説明

トナー

【課題】保存性及び粉砕性(粉砕フィード及び粉砕収率)を損なうことなく、また、特殊な工程を経ずとも得られる、低温定着性に優れたトナーを提供すること。
【解決手段】3価以上の脂肪族アルコールを70モル%以上含有したアルコール成分と、ロジン及び炭素数4〜10の脂肪族ジカルボン酸化合物を合計で70モル%以上含有したカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル樹脂Lを含み、該ポリエステル樹脂Lの軟化点が90〜135℃であり、含有量が5〜40重量%である結着樹脂を含有してなるトナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像に用いられるトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
世界的省エネ化へのトレンド、マシンの高速化に伴う1枚あたりにかけることのできるエネルギー量の低下により、トナーには低温定着性能が強く求められている。
【0003】
定着性を向上させるトナー材料としては、結晶性ポリエステルが報告されている(特許文献1参照)が、結晶性ポリエステルが十分に結晶化せず、可塑剤的に働くことによる保存性及び粉砕性の悪化が課題になっており、結晶核剤の併用(特許文献2参照)、アニーリング工程導入(特許文献3参照)等が報告されている。
【0004】
一方、特許文献4には、酸成分が(1)芳香族ジカルボン酸及び(2)不均化ロジン、アルコール成分が(3)3価以上の多価アルコールから構成され、前記アルコール成分(3)及び酸成分(1)のモル比(3)/(1)が1.05〜1.65であり、前記酸成分(2)及び(1)のモル比(2)/(1)が0.40〜2.60である低温定着性、耐オフセット性、耐ブロッキング性を向上するトナー用ポリエステル樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−22138号公報
【特許文献2】特開2006−113473号公報
【特許文献3】特開2005−308995号公報
【特許文献4】特開2010−20170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、保存性及び粉砕性(粉砕フィード及び粉砕収率)を損なうことなく、また、特殊な工程を経ずとも得られる、低温定着性に優れたトナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、3価以上の脂肪族アルコールを70モル%以上含有したアルコール成分と、ロジン及び炭素数4〜10の脂肪族ジカルボン酸化合物を合計で70モル%以上含有したカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル樹脂Lを含み、該ポリエステル樹脂Lの軟化点が90〜135℃であり、含有量が5〜40重量%である結着樹脂を含有してなるトナーに関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のトナーは、保存性及び粉砕性を損なうことなく、良好な低温定着性を有するという優れた効果を奏するものであり、本発明のトナーは、特殊な工程を経ずとも得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のトナーは、結着樹脂が、3価以上の脂肪族アルコール、ロジン及び炭素数4〜10の脂肪族ジカルボン酸化合物を用いて得られる、軟化点が90〜135℃のポリエステル樹脂Lを含有している点に特徴を有しており、これにより、保存性及び粉砕性を損なうことなく、低温定着性が向上する。これは、ポリエステル樹脂Lは比較的高軟化点樹脂でありながら、低分子量部分を多く含み、かつ、脂肪族ジカルボン酸化合物由来のソフトセグメントを有しているため、低温定着性の向上に効果があるものと考えられる。また、ポリエステル樹脂Lは比較的高軟化点であるために、他の樹脂中への分散性に優れ、適度に低分子量成分をトナーに分散させることができる。
【0010】
ポリエステル樹脂Lは、3価以上の脂肪族アルコールを70モル%以上含有したアルコール成分とロジン及び炭素数4〜10の脂肪族ジカルボン酸化合物を含有したカルボン酸成分とを縮重合させて得られる樹脂である。
【0011】
3価以上の脂肪族アルコールとしては、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール等が挙げられ、これらの中では、トナーの低温定着性を向上させる観点から、グリセリンが好ましい。
【0012】
3価以上の脂肪族アルコールの含有量は、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、アルコール成分中、70モル%以上であり、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは実質的に100モル%である。
【0013】
3価以上の脂肪族アルコール以外のアルコールとしては、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2,3-ブタンジオール、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール、式(I):
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、RO及びORはオキシアルキレン基であり、Rはエチレン及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の平均値は1〜16が好ましく、1〜8がより好ましく、1.5〜4がさらに好ましい)
で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール等が挙げられる。
【0016】
本発明におけるロジンは、松類から得られる天然ロジン、異性化ロジン、二量化ロジン、重合ロジン、不均化ロジン等の、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマール酸、イソピマール酸、サンダラコピマール酸、デヒドロアビエチン酸、レポピマール酸等を主成分とするロジンであれば、公知のロジンを特に限定することなく使用できる。天然ロジンとしては、天然ロジンパルプを製造する工程で副産物として得られるトール油から得られるトールロジン、生松ヤニから得られるガムロジン、松の切株から得られるウッドロジン等が挙げられる。
【0017】
ポリエステル樹脂Lに用いられるロジンは、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、天然ロジンが好ましい。天然ロジンは、精製ロジン、未精製ロジンいずれであっても、又、その混合物であっても好ましく使用することができる。
【0018】
