説明

トナー用ポリエステル樹脂、トナー、現像剤、トナーカートリッジ、プロセスカートリッジ、及び画像形成装置

【課題】定着性に優れるトナーの製造に供されるトナー用ポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】ジカルボン酸成分由来の繰り返し単位と、一般式(1)で表されるジアルコール成分由来の繰り返し単位と、を含有し、SP値が9.1以上9.7以下であるトナー用ポリエステル樹脂。一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素、又はメチル基を表わす。L、L及びLはそれぞれ独立に、カルボニル基、エステル基、エーテル基、スルホニル基、置換基を有してもよい鎖状アルキレン基、置換基を有してもよい環状アルキレン基、置換基を有してもよいアリーレン基、及びそれらの組合せからなる群より選ばれる二価の連結基を表し、LとL又はLとLで環を形成してもよい。A及びAは、ロジンエステル基を表わす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー用ポリエステル樹脂、トナー、現像剤、トナーカートリッジ、プロセスカートリッジ、及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真法のように、静電潜像を形成し、これを現像する工程を経て画像情報を可視化する方法は、現在様々な分野で利用されている。この方法による画像の形成は、感光体(潜像保持体)表面を全体に帯電させた後、この感光体表面に、画像情報に応じたレーザ光により露光して静電潜像を形成し、次いでこの静電潜像を、トナーを含む現像剤で現像してトナー像を形成し、次いでこのトナー像を記録媒体表面に転写・定着することにより行われる。
【0003】
ホットオフセットが起こりにくく、且つ、低温定着性に優れるヒートロール定着方式用の電子写真トナーを好適に得ることができる電子写真トナー用樹脂組成物を提供するため、ロジン(R)とエポキシ基含有化合物(E)との反応生成物(P)と結着用樹脂(Q)とを含有することを特徴とする電子写真トナー用樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、低温定着性及び保存性に優れ、臭気の発生も低減されるトナー用ポリエステルを提供するため、アルコール成分と、精製ロジンを含有したカルボン酸成分とを重縮合させて得られるトナー用ポリエステルが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4505738号明細書
【特許文献2】特開2007−137910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、定着性に優れるトナーの製造に供されるトナー用ポリエステル樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、
ジカルボン酸成分由来の繰り返し単位と、下記一般式(1)で表されるジアルコール成分由来の繰り返し単位と、を含有し、
SP値(溶解性パラメータ)が9.1以上9.7以下である、トナー用ポリエステル樹脂。
【0008】
【化1】



【0009】
一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素、又はメチル基を表わす。L、L及びLはそれぞれ独立に、カルボニル基、エステル基、エーテル基、スルホニル基、置換基を有してもよい鎖状アルキレン基、置換基を有してもよい環状アルキレン基、置換基を有してもよいアリーレン基、及びそれらの組合せからなる群より選ばれる二価の連結基を表し、LとL又はLとLで環を形成してもよい。A及びAは、ロジンエステル基を表わす。
【0010】
請求項2に係る発明は、
重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が10以上13以下である、請求項1に記載のトナー用ポリエステル樹脂。
【0011】
請求項3に係る発明は、
請求項1又は請求項2に記載のトナー用ポリエステル樹脂と、離型剤と、を含むトナー。
【0012】
請求項4に係る発明は、
請求項3に記載のトナーを含む現像剤。
【0013】
請求項5に係る発明は、
請求項3に記載のトナーを収納し、画像形成装置に着脱されるトナーカートリッジ。
【0014】
請求項6に係る発明は、
請求項4に記載の現像剤を収納し、潜像保持体表面に形成された静電潜像を前記現像剤により現像してトナー像を形成する現像手段を備え、画像形成装置に着脱されるプロセスカートリッジ。
【0015】
請求項7に係る発明は、
潜像保持体と、前記潜像保持体表面を帯電する帯電手段と、前記潜像保持体表面に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、請求項4に記載の現像剤を収納し、前記潜像保持体表面に形成された前記静電潜像を前記現像剤により現像してトナー像を形成する現像手段と、前記トナー像を記録媒体に転写する転写手段と、前記記録媒体に前記トナー像を定着する定着手段と、を備える画像形成装置。
【0016】
請求項8に係る発明は、
潜像保持体表面を帯電する帯電工程と、前記潜像保持体表面に静電潜像を形成する静電潜像形成工程と、前記潜像保持体表面に形成された前記静電潜像を請求項4に記載の現像剤により現像してトナー像を形成する現像工程と、前記トナー像を記録媒体に転写する転写工程と、前記記録媒体に前記トナー像を定着する定着工程と、を有する画像形成方法。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によれば、SP値が上記範囲外である場合に比較して、定着性に優れるトナーの製造に供されるトナー用ポリエステル樹脂が提供される。
【0018】
請求項2に係る発明によれば、Mw/Mnが上記範囲外である場合に比較して、定着性に優れるトナーの製造に供されるトナー用ポリエステル樹脂が提供される。
【0019】
請求項3に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比較して、定着性に優れるトナーが得られる。
【0020】
請求項4に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比較して、定着性に優れる現像剤が得られる。
【0021】
請求項5に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比較して、定着性に優れるトナーを収納するトナーカートリッジが得られる。
【0022】
請求項6に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比較して、定着性に優れる現像剤の取り扱いを容易にし、種々の構成の画像形成装置への適応性を高められる。
【0023】
請求項7に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比較して、定着性に優れる現像剤を用いた画像形成装置が提供される。
【0024】
請求項8に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比較して、定着性に優れる画像形成方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態のトナーの製造に用いるスクリュー押出機の一例について、スクリューの状態を説明する図である。
【図2】本実施形態の画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】本実施形態のプロセスカートリッジの一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のトナー用ポリエステル樹脂、トナー、現像剤、トナーカートリッジ、プロセスカートリッジ、及び画像形成装置の実施形態について詳細に説明する。
【0027】
<トナー用ポリエステル樹脂>
本実施形態のトナー用ポリエステル樹脂(以下、「特定ポリエステル」と称することがある。)は、ジカルボン酸成分由来の繰り返し単位と、下記一般式(1)で表されるジアルコール成分由来の繰り返し単位と、を含有し、SP値(溶解性パラメータ)が9.1以上9.7以下である。
【0028】
【化2】



【0029】
一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素、又はメチル基を表わす。L、L及びLはそれぞれ独立に、カルボニル基、エステル基、エーテル基、スルホニル基、置換基を有してもよい鎖状アルキレン基、置換基を有してもよい環状アルキレン基、置換基を有してもよいアリーレン基、及びそれらの組合せからなる群より選ばれる二価の連結基を表し、LとL又はLとLで環を形成してもよい。A、Aはロジンエステル基を表わす。
【0030】
本実施形態において、溶解性パラメーター(溶解パラメーター又は溶解度パラメーターとも称される。以下SP値)は、Fedorの方法により算出する。
具体的には、例えば、Polym.Eng.Sci.,vol.14,p.147(1974)に詳しく、下記の式によりSP値を算出する。
式:SP値=√(Ev/v)=√(ΣΔei/ΣΔvi)
(式中、Ev:蒸発エネルギー(cal/mol)、v:モル体積(cm/mol)、Δei:各々の原子又は原子団の蒸発エネルギー、Δvi:各々の原子又は原子団のモル体積)
本計算方法の詳細については、向井淳二他著「技術者のための実学高分子」66頁(講談社、1981年)、ポリマーハンドブック(第4版、A Willey−interscience Publication)等に記載されており、本実施形態においても同様の方法を適用する。
本実施形態においては、SP値の単位として(cal/cm1/2を採用するが、慣行に従い単位を省略し、無次元で表記する。
【0031】
本実施形態の特定ポリエステルで構成されたトナーは、特定ポリエステルのSP値が9.1以上9.7以下であることにより、定着性に優れる。したがって、本実施形態の特定ポリエステルで構成されたトナーは、例えば、定着ローラや紙送りローラ等の部材にトナーが転移すること(「オフセット現象」と言われる。)が起き難く、オフセット現象に起因する画像の汚れが発生しにくい。
本実施形態の特定ポリエステルで構成されたトナーが定着性に優れる理由は、以下のように推察される。
【0032】
トナーには、オフセット現象を抑制するなどの目的で、離型剤(例えば各種のワックス)が添加される。
本実施形態の特定ポリエステルと同じ分子構造を有するポリエステルがSP値9.1未満である場合、該ポリエステルと離型剤とを含むトナーは、トナーの製造時や定着時に該ポリエステルと離型剤とが過相溶を起こすと考えられる。その結果、離型剤がトナー表面に十分に露出せず、離型剤によるオフセット抑制効果が低下して、オフセット現象に起因する画像の汚れが発生しやすいと推察される。
一方、本実施形態の特定ポリエステルと同じ分子構造を有するポリエステルがSP値9.7超である場合、該ポリエステルと離型剤との相溶性が悪く、トナーの製造時に該ポリエステルと離型剤とをよく分散させることが難しいと考えられる。その結果、トナー中の離型剤の含有量が少なくなってしまい、離型剤によるオフセット抑制効果が期待できず、オフセット現象に起因する画像の汚れが発生しやすいと推察される。
これに対し、SP値が9.1以上9.7以下である本実施形態の特定ポリエステルは、離型剤との相溶性が適度であり、そのため、本実施形態の特定ポリエステルで構成されたトナーは、上記のような問題が生じにくく、オフセット現象に起因する画像の汚れが発生しにくい、即ち、定着性に優れると推察される。
【0033】
本実施形態の特定ポリエステルのSP値の下限は、トナーの定着性がより優れる観点から、望ましくは9.20以上であり、より望ましくは9.30以上であり、特に望ましくは9.35以上である。
また、本実施形態の特定ポリエステルのSP値の上限は、トナーの定着性がより優れる観点から、望ましくは9.65以下であり、より望ましくは9.60以下であり、更に望ましくは9.50以下であり、特に望ましくは9.45以下である。
【0034】
本実施形態の特定ポリエステルのSP値は、例えば、酸成分由来の繰り返し単位及びアルコール成分由来の繰り返し単位の種類及び含有量によって調整される。例えば、酸成分として用い得る芳香族カルボン酸と脂肪族カルボン酸との含有比率や、前記一般式(1)で表されるジアルコール成分(以下、「特定ロジンジオール」とも称する。)に由来する繰り返し単位の含有量を調整することで、SP値が調整される。
本実施形態の特定ポリエステルは、SP値を9.1以上9.7以下の範囲に調整しやすい観点から、樹脂全体に占める特定ロジンジオール由来の繰り返し単位の含有量が20質量%以上70質量%であることが望ましく、30質量%以上60質量%であることがより望ましい。
【0035】
また、本実施形態の特定ポリエステルを含むトナーは、帯電性にも優れる。その理由は明確ではないが、以下のように推察される。
本実施形態の特定ポリエステルは、特定ロジンジオール由来のロジンエステル基を含む。ロジンエステル基は、嵩高い構造を有し且つ疎水性が高い性質のため、本実施形態の特定ポリエステルは含水しにくいと考えられる。そして、本実施形態の特定ポリエステルは、ポリエステル樹脂の構造上、樹脂分子の末端にのみ水酸基又はカルボキシル基が存在するが、繰り返し単位を増やせば、トナーの帯電性に悪影響を与えるおそれのある水酸基又はカルボキシル基の量を増やすことなく、樹脂中のロジンエステル基の量が増える。
さらに、ロジンと2官能エポキシ化合物とを反応させて特定ロジンジオールを得て、この特定ロジンジオールとカルボン酸成分とを重縮合させて得られるポリエステルは、アルコール成分と、ロジンを含有したカルボン酸成分とを重縮合させて得られるポリエステルに比べて、ポリエステル中に未反応のロジンが残留しにくいので、ポリエステル中に水分が取り込まれにくいと考えられる。
以上の理由により、本実施形態の特定ポリエステルを含むトナーは、帯電性に優れるものと推察される。
【0036】
以下、本実施形態の特定ポリエステル、その構成単位などについて、詳細に説明する。
【0037】
一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素、又はメチル基を表わす。RとRとは、同一でも異なっていてもよいが、同一であることが望ましい。
【0038】
一般式(1)中、L、L及びLはそれぞれ独立に、カルボニル基、エステル基、エーテル基、スルホニル基、置換基を有してもよい鎖状アルキレン基、置換基を有してもよい環状アルキレン基、置換基を有してもよいアリーレン基、及びそれらの組合せからなる群より選ばれる二価の連結基を表し、LとL又はLとLで環を形成してもよい。
とLとは、同一でも異なっていてもよいが、同一であることが望ましい。
【0039】
、L及びLで表される鎖状アルキレン基としては、例えば、炭素数1以上10以下のアルキレン基が挙げられる。
【0040】
、L及びLで表される環状アルキレン基としては、例えば、炭素数3以上7以下の環状アルキレン基が挙げられる。
【0041】
、L及びLで表されるアリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、アントラセン基が挙げられる。
【0042】
鎖状アルキレン基、環状アルキレン基、アリーレン基の置換基の例としては、炭素数1以上8以下のアルキル基、アリール基などが挙げられ、直鎖、分岐又は環状のアルキル基が望ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基等が挙げられる。
【0043】
一般式(1)中、A及びAはロジンエステル基を表す。即ち、特定ロジンジオールは、1分子中に2個のロジンエステル基を含有するジアルコール化合物である。本実施形態において、ロジンエステル基とは、ロジンに含まれるカルボキシル基から水素原子を除いた残基をいう。
【0044】
以下に、本実施形態の特定ポリエステルの合成スキームの一例を示す。下記合成スキームにおいては、2官能のエポキシ化合物とロジンとを反応させて特定ロジンジオールが合成され、この特定ロジンジオールとジカルボン酸成分とを脱水重縮合させることで本実施形態の特定ポリエステルが合成される。なお、特定ポリエステルを表す構造式のうち、点線で囲まれた部分が、本実施形態に係るロジンエステル基に該当する。
【0045】
【化3】



