説明

トナー用ポリエステル樹脂及びトナー組成物

【課題】 熱定着方式用の静電荷像現像トナーにおいて、帯電特性と耐久性のバランスに優れるトナーおよびトナー用樹脂を提供する。
【解決手段】 ポリオール成分とポリカルボン酸成分を重縮合させてなるトナー用ポリエステル樹脂において、ポリオール成分の少なくとも一部が、1級水酸基を有するビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物(a)であることを特徴とするトナー用ポリエステル樹脂;並びに、このトナー用ポリエステル樹脂と、着色剤、並びに、必要により離型剤、荷電制御剤、および流動化剤から選ばれる1種以上の添加剤からなるトナー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真、静電記録、静電印刷等に用いられるトナー用ポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
熱定着方式用の静電荷像現像トナー用ポリエステル樹脂は、帯電安定性などの観点から、ポリオール成分の少なくとも一部がビスフェノールAのプロピレンオキサイド(以下、POと記載する。)付加物であるものが用いられることが多い(例えば、特許文献1および2参照)。ビスフェノールAのPO付加物を含むポリオール成分からなるポリエステル樹脂は、ポリオールとポリカルボン酸またはその低級アルキルエステルから、スズ化合物を触媒として用い、縮重合して得られるのが一般的であった。
【特許文献1】特開平11−72959号公報
【特許文献2】特開平5−27478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ビスフェノールAのPO付加物を含むポリエステル樹脂を用いたトナーは、耐久性が十分とは言えなかった。さらに、近年の環境問題の観点からスズ化合物を含まないポリエステル樹脂が望まれているにもかかわらず、スズ化合物以外の触媒を用いると、トナーの耐久性がさらに不十分になる傾向にあった。本発明は、帯電安定性と耐久性に優れたトナー用ポリエステル樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者はこれらの問題点を解決するべく鋭意検討した末、本発明に至った。
すなわち本発明は、ポリオール成分とポリカルボン酸成分を重縮合させてなるトナー用ポリエステル樹脂において、ポリオール成分の少なくとも一部が、1級水酸基を有するビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物(a)であることを特徴とするトナー用ポリエステル樹脂;並びに、このポリエステル樹脂と、着色剤、並びに、必要により離型剤、荷電制御剤、および流動化剤から選ばれる1種以上の添加剤からなるトナー組成物;である。
【発明の効果】
【0005】
本発明のポリエステル樹脂は、ビスフェノールAのPO付加物を含有するにもかかわらず、耐久性に優れ、且つ帯電安定性が良好なトナー用バインダー樹脂である。さらに有害金属であるスズを含まない、安全性が高いトナーを提供することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を詳述する。
本発明のポリオール成分とポリカルボン酸成分を重縮合させてなるトナー用ポリエステル樹脂は、ポリオール成分の少なくとも一部が、1級水酸基を有するビスフェノールAのPO付加物(a)からなる。ポリオール成分が(a)を含有しないと、トナーの耐久性が低下する。
【0007】
1級水酸基を含むビスフェノールAのPO付加物(a)は、片末端または両末端に1級水酸基を有する。(a)のPOの平均付加モル数は、2.8〜5.2が好ましく、3〜4.5がさらに好ましい。平均付加モル数が2.8〜5.2であると、帯電安定性がより良好である。
トナーの耐久性向上という観点から、1級水酸基化率は高い方がよく、好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、とくに好ましくは50%、最も好ましくは60%以上である。30%以上となることで、トナーの耐久性が向上する。