本発明において、ロジンは、精製工程により不純物が低減されたロジンであってもよい。ロジンを精製することにより、ロジンに含まれる不純物が除去される。主な不純物としては、2-メチルプロパン、アセトアルデヒド、3-メチル-2-ブタノン、2-メチルプロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、n-ヘキサナール、オクタン、ヘキサン酸、ベンズアルデヒド、2-ペンチルフラン、2,6-ジメチルシクロヘキサノン、1-メチル-2-(1-メチルエチル)ベンゼン、3,5-ジメチル-2-シクロヘキセン、4-(1-メチルエチル)ベンズアルデヒド等が挙げられる。本発明においては、これらのうち、ヘキサン酸、ペンタン酸及びベンズアルデヒドの3種類の不純物の、ヘッドスペースGC-MS法により揮発成分として検出されるピーク強度を精製ロジンの指標として用いることができる。
【0019】
即ち、本発明における精製ロジンとは、後述のヘッドスペースGC−MS法の測定条件において、ヘキサン酸のピーク強度が0.8×107以下であり、ペンタン酸のピーク強度が0.4×107以下であり、ベンズアルデヒドのピーク強度が0.4×107以下であるロジンをいう。さらに、保管性及び臭気の観点から、ヘキサン酸のピーク強度は、0.6×107以下が好ましく、0.5×107以下がより好ましい。ペンタン酸のピーク強度は、0.3×107以下が好ましく、0.2×107以下がより好ましい。ベンズアルデヒドのピーク強度は、0.3×107以下が好ましく、0.2×107以下がより好ましい。
【0020】
さらに、保存性及び臭気の観点から、上記3種の物質に加え、n-ヘキサナールと2-ペンチルフランが低減されていることが好ましい。n-ヘキサナールのピーク強度は、1.7×107以下が好ましく、1.6×107以下がより好ましく、1.5×107以下がさらに好ましい。また、2-ペンチルフランのピーク強度は1.0×107以下が好ましく、0.9×107以下がより好ましく、0.8×107以下がさらに好ましい。
【0021】
ロジンの精製方法としては、公知の方法が利用可能であり、蒸留、再結晶、抽出等による方法が挙げられ、蒸留によって、精製するのが好ましい。蒸留の方法としては、例えば特開平7−286139号公報に記載されている方法が利用でき、減圧蒸留、分子蒸留、水蒸気蒸留等が挙げられるが、減圧蒸留によって精製するのが好ましい。例えば、蒸留は通常6.67kPa以下の圧力で200〜300℃で実施され、通常の単蒸留をはじめ、薄膜蒸留、精留等の方法が適用され、通常の蒸留条件下では仕込みロジンに対し2〜10重量%の高分子量物がピッチ分として除去されると同時に2〜10重量%の初留分を除去する。
【0022】
ロジンの軟化点は、ポリエステル樹脂Lの目標とする軟化点と分子量を両立し、トナーの低温定着性及び保存性を向上する観点から、50〜100℃が好ましく、60〜90℃がより好ましく、65〜85℃がさらに好ましい。本発明におけるロジンの軟化点とは、後述記載の方法により、ロジンを一度溶融させ、温度25℃、相対湿度50%の環境下で1時間自然冷却させた後に測定される軟化点を意味する。
【0023】
ロジンの酸価は、反応性の観点から、100〜200mgKOH/gが好ましく、130〜180mgKOH/gがより好ましく、150〜170mgKOH/gがさらに好ましい。
【0024】
ロジンの含有量は、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、カルボン酸成分中、40〜80モル%が好ましく、50〜75モル%がより好ましく、60〜70モル%がさらに好ましい。
【0025】
炭素数4〜10の脂肪族ジカルボン酸化合物としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等が挙げられ、これらは併用されていてもよい。これらの中では、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、アジピン酸が好ましい。
【0026】
炭素数4〜10の脂肪族ジカルボン酸化合物の含有量は、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、カルボン酸成分中、20〜50モル%が好ましく、25〜45モル%がより好ましく、25〜40モル%がさらに好ましい。
【0027】
ロジンと炭素数4〜10の脂肪族ジカルボン酸化合物の含有量は合計で、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、カルボン酸成分中、70モル%以上であり、80〜100モル%が好ましく、90〜100モル%がより好ましく、実質的に100モル%がさらに好ましい。
【0028】
ロジン及び炭素数4〜10の脂肪族ジカルボン酸化合物以外のカルボン酸化合物としては、シュウ酸、マロン酸等の炭素数3以下の脂肪族ジカルボン酸化合物、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸が挙げられる。
本発明において、カルボン酸化合物とは、カルボン酸、酸無水物及びアルキル(炭素数1〜3)エステル等をさす。また、好ましい炭素数はカルボン酸の炭素数をさす。
【0029】
アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が、樹脂の分子量調整やトナーの耐オフセット性向上の観点から、適宜含有されていてもよい。
【0030】
なお、本発明において、ポリエステル樹脂は、実質的にその特性を損なわない程度に変性されたポリエステルであってもよい。変性されたポリエステルとしては、ポリエステル・ポリアミドや、特開平11−133668号公報、特開平10−239903号公報、特開平8−20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステルをいう。
【0031】
ポリエステル樹脂Lの軟化点は、トナーの低温定着性及び粉砕フィードの観点から、135℃以下であり、130℃以下が好ましく、125℃以下がより好ましく、トナーの保存性及び粉砕収率の観点から、90℃以上であり、100℃以上が好ましく、105℃以上がより好ましく、110℃以上がさらに好ましい。従って、ポリエステル樹脂Lの軟化点は、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、90〜135℃であり、100〜135℃が好ましく、105〜130℃がより好ましく、110〜125℃がさらに好ましい。ポリエステル樹脂Lが2種以上の樹脂からなる場合は、軟化点の加重平均値が上記範囲内であることが好ましく、それぞれの樹脂の軟化点が上記範囲内であることがより好ましい。
【0032】
ガラス転移温度は、トナーの低温定着性の観点から、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、60℃以下がさらに好ましく、トナーの保存性及び粉砕性の観点から、35℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。従って、ガラス転移温度は、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、35〜80℃が好ましく、50〜70℃がより好ましく、50〜60℃がさらに好ましい。ポリエステル樹脂Lが2種以上の樹脂からなる場合は、ガラス転移温度の加重平均値が上記範囲内であることが好ましく、それぞれの樹脂のガラス転移温度が上記範囲内であることがより好ましい。
