説明

トナー用結着樹脂

【課題】低温定着性、高温高湿下での帯電安定性、及び保存性のいずれにも優れたトナー用結着樹脂、及び該結着樹脂を含有した電子写真用トナーを提供すること。
【解決手段】縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させることにより得られる、縮重合系樹脂成分と付加重合系樹脂成分とを含む複合樹脂を含有してなるトナー用結着樹脂であって、前記縮重合系樹脂の原料モノマーが、少なくともアルコール成分とカルボン酸成分からなり、アルコール成分及びカルボン酸成分の少なくともいずれかが、フラン環を有する原料モノマーを含有してなる、トナー用結着樹脂、及び該結着樹脂を含有してなる、電子写真用トナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像に用いられるトナー用結着樹脂及び該結着樹脂を含有した電子写真用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マシンの高速化、省エネ化に伴い、低温定着性に優れたトナーが要求されている。そこで、トナー用結着樹脂として、従来使用されてきた構造がリジッドである芳香族系アルコールを用いて得られる芳香族系ポリエステルに代わり、脂肪族多価アルコールを用いた脂肪族系ポリエステルが提案されている(特許文献1、2参照)。
【0003】
さらに、低温定着性と帯電安定性に優れたトナーとして、縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させることにより得られる、縮重合系樹脂と付加重合系樹脂とが共有結合してなる電子写真トナー用結着樹脂(複合樹脂)が提案されている(特許文献3参照)。
【0004】
一方、バイオマスを原料に用いて耐熱性、機械物性、耐候性に優れた、十分な分子量を有する熱可塑性樹脂を提供することを課題として、フラン構造を有するジカルボン酸単位を含むポリエステル樹脂の製造方法が開示されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−287427号公報
【特許文献2】特開2006−154686号公報
【特許文献3】特開2010−107670号公報
【特許文献4】特開2008−291244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、さらなる低温定着性を達成するために、軟化点を下げると樹脂のガラス転移温度が低くなるという課題がある。また、特許文献4に記載の樹脂は、フィルム用途や射出成形品の用途を主として使用するものであるため結晶性が高くトナー用結着樹脂には適していない。従って、さらなる低温定着性、高温高湿下での帯電安定性、及び保存性にいずれにも優れたトナー用結着樹脂の開発が望まれている。
【0007】
本発明の課題は、低温定着性、高温高湿下での帯電安定性、及び保存性のいずれにも優れたトナー用結着樹脂、及び該結着樹脂を含有した電子写真用トナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
〔1〕 縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させることにより得られる、縮重合系樹脂成分と付加重合系樹脂成分とを含む複合樹脂を含有してなるトナー用結着樹脂であって、前記縮重合系樹脂の原料モノマーが、少なくともアルコール成分とカルボン酸成分からなり、アルコール成分及びカルボン酸成分の少なくともいずれかが、フラン環を有する原料モノマーを含有してなる、トナー用結着樹脂、並びに
〔2〕 前記〔1〕記載の結着樹脂を含有してなる、電子写真用トナー
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の結着樹脂を含有したトナーは、低温定着性と高温高湿下での帯電安定性及び保存性に優れるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のトナー用結着樹脂は、縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させることにより得られる、縮重合系樹脂と付加重合系樹脂とを含む複合樹脂を含有するものであり、前記縮重合系樹脂の原料モノマーが、少なくともアルコール成分とカルボン酸成分からなり、アルコール成分及びカルボン酸成分の少なくともいずれかが、フラン環を有する原料モノマーを含有している点に大きな特徴を有している。縮重合系樹脂成分が親水性を有することで、紙との親和性により優れた低温定着性を維持しつつ、付加重合系樹脂成分が疎水性を有することによって、高温高湿下においても樹脂が吸水せず、帯電安定性が優れたものとなる。また、フラン環を有する原料モノマーを用いることによって、分子の運動性が束縛されることで、比較的高いガラス転移温度を有しており、保存性も満足できる。
【0011】
フラン環を有する原料モノマーにおいて、フラン環としては、式(Ia)又は(Ib):
【0012】
【化1】

【0013】
で表される構造が好ましい。
【0014】
アルコール成分に含まれるフラン環を有する原料モノマーとしては、ジヒドロキシフラン等のフランジアルコール;5-ヒドロキシメチルフルフリルアルコール等のヒドロキシメチルフルフリルアルコール;フルフリルアルコール;5-ヒドロキシメチルフルフラール等が挙げられ、これらの中では、トナーの低温定着性、高温高湿下での帯電安定性と保存性の観点から、フランジアルコール、ヒドロキシメチルフルフリルアルコール及びフルフリルアルコールからなる群から選ばれた少なくとも1種のフラン環を有するアルコールが好ましく、ヒドロキシメチルフルフリルアルコールがより好ましい。
【0015】
式(Ia)で表わされるフラン環を有するアルコールとして、5-ヒドロキシメチルフルフリルアルコール等のヒドロキシメチルフルフリルアルコール;ジヒドロキシフラン等のフランジアルコール;5-ヒドロキシメチルフルフラール等が挙げられ、これらの中では、トナーの低温定着性、高温高湿下での帯電安定性と保存性の観点から、5-ヒドロキシメチルフルフリルアルコールが好ましい。
【0016】
式(Ib)で表わされるフラン環を有するアルコールとして、フルフリルアルコール等が挙げられる。
【0017】