【0046】
本実施形態の特定ポリエステルを加水分解すると下記モノマーに分解する。ポリエステルはジカルボン酸とジオールの1:1縮合物なので、分解物から樹脂の構成成分を推定することができる。
【0047】
【化4】



【0048】
特定ロジンジオールは公知の方法によって合成することができ、例えば、2官能エポキシ化合物とロジンとの反応により合成することができる。特定ロジンジオールは、2官能エポキシ化合物とロジンとの反応生成物であることが望ましい。
本実施形態で用いてもよいエポキシ基含有化合物は1分子中にエポキシ基を2個含む2官能エポキシ化合物であり、芳香族系ジオールのジグリシジルエーテル、芳香族系ジカルボン酸のジグリシジルエーテル、脂肪族系ジオールのジグリシジルエーテル、脂環式ジオールのジグリシジルエーテル、脂環式エポキシド等が挙げられる。
【0049】
芳香族系ジオールのジグリシジルエーテルの代表例としては、芳香族ジオール成分としてビスフェノールA、ビスフェノールAのポリアルキレンオキサイド付加物等のビスフェノールAの誘導体類、ビスフェノールF、ビスフェノールFのポリアルキレンオキサイド付加物等のビスフェノールFの誘導体類、ビスフェノールS、ビスフェノールSのポリアルキレンオキサイド付加物等のビスフェノールSの誘導体類、レソルシノール、t−ブチルカテコール、ビフェノールなどが挙げられる。
【0050】
芳香族系ジカルボン酸のジグリシジルエーテルの代表例としては、芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸などが挙げられる。
【0051】
脂肪族系ジオールのジグリシジルエーテルの代表例としては、脂肪族ジオール成分としてエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,9−ノナンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。
【0052】
脂環式ジオールのジグリシジルエーテルの代表例としては、脂環式ジオール成分として水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールAのポリアルキレンオキサイド付加物等の水添ビスフェノールAの誘導体類、シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。
【0053】
脂環式エポキシドの代表例としては、リモネンジオキサイドが挙げられる。
【0054】
上記エポキシ基含有化合物は、例えば、ジオール成分とエピハロヒドリンの反応で得ることができるが、その量比によって重縮合させることができ高分子量化することもできる。
【0055】
本実施形態において、ロジンと2官能エポキシ化合物との反応は、主としてロジンのカルボキシル基と2官能エポキシ化合物のエポキシ基との開環反応により進む。その際、反応温度としては両構成成分の溶融温度以上、及び/又は、均一な混合が可能な温度であることが望ましく、具体的には60℃以上200℃以下の範囲が一般的である。反応に際し、エポキシ基の開環反応を促進する触媒を加えてもよい。
【0056】
使用できる触媒としては、エチレンジアミン、トリメチルアミン、2−メチルイミダゾールなどのアミン類、トリエチルアンモニウムブロマイド、トリエチルアンモニウムクロライド、ブチルトリメチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩類、トリフェニルホスフィン等を挙げることができる。
【0057】
反応は種々の方法で行うことができ、一般的には回分式の場合は冷却管、撹拌装置、不活性ガス導入口、温度計等を備えた加熱可能なフラスコに所定の割合でロジンと2官能エポキシ化合物を仕込み、加熱溶融し適宜反応物をサンプリングすることによって反応進行を追跡することができる。反応の進行度は主として酸価の低下によって確認することができ、化学量論的な反応終点またはその近傍に到達した時点をもって適宜反応を完結することができる。
【0058】
ロジンと2官能エポキシ化合物との反応比率は、2官能エポキシ化合物1モルに対してロジンを1.5モル以上2.5モル以下の範囲で反応させることが望ましく、さらには2官能エポキシ化合物1モルに対してロジンを1.8モル以上2.2モル以下の範囲で反応させることがより望ましく、1.85モル以上2.1モル以下の範囲で反応させることが最も望ましい。ロジンが1.5モルよりも少ないと、2官能エポキシ化合物のエポキシ基が次工程のポリエステル製造工程で残存することとなり、架橋剤としての作用により急激に分子量上昇を引き起こし、ゲル化の懸念がある。一方、ロジンが2.5モルよりも多いと未反応のロジンが残存し、酸価上昇による帯電悪化を引き起こすことがある。
【0059】
本実施形態で用いるロジンとは樹木から得られる樹脂酸の総称であり、主成分は3環性ジテルペン類の1種であるアビエチン酸とその異性体類を含む天然物由来の物質である。具体的な成分としては、例えばアビエチン酸の他にパラストリン酸、ネオアビエチン酸、ピマル酸、デヒドロアビエチン酸、イソピマル酸、サンダラコピマル酸などがあり、本実施形態で用いるロジンはこれらの混合物である。
ロジンは採取方法による分類では、原料をパルプとするトールロジン、原料を生松脂とするガムロジン、及び原料を松の切り株とするウッドロジンの3種に大別される。本実施形態で用いるロジンは入手が容易であることから、ガムロジン及び/又はトールロジンが望ましい。
【0060】
これらのロジン類は精製することが望ましく、未精製のロジン類に含まれる樹脂酸の過酸化物から生起したと考えられる高分子量物や、未精製のロジン類に含まれていた不ケン化物を除去することにより精製ロジンを得ることができる。精製方法は特に限定されず、公知の各種精製方法を適宜選択できる。具体的には、蒸留、再結晶、抽出等の方法が挙げられる。工業的には蒸留による精製を行うことが望ましい。蒸留は、通常、200℃以上300℃以下程度、6.67kPa以下の圧力で行い、蒸留時間を考慮して適宜選択される。再結晶は、例えば、未精製ロジンを良溶媒に溶解し、次いで溶媒を留去して濃厚な溶液とし、この溶液に貧溶媒を添加することにより行う。良溶媒としてはベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、クロロホルム等の塩素化炭化水素類、低級アルコール類等のアルコール類、アセトン等のケトン類、酢酸エチル等の酢酸エステル類などが挙げられる。抽出は、例えば、アルカリ水を用いて未精製のロジンをアルカリ水溶液となし、これに含まれる不溶性の不ケン化物を、有機溶媒を用いて抽出したのち、水相を中和することで精製ロジンを得る方法である。
【0061】
本実施形態で用いるロジンは、不均化ロジンでもよい。不均化ロジンとは、主成分としてアビエチン酸を含むロジンを不均化触媒の存在下で高温加熱することによって、分子内の不安定な共役二重結合を消失させたもので、主成分は、デヒドロアビエチン酸とジヒドロアビエチン酸の混合物である。
不均化触媒としては、パラジウムカーボン、ロジウムカーボン、白金カーボン等の担持触媒、ニッケル、白金等の金属粉末、ヨウ素、ヨウ化鉄等のヨウ化物、リン系化合物などの各種公知のものが挙げられる。該触媒の使用料はロジンに対して通常0.01質量%以上5質量%以下、望ましくは0.01質量%以上1質量%以下であり、反応温度は100℃以上300℃以下、望ましくは150℃以上290℃以下である。なおデヒドロアビエチン酸量を制御する方法としては、例えば、不均化ロジンからエタノールアミン塩として結晶化する方法(J. Org. Chem., 31, 4246, 1996)により単離したデヒドロアビエチン酸を上述の範囲となるように添加してもよい。
【0062】
本実施形態で用いるロジンは、水素化ロジンでもよい。水素化ロジンとは、主成分としてテトラヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸を含み、公知の水素化反応により分子内の不安定な共役二重結合を消失させて得ることができる。水素化反応は、水素化触媒存在下に、通常10kg/cm以上200kg/cm以下、望ましくは50kg/cm以上150kg/cm以下の水素加圧下で、未精製ロジンを加熱することにより行う。水素化触媒としては、パラジウムカーボン、ロジウムカーボン、白金カーボン等の担持触媒、ニッケル、白金等の金属粉末、ヨウ素、ヨウ化鉄等のヨウ化物などの公知のものを例示しうる。該触媒の使用料は、ロジンに対して通常0.01質量%以上5質量%以下、望ましくは0.01質量%以上1質量%以下であり、反応温度は100℃以上300℃以下、望ましくは150℃以上290℃以下である。
これらの不均化ロジン、水素化ロジンは、不均化処理、又は水素化処理の前後において、前記精製工程を設けてもよい。
【0063】
本実施形態で用いるロジンは、ロジンを重合して得られる重合ロジン、ロジンに不飽和カルボン酸を付加させた不飽和カルボン酸変性ロジン、フェノール変性ロジンでもよい。不飽和カルボン酸変性ロジンの調整に用いられる不飽和カルボン酸としては、例えばマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。当該不飽和カルボン酸変性ロジンは、原料ロジン100質量部に対し、不飽和カルボン酸を通常1質量部以上30質量部以下程度用いて変性したものである。
【0064】
本実施形態で用いるロジンは、上記ロジンのうち、精製ロジン、不均化ロジン、水素化ロジンが望ましく、これらを単独で用いても、これらの混合物でもよい。
【0065】
以下に、本実施形態で好適に用い得る特定ロジンジオールの例示化合物(1)〜(42)を示すが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。下記の例示化合物において、nは1以上の整数を表す。
【0066】
【化5】