【0033】
ポリエステル樹脂Lの酸価は、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、5〜150mgKOH/gが好ましく、5〜70mgKOH/gがより好ましく、8〜50mgKOH/gがさらに好ましく、8〜30mgKOH/gがよりさらに好ましく、8〜20mgKOH/gがよりさらに好ましい。ポリエステル樹脂Lが2種以上の樹脂からなる場合は、酸価の加重平均値が上記範囲内であることが好ましく、それぞれの樹脂の酸価が上記範囲内であることがより好ましい。
【0034】
ポリエステル樹脂Lの数平均分子量は、トナーの低温定着性及び粉砕フィードの観点から、2500以下が好ましく、2000以下がより好ましく、1800以下がさらに好ましく、保存性及び粉砕収率の観点から、450以上が好ましく、500以上がより好ましく、700以上がさらに好ましく、1000以上がよりさらに好ましい。従って、ポリエステル樹脂Lの数平均分子量は、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、450〜2500が好ましく、500〜2000がより好ましく、700〜1800がさらに好ましく、1000〜1800がよりさらに好ましい。また、重量平均分子量は、トナーの低温定着性及び粉砕フィードの観点から、35000以下が好ましく、30000以下がより好ましく、20000以下がさらに好ましく、15000以下がよりさらに好ましく、保存性及び粉砕収率の観点から、2500以上が好ましく、3000以上がより好ましく、4000以上がさらに好ましく、6000以上がよりさらに好ましい。従って、重量平均分子量は、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、2500〜35000が好ましく、3000〜30000がより好ましく、4000〜20000がさらに好ましく、6000〜15000がよりさらに好ましい。
【0035】
ポリエステル樹脂Lの含有量は、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、結着樹脂中、5〜40重量%であり、10〜30重量%が好ましく、15〜25重量%がより好ましい。
【0036】
本発明において、結着樹脂は、さらに、ポリエステル樹脂Lよりも軟化点の高いポリエステル樹脂Hを含有していることが好ましい。ポリエステル樹脂Lをポリエステル樹脂Hと併用することにより、結着樹脂中へのポリエステル樹脂Lの分散性が向上し、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性が向上する。
【0037】
ポリエステル樹脂Hの軟化点は、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、125〜160℃が好ましく、130〜150℃がより好ましく、140〜150℃がさらに好ましい。
【0038】
ポリエステル樹脂Hとポリエステル樹脂Lの軟化点の差は、トナーの低温定着性及び粉砕フィードの観点から、10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、25℃以上がさらに好ましく、トナーの保存性及び粉砕収率の観点から、60℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましく、40℃以下がさらに好ましく、35℃以下がよりさらに好ましい。従って、ポリエステル樹脂Hとポリエステル樹脂Lの軟化点の差は、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、10℃以上が好ましく、10〜60℃がより好ましく、10〜50℃がさらに好ましく、20〜40℃がよりさらに好ましく、25〜35℃がよりさらに好ましい。
【0039】
ポリエステル樹脂Hは、アルコール成分と、少なくともロジン及び炭素数4〜10の脂肪族ジカルボン酸化合物のいずれかを含有したカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0040】
アルコール成分としては、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2,3-ブタンジオール、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール、前記式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール;グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、1,4−ソルビタン等の3価以上のアルコール等が挙げられ、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、好ましくは炭素数3〜4の脂肪族ジオールである。
【0041】
ポリエステル樹脂Hのカルボン酸成分に用いられるロジンについては、前記のポリエステル樹脂Lのカルボン酸成分として詳細に記載しているが、加えて、ポリエステル樹脂Hに用いられるロジンは、分子量制御の観点から、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸等で変性されたロジンであることが好ましく、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、(メタ)アクリル酸で変性されたロジン((メタ)アクリル酸変性ロジン)がより好ましい。
【0042】
(メタ)アクリル酸変性ロジンは、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマール酸、イソピマール酸、サンダラコピマール酸、デヒドロアビエチン酸、レポピマール酸等を主成分とするロジンに、(メタ)アクリル酸を付加反応させて得られるものであり、具体的には、ロジンの主成分の中で共役二重結合を有するレポピマール酸、アビエチン酸、ネオアビエチン酸及びパラストリン酸と、(メタ)アクリル酸とによる加熱下でのディールス-アルダー(Diels-Alder)反応を経て得ることができる。
【0043】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル又はメタクリルを意味する。従って、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸又はメタクリル酸を意味し、「(メタ)アクリル酸変性ロジン」は、アクリル酸で変性されたロジン又はメタクリル酸で変性されたロジンを意味する。本発明における(メタ)アクリル酸変性ロジンとしては、ディールス-アルダー(Diels-Alder)反応における反応活性の観点から、立体障害の少ないアクリル酸で変性したアクリル酸変性ロジンが好ましい。