カルボン酸成分に含まれるフラン環を有する原料モノマーとしては、フラン-2,5-ジカルボン酸、フラン-2,4-ジカルボン酸、フラン-2,3-ジカルボン酸、フラン-3,4-ジカルボン酸等のフランジカルボン酸化合物(本明細書中、カルボン酸化合物はカルボン酸、カルボン酸と炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜3のアルコールとのエステル及び酸無水物を含む);フラン-2-カルボン酸、フラン-3-カルボン酸等のフランカルボン酸化合物;5-ヒドロキシメチル-フラン-2-カルボン酸等のヒドロキシフランカルボン酸化合物;フルフリル酢酸化合物、3-カルボキシ-4-メチル-5-プロピル-2-フランプロピオネート等のカルボン酸化合物等が挙げられ、これらの中では、トナーの低温定着性、高温高湿下での帯電安定性と保存性の観点から、フランジカルボン酸化合物、フランカルボン酸化合物及びヒドロキシフランカルボン酸化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種のフラン環を有するカルボン酸化合物が好ましく、フランジカルボン酸化合物がより好ましい。
【0018】
式(Ia)で表わされるフラン環を有するカルボン酸化合物として、フラン-2,5-ジカルボン酸、フラン-2,4-ジカルボン酸、フラン-2,3-ジカルボン酸、フラン-3,4-ジカルボン酸等のフランジカルボン酸化合物;5-ヒドロキシメチル-フラン-2-カルボン酸等のヒドロキシフランカルボン酸化合物等のカルボン酸化合物等が挙げられ、これらの中では、トナーの低温定着性、高温高湿下での帯電安定性と保存性の観点から、フラン-2,5-ジカルボン酸が好ましい。
【0019】
式(Ib)で表わされるフラン環を有するカルボン酸化合物として、フラン-2-カルボン酸、フラン-3-カルボン酸等のフランカルボン酸化合物;フルフリル酢酸化合物等が挙げられる。
【0020】
上記のカルボン酸化合物及びアルコールの中では、トナーの低温定着性と保存性の観点から、式(Ia)で表わされるフラン環を有する、カルボン酸化合物とアルコールとが好ましく、フランジカルボン酸化合物、フランジアルコール及びヒドロキシメチルフルフリルアルコールがより好ましく、フランジカルボン酸化合物がさらに好ましい。
【0021】
フラン環を有する原料モノマーの含有量は、トナーの低温定着性、高温高湿下での帯電安定性と保存性の観点から、縮重合系樹脂の原料モノマー中(後述する両反応性モノマーを含む)、上限は、100モル%以下が好ましく、70モル%以下がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましく、下限は、縮重合系樹脂の原料モノマー中(後述する両反応性モノマーを含む)、10モル%以上が好ましく、15モル%以上がより好ましく、20モル%以上がさらに好ましく、35モル%がさらより好ましい。したがって、フラン環を有する原料モノマーの含有量は、トナーの低温定着性、高温高湿下での帯電安定性と保存性の観点から、縮重合系樹脂の原料モノマー中(後述する両反応性モノマーを含む)、10〜100モル%が好ましく、15〜70モル%がより好ましく、20〜50モル%がさらに好ましく、35〜50モル%がさらにより好ましい。
【0022】
さらに、フラン環を有するカルボン酸化合物の含有量は、トナーの低温定着性と保存性の観点から、カルボン酸成分中(後述する両反応性モノマーは含めない)、好ましくは10〜100モル%、より好ましくは20〜100モル%、さらに好ましくは30〜100モル%、さらにより好ましくは60〜95モル%であり、さらにより好ましくは80〜90モル%である。フランジカルボン酸化合物の含有量は、トナーの低温定着性と保存性の観点から、カルボン酸成分中、好ましくは10〜100モル%、より好ましくは20〜100モル%、さらに好ましくは30〜100モル%、さらにより好ましくは60〜95モル%であり、さらにより好ましくは80〜90モル%である。
【0023】
フラン環を有するアルコールの含有量は、トナーの低温定着性、高温高湿下での帯電安定性と保存性の観点から、アルコール成分中、好ましくは10〜100モル%、より好ましくは10〜90モル%、さらに好ましくは15〜80モル%、さらにより好ましくは15〜50モル%、さらにより好ましくは15〜25モル%である。
【0024】
また、カルボン酸成分に、2種以上のフラン環を有するカルボン酸化合物を用いてもよく、アルコール成分に、2種以上のフラン環を有するアルコールを用いてもよい。なお、1種類とは、構造上の種類であり、組成式が同じであっても構造式が異なるものは、異なる種類としてみなす。
【0025】
フラン環を有するアルコール以外のアルコール成分としては、トナーの低温定着性、高温高湿下での帯電安定性と保存性の観点から、脂肪族ジオールが好ましい。脂肪族ジオールの炭素数は、トナーの低温定着性の観点から、2〜10が好ましく、3〜8がより好ましく、3〜6がさらに好ましく、3〜4がさらにより好ましい。
【0026】
脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ブテンジオール、ネオペンチルグリコール、2,3-ブタンジオール、2,3-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2,3-ヘキサンジオール、3,4-ヘキサンジオール、2,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0027】
これらの中では、フラン環とともに、樹脂の運動性をさらに低下させることで、トナーの保存性を向上させ、低温定着性を向上させる観点から、第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールが好ましい。かかる脂肪族ジオールは、トナーの低温定着性と保存性の観点から、炭素数3〜8が好ましく、炭素数3〜6がより好ましく、炭素数3〜4がさらに好ましく、具体的な好適例としては、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、2,3-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール等が挙げられ、トナーの低温定着性と保存性の観点から、1,2-プロパンジオール及び2,3-ブタンジオールが好ましく、トナーの低温定着性と保存性の観点から、1,2-プロパンジオールがより好ましい。
【0028】