ここで、ビスフェノールAのPO付加物の1級水酸基化率は、平均官能基度として、例えば、NMRから計算すればよい。この末端水酸基の1級化率は、予め試料をエステル化の前処理した後に、1H−NMR法により測定し、算出する。
【0008】
本発明に用いる1H−NMR法の詳細を以下に具体的に説明する。
<試料調製法> 測定試料約30mgを直径5mmのNMR用試料管に秤量し、約0.5mlの重水素化溶媒を加え溶解させる。その後、約0.1mlの無水トリフルオロ酢酸を添加し、分析用試料とする。上記重水素化溶媒としては、例えば、重水素化クロロホルム、重水素化トルエン、重水素化ジメチルスルホキシド、重水素化ジメチルホルムアミド等であり、試料を溶解させることのできる溶媒を適宜選択する。
<NMR測定> 通常の条件で1H−NMR測定を行う。
【0009】
<末端水酸基の1級化率の計算方法> 上に述べた前処理の方法により、ビスフェノールAのPO付加物末端の水酸基は、添加した無水トリフルオロ酢酸と反応してトリフルオロ酢酸エステルとなる。その結果、1級水酸基が結合したメチレン基由来の信号は4.3ppm付近に観測され、2級水酸基が結合したメチン基由来の信号は5.2ppm付近に観測される。末端水酸基の1級化率は次の計算式により算出する。
末端水酸基1級化率(%)=[a/(a+2×b)]×100
但し、式中、aは4.3ppm付近の1級水酸基の結合したメチレン基由来の信号の積分値;bは5.2ppm付近の2級水酸基の結合したメチン基由来の信号の積分値である。
【0010】
この末端1級水酸基を有するビスフェノールAのPO付加物(a)を得る方法としては、特に制限はないが、特定の触媒(α)を用いて付加させる方法等が挙げられる。なお、触媒として、PO付加物の製造に通常用いられる塩基性触媒(水酸化カリウム等)を用いると、末端2級水酸基を有し、1級水酸基を実質的に有しないPO付加物が得られる。
(α)としては、特開2000−344881号公報に記載のものが挙げられ、具体的には、フッ素原子、(置換)フェニル基および/または3級アルキル基が結合したホウ素もしくはアルミニウム化合物(トリフルオロボラン以外)であり、トリフェニルボラン、ジフェニル−t−ブチルボラン、トリ(t−ブチル)ボラン、トリフェニルアルミニウム、ジフェニル−t−ブチルアルミニウム、トリ(t−ブチル)アルミニウム、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、ビス(ペンタフルオロフェニル)−t−ブチルボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)アルミニウム、ビス(ペンタフルオロフェニル)−t−ブチルアルミニウムなどが挙げられる。
これらの中で好ましいものは、トリフェニルボラン、トリフェニルアルミニウム、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)アルミニウムであり、さらに好ましいのはトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)アルミニウムである。
(α)はPO付加時に用いるが、必ずしもPO付加の全段階に用いる必要はなく、後述する通常使用される他の触媒の存在下で一部のPOを付加後、付加反応後期のみに(α)を用いて、残りのPOを付加してもよい。
【0011】
他の触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、炭酸カリウ
ム、トリエチレンジアミンなどの塩基性触媒;三フッ化ホウ素、塩化スズ、トリエチルアルミニウム、へテロポリ酸などの酸触媒;亜鉛ヘキサシアノコバルテート;フォスファゼン化合物などが挙げられる。これらの中では塩基性触媒が好ましい。
POの付加条件についても上記公報に記載の方法と同様でよく、例えば、生成する開環重合体に対して、好ましくは0.0001〜10%、さらに好ましくは0.001〜1%の上記触媒〔(α)または他の触媒〕を用い、通常0〜250℃、好ましくは20〜180℃で反応させる。上記および以下において、%はとくに断りの無い限り重量%を意味する。
【0012】
必要により1級水酸基を有するビスフェノールAのPO付加物(a)と併用されるポリオール成分としては、ポリエステルの分子伸長に用いる2価のアルコール(ジオール)および/または分子分岐、架橋に用いる3価以上の多価アルコールが挙げられる。
