあげることができる。
【0049】
結晶性ポリエステル樹脂の有機溶剤100質量部に対する20℃における溶解度は3.0質量部未満であることが好ましい。3.0質量部以上の場合、有機溶剤中に溶解している結晶性ポリエステル樹脂が、非結晶性ポリエステル樹脂と相溶しやすくなり、耐熱保存性の悪化、現像器の汚染、画像の劣化を生じる恐れがある。
【0050】
結晶性ポリエステル樹脂の有機溶剤100質量部に対する70℃における溶解度は10質量部以上であることが好ましい。10質量部未満の場合、有機溶剤と結晶性ポリエステル樹脂の親和性が乏しいため、有機溶剤中で結晶性ポリエステル樹脂をサブミクロンサイズまで分散させることが困難である。
【0051】
分子量については、分子量分布がシャープで低分子量のものが低温定着性に優れ、分子量が低い成分が多いと耐熱保存性が悪化するという観点から、鋭意検討した結果、o−ジクロロベンゼンの可溶分のGPCによる分子量分布で、横軸をlog(M)、縦軸を重量%で表した分子量分布図のピーク位置が3.5〜4.0の範囲にあり、ピークの半値幅が1.5以下であり、重量平均分子量(Mw)で3000〜30000、数平均分子量(Mn)で1000〜10000、Mw/Mnが1〜10であることが好ましい。
更には、重量平均分子量(Mw)で5000〜15000、数平均分子量(Mn)で2000〜10000、Mw/Mnが1〜5であることが好ましい。
【0052】
結晶性ポリエステル樹脂の酸価は、紙と樹脂との親和性の観点から、目的とする低温定着性を達成するためには5mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上であることが好ましく、一方、ホットオフセット性を向上させるには45mgKOH/g以下のものであることが好ましい。更に、結晶性ポリエステル樹脂の水酸基価については、所定の低温定着性を達成し、かつ良好な帯電特性を達成するためには0〜50mgKOH/g、より好ましくは5〜50mgKOH/gであることが好ましい。
【0053】
(結晶性ポリエステル樹脂以外の結着樹脂)
前記結晶性ポリエステル樹脂以外の結着樹脂(以下、「その他の結着樹脂」と称することがある。)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、スチレン系単量体、アクリル系単量体、メタクリル系単量体等のビニル重合体、これらの単量体又は2種類以上からなる共重合体、ポリエステル系重合体、ポリオール樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、テルペン樹脂、クマロンインデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、石油系樹脂、などが挙げられる。
【0054】
その他の結着樹脂の性状としては溶媒に溶解することが望まく、この特徴を除けば従来公知の性能を持っていることが望ましい。
【0055】
(結着樹脂の分子量分布)
結着樹脂のGPC(ゲルパーメンテーションクロマトグラフィ)による分子量分布で、分子量3千〜5万の領域に少なくとも1つのピークが存在するのが、トナーの定着性、耐オフセット性の点で好ましく、また、THF可溶分としては、分子量10万以下の成分が60〜100[%]となるような結着樹脂も好ましく、分子量5千〜2万の領域に少なくとも1つのピークが存在する結着樹脂がより好ましい。
【0056】
(結着樹脂の酸価)
結着樹脂の酸価が0.1〜50[mgKOH/g]を有する樹脂を60[質量%]以上有するものが好ましい。
本発明において、トナー組成物の結着樹脂成分の酸価は、JIS K−0070に準じて測定したものである。
【0057】
本発明で使用できる磁性体としては、従来電子写真トナーに用いられる公知のものを使用することができる。例えば、(1)マグネタイト、マグヘマイト、フェライトの如き磁性酸化鉄、及び他の金属酸化物を含む酸化鉄、(2)鉄、コバルト、ニッケル等の金属、又は、これらの金属とアルミニウム、コバルト、銅、鉛、マグネシウム、錫、亜鉛、アンチモン、ベリリウム、ビスマス、カドミウム、カルシウム、マンガン、セレン、チタン、タングステン、バナジウム等の金属との合金。(3)及びこれらの混合物、などが用いられる。前記磁性体は、着色剤としても使用することができる。前記磁性体の使用量としては、結着樹脂100質量部に対して、磁性体10〜200質量部が好ましく、20〜150質量部がより好ましい。これらの磁性体の個数平均粒径としては、0.1〜2[μm]が好ましく、0.1〜0.5[μm]がより好ましい。前記個数平均径は、透過電子顕微鏡により拡大撮影した写真をデジタイザー等で測定することにより求めることができる。
【0058】
〔着色剤〕
前記着色剤としては、特に制限はなく、通常使用される樹脂を適宜選択して使用することができる。
【0059】
前記着色剤の含有量としては、トナーに対して1〜15[質量%]が好ましく、3〜10[質量%]がより好ましい。
【0060】
