説明

トナー用バインダー樹脂及びトナー

【課題】 低温定着性に優れるとともに、耐ブロッキング性や帯電性能に優れ、臭気の少ないトナー用樹脂及びトナーの提供。
【解決手段】 O−O結合を有するプレポリマーの存在下で、スチレン系単量体及び/又は(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合することによって得られるトナー用バインダー樹脂。プレポリマーが、ポリ過酸化物を重合開始剤とする重合で得られる、上述のトナー用バインダー樹脂。ポリ過酸化物の10時間半減期温度より10〜40℃高い温度で懸濁重合することにより得られる、上述のトナー用バインダー樹脂。上記のトナー用バインダー樹脂を含有するトナー。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において、静電荷像または磁気潜像の現像に用いられるトナー用樹脂及びトナーに関するものであり、さらに詳しくは、低温定着性に優れるとともに、耐ブロッキング性や帯電性能に優れ、臭気の少ないトナー用樹脂及びトナーに関するものである。
【0002】
【従来の技術】電子写真法、静電印刷法による代表的な画像形成工程は、光電導性絶縁層を一様に帯電させ、その絶縁層を露光させた後、露光された部分上の電荷を消散させることによって電気的な潜像を形成し、該潜像に電荷を持った微粉末のトナーを付着させることにより可視化させる現像工程、得られた可視像を転写紙等の転写材に転写させる転写工程、加熱あるいは加圧により永久定着させる定着工程からなる。
【0003】このような電子写真法あるいは静電印刷法に使用されるトナーとしては、上記各工程において様々な性能が要求される。例えば、コピー機及びプリンター内での保存中にトナーがブロッキングしない耐ブロッキング性が要求され、現像工程においては、電気的な潜像にトナーを付着させるために、トナーは温度、湿度等の周囲の環境に影響されることなくコピー機及びプリンターに適した帯電量を保持しなくてはならない。
【0004】また、熱ローラー定着方式による定着工程においては、熱ローラーに溶融トナーが付着しない非オフセット性や、トナーの紙への低温定着性が良好でなくてはならない。近年、コピー機及びプリンターの省エネルギー化、高速化が急速に進む中で、特にトナーの定着特性に対する要求は年々厳しくなってきている。
【0005】トナーの構成成分であるバインダー樹脂としては、従来からスチレン系単量体や(メタ)アクリル酸エステル系単量体を構成成分とする樹脂(スチレン−アクリル系樹脂)が多く使用されているが、これを改良して上述のトナー性能を向上させる検討が種々行われている。
【0006】例えば、特開平4−23816号公報や特開平5−19532号公報には、重合開始剤としてジチオカーバメート系化合物を使用し、スチレン−アクリル系樹脂をブロック共重合体とすることによって、低温定着性や耐ブロッキング性を改良することが提案されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかし、特開平4−23816号公報や特開平5−19532号公報に記載された樹脂は、製造に長時間を要する上に、残存モノマーによる臭気が強いという問題点を有していた。また、これをバインダー樹脂として使用したトナーは、負帯電性能が劣る傾向にあった。
【0008】本発明は、これら問題点を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、低温定着性に優れるとともに、耐ブロッキング性や帯電性能に優れ、臭気の少ないトナー用樹脂及びトナーを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】発明者らは鋭意検討した結果、特定のプレポリマーの存在下でトナー用バインダー樹脂を重合することによって、上記問題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】すなわち、本発明は、O−O結合を有するプレポリマーの存在下で、スチレン系単量体及び/又は(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合することによって得られるトナー用バインダー樹脂、及びこれを含有するトナーに関するものである。
