説明

トマトの糖度向上液肥、その製造方法及びその使用方法

【課題】トマトの糖度を上昇させるための、環境汚染のない、黒糖のポテンシャルを有効に活用したトマトの糖度向上液肥、その製造方法及びその使用方法を提供する。
【解決手段】30〜40質量%の黒糖水溶液100質量部に対し、1〜3質量部のサッカロミセス属の酵母を加えて発酵させ、これに2〜4質量部のレバウディオサイドAを加えたトマトの糖度向上液肥を水で500〜1000倍に希釈し、このトマトの糖度向上希釈液肥を、サッカロミセス属の酵母が発酵している期間中にトマトの苗を定植した容器の培地表面に散布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トマトの糖度向上に関する。
【背景技術】
【0002】
トマトの糖度を向上させる方法として、容器に充填した培地で水と肥料を極限まで減らしてトマトの苗を栽培する方法が知られている。(例えば、特許文献1参照。)しかし、この方法で収穫するトマトは水分が少なく、トマトの成分が凝縮されているために甘く感じるのであって、実際にトマトの糖度が上昇しているわけではない。
【0003】
他に、トマトの糖度上昇溶液として、黒糖水溶液を用いる方法が知られている。(例えば、特許文献2参照。)しかし、黒糖の糖分の主成分である蔗糖はそのままではトマトの毛細根から吸収されにくいので、トマトの糖度を上昇させるためには、果糖、砂糖を精製したサッカロ、ブドウ糖等の他の糖分を相当量添加する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3598263号公報
【特許文献2】特開2002−345340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の容器に充填した培地で水と肥料を極限まで減らしてトマトの苗を栽培する方法では、人間の感覚で収穫したトマトが甘いと感じるので、実際にトマトの糖度を定量的に上昇させることができないという問題があった。
【0006】
また、特許文献2に記載のように、黒糖を水に溶解した黒糖水溶液のままでは、黒糖の糖分の主成分である蔗糖は分解せず、根から吸収されにくいので、黒糖はトマトの糖度上昇にほとんど寄与しないため、トマトの糖度を上昇させるという目的に対しては、黒糖を単に水に添加するだけでは、黒糖の能力を活用できないという問題があった。
【0007】
本発明は上記問題点を鑑みなされたものであって、トマトの糖度を上昇させるための、環境汚染のない、黒糖を有効に活用したトマトの糖度向上液肥、その製造方法及びトマトの糖度を向上させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)〜(14)の本発明により達成される。
【0009】
(1)30〜40質量%の黒糖水溶液と、黒糖水溶液100質量部に対し、1〜3質量部のサッカロミセス属の酵母と、2〜4質量部のレバウディオサイドAと、を含み、サッカロミセス属の酵母が発酵している状態にあることを特徴とするトマトの糖度向上液肥。
【0010】
(2)サッカロミセス属の酵母が、サッカロミセス・セレビシエ、サッカロミセス・バヤヌス、サッカロミセス・カールスベルゲンシス、サッカロミセス・パストリアヌス、サッカロミセス・サケ、サッカロミセス・エリプソイディウスの群から選ばれる1つまたは複数であることを特徴とする(1)に記載のトマトの糖度向上液肥。
【0011】
(3)サッカロミセス属の酵母がパン発酵酵母、ビール酵母及びワイン酵母のいずれかであることを特徴とする(1)又は(2)に記載のトマトの糖度向上液肥。
【0012】
(4)トマトの糖度向上液肥が、さらに、黒糖水溶液100質量部に対し、パパイヤ、パイナップル、マンゴー、メロン、いちじく、及びキウイフルーツ含む果実のそれぞれを搾汁して得られたプロテアーゼ活性果汁のうちの少なくとも1種以上を1〜3質量部含むことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のトマトの糖度向上液肥。
【0013】
(5)トマトの糖度向上液肥が、さらに、黒糖水溶液100質量部に対し、イワシ、マグロ、カツオ、アジ、及びサバの魚エキスのうちの少なくとも1種以上を1〜3質量部含むことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかにに記載のトマトの糖度向上液肥。
【0014】
