説明

トナー定着部材及びその製造方法

【課題】 トナー離型製を損なうことなく、長期稼動中において相関剥離等の問題が生じない耐久性の高い定着ベルト、定着ローラ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 定着ベルト10は、基層11の上部に、相溶層12と弾性層13とが順次積層される形で形成される。基層11はポリイミドにより構成され、弾性層13はシリコーンゴムにより構成される。相溶層12は、基層11を形成するポリイミドと弾性層13を形成するシリコーンゴムとが溶解し、互いの分子が絡み合った組成物により構成される。基層11及び弾性層13と接合する相溶層12により、基層11と弾性層13とは間接的に接合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー定着部材及びその製造方法に関し、特に、定着ベルト、定着ローラ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像形成装置においては、静電複写プロセスを用いて読み取られた画像の出力処理がなされている。
【0003】
図6は、画像形成装置の構成を示す。画像形成装置100は、原稿台101と、原稿読み取り部102と、原稿書き込み部103と、現像装置104と、感光体105と、定着部106と、排紙ローラ107と、排紙トレイ108と、給紙トレイ109と、給紙ローラ110と、を備える。
【0004】
なお、定着部106とは、定着ベルトまたは定着ローラのことである。
【0005】
原稿読み取り部102は、原稿台101に置かれた原稿の画像データを読み取り、読み取った画像データを、画像書き込み部103に伝達する。画像書き込み部103は、書き込みレーザを照射し、感光体105上に静電潜像を形成する。現像装置104は、感光体105上の静電潜像を現像し、トナー像を形成する。このトナー像は、給紙トレイ109から給紙ローラ110により搬送されてきた用紙上に転写される。用紙上に転写されたトナー像は、定着部106は、用紙上に転写されたトナー像を熱定着する。このトナー像が熱定着された用紙は、排紙ローラ107を介して排紙トレイ108上に排紙される。
【0006】
このような画像形成装置100において、定着部106は、トナー像を用紙上に熱定着させるため、高温下でトナーに圧力を加える。そのため、定着部106である定着ベルトまたは定着ローラは、このような過酷な条件下でも正常に作用し、また、高い耐久性を備える必要がある。
【0007】
従来、定着ベルト、定着ローラには、ポリイミド等の基材に複数の樹脂またはゴム層を積層させたものが使用されていた。
【0008】
しかし、この構成では、異種材料接着により積層しているため、使用状況によっては層間の接着剥れ等の問題が発生してしまう場合があった。なお、接着剥れの原因としては、温度、圧力、シリコーンオイルの影響など様々である。また、対策として、基材表面にプライマーを塗布した後にシリコーン層を形成することで、接着耐久性を保持しようとすることも試みられたが、基材およびシリコーンゴムとの材質が異なるため、初期の段階に剥離してしまい、効果的に耐久性の向上を図ることは出来なかった。
【0009】
上記の定着部の耐久性の問題に対して、本願より先に提案されている技術としては、次のものが挙げられる。
【0010】
特許文献1では、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、一分子中に珪素原子に結合した水素原子を2個以上持つオルガノハイドロジェンポリシロキサン、白金系触媒、無機充填材及び接着性付与成分を加えたシリコーンゴム組成物を用いた定着ベルトが提案されている。
【特許文献1】特開2003−330296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1記載の技術では、シリコーンゴムに様々な材料を加えているので、定着ベルトの重要な特性であるトナー離型性を損なうという問題点がある。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みて提案されたものであり、トナー離型製を損なうことなく、長期稼動中において相関剥離等の問題が生じない耐久性の高い定着ベルト、定着ローラ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載の発明は、基層上に弾性層が積層された定着部材であって、前記基層と前記弾性層の界面に相溶層を有し、前記相溶層は、前記基層を構成する組成物、及び、前記弾性層を構成する組成物とが相溶した相であることを特徴とする定着部材である。
【0014】
請求項2記載の発明は、前記基層は、ポリイミドからなることを特徴とする。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記弾性層は、シリコーンゴムからなることを特徴とする。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項記載の発明において、前記相溶層は、2μm以上の厚みを有することを特徴とする。
【0017】
請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項記載の発明において、前記定着部材のエッジ部における前記相溶層は、前記定着部材の他の部分における前記相溶層よりも厚いことを特徴とする。
【0018】
請求項6記載の発明は、請求項1から5のいずれか1項記載の発明において、前記定着部材は、ベルト状であることを特徴とする。