【0011】
【発明の実施の形態】本発明で使用されるプレポリマーは、O−O結合を有するものであり、プレポリマーにO−O結合を導入することによって、本発明のトナー用バインダー樹脂をブロック共重合体とすることができる。特に、本発明のトナー用バインダー樹脂は、均質なブロック共重合体ではなく、ランダム共重合体とマルチブロックを有するブロック共重合体との混合体であると推測され、これにより優れた性能を発現すると考えられる。
【0012】このプレポリマーは、スチレン系単量体やアクリル酸エステル系単量体とともに、重合開始剤としてポリ過酸化物を使用することによって製造することができる。プレポリマー中のO−O結合は、例えば、O−O結合の分解に起因する発熱ピークをDSCで測定することによって、存在を確認することができる。
【0013】ポリ過酸化物としては、ポリフタロイルパーオキサイドポリセバコイルパーオキサイドポリアゼロイルパーオキサイド等を使用することができるが、安全性の点からポリアゼロイルパーオキサイドが好ましい。
【0014】プレポリマーの構成成分として使用されるスチレン系単量体としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デンシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−フェニルスチレン、3,4−ジシクロスチレン等を挙げることができる。これらは、適宜選択して使用することができるが、中でもスチレンが好ましい。
【0015】また、プレポリマーの構成成分として使用される(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等を挙げることができる。これらは、適宜選択して使用することができるが、中でもアクリル酸n−ブチルが好ましい。
【0016】さらに、必要に応じて、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジブチル等を使用することもできる。
【0017】本発明で使用されるプレポリマーは、構成成分としてのスチレン系単量体の含有量が95質量%以下であることが好ましい。これは、スチレン系単量体を95質量%以下とすることによって、得られるトナーの定着性と耐ブロッキング性とのバランスが良好となるとともに、バインダー樹脂の透明性が高くなり、カラートナー用途に特に好適に使用できる傾向にあるためである。より好ましくは、90質量%以下である。さらに好ましくは、85質量%以下である。
【0018】本発明で使用されるプレポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が55℃以上であることが好ましい。これは、ガラス転移温度を55℃以上とすることによって、得られるトナーの耐ブロッキング性が良好となる傾向にあるためである。より好ましくは、60℃以上である。また、プレポリマーのガラス転移温度を本発明のトナー用バインダー樹脂のガラス転移温度より高く設定するのが好ましい。これは、プレポリマーのガラス転移温度をより高くすることによって、プレポリマー製造時の発熱が抑えられ、重合温度を制御しやすくなる傾向にあるためである。
【0019】本発明で使用されるプレポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が80℃以下であることが好ましい。これは、ガラス転移温度を80℃以下とすることによって、得られるトナーの定着性と耐ブロッキング性とのバランスが良好となる傾向にあるためである。より好ましくは、70℃以下である。
【0020】本発明で使用されるプレポリマーの製造条件は特に限定されるものではないが、プレポリマーをポリ過酸化物の10時間半減期温度より10〜60℃高い温度で重合するのが好ましい。
