説明

トナーの製造方法

【課題】溶融混練物を効率よく粉砕することができ、生産性よくトナーを製造する方法、及び該方法により得られるトナーを提供すること。
【解決手段】3価以上の脂肪族アルコールの含有量が40モル%以下であるアルコール成分とアルキル(炭素数9〜18)コハク酸及びアルケニル(炭素数9〜18)コハク酸から選ばれる少なくとも1種のコハク酸誘導体を10〜50モル%含有したカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル樹脂Aと、3価以上の脂肪族アルコールを70モル%以上含有したアルコール成分とロジン及び芳香族ジカルボン酸化合物を含有したカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル樹脂Bとを含み、該ポリエステル樹脂Bの含有量が5〜40重量%である結着樹脂を含む原料を溶融混練する工程、及び得られた溶融混練物を粉砕する工程を含む、トナーの製造方法、及び該方法により得られるトナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像に用いられるトナー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融混練・粉砕法により得られる粉砕トナーが広く商品化されているが、溶融混練・粉砕法では、小粒径化に際して、粉砕エネルギーが指数関数的に大きくなることから、乳化凝集法等のケミカル法も検討されている。
【0003】
例えば、単純に使用する結着樹脂の分子量を下げることによって、トナーの粉砕性は上がるが、微粉が発生しやすくなりトナー収率が下がるため、結果として粉砕効率が下がり、トナーの生産性が悪化する。また、分子量を下げると軟化点も下がってしまい、定着性、グロス等の各トナー特性が大きく変わってしまうことも課題である。
【0004】
特許文献1には、少なくともポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)を主成分とする結着樹脂、着色剤、離型剤、及びポリオレフィン系樹脂とビニル系樹脂とからなるグラフト重合体を含有してなるトナーであって、前記ポリエステル樹脂(A)は、2価のアルコール化合物を含有するアルコール成分と、ロジン化合物を含有するカルボン酸成分との縮重合により得られるものであり、且つ該ロジン化合物が前記アルコール成分及び前記カルボン酸成分の総量中、5質量%以上含有され、前記ポリエステル樹脂(B)は、ビスフェノール化合物のアルキレンオキサイド付加物を少なくとも含む2価のアルコール化合物を含有するアルコール成分と、カルボン酸成分との縮重合により得られるものであることを特徴とするトナーが開示されている。
【0005】
一方、特許文献2には、酸成分が(1)芳香族ジカルボン酸及び(2)不均化ロジン、アルコール成分が(3)3価以上の多価アルコールから構成され、前記アルコール成分(3)及び酸成分(1)のモル比(3)/(1)が1.05〜1.65であり、前記酸成分(2)及び(1)のモル比(2)/(1)が0.40〜2.60であるトナー用ポリエステル樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−2802号公報
【特許文献2】特開2010−20170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載のトナーは、製造に際しての粉砕性及び生産性が十分に満足できているとはいえない、という課題があることを確認した。
【0008】
本発明の課題は、溶融混練物を効率よく粉砕することができ、生産性よくトナーを製造する方法、及び該方法により得られるトナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
〔1〕 3価以上の脂肪族アルコールの含有量が40モル%以下であるアルコール成分とアルキル(炭素数9〜18)コハク酸及びアルケニル(炭素数9〜18)コハク酸から選ばれる少なくとも1種のコハク酸誘導体を10〜50モル%含有したカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル樹脂Aと、3価以上の脂肪族アルコールを70モル%以上含有したアルコール成分とロジン及び芳香族ジカルボン酸化合物を含有したカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル樹脂Bとを含み、該ポリエステル樹脂Bの含有量が5〜40重量%である結着樹脂を含む原料を溶融混練する工程、及び得られた溶融混練物を粉砕する工程を含む、トナーの製造方法、並びに
〔2〕 前記〔1〕記載の製造方法により得られるトナー
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法により、溶融混練物を効率よく粉砕することができ、生産性よくトナーを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、原料を溶融混練する工程、及び得られた溶融混練物を粉砕する工程を含むトナーの製造方法において、3価以上の脂肪族アルコールの含有量が40モル%以下であるアルコール成分とアルキル(炭素数9〜18)コハク酸及びアルケニル(炭素数9〜18)コハク酸から選ばれる少なくとも1種のコハク酸誘導体を10〜50モル%含有したカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル樹脂Aと、ロジンと芳香族ジカルボン酸化合物と3価以上の脂肪族アルコールとを用いて得られる、特定量のポリエステル樹脂Bとを少なくとも含む結着樹脂を用いている点に特徴を有しており、これにより、粉砕工程において溶融混練物を効率よく粉砕することができ、生産性よくトナーを得ることができる。これは、ポリエステル樹脂Aに用いられたコハク酸誘導体とポリエステル樹脂Bの相溶性が高いため、溶融混練によりポリエステル樹脂Bがポリエステル樹脂A中に高次に分散すること、ポリエステル樹脂Bの溶融粘度が高いため、混練りでのシェアがかかりやすく分散性に優れ、かつ粉砕性が高いため、ポリエステル樹脂Bが粉砕助剤的に働くためと考えられる。本発明では、ポリエステル樹脂Bの量が少量であっても、粉砕性を改善することができるため、トナー諸特性への影響を抑えつつ生産性を向上することができる。
【0012】
ポリエステル樹脂Aは、3価以上の脂肪族アルコールの含有量が40モル%以下であるアルコール成分とアルキル(炭素数9〜18)コハク酸及びアルケニル(炭素数9〜18)コハク酸から選ばれる少なくとも1種のコハク酸誘導体を10〜50モル%含有したカルボン酸成分とを縮重合させて得られる樹脂である。
【0013】
