説明

トマトのショ糖(スクロース)合成酵素遺伝子のプロモーターを使用したキクの雄ずい特異的発現システム

【課題】キク科植物において雄ずい特異的に遺伝子発現をさせるための組成物を提供する。
【解決手段】トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)の5’非翻訳領域とイントロンを含む領域約3.4kbpの配列(TOMSSF)またはその改変体のうち必要領域を含む、キク(Chrysanthemum×morifolium)などのキク科植物において雄ずい特異的に遺伝子発現をさせるための組成物。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
キクは世界で最も生産されている花きの一つで、日本では最も生産量が多い。キクの遺伝子組換え体を生産する場合には、野生種への遺伝子汚染が起こらないように雄性不稔にする必要がある。キクの雄蘂(ずい)に特異的な発現を制御する遺伝子(プロモーター)があれば遺伝子組換え技術を用いて雄性不稔にすることが可能である。また、このプロモーターの利用は雄ずいを別の器官に置き換えることに利用でき、新しい花型を作出することも可能である。
【0002】
特許文献1は、Coixプロモーターと称するプロモーターを開示しており、このプロモーターが「スクロースシンテターゼ」遺伝子(例えば請求項7、17)に由来するものでもよいことおよび組織特異的でありうること(例えば0189段落)を記載しており、雄性不稔植物を生産することも記載している。
【0003】
特許文献2は、キク科植物(例えば請求項61等)などに遺伝子汚染が起こらないよう種子特異的プロモーター等組織プロモーターを用いる(例えば、請求項19、33等)ことを記載している。
【0004】
非特許文献1は、トマトのショ糖合成酵素遺伝子のプロモーターが果実や種子で発現が高いことを記載している。
【0005】
非特許文献2は、ポテトショ糖合成酵素遺伝子のプロモーターを記載しており、このプロモーターが組織特異的に発現し得ることを記載している。
【0006】
非特許文献3は、ワタショ糖合成酵素遺伝子のプロモーターを記載しており、これをシロイヌナズナ等で発現パターンを調査したところ、シンク組織で特異的な発現が見られることを記載している。
【0007】
非特許文献4は、トマトおよびニホンナシのショ糖合成酵素遺伝子のプロモーターが果実で発現特異的であり、発育初期〜中期の果実において活性が高いことを記載している。
【0008】
非特許文献5は、トマトおよびニホンナシのショ糖合成酵素遺伝子のプロモーターが果実で発現が高いことを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2002−533057号公報
【特許文献2】特表2002−533089号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】OHYAMA A., et al., JARQ 44(1), 17−23 (2010)
【非特許文献2】Fu H. et al., The Plant Cell, Vol. 7, 1395−1403, (1995)
【非特許文献3】Ruan M−B., et al., Plant Science 176, 342−351 (2009)
【非特許文献4】大山ら、育種学研究5(別2)、161、(2003)
【非特許文献5】大山ら、育種学研究6(別2)、227、(2004)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、トマトショ糖合成酵素遺伝子のプロモーターに、キク科植物の雄ずい発現特異性を見出したことによって、本発明を完成させた。
【0012】
本発明者らは、トマトのショ糖(スクロース)合成酵素遺伝子(SS)の5’非翻訳領域とイントロンを含む領域約3.4kbpの配列(トマトのショ糖(スクロース)合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸;TOMSSF)を単離した。TOMSSFの下流にβ−グルクロニダーゼ(glucuronidase)(GUS)遺伝子を結合し、バイナリーベクターにクローニングした。このベクターをアグロバクテリウムに遺伝子導入し、キクに感染させることにより形質転換体を作出した。形質転換体11系統中3系統で雄ずいでのGUS遺伝子発現を確認した。トマトではすでにTOMSSFを用いた組換え体に関する論文(非特許文献4−5)が発表されている。しかし、当該論文における形質転換トマトの解析では、TOMSSFの雄ずいにおいて雄性不稔性を達成しうる程度の発現は認められていない。
【0013】
一方、キクには倍数性があり、導入遺伝子のサイレンシングが起きやすいが、TOMSSFは発現量が高く、組織特異性も高いため、雄ずい特異的プロモーターとして有用である。
【0014】
そこで、本発明は、以下を提供する。
(1)トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)またはその改変体のうち必要領域である配列番号1のヌクレオチド1位〜1676位を含む、キク科植物において雄ずい特異的に遺伝子発現をさせるための組成物。
(2)前記TOMSSFは配列番号1に記載の配列またはその改変体を含む、項目1に記載の組成物。
(3)前記組成物は、雄性不稔化のためのものである項目1または2に記載の組成物。
(4)前記キク科植物は、キク(Chrysanthemum × morifolium)である項目1〜3のいずれかに記載の組成物。
(5)前記特異的な遺伝子発現は、雄ずいに対する発現が、他の組織に対する発現の少なくとも約100倍である、項目1〜4のいずれかに記載の組成物。
(6)トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)またはその改変体のうち必要領域である配列番号1のヌクレオチド1位〜1676位を含むベクター。
(7)発現させるべき目的遺伝子をコードする核酸配列をさらに含む項目6に記載のベクター。
(8)キク科植物において雄ずい特異的に遺伝子発現をさせるための項目6または7に記載のベクター。
(9)前記TOMSSFは配列番号1に記載の配列またはその改変体を含む、項目6〜8のいずれかに記載のベクター。
(10)前記ベクターは、雄性不稔化のためのものである項目6〜9のいずれかに記載のベクター。
(11)前記キク科植物は、キク(Chrysanthemum × morifolium)である項目8〜10のいずれかに記載のベクター。
(12)前記特異的な遺伝子発現は、雄ずいに対する発現が、他の組織に対する発現の少なくとも約100倍である、項目6〜11のいずれかに記載のベクター。
(13)トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)を含む組換え細胞。
(14)トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)を含むアグロバクテリウム。
(15)トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)を含む組換え組織。
(16)トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)を含む組換え植物。
【0015】
上記特許文献1および2、非特許文献1〜5では、トマトショ糖合成酵素遺伝子のプロモーターのキク科植物の雄ずいにおける特異的な発現についてはなんら知見がなく、トマトショ糖合成酵素遺伝子のプロモーターのキク等のキク科植物の雄ずい発現制御に関する知見は予測できない。
【0016】
上述のように、先行技術では、非特許文献1、4および5に、トマトショ糖合成酵素遺伝子のプロモーターが記載されているが、キク等のキク科植物での発現パターンは記載されていない。非特許文献1は、このプロモーターが果実や種子で特異的に発現することを記載しているが、トマトの果実は子房由来で子房は雌ずいに含まれるところ、キクでは雌ずいでは発現がほとんど見られず、雄ずいのみ発現が高くなっている。果実と雄ずいでは形態学的にもかなり異なる器官と考えられることから、非特許文献1を参酌しても、キク等のキク科植物での雄ずい特異的発現に関する特徴は合理的に導き出すことができず、少なくとも実際に雄ずいでの発現を実現することは予想外であるといえる。非特許文献2および3は、他のショ糖合成酵素遺伝子のプロモーターに関する記載をしているが、雄ずい特異性に関する記載はない。特許文献1および2には、組織特異的プロモーターを用いた雄性不稔に関する記載があるが、雄ずい特異性のプロモーターを使用することは記載されておらず、ましてやトマト由来のプロモーターに関する記載もない。したがって、この点においても、本発明は、従来技術からキク等のキク科植物での雄ずい特異的発現に関する特徴は合理的に導き出すことができず、少なくとも実際に雄ずいでの発現を実現することは予想外であるといえる。
【発明の効果】
【0017】
キク等のキク科植物において雄ずい特異的な発現を誘導するプロモーターが提供された。したがって、特に、植物バイオ分野において、遺伝子組換えキクを生産・販売する際に雄性不稔化が必要な場合において、初めてそのようなことを可能にするという効果を奏する。また、キクでは難しかったた新しい花型を作出できるツールを提供する。
【0018】
また、これまでキク等のキク科植物での雄ずい特異的プロモーターは無く、他方で、キク科植物に限らず植物において遺伝子組換え植物を生産販売する場合、雄性不稔化技術が要請されるところ、本発明は、雄ずい発現を実現するプロモーターを提供することによりそのような手段を初めて提供することができたという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、GUS染色を示す。AおよびBは野生型を示す。CおよびDは、987−15を示す。EおよびFは、987−17を示す。GUS活性が高い組織は青く染色されている。
【図2】図2は、GUS染色を示す。AおよびBは野生型を示す。CおよびDは、987−15を示す。EおよびFは、987−17を示す。A、CおよびEは筒状花を示す。B、DおよびFは舌状花を示す。GUS活性が高い組織は青く染色されている。Cは、GUS染色後の管状花を示し、その中のaは花管であり、bは雄ずいであり、cは雌ずいである。
【図3】図3は、GUS染色を示す。図3において、AおよびBは野生型を示す。CおよびDは、987−15を示す。AおよびCは葉を示す。BおよびDは茎を示す。