ジオールとしては、炭素数2〜36の脂肪族ジオール(エチレングリコール、プロピレングリコール、およびドデカンジオール等);炭素数4〜36のポリアルキレンエーテルグリコール(ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール等);上記炭素数2〜36の脂肪族ジオールの炭素数2〜4のアルキレンオキシド(以下AOと略記する)〔エチレンオキシド(以下EOと略記する)、プロピレンオキシド(以下POと略記する)およびブチレンオキシド等〕付加物(付加モル数1.8〜30);炭素数6〜36の脂環式ジオール(1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等);上記脂環式ジオールの炭素数2〜4のAO付加物(付加モル数1.8〜30);(a)以外のビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールFおよびビスフェノールS等)の炭素数2または4のAO付加物(付加モル数1.8〜30)等が挙げられる。
【0013】
3〜8価またはそれ以上の多価アルコールとしては、炭素数3〜36の3〜8価またはそれ以上の脂肪族多価アルコール(グリセリン、トリエチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールおよびソルビトール等);上記脂肪族多価アルコールの炭素数2〜4のAO付加物(付加モル数2.8〜30);トリスフェノール類(トリスフェノールPA等)の炭素数2〜4のAO付加物(付加モル数2.8〜30);ノボラック樹脂(フェノールノボラックおよびクレゾールノボラック等:平均重合度3〜60)の炭素数2〜4のAO付加物(付加モル数2.8〜30)等が挙げられる。
【0014】
これら(a)以外のポリオール成分の中で、好ましくは、炭素数2〜36の脂肪族ジオール、炭素数4〜36のポリアルキレンエーテルグリコール、脂環式ジオール、炭素数6〜36の脂環式ジオールの炭素数2〜4のAO付加物、ビスフェノール類の炭素数2〜4のAO付加物、およびノボラック樹脂の炭素数2〜4のAO付加物であり、さらに好ましくは、炭素数2〜4の脂肪族ジオール、ビスフェノール類のEO付加物、およびノボラック樹脂の炭素数2〜3のAO(EOおよび/またはPO)付加物である。
【0015】
ポリオール成分中の、ビスフェノールAのPO付加物(a)の好ましい重量比率は40%以上であり、さらに好ましくは45%以上、特に好ましくは50%以上である。40%以上となることで帯電安定性がさらに良好となる。
【0016】
ポリカルボン酸としては、分子伸長に用いる脂肪族(脂環式を含む)および/または芳香族のジカルボン酸;分子分岐、架橋に用いる、3〜6価またはそれ以上の脂肪族(脂環式を含む)ポリカルボン酸および/または3〜6価またはそれ以上の芳香族ポリカルボン酸を組み合わせて使用するのが好ましい。
【0017】
脂肪族(脂環式を含む)ジカルボン酸としては、炭素数2〜50のアルカンジカルボン酸(シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、レパルギン酸、およびセバシン酸等)、炭素数4〜50のアルケンジカルボン酸(ドデセニルコハク酸等のアルケニルコハク酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、およびグルタコン酸等)、などが挙げられる。
芳香族ジカルボン酸としては、炭素数8〜36の芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびナフタレンジカルボン酸等)などが挙げられる。
【0018】
ポリカルボン酸成分のうち、3〜6価またはそれ以上の脂肪族(脂環式を含む)ポリカルボン酸としては、炭素数6〜36の脂肪族トリカルボン酸(ヘキサントリカルボン酸等)、不飽和カルボン酸のビニル重合体[数平均分子量(以下Mnと記載、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による):450〜10000](α−オレフィン/マレイン酸共重合体等)等が挙げられる。