【0067】
【化6】



【0068】
【化7】



【0069】
【化8】



【0070】
【化9】



【0071】
【化10】



【0072】
【化11】



【0073】
本実施形態において、ジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸、分岐鎖を有する炭素数1以上20以下のアルキルコハク酸、分岐鎖を有する炭素数1以上20以下のアルケニル基を有するアルケニルコハク酸等の脂肪族ジカルボン酸;これらの酸の無水物、及び、これらの酸のアルキル(炭素数1以上3以下)エステル等が挙げられる。これらの中では、トナーの耐久性及び定着性、着色剤の分散性、入手容易性の観点からイソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族カルボン酸、コハク酸、セバシン酸、アゼライン酸等の脂肪族カルボン酸が望ましい。
【0074】
これらの芳香族カルボン酸、脂肪族カルボン酸は、単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。また、本実施形態の効果を損なわない範囲で3価以上の芳香族カルボン酸も用いることができる。3価以上の芳香族カルボン酸としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸、及びこれらの無水物等が挙げられ、これらは単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。3価以上の芳香族カルボン酸としては、入手容易性、反応性の観点から無水トリメリット酸が望ましい。
【0075】
本実施形態の特定ポリエステルは、特定ロジンジオール以外のジアルコール成分をも用いて構成されてもよい。本実施形態の特定ポリエステルにおける特定ロジンジオールの含有量は、帯電性の観点から、ジアルコール成分中10モル%以上100モル%以下が望ましく、20モル%以上90モル%以下がより望ましい。
【0076】
特定ロジンジオール以外のジアルコール成分として、脂肪族ジオール及びエーテル化ジフェノールからなる群より選ばれる少なくとも1種を、トナー性能を落とさない範囲で用いることができる。
脂肪族ジオールの例としては、例えばエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブテンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール、2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,4−ジメチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル−3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロパノエート、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。これら脂肪族ジオールは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
また、脂肪族ジオールと共に、エーテル化ジフェノールを更に用いてもよい。エーテル化ジフェノールとは、ビスフェノールAとアルキレンオキサイドを付加反応させて得られるジオールであり、該アルキレンオキサイドとしてはエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドが挙げられ、該アルキレンオキサイドの平均付加モル数がビスフェノールAの1モルに対して2モル以上16モル以下であるものが望ましい。
【0077】
本実施形態の特定ポリエステルは、本実施形態の効果を損なわない範囲で、3価以上のポリオールをも用いて構成されてもよい。3価以上のポリオールとしては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。3価以上のポリオールとしては、入手容易性、反応性の観点からグリセリン、トリメチロールプロパンが望ましい。
【0078】
本実施形態の特定ポリエステルは、酸成分とアルコール成分を原料として、公知慣用の製造方法によって調製される。その反応方法としては、エステル交換反応又は直接エステル化反応のいずれも適用可能である。また、加圧して反応温度を高くする方法、減圧法又は常圧下で不活性ガスを流す方法によって重縮合を促進することもできる。上記反応によっては、アンチモン、チタン、スズ、亜鉛、アルミニウム及びマンガンから選ばれる少なくとも1種の金属化合物等、公知慣用の反応触媒が用いられ、反応が促進されてもよい。これら反応触媒の添加量は酸成分とアルコール成分の総量100質量部に対して、0.01質量部以上1.5質量部以下が望ましく、0.05質量部以上1.0質量部以下がより望ましい。反応温度は180℃以上300℃以下の温度で行うことができる。
【0079】
本実施形態の特定ポリエステルの軟化温度は、トナーの定着性、保存性、及び耐久性の観点から、80℃以上160℃以下が望ましく、90℃以上150℃以下がより望ましい。
本実施形態の特定ポリエステルのガラス転移温度は、定着性、保存性、及び耐久性の観点から、35℃以上80℃以下が望ましく、40℃以上70℃以下がより望ましい。
本実施形態の特定ポリエステルの軟化温度及びガラス転移温度は、原料モノマー組成、重合開始剤、分子量、触媒量等の調整、又は反応条件の選択により容易に調整することができる。
【0080】
本実施形態の特定ポリエステルの酸価は、トナーの帯電性の観点から、3mgKOH/g以上30mgKOH/g以下が望ましい。本実施形態の特定ポリエステルが有するロジンエステル基は、疎水性を示し嵩高い基であるところ、一般にトナーの空気界面は疎水性を示すことから、本実施形態の特定ポリエステルを含有する本実施形態のトナー表面にはロジンエステル基が露出しやすい。しかし、トナー表面に露出するロジンエステル基の量が多いとトナーの帯電が悪化する場合がある。本実施形態においては、トナーの帯電量を調整する目的で、特定ポリエステルの酸価を3mgKOH/g以上30mgKOH/g以下とすることが望ましい。酸価が30mgKOH/gより大きいと含水しやすく、特に夏場環境において帯電が悪化することがある。一方、酸価が3mgKOH/gより小さいと帯電が著しく悪化することがある。
本実施形態の特定ポリエステルの酸価は、トナーの帯電性をより向上させる観点から、5mgKOH/g以上18mgKOH/g以下がより望ましく、9mgKOH/g以上17mgKOH/g以下が最も望ましい。
【0081】
本実施形態の特定ポリエステルは、トナーの定着性をより向上させる観点から、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が、10以上13以下であることが望ましく、10.5以上12.5以下であることがより望ましい。
本実施形態の特定ポリエステルの重量平均分子量(Mw)は、トナーの耐久性、耐ホットオフセット、定着性の観点から、10,000以上200,000以下が望ましく、50,000以上100,000以下がより望ましい。
本実施形態の特定ポリエステルの数平均分子量(Mn)は、トナーの耐久性、耐ホットオフセット、定着性の観点から、4,000以上20,000以下が望ましく、5,000以上10,000以下がより望ましい。
【0082】
本実施形態の特定ポリエステルは、変性されたポリエステルであってもよい。変性されたポリエステルとしては、例えば、特開平11−133668号公報、特開平10−239903号公報、特開平8−20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステルを包含する。
【0083】
本実施形態の特定ポリエステルをトナー用結着樹脂として用いることにより、定着性に優れたトナーを得ることができる。本実施形態のトナーには、本実施形態の効果を損なわない範囲で、公知の結着樹脂、例えば、スチレン−アクリル樹脂等のビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の他の樹脂が併用されてもよいが、本実施形態の特定ポリエステルの含有量は、結着樹脂中、70質量%以上が望ましく、90質量%以上がより望ましく、実質的に100質量%であることが更に望ましい。
【0084】
<トナー>
本実施形態のトナーは、本実施形態の特定ポリエステルを含有し、必要に応じて、特定ポリエステル以外のポリエステル(以下、「第2ポリエステル」と称する。)、その他の結着樹脂、着色剤、離型剤、帯電制御剤、外添剤等を含んでもよい。
【0085】
本実施形態で用いられる第2ポリエステルは、非晶性または結晶性のポリエステルであり、周知の多価カルボン酸と周知の多価アルコールとの縮重合体が挙げられる。
第2ポリエステルとしては、結晶性のポリエステル樹脂が望ましく、特に、低温定着性を実現する観点から、脂肪族ジカルボン酸(その酸無水物および酸塩化物を含む)と脂肪族ジオールとの縮重合体であることがよい。
【0086】
脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−ブテンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールZ、水素添加ビスフェノールA等が挙げられる。
【0087】
脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマール酸、シトラコ酸、イタコン酸、グルタコ酸、n−ドデシルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、イソドデシルコハク酸、イソドデセニルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、これらの酸無水物若しくは酸塩化物を挙げられる。
【0088】
結晶性の第2ポリエステルとしては、例えば、1,4−シクロヘキサンジメタノールとアジピン酸との縮重合体であるポリエステル、1,6−ヘキサンジオールとセバシン酸との縮重合体であるポリエステル、エチレングリコールとコハク酸との縮重合体であるポリエステル、エチレングリコールとセバシン酸との縮重合体であるポリエステル、1,4−ブタンジオールとコハク酸との縮重合体であるポリエステルが挙げられ、これらの中も、1,4−シクロヘキサンジメタノールとアジピン酸との縮重合体であるポリエステルがよい。
また、結晶性の第2ポリエステルとしては、例えば、1,10−デカンジオールとセバシン酸との縮重合体であるポリエステル、1,9−ノナンジオールとドデカンニ酸との縮重合体であるポリエステルも好適に挙げられ、これらのうち、1,9−ノナンジオールとドデカンニ酸とを反応して得られるポリエステルが最もよい。
【0089】
第2ポリエステルの重量平均分子量は、5,000以上50,000以下であることが望ましく、10,000以上20,000以下であることがより望ましい。
【0090】
第2ポリエステルが結晶性の場合、その融解温度としては、例えば、50℃以上100℃以下がよく、望ましくは60℃以上80℃以下である。
融解温度は、示差走査熱量測定(DSC)により得られた吸熱ピークのピーク温度として求めた値である。また、結晶性ポリエステル樹脂は、複数の融解ピークを示す場合があるが、本実施形態においては、最大のピークをもって融解温度とみなす。
【0091】
第2ポリエステルの含有量としては、全結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であることが望ましく、5質量部以上15質量部以下であることがより望ましい。
第2ポリエステルの含有量として、第1ポリエステル(特定ポリエステル)に対する質量比(第2ポリエステル/第1ポリエステル)は、0.01以上0.25以下であることが望ましく、0.05以上0.18以下であることがより望ましい。
【0092】
本実施形態で用いられる着色剤としては、染料でも顔料でもよく、耐光性や耐水性の観点から顔料が望ましい。
望ましい着色剤としては、カーボンブラック、アニリンブラック、アニリンブルー、カルコイルブルー、クロムイエロー、ウルトラマリンブルー、デュポンオイルレッド、キノリンイエロー、メチレンブルークロライド、フタロシアニンブルー、マラカイトグリーンオキサレート、ランプブラック、ローズベンガル、キナクリドン、ベンジシンイエロー、C.I.ピグメント・レッド48:1、C.I.ピグメント・レッド57:1、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメント・レッド185、C.I.ピグメント・レッド238、C.I.ピグメント・イエロー12、C.I.ピグメント・イエロー17、C.I.ピグメント・イエロー180、C.I.ピグメント・イエロー97、C.I.ピグメント・イエロー74、C.I.ピグメント・ブルー15:1、C.I.ピグメント・ブルー15:3等の公知の顔料が挙げられる。着色剤の種類を選択することにより、イエロートナー、マゼンタトナー、シアントナー、ブラックトナー等が得られる。