コハク酸誘導体の含有量は、溶融混練物の粉砕性を向上させ微粉の発生を抑制する観点(以下、「トナーの生産性を向上させる観点」という)から、カルボン酸成分中、10〜50モル%であり、好ましくは15〜45モル%、より好ましくは20〜35モル%である。ポリエステル樹脂A中にコハク酸誘導体がこの含有量範囲内に組み込まれていると、ポリエステル樹脂Bが十分に分散し、ポリエステル樹脂B部分がメインで割れることが少なく、微粉の発生が起こりにくい。
【0014】
コハク酸誘導体は、アルキル(炭素数9〜18)コハク酸及びアルケニル(炭素数9〜18)コハク酸の無水物や炭素数1〜3の低級アルキルエステルであってもよい。
【0015】
アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸におけるアルキル基又はアルケニル基の炭素数は、トナーの生産性を向上させる観点、トナーの低温定着性、保存性及び高温高湿下での帯電安定性を高める観点から、9〜18であり、好ましくは9〜14、より好ましくは10〜12である。それらのアルキル基及びアルケニル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよいが、ポリエステル樹脂との相溶性を高める観点及びトナーの高温高湿下での帯電安定性を高める観点から、分岐鎖であることが好ましい。
【0016】
さらに、トナーの生産性を向上させる観点及びトナーの低温定着性及び高温高湿下での帯電安定性を高める観点から、コハク酸誘導体は、炭素数9〜18、好ましくは9〜14の分岐鎖のアルキル基を有するアルキルコハク酸及び炭素数9〜18、好ましくは9〜14の分岐鎖のアルケニル基を有するアルケニルコハク酸からなる群から選ばれる2種以上からなるものが好ましい。従って、コハク酸誘導体は、炭素数9〜18、好ましくは9〜14の分岐鎖のアルキル基を有するアルキルコハク酸の2種以上からなるもの、炭素数9〜18、好ましくは9〜14の分岐鎖のアルケニル基を有するアルケニルコハク酸の2種以上からなるもの、又は前記アルキルコハク酸及び前記アルケニルコハク酸の各々1種以上からなるものが好ましい。
【0017】
炭素数の異なる、分岐鎖のアルキル基及び/又はアルケニル基を有するコハク酸誘導体を併用することにより、得られる樹脂は、示差走査熱量分析(DSC)におけるガラス転移温度付近の吸熱ピークがブロードとなるため、トナー用結着樹脂として、非常に広範囲な定着領域を有するものとなる。
【0018】
ここでいう「種類」は、アルキル基又はアルケニル基に由来するもので、アルキル基又はアルケニル基の炭素数の鎖長が異なるものや構造異性体は異なる種類のアルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸として扱う。
【0019】
分岐鎖を有する炭素数9〜18のアルキル基及びアルケニル基としては、具体的には、イソドデセニル基、イソドデシル基等が挙げられる。
【0020】
トナーの生産性を向上させる観点及びトナーの低温定着性、保存性及び高温高湿下での帯電安定性を向上させる観点から、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸は、アルキレン基を有する化合物(アルキレン化合物)と、マレイン酸、フマル酸及びそれらの酸無水物から選ばれる少なくとも1種とから得られるものであることが好ましい。
【0021】
アルキレン化合物としては、炭素数が9〜18、好ましくは9〜14のものが好ましい。また、アルキレン化合物は、コハク酸誘導体を用いて得られる縮重合系樹脂が、トナー用結着樹脂として、非常に広範囲な定着領域を有する観点から、ガスクロマトグラフィー質量分析において、後述の測定条件で、炭素数9〜18、好ましくは9〜14のアルキレン化合物に相当するピークを2以上有することが好ましく、10以上がより好ましく、20以上がさらに好ましく、30以上がよりさらに好ましく、また、80以下が好ましく、60以下がより好ましい。
【0022】
アルキレン化合物の合成に使用される好適な触媒としては、液体リン酸、固体リン酸、タングステン、三フッ化ホウ素錯体等が挙げられる。なお、構造異性体の数の制御容易性の観点から、ランダム重合した後に、蒸留により調整する方法が好ましい。
【0023】
一方、マレイン酸、フマル酸及びそれらの酸無水物のなかでは、反応性の観点から、無水マレイン酸が好ましい。
【0024】
アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸は、公知の製造方法により得ることができるが、例えば、アルキレン化合物と、マレイン酸、フマル酸及びそれらの酸無水物から選ばれる少なくとも1種とを混合し、加熱することで、エン反応を利用することにより得られる(特開昭48−23405号公報、特開昭48−23404号公報、米国特許3374285号明細書等参照)。
【0025】
カルボン酸成分には、コハク酸誘導体以外に、ジカルボン酸化合物や3価以上の多価カルボン酸化合物が含有されていてもよい。
【0026】
ジカルボン酸化合物としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;及びこれらの酸の無水物、アルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。本発明において、上記のような酸、これらの酸の無水物、及び酸のアルキルエステルを、本明細書では総称してカルボン酸化合物と呼ぶ。
【0027】
カルボン酸成分は、トナーの生産性を向上させる観点から、芳香族ジカルボン酸化合物を含有することが好ましい。カルボン酸成分中、芳香族ジカルボン酸化合物の含有量は、トナーの生産性を向上させる観点から、好ましくは10〜80モル%、より好ましくは20〜75モル%、さらに好ましくは40〜70モル%である。
【0028】
3価以上の多価カルボン酸化合物としては、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸等の芳香族カルボン酸、及びこれらの酸無水物、アルキル(炭素数1〜3)エステル等の誘導体が挙げられる。
【0029】
その他のカルボン酸化合物として、ロジン等が挙げられる。ロジンとしては、天然ロジン(精製ロジン、未精製ロジン)、不均化ロジン、変性ロジン(フマル酸、マレイン酸、アクリル酸等で変性されたロジン等)等が挙げられる。
【0030】
本発明において、カルボン酸成分は、樹脂の分子量を上げ、トナーの生産性を向上させる観点から、3価以上の多価カルボン酸化合物、好ましくはトリメリット酸化合物、より好ましくは無水トリメリット酸を含有していることが望ましい。3価以上の多価カルボン酸化合物の含有量は、カルボン酸成分中、1〜30モル%が好ましく、5〜25モル%がより好ましく、10〜22モル%がさらに好ましい。
【0031】
アルコール成分は、トナーの生産性を向上させる観点から、式(I):
【0032】
【化1】