脂肪族ジオールの含有量は、トナーの低温定着性、高温高湿下での帯電安定性と保存性の観点から、フラン環を有するアルコール以外のアルコール成分中、好ましくは10〜100モル%、より好ましくは30〜100モル%、さらに好ましくは60〜100モル%、さらに好ましくは80〜100モル%、さらに好ましくは90〜100モル%、さらに好ましくは実質的に100モル%であり、第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールの含有量は、トナーの低温定着性と保存性の観点から、フラン環を有するアルコール以外のアルコール成分中、好ましくは10〜100モル%、より好ましくは30〜100モル%、さらに好ましくは60〜100モル%、さらに好ましくは80〜100モル%、さらに好ましくは90〜100モル%、さらに好ましくは実質的に100モル%である。
【0029】
これら以外のアルコール成分としては、トナーの保存性の観点から、芳香族アルコールが好ましい。
【0030】
芳香族アルコールとしては、トナーの保存性の観点から、式(II):
【0031】
【化2】

【0032】
(式中、R1O及びOR1はオキシアルキレン基であり、R1はエチレン及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の平均値は1〜16が好ましく、1〜8がより好ましく、1.5〜4がさらに好ましい)
で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物が好ましい。
【0033】
式(II)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の具体例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシプロピレン付加物、及び2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシエチレン付加物等のビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0034】
ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、トナーの保存性及び樹脂の非晶質化の促進の観点から、フラン環を有するアルコール以外のアルコール成分中、好ましくは10〜100モル%、より好ましくは30〜100モル%、さらに好ましくは50〜100モル%、さらにより好ましくは80〜100モル%、さらにより好ましくは90〜100モル%、さらにより好ましくは実質的に100モル%である。
【0035】
本発明において、アルコール成分は、3価以上の多価アルコール、好ましくはグリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、より好ましくはグリセリンを含有していてもよい。3価以上の多価アルコールの含有量は、トナーの低温定着性、高温高湿下での帯電安定性と保存性の観点から、アルコール成分中、0〜10モル%が好ましく、0〜5モル%がより好ましく、0〜3モル%がさらに好ましい。
【0036】
フラン環を有するカルボン酸化合物以外のカルボン酸成分としては、例えば、芳香族ジカルボン酸化合物及び脂肪族ジカルボン酸化合物が挙げられる。
【0037】
芳香族ジカルボン酸化合物は、トナーの帯電安定性の観点から好ましい。
【0038】
芳香族ジカルボン酸化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、これらの酸無水物、アルキル(炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。
【0039】
芳香族ジカルボン酸化合物の含有量は、トナーの低温定着性、高温高湿下での帯電安定性と保存性の観点から、フラン環を有するカルボン酸化合物以外のカルボン酸成分中(後述する両反応性モノマーを含まない)、好ましくは20〜100モル%、より好ましくは20〜80モル%、さらに好ましくは30〜80モル%、さらにより好ましくは40〜65モル%、さらにより好ましくは50〜65モル%である。
【0040】
脂肪族ジカルボン酸化合物は、トナーの低温定着性の観点から好ましい。脂肪族ジカルボン酸化合物の炭素数は、2〜10が好ましく、炭素数3〜9がより好ましい。
【0041】
脂肪族ジカルボン酸化合物としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、これらの酸無水物、アルキル(炭素数1〜6)エステル等が挙げられる。なお、炭素数には、アルキルエステルのアルキル基の炭素数は含まれない。
【0042】
前記脂肪族ジカルボン酸化合物の含有量は、トナーの低温定着性、高温高湿下での帯電安定性と保存性の観点から、フラン環を有するカルボン酸化合物以外のカルボン酸成分中(後述する両反応性モノマーを含まない)、好ましくは20〜100モル%、より好ましくは20〜80モル%、さらに好ましくは30〜80モル%である。
【0043】
本発明において、カルボン酸成分は、樹脂の分子量を上げ、トナーの低温定着性、高温高湿下での帯電安定性と保存性を高める観点から、3価以上の多価カルボン酸化合物、好ましくはトリメリット酸化合物、より好ましくは無水トリメリット酸を含有していることが望ましい。3価以上の多価カルボン酸化合物の含有量は、縮重合系樹脂のカルボン酸成分中(後述する両反応性モノマーを含まない)、0.1〜30モル%が好ましく、1〜25モル%がより好ましく、5〜25モル%がさらに好ましく、10〜25モル%がさらにより好ましく、15〜25モル%がさらにより好ましく、15〜20モル%がさらにより好ましい。
【0044】
その他のカルボン酸化合物として、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;ロジン;フマル酸、マレイン酸又はアクリル酸等で変性されたロジン等が挙げられる。
【0045】
なお、アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が、分子量の調整や耐オフセット性向上の観点から、適宜含有されていてもよい。
【0046】
カルボン酸成分とアルコール成分のモル比(カルボン酸成分/アルコール成分)は、反応性及び分子量調整の観点から、0.7〜1.5が好ましく、0.7〜1.4がより好ましく、0.7〜1.1がより好ましい。
