トマトにおける受精非依存果実形成
本発明は、受精非依存果実形成の形質を含むトマト植物に関し、該形質は、その代表種子がNCIMBに受託番号 NCIMB 41626、NCIMB 41627、NCIMB 41628、NCIMB 41629、NCIMB 41630またはNCIMB 41631にて寄託されている植物からの遺伝子移入によって得られうるものである。かかるトマト植物は、その代表種子がNCIMB に受託番号 NCIMB 41626、NCIMB 41627、NCIMB 41628、NCIMB 41629、NCIMB 41630またはNCIMB 41631にて寄託されている植物と、該形質を示さない植物とを交配してF1 集団を得る工程; F1 集団からの植物を自家受粉させて F2 集団を得る工程; F2 植物の授粉を阻止して果実形成が起こることを可能にする工程;および、果実を生産する植物を受精非依存果実形成を示す植物として選抜する工程によって得られうる。本発明はさらに、単為結実果実、該植物の種子および該植物の繁殖材料にも関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、それらの果実形成の様式に関して変化している、植物および植物部分、特に、果実のある野菜に関する。より具体的には、本発明は、受精に依存しない果実形成を示すトマト (Solanum lycopersicum L.) 植物に関する。この果実形成の様式はしばしば単為結実(parthenocarpy)と称される。本発明はまた、受精非依存(fertilization independent)果実形成を示す植物へと成長することができる種子にも関する。
【0002】
本発明はさらに、受精に依存しない果実形成の変化した様式を示す、変化した遺伝子型を有する該植物およびその種子を得る方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
トマトなどの果実のある野菜の育種は、市場性の高い製品を生産するために、職業的生産環境に最適に適合した商業品種の生産を目的としている。材料および生産品の両方の形質に関する選抜に際して多くの特性が考慮される必要がある。この点に関して非常に重要な形質の一つは、着果(fruit set)、特に、望ましくない環境条件、例えば、高温または低温および乾燥の下での着果に関する。かかる条件は正常の授粉、そして受精にとって有害なものであり得、それは不良な着果、および結果として収率損失を導く。受精非依存果実形成または単為結実を形質として利用することができれば、それは経済的により効率的なトマト果実の生産に顕著に寄与することができる重要な特徴である。
【0004】
収穫の確保に寄与することに加えて、単為結実はまた、果実の質にとっても重要である。単為結実の(parthenocarpic)トマト果実は、種子のある果実と比較してより良好な風味およびより高い乾物含量を有するといわれている。より高レベルの可溶性固形物は、ペースト生産のための業界において用いられるトマトの加工のために特に重要である。さらに、かかる果実は漏れやすくなく引き締まった(firm)果実を要求する生鮮カット業界のためにも有益であり得る。さらに、果実から種子を取り除く必要がある工業的または家庭での適用は、単為結実から大いに利益を受けうる。
【0005】
着果は通常、受精に依存する。受精は、胚珠に含まれる卵細胞と中心細胞との両方が、花粉管によって運ばれる精細胞と融合するプロセスである。このいわゆる重複受精は、胚および内胚乳の形成そして最終的には成熟種子をもたらす事象のカスケードを引き起こすステップである。発達する種子および周囲の組織が、子房の成長(outgrowth)およびその多肉質の果実への発達を刺激するシグナルを生成する。
【0006】
一見したところ、受精は果実形成を阻止する一定の発達の障壁を取り払う(lifts)。この機構は、果実形成を種子の形成に依存するものとさせ、種子の散乱における果実の生物学的役割からみるとそれは理にかなっている。しかしながら、果実形成の初期段階において役割を果たす生理学的および分子的事象についての知識は断片的なものでしかない。植物ホルモンであるオーキシンおよびジベレリンの関与は詳しく記載されているが、それらの正確な役割はいまだに解明されていない。オーキシンまたはジベレリンのいずれかの未受精の胚珠への適用は、トマトを含む多くの植物種において果実形成を導く。実際、これらのホルモンは、温室条件が最適ではない場合に着果を改善するために実践的に適用されている。オーキシンおよびジベレリンの適用はいくらかの実践的価値を有するが、それは費用を高め、果実の形状の異常を導きうる。これらの外的効果に加えて、ホルモンであるオーキシンおよびジベレリンはまた、受精依存的果実形成の際の役割も果たしていると考えられているが、いずれの組織がこれらのホルモンの実際の源であるかは不明である。さらに、これらのホルモンおよび下流の調節ネットワークの序列は依然として未知な部分が大きい。その他のホルモン、例えば、サイトカイニン、アブシジン酸、エチレンおよびブラシノステロイドもまた、果実形成における役割を果たしているようである。
【0007】
おそらく多くの遺伝子が受精依存的果実形成に関与しているようである。しかしながら、現在、数個の遺伝子のみしかこの点に関して特徴決定されていない。例えば、トマトのDGT (diageotropica)、ARF7およびIAA9 遺伝子ならびにAUCSIA 遺伝子は、詳細に特徴決定されている。シロイヌナズナにおいて、単為結実の長角果(silique)の形成を導く、ARF8 遺伝子において突然変異を含むfwf 突然変異体が記載されている。受精の際に形成されるオーキシンが、阻害性 ARF8 活性を取り除き(lifts)、果実形成を導く応答をもたらすことが提案されている。ARF8 遺伝子における遺伝子損傷は、ARF8 不活性化に関してオーキシン作用を刺激しうる。果実形成に関与する遺伝子のほとんどはいまだに発見されていないが、子房の果実への成長が授粉および受精が起こるまでは能動的に阻害されているというのが一般的な考え方である。
【0008】
特定の形態の単為結実を示すトマトの多数の突然変異体が記載されている。pat 突然変異体は単為結実であると記載されているが、この突然変異体は多面発現効果(pleiotropic effect)を有し、例えば、短い葯(ホメオティック変換(homeotic conversion))、異常な雄しべおよび低稔性が挙げられる。それゆえ、pat 突然変異体は、単為結実品種の開発のための商業的育種においては用いられていない。
【0009】
トマトにおける単為結実のための別の可能性のある遺伝源は、pat2 突然変異体である。この突然変異は遺伝的背景に依存して植物の成長特徴と相互作用するため、この突然変異は広く適用可能ではない。
【0010】
さらに、pat3/pat4 突然変異体は、多遺伝子性であり、果実サイズの低下を示すことが記載されている。
【0011】
天然の突然変異の望ましくない副次的な悪影響は、トマトにおける単為結実を達成するために研究を遺伝子改変アプローチへと刺激してきた。実際、様々な遺伝子改変アプローチがトマトについて記載されており、単為結実の達成が成功している。多数のこれらのアプローチは、オーキシン恒常性またはシグナル伝達と干渉する。胚珠特異的プロモーター、例えば、 DefH9の制御下でのオーキシン生合成遺伝子 iaaM の過剰発現は、果実の単為結実成長を導く。かかるアプローチは、最適レベルのオーキシン生産が正常の果実成長に要求されるという意味において微調整を必要とする。
【0012】
オーキシン応答因子である SlAFR7またはSlARF8あるいはシグナル伝達因子であるSlIAA9 のダウンレギュレーションは単為結実を導く。さらに、いわゆるAUCSIA 遺伝子のダウンレギュレーションは、果実の単為結実成長をもたらす。ほとんどの場合において強い多面発現効果が観察され 、例えば、中に隙間がある(hollow)、奇形の(malformed)果実または変化した葉の形態(altered leaf morphology)が挙げられる。
【0013】
ジベレリンシグナル伝達の遺伝子組換えによる干渉も単為結実をもたらしうる。例えば、SlDella 遺伝子発現のダウンレギュレーションは単為結実を導くが、この場合もまた、果実および葉に対する強い多面発現効果が観察される。トマトにおいて遺伝子組換え(transgenesis)により単為結実を生成させるその他の例は、カルコン合成酵素遺伝子またはMADS ボックス遺伝子であるTM8およびTM29の発現のダウンレギュレーションを介するものである。これらの例においても、強い多面発現効果が観察される。
【0014】
これらの例は、果実発達に干渉する様々なアプローチが一定形態の単為結実をもたらしうることを示しており、即ち、果実形成の開始が受精した胚珠によって生成されるトリガーから脱共役される。しかし多くの場合において、結果として得られる植物は多面発現効果を示し、これはホルモン機能に干渉する場合に明白であるようである。したがって、受精に依存せず、強い負の多面発現効果を導かない、 果実の形成を可能とするトマトにおける単為結実の遺伝源に対して強い要求が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
発明の概要
本発明の目的は、受精非依存果実形成を示すトマト突然変異体を提供することである。本発明のさらなる目的は、植物の成長および発達に対して負の多面発現効果無しに受精非依存果実形成を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって本発明は、第一のトマト親植物と第二のトマト親植物とを交配する(crossing)こと(ここで、親の一方は代表サンプルが表1に列挙するNCIMB 受託番号の1つにて寄託されている種子から成長した植物またはその子孫植物である)、および交配の子孫から受精非依存果実形成を示すトマト植物を選抜することによって得られうる、受精非依存果実形成を示すトマト植物 (Solanum lycopersicum L.) に関する。選抜が行われる子孫は好適には F2 子孫である。
【0017】
本発明のトマト植物は実質的に(essentially)多面発現効果を示さない。受精に依存せずに形成される果実は以下の特徴の1以上を有する:
a)受精の後に形成された果実のサイズと実質的に類似のサイズ;
b)果実におけるゼリー(jelly)の存在および種子の少なくともほとんど完全な非存在;
c)受精の後に形成されたトマト果実に匹敵する着色および熟成過程。
【0018】
6つの代表的な突然変異体のM4 の種子は、2009年6月19日にNCIMB Ltd. (Ferguson Building、Craibstone Estate、Bucksburn、Aberdeen、AB21 9YA)に寄託された。表 1 は受託番号を示す。
【0019】
表1
単為結実トマト突然変異体の受託番号
【表1】
【0020】
特に、多面発現効果を示さずに、受精非依存果実形成を示す本発明の植物は、以下を含む突然変異方法によって作ることができる:
a)改変すべきトマト植物種のM0 種子を突然変異誘発物質で処理してM1 種子を得ること;
b)そのようにして得られたM1 種子から植物を成長させてM1 植物を得ること;
c)所望により工程 b)およびc)をn回繰り返すことによりM1+n 種子を得ること;
d)そのようにして得られたM1+n 種子を発芽させ、植物を温室内で実際の成長条件下で成長させ、雄しべを取り去ること(emasculation)により花の授粉を阻止すること;および、
e)雄しべを取り去った花からの果実の成長を示す植物を選抜すること。
【0021】
突然変異は好適には化学的突然変異誘発によって誘発され、化学的突然変異誘発は、種子を、1以上の突然変異誘発物質、特に、アルキル化突然変異誘発物質、例えば、メタンスルホン酸エチル (ems)、硫酸ジエチル (des)、エチレンイミン (ei)、プロパンスルトン、N−メチル−N−ニトロソウレタン (mnu)、N−ニトロソ−N−メチルウレア (NMU)、N−エチル−N−ニトロソウレア (enu)、アジ化ナトリウムと接触させることにより行うことができる。