【0093】
本実施形態のトナーにおける着色剤の含有量としては、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下の範囲が望ましい。また、必要に応じて表面処理された着色剤を使用したり、顔料分散剤を使用したりすることも有効である。
【0094】
本実施形態で用いられる離型剤としては、例えば、脂肪酸エステルワックス、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等の低分子量ポリオレフィン類、加熱により軟化点を示すシリコーン類、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類、カルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ホホバ油等の植物系ワックス、ミツロウ等の動物系ワックス、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の鉱物系・石油系ワックス、及びそれらの変性物等が挙げられる。これらの中でも、特定ポリエステルとの組合せによってトナーの定着性に優れる観点から、脂肪酸エステルワックス、パラフィンワックス、カルナバワックスが望ましい。
これらの離型剤の融解温度は、50℃以上100℃以下が望ましく、60℃以上95℃以下がより望ましい。
【0095】
トナー中の離型剤の含有量は、0.5質量%以上15質量%以下が望ましく、1.0質量%以上12質量%以下がより望ましい。離型剤の含有量が0.5質量%以上であれば、特にオイルレス定着において剥離不良の発生が抑制される。離型剤の含有量が15質量%以下であれば、トナーの流動性が悪化することがなく、画質および画像形成の信頼性が向上する。
【0096】
本実施形態で用いられる帯電制御剤としては、公知のものを使用してよく、アゾ系金属錯化合物、サリチル酸の金属錯化合物、極性基を含有するレジンタイプの帯電制御剤を用いてもよい。
【0097】
本実施形態のトナーは、流動性の向上などを目的として、白色の無機粉末を外添剤として含有してもよい。適当な無機粉末としては、例えば、シリカ粉末、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、ケイ砂、クレー、雲母、ケイ灰石、ケイソウ土、酸化クロム、酸化セリウム、ベンガラ、三酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭化硅素、窒化硅素などが挙げられ、シリカ粉末が特に望ましい。
かかる無機粉末のトナーに混合される割合は、通常、トナー100質量部に対して0.01質量部以上5質量部以下の範囲であり、望ましくは0.01質量部以上2.0質量部以下の範囲である。
また、かかる無機粉末に、シリカ、チタン、樹脂粒子(ポリスチレン、PMMA、メラミン樹脂等の樹脂粒子)、アルミナ等の公知の材料を併用してもよい。また、クリーニング活剤として、ステアリン酸亜鉛に代表される高級脂肪酸の金属塩、フッ素系高分子量体の粒子粉末を添加してもよい。
【0098】
〔トナーの特性〕
本実施形態のトナーの形状係数SF1は110以上150以下の範囲であることが望ましく、120以上140以下の範囲であることがより望ましい。
ここで、形状係数SF1は、下記式(1)により求められる。
式(1):SF1=(ML/A)×(π/4)×100
式(1)中、MLはトナーの絶対最大長を表し、Aはトナーの投影面積を表す。
【0099】
形状係数SF1は、主に顕微鏡画像または走査型電子顕微鏡(SEM)画像を画像解析装置を用いて解析することによって数値化され、例えば、以下のようにして算出される。すなわち、スライドガラス表面に散布した粒子の光学顕微鏡像を、ビデオカメラを介してルーゼックス画像解析装置に取り込み、100個の粒子の最大長と投影面積を求め、上記式(1)によって計算し、その平均値を求めることにより得られる。
【0100】
本実施形態のトナーを構成するトナー粒子の体積平均粒子径は、例えば2.0μm以上10μm以下であることが望ましく、より望ましくは3.5μm以上7.0μm以下である。
トナー粒子の体積平均粒子径の測定は、コールターマルチサイザーII型(ベックマン−コールター社製)により、アパーチャー径が100μmのアパーチャーを用いて、粒径が2.0μm以上60μm以下の範囲の粒子50,000個の粒度分布を測定する。得られた粒度分布を分割された粒度範囲(チャンネル)に対し、小粒径側から体積累積分布を引いて、累積50%となる粒径を体積平均粒径D50vとする。測定用試料は、分散剤として界面活性剤、望ましくはアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムの5質量%水溶液2ml中に、試料を0.5mg以上50mg以下加え、これを電解液(アイソトン水溶液)100ml以上150ml以下中に添加し、超音波分散器で約1分間分散処理を行って調製する。
【0101】
〔トナーの製造方法〕
本実施形態のトナーの製造方法は特に限定されず、公知である混練粉砕法等の乾式法や、凝集合一法や懸濁重合法等の湿式法等によってトナー粒子を作製し、必要に応じてトナー粒子に外添剤が外添されてトナーが得られる。
【0102】
(混練粉砕法)
混練粉砕法は、結着樹脂を含むトナー形成材料を混錬して混錬物を得た後、前記混錬物を粉砕することによりトナー粒子を作製する方法である。
混練粉砕法は、より詳細には、結着樹脂を含むトナー形成材料を混錬する混錬工程と、前記混錬物を粉砕する粉砕工程とに分けられる。必要に応じて、混錬工程により形成された混錬物を冷却する冷却工程等、他の工程を有してもよい。
各工程について詳しく説明する。
【0103】
−混錬工程−
混錬工程は、結着樹脂を含むトナー形成材料を混錬する。
混錬工程においては、トナー形成材料100質量部に対し、0.5質量部以上5質量部以下の水系媒体(例えば、蒸留水やイオン交換水等の水、アルコール類等)を添加することが望ましい。
【0104】
混錬工程に用いられる混錬機としては、例えば、1軸押出し機、2軸押出し機等が挙げられる。以下、混錬機の一例として、送りスクリュー部と2箇所のニーディング部とを有する混錬機について図を用いて説明するが、これに限られるわけではない。
【0105】
図1は、本実施形態のトナーの製造方法における混錬工程で用いるスクリュー押出機の一例について、スクリューの状態を説明する図である。
スクリュー押出し機11は、スクリュー(図示せず)を備えたバレル12と、バレル12にトナーの原料であるトナー形成材料を注入する注入口14と、バレル12中のトナー形成材料に水系媒体を添加するための液体添加口16と、バレル12中でトナー形成材料が混錬されて形成された混錬物を排出する排出口18と、から構成されている。
【0106】
バレル12は、注入口14に近いほうから順に、注入口14から注入されたトナー形成材料をニーディング部NAに輸送する送りスクリュー部SA、トナー形成材料を第1の混錬工程により溶融混錬するためのニーディング部NA、ニーディング部NAにおいて溶融混錬されたトナー形成材料をニーディング部NBに輸送する送りスクリュー部SB、トナー形成材料を第2の混錬工程により溶融混錬し混錬物を形成するニーディング部NB、及び形成された混錬物を排出口18に輸送する送りスクリュー部SCに分かれている。
【0107】
またバレル12の内部には、ブロックごとに異なる温度制御手段(図示せず)が備えられている。すなわち、ブロック12Aからブロック12Jまで、それぞれ異なる温度に制御してもよい構成となっている。なお図1は、ブロック12A及びブロック12Bの温度をt0℃に、ブロック12Cからブロック12Eの温度をt1℃に、ブロック12Fからブロック12Jの温度をt2℃に、それぞれ制御している状態を示している。そのため、ニーディング部NAのトナー形成材料はt1℃に加熱され、ニーディング部NBのトナー形成材料はt2℃に加熱される。
【0108】
結着樹脂を含むトナー形成材料を、注入口14からバレル12へ供給すると、送りスクリュー部SAによりニーディング部NAへトナー形成材料が送られる。このとき、ブロック12Cの温度がt1℃に設定されているため、トナー形成材料は加熱されて溶融状態へと変化した状態で、ニーディング部NAに送り込まれる。そして、ブロック12D及びブロック12Eの温度もt1℃に設定されているため、ニーディング部NAではt1℃の温度でトナー形成材料が溶融混錬される。結着樹脂は、ニーディング部NAにおいて溶融状態となり、スクリューによりせん断を受ける。
【0109】
次に、ニーディング部NAにおける混錬を経たトナー形成材料は、送りスクリュー部SBによりニーディング部NBへと送られる。
次いで、送りスクリュー部SBにおいて、液体添加口16からバレル12に水系媒体を注入することにより、トナー形成材料に水系媒体を添加する。また図1では、送りスクリュー部SBにおいて水系媒体を注入する形態を示しているが、これに限られず、ニーディング部NBにおいて水系媒体が注入されてもよく、送りスクリュー部SB及びニーディング部NBの両方において水系媒体が注入されてもよい。すなわち、水系媒体を注入する位置及び注入箇所は、必要に応じて選択される。
【0110】
上記のように、液体添加口16からバレル12に水系媒体が注入されることにより、バレル12中のトナー形成材料と水系媒体とが混合し、水系媒体の蒸発潜熱によりトナー形成材料が冷却され、トナー形成材料の温度が適切に保たれる。
最後に、ニーディング部NBにより溶融混錬されて形成された混錬物は、送りスクリュー部SCにより排出口18に輸送され、排出口18から排出される。
以上のようにして、図1に示したスクリュー押出機11を用いた混錬工程が行われる。
【0111】
−冷却工程−
冷却工程は、上記混錬工程において形成された混錬物を冷却する工程であり、冷却工程では、混錬工程終了の際における混錬物の温度から4℃/sec以上の平均降温速度で40℃以下まで冷却することが望ましい。上記平均降温速度で急冷すると、混錬工程終了直後の分散状態がそのまま保たれるため望ましい。なお上記平均降温速度とは、混錬工程終了の際における混錬物の温度(例えば図1のスクリュー押出し機11を用いた場合は、t2℃)から40℃まで降温させる速度の平均値をいう。
冷却工程における冷却方法としては、具体的には、例えば、冷水又はブラインを循環させた圧延ロール及び挟み込み式冷却ベルト等を用いる方法が挙げられる。なお、前記方法により冷却を行う場合、その冷却速度は、圧延ロールの速度、ブラインの流量、混錬物の供給量、混錬物の圧延時のスラブ厚等で決定される。スラブ厚は、1mm以上3mm以下の薄さであることが望ましい。
【0112】
−粉砕工程−
冷却工程により冷却された混錬物は、粉砕工程により粉砕され、粒子が形成される。粉砕工程では、例えば、機械式粉砕機、ジェット式粉砕機等が使用される。
【0113】
−分級工程−
粉砕工程により得られた粒子は、必要に応じて、目的とする範囲の体積平均粒子径のトナー粒子を得るため、分級工程により分級を行ってもよい。分級工程においては、従来から使用されている遠心式分級機、慣性式分級機等が使用され、微粉(目的とする範囲の粒径よりも小さい粒子)及び粗粉(目的とする範囲の粒径よりも大きい粒子)が除去される。
【0114】
−外添工程−
得られたトナー粒子は、帯電調整、流動性付与、電荷交換性付与等を目的として、既述の特定シリカ、チタニア、酸化アルミに代表される無機粉末を添加付着してもよい。これらは、例えばV型ブレンダーやヘンシェルミキサー、レディゲミキサー等によって行われ、段階を分けて付着される。
【0115】
−篩分工程−
上記外添工程の後に、必要に応じて篩分工程を設けてもよい。篩分方法としては、具体的には、例えば、ジャイロシフター、振動篩分機、風力篩分機等が挙げられる。篩分することにより、外添剤の粗粉等が取り除かれ、感光体上の筋の発生、装置内のぼた汚れなどが抑制される。
【0116】
(凝集合一法)
凝集合一法は、樹脂を乳化させて得た分散液に離型剤(ワックス)及び顔料分散液を混合し、凝集粒子を形成後に乾燥してトナー粒子を得る方法である。
凝集合一法は、より詳細には、非晶性の特定ポリエステル樹脂粒子(特定ポリエステルの粒子)が分散された特定樹脂粒子分散液を準備する工程(樹脂粒子分散液準備工程)と、非晶性または結晶性のポリエステル樹脂粒子(第2ポリエステルの粒子)が分散された第2樹脂粒子分散液を準備する工程(樹脂粒子分散液準備工程)と、特定樹脂粒子分散液と第2樹脂粒子分散液とを混合した後、特定ポリエステル樹脂粒子と第2ポリエステル樹脂粒子とを凝集させ、凝集粒子を形成する工程(凝集粒子形成工程)と、凝集粒子が分散された凝集粒子分散液に対して加熱し、凝集粒子を融合・合一して、トナー粒子を形成する工程(融合・合一工程)と、を経て、トナー粒子を製造する。
【0117】
また、凝集粒子が分散された凝集粒子分散液を得た後、当該凝集粒子分散液と特定樹脂粒子分散液とを混合し、凝集粒子の表面にさらに特定ポリエステル樹脂粒子を付着するように凝集して、第2凝集粒子を形成する工程と、第2凝集粒子が分散された第2凝集粒子分散液に対して加熱をし、第2凝集粒子を融合・合一して、コア/シェル構造のトナー粒子を形成する工程と、を経て、トナー粒子を製造してもよい。
