説明

トナーの製造方法およびトナー、現像剤、現像装置ならびに画像形成装置

【課題】 トナー母粒子を孤立流動させた状態を保持しつつ、トナー母粒子の装置内壁への付着および凝集物の発生を抑制することで、トナー母粒子に樹脂微粒子が均一に被覆したトナーを高い収率で製造できるトナーの製造方法を提供する。
【解決手段】 トナーの製造方法は、回転羽根を周設した回転盤と回転軸とを含む回転撹拌手段によって回転撹拌室および循環管を含む粉体流路内を繰り返し循環させ回転撹拌室に戻す循環手段と、粉体流路の少なくとも一部に設けられ、粉体流路内および回転撹拌手段の温度を所定の温度に調整する温度調整手段とを備える回転撹拌装置を用い、温度調整工程と、樹脂微粒子付着工程と、噴霧工程と、膜化工程とを含む。樹脂微粒子付着工程、噴霧工程、膜化工程では、温度調整手段によって、粉体流路内の温度が前記所定の温度に調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナーの製造方法およびトナー、現像剤、現像装置ならびに画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、トナー粒子などの粉体粒子の特性を向上させることを目的として、粉体粒子の表面を被覆材料で被覆する表面改質処理が行われている。
【0003】
トナー粒子などの粉体粒子の表面改質処理の方法としては、スクリュー、ブレード、ロータなどの回転撹拌手段で粉体粒子に機械的撹拌力を付与することによって粉体粒子を粉体流過路内で流動させ、流動状態にある粉体粒子にスプレーノズルから被覆材料を噴射する方法が知られており、たとえば、特許文献1には、周速度5〜160m/secで回転撹拌手段を回転させて粉体粒子を流動させ、この流動状態にある粉体粒子にスプレーノズルから液体を噴霧することによって、液体に含まれる微小固体粒子を粉体粒子表面に固着させる、または液体に含まれる被覆材料の膜を粉体粒子表面に形成する固体粒子の表面改質方法が開示されている。特許文献1に開示の表面改質方法によれば、被覆材料と粉体粒子との密着性を高めることができ、かつ表面改質処理に要する時間を短縮することができる。
【0004】
また、特許文献2には、内核粒子表面に樹脂粒子を付着させ、該樹脂粒子を溶解する溶剤で処理することによって内核粒子表面に被覆層を形成するマイクロカプセルの製造方法が開示されている。特許文献2に開示のマイクロカプセルの製造方法は、少なくとも、内核粒子表面に樹脂粒子を付着させる工程、樹脂粒子が溶解する溶剤によって該樹脂粒子を処理する工程、処理した粒子を乾燥および回収する工程から成る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平5−10971号公報
【特許文献2】特開平4−211269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の方法では次のような問題が生じる。回転撹拌手段で機械的撹拌力を付与することによって粉体粒子を流動させ、流動状態にある粉体粒子にスプレーノズルから被覆材料を含む液体を噴射する場合、被覆材料が粉体粒子に均一に被覆された被覆粒子を得るためには、粉体粒子を孤立流動させる必要がある。粉体粒子を孤立流動させるためには、回転撹拌手段の周速度をある程度大きくする必要がある。噴霧する液体中の被覆材料濃度が低い場合、被覆材料を粉体粒子に均一に被覆するためには、噴霧する液体の量を多くする必要がある。これが原因で、装置の内壁に粉体粒子が付着し易くなり、付着した粉体粒子を核として他の粉体粒子および被覆材料が凝集成長するおそれがある。粉体粒子および被覆材料が装置の内壁において凝集成長すると、粉体粒子が流動するための流路が狭くなり、粉体粒子の孤立流動の妨げになるという問題、および被覆粒子の収率低下という問題が発生する。また、被覆材料を含む液体の選定を行わないと、装置内に液体が溜り、粉体粒子が液体を吸着することによる凝集体が発生して、装置内壁面への凝集体の付着が発生するおそれがある。さらに液体が乾燥するときに樹脂微粒子の膜に気泡が生じるおそれがあり、特許文献1に開示の方法は、トナーのような樹脂系コア粒子へそのまま適用できるものではない。
【0007】
特許文献2に開示される方法は、樹脂粒子の樹脂を溶解する溶剤を用いて処理するので、その場合には、内核粒子および樹脂粒子を高速で流動させても、樹脂粒子の樹脂内に取り込まれた溶剤が気化し難く、凝集物が大量に発生する。さらに機内壁面への付着が多く生じ、一次粒子の状態で回収するのが困難になり、生産性のよい方法ではない。また溶剤の種類によっては内核粒子をも溶解させ、内核粒子に含まれるワックス類などが内核粒子表面に粒子として固着、露出するおそれがあり、得られたマイクロカプセル粒子をトナーとして用いると、トナーの保存性および定着性を含めトナー性能が低下する。
【0008】
本発明の目的は、トナー母粒子を孤立流動させた状態を保持しつつ、トナー母粒子の装置内壁への付着および凝集物の発生を抑制することで、トナー母粒子に樹脂微粒子が均一に被覆したトナーを高い収率で製造できるトナーの製造方法およびその製造方法で製造されたトナー、前記トナーを含む現像剤、前記現像剤を用いる現像装置および画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、回転羽根を周設した回転盤と回転軸とを含む回転撹拌手段によってトナー母粒子および樹脂微粒子を回転撹拌室および循環管を含む粉体流路内において繰り返し循環させ回転撹拌室に戻す循環手段と、粉体流路の少なくとも一部に設けられ、粉体流路内および回転撹拌手段の温度を所定の温度に調整する温度調整手段と、噴霧手段とを備える回転撹拌装置を用いる樹脂層被覆トナーの製造方法において、
温度調整手段によって粉体流路内および回転撹拌手段の温度を所定の温度に調整する温度調整工程と、
回転撹拌手段が回転している粉体流路内にトナー母粒子および樹脂微粒子を投入して、トナー母粒子表面に樹脂微粒子を付着させる樹脂微粒子付着工程と、
流動状態にあるトナー母粒子および樹脂微粒子に、それらの粒子を可塑化させる液体を噴霧手段からキャリアガスによって噴霧する噴霧工程と、
トナー母粒子に付着した樹脂微粒子が軟化して膜化するまで回転撹拌手段の回転を続けてトナー母粒子および樹脂微粒子を流動させる膜化工程とを含み、
樹脂微粒子付着工程、噴霧工程および膜化工程では、温度調整手段によって、粉体流路内および回転撹拌手段の温度が前記所定の温度に調整されることを特徴とするトナーの製造方法である。
【0010】
また本発明は、温度調整工程において、粉体流路内全体および回転撹拌手段の温度が温度調整手段によって所定の温度に調整されることを特徴とする。
【0011】
また本発明は、樹脂微粒子付着工程で、平均円形度が0.950以上0.970以下の機械的に球形化処理されたトナー母粒子を用いることを特徴とする。
【0012】
また本発明は、噴霧工程では、トナー母粒子および樹脂微粒子の流動速度が安定してから噴霧手段によって液体を噴霧することを特徴とする。
【0013】
また本発明は、噴霧工程で噴霧された液体は、粉体流路内が一定のガス濃度になるようにガス化されることを特徴とする。
【0014】
また本発明は、粉体流路内でのガス濃度が一定になるように、ガス化した液体を粉体流路外へ排出することを特徴とする。
【0015】
また本発明は、トナー母粒子および樹脂微粒子が流動する方向である粉体流動方向が一定の方向となるように粉体流路が設けられ、噴霧手段からの液体噴霧方向と、粉体流動方向との成す角度が、45°以下であることを特徴とする。
【0016】
また本発明は、回転撹拌手段は、回転軸の回転に伴って回転する回転盤を含み、
流動するトナー母粒子および樹脂微粒子は、回転盤に衝突することを特徴とする。
また本発明は、前記液体は、少なくともアルコールを含むことを特徴とする。
【0017】
また本発明は、前記トナーの製造方法によって製造されることを特徴とするトナーである。
【0018】
また本発明は、前記トナーを含むことを特徴とする現像剤である。
また本発明は、前記トナーとキャリアとから成る2成分現像剤であることを特徴とする。
【0019】
また本発明は、前記現像剤を用いて、像担持体に形成される潜像を現像してトナー像を形成することを特徴とする現像装置である。
【0020】
また本発明は、潜像が形成される像担持体と、
像担持体に潜像を形成する潜像形成手段と、
前記現像装置とを備えることを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、トナーの製造方法は、回転羽根を周設した回転盤と回転軸とを含む回転撹拌手段によってトナー母粒子および樹脂微粒子を回転撹拌室および循環管を含む粉体流路内を繰り返し循環させ回転撹拌室に戻す循環手段と、粉体流路の少なくとも一部に設けられ、粉体流路内および回転撹拌手段の温度を所定の温度に調整する温度調整手段とを備える回転撹拌装置を用い、温度調整工程と、樹脂微粒子付着工程と、噴霧工程と、膜化工程とを含む。トナー母粒子に樹脂微粒子を被覆することによって、樹脂微粒子の形状がトナー母粒子表面に残り、平滑な表面を有するトナーに比べて、クリーニング性に優れるトナーを得ることができる。
【0022】
樹脂微粒子付着工程、噴霧工程、膜化工程では、温度調整手段によって、粉体流路内の温度が前記所定の温度に調整される。これらの工程において、回転撹拌手段によって粉体流路内でトナー母粒子および樹脂微粒子を繰り返し循環させることによって、トナー母粒子および樹脂微粒子を孤立流動させることができトナー母粒子に樹脂微粒子を均一に被覆させることができる。
【0023】
粉体流路の少なくとも一部に温度調整手段が設けられ、前記手段によって粉体流路内および回転撹拌手段の温度を調整することによって、温度調整工程で粉体流路内および回転撹拌手段の外側の温度を樹脂微粒子付着工程において投入されるトナー母粒子および樹脂微粒子が軟化変形しない温度以下に制御することができる。また噴霧工程および膜化工程においては、トナー母粒子、樹脂微粒子および液体にかかる温度にばらつきが少なくなり、トナー母粒子および樹脂微粒子の安定な流動状態を保つことが可能となる。
【0024】
合成樹脂などからなるトナー母粒子および樹脂微粒子は粉体流路の内壁に何度も衝突し、衝突の際に、衝突エネルギーの一部が熱エネルギーに変換され、トナー母粒子および樹脂微粒子に蓄積される。衝突回数が増加するとともに、それらの粒子に蓄積される熱エネルギーが多くなり、やがてトナー母粒子および樹脂微粒子は軟化するが、前述のように前記温度調整手段で粉体流路内および回転撹拌手段の温度を調整することによって、過度の温度上昇によるトナー母粒子および樹脂微粒子の粉体流路内壁への付着を抑えることができ、噴霧手段から噴霧される液体が粉体流路内に蓄積することによるトナー母粒子および樹脂微粒子の粉体流路内への付着およびそれによる粉体流路内の閉塞を抑えることができる。したがって、トナー母粒子に樹脂微粒子が均一に被覆し、樹脂層で被覆されたクリーニング性に優れるトナーを高い収率で製造することができる。
【0025】
また本発明によれば、温度調整工程において、粉体流路内全体および回転撹拌手段の温度が温度調整手段によって所定の温度に調整される。これによって、トナー母粒子への樹脂微粒子の付着および膜化が円滑に進み、粉体流路内壁への付着力が一層低減するので、トナー母粒子および樹脂微粒子の粉体流路内壁への付着を一層抑えることができ、トナー母粒子および樹脂微粒子によって粉体流路内が狭くなることを一層抑えることができる。したがって、トナー母粒子に樹脂微粒子が均一に被覆し、樹脂層で被覆されたクリーニング性に優れるトナーをより高い収率で製造することができる。
【0026】
また本発明によれば、樹脂微粒子付着工程で、平均円形度が0.950以上0.970以下の機械的に球形化処理されたトナー母粒子を用いる。球形化処理を機械的に行うことによって、熱を与えることを抑制しながらトナー母粒子を球形化処理することができ、球形化処理におけるトナー母粒子の凝集を防止できるので、トナーの収率が高く生産性を向上させることができる。平均円形度が0.950以上0.970以下まで機械的に球形化処理されたトナー母粒子は表面の凹凸が低減されているので、樹脂微粒子付着工程において樹脂微粒子がトナー母粒子表面の凹部に多く付着して凸部よりも被覆層が厚く形成されることを抑えることができる。したがって、トナー母粒子表面全体に渡って樹脂微粒子を均一に付着させて厚さの均一な被覆層を形成することができる。
【0027】
また本発明によれば、噴霧工程では、トナー母粒子および樹脂微粒子の流動速度が安定してから噴霧手段によって液体を噴霧する。これによって、トナー母粒子および樹脂微粒子に液体を均一に噴霧することができるので、被覆層が均一に被覆したトナーの収率を向上させることができる。
【0028】
また本発明によれば、噴霧工程で噴霧された液体は、粉体流路内が一定のガス濃度になるようにガス化される。これによって、粉体流路内のガス化された液体の濃度が安定するので、ガス化した液体の濃度の急激な上昇による結露、トナー母粒子同士の凝集、ならびにトナー母粒子および樹脂微粒子の回転撹拌装置内への付着を防止することができる。したがって、被覆層が均一に被覆したトナーの収率を一層向上させることができる。
【0029】
また本発明によれば、粉体流路内でのガス濃度が一定になるように、ガス化した液体を粉体流路外へ排出する。これによって、粉体流路内のガス化した液体の濃度を一定に保ち、ガス化した液体の濃度を一定に保っていない場合より、液体の乾燥速度を速めることができるので、未乾燥の液体が残存しているトナー粒子が他のトナー粒子に付着することを防止することができ、トナー粒子の凝集を一層抑制することができる。したがって、被覆層が均一に被覆したトナーの収率をより一層向上させることができる。
【0030】
