説明

トナー用ポリエステル樹脂及び静電荷現像用トナー

【課題】ポリエステル樹脂を結着樹脂とする静電荷像現像用トナーにおいて、低温定着性、耐ブロッキング性、耐オフセット性等のトナー特性に優れた静電荷像現像用トナー及びこのトナーに用いるトナー用ポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】トナーの結着樹脂として、酸成分が(1)芳香族ジカルボン酸及び(2)不均化ロジンから構成され、アルコール成分が(3)3価以上の多価アルコールから構成され、前記アルコール成分(3)及び酸成分(1)のモル比(3)/(1)が1.05〜1.65であり、前記酸成分(2)及び(1)のモル比(2)/(1)が0.40〜2.60である、ポリエステル樹脂を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法等を利用して静電荷像を現像するために用いられる静電荷像現像用トナー、この静電荷像現像用トナーに用いられるトナー用ポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子写真法として種々の方法が知られているが、一般に電子写真法を用いて可視画像を得るには、光導電性物質等の感光体上に種々の手段で静電潜像(静電荷像)を形成させ、次いで、この静電潜像を、粉末インク(トナー)を含む現像剤により現像し、必要に応じ、紙等の画像支持体上に転写した後、加熱等により定着させる方法が採られている。
【0003】
上記静電潜像を現像する方法としては、結着樹脂(トナー用樹脂)中に着色剤、必要に応じ、磁性体等が分散された粉体トナーを担体(キャリア)粒子と共に用いる方法、結着樹脂中に磁性体が分散された磁性トナーを用い、キャリア粒子を用いることなく現像を行う方法等の乾式現像法が主として採用されている。
【0004】
近年、電子写真法を利用した複写機、レーザープリンタの高速化、省エネルギー化が強く要請されており、またトナーも低温定着性の優れたものが求められている。トナーの定着性を改善するためには、一般に溶融時のトナーの粘度を低下させて定着基材との接着面積を大きくする必要があり、そのため従来使用するトナー用樹脂の軟化温度(Tm)を低下させることが有効である。しかし、一般にTmを下げると、同時にトナーのガラス転移温度(Tg)も低下するため、トナーが保存状態で塊を形成する、いわゆるトナーブロッキングや、定着時のトナーのオフセットを起こし易くなることが知られており、このことが、定着温度を思い通りに下げられない原因の一つとなっている。
【0005】
この低温定着性と、耐ブロッキング性あるいは耐オフセット性を同時に満足させる方法として、ロジン系化合物を利用したポリエステル系樹脂が提案されており、例えば、アルコール成分として2価アルコールを用い、酸成分としてロジンと不飽和ジカルボン酸及び他のジカルボン酸からなる、非線状架橋型ポリエステル樹脂(特許文献1参照)、アルコール成分と、精製ロジンを含有したカルボン酸成分とを重縮合させたポリエステル(特許文献2参照)、特定のアルコール成分と、精製ロジンを含有したカルボン酸成分とを重縮合させたポリエステル(特許文献3参照)等が報告されている。
【特許文献1】特開平4−70765号公報
【特許文献2】特開2007−137910号公報
【特許文献3】特開2007−137911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者の研究によれば、ロジン系化合物は低温定着性の向上には有効であるものの、近年の複写機、レーザープリンタの高速化、省エネルギー化により、定着工程での定着時間の短縮化及び定着器から供給される加熱温度の低温化から、従来のトナー用ポリエステル樹脂では市場の要求に対して十分ではないことが知見された。
【0007】
従来からポリエステル樹脂をトナーの結着樹脂として用いて、特性の良好な静電荷像現像用トナーを製造する試みがなされてきているが、低温定着性、耐ブロッキング性、耐オフセット性等の特性が更に一層優れたトナー用ポリエステル樹脂の開発が望まれた。
【0008】
このような状況に鑑み、本発明の目的は、低温定着性、耐ブロッキング性、耐オフセット性等のトナー特性により一層優れたトナー用ポリエステル樹脂及び静電荷現像用トナーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成した。
すなわち、本発明の要旨は、次のとおりである。
1. 酸成分が(1)芳香族ジカルボン酸及び(2)不均化ロジン、アルコール成分が(3)3価以上の多価アルコールから構成され、前記アルコール成分(3)及び酸成分(1)のモル比(3)/(1)が1.05〜1.65であり、前記酸成分(2)及び(1)のモル比(2)/(1)が0.40〜2.60であることを特徴とするトナー用ポリエステル樹脂。
