説明

トナー用ポリエステル

【課題】折り曲げに対する強度が強い定着画像が得られるトナーに用いられるポリエステル、該トナー用ポリエステルを含有した電子写真用トナー、及び該トナーを使用した画像形成方法を提供すること。
【解決手段】ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物を60モル%以上含有するアルコール成分と、カルボン酸成分とを縮重合して得られる、軟化点(Tm)が130〜160℃のトナー用ポリエステルであって、メチルエチルケトン不溶分が(Tm-110)×1.1重量%以上、(Tm-110)×3重量%以下であるトナー用ポリエステル、該トナー用ポリエステルを含有してなる電子写真用トナー、並びに該電子写真用トナーを線速100mm/sec以上の画像形成装置を用いて画像形成を行う、画像形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像に用いられるトナーの結着樹脂として用いられるトナー用ポリエステル、該ポリエステルを含有した電子写真用トナー、及び該トナーを使用した画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オンデマンド印刷に要望が高まり、トナーには高速化・高画質化が要求されている。このため、トナーは定着性及び耐久性という相反する物性を満たすことが必要となる。そこで、かかる観点から、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物と、イソフタル酸及びテレフタル酸をほぼ等モル含有する芳香族カルボン酸との線状もしくは低架橋重縮合物を結着樹脂として含有したトナー(特許文献1、2参照)や、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物とテレフタル酸とを縮重合させて得られたポリエステルが知られている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2001−215755号公報
【特許文献2】特開2001−265063号公報
【特許文献3】特開2005−49766号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、トナーの印字濃度が高い画像を線速が100mm/sec以上の高速機で定着させたり、厚紙等に印刷したりする場合には、従来のトナーでは定着性、特に、定着画像の折り曲げに対する強度が不足する。即ち、折り曲げ強度が弱い定着画像は、印刷部を折り曲げると、その部分のトナーが紙等から剥離してしまい、画像品質に劣る。
【0004】
本発明の課題は、折り曲げに対する強度が強い定着画像が得られるトナーに用いられるポリエステル、該トナー用ポリエステルを含有した電子写真用トナー、及び該トナーを使用した画像形成方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
〔1〕 ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物を60モル%以上含有するアルコール成分と、カルボン酸成分とを縮重合して得られる、軟化点(Tm)が130〜160℃のトナー用ポリエステルであって、メチルエチルケトン不溶分が(Tm-110)×1.1重量%以上、(Tm-110)×3重量%以下であるトナー用ポリエステル、
〔2〕 前記〔1〕記載のトナー用ポリエステルを含有してなる電子写真用トナー、並びに
〔3〕 前記〔2〕記載の電子写真用トナーを線速100mm/sec以上の画像形成装置を用いて画像形成を行う、画像形成方法
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリエステルを含有したトナーを用いて得られる画像は、トナーの印字濃度が高い画像を高速機で定着させる際や、厚紙に定着させる際にも、折り曲げに対して良好な強度を有するという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、特定の軟化点を有するトナー用ポリエステルにおいて、メチルエチルケトン不溶分が特定の範囲に調整されている点に1つの特徴を有する。定着画像の折り曲げ強度を改善するための要因として、ポリエステルの軟化点が考えられる。しかしながら、軟化点の低いポリエステルは樹脂が脆いため折り曲げに対する強度が低く、ポリエステルの軟化点が高くなると、定着後の紙への浸透が不十分であり、定着画像の層厚が厚い部分ができ、十分な折り曲げ強度が得られない。従って、軟化点の調整のみで折り曲げ強度を改善することは困難である。そこで、本発明者らが検討した結果、軟化点を適度に高い範囲に調整し、さらに、メチルエチルケトン不溶分、即ち高分子量成分の量を特定の範囲内に調整することにより、定着画像の折り曲げ強度が高くなることが判明した。かかる観点から、本発明のトナー用ポリエステルの軟化点は、130〜160℃であり、好ましくは130〜140℃、より好ましくは133〜138℃であり、ポリエステルの軟化点をTmとすると、メチルエチルケトン不溶分は、(Tm-110)×1.1重量%以上、(Tm-110)×3.0重量%以下であり、好ましくは(Tm-110)×1.5重量%以上、(Tm-110)×2.5重量%以下である。本発明のポリエステルは、軟化点のみに着目すると折り曲げ強度の改善には不十分であるが、メチルエチルケトン不溶分量を上記範囲内に調整することにより、折り曲げ強度が改善される。具体的には、メチルエチルケトン不溶分は、20〜100重量%が好ましく、30〜60重量%がより好ましい。