また本発明によれば、トナー母粒子および樹脂微粒子が流動する方向である粉体流動方向が一定の方向となるように粉体流路が設けられ、噴霧手段から液体が噴霧される方向である液体噴霧方向と、粉体流動方向との成す角度が、45°以下である。これによって、噴霧手段から噴霧される液体の液滴が粉体流路内壁で反跳することが防止され、被覆層が均一に被覆したトナーの収率をより一層向上させることができる。液体噴霧方向と、粉体流動方向との成す角度が45°を超えると、液体の液滴が粉体流路内壁で反跳しやすくなるので、液体が粉体流路内で滞留しやすくなりトナー母粒子および樹脂微粒子の凝集が発生して被覆層が均一に被覆したトナーの収率が悪化する。
【0031】
また本発明によれば、回転撹拌手段は、回転軸の回転に伴って回転する回転盤を含み、流動するトナー母粒子および樹脂微粒子は、回転盤に衝突する。これによって、トナー母粒子および樹脂微粒子を充分に撹拌することができるので、トナー母粒子に樹脂微粒子をより均一に被覆することができ、被覆層が均一に被覆したトナーの収率をより一層向上させることができる。
【0032】
また本発明によれば、液体は少なくともアルコールを含む。液体が少なくともアルコールを含むことによって、液体の粘度が低くなるので、噴霧手段によって噴霧される液体の噴霧液滴径が粗大化することなく、微細な噴霧が可能となり、均一な液滴径の液体の噴霧が可能となる。またトナー母粒子および樹脂微粒子と液滴との衝突時に、さらに液滴径の微細化を促進することができる。これによって、被覆材料の被覆量の均一性に優れたトナー母粒子を得ることができる。また、アルコールは蒸気圧が大きいので、除去および乾燥が容易である。したがって、被覆層が均一に被覆したトナーの収率をより一層向上させることができる。
【0033】
また本発明によれば、本発明のトナーは、本発明のトナーの製造方法によって製造されるので、被覆材料である樹脂微粒子の被覆量が均一であり、個々のトナー粒子間における帯電特性などのトナー特性が均一である。また、本発明のトナーは、トナー表面の樹脂層による内包成分保護効果が発揮されるので耐久性に優れる。このようなトナー用いて画像を形成すると、高精細であり、濃度むらのない良好な画質の画像を安定して形成することができる。
【0034】
また本発明によれば、現像剤は、本発明のトナーを含む。これによって、個々のトナー粒子間における帯電特性などのトナー特性が均一である現像剤とすることができるので、良好な現像性を維持することのできる現像剤が得られる。
【0035】
また本発明によれば、現像剤は、本発明のトナーとキャリアとを含む2成分現像剤である。本発明のトナーは、個々のトナー粒子間における帯電特性などのトナー特性が均一であるので、高精細で、濃度むらのない良好な画質の画像を安定して形成することができる。
【0036】
また本発明によれば、本発明の現像剤を用いて潜像を現像するので、像担持体に高精細で濃度むらのない良好なトナー像を安定して形成することができる。したがって、高画質の画像を安定して形成することができる。
【0037】
また本発明によれば、潜像が形成される像担持体と、像担持体に潜像を形成する潜像形成手段と、前述のように高精細で濃度むらのないトナー像を形成可能な本発明の現像装置とを備えて画像形成装置が実現される。このような画像形成装置で画像を形成することによって、高精細で濃度むらのない良好な画質の画像を安定して形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1A】本実施形態のトナーの製造方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【図1B】処理前トナー母粒子作製工程S1aと処理前トナー母粒子表面処理工程S1bとを含むトナーの製造方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【図2】本発明の第1の実施形態であるトナーの製造方法で用いるトナーの製造装置201の構成を示す正面図である。
【図3】図2に示すトナーの製造装置201を切断面線A200―A200からみた概略断面図である。
【図4】粉体投入部206および粉体回収部207まわりの構成を示す正面図である。
【図5】本発明の第4の実施形態である画像形成装置100の構成を模式的に示す断面図である。
【図6】図5に示す画像形成装置100に備わる現像装置14を模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
1、トナーの製造方法
本発明の第1の実施形態であるトナーの製造方法は、回転羽根を周設した回転盤と回転軸とを含む回転撹拌手段によってトナー母粒子および樹脂微粒子を回転撹拌室および循環管を含む粉体流路内において繰り返し循環させ回転撹拌室に戻す循環手段と、粉体流路および回転撹拌手段の外側の少なくとも一部に設けられ、粉体流路内の温度を所定の温度に調整する温度調整用ジャケットとを備える回転撹拌装置を用い、回転撹拌手段を回転させながら、温度調整用ジャケットに媒体を通じて粉体流路内の温度を所定の温度に調整する温度調整工程と、回転撹拌手段が回転している粉体流路内にトナー母粒子および樹脂微粒子を投入して、樹脂微粒子をトナー母粒子表面に付着させる樹脂微粒子付着工程と、流動状態にあるトナー母粒子および樹脂微粒子に、それらの粒子を可塑化させる液体を噴霧手段からキャリアガスによって噴霧する噴霧工程と、トナー母粒子に付着した樹脂微粒子が軟化して膜化するまで所定の温度で回転撹拌手段の撹拌を続けてトナー母粒子および樹脂微粒子を流動させる膜化工程とを含む。
【0040】
図1Aは、本実施形態のトナーの製造方法の手順の一例を示すフローチャートである。図1Aに示すように、本実施形態のトナーの製造方法は、トナー母粒子を作製するトナー母粒子作製工程S1と、樹脂微粒子を調製する樹脂微粒子調製工程S2と、トナー母粒子に樹脂微粒子を被覆する被覆工程S3とを含む。
【0041】
(1)トナー母粒子作製工程
ステップS1のトナー母粒子作製工程では、樹脂層によって被覆されるべきトナー母粒子を作製する。トナー母粒子は、結着樹脂および着色剤を含む粒子であり、その作製方法は特に限定されることなく、公知の方法によって得ることができる。トナー母粒子の作製方法としては、たとえば、粉砕法などの乾式法、懸濁重合法、乳化凝集法、分散重合法、溶解懸濁法、溶融乳化法などの湿式法が挙げられる。以下、粉砕法によってトナー母粒子を作製する方法を説明する。
【0042】
(粉砕法によるトナー母粒子作製方法)
粉砕法を用いるトナー母粒子の作製方法では、結着樹脂、着色剤およびその他の添加剤を含むトナー組成物を、混合機で乾式混合した後、混練機によって溶融混練する。溶融混練によって得られる混練物を冷却固化し、固化物を粉砕機によって粉砕する。その後必要に応じて分級などの粒度調整を行い、トナー母粒子を得る。
【0043】
混合機としては公知のものを使用でき、たとえば、ヘンシェルミキサ(商品名、三井鉱山株式会社製)、スーパーミキサ(商品名、株式会社カワタ製)、メカノミル(商品名、岡田精工株式会社製)などのヘンシェルタイプの混合装置、オングミル(商品名、ホソカワミクロン株式会社製)、ハイブリダイゼーションシステム(商品名、株式会社奈良機械製作所製)、コスモシステム(商品名、川崎重工業株式会社製)などが挙げられる。
【0044】
混練機としても公知のものを使用でき、たとえば、二軸押出し機、三本ロール、ラボブラストミルなどの一般的な混練機を使用できる。さらに具体的には、たとえば、TEM−100B(商品名、東芝機械株式会社製)、PCM−65/87、PCM−30(以上いずれも商品名、株式会社池貝製)などの1軸または2軸のエクストルーダ、ニーデックス(商品名、三井鉱山株式会社製)などのオープンロール方式の混練機が挙げられる。これらの中でも、オープンロール方式の混練機が好ましい。
【0045】
粉砕機としては、たとえば、超音速ジェット気流を利用して粉砕するジェット式粉砕機、および高速で回転する回転子(ロータ)と固定子(ライナ)との間に形成される空間に固化物を導入して粉砕する衝撃式粉砕機が挙げられる。
【0046】
分級には、遠心力による分級および風力による分級によって過粉砕トナー母粒子を除去できる公知の分級機を使用することができ、たとえば、旋回式風力分級機(ロータリー式風力分級機)などを使用することができる。
【0047】
(トナー母粒子原料)
前述のように、トナー母粒子は、結着樹脂と着色剤とを含む。結着樹脂としては、特に限定されるものではなく、黒トナーまたはカラートナー用の公知の結着樹脂を使用することができ、たとえば、ポリスチレン、スチレン−アクリル酸エステル共重合樹脂などのスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、エポキシ樹脂などが挙げられる。また原料モノマー混合物に離型剤を混合し、重合反応を行って得られる樹脂を用いてもよい。結着樹脂は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0048】
上述の結着樹脂の中でも、ポリエステルは、透明性に優れ、トナー粒子に良好な粉体流動性、低温定着性および二次色再現性などを付与できるので、カラートナー用の結着樹脂に好適である。ポリエステルとしては公知のものを使用でき、たとえば多塩基酸と多価アルコールとの重縮合物などが挙げられる。
【0049】
多塩基酸としては、ポリエステル用モノマーとして知られるものを使用でき、たとえば、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸、無水トリメリト酸、ピロメリト酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族カルボン酸類、無水マレイン酸、フマル酸、琥珀酸、アルケニル無水琥珀酸、アジピン酸などの脂肪族カルボン酸類、これら多塩基酸のメチルエステル化物などが挙げられる。多塩基酸は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
多価アルコールとしても、ポリエステル用モノマーとして知られるものを使用でき、たとえば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリンなどの脂肪族多価アルコール類、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールAなどの脂環式多価アルコール類、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物などの芳香族系ジオール類などが挙げられる。多価アルコールは1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0050】
多塩基酸と多価アルコールとの重縮合反応は常法に従って実施でき、たとえば、有機溶媒の存在下または非存在下および重縮合触媒の存在下に、多塩基酸と多価アルコールとを接触させることによって行われ、生成するポリエステルの酸価、軟化温度などが所定の値になったところで終了する。これによって、ポリエステルが得られる。多塩基酸の一部に、多塩基酸のメチルエステル化物を用いると、脱メタノール重縮合反応が行われる。この重縮合反応において、多塩基酸と多価アルコールとの配合比、反応率などを適宜変更することによって、たとえば、ポリエステルの末端のカルボキシル基含有量を調整でき、ひいては得られるポリエステルの特性を変性できる。また多塩基酸として無水トリメリト酸を用いると、ポリエステルの主鎖中にカルボキシル基を容易に導入することによっても、変性ポリエステルが得られる。ポリエステルの主鎖および/または側鎖にカルボキシル基、スルホン酸基などの親水性基を結合させ、水中での自己分散性ポリエステルも使用できる。またポリエステルとアクリル樹脂とをグラフト化して用いてもよい。
【0051】
結着樹脂は、ガラス転移温度が30℃以上80℃以下であることが好ましい。結着樹脂のガラス転移温度が30℃未満であると、画像形成装置内部においてトナーが熱凝集するブロッキングを発生しやすくなり、保存安定性が低下するおそれがある。結着樹脂のガラス転移温度が80℃を超えると、記録媒体へのトナーの定着性が低下し、定着不良が発生するおそれがある。
【0052】
着色剤としては、電子写真分野で常用される有機系染料、有機系顔料、無機系染料、無機系顔料などを使用できる。
【0053】
黒色の着色剤としては、たとえば、カーボンブラック、酸化銅、二酸化マンガン、アニリンブラック、活性炭、非磁性フェライト、磁性フェライトおよびマグネタイトなどが挙げられる。
【0054】
黄色の着色剤としては、たとえば、黄鉛、亜鉛黄、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、ミネラルファストイエロー、ニッケルチタンイエロー、ネーブルイエロー、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、ハンザイエロー10G、ベンジジンイエローG、ベンジジンイエローGR、キノリンイエローレーキ、パーマネントイエローNCG、タートラジンレーキ、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185などが挙げられる。
【0055】
橙色の着色剤としては、たとえば、赤色黄鉛、モリブデンオレンジ、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、インダスレンブリリアントオレンジRK、ベンジジンオレンジG、インダスレンブリリアントオレンジGK、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43などが挙げられる。
【0056】
赤色の着色剤としては、たとえば、ベンガラ、カドミウムレッド、鉛丹、硫化水銀、カドミウム、パーマネントレッド4R、リソールレッド、ピラゾロンレッド、ウオッチングレッド、カルシウム塩、レーキレッドC、レーキレッドD、ブリリアントカーミン6B、エオシンレーキ、ローダミンレーキB、アリザリンレーキ、ブリリアントカーミン3B、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド222などが挙げられる。