(6)トマトの糖度向上液肥が、さらに、トマトの新葉20〜30質量部を含むことを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のトマトの糖度向上液肥。
【0015】
(7)トマトの糖度向上液肥を原液として、500〜1000倍に水で希釈した希釈液肥において、ビール酵母が発酵状態にあることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のトマトの糖度向上液肥。
【0016】
(8)(a)黒糖を水に加えて30〜40質量%黒糖水溶液を得る工程と、(b)黒糖水溶液100質量部に対し、1〜3質量部のサッカロミセス属の酵母を加える工程と、(c)撹拌してサッカロミセス属の酵母を発酵させる工程と、(d)サッカロミセス属の酵母が発酵している期間内に、2〜4質量部のレバウディオサイドAを加える工程と、を含むことを特徴とするトマトの糖度向上液肥の製造方法。
【0017】
(9)サッカロミセス属の酵母が、サッカロミセス・セレビシエ、サッカロミセス・バヤヌス、サッカロミセス・カールスベルゲンシス、サッカロミセス・パストリアヌス、サッカロミセス・サケ、サッカロミセス・エリプソイディウスの群から選ばれる1つまたは複数であることを特徴とする(8)に記載のトマトの糖度向上液肥。
【0018】
(10)サッカロミセス属の酵母がパン発酵酵母、ビール酵母及びワイン酵母のいずれかであることを特徴とする(8)又は(9)に記載のトマトの糖度向上液肥の製造方法。
【0019】
(11)(b)の工程において、黒糖水溶液100体積部に対し、パパイヤ、パイナップル、マンゴー、メロン、いちじく、及びキウイフルーツ含む果実のそれぞれを搾汁して得られたプロテアーゼ活性果汁のうちの少なくとも1種以上を5〜10体積部さらに加えることを特徴とする(8)〜(10)のいずれかに記載のトマトの糖度向上液肥の製造方法。
【0020】
(12)さらに、(e)サッカロミセス属の酵母が発酵している期間内に、黒糖水溶液100体積部に対し、イワシ、マグロ、カツオ、アジ、及びサバの魚エキスのうちの少なくとも1種以上を30〜60体積部を加える工程と、を含むことを特徴とする(8)〜(11)のいずれかに記載のトマトの糖度向上液肥の製造方法。
【0021】
(13)さらに、(f)サッカロミセス属の酵母が発酵している期間内に、黒糖水溶液100質量部に対し、トマトの新葉20〜30質量部を添加して混合してろ過する工程と、を含むことを特徴とする(8)〜(12)のいずれかに記載のトマトの糖度向上液肥の製造方法。
【0022】
(14)さらに、(g)トマトの糖度向上液肥を原液とし、原液のサッカロミセス属の酵母が発酵している期間内に、原液を水で500〜1000倍に希釈して希釈液肥を得る工程と、(h)希釈液肥のサッカロミセス属の酵母が発酵している期間内に、希釈液肥をトマトの苗を定植した容器内の培地に散布または添加する工程と、を含むことを特徴とする(8)〜(13)のいずれかに記載のトマトの糖度向上液肥の製造方法によって製造されたトマトの糖度向上液肥の使用方法。
【0023】
本発明に係るトマトの糖度向上液肥は化学肥料を含まないので、環境に対する悪影響はない。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、トマトの糖度を上昇させるための、環境汚染のない、黒糖を有効に活用したトマトの糖度向上液肥、その製造方法及びその使用方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)について詳細に説明する。以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための物や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、トマトに限定せず、野菜類一般に適用可能であり、また、構成材料の種類、構成条件等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0026】
(第1実施形態)
本発明の第1の実施形態におけるトマトの糖度向上液肥は、30〜40質量%の黒糖水溶液と、その黒糖水溶液100質量部に対し、1〜3質量部のサッカロミセス属の酵母と、2〜4質量部のレバウディオサイドAと、を含み、サッカロミセス属の酵母が発酵している状態にあるものである。
【0027】
