説明

トマトトラードウイルスと称される植物ウイルス

本発明は、ウイルス学の分野に関する。本発明は、トマトトラードウイルス(ToTV)と命名された単離された植物ウイルス(ToTV)、およびその構成要素を提供する。本発明はさらに、ToTV抵抗性植物を産生する方法であって、ToTV抵抗性ドナー植物を同定する工程、ToTV抵抗性ドナー植物をレシピエント植物と交配する工程、および子孫植物から抵抗性植物を選択する工程を含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、植物病の分野にある。特に、本発明は、トマトから単離された新しい植物ウイルス、該ウイルスを検出するための方法、抵抗性植物を検出する方法、および抵抗性植物を産生するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
トマト ソラヌム リコペルシクム(Solanum lycopersicum)(かつてはリコペルシコン エスクレントゥム(Lycopersicon esculentum))は、多数のウイルス種に対して易罹患性である。最も著名なトマトウイルスの中には、トマト黄化壊疽ウイルス(TSWV;トスポウイルス属);ペピーノモザイクウイルス(PepMV;ポテクスウイルス属)、およびトマト黄化巻葉ウイルス(TYLCV;ベゴモウイルス属)が含まれる。これらの病気が植物に与える被害は、葉の変色および壊死病変から、深刻な作物の損失および植物の死にまで至る。
【0003】
抵抗性植物を提供する能力は、商業的育種家にとって最重要であり、および幾つかの経済的に最も被害を与えるウイルスについては、抵抗性植物変種が産生されている。しかしながら、時折、作物に相当な被害を与え得る新しいウイルスが出現する。
【0004】
1996年に、1993年以来アメリカ合衆国およびイタリアでトマト植物に感染していた新しいトマトウイルスが報告され、ならびにトマト感染性退緑ウイルス(TICV;クリニウイルス属;Duffusら、1996)と命名された。同じ属の別の新しいトマトウイルスが1998年に報告された。このウイルスは、1989年以来アメリカ合衆国でトマト植物に感染していたことが示され、およびトマト退緑ウイルス(ToCV;Wislerら、1998)と命名された。これらの新しいウイルスの両方が、非常に効果的な病気伝播ベクターである昆虫、コナジラミによって拡大されることが分かった。
【0005】
一般に、公知のウイルスの地理的分布が増大し、一部は、新しい系統または新しいウイルスを形成するための異なるウイルスの組換えの結果として、新しいウイルスが出現し続けると考えられている。抵抗性栽培変種の開発は、これらの病気管理の成功に重要な役割を果たしうる。
【発明の開示】
【0006】
概要
最近、任意の公知のウイルスに帰することができない症状を引き起こす、新しいウイルスが、スペイン産のトマト植物で発見された。植物は、葉に壊死病変および果実に褐色環を呈し、かつ成長の低下を示した。血清学的検査(ELISA)により、ペピーノモザイクウイルス(PepMV)の存在が示唆された。電子顕微鏡的研究によって、実際にポテクスウイルスに典型的な桿様粒子が明らかにされた。しかしながら、球状の形をしたウイルス粒子もまた、感染した葉組織で発見された。本発明者らは、PepMVとの複合体から新しいウイルスを分離することができた。新しいウイルスを仮にトマトトラード(Tomato torrado)ウイルス(ToTV)と命名した。
【0007】
その起源をたどり、その疫学をモニターし、かつ病気の起こり得る拡大を予防しうるためには、初期の段階で病気を認識できることが非常に重要である。その時になって初めて、植物を単離し、および植物検疫上の予防策に着手するために十分な措置を取ることができる。今現在、利用可能な診断ツールはない。その結果として、この病気に対する診断ツールを開発する必要性がある。さらに、そのような抵抗性植物を開発する必要性がある一方で、現在この新しいウイルスに対する特異的な抵抗性を有することが知られた植物はない。
【0008】
本発明は、第1の局面において、ToTV-E01(DSM16999)という寄託者参照番号、2004年11月24日に、ドイツ、ブラウンシュヴァイクのDeutsche Summlung von Mikroorganismen und Zellkulturen(DSMZ)に寄託された、仮にトマトトラードウイルス(ToTV)と命名された植物ウイルスを提供する。
【0009】
本ウイルスは、その他の植物だけでなく、トマト植物でも病気-症状を引き起こし、および単独で、またはその他のウイルスもしくは病気との複合体で、症状を引き起こす可能性がある。
【0010】
最初の全身症状は、植物の頂上における壊死斑点からなり、小葉の葉の基部で始まる。壊死斑点は拡大し、および薄緑色または黄色の領域で囲まれる(図1参照)。全身感染した葉の全てが症状を示すわけではないが、ウイルスを、例えば電子顕微鏡法によって、これらの葉で検出することができる。ToTVに感染した果実は壊死環を呈する。感染していない植物と比べて、感染した植物の成長は低下する可能性がある。
【0011】
上の記載は、単離されたウイルスに新たに感染した植物に関し、および野外で偶然に出会う正確な症状を必ずしも反映する必要はない。植物の品種または変種、発生段階、さらなる病気のプレッシャー、ならびに非生物要因(例えば、温度および相対湿度)などの要因が、症状の発現および特徴を最終的に決定すると考えられる。
【0012】
ウイルス粒子は、形が球状(20面体)で、直径がおよそ28nmである(図2参照)。ウイルス粒子は、およそ23、26、および35kDaの少なくとも3つのカプシドタンパク質からなる(図3参照)。精製によって、ウイルスは、硫酸セシウム勾配の中に少なくとも2つの目に見えるバンドを示す。上部の目に見えるバンド(ウイルス最上層分画)は、およそ5.5kb(より正確には5.2kb)のRNA分子を含み、および下部の目に見えるバンド(最下層分画)は、およそ8kb(より正確には7.7kb)のRNA分子を含む(図4参照)。タバコ植物に対する組み合わせた両方のバンドの接種により、感染が引き起こされる。
【0013】
ToTVは、幾つかのニコティアナ(Nicotiana)種に機械的に伝播され得る。標準的な接種緩衝液(例えば、pH 7.7の0.03M リン酸緩衝液)が好適である。ToTVの繁殖用に、N.グルティノサ(N. glutinosa)、N.タバクム(N. tabacum)、およびN.ベンタミナ(N. benthamina)が好ましい。N.エスペリス(N. hesperis)「67A」およびN.オッキデンタリス(N. occidentalis)「P1」というタバコ種は、ToTVに対して非常に感受性があり、および3〜4後に全身症状を示す。これらのタバコ種は短期間で非常に壊死性になり、およびしたがって繁殖宿主としてよりも指示植物としての使用により好適である。N. グルティノサは、退緑局所病変および全身退緑ならびに葉の軽度の変形を伴って反応する。N.ベンタミアナ(N.benthamiana)は、局所症状を示さず、ならびに全身退緑および葉の変形を伴って反応する。
【0014】
本発明はさらに、SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2ならびにそれらに対して少なくとも30、好ましくは少なくとも40、好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも98%、および最も好ましくは99%のヌクレオチド配列相同性を有する配列からなる群より選択される少なくとも1つの核酸配列を含むウイルスを提供する。そのようなウイルスもまた、本明細書において用いられるようなToTVという用語によって包含されている。
【0015】
上で参照した配列相同性を有する本発明のウイルスの好ましい態様において、ウイルスは、「トラード」、「マルチテス(Marchitez)」、および/もしくは「チョコレート斑点病」という名で公知のトマト病と関連し、ならびに/またはウイルスは、本質的に表1で定義されたような分類学的記述子の数量分類学的解析に基づいて、公的コレクションで入手可能な任意のその他のウイルス単離体よりも請求項1で定義されたようなウイルスとより近縁関係にあることが示され、ならびにウイルスは、それがトマトで壊死病変を引き起こす病気と関連しているという本質的な特徴を有する。
【0016】
別の局面において、本発明は、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2に対して少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも98%、および最も好ましくは99%のヌクレオチド配列相同性を有する配列、ならびにそれらの相補鎖、ならびにそれらのToTV特異的断片からなる群より選択される核酸配列を含む単離された核酸または組換え核酸を提供する。そのような核酸を、本発明によるウイルスから得てもよい。
【0017】
別の局面において、本発明は、ストリンジェントな条件下で、上で記載されたような本発明の単離された核酸または組換え核酸にハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドを提供する。
【0018】
別の局面において、本発明は、本発明によるウイルスから得ることができる単離されたポリペプチドもしくは組換えポリペプチド、またはそれらのToTV特異的断片を提供する。好ましい態様において、該ポリペプチドは、ToTVの23、26、および35kDaカプシドタンパク質、ならびにそれらのToTV特異的断片からなる群より選択される。
【0019】
別の局面において、本発明は、本発明によるポリペプチドまたはそれらのToTV特異的断片を含む抗原を提供する。
【0020】
別の局面において、本発明は、本発明による抗原を特異的に対象とする抗体を提供する。
【0021】
別の局面において、本発明は、ToTVに対する抗体を産生するための方法であって、以下の工程を含む方法を提供する;a)ToTVウイルス、またはその(組換え)タンパク質もしくはペプチド断片を提供する工程;b)適切な脊椎動物宿主を該ウイルス、タンパク質、またはペプチド断片で免疫する工程、およびc)脊椎動物宿主の(血清を含む)血液または脾細胞からウイルス、タンパク質、またはペプチド断片に対する抗体を採取する工程。好ましい態様において、本方法はさらに、d)1つの抗体産生脾細胞を選択する工程、e)脾細胞を不死化したハイブリドーマ細胞株と融合する工程、およびf)ハイブリドーマ融合体にモノクローナル抗体を産生させる工程を含む。
【0022】
別の局面において、本発明は、本発明によるToTVに対する抗体を産生する方法によって得ることができる抗体を提供する。
【0023】
別の局面において、本発明は、ウイルス単離体をToTVであると同定するための方法であって、ウイルス単離体またはその構成要素を本発明による抗体と反応させる工程を含む方法を提供する。
【0024】
別の局面において、本発明は、ウイルス単離体をToTVであると同定するための方法であって、ウイルス単離体またはその構成要素を本発明によるポリヌクレオチドと反応させる工程を含む方法を提供する。
【0025】
別の局面において、本発明は、試料におけるToTVの存在を検出するための方法であって、試料を本発明によるポリヌクレオチドまたは抗体と反応させることによって、試料におけるToTVウイルスまたはその構成要素の存在を判定する工程を含む方法を提供する。
【0026】
別の局面において、本発明は、ToTV抵抗性植物を同定するための方法であって、以下の工程を含む方法を提供する;a)植物または植物部分を感染量のToTVウイルスに曝露する工程、およびb)曝露後、i)植物もしくは植物部分における病気-症状が存在しないままであるか、もしくは発現が遅れているか、もしくは易罹患性の対照植物と比較して少なくとも重症度が低下しているかのいずれかであり、および/またはii)ToTVウイルスもしくはToTVゲノム配列が植物もしくは植物部分に存在せず、もしくは易罹患性の対照植物と比較してToTVウイルスの存在が植物で少なくとも量的に減少する場合、植物をToTV抵抗性植物と同定する工程。工程a)は、同等の感染量のウイルスに曝露された易罹患性の対照植物において検出可能な病気-症状の定着が可能となるのに十分に長い持続時間のためのインキュベーション期間を含む。この方法を実行することによって、完全抵抗性、部分抵抗性、超感受性、および寛容性を含む、全ての形態の抵抗性を植物で同定することが可能である。寛容性を確認するためには、植物におけるウイルスの(全身)存在を確認しなければならない。工程b)は、当業者には周知の、ヌクレオチドハイブリダイゼーションアッセイまたは免疫アッセイのための標準的方法で、本発明による抗体またはポリヌクレオチドが使用される、本発明による植物もしくは植物部分の試料におけるToTVの存在を検出するための方法の実行を伴ってもよい。あるいは、工程b)は、曝露された植物の一部を易罹患性の指示植物と接触させる工程を含んでもよい。このように、指示植物における病気の出現を観察することを通じて、または最初に接触させられた指示植物と接触したさらに接触させられた指示植物における病気の出現を観察することをも通じて、曝露された植物における全身感染または局所感染を検出してもよい。
【0027】
別の局面において、本発明は、ToTV抵抗性植物を産生する方法であって、本発明によるToTV抵抗性植物を同定するための上の方法のいずれかを実行することによって、ToTV抵抗性ドナー植物を同定する工程、ToTV抵抗性植物をレシピエント植物(レシピエント植物は、ToTV易罹患性またはToTV抵抗性のいずれかであってもよいが、抵抗性の表現型が劣性遺伝子によってもたらされる場合、ToTV抵抗性が好適である)と交配する工程、ならびに上で記載されたような植物におけるToTV抵抗性を同定するための方法を実行することによって、子孫植物(例えば、F1、F2、および自殖した植物)から抵抗性植物を選択する工程を含む方法を提供する。抵抗性形質が劣勢形質である例において、抵抗性植物は、F1またはF2またはさらに先の世代の自殖の子孫植物の間で発見されてもよい。本局面の好ましい態様において、ToTV抵抗性ドナー植物およびレシピエント植物は、ナス科(Solanaceae)またはウリ科(Cucurbitaceae)の植物である。本局面の別の好ましい態様において、レシピエント植物は、トマト植物、ナス植物、コショウ植物、メロン植物、スイカ植物、キュウリ植物、より好ましくはトマト種の植物、最も好ましくは、商業的に望ましい特徴を保有するトマト株である。
【0028】
別の局面において、本発明は、本発明によるToTV抵抗性植物を産生する方法によって得ることができる、ToTV抵抗性植物、好ましくはトマト植物、ナス植物、コショウ植物、メロン植物、スイカ植物、もしくはキュウリ植物、または種子などの、その部分を提供する。
【0029】
別の局面において、本発明は、本発明によるウイルス、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、抗原、および/または抗体を含む、試料におけるToTVの存在を検出するための、または植物におけるToTV抵抗性を同定するための診断キットを提供する。
【0030】
別の局面において、本発明は、診断組成物の産生のための、本発明によるウイルス、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、抗原、または抗体の使用を提供する。
【0031】
別の局面において、本発明は、本発明によるウイルス、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、抗原、または抗体を含む診断組成物を提供する。
【0032】
別の局面において、本発明は、発現ベクターとしての、ToTV、またはToTVウイルスゲノムの部分の使用を提供する。
【0033】
