説明

トナー画像定着方法

【課題】 電子写真画像形成装置の定着工程における消費エネルギーを低減する。
【解決手段】 記録媒体上に形成された未定着トナー画像T1に光重合組成物D1を塗布し、その後、420nm以上470nm以下の波長領域に極大発光波長を有する光を発光ダイオード又は有機EL素子を用いて照射し、光重合反応を利用して光重合組成物D1を硬化させて未定着トナー画像T1を記録媒体に定着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体上に形成された未定着トナー画像を記録媒体に定着するトナー画像定着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真製品の省エネの尺度として国際エネルギースタープログラムのTEC(Typical Electricity Consumption)が定められ、その採用は世界的な広がりを見せている。公称速度に応じて規定の印刷枚数を持つジョブが15分間隔で複数回規定され、5日間の労働日と2日間の休暇を合計した1週間(168時間)で消費する消費電力量(kWh/Week)をもって、その製品のTEC値とするものである。TECが適用される前は、約30秒/ジョブとされる印刷時間の累計エネルギーよりも、それ以外の待機時間(レディモード)、及び夜間や休日(スリープモード)に消費されるエネルギーの方がTEC値の大方を占める製品が殆どであった。図2(a)に、熱ローラ式の定着装置を搭載するプリンタのTEC測定時の典型的な電力プロファイル例を示す。図2は横軸が時間、縦軸が消費電力を示している。15分間隔で実施されるプリントジョブの間はレディモードに保たれ、ジョブ終了後所定時間の間はプリントジョブが入ると30秒以内でジョブを開始できる低電力モードとされ、ジョブが終了して所定時間を経過するとスリープモードに入っていた。
【0003】
レディモードやスリープモードで消費されるエネルギーがTEC値の大方を占めるという状況は、TECが適用開始された2007年以降、様変わりした。今や、印刷が終了すると1分程度でスリープモードに入る製品が多数となり、所謂トップランナー製品(=同じ公称速度の中で、省エネ性能が最も優れている製品)のスリープ時の電力は、限界と言っても良い1Wにまで縮減された。図2(b)に熱定着装置を搭載するトップランナープリンタのTEC測定時の典型的な電力プロファイル例を示す。15分間隔で実施されるジョブは、全てスリープモードから開始されるのが特徴であり、従来、TEC値全体の過半を占めていた待機時消費電力量が激減し、TEC値の殆どがジョブ実行時の消費電力で占められるようになっている。TEC適用以前のエネルギースタープログラム(モノクロ複写機・複合機のみが対象)で規定されていたスリープモードからのリカバリー時間規制が、ネットワーク接続されるプリンタ等に適用対象が拡大されるに及んで廃止された。この結果、レディモードの時間を極限まで短縮し、スリープモードから印刷することが一般化した。この間、TEC値は大幅に改善したが、ジョブ毎のリカバリー時間が20〜30秒を要する製品が多く、ユーザビリティーは犠牲になった面がある。
【0004】
2007年時点で、ハイエンド機(35枚機)のカラー複合機のトップランナーTEC値は2.5kWh/weekであったものが、2009年時点では、トップランナーTEC値が1.7kWh/weekにまで激減した。ローエンド機においても、モノクロ20枚プリンタでは、2007年のトップランナーTEC値が1.0kWh/weekであったものが、2009年のトップランナーTEC値は0.6kWh/weekを達成している。2009年のトップランナーのスリープ電力はカラー複合機・モノクロプリンタともに1Wであり、いずれにおいてもTEC値中のスリープエネルギーは高々0.2kWh/weekに過ぎない。
【0005】
TEC値を更に下げようとすると、今やTEC値の大半を占める印刷時の消費電力を下げる以外の手はない。これは、TEC値中の印刷エネルギーの占める割合が多いハイエンド機においてより切実な問題である。熱定着方式では、トナーの定着温度を更に下げることが残された唯一の省エネ手段と考えられるが、この間の省エネ化対策で既に20〜30℃の低温定着化が行われており、更なる低温化は輸送時・使用時のトナー固着の弊害もあり、難易度が高い。仮に低温化したとしてもその省エネ度合いはTEC値で10%減程度に留まると予想される。そこで、熱を使わずにトナー画像を定着する方式による、抜本的な省エネが求められる。その候補として光定着方式が注目される。以下に、従来の主な光定着技術について述べる。
【0006】
特許文献1は、電子写真法で形成されたトナー画像に三次元架橋構造を有するポリマー被覆を施す事で、耐磨耗性やスクラッチ性を向上させる画像形成方法に関するものである。具体的には、ポリマー被覆組成物は、(1)シロキシ変性ポリカルビノールとアクリルウレタンの組み合わせ、又は、シロキシ変性アクリルウレタンのいずれかと、(2)多官能アクリル酸化合物を必須構成部分として含む。更に、被覆組成物はトナーを画像支持体に硬化し、結合すると記載されている。特許文献1の「硬化」とは、トナー画像を熱で定着した後に被覆組成物を塗布し、熱又は光で硬化させる場合を含むが、未定着トナー画像に直接被覆組成物を塗布した後、紫外線光を照射して定着する例も記載されている。後者の具体的実施例1では、上記(1)+(2)の化合物が用いられ、重合開始剤にベンゾフェノン系化合物が用いられている。この場合の光硬化は、高圧水銀灯により成就されるが、実施例に記載された消費電力は118W/cmとされており、決して低くはない。これに対応する定着速度は30mm/min(=500mm/sec)と高速ではあるが、ハイエンドの電子写真画像形成装置の定着消費電力として見ると、3〜4kWの大電力に相当するもので、昨今の省エネレベルには遠く及ばない。発光輝線を多数有する水銀灯は、赤外域にも発光波長を有するなど、必要な紫外線以外の光も出すため、省エネとは言えない。又、水銀灯の場合は熱ローラ並かそれ以上の立ち上げ時間が必要であり、装置構成上もコンパクトさを欠く嫌いがある。また、ベンゾフェノン系の光重合開始剤は、発光輝線を多数有する高圧水銀灯での光硬化には有効であっても、LEDのように極大発光波長が狭い波長領域に限定される光源に対しては感度が低いという問題がある。