【0044】
(メタ)アクリル酸によるロジンの変性度((メタ)アクリル酸変性度)は、ポリエステルユニットの分子量を高め、低分子量のオリゴマー成分を低減させる観点から、5〜105が好ましく、20〜105がより好ましく、40〜105がさらに好ましく、60〜100がよりさらに好ましく、60〜80がよりさらに好ましい。
【0045】
(メタ)アクリル酸変性度は、式(A):
【0046】
【数1】

【0047】
(式中、Xa1は変性度を算出する(メタ)アクリル酸変性ロジンのSP値、Xa2は(メタ)アクリル酸1モルとロジン1モルとを反応させて得られる(メタ)アクリル酸変性ロジンの飽和SP値、YはロジンのSP値を示す)
により算出される。ここで、SP値とは、後述の環球式自動軟化点試験器で測定される軟化点を意味する。また、飽和SP値とは、(メタ)アクリル酸とロジンとの反応を、得られる(メタ)アクリル酸変性ロジンのSP値が飽和値に達するまで反応させたときのSP値を意味する。式(A)の分子は、(メタ)アクリル酸で変性したロジンのSP値の上昇度を意味するものであり、式(A)の値が大きいほど変性の度合いが高いことを示す。
【0048】
(メタ)アクリル酸変性ロジンのガラス転移温度は、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、35〜80℃が好ましく、45〜65℃がより好ましい。
【0049】
(メタ)アクリル酸変性ロジンの製造方法は特に限定されないが、例えば、ロジンと(メタ)アクリル酸を混合し、180〜260℃程度、好ましくは180〜210℃に加熱することで、ディールス-アルダー反応により、ロジンに含まれる共役二重結合を有する酸に(メタ)アクリル酸を付加させて、(メタ)アクリル酸変性ロジンを得ることができる。(メタ)アクリル酸変性ロジンは、そのまま使用してもよく、さらに蒸留等の操作を経て精製して使用してもよい。
【0050】
変性ロジンの場合は変性前のロジンの軟化点は、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、50〜100℃が好ましく、60〜90℃がより好ましく、65〜85℃がさらに好ましい。本発明におけるロジンの軟化点とは、後述記載の方法により、ロジンを一度溶融させ、温度25℃、相対湿度50%の環境下で1時間自然冷却させた後に測定される軟化点を意味する。
【0051】
変性ロジンの場合は変性前のロジンの酸価は、変性ロジンの縮合反応の反応性の観点から、100〜200mgKOH/gが好ましく、130〜180mgKOH/gがより好ましく、150〜170mgKOH/gがさらに好ましい。
【0052】
ロジンの含有量は、トナーの低温定着性及び保存性の観点から、カルボン酸成分中、5〜40モル%が好ましく、10〜35モル%がより好ましく、15〜25モル%がより好ましい。
【0053】
炭素数4〜10の脂肪族ジカルボン酸化合物は、前記のポリエステル樹脂Lのカルボン酸成分に用いられるものと同様のものが用いられる。
【0054】
炭素数4〜10の脂肪族ジカルボン酸化合物の含有量は、トナーの粉砕性の観点から、カルボン酸成分中、15〜50モル%が好ましく、18〜45モル%がより好ましく、20〜30モル%がより好ましい。
【0055】
ロジン及び炭素数4〜10の脂肪族ジカルボン酸化合物以外のカルボン酸成分としては、トナーの保管性及び帯電量の環境安定性の観点からは、芳香族ジカルボン酸化合物が好ましい。
【0056】
芳香族ジカルボン酸化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等が好ましい。
【0057】
芳香族ジカルボン酸化合物の含有量は、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、ロジン及び炭素数4〜10の脂肪族ジカルボン酸化合物以外のカルボン酸成分中、好ましくは40〜100モル%、より好ましくは40〜95モル%、さらに好ましくは50〜85モル%、よりさらに好ましくは60〜85モル%、よりさらに好ましくは70〜80モル%である。
【0058】
他のカルボン酸成分としては、シュウ酸、マロン酸等の炭素数3以下の脂肪族ジカルボン酸化合物;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸等で変性されたロジン等が挙げられる。
【0059】
ポリエステル樹脂Hの原料モノマーには、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、3価以上のモノマー、即ち3価以上の多価アルコール及び3価以上の多価カルボン酸化合物の少なくともいずれかが、含有されていることが好ましい。3価以上のモノマーの含有量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量中、3〜25モル%が好ましく、5〜25モル%がより好ましく、7〜20モル%がさらに好ましく、7〜15モル%がよりさらに好ましい。
【0060】
アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が、樹脂の分子量調整やトナーの耐オフセット性向上の観点から、適宜含有されていてもよい。
【0061】
ポリエステル樹脂Hの含有量は、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、結着樹脂中、25〜95重量%が好ましく、40〜95重量%がより好ましく、60〜95重量%がさらに好ましく、70〜90重量%がよりさらに好ましく、75〜85重量%がよりさらに好ましい。
【0062】
ポリエステル樹脂Hのガラス転移温度は、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、35〜80℃が好ましく、50〜70℃がより好ましく、60〜70℃がさらに好ましい。ポリエステル樹脂Hが2種以上の樹脂からなる場合は、ガラス転移温度の加重平均値が上記範囲内であることが好ましく、それぞれの樹脂のガラス転移温度が上記範囲内であることがより好ましい。
【0063】
ポリエステル樹脂Hの酸価は、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、5〜90mgKOH/gが好ましく、5〜80mgKOH/gがより好ましく、5〜50mgKOH/gがさらに好ましく、10〜40mgKOH/gがよりさらに好ましく、20〜35mgKOH/gがよりさらに好ましい。ポリエステル樹脂Hが2種以上の樹脂からなる場合は、酸価の加重平均値が上記範囲内であることが好ましく、それぞれの樹脂の酸価が上記範囲内であることがより好ましい。
【0064】