別の局面において、本発明は、植物における病原体由来の抵抗性を産生するための、ToTV、またはToTVウイルスゲノムの部分の使用を提供する。
【0034】
別の局面において、本発明は、植物の相関免疫のための、弱毒型のToTVウイルス、またはそのゲノム、もしくはその部分の使用に関する。
【0035】
発明の詳細な説明
定義
本明細書において用いられる場合、「植物部分」という用語は、そこから植物が再生することができる植物、細胞塊、および組織培養においてインタクトである植物細胞などの単一の細胞および細胞組織を含む、植物の一部を指す。植物部分の例として、花粉、胚珠、葉、胚、根、根端、葯、花、果実、茎、シュート、および種子由来の単一の細胞および組織;同様に、花粉、胚珠、葉、胚、根、根端、葯、花、果実、茎、シュート、接ぎ穂、根茎、種子、プロトプラスト、カルス、およびそれらと同様のものが含まれるが、これらに限定されない。
【0036】
「試料」という用語は、植物由来、植物部分由来、もしくは伝播ベクター由来の試料、または土壌、水、もしくは空気試料を含む。
【0037】
本明細書において用いられる場合、「伝播ベクター」という用語は、病気を拡大する作用物質または物質を指す。野外のToTVの伝播ベクターは、節足動物門(Arthropoda)(特に、昆虫綱(Insecta)およびクモ綱(Arachnida)の動物)、線形動物門(Nematoda)(特に、双器綱(Adenophorea)の動物)などの動物だけでなく、例えば、鳥、ウサギ、およびマウスなどの大型動物、真菌(すなわち、真菌門(Eumycota)、特にフィコミコタ綱(Phycomycota)の真菌)、(ネナシカズラ(Cuscutaceae)科のメンバーを含む)(寄生)植物、花粉、種、水、土壌粒子、ならびに人の手、道具、および靴さえも含むが、これらに限定されない。
【0038】
「子孫」植物という用語は、1つまたは複数の親植物またはその子に由来する栄養生殖または有性生殖由来の娘として結果的に生じる任意の植物を指す。例えば、子孫植物は、親植物の接ぎ木もしくは自殖によって、または2つの親植物を交配することによって得られてもよく、およびF1もしくはF2またはさらに先の世代だけでなく自殖を含んでもよい。F1は、少なくともその一方が形質のドナーとして初めて使用される親から産生される第1世代の子孫であり、一方、第2世代(F2)またはその後の世代(F3、F4など)の子孫は、F1、F2などの自殖から産生される標本である。したがって、F1は2つの純種の育種親(純種の育種は形質についてホモ接合性である)の間の交配から生じるハイブリッドであってもよく(および通常、2つの純種の育種親の間の交配から生じるハイブリッドであり)、一方、F2はF1ハイブリッドの自家受粉から生じる子孫であってもよい(および通常、F1ハイブリッドの自家受粉から生じる子孫である)。
【0039】
本明細書において用いられる場合、「抵抗性がある」という用語は、ウイルスによる感染後の、その細胞での増殖、および/またはその他の細胞へのウイルスの(全身)移動、および/または病状の進行に抵抗することができる植物細胞を指し、そのウイルスは、該植物の対応する非抵抗性または易罹患性の変種において感染および増大する。本用語は、「完全抵抗性」、「免疫」、「部分抵抗性」、「超感受性」、および「寛容性」のような別々に同定可能な抵抗性の形態を含むよう用いられる。
【0040】
「完全抵抗性」は、感染後のウイルスの発達の完全な失敗と呼ばれ、ならびにウイルスの細胞への侵入の失敗(初感染なし)の結果であるか、またはウイルスの細胞での増大の失敗およびその後の細胞への感染の失敗(潜在感染なし、拡大なし)の結果であるかのいずれかである可能性がある。完全抵抗性の存在を、植物の感染量のウイルスに対する曝露の直後に(すなわち、「感染」後に)、植物に任意の病状が存在しないことだけでなく、植物の細胞にウイルス粒子またはウイルスRNAが存在しないことを証明することによって判定してもよい。育種家の間では、この表現型はしばしば「免疫性がある」と呼ばれている。したがって、本明細書において用いられる場合、「免疫性」とは、例えば、エレクトロポレーションなどによって細胞内に積極的に運ばれた場合にすら、ウイルス複製がないことを特徴とする抵抗性の一形態を指す。
【0041】
「感染量」は、植物に感染することができるウイルス粒子またはウイルス核酸の用量として定義され、その用量は、植物間および検査したToTV単離体間で変化してもよい。理論的には、約1〜10という量から約500〜5000という量のウイルスのウイルス粒子またはその核酸で十分であると考えられる。このような感染を、精製したウイルス粒子または精製した核酸の植物に対する機械的接種によって達成してもよい。
【0042】
「部分抵抗性」は、感染後のウイルスの細胞での増大の低下、ウイルスの(全身)移動の低下、および/または症状の進行の低下と呼ばれる。部分抵抗性の存在を、植物における低力価のウイルス粒子またはウイルスRNAの全身存在、および植物の感染量のウイルスに対する曝露の直後の植物における病気-症状の軽減または遅延の存在を証明することによって判定してもよい。ウイルス力価を、定量的検出方法(例えば、ELISA法、定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応[RT-PCR])を用いることによって決定してもよい。育種家の間では、この表現型はしばしば「中間抵抗性がある」と呼ばれている。
【0043】
「超感受性がある」という用語は、それによって、例えば、感染した組織の局所壊死または接種した組織を越える全身移動の欠如のために、感染が局所に留まり、および全身に拡大しない抵抗性の一形態を指す。超感受性の植物は、局所的だが、重症の病状を示し、およびウイルスの局所存在を、そのような植物で立証することができる。
【0044】
「寛容性がある」は、植物の感染量のウイルスに対する曝露の直後に病気-症状が存在しないままであり、それによって全身または局所のウイルス感染、ウイルス増大の存在、少なくとも植物の細胞におけるウイルスゲノム配列および/またはそのゲノムの組込みの存在を立証することができる、植物の表現型を示すために本明細書において用いられる。したがって、寛容性がある植物は、症状発現については抵抗性であるが、ウイルスの無症状キャリアではない。時に、ウイルス配列が植物中に存在し、または病状を引き起こさずに、植物中で増大すらしてもよい。この現象は、「潜伏感染」としても公知である。DNAウイルスおよびRNAウイルスの中には、初感染後に検出できなくなり、結局後に再び現れ、かつ急性病を産生するものもいる。潜伏感染において、ウイルスは、組込まれたゲノムもしくはエピソーム性作用物質として(そのため、PCRプロトコルによってウイルス核酸配列の存在が示される可能性はあるものの、ウイルス粒子を細胞質で発見することはできない)、または感染性でかつ連続的に複製する作用物質として、真に潜伏性の非感染性の不顕性型で存在する可能性がある。再活性化したウイルスは、易罹患性の接触の中で拡大し、および大流行を起こす可能性がある。「潜伏感染」の存在は、植物における「寛容性がある」表現型の存在と区別することができない。
【0045】
「易罹患性がある」という用語は、ウイルスに対する抵抗性を有さず、結果的にウイルスの植物細胞内への侵入、ならびにウイルスの増大および全身拡大を引き起こし、その結果、病状を引き起こす植物を指すために本明細書において用いられる。したがって、「易罹患性がある」という用語は、「非抵抗性である」と等価である。易罹患性の細胞は、感染直後に、その細胞で正常なウイルス力価を示す。したがって、易罹患性を、植物の感染量のウイルスに対する曝露の直後に、植物の細胞内の正常な(すなわち、植物内のその他のウイルス感染と比較して)力価のウイルス粒子または正常な力価のウイルスRNAの存在、および正常な病状(すなわち、ToTVが最初に単離された植物について本明細書において記載されたような病状と比較して)の存在を立証することによって判定してもよい。
【0046】
「感受性がある」という用語は、ウイルス感染直後の易罹患性の植物の症状反応を反映する。反応または症状は、植物の感受性のレベルに応じて、多少なりとも重症であることができる。植物がウイルスによって傷付けられ、または殺されすらする場合、植物は「感受性がある」とみなされる。
【0047】
弱毒化したウイルス系統を人為的に接種した植物は、その後、近縁関係にある毒性ウイルスから保護される。保護ウイルスとして、天然の弱い系統か、または弱毒化した系統(人為的に誘導した弱い突然変異体)かのいずれかを使用してもよい。好ましくは、植物のToTVに対する相関免疫を獲得するために、無症状であるToTVの弱毒化した系統、またはToTVの毒性系統と比較して、感染した植物内で少なくとも低下した症状発現を示すToTVの弱毒化した系統を使用してもよい。弱毒化したウイルスを産生する方法は、例えばToTVゲノムのランダム突然変異導入および症状減弱のある系統のスクリーニングを含んでもよい。Takeshitaら、 2001;Luら、2001;Hagiwaraら、2002;およびHirataら、2003の論文に記載されたような弱毒化した植物ウイルスを産生するための方法に明確に言及する。
【0048】
本明細書において用いられる場合、「トマト」という用語は、下の表に示されたものを含むが、それらに限定されない、リコペルシコンまたはソラヌムの任意の植物、株、または個体群を意味する。最近、リコペルシコンの命名法が変わった。
【0049】
リコペルシコンの新しい命名法を以下の表(Peralta, Knapp & Spooner、未発表論文(以下を参照:http://www.sgn.cornell.edu「Guide to revised Solanum nomenclature」))に示す。

【0050】
「発現ベクター」は、宿主細胞で発現する、遺伝子、通常は異種遺伝子、を含む核酸分子として定義される。典型的には、この遺伝子は、タンパク質をコードする遺伝子を含む。遺伝子発現は常にプロモーターの制御下に置かれ、およびそのような遺伝子はプロモーター「に機能的に連結される」といわれている。「異種の」という用語は、所与の宿主細胞内には天然で存在しない、DNA分子、またはDNA分子の集団を指す。
【0051】
本明細書において用いられる場合、「ポリヌクレオチド」という用語は、「核酸」という用語と互換的であり、ならびに任意の数のヌクレオチド、例えば、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチド、または合成により産生した化合物(例えば、米国特許第5,948,902号およびそこで引用された参照に記載されたようなPNA)、を有するヌクレオチド多量体またはポリマー型のヌクレオチドを指し、ならびに2本鎖または1本鎖のいずれかであることができる。ポリヌクレオチドは、2つの天然のポリヌクレオチドの様式と類似した配列特異的な様式で天然のポリヌクレオチドとハイブリダイズすることができ、例えば、Watson-Crickの塩基対相互作用に与ることができる。本用語はまた、例えばメチル化および/またはキャッピングによる、修飾型のポリヌクレオチド、ならびに非修飾型のポリヌクレオチドを含む。
【0052】
本明細書において用いられる場合、「リボ核酸」または「RNA」という用語は、リボヌクレオチドから構成されるポリマーを意味する。
【0053】
本明細書において用いられる場合、「デオキシリボ核酸」または「DNA」という用語は、デオキシリボヌクレオチドから構成されるポリマーを意味する。
【0054】
「オリゴヌクレオチド」という用語は、リン結合(例えば、ホスホジエステル、アルキルリン酸およびアリルリン酸、ホスホロチオアート)によって、または非リン結合(ペプチド、スルファマート、およびその他)によって連結された短い配列のヌクレオチド単量体(通常6〜100ヌクレオチド)を指す。オリゴヌクレオチドは、修飾塩基(例えば、5'メチルシトシン)ならびに修飾糖基(2'-O-メチルリボシル、2'-O-メトキシエチルリボシル、2'-フルオロリボシル、2'-アミノリボシル、およびそれらと同様のもの)を有する修飾ヌクレオチドを含んでもよい。オリゴヌクレオチドは、環状、分岐状、または線状で、かつ2次構造(例えば、ステムループ構造、シュードノット構造、およびキッシングループ構造)を形成することができるドメインを任意で含む2本鎖および1本鎖のDNAならびに2本鎖および1本鎖のRNAの天然分子または合成分子であってもよい。
【0055】
本明細書において用いられる場合、「ヌクレオチド配列相同性」という用語は、2つの
ポリヌクレオチド間の相同性の存在を示す。最大限の一致を求めてアラインした時、2つの配列中のヌクレオチドの配列が同じならば、ポリヌクレオチドは「相同な」配列を有する。2つまたはそれより多くのポリヌクレオチド間の配列比較は、比較ウィンドウの全体にわたって2つの配列の部分を比較し、配列が類似している局所領域を同定および比較することによって通常行われる。比較ウィンドウは、通常約20〜200の連続したヌクレオチドである。50、60、70、80、90、95、98、99、または100パーセントの配列相同性などの、ポリヌクレオチドについての「配列相同性のパーセンテージ」を、比較ウィンドウの中のポリヌクレオチド配列の部分が、2つの配列の最適アラインメントのための(付加または欠失を含まない)参照配列と比べて、付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含み得る、比較ウィンドウの全体にわたって2つの最適にアラインされた配列を比較することによって決定してもよい。パーセンテージを以下によって計算する:(a)同一の核酸塩基が両方の配列で生じる位置の数を決定して、一致した位置の数を得;(b)一致した位置の数を比較のウィンドウ中の位置の総数で割り;および(c)結果に100を掛け、配列相同性のパーセンテージを得る。比較のための配列の最適アラインメントを、公知のアルゴリズムのコンピュータ化した装置によって、または目視点検によって実行してもよい。すぐに利用可能な配列比較アルゴリズムおよび多重配列アラインメントアルゴリズムは、それぞれ基本局所アラインメント検索ツール(BLAST)(Altschulら、1990;Altschulら、1997)プログラムおよびClustalWプログラムであり、両方ともインターネット上で利用可能である。その他の好適なプログラムには、Wisconsin Genetics Software Package(Genetics Computer Group (GCG), Madison, WI, USA)(Devereuxら、1984)の中のGAP、BestFit、PlotSimilarity、およびFASTAが含まれるが、これらに限定されない。
【0056】
本明細書において用いられる場合、「実質的に相補的である」とは、2つの核酸配列が互いに対して、少なくとも約65%、好ましくは少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約90%、および最も好ましくは少なくとも約98%の配列相補性を有することを意味する。このことは、プライマーおよびプローブがそれぞれ、それらの鋳型および標的核酸に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするのに十分な相補性を示さなければならないということを意味する。したがって、プライマー配列およびプローブ配列は、鋳型上の結合領域の正確な相補的配列を反映する必要がなく、ならびに縮重プライマーを使用することができる。例えば、非相補的なヌクレオチド断片をプライマーの5'末端に付着させ、残りのプライマー配列を鎖に相補的にしてもよい。あるいは、プライマーが、それと共にハイブリダイズし、およびそれによって重合媒体により伸長され得る2重鎖構造を形成するのに十分な増幅されるべき一方の鎖の配列との相補性を有するならば、非相補的な塩基またはより長い配列をプライマー中に散在させることができる。プライマーの非相補的ヌクレオチド配列は、制限酵素部位を含んでもよい。制限酵素部位を標的配列の末端に付加することは、標的配列のクローン化に特に役立つと考えられる。実質的に相補的なプライマー配列は、プライマー結合および第2鎖合成をもたらすのに十分な増幅鋳型に対する配列相補性を有する配列である。当業者は、増幅鋳型に対する十分な配列相補性を有するためにプライマーに必要なものに精通している。