本発明に係るトナーで用いる着色剤は、樹脂と複合化されたマスターバッチとして用いることもできる。マスターバッチは顔料を予め分散させるためのものであり、顔料の充分な分散が得られていれば用いなくても良い。マスターバッチは一般的に顔料と樹脂とを高せん断をかけることで樹脂中に顔料を硬度に分散させたものである。マスターバッチの製造またはマスターバッチとともに混練されるバインダー樹脂としては、従来公知のものを使用することができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0061】
前記マスターバッチの使用量としては、結着樹脂100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましい。
【0062】
マスターバッチ製造時に顔料の分散性を高めるために分散剤を用いてもよい。顔料分散性の点で、結着樹脂との相溶性が高いことが好ましく、従来公知のものを用いることができ、具体的な市販品としては、「アジスパーPB821」、「アジスパーPB822」(味の素ファインテクノ社製)、「Disperbyk−2001」(ビックケミー社製)、「EFKA−4010」(EFKA社製)、などが挙げられる。
【0063】
前記分散剤は、トナー中に、着色剤に対して0.1〜10[質量%]の割合で配合することが好ましい。配合割合が0.1[質量%]未満であると、顔料分散性が不十分となることがあり、10[質量%]より多いと、高湿下での帯電性が低下することがある。
【0064】
前記分散剤の添加量は、着色剤100質量部に対して1〜200質量部であることが好ましく、5〜80質量部であることがより好ましい。1質量部未満であると分散能が低くなることがあり、200質量部を超えると帯電性が低下することがある。
【0065】
(離型剤)
本発明で用いるトナー成分液は、結着樹脂、着色剤とともに離型剤を含有する。
離型剤としては、特に制限はなく、通常使用されるものを適宜選択して使用することができ、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィン離型剤、マイクロクリスタリン離型剤、パラフィン離型剤、サゾール離型剤等の脂肪族炭化水素系離型剤、酸化ポリエチレン離型剤等の脂肪族炭化水素系離型剤の酸化物又はそれらのブロック共重合体、キャンデリラ離型剤、カルナバ離型剤、木ろう、ホホバろう等の植物系離型剤、みつろう、ラノリン、鯨ろう等の動物系離型剤、オゾケライト、セレシン、ペテロラタム等の鉱物系離型剤、モンタン酸エステル離型剤、カスター離型剤の等の脂肪酸エステルを主成分とする離型剤類。脱酸カルナバ離型剤の等の脂肪酸エステルを一部又は全部を脱酸化したもの、などが挙げられる。
【0066】
前記離型剤の融点としては、定着性と耐オフセット性のバランスを取るために、70〜140[℃]であることが好ましく、70〜120[℃]であることがより好ましい。70[℃]未満では耐ブロッキング性が低下することがあり、140[℃]を超えると耐オフセット効果が発現しにくくなることがある。
【0067】
前記離型剤の総含有量としては、結着樹脂100質量部に対し、0.2〜20質量部が好ましく、0.5〜10質量部がより好ましい。
【0068】
本発明では、DSC(ディファレンシャルスキャニングカロリメトリー)において測定される離型剤の吸熱ピークの最大ピークのピークトップの温度をもって離型剤の融点とする。
【0069】
前記離型剤又はトナーのDSC測定機器としては、高精度の内熱式入力補償型の示差走査熱量計で測定することが好ましい。測定方法としては、ASTM D3418−82に準じて行う。本発明に用いられるDSC曲線は、1回昇温、降温させ前履歴を取った後、温度速度10[℃/min]で、昇温させた時に測定されるものを用いる。
【0070】
本発明に係るトナーには、他の添加剤として、静電潜像担持体・キャリアの保護、クリーニング性の向上、熱特性・電気特性・物理特性の調整、抵抗調整、軟化点調整、定着率向上等を目的として、各種金属石けん、フッ素系界面活性剤、フタル酸ジオクチルや、導電性付与剤として酸化スズ、酸化亜鉛、カーボンブラック、酸化アンチモン等や、酸化チタン、酸化アルミニウム、アルミナ等の無機微粉体などを必要に応じて添加することができる。これらの無機微粉体は、必要に応じて疎水化してもよい。また、ポリテトラフルオロエチレン、ステアリン酸亜鉛、ポリフッ化ビニリデン等の滑剤、酸化セシウム、炭化ケイ素、チタン酸ストロンチウム等の研磨剤、ケーキング防止剤、更に、トナー粒子と逆極性の白色微粒子及び黒色微粒子とを、現像性向上剤として少量用いることもできる。
【0071】
これらの添加剤は、帯電量コントロール等の目的でその表面をシリコーンワニス、各種変性シリコーンワニス、シリコーンオイル、各種変性シリコーンオイル、シランカップリング剤、官能基を有するシランカップリング剤、その他の有機ケイ素化合物等の処理剤、又は種々の処理剤で処理することも好ましい。
【0072】
前記添加剤としては、無機微粒子を好ましく用いることができる。前記無機微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、等公知のものを使用できる。
【0073】
この他、高分子系微粒子たとえばソープフリー乳化重合や懸濁重合、分散重合によって得られるポリスチレン、メタクリル酸エステルやアクリル酸エステル共重合体やシリコーン、ベンゾグアナミン、ナイロンなどの重縮合系、熱硬化性樹脂による重合体粒子が挙げられる。
【0074】