【0057】
紫色の着色剤としては、たとえば、マンガン紫、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキなどが挙げられる。
【0058】
青色の着色剤としては、たとえば、紺青、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニンブルー、無金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー部分塩素化物、ファーストスカイブルー、インダスレンブルーBC、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60などが挙げられる。
【0059】
緑色の着色剤としては、たとえば、クロムグリーン、酸化クロム、ピクメントグリーンB、マイカライトグリーンレーキ、ファイナルイエローグリーンG、C.I.ピグメントグリーン7などが挙げられる。
【0060】
白色の着色剤としては、たとえば、亜鉛華、酸化チタン、アンチモン白、硫化亜鉛などの化合物が挙げられる。
【0061】
着色剤は1種を単独で使用でき、または2種以上の異なる色のものを併用できる。また同色であっても、2種以上を併用できる。着色剤の使用量は特に制限されないけれども、好ましくは結着樹脂100重量部に対して5重量部以上20重量部以下、さらに好ましくは5重量部以上10重量部以下である。
【0062】
着色剤は、結着樹脂中に均一に分散させるために、マスターバッチ化して用いてもよい。また2種以上の着色剤を複合粒子化して用いてもよい。複合粒子は、たとえば、2種以上の着色剤に適量の水、低級アルコールなどを添加し、ハイスピードミルなどの一般的な造粒機で造粒し、乾燥させることによって製造できる。マスターバッチおよび複合粒子は、乾式混合の際にトナー組成物に混入される。
【0063】
トナー母粒子には、結着樹脂および着色剤の他に電荷制御剤が含まれてもよい。電荷制御剤としてはこの分野で常用される正電荷制御用および負電荷制御用の電荷制御剤を使用できる。
【0064】
正電荷制御用の電荷制御剤としては、たとえば、ニグロシン染料、塩基性染料、四級アンモニウム塩、四級ホスホニウム塩、アミノピリン、ピリミジン化合物、多核ポリアミノ化合物、アミノシラン、ニグロシン染料およびその誘導体、トリフェニルメタン誘導体、グアニジン塩、アミジン塩などが挙げられる。
【0065】
負電荷制御用の電荷制御剤としては、オイルブラック、スピロンブラックなどの油溶性染料、含金属アゾ化合物、アゾ錯体染料、ナフテン酸金属塩、サリチル酸およびその誘導体の金属錯体および金属塩(金属はクロム、亜鉛、ジルコニウムなど)、ホウ素化合物、脂肪酸石鹸、長鎖アルキルカルボン酸塩、樹脂酸石鹸などが挙げられる。電荷制御剤は1種を単独で使用できまたは必要に応じて2種以上を併用できる。電荷制御剤の使用量は特に制限されず広い範囲から適宜選択できるけれども、好ましくは、結着樹脂100重量部に対して0.5重量部以上3重量部以下である。
【0066】
また、トナー母粒子には、結着樹脂および着色剤の他に離型剤が含まれてもよい。離型剤としてはこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、パラフィンワックスおよびその誘導体、マイクロクリスタリンワックスおよびその誘導体などの石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックスおよびその誘導体、ポリオレフィンワックス(ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなど)およびその誘導体、低分子量ポリプロピリンワックスおよびその誘導体、ポリオレフィン系重合体ワックス(低分子量ポリエチレンワックスなど)およびその誘導体などの炭化水素系合成ワックス、カルナバワックスおよびその誘導体、ライスワックスおよびその誘導体、キャンデリラワックスおよびその誘導体、木蝋などの植物系ワックス、蜜蝋、鯨蝋などの動物系ワックス、脂肪酸アミド、フェノール脂肪酸エステルなどの油脂系合成ワックス、長鎖カルボン酸およびその誘導体、長鎖アルコールおよびその誘導体、シリコン系重合体、高級脂肪酸などが挙げられる。誘導体には、酸化物、ビニル系モノマーとワックスとのブロック共重合物、ビニル系モノマーとワックスとのグラフト変性物などが含まれる。ワックスの使用量は特に制限されず広い範囲から適宜選択できるけれども、好ましくは結着樹脂100重量部に対して0.2重量部〜20重量部、さらに好ましくは0.5重量部〜10重量部、特に好ましくは1.0重量部〜8.0重量部である。
【0067】
トナー母粒子作製工程S1において得られるトナー母粒子は、体積平均粒径が4μm以上8μm以下であることが好ましい。トナー母粒子の体積平均粒径が4μm以上8μm以下であると、高精細な画像を長期にわたって安定して形成することができる。またこの範囲まで小粒径化することによって、少ない付着量でも高い画像濃度が得られ、トナー消費量を削減できる効果も生じる。トナー母粒子の体積平均粒径が4μm未満であると、トナー母粒子の粒径が小さくなり過ぎ、高帯電化および低流動化が起こるおそれがある。この高帯電化および低流動化が発生すると、感光体にトナーを安定して供給することができなくなり、地肌かぶりおよび画像濃度の低下などが発生するおそれがある。トナー母粒子の体積平均粒径が8μmを超えると、トナー母粒子の粒径が大きく、形成画像の層厚が高くなり著しく粒状性を感じる画像となり、高精細な画像を得ることができないので望ましくない。またトナー母粒子の粒径が大きくなることによって比表面積が減少し、トナーの帯電量が小さくなる。トナーの帯電量が小さくなると、トナーが感光体に安定して供給されず、トナー飛散による機内汚染が発生するおそれがある。
【0068】
本発明の他の実施形態では、後述する樹脂微粒子付着工程S3bで平均円形度が0.950以上0.970以下の範囲のトナー母粒子を用いることができるようにするための工程をトナー母粒子作製工程S1に含んでもよい。具体的には、図1Bに示すように、トナー母粒子工程S1が処理前母粒子作製工程S1aと処理前母粒子表面処理工程S1bとを含む。図1Bは、処理前母粒子作製工程S1aと処理前母粒子表面処理工程S1bとを含むトナーの製造方法の手順の一例を示すフローチャートである。処理前母粒子作製工程S1aは、図1Aに示す実施形態のトナー母粒子作製工程S1と同様の方法で処理前母粒子を得る工程である。すなわち、図1Aに示す実施形態で得られるトナー母粒子と、図1Bに示す実施形態で得られる処理前母粒子とは同一の構成である。処理前母粒子表面処理工程S1bは、処理前母粒子に機械的に球形化処理を行い、平均円形度が0.950以上0.970以下のトナー母粒子を得る。樹脂微粒子調製工程S2以降の工程は、図1Aで示される実施形態と、図1Bで示される実施形態とは同一である。
【0069】
このように処理前母粒子表面処理工程S1bを設けることによって、平均円形度が0.950以上0.970以下まで機械的に球形化処理され、表面の凹凸が低減されたトナー母粒子を後述する樹脂微粒子付着工程S3bにおいて用いることができるので、樹脂微粒子がトナー母粒子表面の凹部に多く付着して凸部よりも被覆層が厚く形成されることを抑えることができる。したがって、トナー母粒子表面全体に渡って樹脂微粒子を均一に付着させて厚さの均一な被覆層を形成することができる。凹部に樹脂微粒子が多く付着し、その凹部以外の部分に付着する樹脂微粒子が不足することによって凹部以外の部分に形成される被覆層が薄くなると、その被覆層の薄い部分は耐熱性が劣ってしまう。もし被覆層の耐熱性が劣らないように樹脂微粒子の投入量を多くしすぎると、被覆層が厚くなりすぎて定着性が低下するおそれがある。また、トナー母粒子が被覆層で被覆されておらずトナー母粒子成分が露出するために流動性が悪い部分と、流動性がよい部分とが混在すると、結果として流動性が劣り、後述するトナー製造装置内にトナーが付着および滞留しやすくなり、トナーの収率が低下するおそれがある。なお、機械的に球形化する方法で平均円形度が0.970を超えるトナー母粒子とすることは困難である。
【0070】
球形化処理を機械的に行うことによって、熱を与えることを抑制しながらトナー母粒子を球形化処理することができ、球形化処理におけるトナー母粒子の凝集を防止できるので、トナーの収率が高く生産性を向上させることができる。
【0071】
トナー母粒子の円形度は下記式(1)で定義される値である。
円形度=(トナー母粒子投影面積と同じ面積の円の周囲長)
/(トナー母粒子投影像の周囲長) …(1)
【0072】
ここで、「トナー母粒子投影面積」とは二値化されたトナー母粒子像の面積であり、「トナー母粒子投影像の周囲長」とは該トナー母粒子像のエッジ点を結んで得られる輪郭線の長さと定義する。本実施形態における平均円形度はトナー母粒子表面の凹凸の度合いを示す指標であり、トナー母粒子表面の形状が完全な球形の場合に1.000を示し、表面形状が複雑になるほど、平均円形度が小さな値となる。トナー母粒子の平均円形度は、トナー母粒子の形状を定量的に測定する市販装置を用いて測定することができ、たとえばフロー式粒子像分析装置「FPIA−3000型」(シスメックス株式会社製)が挙げられる。
【0073】
球形化処理を行うための球形化装置としては、トナー母粒子の製造の際に使用することができる前述の公知の混合機などを使用でき、具体的には、ヘンシェルミキサ(商品名、三井鉱山株式会社製)、スーパーミキサ(商品名、株式会社カワタ製)およびメカノミル(商品名、岡田精工株式会社製)などのヘンシェルタイプの混合装置、オングミル(商品名、ホソカワミクロン株式会社製)、ハイブリダイゼーションシステム(商品名、株式会社奈良機械製作所製)、ならびにコスモシステム(商品名、川崎重工業株式会社製)などが挙げられる。
【0074】
(2)樹脂微粒子調製工程
ステップS2の樹脂微粒子調製工程では、乾燥された樹脂微粒子を調製する。乾燥方法はどのような方法を用いてもよく、たとえば熱風受熱式乾燥、伝導伝熱式乾燥、遠赤外線乾燥、マイクロ波乾燥などの方法を用いて乾燥樹脂微粒子を得ることができる。樹脂微粒子は、後の被覆工程S3において、トナー母粒子を膜化する材料として用いられる。樹脂微粒子をトナー母粒子表面の膜化材料として用いることによって、たとえば保存中にトナー母粒子に含まれる離型剤などの低融点成分の溶融による凝集の発生を防止することができる。また、たとえば樹脂微粒子を分散させた液体を噴霧してトナー母粒子を被覆したとき、樹脂微粒子の形状がトナー母粒子表面に残るので、平滑な表面を有するトナーに比べて、クリーニング性に優れるトナーを得ることができる。
【0075】
樹脂微粒子は、たとえば、樹脂微粒子原料である樹脂をホモジナイザーなどで乳化分散させて細粒化することによって得ることができる。また樹脂のモノマー成分の重合によって得ることもできる。
【0076】
樹脂微粒子原料として用いられる樹脂としては、たとえば、トナー材料に用いられる樹脂を用いることができ、ポリエステル、アクリル樹脂、スチレン樹脂、スチレン−アクリル共重合体などが挙げられる。樹脂微粒子としては、上記例示した樹脂の中でも、アクリル樹脂、スチレン−アクリル共重合体を含むことが好ましい。アクリル樹脂、スチレン−アクリル共重合体は、軽量で高い強度を有し、さらに透明性も高く、安価で、粒子径の揃った材料を得やすいなど多くの利点を有する。
【0077】
樹脂微粒子原料として用いられる樹脂としては、トナー母粒子に含まれる結着樹脂と同じ種類の樹脂であってもよく、違う種類の樹脂であってもよいけれども、トナーの表面改質を行う点において、違う種類の樹脂が用いられることが好ましい。樹脂微粒子原料として用いられる樹脂として、違う種類の樹脂が用いられる場合、樹脂微粒子原料として用いられる樹脂の軟化温度が、トナー母粒子に含まれる結着樹脂の軟化温度よりも高いことが好ましい。これによって、本実施形態の製造方法で製造されたトナーは、保存中にトナー同士が融着することを防止でき、保存安定性を向上させることができる。また樹脂微粒子原料として用いられる樹脂の軟化温度は、トナーが使用される画像形成装置にもよるけれども、80℃以上140℃以下であることが好ましい。このような温度範囲の樹脂を用いることによって、保存安定性と定着性とを兼ね備えたトナーが得られる。
【0078】
樹脂微粒子は、体積平均粒径がトナー母粒子の平均粒径よりも充分に小さいことが必要であり、0.05μm以上1μm以下であることが好ましい。また樹脂微粒子の体積平均粒径は、0.1μm以上0.5μm以下であることがさらに好ましい。樹脂微粒子の体積平均粒径が0.05μm以上1μm以下であることによって、好適な大きさの突起部が被覆層表面に形成される。これによって本実施形態の製造方法で製造されるトナーは、クリーニング時にクリーニングブレードに引っ掛かり易くなり、クリーニング性が向上する。
【0079】
(3)被覆工程
<トナーの製造装置>
図2は、本発明の第1の実施形態であるトナーの製造方法で用いるトナーの製造装置201の構成を示す正面図である。図3は、図2に示すトナーの製造装置201を切断面線A200―A200からみた概略断面図である。ステップS3の被覆工程では、たとえば図2に示すトナーの製造装置201を用い、ステップS1のトナー母粒子作製工程で作製したトナー母粒子にステップS2の樹脂微粒子調製工程で調製した樹脂微粒子を付着させて、前記装置内での循環と撹拌による衝撃力との相乗効果でトナー母粒子に樹脂膜を形成する。回転撹拌装置であるトナーの製造装置201は、粉体流路202と、噴霧手段203と、回転撹拌手段204と、図示しない温度調整用ジャケットと、粉体投入部206と、粉体回収部207とを含んで構成される。回転撹拌手段204と、粉体流路202とは循環手段を構成する。
【0080】
(粉体流路)