【0118】
以下、各工程の詳細について説明する。
なお、以下の説明では、着色剤および離型剤を含むトナー粒子を得る方法について説明するが、着色剤、離型剤は、必要に応じて用いられるものである。無論、着色剤、離型剤以外のその他添加剤を用いてもよい。
【0119】
−樹脂粒子分散液準備工程−
まず、特定ポリエステル樹脂粒子が分散された特定樹脂粒子分散液と第2ポリエステル樹脂粒子が分散された第2樹脂粒子分散液と共に、例えば、着色剤粒子が分散された着色剤粒子分散液、離型剤粒子が分散された離型剤分散液を準備する。
【0120】
ここで、樹脂粒子分散液(特定樹脂粒子分散液及び第2樹脂粒子分散液)は、例えば、各ポリエステル樹脂粒子(特定ポリエステル樹脂粒子、第2ポリエステル樹脂粒子)を界面活性剤により分散媒中に分散させることにより調製する。
【0121】
樹脂粒子分散液に用いる分散媒としては、例えば水系媒体が挙げられる。水系媒体としては、例えば、蒸留水、イオン交換水等の水、アルコール類などが挙げられる。
【0122】
界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸エステル塩系、スルホン酸塩系、リン酸エステル系、せっけん系等のアニオン界面活性剤;アミン塩型、4級アンモニウム塩型等のカチオン界面活性剤;ポリエチレングリコール系、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物系、多価アルコール系等の非イオン系界面活性剤などが挙げられる。これらの中でも特に、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤が挙げられる。非イオン系界面活性剤は、アニオン界面活性剤又はカチオン界面活性剤と併用されてもよい。
界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0123】
樹脂粒子分散液において、ポリエステル樹脂粒子を分散媒に分散する方法としては、例えば、例えば回転せん断型ホモジナイザーや、メディアを有するボールミル、サンドミル、ダイノミルなどの一般的な分散方法が挙げられる。また、用いる樹脂粒子の種類によっては、例えば転相乳化法を用いて樹脂粒子分散液中に樹脂粒子を分散させてもよい。
なお、転相乳化法とは、分散すべき樹脂を、その樹脂が可溶な疎水性有機溶剤中に溶解せしめ、有機連続相(O相)に塩基を加えて中和した後、水媒体(W相)を投入することによって、W/OからO/Wへの樹脂の変換(いわゆる転相)が行われて不連続相化し、樹脂を水媒体中に粒子状に分散する方法である。
【0124】
樹脂粒子分散液中に分散するポリエステル樹脂粒子の体積平均粒径としては、例えば0.01μm以上1μm以下の範囲が挙げられ、0.08μm以上0.8μm以下であってもよく、0.1μm以上0.6μmであってもよい。
なお、ポリエステル樹脂粒子の体積平均粒径は、レーザ回析式粒度分布測定装置(堀場製作所製、LA−920)で測定される。以下、他に断りがないかぎり、粒子の体積平均粒径は同様に測定される。
【0125】
樹脂粒子分散液に含まれるポリエステル樹脂粒子の含有量としては、例えば、5質量%以上50質量%以下が挙げられ、10質量%以上40質量%以下であってもよい。
【0126】
なお、樹脂粒子分散と同様にして、例えば、着色剤分散液、離型剤分散液も調製される。つまり、樹脂粒子分散における粒子の体積平均粒径、分散媒、分散方法、及び粒子の含有量に関しては、着色剤分散液中に分散する着色剤粒子、及び離型剤分散液中に分散する離型剤粒子についても同様である。
【0127】
−凝集粒子形成工程−
次に、特定樹脂粒子分散液と第2樹脂粒子分散液と共に、着色剤粒子分散液と、離型剤分散液と、を混合する。
そして、混合分散液中で、特定ポリエステル樹脂粒子と第2ポリエステル樹脂粒子と着色剤粒子と離型剤粒子とをヘテロ凝集させ目的とするトナー粒子の径に近い径を持つ、特定ポリエステル樹脂粒子と第2ポリエステル樹脂粒子と着色剤粒子と離型剤粒子とを含む凝集粒子を形成する。
【0128】
具体的には、例えば、混合分散液に凝集剤を添加すると共に、混合分散液のpHを酸性(例えばpHが2以上5以下)に調整し、必要に応じて分散安定剤を添加した後、特定樹脂粒子のガラス転移温度(具体的には、例えば、特定ポリエステル樹脂粒子のガラス転移温度−30℃以上ガラス転移温度−10℃以下)の温度に加熱し、混合分散液に分散された粒子を凝集させて、凝集粒子を形成する。
凝集粒子形成工程においては、例えば、混合分散液を回転せん断型ホモジナイザーで攪拌下、室温(例えば25℃)で凝集剤を添加し、混合分散液のpHを酸性(例えばpHが2以上5以下)に調整し、必要に応じて分散安定剤を添加した後に、上記加熱を行ってもよい。
【0129】
凝集剤としては、例えば、混合分散液に添加される分散剤として用いる界面活性剤と逆極性の界面活性剤、例えば無機金属塩、2価以上の金属錯体が挙げられる。特に、凝集剤として金属錯体を用いた場合には、界面活性剤の使用量が低減され、帯電特性が向上する。
凝集剤の金属イオンと錯体もしくは類似の結合を形成する添加剤を必要に応じて用いてもよい。この添加剤としては、キレート剤が好適に用いられる。
【0130】
無機金属塩としては、例えば、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム等の金属塩、及び、ポリ塩化アルミニウム、ポリ水酸化アルミニウム、多硫化カルシウム等の無機金属塩重合体などが挙げられる。
キレート剤としては、水溶性のキレート剤を用いてもよい。キレート剤としては、例えば、酒石酸、クエン酸、グルコン酸等のオキシカルボン酸、イミノジ酸(IDA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)などが挙げられる。
キレート剤の添加量としては、例えば、樹脂粒子100質量部に対して0.01質量部以上5.0質量部以下の範囲内が挙げられ、0.1質量部以上3.0質量部未満であってもよい。
【0131】
−融合・合一工程−
次に、凝集粒子が分散された凝集粒子分散液に対して、例えば、特定ポリエステル樹脂粒子のガラス転移温度以上(例えば、特定ポリエステル樹脂粒子のガラス転移温度より10乃至30℃高い温度以上)に加熱して、凝集粒子を融合・合一し、トナー粒子を形成する。
【0132】
以上の工程を経て、トナー粒子が得られる。
融合・合一工程終了後は、溶液中に形成されたトナー粒子を、公知の洗浄工程、固液分離工程、乾燥工程を経て乾燥した状態のトナー粒子を得る。
洗浄工程は、帯電性の点から充分にイオン交換水による置換洗浄を施すことが望ましい。また、固液分離工程は、特に制限はないが、生産性の点から吸引濾過、加圧濾過等が望ましく用いられる。更に乾燥工程も特に方法に制限はないが、生産性の点から凍結乾燥、フラッシュジェット乾燥、流動乾燥、振動型流動乾燥等が望ましく用いられる。
【0133】
本実施形態に係るトナーは、例えば、得られた乾燥状態のトナー粒子に、外添剤を添加し、混合することにより製造される。混合は、例えばVブレンダーやヘンシュルミキサー、レディゲミキサーなどによって行うことがよい。更に、必要に応じて、振動師分機、風力師分機などを使ってトナーの粗大粒子を取り除いてもよい。
【0134】
<現像剤>
本実施形態の現像剤は、本実施形態のトナーを少なくとも含むものである。
本実施形態のトナーは、そのまま一成分現像剤として、あるいは二成分現像剤として用いられる。二成分現像剤として用いる場合にはキャリアと混合して使用される。
【0135】
二成分現像剤に使用し得るキャリアとしては、特に制限はなく、公知のキャリアを用いてよい。例えば、酸化鉄、ニッケル、コバルト等の磁性金属、フェライト、マグネタイト等の磁性酸化物や、これら芯材表面に樹脂被覆層を有する樹脂コートキャリア、磁性分散型キャリア等が挙げられる。また、マトリックス樹脂に導電材料などが分散された樹脂分散型キャリアであってもよい。
【0136】
前記二成分現像剤における、トナーとキャリアとの混合比(質量比)は、トナー:キャリア=1:100乃至30:100程度の範囲が望ましく、3:100乃至20:100程度の範囲がより望ましい。
【0137】
<画像形成装置、画像形成方法>
本実施形態の画像形成装置は、潜像保持体と、前記潜像保持体表面を帯電する帯電手段と、前記潜像保持体表面に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、前記静電潜像を本実施形態の現像剤により現像してトナー像を形成する現像手段と、前記トナー像を記録媒体に転写する転写手段と、前記記録媒体に前記トナー像を定着する定着手段と、を備える。
本実施形態の画像形成装置により、潜像保持体表面を帯電する帯電工程と、帯電された前記潜像保持体表面に静電潜像を形成する静電潜像形成工程と、前記静電潜像を本実施形態の現像剤により現像してトナー像を形成する現像工程と、前記トナー像を記録媒体に転写する転写工程と、前記記録媒体に前記トナー像を定着する定着工程と、を有する本実施形態の画像形成方法が実施される。
【0138】
本実施形態の画像形成装置において、例えば前記現像手段を含む部分が、画像形成装置本体に対して着脱可能なカートリッジ構造(プロセスカートリッジ)であってもよい。該プロセスカートリッジとしては、本実施形態の現像剤を収納し、潜像保持体表面に形成された静電潜像を前記現像剤により現像してトナー像を形成する現像手段を備え、画像形成装置に着脱される本実施形態のプロセスカートリッジが好適に用いられる。
【0139】
以下、本実施形態の画像形成装置の一例を示すが、本実施形態はこれに限定されるわけではない。尚、図に示す主用部を説明し、その他はその説明を省略する。
図2は、4連タンデム方式のカラー画像形成装置を示す概略構成図である。図2に示す画像形成装置は、色分解された画像データに基づくイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色の画像を出力する電子写真方式の第1乃至第4の画像形成ユニット10Y、10M、10C、10K(画像形成手段)を備えている。これらの画像形成ユニット(以下、単に「ユニット」ということがある。)10Y、10M、10C、10Kは、水平方向に互いに予め定められた距離離間して並設されている。なお、これらユニット10Y、10M、10C、10Kは、画像形成装置本体に対して着脱可能なプロセスカートリッジであってもよい。
【0140】
各ユニット10Y、10M、10C、10Kの図中における上方には、各ユニットを通して中間転写体としての中間転写ベルト20が延設されている。中間転写ベルト20は、中間転写ベルト20内面に接する駆動ローラ22および支持ローラ24に巻回されて設けられ、第1ユニット10Yから第4ユニット10Kに向う方向に走行されるようになっている。尚、支持ローラ24は、図示しないバネ等により駆動ローラ22から離れる方向に付勢されており、両者に巻回された中間転写ベルト20に予め定められた張力が与えられている。また、中間転写ベルト20の潜像保持体側面には、駆動ローラ22と対向して中間転写体クリーニング装置30が備えられている。
また、各ユニット10Y、10M、10C、10Kの現像装置(現像手段)4Y、4M、4C、4Kのそれぞれには、トナーカートリッジ8Y、8M、8C、8Kに収容されたイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のトナーが供給可能である。
【0141】
上述した第1乃至第4ユニット10Y、10M、10C、10Kは、同等の構成を有しているため、ここでは中間転写ベルト走行方向の上流側に配設されたイエロー画像を形成する第1ユニット10Yについて代表して説明する。尚、第1ユニット10Yと同等の部分に、イエロー(Y)の代わりに、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)を付した参照符号を付すことにより、第2乃至第4ユニット10M、10C、10Kの説明を省略する。
【0142】
第1ユニット10Yは、潜像保持体として作用する感光体1Yを有している。感光体1Yの周囲には、感光体1Yの表面を予め定められた電位に帯電させる帯電ローラ2Y、帯電された表面を色分解された画像信号に基づくレーザ光線3Yによって露光して静電潜像を形成する露光装置3、静電潜像に帯電したトナーを供給して静電潜像を現像する現像装置(現像手段)4Y、現像したトナー像を中間転写ベルト20上に転写する1次転写ローラ(1次転写手段)5Y、および1次転写後に感光体1Yの表面に残存するトナーを除去する感光体クリーニング装置(クリーニング手段)6Yが順に配設されている。
尚、1次転写ローラ5Yは、中間転写ベルト20の内側に配置され、感光体1Yに対向した位置に設けられている。更に、各1次転写ローラ5Y、5M、5C、5Kには、1次転写バイアスを印加するバイアス電源(図示せず)がそれぞれ接続されている。各バイアス電源は、図示しない制御部による制御によって、各1次転写ローラに印加する転写バイアスを可変する。