2. 上記及び下記の何れかに記載のトナー用ポリエステル樹脂において、芳香族ジカルボン酸成分は、テレフタル酸及びイソフタル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることを特徴とするトナー用ポリエステル樹脂。
3. 上記及び下記の何れかに記載のトナー用ポリエステル樹脂において、3価以上の多価アルコール成分は、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン及びペンタエリスリトールからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることを特徴とするトナー用ポリエステル樹脂。
4. 上記及び下記の何れかに記載のトナー用ポリエステル樹脂において、酸成分として、脂肪族ポリカルボン酸が更に含まれることを特徴とするトナー用ポリエステル樹脂。
5. 上記及び下記の何れかに記載のトナー用ポリエステル樹脂において、アルコール成分として、脂肪族ジオール及びエーテル化ジフェノールからなる群より選ばれる少なくとも1種が更に含まれることを特徴とするトナー用ポリエステル樹脂。
6. 上記及び下記の何れかに記載のトナー用ポリエステル樹脂において、酸価が5〜50mgKOH/g、軟化温度が105〜150℃、ガラス転移温度が45〜80℃であることを特徴とするトナー用ポリエステル樹脂。
7. 上記及び下記の何れかに記載のトナー用ポリエステル樹脂を含む静電荷現像用トナー。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、近年の複写機、レーザープリンタの高速化、省エネルギー化によるような、定着工程での定着時間の短縮化及び定着器から供給される加熱温度の低温化の際にも、低温定着性、耐ブロッキング性や耐オフセット性等のようなトナー特性が十分に満たされ得る優れたトナー用ポリエステル樹脂、及び静電荷現像用トナーを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、ポリエステル樹脂において、トナー特性に優れた性能を発揮させるという目的を、酸成分としての芳香族ジカルボン酸及び不均化ロジン、アルコール成分としての3価以上の多価アルコールの性能を最大限に生かすことにより、取り扱いの容易性や生産性を損なわずに実現させたものである。
【0012】
以下、本発明を更に詳細に説明する。まず、本発明では、トナー用ポリエステル樹脂は、(a)酸成分としての(1)芳香族ジカルボン酸及び(2)不均化ロジン、(b)アルコール成分としての(3)3価以上の多価アルコールから構成されている点に大きな特徴を有する。具体的には、ポリエステル樹脂は、(1)芳香族ジカルボン酸と(3)3価以上の多価アルコールとを反応させて得られる分岐を有するポリオール構造を持ち、そのポリオールの水酸基に(2)不均化ロジンのカルボキシル基を反応させて得られるポリエステル樹脂である。
【0013】
本発明において、(a)の酸成分として用いられる芳香族ジカルボン酸は、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、5-tert-ブチル-1,3-ベンゼンジカルボン酸及びこれらの酸無水物、低級アルキルエステル等のような誘導体等が挙げられる。これらの中でも、特にテレフタル酸、イソフタル酸及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。テレフタル酸及びイソフタル酸は、それらの低級アルキルエステルを用いても良く、テレフタル酸及びイソフタル酸の低級アルキルエステルの例としては、例えば、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、イソフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジブチル、イソフタル酸ジブチル等があるが、コスト及び取り扱い(ハンドリング)の点で、テレフタル酸ジメチルやイソフタル酸ジメチルが好ましい。これらのジカルボン酸又はその低級アルキルエステルは、単独で用いられても、2種以上が併用されても良い。テレフタル酸及びイソフタル酸は芳香環を有しているため、樹脂のTm及びTgをトナー用樹脂として適切な範囲に調整することができ、耐オフセット性及び耐ブロッキング性が良好となり、また、樹脂に適度な強度を与えることができる。
【0014】
一方、(a)の酸成分として用いられる不均化ロジンは、ロジンを従来知られた何れの製法により得られたものでも良い。