【図4】図4は、各組織でのGUS遺伝子の発現を示す。WTは野生型を示し、987−15は組換え体を示す。左から雄ずい、雌ずい、舌状花の花弁、筒状花の花弁、葉、根を示す。組換え体の雄ずいにおいて他の組織に比べ100倍以上の発現が見られる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当上記分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0021】
(用語の定義)
本明細書において、必要に応じて、以下の略語を用いる。
GUS:β−グルクロニダーゼ
SS:スクロース(ショ糖)合成酵素遺伝子
TOMSSF:トマト果実スクロース(ショ糖)合成酵素のプロモーター含有配列
以下に本明細書において用いられる各用語の意味を説明する。各用語は本明細書中、統一した意味で使用し、単独で用いられる場合も、または他の用語と組み合わされて用いられる場合も、同一の意味で用いられる。
【0022】
本明細書において「雄ずい(雄蕊)」という用語は、当該分野において通常用いられる意味と同義で用いられ、雄性配偶子を産生しかつ葯および花糸を含む花の器官を意味する。
【0023】
本明細書において、「トマトのスクロース(ショ糖)合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)」とは、トマトのスクロース(ショ糖)合成酵素遺伝子(SS)の5’非翻訳領域およびイントロンを含む領域約3.4kbpの配列を含む配列であって、プロモーター配列を含む配列であり、配列番号1またはその改変体に代表され、トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)の5’非翻訳領域とイントロンを含む領域をいう。DDBJ/GenBank/EMBL accession number AB455486またはL19762。TOMSSFの改変体としては、キク科植物あるいはキクの類縁植物において、雄ずい発現制御効果を有する限り当該分野において知られる任意の改変(置換、付加、欠失等)を行なうことができることが理解される。
【0024】
本明細書において「5’非翻訳領域」とは、当該分野において通常用いられる意味と同義で用いられ、構造遺伝子の5’上流の領域をいう。トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)の5’非翻訳領域は、配列番号1のヌクレオチド1位〜3404位(全長)のヌクレオチド1677位〜ヌクレオチド1775位およびヌクレオチド3364位〜ヌクレオチド3404位に該当する。このなかで、本発明において最低限必要と考えられる領域は、配列番号1のヌクレオチド1位〜ヌクレオチド1676位であると考えられるが、それに限定されず、当業者は、本明細書の開示に基づいてそのような最低限必要な領域を決定することができる。好ましくは、配列番号1に記載の配列またはその改変体が使用される。
【0025】
本明細書において「イントロン」とは、当該分野において通常用いられる意味と同義で用いられ、遺伝子DNA内に存在する塩基配列のうち、mRNAに含まれない配列をいう。トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)のイントロンは、配列番号1(全長)のヌクレオチド1677位〜ヌクレオチド3363位に該当する。このなかで、本発明において最低限必要と考えられる領域は、配列番号1(全長)のヌクレオチド1位〜ヌクレオチド1676位であると考えられるが、それに限定されず、当業者は、本明細書の開示に基づいてそのような最低限必要な領域を決定することができる。
【0026】
本明細書において本発明において使用されるプロモーターはまた、トマトのスクロース(ショ糖)合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)に基づき、TOMSSFの5’上流ゲノム領域(あるいは配列)を単離することによって取得できる。
【0027】
本発明において使用されるプロモーター領域を単離する方法としては、特に限定されないが、例えば、インバースPCR、ゲノムDNAライブラリーから単離する方法等を例示することができる。
【0028】
本発明において使用されるプロモーター領域を単離するためにインバースPCRを用いる場合は、トマトのスクロース(ショ糖)合成酵素遺伝子(SS)の塩基配列情報に基づいて一対のプライマーを合成し、これら一対のプライマーと所定の制限酵素で処理した後にセルフライゲーションさせたゲノムDNA断片とを用いてPCRを行うことによって、トマトのスクロース(ショ糖)合成酵素遺伝子(SS)の上流領域を増幅することができる。その後、トマトのスクロース(ショ糖)合成酵素遺伝子(SS)の上流領域をクローニングし塩基配列を決定することによって、トマトのスクロース(ショ糖)合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター領域の単離、及び塩基配列(配列番号1)の決定を行うことができる。
【0029】
また、本発明において使用されるプロモーター領域を単離するためにゲノムDNAライブラリーから単離する場合には、トマトのスクロース(ショ糖)合成酵素遺伝子(SS)を含むcDNAをプローブとして、定法に従って調製したゲノムDNAライブラリーからトマトのスクロース(ショ糖)合成酵素遺伝子(SS)を含むゲノムDNAをスクリーニングする。その後、スクリーニングしたゲノムDNAの塩基配列を決定することによってトマトのスクロース(ショ糖)合成酵素遺伝子(SS)の上流領域に存在するプロモーター領域を特定することができ、さらに、該プロモーター領域のみをPCR等によって増幅してクローニングすることによって単離することができる。
【0030】
いったん本発明のプロモーターの塩基配列が確定されると、その後は化学合成によって、あるいはその塩基配列の一部からなるDNAをプライマーとして合成し、トマトの全DNAを鋳型として用いて、そのプライマーを用いるPCRによって容易に得ることができる。さらに、単離したプロモーター領域(配列番号1等)の一部を用いてプロモーター活性を測定することによって、単離したプロモーター領域(配列番号1等)において、プロモーター活性に寄与している領域を特定することができる。プロモーター領域の一部は、該プロモーター領域の一部をPCRによって増幅する方法、プロモーター領域を所定の制限酵素で処理して断片化する方法等を適宜使用して得ることができる。
【0031】
得られたプロモーター領域の一部は、発現量を定量できる遺伝子の上流に組み込み、該遺伝子の発現量を定量することによってプロモーター活性を測定することができる。すなわち、得られたプロモーター領域の一部及び所定の遺伝子を組み込んでなる組換えベクターを構築し、その組換えベクターを用いて形質転換した細胞における該遺伝子の発現量を定量することによって、得られたプロモーター領域の一部におけるプロモーター活性を測定することができる。
【0032】
本明細書において「特異的」とは、プロモーターについていうとき、ある器官(例えば、種子植物の雄性生殖器官である雄ずい(雄蕊))において、同じ植物体の他の組織または器官の少なくとも1種におけるよりも目的遺伝子を優先的かつ高度に発現させる活性をいう。1例としては、他の器官より多く遺伝子を発現させる能力をいう。好ましくは、雄ずいにのみ遺伝子を検出可能に発現させる能力を含むが、目的に応じて適宜その特異性の程度を選択することができる。
【0033】
本明細書においてヌクレオチドは、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。アミノ酸も同様に、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。
【0034】
本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST 2.2.9(2004.5.12発行)を用いて行うことができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメーターの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。
【0035】
本明細書において、「対応する」核酸配列(例えば、遺伝子)とは、ある種において、比較の基準となる種における所定の核酸配列と同様の作用を有するか、または有することが予測される核酸配列をいい、そのような作用を有する核酸配列が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものをいう。従って、ある核酸配列(例えば、プロモーター)に対応する核酸配列は、その遺伝子のオルソログであり得る。したがって、トマトの核酸配列に対応する核酸配列であって、同様の特異性を有するものは、他の植物においても見出すことができ、TOMSSFプロモーターの改変体の範囲に入ることが理解される。そのような対応する遺伝子は、当該分野において周知の技術を用いて同定することができる。したがって、例えば、ある動物における対応する核酸配列は、対応する核酸配列の基準となる核酸配列の配列をクエリ配列として用いてその植物の配列データベースを検索することによって見出すことができる。本明細書において、「対応する」アミノ酸とは、あるタンパク質分子またはポリペプチド分子において、比較の基準となるタンパク質またはポリペプチドにおける所定のアミノ酸と同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸をいう。
【0036】
本明細書中で使用される「異種」とは、異なる配列または対応しない配列、あるいは異なる種由来の配列である、ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列をいう。例えば、キク科植物のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列は、トマトのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列に対して異種である。
【0037】
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの長さは、上述のようにそれぞれアミノ酸または核酸の個数で表すことができるが、上述の個数は絶対的なものではなく、同じ機能を有する限り、上限または下限としての上述の個数は、その個数の上下数個(または例えば上下10%)のものも含むことが意図される。そのような意図を表現するために、本明細書では、個数の前に「約」を付けて表現することがある。しかし、本明細書では、「約」のあるなしはその数値の解釈に影響を与えないことが理解されるべきである。本明細書において有用なフラグメントの長さは、そのフラグメントの基準となる全長タンパク質の機能のうち少なくとも1つの機能が保持されているかどうかによって決定され得る。