【0143】
以下、第1ユニット10Yにおいてイエロー画像を形成する動作について説明する。まず、動作に先立って、帯電ローラ2Yによって感光体1Yの表面が−600V以上−800V以下程度の電位に帯電される。
感光体1Yは、導電性(20℃における体積抵抗率:1×10−6Ωcm以下)の基体上に感光層を積層して形成されている。この感光層は、通常は高抵抗(一般の樹脂程度の抵抗)であるが、レーザ光線3Yが照射されると、レーザ光線が照射された部分の比抵抗が変化する性質を持っている。そこで、帯電した感光体1Yの表面に、図示しない制御部から送られてくるイエロー用の画像データに従って、露光装置3を介してレーザ光線3Yを出力する。レーザ光線3Yは、感光体1Yの表面の感光層に照射され、それにより、イエロー印字パターンの静電潜像が感光体1Yの表面に形成される。
【0144】
静電潜像とは、帯電によって感光体1Yの表面に形成される像であり、レーザ光線3Yによって感光層の被照射部分の比抵抗が低下し、感光体1Yの表面の帯電した電荷が流れ、一方、レーザ光線3Yが照射されなかった部分の電荷が残留することによって形成される、いわゆるネガ潜像である。
このようにして感光体1Y上に形成された静電潜像は、感光体1Yの走行に従って予め定められた現像位置まで回転される。そして、この現像位置で、感光体1Y上の静電潜像が、現像装置4Yによって可視像(現像像)化される。
【0145】
現像装置4Y内に収納されているイエロー現像剤は、現像装置4Yの内部で攪拌されることで摩擦帯電し、感光体1Y上に帯電した帯電荷と同極性(負極性)の電荷を有して現像剤ロール(現像剤保持体)上に保持されている。そして感光体1Yの表面が現像装置4Yを通過していくことにより、感光体1Y表面上の除電された潜像部にイエロートナーが静電的に付着し、潜像がイエロートナーによって現像される。イエローのトナー像が形成された感光体1Yは、引続き予め定められた速度で走行され、感光体1Y上に現像されたトナー像が予め定められた1次転写位置へ搬送される。
【0146】
感光体1Y上のイエロートナー像が1次転写位置へ搬送されると、1次転写ローラ5Yに予め定められた1次転写バイアスが印加され、感光体1Yから1次転写ローラ5Yに向かう静電気力がトナー像に作用され、感光体1Y上のトナー像が中間転写ベルト20上に転写される。このとき印加される転写バイアスは、トナーの極性(−)と逆極性(+)の極性であり、例えば第1ユニット10Yでは制御部(図示せず)によって+10μA程度に制御されている。
一方、感光体1Y上に残留したトナーはクリーニング装置6Yで除去されて回収される。
【0147】
また、第2ユニット10M以降の1次転写ローラ5M、5C、5Kに印加される1次転写バイアスも、第1ユニットに準じて制御されている。
こうして、第1ユニット10Yにてイエロートナー像の転写された中間転写ベルト20は、第2乃至第4ユニット10M、10C、10Kを通して順次搬送され、各色のトナー像が重ね合わされて重ね合わせトナー像が形成される。
【0148】
第1乃至第4ユニットを通して4色のトナー像が重ね合わされた中間転写ベルト20は、中間転写ベルト20と中間転写ベルト20内面に接する支持ローラ24と中間転写ベルト20の像保持面側に配置された2次転写ローラ(2次転写手段)26とから構成された2次転写部へと至る。一方、記録紙(被転写体)Pが供給機構を介して2次転写ローラ26と中間転写ベルト20とが圧接されている隙間に予め定められたタイミングで給紙され、予め定められた2次転写バイアスが支持ローラ24に印加される。このとき印加される転写バイアスは、トナーの極性(−)と同極性(−)の極性であり、中間転写ベルト20から記録紙Pに向かう静電気力が重ね合わせトナー像に作用され、中間転写ベルト20上の重ね合わせトナー像が記録紙P上に転写される。尚、この際の2次転写バイアスは2次転写部の抵抗を検出する抵抗検出手段(図示せず)により検出された抵抗に応じて決定されるものであり、電圧制御されている。
【0149】
この後、記録紙Pは定着装置(定着手段)28へと送り込まれ重ね合わせトナー像が加熱され、色重ねしたトナー像が溶融されて、記録紙P上へ定着される。カラー画像の定着が完了した記録紙Pは、排出部へ向けて搬送ロール(排出ロール)32により搬送され、一連のカラー画像形成動作が終了される。
尚、上記例示した画像形成装置は、中間転写ベルト20を介して重ね合わせトナー像を記録紙Pに転写する構成となっているが、この構成に限定されるものではなく、感光体から直接トナー像が記録紙に転写される構造であってもよい。
【0150】
<プロセスカートリッジ、トナーカートリッジ>
図3は、本実施形態の現像剤を収納するプロセスカートリッジの好適な一例を示す概略構成図である。プロセスカートリッジ200は、感光体107とともに、帯電装置108、現像装置111、感光体クリーニング装置(クリーニング手段)113、露光のための開口部118、及び除電露光のための開口部117を取り付けレール116を用いて組み合わせ、そして一体化したものである。
上記プロセスカートリッジ200は、転写装置112と、定着装置115と、図示しない他の構成部分とから構成される画像形成装置本体に対して着脱自在としたものであり、画像形成装置本体とともに画像形成装置を構成するものである。300は記録紙である。
【0151】
図3で示すプロセスカートリッジ200では、感光体107、帯電装置108、現像装置111、感光体クリーニング装置113、露光のための開口部118、及び、除電露光のための開口部117を備えているが、これら装置は選択的に組み合わせてもよい。本実施形態のプロセスカートリッジでは、現像装置111のほかには、感光体107、帯電装置108、感光体クリーニング装置113、露光のための開口部118、及び、除電露光のための開口部117から構成される群から選択される少なくとも1種を備えてもよい。
【0152】
次に、トナーカートリッジについて説明する。
トナーカートリッジは、画像形成装置に着脱可能に装着され、少なくとも、前記画像形成装置内に設けられた現像手段に供給するためのトナーを収容するトナーカートリッジにおいて、前記トナーが既述した本実施形態のトナーとしたものである。なお、トナーカートリッジには少なくともトナーが収容されればよく、画像形成装置の機構によっては、例えば現像剤が収められてもよい。
【0153】
なお、図2に示す画像形成装置は、トナーカートリッジ8Y、8M、8C、8Kの着脱が可能な構成を有する画像形成装置であり、現像装置4Y、4M、4C、4Kは、各々の現像装置(色)に対応したトナーカートリッジと、図示しない現像剤供給管で接続されている。また、トナーカートリッジ内に収納されている現像剤が少なくなった場合には、このトナーカートリッジを交換することができる。
【実施例】
【0154】
以下、実施例を挙げて本実施形態を具体的に説明するが、本実施形態は以下に示す実施例にのみ限定されるものではない。実施例中において「部」及び「%」は、特に断りのない限り「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0155】
<ポリエステル樹脂の物性の測定方法>
〔軟化温度の測定〕
軟化温度は、高化式フローテスターCFT−500(島津製作所社製)を用い、ダイスの細孔の径を0.5mm、加圧荷重を0.98MPa(10Kg/cm)、昇温速度を1℃/分とした条件下で、1cmの試料を溶融流出させたときの流出開始点から終了点の高さの1/2に相当する温度として求めた。
【0156】
〔ガラス転移温度の測定〕
熱分析装置DSC−20(セイコー電子工業製)を用い、試料10mgを一定の昇温速度(10℃/分)で加熱して測定した。
【0157】
〔重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定〕
装置HLC−8120GPC、SC−8020(東ソー製)と、カラムTSKgel SuperHM−H (6.0mmID×15cm×2本)(東ソー製)とを用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いた。実験条件は、試料濃度0.5%、流速0.6ml/分、注入量10μl、温度40℃とし、RI検出器を用いて検出した。検量線は東ソー製「Polystyrene標準試料TSK standard」:「A−500」、「F−1」、「F−10」、「F−80」、「F−380」、「A−2500」、「F−4」、「F−40」、「F−128」、「F−700」の10サンプルから作製した。
【0158】
〔酸価の測定〕
酸価は、JIS K0070に記載の中和滴定法に従って測定した。即ち、適当量の試料を分取し、溶剤(ジエチルエーテル/エタノール混合液)100ml及び指示薬(フェノールフタレイン溶液)数滴を加え、水浴上で試料が完全に溶けるまで十分に振り混ぜた。これに、0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、指示薬の薄い紅色が30秒間続いたときを終点とした。酸価は、式:A=(B×f×5.611)/Sから算出した。ここに、A:酸価、B:滴定に用いた0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、f:0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液のファクター、S:試料の質量(g)である。
【0159】
〔SP値の算出〕
SP値は、前述したとおり、Fedorの方法に従って算出した。
【0160】
<特定ロジンジオールの合成>
2官能エポキシ化合物としてビスフェノールAジグリシジルエーテル(三菱化学(株)製、jER828)113部、ロジン200部、及び反応触媒としてトリフェニルホスフィン(東京化成工業(株)製)0.4部を、撹拌装置、加熱装置、冷却管、及び温度計を備えたステンレス製反応容器に仕込み、130℃に温度を上げ、ロジンのカルボキシル基とエポキシ化合物のエポキシ基との開環反応を行った。同温度で4時間継続して行い、酸価が0.5mgKOH/gになった時点で反応を停止し、特定ロジンジオールを得た。
【0161】
ここでロジンとしては、精製ロジンとして蒸留による精製処理(蒸留条件:6.6kPa、220℃)を行ったガムロジン(荒川化学工業(株)製、パインクリスタルKR614)、不均化ロジン(Wuzhou社製、Disproportionated rosin)、又は水素化ロジン(Pinova社製、Foral AX)をそれぞれ使用し、3種類の特定ロジンジオールを得た。
精製ロジンを用いて得た特定ロジンジオールは、例示化合物(1)であり、不均化ロジンを用いて得た特定ロジンジオールは、例示化合物(18)であり、水素化ロジンを用いて得た特定ロジンジオールは、例示化合物(38)である。
【0162】
<実施例1>
(特定ポリエステルの合成)
アルコール成分として、水素化ロジンを用いて合成した特定ロジンジオール270部、及び1,6−ヘキサンジオール(和光純薬工業(株)製)30部、酸成分としてイソフタル酸(和光純薬工業(株)製)50部、及び3−ドデセニル無水コハク酸(新日本理化(株)製)53部、反応触媒としてテトラ−n−ブチルチタネート(東京化成工業(株)製)0.3部を、攪拌装置、加熱装置、温度計、分留装置、及び窒素ガス導入管を備えたステンレス製反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、攪拌しながら230℃で7時間重縮合反応させ、所定の分子量、酸価に達したことを確認し、特定ポリエステル(1)を合成した。
合成した特定ポリエステル(1)を2g取り、重ジメチルスルホキシド10mlと水酸化ナトリウムの重メタノール溶液(7N)2ml中で150℃、3時間加熱し、加水分解させた。その後、重水を加え、H−NMR測定を行い、特定ロジンジオール、1,6−ヘキサンジオール、イソフタル酸、及び3−ドデセニル無水コハク酸で仕込み値どおり樹脂が構成されていることを確認した。
特定ポリエステル(1)のSP値、分子量、酸価、ガラス転移温度、及び軟化温度の測定結果を表1に示す。
【0163】
<実施例2〜16>
(特定ポリエステルの合成)
実施例1と同様の方法で、表1に示す酸成分及びアルコール成分を用いて特定ポリエステル(2)〜(16)の合成を行った。
特定ポリエステル(2)〜(16)のSP値、分子量、酸価、ガラス転移温度、及び軟化温度の測定結果を表1に示す。
【0164】
<比較例1〜3>
(比較用ポリエステルの合成)
実施例1と同様の方法で、表1に示す酸成分及びアルコール成分を用いて比較用ポリエステル(C1)〜(C3)の合成を行った。
比較用ポリエステル(C1)〜(C3)のSP値、分子量、酸価、ガラス転移温度、及び軟化温度の測定結果を表1に示す。
【0165】
表1中の「BPA−PO」は「ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物」を意味し、「BPA−EO」は「ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物」を意味する。
【0166】
【表1】