【0033】
(式中、R1O及びOR1はオキシアルキレン基であり、R1はエチレン及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の平均値は1〜16が好ましく、1〜8がより好ましく、1.5〜4がさらに好ましい)
で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含有していることが好ましい。
【0034】
式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の具体例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシプロピレン付加物、及び2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシエチレン付加物等のビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0035】
ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、トナーの生産性を向上させる観点から、アルコール成分中、70モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましく、実質的に100モル%がよりさらに好ましい。
【0036】
ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物以外のアルコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA等の炭素数2〜20のジオール、ソルビトール、1,4-ソルビタン、ペンタエリスリトール、グリセロール、トリメチロールプロパン等の炭素数3〜20、好ましくは炭素数3〜10の3価以上の多価アルコール等が挙げられる。
【0037】
なお、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール等の3価以上の脂肪族アルコールの含有量は、トナーの生産性を向上させる観点から、アルコール成分中、40モル%以下であり、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは0モル%である。
【0038】
ポリエステル樹脂Bは、3価以上の脂肪族アルコールを70モル%以上含有したアルコール成分とロジン及び芳香族ジカルボン酸化合物を含有したカルボン酸成分とを縮重合させて得られる樹脂である。
【0039】
3価以上の脂肪族アルコールとしては、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール等が挙げられ、これらの中では、トナーの生産性を向上させる観点から、グリセリンが好ましい。
【0040】
3価以上の脂肪族アルコールの含有量は、トナーの生産性を向上させる観点から、アルコール成分中、70モル%以上であり、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは実質的に100モル%である。
【0041】
3価以上の脂肪族アルコール以外のアルコールとしては、ポリエステル樹脂Aのアルコール成分に例示したものと同様のものが挙げられる。
【0042】
本発明におけるロジンは、松類から得られる天然ロジン、異性化ロジン、二量化ロジン、重合ロジン、不均化ロジン等の、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマール酸、イソピマール酸、サンダラコピマール酸、デヒドロアビエチン酸、レポピマール酸等を主成分とするロジンであれば、公知のロジンを特に限定することなく使用できる。天然ロジンとしては、天然ロジンパルプを製造する工程で副産物として得られるトール油から得られるトールロジン、生松ヤニから得られるガムロジン、松の切株から得られるウッドロジン等が挙げられる。
【0043】
本発明におけるロジンは、トナーの生産性を向上させる観点から、天然ロジンが好ましい。天然ロジンは、精製ロジン、未精製ロジンいずれであっても、又、その混合物であってもよい。
【0044】
本発明において、ロジンは、精製工程により不純物が低減されたロジンであってもよい。ロジンを精製することにより、ロジンに含まれる不純物が除去される。主な不純物としては、2-メチルプロパン、アセトアルデヒド、3-メチル-2-ブタノン、2-メチルプロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、n-ヘキサナール、オクタン、ヘキサン酸、ベンズアルデヒド、2-ペンチルフラン、2,6-ジメチルシクロヘキサノン、1-メチル-2-(1-メチルエチル)ベンゼン、3,5-ジメチル2-シクロヘキセン、4-(1-メチルエチル)ベンズアルデヒド等が挙げられる。
【0045】
ロジンの軟化点は、製造容易性の観点から、50〜100℃が好ましく、60〜90℃がより好ましく、65〜85℃がさらに好ましい。本発明におけるロジンの軟化点とは、後述記載の方法により、ロジンを一度溶融させ、温度25℃、相対湿度50%の環境下で1時間自然冷却させた後に測定される軟化点を意味する。
【0046】
ロジンの酸価は、ポリエステル樹脂Bの生産性を向上させる観点から、100〜200mgKOH/gが好ましく、130〜180mgKOH/gがより好ましく、150〜175mgKOH/gがさらに好ましい。
【0047】
ロジンの含有量は、トナーの生産性を向上させる観点から、カルボン酸成分中、40〜80モル%が好ましく、50〜75モル%がより好ましく、60〜70モル%がさらに好ましい。
【0048】
芳香族ジカルボン酸化合物としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が好ましく、テレフタル酸及びイソフタル酸がより好ましい。これらは併用されていてもよい。
【0049】
芳香族ジカルボン酸化合物の含有量は、トナーの生産性を向上させる観点から、カルボン酸成分中、10〜60モル%が好ましく、20〜50モル%がより好ましく、25〜40モル%がさらに好ましい。
【0050】
ロジン及び芳香族ジカルボン酸化合物以外のカルボン酸化合物としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸化合物、好ましくは炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸化合物、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸が挙げられる。
【0051】
ポリエステル樹脂A及びポリエステル樹脂Bのいずれにおいても、アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が、樹脂の分子量調整やトナーの耐オフセット性向上の観点から、適宜含有されていてもよい。
【0052】
ポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂Bのいずれにおいても、カルボン酸成分とアルコール成分との縮重合反応は、例えば、錫化合物、チタン化合物等のエステル化触媒、重合禁止剤等の存在下、不活性ガス雰囲気中で行うことができ、温度条件は、好ましくは120〜250℃、より好ましくは140〜230℃が、それぞれ好ましい。
【0053】
ポリエステル樹脂A及びBの製造に用いられるエステル化触媒として用いられる錫化合物としては、例えば、酸化ジブチル錫が知られているが、本発明では、ポリエステル樹脂中での分散性を良好にする観点から、Sn-C結合を有していない錫(II)化合物が好ましく、Sn-C結合を有しておらず、Sn-O結合を有する錫(II)化合物がより好ましく、2-エチルヘキサン酸錫(II)がさらに好ましい。