ポリエステル樹脂Hの数平均分子量は、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、1500〜4500が好ましく、2000〜4000がより好ましく、2500〜3500がさらに好ましく、重量平均分子量は、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、1万〜400万が好ましく、1万〜150万がより好ましく、10万〜150万がさらに好ましく、50万〜100万がよりさらに好ましく、65万〜100万がよりさらに好ましく、70万〜95万がよりさらに好ましい。
【0065】
ポリエステル樹脂L、Hのいずれもカルボン酸成分とアルコール成分との縮重合反応は、例えば、錫化合物、チタン化合物等のエステル化触媒、重合禁止剤等の存在下、不活性ガス雰囲気中で行うことができ、温度条件は、好ましくは120〜250℃、より好ましくは140〜230℃が、それぞれ好ましい。
【0066】
エステル化触媒として用いられる錫化合物としては、例えば、酸化ジブチル錫が知られているが、本発明では、ポリエステル樹脂中での分散性を良好にする観点から、Sn-C結合を有していない錫(II)化合物が好ましく、Sn-C結合を有しておらず、Sn-O結合を有する錫(II)化合物がより好ましく、2−エチルヘキサン酸錫(II)がさらに好ましい。
【0067】
エステル化触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分との総使用量100重量部に対して、0.01〜2.0重量部が好ましく、0.1〜1.5重量部がより好ましく、0.2〜1.0重量部がさらに好ましい。
【0068】
本発明において、互いに隣接する3個の炭素原子に結合した水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有するピロガロール化合物をエステル化触媒とともに助触媒として用いることが、ポリエステル樹脂の生産性を向上させる観点及びトナーの保管性を向上させる観点から好ましい。
【0069】
ピロガロール化合物としては、ピロガロール、没食子酸、没食子酸エステル、2,3,4-トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,3,4-テトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート等のカテキン誘導体等が挙げられ、トナーの保管性の観点からは、没食子酸及び没食子酸エステルが好ましい。
【0070】
ピロガロール化合物の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分との総使用量100重量部に対して、ポリエステル樹脂の生産性を向上させる観点及びトナーの保管性の観点から、0.001〜1.0重量部が好ましく、0.005〜0.4重量部がより好ましく、0.01〜0.2重量部がさらに好ましい。ここで、ピロガロール系化合物の使用量とは、縮重合反応に供したピロガロール系化合物の全配合量を意味する。
【0071】
ピロガロール化合物とエステル化触媒の重量比(ピロガロール化合物/エステル化触媒)は、ポリエステル樹脂の生産性を向上させる観点及びトナーの保管性の観点から、0.01〜0.5が好ましく、0.03〜0.3がより好ましく、0.05〜0.2がさらに好ましい。
【0072】
ポリエステル樹脂Hとポリエステル樹脂Lの重量比(樹脂H/樹脂L)は、トナーの低温定着性、保存性及び粉砕性の観点から、95/5〜60/40が好ましく、90/10〜70/30がより好ましい。
【0073】
ポリエステル樹脂H及びポリエステル樹脂Lはいずれも、非晶質樹脂であることが好ましい。
【0074】
ここで、樹脂の結晶性は、軟化点と示差走査熱量計による吸熱の最高ピーク温度との比、即ち[軟化点/吸熱の最高ピーク温度]の値で定義される結晶性指数によって表わされる。結晶性樹脂は、結晶性指数が0.6〜1.4、好ましくは0.7〜1.2、より好ましくは0.9〜1.2であり、非晶質樹脂は1.4を超えるか、0.6未満の樹脂である。樹脂の結晶性は、原料モノマーの種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)等により調整することができる。なお、吸熱の最高ピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を指す。最高ピーク温度は、軟化点との差が20℃以内であれば融点とし、軟化点との差が20℃を超える場合はガラス転移に起因するピークとする。
【0075】
本発明のトナーには、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエステル樹脂L及びポリエステル樹脂H以外の公知の結着樹脂、例えば、スチレン-アクリル樹脂等のビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の他の樹脂が併用されていてもよいが、ポリエステル樹脂Lとポリエステル樹脂Hの総含有量は、結着樹脂中、70重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましく、実質的に100重量%であることがさらに好ましい。
【0076】
本発明のトナーには、さらに、着色剤、離型剤、荷電制御剤、荷電制御樹脂、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が適宜含有されていてもよい。
【0077】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のすべてを使用することができ、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、ジスアゾエロー等が用いることができ、本発明のトナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。着色剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、1〜40重量部が好ましく、2〜10重量部がより好ましい。
【0078】
離型剤としては、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス等の炭化水素系ワックス、シリコーン類;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類;カルナバロウワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ホホバ油等の植物系ワックス;ミツロウ等の動物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の鉱物・石油系ワックス等のワックスが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0079】