酵母は、出芽によって増殖する単細胞の子嚢菌類に対する総称で、増殖するときに、菌体内で、発酵肥料として有用な種々の物質を生成し、その一部を菌体外に分泌する。醸造に利用されている酵母は、主としてサッカロミセス属の酵母であり、サッカロミセス・セレビシエは、アルコール発酵力が強く、パンの発酵のほか、ビールやワイン等、酒類全般の醸造に利用される。ビール酵母には、サッカロミセス・セレビシエのほか、サッカロミセス・パストリアヌス、サッカロミセス・バヤヌス、サッカロミセス・カールスベルゲンシスも含まれる。サッカロミセス・サケは低温下での発酵力が強く、清酒酵母といわれる。サッカロミセス・エリプソイディウスは、果実の表面に生息している酵母で、ワインの醸造に利用される。
【0028】
黒糖には、主成分としての蔗糖の他に、Ca、P、Fe、Na、K、Mg等のミネラル分、少量のたんぱく質、ビタミンB群等が含まれる。これらビタミンは発酵時に補酵素として作用し、ミネラルはたんぱく質と結合して錯体を形成する。
【0029】
黒糖水溶液にサッカロミセス属の酵母を加えて、撹拌して酸素を十分に供給すると、アルコールを生成することなく、サッカロミセス属の酵母の酵母菌は、たんぱく質分解黒糖水溶液中に存在する有害細菌、有機物、空気中の微量物質を餌とし、急激に増殖して種々の物質へと分解生成する。黒糖の糖分の主成分である二糖の蔗糖は、単糖のブドウ糖と果糖を分解生成し、さらに、有機物は良質な各種アミノ酸、ビタミン、核酸、ミネラル、ホルモン、脂肪酸等へ分解生成する。
【0030】
しかし、黒糖の糖分の主成分である二糖の蔗糖はもとより、サッカロミセス属の酵母の発酵、増殖によって、蔗糖から分解生成した単糖であるブドウ糖と果糖も、トマトの毛細根から容易には吸収されないことが経験的に知られている。再合成された各種アミノ酸、ビタミン、核酸、ミネラル、ホルモン、脂肪酸等は、トマトの毛細根から容易に吸収される。
【0031】
つまり、黒糖は、トマトの糖度向上に直接的に寄与してはいないのである。
【0032】
蔗糖の水への溶解度は25℃で約67質量%であるが、サッカロミセス属の酵母の酵母菌は黒糖水溶液中では添加量の500倍以上にも増殖するので、黒糖水溶液へのサッカロミセス属の酵母の添加量は、黒糖水溶液100質量部に対し、1〜3質量部で十分である。この1〜3質量部のサッカロミセス属の酵母の添加量に対し、黒糖水溶液における黒糖添加量が30質量%未満であると、発酵期間が短すぎ、黒糖水溶液への黒糖添加量が40質量%を超えると、全体が発酵するのに時間がかかりすぎる。
【0033】
本発明の第1実施形態におけるサッカロミセス属の酵母としてパン発酵酵母、ビール酵母及びワイン酵母のいずれかを用いる場合、生きた酵母菌を増殖させるために、乾燥させずに酵母成分を抽出した酵母エキスが好ましい。
【0034】
土壌中には根腐れなどを引き起す有害細菌である微生物も多く存在するので、これら悪玉微生物に対する殺菌力、制菌力の強い放線菌を増殖させるためには、サッカロミセス属の酵母が発酵している期間内、すなわちサッカロミセス属の酵母の酵母菌が生きて増殖している期間内に希釈液肥を培地又は土壌に施肥することが好ましい。
【0035】
レバウディオサイドAは、キク科ステビア属の多年草のステビアの葉から抽出される甘味成分のうちもっとも砂糖に近い上質の甘味を持ち、甘味度は砂糖の450倍と言われている。
【0036】
本発明者らは、サッカロミセス属の酵母によって発酵状態にある黒糖水溶液にレバウディオサイドAを加えて液肥として用いると、レバウディオサイドAはトマトの糖度向上に直接的に寄与する、すなわち、レバウディオサイドAはトマトの毛細根から吸収されやすくなるということを見出した。
【0037】
トマトの糖度は、市販の糖度計によって測定することができるが、糖時計によって測定したトマトの糖度と人間の舌による甘味は比例しない。すなわち、通常の露地で特に甘味向上の手段を適用せずに栽培されたトマトの糖度は5前後であり、これから糖度が高くなるほど甘く感じるが、糖度が13を超えると、もはや
人間の舌は、甘味がさらに高まっているとは感じなくなる。
【0038】
又、トマトの糖度があまり高いと、甘味とは別の人間の感覚である風味の低下が起るので、レバウディオサイドAの添加量は黒糖水溶液100質量部に対し、2〜4質量部とするのが好ましい。この添加量の範囲であれば、収穫の全期間に渡って、糖度8〜13のトマトを収穫することが可能になる。
【0039】