【0007】
特許文献2には、光重合組成物として不飽和ポリエステル樹脂をビニルモノマーに溶解させた液状組成物を複数のノズル等を用い、未定着トナー画像を載せた記録媒体に塗布している。その後、紫外線を照射し固化することでトナー同士及びトナーと記録媒体とを固定する定着方法が、温風等による定着方法と並べて開示されている。液状組成物を用いる定着の効果として省エネが謳われているものの、温風による乾燥で「少ない定着エネルギーで定着できた」とされるのと同様の表現で、「紫外線ランプで紫外線を照射したところ、少ない定着エネルギーで定着できた」とのみ記載されている。紫外線光源の具体的特徴や具体的消費電力値を挙げて論証されておらず、紫外線を用いる定着というだけで、熱を利用するヒータを用いるのと同列の省エネ度では、現在求められている水準を満たすものとは考えられない。又、紫外線ランプの立ち上げ時間等、待ち時間に関しては、併記されている他の定着方法においても何ら触れられていない。ヒータを用いる場合等には相応の待ち時間が発生することは容易に推定され、紫外線ランプについても同様である。
【0008】
また、特許文献2の光重合組成物は、供給ロールで記録媒体の非画像部つまり裏面から供給され、記録媒体の表面に形成されているトナー画像の所まで、光重合組成物を強く浸透させて供給する必要がある。このために光重合組成物の成分として浸透促進剤としての界面活性剤が用いられている。しかしながら界面活性剤の添加は、光重合組成物を記録媒体の深部へ強く浸透させてしまう事や記録媒体(例えば普通紙)へ大量に光重合組成物を塗布する必要があり、記録媒体の繊維の中に光重合組成物が浸透してしまうため通常の紫外線の照射では、光が十分に記録媒体の繊維の中まで到達し得ない。結果的に光重合反応が不十分となり未反応モノマーや蒸気圧の低いオリゴマーが発生し、揮発性有機化合物(VOC)の増大をもたらす。更に繊維の内部で重合した固化物は、記録媒体を透明化し画像の価値を著しく損なう。更に記録媒体の剛性が増し、本来の電子写真用普通紙とは風合いの異なるもので好ましくない。記録媒体にコート紙を用いる場合は、コート層で浸透が阻止されるため完全な重合反応が期待できずトナー画像の被覆は困難になると思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】USP4477548号公報
【特許文献2】特登録4014773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、トナーを記録媒体に定着させるために要するエネルギーを加熱定着方法と比較し大幅に少なくできるトナー画像定着方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するための本発明のトナー画像定着方法は、記録媒体上に形成された未定着トナー画像に光重合組成物を塗布し、前記光重合組成物が塗布された前記未定着トナー画像に対して420nm以上470nm以下の波長領域に極大発光波長を有する光を発光ダイオード又は有機EL素子を用いて照射し、前記光重合組成物に光重合反応を起こさせて前記光重合組成物を硬化させることで前記未定着トナー画像を前記記録媒体に定着することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
熱を利用せずに光重合反応で定着工程が行われるので、大幅な省エネを達成することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1の光定着装置の断面図(a)と平面図(b)。
【図2】熱ローラ定着器搭載プリンタ、熱定着器搭載トップランナープリンタ、実施例1の光定着器搭載プリンタ、それぞれのTEC値を示した比較図。
【図3】光重合開始剤の吸収スペクトルとLEDの発光スペクトルの関係図。
【図4】熱定着器を用いて定着したトナー画像と実施例1の光定着器を用いて定着したトナー画像のギャマットを比較した図。
【図5】光重合組成物を塗布した時のトナー層の変化を表した模式図。
【図6】実施例2の光定着器の全体断面図(a)と筒状部材の構成の詳細断面図(b)。
【図7】実施例3の光定着器の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態で用いる光重合組成物、定着用光源、トナー、塗布方法、について説明する。
【0015】
(A)光重合組成物
