説明

トマトの一段密植栽培方法及び装置

【課題】一段密植栽培において、多くの労働時間を必要とする誘引・整枝作業の軽減を図ることが可能なトマトの一段密植栽培方法及び装置を提供する。
【解決手段】長手方向に沿って連設される栽培槽10を設ける。栽培槽10の上に水平に設置される複数本の誘引線20を設ける。栽培槽10の西がわ側面上方で誘引線と平行に設置された荷重負担パイプ30を設ける。該荷重負担パイプ30に主茎P2を固定する誘引クリップ40を設ける。生育した枝葉P3の展開葉P4を各誘引線20に載せる。特定時期に、栽培槽10の定植位置から西がわに傾けた主茎P2を、誘引クリップ40を介して荷重負担パイプ30に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超密植栽培で第1花房のみを収穫し、年間4作の高位安定生産が可能なトマトの一段密植栽培方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トマトの栽培において、品質リスクを低減しながら単位面積当たりの収量を増加する一段密植栽培が提唱されている。この一段密植栽培は、10aあたり10,000株程度栽培する方法で、第1花房のみを着生させ、この花房の果実を実らせて収穫する栽培方法である。
【0003】
この一段密植栽培によると、栽培上のリスクが少なく、単位面積当たり従来の2倍以上の収量が期待できる利点がある。その一方で、栽培管理に要する労働時間が、慣行栽培と比較して増加する欠点があり、収穫が多い分、相当の労力を要するものであった。
【0004】
すなわち、一段密植栽培は、苗を狭い間隔で密植するので、生育が進むと、多くの枝葉が花や果房の上を覆い、日光を妨げることになる。そのため、第1花房の育成を効率良くするために、これらの枝葉を整枝する作業が必要になる。ところが、この整枝作業が慣行栽培にはない手間のかかる作業となり、この作業に伴う労力が一段密植栽培の労働時間を増加させるものであった。
【0005】
特許文献1に従来の一段密植栽培方法が記載されている。この栽培方法において、複数のトマトの苗を南北方向に設置された水耕ベッドに定植した後に、第1花房の上方の2本の枝葉を、その先端側を上方に押し上げ、整枝手段により、その先端部が基端部よりも上方に位置するように固定することで、すべての枝葉、花房及びこれが生育した果房並びにその下の枝葉が充分に日光を浴びるようになることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−148250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一段密植栽培方法によると、生育初期の第1花房より上方の枝葉の先端側を上方に押し上げて固定する整枝作業が重要な作業になっていた。そのため、従来の整枝作業では、栽培槽の上方から垂直に振り分けて設置した誘引紐に茎を絡めて整枝する、所謂、振り分け誘引法を用いていた。
【0008】
また、特許文献1に記載の整枝手段においても、水耕ベッドの東側および西側上方に、2本の誘引線を設置し、この誘引線に枝葉の茎部を絡めて、枝葉の先端側を上方に押し上げるように整枝するものである。
【0009】
このように、状来の一段密植栽培方法における整枝作業は、枝葉の枝を誘引紐に固定する作業が必要になっており、この作業が一段密植栽培の労働時間を増加させる要因になっていた。しかも、このような整枝作業を年間4回も必要になることから、作業者の栽培管理に要する労働時間が極めて増加することになり、単位面積当たり従来の2倍以上の収穫を高めるためには、慣行栽培の労働時間よりも2倍以上も多くなるものであった。
【0010】
そこで、本発明は、上述の課題を解消すべく創出されたもので、単位面積当たりの収穫が多い一段密植栽培において、多くの労働時間を必要とする誘引・整枝作業等の軽減を図ることで、栽培管理に要する労働時間を大幅に短縮することが可能なトマトの一段密植栽培方法及び装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成すべく本発明の第1の手段は、超密植栽培で第1花房のみを収穫するトマトの一段密植栽培方法において、連設された栽培槽10の長手方向に沿った上方に、生育時期別に枝葉P3の成長する高さを予測して設定した複数の誘引線20を水平に設置し、該誘引線20上に成長した枝葉P3の展開葉P4を載せて整葉する整葉作業と、栽培槽10の長手方向を前後方向とすると、この長手方向に沿った左がわの側面上方に、誘引線20と平行で第1花房P5が生育する時期の第1花房P5の高さを予想して設定した荷重負担パイプ30を水平に設置し、該荷重負担パイプ30に第1花房が生育した時期の主茎を傾けて固定する主茎固定作業と、を有し、第1花房の開花時期から果実の収穫時期まで主茎を栽培槽10の左がわに傾けた状態で支持して栽培する方法にある。