【0021】これは、10時間半減期温度より10℃以上高い温度で重合することによって、重合時間を短縮できるとともに、プレポリマーの分子量が高くなりすぎないことによって、得られるトナーに優れた定着性を付与できる傾向にあるためである。より好ましくは、15℃以上高い温度である。
【0022】また、10時間半減期温度より60℃を超えない温度で重合することによって、プレポリマー中に充分な量のO−O結合を導入することができ、目的とするブロック共重合体を得ることができるとともに、樹脂中の残存モノマーを減少させることができる傾向にあるためである。より好ましくは、50℃を超えない温度である。さらに好ましくは、40℃を超えない温度である。
【0023】本発明のトナー用バインダー樹脂は、上記のプレポリマーの存在下で、スチレン系単量体及び/又は(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合することによって得ることができる。ここで使用するスチレン系単量体や(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、プレポリマーの製造時に使用できる上述の化合物を使用することができる。また、必要に応じて、スチレン系単量体や(メタ)アクリル酸エステル系単量体以外の重合性化合物を適宜選択して使用することもできる。
【0024】本発明のトナー用バインダー樹脂は、例えば、第1段目の重合でプレポリマーを得た後、さらに単量体を追加して第2段目の重合を行うことによって製造することができる。
【0025】本発明のトナー用バインダー樹脂は、ガラス転移温度が50〜75℃の範囲であることが好ましい。これは、トナー用バインダー樹脂のガラス転移温度を50℃以上とすることによって、得られるトナーに優れた耐ブロッキング性を付与することができる傾向にあるためである。より好ましくは、55℃以上である。また、ガラス転移温度を75℃以下とすることによって、得られるトナーに優れた定着性を付与することができる傾向にあるためである。より好ましくは、65℃以下である。
【0026】本発明のトナー用バインダー樹脂は、酸価が10mgKOH/g以下であることが好ましい。これは、酸価を10mgKOH/g以下とすることによって、得られるトナーの粉砕性が向上するとともに、帯電の湿度依存性を減少させることができる傾向にあるためである。より好ましくは、8mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは、5mgKOH/g以下である。
【0027】本発明のトナー用バインダー樹脂の製造には、乳化重合法、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法等の重合方法を採用することができるが、中でも懸濁重合法が特に好ましい。これは、溶液重合法の場合は、重合後の溶剤の除去に長時間を要する上に、除去工程での加熱によって樹脂が着色(黄変)しやすい傾向にあるためであり、溶剤への連鎖移動のために、目的とするブロック共重合体を製造しにくい傾向にあるためである。また、塊状重合法の場合は、重合後の残存モノマー量が多いために、高温での残存モノマー除去工程が必要となり、樹脂が着色しやすい傾向にあるためである。さらに、乳化重合法の場合は、重合後に残存する乳化剤によって、トナーの耐湿性が低下しやすい傾向にあるためである。
【0028】本発明のトナー用バインダー樹脂は、磁性、非磁性、1成分、2成分といったトナーの種類に関わらず広く使用することができる。また、本発明のトナー用バインダー樹脂を含有するトナーには、非オフセット性付与などの目的で、既知のワックス等を添加剤として適宜添加することができる。ワックスの種類に限定はないが、ポリオレフィンワックス、特に低分子量ポリオレフィンワックスが好ましい。ワックス類の添加量は、トナーに対して0.5〜5質量%の範囲が好ましい。これは、ワックス類添加量を0.5質量%以上とすることによって、得られるトナーの非オフセット性が向上する傾向にあり、5質量%以下とすることによって、得られるトナーの流動性が良好になる傾向にあるためである。より好ましくは、1〜3質量%の範囲である。
【0029】本発明のトナーには、上述のワックス以外に、必要に応じて着色剤、荷電制御剤、磁性粉等を添加することができる。