【0038】
本明細書において「生物学的機能」とは、ある遺伝子またはそれに関する核酸分子もしくはポリペプチドについて言及するとき、その遺伝子、核酸分子またはポリペプチドが生体内において有し得る特定の機能をいい、本明細書ではプロモーター活性(好ましくは特異的発現活性を有するもの)を含む。
【0039】
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、本明細書の記載から明らかである。「オルソログ(ortholog)」とは、オルソロガス遺伝子(orthologous gene)ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。例えば、多重遺伝子構造をもつヘモグロビン遺伝子ファミリーを例にとると、ヒトとマウスのαヘモグロビン遺伝子はオルソログであるが、ヒトのαヘモグロビン遺伝子とβヘモグロビン遺伝子はパラログ(遺伝子重複で生じた遺伝子)である。オルソログは、分子系統樹の推定に有用であることから、オルソログもまた、本発明において有用であり得る。
【0040】
本明細書において「保存的(に改変された)改変体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された改変体とは、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸をいい、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一な配列をいう。このような塩基配列の改変法としては、制限酵素などによる切断、DNAポリメラーゼ、Klenowフラグメント、DNAリガーゼなどによる処理等による連結等の処理、合成オリゴヌクレオチドなどを用いた部位特異的塩基置換法(特定部位指向突然変異法;Mark Zoller and Michael Smith,Methods in Enzymology,100,468−500(1983))が挙げられるが、この他にも通常分子生物学の分野で用いられる方法によって改変を行うこともできる。
【0041】
本明細書において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの「置換、付加および/または欠失」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、付け加わること、または取り除かれることをいう。このような置換、付加および/または欠失の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。基準となる核酸分子またはポリペプチドにおけるこれらの変化は、目的とする機能(例えば、キク科植物における雄ずい特異的発現を誘導する能力など)が保持される限り、この核酸分子の5’末端もしくは3’末端で生じ得るか、またはこのポリペプチドを示すアミノ酸配列のアミノ末端部位もしくはカルボキシ末端部位で生じ得るか、またはそれらの末端部位の間のどこにでも生じ得、基準配列中の残基間で個々に散在する。置換、付加または欠失は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、付加または欠失を有する改変体において目的とする機能(例えば、キク科植物における雄ずい特異的発現を誘導する能力など)が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、15%以内、10%以内、5%以内、または150個以下、100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。
【0042】
このような核酸は、周知のPCR法により得ることができ、化学的に合成することもできる。これらの方法に、例えば、部位特異的変位誘発法、ハイブリダイゼーション法などを組み合わせてもよい。
【0043】
本発明では、組換えベクターを用いて標的となる遺伝子を導入することができる。
【0044】
本発明の組換えベクターは、本発明のプロモーターに発現させるべき「目的遺伝子」を連結した遺伝子を適当なベクターに導入することにより構築することができる。ここで、ベクターとしては、アグロバクテリウムを介して植物に目的遺伝子を導入することができる、pBI系、pPZP系(Hajdukiewicz P,Svab Z,Maliga P.:Plant Mol Biol.,25:989−94,1994)、pCAMBIA系(http://www.cambia.org/main/r_et_camvec.htm)、pSMA系のベクターなどが好適に用いられる。特にpBI系のバイナリーベクターまたは中間ベクター系が好適に用いられ、例えば、pBI121、pBI101、pBI101.2、pBI101.3等が挙げられる。バイナリーベクターとは大腸菌(Escherichia coli)及びアグロバクテリウムにおいて複製可能なシャトルベクターで、バイナリーベクターを保持するアグロバクテリムを植物に感染させると、ベクター上にあるLB配列とRB配列より成るボーダー配列で囲まれた部分のDNAを植物核DNAに組み込むことが可能である(EMBO Journal,10(3),697−704(1991))。一方、pUC系のベクターは、植物に遺伝子を直接導入することができ、例えば、pUC18、pUC19、pUC9等が挙げられる。また、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、インゲンマメモザイクウイルス(BGMV)、タバコモザイクウイルス(TMV)等の植物ウイルスベクターも用いることができる。ベクターに目的遺伝子を挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
【0045】
本発明において、目的遺伝子としては、対象となる植物における内因性遺伝子、または外来遺伝子であって、その遺伝子産物の発現が葉等において所望される任意の遺伝子をいう。かかる遺伝子としては、有用物質(医薬、色素、芳香成分など)生産遺伝子、植物生長制御(促進/抑制)遺伝子、糖代謝関連遺伝子、耐病虫害性〔昆虫食害抵抗性、真菌(菌類)及び細菌病抵抗性、ウイルス(病)抵抗性など〕遺伝子、環境ストレス(低温、高温、乾燥、光障害、紫外線)抵抗性関連遺伝子、形態(形、大きさ、器官の数など)等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0046】
上記の目的遺伝子は、その遺伝子の機能が発揮されるようにベクターに組み込まれることが必要である。そこで、ベクターには、目的遺伝子の上流、内部、あるいは下流に、本発明のプロモーター、エンハンサー、イントロン、ポリA付加シグナル、5’−UTR配列、選択マーカー遺伝子などを連結することができる。
【0047】
エンハンサーとしては、例えば、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ、キク科植物において用いられるものであればどのようなものを用いてもよいが、CaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域などが挙げられる。
【0048】
ターミネーターとしては、プロモーターにより転写された遺伝子の転写を終結できる配列であればよく、キク科植物において用いられるものであればどのようなものを用いてもよく、例えば、ノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター、オクトピン合成酵素遺伝子のターミネーター、CaMV 35S RNA遺伝子のターミネーター等が挙げられる。
【0049】
本発明において、選択マーカー遺伝子としては、キク科植物において用いられるものであればどのようなものを用いてもよく、例えば、ハイグロマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ビアラホス耐性遺伝子、ブラストサイジンS耐性遺伝子、アセト乳酸合成酵素(Acetolactate synthase)遺伝子などが挙げられる。
【0050】
また、選択マーカー遺伝子は、上記のように目的遺伝子とともに同一のプラスミドに連結させて組換えベクターを調製してもよいが、あるいは、選択マーカー遺伝子をプラスミドに連結して得られる組換えベクターと、目的遺伝子をプラスミドに連結して得られる組換えベクターとを別々に調製してもよい。別々に調製した場合は、各ベクターを宿主に共トランスフェクトする。
【0051】
本明細書において、外来の遺伝子を導入した植物は、「組換え植物(体)」または「形質転換植物(体)」という。
【0052】
本発明の外来DNA配列に関し「外来」という用語は、この外来DNA配列が外来雄性不稔DNA(遺伝子)を含有することを意味する。DNA、たとえば雄性不稔DNAその他の外来DNA配列における他のDNAに関し「外来」という用語は、本発明にしたがってそのDNAにより形質転換される植物細胞における同じゲノム環境に存在せず、たとえば植物、細菌、動物、真菌、ウイルスなどの細胞に天然に存在してそこからそのDNAが得られるようなDNAを意味する。
【0053】
本明細書において、DNA、たとえば雄性不稔DNAその他の外来DNA配列におけるDNAに関し「異種」という用語は、この種のDNAが形質転換される植物と同じ遺伝子型を有する植物の細胞の核ゲノムには天然に存在しないことを意味する。異種DNAの例は、形質転換される植物と同じ遺伝子型を有する植物から得られる葉緑体およびミトコンドリアDNAを包含するが、好適例は形質転換される植物とは異なる遺伝子型を有する植物からの葉緑体、ミトコンドリアおよび核DNA、動物および細菌ゲノムからのDNA、並びに真菌およびウイルスゲノムからの染色体およびプラスミドDNAを包含する。
【0054】