【0054】
エステル化触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分との総使用量100重量部に対して、0.01〜2.0重量部が好ましく、0.1〜1.5重量部がより好ましく、0.2〜1.0重量部がさらに好ましい。
【0055】
本発明において、互いに隣接する3個の炭素原子に結合した水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有するピロガロール化合物をエステル化触媒とともに助触媒として用いることが、ポリエステル樹脂の生産性を向上させる観点、及び、トナーの耐久性を向上させる観点から好ましい。
【0056】
ピロガロール化合物としては、ピロガロール、没食子酸、没食子酸エステル、2,3,4-トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,3,4-テトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート等のカテキン誘導体等が挙げられ、ポリエステル樹脂の生産性を向上させる観点からは、没食子酸及び没食子酸エステルが好ましい。
【0057】
ピロガロール化合物の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分との総使用量100重量部に対して、ポリエステル樹脂の生産性を向上させる観点、及び、トナーの保管性の観点から、0.001〜1.0重量部が好ましく、0.005〜0.4重量部がより好ましく、0.01〜0.2重量部がさらに好ましい。ここで、ピロガロール化合物の使用量とは、縮重合反応に供したピロガロール化合物の全配合量を意味する。
【0058】
ピロガロール化合物とエステル化触媒の重量比(ピロガロール化合物/エステル化触媒)は、ポリエステル樹脂の生産性を向上させる観点から、0.01〜0.5が好ましく、0.03〜0.3がより好ましく、0.05〜0.2がさらに好ましい。
【0059】
なお、ポリエステル樹脂は、実質的にその特性を損なわない程度に変性されたポリエステルであってもよい。変性されたポリエステルとしては、ポリエステル・ポリアミドや、特開平11−133668号公報、特開平10−239903号公報、特開平8−20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステルをいう。
【0060】
ポリエステル樹脂Aの軟化点は、トナーの生産性を向上させる観点から、100〜160℃が好ましく、110〜155℃がより好ましく、130〜155℃がさらに好ましく140〜150℃がよりさらに好ましい。
【0061】
ポリエステル樹脂Bの軟化点は、トナーの生産性を向上させる観点から、80〜140℃が好ましく、90〜130℃がより好ましく、100〜120℃がさらに好ましく、110〜120℃がよりさらに好ましい。ポリエステル樹脂A及び/又はポリエステル樹脂Bが2種以上の樹脂からなる場合は、軟化点の加重平均値が上記範囲内であることが好ましく、それぞれの樹脂の軟化点が上記範囲内であることがより好ましい。
【0062】
ポリエステル樹脂Aは、軟化点が好ましくは10℃以上、より好ましくは20〜60℃互いに異なる高軟化点樹脂と低軟化点樹脂とを含むことがトナーの生産性を向上させる観点、トナーの低温定着性、耐ホットオフセット性及び耐久性の観点から、好ましい。高軟化点樹脂の軟化点は、トナーの低温定着性、耐ホットオフセット性及び耐久性の観点から、好ましくは120℃を超えて160℃以下、より好ましくは130〜155℃であり、さらに好ましくは140〜150℃であり、低軟化点樹脂の軟化点は、トナーの低温定着性、耐ホットオフセット性及び耐久性の観点から、好ましくは90〜120℃、より好ましくは90〜110℃、さらに好ましくは100〜110℃である。高軟化点樹脂の低軟化点樹脂に対する重量比(高軟化点樹脂/低軟化点樹脂)は、トナーの低温定着性、耐ホットオフセット性及び耐久性の観点から、20/80〜80/20が好ましく、50/50〜70/30がより好ましい。なお、ポリエステル樹脂Aとして軟化点の異なる3種類以上用いる場合は、3種類から選ばれるいずれか軟化点の異なる2種類の樹脂が上記の高軟化点樹脂と低軟化点樹脂とを満足することが好ましい。
【0063】
高軟化点のポリエステル樹脂Aは、トナーの生産性を向上させる観点から、結着樹脂中30〜80重量%含有されることが好ましく、40〜70重量%含有されることがより好ましく、50〜60重量%含有されることがさらに好ましい。
【0064】
ポリエステル樹脂Aが2種以上の樹脂からなる場合は、ポリエステル樹脂Aの少なくとも40重量%が軟化点140℃以上の樹脂であることが好ましく、140〜160℃の樹脂であることがより好ましい。
【0065】
ポリエステル樹脂A及びポリエステル樹脂Bのガラス転移温度は、トナーの定着性、保存安定性及び帯電量の環境安定性の観点から、35〜80℃が好ましく、50〜70℃がより好ましい。ポリエステル樹脂A及び/又はポリエステル樹脂Bが2種以上の樹脂からなる場合は、ガラス転移温度の加重平均値が上記範囲内であることが好ましく、それぞれの樹脂のガラス転移温度が上記範囲内であることがより好ましい。
【0066】
ポリエステル樹脂Aの酸価は、トナーの生産性を向上させる観点から、3〜50mgKOH/gが好ましく、10〜40mgKOH/gがより好ましく、20〜30mgKOH/gがさらに好ましい。ポリエステル樹脂Aが2種以上の樹脂からなる場合は、酸価の加重平均値が上記範囲内であることが好ましく、それぞれの樹脂の酸価が上記範囲内であることがより好ましい。
【0067】
ポリエステル樹脂Bの酸価は、ポリエステル樹脂Aとの分散性の観点から、5〜70mgKOH/gが好ましく、10〜50mgKOH/gがより好ましく、10〜25mgKOH/gがさらに好ましい。ポリエステル樹脂Bが2種以上の樹脂からなる場合は、酸価の加重平均値が上記範囲内であることが好ましく、それぞれの樹脂の酸価が上記範囲内であることがより好ましい。
【0068】
トナーの生産性を向上させる観点から、ポリエステル樹脂Aの数平均分子量は、1500〜4500が好ましく、2800〜4000がより好ましく、3000〜4000がさらに好ましく、重量平均分子量は、1万〜400万が好ましく、1万〜150万がより好ましく、10万〜150万がさらに好ましく、50万〜100万がよりさらに好ましく、65万〜80万がよりさらに好ましい。
【0069】
トナーの生産性を向上させる観点から、ポリエステル樹脂Bの数平均分子量は、400〜2500が好ましく、500〜2000がより好ましく、700〜1500がさらに好ましく、重量平均分子量は、2500〜40000が好ましく、3000〜30000がより好ましく、4000〜10000がさらに好ましい。
【0070】
ポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂Bの重量比(樹脂A/樹脂B)は、トナーの生産性を向上させる観点から、95/5〜60/40が好ましく、90/10〜60/40がより好ましく、85/15〜65/35がさらに好ましく、85/15〜75/25がよりさらに好ましい。
【0071】
ポリエステル樹脂Aの含有量は、トナーの生産性を向上させる観点、結着樹脂中、60〜95重量%が好ましく、60〜90重量%がより好ましく、65〜85重量%がさらに好ましく、75〜85重量%がよりさらに好ましい。
【0072】
ポリエステル樹脂Bの含有量は、トナーの生産性を向上させる観点から、結着樹脂中、5〜40重量%が好ましく、10〜40重量%がより好ましく、15〜35重量%がさらに好ましく、15〜25重量%がよりさらに好ましい。