【0047】
アルコール成分とカルボン酸成分との縮重合反応は、例えば、錫化合物、チタン化合物等のエステル化触媒、重合禁止剤等の存在下、不活性ガス雰囲気中で行うことができ、温度条件は、180〜250℃が好ましい。
【0048】
錫化合物としては、例えば、酸化ジブチル錫が知られているが、本発明では、縮重合系樹脂中での分散性が良好である観点から、Sn-C結合を有していない錫(II)化合物が好ましい。
【0049】
Sn-C結合を有していない錫(II)化合物としては、Sn-O結合を有する錫(II)化合物、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物等が好ましく、Sn-O結合を有する錫(II)化合物がより好ましく、2-エチルヘキサン酸錫(II)がさらにより好ましい。
【0050】
チタン化合物としては、Ti−O結合を有するチタン化合物が好ましく、総炭素数1〜28のアルコキシ基、総炭素数2〜28のアルケニルオキシ基又は総炭素数1〜28のアシルオキシ基を有する化合物がより好ましく、チタンジイソプロピレートビスジエタノールアミネートがより好ましく、これは、例えばマツモト交商(株)の市販品としても入手できる。い。
【0051】
上記錫(II)化合物及びチタン化合物は、1種又は2種以上を併せて使用することができる。
【0052】
エステル化触媒の存在量は、反応性の観点から、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100重量部に対して、0.01〜2.0重量部が好ましく、0.1〜1.5重量部がより好ましく、0.2〜1.0重量部がさらに好ましい。
【0053】
縮重合系樹脂としては、トナーの低温定着性の観点から、ポリエステル、ポリエステル・ポリアミド等が挙げられるが、トナーの耐久性及び帯電安定性の観点からは、ポリエステルが好ましい。
【0054】
アミド成分を形成するための原料モノマーとしては、公知の各種ポリアミン、アミノカルボン酸類、アミノアルコール等が挙げられる。
【0055】
なお、ポリエステルは、実質的にその特性を損なわない程度に変性されたポリエステルであってもよい。変性されたポリエステルとしては、例えば、特開平11−133668号公報、特開平10−239903号公報、特開平8−20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステルをいう。
【0056】
一方、付加重合系樹脂としては、スチレン系樹脂が好ましい。従って、好適な付加重合系樹脂の原料モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン誘導体が好ましい。
【0057】
スチレン誘導体の含有量は、トナーの高温高湿下での帯電安定性と保存性を高める観点から、付加重合系樹脂の原料モノマー中、50重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましく、80重量%以上がさらに好ましく、トナーの低温定着性を向上させる観点から、95重量%以下が好ましく、90重量%以下がより好ましい。
【0058】
スチレン誘導体以外に用いられ得る付加重合系樹脂の原料モノマーとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル;エチレン、プロピレン等のエチレン性不飽和モノオレフィン類;ブタジエン等のジオレフィン類;塩化ビニル等のハロビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等のエチレン性モノカルボン酸のエステル;ビニルメチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニリデンクロリド等のビニリデンハロゲン化物;N-ビニルピロリドン等のN-ビニル化合物類等が挙げられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及び/またはメタクリル酸を意味する。
【0059】
これらの中では、トナーの低温定着性と保存性を高める観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルにおけるアルキル基の炭素数は、上記の観点から、1〜22が好ましく、8〜18がより好ましい。なお、該アルキルエステルの炭素数は、エステルを構成するアルコール成分由来の炭素数を言う。具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられ、トナーの低温定着性と保存性を高める観点から、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましい。「(イソ又はターシャリー)」、「(イソ)」は、これらの基が存在している場合とそうでない場合の双方を含むことを意味し、これらの基が存在していない場合には、ノルマルであることを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートの双方の場合を含むことを示す。
【0060】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、トナーの保存性及び帯電安定性の観点から、付加重合系樹脂の原料モノマー中、50重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましく、20重量%以下がさらに好ましく、また、トナーの低温定着性を向上させる観点から、5重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましい。
【0061】
なお、スチレン誘導体と(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含む原料モノマーを付加重合させて得られる樹脂をスチレン−(メタ)アクリル樹脂ともいう。
【0062】
付加重合系樹脂の原料モノマーの付加重合反応は、例えば、重合開始剤、架橋剤等の存在下、有機溶媒存在下又は無溶媒下で、常法により行うことができるが、温度条件は、110〜200℃が好ましく、140〜170℃がより好ましい。
【0063】
付加重合反応の際に用いられる有機溶媒としては、キシレン、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン等が挙げられる。有機溶媒の使用量は、付加重合系樹脂の原料モノマー100重量部に対して、10〜50重量部程度が好ましい。