【0022】
あるいは、突然変異は照射によって誘発され、照射は、例えば、x-線、高速中性子、UV 照射から選択される。
【0023】
突然変異は、遺伝子操作によって誘発することもでき、例えば、キメラオリゴヌクレオチドの使用、相同的組み換え、内因性産物と競合する改変された標的遺伝子の導入、RNA干渉、人工マイクロRNA等を介するダウンレギュレーションによって誘発することもできる。
【0024】
本発明によると、果実は、受精した花の果実と類似したサイズによって特徴づけられ、果実は通常ゼリーで満たされているが、種子が存在せず、果実は正常の着色および熟成過程を示す。
【0025】
本発明の植物の種子は自家授粉によって作られることができる。というのは単為結実形質は条件的であり(facultative)、雄しべを取り去った場合または植物が雄性不稔であるか雄性不稔(sterile)にされた場合にのみ起こるからである。
【0026】
好ましくは、本発明の方法はさらに、多面発現効果を示さない受精非依存果実形成遺伝子の対立遺伝子をピラミッド化させること(pyramiding)を含む。
【0027】
本発明はさらに、遺伝子型が変化した植物または植物部分を得る方法に関し、かかる植物または植物部分は多面発現効果を示さずに受精非依存果実形成を示す。
【0028】
本発明の植物または植物部分は、それらのゲノム中に多面発現効果を有さない受精非依存果実形成の原因である遺伝情報を有する。この遺伝情報は寄託されている種子中に存在し、様々な手段、例えば、交配および選抜、または分子技術によって、その他の植物へと導入されることができる。
【0029】
請求項に記載の植物の子孫はまた、本発明の一部である。子孫は、受精非依存果実形成が保持される限り、第一世代のみならず、すべてのさらなる世代である。子孫は典型的には、寄託されている種子からの植物においてみられるように、受精に依存せずに果実を発達させる能力を有する植物である祖先を有する。祖先は、該植物の直前の世代のみならず、それ以前の複数の世代も包含する意図である。より具体的には、祖先は、寄託されている種子からの植物またはそれに派生するさらなる世代である。
【0030】
発明の詳細な説明
トマトにおける果実の形成は、多くの遺伝子が関与する強力に制御される発達プロセスである。果実発達を開始させる主な引き金は受精である。受精は、その空間的および時間的活性によって子房の成長をもたらし、最終的に収穫可能な(harvestable)果実を導くシグナルを生成する。受精に関連するプロセスによって通常取り払われる障壁が、受精が起こる前の果実成長の制限において特定の役割を有する遺伝子における遺伝子損傷によっても取り除かれうるのかが疑問視されていた。ほとんどの研究は今まで、ホルモン恒常性およびシグナル伝達に関与する遺伝因子に干渉するものであった。植物ホルモンは多数の発達機能に関与するため、多面作用(pleiotropy)の危険は顕著なものであるようである。
【0031】
果実形成に関与する遺伝子のほとんどは現在未知である。本発明を導いた研究において、それゆえ、無作為な遺伝子改変(genetic modification)をトマト適用する偏りのないアプローチを採用することにした。かかる偏りのないアプローチは、効率的な表現型選抜手順と組み合わされた化学的または物理的ランダム変異導入法手順を含む。かかる選抜手順は、単為結実のための可能性がモニターされ得、それを介して多面発現効果を示さずに受精非依存果実形成を獲得した突然変異体が同定されうるような条件下で植物を成長させることによって達成される。かかるスクリーニングアプローチの明白な利点は、形質の質が直接的にモニターされうること、即ち、無性生殖発達ならびにサイズ、形状、ゼリー形成および成熟に関する種なし果実の正常の成長が明白に判断されうることである。
【0032】
それゆえ、採用したアプローチは以下の工程を含む:
1.種子または植物組織の突然変異誘発物質、例えば、エタンスルホン酸メチル (ems)による処理による突然変異体集団の作成。
2.選抜が、授粉およびそして受精を完全に阻止する雄しべを取り去った(emasculated)花の果実形成に基づく、効率的な表現型スクリーニングの設定。果実は種なしであり、それらのサイズ、形状、ゼリー形成および成熟に関して、非処理の準同質遺伝子(near isogenic)対照植物に匹敵する。
3.単為結実、サイズ、形状、ゼリー形成および成熟ならびに多面発現効果の非存在に関する選抜された突然変異体の特徴決定。
【0033】
遺伝的変異性を作り出すために、誘発突然変異を利用することができる。いくつかの化学物質または物理的処理が、トマトなどの植物種における遺伝子突然変異を誘発するために利用できることが当業者に知られている。例えば、様々な濃度のems等の突然変異誘発物質を含む溶液中でトマトの種子を処理するとよい。Emsは主にDNA 鎖のG 残基をアルキル化し、それはDNA 複製の際にCではなくTとの対合をもたらす。それゆえ、ems の有効量および植物のミスマッチ修復システムの活性によって決定される頻度にてGC 塩基対がAT 塩基対へと変化する。emsの有効量は、使用される濃度、種子のサイズおよびその他の物理的特性およびems溶液中での種子のインキュベーション時間に依存する。
【0034】
emsによって処理された種子は典型的にはM1 種子と称される。処理の結果として、M1 種子の組織はその細胞のゲノム中にランダムな点突然変異を含み、生殖系列組織を形成する細胞(胚芽細胞)の亜集団に存在するものは、M2と称される次世代へと運ばれる。ハプロ不全(haplo-insufficient)であるため不稔をもたらすか、胚の致死性を誘発する突然変異またはその組合せは、M2 世代へと運ばれない。ems の使用について先に記載したものと類似の手順がその他の突然変異誘発物質に同様に適用される。M2 集団は、黄化した苗の三相反応を低減することを目的としたスクリーニング手順において利用できる。遺伝的変異を担持するトマト植物のあらゆる集団が、かかる表現型スクリーニングのための出発材料として用いることができることが当業者に明らかである。
【0035】
突然変異したトマト植物の雄しべを取り去られた花の応答を調べるために、正常の温室を使用し、そこで7000の突然変異した植物を、栄養、剪定および有害生物管理に関して実際の条件を用いて育て、栽培した。最初の二つの穂状花(truss)の正常の着果(fruit set)が起こった後、次の穂状花の花はすべて雄しべを取り去った。雄しべを取り去った花の果実の成長を定期的にモニターした。果実形成が起こった場合においては、種子の非存在ならびにそれらのサイズ、形状、ゼリー形成および成熟について果実をチェックする。
【0036】
多面発現効果を示さずに受精非依存果実形成を示す突然変異体が低頻度において同定されうることが驚くべきことに判明した。さらに、果実は種なしであって、サイズ、形状、ゼリー形成および成熟に関して受精した対照果実に匹敵するものである。このようにして同定された単為結実突然変異体が自家受精すると、正常の種子のある果実が得られた。それゆえ、この方法によって同定される単為結実形質は条件的である。
【0037】
同定された突然変異体の単為結実形質の遺伝特性を確認するために、収穫した M3 種子を最初のスクリーニングのために用いたものと類似の条件下で成育させた。元々同定されていた単為結実突然変異体は再び、サイズ、形状、ゼリー形成および成熟に関して受精した対照果実に匹敵する種なし果実を示した。これは、本発明によって記載されるアプローチによって同定された単為結実突然変異体の遺伝特性を確認する。
【0038】
同定された単為結実突然変異体は同等のものであったが、観察された主要ではない相違は、元の集団におけるこの形質に影響を与える異なる突然変異体遺伝子座または同一の遺伝子座の異なる対立形質の存在のいずれかを反映しうる。
【0039】
劣性突然変異の場合、これら2つの可能性は、ホモ接合性であるべきまたはホモ接合性にされるべき2つの突然変異体事象(event)を交配することおよび異種交配種(hybrid)の表現型を決定することを含む対立性アッセイを実施することによって容易に識別することができる。突然変異の対立性(allelism)である場合、単為結実果実発達はF1において明らかとなるが、突然変異体の表現型が、異なる劣性遺伝子座によって決定される場合、これはあてはまらない。優性突然変異を有する1つの事象と劣性突然変異を有する1つの事象である場合、これら2つの間のF1は単為結実形質を示すが、F2において形質が分離する場合、それは突然変異が対立遺伝子性(allelic)ではないことを示す。2つの事象の突然変異が優性である場合、F1は単為結実形質を示し、それらが対立遺伝子性ではない場合、F2において形質は分離するが、突然変異の対立性が存在する場合、すべてのF2はその形質を発現するであろう。
【0040】
出発集団を作成するためにランダム変異導入法を適用したため、遺伝的背景における突然変異もまた、実験条件下での植物表現型の変化に寄与している可能性がある。異なる強さの単一突然変異と遺伝的背景における突然変異の組み合わさった効果とを識別するために、戻し交配を行って、異なる単為結実事象について均一な遺伝的背景を作成する。かかる手順はさらに、単為結実に関与する特定の遺伝子座における突然変異が多面発現効果を示すかどうかを判定するためにも関連する。
【0041】
一つの態様において、本発明の植物によって作られた単為結実果実は、受精の後に形成された果実と比較して少なくとも 80% 種なしである。
【0042】
一つの態様において、本発明の植物によって作られた単為結実果実は、受精の後に形成された果実と比較して少なくとも 90% 種なしである。
【0043】
一つの態様において、本発明の植物によって作られた単為結実果実は、受精の後に形成された果実と比較して少なくとも 95% 種なしである。
【0044】
一つの態様において、本発明の植物によって作られた単為結実果実は、受精の後に形成された果実と比較して少なくとも 99% 種なしである。
【0045】
一つの態様において、本発明の植物によって作られた単為結実果実は、受精の後に形成された果実と比較して100% 種なしである。
【0046】
一つの態様において、本発明は、受精非依存または単為結実果実形成の形質を示すトマト植物に関し、ここで、該形質は、表1に列挙される受託番号のいずれかの下でNCIMBに寄託された種子から成育させた植物からの遺伝子移入(introgression)によって得られうるものである。
【0047】
一つの態様において、本発明は、受精非依存または単為結実果実形成の形質を示すトマト植物に関し、ここで、該形質は、表1に列挙される受託番号のいずれかの下で NCIMBに寄託された種子から成育させた植物から遺伝子移入される(introgressed)。
【0048】
本明細書において用いる場合、「遺伝子移入」は、形質の、その形質を担持しない植物への、交配、戻し交配および選抜による導入を意味する意図である。
【0049】
1以上の選抜基準が明白に規定される場合、当業者であれば、あらゆるさらなる世代においてその形質を担持する子孫を同定することができるであろうということに注意すべきである。本発明の形質について、単為結実果実形成の形質を担持しない植物とその代表種子(representative seed)が表1に列挙される受託番号のいずれかの下で寄託された植物においてみられるように単為結実果実形成の形質を担持する植物との交配からの子孫は、元の交配により得られた種子からのF2 植物を成長させる工程および自家受粉させる (selfing)工程、そのようにして得られた植物の授粉を阻止する工程および果実を生産する植物を単為結実果実形成を示す植物として選抜する工程によって同定することができる。