【0015】
ロジンとは、松類から得られる天然樹脂であり、その主成分は、アビエチン酸、パラストリン酸、ネオアビエチン酸、ピマル酸、デヒドロアビエチン酸、イソピマル酸、サンダラコピマル酸等の樹脂酸及びこれらの混合物である。
【0016】
ロジンは、パルプを製造する工程で副産物として得られる粗トール油から得られるトールロジン、生松ヤニから得られるガムロジン、松の切株から得られるウッドロジン等に大別される。
【0017】
不均化ロジンとは、主成分としてアビエチン酸を含むロジンを貴金属触媒あるいはハロゲン触媒の存在下で高温加熱することによって、分子内の不安定な共役二重結合を消失させたもので、主成分として、デヒドロアビエチン酸とジヒドロアビエチン酸との混合物である。本発明で用いる不均化ロジンの成分としては、デヒドロアビエチン酸を45重量%以上含有したものが好ましく、50重量%以上含有したものが特に好ましい。不均化ロジンは、ヒドロフェナンスレン環を有する多縮合環状モノカルボン酸であり、その嵩高(バルキー)で剛直な骨格のために、Tgがほとんど低下せず、耐ブロッキング性が良好となる。また、モノカルボン酸であるため、得られる樹脂の分子量分布を広くすることができ、特に低分子量側に大きく広がった樹脂が得られるために、トナーの低温定着性を著しく向上させることができる。更に、不均化ロジンをポリエステルの必須成分として導入することにより、トナー製造時の粉砕性が向上する効果が期待できる。不均化ロジンの酸価は、100〜200mgKOH/gが好ましく、130〜180mgKOH/gがより一層好ましく、150〜180mgKOH/gが更に好ましい。(2)不均化ロジンと(1)芳香族ジカルボン酸のモル比は、(2)/(1)=0.40〜2.60であることが好ましい。(2)不均化ロジンと(1)芳香族ジカルボン酸のモル比が0.40より低い場合には、Tgが極端に低下し、トナーの耐ブロッキング性が悪くなる傾向があり、また、2.60を超える場合にはTmが高くなり過ぎて、低温定着性が低下する傾向が出てくる。より一層好ましくは、(2)/(1)=0.80〜2.20である。
【0018】
本発明においては、(b)のアルコール成分として用いる3価以上の多価アルコールは、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン及びペンタエリスリトールからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。これら3価以上の多価アルコールは、本発明における(a)の酸成分として用いられる芳香族ジカルボン酸と反応し、適度な分岐を有するポリオール構造を形成する。ポリエステル樹脂に適度な分岐構造を与えることにより、樹脂のTmを上げ過ぎずに低温定着性を維持するとともに、高分子量側へ広い分子量分布を得ることができ、耐オフセット性が良好になる。(3)3価以上の多価アルコールと(1)芳香族ジカルボン酸のモル比は、(3)/(1)=1.05〜1.65であることが好ましい。モル比(3)/(1)が1.05よりも低い場合には、高分子量側への分子量分布が広くなり過ぎてTmが高くなるため、低温定着性が低下し、又は高分子量側への分子量分布の広がりを制御できなくなり、ゲル化を起こし易くなる。また、1.65を超える場合には、分岐の少ないポリエステル樹脂となり、結果としてTm及びTgが低下し、耐ブロッキング性が低下する傾向が出てくる。
【0019】
本発明においては、(a)の酸成分として、脂肪族ポリカルボン酸を更に用いることができる。脂肪族ポリカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等のアルキルジカルボン酸類; 炭素数16〜18のアルキル基で置換されたコハク酸; フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸等の不飽和ジカルボン酸類; ダイマー酸等が挙げられる。ダイマー酸は、不飽和脂肪酸を重合して得られる重合ジカルボン酸を主成分とするものであり、このものの製法としては、リノール酸を多く含む大豆油脂肪酸やトール油脂肪酸のような不飽和脂肪酸を少量の水の存在下に加圧・加熱し、異性化とディールスアルダー反応とを起こさせるのが一般的であるが、他にもルイス酸型触媒、リチウムで安定化した粘土、過酸化物触媒等を利用しても合成することができる。ここで得られるダイマー酸は主成分である二量体のほか単量体と三量体からなる混合物であり、使用目的に応じて混合比率の異なるものを適宜選択使用することができる。これら脂肪族ポリカルボン酸類は適宜の量で用いることにより、トナーの低温定着性向上に大きく寄与する。ただし、多量に用いた場合、Tgの大幅な低下がみられ、耐ブロッキング性に大きく影響を与えるため、トナーの要求性能を勘案して適宜の量で用いられる。脂肪族ポリカルボン酸の量は、好ましくは酸成分(1)の100モルに対し、0.5〜15モル、より一層好ましくは1〜13モルで良い。