【0073】
トナーの結着樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエステル樹脂A及びポリエステル樹脂B以外の公知の結着樹脂、例えば、スチレン-アクリル樹脂等のビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の他の樹脂を併用してもよいが、ポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂Bの総含有量は、結着樹脂中、70重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましく、実質的に100重量%であることがさらに好ましい。
【0074】
トナーの原料として、さらに、着色剤、離型剤、荷電制御剤、荷電制御樹脂、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が適宜用いてもよい。
【0075】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のすべてを使用することができ、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、ジスアゾエロー等が用いることができ、本発明のトナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。着色剤の配合量は、結着樹脂100重量部に対して、1〜40重量部が好ましく、2〜10重量部がより好ましい。
【0076】
離型剤としては、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス等の炭化水素系ワックス;シリコーン類;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類;カルナバロウワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ホホバ油等の植物系ワックス;ミツロウ等の動物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の鉱物・石油系ワックス等のワックスが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0077】
離型剤の融点は、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点から、60〜160℃が好ましく、60〜150℃がより好ましい。
【0078】
離型剤の配合量は、結着樹脂100重量部に対して、結着樹脂中への分散性の観点から、0.5〜10重量部が好ましく、1〜8重量部がより好ましく、1.5〜7重量部がさらに好ましい。
【0079】
荷電制御剤は、特に限定されず、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよい。
【0080】
正帯電性荷電制御剤としては、ニグロシン染料、例えば「ニグロシンベースEX」、「オイルブラックBS」、「オイルブラックSO」、「ボントロンN-01」、「ボントロンN-07」、「ボントロンN-09」、「ボントロンN-11」(以上、オリエント化学工業社製)等;3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料;4級アンモニウム塩化合物、例えば「ボントロンP-51」(オリエント化学工業社製)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、「COPY CHARGE PX VP435」(ヘキスト社製)等;ポリアミン樹脂、例えば「AFP-B」(オリエント化学工業社製)等;イミダゾール誘導体、例えば「PLZ-2001」、「PLZ-8001」(以上、四国化成社製)等が挙げられる。
【0081】
また、負帯電性の荷電制御剤としては、含金属アゾ染料、例えば「バリファーストブラック3804」、「ボントロンS-31」(以上、オリエント化学工業社製)、「T-77」(保土谷化学工業社製)、「ボントロンS-32」、「ボントロンS-34」、「ボントロンS-36」(以上、オリエント化学工業社製)、「アイゼンスピロンブラックTRH」(保土谷化学工業社製)等;ベンジル酸化合物の金属化合物、例えば、「LR-147」、「LR-297」(以上、日本カーリット社製);サリチル酸化合物の金属化合物、例えば、「ボントロンE-81」、「ボントロンE-84」、「ボントロンE-88」、「E-304」(以上、オリエント化学工業社製)、「TN-105」(保土谷化学工業社製);銅フタロシアニン染料;4級アンモニウム塩、例えば「COPY CHARGE NX VP434」(ヘキスト社製)、ニトロイミダゾール誘導体;有機金属化合物、例えば「TN105」(保土谷化学工業社製)等が挙げられる。
【0082】
荷電制御剤の配合量は、トナーの帯電立ち上がり性の観点から、結着樹脂100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましく、0.01〜5重量部がより好ましく、0.3〜3重量部がさらに好ましく、0.5〜3重量部がよりさらに好ましく、1〜2重量部がよりさらに好ましい。
【0083】
本発明は、溶融混練・粉砕法によりトナーを製造する方法であり、即ち、ポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂Bとを含む原料を溶融混練する工程及び得られた溶融混練物を粉砕する工程を含む方法である。
【0084】
本発明において、原料の溶融混練工程には、少なくとも、個々に温度設定が可能な、連結された複数のバレルと、該連結された複数のバレル内に挿通された、1以上の混練部と2以上の搬送部を有するスクリューを構成部材とし、連結されたバレルの一方の端部に原料供給口を、もう一方の端部に混練物排出口を有する押出混練機を用いることが好ましい。
【0085】
本発明においては、押出混練機として、例えば、1本のスクリューが挿通された一軸押出機や2本のスクリューが挿通された二軸押出機を使用することができるが、吐出が安定していること、滞留が少なく短時間での溶融混練が可能であること、樹脂温度の正確な制御が可能であること等の観点から、二軸押出機が好ましい。
【0086】
スクリューは、1本のシャフトに対し、目的に応じて形状の異なる複数のパーツが装備されたものであってもよく、複数のパーツが連結し、1本のスクリューとしての形を成しているものであってもよい。
【0087】
スクリューは回転自在であり、その回転数も適宜調整することができるが、60〜300r/minが好ましく、70〜280r/minがより好ましい。
【0088】
本発明において用いられる押出混練機の市販品としては、KTK型2軸押出機(神戸製鋼所製)や、TEM型2軸押出機(東芝機械社製)やPCM2軸押出機(池貝鉄工社製)等が挙げられるが、これらの中では、PCM2軸押出機(池貝鉄工社製)が好ましい。
【0089】
溶融混練の際の温度は、各原料が十分に混ざり合える程度の温度であれば特に限定されないが、溶融混練物の温度は120〜190℃が好ましく、150〜170℃がより好ましい。
【0090】
次いで、得られた溶融混練物を粉砕可能な硬度に達するまで冷却する冷却工程に供する。冷却手段としては、空冷方式、水冷方式、スチール製の冷却ベルト方式等が挙げられるが、これらの中でも冷却効率の観点から、水冷方式が好ましい。なお、冷却効率を高めるために、溶融混練物を圧延ロールや圧延ドラム等で圧延した後に冷却することが好ましい