【0050】
一つの態様において、本発明は、受精非依存果実形成の形質を含むトマト植物に関し、その植物は以下によって得られうる:
a)その代表種子が NCIMBに受託番号 NCIMB 41626、NCIMB 41627、NCIMB 41628、NCIMB 41629、NCIMB 41630 またはNCIMB 41631の下で寄託された植物と、該形質を示さない植物とを交配してF1 集団を得る工程;
b) F1 集団からの植物を自家受粉させて F2 集団を得る工程;
c) F2 植物の授粉を阻止し、果実形成が起こるのを可能にする工程;および、
d)果実を生産する植物を受精非依存果実形成を示す植物として選抜する工程。
【0051】
授粉は様々な方法で阻止することができる。第一に、花の雄しべを取り去る(emasculated)ことができる。
【0052】
代替として、上記方法の工程 a) において使用される単為結実形質を担持する植物は雄性不稔であってもよく雄性不稔にされてもよく、特に、遺伝子的に雄性不稔 (GMS) であってもよく遺伝子的に雄性不稔 (GMS) にされてもよく、あるいは、細胞質性雄性不稔 (CMS) であってもよく細胞質性雄性不稔 (CMS)にされてもよい。かかる GMS 植物は寄託された種子から直接成育された植物ではないが、寄託された種子から成育された植物においてみられるように単為結実形質を担持する。上記方法の工程 c)における授粉がしたがって、雄性不稔についてホモ接合性である工程 a)におけるトマト植物の使用および授粉を阻止する手段としてのF2における雄性不稔植物の選抜により阻止される。
【0053】
本発明の形質、即ち、受精非依存果実形成の原因である、単為結実果実形成を示す植物のゲノムにおける遺伝情報の存在は、以下の試験により判定することができる。試験すべき植物は、受精非依存果実形成の原因である遺伝情報についてホモ接合性であるかホモ接合性にされるべきである。当業者であれば、試験すべき形質についてホモ接合性である植物を得る方法を知っている。
【0054】
この植物は次いで、ホモ接合性条件において本発明の形質の原因である遺伝情報を担持する試験(tester)植物と交配される。試験すべき植物が受精非依存果実形成を本発明の形質の原因である同じ遺伝情報の結果として有する場合、最初の交配および後続世代のすべての子孫植物は当該形質を発現するであろう。試験すべき植物の受精非依存果実形成が、ゲノムの異なる部分、例えば別の遺伝子または遺伝子座の結果である場合、第一の交配および/または後続世代のいずれかにおいて分離が起こるであろう。試験植物は、ホモ接合性条件において本発明の遺伝情報を担持しているいずれの植物であってもよく、例えば、寄託された種子から直接成育させた植物または当該形質を保持しているその子孫が挙げられる。
【0055】
本発明の一つの態様において、その果実が受精非依存果実形成を示し、したがって、表1に列挙する受託番号のいずれかの下でNCIMBに寄託された種子から成育され、本発明の単為結実形質を含む試験植物、または、その代表種子が表1に列挙される受託番号のいずれかの下で NCIMBに寄託されたトマト植物に含まれる単為結実形質を含むその子孫植物またはそれらに由来し、単為結実形質を含む植物と交配された場合、該交配の第一世代子孫 (F1)の植物が単為結実形質について1:0 分離を示す、トマト植物が提供される。試験植物 および本発明の植物の両方において、単為結実形質はホモ接合性条件において存在する。自家受粉させることによって得られた場合、第二およびさらなる世代の植物もまた、受精非依存果実形成について1:0 分離を示す。
【0056】
本発明の受精非依存果実形成は、トマト植物のゲノムにおいて遺伝的基盤を有する。試験植物との上記交配により、植物は 本発明の植物であると同定されうる。試験植物は、その代表種子がNCIMBに受託番号 NCIMB 41626、NCIMB 41627、NCIMB 41628、NCIMB 41629、NCIMB 41630またはNCIMB 4163の下で寄託されたいずれの植物であってもよい。寄託物のいずれかに含まれるように単為結実形質の原因である遺伝情報が植物において存在する場合、当該植物は本発明の植物である。
【0057】
本発明によるトマト植物は、とりわけ以下の果実タイプをつけることができる: ビーフ(beef)、チェリー(cherry)、カクテル(cocktail)、中間型(intermediate)、プラム(plum)、丸(round)など。
【0058】
本発明はさらに、本発明のトマト植物の種子およびその他の有性生殖に好適な植物の部分、即ち、繁殖材料(propagation material)に関する。かかる部分は例えば、小胞子、花粉、子房、胚珠、胚嚢および卵細胞からなる群から選択される。さらに、本発明は、栄養生殖に好適な植物の部分、特に、 切り取った部分(cutting)、根、茎、細胞、プロトプラスト等に関する。
【0059】
そのさらなる側面によると、本発明は、本発明のトマト植物の組織培養物(tissue culture)を提供する。組織培養物は再生可能な(regenerable)細胞を含む。かかる組織培養物は、葉、花粉、胚、子葉、胚軸、分裂組織細胞、根、根端、葯、花、種子および茎に由来しうる。
【0060】
本発明はまた、本発明のトマト植物の子孫にも関する。かかる子孫は、本発明の植物またはその子孫植物の有性または栄養生殖によって作ることができる。再生した子孫植物は、その代表種子が寄託された(表1) 植物のいずれかと同一または類似の様式で受精に依存せずに果実をつける。これは、かかる子孫が、本発明のトマト植物について請求項に記載したものと同一の特徴を有することを意味する。これに加えて、植物は、1以上のその他の特徴において改変されていてもよい。かかるさらなる改変は、例えば、突然変異誘発または導入遺伝子による形質転換により行われる。
【0061】
本明細書において用いる場合、「子孫(progeny)」という語は、受精非依存果実形成を示す本発明の植物との交配からの子孫(offspring)または第一およびすべてのさらなる子孫(descendant)を意味する意図である。本発明の子孫は、受精非依存果実形成を導く形質を担持する本発明の植物とのあらゆる交配の子孫である。
【0062】
「子孫」はまた、無性生殖繁殖または増殖(multiplication)によって本発明の他の植物から得られる本発明の形質を担持する植物も包含する。
【0063】
本発明は、さらに、雑種種子(hybrid seed)および第一の親植物と第二の親植物とを交配することおよびその結果得られた雑種種子を収穫することを含む雑種種子の生産方法に関する。形質が劣性である場合、雑種種子が本発明の形質を担持するためには、両方の親植物は、受精非依存果実形成の形質についてホモ接合性である必要がある。それらはその他の形質については必ずしも均一である必要はない。
【0064】
本発明の形質を提供する親は必ずしも寄託された種子から直接成育させた植物である必要はないことは明白である。親はまた、該種子からの子孫植物であってもよいし、あるいは本発明の形質をその他の手段によって有するまたは獲得したことが同定される種子からの子孫植物であってもよい。
【0065】
一つの態様において、本発明は、本発明の形質を担持し、常套的な育種、または遺伝子改変、特に、シス発生(cisgenesis)あるいはトランス発生(transgenesis)のいずれかによって好適な源からの形質の原因である遺伝情報の導入により該形質を獲得したトマト植物に関する。シス発生は、作物植物自体または生殖的に適合性の(sexually compatible)ドナー植物からの(農業) 形質をコードする天然の遺伝子による植物の遺伝子改変である。トランス発生は、非交配可能種からの遺伝子または合成遺伝子による植物の遺伝子改変である。
【0066】
一つの態様において、遺伝情報が獲得される源は、寄託された種子から成育された植物またはそれからの有性または無性生殖子孫によって形成される。
【0067】
本発明はまた、本発明の植物の生殖質にも関する。生殖質は、生物のすべての遺伝的特徴によって構成され、本発明によると、少なくとも本発明の受精非依存果実形成の形質を包含する。
【0068】
本発明はさらに、受精非依存果実形成の形質を示すトマト植物の細胞に関する。かかるトマト植物の各細胞は、該形質の表現型発現を導く遺伝情報を担持する。細胞は個々の細胞であってもよいし、トマト植物またはトマト植物部分、例えば、トマト果実の部分であってもよい。
【0069】
本発明はまた、本発明の植物によって生産される単為結実トマト果実にも関する。さらに、本発明は、トマト果実の部分およびトマト果実から生産された加工製品、例えば、 ペースト、ジュース、スープ、ソース等にも関する。
【0070】
本明細書において、「単為結実」、「単為結実果実形成」および「受精非依存果実形成」という用語は互換的に用いられる。それらはすべて、なんらかの方法、特に、雄しべを取り去ること(emasculation)または植物が雄性不稔であるために、受精が阻止された場合に果実が形成されることを意味し、ここで雄性不稔は、遺伝子的、細胞質性または化学的のいずれかである。
【0071】
本発明をさらに以下の実施例において説明する。実施例は決して本発明を限定する意図のものではない。実施例において以下の図に対して言及がなされる:
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図 1: 対照と比較した、単為結実トマト突然変異体の果実の表現型。 パネル Aは、陰性対照植物の授粉した (左) および雄しべを取り去った (右) 花から成長した果実を示す。雄しべの除去(emasculation)は、授粉した果実に起因する果実と比較して、果実成長の強い低減を導く。パネル Bは、授粉した (左)または雄しべを取り去った(右)場合の単為結実突然変異体 3475の果実を示す。突然変異体は種なし果実の形成を示す(詳細は以下参照)。
【図2】図2-11:単為結実突然変異体M4 1667-09R.452400 (NCIMB 41626)、M4 2019-09R.452500 (NCIMB 41627)、M4 3475-09R.452800 (NCIMB 41628)、M4 5364-09R.453200 (NCIMB 41629)、M4 5879-09R.453500 (NCIMB 41630)および M4 6162-09R.453700 (NCIMB 41631)の果実の比較。左側パネルは雄しべを取り去った花からの果実を示し、右側パネルは受精した花からの果実を示す。
【図3】図2-11:単為結実突然変異体M4 1667-09R.452400 (NCIMB 41626)、M4 2019-09R.452500 (NCIMB 41627)、M4 3475-09R.452800 (NCIMB 41628)、M4 5364-09R.453200 (NCIMB 41629)、M4 5879-09R.453500 (NCIMB 41630)および M4 6162-09R.453700 (NCIMB 41631)の果実の比較。左側パネルは雄しべを取り去った花からの果実を示し、右側パネルは受精した花からの果実を示す。
【図4】図2-11:単為結実突然変異体M4 1667-09R.452400 (NCIMB 41626)、M4 2019-09R.452500 (NCIMB 41627)、M4 3475-09R.452800 (NCIMB 41628)、M4 5364-09R.453200 (NCIMB 41629)、M4 5879-09R.453500 (NCIMB 41630)および M4 6162-09R.453700 (NCIMB 41631)の果実の比較。左側パネルは雄しべを取り去った花からの果実を示し、右側パネルは受精した花からの果実を示す。