ここで、本発明で調製した組換えベクターを用いて、対象植物を形質転換し、組換え植物体を調製することができる。組換え植物体を調製する際には、公知の種々の確立された方法を適宜利用することができる。例えば、アグロバクテリウム法、PEG−リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、パーティクルガン法、マイクロインジェクション法等が挙げられる。アグロバクテリウム法を用いる場合は、プロトプラストを用いる場合、組織片を用いる場合、及び植物体そのものを用いる場合(in planta法)がある。プロトプラストを用いる場合は、Tiプラスミドをもつアグロバクテリウムと共存培養する方法、スフェロプラスト化したアグロバクテリウムと融合する方法(スフェロプラスト法)、組織片を用いる場合は、対象植物の無菌培養葉片(リーフディスク)に感染させる方法やカルスに感染させる等により行うことができる。また種子あるいは植物体を用いるin planta法を適用する場合、すなわち植物ホルモン添加の組織培養を介さない系では、吸水種子、幼植物(幼苗)、鉢植え植物などへのアグロバクテリウムの直接処理等にて実施可能である。
【0055】
本発明において、遺伝子が植物体に組み込まれたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、ウェスタンブロッティング法等により行うことができる。例えば、組換え植物体からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。PCRを行った後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相に増幅産物を結合させ、蛍光または酵素反応等により増幅産物を確認する方法でもよい。
【0056】
本発明において、形質転換の対象とする植物材料としては、例えば、根、茎、葉、種子、胚、胚珠、子房、茎頂(植物の芽の先端の生長点)、葯、花粉等の植物組織やその切片、未分化のカルス、それを酵素処置して細胞壁を除いたプロプラスト等の植物培養細胞が挙げられる。またin planta法適用の場合、吸水種子や植物体全体を利用し得る。
【0057】
また、本発明において組換え植物体とは、植物体全体、植物器官(例えば根、茎、葉、花弁、種子、実等)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束等)、植物培養細胞のいずれをも意味しうるものであり、狭義に使用する場合は、植物体全体をさすことがある。
【0058】
本発明において、植物培養細胞を対象とする場合において、得られた組換え細胞から組換え体(植物体)を再生させるためには既知の組織培養法により器官または個体を再生させればよい。このような操作は、植物細胞から植物体への再生方法として一般的に知られている方法により、当業者であれば容易に行うことができる。植物細胞から植物体への再生については、例えば、以下のように行うことができる。
【0059】
まず、形質転換の対象とする植物材料して植物組織またはプロトプラストを用いた場合、これらを無機要素、ビタミン、炭素源、エネルギー源としての糖類、植物生長調節物質(オーキシン、サイトカイニン等の植物ホルモン)等を加えて滅菌したカルス形成用培地中で培養し、不定形に増殖する脱分化したカルスを形成させる(以下「カルス誘導」という)。このように形成されたカルスをオーキシン等の植物生長調節物質を含む新しい培地に移しかえて更に増殖(継代培養)させる。
【0060】
本発明において使用されうるカルス誘導は寒天等の固型培地で行い、継代培養は例えば液体培養で行うと、それぞれの培養を効率良くかつ大量に行うことができる。次に、上記の継代培養により増殖したカルスを適当な条件下で培養することにより器官の再分化を誘導し(以下、「再分化誘導」という)、最終的に完全な植物体を再生させる。再分化誘導は、培地におけるオーキシンやサイトカイニン等の植物生長調節物質、炭素源等の各種成分の種類や量、光、温度等を適切に設定することにより行うことができる。かかる再分化誘導により、不定胚、不定根、不定芽、不定茎葉等が形成され、更に完全な植物体へと育成させる。あるいは、完全な植物体になる前の状態(例えばカプセル化された人工種子、乾燥胚、凍結乾燥細胞及び組織等)で貯蔵等を行ってもよい。
【0061】
本発明の組換え植物体は、形質転換を施した再分化当代であるT1世代のほか、その植物の種子から得られた後代であるT2世代、薬剤選択あるいはサザン法等による解析によりトランスジェニックであることが判明したT2世代植物の花を自家受粉して得られる次世代すなわちT3世代等の後代植物(子孫)をも含む。
【0062】
本明細書において「表現型」とはある植物を他と区別する特色または特徴のことであり、1つまたは複数の「所望のポリヌクレオチド」および/またはスクリーニング用/選択用マーカーを、形質転換植物の少なくとも1つの植物細胞のゲノム中に組み込むことにより、本発明に従って変更することができる。「所望のポリヌクレオチド」および/またはマーカーは、形質転換された植物細胞または植物全体のさまざまな遺伝的、分子的、生化学的、生理的、形態学的または農学的な特徴または特色を改変することにより、形質転換植物の表現型に変化を付与することができる。したがって、植物ゲノムに安定的に組み込まれた1つまたは複数の所望のポリヌクレオチドの発現は、例えば、耐乾性の向上、耐寒性および耐霜性の強化、活力の改善、色調の強化、健康上および栄養上の特徴の強化、保存性の改善、収量の強化、耐塩性の強化、耐重金属性の強化、耐病性の向上、耐虫性の向上、耐水ストレス性の向上、甘みの強化、活力の改善、味の改善、質感の改善、リン酸含有量の減少、発芽の向上、微量栄養素の取り込みの向上、デンプン組成の改善および花寿命の改善からなる群より選択される表現型を生じる可能性がある。
【0063】
本明細書において、トランスジェニック植物の子孫のような本発明の「子孫」は、植物またはトランスジェニック植物を雄性親として生まれた、雌性親として生まれた、またはそれから派生したものである。したがって、「子孫」植物、すなわち「F1」世代植物は、本発明の方法によって作製されたトランスジェニック植物の後裔または派生物である。トランスジェニック植物の子孫は、その細胞ゲノムの少なくとも1つ、いくつかまたはすべての中に、本明細書に記載された方法によって親トランスジェニック植物の細胞に組み込まれた所望のポリヌクレオチドを含みうる。したがって、所望のポリヌクレオチドは、子孫植物に「伝達」または「遺伝」される。そのようにして子孫植物に遺伝する所望のポリヌクレオチドはT−DNA構築物の内部にあり、それもまた子孫植物にその親から遺伝する。本明細書で用いる「子孫」という用語を、一群の植物の末裔または派生物であると考えることもできる。
【0064】
本明細書において「種子」とは、植物の胚、および塊茎または胞子のような繁殖部分を含む、成熟した植物胚珠をいう。種子は、アグロバクテリウムを介した形質転換の前に、例えば発芽を促進させるために暗所でインキュベートすることができる。インキュベー ションの前に、漂白剤による短時間の処理などによって種子を滅菌することもできる。続いて、その結果生じた実生をアグロバクテリウムの所望の菌株に曝露させることができる。
【0065】
本明細書において「トランスジェニック植物」は、内部に外因性核酸が安定的に組み込まれた少なくとも1つの細胞ゲノムを含む植物をいう。したがって、トランスジェニック植物は、形質転換植物に包含されうる。本発明によれば、トランスジェニック植物とは、ただ1つのみの遺伝的に改変された細胞および細胞ゲノムを含みうる植物であり、またはそれが複数もしくは多数の遺伝的改変細胞を含んでもよく、細胞のすべてが遺伝的に改変されていてもよい。本発明のトランスジェニック植物は、所望のポリヌクレオチド、すなわち外因性核酸の発現が、植物の特定の部分のみで起こるものである。したがって、トランスジェニック植物は、その構造の特定の部分のみに遺伝的に改変された細胞を含みうる。
【0066】
本明細書において「単離された」核酸分子とは、その天然の環境から取り出された核酸分子(例えば、DNAまたはRNA)をいう。例えば、ベクターに含まれる組換えDNA分子は、本発明の目的上は単離されているとみなされる。単離されたDNA分子のさらなる例には、異種宿主細胞内に維持される組換えDNA分子、および、溶液中にある(部分的または実質的に)精製されたDNA分子が含まれる。単離されたRNA分子には、本発明のDNA分子のインビトロでのRNA転写物が含まれる。本発明によれば、単離された核酸分子にはさらに、合成的に製造されたこのような分子も含まれる。本発明の核酸分子は、mRNAなどのRNAの形態であってもよく、または、クローニングにより得られたもしくは合成的に製造された、例えばcDNAおよびゲノムDNAを含むDNAの形態にあってもよい。DNAまたはRNAは二本鎖でも一本鎖でもよい。一本鎖DNAは、センス鎖としても知られるコード鎖でもよく、またはアンチセンス鎖とも呼ばれる非コード鎖でもよい。
【0067】
植物の形質転換に用いるのに特に有用な、アグロバクテリウムを基にした植物形質転換ベクターとしては、L.Y. Lee and S.B. Gelvin(2008)T−DNA Binary Vectors and System. Plant Physiology 146: 325−332.に記載されるベクター等が挙げられる。
【0068】
本発明のベクターは、組換えベクターDNAを標的宿主細胞に導入するための当該分野で公知の標準的な手順によって宿主細胞に導入される。このような手順には、トランスフェクション、感染、形質転換、自然な取込み、電気泳動、遺伝子銃およびアグロバクテリウムが非限定的に含まれる。外来性遺伝子を植物に導入するための方法は当該分野で公知であり、本発明のベクター等の遺伝子構築物を植物宿主に導入するために用いることができ、これには生物学的および物理的な植物形質転換プロトコールが含まれる。例えば、Miki et al.,1993,「Procedure for Introducing Foreign DNA Into Plants」In:Methods in Plant Molecular Biology and Biotechnology,Glick and Thompson, eds.,CRC Press,Inc.,Boca Raton,pages 67−88を参照のこと。選択される方法は宿主植物によって異なり、これにはリン酸カルシウムなどの化学的トランスフェクション法、アグロバクテリウムなどの微生物を介した遺伝子導入(Horsch et al.,Science 227:1229−31,(1985))、電気泳動、微量注入法および微粒子射入法が含まれる。
【0069】