光重合組成物としては、以下に示す3種類の光重合反応いずれかを活用するものを用いる。一つ目は、光重合開始剤に光を照射することでラジカル活性種を形成し、この活性ラジカル種が順次モノマーと重合することで成長反応を行う「ラジカル光重合反応」である。二つ目は、光でスルフォニウム塩、ヨードニウム塩等の光重合開始剤を励起する際に活性カチオン種を形成し、エポキシ化合物やオキセタン化合物やビニルエーテル化合物のようなモノマーと逐次重合する「カチオン光重合反応」である。三つ目は、光による励起で発生した活性アニオン種が重合反応に関与する「アニオン光重合反応」である。「ラジカル光重合反応」には、「ノリッシュ(Norrish)I型」と「ノリッシュ(Norrish)II型」の反応が存在する。「ノリッシュI型」反応は、α−ヒドロキシケトン類、α−アミノケトン類、BDK、MAPO類、BAPO類を励起三重項状態に励起し、α位置でホモリテックに分解し、活性ラジカル種を発生させる。「ノリッシュII型」反応は、ベンゾフェノン類が光励起で励起三重項状態に励起し、この状態で三級アミンから水素引き抜き反応を起こし、発生した活性ラジカル種がモノマーと重合反応を起こすものである。「ラジカル光重合反応」は、酸素により反応が阻害され易いけれども、豊富なモノマー種が存在するため主体的に用いられる。
【0016】
LED(発光ダイオード)による光重合組成物の硬化反応を効果的に行うには、LEDの発光スペクトルと良くマッチングしている吸収スペクトルを有する光重合開始剤を含む光重合組成物を用いることが重要である。特に、LEDの発光はメタルハライド灯や中・高圧水銀灯と比べて発光スペクトル帯が狭いので、より光重合開始剤の選択が重要になる。具体的な光ラジカル重合開始剤としては、フォスフィン系化合物、イミダゾール系化合物、ケタール系化合物やチオキサントン系化合物を用いることができる。光重合組成物は、未定着トナー画像の層に浸透し、トナーと記録媒体の接点に到達することが必要である一方で、できるだけ記録媒体中には浸透せずに、表面で硬化させることが求められる。これを実現する方法の一つとして、光重合感度の高いモノマー類や多官能モノマー類を配合することが挙げられる。また、光重合組成物D1に用いる添加剤として、増感剤・粘度調整剤・流動性調整剤などを配合することも可能である。さらに、得られる光重合硬化物が無色透明性を示すことが必要であり、ナノ粒子径を有する無機化合物か、有機化合物のフィラーを添加してもよい。
【0017】
(B)定着用光源
光重合組成物が塗布された未定着トナー画像に光を照射する定着用光源は発光ダイオード又は有機EL素子を用いる。発光ダイオードとしては、発光効率の高いチップ構成が好ましい。通常InGaNを発光層として利用する場合には、In組成を変化させることでその発光波長は赤外から紫外領域まで変化させることが出来る。長波長になる程、発光効率は高く、紫外線域に極大発光波長を有する紫外線LED(以下、UV−LED)の波長を可視光領域に向けて長波長化する開発が進められている。そこで本発明は、光重合組成物が塗布された未定着トナー画像に対して光を照射する定着用光源として、420nm以上470nm以下の波長領域に極大発光波長を有する発光ダイオード又は有機EL素子を用いるものである。特に、遠赤外領域に発光波長帯を実質的に有さず、420nm以上470nm以下の波長領域に極大発光波長を有する発光ダイオード又は有機EL素子が好ましい。極大発光波長が420nm以上なので、発光効率は紫外光の場合よりも高いメリットがある。更に、紫外光の場合には、集光レンズとして紫外線を透過するガラスにする等の必要があるのに対して、可視光だとより汎用性の高い樹脂が使えるメリットもある。一方、例えば赤色光のように、極大発光波長があまりに長波長になると光エネルギー自体が低くなるので、照射時間を延ばす必要が生じてしまう。また、長波長の光を吸収する必要性のため光重合組成物を着色する必要も生じ、トナー画像の色味が変化するという問題もある。そこで、LEDの極大発光波長を470nm以下に設定し、そこに感度を有する光重合開始剤とのマッチングを図ることで、長波長化により発生する傾向にある上記諸問題を、実用上は問題とならない範囲に抑えることができる。
【0018】
メタルハライド光源や中・高圧水銀灯に比べて、LEDや有機EL素子の消費電力は小さく、装置寸法も小型であり、発光波長分布が狭い。赤外領域に発光スペクトルを持たないので発熱量が少なく装置の昇温を抑制することも出来る。また、420nm以上470nm以下の波長領域に極大発光波長を有する発光ダイオード又は有機EL素子は、発光効率が高いので、発光素子を1列で構成でき、主走査方向にアレイ状に配列し、簡易な放熱フィンを設けた発光ユニットとすることができる。必要な発光強度は、光重合組成物の感度や電子写真画像形成装置の速度により、更には発光素子の出射面と照射面までの距離(ワークディスタンス)、ライトガイドの種類、集光レンズの種類、拡散板の利用の有無等によっても大きく左右される。本実施例では、照射強度が400mW/cm以上2000mW/cm以下である発光素子が利用される。この際、発光素子の発光量は、個別素子に対して独立に電流値を制御することも可能であるが、全体を一括して電流値を制御することで装置の簡略化と低コスト化を図っても良い。
【0019】
また、LEDに替わる発光源として、有機EL素子(OLED)素子を用いることも可能である。有機ELはLEDと比較して面発光のため点発光のLEDと比較し発光素子ユニットの加工や実装に関しては、極めて容易となる。有機ELを用いる場合においても、特に420nm以上470nm以下の領域に極大発光波長を有する光源を選択し、光重合開始剤の吸収波長とのマッチングを図る必要がある。
【0020】
(C)トナー