【図5】図2-11:単為結実突然変異体M4 1667-09R.452400 (NCIMB 41626)、M4 2019-09R.452500 (NCIMB 41627)、M4 3475-09R.452800 (NCIMB 41628)、M4 5364-09R.453200 (NCIMB 41629)、M4 5879-09R.453500 (NCIMB 41630)および M4 6162-09R.453700 (NCIMB 41631)の果実の比較。左側パネルは雄しべを取り去った花からの果実を示し、右側パネルは受精した花からの果実を示す。
【図6】図2-11:単為結実突然変異体M4 1667-09R.452400 (NCIMB 41626)、M4 2019-09R.452500 (NCIMB 41627)、M4 3475-09R.452800 (NCIMB 41628)、M4 5364-09R.453200 (NCIMB 41629)、M4 5879-09R.453500 (NCIMB 41630)および M4 6162-09R.453700 (NCIMB 41631)の果実の比較。左側パネルは雄しべを取り去った花からの果実を示し、右側パネルは受精した花からの果実を示す。
【図7】図2-11:単為結実突然変異体M4 1667-09R.452400 (NCIMB 41626)、M4 2019-09R.452500 (NCIMB 41627)、M4 3475-09R.452800 (NCIMB 41628)、M4 5364-09R.453200 (NCIMB 41629)、M4 5879-09R.453500 (NCIMB 41630)および M4 6162-09R.453700 (NCIMB 41631)の果実の比較。左側パネルは雄しべを取り去った花からの果実を示し、右側パネルは受精した花からの果実を示す。
【図8】図2-11:単為結実突然変異体M4 1667-09R.452400 (NCIMB 41626)、M4 2019-09R.452500 (NCIMB 41627)、M4 3475-09R.452800 (NCIMB 41628)、M4 5364-09R.453200 (NCIMB 41629)、M4 5879-09R.453500 (NCIMB 41630)および M4 6162-09R.453700 (NCIMB 41631)の果実の比較。左側パネルは雄しべを取り去った花からの果実を示し、右側パネルは受精した花からの果実を示す。
【図9】図2-11:単為結実突然変異体M4 1667-09R.452400 (NCIMB 41626)、M4 2019-09R.452500 (NCIMB 41627)、M4 3475-09R.452800 (NCIMB 41628)、M4 5364-09R.453200 (NCIMB 41629)、M4 5879-09R.453500 (NCIMB 41630)および M4 6162-09R.453700 (NCIMB 41631)の果実の比較。左側パネルは雄しべを取り去った花からの果実を示し、右側パネルは受精した花からの果実を示す。
【図10】図2-11:単為結実突然変異体M4 1667-09R.452400 (NCIMB 41626)、M4 2019-09R.452500 (NCIMB 41627)、M4 3475-09R.452800 (NCIMB 41628)、M4 5364-09R.453200 (NCIMB 41629)、M4 5879-09R.453500 (NCIMB 41630)および M4 6162-09R.453700 (NCIMB 41631)の果実の比較。左側パネルは雄しべを取り去った花からの果実を示し、右側パネルは受精した花からの果実を示す。
【図11】図2-11:単為結実突然変異体M4 1667-09R.452400 (NCIMB 41626)、M4 2019-09R.452500 (NCIMB 41627)、M4 3475-09R.452800 (NCIMB 41628)、M4 5364-09R.453200 (NCIMB 41629)、M4 5879-09R.453500 (NCIMB 41630)および M4 6162-09R.453700 (NCIMB 41631)の果実の比較。左側パネルは雄しべを取り去った花からの果実を示し、右側パネルは受精した花からの果実を示す。
【実施例】
【0073】
実施例 1
トマトのメタンスルホン酸エチル (ems)による遺伝子改変
トマト育種系統 TR306の種子を、およそ 10.000個の種子の0.5% (w/v) emsの通気した溶液への24 時間室温での浸漬によりemsで処理した。
【0074】
処理した種子を発芽させ、結果として得られた植物を温室で成育させてM2 種子を作らせた。
【0075】
成熟した後、M2 種子を収穫し、1つのプールにまとめた(bulked)。結果として得られたM2 種子のプールを出発原料として用い、受精非依存果実形成を含む個々の M2 植物を同定した。
【0076】
遺伝子改変手順の有効性を白化現象を起こした植物の出現を判定することにより評価した。ここで白化現象は、クロロフィルの形成または蓄積に直接的または間接的に関与する遺伝子における改変に起因するクロロフィル損失の指標である。
【0077】
実施例 2
受精非依存果実形成の形質を得たトマト植物の同定
M2 トマト 種子を土壌中で発芽させ、小植物体にまで成育させた。次いで、およそ 7000個のランダムに選択した植物を温室に移し、そこで植物は一般的なトマト栽培慣行にしたがって育てられた。各植物の最初の2つの穂状花が果実を着果させた後、第三の穂状花のすべての花を、授粉を阻止するために手作業によって雄しべを取り去った。植物を定期的にモニターすることにより、どの突然変異体が受精非依存果実形成を示すかを判定した。第一の基準は、授粉および受精の結果として同じ植物上で成長した正常の種子のある果実と類似のサイズの果実の形成であった。第二の基準として、種子を含まず、通常のようにゼリーで満たされた果実を選択した。これらの基準に基づき、3475、5364および5879と番号付けした3つの単為結実突然変異体を、このスクリーニングにおいてモニターした7000の植物のなかで最良の事象(event)として選択した。選択した単為結実突然変異体の果実を図 1に示す。
【0078】
実施例 3
子孫における受精非依存果実形成の確認
M3 種子を、1667、2019、3475、5364、5879および6162と番号付けした選択した単為結実突然変異体の自家授粉によって生産させた。M3 集団当たり合計7または12の植物を、一般的なトマト栽培慣行にしたがって温室中で成育させた。陰性対照として、単為結実果実形成を示さなかったM2 植物の子孫をこの実験に含めた(図 2)。各植物について、第三の穂状花の花から手作業により雄しべを取り去り、果実形成をモニターした。突然変異体1667 (図 3)、2019 (図 4)、3475 (図 5)、5364 (図 7)、5879 (図 9) および6162 (図 11)に由来するM3 集団の各植物について、雄しべを取り去った穂状花が単為結実果実形成を示したこと、即ち、果実が正常のサイズを示し、種子を含まず、通常のようにゼリーで満たされており、正常の成熟を示したことが観察された。これは、本発明により与えられる方法によって同定される単為結実形質が遺伝的基盤を有することを示す。
【0079】
3475、5364 および 5879 のM2 植物も切り取った部分(cutting)を介して繁殖させた。これらの植物は、対応するM3 植物のものと同じ果実特徴を示す果実を生じた(それぞれ、図6、8 および 10)。
【0080】
実施例 4
F1 および F2 世代の生産
本発明の受精非依存果実形成の形質がその他のトマトタイプにも同様に導入することができることを示すために、交配を様々なその他のトマト系統と行った。結果として得られたF1 および/または F2 子孫は、同じ植物の受精した花から成育した果実と比較して外観および特徴において類似した雄しべを取り去った花からの果実を生じた。
【図1A】
【図1B】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、それらの果実形成の様式に関して変化している、植物および植物部分、特に、果実のある野菜に関する。より具体的には、本発明は、受精に依存しない果実形成を示すトマト (Solanum lycopersicum L.) 植物に関する。この果実形成の様式はしばしば単為結実(parthenocarpy)と称される。本発明はまた、受精非依存(fertilization independent)果実形成を示す植物へと成長することができる種子にも関する。
【0002】
本発明はさらに、受精に依存しない果実形成の変化した様式を示す、変化した遺伝子型を有する該植物およびその種子を得る方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
トマトなどの果実のある野菜の育種は、市場性の高い製品を生産するために、職業的生産環境に最適に適合した商業品種の生産を目的としている。材料および生産品の両方の形質に関する選抜に際して多くの特性が考慮される必要がある。この点に関して非常に重要な形質の一つは、着果(fruit set)、特に、望ましくない環境条件、例えば、高温または低温および乾燥の下での着果に関する。かかる条件は正常の授粉、そして受精にとって有害なものであり得、それは不良な着果、および結果として収率損失を導く。受精非依存果実形成または単為結実を形質として利用することができれば、それは経済的により効率的なトマト果実の生産に顕著に寄与することができる重要な特徴である。
【0004】
収穫の確保に寄与することに加えて、単為結実はまた、果実の質にとっても重要である。単為結実の(parthenocarpic)トマト果実は、種子のある果実と比較してより良好な風味およびより高い乾物含量を有するといわれている。より高レベルの可溶性固形物は、ペースト生産のための業界において用いられるトマトの加工のために特に重要である。さらに、かかる果実は漏れやすくなく引き締まった(firm)果実を要求する生鮮カット業界のためにも有益であり得る。さらに、果実から種子を取り除く必要がある工業的または家庭での適用は、単為結実から大いに利益を受けうる。
【0005】
着果は通常、受精に依存する。受精は、胚珠に含まれる卵細胞と中心細胞との両方が、花粉管によって運ばれる精細胞と融合するプロセスである。このいわゆる重複受精は、胚および内胚乳の形成そして最終的には成熟種子をもたらす事象のカスケードを引き起こすステップである。発達する種子および周囲の組織が、子房の成長(outgrowth)およびその多肉質の果実への発達を刺激するシグナルを生成する。
【0006】
一見したところ、受精は果実形成を阻止する一定の発達の障壁を取り払う(lifts)。この機構は、果実形成を種子の形成に依存するものとさせ、種子の散乱における果実の生物学的役割からみるとそれは理にかなっている。しかしながら、果実形成の初期段階において役割を果たす生理学的および分子的事象についての知識は断片的なものでしかない。植物ホルモンであるオーキシンおよびジベレリンの関与は詳しく記載されているが、それらの正確な役割はいまだに解明されていない。オーキシンまたはジベレリンのいずれかの未受精の胚珠への適用は、トマトを含む多くの植物種において果実形成を導く。実際、これらのホルモンは、温室条件が最適ではない場合に着果を改善するために実践的に適用されている。オーキシンおよびジベレリンの適用はいくらかの実践的価値を有するが、それは費用を高め、果実の形状の異常を導きうる。これらの外的効果に加えて、ホルモンであるオーキシンおよびジベレリンはまた、受精依存的果実形成の際の役割も果たしていると考えられているが、いずれの組織がこれらのホルモンの実際の源であるかは不明である。さらに、これらのホルモンおよび下流の調節ネットワークの序列は依然として未知な部分が大きい。その他のホルモン、例えば、サイトカイニン、アブシジン酸、エチレンおよびブラシノステロイドもまた、果実形成における役割を果たしているようである。