【0008】
軟化点とメチルエチルケトン不溶分が上記関係を満足する本発明のポリエステルに含まれるメチルエチルケトン不溶分は、示差走査熱量測定(DSC)において特有の熱特性、即ち
(I) メチルエチルケトン不溶分を固化乾燥させた後、該固化乾燥させたメチルエチルケトン不溶分を0℃から160℃まで昇温速度10℃/minで加熱しながら測定する示差走査熱量測定(DSC-I測定)において、100〜120℃に、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度を有すること、及び
(II) メチルエチルケトン不溶分を固化乾燥させて、0℃から160℃まで昇温速度10℃/minで加熱した後、0℃まで降温速度10℃/minで冷却した前記固化乾燥させたメチルエチルケトン不溶分を、再度0℃から160℃まで昇温速度10℃/minで加熱しながら測定する示差走査熱量測定(DSC-II測定)において、60〜80℃に、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度を有すること
を備えていることが好ましい。本発明において、メチルエチルケトン不溶分は後述の実施例に記載の方法により測定されるものである。
【0009】
(I)は、メチルエチルケトン不溶分のDSC-I測定において、110℃近辺に変曲点が観測されることを示しているが、これは、詳細な理由は不明なるも、メチルエチルケトン不溶分の結晶化部分に起因しているのではないかと考えられる。メチルエチルケトン不溶分自体は高分子量が多く、トナー定着時に溶融し難く、従ってトナー層との相互作用が得られ難く、定着性、即ち折り曲げ強度が不足する原因になると推定される。しかしながら、メチルエチルケトン不溶分に結晶化した部分が存在すると、結晶化した部分が定着時に速やかに溶融し、不溶分の溶融を補助し、定着強度が高まるものと推定される。結晶化が起こる原因としては、モノマー的要因や、エステル化触媒としてSn-C結合を有しない錫(II)化合物を使用した場合には、かかる錫(II)化合物が反応時に酸化錫に変化し、核剤的に働くこと等が考えられる。
【0010】
一方、(II)は、メチルエチルケトン不溶分のDSC-II測定では、70℃近辺に変曲点が観測される、即ち110℃近辺に変曲点が観測されないことを示しており、トナー定着時に、一部結晶化している部分が速やかに溶融した後、他の不溶分と相溶することにより、定着画像中でメチルエチルケトン不溶分がフィラーとしてトナー自体の強度を高め、折り曲げ強度が高くなるものと推定される。これに対し、例えば、ワックスの内添等では、ワックス自体はポリエステルに相溶せずワックスのみが溶融するため、フィラーとしてトナー自体の強度を高めることはなく、折り曲げ強度は改善されない。
【0011】
軟化点とメチルエチルケトン不溶分が上記関係を満足し、上記熱特性を有する本発明のポリエステルを調製するための手段としては、後述するモノマーやエステル化触媒の種類を調整することの他、例えば、ポリエステルの軟化点を比較的低くする(100〜120℃程度)ことにより、DSC-I測定において110℃近辺に変曲点が現れやすくなる。
【0012】
ポリエステルは、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物を含有したアルコール成分と、カルボン酸成分とを縮重合して得られる。ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物は、式(I):
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、x及びyはエチレンオキシ基の平均付加モル数を示す正の数であり、xとyの和は1〜16である)
で表される構造を有しており、高い対称構造を有しているため、高分子量部分(メチルエチルケトン不溶分)に結晶性を付与しやすく、エチレンオキシ基がソフトセグメントとして働くため、同じ軟化点を持つポリエステルと比較して、メチルエチルケトン不溶分の量が多くなり、ポリエステルの分子量を高めることができる。かかる観点から、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物の含有量は、アルコール成分中、60モル%以上であり、好ましくは80モル%以上、より好ましくは95モル%以上、実質的に100モル%が好ましい。
【0015】
また、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物の付加モル数は、2.0に近づくほど、メチルエチルケトン不溶分における結晶化部分が多くなる。かかる観点から、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物の付加モル数は、2.0〜2.3が好ましく、2.0〜2.2がより好ましく、2.0〜2.1がさらに好ましい。
【0016】
ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物以外のアルコール成分としては、ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等のビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ソルビトール、ペンタエリスリトール、グリセロール、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0017】