上記のように取得した改変体DNA、ハイブリダイゼーションにより得られるホモログがプロモーターとしての活性を有するか否かは、種々のレポーター遺伝子、例えばベータグルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ(LUC)、Green fluorescent protein(GFP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ベータガラクトシダーゼ(GAL)、ノパリン合成酵素(NOS)、オクトピン合成酵素(OCS)等の遺伝子を上記プロモーターの下流域に連結したベクターを作製し、該ベクターを用いて従来から周知慣用されている本明細書において例示されるような種々の形質転換法により植物細胞のゲノムに挿入した後、そのレポーター遺伝子の発現を測定することにより確認できる。
【0070】
例えば、レポーター遺伝子がGUSの場合には、宿主細胞内でのプロモーター活性は、(i)ヒストケミカルなGUS染色による方法(EMBO J.6,3901−3907(1987))により、および/または(ii)蛍光基質を用いるCastle&Morrisの方法(Plant Molecular Biology Manual, B5,1−16(1994);S.B.Gelvin & R.A.Schilperoort,Kluwer Academic Publishers)に従ってGUS活性を測定し、さらにBradfordの方法(Anal.Biochem.72,248−254(1976))に従ってタンパク質量を測定して、GUS活性をタンパク量当たりに換算する(nmole 4−MU/min/mg proteinとして算出する)ことにより、それぞれ確認することができる。
【0071】
本明細書において「植物」という用語は、格別に限定しないで用いるときは、植物の普通の意味の範囲を超えて、植物の果実、種子、花、球果なども意味するものとする。本発明の植物は、ベクターがアグロバクテリウムなどによって植物内に直接導入されたことを意味する直接的な組換え体またはトランスフェクト体であってもよく、または植物がトランスフェクトされた植物の子孫であってもよい。第二世代またはその後の世代の植物は、有性生殖、すなわち受精によって作製されたものでもそうでないものでもよい。さらに、植物は配偶体(半数体期)または胞子体(二倍体期)でもありうる。
【0072】
本明細書において、「キク科植物」とは、当該分野において通常用いられる意味と同義で用いられ、Asteraceae(Compositae)の科に属する任意の植物が該当する。キク科植物としては、例えば、Cirsium(アザミ)、Arctium(ゴボウ)、Chrysanthemum(シュンギク)、Artemisia(ヨモギ)、Erigeron(ハルジオン)、Aster(シオン)、Kalimeris(ヨメナ)、Eupatorium(フジバカマ)、Ambrosia(ブタクサ)、Xanthium(オナモミ)、Dahlia(ダリア)、Cosmos(コスモス)、Helianthus(ヒマワリ)、Gnaphalium(ハハコグサ)、Leontopodium(ウスユキソウ)、Gerbera(ガーベラ)、Petasites(フキ)、Arnica(ウサギギク)、Senecio(キオン)、Veronica(ショウジョウハグマ)、Ixeris(ニガナ)、Lactuca(アキノノゲシ)、Taraxacum(タンポポ)、Crepis(フタマタタンポポ)を挙げることができるが、これらに限定されない。1つの例としては、Chrysanthemum属の植物を挙げることができ、その中でも、キク(Chrysanthemum×morifolium)が代表的に用いられるがこれに限定されない。
【0073】
本明細書において「雄性不稔化」とは、雄性器官(例えば、雄ずい)に対して、次代の植物として発達できる種子を生じなくさせることをいう。自殖性植物でヘテロシス育種を行う場合に、雄性不稔系統を母本にすると雑種種子の生産が容易になることから、育種上ひろく利用されている。この性質を戻し交雑育種によって多数の品種に移し、「組合せ能力」の高い雄性不稔系統を育成することができる。
【0074】
本発明において、雄性不稔化するための方法については、雄性生殖器官の細胞の死滅または無能化をもたらす遺伝情報で植物を遺伝子操作することによって雄性不稔植物を得ることができる。このような方法は主として、RNアーゼ、プロテアーゼまたは細菌毒素などといった毒性の高い因子をその細胞内で雄ずい特異的に産生させるという概念に基いている。あるいは必須遺伝子の転写物に対するアンチセンスRNAまたはリボザイムが産生される。これらの方法はいずれも、導入された構築物が雄性生殖器官である雄ずいの細胞で高度に特異的に発現し、他の組織では発現しないことを必要とする。他の組織での発現は、その植物の生育に有害になるからである。
【0075】
本発明において、雄性不稔遺伝子自体の選択は重要でなく、例えば、細胞死を起こす遺伝子、RNA分解酵素をコードする遺伝子、減数分裂に関与する遺伝子、形態形成に関する遺伝子を用いることができる。さらなる例示的な雄性不稔遺伝子としては、これが雄性不稔DNAを発現する雄ずい細胞の適切な代謝、機能および/または発育を顕著に阻害して、好ましくはこれにより全ての雄ずい細胞の死滅をもたらすRNA(リボザイム、アプタマー等)、ポリペプチドまたはタンパク質をコードするよう周知方法で選択しかつ分離することができる。雄性不稔DNAの代表的な例としては、例えば、RNアーゼT1のようなRNアーゼ(これはグアニン残基の後で結合を加水分解することによりRNA分子を分解する)およびバルナーゼ(Barnase);たとえばエンドヌクレアーゼのようなDNアーゼ(たとえばEcoRI);またはたとえばパパインのようなプロテアーゼ(たとえばパパインチモーゲンおよびパパイン活性タンパク質)をコードするものを挙げることができる。
【0076】
雄性不稔DNAがコードするものの他の例としては、植物ホルモンの合成を触媒する酵素(例えば、サイトカイニン)生合成における第1過程を触媒する、アグロバクテリウムT−DNAの遺伝子4(cyt)によりコードされる酵素であるイソペンテニルトランスフェラーゼ;およびオーキシンの合成に関与しかつアグロバクテリウムT−DNAの遺伝子1(aux−1)および遺伝子2(aux−2)によりコードされる酵素などを挙げることができる。雄性不稔DNAがコードするもののさらに他の例は、グルカナーゼ;リパーゼ、たとえばホスホリパーゼA〔Verheij 等(1981)、Rev.Biochem.Pharmacol.,第91巻,第92〜203頁〕;脂質ペルオキシダーゼ;または植物細胞壁の阻害剤が挙げられる。さらに他の雄性不稔DNAの例は、植物細胞に対し毒性である蛋白、たとえば細菌毒素(たとえばジフテリアトキシンのB−断片、すなわちボツリン(botulin))をコードする。
【0077】
さらに他の雄性不稔DNAの例は、たとえばヨーロッパ特許公開第0,223,399号に記載されたような内在性プロモータの制御下で植物の雄蕊細胞中で天然に転写されるDNA鎖に相補的なDNA鎖をコードするアンチセンスDNAである。この種のアンチセンスDNAは、雄蕊細胞中で天然に産生されるRNAのコード化および/または非コード化部分に結合しうるRNA配列(アンチセンスRNA)に転写されて、天然産生されたRNAの翻訳を阻止することができる。この種のアンチセンスDNAの例は、植物における葯のタペータム細胞中でTA29プロモータの制御下に天然に発現されTA29遺伝子のアンチセンスDNAである。
【0078】
雄性不稔DNAの他の例は、Haseloff and Gerlach(1988),Nature,第334巻,第585〜591頁に記載されたような所定の標的配列に対し高特異的開裂を行ないうる特定のRNA酵素(すなわち、いわゆる「リボザイム」)をコードする。この種のリボザイムは、たとえばTA29遺伝子によりコードされるRNAを標的とするリボザイムである。さらに他の雄性不稔DNAの例は、雄蕊細胞を特定の病気、たとえば真菌感染に対し感受性にしうる物質をコードする。この種の雄性不稔DNAは、雄性不稔DNAを発現しない他の全ての細胞が特定の病気に対し耐性である植物に使用することができる。
【0079】
雌性不稔性遺伝子のさらにもう1つの例には、アンチセンス核酸、または短鎖干渉性RNA(siRNA)などのようなRNA干渉(RNAi)に関与するRNAがあり、これらは標的とした遺伝子の発現を阻害または完全に阻止するために有用な可能性がある。例えば、本発明のアンチセンス分子またはRNAi分子は、例えば欧州特許公報第0,223,399号に記載されたように、植物の生殖細胞において内因性プロモーターの制御下で自然下に転写される鎖に対して相補的な核酸鎖をコードする。このようなアンチセンス核酸またはRNAi分子は、自然下に産生されたRNAの翻訳を阻害させるために、生殖細胞において自然下に産生されるRNAのコード部分および/または非コード部分に対して結合することができる。1つの態様において、本発明のアンチセンス核酸およびRNAi分子は、植物の相補的内因性DNA鎖(または遺伝子)の内因性プロモーターの制御下で、植物の花、胚珠生成性の錐、種子、胚、雌性配偶子、雌性配偶体、大胞子母細胞および前雌性生殖構造において発現させることができる。
【0080】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et
al.(1989).Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications: Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0081】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac,IRL Press;Adams,R.L.etal.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0082】
(好ましい実施形態の説明)
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。当業者はまた、以下のような好ましい実施例を参考にして、本発明の範囲内にある改変、変更などを容易に行うことができることが理解されるべきである。
【0083】
(雄ずい特異的に遺伝子発現をさせるための組成物)
1つの局面において、本発明は、トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)またはその改変体のうち必要領域である配列番号1のヌクレオチド1位〜1676位を含む、キク科植物において雄ずい特異的に遺伝子発現をさせるための組成物を提供する。
【0084】