本発明の第1の実施形態におけるトマトの糖度向上液肥は、さらに、黒糖水溶液100体積部に対し、パパイヤ、パイナップル、マンゴー、メロン、いちじく、及びキウイフルーツ含む果実のそれぞれを搾汁して得られたプロテアーゼ活性果汁のうちの少なくとも1種以上を5〜10体積部含むことが好ましい。
【0040】
プロテアーゼは、たんぱく質を加水分解し、ペプチドというアミノ酸がいくつかつながったものに変える働きを持つ酵素であり、サッカロミセス属の酵母の発酵を促進する作用がある。パパイヤにはパパイン、パイナップルにはブロメリンといったように、それぞれ異なるプロテアーゼが豊富に含まれるが、活性温度の観点から、パパイヤ、パイナップル、マンゴー、メロンの果汁が好ましい。プロテアーゼ活性酵素の添加量が5〜10体積部であると、トマトの風味の適度な改善効果が得られる。
【0041】
本発明の第1の実施形態におけるトマトの糖度向上液肥は、さらに、黒糖水溶液100体積部に対し、イワシ、マグロ、カツオ、アジ、及びサバの魚エキスのうちの少なくとも1種以上を30〜60体積部含むことが好ましい。
【0042】
魚エキスは、魚類を煮て油分や水分を圧搾して除去し、残部を乾燥したもので、約70質量%の粗たんぱく質を含む。肥料としては、即効性肥料に近い肥効を示し、また、土壌団粒化効果や地力としての残存効果も高い。
【0043】
魚のエキスには、主成分としての粗たんぱく質の他に、ビタミン、ミネラルが豊富に含まれる。黒糖水溶液に対する魚エキスの添加量が60体積部を超えると、トマトに魚の臭いが残り、30体積部未満であるとトマトの風味は改善されない。又、魚エキスの添加量が60体積部を超えると、トマトの皮の弾力性が強くなりすぎて、歯ざわりが堅くなる傾向が現われる。
【0044】
本発明の第1の実施形態におけるトマトの糖度向上液肥は、さらに、トマトの新葉20〜30質量部を含むことが好ましい。
【0045】
トマトの新葉には、糖分、有機酸、ホルモン、ビタミン、酵素等の植物活性物質が含まれ、また、強い殺菌力、制菌力を持つ活性素も含まれるので、液肥に含まれるトマトの新葉の成分は、トマトの生育、収量、品質を高め、また、土壌中の悪玉の細菌や微生物の繁殖を阻止する作用をする。
【0046】
トマトの新葉の添加の効果は20質量部から認められ、添加量は多いほど良いが、30質量部未満であれば、特に処理コストが増加する要因とはならない。
【0047】
本発明の第1実施形態におけるトマトの糖度向上液肥は、500〜1000倍に水で希釈して希釈液肥とし、サッカロミセス属の酵母が発酵状態にある期間中に液肥として使用することが好ましい。サッカロミセス属の酵母が発酵状態にある、500〜1000倍の希釈液肥を好適な施肥頻度で液肥として使用すると、糖度7〜13のトマトが収穫される。希釈倍率が500未満であると、液肥成分の含有量が多いので、少量の希釈液肥で足りるのであるが、培地全体に行き渡り難くなる。希釈倍率が1000を超えると、施肥回数を増やさなければならなくなる。
【0048】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態におけるトマトの糖度向上液肥の製造方法は、(a)黒糖を水に加えて30〜40質量%黒糖水溶液を得る工程と、(b)黒糖水溶液100質量部に対し、1〜3質量部のサッカロミセス属の酵母を加える工程と、(c)撹拌してサッカロミセス属の酵母を発酵させる工程と、(d)サッカロミセス属の酵母が発酵している期間内に、2〜4質量部のレバウディオサイドAを加える工程と、を含む。
【0049】
黒糖の約80%は蔗糖であり、蔗糖の水への溶解度は25℃で約67質量%であるので、(a)の工程における30〜40質量%黒糖水溶液は室温で容易に得られる。
【0050】
(b)の工程において、黒糖水溶液に黒糖水溶液100質量部に対し1〜3質量部のサッカロミセス属の酵母を加え、(c)の工程において、撹拌して酸素を十分に供給すると、アルコールを生成することなく、サッカロミセス属の酵母の酵母菌は、たんぱく質分解黒糖水溶液中に存在する有害細菌、有機物、空気中の微量物質を餌とし、急激に増殖して種々の物質へと分解生成する。黒糖の糖分の主成分である二糖の蔗糖は、単糖のブドウ糖と果糖を分解生成し、さらに、有機物は良質な各種アミノ酸、ビタミン、核酸、ミネラル、ホルモン、脂肪酸等へ分解生成する。
【0051】