また、カルボン酸成分としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、n-ドデシルコハク酸、n-ドデセニルコハク酸等の脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロリメット酸等の3価以上の多価カルボン酸;及びこれらの酸の無水物、アルキル(炭素数1〜3)エステル;ロジン;フマル酸、マレイン酸、アクリル酸等で変性されたロジン等が挙げられる。上記のような酸、これらの酸の無水物、及び酸のアルキルエステルを、本明細書では総称してカルボン酸化合物と呼ぶ。
【0018】
本発明においては、高分子量部分(メチルエチルケトン不溶分)の結晶化の観点から、カルボン酸成分中、対称性の高い構造を有するテレフタル酸の含有量が40〜95モル%であることが好ましく、75〜90モル%であることがより好ましい。また、分子量分布を制御する観点から、3価以上の多価カルボン酸化合物、好ましくはトリメリット酸の含有量が、カルボン酸成分中、5〜25モル%であることが好ましく、10〜23モル%であることがより好ましく、10〜20モル%であることがさらに好ましい。
【0019】
なお、アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が、分子量調整や耐オフセット性向上の観点から、適宜含有されていてもよい。
【0020】
アルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合は、錫化合物等のエステル化触媒の存在下、不活性ガス雰囲気中にて、180〜250℃の温度で行うことが好ましい。
【0021】
錫化合物としては、例えば、酸化ジブチル錫が知られているが、本発明では、ポリエステル中での分散性が良好である観点から、Sn-C結合を有していない錫(II)化合物が好ましい。
【0022】
Sn-C結合を有していない錫(II)化合物としては、Sn-O結合を有する錫(II)化合物、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物等が好ましく、Sn-O結合を有する錫(II)化合物がより好ましい。
【0023】
Sn-O結合を有する錫(II)化合物としては、シュウ酸錫(II)、酢酸錫(II)、オクタン酸錫(II)、2-エチルヘキサン酸錫(II)、ラウリル酸錫(II)、ステアリン酸錫(II)、オレイン酸錫(II)等の炭素数2〜28のカルボン酸基を有するカルボン酸錫(II);オクチロキシ錫(II)、ラウロキシ錫(II)、ステアロキシ錫(II)、オレイロキシ錫(II)等の炭素数2〜28のアルコキシ基を有するアルコキシ錫(II);酸化錫(II);硫酸錫(II)等が、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物としては、塩化錫(II)、臭化錫(II)等のハロゲン化錫(II)等が挙げられ、これらの中では、帯電立ち上がり効果及び触媒能の点から、(R1COO)2Sn(ここでR1は炭素数5〜19のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表される脂肪酸錫(II)、(R2O)2Sn(ここでRは炭素数6〜20のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表されるアルコキシ錫(II)及びSnOで表される酸化錫(II)が好ましく、(R1COO)2Snで表される脂肪酸錫(II)及び酸化錫(II)がより好ましく、オクタン酸錫(II)、2-エチルヘキサン酸錫(II)、ステアリン酸錫(II)及び酸化錫(II)がさらに好ましい。
【0024】
Sn-C結合を有していない錫(II)化合物の存在量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100重量部に対して、0.05〜1重量部が好ましく、0.2〜0.7重量部がより好ましい。
【0025】
ポリエステルは、実質的にその特性を損なわない程度に変性されたポリエステルであってもよい。変性されたポリエステルとしては、例えば、特開平11−133668号公報、特開平10−239903号公報、特開平8−20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステルをいう。
【0026】
本発明のポリエステルのガラス転移点は、定着性、保存性及び耐久性の観点から、45〜75℃が好ましく、50〜70℃がより好ましい。酸価は、帯電性と環境安定性の観点から、1〜80mgKOH/gが好ましく、5〜60mgKOH/gがより好ましく、5〜50mgKOH/gがさらに好ましい。
【0027】