1つの実施形態では、本発明において用いられるTOMSSFは配列番号1に記載の配列またはその改変体を含む。本発明のTOMSSFとして使用されうる配列番号1の改変体としては、キク科植物において雄ずい特異的に遺伝子発現を誘導する能力が維持される限りどのような改変体を用いても良いことが理解される。そのような改変体としては、配列番号1に対して置換、付加および欠失からなる群より選択される変異を1つ以上あるいは1または数個含むもののような配列が挙げられる。キク等のキク科植物には倍数性があり、導入遺伝子のサイレンシングが起きやすいが、TOMSSFは発現量が高く、組織特異性であることから、これまでにない組換えキク科植物の生産において寄与することが理解される。
【0085】
本発明がキク科植物において雄ずい特異的に遺伝子発現をさせるための対象としては、いかなるものであってもよいことが理解される。例えば、1つの代表的な実施形態としては、雄性不稔化のためのものであってもよいがそれに限定されない。そのような遺伝子発現される対象としては、例えば、雄ずいを花弁化することにより八重化を引き起こす遺伝子、例えばAida et al.(2008) Plant Biotechnology25:55−59.で利用されている、キクのクラスC遺伝子(キクAGAMOUS遺伝子(CAG))等を挙げることができるがそれらに限定されない。
【0086】
本発明が対象とするキク科植物は、本発明のプロモーターが雄ずい特異的に遺伝子発現するキク科植物であればどのようなものでもよく、例えば、キク(Chrysanthemum× morifolium)が挙げられるがそれに限定されない。
【0087】
本発明において、雄ずい特異的なレベルは、目的に応じてそのレベルを選択することができ、雄ずいに対する発現が、他の組織に対する発現より多ければ特異的であるといえるが、好ましくは、雄ずいに対する発現が、他の組織に対する発現の少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約20倍、少なくとも約30倍、少なくとも約40倍、少なくとも約50倍、少なくとも約60倍、少なくとも約70倍、少なくとも約80倍、少なくとも約90倍、少なくとも約100倍でありうる。
【0088】
(ベクター)
別の局面において、本発明は、トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)またはその改変体のうち必要領域である配列番号1のヌクレオチド1位〜1676位を含むベクターを提供する。本発明のベクターの種々の実施形態では、(雄ずい特異的に遺伝子発現をさせるための組成物)において記載した任意の実施形態を用いることができることが理解される。
【0089】
本発明のベクターは、発現させるべき目的遺伝子をコードする核酸配列をさらに含みうる。そのような核酸配列は、本発明のプロモーター(TOMSSF)に作動可能に連結される。本発明のベクターは、キク科植物において雄ずい特異的に遺伝子発現をさせるために用いることができる。あるいは、本発明のベクターは、キク科植物において雄ずい特異的に遺伝子発現を減少または消失させるために用いることもできる。あるいは、本発明のベクターは、雄性不稔化のために用いることができる。このような目的遺伝子は、外来のものであってよく、異種のものであってもよく、あるいは、同種異系のものであってもよい。あるいは、内因性のものであっても、目的によっては使用されることが理解される。
【0090】
1つの実施形態では、本発明のベクターが対象とするキク科植物は、キク(Chrysanthemum × morifolium)でありうる。
【0091】
本発明において、本発明のベクターが達成しようとする特異的な遺伝子発現は、目的に応じてそのレベルを選択することができ、例えば、そのレベルは、雄ずいに対する発現が、他の組織に対する発現の少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約20倍、少なくとも約30倍、少なくとも約40倍、少なくとも約50倍、少なくとも約60倍、少なくとも約70倍、少なくとも約80倍、少なくとも約90倍、少なくとも約100倍でありうる。
【0092】
(細胞等)
1つの局面では、本発明は、トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)を含む組換え細胞を提供する。本発明の細胞は、トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)を直接含んでいてもよく、ベクターに挿入された形で含んでいてもよい。本発明の細胞の種々の実施形態では、(雄ずい特異的に遺伝子発現をさせるための組成物)、(ベクター)において記載した任意の実施形態を用いることができることが理解される。
【0093】
別の局面では、本発明は、トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)を含むアグロバクテリウムを提供する。本発明のアグロバクテリウムは、トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)を直接含んでいてもよく、ベクターに挿入された形で含んでいてもよい。本発明のアグロバクテリウムの種々の実施形態では、(雄ずい特異的に遺伝子発現をさせるための組成物)、(ベクター)において記載した任意の実施形態を用いることができることが理解される。
【0094】
他の局面では、本発明は、トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)を含む組換え組織を提供する。本発明の組換え組織は、トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)を直接含んでいてもよく、ベクターに挿入された形で含んでいてもよい。本発明の組換え組織の種々の実施形態では、(雄ずい特異的に遺伝子発現をさせるための組成物)、(ベクター)において記載した任意の実施形態を用いることができることが理解される。このような組織は、本発明の組換え細胞から再生することによって入手することもできる。
【0095】
他の局面では、本発明は、トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)を含む組換え植物を提供する。本発明の組換え植物は、トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)を直接含んでいてもよく、ベクターに挿入された形で含んでいてもよい。本発明の組換え植物の種々の実施形態では、(雄ずい特異的に遺伝子発現をさせるための組成物)、(ベクター)において記載した任意の実施形態を用いることができることが理解される。このような組織は、本発明の組換え細胞からカルスを経ることなどによって再生することによって入手することもできる。
【0096】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0097】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0098】
以下の実施例で用いた植物等の取り扱いは、農林水産省等において規定される基準を遵守した。
【0099】
(実施例1:プロモーターのクローニング)
本明細書では、TOMSSFのプロモーター含有核酸をクローニングした。
【0100】
(実験の手法)
トマト品種(「秋玉」、野菜茶業試験場育成)は、野菜茶業研究所の温室で土耕栽培し、若い葉を採取後、当該分野で周知のCTAB法(MurrayとThompson, 1980)によりゲノムDNAを抽出した。
【0101】
Inverse PCR法を用い、プロモーター領域を増幅した。その方法は以下のとおりである。まず、得られたゲノムDNAを制限酵素MunI(タカラバイオ(株)、1153A)で切断しセルフライゲーション(16℃で30分〜一晩)を行った。ライゲーション後、制限酵素AflII(タカラバイオ(株)、1003A)で切断した。その後、プロモーター領域を挟み込む形で設計したプライマー(5’−CACTCAGGTAATTCGGGTTTG−3’=配列番号2)(LeSUS485−505)、(5’−TAGTTGATTCAGCAGATGGG−3’=配列番号3)(LeSUS60−41)インビトロジェン(株)カスタムプライマー)を用いPCR(95℃で30秒加熱後、95℃で20秒、62℃で30秒、72℃で5分のサイクルを25回繰り返し、最後に72℃で10分間処理)を行った。
【0102】
増幅断片をpGEMベクター(プロメガ(株)、A3600)にクローニングし、配列(翻訳開始点上流配列(配列番号4および5、文献(JARQ,44:17−23,2010)の図2B(以下に示す。)に該当する。比較対象のmRNA(下段)は、公開されている配列L19762(TOMSSF)である。))を(シークエンサー(アプライドバイオシステムズ社 373A))により確認し、プロモーター領域と判断した。
【0103】
【化1】

【0104】
上記でクローニングしたプロモーター領域は制限酵素(HindIIIタカラバイオ(株)、1060A、およびXbaI、タカラバイオ(株)、1093A)切断後、ベクターpBI101(クロンテック社、6017−1)のGUS遺伝子上流(HindIII−XbaI部位の間)にインサーションし、バイナリーベクターを作製した。
【0105】
(実施例2:キクの形質転換)
本実施例では、実施例1でクローニングしたTOMSSFのプロモーター含有核酸を用いてキクの形質転換を行った。
【0106】
(材料)
キク’セイマリン’:(有)精興園から入手したものを使用した。
【0107】
アグロバクテリウムEHA105:Dr.Hoodから入手したものを使用した(Department of Biology, Utah State University, Logan, UT 84322−5305, USA (Hood et al. (1993) Transgenic Research 2: 208−218))。
【0108】
4.ベクターpBI101:クロンテック社から購入したものを使用した(6017−1)。
【0109】
(方法)
(1)アグロバクテリウムEHA105を適当な培地(YEB培地(5g/l sucrose, 1g/l beef extract, 1g/l yeast extract, 1g/l peptoe)で培養後、アグロバクテリウムをかき取り、10mM硫酸マグネシウム溶液(ナカライテクスの10034−99−8)に懸濁した(OD550=0.1程度、島津製作所分光光度計 UV−2200で測定した。)。TweenTM20(ナカライテスク 9005−64−5)1%(10mlに対し100μl)、アセトシリンゴン(フナコシ SSX 6001)100μM(10mlに対し1μl)になるよう加えた。その後、アグロバクテリウム懸濁液を滅菌シャーレに小分けにした(例えば、2枚ずつ)。滅菌シャーレにろ紙を入れ滅菌水で湿らせた。