【0012】
第2の手段の前記整葉作業は、前記生育初期の枝葉P3が生育する高さに設定された第1誘引線21を前記栽培槽10の定植位置から左がわに配置し、該第1誘引線21上に生育初期の枝葉P3の展開葉P4を載せる第1整葉工程100と、第1花房生育時期の枝葉P3の高さに設定された第2誘引線22を前記栽培槽10の定植位置から右がわに配置し、該第2誘引線22上に第1花房P5生育時期の枝葉P3の展開葉P4を載せる第2整葉工程200と、第1花房P5生育位置より上の枝葉P3の高さに設定された第3誘引線23を前記栽培槽10の定植位置から左右に一対配置し、該第3誘引線23上に第1花房P5より上の枝葉P3の展開葉P4を左右に振り分けるように載せる第3整葉工程400とからなる。
【0013】
第3の手段は、超密植栽培で第1花房のみを収穫するトマトの一段密植栽培に使用する栽培装置において、連設される栽培槽10と、栽培槽10の上に水平に設置される複数本の誘引線20と、栽培槽10の長手方向を前後方向とすると、この長手方向に沿った左がわ側面上方で誘引線と平行に設置された荷重負担パイプ30と、該荷重負担パイプ30に主茎P2を固定する誘引クリップ40とを備え、生育した枝葉P3の展開葉P4を各誘引線20に載せると共に、第1花房P5が生育した時期に栽培槽10の定植位置から左がわに傾けた主茎P2を、誘引クリップ40を介して荷重負担パイプ30に固定するように構成した栽培装置にある。
【0014】
第4の手段の前記誘引線20は、前記栽培槽10の定植位置から左がわに配置され、前記生育初期の枝葉P3が生育する高さに設置する第1誘引線21と、前記栽培槽10の定植位置から右がわに配置され、第1花房P5生育時期の枝葉P3の高さに設置する第2誘引線22と、前記栽培槽10の定植位置の左右に一対配置され、第1花房P5生育位置より上の枝葉P3の高さに設定した第3誘引線23とからなり、各枝葉P3の展開葉P4を左右に振り分けて各誘引線20に載せるように構成している。
【0015】
第5の手段の前記栽培槽10は、底部11と、底部11の長手方向の両側縁から立設された二つの側壁部12にて樋状に成形された容器本体13と、該容器本体13の開口上部を施蓋する上蓋14とによって構成され、上蓋14には、苗Pの培地P1を容器本体13内に差し込み可能な径に開口された大開口部15Aと、該大開口部15Aに隣接し定植後に苗の主茎P2を側面から保持する小開口部15Bとからなる主茎保持孔15が形成されたものである。
【0016】
第6の手段において、前記誘引クリップ40は、前記荷重負担パイプ30の側面に嵌合せしめる嵌合連結部41と、該嵌合連結部41に連設され、主茎P2の側面を把持せしめる把持部42とで構成され、該把持部42の開口端部に、互いに係止する一対の係止突起43a、43bを備えた係脱自在な係合止部43を設けたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1によると、誘引線20上に成長した枝葉P3の展開葉P4を載せて整葉する整葉作業と、荷重負担パイプ30に第1花房が生育した時期の主茎を傾けて固定する主茎固定作業とを有し、第1花房の開花時期から果実の収穫時期まで主茎を左がわに傾けた状態で支持して栽培する方法により、一段密植栽培において、多くの労働時間を必要とする誘引・整枝作業等の軽減を図ることが可能になった。この結果、一段密植栽培の栽培管理に要する労働時間を短縮し、生産コストを大幅に削減することができる。
【0018】
請求項2によると、本発明の整葉作業は、第1整葉工程100と、第2整葉工程200と、第3整葉工程400とで、各成長時期に合わせた合理的な管理が可能になる。特に、従来の整枝作業のように、枝葉の先端側を上方に押し上げるようにして枝葉の枝部分を個々に誘引線に固定するといった複雑な作業は全く不要になり、枝葉の展開葉を各誘引線20上に載せるといった単純作業で整葉作業が完了する。この結果、従来の振り分け紐誘引法を使用した栽培と、本発明の整葉作業による栽培とにおいて、定植から摘心までの労働時間を比較すると、振り分け紐誘引法を使用した栽培では、労働時間が255時間であるのに対し、本発明の整葉作業による栽培では僅か62時間程度となり、労働時間が大幅に短縮された実証結果がある。