離型剤の融点は、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点から、60〜160℃が好ましく、60〜150℃がより好ましい。
【0080】
離型剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、結着樹脂中への分散性の観点から、0.5〜10重量部が好ましく、1〜8重量部がより好ましく、1.5〜7重量部がさらに好ましい。
【0081】
荷電制御剤は、特に限定されず、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよい。
【0082】
正帯電性荷電制御剤としては、ニグロシン染料、例えば「ニグロシンベースEX」、「オイルブラックBS」、「オイルブラックSO」、「ボントロンN-01」、「ボントロンN-07」、「ボントロンN-09」、「ボントロンN-11」(以上、オリエント化学工業社製)等;3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩化合物、例えば「ボントロンP-51」(オリエント化学工業社製)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、「COPY CHARGE PX VP435」(ヘキスト社製)等;ポリアミン樹脂、例えば「AFP-B」(オリエント化学工業社製)等;イミダゾール誘導体、例えば「PLZ-2001」、「PLZ-8001」(以上、四国化成社製)等が挙げられる。
【0083】
また、負帯電性の荷電制御剤としては、含金属アゾ染料、例えば「バリファーストブラック3804」、「ボントロンS-31」(以上、オリエント化学工業社製)、「T-77」(保土谷化学工業社製)、「ボントロンS-32」、「ボントロンS-34」、「ボントロンS-36」(以上、オリエント化学工業社製)、「アイゼンスピロンブラックTRH」(保土谷化学工業社製)等;ベンジル酸化合物の金属化合物、例えば、「LR-147」、「LR-297」(以上、日本カーリット社製);サリチル酸化合物の金属化合物、例えば、「ボントロンE-81」、「ボントロンE-84」、「ボントロンE-88」、「E-304」(以上、オリエント化学工業社製)、「TN-105」(保土谷化学工業社製);銅フタロシアニン染料;4級アンモニウム塩、例えば「COPY CHARGE NX VP434」(ヘキスト社製)、ニトロイミダゾール誘導体;有機金属化合物、例えば「TN105」(保土谷化学工業社製)等が挙げられる。
【0084】
荷電制御剤の含有量は、トナーの帯電性の観点から、結着樹脂100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましく、0.01〜5重量部がより好ましく、0.3〜3重量部がさらに好ましく、0.5〜3重量部がよりさらに好ましく、1〜2重量部がよりさらに好ましい。
【0085】
本発明のトナーは、溶融混練法、乳化転相法、重合法等の従来より公知のいずれの方法により得られたトナーであってもよいが、トナーの低温定着性及び保存性の観点から、結着樹脂を含む原料の溶融混練工程及び粉砕工程を含む方法により得られる粉砕トナーが好ましい。溶融混練法による粉砕トナーの場合、例えば、結着樹脂、着色剤、荷電制御剤等の原料をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することができる。
【0086】
本発明のトナーの体積中位粒径(D50)は、画像品質を向上する観点から、3〜15μmが好ましく、3〜10μmがより好ましい。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。また、トナーの変動係数は、10〜40が好ましく、20〜30がより好ましい。
【0087】
本発明のトナーには、転写性を向上させるために、無機微粒子を外添剤として用いるのが好ましい。具体的には、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、及び酸化亜鉛からなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられ、これらの中では、シリカが好ましく、埋め込み防止の観点から、比重の小さいシリカが含有されているのがより好ましい。
【0088】
外添剤の含有量は、保存安定性を向上する観点から、外添剤で処理する前のトナー粒子100重量部に対して、好ましくは0.05〜5重量部であり、より好ましくは0.1〜3重量部であり、さらに好ましくは0.3〜3重量部である。
【0089】
本発明のトナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【実施例】
【0090】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0091】
〔樹脂の吸熱の最高ピーク温度〕
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、Q-100)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、室温から降温速度10℃/分で0℃まで冷却しそのまま1分間静止させた。その後、昇温速度50℃/分で測定した。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を吸熱の最高ピーク温度とする。最高ピーク温度が軟化点と20℃以内の差であれば融点とする。
【0092】
〔樹脂のガラス転移温度〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて、試料を0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度とする。
【0093】
〔樹脂及びロジンの酸価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。但し、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更した。
【0094】
〔樹脂の数平均分子量及び重量平均分子量〕
以下の方法により、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により分子量分布を測定し、数平均分子量及び重量平均分子量を求める。
(1) 試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mlになるように、試料をテトラヒドロフランに、25℃で溶解させる。次いで、この溶液をポアサイズ0.2μmのフッ素樹脂フィルター(ADVANTEC社製、DISMIC-25JP)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とする。
(2) 分子量測定