ポリカルボン酸成分のうち、3〜6価またはそれ以上の芳香族ポリカルボン酸としては、炭素数9〜20の芳香族ポリカルボン酸(トリメリット酸、およびピロメリット酸等)、不飽和カルボン酸のビニル重合体[Mn:450〜10000](スチレン/マレイン酸共重合体、スチレン/アクリル酸共重合体、およびスチレン/フマル酸共重合体等)等が挙げられる。
これらのポリカルボン酸の無水物や低級アルキル(炭素数1〜4)エステル(メチルエステル等)も同様に使用できる。
【0019】
これらのポリカルボン酸成分のうち好ましいものは、炭素数2〜50のアルカンジカルボン酸、炭素数4〜50のアルケンジカルボン酸、炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸、および炭素数9〜20の芳香族ポリカルボン酸であり、さらに好ましくは、アジピン酸、炭素数16〜50のアルケニルコハク酸、テレフタル酸、イソフタル酸、マレイン酸、フマル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、およびこれらの併用であり、とくに好ましくは、フマル酸、アジピン酸、テレフタル酸、トリメリット酸、およびこれらの併用である。これらのポリカルボン酸の無水物や低級アルキルエステルも同様に好ましい。
【0020】
また、ポリカルボン酸成分としては、トナーの帯電特性の観点から、芳香族ポリカルボン酸(とくにテレフタル酸)を60モル%以上含有するものが好ましい。さらに好ましくは70モル%以上、とくに好ましくは80モル%以上である。
【0021】
本発明においてポリエステル樹脂は、通常のポリエステル製造法と同様にして製造することができる。例えば、不活性ガス(窒素ガス等)雰囲気中で、反応温度が好ましくは150〜280℃、さらに好ましくは160〜260℃、とくに好ましくは170〜240℃で反応させることにより行うことができる。また反応時間は、重縮合反応を確実に行う観点から、好ましくは30分以上、とくに2〜40時間である。
【0022】
このとき必要に応じてエステル化触媒を使用することもできる。エステル化触媒としては、スズ含有触媒(例えばジブチルスズオキシド)、三酸化アンチモン、チタン含有触媒(例えばチタンアルコキシド、シュウ酸チタン酸カリウム、およびテレフタル酸チタン)、ジルコニウム含有触媒(例えば酢酸ジルコニル)、および酢酸亜鉛等が挙げられる。これらの中で好ましくは、環境安全性の観点から、チタン含有触媒、ジルコニウム含有触媒、および酢酸亜鉛であり、さらに好ましくは、チタン含有触媒であり、とくに好ましくは、チタンアルコキシド、シュウ酸チタン酸カリウム、およびテレフタル酸チタンである。
触媒の添加量は、反応速度が最大になるように適宜決定することが望ましい。添加量としては、得られるポリエステル樹脂に対して、好ましくは10ppm〜1.9%、さらに好ましくは100ppm〜1.7%である。添加量を10ppm以上とすることで反応速度が大きくなり、好ましい。
【0023】
反応末期の反応速度を向上させるために減圧することも有効である。
ポリオール成分とポリカルボン酸成分との反応比率は、水酸基とカルボキシル基の当量比[OH]/[COOH]として、好ましくは2/1〜1/2、さらに好ましくは1.5/1〜1/1.3、とくに好ましくは1.3/1〜1/1.2である。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂のテトラヒドロフラン(THF)可溶分中の分子量500以下の成分は、耐久性の観点から0.6%以下が好ましい。また、THF可溶分のMnは、1000〜20000が好ましい。下限は、さらに好ましくは1200、とくに好ましくは1400であり、上限は、さらに好ましくは14000、とくに好ましくは12000である。Mnが1000〜20000となることで、低温定着性および樹脂の粉砕性のバランスが良好となる。
また同様に、ポリエステル樹脂のTHF可溶分のピークトップ分子量(以下Mpと記載)は、樹脂強度と、低温定着性、および樹脂の粉砕性のバランスの観点から、好ましくは1200〜50000、さらに好ましくは1500〜40000である。
【0025】
なお、上記および以下においてポリエステル樹脂のTHF可溶分の分子量等は、GPCを用いて以下の条件で測定される。
装置 : 東ソー(株)製 HLC−8120
カラム : TSK GEL GMH6 2本 (東ソー(株)製)