【0019】
請求項7記載の発明は、請求項1から5のいずれか1項記載の発明において、前記定着部材は、ローラ状であることを特徴とする。
【0020】
請求項8記載の発明は、請求項1から7のいずれか1項記載の発明において、前記定着部材は、ユニット化されていることを特徴とする。
【0021】
請求項9記載の発明は、請求項1から8のいずれか1項記載の定着部材を備えることを特徴とする画像形成装置である。
【0022】
請求項10記載の発明は、基層部材を加熱手段の近傍を通過させ、前記基層部材の外周面を溶融させる第1の工程と、前記外周面の溶融された前記基層部材を、弾性部材で満たされた弾性部材槽に浸す第2工程と、前記基層部材に前記弾性部材を付着させる第3の工程と、前記弾性部材の付着した前記基層部材を焼成する第4の工程と、前記弾性部材を加硫反応させる第5の工程と、を有する定着部材の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、トナー離型製を損なうことなく、長期稼動中において相関剥離等の問題が生じない耐久性の高い定着ベルト、定着ローラを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施形態に係る定着ベルトについて、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る定着ベルトの断面構成を示し、図2は、図1の一部を拡大したものを示す。
【0025】
定着ベルト10は、基層11の上部に、相溶層12と弾性層13とが順次積層される形で形成される。基層11は、ポリイミドにより構成される。弾性層13は、シリコーンゴムにより構成される。相溶層12は、基層11を形成するポリイミドと弾性層13を形成するシリコーンゴムとが溶解し、互いの分子が絡み合った組成物により構成される。
【0026】
基層11と溶解層12は、両層ともポリイミドという同材質の素材から構成される。そのため、基層11と相溶層12とは接合している。また、弾性層13と相溶層12は、両層ともシリコーンゴム同材質の素材から構成される。そのため、弾性層13と相溶層12とは接合している。それゆえ、基層11と弾性層13とは間接的に接合される。
【0027】
上記のように、本実施形態の定着ベルトは、基層を構成するポリイミドと弾性層を構成するシリコーンゴムとが相溶し接合している。そのため、定着ベルトの重要な特性であるトナー離型性を損なわずに、界面剥離の生じにくい定着ベルトを実現することができる。
【0028】
なお、本実施形態の定着ベルト10は、相溶層12の厚さによって接合強度が変化する。以下に、定着ベルト強制剥離実験の結果を示す。
【0029】
【表1】

【0030】
なお、上記の表において、「界面剥離」は、基層11と相溶層12との界面、あるいは弾性層13と基層12との界面において剥離してしまった結果を表す。「凝集破壊」は、各層の界面ではなく、各層内部において決裂してしまった結果を表す。「一部界面剥離」は、界面剥離と各層内部での決裂が同時に発生した結果を表す。界面剥離した定着ベルトの接合強度は低く、凝集破壊した定着ベルトの接合強度は高いといえる。
【0031】
上記の定着ベルト強制剥離実験の結果により、相溶層12の厚さが薄いと接合強度が低くなり、厚いと接合強度が高くなることがわかる。また。実験結果から相溶層12の厚みが2μm以上ならば、接合強度が高いといえる。よって、定着ベルト10の相溶層12の厚みは、2μm以上であることが好ましい。
【0032】
また、定着ベルトにおいては、定着ベルトの端部に応力が集中する。そのため、実機使用中の定着ベルトの表層剥離は、応力の集中する定着ベルト端部が起点となり、定着ベルト端部から中央部に向かって剥離が進行することが多い。
【0033】
そこで、図3のように、定着ベルト端部の相溶層12の厚みを端部以外の相溶層12よりも厚くすることで、応力の集中する定着ベルト端部の接合強度を上げる方法が考えられる。
【0034】
本実施形態の定着ベルト(相溶層:2μm)を用いて、定着ベルト端部の相溶層12の厚みと耐久性の関係を調査した実験結果を以下に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
上記実験結果から、定着ベルト端部の相溶層12を厚くすることで耐久性が上昇し、長期使用しても剥離しにくい定着ベルトとなる。
【0037】
なお、相溶層12の厚みの差から、定着ベルト端部と端部以外の箇所で定着ベルト表面硬度の差が生じる場合がある。しかし、通常、定着ベルト端部は画像領域外となり定着作用に関わらないので、画像への影響は生じない。
【0038】
次に、本実施形態の定着ベルト10の製造方法を、図面を参照して説明する。
【0039】
まず、図4に示すように、遠心形成法を用いて成形されたポリイミドベルト21を加熱装置22の近傍を通過させ、ベルト外周面のみをおよそ350度で溶融させる。そして、溶融されたポリイミドベルト21を液状シリコーンゴム23の入ったディッピング槽24に浸す。このときに、ポリイミドベルト21外周面では、溶融したポリイミドと、液状シリコーンゴム23とが互いに相溶するが、液状シリコーンゴム23の温度が低いため、ポリイミドは相溶と同時に冷却され固化し、相溶層12が形成される。
【0040】
ポリイミドベルト21を所定の位置まで浸漬させた後で、図5に示すように、所望のシリコーンゴムの膜厚を形成するように速度制御しながらポリイミドベルト21を引き上げ、ポリイミドベルト21外周面にシリコーンゴム23を付着させる。
【0041】