【0030】また、本発明のトナーは、例えば、上述のバインダー樹脂や添加剤等の混合物を二軸押出機等の混練機を用いて、温度80〜200℃の範囲で混練した後、ジェットミル等を用いて微粉砕、分級を行うことによって製造することができる。得られるトナー粒子は、平均粒径が5〜15μm程度であることが好ましい。
【0031】
【実施例】以下に本発明を実施例により詳細に説明する。なお、ガラス転移温度(Tg)、発熱ピーク、白濁、帯電性能、定着温度領域、耐ブロッキング性は以下の方法で評価した。
【0032】(1)ガラス転移温度(Tg)
サンプルを100℃まで昇温した後、DSC(セイコー電子製、DSC22システム)を用い、昇温速度10/minの条件下で測定したショルダー値で示した。
【0033】(2)発熱ピークDSC(セイコー電子製、DSC22システム)を用い、昇温速度10/minの条件下で測定した。
【0034】(3)白濁バインダー樹脂をプレス(成形圧力:1MPa、成形温度:100℃)して得た成形板(厚さ1mm)の白濁の程度を目視により評価した。
【0035】(4)帯電性能・正極帯電能(+帯電性)
バインダー樹脂93質量%、カ−ボンブラック(三菱化学社製#40)4質量%、荷電制御剤(オリエント化学社製ボントロンN−01)0.5質量%、ポリプロピレンワックス(三洋化成社製660P)2.5質量%からなる混合物を2軸押し出し機により、150℃で溶融混練し、ジェットミル粉砕機で粉砕し、更にジグザグ分級機で分級し、平均粒子径10μmの評価用正極帯電用トナーを製造した。温度20℃、相対湿度15%の環境下における、評価用正極帯電用トナーの未定着画像(SHARP社製市販複写機SF−7850を使用)の濃度を目視により評価した。
【0036】・負極帯電能(−帯電性)
バインダー樹脂93質量%、カ−ボンブラック(三菱化学社製#40)4質量%、荷電制御剤(オリエント化学社製ボントロンS−34)0.5質量%、ポリプロピレンワックス(三洋化成社製660P)2.5質量%からなる混合物を2軸押し出し機により、150℃で溶融混練し、ジェットミル粉砕機で粉砕し、更にジグザグ分級機で分級し、平均粒子径10μmの評価用負極帯電用トナーを製造した。温度20℃、相対湿度15%の環境下における、評価用負極帯電用トナーの未定着画像(TOSHIBA社製市販複写機PREMAGE251を使用)の濃度を目視により評価した。
【0037】・耐湿性上述の負極帯電能と同様な評価を温度30℃、相対湿度35%の環境下で行い、未定着画像を目視により評価した。
【0038】(5)定着温度領域上述の評価用負極帯電用トナーの未定着画像(TOSHIBA社製市販複写機PREMAGE251を使用)を温度20℃、相対湿度15%の環境下で、ローラー温度可変の定着試験機を用いて評価した。定着試験機のプロセススピード350mm/secの条件で得られた定着画像を砂消しゴム(JIS512)で9回擦り、その前後での画像濃度をマクベス濃度計で測定した。濃度の低下が20%未満である最低温度を定着温度領域の下限値とし、ホットオフセットが発生する最低温度を定着温度領域の上限値とした。
【0039】(6)耐ブロッキング性上述の評価用正極帯電用トナーをガラス瓶に入れ、45℃の条件下で16時間放置し、トナーのブロッキングの状態を目視により評価した。
【0040】(実施例1)攪拌機付きオートクレーブに、部分鹸化ポリビニルアルコール0.1質量部が溶解した脱イオン水200質量部を投入し、さらに、スチレン68質量部(第1段目の重合用単量体基準で85質量%)、n−ブチルアクリレート12質量部(第1段目の重合用単量体基準で15質量%)、ポリアゼロイルパーオキサイド(日本油脂製ポリパーAZ:10時間半減期温度63.7℃)8質量部の混合物を添加し、攪拌下98℃に昇温して懸濁重合を0.5時間行い、第1段目のプレポリマーの重合を行った。その後、スチレン12質量部 、n−ブチルアクリレート8質量部の混合物を添加して98℃の温度で3時間保持し、さらに110℃で1時間保持して重合を完結した。ついで、濾別、水洗後、50℃で24時間乾燥を行いビーズ状樹脂を得た。得られた樹脂のTgは、63℃であった。また、樹脂に白濁は認められず、無色透明であった。得られた樹脂を用いてトナー性能評価を行い、結果を表1に示した。なお、第1段目終了時にプレポリマーのサンプリングを行い、DSCで測定したところ、プレポリマーのTgは65℃で、120℃付近にO−O結合の分解に起因する大きな発熱ピークが認められた。また、プレポリマーに残存モノマー臭はなく、第1段目の重合は完結していた。