【0091】
続く粉砕工程では、溶融混練物を所望のトナー粒径程度に達するまで粉砕する。かかる粉砕は一度に行ってもよいが、粉砕効率等の観点から、予め粗粉砕した後に、さらに所望のトナー粒径程度まで微粉砕することが好ましい。
【0092】
本発明で用いられる粉砕機は特に限定されないが、粗粉砕に好適な粉砕機としては、カッターミル、ロートプレックス、アトマイザー等が、微粉砕に好適な粉砕機としては、ジェットミル、衝突板式ミル、回転型機械ミル等が、それぞれ挙げられる。
【0093】
粉砕物を分級する分級工程に用いられる分級機としては、風力分級機、慣性式分級機、篩式分級機等が挙げられる。分級工程の際、粉砕が不十分で除去された粉砕物は再度粉砕工程に供してもよい。
【0094】
分級工程により得られるトナーの体積中位粒径(D50)は、4〜10μmが好ましく、5〜8μmがさらに好ましい。
【0095】
さらに、トナー表面に外添剤を添加する表面処理工程を行ってもよい。外添剤としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛等の無機微粒子等が挙げられるが、これらの中では、流動性及び耐久性の観点からシリカであることが好ましい。
【0096】
処理対象となるトナーと外添剤との混合は、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の各種混合機を用いて行うことができる。なお、混合後、異物除去のためにジャイロシフター、超音波篩等を用いた篩工程を行うことが好ましい。
【0097】
外添剤の配合量は、外添剤で処理する前のトナー粒子100重量部に対して、好ましくは0.05〜5重量部であり、より好ましくは0.1〜3重量部であり、さらに好ましくは0.3〜3重量部である。
【0098】
本発明のトナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【実施例】
【0099】
〔アルキレン化合物のガスクロマトグラフィー質量分析による分析〕
ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)にCIイオンソースと下記分析カラムを取り付け、立上げを行う。なお、CI反応ガス(メタン)を流し、MS部の真空排気作業から24時間経過後にチューニングを行う。
【0100】
(1) GC
ガスクロマトグラフ : Agilent社 HP6890N
分析カラム : HP社製 Ultra1(カラム長50m、内径0.2mm、膜厚0.33μm)
GCオーブン昇温条件: 初期温度 100℃(0min)
第1段階昇温速度 1℃/min(150℃まで)
第2段階昇温速度 10℃/min(300℃まで)
最終温度 300℃(10min)
サンプル注入量 : 1μL
注入口条件 : 注入モード スプリット法
スプリット比 50:1
注入口温度 300℃
キャリアガス : ガス ヘリウム
流量 1ml/min(定流量モード)
【0101】
(2) 検出器
質量分析器 : Agilent社製 5973N MSD
イオン化法 : 化学イオン化法
反応ガス : イソブタン
温度設定 : 四重極 150℃
イオン源 250℃
検出条件 : スキャン
スキャン範囲 : m/z 75〜300
検出器ON時間 : 5min
キャリブレーション(質量校正及び感度調整)
: 反応ガス メタン
キャリブラント PFDTD(ペルフルオロ−5,8-ジメチル
-3,6,9-トリオキシドデカン)
チューニング法 オートチューニング
【0102】
(3) 試料調製
プロピレンテトラマーを、5重量%の濃度でイソプロピルアルコールに溶解させる。
【0103】
(データ処理法)
炭素数が9〜14の範囲にある各炭素数のアルケン成分について、それぞれ分子イオンに該当する質量数によるマスクロマトグラムを抽出し、S/N(シグナル/ノイズ比)>3の条件下で、成分毎の積分条件に従い積分を実行する。表1〜5の各々に示す検出結果から、特定アルキル鎖長成分の割合を以下の式により計算する。
【0104】
【数1】