【0167】
<特定ポリエステルの樹脂粒子分散液の調製>
高温・高圧乳化装置(キャビトロンCD1010、スリット0.4mm)の乳化タンクに、特定ポリエステル(1)3000部、イオン交換水10000部、界面活性剤ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム90部を投入した後、130℃に加熱溶融後、110℃で流量3L/分にて10000回転で30分間分散させ、冷却タンクを通過させて非晶性樹脂粒子分散液(高温・高圧乳化装置(キャビトロンCD1010 スリット0.4mm)を回収し、非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(a1)を得た。
【0168】
<第2ポリエステルの合成例、その樹脂粒子分散液の調製>
加熱乾燥した3口フラスコに、1、9−ノナンジオール160部と、1,10−ドデカンニ酸138部と、触媒としてジブチル錫オキサイド0.05部とを入れた後、減圧操作により容器内の空気を窒素ガスにより不活性雰囲気下とし、機械攪拌にて180℃で2時間攪拌を行った。その後、減圧下にて230℃まで徐々に昇温を行い5時間攪拌し、粘稠な状態となったところで空冷し、反応を停止させ、結晶性ポリエステル樹脂(B1)を合成した。この樹脂の溶融温度Tmは74℃であった。
その後、非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(a1)の調製と同じ条件にて高温・高圧乳化装置(キャビトロンCD1010、スリット0.4mm)を用い、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(b1)を得た。
【0169】
<着色剤粒子分散液の調製>
下記の材料を混合し、溶解し、高圧衝撃式分散機アルティマイザー((株)スギノマシン製、HJP30006)を用いて約1時間分散して、着色剤(シアン顔料)を分散させてなる着色剤分散液を調製した。着色剤分散液における着色剤(シアン顔料)の平均粒径は0.13μm、着色剤粒子濃度は25%であった。
・シアン顔料 :100部
(大日精化(株)製、Pigment Blue 15:3(銅フタロシアニン))
・アニオン性界面活性剤(第一工業製薬(株)製、ネオゲンRK): 15部
・イオン交換水 :900部
【0170】
<離型剤粒子分散液の調製>
(離型剤粒子分散液(c1)の調製)
下記の材料を110℃に加熱して、ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタラックスT50)を用いて分散した後、マントンゴーリン高圧ホモジナイザー(ゴーリン社製)で分散処理し、平均粒径が0.21μmである離型剤を分散させてなる離型剤分散液(離型剤濃度26%)を調製した。
・脂肪酸エステル(日油(株)製、WEP−5) : 50部
・アニオン性界面活性剤(第一工業製薬(株)製、ネオゲンRK): 5部
・イオン交換水 :200部
【0171】
(離型剤粒子分散液(c2)の調製)
下記の材料を95℃に加熱して、ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタラックスT50)を用いて分散した後、マントンゴーリン高圧ホモジナイザー(ゴーリン社製)で分散処理し、平均粒径が0.18μmである離型剤を分散させてなる離型剤分散液(離型剤濃度21.5%)を調製した。
・パラフィンワックス(日本精蝋(株)製、HNP−9) : 50部
・アニオン性界面活性剤(第一工業製薬(株)製、ネオゲンRK): 5部
・イオン交換水 :200部
【0172】
(離型剤粒子分散液(c3)の調製)
下記の材料を100℃に加熱して、ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタラックスT50)を用いて分散した後、マントンゴーリン高圧ホモジナイザー(ゴーリン社製)で分散処理し、平均粒径が0.2μmである離型剤を分散させてなる離型剤分散液(離型剤濃度20%)を調製した。
・カルナバワックス(東亜化成(株)製、RC−160) : 50部
・アニオン性界面活性剤(第一工業製薬(株)製、ネオゲンRK): 5部
・イオン交換水 :200部
【0173】
<実施例101>
(トナー粒子の作製)
下記の材料を丸型ステンレス製フラスコ中に収容して、ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタラックスT50)を用いて分散した後、加熱用オイルバス中で42℃まで加熱し30分保持した後、凝集粒子が形成されていることを確認した段階で、追加の非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(a1)100部を添加後、更に30分保持した。
・非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(a1): 90部
・結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(b1): 10部
・着色剤粒子分散液 : 50部
・離型剤粒子分散液(c1) : 60部
・界面活性剤水溶液 : 10部
・0.3M硝酸水溶液 : 50部
・イオン交換水 :500部
【0174】
続いて、ニトリロ3酢酸Na塩(中部キレスト社製、キレスト70)を全液の3%となるように添加した。その後1Nの水酸化ナトリウム水溶液をpH7.2に到達するまで穏やかに添加した後、攪拌を継続しながら85℃まで加熱し、3時間保持した。その後、反応生成物を濾過し、イオン交換水で洗浄した後、真空乾燥機を用いて乾燥してトナー粒子(1)を得た。トナー粒子(1)の粒子径をコールターマルチサイザーにて測定したところ、体積平均粒径D50は3.9μm、粒度分布係数GSDは1.22であった。
【0175】
(トナーの作製)
トナー粒子(1)100部に、シリカ粒子(ゾルゲル法により得られ、ヘキサメチルジシラザンによる表面処理量5%、平均一次粒径120nmであるシリカ粒子)3部、及びシリカ粒子(日本アエロジル社製、R972)1部を加え、5リットルヘンシェルミキサーを用い、周速30m/秒で15分間混合処理を行った後、45μmの目開きの篩を用いて粗大粒子を除去し、トナー(1)を得た。
【0176】
(現像剤の作製)
メチルメタクリレート−スチレン共重合体で被覆した粒径50μmのフェライトからなるキャリアを用意し、当該キャリア100部に対してトナー(1)を7部添加し、タンブラーシェーカーミキサーで混合して現像剤(1)を得た。なお、トナー(1)とキャリアとを混合する際の環境条件を夏場環境(30℃、相対湿度85%)、冬場環境(5℃、相対湿度10%)とした。
【0177】
〔評価〕
(定着性の評価)
富士ゼロックス製DocuCentreColor500改造機に現像剤を装填し、28℃/85%RHの環境下で、富士ゼロックス社製カラー用紙(J紙)に画像密度1%のプリントテストチャートで10000枚の画像形成を行った。画像の表面を目視で観察し、紙送り用ロールのマーク筋の有無を下記基準により評価した。結果を表2に示す。
A:ロールマークの筋が全く見えない。
B:ロールマークの筋が9000枚までは見えないが、10000枚目で僅かに見える。
C:ロールマークの筋が5000枚から僅かに見える
D:ロールマークの筋が5000枚からはっきり見える。
【0178】
(帯電性の評価)
東芝製ブローオフ帯電量測定機を用いて、夏場環境で混合した現像剤と冬場環境で混合した現像剤とについて、それぞれのトナーの帯電量(μC/g)の測定を行い、両者の比率を求めた。両者の比率は1に近い程、望ましい結果である。結果を表2に示す。
なお、トナーは負帯電であるところ、表2中、帯電量(μC/g)は絶対値を示す。
【0179】
<実施例102〜116>
(トナー粒子、トナー、現像剤の作製)
特定ポリエステル(1)を特定ポリエステル(2)〜(16)のいずれかに変えたこと以外は実施例101と同様の方法でトナー粒子(2)〜(16)、トナー(2)〜(16)、現像剤(2)〜(16)を得た。
各実施例について、定着性と帯電性の評価を実施例101と同様に行った。結果を表2に示す。
【0180】
<比較例101〜103>
(トナー粒子、トナー、現像剤の作製)
特定ポリエステル(1)を比較用ポリエステル(C1)〜(C3)のいずれかに変えたこと以外は実施例101と同様の方法でトナー粒子(C1)〜(C3)、トナー(C1)〜(C3)、現像剤(C1)〜(C3)を得た。
各比較例について、定着性と帯電性の評価を実施例101と同様に行った。結果を表2に示す。
【0181】
【表2】