【0110】
(2)キク(‘セイマリン’ 精興園より入手可能)の葉をメスで5mm角程度に切り、数枚分の葉をアグロバクテリウム懸濁液に入れた。この際、アグロバクデリウムが付着したピンセットをキク材料を取り出すときに使わないよう注意した。葉を20分浸漬した後、余分な液を滅菌したキムタオル等のワイパー上で除いて、共存培養培地(以下を参照)に置床した。その後、インキュベータ(サンヨー MIR−554)内(22℃・暗黒下)で共存培養した(2日間)。このとき、スイッチON時には、温度が22℃になっていることを確認して培養を行った。
【0111】
(3)2日後、外植片を、カルベニシリン(ナカライテスク 07129−14)300mg/l、TweenTM20 1%を含む10mM硫酸マグネシウム溶液(除菌液)中で、25℃で1時間振とうした。このとき、アグロバクテリウムが増殖していない場合、異常に多い場合、色や形状が普段と異なる場合がないか確認して実験を行った。
【0112】
プラントボックス(イワキCUL−JAR300)に入ったキムタオル等のワイパーに除菌液を入れた。プラントボックスからキムタオル等のワイパーを出し、別の滅菌したキムタオル等のワイパー上に置いた。その後、外植片を選択培地に移した。20℃の培養室で、低照度下で培養した。以後、2週間ごとに新しい選択培地(以下を参照)に移して培養を行った。
【0113】
(4)シュートが2−3mm長になったところで発根培地(以下を参照)に移し、抗生物質抵抗性を確認した(発根テスト;正常に発根するものが形質転換体、発根しないものは非形質転換体と判断した)。
【0114】
このようにして、順化し閉鎖系温室(最低気温20℃、最高気温30℃設定で20−30℃の間は成り行き設定)で栽培を行った。
【0115】
(培地)
使用した培地は以下のとおりである。
・共存培養培地(シャーレ)MS+BA 1.0mg/l+NAA 2.0mg/l+ カザミノ酸 1g/l+アセトシリンゴン 100μM
・選択培地(シャーレ)MS+BA 1.0mg/l+NAA 2.0mg/l+カルベニシリン 300mg/l+パロモマイシン 25mg/l
・発根培地(プラントボックス)1/2MS+シオマリン50mg/l+パロモマイシン 10mg/l
選択培地および発根培地では、寒天(8g/l)を用いた。
【0116】
ここで、MSとはMSパウダー(日本製薬(株) 392−00591)を意味する。BAはベンジルアデニン(ナカライテスク 06399−01)、NAAは1−ナフタレン酢酸(ナカライテスク 23628−32)をいう。
【0117】
MSビタミン(最終濃度は以下の通りである。Myo−イノシトール 100mg/l(ナカライテスク 19213−95)、ニコチン酸0.5mg/l(ナカライテスク 24326−52)、グリシン2mg/l(ナカライテスク 17109−22)、塩酸ピリドキシン0.5mg/l(ナカライ29611−52)、塩酸チアミン0.1mg/l(ナカライテスク 36319−82))、MSパウダー、スクロース(ナカライテスク 30404−45)、ゲランガム(和光075−03075)、寒天(和光純薬工業(株)016−11875)。
【0118】
なお、当該分野で知られているように、MS培地に含まれるビタミン類のことをMSビタミンと呼ぶ。本明細書で使用している日本製薬のMSパウダーにMSビタミンが含まれていないため、別途作製し、加えた。
【0119】
(植換え方法)
プラントボックス植物の植換えは、キク(プラントボックス当たり4本)については以下のとおりである。
【0120】
通常は頂芽3cm長程度をピンセットで折取り、培地に1cm程度挿す。
【0121】
頂芽が無いときや数を増やす必要があるときは、頂芽より下の部分を3cm長程度にメスで切り取り培地に1cm程度挿す。
【0122】
メスで切るときは、プラントボックスの側面をまな板の代わりにすることができる。急いで大量に増殖する必要があるときは、節1つごとに切り出し植えることもできる。この場合は長さは問わず、節の直上部分で切る。
【0123】
(結果)
結果を図1〜4に示す。図1は、GUS染色を示す。AおよびBは野生型を示す。CおよびDは、987−15を示す。EおよびFは、987−17を示す。GUS活性が高い組織は青く染色されている。図2は、GUS染色を示す。AおよびBは野生型を示す。CおよびDは、987−15を示す。EおよびFは、987−17を示す。A、CおよびEは筒状花を示す。B、DおよびFは舌状花を示す。GUS活性が高い組織は青く染色されている。
【0124】
図3は、GUS染色を示す。図3において、AおよびBは野生型を示す。CおよびDは、987−15を示す。AおよびCは葉を示す。BおよびDは茎を示す。
【0125】
図4は、各組織でのGUS遺伝子の発現を示す。WTは野生型を示し、987−15は組換え体を示す。左から雄ずい、雌ずい、舌状花の花弁、筒状花の花弁、葉、根を示す。組換え体の雄ずいにおいて他の組織に比べ100倍以上の発現が見られる
これらの結果から、本発明のプロモーターは、雄ずいにおいて特異的な(100倍以上の発現)の発現を誘導しうることが実証された。
【0126】
(実施例3:不稔化実験)
本実施例では、本発明を用いてキクを雄性不稔化させる実験を行う。
【0127】
TOMSSFのプロモーター含有核酸の下流に細胞死を起こす遺伝子、RNA分解酵素をコードする遺伝子、減数分裂に関与する遺伝子、形態形成に関する遺伝子(Barnase遺伝子Mariani et al.(1990) Nature 347:737741.またはbarstar遺伝子Hartley,(1988) J Mol Biol.202:913−915。
【0128】
Barnase遺伝子 accession number M14442 atgaaaaaacgattatcgtggatttccgtttgtttactggtgcttgtctccgcggcggggatgctgttttcaacagctgccaaaacggaaacatcttctcacaaggcacacacagaagcacaggttatcaacacgtttgacggggttgcggattatcttcagacatatcataagctacctgataattacattacaaaatcagaagcacaagccctcggctgggtggcatcaaaagggaaccttgcagacgtcgctccggggaaaagcatcggcggagacatcttctcaaacagggaaggcaaactcccgggcaaaagcggacgaacatggcgtgaagcggatattaactatacatcaggcttcagaaattcagaccggattctttactcaagcgactggctgatttacaaaacaacggaccattatcagacctttacaaaaatcagataa (配列番号6)
Barstar遺伝子 accession number X15545 atgaaaaaagcagtcattaacggggaacaaatcagaagtatcagcgacctccaccagacattgaaaaaggagcttgcccttccggaatactacggtgaaaacctggacgctttatgggattgtctgaccggatgggtggagtacccgctcgttttggaatggaggcagtttgaacaaagcaagcagctgactgaaaatggcgccgagagtgtgcttcaggttttccgtgaagcgaaagcggaaggctgcgacatcaccatcatactttcttaa(配列番号7)等を組み込んだバイナリーベクターを作成する。
【0129】
このベクターをキクの形質転換のプロトコールに従い組換え体を作出する。具体的には、実施例2に準じて行なうことができる。
【0130】
(実施例4:花形の改変実験)
本実施例では、本発明のシステムを用いて、これらの遺伝子が働いた場合、雄ずいが消失する、または異なる形態を示すことになり、花型の改変が可能であることを実証する。
【0131】
具体的には、Aida et al.(2008)Plant Biotechnology25: 55−59.で行われている方法を利用し、この論文中で利用されているバイナリーベクターのtobacco elongation factor−1αプロモーターを本発明のプロモーター含有配列TOMSSFに置き換えることにより行う。
【0132】
このベクターを遺伝子導入することによりキクのAGAMOUSE(CAG)遺伝子の雄ずいにおける発現が変化する。その結果、舌状花、筒状花(管状花)の雄ずいおよび雌ずいの欠失あるいは花冠様組織への変化が起こると期待される。
【0133】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明は、植物バイオ分野において、遺伝子組換えキクを生産・販売する際に雄性不稔化が必要な場合において、初めてそのようなことを可能にするという効果を奏する。また、キクでは難しかったた新しい花型を作出できるツールを提供する。
【0135】
また、キク科植物に限らず植物において遺伝子組換え植物を生産販売する場合、雄性不稔化技術が要請されるところ、本発明は、雄ずい発現を実現するプロモーターを提供することによりキク科植物における雄性不稔化技術を初めて提供する。
【配列表フリーテキスト】
【0136】
配列番号1:TOMSSF配列(プロモーター含有核酸を含む)である。
caattgtaatagggatcaga gtgaagcttt tttttttttt ttaactttga atattcatat
gaaaaatccgattaaatatg aatttataga aaaagtttaa ctaaattttt tttgataaaa
atagaaaatatttatattag ttattttttt atactaattt atgtgaggga ggtttatgga
aaaattatataaacaaatac atttaaaaat aattactgat tttagcgata ttttttgttt
attaccacttatagtaatat tatgataaat ctgtaatata tattaaaagt gaattatgta
tgcaatatatttgaattata attgtttttg aaatatataa tgtttgtttg gtaaaaaatt
gtcttgtattataagtgtat taaaatgtgt gataaatgta ttatcaatca ttaaaacttg
tattatatttgaataataaa tttatctttg taatatatat taaatttgta ttataaatga