測定温度 : 40℃
試料溶液 : 0.25%のTHF溶液
溶液注入量: 100μl
検出装置 : 屈折率検出器
基準物質 : 標準ポリスチレン
得られたクロマトグラム上最大のピーク高さを示す分子量をピークトップ分子量(Mp)と称する。さらに分子量500で分割したときのピーク面積の比率で低分子量物の存在比を評価する。
【0026】
本発明のポリエステル樹脂のガラス転移点(Tg)は、耐熱保存性、低温定着性の点から、好ましくは40〜90℃、さらに好ましくは45〜85℃、特に好ましくは50〜80℃である。
なお上記および以下において、Tgはセイコー電子工業(株)製DSC20、SSC/580を用いて、ASTM D3418−82に規定の方法(DSC法)で測定される。
【0027】
本発明のポリエステル樹脂中のTHF不溶解分は、低温定着性の点から、70%以下が好ましい。白黒トナー用途の場合の下限は、さらに好ましくは1%、とくに好ましくは3%であり、上限は、さらに好ましくは40%、とくに好ましくは30%である。カラートナー用途の場合の下限は、さらに好ましくは0%であり、上限は、さらに好ましくは15%、とくに好ましくは10%である。
THF不溶解分は、以下の方法で求めたものである。
試料0.5gに50mlのTHFを加え、3時間撹拌還流させる。冷却後、グラスフィルターにて不溶解分をろ別し、グラスフィルター上の樹脂分を80℃で3時間減圧乾燥する。グラスフィルター上の乾燥した樹脂分の重量と試料の重量比から、不溶解分を算出する。
【0028】
本発明のトナー組成物は、バインダー樹脂となる本発明のトナー用ポリエステル樹脂と、着色剤、および必要により、離型剤、荷電制御剤、流動化剤等の1種以上の添加剤を含有する。
【0029】
着色剤としては、トナー用着色剤として使用されている染料、顔料等のすべてを使用することができる。具体的には、カーボンブラック、鉄黒、スーダンブラックSM、ファーストイエローG、ベンジジンイエロー、ピグメントイエロー、インドファーストオレンジ、イルガシンレッド、パラニトアニリンレッド、トルイジンレッド、カーミンFB、ピグメントオレンジR、レーキレッド2G、ローダミンFB、ローダミンBレーキ、メチルバイオレットBレーキ、フタロシアニンブルー、ピグメントブルー、ブリリアントグリーン、フタロシアニングリーン、オイルイエローGG、カヤセットYG、オラゾールブラウンBおよびオイルピンクOP等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。また、必要により磁性粉(鉄、コバルト、ニッケル等の強磁性金属の粉末もしくはマグネタイト、ヘマタイト、フェライト等の化合物)を着色剤としての機能を兼ねて含有させることができる。着色剤の含有量は、本発明のポリエステル樹脂100部に対して、好ましくは1〜40部、さらに好ましくは3〜10部である。なお、磁性粉を用いる場合は、好ましくは20〜150部、さらに好ましくは40〜120部である。上記および以下において、部は重量部を意味する。
【0030】
離型剤としては、軟化点が50〜170℃のものが好ましく、ポリオレフィンワックス、天然ワックス、炭素数30〜50の脂肪族アルコール、炭素数30〜50の脂肪酸およびこれらの混合物等が挙げられる。ポリオレフィンワックスとしては、オレフィン(例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−ヘキセン、1−ドデセン、1−オクタデセンおよびこれらの混合物等)の(共)重合体[(共)重合により得られるものおよび熱減成型ポリオレフィンを含む]、オレフィンの(共)重合体の酸素および/またはオゾンによる酸化物、オレフィンの(共)重合体のマレイン酸変性物[例えばマレイン酸およびその誘導体(無水マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチルおよびマレイン酸ジメチル等)変性物]、オレフィンと不飽和カルボン酸[(メタ)アクリル酸、イタコン酸および無水マレイン酸等]および/または不飽和カルボン酸アルキルエステル[(メタ)アクリル酸アルキル(アルキルの炭素数1〜18)エステルおよびマレイン酸アルキル(アルキルの炭素数1〜18)エステル等]等との共重合体、およびサゾールワックス等が挙げられる。
【0031】