【0064】
本発明の結着樹脂は、縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させることにより得られる複合樹脂を含む。かかる複合樹脂は、例えば、縮重合系樹脂の原料モノマーによる縮重合反応と付加重合系樹脂の原料モノマーによる付加重合反応とを並行して、又は順次、同一反応容器中で行うことにより得ることができる。縮重合反応と付加重合反応の進行及び完結は、時間的に同時である必要はなく、それぞれの反応機構に応じて反応温度及び時間を適当に選択し、反応を進行、完結させればよい。
【0065】
さらに、本発明において、縮重合系樹脂と付加重合系樹脂とを含有する複合樹脂は、トナーの低温定着性、高温高湿下での帯電安定性と保存性を高める観点から、縮重合系樹脂の原料モノマーと付加重合系樹脂の原料モノマーに加えて、それらのいずれとも反応し得る化合物(両反応性モノマー)を用いて得られるハイブリッド樹脂であることが好ましい。従って、縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させて複合樹脂を得る際に、縮重合反応と付加重合反応は、両反応性モノマーの存在下で行うことが好ましい。これにより、複合樹脂は、縮重合系樹脂と付加重合系樹脂とが部分的に両反応性モノマーを介して結合したハイブリッド樹脂となり、縮重合系樹脂成分中に付加重合系樹脂成分がより微細に、かつ均一に分散したものとなる。
【0066】
両反応性モノマーとしては、分子内に、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基、好ましくは水酸基及び/又はカルボキシル基、より好ましくはカルボキシル基と、エチレン性不飽和結合とを有する化合物が好ましく、このような両反応性モノマーを用いることにより、分散相となる樹脂の分散性をより一層向上させることができる。両反応性モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸及び無水マレイン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましいが、反応性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸及びフマル酸がより好ましく、アクリル酸及びフマル酸がより好ましい。
【0067】
両反応性モノマーの含有量は、反応性、トナーの低温定着性、高温高湿下での帯電安定性と保存性を高める観点から、縮重合系樹脂のアルコール成分とカルボン酸成分の総量中、1〜20モル%が好ましく、2〜15モル%がより好ましく、2〜10モル%がより好ましく、2〜5モル%がより好ましい。なお、本発明において、両反応性モノマーの含有量やフラン環を有する原料モノマーの含有量等を算出する際、両反応性モノマーの量は、縮重合系樹脂の原料モノマーとしてアルコール成分及びカルボン酸成分の総量に含める。
【0068】
複合樹脂の具体的な製造方法としては、
(i) 縮重合反応を行う工程(A)の後に、付加重合反応を行う工程(B)を行う方法、
(ii) 縮重合反応を行う工程(A)の後に、付加重合反応を行う工程(B)を行い、工程(B)の後に、再度反応温度を上昇させ、必要に応じて架橋剤となる3価以上の縮重合系樹脂の原料モノマーを重合系に添加し、工程(A)の縮重合反応をさらに進める方法、
(iii) 付加重合反応に適した温度条件下で、縮重合反応を行う工程(A)と付加重合反応を行う工程(B)とを並行して行い、反応温度を前記条件下で保持して工程(B)を完結させた後、反応温度を上昇させ、必要に応じて架橋剤となる3価以上の縮重合系樹脂の原料モノマーを重合系に添加し、工程(A)の縮重合反応をさらに進める方法
等が挙げられる。(i)、(ii)の方法において、縮重合反応を行う工程(A)の代わりに、予め重合した縮重合系樹脂を用いてもよい。(iii)の方法において、工程(A)と工程(B)を並行して行う際には、縮重合系樹脂の原料モノマーを含有した混合物中に、付加重合系樹脂の原料モノマーを含有した混合物を滴下して反応させることもできる。
【0069】
また、複合樹脂が両反応性モノマーを用いて得られるハイブリッド樹脂である場合、両反応性モノマーは、付加重合系樹脂の原料モノマーとともに用いることが好ましい。
【0070】
本発明においては、縮重合系樹脂の原料モノマーの付加重合系樹脂の原料モノマーに対する重量比(縮重合系樹脂の原料モノマー/付加重合系樹脂の原料モノマー)は、連続相が縮重合系樹脂であり、分散相が付加重合系樹脂であることが好ましいことから、60/40〜95/5が好ましく、70/30〜90/10がより好ましく、75/25〜85/15がより好ましい。
【0071】
前記複合樹脂の軟化点は、トナーの低温定着性、高温高湿下での帯電安定性、保存性及び耐久性の観点から、90〜160℃が好ましく、95〜155℃がより好ましく、115〜150℃がさらに好ましく、130〜140℃がさらにより好ましい。
【0072】
一般に、樹脂の軟化点とガラス転移温度は相関している。しかし、前記複合樹脂は、同程度の軟化点を有する樹脂に比べると、ガラス転移温度を高くすることができるという性質をもつため、1種類の樹脂でも、トナーの低温定着性、保存性等を満足することができる。
【0073】
前記複合樹脂のガラス転移温度は、トナーの低温定着性、高温高湿下での帯電安定性、保存性及び耐久性の観点から、45〜85℃が好ましく、50〜80℃がより好ましく、58〜78℃がさらに好ましく、62〜76℃がさらにより好ましく、65〜76℃がさらにより好ましい。
【0074】
前記複合樹脂の酸価は、トナーの高温高湿下での帯電安定性の観点から、1〜90mgKOH/gが好ましく、3〜90mgKOH/gがより好ましく、4〜80mgKOH/gがさらに好ましく、4〜50mgKOH/gがさらにより好ましく、4〜20mgKOH/gがさらにより好ましい。同様の観点から、水酸基価は、1〜90mgKOH/gが好ましく、5〜90mgKOH/gがより好ましく、10〜70mgKOH/gがさらに好ましく、20〜60mgKOH/gがさらにより好ましく、25〜50mgKOH/gがさらにより好ましい。
【0075】