サッカロミセス属の酵母の酵母菌は黒糖水溶液中では添加量の500倍以上にも増殖するので、黒糖水溶液へのサッカロミセス属の酵母の添加量は、30〜40質量%黒糖水溶液100質量部に対し、1〜3質量部とするのが好ましい。この1〜3質量部のサッカロミセス属の酵母の添加量に対し、黒糖水溶液における黒糖添加量が30質量%未満であると、発酵期間が短すぎ、黒糖水溶液への黒糖添加量が40質量%を超えると、全体が発酵するのに時間がかかりすぎる。3質量部を超えてサッカロミセス属の酵母を添加しても、特に発酵効率が高まることはなく、コストアップの要因になるのみである。
【0052】
(d)の工程において、サッカロミセス属の酵母によって発酵状態にある黒糖水溶液に、トマトの糖度向上に直接的に寄与するレバウディオサイドAを黒糖水溶液100質量部に対し2〜4質量部加える。
【0053】
(b)の工程で加えるサッカロミセス属の酵母としてパン発酵酵母、ビール酵母及びワイン酵母のいずれかを用いる場合、生きた酵母菌を増殖させるために、乾燥させずに酵母成分を抽出した酵母エキスが好ましい。
【0054】
(b)の工程において、黒糖水溶液100体積部に対し、パパイヤ、パイナップル、マンゴー、メロン、いちじく、及びキウイフルーツ含む果実のそれぞれを搾汁して得られたプロテアーゼ活性果汁のうちの少なくとも1種以上を5〜10体積部さらに加えることが好ましい。
【0055】
プロテアーゼは、たんぱく質を加水分解し、ペプチドというアミノ酸がいくつかつながったものに変える働きを持つ酵素であり、サッカロミセス属の酵母の発酵を促進する作用がある。パパイヤにはパパイン、パイナップルにはブロメリンといったように、それぞれ異なるプロテアーゼが豊富に含まれるが、活性温度の観点から、パパイヤ、パイナップル、マンゴー、メロンの果汁が好ましい。
【0056】
本発明の第2実施形態においては、さらに工程(e)として、サッカロミセス属の酵母が発酵している期間内に、黒糖水溶液100体積部に対し、イワシ、マグロ、カツオ、アジ、及びサバの魚エキスのうちの少なくとも1種以上を30〜60体積部加える工程と、を含むことが好ましい。
【0057】
本発明の第2実施形態においては、さらに工程(f)として、サッカロミセス属の酵母が発酵している期間内に、黒糖水溶液100質量部に対し、トマトの新葉20〜30質量部を添加して混合してろ過する工程と、を含むことが好ましい。
【0058】
トマトの新葉には、糖分、有機酸、ホルモン、ビタミン、酵素等の植物活性物質が含まれ、また、強い殺菌力、制菌力を持つ活性素も含まれるので、土壌に散布または添加された希釈液肥に含まれるトマトの新葉の成分は、トマトの生育、収量、品質を高め、また、土壌中の悪玉の細菌や微生物の繁殖を阻止する作用をする。
【0059】
本発明の第2実施形態における、黒糖、サッカロミセス属の酵母、魚エキス、プロテアーゼ活性果汁、及びトマト新葉等の材料、添加量等は、本発明の第1の実施形態で用いたものと同様である。
【0060】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態におけるトマトの糖度向上液肥の使用方法は、さらに、(g)として、(d)、(e)、(f)のいずれかの工程によって得られたトマトの糖度向上液肥を原液とし、その原液のサッカロミセス属の酵母が発酵している期間内にその原液を水で500〜1000倍に希釈して希釈液肥を得る工程と、(h)その希釈液肥のサッカロミセス属の酵母が発酵している期間内に、その希釈液肥をトマトの苗を定植した容器内の培地に散布または添加する工程とを含む。
【0061】
この希釈液肥をトマトの苗を定植した容器内の培地に散布または添加する工程により、レバウディオサイドA、並びに、サッカロミセス属の酵母の作用で分解生成した、黒糖由来の良質な各種アミノ酸、ビタミン、核酸、ミネラル、ホルモン、及び脂肪酸等は、すべてトマトの毛細根から効率よく吸収され、好ましい糖度、及び優れた風味を有するトマトを生育させることができる。
【0062】
希釈液肥のサッカロミセス属の酵母の発酵が進行している期間内に、その希釈液肥を土壌に散布または添加するのは、サッカロミセス属の酵母の発酵が止まってサッカロミセス属の酵母の酵母菌が死滅した状態では、土壌中の細菌や微生物に対しての働きかけがなくなるからである。
【実施例】
【0063】
同じ種からのミニトマトの苗を栽培して、1段花房と6段果房収穫したミニトマト各10個の糖度を測定し、実施例1〜9と参考例1とを比較した。実施例1〜5は、プランタに培地として堆肥又はピートモス+20質量%軽石を充填し、500倍希釈液肥、1000倍希釈液肥又は水のいずれかを散布してミニトマトを栽培した。実施例6は、堆肥土壌で500倍希釈液肥を散布してミニトマトを土耕栽培した。実施例7,8は、プランタに培地としてピートモス+20質量%軽石を充填し、500倍希釈液肥または水を散布してミニトマトを連作した。実施例9は、堆肥土壌で500倍希釈液肥を散布してミニトマトを土耕栽培で連作した。参考例1は、液肥も水も散布せずに、堆肥土壌でミニトマトを土耕栽培した。