【0020】
本発明においては、(a)の酸成分として芳香族ジカルボン酸、不均化ロジン、脂肪族ポリカルボン酸以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、3価以上の芳香族ポリカルボン酸も更に用いることができる。3価以上の芳香族ポリカルボン酸としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸やその無水物等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上を併用しても良い。3価以上の芳香族ポリカルボン酸としては、反応性の観点から、無水トリメリット酸が好ましい。3価以上の芳香族ポリカルボン酸の量としては、好ましくは酸成分(1)の100モルに対し、0.1〜5モル、より一層好ましくは0.5〜3モルである。
【0021】
更に、本発明においては、(b)のアルコール成分として、脂肪族ジオール及びエーテル化ジフェノールからなる群より選ばれる少なくとも1種を更に用いることができる。脂肪族ジオールの例としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブテンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-メチルプロパン-1,3-ジオール、2-ブチル-2-エチルプロパン-1,3-ジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,4-ジメチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,7-へプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロピル-3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロパノエート、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。脂肪族ジオールとしては、酸との反応性及び樹脂のガラス転移温度の観点から、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコールが好ましい。これら脂肪族ジオールは単独で用いても、二種以上を併用しても良い。また、本発明において、脂肪族ジオールとともに、エーテル化ジフェノールを更に用いても良い。エーテル化ジフェノールとは、ビスフェノールAとアルキレンンオキサイドを付加反応させて得られるジオールであり、該アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイドであり、該アルキレンオキサイドの平均付加モル数がビスフェノールAの1モルに対して2〜16モルであるものが好ましい。脂肪族ジオールの量は、酸成分(1)の100モルに対し、5〜20モルが好ましい。また、エーテル化ジフェノールの量は、酸成分(1)の100モルに対し、5〜35モルが好ましい。
【0022】
本発明のトナー用ポリエステル樹脂は、前記所定の酸成分、アルコール成分を原料として、公知慣用の製造方法によって調製され、その反応方法としては、エステル交換反応又は直接エステル化反応の何れも適用可能である。また、加圧して反応温度を高くする方法、減圧法又は常圧下で不活性ガスを流す方法によって重縮合を促進することもできる。上記反応においては、アンチモン、チタン、スズ、亜鉛、アルミニウム及びマンガンより選ばれる少なくとも1種の金属化合物等、公知慣用の反応触媒が用いられ、反応が促進されても良い。これら反応触媒の添加量は、酸成分とアルコール成分の総量100重量部に対して、0.01〜1.0重量部が好ましい。
【0023】
本発明のトナー用ポリエステル樹脂の製造方法においては、上記種々の反応中、常圧でも直接エステル化法を採用することができる。この直接エステル化法においては、例えば、アルコール成分は反応開始時に全量を仕込み、160℃程度まで昇温してから酸成分を仕込む。アンチモン、チタン、スズ、亜鉛、アルミニウム及びマンガンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物等用い、添加量は酸成分とアルコール成分の総量100重量部に対して、0.05〜0.5重量部がより一層好ましい。この場合は、常圧でも充分な反応速度が得られるが、加圧操作を適用して反応温度を高くすることもできる。減圧操作による反応の促進は、反応の終期において、未反応のアルコールがほとんどなくなり、生成水の系外への除去が遅くなったような場合に適用される。不活性ガスを通じることによる反応の促進は、それによるアルコールの系外への散逸を最小限に止める程度の量で、反応のどの過程にも適用可能である。また、反応は樹脂の軟化点が所定の温度になったことを確認して終了される。