粉体流路202は、撹拌部208と、粉体流過部209とから構成される。撹拌部208は、内部空間を有する円筒形状の容器状部材である。回転撹拌室である撹拌部208には、開口部210、211が形成される。開口部210は、撹拌部208の軸線方向一方側の面208aにおける略中央部において、撹拌部208の面208aを含む側壁を厚み方向に貫通するように形成される。また、開口部211は、撹拌部208の前記軸線方向一方側の面208aに垂直な側面208bにおいて、撹拌部208の側面208bを含む側壁を厚み方向に貫通するように形成される。循環管である粉体流過部209は、一端が開口部210と接続され、他端が開口部211と接続される。これによって撹拌部208の内部空間と粉体流過部209の内部空間とが連通され、粉体流路202が形成される。この粉体流路202を、トナー母粒子および樹脂微粒子および気体が流過する。粉体流路202は、トナー母粒子および樹脂微粒子が流動する方向である粉体流動方向が一定の方向となるように設けられる。
【0081】
(回転撹拌手段)
回転撹拌手段204は、回転軸部材218と、円盤状の回転盤219と、複数の撹拌羽根220とを含む。回転軸部材218は、撹拌部208の軸線に一致する軸線を有しかつ撹拌部208の軸線方向他方側の面208cに、面208cを含む側壁を厚み方向に貫通するように形成される貫通孔221に挿通されるように設けられ、図示しないモータによって軸線回りに回転する円柱棒状部材である。回転盤219は、その軸線が回転軸部材218の軸線に一致するように回転軸部材218に支持され、回転軸部材218の回転に伴って回転する円盤状部材である。複数の撹拌羽根220は、回転盤219の周縁部分によって支持され、回転盤219の回転に伴って回転する。
【0082】
回転軸部材218は、最外周における周速度を50m/sec以上にして回転可能である。最外周とは、回転軸部材218に垂直な方向において、回転軸部材218との距離がもっとも長い回転撹拌手段204の部分である。
【0083】
(噴霧手段)
噴霧手段203は、粉体流路202の粉体流過部209において、トナー母粒子および樹脂微粒子の流動方向における開口部211に最も近い側の粉体流過部に設けられる。噴霧手段203は、液体を貯留する液体貯留部と、キャリアガスを供給するキャリアガス供給部と、液体とキャリアガスとを混合し、得られる混合物を粉体流路202内に存在するトナー母粒子に向けて噴射し、液体の液滴をトナー母粒子に噴霧する二流体ノズルとを備える。キャリアガスとしては、圧縮エアなどを用いることができる。
【0084】
(温度調整用ジャケット)
温度調整手段である図示しない温度調整用ジャケットは、粉体流路202の外側の少なくとも一部に設けられ、前記ジャケット内部の空間に冷却媒または加温媒を通して粉体流路202内および回転撹拌手段204の温度を所定の温度に調整する。本実施形態において、温度調整用ジャケットは、粉体流路202の外側全体に設けられることが好ましい。これによって、トナー母粒子への樹脂微粒子の付着および膜化が円滑に進み、粉体流路内壁への付着力が一層低減するので、トナー母粒子および樹脂微粒子の粉体流路内壁への付着を一層抑えることができ、トナー母粒子および樹脂微粒子によって粉体流路内が狭くなることを一層抑えることができる。したがって、トナー母粒子に樹脂微粒子が均一に被覆し、樹脂層で被覆されたクリーニング性に優れるトナーをより高い収率で製造することができる。
【0085】
(粉体投入部および粉体回収部)
粉体流路202の粉体流過部209には、粉体投入部206と、粉体回収部207とが接続される。図4は、粉体投入部206および粉体回収部207まわりの構成を示す正面図である。粉体投入部206は、トナー母粒子および樹脂微粒子を供給する図示しないホッパと、ホッパと粉体流路202とを連通する供給管212と、供給管212に設けられる電磁弁213とを備える。ホッパから供給されるトナー母粒子および樹脂微粒子は、電磁弁213によって供給管212内の流路が開放されている状態において、供給管212を介して粉体流路202に供給される。粉体流路202に供給されるトナー母粒子および樹脂微粒子は、回転撹拌手段204による撹拌によって、一定の粉体流動方向に流過する。また電磁弁213によって供給管212内の流路が閉鎖されている状態においては、トナー母粒子および樹脂微粒子が粉体流路202に供給されない。
【0086】
粉体回収部207には、回収タンク215と、回収タンク215と粉体流路202とを連通する回収管216と、回収管216に設けられる電磁弁217とを備える。電磁弁217によって回収管216内の流路が開放されている状態において、粉体流路202を流過するトナー粒子は回収管216を介して回収タンク215に回収される。また電磁弁217によって回収管216内の流路が閉鎖されている状態において、粉体流路202を流過するトナー粒子は回収されない。
【0087】
上述のようなトナーの製造装置1を用いる被覆工程S3は、温度調整工程S3aと、樹脂微粒子付着工程S3bと、噴霧工程S3cと、膜化工程S3dと、回収工程S3eとを含む。
【0088】
(3)−1、温度調整工程S3a
ステップS3aの温度調整工程では、回転撹拌手段204を回転させながら、粉体流路202内および回転撹拌手段204の温度をこれらの外側に配設した温度調整用ジャケットに媒体を通じて所定の温度に調整する。これによって、粉体流路202内の温度を後述する樹脂微粒子付着工程S3bにおいて投入されるトナー母粒子および樹脂微粒子が軟化変形しない温度以下に制御することができる。
【0089】
(3)−2、樹脂微粒子付着工程S3b
ステップS3bの樹脂微粒子付着工程では、回転撹拌手段204の回転軸部材218が回転する状態で、粉体投入部206からトナー母粒子および樹脂微粒子を粉体流路202に供給する。粉体流路202に供給されたトナー母粒子および樹脂微粒子は、回転撹拌手段204によって撹拌され、粉体流路202の粉体流過部209を矢符214方向に流動する。これによって、樹脂微粒子がトナー母粒子表面に付着する。この時、トナー母粒子として処理前母粒子表面処理工程S1bを行うことで得られたトナー母粒子を用いると、トナー母粒子表面に均一に樹脂微粒子を付着させることができる。
【0090】
(3)−3、噴霧工程S3c
ステップS3cの噴霧工程では、流動状態にあるトナー母粒子および樹脂微粒子に、それらの粒子を溶解せず、可塑化させる効果のある液体を噴霧手段203からキャリアガスによって噴霧する。噴霧手段203は、二流体ノズルである。液体は、送液ポンプによって一定流量で噴霧手段203に送液され、噴霧手段203によって噴霧された液体はガス化し、トナー母粒子および樹脂微粒子表面にガス化した液体が展延する。これによってトナー母粒子および樹脂微粒子が可塑化する。
【0091】
本実施形態では、粉体流路202においてトナー母粒子表面および樹脂微粒子の流動速度が安定してから、噴霧手段203からの液体の噴霧を開始することが好ましい。これによって、トナー母粒子および樹脂微粒子に液体を均一に噴霧することができるので、被覆層が均一に被覆したトナーの収率を向上させることができる。
【0092】
(噴霧液体)
トナー母粒子および樹脂微粒子を溶解せず可塑化させる効果のある液体としては、特に限定されないけれども、液体の噴霧後にトナー母粒子および樹脂微粒子から除去される必要があるので、蒸発し易い液体であることが好ましい。このような液体としては、低級アルコールを含む液体が挙げられる。低級アルコールとしては、たとえば、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。液体がこのような低級アルコールを含むと、被覆材料である樹脂微粒子のトナー母粒子に対する濡れ性を高めることができ、トナー母粒子の表面全面または大部分に樹脂微粒子を付着させ、さらに変形および膜化させることが容易となる。また低級アルコールは蒸気圧が大きいので、液体を除去するときの乾燥時間を一層短縮することができ、トナー母粒子同士の凝集を抑制することができる。
【0093】
また液体の粘度は、5cP以下であることが好ましい。粘度が5cP以下の液体で好ましいものとしてアルコールが挙げられる。アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコールなどが挙げられる。これらのアルコールは粘度が小さく、また蒸発しやすいので、液体がアルコールを含むことによって、噴霧手段203から噴霧される液体の噴霧液滴径が粗大化することなく、微細な液滴径の液体の噴霧が可能となる。また均一な液滴径の液体の噴霧が可能となる。トナー母粒子と液滴との衝突時には、さらに液滴の微細化を促進することができる。これによって、トナー母粒子および樹脂微粒子表面を均一にぬらし、馴染ませて、衝突エネルギーとの相乗効果で樹脂微粒子を軟化し、均一性に優れた被覆トナーを得ることができる。
【0094】
液体の粘度は、25℃において測定される。液体の粘度は、たとえば、コーンプレート型回転式粘度計によって測定することができる。
【0095】
二流体ノズルの軸線の方向である液体噴霧方向と、粉体流路202においてトナー母粒子および樹脂微粒子が流動する方向である粉体流動方向との成す角度θは、0°以上45°以下であることが好ましい。θがこのような範囲内であると、液体の液滴が粉体流路202内壁で反跳することが防止され、樹脂膜が被覆されたトナー母粒子の収率を一層向上することができる。噴霧手段203からの液体噴霧方向と、粉体流動方向との成す角度θが45°を超えると、液体の液滴が粉体流路202内壁で反跳しやすくなり、液体が滞留しやすくなりトナー粒子の凝集が発生して収率が悪化する。二流体ノズルは、粉体流路202の外壁に形成される開口に挿通されて設けられる。
【0096】
また二流体ノズルによって噴霧した液体の拡がり角度φは、20°以上90°以下であることが好ましい。拡がり角度φがこの範囲から外れると、トナー母粒子に対する液体の均一な噴霧が困難となるおそれがある。
【0097】
(3)−4、膜化工程
ステップS3dの膜化工程では、トナーの製造装置201による循環と撹拌による衝撃力との相乗効果、さらに撹拌による熱的エネルギーによって、樹脂微粒子が軟化して連続した膜となり、トナー母粒子に樹脂膜が形成されるまで所定温度で回転撹拌手段204の撹拌を続け、トナー母粒子および樹脂微粒子を流動させる。
【0098】
(3)−5、回収工程
ステップS3eの回収工程では、噴霧手段からの液体の噴霧を終了し、回転撹拌手段204の回転を停止させて、粉体回収部207から樹脂層被覆トナーを装置外に排出し、樹脂層被覆トナーを回収する。
【0099】
以上のようにして、樹脂層被覆トナーが製造されるが、ステップS3a〜S3eを含む被覆工程S3において、回転撹拌手段204の最外周の周速度は、30m/sec以上に設定されるのが好ましく、50m/sec以上に設定されるのがさらに好ましい。回転撹拌手段204の最外周とは、回転撹拌手段204の回転軸部材218が延びる方向に垂直な方向において、回転軸部材218の軸線との距離がもっとも長い回転撹拌手段204の部分4aである。回転時の回転撹拌手段204の最外周における周速が30m/sec以上であることによって、トナー母粒子を孤立流動させることができる。最外周における周速度が30m/sec未満であると、トナー母粒子および樹脂微粒子を孤立流動させることができないためトナー母粒子に樹脂膜を均一に被覆することができなくなる。
【0100】
また被覆工程S3において、粉体流路202の外側の少なくとも一部に温度調整用ジャケットが設けられ、前記ジャケット内部の空間に冷却媒または加温媒を通して粉体流路202内の温度が所定の温度に調整される。これによって、温度調整工程S3aにおいて、粉体流路内および回転撹拌手段の外側の温度を樹脂微粒子付着工程S3bにおいて投入されるトナー母粒子および樹脂微粒子が軟化変形しない温度以下に制御することができる。噴霧工程S3cおよび膜化工程S3dにおいては、トナー母粒子、樹脂微粒子および液体にかかる温度にばらつきが少なくなり、トナー母粒子および樹脂微粒子の安定な流動状態を保つことが可能となる。
【0101】
また合成樹脂などからなるトナー母粒子および樹脂微粒子は通常粉体流路内の内壁に何度も衝突し、衝突の際に、衝突エネルギーの一部が熱エネルギーに変換され、トナー母粒子および樹脂微粒子に蓄積される。衝突回数が増加するとともに、それらの粒子に蓄積される熱エネルギーが多くなり、やがてトナー母粒子および樹脂微粒子は軟化して粉体流路の内壁に付着するが、前述のように前記ジャケット内部の空間に冷却媒または加温媒を通して温度調整することによって、過度の温度上昇によるトナー母粒子および樹脂微粒子の粉体流路内壁への付着を抑えることができ、噴霧手段から噴霧される液体が粉体流路内に蓄積することによるトナー母粒子および樹脂微粒子の粉体流路内への付着およびそれによる粉体流路内の閉塞を抑えることができる。したがって、トナー母粒子に樹脂微粒子が均一に被覆し、樹脂層で被覆されたクリーニング性に優れるトナーを高い収率で製造することができる。
【0102】
噴霧手段203より下流の粉体流過部209内部では、噴霧された液体が乾燥せずに残存している状態にあり、温度が適正でないと乾燥速度が遅くなり液体が滞留しやすく、これにトナー母粒子が接触すると、粉体流路202内壁にトナー母粒子が付着しやすくなる。これがトナー母粒子の凝集発生源になりうる。開口部210付近の内壁では、粉体流過部209を流過して開口部210から撹拌部208に流入するトナー母粒子と、回転撹拌手段204による撹拌で撹拌部208内を流動するトナー母粒子とが衝突しやすい。これによって、衝突したトナー母粒子が開口部210付近に付着しやすい。したがってこのようなトナー母粒子が付着しやすい部分に温度調整用ジャケットを設けることによって、粉体流路202内壁に対するトナー母粒子の付着を一層確実に防止することができる。
【0103】