このような外添剤は、表面処理剤により、疎水性を上げ、高湿度下においても外添剤自身の劣化を防止することができる。前記表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、シリル化剤、フッ化アルキル基を有するシランカップリング剤、有機チタネート系カップリング剤、アルミニウム系のカップリング剤、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、などが好適に挙げられる。
【0075】
前記外添剤の一次粒子径としては、5[nm]〜2[μm]であることが好ましく、5[nm]〜500[nm]であることがより好ましい。また、BET法による比表面積としては、20〜500[m2/g]であることが好ましい。この無機微粒子の使用割合としては、トナーの0.01〜5[重量%]であることが好ましく、0.01〜2.0[重量%]であることがより好ましい。
【0076】
静電潜像担持体や一次転写媒体に残存する転写後の現像剤を除去するためのクリーニング性向上剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸等の脂肪酸金属塩、ポリメチルメタクリレート微粒子、ポリスチレン微粒子等のソープフリー乳化重合によって製造されたポリマー微粒子、などを挙げることかできる。ポリマー微粒子は比較的粒度分布が狭く、体積平均粒径が0.01から1[μm]のものが好ましい。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明する。
【0078】
[結着樹脂の合成]
(製造例1;結晶性ポリエステル樹脂Aの合成)
窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱伝対を装備した5リットルの四つ口フラスコに1,10−デカン二酸2320g、1,8−オクタンジオール1430g、ハイドロキノン4.9gを入れ、200℃で10時間反応させた後、230℃に昇温して3時間反応させ、さらに8.3kPaにて4時間反応させて結晶性ポリエステル樹脂Aを得た。融点、有機溶剤への溶解度、分子量測定結果を表1に示す。
尚、分子量測定はo−ジクロロベンゼンの可溶分のGPCによる測定によって行う。また、以下に示す結晶性ポリエステル樹脂BからHについても同様である。
【0079】
(製造例2;結晶性ポリエステル樹脂Bの合成)
窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱伝対を装備した5リットルの四つ口フラスコに1,10−デカン二酸2300g、1,8−オクタンジオール1430g、ハイドロキノン4.9gを入れ、190℃で4時間反応させた後、220℃に昇温して3時間反応させ、さらに7.8kPaにて1時間反応させて結晶性ポリエステル樹脂Bを得た。融点、有機溶剤への溶解度、分子量測定結果を表1に示す。
【0080】
(製造例3;結晶性ポリエステル樹脂Cの合成)
窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱伝対を装備した5リットルの四つ口フラスコに1,10−デカン二酸2400g、エチレングリコール620g、ハイドロキノン4.9gを入れ、200℃で10時間反応させた後、220℃に昇温して3時間反応させ、さらに8.3kPaにて2時間反応させて結晶性ポリエステル樹脂Cを得た。融点、有機溶剤への溶解度、分子量測定結果を表1に示す。
【0081】
(製造例4;結晶性ポリエステル樹脂Dの合成)
窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱伝対を装備した5リットルの四つ口フラスコに1,10−デカン二酸2400g、1,6−ヘキサンジオール1330g、ハイドロキノン4.9gを入れ、200℃で10時間反応させた後、200℃に昇温して3時間反応させ、さらに8.3kPaにて2時間反応させて結晶性ポリエステル樹脂Dを得た。融点、有機溶剤への溶解度、分子量測定結果を表1に示す。
【0082】
(製造例4;結晶性ポリエステル樹脂Eの合成)
窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱伝対を装備した5リットルの四つ口フラスコに1,10−ドデカン二酸2300g、1,10−ドデカンジオール2030g、ハイドロキノン4.9gを入れ、180℃で10時間反応させた後、200℃に昇温して3時間反応させ、さらに8.3kPaにて2時間反応させて結晶性ポリエステル樹脂Eを得た。融点、有機溶剤への溶解度、分子量測定結果を表1に示す。
【0083】
(製造例6;結晶性ポリエステル樹脂Fの合成)
窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱伝対を装備した5リットルの四つ口フラスコに1,10−テレフタル酸2520g、1,6−ヘキサンジオール2880g、ハイドロキノン4.9gを入れ、180℃で10時間反応させた後、200℃に昇温して3時間反応させ、さらに8.3kPaにて2時間反応させて結晶性ポリエステル樹脂Fを得た。融点、有機溶剤への溶解度、分子量測定結果を表1に示す。
【0084】
(製造例7;結晶性ポリエステル樹脂Gの合成)
窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱伝対を装備した5リットルの四つ口フラスコにフマル酸1920g、1,6−ヘキサンジオール2480g、ハイドロキノン4.9gを入れ、180℃で10時間反応させた後、200℃に昇温して3時間反応させ、さらに8.3kPaにて2時間反応させて結晶性ポリエステル樹脂Gを得た。融点、有機溶剤への溶解度、分子量測定結果を表1に示す。
【0085】
〔その他の結着樹脂合成〕
(製造例8;ポリエステル樹脂Hの合成)
窒素導入管、脱水管、攪拌器、及び熱電対を装備した5リットルの四つ口フラスコ内に、アルコール成分として、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物0.5モル及び、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物0.5モルを、カルボン酸成分として、テレフタル酸0.9モルを、エステル化触媒としてオクチル酸スズを入れ、窒素雰囲気下、180℃で4時間縮重合反応させた。その後、トリメリット酸0.07モルを追加して、210℃に昇温して1時間反応させ、さらに8KPaにて1時間反応させることにより、ポリエステル樹脂Hを合成した。融点、有機溶剤への溶解度、分子量測定結果を表1に示す。
【0086】
(結着樹脂の物性確認)
製造例1〜8で合成した結晶性ポリエステル樹脂A、結晶性ポリエステル樹脂B、結晶性ポリエステル樹脂C、結晶性ポリエステル樹脂D、結晶性ポリエステル樹脂E、結晶性ポリエステル樹脂F、結晶性ポリエステル樹脂G、及びポリエステル樹脂Hの融点、及び溶解度を以下の方法で測定し、表1にまとめた。
【0087】
(結着樹脂の融点評価)
なお、樹脂の融点は、示差走査熱量計であるTG−DSCシステムTAS−100(理学電機社製)を用いて、最大吸熱ピークを測定することにより求めた。
【0088】
(結晶性ポリエステル樹脂の有機溶剤に対する溶解度評価)
結晶性ポリエステル樹脂の有機溶剤に対する溶解度は以下の方法で求められる。
先ず、結晶性ポリエステル樹脂20gと有機溶剤80gを所定の温度下で、1時間攪拌する。
次いで、桐山ロート(桐山製作所製)に、桐山ロート用ろ紙No.4(桐山製作所製)をセットし、これを用いて攪拌した後の溶液を、所定の温度下で、アスピレーターで吸引ろ過し、有機溶剤と結晶性ポリエステル樹脂とを分離する。
さらに、分離して得られた有機溶剤を有機溶剤の沸点+50℃の温度で1時間加熱して有機溶剤を蒸発させ、加熱前後の重量変化から、有機溶剤中に溶解していた結晶性ポリエステル樹脂の溶解量を算出する。
【0089】
【表1】

【0090】
[結晶性ポリエステル樹脂A〜Gの分散液作製]
(結晶性ポリエステル分散液Aの作製)
金属製2L容器に[結晶性ポリエステル樹脂A]を100g、酢酸エチル400gを入れ、75℃で加熱溶解させた後、氷水浴中で27℃/分の速度で急冷した。これにガラスビーズ(3mmφ)500mlを加え、バッチ式サンドミル装置(カンペハピオ社製)で10時間粉砕を行い、[結晶性ポリエステル分散液A]を得た。得られた結晶性ポリエステル分散液A中の結晶性ポリエステル樹脂Aの体積平均粒径をレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA−950、堀場製作所製)を用いて測定したところ、0.56μmであった。
【0091】
(結晶性ポリエステル分散液Bの作製)
結晶性ポリエステル分散液Aの作製と同様の方法で、[結晶性ポリエステル樹脂A]を[結晶性ポリエステル樹脂B]変更して、[結晶性ポリエステル分散液B]を得た。結晶性ポリエステル樹脂Aと同様な方法で測定した結晶性ポリエステル樹脂Bの体積平均粒径は0.52μmであった。
【0092】
(結晶性ポリエステル分散液Cの作製)
結晶性ポリエステル分散液Aの作製と同様の方法で、[結晶性ポリエステル樹脂A]を[結晶性ポリエステル樹脂C]に変更して、[結晶性ポリエステル分散液C]を得た。結晶性ポリエステル樹脂Aと同様な方法で測定した結晶性ポリエステル樹脂Cの体積平均粒径は0.59μmであった。
【0093】
(結晶性ポリエステル分散液Dの作製)
結晶性ポリエステル分散液Aの作製と同様の方法で、[結晶性ポリエステル樹脂A]を[結晶性ポリエステル樹脂D]に変更して、[結晶性ポリエステル分散液D]を得た。結晶性ポリエステル樹脂Aと同様な方法で測定した結晶性ポリエステル樹脂Dの体積平均粒径は0.60μmであった。
【0094】
(結晶性ポリエステル分散液Eの作製)
結晶性ポリエステル分散液Aの作製と同様の方法で、[結晶性ポリエステル樹脂A]を[結晶性ポリエステル樹脂E]に変更して、[結晶性ポリエステル分散液E]を得た。結晶性ポリエステル樹脂Aと同様な方法で測定した結晶性ポリエステル樹脂Eの体積平均粒径は2.70μmであった。
【0095】
(結晶性ポリエステル分散液Fの作製)
結晶性ポリエステル分散液Aの作製と同様の方法で、[結晶性ポリエステル樹脂A]を[結晶性ポリエステル樹脂F]に変更して、[結晶性ポリエステル分散液F]を得た。結晶性ポリエステル樹脂Aと同様な方法で測定した結晶性ポリエステル樹脂Fの体積平均粒径は0.53μmであった。
【0096】
(結晶性ポリエステル分散液Gの作製)