本実施例に用いるトナーは、記録媒体の地の色を隠蔽し、できるだけトナー中の色剤を際立たせるために、記録媒体上のトナー粒子間の空間が最も少なくなるように最密充填した配置とされるのが好ましい。記録媒体上に多層に形成されたトナー画像に光重合組成物を塗布した場合、光重合組成物は毛細管現象によりトナー粒子表面を濡らすと共にトナー粒子間に凝集力を発生させ、トナー粒子間の空間を液で満たしつつトナー粒子間を浸透して記録媒体表面に到達する。粒径が揃い、かつ球形状のトナーが、上述の最密充填効果を発揮できるので最も好ましい。ここに言う球形状とは、シスメックス社製FPIA3000で測定した円形度が0.95以上1.00以下の範囲のトナーを言う。円形度は、下式を用いて求める事が可能である。
円形度=(粒子面積と等しい円の周囲長)/(粒子周囲長)
測定方法は、ノニオン型界面活性剤約0.1mgが添加された水10mlにトナーを5mg加え超音波分散器を用い5分間分散後、トナーの円形度を測定した。円形度は、完全な真球の場合には1.00を示し形状が複雑になる程、円形度の値は小さくなる。円形度が0.95以上1.00以下を示すトナーが特に好ましく用いられる。更に、固体のトナー表面と光重合組成物とで発生する電気二重層に電界を作用させて電気浸透流を発生させて浸透性を制御する事も可能である。
【0021】
粒径が揃い、球形形状をしたトナーの製造法は、従来から良く知られた重合法が利用できる。粒径が揃い球形形状のトナーを製造するには、強い膨大な破砕エネルギーを必要とする粉砕法より、液中で界面張力を利用する方が製造エネルギーや収率の点で好ましい。省エネルギーな生産性のためモノマーからトナーを直接製造するin−situ 重合法が特に好ましく利用できる。例えば特登録03066943号に記載されている公知の製造法が利用できる。トナーの製造方法としては、製造収率や製造エネルギーや球形形状を容易に形成できる点で重合法が好ましいが、重合法に限定するものではない。粉砕法により製造したトナーを熱球形化処理した粉砕法トナーも利用する事ができる。
【0022】
LED光による定着方式では、従来の熱定着方式と異なり発熱が大幅に減少するので、定着器周りの耐熱部材を通常の汎用プラスチック材料に変更する事が可能となる。又、従来の、耐久性が良いトナーは定着温度を高くする必要があり、逆に定着温度が低いトナーは耐久性に難がある、というトレードオフ関係が解消される。つまり、耐久性の良いトナーでも光で定着でき、従来のように高温設定に伴う定着器回りの問題が生じないので、トナーの帯電性の安定化と定着器のコストダウンが両立できる。
【0023】
(D)塗布方法
光重合組成物の最適塗布量は、記録媒体表面の粗さや密度、又、塗布から光照射までの時間により左右される。通常は、1μm以上20μm以下の厚さの塗布量が適度である。20μmより厚く塗布すると記録媒体がカールしたり、記録媒体が透明化するため好ましくない。塗布量が1μmより薄いとトナーと記録媒体との層間強度が低下し摺擦や折り曲げ等でトナーが欠落する等、定着性が不足するため好ましくない。コートされた記録媒体を用いる場合には、光重合組成物の塗布量を少なくして、かつ、硬化収縮の低い光カチオン重合組成物を採用することが好ましい場合もある。但し、光カチオン重合組成物は放置安定性に乏しく、光ラジカル重合組成物を選択したほうが好ましい。
【0024】
光重合組成物の塗布方法は、中・低粘度物を薄層に塗布する既知の方法より選択される。例えば、ロッドコーター、グラビアコーター、リバースグラビア、メイヤーバーコーター、ダイコーター、キスロールコーター、フルコーンノズルやフラットスプレーノズルやナイフジェットノズルを有する一流体ノズル、二流体ノズル、ロールコーター、電界霧化法、インクジェット法などが用いられる。光重合組成物の粘度は塗布方法に依存する。ノズル法やインクジェット法は、微少な吐出量を制御するためには大変適した方法であるが、ピエゾ素子の駆動力が低いため、比較的低い粘度(ex.25℃環境下で、10mPa・s以上30mPa・s以下)の組成物しか用いることが出来ない。一方、グラビアコーターやロールコーター、あるいは加熱インクジェット法は比較的高い粘度(ex.25℃環境下で、30mPa・s以上400mPa・s以下)の組成物に適する塗布方法である。記録媒体の表面で組成物を硬化させるには、低粘度浸透タイプよりも中程度の粘度を持つ光重合組成物が特に好ましい。
【0025】
以上のように、本発明は、記録媒体上に形成された未定着トナー画像に光重合組成物を塗布し、光重合組成物が塗布された未定着トナー画像に対して420nm以上470nm以下の波長領域に極大発光波長を有する光を発光ダイオード又は有機EL素子を用いて照射し、光重合組成物に光重合反応を起こさせて光重合組成物を硬化させることで未定着トナー画像を記録媒体に定着するものである。
【0026】
(実施例1)
図1(a)は光定着装置の断面図、図1(b)は光定着装置の平面図である。この光定着装置は電子写真方式のフルカラーレーザプリンタ(不図示)に未定着トナー画像T1定着装置として搭載されている。20は記録媒体P上に形成された未定着トナー画像T1に光重合組成物D1を塗布する塗布部、40は光重合組成物D1が塗布された未定着トナー画像T1に対して光Lを照射する光照射部、50は光照射部40が出射する光Lが塗布部20に当らないようにするための遮光部である。
【0027】