粉体流路202内の温度は、トナー母粒子のガラス転移温度以下に設定される。また粉体流路202内の温度は、30℃以上トナー母粒子のガラス転移温度以下であることがさらに好ましい。粉体流路202内の温度は、トナー母粒子の流動によって、粉体流路202内のどの部分においてもほぼ均一となる。粉体流路202内の温度がトナー母粒子のガラス転移温度を超えると、粉体流路202内でトナー母粒子が軟化し過ぎ、トナー母粒子の凝集が発生するおそれがある。また粉体流路202内の温度が30℃未満であると、分散液の乾燥速度が遅くなり生産性が低下するおそれがある。したがってトナー母粒子の凝集を防止するために、粉体流路202および回転撹拌手段の温度をトナー母粒子のガラス転移温度以下に維持すべく、内径が粉体流路管の外径よりも大きい温度調整用ジャケットを粉体流路管および回転撹拌手段204の外側の少なくとも一部に配設してその空間に冷却媒または加温媒を通じて温度調整する機能を備えた装置を設けることが必要である。
【0104】
前述のように、回転撹拌手段204は、回転軸218の回転に伴って回転する回転盤219を含み、トナー母粒子および樹脂微粒子は、回転盤219に対して垂直に回転盤219と衝突することが好ましく、回転盤219に対して垂直に回転軸部材218と衝突することがより好ましい。これによって、トナー母粒子および樹脂微粒子が回転盤219に対して平行に衝突するよりトナー母粒子および樹脂微粒子を充分に撹拌することができるので、トナー母粒子に樹脂微粒子をより均一に被覆することができ、被覆層が均一に被覆したトナーの収率をより一層向上させることができる。
【0105】
本実施形態では、噴霧工程S3cにおいて噴霧された液体は、粉体流路202内が一定のガス濃度になるようにガス化されることが好ましい。これによって、粉体流路202内のガス化した液体の濃度を一定に保ち、ガス化した液体の濃度を一定に保っていない場合より、液体の乾燥速度を速めることができるので、未乾燥の液体が残存しているトナー粒子が他のトナー粒子に付着することを防止することができ、トナー粒子の凝集を一層抑制することができる。したがって、被覆層が均一に被覆したトナーの収率をより一層向上させることができる。
【0106】
ガス排出部222において濃度センサによって測定されるガス化された液体の濃度は、3%以下程度であることが好ましい。ガス化された液体の濃度が3%以下程度であることによって、液体の乾燥速度を充分に大きくすることができるので、液体が残存している未乾燥のトナー母粒子が他のトナー母粒子に付着することを防止することができ、トナー母粒子の凝集を防止することができる。またガス排出部222において、ガス化された液体の濃度は、濃度センサで0.1%以上3.0%以下であることがさらに好ましい。噴霧速度がこのような範囲であると、生産性を低下させることなく、トナー母粒子の凝集を防止することができる。
【0107】
粉体流路内でのガス濃度が一定になるように、ガス化した液体は貫通孔221を通って粉体流路外へ排出されることが好ましい。これによって、粉体流路内のガス化した液体の濃度を一定に保ち、ガス化した液体の濃度を一定に保っていない場合より、液体の乾燥速度を速めることができるので、未乾燥の液体が残存しているトナー粒子が他のトナー粒子に付着することを防止することができ、トナー粒子の凝集を一層抑制することができる。したがって、被覆層が均一に被覆したトナーの収率をより一層向上させることができる。
【0108】
このようなトナーの製造装置201としては、上記の構成に限定されることなく、種々の変更が可能である。たとえば、温度調整用ジャケットは粉体流過部209と撹拌部208との外側の全面に設けられてもよく、粉体流過部209または撹拌部208の外側の一部に設けられてもよい。粉体流過部209と撹拌部208との外側の全面に温度調整用ジャケットが設けられると、トナー母粒子の粉体流路202内壁への付着を一層確実に防止することができる。
【0109】
上述のようなトナーの製造装置は、市販品の撹拌装置と噴霧手段とを組合せて得ることもできる。粉体流路および回転撹拌手段を備える市販の撹拌装置としては、たとえば、ハイブリダイゼーションシステム(商品名、株式会社奈良機械製作所製)などが挙げられる。このような撹拌装置内に液体噴霧ユニットを取付けることによって、この撹拌装置を本発明のトナーの製造方法に用いるトナーの製造装置として用いることができる。
【0110】
2、トナー
本発明の第2の実施形態であるトナーは、第1の実施形態であるトナーの製造方法で製造される。第1の実施形態のトナーの製造方法によって得られるトナーは、被覆材料の被覆量が均一であるので、個々のトナー粒子間における帯電特性などのトナー特性が均一となる。したがってこのようなトナー用いて画像を形成すると、高精細であり、濃度むらのない良好な画質の画像を得ることができる。
【0111】
本発明のトナーには、外添剤が添加されてもよい。外添剤としては公知のものを使用でき、たとえば、シリカ、酸化チタンなどが挙げられる。またこれらは、シリコン樹脂、シランカップリング剤などによって表面処理されていることが好ましい。外添剤の使用量は、トナー100重量部に対して1〜10重量部であることが好ましい。
【0112】
3、現像剤
本発明の第3の実施形態である現像剤は、第2の実施形態であるトナーを含む。これによって、個々のトナー粒子間における帯電特性などのトナー特性が均一である現像剤とすることができるので、良好な現像性を維持することのできる現像剤が得られる。本実施形態の現像剤は、1成分現像剤としても2成分現像剤しても使用することができる。1成分現像剤として使用する場合、キャリアを用いることなくトナー単体で使用する。また1成分現像剤として使用する場合、ブレードおよびファーブラシを用い、現像スリーブで摩擦帯電させてスリーブ上にトナーを付着させることによってトナーを搬送し、画像形成を行う。2成分現像剤として使用する場合、第2の実施形態のトナーをキャリアとともに用いる。本発明のトナーは、個々のトナー粒子間における帯電特性などのトナー特性が均一であるので、高精細で、濃度むらのない良好な画質の画像を安定して形成することができる。
【0113】
(キャリア)
キャリアとしては、公知のものを使用でき、たとえば、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、コバルト、マンガン、クロムなどからなる単独または複合フェライトおよびキャリアコア粒子を被覆物質で表面被覆した樹脂被覆キャリア、または樹脂に磁性を有する粒子を分散させた樹脂分散型キャリアなどが挙げられる。被覆物質としては公知のものを使用でき、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、モノクロロトリフルオロエチレン重合体、ポリフッ化ビニリデン、シリコン樹脂、ポリエステル樹脂、ジターシャーリーブチルサリチル酸の金属化合物、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド、ポリビニルブチラール、ニグロシン、アミノアクリレート樹脂、塩基性染料、塩基性染料のレーキ物、シリカ微粉末、アルミナ微粉末などが挙げられる。また樹脂分散型キャリアに用いられる樹脂としても特に制限されないけれども、たとえば、スチレンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂、およびフェノール樹脂などが挙げられる。いずれも、トナー成分に応じて選択するのが好ましく、1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0114】
キャリアの形状は、球形または扁平形状が好ましい。またキャリアの粒径は特に制限されないけれども、高画質化を考慮すると、好ましくは10〜100μm、さらに好ましくは20〜50μmである。さらにキャリアの抵抗率は、好ましくは10Ω・cm以上、さらに好ましくは1012Ω・cm以上である。
【0115】
キャリアの体積抵抗率は、キャリアを0.50cmの断面積を有する容器に入れてタッピングした後、容器内に詰められた粒子に1kg/cmの荷重を掛け、荷重と底面電極との間に1000V/cmの電界が生ずる電圧を印加したときの電流値を読み取って得られる値である。抵抗率が低いと、現像スリーブにバイアス電圧を印加した場合にキャリアに電荷が注入され、感光体にキャリア粒子が付着し易くなる。またバイアス電圧のブレークダウンが起こり易くなる。
【0116】
キャリアの磁化強さ(最大磁化)は、好ましくは10〜60emu/g、さらに好ましくは15〜40emu/gである。磁化強さは現像ローラの磁束密度にもよるけれども、現像ローラの一般的な磁束密度の条件下においては、10emu/g未満であると磁気的な束縛力が働かず、キャリア飛散の原因となるおそれがある。また磁化強さが60emu/gを超えると、キャリアの穂立ちが高くなり過ぎるので、非接触現像では、像担持体と非接触状態を保つことが困難になる。また接触現像ではトナー像に掃き目が現れ易くなるおそれがある。
【0117】
2成分現像剤におけるトナーとキャリアとの使用割合は特に制限されず、トナーおよびキャリアの種類に応じて適宜選択できるけれども、樹脂被覆キャリア(密度5〜8g/cm)を例にとれば、現像剤中に、トナーが現像剤全量の2〜30重量%、好ましくは2〜20重量%含まれるように、トナーを用いればよい。また2成分現像剤において、トナーによるキャリアの被覆率は、40〜80%であることが好ましい。
【0118】
4、画像形成装置
図5は、本発明の第4の実施形態である画像形成装置100の構成を模式的に示す断面図である。画像形成装置100は、複写機能、プリンタ機能およびファクシミリ機能を併せ持つ複合機であり、伝達される画像情報に応じて、記録媒体にフルカラーまたはモノクロの画像を形成する。すなわち、画像形成装置100においては、コピアモード(複写モード)、プリンタモードおよびFAXモードという3種の印刷モードを有しており、図示しない操作部からの操作入力、パーソナルコンピュータ、携帯端末装置、情報記録記憶媒体またはメモリ装置を用いた外部機器からの印刷ジョブの受信などに応じて、図示しない制御部によって、印刷モードが選択される。
【0119】
画像形成装置100は、像担持体である感光体ドラム11と、画像形成部2と、転写手段3と、定着手段4と、記録媒体供給手段5と、排出手段6とを含む。画像形成部2を構成する各部材および転写手段3に含まれる一部の部材は、カラー画像情報に含まれるブラック(b)、シアン(c)、マゼンタ(m)およびイエロー(y)の各色の画像情報に対応するために、それぞれ4つずつ設けられる。ここでは、各色に応じて4つずつ設けられる各部材は、各色を表すアルファベットを参照符号の末尾に付して区別し、総称する場合は参照符号のみで表す。
【0120】
画像形成部2は、帯電手段12と、露光ユニット13と、現像装置14と、クリーニングユニット15とを含む。帯電手段12および露光ユニット13は、潜像形成手段として機能する。帯電手段12、現像装置14およびクリーニングユニット15は、感光体ドラム11まわりに、この順序で配置される。帯電手段12は、現像装置14およびクリーニングユニット15よりも鉛直方向下方に配置される。
【0121】
感光体ドラム11は、図示しない回転駆動手段によって、軸線回りに回転駆動可能に設けられ、その表面部に静電潜像が形成されるローラ状部材である。感光体ドラム11の回転駆動手段は、中央処理装置(Central Processing Unit;CPU)によって実現される
制御手段で制御される。感光体ドラム11は、図示しない導電性基体と、導電性基体の表面に形成される図示しない感光層とを含んで構成される。導電性基体は種々の形状を採ることができ、たとえば、円筒状、円柱状、薄膜シート状などが挙げられる。これらの中でも円筒状が好ましい。導電性基体は導電性材料によって形成される。
【0122】
導電性材料としては、この分野で常用されるものを使用でき、たとえば、アルミニウム、銅、真鍮、亜鉛、ニッケル、ステンレス鋼、クロム、モリブデン、バナジウム、インジウム、チタン、金、白金などの金属、これらの2種以上の合金、合成樹脂フィルム、金属フィルムまたは紙などのフィルム状基体にアルミニウム、アルミニウム合金、酸化錫、金および酸化インジウムなどの1種または2種以上からなる導電性層を形成してなる導電性フィルム、ならびに導電性粒子および/または導電性ポリマーを含有する樹脂組成物などが挙げられる。導電性フィルムに用いられるフィルム状基体としては、合成樹脂フィルムが好ましく、ポリエステルフィルムが特に好ましい。また、導電性フィルムにおける導電性層の形成方法としては、蒸着、塗布などが好ましい。
【0123】
感光層は、たとえば、電荷発生物質を含む電荷発生層と、電荷輸送物質を含む電荷輸送層とを積層することによって形成される。その際、導電性基体と電荷発生層または電荷輸送層との間には、下引き層を設けることが好ましい。下引き層を設けることによって、導電性基体の表面に存在する傷および凹凸を被覆して、感光層表面を平滑化でき、また、繰り返し使用時における感光層の帯電性の劣化を防止する、低温および/または低湿環境下において感光層の帯電特性を向上させるといった利点が得られる。また最上層に感光体表面保護層を設けた耐久性の大きい三層構造の積層感光体であっても良い。
【0124】