【0057】
核酸との関連における「ハイブリッド」という用語は、相補的なヌクレオチド塩基間の水素結合で形成される2本鎖核酸分子、または2重鎖を指す。「ハイブリダイズする」または「アニールする」という用語は、1本鎖の核酸配列が相補的な塩基間の水素結合を通じて2重らせん部分を形成する過程を指す。
【0058】
植物育種との関連における「ハイブリッド」という用語は、異なる株または品種または種の植物を交配することによって産生される遺伝的に類似していない親の子孫である植物を指す。
【0059】
「プローブ」という用語は、標的核酸配列分析物またはそのcDNA誘導体における相補的配列との水素結合2重鎖を認識および形成する1本鎖オリゴヌクレオチド配列を指す。
【0060】
本明細書において用いられる場合、「プライマー」という用語は、増幅標的にアニールすることができ、DNAポリメラーゼを付着させ、それによって、プライマー伸長産物の合成が誘導される条件下で、すなわち、ヌクレオチドおよびDNAポリメラーゼなどの重合のための作用物質の存在下で、ならびに好適な温度およびpHで、DNA合成の開始の地点として役に立つオリゴヌクレオチドを指す。(増幅)プライマーは、増幅における最大効率のために、好ましくは1本鎖である。好ましくは、プライマーはオリゴデオキシリボヌクレオチドである。プライマーは、重合のための作用物質の存在下で伸長産物の合成を開始するために十分に長くなければならない。プライマーの正確な長さは、温度およびプライマーの組成(A/TおよびG/C含有量)を含む、多くの要因に依存すると考えられる。1対の2方向のプライマーは、PCR増幅などのDNA増幅の技術分野において一般に使用されるような1つのフォワードプライマーおよび1つのリバースプライマーからなる。
【0061】
本明細書において用いられる場合、「プライマー」は、特に増幅されるべき標的領域の末端配列に関する情報に若干の曖昧さがある場合には、複数のプライマーを指してもよいということが理解されると考えられる。したがって、「プライマー」は、配列におけるあり得る変化を表す配列を含むプライマーオリゴヌクレオチドの集まったものを含み、または典型的な塩基対合を可能にするヌクレオチドを含む。
【0062】
オリゴヌクレオチドプライマーを任意の好適な方法で調製してもよい。特定の配列のオリゴヌクレオチドを調製するための方法は、当技術分野において公知であり、ならびに例えば、適切な配列のクローン化および制限、ならびに直接的な化学合成を含む。化学合成法は、例えば、ホスホジエステル法またはホスホトリエステル法、ジエチルホスホロアミダート法、および例えば米国特許第4,458,066号に開示された固体支持体法を含んでもよい。プライマーは、望ましい場合には、例えば、分光学的方法、蛍光法、光化学的方法、生化学的方法、免疫化学的方法、または化学的方法によって検出可能な手段を取り込ませることによって、標識してもよい。
【0063】
オリゴヌクレオチドプライマーの鋳型依存的伸長は、適切な塩、金属陽イオン、およびpH緩衝化系から構成される反応媒体中で、十分な量の4つのデオキシリボヌクレオチド3リン酸(dATP、dGTP、dCTP、dTTP、すなわち、dNTP)または類似体の存在下で、重合化剤によって触媒される。好適な重合作用物質は、プライマーおよび鋳型依存的なDNA合成を触媒することが公知の酵素である。公知のDNAポリメラーゼは、例えば、大腸菌(E. coli)DNAポリメラーゼIまたはそのKlenow断片、T4 DNAポリメラーゼ、およびTaq DNAポリメラーゼを含む。これらのDNAポリメラーゼでDNA合成を触媒するための反応条件は、当技術分野において公知である。
【0064】
合成の産物は、標的配列を含む、鋳型鎖およびプライマー伸長鎖からなる2重鎖分子である。これらの産物は、今度は、別のラウンドの複製のための鋳型として働く。第2ラウンドの複製において、第1サイクルのプライマー伸長鎖はその相補的プライマーとアニールし;合成によって、プライマー配列またはその相補物が5'末端および3'末端の両方に結合した「短い」産物が産出される。変性、プライマーアニーリング、および伸長というサイクルの反復によって、プライマーにより範囲が限定された標的領域の指数関数的蓄積がもたらされる。標的領域の核酸を含む所望の量のポリヌクレオチドを獲得するために十分なサイクルを回す。所望の量は変化してもよく、および産物のポリヌクレオチドが果たすべき機能によって決定される。
【0065】
PCR法は、入門書に詳しく記載されており、かつ当業者に公知である。
【0066】
PCRによる増幅の後、標的ポリヌクレオチドを、ストリンジェントから適度にストリンジェントなハイブリダイゼーションおよび洗浄条件下で、標的配列のポリヌクレオチドと安定なハイブリッド形成するプローブポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションによって検出してもよい。プローブが標的配列と実質的に完全に相補的(すなわち、約99%またはそれを上回る)であることが期待される場合、ストリンジェントな条件を用いる。幾らかのミスマッチが期待される場合、例えば変異系統が、プローブが完全には相補的でないという結果を伴うと期待される場合、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを下げてもよい。しかしながら、非特異的/偶発的結合を排除する条件を選ぶ。ハイブリダイゼーションに影響を及ぼす条件、および非特異的結合に抗して選択する条件は、当技術分野において公知であり、ならびに例えば、Sambrookら(2001)に記載されている。通常、より低い塩濃度およびより高い温度によって、結合のストリンジェンシーは増加する。例えば、通例、ストリンジェントな条件とは、約65℃のインキュベーション/洗浄温度における、およそ0.1×SSC、0.1% SDSを含む溶液中でのインキュベーションであり、ならびに適度にストリンジェントな条件とは、およそ1〜2×SSC、0.1% SDSを含む溶液中でのインキュベーションおよび約50℃〜65℃のインキュベーション/洗浄温度であると考えられている。低いストリンジェンシー条件は、2×SSCおよび約30℃〜50℃である。
【0067】
「ストリンジェンシー」または「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」という用語は、例えば、温度、塩濃度、pH、ホルムアミド濃度、およびそれらと同様のものなどの、ハイブリッドの安定性に影響を及ぼすハイブリダイゼーション条件を指す。これらの条件を、その標的核酸配列に対するプライマーまたはプローブの特異的結合を最大化し、および非特異的結合を最小化するように実験的に最適化する。用いられる場合、本用語は、プローブまたはプライマーが、その他の配列よりも検出可能なほどに大きい程度(例えば、バックグラウンドに対して少なくとも2倍)、その標的配列にハイブリダイズする条件に対する参照を含む。ストリンジェントな条件は配列依存的であり、かつ異なる状況においては異なると考えられる。より長い配列は、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。通常、ストリンジェントな条件を、規定のイオン強度およびpHにおける特定の配列にとっての熱融解点(Tm)よりも約5℃低くなるように選択する。Tmは、相補的な標的配列の50%が完全に一致したプローブまたはプライマーにハイブリダイズする(規定のイオン強度およびpHにおける)温度である。典型的には、ストリンジェントな条件は、塩濃度が、pH 7.0〜8.3において、約1.0M未満のNa+イオン濃度、典型的には約0.01〜1.0MのNa+イオン濃度(またはその他の塩)で、かつ温度が、短いプローブまたはプライマー(例えば、10〜50ヌクレオチド)については少なくとも約30℃で、および長いプローブまたはプライマー(例えば、50を超えるヌクレオチド)については少なくとも約60℃である条件であると考えられる。また、ストリンジェントな条件を、ホルムアミドなどの不安定化剤の添加によって達成してもよい。例示的な低ストリンジェントな条件または「低下したストリンジェンシーの条件」は、37℃での30%ホルムアミド、1M NaCl、1%SDSという緩衝剤溶液によるハイブリダイゼーションおよび40℃での2×SSCにおける洗浄を含む。例示的な高ストリンジェントな条件は、37℃での50%ホルムアミド、1M NaCl、1%SDSにおけるハイブリダイゼーション、および60℃における0.1×SSCでの洗浄を含む。ハイブリダイゼーションの手順は当技術分野において周知であり、ならびに例えば、Ausubelら、1998およびSambrookら、2001によって記載されている。
【0068】
「抗原」という用語は、脊椎動物における免疫反応を誘発し、物質に対する防御の一部としての抗体の産生をもたらすことができる物質を指す。抗原は、例えば、脊椎動物の血液細胞、リンパ節の細胞、および脾臓での抗体産生を引き起こすことができるウイルスタンパク質であることができる。
【0069】
「抗体」という用語は、抗体結合ペプチドに対する参照を含み、および抗体、モノクローナル抗体を指し、免疫グロブリン全体もしくは抗体全体、または免疫グロブリン分子の任意の機能断片を指す。そのようなペプチドの例として、完全な抗体分子、Fab、F(ab')2、相補性決定領域(CDR)、VL(軽鎖可変領域)、VH(重鎖可変領域)などの、抗体断片、およびそれらの任意の組み合わせまたは抗体ペプチドの任意のその他の機能部分が含まれる。「抗体」という用語は、分析物(抗原)を特異的に結合および認識する1つもしくは複数の免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコードされるポリペプチド、またはその断片を指す。しかしながら、様々な抗体断片をインタクト抗体の消化の点から定義することができるものの、そのような断片を、化学的にかまたは組換えDNA方法論を利用することによってかのいずれかでデノボで合成してもよいということを当業者は正しく理解すると考えられる。したがって、本明細書において用いられる場合、抗体という用語はまた、単鎖Fv、キメラ抗体(すなわち、異なる種由来の定常領域および可変領域を含む)、ヒト化抗体(すなわち、非ヒト源由来の相補性決定領域(CDR)を含む)、および異種接合抗体(例えば、二重特異性抗体)などの抗体断片を含む。
【0070】
「実質的に純粋な」または「単離された」という用語は、互換的に用いられ、および天然ではそれに付随するその他の細胞(以下の)構成要素から実質的に分離されたタンパク質、ペプチド、または核酸を記載する。本用語は、その天然の環境から取り除かれた核酸またはタンパク質を包含し、ならびに組換えDNA単離体またはクローン化DNA単離体、および化学的に合成した類似体または異種系によって生物学的に合成された類似体を含む。通常、本用語は、少なくとも約75重量%、例えば、85重量%、95重量%、または98重量%の純度を有する精製タンパク質および精製核酸を指す。マイナー変異体または化学的修飾体は、典型的には同じポリペプチド配列またはヌクレオチド配列を共有する。実質的に純粋なタンパク質または核酸は、典型的には約85〜100%(w/w)のタンパク質試料または核酸試料、より一般的には約95%のタンパク質試料または核酸試料を含み、および好ましくは約99%を上回る純度であると考えられる。タンパク質または核酸の純度または均一度を、タンパク質試料のポリアクリルアミド電気泳動、その後の染色によるポリアクリルアミドゲル上の単一ポリペプチドバンドの可視化などの、当技術分野において周知の多数の手段によって、または核酸試料のアガロースゲル電気泳動、その後の染色によるアガロースゲル上の単一ポリヌクレオチドバンドの可視化によって、示すことができる。「染色」は、銀染色およびクマシー染色、もしくはエチジウムブロマイド染色およびSYBR(登録商標)染色などの特異的なタンパク質染色もしくは核酸染色の使用を指すか、またはタンパク質もしくはペプチドの場合には、ペプチドを抗体と接触させること、および標識された2次抗体(例えば、アルカリホスファターゼに結合した)を使用して抗体を可視化すること、もしくは核酸を、核酸とプローブの間のハイブリダイゼーションの存在を可視化するために標識された相補的プローブと接触させることなどの特異的なタンパク質染色もしくは核酸染色の使用を指すかのいずれかであってもよい。特定の目的のために、精製用の高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)または同様の手段を用いることによって、より高い解像度を提供することができる。そのような方法は、共通の一般的知識の範囲にある(例えば、Katzら、1998参照)。
【0071】
同定および分類法
本発明は、少なくとも1つのSEQ ID NO:1および/またはSEQ ID NO:2による核酸配列ならびにそれに対して少なくとも30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、または好ましくは65%のヌクレオチド配列相同性を有する配列を含む単離されたウイルスを提供する。上で述べられたように、最大限の一致を求めてアラインした時、2つの配列中のヌクレオチドの配列が同じならば、ポリヌクレオチドは「相同な」配列を有する。ToTVウイルス単離体から得られたヌクレオチド配列を用いたBLAST検索は、GenBankデータベースおよびEMBLデータベース中の公知のウイルスまたは非ウイルス配列のいずれとも顕著な相同性を示さなかった。これまでに発見された最高のパーセンテージの相同性は、ToTV RNA1に対応するSEQ ID NO:2上のORF1中のヘリカーゼモチーフとその他の植物ウイルスのヘリカーゼモチーフとの間の46.5%であった。(以下の実施例参照)。
【0072】
2つの長いヌクレオチド配列を比較する場合に局所領域の配列類似性をしばしば発見することができるので、小さい比較ウィンドウの全体にわたって2つの配列を比較する場合に相同性が大きくなる可能性があるということが理解されるべきである。しかしながら、配列相同性には、配列同一性が局所的には35〜100%の高さであり得るが、同じORFのゲノム配列のその他の部分では10〜20%の低さであり得る、配列間の共通のモチーフの確立が必要であるということを当業者は承知している。したがって、ある配列が、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2に対して少なくとも50%のヌクレオチド配列相同性を有するという言及が本明細書においてなされた場合、これは、相同性が最も大きい、共通モチーフの中の領域間の配列相同性だけでなく、2つの相同なタンパク質のコード配列間の配列相同性を指してもよい。配列相同性がゲノム中の様々な遺伝子間で異なってもよいということに留意されたい(実施例参照)。
【0073】
新たに同定されたToTVウイルス単離体と(それと比較すべきウイルスを含む)その他のウイルスの間の関連を示唆するものとして、通常、ウイルスのゲノム配列情報(の一部)に基づいて、系統発生学的解析を行ってもよい。
【0074】