【0019】
請求項3のごとく、本発明装置では、前後方向に沿って連設される栽培槽10と、栽培槽10の上に水平に設置される複数本の誘引線20と、栽培槽10の左がわ側面上方で誘引線と平行に設置された荷重負担パイプ30と、該荷重負担パイプ30に主茎P2を固定する誘引クリップ40とを備えたものであるから、一段密植栽培に使用する従来の栽培装置として、荷重負担パイプ30や誘引クリップ40等を追加した構成になっている。これらの構成は、この種の栽培装置において極めて容易に追加できるものであるから、作業者はこれまでの一段密植栽培に使用した装置をそのまま利用することができるので、設備費用を合理化することができる。
【0020】
請求項4のように、本発明の誘引線20は、前記栽培槽10の定植位置から左がわに配置され、前記生育初期の枝葉P3が生育する高さに設置する第1誘引線21と、前記栽培槽10の定植位置から右がわに配置され、第1花房P5生育時期の枝葉P3の高さに設置する第2誘引線22と、前記栽培槽10の定植位置の左右に一対配置され、第1花房P5生育位置より上の枝葉P3の高さに設定した第3誘引線23とからなり、各枝葉P3の展開葉P4を左右に振り分けて各誘引線20に載せるように構成したものであるから、これら誘引線20を設置しておくだけで、年4回の整葉作業が容易に行えることになり、極めて合理的な利用ができるものである。
【0021】
請求項5のごとく、栽培槽10の上蓋14には、苗Pの培地P1を容器本体13内に差し込み可能な径に開口された大開口部15Aと、該大開口部15Aに隣接し定植後に苗の主茎P2を側面から保持する小開口部15Bとからなる主茎保持孔15が形成されたものであるから、定植直後の苗Pの主茎P2を主茎保持孔15が保持するので、成長前の主茎P2を保持する他の装置は一切必要としない構成になっている。したがって、本発明栽培装置の構成が極めてシンプルになっており、扱い易く、メンテナンスも容易である。
【0022】
請求項6のごとく、誘引クリップ40は、前記荷重負担パイプ30の側面に嵌合せしめる嵌合連結部41と、該嵌合連結部41に連設され、主茎P2の側面を把持せしめる把持部42とで構成され、該把持部42の開口端部に、互いに係止する一対の係止突起43a、43bを備えた係脱自在な係合止部43を設けたものであるから、主茎P2を荷重負担パイプ30に簡単に固定することができる。この結果、本発明の栽培方法のように、摘心後、植物高がほぼ定まった後の主茎P2を荷重負担パイプ30に斜めに固定するといった重要な作業でも、極めて容易に行えるものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明装置の一実施例を示す要部斜視図である。
【図2】本発明装置の一実施例を示す要部側面図である。
【図3】本発明装置の一実施例を示す要部正面図である。
【図4】本発明装置の栽培槽の一実施例を示す正断面図である。
【図5】本発明装置の栽培槽の主茎保持孔を示す平面図である。
【図6】本発明装置の誘引クリップを示す平面図である。
【図7】本発明装置の誘引クリップの使用例を示す斜視図である。
【図8】本発明方法の第1整葉工程を示す概略正面図である。
【図9】本発明方法の第2整葉工程を示す概略正面図である。
【図10】本発明方法の第3整葉工程を示す概略正面図である。
【図11】本発明方法の第4整葉工程を示す概略正面図である。
【図12】本発明方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明によると、単位面積当たりの収穫が多い一段密植栽培において、多くの労働時間を必要とする誘引・整枝作業等の軽減を図ることが可能で、栽培管理に要する労働時間を短縮し、生産コストを大幅に削減することができるなどといった当初の目的を達成した。
【0025】
以下、本発明の実施例を説明する。本発明装置は、超密植栽培で第1花房のみを収穫するトマトの一段密植栽培に使用する栽培装置である。本発明装置の基本構成は、栽培槽10、誘引線20、荷重負担パイプ30、誘引クリップ40にて構成されている(図1参照)。
【0026】