【0024】
以上の構成からなる本発明のトナー用ポリエステル樹脂は、好ましくは、酸価が5〜50mgKOH/g、より一層好ましくは10〜45mgKOH/g、軟化温度が105〜150℃、より一層好ましくは110〜145℃、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される数平均分子量が1,000〜6,000、より一層好ましくは1,500〜4,000であることが望ましい。これは、軟化温度が105℃未満では、樹脂の凝集力が極端に低下し、一方、150℃を超えるとその樹脂を使用したトナーの溶融流動及び低温定着性が低下する傾向があり、高速複写機用トナー結着樹脂には適さなくなり得るからである。また、酸価が5mgKOH/g未満ではトナーの負帯電性が小さくなって、画像濃度が低下し、これに対し酸価が50mgKOH/gを超える場合には、特に低湿環境において、トナーの負帯電性が大きくなり過ぎてカブリが発生し、また親水性が大きくなるため特に高湿環境において画像濃度が低下することがある。ポリエステル樹脂の数平均分子量が小さくなると、トナーの耐オフセット性が低下する傾向にあり、また、数平均分子量が大きくなると定着性が低下する傾向を示す。また、ポリエステル樹脂は、特定の低分子量の縮重合体成分と特定の高分子量の縮重合体成分とからなる2山の分子量分布曲線を有する種類(タイプ)、あるいは1山の単分子量分布曲線を有するタイプの何れのものであっても良い。また、好ましくは、本発明のトナー用ポリエステル樹脂は、示差走査熱量計(DSC)によって測定されるガラス転移温度(Tg)が45〜80℃であり、50〜75℃であるものが望ましい。Tgが45℃を下回る場合には、トナーの耐ブロッキング性が低下して、トナーが凝集を起こすことがある。また、Tgが80℃を超える場合には、低温定着性が低下することがあり、好ましくない。
【0025】
本発明の静電荷像現像用トナーは、上記のポリエステル樹脂を必須成分の結着樹脂として含有することができ、またそれとともに、更に必要に応じ着色剤及び荷電制御剤等が適宜配合される。本発明の静電荷像現像用トナーの結着樹脂は、上記のポリエステル樹脂単独でも良いが、上記のポリエステル樹脂の2種以上が併用されても良い。更に、本発明の目的を達成することができる範囲で、ポリスチレン系重合体、スチレン-アクリル系樹脂等のポリスチレン系共重合体、上記ポリエステル樹脂以外のポリエステル樹脂等、従来トナー用結着樹脂として使用されている樹脂が上記ポリエステル樹脂とともに用いられても良い。
【0026】
本発明の静電荷像現像用トナーには、正又は負の電荷制御剤が必要に応じ添加されても良い。電荷制御剤の代表的な例として、黒トナーにおいては、正帯電性トナー用にはニグロシン、負帯電性トナー用にはモノアゾ染料金属塩等が挙げられる。フルカラートナーにおいては、正帯電性トナー用には四級アンモニウム塩類、イミダゾール金属錯体類、負帯電性トナー用にはサリチル酸金属錯体類、有機ホウ素塩類等が挙げられる。これら荷電制御剤は荷電制御剤の種類に応じ適宜の量で用いられれば良く、例えば、上記サリチル酸金属錯体であれば、通常結着樹脂100重量部に対し0.1〜10重量部程度の量で用いられる。
【0027】
本発明の静電荷像現像用トナーにおいては従来より知られている着色剤が何れも使用可能である。これらの着色剤の例としては、黒用着色剤として、カーボンブラック、アニリンブラック、アセチレンブラック、鉄黒等が、またカラー用着色剤として、フタロシアニン系、ローダミン系、キナクリドン系、トリアリルメタン系、アントラキノン系、アゾ系、ジアゾ系、メチン系、アリルアミド系、チオインジゴ系、ナフトール系、イソインドリノン系、ジケトピロロピロール系、ベンズイミダゾロン系等の各種染顔料化合物、これらの金属錯化合物、レーキ化合物等が挙げられる。これらは単独であるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0028】
本発明の静電荷像現像用トナーには、離型剤が添加されても良い。このような離型剤としては、低分子量ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成ワックス、パラフィンワックス、カルナバワックス、ライスワックス、モンタンワックス、蜜蝋等の天然ワックス等が挙げられる。