本発明の結着樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、前記複合樹脂以外の公知の結着樹脂、例えば、ポリエステル、スチレン-アクリル樹脂等のビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の樹脂が併用されていてもよいが、本発明の結着樹脂の含有量は、全結着樹脂中、30重量%以上が好ましく、50重量%以上がより好ましく、70重量%以上がさらに好ましく、80重量%以上がさらにより好ましく、90重量%以上がさらにより好ましく、実質的に100重量%であることがさらにより好ましい。
【0076】
本発明の結着樹脂を用いることにより、互いに相反する性能である低温定着性と保存性のいずれにも優れ、高温高湿下でも良好な帯電安定性を有する、本発明の電子写真用トナーが得られる。
【0077】
本発明のトナーには、さらに、着色剤、離型剤、荷電制御剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が適宜含有されていてもよい。
【0078】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のすべてを使用することができ、カーボンブラック、黒色顔料、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、イソインドリン、ジスアゾイエロー等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができ、本発明のトナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。
【0079】
着色剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、1〜40重量部が好ましく、2〜10重量部がより好ましい。
【0080】
荷電制御剤としては、クロム系アゾ染料、鉄系アゾ染料、アルミニウムアゾ染料、サリチル酸金属錯体等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0081】
荷電制御剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、0.1〜8重量部が好ましく、0.5〜7重量部がより好ましい。
【0082】
離型剤としては、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、シリコーン類;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類;カルナバロウワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ホホバ油等の植物系ワックス;ミツロウ等の動物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の鉱物・石油系ワックス等のワックスが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0083】
離型剤の融点は、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点から、60〜160℃が好ましく、60〜150℃がより好ましい。
【0084】
離型剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、結着樹脂中への分散性の観点から、0.5〜10重量部が好ましく、1〜8重量部がより好ましく、1.5〜7重量部がさらに好ましい。
【0085】
本発明のトナーは、溶融混練法、乳化転相法、重合法等の従来より公知のいずれの方法により得られたトナーであってもよいが、生産性や着色剤の分散性の観点から、溶融混練法による粉砕トナーが好ましい。溶融混練法による粉砕トナーの場合、例えば、結着樹脂、着色剤、荷電制御剤、離型剤等の原料をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することができる。一方、トナーの小粒径化の観点からは、重合法によるトナーが好ましい。
【0086】
トナーの表面には、外添剤が添加されていてもよい。外添剤としては、トナーには、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛等の無機微粒子や、樹脂微粒子等の有機微粒子等が挙げられ、これらの表面には疎水化処理が施されていてもよい。外添剤の添加量は、外添剤で処理する前のトナー粒子100重量部に対して、0.05〜5重量部が好ましい。
【0087】
本発明のトナーの体積中位粒径(D50)は、画像品質を向上させる観点から、3〜15μmが好ましく、3〜10μmがより好ましい。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。
【0088】
本発明のトナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【実施例】
【0089】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0090】
〔樹脂のガラス転移温度〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて、試料を0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度とする。
【0091】
〔樹脂の酸価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。但し、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更した。
【0092】
〔樹脂の水酸基価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。
【0093】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、融解熱の最大ピーク温度を融点とする。
【0094】
〔トナーの体積中位粒径(D50)〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター社製)