幾つかのそのような解析を以下の実施例で提示した。これまでに得られた情報によって、ToTVがセキウイルス(Sequivirus)属およびワイカウイルス(Waikavirus)属(セキウイルス科(Sequiviridae))ならびにチェラウイルス(Cheravirus)属およびサドワウイルス(Sadwavirus)属由来のウイルスと最も高いレベルの相同性を示すことが示唆されている。これらの属由来のウイルスは、ウイルスRNAの数−チェラウイルスおよびサドワウイルスは2本のRNAを有する一方、セキウイルス科は1本のRNAを有する−ならびにカプシドタンパク質の数−サドワウイルスは2つのCP、チェラウイルスは3つのCP、基づいて区別されている。これらの基準によって、トマトトラードウイルスはチェラウイルス属の一員になる可能性が最も高いことが示唆されるが、RdRpと推定されるタンパク質およびヘリカーゼタンパク質由来の幾つかの異なるモチーフを用いた系統発生学的解析によって、ToTVの位置はチェラウイルス属およびサドワウイルス属からは明らかに離れていることが示唆され、ならびに実際それはセキウイルス科とより近縁関係にあることが示唆されている。残念なことに、ただ1つのチェラウイルス(CRLV)ならびに2つのサドワウイルス(SDVおよびSMoV)由来の全配列が現在入手可能である。ベクター伝播に関する予備的なデータにより、CRLVおよびサドワウイルスの天然のベクターは未知であるものの、ToTVがコナジラミによって伝播される可能性があることが示唆されている。下の、表1に提示したようなさらなる分類学的情報だけでなく、配列情報をも含む、現在入手可能な情報に基づいて、新たに発見されたウイルスは新規の属である可能性が最も高い。
【0075】
(表1)新たに発見されたToTVウイルスについての分類学的記述子(入門書「Matthew's Plant Virology」(「Matthew's Plant Virology、第4版、Roger Hull(編)」、Academic Press、San Diego、15頁、その中の表2.1)からの国際的に認められた方法によって記載された通り)(下の表1では、Matthewの書における表の番号付けに従った。)


【0076】
「チョコレート斑点病」、「チョコレート」、または「マルチテス」という名前の中央アメリカ(例えば、メキシコおよびグアテマラ)におけるトマト病の関連ウイルスのゲノム配列が、本明細書において記載されたToTVのゲノム配列と同一であるということが本発明者らによって最近発見された(実施例2参照)。したがって、この病気と関連した原因となる作用物質は本発明の局面である。
【0077】
それと近縁関係にある可能性があり、もしくは近縁関係にない可能性がある非ToTVウイルス由来の、またはToTVウイルスと近縁関係にあり、もしくは実質的にToTVのようであるウイルス由来の両方の、より多くのウイルス配列が入手可能になるにつれて、系統発生学的解析が、単離体間の系統発生学的関係に基づいて分類群または分岐群の幅を決定する利用価値のある方法であることが分かると考えられる。
【0078】
系統発生学的関係は、例えば、ウイルスゲノムのRNA1および/もしくはRNA2のヌクレオチド配列の任意の1つもしくは全てに基づいて、またはカプシドタンパク質(遺伝子)配列データに基づいて、決定してもよい。系統発生学的解析は当業者に周知であり、および例えば、ClustalX(Thompsonら、1997)、PAUP(Swofford、2000)、またはPHYLIP(Felsenstein、1989)のようなプログラムを用いることによる距離に基づく樹の再構築法(例えば、近隣結合法)、最大尤度法、または節約解析法による解析を含んでもよい。
【0079】
新規の単離体と、本明細書において提供されたようなToTVの配列と、例えば、GenBank、EMBL、またはDDBJデータベースからのウイルス系統由来の参照配列との間の系統発生学的関係の解析を行うために、新規の単離体由来のゲノムRNAを感染植物から直接抽出してもよく、およびゲノム配列をそこから増幅してもよい。PCR増幅法を伴う逆転写(RT-PCR)を、例えば縮重オリゴヌクレオチドプライマーを用いて実施してもよく、そのようなプライマーは、例えば分岐的なToTV単離体のゲノム由来の核酸配列の増幅用の増幅プライマーとしてだけではなく、近縁関係にあるウイルス種のゲノム由来の核酸配列の増幅用の増幅プライマーとしても作用することができる。好ましくは、全長ゲノムの増幅産物を、参照系統(例えば、分岐的単離体)、被検系統(ToTVと疑われる単離体)、および近縁関係にある種から得てもよいが、必ずしもそうする必要はない。好ましくは、比較のために関心対象の特定の遺伝的領域を増幅する。その後、増幅産物(DNA)を、例えば、RT-PCRに用いられる縮重オリゴヌクレオチドプライマーと共に蛍光標識したジデオキシヌクレオチドターミネーター(Smithら、1986)を用いる直接的な2本鎖ヌクレオチドシークエンシングによってシークエンスしてもよい。ヌクレオチド配列の編集、解析、任意でのアミノ酸配列の予測、およびアラインメントを、LaserGene配列解析パッケージバージョン5(DNASTAR社, Madison, Wis.)およびIntelliGenetics Gene Worksバージョン2.5.1(IntelliGenetics, Mountain View, Calif.)ソフトウェアでのように、入手可能なソフトウェアパッケージで実施してもよい。その後、例えば、発見的探索および1000回のブートストラップ反復の後に絶対距離を用いる近隣結合アルゴリズムと共に節約(PAUP)ソフトウェアを用いる系統発生学的解析によって系統発生学的解析を完成してもよく、ならびにアラインした連続的ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の節約解析によって系統樹を作成してもよく、そのような樹において数字は通常、ブートストラップ信頼性のレベルを表す。任意で好適な外集団の種に対して根を張ることによって分岐を改善し得る樹が十分に分岐しているならば、1000回の反復の後、系統樹における、60%を上回る、好ましくは約70%を上回る、より好ましくは約80%、90%、95%、または98%を上回る信頼性のレベルが正しい系統発生学的推論(ある分岐群に単離体を置くこと)の十分な証明であるとみなされるべきである。このようにして、どの単離体が、本明細書において提供されたようなToTV配列と最も近縁関係にあるのかを決定することができる。通常、本明細書において配列相同性と呼ばれる、配列類似率の点から、関係を表現する。
【0080】
公知のウイルスとの十分な核酸相同性がある場合、系統発生学的解析は、ウイルスを同定する簡便な方法を提供するが、ウイルスもしくはウイルスタンパク質またはウイルス由来の核酸を同定するための、少々より雑ではあるが、より直接的な可能性のある幾つかのその他の方法もまた、本明細書において提供される。大雑把に言えば、ToTVウイルスを、配列によって本明細書において同定されたウイルスタンパク質またはウイルス核酸と比べた同定すべきウイルスタンパク質またはウイルス核酸の相同性の割合によって同定することができる。ウイルス種、とりわけRNAウイルス種は、ウイルスの集団がそのメンバー間で不均一性を示す準種を構成することが一般に公知である。したがって、各々の単離体が、本明細書において提供された単離体の配列と少々異なる相同性割合を有する可能性があることが期待される。それゆえに、ToTVに対する十分な配列相同性(例えば、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、または99%の配列相同性)を示すその他のウイルス単離体は、同じウイルスに属すると考えられる。それゆえに、本発明のToTVウイルスは、本明細書において提供されたタンパク質配列または核酸配列との少なくとも50または60%の相同性、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも98%、および最も好ましくは少なくとも99%の相同性を有し、ならびにナス科において、より好ましくは、ソラヌムおよびニコティアナにおいて、病気-症状が本明細書において記載されたものと類似している可能性があり、または類似していない可能性がある、ToTVが誘導する病気-症状を引き起こす。ウリ科において、本ウイルスは、植物中で繁殖することはできるものの、目に見える症状を引き起こさないように見える。
【0081】
個々のウイルス単離体を本明細書において記載されたタンパク質配列または核酸配列と比較したい場合に、本発明は、個々のウイルス単離体のタンパク質配列または核酸配列を決定すること、ならびにタンパク質配列または核酸配列が、本明細書に掲載したような配列に対して少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも98%、および最も好ましくは99%の配列相同性の割合を有することを決定することによって、系統発生学的にToTVに対応するものとして同定可能な単離されたウイルス(ToTV)を提供する。
【0082】
これらに述べた最大値よりも高い相同性がある個々のタンパク質または核酸を有するウイルス単離体は、系統発生学的にToTVウイルスに対応し、およびしたがって分類学的にToTVウイルスに対応すると考えられ、ならびにタンパク質は、本明細書において掲載された配列と構造的に対応する核酸配列によってコードされると考えられる。これにより、本発明は、配列が本明細書に掲載された単離されたウイルスに系統発生学的に対応するウイルスを提供する。
【0083】
その他のウイルスと同様に、異なる源から単離されたToTVウイルス間で、ある程度の多様性が見られることが期待され得るということに留意すべきである。
【0084】
また、本明細書において提供されたようなToTVウイルスのヌクレオチド配列もしくはアミノ酸配列またはその断片は、例えば、任意の非ToTVウイルスもしくは最も近縁親類のそれぞれのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列との、95%未満、好ましくは90%未満、より好ましくは80%未満、より好ましくは70%未満、および最も好ましくは60%未満のヌクレオチド配列相同性、または95%未満、好ましくは90%未満、より好ましくは80%未満、より好ましくは70%未満、および最も好ましくは60%未満のアミノ酸配列相同性を示す。
【0085】
世界中のToTV株の配列分岐は、その他の植物ウイルスと同様に、幾分より高くてもよい。
【0086】
本発明は、ウイルスのゲノムの好適な断片の核酸配列を決定すること、およびそれを例えば上で記載されたような1000回のブートストラップを用いて最大尤度の樹を作成する系統発生学的解析で検査すること、およびそれが、非ToTV参照系統または最も近縁親類のウイルス単離体に関係しているよりもToTVに対して本明細書において掲載されたような、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2の配列を含むウイルス単離体に系統発生学的に近縁関係にあるということを発見することによって、系統発生学的にそれと対応するものとして同定可能な単離されたウイルス(ToTV)を提供する。
【0087】
そのような系統発生学的解析に各々有用な好適な核酸ゲノム断片は、例えば実施例において記載されたような(それぞれ本明細書においてRNA2およびRNA1と呼ばれる)5.5kbまたは8kbのRNA断片の核酸配列の任意の部分である。
【0088】
このToTVウイルスの配列の提供と共に、本発明は、試料中のToTVウイルスの検出において利用されるべき診断手段および診断方法を提供する。好ましくは、ToTVウイルスの検出を、ToTVウイルスに対して最も特異的である試薬で行う。しかしながら、例えば、それらはより簡単に入手しやすく、かつ手元の仕事に対処するには十分であるので、このことは、特異性はより低いが、十分に交差反応性のある試薬を代わりに使用するという可能性を排除しない。
【0089】
本発明は例えば、植物、好ましくはトマト植物、より好ましくはトマト種の植物におけるToTVウイルスの存在を検出するための方法を提供する。本方法は例えば、試料を本発明によるToTV特異的な核酸または抗体と反応させることにより、試料におけるToTVウイルスまたはその構成要素の存在を決定する工程を含んでもよい。指示植物の接触感染も、被検植物におけるウイルスの存在を検出するための好適な方法であるけれども。
【0090】
本発明は、(本明細書においてToTVウイルスとも呼ばれる)新規の単離されたウイルスの部分ヌクレオチド配列およびToTVウイルス特異的構成要素またはその合成類似体を提供する。本明細書において提供された配列に対する追加のToTVウイルスのゲノム配列を、当業者に公知のシークエンシング法によって決定してもよい。今や本発明が、ToTVウイルスだけでなく、その部分ゲノム配列も提供しているので、ゲノム配列の決定は当業者に十分手が届く範囲にある。これらの方法は例えば、下の実施例で記載された方法を含む。一般に、そのようなシークエンシング法は、核酸単離処理によるウイルスゲノム核酸の単離、および任意でDNAへのRNAの逆転写が先立つ例えばジデオキシ鎖終結法(Sangerら、1977)による、単離された核酸のヌクレオチド配列の決定を含む。
【0091】
本発明はとりわけ、本発明によるウイルスから得られる単離された核酸もしくは組換え核酸またはそのウイルス特異的機能断片を提供する。単離された核酸または組換え核酸は、本明細書において掲載されたような配列、またはストリンジェントな条件下でそれらとハイブリダイズすることができる、相同体の配列を含む。特に、本発明は、ToTVウイルス核酸を同定するのに好適なプライマーおよび/またはプローブを含む。ToTVウイルスの核酸配列にハイブリダイズすることができるさらなるプローブおよびプライマーを、当業者に公知の方法によって開発してもよい。
【0092】
発現ベクターおよびウイルスをコードする遺伝子の発現
さらに、本発明は、本発明による核酸を含む発現ベクターに関する。まず始めに、2本鎖配列のToTVウイルスゲノム(の一部)を含むプラスミドベクター、ToTVのゲノム(の一部)を含むウイルスベクター(例えば、ワクシニアウイルス、レトロウイルス、バキュロウイルスであるが、これらに限定されない)、またはその他のウイルスもしくはその他の病原体のゲノム(の一部)を含むToTVウイルスなどの発現ベクターが本発明の一部である。
【0093】
発現ベクターは、プロモーターなどの、調節エレメントの制御下にある、または調節エレメントに機能的に連結される、ToTVゲノム配列またはその部分を含んでもよい。プロモーターと称されるDNAの部分は、DNAのmRNAへの転写の調節の原因である。発現ベクターは、植物細胞、真菌細胞、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞、またはその他の真核細胞における、遺伝子の発現、好ましくはウイルスタンパク質をコードする遺伝子の発現に好適な1つまたは複数のプロモーターを含んでもよい。本発明の発現ベクターは、遺伝子発現系におけるウイルスの抗原を提供するのに非常に有用である。
【0094】
また、本発明は、本発明による核酸または発現ベクターを含む宿主細胞に関する。ToTVウイルスのタンパク質構成要素をコードする核酸を含むプラスミドベクターまたはウイルスベクターを、関連のある細胞型(植物細胞、真菌細胞、細菌細胞、昆虫細胞、植物細胞、またはその他の真核細胞)での構成要素の発現のために原核細胞において作製してもよい。ToTVウイルスゲノムの全長コピーまたは部分コピーを含むプラスミドベクターまたはウイルスベクターを、インビトロまたはインビボでのウイルス核酸の発現のために原核細胞において作製してもよい。
【0095】
ToTVの単離または精製のための方法
ToTVウイルスを、任意の利用可能な方法によって、感染した植物またはその他の源から単離してもよい。単離には、好適な源からToTVウイルス粒子を精製する工程または部分精製する工程が含まれてもよい。広範な方法がウイルスの単離および精製に利用可能である(例えば、DijkstraおよびDe Jager、1998を参照)。例えば、ToTVの単離を、(有機溶媒の助けを借りて)例えば、ネポウイルスまたはルテオウイルスのための標準手順を用いるによって行ってもよい(例えば、Walker、2004参照)。そのようなプロトコルはウイルスの感染性の損失をもたらす可能性があるが、これらの手順は、その他の目的のためのウイルス物質を得るのに依然として有用である可能性がある。