【0029】
また、本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、必要に応じ磁性粉体が内添され、磁性トナーとされても良い。これらトナーに内添される磁性粉体としては、従来磁性トナーの製造において使用されている強磁性の元素を含む合金、酸化物、化合物等の粉体の何れのものも用いることができる。これら磁性粉体の例としては、マグネタイト、マグへマイト、フェライト等の磁性酸化鉄又は二価金属と酸化鉄との化合物、鉄、コバルト、ニッケルのような金属あるいはこれらの金属のアルミニウム、コバルト、銅、鉛、マグネシウム、スズ、亜鉛、アンチモン、ベリリウム、ビスマス、カドミウム、カルシウム、マンガン、セレン、チタン、タングステン、バナジウムのような金属の合金の粉体、及びこれら粉体の混合物が挙げられる。これらの磁性粉体は、平均粒径が0.05〜2.0μmが好ましく、0.1〜0.5μm程度のものがより一層好ましい。また、磁性粉体のトナー中の含有量は、好ましくは、熱可塑性樹脂100重量部に対して、約5〜200重量部、より一層好ましくは10〜150重量部である。本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、磁性粉体は、着色剤としても機能するものであり、磁性粉体を用いた場合には、他の着色剤を用いなくても良いが、必要であれば、例えば、カーボンブラック、銅フタロシアニン、鉄黒等をともに用いても良い。
【0030】
本発明の静電荷像現像用トナーには、流動性改良等を目的とした外添剤が添加されても良い。これら外添剤の例としては、シリカ、アルミナ、チタニア等の無機微粒子、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂微粒子、乳化重合で製造されたアクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂の微粒子が挙げられる。
【0031】
本発明においては、前記のシリカ、アルミナ、チタニア等の無機微粒子は疎水化処理されたものを用いるのが好ましい。これら微粒子の疎水化処理として、シリコンオイルやテトラメチルジシラザン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジメトキシシラン等のシランカップリング剤による処理等が挙げられる。疎水化処理されたシリカ等、疎水化微粒子の使用量は、好ましくは現像剤重量当り、0.01〜20重量%、より一層好ましくは0.03〜5重量%である。
【0032】
本発明の静電荷像現像用トナーにおけるトナー粒子の重量平均粒径は3〜15μmであることが好ましく、現像特性の観点からは、トナーの重量平均粒径が4〜11μmであることがより一層好ましい。なお、トナーの粒度分布測定は、例えば、コールターカウンターを用いて行うことができる。
【0033】
本発明の静電荷像現像用トナーを構成するトナー粒子は、従来から公知のトナー粒子の製造方法を用いて製造することができる。一般的には、上述したようなトナー粒子の構成材料となる結着樹脂、荷電制御剤、着色剤等を、乾式ブレンダー、ボールミル、へンシェルミキサー等の混合機により充分予備混合した後、熱ロール、ニーダー、一軸あるいは二軸のエクストルーダー等の熱混練機を用いて良く混練し、冷却固化後、ハンマーミル等の粉砕機を用いて機械的に粗粉砕し、次いでジェットミル等により微粉砕した後、分級する方法が好ましい方法として挙げられる。分級されたトナーは、必要に応じ、外添剤とともにヘンシェルミキサー等の混合機を用いて十分に混合され、本発明の静電荷像現像用トナーとされる。
【0034】
本発明の静電荷像現像用トナーは、キャリアと混合して二成分系現像剤として用いることができる。本発明のトナーとともに用いることのできるキャリアとしては、従来公知のキャリアが何れも使用できる。使用することができるキャリアとしては、例えば、鉄粉、フェライト粉、ニッケル粉のような磁性粉体やガラスビーズ等が挙げられる。これらのキャリア粒子は、必要に応じ、表面を樹脂等で被覆処理したものであっても良い。キャリア表面を被覆する樹脂としては、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸エステル共重合体、フッ素含有樹脂、シリコン含有樹脂、ポリアミド樹脂、アイオノマー樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等、あるいはこれらの混合物が挙げられる。これらの中では、スペントトナーの形成が少ないため、フッ素含有樹脂、シリコン含有樹脂が特に好ましいものである。
【0035】