電荷発生層は、光照射によって電荷を発生する電荷発生物質を主成分とし、必要に応じて公知の結着樹脂、可塑剤、増感剤などを含有する。電荷発生物質としては、この分野で常用されるものを使用でき、たとえば、ペリレンイミド、ペリレン酸無水物などのペリレン系顔料、キナクリドン、アントラキノンなどの多環キノン系顔料、金属および無金属フタロシアニン、ハロゲン化無金属フタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料、スクエアリウム色素、アズレニウム色素、チアピリリウム色素、ならびにカルバゾール骨格、スチリルスチルベン骨格、トリフェニルアミン骨格、ジベンゾチオフェン骨格、オキサジアゾール骨格、フルオレノン骨格、ビススチルベン骨格、ジスチリルオキサジアゾール骨格またはジスチリルカルバゾール骨格を有するアゾ顔料などが挙げられる。これらの中でも、無金属フタロシアニン顔料、オキソチタニルフタロシアニン顔料、フローレン環および/またはフルオレノン環を含有するビスアゾ顔料、芳香族アミンからなるビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料などは高い電荷発生能を有し、高感度の感光層を得るのに適する。電荷発生物質は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。電荷発生物質の含有量は特に制限はないけれども、電荷発生層中の結着樹脂100重量部に対して好ましくは5重量部以上500重量部以下、さらに好ましくは10重量部以上200重量部以下である。電荷発生層用の結着樹脂としてもこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリウレタン、アクリル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリカーボネート、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール、ポリアリレート、ポリアミドおよびポリエステルなどが挙げられる。結着樹脂は1種を単独で使用できまたは必要に応じて2種以上を併用できる。
【0125】
電荷発生層は、電荷発生物質、結着樹脂および必要に応じて可塑剤、増感剤などのそれぞれ適量を、これらの成分を溶解または分散し得る適切な有機溶媒に溶解または分散して電荷発生層塗液を調製し、この電荷発生層塗液を導電性基体表面に塗布し、導電性基体表面を乾燥させることによって形成できる。このようにして得られる電荷発生層の膜厚は特に制限されないが、好ましくは0.05μm以上5μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上2.5μm以下である。
【0126】
電荷発生層の上に積層される電荷輸送層は、電荷発生物質から発生する電荷を受け入れて輸送する能力を有する電荷輸送物質および電荷輸送層用の結着樹脂を必須成分とし、必要に応じて公知の酸化防止剤、可塑剤、増感剤、潤滑剤などを含有する。電荷輸送物質としてはこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、ポリ−N−ビニルカルバゾールおよびその誘導体、ポリ−γ−カルバゾリルエチルグルタメートおよびその誘導体、ピレン−ホルムアルデヒド縮合物およびその誘導体、ポリビニルピレン、ポリビニルフェナントレン、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、9−(p−ジエチルアミノスチリル)アントラセン、1,1−ビス(4−ジベンジルアミノフェニル)プロパン、スチリルアントラセン、スチリルピラゾリン、ピラゾリン誘導体、フェニルヒドラゾン類、ヒドラゾン誘導体、トリフェニルアミン系化合物、テトラフェニルジアミン系化合物、トリフェニルメタン系化合物、スチルベン系化合物、3−メチル−2−ベンゾチアゾリン環を有するアジン化合物などの電子供与性物質、フルオレノン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、インデノチオフェン誘導体、フェナンスレンキノン誘導体、インデノピリジン誘導体、チオキサントン誘導体、ベンゾ[c]シンノリン誘導体、フェナジンオキサイド誘導体、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、プロマニル、クロラニル、ならびにベンゾキノンなどの電子受容性物質などが挙げられる。電荷輸送物質は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。電荷輸送物質の含有量は特に制限されないけれども、好ましくは電荷輸送物質中の結着樹脂100重量部に対して10重量部以上300重量部以下、さらに好ましくは30重量部以上150重量部以下である。
【0127】
電荷輸送層用の結着樹脂としては、この分野で常用されかつ電荷輸送物質を均一に分散できるものを使用でき、たとえば、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリビニルブチラール、ポリアミド、ポリエステル、ポリケトン、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ポリスルホン樹脂、およびこれらの共重合樹脂などが挙げられる。これらの中でも、成膜性、得られる電荷輸送層の耐摩耗性、電気特性などを考慮すると、ビスフェノールZをモノマー成分として含有するポリカーボネート(以後「ビスフェノールZ型ポリカーボネート」と称す)、ビスフェノールZ型ポリカーボネートと他のポリカーボネートとの混合物が好ましい。結着樹脂は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0128】
電荷輸送層には、電荷輸送物質および電荷輸送層用の結着樹脂と共に、酸化防止剤が含まれるのが好ましい。酸化防止剤としてもこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、ビタミンE、ハイドロキノン、ヒンダードアミン、ヒンダードフェノール、パラフェニレンジアミン、アリールアルカンおよびその誘導体、有機硫黄化合物、ならびに有機燐化合物などが挙げられる。酸化防止剤は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。酸化防止剤の含有量は特に制限されないけれども、電荷輸送層を構成する成分の合計量の0.01重量%以上10重量%以下、好ましくは0.05重量%以上5重量%以下である。
【0129】
電荷輸送層は、電荷輸送物質、結着樹脂および必要に応じて酸化防止剤、可塑剤、増感剤などのそれぞれ適量を、これらの成分を溶解または分散し得る適切な有機溶媒に溶解または分散して電荷輸送層用塗液を調製し、この電荷輸送層用塗液を電荷発生層表面に塗布し、電荷発生層表面を乾燥させることによって形成できる。このようにして得られる電荷輸送層の膜厚は特に制限されないが、好ましくは10μm以上50μm以下、さらに好ましくは15μm以上40μm以下である。
【0130】
1つの層に、電荷発生物質と電荷輸送物質とが存在する感光層を形成することもできる。その場合、電荷発生物質および電荷輸送物質の種類、含有量、結着樹脂の種類、その他の添加剤などは、電荷発生層および電荷輸送層を別々に形成する場合と同様でよい。
【0131】
本実施の形態では、前述のような、電荷発生物質および電荷輸送物質を用いる有機感光層を形成してなる感光体ドラムを用いるけれども、それに代えて、シリコンなどを用いる無機感光層を形成してなる感光体ドラムを使用することもできる。
【0132】
帯電手段12は、感光体ドラム11を臨み、感光体ドラム11の長手方向に沿って感光体ドラム11表面から間隙を有して離隔するように配置され、感光体ドラム11表面を所定の極性および電位に帯電させる。帯電手段12には、帯電ブラシ型帯電器、チャージャ型帯電器、鋸歯型帯電器またはイオン発生装置などを使用できる。本実施の形態では、帯電手段12は感光体ドラム11表面から離隔するように設けられるけれども、それに限定されない。たとえば、帯電手段12として帯電ローラを用い、帯電ローラと感光体ドラムとが圧接するように帯電ローラを配置してもよく、帯電ブラシ、磁気ブラシなどの接触帯電方式の帯電器を用いてもよい。
【0133】
露光ユニット13は、露光ユニット13から出射される各色情報の光が、帯電手段12と現像装置14との間を通過して感光体ドラム11の表面に照射されるように配置される。露光ユニット13は、画像情報を該ユニット内でブラック、シアン、マゼンタおよびイエローの各色情報の光に分岐し、帯電手段12によって一様な電位に帯電された感光体ドラム11表面を各色情報の光で露光し、その表面に静電潜像を形成する。露光ユニット13には、たとえば、レーザ照射部および複数の反射ミラーを備えるレーザスキャニングユニットを使用できる。他にもLEDアレイ、または液晶シャッタと光源とを適宜組み合わせたユニットを用いてもよい。
【0134】
クリーニングユニット15は、現像装置14によって、感光体ドラム11表面に形成させたトナー像を記録媒体に転写した後に、感光体ドラム11の表面に残留するトナーを除去し、感光体ドラム11の表面を清浄化する。クリーニングユニット15には、たとえば、クリーニングブレードなどの板状部材が用いられる。本実施形態の画像形成装置においては、感光体ドラム11として、有機感光体ドラムが用いられ、有機感光体ドラムの表面は樹脂成分を主体とするものであるので、帯電装置によるコロナ放電によって発生するオゾンの化学的作用で有機感光体ドラムの表面の劣化が進行しやすい。ところが、劣化した表面部分はクリーニングユニット15よる擦過作用を受けて摩耗し、徐々にではあるが劣化した表面部分が確実に除去される。したがって、オゾンなどによる表面の劣化の問題が実際上解消され、長期間にわたって、帯電動作による帯電電位を安定に維持することができる。本実施の形態ではクリーニングユニット15を設けるけれども、それに限定されず、クリーニングユニット15を設けなくてもよい。
【0135】
画像形成部2によれば、帯電手段12によって均一な帯電状態にある感光体ドラム11の表面に、露光ユニット13から画像情報に応じた信号光を照射して静電潜像を形成し、これに現像装置14からトナーを供給してトナー像を形成し、このトナー像を中間転写ベルト25に転写した後に、感光体ドラム11表面に残留するトナーをクリーニングユニット15で除去する。この一連のトナー像形成動作が画像を形成するために繰り返し実行される。
【0136】
転写手段3は、感光体ドラム11の上方に配置され、中間転写ベルト25と、駆動ローラ26と、従動ローラ27と、ブラック、シアン、マゼンタおよびイエローの各色の画像情報にそれぞれ対応する4つの中間転写ローラ28と、転写ベルトクリーニングユニット29、転写ローラ30とを含む。中間転写ベルト25は、駆動ローラ26と従動ローラ27とに張架され、ループ状の移動経路を形成する無端ベルト状部材であり、矢符Bの方向に回転駆動する。駆動ローラ26は図示しない駆動手段によってその軸線回りに回転駆動可能に設けられ、その回転駆動によって、中間転写ベルト25を矢符B方向へ回転駆動させる。従動ローラ27は駆動ローラ26の回転駆動に従動回転可能に設けられ、中間転写ベルト25が弛まないように一定の張力を中間転写ベルト25に付与する。中間転写ローラ28は、中間転写ベルト25を介して感光体ドラム11に圧接し、かつ図示しない駆動手段によってその軸線回りに回転駆動可能に設けられる。中間転写ローラ28は、前述のように転写バイアスを印加する図示しない電源が接続され、感光体ドラム11表面のトナー像を中間転写ベルト25に転写する機能を有する。
【0137】
中間転写ベルト25が、感光体ドラム11に接しながら感光体ドラム11を通過する際、中間転写ベルト25を介して感光体ドラム11に対向配置する中間転写ローラ28から、感光体ドラム11表面のトナーの帯電極性とは逆極性の転写バイアスが印加され、感光体ドラム11の表面に形成されたトナー像が中間転写ベルト25へ転写される。フルカラー画像の場合、各感光体ドラム11で形成される各色のトナー画像が、中間転写ベルト25に順次重ねて転写されることによって、フルカラートナー像が形成される。
【0138】
転写ベルトクリーニングユニット29は、中間転写ベルト25を介して従動ローラ27に対向し、中間転写ベルト25の外周面に接触するように設けられる。感光体ドラム11との接触によって中間転写ベルト25に付着するトナーは、記録媒体を汚染する原因となるので、転写ベルトクリーニングユニット29が中間転写ベルト25表面のトナーを除去し回収する。
【0139】
転写ローラ30は、中間転写ベルト25を介して駆動ローラ26に圧接し、図示しない駆動手段によって軸線回りに回転駆動可能に設けられる。転写ローラ30と駆動ローラ26との圧接部、すなわち転写ニップ部において、中間転写ベルト25に担持され、搬送されるトナー像が、後述する記録媒体供給手段5から送給される記録媒体に転写される。トナー像を担持する記録媒体は、定着手段4に送給される。
【0140】
転写手段3によれば、感光体ドラム11と中間転写ローラ28との圧接部において感光体ドラム11から中間転写ベルト25に転写されるトナー像が、中間転写ベルト25の矢符B方向への回転駆動によって転写ニップ部に搬送され、そこで記録媒体に転写される。
【0141】
定着手段4は、転写手段3よりも記録媒体の搬送方向下流側に設けられ、定着ローラ31と加圧ローラ32とを含む。定着ローラ31は図示しない駆動手段によって回転駆動可能に設けられ、記録媒体に担持される未定着トナー像を、構成するトナーを加熱して溶融させることによって記録媒体に定着させる。定着ローラ31の内部には図示しない加熱手段が設けられる。加熱手段は、定着ローラ31表面が所定の温度(以後「加熱温度」ともいう)になるように定着ローラ31を加熱する。加熱手段には、たとえば、ヒータ、ハロゲンランプなどを使用できる。加熱手段は、後記する定着条件制御手段によって制御される。定着条件制御手段による加熱温度の制御については、後に詳述する。
【0142】
定着ローラ31表面近傍には図示しない温度検知センサが設けられ、温度検知センサは定着ローラ31の表面温度を検知する。温度検知センサによる検知結果は、後記する制御手段の記憶部に書き込まれる。加圧ローラ32は定着ローラ31に圧接するように設けられ、加圧ローラ32の回転駆動に従動回転可能に支持される。定着ローラ31からの熱によってトナーが溶融し、トナー像が記録媒体に定着する際に加圧ローラ32はトナーと記録媒体とを押圧することによって、トナー像の記録媒体への定着を補助する。定着ローラ31と加圧ローラ32との圧接部が定着ニップ部である。
【0143】
定着手段4によれば、転写手段3においてトナー像が転写された記録媒体が、定着ローラ31と加圧ローラ32とによって挟持され、定着ニップ部を通過する際に、トナー像が加熱下に記録媒体に押圧されることによって、トナー像が記録媒体に定着され、画像が形成される。