本発明のポリエステルをトナー用結着樹脂として用いることにより、折り曲げに対する強度が強い定着画像が得られる、本発明の電子写真用トナーを得ることができる。本発明のポリエステルの含有量は、結着樹脂中、50重量%以上が好ましく、65重量%以上がより好ましく、80重量%以上がさらに好ましい。本発明のトナーには、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の結着樹脂、例えば、スチレン-アクリル樹脂等のビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の他の樹脂が併用されていてもよいが、低温定着性及び折り曲げ強度向上の観点から、結着樹脂として結晶性ポリエステルがさらに含有されていることが好ましい。低温定着性の向上により、定着画像の平滑性が高くなり、折り曲げ強度も高くなる。結晶性ポリエステルの含有量は、結着樹脂中、20重量%以下が好ましく、3〜20重量%がより好ましく、4〜10重量%がさらに好ましい。
【0028】
本発明において、「結晶性ポリエステル」とは、結晶性指数が0.6〜1.5、好ましくは0.8〜1.2であるポリエステルをいい、「非晶質ポリエステル」とは、結晶性指数が1.5より大きいか、0.6未満、好ましくは1.5より大きいポリエステルをいう。ここで、結晶性指数とは、樹脂の結晶化の度合いの指標となる物性であり、軟化点と示差走査熱量計による吸熱の最高ピーク温度との比(軟化点/吸熱の最高ピーク温度)により定義されるものである。一般に、結晶性指数が1.5を超える樹脂は非晶質であり、0.6未満の樹脂は結晶性が低く、非晶質部分が多い。結晶化の度合いは、原料モノマーの種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)等により調整することができる。なお、吸熱の最高ピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を指す。最高ピーク温度が軟化点と20℃以内の差であれば融点とし、軟化点との差が20℃を超えるピークはガラス転移に起因するピークとする。従って、本発明において、融点が観測されない場合は、非晶質である。
【0029】
本発明のポリエステルは、軟化点とメチルエチルケトン不溶分が前記の関係を満足するものであれば、非晶質であっても結晶性であってもよいが、折り曲げ強度の観点から、非晶質であることが好ましい。
【0030】
結晶性ポリエステルにおけるアルコール成分には炭素数2〜8の脂肪族ジオール等の樹脂の結晶性を促進させるモノマーが含有されていることが好ましい。
【0031】
炭素数2〜8の脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブテンジオール等が挙げられ、特にα,ω−直鎖アルカンジオールが好ましい。これらは単独で又は2種以上を混合して含有されていても良い。
【0032】
炭素数2〜8の脂肪族ジオールの含有量は、結晶性の高さの観点から、アルコール成分中、80モル%以上が好ましく、85モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましい。さらに、2種以上の炭素数2〜8の脂肪族ジオールを用いている場合にはその中の1種の脂肪族ジオールが、アルコール成分中の70モル%以上、好ましくは80〜95モル%を占めているのが望ましい。なかでも、1,4-ブタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールが好ましく、1,6-ヘキサンジオールがより好ましく、これらはアルコール成分中、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上含有されているのが望ましい。
【0033】
カルボン酸成分に含まれるカルボン酸化合物としては、フマル酸、アジピン酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、セバシン酸、アゼライン酸、n-ドデシルコハク酸、n-ドデセニルコハク酸等の炭素数2〜30、好ましくは2〜8の脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸、これらの酸の無水物、及び酸のアルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。これらの中では、脂肪族ジカルボン酸化合物が好ましく、結晶性ポリエステルにおいては、結晶化度の観点から、炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸化合物が好ましい。
【0034】
脂肪族ジカルボン酸化合物の含有量は、カルボン酸成分中、70モル%以上が好ましく、80〜100モル%がより好ましく、90〜100モル%がさらに好ましい。
【0035】
なお、結晶性ポリエステルにおけるカルボン酸成分とアルコール成分のモル比(カルボン酸成分/アルコール成分)は、結晶性ポリエステルの高分子量化を図る際には、カルボン酸成分よりもアルコール成分が多い方が好ましく、さらに減圧反応時、アルコール成分の留去によりポリエステルの分子量を容易に調整できる観点から、0.9〜1が好ましく、0.95〜1がより好ましい。
【0036】
ポリエステルは、アルコール成分とカルボン酸成分とを、例えば、不活性ガス雰囲気中、要すればエステル化触媒の存在下で、120〜230℃で縮重合させて得られる。
【0037】
結晶性ポリエステルの製造においては、樹脂の強度を上げるために全単量体を一括仕込みしたり、低分子量成分を少なくするために2価の単量体を先ず反応させた後、3価以上の単量体を添加して反応させたりする等の方法を用いてもよい。また、重合の後半に反応系を減圧することにより、反応を促進させてもよい。
【0038】