本発明の静電荷像現像用トナーは、従来公知の電子写真、静電記録あるいは静電印刷法等により形成された静電荷像を現像するための何れの現像方法あるいは現像装置に対しても適用できる。また本発明の静電荷像現像用トナーは、低温定着性、耐オフセット性に優れているため、小型の電子写真複写機あるいは電子写真方式を利用したプリンタ等に多用されている、加熱体を内包する加熱ローラと、加熱ローラに圧接する加圧ローラからなる定着器でトナーを加熱定着する方式あるいは加熱体が定着ベルトを介して加圧ローラと対向圧接している定着器でトナーを加熱定着する方式を採用した画像形成方法において好ましく用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何等制限されるものではない。なお、以下においては、部数は全て重量部を表す。
【0037】
以下の実施例及び比較例における樹脂の酸価、ガラス転移温度(Tg)、軟化温度(Tm)は以下のとおりのものである。
(酸価)
酸価は、試料1g中に含まれる酸基を中和するために必要な水酸化カリウムのミリグラム数をいう。
(ガラス転移温度)
ガラス転移温度は、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製DSC-6220)を用いて、昇温速度20℃/分で測定した時のTg以下のベースラインの延長線と、Tg近傍の吸熱カーブの接線の交点の温度をいう。
(軟化温度)
軟化温度は、高架式フローテスター(島津製作所社製CFT-500D)を用いて、測定条件を荷重30kg、ノズルの直径1mm、ノズルの長さ10mm、予備加熱80℃で5分間、昇温速度3℃/分とし、サンプル量1gとして測定した時、フローテスターのプランジャー降下量が4mmのときの温度をいう。
【0038】
(実施例1)
ポリエステル樹脂原料アルコール成分としてグリセリン288g、原料酸成分としてイソフタル酸334g、不均化ロジン(酸価157.2mgKOH/g)1528g及び反応触媒としてテトラ-n-ブチルチタネート1.72g(酸成分とアルコール成分の総量100重量部に対して、0.080重量部)を、撹拌装置、加熱装置、温度計、分留装置、窒素ガス導入管を備えたステンレス製反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、撹拌しながら250℃で10時間重縮合反応させ、フローテスターにより所定の軟化温度に達したことを確認し、反応を終了した。得られたポリエステル樹脂Aの特性値を表1に示す。
【0039】
(実施例2〜5)
表1に示す配合割合とすることを除き、実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂B、C、D、Eを作成した。得られたポリエステル樹脂の特性値を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
(比較例1〜6)
表2に示す配合割合とすることを除き、実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂F、G、H、I、J、Kを作成した。得られたポリエステル樹脂の特性値を表2に併せて示す。
【0042】
【表2】

【0043】
(実施例6)
実施例1のポリエステル樹脂Aを用い、表3に示す材料を均一に混合した後、混練、粉砕、分級して、平均粒径7.4μmの負帯電性トナー粒子を作成した。次いで、このトナー粒子100部に対し、ジメチルジクロロシランで処理したシリカ微粉体1.0部を添加、混合してトナーを作成した。
【0044】
【表3】

【0045】
(試験例1)[低温定着性及び耐オフセット性]
このトナーを市販のレーザープリンタを用いて現像し、未定着画像を作成した。得られた未定着画像を熱圧ロールの構造を有する市販の複写機の定着器を装置外での定着が可能なように改良した外部定着器(定着スピード:250mm/秒)を用いて、定着ロールの温度を100℃から240℃へと5℃ずつ上昇させながら未定着画像を定着させ、定着試験を行った。
【0046】
各定着温度で得られた画像を消しゴム(トンボ鉛筆MONO(商標))で摺擦し、[摺擦後の画像濃度/摺擦前の画像濃度]×100で計算した値が最初に85%を超える定着ロールの温度を最低定着温度とし、以下の基準に従って、低温定着性を評価した。また、ホットオフセット発生温度も同時に確認し、以下の基準に従って耐オフセット性を評価した。結果を表4に示す。
【0047】
[低温定着性の評価]
次の基準に従った。◎:最低定着温度が150℃以下、○:最低定着温度が150℃を超え、180℃以下、×:最低定着温度が180℃を超える。
[耐オフセット性の評価]