【0096】
好ましくは、ウイルスの完全性を維持するために、穏やかな精製法を用いてToTVを精製する。そのような穏やかな精製法は、例えば、ホモジナイズ緩衝液(例えば、pH約8の0.1M TRIS-HCl、約20mMの硫酸ナトリウム[Na2SO3]、約10mMのジエチルジチオカルバメートナトリウム[Na-DIECA]、および5mMのエチレンジアミンテトラ酢酸ナトリウム(Na-EDTA)を含む)の中で(葉などの)感染した植物の物質をホモジナイズする工程、遠心分離(例えば、49,000gで30分)によって破片を分離する工程、上清を好適なショ糖クッション(例えば、20%)の上に置く工程、ならびに(例えば、70,000gで1.5時間の遠心分離によって)ウイルス粒子をペレット化する工程を含んでもよい。したがって、ウイルス粒子を含むペレットを好適な緩衝液で(例えば、TRIS-HCl、pH 8で)再懸濁してもよく、ショ糖勾配での密度遠心分離を用いることよって、ウイルスを含む分画を上清の残りから分離してもよい(例えば、10〜40%ショ糖を含むホモジナイズ緩衝液を110,000gで2時間、遠心分離した)。ウイルスを含む分画を、感染実験を用いることによって決定してもよい。硫酸セシウム勾配での密度遠心分離を用いることによって、さらなる精製が生じてもよい(例えば、TRIS-HCl、pH 8を含む10〜40%硫酸セシウム勾配を125,000gで16時間、遠心分離した)。その後、エンリッチされたウイルスのバンドを勾配から回収し、およびさらに遠心分離または(例えば、0.1M TRIS-HCl、pH 8に対する)透析によって濃縮してもよい。
【0097】
精製後のToTVの感染性を、感受性植物(例えば、N.エスペリス「67A」)への接種によって確認してもよい。
【0098】
ToTV関連タンパク質の精製およびアミノ酸シークエンシングのための方法
精製または部分精製したToTVウイルスを調製したならば、ウイルス関連タンパク質の実質的に純粋な調製物(例えば、ウイルスにコードされたタンパク質)を調製することが可能性ある。タンパク質精製に関する多数の方法および戦略が当技術分野において公知であるが、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル(SDS-PAGE)を用いる電気泳動によるか、または親和性クロマトグラフィーによるかのいずれかによって、ウイルス外被タンパク質などの、ToTVウイルスタンパク質を精製するのが最も簡便であると考えられる。これらの方法のそれぞれを下に記載する。
【0099】
ToTVの関心対象のタンパク質を、例えば、トリシン-SDS-PAGE(SchaggerおよびVon Jagow、1987)またはグリシン-SDS-PAGE(Laemmli、1970)を用いる電気泳動によって分離してもよい。ウイルス単離体に含まれ、またはそのゲノムから転写され、かつ好適な発現系で発現される様々なタンパク質を分離することができる、非変性ゲル電気泳動などの、その他の電気泳動系も、勿論利用してもよい。標的タンパク質を含むPAGEゲルの領域を切り出してもよく、および例えば、Elutrap(登録商標)装置(Schleicher & Schuell, Dassel, Germany)を用いることによって、標的ポリペプチドをそこから溶出してもよい。標的タンパク質を、ゲル中の参照ポリペプチドと比較したその移動度によって同定してもよい。純度を増加させるために、溶出したタンパク質を第2のSDS-PAGEゲル上で走らせ、および2度目の溶出をしてもよい。その後、切り出されたゲル断片に含まれるタンパク質またはペプチドは再び溶出されてもよく、および免疫における使用またはタンパク質シークエンシングにおける使用に好適である。
【0100】
また、ToTVの関心対象のタンパク質を、ToTVタンパク質に特異的に結合する(モノクローナル抗体などの)抗体を用いる親和性クロマトグラフィーによって精製してもよい。抗体を、支持体上の官能基および抗体分子上の官能基(すなわち、反応性アミノ酸側鎖)と反応する2官能性の共役剤を用いて、セルロース、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、架橋したデキストラン、ビーズ化したアガロース、または微細孔性ガラスなどの固体支持体に共有結合的に共役してもよい。そのような方法は、当業者に容易に利用可能である。結果として生じる抗体を保持する固相を、関心対象のタンパク質が固定化抗体に結合するのを可能にするpH、イオン強度、温度、および滞留時間を用いて、還元条件下で、精製または部分精製したウイルスと接触させる。ウイルスまたはタンパク質を、水素結合を解離する溶離液をベッドに通すことによって、カラムから溶出させる。特定のpHの緩衝液または約2Mを越えるNaCl溶液が、一般的に使用される溶離液である。
【0101】
(ウイルスのカプシドタンパク質などの)タンパク質の免疫親和性のためのその他の方法だけでなく、抗体を用いた親和性クロマトグラフィーを実行するための方法も、当技術分野において周知である(例えば、HarlowおよびLane、1988参照)。
【0102】
本明細書において提供された教示により、当業者は、ToTVのウイルス特異的タンパク質を単離することができ、例えば該タンパク質のN末端部分のアミノ酸配列を決定することができ、該タンパク質の領域をコードするDNAにハイブリダイズする1組の(遺伝コードの縮重用の)縮重プローブを設計することができ、プローブをウイルスから産生されたゲノムライブラリー中の遺伝子のアレイ上で使用することができ、陽性のハイブリダイゼーションを得ることができ、および対応する遺伝子を位置付けることができる。その後、当業者は、遺伝子の構造領域ならびに任意でその上流および下流の配列を同定することができる。その後、当業者は、タンパク質を形成するアミノ酸残基の正確な配列を立証することができる。
【0103】
抗体産生
モノクローナルかまたはポリクローナルかのいずれかの、抗体を、動物における抗原としてのタンパク質の注射を含む当技術分野の当業者に公知の様々な方法で、ハイブリドーマ融合によって、および細菌系またはファージ系が関与する組換え法によって、精製もしくは部分精製したToTVウイルスのタンパク質またはペプチド断片に対して作製することができる(その参照のそれぞれが好適な方法を開示している、Marksら、1992a; Marksら、1992b; Lowmanら、1991; Lernerら、1992を参照されたい)。
【0104】
ウイルス粒子、ウイルスのタンパク質またはペプチドに対する抗体を、粒子、タンパク質もしくはペプチド単独で、またはアジュバントと共に、適切な脊椎動物、好ましくは、例えば、ウサギ、ヤギ、ラット、ニワトリ、およびマウスなどの、哺乳動物宿主を免疫することによって産生してもよい。通常、2回またはそれより多くの免疫を伴うと考えられ、および最後の注射の数日後に血液または脾臓を採取すると考えられる。ポリクローナル抗血清については、免疫グロブリンを沈殿させ、単離し、および(親和性)精製してもよい。モノクローナル抗血清については、通常ハイブリドーマ用の選択的条件下で、脾細胞を不死化したリンパ球、例えば骨髄細胞系、と融合すると考えられる。その後、ハイブリドーマを限界希釈条件下でクローン化し、およびそれらの上清を、所望の特異性を有する抗体についてスクリーニングしてもよい。(モノクローナル)抗体を産生するための技術および様々な処置におけるそれらの調製および使用のための方法が、様々な文献において周知である(例えば、米国特許第4,381,292号、第4,451,570号、および第4,618,577号; HarlowおよびLane、1988; Ausubelら、1998; Roseら、1997; Coliganら、1997参照)。典型的には、ウイルス関連タンパク質を対象とする抗体は、少なくとも1×105〜1×107M-1の結合親和性を有すると考えられる。
【0105】
好適な発現系でタンパク質をコードするウイルスのゲノム配列を発現させることによって得られ得るような、ToTVウイルスに由来する組換えタンパク質が抗原として好ましい。しかしながら、精製タンパク質もまた使用してもよい。抗体検出に好適な抗原には、ToTVウイルスに曝露されたまたは感染した哺乳動物の任意のToTV特異的抗体と組み合わせた任意のToTVタンパク質が含まれる。本発明の好ましい抗原には、ToTVに曝露された哺乳動物で免疫反応をもたらし、それゆえに典型的には、哺乳動物の抗体によって最も容易に認識される抗原が含まれる。特に好ましい抗原には、ToTVのカプシドタンパク質が含まれる。精製ウイルス由来の構造タンパク質が最も好ましい。
【0106】
ゲノム配列をクローン化するための方法、ゲノム配列を発現ベクターにおよび発現ベクターから操作するための方法、ならびにゲノム配列によってコードされたタンパク質を異種宿主で発現させる方法は周知であり、ならびにこれらの技術を、発現ベクター、宿主細胞、および抗原をコードするクローン化されたゲノム配列を提供するために使用することができ、その配列は、診断アッセイでの使用のための抗体を産生するために宿主細胞で発現されることになっている(例えば、Sambrookら、2001およびAusubelら、1998参照)。
【0107】
様々な発現系を用いてToTV抗原を産生してもよい。例えば、大腸菌、枯草菌(B. subtilis)、酵母、昆虫細胞、植物細胞、および哺乳動物細胞でタンパク質を産生するのに好適な様々な発現ベクターが記載され、任意のそれらを用いて、抗ToTV抗体またはその断片を産生するのに好適なToTV抗原を産生してもよい。勿論ToTVそれ自身もこの目的のための発現ベクターとして使用してもよい。
【0108】
本発明の抗体の1つの使用は、関心対象のタンパク質または構造的に関連する、免疫交差反応性のタンパク質をコードするcDNAインサートを含むクローンを同定するためにcDNA発現ライブラリーをスクリーニングすることである。cDNA発現ライブラリーのそのようなスクリーニングは当技術分野において周知であり(例えば、YoungおよびDavis、1983参照)、それに対する参照は、その他の発表源だけでなくこの文脈においてもなされている。これらの抗体の別の使用は、ToTVタンパク質の精製のための親和性クロマトグラフィーにおける使用のためである。これらの抗体はまた、ToTV感染についてアッセイするのに有用である。
【0109】
したがって、本発明は、以下タンパク質性分子と呼ぶToTV特異的ウイルスタンパク質またはその断片を提供する。有用なタンパク質性分子は、例えば、本発明のウイルスから得られる任意のゲノム配列またはその断片から得られる。本明細書において提供されるような、そのようなタンパク質性分子、またはその抗原性断片は、例えば、診断法または診断キットにおいて、および診断組成物において有用である。特に有用なのは、(例えば、診断抗体を提供するための)インビボであれ、または(例えば、ファージディスプレイ技術もしくは合成抗体もしくはその部分を作製するのに有用な別の技術による)インビトロであれ、ToTVウイルス特異的抗体を誘発するために同定された組換え核酸断片によってコードされたタンパク質性分子である。
【0110】
また、本明細書において提供されるものは、それが、本発明によるカプシドタンパク質などの、タンパク質性分子またはそれらのToTVウイルス特異的機能断片を含む抗原と特異的に反応する、天然のポリクローナル抗体もしくはモノクローナル抗体であれ、または合成抗体(例えば、(ファージ)ライブラリー由来の結合分子)であれ、抗体である。
【0111】
ウイルス単離体をToTVウイルスであると同定するための方法
診断法に関わる、ToTVウイルスの検出は別として、本発明はまた、同定、すなわち単離体がToTVであるという確認のための方法に関する。そのような方法を、上で記載されたような系統発生学的推論、ならびに未同定のウイルス単離体とToTVウイルスおよび非ToTVウイルスと確認された1つもしくは複数の参照系統との間のヌクレオチド配列相同性またはアミノ酸配列相同性のレベルを決定することに基づいてもよい。そのような方法は、例えば、ウイルス単離体またはカプシドタンパク質のゲノム(の一部)をシークエンスする工程、ならびにToTVについて本明細書において提供されたような配列に対するその配列の相同性のレベルを比較する工程を含んでもよい。本明細書で提供されたようなSEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2との50%を上回る配列相同性を有する単離体を、分類学的にToTVに対応する、またはToTVウイルス分類群に属すると考える。そのようなウイルスは本発明の一部である。
【0112】
ウイルスをトマトトラードウイルス(ToTV)であると同定するために、上の表1で提示されたような分類学的記述子を利用し、および比較によって新しい単離体が仮定的な新規の属に属するということを発見してもよく、その属の中で、本明細書において提供されたSEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2の核酸配列によって同定され、ならびにToTV-E01(DSM16999)という寄託者参照番号の下で、2004年11月24日に、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託されたToTV系統をタイプ種として割り当ててもよい。したがって、ウイルスがToTVであると評価するために配列比較を行うことは必要不可欠ではない。むしろ、ウイルスをトマトトラードウイルス(ToTV)であると同定する方法は、以下からなる群より選択される分類学的記述子の組み合わせの存在を評価する工程を含む:
a)直径およそ28nmの球状で、エンベロープを持たないビリオン粒子などの、形態学的記述子;
b)ポリ(A)尾部を含み、それぞれ、5.3および8kDaのポリタンパク質をコードし、ならびに3つのカプシドタンパク質、ヘリカーゼ、プロテアーゼ、RdRP、および推定移動タンパク質に対するコード領域またはモチーフを含む2つのRNA部分に基づく1本鎖線状ポジティブセンスRNAウイルス特性を有する、ならびにRNA部分および/またはポリタンパク質および/またはモチーフは本質的に本明細書において記載されたような配列比較に基づくホモロジーを有するなどの、ゲノム特性記述子;ならびに
c)トマトにおいて壊死病変および焼け焦げたような症状を産生する、本質的に本明細書において記載されたような宿主範囲、ベクター関係および/または地理的分布を有する、ならびにトラード、マルチテス、および/またはチョコレート斑点のような名前で現地では公知のトマト植物の病気と関連しているなどの、生物学的特性記述子。
【0113】
ウイルス単離体がトマトトラードウイルス(ToTV)であるという肯定的な同定をもたらす分類学的記述子の組み合わせは、単離体が(当業者に周知の数量分類学的な方法に基づいて)その他のウイルスよりも、本明細書において記載されたようなToTVにより近縁関係にあるということが示され、ならびに単離体が好ましくは本明細書において記載されたようなトラードに典型的なトマトにおける病状を産生する組み合わせである。
【0114】
したがって、本質的に表1で定義されたような分類学的記述子の数量分類学的解析に基づいて、本出願の申請の時点で公知の任意のその他のウイルスよりも本明細書において請求項1で定義されたようなウイルスと近縁関係にあることを示すウイルスで、かつトマトで壊死病変を引き起こす病気と関連するウイルスが、本明細書においてToTVであると考えられ、および本発明の範囲内に収まる。
【0115】
このように、本発明は、本発明による方法によって、ToTVウイルス分類群に属する可能性が高いと同定できるウイルスに分類学的に対応する植物ウイルスであると同定できるウイルス単離体を提供する。その他のウイルス分類群との系統発生学的関連性、または相違によって、ToTVウイルス分類群は、ウイルスの単離体、ウイルスの種、ウイルスの属、またはウイルスの科ですらあってもよい。