アパチャー径:50μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコールター社製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター社製)
分散液:エマルゲン109P(花王社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:13.6)5%電解液
分散条件:分散液5mlに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mlを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させる。
測定条件:ビーカーに電解液100mlと分散液を加え、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度で、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0095】
〔外添剤の平均粒径〕
外添剤の平均粒径は個数平均粒径を指し、走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影し、500個の粒子の粒径の平均値とする。長径と短径がある場合は長径を指す。
【0096】
樹脂製造例1〔樹脂A〜H、K〕
表1、2に示す無水トリメリット酸以外のポリエステルの原料モノマー及びエステル化触媒を、窒素導入管、100℃の熱水を通した分留管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、180℃で1時間保温した後に180℃から210℃まで10℃/時間で昇温し、その後210℃で5時間縮重合反応させ、さらに210℃、8.0kPaにて1時間反応を行った。160℃まで冷却した後、表1、2に示す両反応性モノマー、スチレン系樹脂の原料モノマー及び重合開始剤の混合物を滴下ロートにより1時間かけて滴下した。滴下後、160℃に保持したまま、1時間付加重合反応を熟成させた。210℃に昇温した後、無水トリメリット酸を投入し、210℃にて2時間反応を行い、さらに、10kPaに減圧し、210℃にて所望の軟化点まで反応を行って、ポリエステルを得た。
【0097】
樹脂製造例2〔樹脂I〕
表2に示すポリエステルの原料モノマー及びエステル化触媒を、窒素導入管、100℃の熱水を通した分留管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、180℃で1時間保温した後に180℃から210℃まで10℃/時間で昇温し、その後210℃で5時間縮重合反応させ、さらに210℃、8.0kPaにて1時間反応を行い、ポリエステルを得た。その後、160℃まで冷却した後、表2に示す両反応性モノマー、スチレン系樹脂の原料モノマー及び重合開始剤の混合物を滴下ロートにより1時間かけて滴下した。滴下後、160℃に保持したまま、1時間付加重合反応を熟成させ、軟化点が120.4℃になるまで反応を行って、ポリエステルを得た。
【0098】
樹脂製造例3〔樹脂J〕
表2に示す無水トリメリット酸以外のポリエステルの原料モノマー及び両反応性モノマーであるフマル酸及びエステル化触媒を、窒素導入管、100℃の熱水を通した分留管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、180℃で1時間保温した後に180℃から210℃まで10℃/時間で昇温し、その後210℃で5時間縮重合反応させ、さらに210℃、8.0kPaにて1時間反応を行った。160℃まで冷却した後、表2に示すスチレン系樹脂の原料モノマー及び重合開始剤の混合物を滴下ロートにより1時間かけて滴下した。滴下後、160℃に保持したまま、1時間付加重合反応を熟成させた。210℃に昇温した後、無水トリメリット酸を投入し、210℃にて2時間反応を行い、さらに、10kPaに減圧して、210℃にて軟化点が138.9℃になるまで反応を行って、ポリエステルを得た。
【0099】
樹脂製造例4〔樹脂L、M〕
表2に示す無水トリメリット酸以外のポリエステルの原料モノマー及びエステル化触媒を、窒素導入管、100℃の熱水を通した分留管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、180℃で1時間保温した後に180℃から230℃まで10℃/時間で昇温し、その後230℃で10時間縮重合反応させ、さらに230℃、8.0kPaにて1時間反応を行った。210℃まで冷却した後、無水トリメリット酸を投入し、210℃にて2時間反応を行い、さらに、10kPaに減圧して210℃にて所望の軟化点まで反応を行って、ポリエステルを得た。
【0100】
【表1】

【0101】
【表2】

【0102】
実施例1〜12及び比較例1〜3
表3に示す結着樹脂100重量部、着色剤「Regal 330R」(キャボット社製、カーボンブラック)5重量部、離型剤「三井ハイワックスNP055」(三井化学社製、ポリプロピレンワックス、融点:125℃)2重量部、及び負帯電性荷電制御剤「ボントロン E-81」(オリエント化学工業社製)1重量部をヘンシェルミキサーで十分混合した後、同方向回転二軸押出し機を用い、ロール回転速度200r/min、ロール内の加熱温度80℃で溶融混練した。得られた溶融混練物を冷却、粗粉砕した後、ジェットミルにて粉砕し、分級して、体積中位粒径(D50)が8μmのトナー粒子を得た。
得られたトナー粒子100重量部に、外添剤として、疎水性シリカ「NAX-50」(日本アエロジル社製、疎水化処理剤:HMDS(ヘキサメチルジシラザン)、平均粒径:約30nm)1.0重量部を添加し、ヘンシェルミキサーで混合することにより、トナーを得た。
【0103】
実施例13
負帯電性荷電制御剤として、「ボントロン E-81」(オリエント化学工業社製)の代わりに、「LR-147」(日本カーリット社製)1重量部を使用し、離型剤として、「三井ハイワックスNP055」の代わりに、「HNP-9」(日本精鑞社製、パラフィンワックス、融点:80℃)2重量部を使用し、着色剤として、カーボンブラック「Regal 330R」の代わりに、シアン顔料「Toner Cyan BG」(クラリアント社製、P.B.15:3)5重量部を使用し、外添剤として「NAX-50」の代わりに、疎水性シリカ「R-972」(日本アエロジル社製、平均粒径16nm、疎水化処理剤:ジメチルジクロロシラン)1.0重量部を使用した以外は、実施例1と同様にして、トナーを得た。