天然ワックスとしては、例えばカルナウバワックス、モンタンワックス、パラフィンワックスおよびライスワックスが挙げられる。炭素数30〜50の脂肪族アルコールとしては、例えばトリアコンタノールが挙げられる。炭素数30〜50の脂肪酸としては、例えばトリアコンタンカルボン酸が挙げられる。
【0032】
荷電制御剤としては、ニグロシン染料、3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩、ポリアミン樹脂、イミダゾール誘導体、4級アンモニウム塩基含有ポリマー、含金属アゾ染料、銅フタロシアニン染料、サリチル酸金属塩、ベンジル酸のホウ素錯体、スルホン酸基含有ポリマー、含フッ素系ポリマー、ハロゲン置換芳香環含有ポリマー等が挙げられる。
【0033】
流動化剤としては、コロイダルシリカ、アルミナ粉末、酸化チタン粉末、炭酸カルシウム粉末等が挙げられる。
【0034】
本発明のトナー組成物の組成比は、トナー重量に基づき、本発明のポリエステル樹脂が、好ましくは30〜97%、さらに好ましくは40〜95%、とくに好ましくは45〜92%;着色剤が、好ましくは0.05〜60%、さらに好ましくは0.1〜55%、とくに好ましくは0.5〜50%;添加剤のうち、離型剤が、好ましくは0〜30%、さらに好ましくは0.5〜20%、とくに好ましくは1〜10%;荷電制御剤が、好ましくは0〜20%、さらに好ましくは0.1〜10%、とくに好ましくは0.5〜7.5%;流動化剤が、好ましくは0〜10%、さらに好ましくは0〜5%、とくに好ましくは0.1〜4%である。また、添加剤の合計含有量は、好ましくは3〜70%、さらに好ましくは4〜58%、とくに好ましくは5〜50%である。トナーの組成比が上記の範囲であることで帯電性が良好なものを容易に得ることができる。
【0035】
本発明のトナー組成物は、混練粉砕法、乳化転相法、重合法等の従来より公知のいずれの方法により得られたものであってもよい。例えば、混練粉砕法によりトナーを得る場合、流動化剤を除くトナーを構成する成分を乾式ブレンドした後、溶融混練し、その後粗粉砕し、最終的にジェットミル粉砕機等を用いて微粒化して、さらに分級することにより、粒径(D50)が好ましくは5〜20μmの微粒とした後、流動化剤を混合して製造することができる。なお、粒径(D50)はコールターカウンター[例えば、商品名:マルチサイザーIII(コールター社製)]を用いて測定される。
また、乳化転相法によりトナーを得る場合、流動化剤を除くトナーを構成する成分を有機溶剤に溶解または分散後、水を添加する等によりエマルジョン化し、次いで分離、分級して製造することができる。トナーの体積平均粒径は、3〜15μmが好ましい。
【0036】
本発明のトナー組成物は、必要に応じて鉄粉、ガラスビーズ、ニッケル粉、フェライト、マグネタイト、および樹脂(アクリル樹脂、シリコーン樹脂等)により表面をコーティングしたフェライト等のキャリアー粒子と混合されて電気的潜像の現像剤として用いられる。トナーとキャリアー粒子との重量比は、通常1/99〜100/0である。また、キャリア粒子の代わりに帯電ブレード等の部材と摩擦し、電気的潜像を形成することもできる。
【0037】
本発明のトナー組成物は、複写機、プリンター等により支持体(紙、ポリエステルフィルム等)に定着して記録材料とされる。支持体に定着する方法としては、公知の熱ロール定着方法、フラッシュ定着方法等が適用できる。
【実施例】
【0038】
以下実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0039】
実施例および比較例で得られたトナー用ポリエステル樹脂の性質の測定法を次に示す。
1.酸価および水酸基価
JIS K0070(1992年版)に規定の方法。
なお、試料に架橋にともなう溶剤不溶解分がある場合は、以下の方法で溶融混練後のものを試料として用いた。
混練装置 : 東洋精機(株)製 ラボプラストミル MODEL30R150
混練条件 : 130℃、70rpmにて30分
2.軟化点の測定
フローテスターを用いて、下記条件で等速昇温し、その流出量が1/2になる温度をもって軟化点とした。
装置 : 島津(株)製 フローテスター CFT−500
荷重 : 20kg
ダイ : 1mmΦ−1mm
昇温速度 : 6℃/min.