【0116】
あるいは、ウイルス単離体をToTVウイルスであると同定するための方法は、症状学、すなわち、その病気-症状によるウイルスの認識に基づいてもよい。
【0117】
しかしながら、好ましい態様において、関連する非ToTV系統とのそのような抗体の交差反応性が効率的に排除されるならば、本発明の抗体を、ウイルス単離体をToTVウイルスであると同定するための方法において使用する。そのような方法は、ウイルス単離体またはその構成要素を本明細書において提供されたような抗体と反応させる工程を含む。本明細書において反応させることを抗体-抗原結合の発生を可能にすることと称する。これを例えば精製もしくは非精製ToTVウイルスまたはその部分(タンパク質、ペプチド)を使用することによって達成することができる。好ましくは、任意の好適な免疫学的方法を用いてウイルス抗原を同定するために、感染した細胞または細胞培養を使用する。この点で特に有用なのは、ToTVウイルスカプシドタンパク質に対して作製された抗体である。
【0118】
ウイルス単離体をToTVウイルスであると同定するためのその他の好ましい方法は、ウイルス単離体またはその構成要素を本発明によるウイルス特異的ポリヌクレオチドと反応させる工程を含み、ポリヌクレオチドは、ストリンジェントな条件で、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2との少なくとも60%のヌクレオチド配列相同性を有する配列、およびそれらの相補鎖、ならびにToTV特異的なその断片からなる群より選択される核酸配列にハイブリダイズすることができる。そのようなハイブリダイゼーション反応は、当業者に利用可能な任意の形式によって行われてもよく、および通常、組織プリンティング、ドットブロット法、サザン/ノーザンブロッティングまたはサザン/ノーザンハイブリダイゼーション、インサイチューハイブリダイゼーション、PCR、RT-PCR、およびそれらと同様の方法を伴うと考えられる。
【0119】
免疫学的検出方法
抗原を検出する本発明の方法を、原則的に、例えば古典的な免疫蛍光(IF)、免疫組織化学的技術、および同等の抗原検出アッセイ形式などの、任意の免疫学的方法を用いることによって行うことができる。ウイルスの外被タンパク質の検出に基づく好ましいToTV検出方法は、例えば、沈殿試験および凝集試験、放射免疫アッセイ(RIA)、免疫金標識、免疫吸着剤電子顕微鏡法(ISEM)、酵素結合免疫吸着剤アッセイ(ELISA)、ウェスタンブロッティング、ならびに免疫ブロッティングのような方法を含んでもよい。本発明の抗体を利用する免疫アッセイの種類の例は、直接的な形式か、または間接的な形式かのいずれかでの、競合免疫アッセイおよび非競合免疫アッセイである。抗体は、液相での免疫アッセイ、および固相担体に結合させる免疫アッセイにおいて利用することができる。さらに、これらの免疫アッセイにおける抗体は、様々な方法で検出できるように標識することができる。当業者は、過度の実験をすることなく、好適な免疫アッセイ形式を知り、または容易に識別することができる。アッセイ形式は文献において周知であり、および例えば、HarlowおよびLane(1988)に記載されている。
【0120】
様々な免疫アッセイ形式を、ToTVウイルスの外被タンパク質などの、本発明による特定のポリペプチドと特異的に反応性する抗体を選択するために用いてもよい。例えば、固相ELISA免疫アッセイは、この目的のために日常的に用いられている。選択的結合を決定するために用いることができる免疫アッセイの形式および条件の記載については、HarlowおよびLane(1988)を参照されたい。
【0121】
抗体を多くの異なる担体に結合させ、および標的分子の存在を検出するために使用することができる。または、抗原を多くの異なる担体に結合させ、および抗体の存在を検出するために使用してもよい。周知の担体の例として、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ、天然セルロースおよび修飾セルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、ならびに磁鉄鉱が含まれる。担体の性質は、本発明の目的のために、可溶性か、または不溶性かのいずれかであることができる。当業者は、抗体を結合するためのその他の好適な担体について知っていると考えられ、または日常的な実験を用いてそのようなものを確かめることができると考えられる。
【0122】
ウェスタンブロットアッセイは通常HarlowおよびLane(1988)に記載されている。この方法によって、ウイルスタンパク質(およびウイルス調製物中のその他のタンパク質)をゲル電気泳動により分離し、ならびに固相(すなわち、ニトロセルロースなどの膜)に転写する。その後、固定化した抗原を抗体および検出系(例えば、アルカリホスファターゼが結合した2次抗体)と反応させる。当業者には明白であると考えられるが、適切な陰性対照物質および(実質的に精製された抗原またはToTVウイルスなどの)陽性対照物質をアッセイに含めることは有利であると考えられる。
【0123】
酵素結合免疫吸着剤アッセイ(ELISA)は通常HarlowおよびLane(1988)に記載されている。本アッセイはウイルス構成要素(例えば、カプシドタンパク質)の抗体との反応を伴う。ある態様において、試料は、すりつぶし、かつ検査プレートなどの固相の上にコーティングされた抗体に反応させた植物組織を含んでもよい。試料中にウイルスが存在するならば、酵素標識した特異的抗体は抗体-ウイルス複合体に結合すると考えられ、および呈色反応を産生する酵素基質反応によって検出されると考えられる。ELISA解析の好ましい方法は、直接2重抗体サンドイッチ(DAS)ELISA(ClarkおよびAdams、1977)、DAS間接ELISA(Velaら、1986)、またはTAS-ELISAである。ELISAまたは任意のその他の種類のアッセイにおいて、例えば異なる特異性のある2つまたはそれより多くの抗体を混合し、および本発明による保護的なカプシド関連タンパク質のいずれか、または全てについてアッセイすることによって、1回の反応で1つより多くのウイルスカプシドタンパク質の存在を判定することが時に望ましいと考えられるということが、当業者に明白であると考えられる。
【0124】
核酸に基づく検出方法
ToTVは少なくとも2つのリボ核酸(RNA)から構成される。3つの保護的カプシドタンパク質の存在についての強い兆候がある。上で記載された方法は、ウイルスの検出のためにウイルスタンパク質の免疫学的検出に焦点が当てられている。組換えDNA技術により、ウイルスRNA(もしくはそれらの相補体)、または逆転写によってそれから産生されるcDNAに、直接的にまたは間接的にハイブリダイズし、およびウイルスの検出のためのアッセイに使用することができるプローブを産生することが可能である。核酸増幅技術により、非常に少量で存在し得る、ウイルス核酸の断片の増幅が可能になる。
【0125】
核酸に基づく検出方法を開発するために、その後それに対するプライマーまたはプローブを開発し得るウイルス特異的配列を決定しなければならない。核酸増幅および/またはプローブハイブリダイゼーションによってToTVを検出するために、ToTVのカプシドタンパク質をシークエンスしてもよく、または、あるいはウイルスのゲノムRNAを精製ウイルスから単離し、cDNAに逆転写し、および直接クローン化し、ならびに/もしくはシークエンスしてもよい。クローンからの配列情報を用いて、クローン化した核酸をハイブリダイゼーションプローブとして使用するか、またはToTVタンパク質のアミノ酸配列に基づいて縮重を設計することによるかのいずれかによって、核酸ハイブリダイゼーションプローブおよび/または核酸増幅プライマーを設計し、および本明細書において定義されたような試料中のウイルスの存在を検出するための検出アッセイにおいて使用してもよい。
【0126】
核酸を検出する本発明の方法は、原則的に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR; MullisおよびFaloona、1987; 米国特許第4,683,195号、第4,683,202号、および第4,800,159号)などの、任意の核酸増幅法を用いることによって、またはリガーゼ連鎖反応(LCR; Barany、1991; EP 0 320 308)、自律的配列複製(3SR; Guatelliら、1990)、鎖置換増幅(SDA; Walkerら、1992; 米国特許第5,270,184号および第5,455,166号)、転写増幅系(TAS; Kwohら、1989)、Q-βレプリカーゼ(Lizardiら、1988)、ローリングサークル増幅(RCA; 米国特許第5,871,921号)、核酸配列に基づく増幅(NASBA; Compton、1991)、クリベース(Cleavase)断片長多型(米国特許第5,719,028号)、等温およびキメラプライマーが開始する核酸の増幅(ICAN)、分岐伸長増幅法(RAM; 米国特許第5,719,028号および第5,942,391号)、もしくは核酸の増幅のためのその他の好適な方法などの増幅反応を用いることによって行うことができる。
【0127】
本ウイルスはRNAウイルス(すなわち、図5および6の配列はウイルスのゲノムRNAのDNA等価物)であるので、好適な検出法は、当業者にそれ自体が公知の方法(例えば、ChomczynskiおよびSacchi、1987; Boomら、1990)、または市販の系(例えば、QIAGEN GmbH, Hilden, GermanyからのRNeasyトータルRNA単離キットもしくはRNeasy植物RNA単離キット、もしくは高純度RNA単離キット(登録商標)(Roche Diagnostics, F. Hoffmann -La Roche社の部門, Basel, Switzerland))を使用することによって、試料から、例えば感染した植物から、のウイルス核酸を単離する工程を含む。
【0128】
例えば、植物細胞の葉物質もしくはプロトプラストからトータルRNAを抽出してもよく、またはその後トータルRNA、具体的にはウイルスのゲノムRNA、もしくはその一部を、例えばトリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)逆転写酵素もしくはモロニーマウス白血病ウイルス(M-MuLV)逆転写酵素を使用することによって、cDNAに逆転写してもよい。好適な方法は、例えば好適な水性緩衝系(例えば、市販のRT緩衝液)、好適な量のトータルRNA(例えば、1〜5μg)、好適な量(例えば、10pmol)の逆転写プライマー、好適な量のdNTPおよび逆転写酵素を混合し、1分間の煮沸によって核酸を変性させ、ならびにそれらを氷上で冷まし、その後、使用される特定の逆転写酵素に推奨されたような例えば45℃で1時間の逆転写を行い、ウイルス配列のcDNAコピーを得る工程を含んでもよい。
【0129】
逆転写プライマーとして、例えばToTVゲノム配列に相補的なヌクレオチド配列、または好ましくはSEQ ID NO:1もしくはSEQ ID NO:2、もしくはそれらのToTVウイルス特異的断片の核酸配列にストリンジェントな条件下で少なくともハイブリダイズすることができるヌクレオチド配列を含む18〜25merのオリゴヌクレオチドなどの、本発明によるポリヌクレオチドを使用してもよい。あるいは、ポリA RNAモチーフからの逆転写を開始させるために、特異的ポリTプライマー(オリゴdTプライマー)を使用してもよい。
【0130】
RT工程の後、得られたcDNAを、例えばPfu DNAポリメラーゼおよびTaq DNAポリメラーゼならびにウイルスのゲノムcDNA配列に特異的な増幅プライマーを使用することによって、PCR増幅してもよい。また、完全に市販の系(例えば、PromegaのAccess and AccessQuick(商標) RT-PCR系[Madison WI, USA]、またはRoche Diagnostics[F. Hoffmann -La Roche社の部門, Basel, Switzerland]によって提供されているTitan(商標)1チューブRT-PCR系もしくは2工程RT-PCR系)をRT-PCRに用いてもよい。
【0131】
1つまたは複数の増幅プライマーに対する少数のミスマッチがある核酸を増幅するために、増幅反応を低下したストリンジェンシーの条件(例えば、38℃というアニーリング温度、または3.5mM MgCl2の存在を用いるPCR増幅)の下で行ってもよい。当業者は、好適なストリンジェンシーの条件を選択することができると考えられる。
【0132】
本明細書において、プライマーは、増幅されるべき各々の特定の配列の異なる鎖上に存在するそれらの標的領域に対して「実質的に」相補的(すなわち、少なくとも65%、より好ましくは少なくとも80%完全に相補的)であるよう選択される。例えば、イノシトール残基もしくは曖昧な塩基を含むプライマー配列、または標的配列と比べた場合、1つもしくは複数のミスマッチを含むプライマーさえも用いることが可能である。一般に、標的DNAまたはRNAオリゴヌクレオチド配列との少なくとも65%、より好ましくは少なくとも80%の相同性を示す配列が、本発明の方法における使用に好適であると考えられる。低ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を用いる場合、配列ミスマッチもまた重要ではない。
【0133】
増幅産物の検出を、原則的に、当技術分野において公知の任意の好適な方法によって達成することができる。増幅断片を、放射性標識、抗体、発光色素、蛍光色素、もしくは酵素試薬で直接的に染色または標識してもよい。直接的なDNA染色液には、例えばアクリジンオレンジ、エチジウムブロマイド、エチジウムモノアジド、またはHoechst色素などの挿入色素が含まれる。
【0134】
あるいは、DNA断片またはRNA断片を、標識されたdNTP塩基の合成された断片への取り込みによって検出してもよい。ヌクレオチド塩基と関連し得る検出標識には、例えば、フルオレセイン、シアニン色素、ジゴキシゲニン(DIG)、またはブロモデオキシウリジン(BrdUrd)が含まれる。
【0135】
プローブに基づく検出系を用いる場合、本発明での使用に好適な検出処置は、酵素免疫アッセイ(EIA)形式(Jacobsら、1997)を含む。EIA処置の方法で検出を行うために、増幅反応で用いられるフォワードプライマーか、またはリバースプライマーかのいずれかは、その後の標的DNA-アンプリコンのEIA検出のための、例えば、ストレプトアビジンコーティングしたマイクロタイタープレートウェルまたはストレプトアビジンコーティングしたDynabeads(登録商標)(Dynal Biotech, Oslo, Norway)上への標的DNA PCRアンプリコンの固定化用のビオチン基のような、捕捉基を含んでもよい。当業者は、EIA形式における標的DNA PCRアンプリコンの固定化用のその他の基を利用し得るということを理解すると考えられる。
【0136】
本明細書において開示されたような標的核酸配列の検出に有用なプローブは、好ましくは核酸増幅処理によって増幅されたような核酸配列領域の少なくとも一部にのみ結合する。当業者は、本明細書において設定されたような過度の実験をすることなく、標的核酸のヌクレオチド配列に基づく検出のための好適なプローブを調製することができる。また、そのような相補鎖が、利用される増幅反応で増幅されるならば、DNAであれ、またはRNAであれ、または化学的に合成された類似体であれ、標的核酸の相補的なヌクレオチド配列を、本発明の方法において、タイプ特異的な検出プローブとして好適に用いてもよい。
【0137】