栽培槽10は、主に南北方向を前後方向として連設される部材で、樋状に成形された容器本体13の開口上部を上蓋14が施蓋する構成になっている(図4参照)。すなわち、容器本体13は、底部11と、底部11の長手方向の両側縁から立設された二つの側壁部12にて樋状に成形されている。図示の栽培槽10は、栽培ベッド架台1の上に載置した状態を示している(図3参照)。この栽培ベッド架台1は、栽培槽10を載置する外、後述する誘引線20や荷重負担パイプ30等を設置するために鳥居状に構成された支柱2が、栽培ベッド架台1の長手両端部や2mごとに立設されたものである。
【0027】
尚、本発明の記載において、便宜上、南北方向を前後方向(図示の長手方向)とし、東がわを左がわ、西がわを右がわと言い換えている箇所がある。栽培方法では、これらの方角が植物生理上、重要な要素になっているが、実際の農業の生産現場において、施設ハウスの東西南北は所有する土地によって制限されるため、必ずしも植物生理にもとづいた配置は難しく、最適な方角を選択できないことがあるのがその理由である。但し、以下の説明では、栽培に最適な方角、すなわち前後方向(図示の長手方向)を南北方向とし、右向きを東向き、左向きを西向きとして説明する。
【0028】
栽培槽10を施蓋する上蓋14には、大開口部15Aと小開口部15Bとが一体に形成された主茎保持孔15が形成されている(図1参照)。大開口部15Aは、苗Pの培地P1を容器本体13内に差し込み可能な径に開口されたものである(図5参照)。一方、小開口部15Bは、この大開口部15Aに隣接して形成されており、定植後に苗の主茎P2を側面から保持するように構成している。したがって、苗Pを栽培槽10に定植する場合、上蓋14の大開口部15Aから容器本体13内に挿入後、主茎P2を小開口部15Bで支えるようにすることで、この苗Pを支える他の部材は一切必要なくなるものである(図4参照)。
【0029】
誘引線20は、栽培槽10の上に水平に設置される部材で、第1誘引線21、第2誘引線22、第3誘引線23の三種類を使用することで、成長時期に応じて、各枝葉P3の展開葉P4を東西に振り分けて各誘引線20に載せるように構成している(図2参照)。図示の誘引線20は、栽培ベッド架台1に装着した各支柱2に掛け渡している。また、各誘引線20の高さ設定は、栽培槽10内の苗Pに与えられる積算温度から算出したものである。
【0030】
第1誘引線21は、前記生育初期の枝葉P3が生育する高さに設置するもので、栽培槽10の定植位置から西がわに配置する(図8参照)。この第1誘引線21は、トマト定植から14日後の生育初期となる枝葉P3の展開葉P4を載置するもので、およそ15〜20cmの高さに設置する。また、第1誘引線21は、生育後期において、後述する荷重負担パイプ30に斜めに支持した主茎P2の下部を支持するものでもある。図示例では、便宜上、枝葉P3の展開葉P4を省略して柄部のみで枝葉P3の高さを示している(以下、図9〜図11において同じ)。
【0031】
第2誘引線22は、第1花房P5生育時期の枝葉P3の高さに設置するもので、栽培槽10の定植位置から東がわに配置する(図9参照)。この第2誘引線22は、トマト定植から14日〜21日後の生育初期となる枝葉P3の展開葉P4を載置するもので、およそ30〜50cmの高さに設置する。この第2誘引線22では、主に、第1花房P5の下の枝葉P3の展開葉P4を載せるだけで、展開葉P4の方向が一方向に揃い、受光効率的を高めるものである。
【0032】
第3誘引線23は、第1花房P5生育位置より上の枝葉P3の高さに設置するもので、栽培槽10の定植位置の東西に一対配置する(図11参照)。この第3誘引線23は、トマト定植から49日〜70日後の第1花房P5上の枝葉P3の展開葉P4を載置する。このような第1花房P5上の枝葉P3を誘引線で整枝する作業は慣行栽培でも行われているが、本発明装置では、枝葉P3の展開葉P4を第3誘引線23に載せるだけでよいものである。しかも第3誘引線23は、定植位置の東西に一対配置されているので、成長が続く枝葉P3の展開葉P4を合理的に処理できるものである。
【0033】
荷重負担パイプ30は、栽培槽10の西がわ側面上方で誘引線と平行に設置された部材である(図2参照)。この荷重負担パイプ30は、トマト定植後、28日以降に第1花房P5が生育した位置の上下付近で主茎P2を支持し、果実の荷重を支える部材となっている(図10参照)。例えば、果実の荷重合計が750g〜1000g程度の荷重を支えるように構成している。また、この荷重負担パイプ30は、第1花房P5が生育した主茎P2を斜めに支持することで、この第1花房P5における果実の生育条件を良好にするといった重要な目的で使用する。すなわち、第1花房P5が生育した時期に栽培槽10の定植位置から西がわに傾けた主茎P2を、荷重負担パイプ30に支持するように構成したものである。