結晶性ポリエステル分散液Aの作製と同様の方法で、[結晶性ポリエステル樹脂A]を[結晶性ポリエステル樹脂G]に変更して、[結晶性ポリエステル分散液G]を得た。結晶性ポリエステル樹脂Aと同様な方法で測定した結晶性ポリエステル樹脂Gの体積平均粒径は0.58μmであった。
【0097】
(結晶性ポリエステル分散液A−1の作製)
結晶性ポリエステル分散液Aの作製と同様の方法で、[結晶性ポリエステル分散液A]をバッチ式サンドミル装置(カンペハピオ社製)で5時間粉砕を行い、得られた分散液を、[結晶性ポリエステル分散液A−1]とし、得られた結晶性ポリエステル分散液A−1中の結晶性ポリエステル樹脂Aの体積平均粒径は2.98μmであった。
【0098】
(着色剤分散液の調製)
先ず、着色剤としての、カーボンブラックの分散液を調製した。
カーボンブラック(RegaL400;Cabot社製)17質量部、顔料分散剤3質量部を、酢酸エチル80質量部に、攪拌羽を有するミキサーを使用し、一次分散させた。
該顔料分散剤としては、アジスパーPB821(味の素ファインテクノ社製)を使用した。得られた一次分散液を、ビーズミル(アシザワファインテック社製LMZ型、ジルコニアビーズ径0.3mm)を用いて強力なせん断力により細かく分散し、5μm以上の凝集体を完全に除去した二次分散液を調製した。
【0099】
(離型剤分散液の調整)
次に離型剤分散液を調整した。
カルナバ離型剤18質量部、離型剤分散剤2質量部を、酢酸エチル80質量部に、攪拌羽を有するミキサーを使用し、一次分散させた。この一次分散液を攪拌しながら80℃まで昇温しカルナバ離型剤を溶解した後、室温まで液温を下げ最大径が3μm以下となるよう離型剤粒子を析出させた。離型剤分散剤としては、ポリエチレン離型剤にスチレン−アクリル酸ブチル共重合体をグラフト化したものを使用した。得られた分散液を、更にビーズミル(アシザワファインテック社製LMZ型、ジルコニアビーズ径0.3mm)を用いて強力なせん断力により細かく分散し、最大径が1μm以下になるよう調整した。
【0100】
[分散液(トナー組成液)の調製]
(トナー組成液Aの調整)
次に、表2に示されるように、上記結晶性ポリエステル樹脂Aが20部、その他の樹脂としての上記ポリエステル樹脂Hが80部、カルバナワックス離型剤が10部、上記離型剤分散剤が0.5部、上記着色剤(カーボンクラック)が5部になるように各分散液乃至溶液を混合し、攪拌羽を有するミキサーを使用して10分間攪拌を行い、均一に分散させた。溶媒希釈によるショックで結晶性ポリエステル、顔料、及び離型剤粒子が凝集することはなかった。
【0101】
【表2】

【0102】
(トナー組成液A−1の調整)
表2に示されるような結晶性ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂H、カルバナワックス離型剤、離型剤分散剤、及び着色剤が表に示される割合になるように各分散液乃至溶液を混合した後、トナー組成液Aの場合と同様に処理し、トナー組成液A−1を調整した。
トナー組成液中での結晶性ポリエステル及び他の成分(顔料、離型剤粒子等のトナー材料)の分散性については、つぎのように行った。
すなわち、<調製後のトナー組成液中での結晶性ポリエステル樹脂の分散状態の確認方法>トナー組成液A〜H、及びA−1をそれぞれ30mlサンプル瓶に入れ、一定時間静置し結晶性ポリエステル樹脂の凝集沈降を目視で観察した。
[評価基準]
○:二十四時間以上でも結晶性ポリエステル樹脂の凝集沈降を確認できない
△:五時間以内に結晶性ポリエステル樹脂の凝集沈降を確認した
×:一時間以内に結晶性ポリエステル樹脂の凝集沈降を確認した
結果は表2に示される(他の各例も同様)。
【0103】
(トナー組成液Bの調整)
表2に示されるような結晶性ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂H、カルバナワックス離型剤、離型剤分散剤、及び着色剤が表に示される割合になるように各分散液乃至溶液を混合した後、トナー組成液Aの場合と同様に処理し、トナー組成液Bを調整した。溶媒希釈によるショックで結晶性ポリエステル、顔料、及び離型剤粒子が凝集することはなかった。
【0104】
(トナー組成液Cの調整)
表2に示されるような結晶性ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂H、カルバナワックス離型剤、離型剤分散剤、及び着色剤が表に示される割合になるように各分散液乃至溶液を混合した後、トナー組成液Aの場合と同様に処理し、トナー組成液Cを調整した。溶媒希釈によるショックで結晶性ポリエステル、顔料、及び離型剤粒子が凝集することはなかった。
【0105】
(トナー組成液Dの調整)
表2に示されるような結晶性ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂H、カルバナワックス離型剤、離型剤分散剤、及び着色剤が表に示される割合になるように各分散液乃至溶液を混合した後、トナー組成液Aの場合と同様に処理し、トナー組成液Dを調整した。溶媒希釈によるショックで結晶性ポリエステル、顔料、及び離型剤粒子が凝集することはなかった。
【0106】
(トナー組成液Eの調整)