本明細書において用いるための好適な検出処置は、例えばアンプリコンの固定化、ならびにその核酸配列を、例えば、ノーサンブロッティングおよびサザンブロッティングによってプロービングすることを含んでもよい。その他の形式が、上で記載されたようなEIA形式を含んでもよい。結合の検出を容易にするために、特異的なアンプリコン検出プローブは、増幅反応の反応産物に対するプローブの結合のモニタリングを容易にするための、フルオロフォア、クロモフォア、酵素、または放射性標識などの標識部分を含む。そのような標識は当業者に周知であり、および例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、β-ガラクトシダーゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、ストレプトアビジン、ビオチン、ジゴキシゲニン、35S、14C、32P、または125Iを含む。その他の例は当業者には明白であると考えられる。
【0138】
また、例えばVan den Bruleら(2002)によって記載されたような、いわゆる逆ラインブロット(RLB)アッセイによって、検出を行ってもよい。この目的のために、RLBプローブを、その後の、例えばカルボキシルコーティングしたナイロン膜上での固定化のために、好ましくは5'アミノ基と共に合成する。RLB形式の利点は、系の容易さおよびその速さであり、したがって高スループットの試料処理が可能となる。
【0139】
RNA断片またはDNA断片の検出のための核酸プローブの使用は当技術分野において周知である。多くの場合、これらの手順は、標的核酸のプローブとのハイブリダイゼーション、続いてハイブリダイゼーション後の洗浄を含む。特異性は、典型的にはハイブリダイゼーション後の洗浄の機能であり、重要な要素は最後の洗浄溶液のイオン強度および温度である。核酸ハイブリッドについては、MeinkothおよびWahl(1984)の方程式:Tm=81.5℃+16.6(logM)+0.41(% GC)-0.61(% form)500/L、からTmを概算することができ;式中、Mは1価の陽イオンのモル濃度、% GCは核酸中のグアノシンヌクレオチドおよびシトシンヌクレオチドのパーセンテージ、% formはハイブリダイゼーション溶液中のホルムアミドのパーセンテージ、ならびにLは塩基対中のハイブリッドの長さである。Tmは(規定のイオン強度およびpHの下で)相補的な標的配列の50%が完全に一致したプローブにハイブリダイズする温度である。Tmは、各1%のミスマッチに対して約1℃だけ低下させる;したがって、ハイブリダイゼーションおよび/または洗浄の条件を、所望の同一性の配列にハイブリダイズするように調整することができる。例えば、>90%同一性がある配列を模索する場合、Tmを10℃減少させることができる。通常、規定のイオン強度および温度における特定の配列およびその相補体に対する熱融解点(Tm)よりも約5℃低くなるようにストリンジェントな条件が選択される。しかしながら、非常にストリンジェントな条件は、熱融解点(Tm)よりも1、2、3、もしくは4℃低い点におけるハイブリダイゼーションおよび/または洗浄を利用することができ;適度にストリンジェントな条件は、熱融解点(Tm)よりも6、7、8、9、もしくは10℃低い点におけるハイブリダイゼーションおよび/または洗浄を利用することができ;低ストリンジェンシー条件は、熱融解点(Tm)よりも11、12、13、14、15、もしくは20℃低い点におけるハイブリダイゼーションおよび/または洗浄を利用することができる。前記の方程式、ハイブリダイゼーション組成物および洗浄組成物、ならびに所望のTmを用いて、ハイブリダイゼーション溶液および/または洗浄溶液のストリンジェンシーの変化を本質的に記載するということを当業者は理解すると考えられる。所望の程度の不一致によって45℃未満(水性溶液)または32℃未満(ホルムアミド溶液)のTmが生じる場合、より高い温度を使用することができるようにSSC濃度を増加させることが好ましい。核酸のハイブリダイゼーションの広範囲に及ぶ指針を、Tijssen、1993;Ausubelら、1998に見出すことができる。
【0140】
別の局面において、本発明は、ToTV RNAまたはToTV cDNAの検出ためのオリゴヌクレオチドプローブを提供する。本明細書において、検出プローブは、1本鎖RNA分子に対して、または本発明の増幅反応によって生み出される2本鎖核酸の鎖の一方に対して「実質的に」相補的であるように選択される。好ましくは、プローブは、任意で固定化された(例えば、ビオチン標識された)標的RNAまたは標的DNAから生じるアンプリコンのアンチセンス鎖に対して実質的に相補的である。
【0141】
本発明の検出プローブがそれらの標的配列に対する1つまたは複数のミスマッチを含むことが許容される。通常、標的オリゴヌクレオチド配列との少なくとも65%、より好ましくは少なくとも80%の相同性を示す配列が、本発明の方法における使用に好適であると考えられる。
【0142】
ToTV抵抗性植物
本発明はさらに、ToTV抵抗性植物、またはその部分を同定するための方法に関する。ToTV抵抗性植物を同定する様々な可能性がある。そのような方法の1組目の態様において、活性のある/感染性のウイルスまたは全長の感染性クローンを使用してもよく、その一方、別の態様において、ウイルス検出手段のみを使用してもよい。
【0143】
活性のある/感染性のウイルスを使用してToTV抵抗性植物を同定するための方法の第1の工程は、植物または、葉部分もしくは茎部分などの、植物部分を感染量のToTVに曝露させる工程を含み、その目的は感染を達成することである。曝露は、多くの場合、物理的接触の達成を伴ってもよい。感染量は、植物間および検査したToTV単離体間で変化してもよい。理論的には、約1〜10という量から約500〜5000という量までの該ウイルスのウイルス粒子またはその核酸で十分であると考えられる。このような感染を、健康な植物に対する精製したウイルス粒子またはウイルス核酸の機械的接種によって達成してもよい。
【0144】
あるいは、感染を、例えば以下によって達成してもよい:
−健康な接ぎ穂をToTVが感染した台木の上で成長させること、またはその逆のこと;
−健康な植物を(感染した植物、例えば、ネナシカズラ属の数種類(Cuscuta spp.)のような寄生植物、を含む)ウイルスを含む伝播ベクターに曝露させること;
−健康な植物にToTVウイルスゲノムのコード領域を持つ発現ベクターを導入すること;
−ToTVウイルスゲノムのコード領域を持つ発現ベクターを含むアグロバクテリウム トゥメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)系統などの、アグロ感染性クローンの使用。
【0145】
本発明の文脈において、植物または植物部分を感染量のToTVに曝露させるための方法は、任意の特定の方法に限定されない。
【0146】
述べられた通り、感染は、健康な植物に対するウイルスの機械的接種を含んでもよい。例えば、病気のある葉の一部を感染させるべき植物の葉に直接塗ってもよい。別の処置において、接種材料を、例えばウイルスを含む植物組織、好ましくは症状を示している若い葉を、例えば接種に好適な緩衝液(例えば、0.03Mリン酸緩衝液、pH 7.7)の中で、モーターおよび乳棒、または任意のその他の好適なタイプのホモジナイザーですりつぶすことによって調製してもよい。すりつぶした後、得られたホモジネート(樹液)を、好ましくは、例えばチーズクロスを通して濾過する。その後、樹液は、例えば葉をかなりの量の樹液と穏やかに接触させることによる接種であってもよい。表皮下層に損傷を与え、およびウイルスの侵入を高めるために、葉を好ましくは前処理する。これを、例えば葉にカーボランダム粉末を予めまぶすことによって達成してもよい。好ましくは、大きく傷つけることを避ける。好ましくは、顕微鏡的に小さく角のある炭化ケイ素の粒子(400〜500メッシュ)を有するカーボランダム粉末を使用する。また、カーボランダム粉末を、樹液に直接加えてもよく、その場合には前処理を省略する。樹液を、例えば人差し指、樹液に浸した発砲プラスチックもしくは繊維の当て物によって、またはすりつぶしに用いた乳棒、ガラスへら、堅いブラシ、もしくは吹き付け器でも適用してもよい。接種後、葉を好ましくはすぐに水で洗浄する。
【0147】
ToTV抵抗性植物を同定するための方法の第2の工程は、曝露の後、i)易罹患性の対照植物および/もしくは感受性の対照植物と比較して、植物もしくは植物部分における病気-症状が存在しないままであり、もしくは発現が遅延し、もしくは少なくとも重症度が低下し、もしくは局在化しているか、ならびに/またはii)ToTVウイルスもしくはToTVゲノム配列が植物もしくは植物部分に存在しない、もしくは易罹患性の対照植物と比較して、ToTVウイルスの存在が植物において少なくとも量的に低下しているかのいずれかである場合、該植物をToTV抵抗性植物であると同定する工程を含む。本明細書において用いられる場合、局在化しているという用語は、接種した葉に限定されているということを意味する。
【0148】
感染した植物におけるToTV誘導性の病気-症状の進行の判定を、例えば、認識できる(例えば、目に見える)病気-症状の進行に要する期間に注目する、定量的方法によって、または一定期間が経過した後、植物を症状発現について検査し、および症状の存在もしくは重症度を示す、定性的な方法によって行ってもよい。
【0149】
ToTVウイルス誘導性病-症状の進行の判定に加えて、またはそれに対する代わりとして、検出されるべきToTV抵抗性の種類によって、ウイルスの存在を植物または植物部分において検出する。被検植物におけるウイルスの不在を検出するために、任意の方法を原則的に用いてもよい。例えば、本発明によるToTV特異的抗体、プライマーセットまたはプローブを使用する方法を利用してもよい。あるいは、被検植物の一部を易罹患性の指示植物(例えば、N.エスペリス「67A」)と接触させ、被検植物にウイルスが存在するか存在しないかを立証してもよい。植物細胞におけるウイルスの存在のみを立証する必要があるので、そのような方法にとって、伝播ベクターと寛容性のある被検植物と抵抗性のある被検植物を区別するために、被検植物の表面の汚染物質を除去することは重要であるということを当業者は理解すると考えられる。
【0150】
ToTV抵抗性細胞を同定するための方法の第2の工程を行う際に、以下の結果が得られる可能性がある。連続的な接種の後(例えば、易罹患性の対照植物および感受性の対照植物での感染をもたらすと考えられる条件下の植物-ウイルス接触の達成後):
i)病気-症状が存在しないままであり;またはウイルス粒子、もしくはウイルスRNAを検出することができなければ:植物は抵抗性であり;
ii)病気-症状が遅延し、もしくは病気-症状の重症度が低下し;または全身の低力価のウイルス粒子もしくはウイルスRNAを検出することができれば:植物は部分抵抗性であり;
iii)病気-症状は重症ではあるが、局所に留まり、接種した葉に限定され、および接種した組織を超えて全身には拡大せず;またはウイルス粒子、もしくはウイルスRNAを局所的にのみ検出することができるならば:植物は超感受性であり;
iv)病気-症状が存在しないままであり;かつウイルス粒子、またはウイルスRNAを検出することができるならば:植物は寛容性である。
v)植物が病気-症状を進行させ、かつ高い全身のウイルス力価を有するならば、植物は易罹患性および感受性である。そのような植物の例は、本発明のウイルスが単離される植物である。これらの植物は、本発明の方法において好適な対照植物として役立つ可能性がある。
【0151】
抵抗性植物を産生するという目的のために、および植物衛生の観点から、結果i)、ii)、およびiii)のみを関心対象であると考えてもよい。無症状の作物および産物の産生に好適な植物を得るという目的のために、結果iv)もまた特に商業的な関心対象となる可能性がある。
【0152】
ToTV抵抗性植物を同定するための方法の代わりの態様として、ウイルス検出手段のみを用いる。例えば、ToTV抵抗性植物を、症状のある植物の中で無症状の植物を観察および同定することによって、ならびに本発明による任意のウイルス検出法を行うことにより該植物中にウイルスが存在しないことを判定することによって、野外で同定してもよい。事実、これは、植物または植物部分を感染量のToTVに曝露させるという工程a)を受動的に(例えば、自然に)行う、ToTV抵抗性植物を同定するための方法に対応する。そのような方法を実施する場合、試料を本発明によるポリヌクレオチドまたは抗体と反応させることによって、ToTVウイルスまたはその構成要素の存在を行う本発明による試料中のToTVの存在を検出するための方法を用いることが好ましい。好ましくは、ToTV抵抗性植物を同定する方法は、本発明のウイルスか、または本発明によるポリヌクレオチドもしくは抗体かのいずれかの使用を必要とする。
【0153】
本発明はさらに、ToTV抵抗性植物、またはその部分を産生する方法に関する。ひとたびToTV植物が同定されたら、この植物は、レシピエント植物に遺伝物質を提供するために、ドナー植物からレシピエント植物へ移動されるべき遺伝物質のドナー植物として役に立つ可能性がある。ドナー植物からレシピエント植物への遺伝物質の移動は、当技術分野において公知の任意の好適な方法によって起こってもよい。遺伝物質は多くの場合、ゲノム物質であると考えられる。しかしながら、ドナー植物のゲノムの少なくとも抵抗性を付与する部分を移動させることが重要である。ドナー植物のゲノムのどの部分がToTV抵抗性を付与するかを決定するための方法がない場合は、全部の染色体を移動させることによって、移動が好適に起こってもよい。好ましくは、ToTV抵抗性植物は、子孫植物がそれによって抵抗性ドナーからのゲノム物質を受け取り、およびレシピエント植物として働く、抵抗性のある子孫植物を産生するための交配において雄性または雌性の親植物として役立つ。交配における易罹患性の親は、必ずしも厳密な意味でレシピエント植物であるわけではないが、そのような易罹患性の親もまた、本明細書においてレシピエント植物という用語に含まれると考えられる。
【0154】
ToTV抵抗性植物を産生するための方法において、プロトプラスト融合体もまた、ドナー植物からレシピエント植物へ抵抗性を付与するゲノム物質の移動のために、すなわち植物を交配する方法として、使用することができる。プロトプラスト融合体は、1個の2核細胞または多核細胞を産生するために、体細胞ハイブリダイゼーションなどの、2つもしくはそれより多くのプロトプラスト(酵素的処理によって細胞壁が除去された細胞)間の、誘導されたまたは天然の結合である。自然では異種交配することができない植物種で得られる可能性すらある、融合した細胞を組織培養し、所望の形質の組み合わせを示すハイブリッド植物にする。より具体的には、第1のプロトプラストを、ToTVによる感染に抵抗性を示すトマト植物またはその他の植物株から得ることができる。例えば、ToTV抵抗性(トマト、ナス、コショウ、メロン、スイカ、またはキュウリ)株由来のプロトプラストを使用してもよい。第2のプロトプラストを、病気抵抗性、昆虫抵抗性、価値の高い果実特性などの、しかしこれらに限定されない、商業的に望ましい特性を含む、易罹患性の第2の植物株から、任意で別の植物種または植物品種から、好ましくは同じ植物種または植物変種から得ることができる。その後、交配種を産生するために当技術分野において公知である、従来のプロトプラスト融合処理を用いて、プロトプラストを融合させる。
【0155】
あるいは、ドナー植物からレシピエント植物へ抵抗性を付与するゲノム物質の移動において、すなわち植物を交配する方法として、胚救済を利用してもよい。植物が発芽できる種子を産生しない交配種から胚を単離するための処理として、胚救済を用いることができる。この過程において、受精した植物の子房または植物の未熟種子を組織培養し、新しい植物を創作する(この方法は、Pierik、1999に詳細に記載されている)。
【0156】
したがって、ToTV抵抗性植物を産生する方法は、ある態様において、上で本明細書において記載されたようなToTV抵抗性ドナー植物を同定する工程、およびToTV抵抗性ドナー植物を、上で記載されたような、レシピエント植物と交配し、それによって抵抗性子孫植物を産生する工程を含む。