本実施例の塗布部20はインクジェットタイプであり、複数のインクジェットノズル(不図示)が、記録媒体Pの進行方向(矢印方向)に対して直角方向に一列に配置されている。記録媒体上の未定着トナー画像T1が形成された位置のみに光重合組成物D1を塗布するように各インクジェットノズルを制御しても良いし、全てのノズルを同時に制御して記録媒体Pの全域に光重合組成物D1を塗布しても良い。後者の場合、ノズルとノズル駆動部の結線が簡素化でき、ノズル駆動部を簡易な構成に出来る。本実施例では、塗布部20によって未定着トナー画像T1に塗布する光重合組成物D1としてスリーエム社製UV or Visible Cure Adhesive LC1213(250〜380,400〜500nm)を用いた。この光重合組成物D1は常温における粘度が約400mPa・sであり、粘度が高い。本実施例の光定着装置は、ノズルから吐出す時の光重合組成物D1の粘度が低くなるように、光重合組成物D1を加熱し軟化させる熱源を備えている。塗布領域は未定着トナー画像T1が形成された位置のみではなく記録媒体全面であり、塗布する厚みが均一になるようにノズルを制御した。プリンタ内で記録媒体(本実施例ではゼロックス社製レターサイズ、坪量75g/m普通紙を用いた)上に形成した複数層の未定着トナー画像T1の厚さは、トータルで25μm程度であり、この厚みのトナーを定着するのに必要な光重合組成物D1は、レターサイズ用紙1枚全面に対して0.5ml程度である。この塗布量は、塗布厚み(プラスチックフィルムのように光重合組成物D1が浸透しない記録媒体の表面に光重合組成物D1のみを塗布した場合の厚さ)にして8μm以上10μm以下である。この光重合組成物D1を硬化し、トナーを十分な強度で記録媒体に定着させるのに必要な積算光量は約40mJ/cmであることが予め実験的に得られている。
【0028】
本実施例で使用したライン型光照射部40は、主走査方向(記録媒体の進行方向に対して直角な方向)にLED(発光ダイオード)デバイス41を20個アレー状に一列に配列されており、集光レンズ42と放熱フィン43を有する。記録媒体上の未定着トナー画像T1が形成された位置のみに光Lを照射するように各LEDデバイスを制御しても良いし、全てのLEDデバイスを同時に制御して記録媒体Pの全域に光Lを照射しても良い。後者の場合、LEDデバイスとLED駆動部の結線が簡素化でき、光照射部40を簡易な構成に出来る。
【0029】
未定着トナー画像T1に塗布された光重合組成物D1は、トナー粒子表面を伝って、トナー粒子間の空間を満たし、トナー粒子と記録媒体の界面に至る。塗布前の未定着トナー画像T1の高さ(層厚)は、光重合組成物D1を塗布すると光重合組成物の表面張力の作用で低められ、これに伴いトナー粒子間の相対位置関係も変化し、マクロ的に混色を促進する(色相の幅が向上する)。
【0030】
LED光源41の消費電力は、LEDデバイス1個あたりの消費電力が約5Wであるので、全体として約100Wである。照射エリアがレターサイズ(幅215.9mm×長さ279.4mm)の幅をカバーするために220mmの長さを持ち、記録媒体搬送方向に10mmの幅を持つ。この照射面積に対して、平均して500mW/cmの強度を有する光が照射できるようになっている。光定着器を搭載するプリンタの記録媒体搬送速度は約100mm/sであり、搬送方向10mmの照射幅通過に要する通過時間は0.1秒であることから、このLED光源下を通過して得られる積算光量は50mJ/cmになる。照射光の波長は450nm付近に唯一の極大波長を持つLED光であり、積算光量として定着に十分な値(約40mJ/cm)が確保されており、この条件で十分な定着強度が得られた。集光レンズ42としては、紫外光を用いる場合と異なり、通常の樹脂レンズを使うことができ、コストダウンが図れる利点がある。
【0031】
図3に、本実施例で用いた光重合組成物D1に含まれる光重合開始剤の吸収スペクトルとLEDの発光スペクトルの関係を示す。光重合開始剤の吸収スペクトルは400nmから500nmの光に対応して光重合を行うことが可能であり、LEDの発光波長分布は450nmを中心に40nmの狭い範囲に集中しており、トナー粒子間を満たしてトナー粒子/記録媒体の界面にまで塗布された光重合組成物D1に効率よく光重合反応を起こさせ、トナー画像を記録媒体上に定着することが出来た。
【0032】
定着後のトナー画像を摺擦した際の濃度低下率を測定して定着性の評価を行った。具体的には、グレタグマクベス社製RD−19I等の反射濃度測定器を用いて、定着後の画像濃度を測定し、その後、重り等を用いて所定の負荷をかけながら画像表面をシルボン紙で所定回数擦る。さらに、擦り後の濃度を測定し、(濃度低下率:%)={(擦り前画像濃度)−(擦り後画像濃度)}/(擦り前画像濃度)×100 により計算する。結果は以下の表1のとおり、光定着は熱定着に遜色ない定着性を示すことが判った。なお、濃度低下率の比較は、ブラックトナー(K)単色のベタ画像およびハーフトーン画像で行い、濃度低下率は10.0%以下であれば実用上問題無いと判断している。本実施例の光定着器で定着する前の未定着トナー画像と、熱定着器で定着する前の未定着トナー画像は同一である。
【0033】
【表1】

【0034】
次に、定着後のトナー画像のカラーギャマット(gamut)を図4に示した。La*b*の測定は、グレタグマクベス社製のSpectrolinoを用いた。実線は本実施例の光定着方式、破線は熱定着方式に対応するものであり、本実施例の光定着方式でも十分な色再現が行われていることが判る。この理由として、未定着状態ではトナー界面での光散乱で略表面のトナーの色しか人間の目に入らないものが、光重合組成物が浸透することで光散乱が抑えられて光吸収が促進されるからである。更に、以下に述べるトナー層間における異なる色のトナー位置の入れ替りによる併置混色化作用が効いていることが、本発明者らの観察により明らかになった。