下記の測定装置と分析カラムを用い、溶離液としてテトラヒドロフランを、毎分1mlの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させる。そこに試料溶液100μlを注入して測定を行う。試料の分子量は、あらかじめ作成した検量線に基づき算出する。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー社製のA-500(5.0×102)、A-1000(1.01×103)、A-2500(2.63×103)、A-5000(5.97×103)、F-1(1.02×104)、F-2(1.81×104)、F-4(3.97×104)、F-10(9.64×104)、F-20(1.90×105)、F-40(4.27×105)、F-80(7.06×105)、F-128(1.09×106))を標準試料として作成したものを用いる。
測定装置:HLC-8220GPC(東ソー社製)
分析カラム:GMHXL+G3000HXL(東ソー社製)
【0095】
〔ロジンの軟化点〕
(1) 試料の調製
ロジン10gを、170℃で2時間ホットプレートで溶融する。その後、開封状態で温度25℃、相対湿度50%の環境下で1時間自然冷却させ、コーヒーミル(National MK-61M)で10秒間粉砕する。
(2) 測定
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出する。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0096】
〔ロジンのSP値〕
溶融した状態の試料2.1gを所定のリングに流し込んだ後、室温まで冷却後、JIS B7410に基づき、下記の条件で測定を行う。
測定機:環球式自動軟化点試験器 ASP-MGK2((株)メイテック製)
昇温速度:5℃/min
昇温開始温度:40℃
測定溶剤:グリセリン
【0097】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、融解熱の最大ピーク温度を融点とする。
【0098】
〔トナーの体積中位粒径(D50)及び変動係数〕
(1) 分散液の調製:分散液[「エマルゲン 109P」(花王株式会社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:13.6)5重量%水溶液]5mlに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解質[「アイソトンII」(ベックマンコールター社製)]25mlを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させ分散液を得る。
(2) 測定装置:「コールターマルチサイザーII」(ベックマンコールター社製)
(3) アパチャー径:50μm
(4) 解析ソフト:「コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19」(ベックマンコールター社製)
(5) 測定条件:ビーカーに電解液100mlと分散液を加え、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度で、3万個の粒子について、体積中位粒径(D50)及び変動係数を求める。
【0099】
ロジンの精製例
分留管、還流冷却器及び受器を装備した2000ml容の蒸留フラスコに1000gのトールロジンを加え、1kPaの減圧下で蒸留を行い、195〜250℃での留出分を主留分として採取した。以下、精製に供したトールロジンを未精製ロジン、主留分として採取したロジンを精製ロジンとする。
【0100】
ロジン20gをコーヒーミル(National MK-61M)で5秒間粉砕し、目開き1mmの篩いを通したものをヘッドスペース用バイアル(20ml)に0.5g測りとった。ヘッドスペースガスをサンプリングして、未精製ロジン及び精製ロジン中の不純物を、ヘッドスペースGC−MS法により分析した結果を表1に示す。
【0101】
〔ヘッドスペースGC−MS法の測定条件〕
A. ヘッドスペースサンプラー(Agilent社製、HP7694)
サンプル温度: 200℃
ループ温度: 200℃
トランスファーライン温度: 200℃
サンプル加熱平衡時間: 30min
バイヤル加圧ガス: ヘリウム(He)
バイヤル加圧時間: 0.3min
ループ充填時間: 0.03min
ループ平衡時間: 0.3min
注入時間: 1min
【0102】
B. GC(ガスクロマトグラフィー)(Agilent社製、HP6890)
分析カラム: DB-1(60m-320μm-5μm)
キャリアー: ヘリウム(He)
流量条件: 1ml/min
注入口温度: 210℃
カラムヘッド圧: 34.2kPa
注入モード: split
スプリット比: 10:1
オーブン温度条件: 45℃(3min)-10℃/min-280℃(15min)
【0103】
C. MS(質量分析法)(Agilent社製、HP5973)
イオン化法: EI(電子イオン化)法
インターフェイス温度: 280℃
イオン源温度: 230℃
四重極温度: 150℃
検出モード: Scan 29-350m/s
【0104】
【表1】

【0105】
アクリル酸変性ロジンの製造例
分留管、還流冷却器及び受器を装備した10L容のフラスコに精製ロジン(SP値:76.8℃)6084g(18モル)とアクリル酸648.5g(9.0モル)を加え、160℃から220℃に8時間かけて昇温し、220℃にて2時間反応させた後、さらに、220℃、5.3kPaの減圧下で蒸留を行い、アクリル酸変性ロジンを得た。アクリル酸変性ロジンのSP値は99.1℃、アクリル酸変性ロジンの飽和SP値は110.6℃、ガラス転移温度は53.2℃、アクリル酸変性度は66であった。
【0106】
樹脂製造例1〔樹脂L1〜L7〕
精製ロジンを予め100℃の恒温槽で溶解した後、表2に示すアルコール成分、カルボン酸成分及び2-エチルヘキサン酸錫(II)50g及び没食子酸3gを、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、230℃で15時間縮重合反応させた後、230℃、8kPaにて所望の軟化点に達するまで反応を行って非晶質ポリエステルを得た。
【0107】
樹脂製造例2〔樹脂H1〜H3及び樹脂X1、X2〕
表3に示すアルコール成分、無水トリメリット酸以外のカルボン酸成分(アクリル酸変性ロジンは予め100℃の恒温槽で溶解しておく)及び2-エチルヘキサン酸錫(II)50g及び没食子酸3gを、窒素導入管、100℃の熱水を通した分留管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、230℃で15時間縮重合反応させた後、230℃、8kPaにて1時間反応を行った。220℃まで冷却した後、表3に示す無水トリメリット酸を投入し、1時間常圧(101.3kPa)で反応させた後に、220℃、20kPaにて所望の軟化点に達するまで反応を行って非晶質ポリエステルを得た。
【0108】
樹脂製造例3〔樹脂Y〕