表2に示されるような結晶性ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂H、カルバナワックス離型剤、離型剤分散剤、及び着色剤が表に示される割合になるように各分散液乃至溶液を混合した後、トナー組成液Aの場合と同様に処理し、トナー組成液Eを調整した。トナー組成液中での結晶性ポリエステル及び他の成分(顔料、離型剤粒子等のトナー材料)の分散性については表2に示される。
【0107】
(トナー組成液Fの調整)
表2に示されるような結晶性ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂H、カルバナワックス離型剤、離型剤分散剤、及び着色剤が表に示される割合になるように各分散液乃至溶液を混合した後、トナー組成液Aの場合と同様に処理し、トナー組成液Fを調整した。トナー組成液中での結晶性ポリエステル及び他の成分(顔料、離型剤粒子等のトナー材料)の分散性については表2に示される。
【0108】
(トナー組成液Gの調整)
表2に示されるような結晶性ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂H、カルバナワックス離型剤、離型剤分散剤、及び着色剤が表に示される割合になるように各分散液乃至溶液を混合した後、トナー組成液Aの場合と同様に処理し、トナー組成液Gを調整した。トナー組成液中での結晶性ポリエステル及び他の成分(顔料、離型剤粒子等のトナー材料)の分散性については表2に示される。
【0109】
(トナー組成液Hの調整)
表2に示されるようなポリエステル樹脂H、カルバナワックス離型剤、離型剤分散剤、及び着色剤が表に示される割合になるように各分散液乃至溶液を混合した後、トナー組成液Aの場合と同様に処理し、トナー組成液Hを調整した。トナー組成液中での結晶性ポリエステル及び他の成分(顔料、離型剤粒子等のトナー材料)の分散性については表2に示される。
【0110】
[実施例1;トナー母体粒子Aの作製]
トナー組成液Aを、図1〜3に示すトナー製造装置を用い、図3に示す液柱共鳴原理を用いた液滴吐出ヘッドにより以下に示す条件で液滴を吐出させた。その後、該液滴を乾燥固化し、サイクロン捕集した後、更に35℃にて48時間2次乾燥させることにより、トナー母体粒子Aを作製した。
[液柱共鳴条件]
共鳴モード :N=2
液柱共鳴液室の長手方向の両端間の長さ :L=1.8mm
液柱共鳴液室の液共通供給路側のフレームの端部の高さ :h1=80μm
液柱共鳴液室の連通口の高さ :h2=40μm
[トナー母体粒子作製条件]
分散液比重 :ρ=1.1g/cm3
吐出口の形状 :真円
吐出口直径 :7.5μm
吐出口の開口数 :液柱共鳴液室1つ当たり4個
隣接する吐出口の中心部間の最短間隔 :130μm(全て等間隔)
乾燥エアー温度 :40℃
印加電圧 :10.0V
駆動周波数 :395kHz
【0111】
[トナーAの作製]
このトナー母体粒子1−1 100質量部に対して、流動性向上剤として疎水性シリカ(H2000、クラリアントジャパン株式会社製)1.0質量部及び酸化チタン(SMT−150AI、テイカ株式会社製)1.0質量部を、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いて外添処理を行い、トナーAを得た。噴射時のノズルのつまりを観察し、その結果を表3にまとめた。
【0112】
[実施例2;トナー母体粒子Bの作製]
実施例1の、トナー組成液Aをトナー組成液Bに変更して、トナー母体粒子Bを作製し、トナーBを得た。噴射時のノズルのつまりを観察し、その結果を表3にまとめた。
【0113】
[実施例3;トナー母体粒子Cの作製]
実施例1の、トナー組成液Aをトナー組成液Cに変更して、トナー母体粒子Cを作製し、トナーCを得た。噴射時のノズルのつまりを観察し、その結果を表3にまとめた。
【0114】
[実施例4;トナー母体粒子Dの作製]
実施例1の、トナー組成液Aをトナー組成液Dに変更して、トナー母体粒子Dを作製し、トナーDを得た。噴射時のノズルのつまりを観察し、その結果を表3にまとめた。
【0115】
[比較例1;トナー母体粒子Eの作製]
実施例1の、トナー組成液Aをトナー組成液Eに変更して、トナー母体粒子Eを作製し、トナーEを得た。噴射時のノズルのつまりを観察し、その結果を表3にまとめた。
【0116】
[比較例2;トナー母体粒子Fの作製]
実施例1の、トナー組成液Aをトナー組成液Fに変更して、トナー母体粒子Fを作製し、トナーFを得た。噴射時のノズルのつまりを観察し、その結果を表3にまとめた。
【0117】
[比較例3;トナー母体粒子Gの作製]
実施例1の、トナー組成液Aをトナー組成液Gに変更して、トナー母体粒子Gを作製し、トナーGを得た。噴射時のノズルのつまりを観察し、その結果を表3にまとめた。
【0118】
[比較例4;トナー母体粒子Hの作製]
実施例1の、トナー組成液Aをトナー組成液Hに変更して、トナー母体粒子Hを作製し、トナーHを得た。噴射時のノズルのつまりを観察し、その結果を表3にまとめた。
【0119】
[比較例5;トナー母体粒子A−1の作製]
実施例1の、トナー組成液Aをトナー組成液A−1に変更して、トナー母体粒子A−1を作製し、トナーA−1を得た。噴射時のノズルのつまりを観察し、その結果を表3にまとめた。