【0105】
【表1】

【0106】
(4)積分条件
918
【0107】
【表2】

【0108】
1020
【0109】
【表3】

【0110】
1122、C1224及びC1326
【0111】
【表4】

【0112】
1428
【0113】
【表5】

【0114】
本発明において、炭素数9〜14に相当するアルキレン化合物とは、ガスクロマトグラフィー質量分析において、分子イオンに対応するピークのことをいう。
【0115】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出する。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0116】
〔樹脂のガラス転移温度〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて、試料を0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度とする。
【0117】
〔樹脂及びロジンの酸価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。但し、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更した。
【0118】
〔樹脂の数平均分子量及び重量平均分子量〕
以下の方法により、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により分子量分布を測定し、数平均分子量及び重量平均分子量を求める。
(1) 試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mlになるように、試料をテトラヒドロフランに、25℃で溶解させる。次いで、この溶液をポアサイズ0.2μmのフッ素樹脂フィルター(ADVANTEC社製、DISMIC-25JP)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とする。
(2) 分子量測定
下記の測定装置と分析カラムを用い、溶離液としてテトラヒドロフランを、毎分1mlの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させる。そこに試料溶液100μlを注入して測定を行う。試料の分子量は、あらかじめ作成した検量線に基づき算出する。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー社製のA-500(5.0×102)、A-1000(1.01×103)、A-2500(2.63×103)、A-5000(5.97×103)、F-1(1.02×104)、F-2(1.81×104)、F-4(3.97×104)、F-10(9.64×104)、F-20(1.90×105)、F-40(4.27×105)、F-80(7.06×105)、F-128(1.09×106))を標準試料として作成したものを用いる。
測定装置:HLC-8220GPC(東ソー社製)
分析カラム:GMHXL+G3000HXL(東ソー社製)
【0119】
〔ロジンの軟化点〕
(1) 試料の調製
ロジン10gを、170℃で2時間ホットプレートで溶融する。その後、開封状態で温度25℃、相対湿度50%の環境下で1時間自然冷却させ、コーヒーミル(National MK-61M)で10秒間粉砕する。
(2) 測定
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出する。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0120】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、融解熱の最大ピーク温度を融点とする。
【0121】
〔トナーの体積中位粒径(D50)〕
(1) 分散液の調製:分散液[「エマルゲン 109P」(花王株式会社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:13.6)5重量%水溶液]5mlに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解質[「アイソトンII」(ベックマンコールター社製)]25mlを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させ分散液を得る。
(2) 測定装置:「コールターマルチサイザーII」(ベックマンコールター社製)
(3) アパチャー径:50μm
(4) 解析ソフト:「コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19」(ベックマンコールター社製)
(5) 測定条件:ビーカーに電解液100mlと分散液を加え、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度で、3万個の粒子について、体積中位粒径(D50)を求める。
【0122】
アルキレン化合物Aの製造例
新日本石油株式会社製のプロピレンテトラマー(商品名:ライトテトラマー)を用いて、183〜208℃の加熱条件で分留してアルキレン化合物Aを得た。得られたアルキレン化合物Aは,ガスクロマトグラフィー質量分析において、40個のピークを有していた。アルキレン化合物の分布は、C9:0.5重量%、C10:4重量%、C11:20重量%、C12:66重量%、C13:9重量%、C14:0.5重量%であった。
【0123】
アルケニル無水コハク酸Aの製造例
1Lの日東高圧製オートクレーブにアルキレン化合物A 542.4g、無水マレイン酸157.2g、チェレックス-O 0.4g(堺化学工業(株)社製)、ブチルハイドロキノン0.1gを仕込み、加圧窒素置換(0.2MPaG)を3回繰り返した。60℃で撹拌開始後、230℃まで1時間かけて昇温して6時間反応を行った。反応温度到達時の圧力は、0.3MPaGであった。反応終了後、80℃まで冷却し、常圧(101.3kPa)に戻して1Lの4つ口フラスコに移しかえた。180℃まで撹拌しながら昇温し、1.3kPaにて残存アルキレン化合物を1時間で留去した。ひきつづき、室温(25℃)まで冷却後、常圧(101.3kPa)に戻して目的物のアルケニル無水コハク酸A 406.1gを得た。酸価より求めたアルケニル無水コハク酸Aの平均分子量は268であった。
【0124】
樹脂製造例1〔樹脂A1〜樹脂A8〕
表6に示すアルコール成分、無水トリメリット酸以外のカルボン酸成分及び2-エチルヘキサン酸錫(II)50g、没食子酸3gを、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、230℃で15時間縮重合反応させた後、230℃、8kPaにて1時間反応を行った。220℃まで冷却した後、表6に示す無水トリメリット酸を投入し、1時間常圧(101.3kPa)で反応させた後に、220℃、20kPaにて所望の軟化点に達するまで反応を行ってポリエステル樹脂を得た。
【0125】
樹脂製造例2〔樹脂B1〜樹脂B4、樹脂B6〕
表7に示すロジンを予め100℃の恒温槽で溶解した後、表7に示すアルコール成分、カルボン酸成分及び2-エチルヘキサン酸錫(II)50g、没食子酸3gを、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、230℃で15時間縮重合反応させた後、230℃、8kPaにて所望の軟化点に達するまで反応を行ってポリエステル樹脂を得た。
【0126】
樹脂製造例3〔樹脂B5〕
表7に示すアルコール成分、カルボン酸成分及び2-エチルヘキサン酸錫(II)50g、没食子酸3gを、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、230℃で15時間縮重合反応させた後、230℃、8kPaにて軟化点が101℃に達するまで反応を行ってポリエステル樹脂を得た。
【0127】
【表6】