【0064】
(実施例1)
内寸法が巾25cm、長さ60cm、深さ20cmのプランタに培地として15cmの深さに堆肥を入れ、ミニトマトの種から別途容器栽培したミニトマトの苗を、巾の中央部に4本、13cm等間隔に定植した。
【0065】
1リットルの水に黒糖600gを加えて37.5質量%黒糖水溶液を調製し、これに、ビール酵母エキスを30g添加して混合し、室温で撹拌しながらビール酵母を発酵させて発酵黒糖水溶液を得た。予備試作から、撹拌開始後約1週間でビール酵母は発酵を開始し、発酵は約2週間継続することがわかった。
【0066】
ビール酵母の発酵が開始したら、その発酵黒糖水溶液に市販のレバウディオサイドAを50g加え、トマトの糖度向上液肥原液とした。そのトマトの糖度向上液肥原液を水で500倍に希釈し、トマトの糖度向上希釈液肥を得た。
【0067】
そのトマトの糖度向上希釈液肥を、ビール酵母の発酵が持続している14日間にわたって、1リットル/回・日プランタ内の堆肥培地の表面に均一に散布した。
【0068】
同様のトマトの糖度向上希釈液肥の新規の調製と散布を14日周期で繰り返し、
ミニトマトを収穫した。
【0069】
6段花房からの収穫開始時に1段花房と6段花房から各約10個ずつ収穫したミニトマトの糖度を市販の糖度計で測定した。
【0070】
(実施例2)
トマトの糖度向上液肥原液を水で1000倍に希釈し、トマトの糖度向上希釈液肥を得たこと以外は実施例1と同様の方法でミニトマトを栽培し、実施例1と同様に収穫したミニトマトの糖度を測定した。
【0071】
(実施例3)
堆肥の代りに培地にピートモス+20質量%軽石を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でミニトマトを栽培し、実施例1と同様に収穫したミニトマトの糖度を測定した。
【0072】
(実施例4)
堆肥の代りに培地にピートモス+20質量%軽石を用いたこと以外は、実施例2と同様の方法でミニトマトを栽培し、実施例1と同様に収穫したミニトマトの糖度を測定した。
【0073】
(実施例5)
希釈液肥のかわりに、水のみ1回/日、20ミリリットル/回、ピートモス+20質量%軽石培地表面に均一に散布したこと以外は実施例3と同様の方法でミニトマトを栽培し、実施例1と同様に収穫したミニトマトの糖度を測定した。
【0074】
(実施例6)
実施例1と同様に別途容器栽培したミニトマトの苗を、土耕栽培の堆肥土壌に4本、13cm等間隔に定植し、実施例1と同様の500倍希釈液肥を苗の周囲の土壌表面に1リットル/回・日均一に散布して、実施例1と同様にミニトマトの糖度を測定した。
【0075】
(実施例7)
実施例3の方法でミニトマトを栽培し、苗の定植後4ヶ月目に、ピートモス培地はそのままで新しい苗に植え替えて連作を行った。同様に4ヶ月毎の連作を繰り返したところ、6連作目においても根腐れ等の異常は全く見られなかった。6連作目に、実施例1と同様に収穫したミニトマトの糖度を測定した。
【0076】
(実施例8)
実施例5の方法で水のみを20ミリリットル/回・日散布してミニトマトを栽培し、苗の定植後4ヶ月目に、ピートモス+20質量%軽石培地はそのままで新しい苗に植え替えて連作を行ったが、根腐れが生じてミニトマトの収穫はできなかった。
【0077】
(実施例9)
実施例6の方法でミニトマトを栽培し、苗の定植後4ヶ月目に、土耕の堆肥土壌はそのままで新しい苗に植え替えて連作を行ったが、実施例3に比べて20倍の量の500倍希釈液肥を散布したにもかかわらず、根腐れが生じてミニトマトの収穫はできなかった。
【0078】
(参考例1)
実施例6と同様の方法で土耕栽培の堆肥土壌に定植したミニトマトの苗を水も肥料も与えずに栽培し、実施例1と同様に収穫したミニトマトの糖度を測定した。
【0079】
【表1】

【0080】
表1に、実施例1−9と参考例1の糖度測定結果を比較して示したように、以下のことが明らかとなった。