【0035】
記録媒体上に形成した複数色の未定着トナー画像T1上に、光重合組成物D1を塗布した際の、塗布前の様子から塗布後にかけてトナー層中で起きるトナー粒子間位置関係の変化の様子を図5(a)〜(d)に示す。図5では二色のトナー画像が層状に上下に分かれた状態(フルカラーレーザプリンタ中の未定着画像形成部によって形成した画像)を示している。
【0036】
図5(a)に示すように、記録媒体上へ形成した二色の未定着トナー画像(ベタ画像)は、下層に1色目のトナー、上層に2色目のトナーが層状に積層されている。各色毎のトナー層の厚みは、トナー粒子の1.5倍〜3倍の厚みを有しており、二色合わせて3〜6層程度のトナー粒子層を形成している。この未定着状態で認識できる画像の色は、上層のトナーの色が支配的である。図5(a)の場合はマゼンタ色が支配的で、部分的にトナー粒子が少ない箇所や存在しない箇所から、下層のシアン色が反射することにより、人間の視覚的にはマゼンタに若干青みを帯びたような色(二次色)として認識できる。
【0037】
次に未定着トナー画像の上から光重合組成物D1を塗布し始めると、図5(b)に示すように、液滴が付着・浸透した部分を基点に、周囲のトナー粒子が液の界面張力によって凝集しクラスターを形成する。液滴の大きさ等によってクラスターの大きさは異なるが、ほぼ均等な間隔で分布したような状態になる。この状態で、認識できる画像色は、上層のトナーが平面方向に凝集することによってクラスター間の隙間が拡がることから、光重合組成物D1塗布前と比較すると、下層のトナーからの反射強度が強くなり、徐々に下層色の影響が出始めるように認識される。
【0038】
さらに、光重合組成物D1の塗布が進むにつれ、図5(c)に示すように、上層トナーのクラスター間に出来た隙間を通って、下層のトナーにも直接光重合組成物D1が付着および浸透し、上層のトナーが凝集するのと同様に、下層のトナー同士が凝集してクラスターを形成し始める。同時に光重合組成物D1の浸透が進行した上層から、大小のクラスター状態のトナーが光重合組成物D1の浸透と界面張力の影響を受けて記録材方向(図5の下向き)に引き付けられる。光重合組成物D1塗布前のトナー層厚みと比較すると、光重合組成物D1の介在によりトナー間に存在した隙間や空間が減少し、トナー層厚みが減少して凹凸が均される。
【0039】
最終的に、所定量の光重合組成物D1塗布が終了すると、図5(d)に示すように、各色別の大小のクラスター、および二色が混在した大小のクラスターがほぼ均等な間隔で併置し、初期状態(未定着状態)のトナー配列から比較すると、大きく配列を変化させ、浸透した光重合組成物D1が記録材の表面まで到達した状態を形成する。この状態で認識できる画像の色は、微視的に観察すると、熱定着方式の混色、つまり異なる色のトナー粒子が溶融し合って生じる混色はしていない(微視的に二次色の状態にはなっていない)ものの、人間の眼の空間的分解能よりは十分に小さいクラスターが併置することによる併置混色が形成され、熱定着方式で得られる混色状態と遜色の無いカラー画像として認識することが出来る。
【0040】
尚、上述したトナー層間のトナー配置の入れ替りによって生じるカラートナーの併置混色および混色増進のメカニズムは、光重合組成物D1の塗布過程で生じる。これは、本実施例で示した420nm以上470nm以下の可視光域の光に限定されるものではなく、より短波長の紫外光により定着する場合にも観察される現象である。
【0041】
本実施例のLED光源を用いて光照射する際の駆動電力は、実測上100Wであり、定着装置としては光重合組成物D1塗布部(加熱式インクジェットヘッド)の駆動電力をあわせると、およそ180Wの消費電力である。以下表2に熱定着方式により定着させた場合の電力と比較する。
【0042】
【表2】

【0043】
上記表2から明らかなように、本実施例による定着装置の消費電力は180Wであり、熱定着方法を使用した場合の約60%の消費電力であることが分かる。また、このLED光源の光変換効率は、約10%以下である。今後LEDの変換効率が更に向上していくと、光源の駆動に必要な消費電力は更に少なくなると予想でき、将来的にも省電力性に大きな可能性を秘めた定着方法であると考えられる。
【0044】
因みに、A4サイズ紙を縦送りで16枚/分出力する能力があるモノクロレーザプリンタに熱定着器を搭載した場合と、本実施例の光定着器を搭載した場合の、電子写真プリンタとしてのTEC値を比較したところ表3の結果であった。表3の比較例は2009年時点でTEC値のトップランナーレベルのものであり、スリープモードにおける消費電力を1Wにするコントローラを用いている。比較値は、このプリンタの熱定着器のみを光定着器に入替えて測定したものである。
【0045】
【表3】

【0046】
TEC値は速度依存があり、熱定着器を光定着器に変更した際の省エネ効果は高速になる程、顕著に表れる。以下に、A3カラー複合機のハイエンド製品(A4横送りで51枚/分出力する能力があるプリンタ)に本実施例の光定着器を適用した場合のTEC値低減効果を示す。これも比較例は、2009年時点のTEC値トップランナーレベルのものであり、スリープモードにおける消費電力を1Wにするコントローラを用いている。
【0047】
【表4】

【0048】