【0104】
実施例14
結着樹脂、着色剤等とともに、荷電制御樹脂「FCA-701PT」(藤倉化成社製、4級アンモニウム塩基含有スチレンアクリル系樹脂、軟化点:123℃)を5重量部使用し、負帯電性荷電制御剤の代わりに、正帯電性荷電制御剤「ボントロン P-51」(オリエント化学工業社製)1重量部を使用し、外添剤として「NAX-50」の代わりに、疎水性シリカ「TG-C243」(キャボット社製、平均粒径100nm、疎水化処理剤:ヘキサメチルジシラザン+オクチルトリエトキシシラン)1.0重量部を使用した以外は、実施例1と同様にして、トナーを得た。
【0105】
試験例1〔低温定着性〕
複写機「AR-505」(シャープ(株)製)の定着機を装置外での定着が可能なように改良した装置にトナーを実装し、未定着画像を得た。
その後、総定着圧が40kgfになるように調整した定着機(定着速度390mm/sec)で、100℃から240℃へと10℃ずつ順次上昇させながら、各温度で未定着画像を定着させ、定着画像を得た。定着画像に「ユニセフセロハン」(三菱鉛筆社、幅:18mm、JISZ-1522)を貼り付け、30℃に設定した定着ローラーに通過させた後、テープを剥がした。テープを貼る前と剥がした後の光学反射密度を反射濃度計「RD-915」(マクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(剥離後/貼付前)が最初に90%を越える定着ローラーの温度を最低定着温度とし、この値を低温定着性の指標とした。数値が小さいほど低温定着性に優れる。なお、定着試験に用いた紙は、シャープ(株)製のCopyBond SF-70NA(75g/m2)である。結果を表3に示す。
【0106】
試験例2〔高温高湿下での帯電安定性〕
温度32℃、相対湿度85%トナー0.6gとシリコーンフェライトキャリア(関東電化工業社製、平均粒子径90μm)19.4gとを50ml容のポリビンに入れ、ボールミルを用いて250r/minで混合し、帯電量をQ/Mメーター(EPPING社製)を用いて測定した。
所定の混合時間後、Q/Mメーター付属のセルに規定量の現像剤を投入し、目開き32μmのふるい(ステンレス製、綾織、線径:0.0035mm)を通してトナーのみを90秒間吸引した。そのとき発生するキャリア上の電圧変化をモニターし、〔90秒後の総電気量(μC)/吸引されたトナー量(g)〕の値を帯電量(μC/g)とした。混合時間60秒後における帯電量と混合時間600秒後における帯電量の比率(混合時間60秒後における帯電量/混合時間600秒後の帯電量)を計算し、この値を帯電安定性の指標とした。この値が大きいほど帯電安定性に優れる。結果を表3に示す。
【0107】
試験例3〔保存性〕
トナー4gを温度55℃、湿度60%の環境下で72時間放置した。放置後、トナー凝集の発生程度を目視にて観察し、以下の評価基準に従って、保存性を評価した。結果を表3に示す。
【0108】
〔評価基準〕
A:48時間後及び72時間後も凝集は全く認められない。
B:48時間後で凝集は認められないが72時間後ではわずかに凝集が認められる。
C:48時間後で凝集は認められないが72時間後では明らかに凝集が認められる。
【0109】
【表3】

【0110】
以上の結果より、実施例1〜14のトナーは、低温定着性、高温高湿下での帯電安定性及び保存性のいずれもが良好であることが分かる。これに対し、フラン環を有する原料モノマーを使用していない複合樹脂を含む比較例1のトナーは、保存性に欠けており、フラン環を有する原料モノマーを使用しているが、複合樹脂ではなくポリエステルを含む比較例2のトナーは、高温高湿下での帯電安定性に欠けている。また、フラン環を有する原料モノマーを使用しておらず、複合樹脂でもないポリエステルを含む比較例3のトナーは、高温高湿下での帯電安定性と保存性に欠けていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明のトナー用結着樹脂は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に好適に用いられるトナーに用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させることにより得られる、縮重合系樹脂成分と付加重合系樹脂成分とを含む複合樹脂を含有してなるトナー用結着樹脂であって、前記縮重合系樹脂の原料モノマーが、少なくともアルコール成分とカルボン酸成分からなり、アルコール成分及びカルボン酸成分の少なくともいずれかが、フラン環を有する原料モノマーを含有してなる、トナー用結着樹脂。
【請求項2】
フラン環を有する原料モノマーの含有量が、縮重合系樹脂の原料モノマー中、10〜100モル%である、請求項1記載のトナー用結着樹脂。
【請求項3】
縮重合系樹脂の原料モノマーの付加重合系樹脂の原料モノマーに対する重量比(縮重合系樹脂の原料モノマー/付加重合系樹脂の原料モノマー)が、60/40〜95/5である、請求項1又は2記載のトナー用結着樹脂。
【請求項4】
アルコール成分が、第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールを10〜100モル%含有してなる、請求項1〜3いずれか記載のトナー用結着樹脂。
【請求項5】
カルボン酸成分が、フランジカルボン酸化合物、フランカルボン酸化合物及びヒドロキシフランカルボン酸化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種のフラン環を有するカルボン酸化合物を含有してなる、請求項1〜4いずれか記載のトナー用結着樹脂。
【請求項6】
アルコール成分が、フランジアルコール、ヒドロキシメチルフルフリルアルコール及びフルフリルアルコールからなる群から選ばれた少なくとも1種のフラン環を有するアルコールを含有してなる、請求項1〜5いずれか記載のトナー用結着樹脂。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか記載の結着樹脂を含有してなる、電子写真用トナー。

【公開番号】特開2013−95783(P2013−95783A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237540(P2011−237540)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】