【0144】
記録媒体供給手段5は、自動給紙トレイ35と、ピックアップローラ36と、搬送ローラ37と、レジストローラ38、手差給紙トレイ39を含む。自動給紙トレイ35は画像形成装置100の鉛直方向下部に設けられ、記録媒体を貯留する容器状部材である。記録媒体には、たとえば普通紙、カラーコピー用紙、オーバーヘッドプロジェクタ用シート、葉書などがある。ピックアップローラ36は、自動給紙トレイ35に貯留される記録媒体を1枚ずつ取り出し、用紙搬送路S1に送給する。搬送ローラ37は互いに圧接するように設けられる一対のローラ部材であり、記録媒体をレジストローラ38に向けて搬送する。レジストローラ38は互いに圧接するように設けられる一対のローラ部材であり、搬送ローラ37から送給される記録媒体を、中間転写ベルト25に担持されるトナー像が転写ニップ部に搬送されるのに同期して、転写ニップ部に送給する。手差給紙トレイ39は、手動動作によって記録媒体を画像形成装置100内に取り込む装置であり、手差給紙トレイ39から取り込まれる記録媒体は、搬送ローラ37によって用紙搬送路S2内を通過し、レジストローラ38に送給される。記録媒体供給手段5によれば、自動給紙トレイ35または手差給紙トレイ39から1枚ずつ供給される記録媒体を、中間転写ベルト25に担持されるトナー像が転写ニップ部に搬送されるのに同期して、転写ニップ部に送給する。
【0145】
排出手段6は、搬送ローラ37と、排出ローラ40と、排出トレイ41とを含む。搬送ローラ37は、用紙搬送方向において定着ニップ部よりも下流側に設けられ、定着手段4によって画像が定着された記録媒体を排出ローラ40に向けて搬送する。排出ローラ40は、画像が定着された記録媒体を、画像形成装置100の鉛直方向上面に設けられる排出トレイ41に排出する。排出トレイ41は、画像が定着された記録媒体を貯留する。
【0146】
画像形成装置100は、図示しない制御手段を含む。制御手段は、たとえば、画像形成装置100の内部空間における上部に設けられ、記憶部と演算部と制御部とを含む。制御手段の記憶部には、画像形成装置100の上面に配置される図示しない操作パネルを介する各種設定値、画像形成装置100内部の各所に配置される図示しないセンサなどからの検知結果、および外部機器からの画像情報などが入力される。また、各種手段を実行するプログラムが書き込まれる。各種手段とは、たとえば、記録媒体判定手段、付着量制御手段、定着条件制御手段などである。記憶部には、この分野で常用されるものを使用でき、たとえば、リードオンリィメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)およびハードディスクドライブ(HDD)などが挙げられる。外部機器には、画像情報の形成または取得が可能であり、かつ画像形成装置100に電気的に接続可能な電気・電子機器を使用でき、たとえば、コンピュータ、デジタルカメラ、テレビ、ビデオレコーダ、DVDレコーダ、HD DVD、ブルーレイディスクレコーダ、ファクシミリ装置、携帯端末装置などが挙げられる。演算部は、記憶部に書き込まれる各種データ(画像形成命令、検知結果、画像情報など)および各種手段のプログラムを取り出し、各種判定を行う。制御部は、演算部の判定結果に応じて該当装置に制御信号を送付し、動作制御を行う。制御部および演算部は中央処理装置(CPU、Central Processing Unit)を備えるマイクロコン
ピュータ、マイクロプロセッサなどによって実現される処理回路を含む。制御手段は、前述の処理回路とともに主電源を含み、電源は制御手段だけでなく、画像形成装置100内部における各装置にも電力を供給する。
【0147】
5、定着装置
図6は、図5に示す画像形成装置100に備わる現像装置14を模式的に示す概略図である。現像装置14は、現像槽20とトナーホッパ21とを含む。現像槽20は感光体ドラム11表面を臨むように配置され、感光体ドラム11の表面に形成される静電潜像にトナーを供給して現像し、可視像であるトナー像を形成する容器状部材である。現像槽20は、その内部空間にトナーを収容しかつ現像ローラ50、供給ローラ51、撹拌ローラ52などのローラ部材を収容して回転自在に支持する。また、ローラ状部材の代わりにスクリュー部材を収容してもよい。本実施形態の現像装置14は、トナーとして、前述の実施の一形態のトナーを現像槽20に収容する。
【0148】
現像槽20の感光体ドラム11を臨む側面には開口部53が形成され、この開口部53を介して感光体ドラム11に対向する位置に現像ローラ50が回転駆動可能に設けられる。現像ローラ50は、感光体ドラム11との圧接部または最近接部において感光体ドラム11表面の静電潜像にトナーを供給するローラ状部材である。トナーの供給に際しては、現像ローラ50表面にトナーの帯電電位とは逆極性の電位が現像バイアス電圧(以下、単に「現像バイアス」とする)として印加される。これによって、現像ローラ50表面のトナーが静電潜像に円滑に供給される。さらに、現像バイアス値を変更することによって、静電潜像に供給されるトナー量、すなわち静電潜像のトナー付着量を制御できる。
【0149】
供給ローラ51は現像ローラ50を臨んで回転駆動可能に設けられるローラ状部材であり、現像ローラ50周辺にトナーを供給する。
【0150】
撹拌ローラ52は供給ローラ51を臨んで回転駆動可能に設けられるローラ状部材であり、トナーホッパ21から現像槽20内に新たに供給されるトナーを供給ローラ51周辺に送給する。トナーホッパ21は、その鉛直方向下部に設けられるトナー補給口54と、現像槽20の鉛直方向上部に設けられるトナー受入口55とが連通するように設けられ、現像槽20のトナー消費状況に応じてトナーを補給する。またトナーホッパ21を用いず、各色トナーカートリッジから直接トナーを補給するよう構成してもよい。
【0151】
以上のように、現像装置14は、本発明の現像剤を用いて潜像を現像するので、感光体ドラム11に高精細なトナー像を安定して形成することができる。したがって、高画質の画像を安定して形成することができる。
【0152】
また本発明によれば、潜像が形成される感光体ドラム11と、感光体ドラム11に潜像を形成する帯電手段12および露光ユニット13と、前述のように、高精細なトナー像を感光体ドラム11に形成可能な本発明の現像装置14とを備えて画像形成装置100が実現される。このような画像形成装置100で画像を形成することによって、高精細で濃度むらのない良好な高画質画像を安定して形成することができる。
【実施例】
【0153】
以下に実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。以下において、「部」および「%」は特に断らない限りそれぞれ「重量部」および「重量%」を意味する。実施例および比較例における結着樹脂およびトナー母粒子のガラス転移温度、結着樹脂の軟化温度、離型剤の融点、トナー母粒子の体積平均粒径は、以下のようにして測定した。
【0154】
[結着樹脂およびトナー母粒子のガラス転移温度]
示差走査熱量計(商品名:DSC220、セイコー電子工業株式会社製)を用い、日本工業規格(JIS)K7121−1987に準じ、試料1gを昇温速度毎分10℃で加熱してDSC曲線を測定した。得られたDSC曲線のガラス転移に相当する吸熱ピークの高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、ピークの立ち上がり部分から頂点までの曲線に対して勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度をガラス転移温度(Tg)として求めた。
【0155】
[結着樹脂の軟化温度]
流動特性評価装置(商品名:フローテスターCFT−100C、株式会社島津製作所製)において、荷重20kgf/cm(9.8×10Pa)を与えて試料1gがダイ(ノズル口径1mm、長さ1mm)から押出されるように設定し、昇温速度毎分6℃で加熱し、ダイから試料の半分量が流出したときの温度を求め、軟化温度(Tm)とした。
【0156】
[離型剤の融点]
示差走査熱量計(商品名:DSC220、セイコー電子工業株式会社製)を用い、試料1gを温度20℃から昇温速度毎分10℃で200℃まで昇温させ、次いで200℃から20℃に急冷させる操作を2回繰返し、DSC曲線を測定した。2回目の操作で測定されるDSC曲線の融解に相当する吸熱ピークの頂点の温度を離型剤の融点として求めた。
【0157】
[体積平均粒径]
電解液(商品名:ISOTON−II、ベックマン・コールター社製)50mlに、試料20mgおよびアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム1mlを加え、超音波分散器(商品名:卓上型2周波超音波洗浄器VS−D100、アズワン株式会社製)によって超音波周波数20kHzで3分間分散処理して測定用試料を調製した。この測定用試料について、粒度分布測定装置(商品名:Multisizer3、ベックマン・コールター社製)を用い、アパーチャ径:100μm、測定粒子数:50000カウントの条件下に測定を行い、試料粒子の体積粒度分布から体積平均粒径を求めた。
【0158】
[トナー母粒子の平均円形度]
トナー母粒子の円形度は下記式(1)で定義される値である。
円形度=(トナー母粒子投影面積と同じ面積の円の周囲長)
/(トナー母粒子投影像の周囲長) …(1)
【0159】
ここで、「トナー母粒子投影面積」とは二値化されたトナー母粒子像の面積であり、「トナー母粒子投影像の周囲長」とは該トナー母粒子像のエッジ点を結んで得られる輪郭線の長さと定義した。トナー母粒子の平均円形度は、トナー母粒子の形状を定量的に測定する市販装置を用いて測定することができ、本実施例ではフロー式粒子像分析装置「FPIA−3000型」(シスメックス株式会社製)を用いて測定した。平均円形度の測定時におけるトナー母粒子濃度が3000〜5000個/μLとなるようにトナー母粒子水分散液を調整し、測定されるトナー母粒子の数が1万個以上となるようにCCD(Charge
Coupled Device)でトナー母粒子を撮影し、粒度分布および円形度を前記装置で計測した後、平均円形度を求めた。
【0160】
(実施例1)
〔トナー母粒子作製工程S1〕
トナー母粒子原料およびその添加量を以下とする。
・ポリエステル樹脂(商品名:ダイヤクロン、三菱レイヨン株式会社製、ガラス転移温度55℃、軟化温度130℃)
87.5%(100部)
・C.I.Pigment Blue 15:3 5.0%(5.7部)
・離型剤(カルナウバワックス、融点82℃) 6.0%(6.9部)
・帯電制御剤(商品名:ボントロンE84、オリエント化学工業株式会社)
1.5%(1.7部)
【0161】
以上の各構成成分を、ヘンシェルミキサ(商品名:FM20C、三井鉱山株式会社製)にて前混合した後、二軸押出混練機(商品名:PCM65、株式会社池貝製)にて溶融混練した。この溶融混練物をカッティングミル(商品名:VM−16、オリエント株式会社製)で粗粉砕した後、ジェットミル(ホソカワミクロン株式会社製)にて微粉砕し、さらに風力分級機(ホソカワミクロン株式会社製)で分級し、体積平均粒径が6.5μmであり、ガラス転移温度が56℃のトナー母粒子を作製した。このトナー母粒子の平均円形度は0.945であった。
【0162】
〔樹脂微粒子調製工程S2〕
スチレンとアクリル酸ブチルとを重合したものを凍結乾燥し、樹脂微粒子として、体積平均粒径が0.1μmであるスチレン−ブチルアクリレート共重合体微粒子A(ガラス転移温度72℃、軟化温度126℃)を得た。
【0163】
〔被覆工程S3(温度調整工程S3a,樹脂微粒子付着工程S3b,噴霧工程S3c,膜化工程S3d,回収工程S3e)〕
図2に示す装置に準ずるハイブリダイゼーションシステム(商品名:NHS−1型、株式会社奈良機械製作所製)に、二流体ノズルを取付けた装置によって、トナー母粒子および樹脂微粒子を撹拌、流動させた状態で液体としてエタノールを噴霧した。液体噴霧ユニットとしては、市販品を用いることができ、液体をたとえば、送液ポンプ(商品名:SP11−12、株式会社フロム製)を通して二流体ノズル(商品名:HM−6型、扶桑精機株式会社製)に定量送液するように接続したものを使用することができる。液体の噴霧速度および液体ガス排出速度は市販のガス検知器(商品名:XP−3110、新コスモス電機株式会社製)を使用して観察することができる。
【0164】
温度調整用ジャケットは、粉体流過部および撹拌部壁面の全面に設けた。粉体流路には温度センサを取り付けた。粉体流過部および撹拌部の温度を55℃になるように調整した。前記装置において、トナー母粒子表面への樹脂微粒子付着工程で、ハイブリダイゼーションシステムの回転撹拌手段の最外周における周速度を100m/secとした。噴霧工程および膜化工程でも周速度を100m/secとした。また液体噴霧方向と、粉体流動方向とのなす角度(以下「噴霧角度」という)が平行(0°)になるように、二流体ノズルの取付け角度を設定した。このような装置によって、作製したトナー母粒子100重量部と樹脂微粒子10重量部とを5分間撹拌混合後、液体としてエタノールを噴霧速度毎分0.5g、エア流量は毎分5Lとし、30分間噴霧して樹脂微粒子をトナー母粒子表面に膜化させた。その後、エタノール噴霧を停止して5分間撹拌し、実施例1のトナーを得た。このとき貫通孔およびガス排出部を通じて排出された液体の排出濃度は約1.4Vol%で安定していた。また装置内へ流すエア流量は、回転軸部から装置内に流すエア流量を毎分5Lに調節して、二流体ノズルからのエア流量と合計して毎分10Lを流した。
【0165】
(実施例2)
被覆工程において、装置の粉体流過部温度を40℃になるように設定し、撹拌部温度は制御しなかったこと以外は実施例1と同様にして、実施例2のトナーを得た。
【0166】
(実施例3)