(い)内寸法が巾25cm、長さ60cm、深さ20cmのプランタに培地として充填した15cmの深さの堆肥又はピートモス+20質量%軽石表面に、水で500倍又は1000倍に希釈した本発明のトマトの糖度向上希釈液肥を1リットル/回・日均一に散布することにより、収穫したミニトマトに顕著な糖度向上効果が見られ、また風味も優れていた。糖度の向上は、レバウディオサイドAの吸収によるものであり、優れた風味は、希釈液肥に含まれるビール酵母の酵母菌の作用で分解精製した各種アミノ酸、ビタミン、核酸、ミネラル、ホルモン、脂肪酸等の吸収によるものである。
(ろ)プランタに充填した培地がピートモス+20質量%軽石の場合でも、水のみ20ミリリットル/回・日散布しても、収穫したミニトマトに糖度向上は見られなかった。
(は)土耕の堆肥土壌に、水で500倍に希釈した本発明のトマトの糖度向上希釈液肥を20リットル/回・日散布しても、収穫したミニトマトの糖度向上効果はわずかであった。
(に)プランタに培地としてピートモス+20質量%軽石を入れて、水で500倍に希釈した本発明のトマトの糖度向上希釈液肥を1リットル/回・日均一に散布することによってミニトマトを栽培し、苗の定植後4ヶ月目に、ピートモス+20質量%軽石培地は入れ替えずそのままで、苗を新しい苗に植え替えて連作を行うことを繰り返したところ、6連作目においても根腐れ等の異常は全く見られなかった。また、6連作目に、収穫したミニトマトの糖度は、1段花房から収穫したミニトマトで8〜10、6段花房から収穫したミニトマトで9〜13であり、初回栽培で収穫したミニトマトと同様の糖度であったので、さらに連作を続けることは可能である。ミニトマトの苗の発育は、6連作目の栽培においても全く問題がなく健全であり、希釈液中のビール酵母菌の増殖よる倍地中の悪玉菌の殺菌、制菌作用が強力であることが確認された。
(ほ)土耕栽培の堆肥土壌に、水で500倍に希釈した本発明のトマトの糖度向上希釈液肥を20リットル/回・日散布してミニトマトを栽培しても、液肥が拡散して薄まってしまうため、収穫したミニトマトの糖度向上はわずかであった。また、同じ土壌で連作もできなかった。土耕栽培の場合には、悪玉菌が数多く存在するのに対し、堆肥土壌中を液肥が拡散してミニトマトの苗の周りは液肥が薄くなるため、希釈液中の増殖したビール酵母菌による堆肥土壌中の悪玉菌の殺菌、制菌作用が弱まるためである。
【0081】
上記の実施例は、サッカロミセス属の酵母としてビール酵母を用いた場合について例示したが、サッカロミセス・セレビシエ、サッカロミセス・バヤヌス、サッカロミセス・カールスベルゲンシス、サッカロミセス・パストリアヌス、サッカロミセス・サケ、サッカロミセス・エリプソイディウスの群から選ばれる1つまたは複数の酵母を用いても同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0082】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。またその様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明に係るトマトの糖度向上液肥は、サッカロミセス属の酵母が発酵している期間内に培地に施肥を繰り返し続けることにより、レバウディオサイドAの毛細根からの吸収によるトマトの糖度の向上、及びサッカロミセス属の酵母の酵母菌の作用で黒糖から分解精製した各種アミノ酸、ビタミン、核酸、ミネラル、ホルモン、脂肪酸等の毛細根からの吸収による風味の向上を可能にするものであり、さらに増殖したサッカロミセス属の酵母の酵母菌による培地中の悪玉菌の殺菌、制菌作用の効果で、培地を入れ替えることなくトマトの輪作をも可能にするものであり、産業上の利用可能性は極めて大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
30〜40質量%の黒糖水溶液と、前記黒糖水溶液100質量部に対し、
1〜3質量部のサッカロミセス属の酵母と、
2〜4質量部のレバウディオサイドAと、
を含み、
前記サッカロミセス属の酵母が発酵している状態にあることを特徴とするトマトの糖度向上液肥。
【請求項2】
前記サッカロミセス属の酵母が、サッカロミセス・セレビシエ、サッカロミセス・バヤヌス、サッカロミセス・カールスベルゲンシス、サッカロミセス・パストリアヌス、サッカロミセス・サケ、サッカロミセス・エリプソイディウスの群から選ばれる1つまたは複数であることを特徴とする請求項1に記載のトマトの糖度向上液肥。
【請求項3】
前記サッカロミセス属の酵母がパン発酵酵母、ビール酵母及びワイン酵母のいずれかであることを特徴とする請求項1又は2に記載のトマトの糖度向上液肥。
【請求項4】