【0007】
おそらく多くの遺伝子が受精依存的果実形成に関与しているようである。しかしながら、現在、数個の遺伝子のみしかこの点に関して特徴決定されていない。例えば、トマトのDGT (diageotropica)、ARF7およびIAA9 遺伝子ならびにAUCSIA 遺伝子は、詳細に特徴決定されている。シロイヌナズナにおいて、単為結実の長角果(silique)の形成を導く、ARF8 遺伝子において突然変異を含むfwf 突然変異体が記載されている。受精の際に形成されるオーキシンが、阻害性 ARF8 活性を取り除き(lifts)、果実形成を導く応答をもたらすことが提案されている。ARF8 遺伝子における遺伝子損傷は、ARF8 不活性化に関してオーキシン作用を刺激しうる。果実形成に関与する遺伝子のほとんどはいまだに発見されていないが、子房の果実への成長が授粉および受精が起こるまでは能動的に阻害されているというのが一般的な考え方である。
【0008】
特定の形態の単為結実を示すトマトの多数の突然変異体が記載されている。pat 突然変異体は単為結実であると記載されているが、この突然変異体は多面発現効果(pleiotropic effect)を有し、例えば、短い葯(ホメオティック変換(homeotic conversion))、異常な雄しべおよび低稔性が挙げられる。それゆえ、pat 突然変異体は、単為結実品種の開発のための商業的育種においては用いられていない。
【0009】
トマトにおける単為結実のための別の可能性のある遺伝源は、pat2 突然変異体である。この突然変異は遺伝的背景に依存して植物の成長特徴と相互作用するため、この突然変異は広く適用可能ではない。
【0010】
さらに、pat3/pat4 突然変異体は、多遺伝子性であり、果実サイズの低下を示すことが記載されている。
【0011】
天然の突然変異の望ましくない副次的な悪影響は、トマトにおける単為結実を達成するために研究を遺伝子改変アプローチへと刺激してきた。実際、様々な遺伝子改変アプローチがトマトについて記載されており、単為結実の達成が成功している。多数のこれらのアプローチは、オーキシン恒常性またはシグナル伝達と干渉する。胚珠特異的プロモーター、例えば、 DefH9の制御下でのオーキシン生合成遺伝子 iaaM の過剰発現は、果実の単為結実成長を導く。かかるアプローチは、最適レベルのオーキシン生産が正常の果実成長に要求されるという意味において微調整を必要とする。
【0012】
オーキシン応答因子である SlAFR7またはSlARF8あるいはシグナル伝達因子であるSlIAA9 のダウンレギュレーションは単為結実を導く。さらに、いわゆるAUCSIA 遺伝子のダウンレギュレーションは、果実の単為結実成長をもたらす。ほとんどの場合において強い多面発現効果が観察され 、例えば、中に隙間がある(hollow)、奇形の(malformed)果実または変化した葉の形態(altered leaf morphology)が挙げられる。
【0013】
ジベレリンシグナル伝達の遺伝子組換えによる干渉も単為結実をもたらしうる。例えば、SlDella 遺伝子発現のダウンレギュレーションは単為結実を導くが、この場合もまた、果実および葉に対する強い多面発現効果が観察される。トマトにおいて遺伝子組換え(transgenesis)により単為結実を生成させるその他の例は、カルコン合成酵素遺伝子またはMADS ボックス遺伝子であるTM8およびTM29の発現のダウンレギュレーションを介するものである。これらの例においても、強い多面発現効果が観察される。
【0014】
これらの例は、果実発達に干渉する様々なアプローチが一定形態の単為結実をもたらしうることを示しており、即ち、果実形成の開始が受精した胚珠によって生成されるトリガーから脱共役される。しかし多くの場合において、結果として得られる植物は多面発現効果を示し、これはホルモン機能に干渉する場合に明白であるようである。したがって、受精に依存せず、強い負の多面発現効果を導かない、 果実の形成を可能とするトマトにおける単為結実の遺伝源に対して強い要求が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
発明の概要
本発明の目的は、受精非依存果実形成を示すトマト突然変異体を提供することである。本発明のさらなる目的は、植物の成長および発達に対して負の多面発現効果無しに受精非依存果実形成を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって本発明は、第一のトマト親植物と第二のトマト親植物とを交配する(crossing)こと(ここで、親の一方は代表サンプルが表1に列挙するNCIMB 受託番号の1つにて寄託されている種子から成長した植物またはその子孫植物である)、および交配の子孫から受精非依存果実形成を示すトマト植物を選抜することによって得られうる、受精非依存果実形成を示すトマト植物 (Solanum lycopersicum L.) に関する。選抜が行われる子孫は好適には F2 子孫である。
【0017】
本発明のトマト植物は実質的に(essentially)多面発現効果を示さない。受精に依存せずに形成される果実は以下の特徴の1以上を有する:
a)受精の後に形成された果実のサイズと実質的に類似のサイズ;
b)果実におけるゼリー(jelly)の存在および種子の少なくともほとんど完全な非存在;
c)受精の後に形成されたトマト果実に匹敵する着色および熟成過程。
【0018】
6つの代表的な突然変異体のM4 の種子は、2009年6月19日にNCIMB Ltd. (Ferguson Building、Craibstone Estate、Bucksburn、Aberdeen、AB21 9YA)に寄託された。表 1 は受託番号を示す。
【0019】
表1
単為結実トマト突然変異体の受託番号
【表1】
【0020】
特に、多面発現効果を示さずに、受精非依存果実形成を示す本発明の植物は、以下を含む突然変異方法によって作ることができる:
a)改変すべきトマト植物種のM0 種子を突然変異誘発物質で処理してM1 種子を得ること;
b)そのようにして得られたM1 種子から植物を成長させてM1 植物を得ること;
c)所望により工程 b)およびc)をn回繰り返すことによりM1+n 種子を得ること;
d)そのようにして得られたM1+n 種子を発芽させ、植物を温室内で実際の成長条件下で成長させ、雄しべを取り去ること(emasculation)により花の授粉を阻止すること;および、
e)雄しべを取り去った花からの果実の成長を示す植物を選抜すること。
【0021】
突然変異は好適には化学的突然変異誘発によって誘発され、化学的突然変異誘発は、種子を、1以上の突然変異誘発物質、特に、アルキル化突然変異誘発物質、例えば、メタンスルホン酸エチル (ems)、硫酸ジエチル (des)、エチレンイミン (ei)、プロパンスルトン、N−メチル−N−ニトロソウレタン (mnu)、N−ニトロソ−N−メチルウレア (NMU)、N−エチル−N−ニトロソウレア (enu)、アジ化ナトリウムと接触させることにより行うことができる。
【0022】
あるいは、突然変異は照射によって誘発され、照射は、例えば、x-線、高速中性子、UV 照射から選択される。
【0023】
突然変異は、遺伝子操作によって誘発することもでき、例えば、キメラオリゴヌクレオチドの使用、相同的組み換え、内因性産物と競合する改変された標的遺伝子の導入、RNA干渉、人工マイクロRNA等を介するダウンレギュレーションによって誘発することもできる。
【0024】
本発明によると、果実は、受精した花の果実と類似したサイズによって特徴づけられ、果実は通常ゼリーで満たされているが、種子が存在せず、果実は正常の着色および熟成過程を示す。
【0025】
本発明の植物の種子は自家授粉によって作られることができる。というのは単為結実形質は条件的であり(facultative)、雄しべを取り去った場合または植物が雄性不稔であるか雄性不稔(sterile)にされた場合にのみ起こるからである。
【0026】
好ましくは、本発明の方法はさらに、多面発現効果を示さない受精非依存果実形成遺伝子の対立遺伝子をピラミッド化させること(pyramiding)を含む。
【0027】
本発明はさらに、遺伝子型が変化した植物または植物部分を得る方法に関し、かかる植物または植物部分は多面発現効果を示さずに受精非依存果実形成を示す。
【0028】
本発明の植物または植物部分は、それらのゲノム中に多面発現効果を有さない受精非依存果実形成の原因である遺伝情報を有する。この遺伝情報は寄託されている種子中に存在し、様々な手段、例えば、交配および選抜、または分子技術によって、その他の植物へと導入されることができる。
【0029】
請求項に記載の植物の子孫はまた、本発明の一部である。子孫は、受精非依存果実形成が保持される限り、第一世代のみならず、すべてのさらなる世代である。子孫は典型的には、寄託されている種子からの植物においてみられるように、受精に依存せずに果実を発達させる能力を有する植物である祖先を有する。祖先は、該植物の直前の世代のみならず、それ以前の複数の世代も包含する意図である。より具体的には、祖先は、寄託されている種子からの植物またはそれに派生するさらなる世代である。
【0030】
発明の詳細な説明
トマトにおける果実の形成は、多くの遺伝子が関与する強力に制御される発達プロセスである。果実発達を開始させる主な引き金は受精である。受精は、その空間的および時間的活性によって子房の成長をもたらし、最終的に収穫可能な(harvestable)果実を導くシグナルを生成する。受精に関連するプロセスによって通常取り払われる障壁が、受精が起こる前の果実成長の制限において特定の役割を有する遺伝子における遺伝子損傷によっても取り除かれうるのかが疑問視されていた。ほとんどの研究は今まで、ホルモン恒常性およびシグナル伝達に関与する遺伝因子に干渉するものであった。植物ホルモンは多数の発達機能に関与するため、多面作用(pleiotropy)の危険は顕著なものであるようである。
【0031】
果実形成に関与する遺伝子のほとんどは現在未知である。本発明を導いた研究において、それゆえ、無作為な遺伝子改変(genetic modification)をトマト適用する偏りのないアプローチを採用することにした。かかる偏りのないアプローチは、効率的な表現型選抜手順と組み合わされた化学的または物理的ランダム変異導入法手順を含む。かかる選抜手順は、単為結実のための可能性がモニターされ得、それを介して多面発現効果を示さずに受精非依存果実形成を獲得した突然変異体が同定されうるような条件下で植物を成長させることによって達成される。かかるスクリーニングアプローチの明白な利点は、形質の質が直接的にモニターされうること、即ち、無性生殖発達ならびにサイズ、形状、ゼリー形成および成熟に関する種なし果実の正常の成長が明白に判断されうることである。
【0032】
それゆえ、採用したアプローチは以下の工程を含む:
1.種子または植物組織の突然変異誘発物質、例えば、エタンスルホン酸メチル (ems)による処理による突然変異体集団の作成。
2.選抜が、授粉およびそして受精を完全に阻止する雄しべを取り去った(emasculated)花の果実形成に基づく、効率的な表現型スクリーニングの設定。果実は種なしであり、それらのサイズ、形状、ゼリー形成および成熟に関して、非処理の準同質遺伝子(near isogenic)対照植物に匹敵する。
3.単為結実、サイズ、形状、ゼリー形成および成熟ならびに多面発現効果の非存在に関する選抜された突然変異体の特徴決定。
【0033】
遺伝的変異性を作り出すために、誘発突然変異を利用することができる。いくつかの化学物質または物理的処理が、トマトなどの植物種における遺伝子突然変異を誘発するために利用できることが当業者に知られている。例えば、様々な濃度のems等の突然変異誘発物質を含む溶液中でトマトの種子を処理するとよい。Emsは主にDNA 鎖のG 残基をアルキル化し、それはDNA 複製の際にCではなくTとの対合をもたらす。それゆえ、ems の有効量および植物のミスマッチ修復システムの活性によって決定される頻度にてGC 塩基対がAT 塩基対へと変化する。emsの有効量は、使用される濃度、種子のサイズおよびその他の物理的特性およびems溶液中での種子のインキュベーション時間に依存する。