被覆工程において、液体噴霧方向と、粉体流動方向とのなす角度(以下「噴霧角度」という)が45°となるように二流体ノズルの取付け角度を変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例3のトナーを得た。
【0167】
(実施例4)
装置の粉体流過部温度を40℃になるように設定して撹拌部温度は制御しなかったことと、噴霧工程において液体噴霧方向と粉体流動方向とのなす角度(以下「噴霧角度」という)が45°となるように二流体ノズルの取付け角度を設定したこと以外は実施例1と同様にして、実施例4のトナーを得た。
【0168】
(実施例5)
被覆工程において、液体の噴霧速度を毎分1.2gとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5のトナーを得た。
【0169】
(実施例6)
被覆工程において、液体の噴霧速度を毎分1.2gとしたこと、装置の粉体流過部温度を40℃になるように設定して撹拌部温度は制御しなかったこと以外は実施例1と同様にして、実施例6のトナーを得た。
【0170】
(実施例7)
被覆工程において、液体の噴霧速度を毎分1.2gとしたことと、噴霧工程において液体噴霧方向と粉体流動方向とのなす角度(以下「噴霧角度」という)が45°となるように二流体ノズルの取付け角度を変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例7のトナーを得た。
【0171】
(実施例8)
噴霧工程において、液体の噴霧速度を毎分1.2gとしたことと、装置の粉体流過部温度を40℃になるように設定して撹拌部温度は制御しなかったことと、さらに噴霧工程において液体噴霧方向と粉体流動方向とのなす角度(以下「噴霧角度」という)が45°となるように二流体ノズルの取付け角度を設定したこと以外は実施例1と同様にして、実施例8のトナーを得た。
【0172】
(実施例9)
トナー母粒子表面への樹脂微粒子付着工程で、ハイブリダイゼーションシステムの回転撹拌手段の最外周における周速度を100m/secとし、液体噴霧・膜化工程で装置の回転撹拌手段の最外周における周速度を50m/secにしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例9のトナーを得た。
【0173】
(実施例10)
トナー母粒子表面への樹脂微粒子付着工程で、ハイブリダイゼーションシステムの回転撹拌手段の最外周における周速度を100m/secとし、装置の回転撹拌手段の最外周における周速度を50m/secにしたことと、装置の粉体流過部温度および撹拌部温度を40℃になるように設定したこと以外は実施例1と同様にして、実施例10のトナーを得た。
【0174】
(実施例11)
トナー母粒子表面への樹脂微粒子付着工程で、ハイブリダイゼーションシステムの回転撹拌手段の最外周における周速度を100m/secとし、装置の回転撹拌手段の最外周における周速度を50m/secにしたことと、噴霧工程において液体噴霧方向と粉体流動方向とのなす角度(以下「噴霧角度」という)が45°となるように二流体ノズルの取付け角度を設定したこと以外は実施例1と同様にして、実施例11のトナーを得た。
【0175】
(実施例12)
トナー母粒子表面への樹脂微粒子付着工程で、ハイブリダイゼーションシステムの回転撹拌手段の最外周における周速度を100m/secとし、装置の回転撹拌手段の最外周における周速度を50m/secにしたことと、装置の粉体流過部温度および撹拌部温度を40℃になるように設定したことと、さらに噴霧工程において液体噴霧方向と粉体流動方向とのなす角度(以下「噴霧角度」という)が45°となるように二流体ノズルの取付け角度を設定したこと以外は実施例1と同様にして、実施例12のトナーを得た。
【0176】
(実施例13)
噴霧工程において液体噴霧方向と粉体流動方向とのなす角度(以下「噴霧角度」という)が50°となるように二流体ノズルの取付け角度を設定したこと以外は実施例1と同様にして、実施例13のトナーを得た。
【0177】
(実施例14)
噴霧角度が90°となるように二流体ノズルの取付け角度を変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例14のトナーを得た。
【0178】
(実施例15)
噴霧してガス化したエタノールが貫通孔およびガス排出部から排出しにくく、装置内に充満するように、装置外へ排出するエア流量は二流体ノズルに流すエア流量を毎分1Lに下げ、回転軸部から装置内に流すエア流量を毎分9Lに調節して合計して毎分10Lで排出したこと以外は実施例1と同様にして、実施例15のトナーを得た。
【0179】
(実施例16)
トナー母粒子作製工程で処理前母粒子作製工程および処理前母粒子表面処理工程を行ったこと以外は実施例1と同様にして、実施例16のトナーを得た。処理前母粒子作製工程は、実施例1のトナー母粒子作製工程と同様の方法で処理前母粒子を得た。処理前母粒子表面処理工程では、処理前母粒子をハイブリダイゼーションシステムに投入し、回転撹拌手段の最外周における周速度を100m/secとして5分間処理することによってトナー母粒子を得た。トナー母粒子の平均円形度は0.950であった。
【0180】
(実施例17)
処理前母粒子表面処理工程で、処理時間を5分間から40分間に変更したこと以外は実施例16と同様にして、実施例17のトナーを得た。トナー母粒子の平均円形度は0.970であった。
【0181】
(比較例1)
装置の粉体流過部温度および撹拌部温度を制御しなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例1のトナーを得た。
【0182】
(比較例2)
エタノール噴霧工程において、エタノール噴霧速度を毎分0.5gで30分間噴霧するかわりに、液体の噴霧手段として注射器を用いてエタノール15gを30分間で滴下した以外は実施例1と同様にして、比較例2のトナーを得た。
【0183】
得られた実施例1〜17および比較例1,2のトナーについて、次のようにして収率および被覆均一性の評価を行った。
【0184】
〈収率〉
下記式(2)によって、トナーの収率を算出し、実施例1〜17および比較例1,2の製造方法で製造されるトナーの収率を評価した。
トナーの収率(%)={回収されたトナー粒子の重量
/(投入したトナー母粒子の重量
+樹脂微粒子固形分の重量)}×100 …(2)
【0185】
評価基準は以下のとおりである。
◎:非常に良好。算出されたトナーの収率が90%以上である。
○:良好。算出されたトナーの収率が80%以上90%未満である。
△:実用上問題なし。算出されたトナーの収率が70%以上80%未満である。
×:不良。算出されたトナーの収率が70%未満である。
【0186】
〈被覆均一性〉
実施例1〜17および比較例1,2のトナーを用い、高温保存後の凝集物の有無によって被膜均一性を評価した。トナー20gをポリ容器に密閉し、50℃で48時間放置した後、トナーを取り出して230メッシュのふるいに掛けた。ふるい上に残存するトナーの重量を測定し、この重量のトナー全重量に対する割合である残存量を求め、下記の基準で評価した。同様に55℃で48時間放置した後のトナーの評価も行った。数値が低いほど、トナーがブロッキングを起こさず、保存性が良好であることを示す。
【0187】
評価基準は以下のとおりである。
◎:凝集なし。50℃で48時間放置した後の残存量および55℃で48時間放置した後の残存量のうち、多いほうの残存量が1%未満である。
○:凝集微量。50℃で48時間放置した後の残存量および55℃で48時間放置した後の残存量のうち、多いほうの残存量が1%以上3%未満である。
△:凝集少量。50℃で48時間放置した後の残存量および55℃で48時間放置した後の残存量のうち、多いほうの残存量が3%以上20%未満である。
×:凝集多量。50℃で48時間放置した後の残存量および55℃で48時間放置した後の残存量のうち、多いほうの残存量が20%以上である。
【0188】
〔総合評価〕
上記の収率と被覆均一性との評価に基づき、本発明のトナーの製造方法の総合評価を行った。
【0189】
総合評価基準は以下のとおりである。
○:良好。収率の評価結果が◎または○であり、かつ被覆均一性の評価結果が◎または○である。
×:不良。収率または被覆均一性の評価結果に△または×がある。
【0190】
実施例1〜17および比較例1,2で得られたトナーの評価結果および総合評価結果を表1に示す。
【0191】
【表1】

【0192】
表1に示す結果から、温度調整用ジャケットで粉体流路の温度調整を行わなかった比較例1は、トナー母粒子に被覆層が均一に被覆されず、エタノールをキャリアガスによって噴霧せず、注射器で滴下した比較例2は、トナー母粒子に被覆層が均一に被覆されず、機内での付着が生じてトナーの収率が低かったことがわかる。噴霧角度が45°である実施例3、4、7、8、11、12は、収率が少し低下した。最外周における周速度が50m/secである実施例9〜12は、被覆均一性が少し低下した。噴霧角度が50°、90°の実施例13、14およびエタノールが貫通孔およびガス排出部から排出されにくい実施例15は、収率が低下した。機械的に球形化処理を行ったトナー母粒子を用いた実施例16,17は、被膜均一性が良好となった。また、トナー母粒子の表面が平滑で形状が円形であるほど流動性がよくなるので、球形化処理を行うことで表面が平滑で形状が円形に近づいた実施例16,17は、トナー製造装置の粉体流路壁面への付着量が少なくなり収率が向上した。
【符号の説明】
【0193】
201 トナーの製造装置
202 粉体流路
203 噴霧手段
204 回転撹拌手段
206 粉体投入部
207 粉体回収部
220 撹拌羽根

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転羽根を周設した回転盤と回転軸とを含む回転撹拌手段によってトナー母粒子および樹脂微粒子を回転撹拌室および循環管を含む粉体流路内において繰り返し循環させ回転撹拌室に戻す循環手段と、粉体流路の少なくとも一部に設けられ、粉体流路内および回転撹拌手段の温度を所定の温度に調整する温度調整手段と、噴霧手段とを備える回転撹拌装置を用いる樹脂層被覆トナーの製造方法において、
温度調整手段によって粉体流路内および回転撹拌手段の温度を所定の温度に調整する温度調整工程と、
回転撹拌手段が回転している粉体流路内にトナー母粒子および樹脂微粒子を投入して、トナー母粒子表面に樹脂微粒子を付着させる樹脂微粒子付着工程と、
流動状態にあるトナー母粒子および樹脂微粒子に、それらの粒子を可塑化させる液体を噴霧手段からキャリアガスによって噴霧する噴霧工程と、
トナー母粒子に付着した樹脂微粒子が軟化して膜化するまで回転撹拌手段の回転を続けてトナー母粒子および樹脂微粒子を流動させる膜化工程とを含み、
樹脂微粒子付着工程、噴霧工程および膜化工程では、温度調整手段によって、粉体流路内および回転撹拌手段の温度が前記所定の温度に調整されることを特徴とするトナーの製造方法。
【請求項2】
温度調整工程において、粉体流路内全体および回転撹拌手段の温度が温度調整手段によって所定の温度に調整されることを特徴とする請求項1に記載のトナーの製造方法。
【請求項3】
樹脂微粒子付着工程で、平均円形度が0.950以上0.970以下の機械的に球形化処理されたトナー母粒子を用いることを特徴とする請求項1または2に記載のトナーの製造方法。
【請求項4】
噴霧工程では、トナー母粒子および樹脂微粒子の流動速度が安定してから噴霧手段によって液体を噴霧することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のトナーの製造方法。
【請求項5】
噴霧工程で噴霧された液体は、粉体流路内が一定のガス濃度になるようにガス化されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のトナーの製造方法。
【請求項6】
粉体流路内でのガス濃度が一定になるように、ガス化した液体を粉体流路外へ排出することを特徴とする請求項5に記載のトナーの製造方法。
【請求項7】
トナー母粒子および樹脂微粒子が流動する方向である粉体流動方向が一定の方向となるように粉体流路が設けられ、噴霧手段からの液体噴霧方向と、粉体流動方向との成す角度が、45°以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載のトナーの製造方法。
【請求項8】
回転撹拌手段は、回転軸の回転に伴って回転する回転盤を含み、
流動するトナー母粒子および樹脂微粒子は、回転盤に衝突することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載のトナーの製造方法。
【請求項9】
前記液体は、少なくともアルコールを含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載のトナーの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つに記載のトナーの製造方法によって製造されることを特徴とするトナー。
【請求項11】
請求項10に記載のトナーを含むことを特徴とする現像剤。
【請求項12】
前記トナーとキャリアとから成る2成分現像剤であることを特徴とする請求項11に記載の現像剤。
【請求項13】
請求項11または12に記載の現像剤を用いて、像担持体に形成される潜像を現像してトナー像を形成することを特徴とする現像装置。
【請求項14】
潜像が形成される像担持体と、
像担持体に潜像を形成する潜像形成手段と、
請求項13に記載の現像装置とを備えることを特徴とする画像形成装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−9003(P2010−9003A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6166(P2009−6166)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】