【0182】
表2から分かるとおり、実施例は、比較例に比べて、定着性と帯電性に優れていた。
SP値が9.1未満の比較例1は、定着性が悪かった。SP値が9.7超の比較例2は、定着性と帯電性が悪かった。SP値が9.7超で、また、ポリエステル中に特定ロジンジオール成分を含まない比較例3は、画像強度が下がり定着性が悪く、帯電性も悪かった。
【0183】
<実施例201、202>
(トナー粒子、トナー、現像剤の作製)
特定ポリエステル(1)を特定ポリエステル(12)に変え、離型剤粒子分散液(c1)を離型剤粒子分散液(c2)又は(c3)に変えたこと以外は実施例101と同様の方法でトナー粒子(17)、(18)、トナー(17)、(18)、現像剤(17)、(18)を得た。
各実施例について、定着性と帯電性の評価を実施例101と同様に行った。結果を表3に示す。
【0184】
【表3】



【0185】
表3から分かるとおり、実施例201、202は、同じ特定ポリエステルを使用した実施例112と同じ程度に、定着性と帯電性に優れていた。
【符号の説明】
【0186】
1Y,1M,1C,1K,107 感光体(像保持体)
2Y,2M,2C,2K 帯電ローラ
3Y,3M,3C,3K レーザ光線
3 露光装置
4Y,4M,4C,4K,111 現像装置(現像手段)
5Y,5M,5C,5K 1次転写ローラ
6Y,6M,6C,6K,113 感光体クリーニング装置(クリーニング手段)
8Y,8M,8C,8K トナーカートリッジ
10Y,10M,10C,10K ユニット
20 中間転写ベルト
22 駆動ローラ
24 支持ローラ
26 2次転写ローラ(転写手段)
28,115 定着装置(定着手段)
30 中間転写体クリーニング装置
32 搬送ロール(排出ロール)
108 帯電装置
112 転写装置
116 取り付けレール
117 除電露光のための開口部
118 露光のための開口部
200 プロセスカートリッジ
P,300 記録紙(被転写体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分由来の繰り返し単位と、下記一般式(1)で表されるジアルコール成分由来の繰り返し単位と、を含有し、
SP値(溶解性パラメータ)が9.1以上9.7以下である、トナー用ポリエステル樹脂。
【化1】



(一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素、又はメチル基を表わす。L、L及びLはそれぞれ独立に、カルボニル基、エステル基、エーテル基、スルホニル基、置換基を有してもよい鎖状アルキレン基、置換基を有してもよい環状アルキレン基、置換基を有してもよいアリーレン基、及びそれらの組合せからなる群より選ばれる二価の連結基を表し、LとL又はLとLで環を形成してもよい。A及びAは、ロジンエステル基を表わす。)
【請求項2】
重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が10以上13以下である、請求項1に記載のトナー用ポリエステル樹脂。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のトナー用ポリエステル樹脂と、離型剤と、を含むトナー。
【請求項4】
請求項3に記載のトナーを含む現像剤。
【請求項5】
請求項3に記載のトナーを収納し、画像形成装置に着脱されるトナーカートリッジ。
【請求項6】
請求項4に記載の現像剤を収納し、潜像保持体表面に形成された静電潜像を前記現像剤により現像してトナー像を形成する現像手段を備え、画像形成装置に着脱されるプロセスカートリッジ。
【請求項7】
潜像保持体と、前記潜像保持体表面を帯電する帯電手段と、前記潜像保持体表面に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、請求項4に記載の現像剤を収納し、前記潜像保持体表面に形成された前記静電潜像を前記現像剤により現像してトナー像を形成する現像手段と、前記トナー像を記録媒体に転写する転写手段と、前記記録媒体に前記トナー像を定着する定着手段と、を備える画像形成装置。
【請求項8】
潜像保持体表面を帯電する帯電工程と、前記潜像保持体表面に静電潜像を形成する静電潜像形成工程と、前記潜像保持体表面に形成された前記静電潜像を請求項4に記載の現像剤により現像してトナー像を形成する現像工程と、前記トナー像を記録媒体に転写する転写工程と、前記記録媒体に前記トナー像を定着する定着工程と、を有する画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−229419(P2012−229419A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−92445(P2012−92445)
【出願日】平成24年4月13日(2012.4.13)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】