熱定着方式では、トナーの定着温度を更に下げることは困難とされているが、仮に下げてもTEC値低減効果は10%前後と見積もられていることを考えれば、表3/表4の本実施例の光定着器によるTEC値低減は17〜28%であり、省エネ効果の大きさが理解できよう。LEDの光源効率は、将来的に上がることが予測されており、その際には定着エネルギーが更に低減して、更なる省エネも期待される。図2(c)に本実施例の光定着器を搭載したプリンタのTEC値測定時の電力プロファイルを示す。比較例である図2(b)と比較して、印刷時の消費エネルギーが抑えられていることが判る。
【0049】
また、本実施例の他の形態として、LED光源の替わりに有機EL素子を光源として用いても良い。例えば440nm付近にピーク波長を有する有機EL素子より成る面発光体を切り出して樹脂封止を行い、直方体の発光光源として用いる。主走査方向がレターサイズ巾(215.9mm)、副走査方向が10mm巾の照射エリアをカバーできるようにする。500mW/cmの照射強度を有する有機EL素子をフル点灯したところ、130Wの消費電力で上述したLED光源を用いた場合と同様の定着画像を得ることが出来た。この場合でも、比較例(熱定着方式)と比較して、大幅に省エネを実現するものである。
【0050】
(実施例2)
図6に実施例2の光定着器の全体断面図(a)と筒状部材の構成の詳細断面図(b)を示す。この光定着器200は、回転可能な筒状部材60と、筒状部材60の表面に光重合組成物D1を供給する供給部(203、205)と、筒状部材60の内部に配置されている発光ダイオード41と、を有する。筒状部材60が回転しながらその表面に供給された光重合組成物D1を記録媒体P上の未定着トナー画像T1に塗布し、発光ダイオードを用いて光重合組成物D1が塗布された未定着トナー画像T1に対して筒状部材60を介して光を照射し、光重合組成物D1に光重合反応を起こさせて光重合組成物D1を硬化させることで未定着トナー画像T1を記録媒体Pに定着するものである。
【0051】
詳述すると、光定着器200は、特開2005−254803号公報に開示されている簡易なロールコーターと同じ構成である。塗布ローラ(筒状部材)60と、塗布ローラ60の上部に配置された空間形成基材203と、リング形状の弾性シール部材205と、付勢手段204を有する。付勢手段204により空間形成基材203を付勢すると、空間形成基材203と塗布ローラ60と弾性シール部材205とで囲まれる空間Aが形成される。この空間Aに空間形成基材203に設けた供給孔(不図示)から光重合組成物D1を供給し保持させる。空間Aへの光重合組成物D1の供給はポンプで行われ、塗布ローラ60の回転、停止に応じて空間Aに対する光重合組成物D1の供給/回収が調整される。塗布ローラ60が停止した状態では、塗布ローラ60と弾性シール部材205は密着しており、両者の間に微小な隙間はあっても光重合組成物D1の表面張力の作用で空間Aから液(光重合組成物)が漏れることは無い。塗布ローラ60が回転すると、光重合組成物D1が一定の量で塗布ローラ60の表面に供給される。未定着トナー画像T1を載せた記録媒体Pが塗布ローラ60とバックアップローラ68の間を搬送されると同時に光重合組成物D1が未定着トナー画像T1に塗布される。
【0052】
本実施例に用いた光重合組成物D1は、実施例1と同じものであるが、ローラ塗布の場合、インクジェット装置を用いた塗布方法に比べて高粘度の光重合組成物D1であっても粘度を下げずに塗布できる。本実施例では、上述の塗布方法により、塗布ローラ60上に5μmから10μmの厚さに塗布できた。
【0053】
塗布ローラ60は、図6(b)に示すように、基層63と、弾性層62と、表面離型層61を有する。表面離型層61は、厚さ約30μmのPFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)層であり、中間弾性層62に住友スリーエム社製のTHV220を用い、基層63には、厚さ2mmの透明なPI(ポリイミド)パイプを用いた。この塗布ローラ60の各層は、420nm以上470nm以下の波長領域に極大発光波長を有するLED光が透過する材料で形成されている。
【0054】
ライン状に配置されたLED41を有する光照射部40は、中空の塗布ローラ60の内部に設置してある。照射領域はニップ幅10mmであり、A4サイズの記録媒体の長手全域に照射できる構造とした。ヒートシンク43は光照射部40を光定着器200のフレームに保持させる保持部材の機能も有している。光照射部40から出射する光は、光重合組成物D1を塗布し終わった後の未定着トナー画像T1に向けて照射される。従って、光照射部40は塗布ローラ60から未定着トナー画像T1への光重合組成物D1塗布位置よりも記録媒体Pの搬送方向下流側に光を照射するように、塗布ローラ60内で傾けて取り付けられている。遮光部材44は、光照射部40と塗布ローラ60の間に設けられ、塗布ローラ上の光重合組成物D1に直接LED光が当らないようにしている。
【0055】
塗布ローラ60は駆動手段(不図示)によって矢印方向に回転駆動され、加圧ローラ68は矢印方向に従動回転する。未定着トナー画像T1を載せた記録媒体Pは、塗布ローラ60と加圧ローラ68の間に挿通され、光重合組成物D1が未定着トナー画像に塗布された後に、LED光が照射されることで未定着トナー画像が記録媒体Pに定着される。光照射されて硬化済みの光重合組成物D1は、塗布ローラ60と加圧ローラ68の間に生じる応力歪の作用により記録媒体Pに転移し、塗布ローラ60表面には殆ど残らない。図6(a)において、光重合組成物D1拭き取り部材69により、加圧ローラ68に移った光重合組成物D1が除去される。光重合組成物の塗布ローラ60への供給方法は、上述した弾性シール205を用いる方法に限らず、光重合組成物を含浸させたパッドや連続的なウェブを用いて塗布ローラ60へ供給する方法でも良い。