【0034】
emsによって処理された種子は典型的にはM1 種子と称される。処理の結果として、M1 種子の組織はその細胞のゲノム中にランダムな点突然変異を含み、生殖系列組織を形成する細胞(胚芽細胞)の亜集団に存在するものは、M2と称される次世代へと運ばれる。ハプロ不全(haplo-insufficient)であるため不稔をもたらすか、胚の致死性を誘発する突然変異またはその組合せは、M2 世代へと運ばれない。ems の使用について先に記載したものと類似の手順がその他の突然変異誘発物質に同様に適用される。M2 集団は、黄化した苗の三相反応を低減することを目的としたスクリーニング手順において利用できる。遺伝的変異を担持するトマト植物のあらゆる集団が、かかる表現型スクリーニングのための出発材料として用いることができることが当業者に明らかである。
【0035】
突然変異したトマト植物の雄しべを取り去られた花の応答を調べるために、正常の温室を使用し、そこで7000の突然変異した植物を、栄養、剪定および有害生物管理に関して実際の条件を用いて育て、栽培した。最初の二つの穂状花(truss)の正常の着果(fruit set)が起こった後、次の穂状花の花はすべて雄しべを取り去った。雄しべを取り去った花の果実の成長を定期的にモニターした。果実形成が起こった場合においては、種子の非存在ならびにそれらのサイズ、形状、ゼリー形成および成熟について果実をチェックする。
【0036】
多面発現効果を示さずに受精非依存果実形成を示す突然変異体が低頻度において同定されうることが驚くべきことに判明した。さらに、果実は種なしであって、サイズ、形状、ゼリー形成および成熟に関して受精した対照果実に匹敵するものである。このようにして同定された単為結実突然変異体が自家受精すると、正常の種子のある果実が得られた。それゆえ、この方法によって同定される単為結実形質は条件的である。
【0037】
同定された突然変異体の単為結実形質の遺伝特性を確認するために、収穫した M3 種子を最初のスクリーニングのために用いたものと類似の条件下で成育させた。元々同定されていた単為結実突然変異体は再び、サイズ、形状、ゼリー形成および成熟に関して受精した対照果実に匹敵する種なし果実を示した。これは、本発明によって記載されるアプローチによって同定された単為結実突然変異体の遺伝特性を確認する。
【0038】
同定された単為結実突然変異体は同等のものであったが、観察された主要ではない相違は、元の集団におけるこの形質に影響を与える異なる突然変異体遺伝子座または同一の遺伝子座の異なる対立形質の存在のいずれかを反映しうる。
【0039】
劣性突然変異の場合、これら2つの可能性は、ホモ接合性であるべきまたはホモ接合性にされるべき2つの突然変異体事象(event)を交配することおよび異種交配種(hybrid)の表現型を決定することを含む対立性アッセイを実施することによって容易に識別することができる。突然変異の対立性(allelism)である場合、単為結実果実発達はF1において明らかとなるが、突然変異体の表現型が、異なる劣性遺伝子座によって決定される場合、これはあてはまらない。優性突然変異を有する1つの事象と劣性突然変異を有する1つの事象である場合、これら2つの間のF1は単為結実形質を示すが、F2において形質が分離する場合、それは突然変異が対立遺伝子性(allelic)ではないことを示す。2つの事象の突然変異が優性である場合、F1は単為結実形質を示し、それらが対立遺伝子性ではない場合、F2において形質は分離するが、突然変異の対立性が存在する場合、すべてのF2はその形質を発現するであろう。
【0040】
出発集団を作成するためにランダム変異導入法を適用したため、遺伝的背景における突然変異もまた、実験条件下での植物表現型の変化に寄与している可能性がある。異なる強さの単一突然変異と遺伝的背景における突然変異の組み合わさった効果とを識別するために、戻し交配を行って、異なる単為結実事象について均一な遺伝的背景を作成する。かかる手順はさらに、単為結実に関与する特定の遺伝子座における突然変異が多面発現効果を示すかどうかを判定するためにも関連する。
【0041】
一つの態様において、本発明の植物によって作られた単為結実果実は、受精の後に形成された果実と比較して少なくとも 80% 種なしである。
【0042】
一つの態様において、本発明の植物によって作られた単為結実果実は、受精の後に形成された果実と比較して少なくとも 90% 種なしである。
【0043】
一つの態様において、本発明の植物によって作られた単為結実果実は、受精の後に形成された果実と比較して少なくとも 95% 種なしである。
【0044】
一つの態様において、本発明の植物によって作られた単為結実果実は、受精の後に形成された果実と比較して少なくとも 99% 種なしである。
【0045】
一つの態様において、本発明の植物によって作られた単為結実果実は、受精の後に形成された果実と比較して100% 種なしである。
【0046】
一つの態様において、本発明は、受精非依存または単為結実果実形成の形質を示すトマト植物に関し、ここで、該形質は、表1に列挙される受託番号のいずれかの下でNCIMBに寄託された種子から成育させた植物からの遺伝子移入(introgression)によって得られうるものである。
【0047】
一つの態様において、本発明は、受精非依存または単為結実果実形成の形質を示すトマト植物に関し、ここで、該形質は、表1に列挙される受託番号のいずれかの下で NCIMBに寄託された種子から成育させた植物から遺伝子移入される(introgressed)。
【0048】
本明細書において用いる場合、「遺伝子移入」は、形質の、その形質を担持しない植物への、交配、戻し交配および選抜による導入を意味する意図である。
【0049】
1以上の選抜基準が明白に規定される場合、当業者であれば、あらゆるさらなる世代においてその形質を担持する子孫を同定することができるであろうということに注意すべきである。本発明の形質について、単為結実果実形成の形質を担持しない植物とその代表種子(representative seed)が表1に列挙される受託番号のいずれかの下で寄託された植物においてみられるように単為結実果実形成の形質を担持する植物との交配からの子孫は、元の交配により得られた種子からのF2 植物を成長させる工程および自家受粉させる (selfing)工程、そのようにして得られた植物の授粉を阻止する工程および果実を生産する植物を単為結実果実形成を示す植物として選抜する工程によって同定することができる。
【0050】
一つの態様において、本発明は、受精非依存果実形成の形質を含むトマト植物に関し、その植物は以下によって得られうる:
a)その代表種子が NCIMBに受託番号 NCIMB 41626、NCIMB 41627、NCIMB 41628、NCIMB 41629、NCIMB 41630 またはNCIMB 41631の下で寄託された植物と、該形質を示さない植物とを交配してF1 集団を得る工程;
b) F1 集団からの植物を自家受粉させて F2 集団を得る工程;
c) F2 植物の授粉を阻止し、果実形成が起こるのを可能にする工程;および、
d)果実を生産する植物を受精非依存果実形成を示す植物として選抜する工程。
【0051】
授粉は様々な方法で阻止することができる。第一に、花の雄しべを取り去る(emasculated)ことができる。
【0052】
代替として、上記方法の工程 a) において使用される単為結実形質を担持する植物は雄性不稔であってもよく雄性不稔にされてもよく、特に、遺伝子的に雄性不稔 (GMS) であってもよく遺伝子的に雄性不稔 (GMS) にされてもよく、あるいは、細胞質性雄性不稔 (CMS) であってもよく細胞質性雄性不稔 (CMS)にされてもよい。かかる GMS 植物は寄託された種子から直接成育された植物ではないが、寄託された種子から成育された植物においてみられるように単為結実形質を担持する。上記方法の工程 c)における授粉がしたがって、雄性不稔についてホモ接合性である工程 a)におけるトマト植物の使用および授粉を阻止する手段としてのF2における雄性不稔植物の選抜により阻止される。
【0053】
本発明の形質、即ち、受精非依存果実形成の原因である、単為結実果実形成を示す植物のゲノムにおける遺伝情報の存在は、以下の試験により判定することができる。試験すべき植物は、受精非依存果実形成の原因である遺伝情報についてホモ接合性であるかホモ接合性にされるべきである。当業者であれば、試験すべき形質についてホモ接合性である植物を得る方法を知っている。
【0054】
この植物は次いで、ホモ接合性条件において本発明の形質の原因である遺伝情報を担持する試験(tester)植物と交配される。試験すべき植物が受精非依存果実形成を本発明の形質の原因である同じ遺伝情報の結果として有する場合、最初の交配および後続世代のすべての子孫植物は当該形質を発現するであろう。試験すべき植物の受精非依存果実形成が、ゲノムの異なる部分、例えば別の遺伝子または遺伝子座の結果である場合、第一の交配および/または後続世代のいずれかにおいて分離が起こるであろう。試験植物は、ホモ接合性条件において本発明の遺伝情報を担持しているいずれの植物であってもよく、例えば、寄託された種子から直接成育させた植物または当該形質を保持しているその子孫が挙げられる。
【0055】
本発明の一つの態様において、その果実が受精非依存果実形成を示し、したがって、表1に列挙する受託番号のいずれかの下でNCIMBに寄託された種子から成育され、本発明の単為結実形質を含む試験植物、または、その代表種子が表1に列挙される受託番号のいずれかの下で NCIMBに寄託されたトマト植物に含まれる単為結実形質を含むその子孫植物またはそれらに由来し、単為結実形質を含む植物と交配された場合、該交配の第一世代子孫 (F1)の植物が単為結実形質について1:0 分離を示す、トマト植物が提供される。試験植物 および本発明の植物の両方において、単為結実形質はホモ接合性条件において存在する。自家受粉させることによって得られた場合、第二およびさらなる世代の植物もまた、受精非依存果実形成について1:0 分離を示す。
【0056】
本発明の受精非依存果実形成は、トマト植物のゲノムにおいて遺伝的基盤を有する。試験植物との上記交配により、植物は 本発明の植物であると同定されうる。試験植物は、その代表種子がNCIMBに受託番号 NCIMB 41626、NCIMB 41627、NCIMB 41628、NCIMB 41629、NCIMB 41630またはNCIMB 4163の下で寄託されたいずれの植物であってもよい。寄託物のいずれかに含まれるように単為結実形質の原因である遺伝情報が植物において存在する場合、当該植物は本発明の植物である。
【0057】
本発明によるトマト植物は、とりわけ以下の果実タイプをつけることができる: ビーフ(beef)、チェリー(cherry)、カクテル(cocktail)、中間型(intermediate)、プラム(plum)、丸(round)など。
【0058】
本発明はさらに、本発明のトマト植物の種子およびその他の有性生殖に好適な植物の部分、即ち、繁殖材料(propagation material)に関する。かかる部分は例えば、小胞子、花粉、子房、胚珠、胚嚢および卵細胞からなる群から選択される。さらに、本発明は、栄養生殖に好適な植物の部分、特に、 切り取った部分(cutting)、根、茎、細胞、プロトプラスト等に関する。
【0059】
そのさらなる側面によると、本発明は、本発明のトマト植物の組織培養物(tissue culture)を提供する。組織培養物は再生可能な(regenerable)細胞を含む。かかる組織培養物は、葉、花粉、胚、子葉、胚軸、分裂組織細胞、根、根端、葯、花、種子および茎に由来しうる。