【0041】(実施例2)攪拌機付きオートクレーブに、部分鹸化ポリビニルアルコール0.1質量部が溶解した脱イオン水200質量部を投入し、さらに、スチレン56質量部(第1段目の重合用単量体基準で80質量%)、n−ブチルアクリレート14質量部(第1段目の重合用単量体基準で20質量%)、ポリアゼロイルパーオキサイド(日本油脂製ポリパーAZ:10時間半減期温度63.7℃)8質量部の混合物を添加し、攪拌下90℃に昇温して懸濁重合を0.5時間行い、第1段目のプレポリマーの重合を行った。その後、スチレン18質量部 、n−ブチルアクリレート12質量部の混合物を添加して90℃の温度で3時間保持し、さらに110℃で1時間保持して重合を完結した。ついで、濾別、水洗後、50℃で24時間乾燥を行いビーズ状樹脂を得た。得られた樹脂のTgは、52℃であった。また、樹脂に白濁は認められず、無色透明であった。得られた樹脂を用いてトナー性能評価を行い、結果を表1に示した。なお、第1段目終了時にプレポリマーのサンプリングを行い、DSCで測定したところ、プレポリマーのTgは56℃で、120℃付近にO−O結合の分解に起因する大きな発熱ピークが認められた。また、プレポリマーに残存モノマー臭はなく、第1段目の重合は完結していた。
【0042】(実施例3)攪拌機付きオートクレーブに、部分鹸化ポリビニルアルコール0.1質量部が溶解した脱イオン水200質量部を投入し、さらに、スチレン72質量部(第1段目の重合用単量体基準で90質量%)、n−ブチルアクリレート8質量部(第1段目の重合用単量体基準で10質量%)、ポリアゼロイルパーオキサイド(日本油脂製ポリパーAZ:10時間半減期温度63.7℃)8質量部の混合物を添加し、攪拌下90℃に昇温して懸濁重合を0.5時間行い、第1段目のプレポリマーの重合を行った。その後、n−ブチルアクリレート20質量部を添加して90℃の温度で3時間保持し、さらに110℃で1時間保持して重合を完結した。ついで、濾別、水洗後、50℃で24時間乾燥を行いビーズ状樹脂を得た。得られた樹脂のTgは、66℃であった。また、樹脂に白濁は認められず、無色透明であった。得られた樹脂を用いてトナー性能評価を行い、結果を表−1に示した。なお、第1段目終了時にプレポリマーのサンプリングを行い、DSCで測定したところ、プレポリマーのTgは71℃で、120℃付近にO−O結合の分解に起因する大きな発熱ピークが認められた。また、プレポリマーに残存モノマー臭はなく、第1段目の重合は完結していた。
【0043】(実施例4)攪拌機付きオートクレーブに、部分鹸化ポリビニルアルコール0.1質量部が溶解した脱イオン水200質量部を投入し、さらに、スチレン56質量部(第1段目の重合用単量体基準で80質量%)、n−ブチルアクリレート14質量部(第1段目の重合用単量体基準で20質量%)、ポリアゼロイルパーオキサイド(日本油脂製ポリパーAZ:10時間半減期温度63.7℃)8質量部の混合物を添加し、攪拌下90℃に昇温して懸濁重合を0.5時間行い、第1段目のプレポリマーの重合を行った。その後、スチレン16質量部 、n−ブチルアクリレート14質量部の混合物を添加して90℃の温度で3時間保持し、さらに110℃で1時間保持して重合を完結した。ついで、濾別、水洗後、50℃で24時間乾燥を行いビーズ状樹脂を得た。得られた樹脂のTgは、49℃であった。また、樹脂に白濁は認められず、無色透明であった。得られた樹脂を用いてトナー性能評価を行い、結果を表1に示した。なお、第1段目終了時にプレポリマーのサンプリングを行い、DSCで測定したところ、プレポリマーのTgは56℃で、120℃付近にO−O結合の分解に起因する大きな発熱ピークが認められた。また、プレポリマーに残存モノマー臭はなく、第1段目の重合は完結していた。