表4に示すアルコール成分及びカルボン酸成分を、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、140℃で4時間縮重合反応させた後200℃まで6時間かけて昇温した。200℃で、2-エチルヘキサン酸錫(II)20gを加え、さらに1時間反応させた後、8kPaにて1時間反応を行い融点70.6℃の結晶性ポリエステル(樹脂Y)を得た。
【0109】
【表2】

【0110】
【表3】

【0111】
【表4】

【0112】
実施例1〜15及び比較例1〜4
表5に示す結着樹脂100重量部、着色剤「ECB-301」(大日精化社製)5重量部、荷電制御剤「LR-147」(日本カーリット社製)1重量部、離型剤「カルナウバワックス C1」(加藤洋行社製、融点:80℃)2重量部及び離型剤「パラフリントH105」(サゾールワックス社製、融点110℃)2重量部を、ヘンシェルミキサーでよく攪拌した後、混練部分の全長1560mm、スクリュー径42mm、バレル内径43mmの同方向回転二軸押出機を用いて溶融混練した。ロールの回転速度は200r/min、ロール内の加熱設定温度は100℃であり、溶融混練物の温度は160℃、溶融混練物の供給速度は10kg/時、平均滞留時間は約18秒であった。得られた溶融混練物を冷却ローラーで圧延冷却した後、ジェットミルで体積中位粒径(D50)7.5μmのトナー粒子を得た。なお、溶融混練後、溶融混練物の一部を採取し、以下の方法により、粉砕性を評価した。
【0113】
〔粉砕性評価〕
溶融混練物を冷却し、ロートプレックス(ホソカワミクロン社製)により目開き2mmのふるいを用いて2mm以下に粗粉砕した後、IDS2型粉砕機(日本ニューマチック社製)を用いて微粉砕を行う。
【0114】
IDS2型粉砕機の条件としては衝突部材(半径10mmの真円を底面とする円柱)を底面に対して垂直に切断することにより二等分して得られた半円柱型衝突部材に取り替えて用い、粉砕エア圧を0.5MPa、衝突部材とノズルの距離を20mmに調整して、体積中位粒径(D50)が7.5μm、変動係数が24になるように微粉砕し、粉砕フィード、粉砕収率を測定する。結果を表5に示す。粉砕フィードは3kg/hr以上が、粗粉砕物に対する粉砕収率は58重量%以上がそれぞれ好ましい。
【0115】
得られたトナー母粒子100重量部に対し、外添剤「アエロジル R-972」(疎水性シリカ、日本アエロジル社製)1.0重量部及び「SI-Y」(疎水性シリカ、日本アエロジル社製)1.0重量部を添加し、ヘンシェルミキサーで3600r/min、5分間混合することにより、外添剤処理を行い、体積中位粒径(D50)7.5μmのトナーを得た。
【0116】
試験例1〔低温定着性〕
複写機「AR-505」(シャープ社製)にトナーを実装し、未定着で画像出しを行った(印字面積:2cm×12cm、付着量:0.5mg/cm2)。前記複写機の定着機をオフラインで、90℃から240℃へ5℃ずつ順次定着温度を上昇させながら、400mm/secで用紙に定着させた。なお、定着紙には、「CopyBond SF-70NA」(シャープ社製、75g/m2)を使用した。
【0117】
定着画像にテープ「ユニセフセロハン」(三菱鉛筆社、幅:18mm、JISZ-1522)を貼り付け、30℃に設定した定着ローラーに通過させた後、テープを剥がした。テープを貼る前と剥がした後の光学反射密度を反射濃度計「RD-915」(マクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(剥離後/貼付前)が最初に90%を越える定着ローラーの温度を最低定着温度とし、以下の評価基準に従って、低温定着性を評価した。結果を表5に示す。
【0118】
最低定着温度が155℃未満であれば良好であり、145℃未満であればより好ましい状態である。
【0119】
試験例2〔保存性〕
トナー10gを半径12mmの円筒型容器に入れ、55℃及び相対湿度50%の環境で72時間保持した。パウダーテスター(ホソカワミクロン(株)製)に、上から順に、篩いA(目開き250μm)、篩いB(目開き150μm)、篩いC(目開き75μm)の3つの篩を重ね合わせて設置し、篩いA上にトナー10gを乗せて60秒間振動を与えた。
【0120】
篩いA上に残存したトナー重量WA(g)を、篩いB上に残存したトナー重量WB(g)を、篩いC上に残存したトナー重量WC(g)を、それぞれ測定し、下記式に従って算出される値(α)をもとに、以下の評価基準に従って、保存性を評価した。結果を表5に示す。値(α)が100に近いほど、保存性に優れる。
α=100−(WA+WB×0.6+WC×0.2)/10×100
【0121】
αが、60以上であれば、良好な状態であり、80以上であればより好ましい状態であり、90以上であれば特に好ましい状態である。
【0122】
【表5】

【0123】
以上の結果より、比較例1〜4と対比して、実施例1〜15では、粉砕性よくトナーを製造することができ、かつ低温定着性と保存性のいずれもが良好であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明のトナーは、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3価以上の脂肪族アルコールを70モル%以上含有したアルコール成分と、ロジン及び炭素数4〜10の脂肪族ジカルボン酸化合物を合計で70モル%以上含有したカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル樹脂Lを含み、該ポリエステル樹脂Lの軟化点が90〜135℃であり、含有量が5〜40重量%である結着樹脂を含有してなるトナー。
【請求項2】
結着樹脂が、さらにポリエステル樹脂Lよりも軟化点の高いポリエステル樹脂Hを含み、該ポリエステル樹脂Hの含有量が40〜95重量%である、請求項1記載のトナー。
【請求項3】
ポリエステル樹脂Hが、アルコール成分と、少なくともロジン及び炭素数4〜10の脂肪族ジカルボン酸化合物のいずれかを含有したカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル樹脂であり、3価以上のモノマーがアルコール成分とカルボン酸成分の総量中、3〜25モル%含有されている、請求項1又は2記載のトナー。
【請求項4】
ポリエステル樹脂Lの数平均分子量が450〜2500であり、重量平均分子量が2500〜35000である、請求項1〜3いずれか記載のトナー。
【請求項5】
ポリエステル樹脂Lのロジンが天然ロジンである、請求項1〜4いずれか記載のトナー。
【請求項6】
結着樹脂を含む原料の溶融混練工程及び粉砕工程を含む方法により得られる粉砕トナーである、請求項1〜5いずれか記載のトナー。

【公開番号】特開2013−114045(P2013−114045A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260411(P2011−260411)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】