【0040】
製造例1
[1級水酸基含有ビスフェノールAのPO付加物の合成]
攪拌装置、温度制御装置付きのSUS製オートクレーブに、ビスフェノールAのPO2モル付加物(三洋化成工業(株)社製ニューポールBP−2P)581部とトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン0.1部を仕込み、プロピレンオキサイド108部を、反応温度が70〜80℃で12時間かけて滴下した後、75℃で6時間熟成した。次に、水酸化ナトリウム水溶液で中和した後、3.0gの合成珪酸塩(キョーワード600、協和化学(株)製)と水を加えて60℃で3時間処理した。オートクレーブより取り出した後、1ミクロンのフィルターで濾過した後脱水し、ビスフェノールAのPO3.3モル付加物(a1)を得た。(a1)の水酸基価は133.7、1H−NMRケミカルシフトδ値(溶媒:CDCl3)の測定結果から末端水酸基の1級水酸基化率を求めたところ、74%であった。
【0041】
実施例1
冷却管、撹拌機および窒素導入管の付いた反応槽中に、製造例1で得られたビスフェノールA・PO3.3モル付加物(a1)758部(11.5モル)、テレフタル酸243部(9.25モル)、無水トリメリット酸15部(0.5モル)、および縮合触媒としてテトラブトキシチタネート3部を入れ、230℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら5時間反応させた。次いで5〜20mmHgの減圧下に反応させ、酸価が2になった時点で180℃に冷却し、無水トリメリット酸34部(1.1モル)を加え、常圧密閉下2時間反応後取り出し、室温まで冷却後、粉砕し粒子化した。これをポリエステル(1)とする。
(1)のガラス転移温度は60℃、酸価は20、水酸基価は20、Mpは7500、Mnは4100、Mwは18500、分子量500以下の成分は0.5%であった。また10000Pa・sを示す温度は115℃、THF不溶解分は0%であった。
なお、( )内のモル数は、各原料の相対的なモル比を示すために記載したものである
〔以下同様〕。
【0042】
実施例2
冷却管、撹拌機および窒素導入管の付いた反応槽中に、1,2−プロピレングリコール(以下、単にプロピレングリコールと記載する)415部(21.0モル)、ビスフェノールA・PO3.3モル付加物(a1)541部(5.0モル)、テレフタル酸ジメチルエステル442部(8.75モル)、アジピン酸19部(0.5モル)、無水トリメリット酸25部(0.5モル)、および縮合触媒としてテトラブトキシチタネート3部を入れ、180℃で窒素気流下に、生成するメタノールを留去しながら8時間反応させた。次いで230℃まで徐々に昇温しながら、窒素気流下に、生成するプロピレングリコール、水を留去しながら4時間反応させ、さらに5〜20mmHgの減圧下に1時間反応させた。回収されたプロピレングリコールは297部(15.0モル)であった。次いで180℃まで冷却し、無水トリメリット酸35部(0.7モル)を加え、常圧密閉下2時間反応後取り出し、室温まで冷却後、粉砕し粒子化した。これをポリエステル(2)とする。
(2)のガラス転移温度は60℃、酸価は20、水酸基価は22、Mpは6500、Mnは3800、Mwは15500、分子量500以下の成分は0.3%であった。また10000Pa・sを示す温度は116℃、THF不溶解分は0%であった。
【0043】
比較例1
冷却管、撹拌機および窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールA・PO2.0モル付加物(1級水酸基化率=0.04%)728部(11.5モル)、テレフタル酸279部(9.25モル)、無水トリメリット酸17部(0.5モル)、および縮合触媒としてテレフタル酸チタン3部を入れ、230℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら5時間反応させた。次いで5〜20mmHgの減圧下に反応させ、酸価が2になった時点で180℃に冷却し、無水トリメリット酸27部(1.0モル)を加え、常圧密閉下2時間反応後取り出し、室温まで冷却後、粉砕し粒子化した。これをポリエステル(3)とする。
(3)のガラス転移温度は74℃、酸価は16、水酸基価は19、Mpは6700、Mnは4600、Mwは18800、分子量500以下の成分は1.1%であった。また10000Pa・sを示す温度は121℃、THF不溶解分は0%であった。
【0044】
実施例3
本発明のポリエステル樹脂(1)、(2)および比較のポリエステル樹脂(3)それぞれ100部に対して、シアニンブルーKRO(山陽色素製)8部、カルナバワックス5部を加え下記の方法でトナー化した。