【0044】(実施例5)攪拌機付きオートクレーブに、部分鹸化ポリビニルアルコール0.1質量部が溶解した脱イオン水200質量部を投入し、さらに、スチレン66.5質量部(第1段目の重合用単量体基準で95質量%)、n−ブチルアクリレート3.5質量部(第1段目の重合用単量体基準で5質量%)、ポリアゼロイルパーオキサイド(日本油脂製ポリパーAZ:10時間半減期温度63.7℃)8質量部の混合物を添加し、攪拌下85℃に昇温して懸濁重合を1時間行い、第1段目のプレポリマーの重合を行った。その後、n−ブチルアクリレート30質量部を添加して85℃の温度で3時間保持し、さらに110℃で1時間保持して重合を完結した。ついで、濾別、水洗後、50℃で24時間乾燥を行いビーズ状樹脂を得た。得られた樹脂のTgは、68℃であった。樹脂には白濁がわずかに認められた。得られた樹脂を用いてトナー性能評価を行い、結果を表1に示した。なお、第1段目終了時にプレポリマーのサンプリングを行い、DSCで測定したところ、プレポリマーのTgは82℃で、120℃付近にO−O結合の分解に起因する大きな発熱ピークが認められた。また、プレポリマーに残存モノマー臭はなく、第1段目の重合は完結していた。
【0045】(実施例6)攪拌機付きオートクレーブに、部分鹸化ポリビニルアルコール0.1質量部が溶解した脱イオン水200質量部を投入し、さらに、スチレン68質量部(第1段目の重合用単量体基準で85質量%)、n−ブチルアクリレート12質量部(第1段目の重合用単量体基準で15質量%)、ポリアゼロイルパーオキサイド(日本油脂製ポリパーAZ:10時間半減期温度63.7℃)8質量部の混合物を添加し、攪拌下75℃に昇温して懸濁重合を3.5時間行い、第1段目のプレポリマーの重合を行った。その後、スチレン12質量部 、n−ブチルアクリレート8質量部の混合物を添加して75℃の温度で3時間保持し、さらに110℃で1時間保持して重合を完結した。ついで、濾別、水洗後、50℃で24時間乾燥を行いビーズ状樹脂を得た。得られた樹脂のTgは、64℃であった。また、樹脂に白濁は認められず、無色透明であった。得られた樹脂を用いてトナー性能評価を行い、結果を表1に示した。なお、第1段目終了時にプレポリマーのサンプリングを行い、DSCで測定したところ、プレポリマーのTgは66℃で、120℃付近にO−O結合の分解に起因する大きな発熱ピークが認められた。また、プレポリマーに残存モノマー臭はなく、第1段目の重合は完結していた。
【0046】(実施例7)攪拌機付きオートクレーブに、部分鹸化ポリビニルアルコール0.1質量部が溶解した脱イオン水200質量部を投入し、さらに、スチレン68質量部(第1段目の重合用単量体基準で85質量%)、n−ブチルアクリレート12質量部(第1段目の重合用単量体基準で15質量%)、ポリアゼロイルパーオキサイド(日本油脂製ポリパーAZ:10時間半減期温度63.7℃)8質量部の混合物を添加し、攪拌下120℃に昇温して懸濁重合を0.5時間行い、第1段目のプレポリマーの重合を行った。その後、スチレン12質量部 、n−ブチルアクリレート8質量部の混合物を添加して120℃の温度で4時間保持して重合を完結した。ついで、濾別、水洗後、50℃で24時間乾燥を行いビーズ状樹脂を得た。得られた樹脂のTgは、60℃であった。また、樹脂に白濁は認められず、無色透明であったが、やや残存モノマー臭があった。得られた樹脂を用いてトナー性能評価を行い、結果を表1に示した。なお、第1段目終了時にプレポリマーのサンプリングを行い、DSCで測定したところ、プレポリマーのTgは63℃で、120℃付近にO−O結合の分解に起因するやや小さな発熱ピークが認められた。プレポリマーは強い残存モノマー臭を有していたが、第2段目の重合が3時間経過した時点では、残存モノマー臭は低減していた。