また、さらに高分子量化した結晶性ポリエステルを得るためには、前記のようにカルボン酸成分とアルコール成分のモル比を調整したり、反応温度を上げる、触媒量を増やす、減圧下、長時間脱水反応を行う等の反応条件を選択したりすればよい。なお、高い攪拌所要動力下では、高分子量化した高粘度の結晶性ポリエステルを製造することもできるが、製造設備を特に選択せずに製造する際には、原料モノマーを非反応性低粘度樹脂や溶媒とともに反応させる方法も有効な手段である。
【0039】
結晶性ポリエステルの軟化点は、低温定着性の観点から、70〜140℃が好ましく、80〜130℃がより好ましく、105〜130℃がさらに好ましい。
【0040】
また、低温定着性の観点からは、結着樹脂として、軟化点が好ましくは85〜115℃、より好ましくは95〜105℃の低軟化点ポリエステルがさらに含有されていることが好ましい。
【0041】
低軟化点ポリエステルの含有量は、結着樹脂中、5〜50重量%が好ましく、7〜25重量%がより好ましい。
【0042】
本発明のトナーには、さらに、着色剤、離型剤、荷電制御剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が適宜含有されていてもよい。
【0043】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のすべてを使用することができ、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、ジスアゾエロー等が用いることができ、本発明のトナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。着色剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、1〜40重量部が好ましく、2〜10重量部がより好ましい。
【0044】
本発明のトナーは、溶融混練法、乳化転相法、重合法等の従来より公知のいずれの方法により得られたトナーであってもよいが、メチルエチルケトン不溶分の分散性の観点から、溶融混練法による粉砕トナーが好ましい。溶融混練法による粉砕トナーの場合、結着樹脂、着色剤、荷電制御剤等の原料をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することができる。
【0045】
本発明のトナーの体積中位粒径(D50)は、3〜7μmが好ましく、3.5〜6μmがより好ましい。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。
【0046】
本発明のトナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【0047】
本発明の電子写真用トナーは、より高い定着性が要求される、線速が好ましくは100mm/sec以上、より好ましくは400〜2000mm/secの高速の画像形成装置を用いた連続印刷においても、印字濃度にかかわらず、折り曲げ強度に優れた定着画像を得ることができる。ここで、線速とは画像形成装置のプロセススピードをいい、定着部の紙送り速度により決定される。
【実施例】
【0048】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出する。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0049】
〔樹脂の酸価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。但し、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更した。
【0050】
〔樹脂の吸熱の最高ピーク温度〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した試料を昇温速度10℃/分で測定する。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を吸熱の最高ピーク温度とする。
【0051】
〔樹脂のガラス転移点〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で測定する。吸熱の最高ピーク温度と軟化点との差が20℃以内のときは、吸熱の最高ピーク温度より低い温度で観測されるピークの温度以下のベースラインの延長線と、該ピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移点として読み取る。吸熱の最高ピーク温度と軟化点との差が20℃を超えるときは、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線と、該ピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移点として読み取る。
【0052】
〔結晶性指数〕
上記に従って測定した軟化点及び吸熱の最高ピーク温度を用い、下記式から、結晶性の度合いとして結晶性指数を算出する。
結晶性指数=軟化点/吸熱の最高ピーク温度
【0053】
〔メチルエチルケトン(MEK)不溶分(重量%)〕
(1) 試料の調製
JIS Z8801の篩を用いて、22メッシュの篩を通過し、30メッシュの篩は通過しない粉末状の試料を採取する。試料が塊等の場合は、市販のハンマー、コーヒーミルを用いて、粉砕し、粉末状として篩いにかける。
【0054】
(2) 試料の溶解