【0060】
本発明はまた、本発明のトマト植物の子孫にも関する。かかる子孫は、本発明の植物またはその子孫植物の有性または栄養生殖によって作ることができる。再生した子孫植物は、その代表種子が寄託された(表1) 植物のいずれかと同一または類似の様式で受精に依存せずに果実をつける。これは、かかる子孫が、本発明のトマト植物について請求項に記載したものと同一の特徴を有することを意味する。これに加えて、植物は、1以上のその他の特徴において改変されていてもよい。かかるさらなる改変は、例えば、突然変異誘発または導入遺伝子による形質転換により行われる。
【0061】
本明細書において用いる場合、「子孫(progeny)」という語は、受精非依存果実形成を示す本発明の植物との交配からの子孫(offspring)または第一およびすべてのさらなる子孫(descendant)を意味する意図である。本発明の子孫は、受精非依存果実形成を導く形質を担持する本発明の植物とのあらゆる交配の子孫である。
【0062】
「子孫」はまた、無性生殖繁殖または増殖(multiplication)によって本発明の他の植物から得られる本発明の形質を担持する植物も包含する。
【0063】
本発明は、さらに、雑種種子(hybrid seed)および第一の親植物と第二の親植物とを交配することおよびその結果得られた雑種種子を収穫することを含む雑種種子の生産方法に関する。形質が劣性である場合、雑種種子が本発明の形質を担持するためには、両方の親植物は、受精非依存果実形成の形質についてホモ接合性である必要がある。それらはその他の形質については必ずしも均一である必要はない。
【0064】
本発明の形質を提供する親は必ずしも寄託された種子から直接成育させた植物である必要はないことは明白である。親はまた、該種子からの子孫植物であってもよいし、あるいは本発明の形質をその他の手段によって有するまたは獲得したことが同定される種子からの子孫植物であってもよい。
【0065】
一つの態様において、本発明は、本発明の形質を担持し、常套的な育種、または遺伝子改変、特に、シス発生(cisgenesis)あるいはトランス発生(transgenesis)のいずれかによって好適な源からの形質の原因である遺伝情報の導入により該形質を獲得したトマト植物に関する。シス発生は、作物植物自体または生殖的に適合性の(sexually compatible)ドナー植物からの(農業) 形質をコードする天然の遺伝子による植物の遺伝子改変である。トランス発生は、非交配可能種からの遺伝子または合成遺伝子による植物の遺伝子改変である。
【0066】
一つの態様において、遺伝情報が獲得される源は、寄託された種子から成育された植物またはそれからの有性または無性生殖子孫によって形成される。
【0067】
本発明はまた、本発明の植物の生殖質にも関する。生殖質は、生物のすべての遺伝的特徴によって構成され、本発明によると、少なくとも本発明の受精非依存果実形成の形質を包含する。
【0068】
本発明はさらに、受精非依存果実形成の形質を示すトマト植物の細胞に関する。かかるトマト植物の各細胞は、該形質の表現型発現を導く遺伝情報を担持する。細胞は個々の細胞であってもよいし、トマト植物またはトマト植物部分、例えば、トマト果実の部分であってもよい。
【0069】
本発明はまた、本発明の植物によって生産される単為結実トマト果実にも関する。さらに、本発明は、トマト果実の部分およびトマト果実から生産された加工製品、例えば、 ペースト、ジュース、スープ、ソース等にも関する。
【0070】
本明細書において、「単為結実」、「単為結実果実形成」および「受精非依存果実形成」という用語は互換的に用いられる。それらはすべて、なんらかの方法、特に、雄しべを取り去ること(emasculation)または植物が雄性不稔であるために、受精が阻止された場合に果実が形成されることを意味し、ここで雄性不稔は、遺伝子的、細胞質性または化学的のいずれかである。
【0071】
本発明をさらに以下の実施例において説明する。実施例は決して本発明を限定する意図のものではない。実施例において以下の図に対して言及がなされる:
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図 1: 対照と比較した、単為結実トマト突然変異体の果実の表現型。 パネル Aは、陰性対照植物の授粉した (左) および雄しべを取り去った (右) 花から成長した果実を示す。雄しべの除去(emasculation)は、授粉した果実に起因する果実と比較して、果実成長の強い低減を導く。パネル Bは、授粉した (左)または雄しべを取り去った(右)場合の単為結実突然変異体 3475の果実を示す。突然変異体は種なし果実の形成を示す(詳細は以下参照)。
【図2】図2-11:単為結実突然変異体M4 1667-09R.452400 (NCIMB 41626)、M4 2019-09R.452500 (NCIMB 41627)、M4 3475-09R.452800 (NCIMB 41628)、M4 5364-09R.453200 (NCIMB 41629)、M4 5879-09R.453500 (NCIMB 41630)および M4 6162-09R.453700 (NCIMB 41631)の果実の比較。左側パネルは雄しべを取り去った花からの果実を示し、右側パネルは受精した花からの果実を示す。
【図3】図2-11:単為結実突然変異体M4 1667-09R.452400 (NCIMB 41626)、M4 2019-09R.452500 (NCIMB 41627)、M4 3475-09R.452800 (NCIMB 41628)、M4 5364-09R.453200 (NCIMB 41629)、M4 5879-09R.453500 (NCIMB 41630)および M4 6162-09R.453700 (NCIMB 41631)の果実の比較。左側パネルは雄しべを取り去った花からの果実を示し、右側パネルは受精した花からの果実を示す。
【図4】図2-11:単為結実突然変異体M4 1667-09R.452400 (NCIMB 41626)、M4 2019-09R.452500 (NCIMB 41627)、M4 3475-09R.452800 (NCIMB 41628)、M4 5364-09R.453200 (NCIMB 41629)、M4 5879-09R.453500 (NCIMB 41630)および M4 6162-09R.453700 (NCIMB 41631)の果実の比較。左側パネルは雄しべを取り去った花からの果実を示し、右側パネルは受精した花からの果実を示す。
【図5】図2-11:単為結実突然変異体M4 1667-09R.452400 (NCIMB 41626)、M4 2019-09R.452500 (NCIMB 41627)、M4 3475-09R.452800 (NCIMB 41628)、M4 5364-09R.453200 (NCIMB 41629)、M4 5879-09R.453500 (NCIMB 41630)および M4 6162-09R.453700 (NCIMB 41631)の果実の比較。左側パネルは雄しべを取り去った花からの果実を示し、右側パネルは受精した花からの果実を示す。
【図6】図2-11:単為結実突然変異体M4 1667-09R.452400 (NCIMB 41626)、M4 2019-09R.452500 (NCIMB 41627)、M4 3475-09R.452800 (NCIMB 41628)、M4 5364-09R.453200 (NCIMB 41629)、M4 5879-09R.453500 (NCIMB 41630)および M4 6162-09R.453700 (NCIMB 41631)の果実の比較。左側パネルは雄しべを取り去った花からの果実を示し、右側パネルは受精した花からの果実を示す。
【図7】図2-11:単為結実突然変異体M4 1667-09R.452400 (NCIMB 41626)、M4 2019-09R.452500 (NCIMB 41627)、M4 3475-09R.452800 (NCIMB 41628)、M4 5364-09R.453200 (NCIMB 41629)、M4 5879-09R.453500 (NCIMB 41630)および M4 6162-09R.453700 (NCIMB 41631)の果実の比較。左側パネルは雄しべを取り去った花からの果実を示し、右側パネルは受精した花からの果実を示す。
【図8】図2-11:単為結実突然変異体M4 1667-09R.452400 (NCIMB 41626)、M4 2019-09R.452500 (NCIMB 41627)、M4 3475-09R.452800 (NCIMB 41628)、M4 5364-09R.453200 (NCIMB 41629)、M4 5879-09R.453500 (NCIMB 41630)および M4 6162-09R.453700 (NCIMB 41631)の果実の比較。左側パネルは雄しべを取り去った花からの果実を示し、右側パネルは受精した花からの果実を示す。
【図9】図2-11:単為結実突然変異体M4 1667-09R.452400 (NCIMB 41626)、M4 2019-09R.452500 (NCIMB 41627)、M4 3475-09R.452800 (NCIMB 41628)、M4 5364-09R.453200 (NCIMB 41629)、M4 5879-09R.453500 (NCIMB 41630)および M4 6162-09R.453700 (NCIMB 41631)の果実の比較。左側パネルは雄しべを取り去った花からの果実を示し、右側パネルは受精した花からの果実を示す。
【図10】図2-11:単為結実突然変異体M4 1667-09R.452400 (NCIMB 41626)、M4 2019-09R.452500 (NCIMB 41627)、M4 3475-09R.452800 (NCIMB 41628)、M4 5364-09R.453200 (NCIMB 41629)、M4 5879-09R.453500 (NCIMB 41630)および M4 6162-09R.453700 (NCIMB 41631)の果実の比較。左側パネルは雄しべを取り去った花からの果実を示し、右側パネルは受精した花からの果実を示す。
【図11】図2-11:単為結実突然変異体M4 1667-09R.452400 (NCIMB 41626)、M4 2019-09R.452500 (NCIMB 41627)、M4 3475-09R.452800 (NCIMB 41628)、M4 5364-09R.453200 (NCIMB 41629)、M4 5879-09R.453500 (NCIMB 41630)および M4 6162-09R.453700 (NCIMB 41631)の果実の比較。左側パネルは雄しべを取り去った花からの果実を示し、右側パネルは受精した花からの果実を示す。
【実施例】
【0073】
実施例 1
トマトのメタンスルホン酸エチル (ems)による遺伝子改変
トマト育種系統 TR306の種子を、およそ 10.000個の種子の0.5% (w/v) emsの通気した溶液への24 時間室温での浸漬によりemsで処理した。
【0074】
処理した種子を発芽させ、結果として得られた植物を温室で成育させてM2 種子を作らせた。
【0075】
成熟した後、M2 種子を収穫し、1つのプールにまとめた(bulked)。結果として得られたM2 種子のプールを出発原料として用い、受精非依存果実形成を含む個々の M2 植物を同定した。
【0076】
遺伝子改変手順の有効性を白化現象を起こした植物の出現を判定することにより評価した。ここで白化現象は、クロロフィルの形成または蓄積に直接的または間接的に関与する遺伝子における改変に起因するクロロフィル損失の指標である。
【0077】