【0047】(比較例1)50℃の恒温槽内において、400Wの高圧水銀灯から10cmの距離に、攪拌機およびコンデンサー付きのパイレックス(登録商標)ガラス製のセパラブルフラスコを設置し、スチレン68質量部(第1段目の重合用単量体基準で85質量%)、n−ブチルアクリレート12質量部(第1段目の重合用単量体基準で15質量%)、ベンジル−N,Nジエチルジチオカーバメート7.2質量部、およびトルエン200質量部を仕込み、微量の窒素ガスを供給しながら、該水銀灯にて20時間にわたって紫外線照射をして、光重合を行わせた。この重合体溶液に1リットルのメタノールを加えて重合体を沈殿させ、沈殿物を90℃に保った減圧乾燥器にて、15時間乾燥させてプレポリマーを得た。プレポリマーのTgは57℃であった。同じ装置に、プレポリマー80質量部、スチレン12質量部、n−ブチルアクリレート8質量部、トルエン150質量部を投入し、よく溶解した後、微量の窒素ガスを供給しながら、20時間光重合を行い、得られた重合溶液に1.43リットルのメタノールを加えて重合物を沈殿させ、沈殿物を90℃に保った減圧乾燥器にて、15時間乾燥させて樹脂を得た。得られた樹脂のTgは、56℃であった。また、樹脂に白濁は認められず、無色透明であったが、残存モノマー臭があった。得られた樹脂を用いてトナー性能評価を行い、結果を表1に示した。
【0048】(比較例2)攪拌機付きオートクレーブに、部分鹸化ポリビニルアルコール0.1質量部が溶解した脱イオン水200質量部を投入し、さらに、スチレン68質量部(第1段目の重合用単量体基準で85質量%)、n−ブチルアクリレート12質量部(第1段目の重合用単量体基準で15質量%)、ベンゾイルパーオキサイド(日本油脂製ナイパーBW:10時間半減期温度73.6℃)4質量部の混合物を添加し、攪拌下130℃に昇温して懸濁重合を2時間行い、第1段目のプレポリマーの重合を行った。その後、スチレン12質量部 、n−ブチルアクリレート8質量部、ベンゾイルパーオキサイド1質量部の混合物を添加して130℃の温度で3時間保持して重合を完結した。ついで、濾別、水洗後、50℃で24時間乾燥を行いビーズ状樹脂を得た。得られた樹脂のTgは、65℃であった。また、樹脂に白濁は認められず、無色透明であった。得られた樹脂を用いてトナー性能評価を行い、結果を表1に示した。なお、第1段目終了時にプレポリマーのサンプリングを行い、DSCで測定したところ、プレポリマーのTgは54℃であり、O−O結合の分解に起因する発熱ピークは認められなかった。また、プレポリマーに残存モノマー臭はなく、第1段目の重合は完結していた。
【0049】
【表1】


【0050】<評価基準>○:良好、△:やや劣るが実用レベルにある、×:実用レベル以下
【0051】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明によれば、低温定着性に優れるとともに、耐ブロッキング性や帯電性能に優れ、臭気の少ないトナー用樹脂及びトナーを提供することができ、工業上極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 O−O結合を有するプレポリマーの存在下で、スチレン系単量体及び/又は(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合することによって得られるトナー用バインダー樹脂。
【請求項2】 スチレン系単量体を構成成分として95質量%以下含有し、ガラス転移温度が55℃以上であるプレポリマーを使用する、請求項1記載のトナー用バインダー樹脂。
【請求項3】 プレポリマーが、ポリ過酸化物を重合開始剤とする重合で得られたものである、請求項1又は2に記載のトナー用バインダー樹脂。
【請求項4】 ポリ過酸化物の10時間半減期温度より10〜60℃高い温度で懸濁重合することにより得られる、請求項3記載のトナー用バインダー樹脂。
【請求項5】 請求項1〜4のいずれかに記載のトナー用バインダー樹脂を含有するトナー。

【公開番号】特開2003−255607(P2003−255607A)
【公開日】平成15年9月10日(2003.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−54289(P2002−54289)
【出願日】平成14年2月28日(2002.2.28)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】