前記トマトの糖度向上液肥が、さらに、前記黒糖水溶液100質量部に対し、パパイヤ、パイナップル、マンゴー、メロン、いちじく、及びキウイフルーツ含む果実のそれぞれを搾汁して得られたプロテアーゼ活性果汁のうちの少なくとも1種以上を1〜3質量部含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のトマトの糖度向上液肥。
【請求項5】
前記トマトの糖度向上液肥が、さらに、前記黒糖水溶液100質量部に対し、イワシ、マグロ、カツオ、アジ、及びサバの魚エキスのうちの少なくとも1種以上を1〜3質量部含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のトマトの糖度向上液肥。
【請求項6】
前記トマトの糖度向上液肥が、さらに、トマトの新葉20〜30質量部を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のトマトの糖度向上液肥。
【請求項7】
前記トマトの糖度向上液肥を原液として、500〜1000倍に水で希釈した希釈液肥において、前記サッカロミセス属の酵母が発酵状態にあることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のトマトの糖度向上液肥。
【請求項8】
(a)黒糖を水に加えて30〜40質量%黒糖水溶液を得る工程と、
(b)前記黒糖水溶液100質量部に対し、1〜3質量部のサッカロミセス属の酵母を加える工程と、
(c)撹拌して前記サッカロミセス属の酵母を発酵させる工程と、
(d)前記サッカロミセス属の酵母が発酵している期間内に、2〜4質量部のレバウディオサイドAを加える工程と、
を含むことを特徴とするトマトの糖度向上液肥の製造方法。
【請求項9】
前記サッカロミセス属の酵母が、サッカロミセス・セレビシエ、サッカロミセス・バヤヌス、サッカロミセス・カールスベルゲンシス、サッカロミセス・パストリアヌス、サッカロミセス・サケ、サッカロミセス・エリプソイディウスの群から選ばれる1つまたは複数であることを特徴とする請求項8に記載のトマトの糖度向上液肥。
【請求項10】
前記サッカロミセス属の酵母がパン発酵酵母、ビール酵母及びワイン酵母のいずれかであることを特徴とする請求項8又は9に記載のトマトの糖度向上液肥の製造方法。
【請求項11】
前記(b)の工程において、前記黒糖水溶液100体積部に対し、パパイヤ、パイナップル、マンゴー、メロン、いちじく、及びキウイフルーツ含む果実のそれぞれを搾汁して得られたプロテアーゼ活性果汁のうちの少なくとも1種以上を5〜10体積部さらに加えることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載のトマトの糖度向上液肥の製造方法。
【請求項12】
さらに、(e)前記サッカロミセス属の酵母が発酵している期間内に、前記黒糖水溶液100体積部に対し、イワシ、マグロ、カツオ、アジ、及びサバの魚エキスのうちの少なくとも1種以上を30〜60体積部を加える工程と、
を含むことを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載のトマトの糖度向上液肥の製造方法。
【請求項13】
さらに、(f)前記サッカロミセス属の酵母が発酵している期間内に、前記黒糖水溶液100質量部に対し、トマトの新葉20〜30質量部を添加して混合してろ過する工程と、
を含むことを特徴とする請求項8〜12のいずれか1項に記載のトマトの糖度向上液肥の製造方法。
【請求項14】
さらに、(g)前記トマトの糖度向上液肥を原液とし、前記原液のサッカロミセス属の酵母が発酵している期間内に、前記原液を水で500〜1000倍に希釈して希釈液肥を得る工程と、
(h)前記希釈液肥のサッカロミセス属の酵母が発酵している期間内に、前記希釈液肥をトマトの苗を定植した容器内の培地に散布または添加する工程と、
を含むことを特徴とする請求項8〜13のいずれか1項に記載のトマトの糖度向上液肥の製造方法によって製造されたトマトの糖度向上液肥の使用方法。

【公開番号】特開2012−62237(P2012−62237A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210221(P2010−210221)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(302064762)株式会社日本総合研究所 (367)
【Fターム(参考)】