実施例 2
受精非依存果実形成の形質を得たトマト植物の同定
M2 トマト 種子を土壌中で発芽させ、小植物体にまで成育させた。次いで、およそ 7000個のランダムに選択した植物を温室に移し、そこで植物は一般的なトマト栽培慣行にしたがって育てられた。各植物の最初の2つの穂状花が果実を着果させた後、第三の穂状花のすべての花を、授粉を阻止するために手作業によって雄しべを取り去った。植物を定期的にモニターすることにより、どの突然変異体が受精非依存果実形成を示すかを判定した。第一の基準は、授粉および受精の結果として同じ植物上で成長した正常の種子のある果実と類似のサイズの果実の形成であった。第二の基準として、種子を含まず、通常のようにゼリーで満たされた果実を選択した。これらの基準に基づき、3475、5364および5879と番号付けした3つの単為結実突然変異体を、このスクリーニングにおいてモニターした7000の植物のなかで最良の事象(event)として選択した。選択した単為結実突然変異体の果実を図 1に示す。
【0078】
実施例 3
子孫における受精非依存果実形成の確認
M3 種子を、1667、2019、3475、5364、5879および6162と番号付けした選択した単為結実突然変異体の自家授粉によって生産させた。M3 集団当たり合計7または12の植物を、一般的なトマト栽培慣行にしたがって温室中で成育させた。陰性対照として、単為結実果実形成を示さなかったM2 植物の子孫をこの実験に含めた(図 2)。各植物について、第三の穂状花の花から手作業により雄しべを取り去り、果実形成をモニターした。突然変異体1667 (図 3)、2019 (図 4)、3475 (図 5)、5364 (図 7)、5879 (図 9) および6162 (図 11)に由来するM3 集団の各植物について、雄しべを取り去った穂状花が単為結実果実形成を示したこと、即ち、果実が正常のサイズを示し、種子を含まず、通常のようにゼリーで満たされており、正常の成熟を示したことが観察された。これは、本発明により与えられる方法によって同定される単為結実形質が遺伝的基盤を有することを示す。
【0079】
3475、5364 および 5879 のM2 植物も切り取った部分(cutting)を介して繁殖させた。これらの植物は、対応するM3 植物のものと同じ果実特徴を示す果実を生じた(それぞれ、図6、8 および 10)。
【0080】
実施例 4
F1 および F2 世代の生産
本発明の受精非依存果実形成の形質がその他のトマトタイプにも同様に導入することができることを示すために、交配を様々なその他のトマト系統と行った。結果として得られたF1 および/または F2 子孫は、同じ植物の受精した花から成育した果実と比較して外観および特徴において類似した雄しべを取り去った花からの果実を生じた。
【図1A】
【図1B】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受精非依存果実形成の形質を含むトマト植物であって、該形質が、その代表種子が受託番号 NCIMB 41626、NCIMB 41627、NCIMB 41628、NCIMB 41629、NCIMB 41630またはNCIMB 41631の下でNCIMBに寄託されている植物からの遺伝子移入によって得られうるものである、トマト植物。
【請求項2】
請求項 1の受精非依存果実形成の形質を含むトマト植物であって、該形質が、その代表種子が受託番号 NCIMB 41626、NCIMB 41627、NCIMB 41628、NCIMB 41629、NCIMB 41630またはNCIMB 41631の下でNCIMBに寄託されている植物から遺伝子移入されている、トマト植物。
【請求項3】
以下によって得られうる請求項 1または2の受精非依存果実形成の形質を含むトマト植物:
a)その代表種子が受託番号 NCIMB 41626、NCIMB 41627、NCIMB 41628、NCIMB 41629、NCIMB 41630またはNCIMB 41631の下でNCIMBに寄託されている植物と、該形質を示さない植物とを交配することによりF1 集団を得る工程;
b) F1 集団からの植物を自家受粉させることによりF2 集団を得る工程;
c) F2 植物の授粉を阻止し、果実形成が起こることを可能とする工程;および、
d)果実を生産する植物を受精非依存果実形成を示す植物として選抜する工程。
【請求項4】
花の雄しべを取り去ることによって授粉が阻止される、請求項 3のトマト植物。
【請求項5】
形成される果実が実質的に負の多面発現効果を示さない請求項1-4のいずれかのトマト植物。
【請求項6】
負の多面発現効果が、中に隙間がある果実、奇形の果実および変化した葉の形態から選択される請求項 5のトマト植物。
【請求項7】
受精に依存せずに形成される果実が以下の特徴の1以上を有する請求項1-6のいずれかのトマト植物:
a)受精の後に形成された果実のサイズと実質的に類似のサイズ;
b) 果実におけるゼリーの存在および種子の少なくともほとんど完全な非存在;
c)受精の後に形成されたトマト果実に匹敵する着色および熟成過程。
【請求項8】
トマト植物が、異種交配種、倍加半数体、または同系交配種である、請求項1-7のいずれかのトマト植物。
【請求項9】
請求項1-8のいずれかの植物のトマト果実。
【請求項10】
果実が、少なくとも 90% 種なし、好ましくは 少なくとも 95% 種なし、より好ましくは 少なくとも 98% 種なし、さらにより好ましくは 少なくとも 99% 種なし、もっとも好ましくは 100% 種なしである、請求項 9のトマト果実。
【請求項11】
果実が以下の特徴の1以上を有する請求項 9のトマト果実:
a)受精の後に形成された果実のサイズと実質的に類似のサイズ;
b)果実におけるゼリーの存在および種子の少なくともほとんど完全な非存在;
c)受精の後に形成されたトマト果実に匹敵する着色および熟成過程。
【請求項12】
請求項1-8のいずれかの植物の生産のために好適な繁殖材料であって、該繁殖材料が、種子、有性生殖に好適な植物の部分、特に、小胞子、花粉、子房、胚珠、胚嚢および卵細胞、栄養生殖に好適な植物の部分、特に、切り取った部分、根、茎、細胞およびプロトプラスト、再生可能な細胞の組織培養物、組織培養物の調製に好適な植物の部分、特に、葉、花粉、胚、子葉、胚軸、分裂組織細胞、根、根端、葯、花、種子および茎から選択され、該繁殖材料から生産される植物が受精非依存果実形成の形質を含む繁殖材料。
【請求項13】
請求項1-8のいずれかのトマト植物の果実または請求項9-11のいずれかの果実、またはその部分を含む、食品。
【請求項14】
請求項1-8のいずれかのトマト植物の果実または請求項9-11のいずれかの果実を加工された形態において含む請求項 13の食品。
【請求項1】
受精非依存果実形成の形質を含むトマト植物であって、該形質が、その代表種子が受託番号 NCIMB 41626、NCIMB 41627、NCIMB 41628、NCIMB 41629、NCIMB 41630またはNCIMB 41631の下でNCIMBに寄託されている植物からの遺伝子移入によって得られうるものである、トマト植物。
【請求項2】
請求項 1の受精非依存果実形成の形質を含むトマト植物であって、該形質が、その代表種子が受託番号 NCIMB 41626、NCIMB 41627、NCIMB 41628、NCIMB 41629、NCIMB 41630またはNCIMB 41631の下でNCIMBに寄託されている植物から遺伝子移入されている、トマト植物。
【請求項3】
以下によって得られうる請求項 1または2の受精非依存果実形成の形質を含むトマト植物:
a)その代表種子が受託番号 NCIMB 41626、NCIMB 41627、NCIMB 41628、NCIMB 41629、NCIMB 41630またはNCIMB 41631の下でNCIMBに寄託されている植物と、該形質を示さない植物とを交配することによりF1 集団を得る工程;
b) F1 集団からの植物を自家受粉させることによりF2 集団を得る工程;
c) F2 植物の授粉を阻止し、果実形成が起こることを可能とする工程;および、
d)果実を生産する植物を受精非依存果実形成を示す植物として選抜する工程。
【請求項4】
花の雄しべを取り去ることによって授粉が阻止される、請求項 3のトマト植物。
【請求項5】
形成される果実が実質的に負の多面発現効果を示さない請求項1-4のいずれかのトマト植物。
【請求項6】
負の多面発現効果が、中に隙間がある果実、奇形の果実および変化した葉の形態から選択される請求項 5のトマト植物。
【請求項7】
受精に依存せずに形成される果実が以下の特徴の1以上を有する請求項1-6のいずれかのトマト植物:
a)受精の後に形成された果実のサイズと実質的に類似のサイズ;
b) 果実におけるゼリーの存在および種子の少なくともほとんど完全な非存在;
c)受精の後に形成されたトマト果実に匹敵する着色および熟成過程。
【請求項8】
トマト植物が、異種交配種、倍加半数体、または同系交配種である、請求項1-7のいずれかのトマト植物。
【請求項9】
請求項1-8のいずれかの植物のトマト果実。
【請求項10】
果実が、少なくとも 90% 種なし、好ましくは 少なくとも 95% 種なし、より好ましくは 少なくとも 98% 種なし、さらにより好ましくは 少なくとも 99% 種なし、もっとも好ましくは 100% 種なしである、請求項 9のトマト果実。
【請求項11】
果実が以下の特徴の1以上を有する請求項 9のトマト果実:
a)受精の後に形成された果実のサイズと実質的に類似のサイズ;
b)果実におけるゼリーの存在および種子の少なくともほとんど完全な非存在;
c)受精の後に形成されたトマト果実に匹敵する着色および熟成過程。
【請求項12】
請求項1-8のいずれかの植物の生産のために好適な繁殖材料であって、該繁殖材料が、種子、有性生殖に好適な植物の部分、特に、小胞子、花粉、子房、胚珠、胚嚢および卵細胞、栄養生殖に好適な植物の部分、特に、切り取った部分、根、茎、細胞およびプロトプラスト、再生可能な細胞の組織培養物、組織培養物の調製に好適な植物の部分、特に、葉、花粉、胚、子葉、胚軸、分裂組織細胞、根、根端、葯、花、種子および茎から選択され、該繁殖材料から生産される植物が受精非依存果実形成の形質を含む繁殖材料。
【請求項13】
請求項1-8のいずれかのトマト植物の果実または請求項9-11のいずれかの果実、またはその部分を含む、食品。
【請求項14】
請求項1-8のいずれかのトマト植物の果実または請求項9-11のいずれかの果実を加工された形態において含む請求項 13の食品。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2012−530503(P2012−530503A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516686(P2012−516686)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058741
【国際公開番号】WO2010/149628
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(500502222)ライク・ズワーン・ザードテールト・アン・ザードハンデル・ベスローテン・フェンノートシャップ (19)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058741
【国際公開番号】WO2010/149628
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(500502222)ライク・ズワーン・ザードテールト・アン・ザードハンデル・ベスローテン・フェンノートシャップ (19)
【Fターム(参考)】
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