2-1. 試料2.000gを、ガラス瓶(柏洋硝子社製、M-140)に秤量した後、MEK 95gを加え、内蓋及び外蓋を取り付ける。
2-2. ボールミルにて5時間攪拌する(周速:200mm/sec)。
2-3. 10時間静置する。
【0055】
(3) 濾過
3-1. 予め計量済み(1000分の1g単位)のナスフラスコ(重量A(g))に取り付けたガラスフィルタ(目開き規格11G-3)を準備する。ガラスフィルタのシールには、減圧が可能なゴム栓を用いる。
3-2. 2-3において10時間静置した溶解液の上澄みから20mlをメスピペッドで吸い取り、3-1で準備したガラスフィルタを用いて、減圧濾過する。なお、液面から下2cmまでを上澄みとする。溶解液を濾過する前のナスフラスコ内の減圧度を40kPaに調整する。
3-3. 未使用のMEK 20mlをメスピペッドで吸い取り、ガラスフィルタに付着している可溶分を減圧濾過する。
【0056】
(4) 乾燥
4-1. エバポレータにてナスフラスコ内のMEKを除去する。
ウォーターバス温度:70℃
ナスフラスコ回転数:200r/min
MEK除去中のナスフラスコ内の減圧度:40〜20kPaに調整
時間:10分
4-2. 50℃・1torrにて12時間乾燥した後、ナスフラスコの重量B(g)を計量する。
【0057】
(5) MEK不溶分の算出
5-1. MEK 20mlに溶解したMEK可溶分X(g)を算出する。
X=B−A
5-2. MEK 95gに溶解したMEK可溶分Y(g)を、MEKの比重を0.805として算出する。
Y=X×95/(20×0.805)
5-3. 試料1gあたりの可溶分Z(重量%)を算出する。
Z=Y/2×100
5-4. MEK不溶分(重量%)=100-Z
なお、MEK不溶分(重量%)は、3回の測定値の平均値とする。
【0058】
〔メチルエチルケトン不溶分のDSC-I測定〕
エバポレーターによる真空乾燥により、メチルエチルケトン不溶分を固化乾燥させて、示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて、メチルエチルケトン不溶分を0℃から昇温速度10℃/minで加熱する示差走査熱量測定において、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度を測定する。
【0059】
〔メチルエチルケトン不溶分のDSC-II測定〕
エバポレーターによる真空乾燥により、メチルエチルケトン不溶分を固化乾燥させて、示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて、0℃から昇温速度10℃/minで160℃まで加熱した後、降温速度10℃/minで0℃まで冷却したメチルエチルケトン不溶分を、再度0℃から昇温速度10℃/minで160℃まで測定する示差走査熱量測定において、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度を測定する
【0060】
〔トナーの体積中位粒径(D50)〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター社製)
アパチャー径:50μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコールター社製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター社製)
分散液:エマルゲン109P(花王社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:13.6)を5重量%の濃度となるよう前記電解液に溶解させて分散液を得る。
分散条件:前記分散液5mLに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mLを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させて、試料分散液を調製する。
測定条件:前記試料分散液を前記電解液100mLに加えることにより、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度に調整した後、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0061】
実施例A1〜A7及び比較例A1〜A3
表1に示すトリメリット酸を除く原料モノマー及び2-エチルヘキサン酸錫(II)20gを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、230℃で8時間かけて反応させた後、8.3kPaにて1時間真空反応し、その後トリメリット酸を加えて230℃で、常圧(101.3kPa)で1時間反応させたあと、8.3kPaにて所定の軟化点を得るまで反応させて、ポリエステルを得た。
【0062】
実施例A8
2-エチルヘキサン酸錫(II)の代わりに酸化ジブチル錫20gを使用した以外は、実施例A1と同様にして、ポリエステルを得た。
【0063】
低軟化点ポリエステルの製造例
表1に示す原料モノマーを用い、実施例A1と同様にして、樹脂αを得た。
【0064】
【表1】

【0065】
結晶性ポリエステルの製造例
表2に示す原料モノマー、ハイドロキノン2g、及び2-エチルヘキサン酸錫(II)20gを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、160℃で5時間かけて反応させた後、200℃に昇温して3時間反応させ8.3kPaにてさらに1時間反応させた。