【0034】
誘引クリップ40は、該荷重負担パイプ30に支持した主茎P2を固定する部材である(図7参照)。この誘引クリップ40は、前記荷重負担パイプ30の側面に嵌合せしめる嵌合連結部41と、該嵌合連結部41に連設され、主茎P2の側面を把持せしめる把持部42とで構成されている。そして、把持部42の開口端部に係合止部43を設けている(図6参照)。この係合止部43は、互いに係止する一対の係止突起43a、43bを備えたもので、係合止部43を係脱自在にしている。図示では、一方の係止突起43aに操作片44を連設し、この操作片44の操作で係合状態の係合止部43を開放できるようにしている。
【0035】
次に本発明の栽培方法を説明する。本発明方法では、前述の本発明装置を利用するもので、超密植栽培で第1花房のみを収穫する一段密植栽培方法である。そして、本発明方法での特徴的な作業には、整葉作業と主茎固定作業とがある。
【0036】
整葉作業は、南北方向に沿って連設された栽培槽10の長手方向に沿った上方に、生育時期別に枝葉P3の成長する高さを予測して設定した複数の誘引線20を水平に設置し、該誘引線20上に成長した枝葉P3の展開葉P4を載せて整葉する作業である。この作業は、従来の整枝作業のように、枝葉P3の枝部を固定するものではなく、枝葉P3の展開葉P4を誘引線20に載せるだけで展開葉P4を整葉するものである。したがって、作業者は、成育時期に応じて成長した展開葉P4を、そばに設置してある誘引線20に載せるだけの作業で整葉作業が完了する。そのため、この整葉作業は、成長時期により、第1整葉工程100、第2整葉工程200、第3整葉工程400が行われる(図12参照)。
【0037】
第1整葉工程100は、生育初期の枝葉P3が生育する高さに設定された第1誘引線21を前記栽培槽10の定植位置から西がわに配置し、該第1誘引線21上に生育初期の枝葉P3の展開葉P4を載せる工程である(図8参照)。この工程後、第1花房P5が目視できる時期には、地上部を回転させて第1花房P5を東向きに調整する。
【0038】
第2整葉工程200は、第1花房生育時期の枝葉P3の高さに設定された第2誘引線22を前記栽培槽10の定植位置から東がわに配置し、該第2誘引線22上に第1花房P5生育時期の枝葉P3の展開葉P4を載せる工程である(図9参照)。この工程時期に、第1花房P5が3個程度開花したことを確認後、受粉作業を行う。
【0039】
第3整葉工程400は、第1花房P5生育位置より上の枝葉P3の高さに設定された第3誘引線23を前記栽培槽10の定植位置から東西に一対配置し、該第3誘引線23上に第1花房P5より上の枝葉P3の展開葉P4を東西に振り分けるように載せる工程である(図11参照)。この時期は、側枝を除去する芽掻作業や、この時期以降に下位葉が退色したり黄化したりしていると、第1花房P5直下の2枚の展開葉P4を残し、それより下位の展開葉P4を除去する。
【0040】
主茎固定作業は、栽培槽10の長手方向に沿った西がわ側面上方に、誘引線20と平行で第1花房P5が生育する時期の第1花房P5の高さを予想して設定した荷重負担パイプ30を水平に設置し、該荷重負担パイプ30に第1花房が生育した時期の主茎を傾けて固定する作業である(図10参照)。この作業は、前記整葉作業の第2整葉工程200と第3整葉工程400との間に行う主茎固定工程300となる。この主茎固定工程300の時期には、第1花房P5の上位2枚の展開葉P4を残し、生長点を除去する摘心作業や、第1花房P5直下の側枝を除去する芽掻作業が伴うものである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、特にトマトの一段密植栽培方法及び装置として説明しているが、トマトの生育条件が類似する植物にも利用することが可能である。また、本発明の栽培槽10や誘引線20、荷重負担パイプ30等の各構成や材質等は図示例に限られるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲での設計変更は任意に行えるものである。
【符号の説明】
【0042】