【0056】
以上の簡易なロールコーター200をプロセス速度100mm/secで駆動し、未定着トナー画像T1に浸透させた光重合組成物を実施例1に示したのと同じLED光源により照射した結果、実施例1に示したのと同等の十分な定着性/摺擦性を有する画像が得られた。本実施例では、インクジェット塗布法で必要であった光重合組成物D1の予熱が不要である分、定着に必要な消費電力が180Wから120Wに削減出来た。実施例1と同様にTEC値を測定すると、モノクロプリンタの場合0.39kWh/week、カラー複合機の場合1.93kWh/weekとなり、TEC値低減率は25〜36%となる。
【0057】
このように、本実施例は、回転可能な筒状部材と、筒状部材の表面に光重合組成物を供給する供給部と、筒状部材の内部に配置されている発光ダイオード又は有機EL素子と、を有する。そして、筒状部材が回転しながらその表面に供給された光重合組成物を記録媒体上の未定着トナー画像に塗布し、発光ダイオード又は有機EL素子を用いて光重合組成物が塗布された未定着トナー画像に対して筒状部材を介して光を照射し、光重合組成物に光重合反応を起こさせて光重合組成物を硬化させることで未定着トナー画像を記録媒体に定着する。
【0058】
なお、本実施例で開示した塗布ローラ60に用いられている表面離型層61、弾性層62、及び基層63を紫外光も透過する材料で形成し、且つ集光レンズ42を紫外光を透過するガラスに変更すると、光源として紫外光を出射するLEDや有機EL素子を用いることもできる。
【0059】
(実施例3)
図7に本発明の実施例3の定着工程を示す。本実施例が実施例1と異なる点は、未定着トナー画像T1に塗布する光重合組成物D2が、光重合開始剤だけでなく可塑剤も含有している点である。未定着トナー画像T1に可塑剤を含有する光重合組成物D2を塗布することで、トナーを軟化・溶融させつつ光重合でき、トナーの混色を促進させることができるというメリットがある。
【0060】
可塑剤としては、種々のものを用いることが可能であるが、本実施例では脂肪族エステル系可塑剤を用いた。脂肪族エステル系可塑剤とは、(1)脂肪酸とアルコール性化合物とのエステル、又は、(2)脂肪族アルコールと、酸とのエステルである。たとえば、コハク酸ジイソデシル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソデシル、アゼライン酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジオクチル、テローラヒドロフタル酸ジオクチル、アジピン酸ジブドキシルエチルなどの脂肪族2塩基酸エステルである。これらは、相溶化作用を高めることが出来る。脂肪族エステル系可塑剤の含有量は、光重合組成物100重量部に対して、0.5重量部以上75重量部以下の範囲である。好ましくは1重量部以上50重量部以下、更に好ましくは2重量部以上30重量部以下である。含有量が少なすぎるとトナーの可塑効果が少なくなり、多すぎると光硬化作用を低下させる可能性がある。
【0061】
図7に、本実施例の定着プロセス過程を示す。実施例1と同様な部分は説明を省略する。図7において、塗布装置20より光重合組成物D2が未定着トナー画像T1に塗布開始される。塗布後、未定着トナー画像T1が光照射部40に至る間に、可塑剤の効果によりトナー層が軟化・溶融し始める。未定着トナー画像T1が光照射部40に到達した時には、可塑剤の働きによりトナー層への光重合組成物D1の浸透とトナーの軟化・溶融が促進される。その後、LEDによる光照射により硬化重合反応を開始して、光重合組成物が硬化を終了する定着器排出時には、トナー層高さが低く、トナーが溶融した状態で記録媒体に定着されていることが特徴である。
【0062】
この様に、本実施例においては、記録媒体上に形成された未定着トナー画像に可塑剤を含有する光重合組成物を塗布してトナーを軟化させ、光重合組成物が塗布された未定着トナー画像に対して発光ダイオード又は有機EL素子を用いて光を照射し、光重合組成物に光重合反応を起こさせて光重合組成物を硬化させることで未定着トナー画像を記録媒体に定着する。これにより、混色が促進されるので、より均一な混色が可能で、定着性が向上し、より高光沢なトナー画像を得ることが出来る。本実施例においても、光源としてLEDや有機EL素子を用いるので、実施例1に記したのと同様に、熱定着器を用いる場合に比べて大幅な省エネが達成できる。なお、本実施例も実施例2同様、光源として紫外光を出射するLEDや有機EL素子を用いることもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体上に形成された未定着トナー画像に光重合組成物を塗布し、前記光重合組成物が塗布された前記未定着トナー画像に対して420nm以上470nm以下の波長領域に極大発光波長を有する光を発光ダイオード又は有機EL素子を用いて照射し、前記光重合組成物に光重合反応を起こさせて前記光重合組成物を硬化させることで前記未定着トナー画像を前記記録媒体に定着することを特徴とするトナー画像定着方法。
【請求項2】
前記トナーの円形度が0.95以上1.00以下であることを特徴とする請求項1に記載のトナー画像定着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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