次の基準に従った。◎:ホットオフセット発生温度が240℃以上、○:ホットオフセット発生温度が190℃以上、220℃未満、×:ホットオフセット発生温度が180℃未満。
【0048】
(試験例2)[耐ブロッキング性試験]
トナー40gを200mLのガラス製容器に密閉し、50℃の恒温槽に24時間放置した。放置後、トナーの凝集の発生を観察し、以下の評価基準に従って耐ブロッキング性を評価した。結果を表4に併せて示す。
【0049】
[耐ブロッキング性の評価]
次の基準に従った。◎:トナーの凝集は全く認められない、○:トナーの凝集が僅かに認められる、×:明らかに凝集が認められる。
【0050】
(実施例7〜10及び比較例7〜12)
実施例6と同様にして、実施例2〜5のポリエステル樹脂B、C、D、Eを用い、実施例7〜10のトナーを得て、試験例1及び試験例2に従い、低温定着性、耐オフセット性、耐ブロッキング性を評価した。結果を表4に併せて示す。
【0051】
【表4】

【0052】
以上詳述したように、本発明の静電荷像現像用トナーは、トナーの結着樹脂として、酸成分が芳香族ジカルボン酸及び不均化ロジン、アルコール成分が3価以上の多価アルコールから構成されたポリエステル樹脂を用いることによって、従来と同様あるいはそれ以上の低温定着性、耐ブロッキング性、耐オフセット性等の特性を有するトナーを得ることができる。
【0053】
これにより、トナー分級品の貯蔵安定性が向上する上、現像時トナーの流動性の低下、トナーのブロッキング等も起きず、現像の立ち上がり当初から長期にわたり良好な現像画像を形成することができる。更に、本発明の静電荷像現像用トナーを用いて形成されたトナー画像を定着ローラ、定着ベルトを介して定着する際にオフセットの発生は見られず、低温定着性も良好であるので、装置の小型化、省エネ化を図ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
ポリエステル樹脂において、トナー特性に優れた性能を発揮させることができるので、酸成分としての芳香族ジカルボン酸及び不均化ロジン、アルコール成分としての3価以上の多価アルコールの性能を最大限に生かす用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸成分が(1)芳香族ジカルボン酸及び(2)不均化ロジン、アルコール成分が(3)3価以上の多価アルコールから構成され、前記アルコール成分(3)及び酸成分(1)のモル比(3)/(1)が1.05〜1.65であり、前記酸成分(2)及び(1)のモル比(2)/(1)が0.40〜2.60であることを特徴とするトナー用ポリエステル樹脂。
【請求項2】
芳香族ジカルボン酸成分は、テレフタル酸及びイソフタル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることを特徴とする請求項1記載のトナー用ポリエステル樹脂。
【請求項3】
3価以上の多価アルコール成分は、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン及びペンタエリスリトールからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることを特徴とする請求項1又は2記載のトナー用ポリエステル樹脂。
【請求項4】
酸成分として、脂肪族ポリカルボン酸が更に含まれることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載のトナー用ポリエステル樹脂。
【請求項5】
アルコール成分として、脂肪族ジオール及びエーテル化ジフェノールからなる群より選ばれる少なくとも1種が更に含まれることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項記載のトナー用ポリエステル樹脂。
【請求項6】
酸価が5〜50mgKOH/g、軟化温度が105〜150℃、ガラス転移温度が45〜80℃であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項記載のトナー用ポリエステル樹脂。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項記載のトナー用ポリエステル樹脂を含む静電荷現像用トナー。




【公開番号】特開2010−20170(P2010−20170A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181738(P2008−181738)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000230364)日本ユピカ株式会社 (14)
【Fターム(参考)】