【0120】
(キャリアの作製)
下記組成をホモミキサーで20分間分散し、コート層形成液を調製した。このコート層形成液を、流動床型コーティング装置を用いて、粒径40μmの球状マグネタイト1,000質量部の表面にコーティングして磁性キャリアを得た。
[組成]
シリコーン樹脂(オルガノストレートシリコーン) 100質量部
トルエン 100質量部
γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン 5質量部
カーボンブラック 10質量部
【0121】
(現像剤の作製)
トナーAからトナーH、及びトナーA−1それぞれについて、ブラックトナー4質量部及び上記磁性キャリア96質量部をボールミルで混合して二成分現像剤を作製した。
各二成分現像剤について、以下に示す方法で、定着下限温度、定着上限温度、粒径分布、吐出口のつまりについて評価した。
【0122】
(定着下限温度の評価)
前記作製した各二成分現像剤を市販の複写機(イマジオネオ455、リコー株式会社製)に入れ、定着温度を100度から10度おきに上げ、紙(タイプ6000ペーパー、リコー株式会社製)に画像を出力した。出力された画像を手で擦り、トナーが剥がれなくなった温度を定着下限温度として評価した。
[評価基準]
◎:定着下限温度が125℃以下
○:定着下限温度が130℃
△:定着下限温度が135℃
×:定着下限温度が140℃以上
【0123】
(定着上限温度の評価)
前記作製した各二成分現像剤を市販の複写機(イマジオネオ455、リコー株式会社製)に入れ、定着温度を低温から高温に変化させながら、紙(タイプ6000ペーパー、リコー株式会社製)に画像を出力した。出力された画像の光沢度が低下した温度、若しくは画像にオフセット画像が認められた温度から−5℃を定着上限温度とし、下記評価基準に基づいて評価した。
[評価基準]
◎:定着上限温度が190℃以上
○:定着上限温度が185℃
△:定着上限温度が180℃
×:定着上限温度が180℃未満
【0124】
(粒度分布の評価)
トナーA、B、C,D、E,F、G、H、A−1の体積平均粒径(Dv)及び個数平均粒径(Dn)は、粒度測定器(マルチサイザーIII、ベックマンコールター社製)を用いて、アパーチャー径100μmで測定し、解析ソフト(Beckman Coulter Mutlisizer 3 Version3.51)にて解析を行った。
具体的には、ガラス製ビーカー(100mL容)に10質量%界面活性剤(アルキルベンゼンスホン酸塩 ネオゲンSC−A、第一工業製薬株式会社製)を0.5mL添加した。次いで、各トナーをそれぞれ0.5g添加し、ミクロスパーテルでかき混ぜた後、イオン交換水 80mLを添加した。次いで、超音波分散器(W−113MK−II、本多電子株式会社製)で10分間分散処理した。
この分散液について、前記マルチサイザーIIIを用いて、測定用溶液としてアイソトンIII(ベックマンコールター社製)を用いて測定を行った。測定は、前記マルチサイザーIIIが示す濃度が8±2%になるように前記トナー分散液を滴下した。2.001μm以上20.1874μ以下の粒径を対象とした。
【0125】
トナー粒子又はトナーの体積及び個数を測定後、体積分布と個数分布を算出した。得られた分布から、トナーの体積平均粒径(Dv)、個数平均粒径(Dn)を求めた。粒度分布の指標としては、トナーの体積平均粒径(Dv)を個数平均粒径(Dn)で除したDv/Dnを用いた。完全に単分散であればDv/Dn=1となり、この数値が大きいほど分布が広いことを意味する。
【0126】
(各トナー組成液の噴射時の吐出口の詰まり評価)
トナー母体粒子の作製の際、液滴吐出ヘッドをCCDカメラにより観察し、吐出口から、吐出液滴が出ているかを確認し、吐出口のつまりを評価した。
[評価基準]
○:3時間吐出口に詰まりが生じることなく連続滴化できた
×:1時間で5割以上の吐出口に詰まりが生じた
【0127】
(フィルミングの評価)
画像形成装置MF2800(株式会社リコー製)を用いて、10,000枚画像を形成させた後の感光体を目視で検査し、トナー成分、主に離型剤の感光体への固着が生じていないかを下記評価基準により評価した。
[フィルミング評価基準]
◎:感光体へのトナー成分の固着が確認されない
○:感光体へのトナー成分の固着が確認できるが、実用上、問題になるレベルではない
△:感光体へのトナー成分の固着が確認でき、実用上問題の出るレベルである
×:感光体へのトナー成分の固着が確認でき、実用上大きく問題のあるレベルである
【0128】
【表3】

【0129】
実施例A〜Dの、トナーA〜トナーDは、3時間の連続液滴化において、吐出口が詰まることなく、好適にトナーを液滴化することができた。
一方、比較例E、A−1では、トナー液滴化時に一部の吐出口が詰り、トナー組成液の液滴化ができなくなった。
比較例E、A−1の詰まりの発生した吐出口を分析すると、それぞれ結晶性ポリエステル樹脂Eと結晶性ポリエステル樹脂Aが主な成分であった。吐出口の開口径に対するトナー組成液中の結晶性ポリエステル樹脂E、A−1の分散径(体積平均粒径)の比が1%以上30%以下の範囲外であったことが1つの原因であるかも知れない。
【0130】
なお、前記吐出口における結晶性ポリエステル樹脂の分析は、顕微レーザーラマン分光装置にて分析し、各トナー成分と比較して、同定を行った。