【0128】
【表7】

【0129】
実施例1〜12及び比較例1〜6
表8に示す結着樹脂100重量部、着色剤「ECB-301」(大日精化社製)5重量部、荷電制御剤「LR-147」(日本カーリット社製)1重量部、離型剤「カルナウバワックス C1」(加藤洋行社製、融点:80℃)2重量部及び離型剤「パラフリントH105」(サゾールワックス社製、融点110℃)2重量部を、ヘンシェルミキサーでよく攪拌した後、混練部分の全長1560mm、スクリュー径42mm、バレル内径43mmの同方向回転二軸押出機を用いて溶融混練した。スクリューの回転速度は200r/min、ロール内の加熱設定温度は100℃であり、混練物の温度は160℃、混練物の供給速度は10kg/時、平均滞留時間は約18秒であった。
【0130】
得られた溶融混練物を冷却し、粉砕機「ロートプレックス」(ホソカワミクロン社製)により目開き2mmのふるいを用いて2mm以下に粗粉砕した。
得られた粗粉砕物を、日本ニューマチック社製のIDS2型粉砕機を用いて微粉砕を行った。粉砕機の条件としては、衝突部材を半径10mmの真円を底面とする円柱を底面に対して垂直に切断することにより二等分して得られた半円柱型衝突部材に取り替えて用い、粉砕エア圧を0.5MPa、衝突板とノズルの距離を20mmに調整して、体積平均粒径6.0μm、CV値22になるように、原料フィード量を調整して粉砕した。
【0131】
粉砕圧力、装置の条件を固定しているため、トナー平均粒径は、原料フィード量(kg/hr)によって決まる。原料フィード量が多いほど、1時間当たりに砕けるトナー量が多いことを示し、生産性が高いことを示すが、過粉砕が起こると収率が下がるため、実際の生産高は減少する。即ち、原料フィード量と収率の積(原料フィード量×収率)がとれ高となる。収率に関しては、コストに跳ね返ってくるため、生産高とは別に重要な要素となる。各実施例及び比較例での、粉砕量(原料フィード量)、収率及びとれ高を表8に示す。
【0132】
【表8】

【0133】
得られたトナー母粒子100重量部に対し、外添剤として疎水性シリカ「アエロジル R-972」(日本アエロジル社製)1.5重量部及び疎水性シリカ「SI-Y」(日本アエロジル社製)1.5重量部を添加し、ヘンシェルミキサーで3600r/min、5分間混合することにより、外添処理を行い、体積中位粒径(D50) 6.0μmのトナー粒子を得た。
【0134】
実施例1〜12及び比較例1〜6で得られたトナーは、いずれもトナーとして使用することが可能であった。
【0135】
以上の結果より、比較例1〜6と対比して、実施例1〜12では、粉砕時の原料フィード量を上げても、収率を損なうことなく、溶融混練物を効率よく粉砕することができ、生産性よくトナーを製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の方法により得られるトナーは、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3価以上の脂肪族アルコールの含有量が40モル%以下であるアルコール成分とアルキル(炭素数9〜18)コハク酸及びアルケニル(炭素数9〜18)コハク酸から選ばれる少なくとも1種のコハク酸誘導体を10〜50モル%含有したカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル樹脂Aと、3価以上の脂肪族アルコールを70モル%以上含有したアルコール成分とロジン及び芳香族ジカルボン酸化合物を含有したカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル樹脂Bとを含み、該ポリエステル樹脂Bの含有量が5〜40重量%である結着樹脂を含む原料を溶融混練する工程、及び得られた溶融混練物を粉砕する工程を含む、トナーの製造方法。
【請求項2】
ポリエステル樹脂Bの芳香族ジカルボン酸化合物がテレフタル酸及び/又はイソフタル酸であり、3価以上の脂肪族アルコールがグリセリンである、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
ポリエステル樹脂Bのロジンが天然ロジンである、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
ポリエステル樹脂Aのアルコール成分が、式(I):
【化1】

(式中、R1O及びOR1はオキシアルキレン基であり、R1はエチレン及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の平均値は1〜16である)
で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を70モル%以上含有してなる、請求項1〜3いずれか記載の製造方法。
【請求項5】
ポリエステル樹脂Aの軟化点が100〜160℃である請求項1〜4いずれか記載の製造方法。
【請求項6】
ポリエステル樹脂Bの軟化点が80〜140℃である請求項1〜5いずれか記載の製造方法。
【請求項7】
ポリエステル樹脂Bの数平均分子量が400〜2500であり、重量平均分子量が2000〜40000である、請求項1〜6いずれか記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか記載の製造方法により得られるトナー。

【公開番号】特開2013−45011(P2013−45011A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183786(P2011−183786)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】