次に、シリコーンゴム23で被覆されたポリイミドベルト21を160℃にて焼成し、シリコーンゴム23を加硫反応させる。以上の工程により、本実施形態の定着ベルトが製造される。
【0042】
上記の工法によれば、ポリイミドベルト21が加熱装置22の熱源を通過する際の温度、時間を制御することで、ポリイミドベルト21の溶融量を制御することができ、生成される定着ベルト10の相溶層12の厚みをコントロールすることが可能となる。
【0043】
なお、本実施形態においては、定着ベルトを一形態として説明したが、定着ベルトに限らず、定着ローラに対しても上記の技術は適用できる。
【0044】
第二の実施形態について図6を参照して説明する。図6は、画像形成装置の構成を示す。画像形成装置100は、原稿台101と、原稿読み取り部102と、原稿書き込み部103と、現像装置104と、感光体105と、定着ベルト(定着部)106と、排紙ローラ107と、排紙トレイ108と、給紙トレイ109と、給紙ローラ110と、を備える。
【0045】
原稿読み取り部102は、原稿台101に置かれた原稿の画像データを読み取り、読み取った画像データを、画像書き込み部103に伝達する。画像書き込み部103は、書き込みレーザを照射し、感光体105上に静電潜像を形成する。現像装置104は、感光体105上の静電潜像を現像し、トナー像を形成する。このトナー像は、給紙トレイ109から給紙ローラ110により搬送されてきた用紙上に転写される。用紙上に転写されたトナー像は、定着ベルト(定着部)106は、用紙上に転写されたトナー像を熱定着する。このトナー像が熱定着された用紙は、排紙ローラ107を介して排紙トレイ108上に排紙される。
【0046】
このような画像形成装置100において、定着ベルト106は、トナー像を用紙上に熱定着させるため、高温下でトナーに圧力を加える。そのため、定着ベルトには、このような過酷な条件下でも正常に作用し、また、高い耐久性を備える必要がある。
【0047】
本実施形態の画像形成装置100は、定着部106において、第一の実施形態で説明した定着ベルトを有している。よって、本実施形態により、定着部の耐久性の高い画像形成装置を実現することが可能となる。
【0048】
なお、本実施形態の定着部106はユニット化されていてもよい。ユニット化されることで、定着ベルトの交換時における交換作業性の向上等を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】定着ベルトを示す図である。
【図2】定着ベルトを示す図である。
【図3】定着ベルトの端部を示す図である。
【図4】定着ベルトの製造工程を示す図である。
【図5】定着ベルトの製造工程を示す図である。
【図6】画像形成装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
10 定着ベルト
11 基層
12 相溶層
13 弾性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基層上に弾性層が積層された定着部材であって、
前記基層と前記弾性層の界面に相溶層を有し、
前記相溶層は、前記基層を構成する組成物、及び、前記弾性層を構成する組成物とが相溶した相であることを特徴とする定着部材。
【請求項2】
前記基層は、ポリイミドからなることを特徴とする請求項1記載の定着部材。
【請求項3】
前記弾性層は、シリコーンゴムからなることを特徴とする請求項1または2記載の定着部材。
【請求項4】
前記相溶層は、2μm以上の厚みを有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の定着部材。
【請求項5】
前記定着部材のエッジ部における前記相溶層は、前記定着部材の他の部分における前記相溶層よりも厚いことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の定着部材。
【請求項6】
前記定着部材は、ベルト状であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の定着部材。
【請求項7】
前記定着部材は、ローラ状であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の定着部材。
【請求項8】
前記定着部材は、ユニット化されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の定着部材。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項記載の定着部材を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項10】
基層部材を加熱手段の近傍を通過させ、前記基層部材の外周面を溶融させる第1の工程と、
前記外周面の溶融された前記基層部材を、弾性部材で満たされた弾性部材槽に浸す第2工程と、
前記基層部材に前記弾性部材を付着させる第3の工程と、
前記弾性部材の付着した前記基層部材を焼成する第4の工程と、
前記弾性部材を加硫反応させる第5の工程と、を有する定着部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−162952(P2006−162952A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354083(P2004−354083)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】