【0131】
表3の結果より、実施例A〜Dは、Dv/Dnが1.10以下と粒度分布が狭い小粒径トナーが得られ、かつ低温定着が可能であった。
一方、比較例F、G、Hは、定着上限温度は良好であったものの、定着下限温度が比較的高く、低温定着が可能なトナーを得ることができなかった。また、比較例E、F、G、A−1においてはフィルミングが発生した。
【0132】
本発明のトナーの製造方法は、トナー組成液を吐出する際に、吐出口が詰まることなく長時間安定してトナー組成液を吐出できるため、トナーの生産性に優れ、狭粒度分布、小粒径、優れた低温定着性を有し、フィルミングのないトナーを得ることができることがわかる。
【符号の説明】
【0133】
1 トナー製造装置
2 液滴吐出手段
3 ノズルプレート
6 トナー成分液供給口
7 トナー成分液流路
8 トナー成分液排出口
9 弾性板
10 液柱共鳴液滴吐出ユニット
11 液柱共鳴液滴吐出手段
12 気流通路
13 原料収容器
14 トナー成分液
15 液循環ポンプ
16 液供給管
17 液共通供給路
18 液柱共鳴流路
19 ノズル
20 振動発生手段
21 液滴
22 液戻り管
23 合着液滴
24 ノズル角度
25 噴射清掃手段
60 乾燥捕集手段
61 チャンバ
62 トナー捕集手段
63 トナー貯留部
64 搬送気流導入口
65 搬送気流排出口
P1 液圧力計
P2 チャンバ内圧力計
【先行技術文献】
【特許文献】
【0134】
【特許文献1】特開平7−152202号公報
【特許文献2】特開2003−262976号公報
【特許文献3】特開2003−280236号公報
【特許文献4】特開2003−262977号公報
【特許文献5】特開平05−045929号公報
【特許文献6】特開平11−249339号公報
【特許文献7】特開2001−117268号公報
【特許文献8】特開2001−222138号公報
【特許文献9】特開平8−176310号公報
【特許文献10】特開2005−15589号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つ以上の吐出口が形成された液柱共鳴液室内のトナー組成液に振動を付与することで液柱共鳴による定在波を形成させ、前記定在波の腹となる領域に配置された前記吐出口から前記トナー組成液を吐出する液滴形成工程を含み、前記トナー組成液は、結着樹脂および着色剤を含有するトナー組成物を有機溶剤に溶解又は分散させており、液滴が固化すると微粒子となるものであって、前記結着樹脂が、少なくとも結晶性ポリエステル樹脂を含有し、前記結晶性ポリエステル樹脂が、液滴化する前のトナー組成液中に分散していることを特徴とするトナーの製造方法。
【請求項2】
前記結晶性ポリエステル樹脂が、2価のアルコール成分及び2価の酸成分を少なくとも含有し、前記2価のアルコール成分及び前記2価の酸成分の少なくともいずれかが、少なくとも2種のモノマーを含有することを特徴とする請求項1に記載のトナーの製造方法。
【請求項3】
前記吐出口の開口径に対する前記トナー組成液中の前記結晶性ポリエステル樹脂の分散径(体積平均粒径)の比が1%以上30%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のトナーの製造方法。
【請求項4】
前記結着樹脂中に結晶性ポリエステル樹脂を3質量%〜50質量%含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のトナーの製造方法。
【請求項5】
前記結晶性ポリエステル樹脂の有機溶剤100質量部に対する70℃における溶解度は10質量部以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のトナー製造方法。
【請求項6】
前記結晶性ポリエステル樹脂の、融点が65℃以上75℃未満であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のトナー製造方法。
【請求項7】
前記結晶性ポリエステル樹脂は、オルトジクロロベンゼンの可溶分のGPCによる分子量分布が、重量平均分子量(Mw)で3000〜30000、数平均分子量(Mn)で1000〜10000、Mw/Mnが1〜10であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のトナー製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載のトナーの製造方法により得られ、重量平均粒径が1μm〜10μmであり、粒度分布(重量平均粒径/個数平均粒径)が、1〜1.10の範囲にあることを特徴とするトナー。
【請求項9】
請求項8に記載のトナーとキャリアとを少なくとも含有することを特徴とする現像剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−64886(P2013−64886A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203712(P2011−203712)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】