P 苗
P1 培地
P2 主茎
P3 枝葉
P4 展開葉
1 栽培ベッド架台
2 支柱
10 栽培槽
11 底部
12 側壁部
13 容器本体
14 上蓋
15 主茎保持孔
15A 大開口部
15B 小開口部
20 誘引線
21 第1誘引線
22 第2誘引線
23 第3誘引線
30 荷重負担パイプ
40 誘引クリップ
41 嵌合連結部
42 把持部
43 係合止部
100 第1整葉工程
200 第2整葉工程
300 主茎固定工程
400 第3整葉工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超密植栽培で第1花房のみを収穫するトマトの一段密植栽培方法において、連設された栽培槽の長手方向に沿った上方に、生育時期別に枝葉の成長する高さを予測して設定した複数の誘引線を水平に設置し、該誘引線上に成長した枝葉の展開葉を載せて整葉する整葉作業と、栽培槽の長手方向を前後方向とすると、この長手方向に沿った左がわの側面上方に、誘引線と平行で第1花房が生育する時期の第1花房の高さを予想して設定した荷重負担パイプを水平に設置し、該荷重負担パイプに第1花房が生育した時期の主茎を傾けて固定する主茎固定作業と、を有し、第1花房の開花時期から果実の収穫時期まで主茎を栽培槽の左がわに傾けた状態で支持して栽培することを特徴とするトマトの一段密植栽培方法。
【請求項2】
前記整葉作業は、前記生育初期の枝葉が生育する高さに設定された第1誘引線を前記栽培槽の定植位置から左がわに配置し、該第1誘引線上に生育初期の枝葉の展開葉を載せる第1整葉工程と、第1花房生育時期の枝葉の高さに設定された第2誘引線を前記栽培槽の定植位置から右がわに配置し、該第2誘引線上に第1花房生育時期の枝葉の展開葉を載せる第2整葉工程と、第1花房生育位置より上の枝葉の高さに設定された第3誘引線を前記栽培槽の定植位置から左右に一対配置し、該第3誘引線上に第1花房より上の枝葉の展開葉を左右に振り分けるように載せる第3整葉工程とからなる請求項1記載のトマトの一段密植栽培方法。
【請求項3】
超密植栽培で第1花房のみを収穫するトマトの一段密植栽培に使用する栽培装置において、連設される栽培槽と、栽培槽の上に水平に設置される複数本の誘引線と、栽培槽の長手方向を前後方向とすると、この長手方向に沿った左がわ側面上方で誘引線と平行に設置された荷重負担パイプと、該荷重負担パイプに主茎を固定する誘引クリップとを備え、生育した枝葉の展開葉を各誘引線に載せると共に、第1花房が生育した時期に栽培槽の定植位置から左がわに傾けた主茎を、誘引クリップを介して荷重負担パイプに固定するように構成したことを特徴とするトマトの一段密植栽培装置。
【請求項4】
前記誘引線は、前記栽培槽の定植位置から左がわに配置され、前記生育初期の枝葉が生育する高さに設置する第1誘引線と、前記栽培槽の定植位置から右がわに配置され、第1花房生育時期の枝葉の高さに設置する第2誘引線と、前記栽培槽の定植位置の左右に一対配置され、第1花房生育位置より上の枝葉の高さに設定した第3誘引線とからなり、各枝葉の展開葉を左右に振り分けて各誘引線に載せるように構成した請求項3記載のトマトの一段密植栽培装置。
【請求項5】
前記栽培槽は、底部と、底部の長手方向の両側縁から立設された二つの側壁部にて樋状に成形された容器本体と、該容器本体の開口上部を施蓋する上蓋とによって構成され、上蓋には、苗の培地を容器本体内に差し込み可能な径に開口された大開口部と、該大開口部に隣接し定植後に苗の主茎を側面から保持する小開口部とからなる主茎保持孔が形成された請求項3記載のトマトの一段密植栽培装置。
【請求項6】
前記誘引クリップは、前記荷重負担パイプの側面に嵌合せしめる嵌合連結部と、該嵌合連結部に連設され、主茎の側面を把持せしめる把持部とで構成され、該把持部の開口端部に、互いに係止する一対の係止突起を備えた係脱自在な係合止部を設けた請求項3記載のトマトの一段密植栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−102738(P2013−102738A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249607(P2011−249607)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000201641)全国農業協同組合連合会 (69)
【Fターム(参考)】