まず、ヘンシェルミキサ[三井三池化工機(株)製 FM10B]を用いて予備混合した後、二軸混練機[(株)池貝製 PCM−30]で混練した。ついで超音速ジェット粉砕機ラボジェット[日本ニューマチック工業(株)製]を用いて微粉砕した後、気流分級機[日本ニューマチック工業(株)製 MDS−I]で分級し、粒径D50が8μmのトナー粒子を得た。ついで、トナー粒子100部にコロイダルシリカ(アエロジルR972:日本アエロジル製)0.5部をサンプルミルにて混合して、本発明のトナー(T1)、(T2)および比較トナー(T3)を得た。
下記評価方法で評価した評価結果を表1に示す。
【0045】
表1の結果から、本発明のトナーは比較のトナーに比べ、MFTからHOTまでの範囲、および帯電特性は、同等またはそれ以上であり、耐久性に優れることがわかる。
【0046】
【表1】

【0047】
[評価方法]
トナー30部とフェライトキャリア(パウダーテック社製、f−150)800部を均一に混合し2成分現像剤とし、以下の評価を実施した。
〔1〕最低定着温度(MFT)
市販複写機(AR5030;シャープ製)を用いて現像した未定着画像を、市販複写機(AR5030;シャープ製)の定着機を用いて評価した。定着画像をパットで擦った後の画像濃度の残存率が70%以上となる定着ロール温度をもって最低定着温度とした。
〔2〕ホットオフセット発生温度(HOT)
上記MFTと同様に定着評価し、定着画像へのホットオフセットの有無を目視で評価した。ホットオフセットが発生した定着ロール温度をもってホットオフセット発生温度とした。
〔3〕飽和帯電量の測定及び帯電量の立ち上がりの評価
上記現像剤を23℃、50%R.H.で8時間以上調湿した後、ターブラーシェーカーミキサーにて50rpm×1,3,7,20,60及び120分間摩擦攪拌し、それぞれの時間毎に帯電量を測定した。測定にはブローオフ帯電量測定装置[東芝ケミカル(株)製]を用いた。帯電量の増加がなくなった摩擦時間の帯電量をもって飽和帯電量とした。
帯電量の立ち上がりの評価基準としては、上記帯電量測定結果を基に以下の基準で評価した。
A:飽和帯電量の80%の帯電量に到達する摩擦時間が7分未満のもの
B:飽和帯電量の80%の帯電量に到達する摩擦時間が7分以上20分未満のもの
C:飽和帯電量の80%の帯電量に到達する摩擦時間が20分以上60分未満のもの
D:飽和帯電量の80%の帯電量に到達する摩擦時間が60分以上のもの
〔4〕連続複写試験
上記現像剤を用いて、市販複写機[AR5030、シャープ(株)製]を用いて現像した未定着画像を、市販フルカラー複写機[LBP−2160、キヤノン(株)製]の定着ユニットを用いてプロセススピード80mm/secで定着した。
評価基準
A:8000枚連続複写後も画像良好のもの
B:8000枚連続複写後、画質低下がややみられるもの
C:8000枚連続複写後、画質低下が明らかにみられるもの
D:複写初期から画像不良のもの
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のポリエステル樹脂を用いた本発明のトナーは、優れた帯電特性を有している上に耐久性にも優れるので、静電荷像現像用トナー、とくにカラートナーとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール成分とポリカルボン酸成分を重縮合させてなるトナー用ポリエステル樹脂において、ポリオール成分の少なくとも一部が、1級水酸基を有するビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物(a)であることを特徴とするトナー用ポリエステル樹脂。
【請求項2】
(a)が末端水酸基中に30〜100モル%の1級水酸基を有する請求項1記載のトナー用ポリエステル樹脂。
【請求項3】
(a)のプロピレンオキサイドの平均付加モル数が2.8〜5.2である請求項1または2記載のトナー用ポリエステル樹脂。
【請求項4】
チタン含有触媒の存在下に重縮合させてなる請求項1〜3のいずれか記載のトナー用ポリエステル樹脂。
【請求項5】
テトラヒドロフラン可溶分の数平均分子量が1000〜20000である請求項1〜4のいずれか記載のトナー用ポリエステル樹脂。
【請求項6】
ポリカルボン酸成分が60モル%以上の芳香族ポリカルボン酸からなる請求項1〜5のいずれか記載のポリエステル樹脂。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載のトナー用ポリエステル樹脂と、着色剤、並びに、必要により離型剤、荷電制御剤、および流動化剤から選ばれる1種以上の添加剤からなるトナー組成物。
【請求項8】
カラー用である請求項7記載のトナー組成物。

【公開番号】特開2006−17954(P2006−17954A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−194850(P2004−194850)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】