【0066】
【表2】

【0067】
実施例B1〜B10及び比較例B1〜B3
表3に示す結着樹脂、カーボンブラック「REGAL330R」(キャボット社製)5重量部、正帯電性荷電制御剤「ボントロン N-04」(オリエント化学工業社製)4重量部、正帯電性荷電制御剤「ボントロン P-51」(オリエント化学工業社製)1重量部、ポリプロピレンワックス「NP-105」(三井化学社製)1重量部及びカルナバワックス「カルナバワックス 1号」(加藤洋行社製)1.0重量部を、ヘンシェルミキサーにて良く攪拌後、混練部分の全長1560mm、スクリュー径42mm、バレル内径43mmの同方向回転二軸押出機を用いて溶融混練した。ロールの回転速度は200r/min、ロール内の加熱温度は120℃であり、混合物の供給速度は10kg/時、平均滞留時間は約18秒であった。得られた混練物を冷却ローラーで圧延冷却した後、ジェットミルで体積中位粒径(D50)5.7μmの粉体を得た。
【0068】
得られた粉体に外添剤として疎水性シリカ「NAX-50」(日本アエロジル社製)1重量部を添加し、ヘンシェルミキサーで混合することにより、トナーを得た。
【0069】
試験例1〔折り曲げ試験〕
トナー39重量部と、フッ素・アクリル樹脂で被覆された、飽和磁化が60Am2/kgのフェライトキャリア(平均粒子径:110μm)1261重量部とをナウターミキサーで混合し、二成分現像剤を得た。
【0070】
得られた二成分現像剤を「LS-1550」(京セラ(株)製)に実装し、Xerox社製50g紙に、印字率5%の画像を30枚印字した後、Hammermill(Laser Print,90g紙,縦5cm×横5cm)の中央に、半径2cmの円のべた画像を、反射濃度計「RD-915」(マクベス社製)で印字濃度1.4になるように調整して印刷した。
【0071】
印字面を表側にして、用紙の左右両端を重ねて柔らかく折り曲げ、複写機「AR-505」(シャープ(株)製)の定着機をオフラインで定着可能なように改良した定着機(定着速度100mm/sec、30℃)を通過させた。次に、先の折り目と垂直になるように、かつ用紙の上下両端を重ねて柔らかく折り曲げ、同様に前記のオフライン定着機を通過させた。反射濃度計「RD-915」(マクベス社製)を用いて、折り目で十字になっている部分が中心になるようにして画像濃度を測定した。結果を表3に示す。数値が高いほど、トナーの折り曲げ強度が高いことを示し、1.05以上が実使用上好ましいレベルである。
【0072】
【表3】

【0073】
以上の結果より、比較例B1〜B3と対比すると、実施例B1〜B10ではいずれも折り曲げに対して良好な強度を有する定着画像が得られていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のトナー用ポリエステルは、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に用いられるトナーの結着樹脂等として用いられるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物を60モル%以上含有するアルコール成分と、カルボン酸成分とを縮重合して得られる、軟化点(Tm)が130〜160℃のトナー用ポリエステルであって、メチルエチルケトン不溶分が(Tm-110)×1.1重量%以上、(Tm-110)×3重量%以下であるトナー用ポリエステル。
【請求項2】
メチルエチルケトン不溶分を固化乾燥させた後、該固化乾燥させたメチルエチルケトン不溶分を0℃から160℃まで昇温速度10℃/minで加熱しながら測定する示差走査熱量測定において、100〜120℃に、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度を有する、請求項1記載のトナー用ポリエステル。
【請求項3】
メチルエチルケトン不溶分を固化乾燥させて、0℃から160℃まで昇温速度10℃/minで加熱した後、0℃まで降温速度10℃/minで冷却した前記固化乾燥させたメチルエチルケトン不溶分を、再度0℃から160℃まで昇温速度10℃/minで加熱しながら測定する示差走査熱量測定において、60〜80℃に、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度を有する、請求項1又は2記載のトナー用ポリエステル。
【請求項4】
Sn-C結合を有しない錫(II)化合物の存在下で縮重合を行うことにより得られる、請求項1〜3いずれか記載のトナー用ポリエステル。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載のトナー用ポリエステルを含有してなる電子写真用トナー。
【請求項6】
さらに、結晶性ポリエステルを含有してなる請求項5記載の電子写真用トナー。
【請求項7】
請求項5又は6の電子写真用トナーを線速100mm/sec以上の画像形成装置を用いて画像形成を行う、画像形成方法。

【公開番号】特開2008−185681(P2008−185681A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17593(P2007−17593)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】