attaaaaatggtcaagtgaa aaaaaatgtt attgctataa atgataaata tttctttatt
atagtatatttatgtaaatt ttccaaaaat aaaagtctca attttgagca agaaatacta
aatttctttatttttatccc ttttttttta ttatgatcat aatgttcgga ttaatttaca
tatttcaattaaaataaata ataatgaata aacctataca atggagtatt tataatttat
tgatcaaaattttaaaattc acttatttta aaaatgcttt ttagaagttt ctaaaaatta
gcgatttgatgtttgattaa tttatcactg acacaacaac ttaatcttta aattattttt
taaaaatatatacttatgac tttaaaaaag cttgatttaa ccacctaatt atataatcaa
aattcttaccattgtatcaa ataatgtttg tataattgaa aaaaaaattg accagtcatt
gactgttacacactttaact tatccaaatt aatagttaga tatttcaatt ttagtgaaat
acaaatataaatatttcaat ttgttattct actatcttta aataatttga tttataaaag
aaaaaaataataaatatatt tcgaattatc gtaaatgatt tgtagatata tacttttgac
aatggatcacgttgtccaaa aattagagta tatatatcgt tgcactctta ctgaaggata
agtagaaaaatcttattcgt tgatccgata tataataaat gtcgcctagg cgaataagac
tatatcatgtgtttatctgt tagtatatag gtagtttttg aacggtagag acaccaatgt
ccaagaatgataggggtatc tacataccat ttatgatatt caaagatata ttatcctttt
tttcttaaaataataattat ttagacattt tcaaaaattt acgtgtaaca ataaaaatga
tttaatatgtttacatatgt attttaaaaa ttaacttcgt tcaaattgtc aactgagatc
aagttaataggttcaactag atattgattt ttttttttct tactcactaa accaaaagcc
atcattagcatatagtttat gattaattaa gatccttcac ctaattaatt aacacttgcc
acaatttccacttttttttt ggctataaaa aggtgtcctc tagctttgct ttcttcacca
ttcacaagcaaaactccttc atttgcttct ttcattcata cactcatttc aacattttct
ccattttttcttttttcatt tctttcctct caaaggtaaa gctacaattt ttttttaatt
ttttttatatgctagttaat ttccacatgc aaaaatagtc tttttttttg gtgtttggtt
caaatttagttcaaagtttt gatcttgggg gaaaatgttg gtcttatctt taaagggtgt
taaagatcttgaatttttct tacagaaatt tccattttaa gttgagctca tttactctaa
aacccagaaaaaagaagtta ttttttgata ttttagctaa agattccaac ttttttagta
gtagaaagtgatttaagaac aaacaagaag taatctttct ggaaaaagtt ttgttcttga
tcacccccaagaggtgtgaa gtgttaaaga tgacattttt gtggtttttt ttttttttga
atttgtagaaagtgatcaag aacaaagtag aagtaatctt tcttgaaaaa gttttgttct
tgaatcttgatcatgatcat aatcacccca agaggtgtaa agattgcatt ttgaggtttg
tttttgtgttcacttagttt ttgtcacctt tgtctcaaaa ctgtttttgt tctgttctgt
tctgttctcatttgtttgtg ggggtggggg tggggtggtc ttgtttgttg gtgtcaaaat
tcttagtttttaagtatacc ttcattttaa gacaaatcta tcttcatgac atagctgaag
tagttcatgtttgctttagt catcaattct tgttttgttt tttcatagta catttgctat
ttttctaatgaaaaacttac ttggggtttt cttaaagatc ttgttttgtt aagtttttaa
ctaagatttgatgttttgat taaatcaaga ttgagaaatg tagtccattt tgtaacagaa
agtttactgtagattcttgt tgtggggtct tcattgagtt atttttttat atatatattt
tgtagtttagtctttgttgt agtcttggtt gtaacgcata ggcgttgtgc ttttgccaca
aacgtatttgagtaagaaat gtaactaatg tcatcctctt tggttggttt tggttttatt
agtactatagtattatactc agtagcggag ccagaatttt tagttaatga attttgggtc
tagattccggatacattaaa aaaagaaaac accctttaga cgtattacag tagaagcttt
gtaggtagtagagtgttcag aatgctttgt tatgtatttt ttcatggctc ctttcaccgt
ctttatttcttttttgaact gttttccttg agccgagggt ctattggacg caacttctct
accttcaaggtagaggtaag gtttgtggac attctaccct ccccgacttc actttggtga
gactacacggggtatgttgt tggctccgcc cttgactata ttaggtgaaa ggtatgaaaa
tttgaagtggtaacattgtg gatgttgaaa atttaagtga ttcagtgagt tttttagttt
gtcattttcaatttttcagt ggttgtacta atgtaatgct atataaaatt ttgtttggta
ttcggataagctgaggtggg ctcttctact aactgcacca gtgtatgttt tggttgttta
cagttgaactttgtctgagg atttcccatc tgctgaatca acta
配列番号2:実施例1で用いたプライマー5’-CACTCAGGTAATTCGGGTTTG-3’
配列番号3:実施例1で用いたプライマー5’-TAGTTGATTCAGCAGATGGG-3’
配列番号4:化1の上段の核酸配列
配列番号5:化1の下段の核酸配列
配列番号6: Barnase遺伝子 accession number M14442 の配列
配列番号7:Barstar遺伝子 accession number X15545 の配列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)またはその改変体のうち必要領域である配列番号1のヌクレオチド1位〜1676位を含む、キク科植物において雄ずい特異的に遺伝子発現をさせるための組成物。
【請求項2】
前記TOMSSFは配列番号1に記載の配列またはその改変体を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物は、雄性不稔化のためのものである請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記キク科植物は、キク(Chrysanthemum × morifolium)である請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記特異的な遺伝子発現は、雄ずいに対する発現が、他の組織に対する発現の少なくとも約100倍である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)またはその改変体のうち必要領域である配列番号1のヌクレオチド1位〜1676位を含むベクター。
【請求項7】
発現させるべき目的遺伝子をコードする核酸配列をさらに含む請求項6に記載のベクター。
【請求項8】
キク科植物において雄ずい特異的に遺伝子発現をさせるための請求項6に記載のベクター。
【請求項9】
前記TOMSSFは配列番号1に記載の配列またはその改変体を含む、請求項6に記載のベクター。
【請求項10】
前記ベクターは、雄性不稔化のためのものである請求項6に記載のベクター。
【請求項11】
前記キク科植物は、キク(Chrysanthemum × morifolium)である請求項8に記載のベクター。
【請求項12】
前記特異的な遺伝子発現は、雄ずいに対する発現が、他の組織に対する発現の少なくとも約100倍である、請求項6に記載のベクター。
【請求項13】
トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)を含む組換え細胞。
【請求項14】
トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)を含むアグロバクテリウム。
【請求項15】
トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)を含む組換え組織。
【請求項16】
トマトのスクロース合成酵素遺伝子(SS)のプロモーター含有核酸(TOMSSF)を含む組換え植物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−210186(P2012−210186A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77883(P2011−77883)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】