【0157】
ToTV抵抗性植物を産生する方法はさらに、先に記載されたようなToTV抵抗性植物を同定するための方法を実施することによって、子孫植物から抵抗性植物を選択する工程を含む。
【0158】
好ましくは、ToTV抵抗性ドナー植物は、ナス科またはウリ科の植物であり、さらにより好ましくはトマト植物、ナス植物、コショウ植物、メロン植物、スイカ植物、またはキュウリ植物である。
【0159】
好ましくは、レシピエント植物は、ナス科またはウリ科の植物であり、さらにより好ましくはトマト植物、ナス植物、コショウ植物、メロン植物、スイカ植物、またはキュウリ植物である。一層より好ましくは、レシピエント植物は、トマト種のトマト植物であり、より好ましくは、商業的に望ましい特性を保有するトマト植物である。レシピエント植物は、ToTV易罹患性植物、ToTV感受性植物、またはToTV抵抗性レシピエント植物であってもよい。上で説明したように、植物の選択は、抵抗性特性が優勢であるか劣性であるかによって主に決定されると考えられる。当業者は、そのような問題を解決するために利用可能な様々な方法論を承知している。
【0160】
また、本発明の局面は、本発明の方法によって得られる、ToTV抵抗性植物、またはその一部である。
【0161】
述べた通り、ToTV抵抗性植物を産生するための方法の好ましい態様は、植物を交配することによりToTV抵抗性ドナー植物からレシピエント植物へ抵抗性を付与する核酸配列の移入による移動を含む。この好ましい態様により開発される抵抗性植物は、都合良くそれらの形質の大部分をレシピエント植物から得ることができ、およびToTV抵抗性をドナー植物から得ることができる。
【0162】
系統育種と称される、ある方法において、ToTVに対する抵抗性を示すドナー植物を、好ましくは病気抵抗性、昆虫抵抗性、価値の高い果実特性などの、しかしこれらに限定されない、商業的に望ましい特性を示す、レシピエント植物と交配する。その後、結果として生じる植物集団(F1ハイブリッドを表す)を、自家受粉させ、および種子(F2種子)を付けさせる。その後、F2種子から成長したF2植物を、ToTVに対する抵抗性についてスクリーニングする。本集団を多数の異なる方法で、好ましくは目視用の本発明の方法を実施することによって、スクリーニングすることができる。
【0163】
ToTV抵抗性植物の同定は、最初は本発明によってのみ可能であるので、抵抗性植物を産生するための方法は本発明の局面である。また、本発明の局面は、本発明の方法によって得られる、ToTV抵抗性植物、またはその一部である。
【0164】
本発明は、ToTVウイルスを運ぶ植物を除去することによってだけでなく、抵抗性トマト植物を提供することによって、トマト植物におけるToTV感染の拡大を予防する方法を提供する。これらの措置は、ToTVウイルスに関して植物衛生を改善するための一般戦略の一部を成す可能性がある。したがって、ToTVウイルスのそのような源を除去するために、寛容性がある植物を同定および除去してもよい。
【0165】
ToTV抵抗性植物、またはその部分を産生するための方法のある態様において、本発明は、ToTV寛容性植物を産生する方法を提供する。植物がウイルスを宿し得るものの、それは病状を示さないので、寛容性植物は、価値の高い作物、果実、および種子を提供する可能性がある。そのような方法は、寛容性植物の同定、およびそのような寛容性植物の所望の遺伝物質の源またはドナーとしての使用を伴うと考えられる。本目的は、その細胞におけるウイルスの侵入または増大に耐えることができる植物を提供することではなく、症状を患わない植物を提供することである。
【0166】
したがって、本発明は、ToTV寛容性植物を同定するための方法であって、a)植物または植物部分を感染量のToTVに曝露させる工程、ならびにb)曝露後、植物または植物部分における病気-症状が存在しないままであり、かつToTVウイルスが植物または植物部分に存在する場合、該植物をToTV寛容性植物であると同定する工程を含む、方法に関する。
【0167】
感染した植物におけるToTV誘導性の病気-症状の進行の判定を、例えば、認識できる(例えば、目に見える)病気-症状の進行に要する期間に注目する、定量的方法によって、または一定期間が経過した後、植物を症状発現の不在について検査し、もしくは症状の重症度の低下を示す、定性的な方法によって行ってもよい。
【0168】
好ましい態様において、植物または植物部分におけるToTVの存在を、植物もしくは植物部分を本発明によるポリヌクレオチドもしくは本発明による抗体によって植物もしくは植物部分におけるToTVウイルスまたはその構成要素の存在を判定する工程を含む方法を実施することによって、工程b)において判定する。
【0169】
診断キット
本明細書において提供された方法および手段は、ウイルス学的診断によってToTVウイルス感染を診断するための診断キットにおいて特に有用である。そのようなキットまたはアッセイは、例えば、本発明によるウイルス、核酸、タンパク質性分子もしくはその断片、および/または抗体を含んでもよい。
【0170】
本発明はまた、ToTVウイルス、ToTVウイルス特異的な核酸、タンパク質性分子もしくはその断片、および/または本発明による抗体、ならびに好ましくはToTVウイルス、ToTVウイルス特異的な核酸、タンパク質性分子もしくはその断片、および/または抗体を検出するための手段、を含むToTV感染を診断するための診断キットを提供し、該手段は例えば、当技術分野において使用されるフルオロフォアまたは酵素的検出系などの励起性の基を含む(好適な診断キット形式の例として、IF、ELISA、中性化アッセイ、RT-PCRアッセイ、ハイブリダイゼーションアッセイが含まれる)。好適な検出アッセイには、直接的および間接的アッセイ、サンドイッチアッセイ、とりわけプレートまたはビーズを使用するアッセイなどの固相アッセイ、ならびに液相アッセイが含まれる。好適なアッセイには、1次抗体および2次抗体を使用するアッセイ、ならびにプロテインAなどの抗体結合試薬を使用するアッセイが含まれる。さらに、比色法、蛍光法、リン光法、化学発光法、発光法、および放射能による方法を含む、様々な検出法を本発明において用いることができる。
【0171】
核酸、タンパク質性分子、もしくはその断片などの未同定のウイルス構成要素またはその合成類似体をToTVウイルス特異的であると同定することができるかどうかを判定するためには、例えば本明細書において提供されたような系統発生学的解析を用いて、所与のToTVウイルス配列との配列相同性比較および公知の非ToTVウイルス配列(好ましくは最も近縁系統発生学的なToTVの親類を使用する)との配列相同性比較によって、例えば核酸またはアミノ酸の広がり、(それぞれ)好ましくは少なくとも10の、より好ましくは少なくとも25の、より好ましくは少なくとも40のヌクレオチドまたはアミノ酸の広がりについて、該構成要素の核酸配列またはアミノ酸配列を分析することで十分である。ToTVウイルス配列または非ToTVウイルス配列との関係の程度によって、構成要素または合成類似体を同定することができる。
【0172】
ToTVウイルスを検出するためのキットは、アッセイ形式によって、タンパク質に特異的な、好ましくは少なくとも1つのToTVのカプシドタンパク質に特異的な、1つまたは複数の抗体を含んでもよく、および陽性対照として使用するための好ましくは実質的に精製されたToTVタンパク質または抗体イディオタイプ抗体も含む。
【0173】
抗ウイルス薬剤
本発明はまた、植物におけるToTV感染の治療において有用な抗ウイルス薬剤を得るための方法であって、本発明によるウイルスを含む細胞培養または実験植物を樹立する工程、該培養または植物を候補の抗ウイルス薬剤で治療する工程、および該薬剤の該ウイルスまたは該培養もしくは植物のその感染に対する効果を判定する工程を含む方法を提供する。そのような抗ウイルス薬剤の例として、本明細書において提供されたような、ToTV中和抗体、またはその機能断片が含まれるが、その他の性質の抗ウイルス薬剤を同様に得てもよい。
【0174】
化学的産物、細菌、真菌、昆虫、およびウイルスなどの、植物で使用される異なる抗ウイルス薬剤がある。それらの多くは、全身獲得抵抗性(SAR)と関係する。本発明は、ToTVゲノムまたはその一部の植物における全身獲得抵抗性の誘導剤としての使用を包含する。全身獲得抵抗性はToTVを、またはその他の病気を対象とする可能性がある。この局面において、ToTV、そのゲノム、または抵抗性を付与するその部分を抗ウイルス薬剤として使用することができる。
【0175】
本発明はまた、特に植物におけるToTV感染の治療用の治療組成物の調製のための本発明による抗ウイルス薬剤の使用を提供し、ならびにToTVウイルス感染の治療および予防のための方法であって、そのような治療組成物を個々の植物に対して提供する工程を含む、方法において有用な、本発明による抗ウイルス薬剤を含む薬学的組成物を提供する。
【0176】
本発明はまた、治療方法および/または治療組成物の検定のために使用可能な植物モデルに関する。幾つかのニコティアナ種をToTVウイルスで感染させることができ、それによってToTVウイルスで苦しむトマト植物で見られるものとは異なる病気-症状が示されるように思われる。ウイルスによる感染の前か、またはウイルスによる感染の間かのいずれかに、ニコティアナの植物を抗ウイルス治療に供することは、トマト植物におけるそのような抗ウイルス薬剤の適用に対する予測的価値を有する可能性がある。
【0177】
本発明はまた、ToTV、またはToTVウイルスゲノムの部分の、例えばウイルス誘導性遺伝子サイレンシング(VIGS)における使用のための、発現ベクターとしての使用に関する。VIGSは、植物におけるRNA介在性の抗ウイルス防御機構を利用する技術である。未改変ウイルスに感染した植物において、本機構はウイルスゲノムに特異的に標的される。宿主由来のインサートを運ぶウイルス発現ベクターを使用することにより、本機構を用いて対応する植物RNAを標的することもできる。VIGSは遺伝子機能の解析用に植物で広く用いられ、および高スループットな機能ゲノム学に適合されている。今日まで、VIGSの最も多い適用は、ニコティアナベンタミアナにおいてである。しかしながら、本発明は、トマトまたは、コショウおよびジャガイモのような、ナス科のその他の種などのその他の植物における、ならびにウリ科の種における遺伝子機能の解析を可能にする新しい発現ベクター系としてのToTVウイルスの使用を包含する。
【0178】
本発明を実施例に限定することなく、本発明を実施例においてさらに説明する。
【0179】
実施例
実施例1 トマト植物からのToTVの単離および特性解析
方法
序論
スペインからのトマト植物の試料を診断研究のために入手した。トマト植物の症状は、葉の上の壊死斑点および退緑ならびに果実の上の褐色環からなっていた。血清学的検査(ELISA)によって、ペピーノモザイクウイルス(PepMV)の存在が指摘されたが、症状を考慮すると、別の、不明確な、作用物質が存在する可能性が高かった。
【0180】
感染した葉組織の電子顕微鏡的研究で、球状のウイルス粒子が発見された。
【0181】
その後、感染検査が実施され、および複数の登録のトマトがToTVに対して易罹患性であることが分かり、そのうちの幾つかは明らかな症状(個々の小葉の葉の基部で始まる、葉の壊死)を伴って反応した(図1参照)。
【0182】
ウイルス伝播および繁殖
下に記載したようにToTVをスペインから入手した罹患した植物から単離した。ToTVは幾つかのニコティアナ種に機械的に伝播することできる。標準的な接種緩衝液(例えば、0.03Mリン酸緩衝液、pH 7.7)が好適であることが分かった。この実施例を通して、ToTVをN.グルティノサまたはN.ベンタミアナに機械的に接種し、およびN. グルティノサまたはN.ベンタミアナで繁殖させた。接種後およそ14日目に、ウイルス精製を実行した。
【0183】
ウイルス精製
幾つかの試みを行い、(有機溶媒の助けを借りて)例えば、ネポウイルスまたはルテオウイルスのための標準的プロトコルに従ってToTVを精製した。これらのプロトコルは常にウイルスの感染性の損失をもたらした。さらに、遠心分離工程で低温を用いた場合(5℃未満)、ToTVは凝集する傾向にあった。
【0184】
最終的に、非常に穏やかな精製法によって、さらなる実験を実行し得る十分にきれいなウイルス調製物がもたらされた。
【0185】
以下の手順を用いてToTVを精製した(遠心分離工程は全て6℃で行われた)。N. グルティノサまたはN.ベンタミアナの感染した葉を、5回に分けて20mM Na2SO3、10mM Na-DIECA、および5mM Na-EDTAを加えた0.1M TRIS-HCl(pH 8)(ホモジナイゼーション緩衝液)の中でホモジナイズし、ならびにホモジネートを30分間、49,000×gで遠心分離した。上清を20%ショ糖クッションの上に置き、および1.5時間、70,000×gで遠心分離した。ペレットを2ml TRIS-HCl、pH 8、で再懸濁し、ならびに懸濁液をショ糖勾配(ホモジナイゼーション緩衝液中の10〜40%ショ糖)の上に置き、および2時間、110,000×gで遠心分離した。ウイルスバンドは目に見えないので、勾配を分注して別々の分画とし、ならびに各分画におけるウイルスの存在を、本明細書において記載したようなN.エスペリス「67A」の葉に対する該分画の一部の接種および感染の発生の観察によって判定した。ウイルス含有分画を(TRIS-HCl、pH 8の中の)10〜40%硫酸セシウム勾配の上に置き、および16時間、125,000×gで遠心分離した。ウイルスバンドを回収し、および遠心分離または0.1M TRIS-HCl、pH 8に対する透析によって濃縮した。
【0186】
各精製工程後のToTVの感染性をN.エスペリス「67A」に対する接種によって確認した(接種の前に、硫酸セシウム勾配分画をTRIS-HCl、pH 8に対して透析した)。
【0187】
電子顕微鏡法
ウイルス懸濁液を、別名ポリビニルホルマルとして公知の、Formvar(登録商標)でコーティングした格子状のスライドに「載せ」、2%ウラニルアセテートで染色し、およびPhilips CM12電子顕微鏡で調べた。
【0188】
PAGE解析
ウイルスタンパク質を12%変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE、Laemmli、1970)によって分離し、および銀染色した。
【0189】
核酸の単離および評価
精製したウイルスを(2時間、115,000gでの)遠心分離によって濃縮した。ペレットをQiagen RNeasy MinElute Cleanup処置(Qiagen, Hilden, Germany)によるRNA抽出に供した。RNA濃度をUV分光光度計(Beckman Coulter社, Fullerton, USA)で決定した。
【0190】
RNAの完全性をアガロースゲル電気泳動によって確認した。2時間、60Vでの電気泳動後、オルソトルイジンブルーを用いて、RNAを染色した。
【0191】
cDNA合成およびクローン化
製造元の取扱説明書に従い、cDNA合成用のInvitrogen Superscript Choise系(Invitrogen, Breda, The Netherlands)を用いて、cDNAを合成した。オリゴd(T)プライマーかまたはランダムヘキサマープライマーかのいずれかを用いて、第1鎖cDNAを用意した。第2鎖合成後、クローン化を容易にするためにEcoRIアダプターをライゲーションした。EcoRIを適合させたcDNAのリン酸化に続いて、ライゲーションされなかったリンカーをカラムクロマトグラフィーによって除去した。結果として得られたcDNAをpBluescript II EcoRI前消化発現ベクター(Stratagene, La Jolla, USA)中にライゲーションし、および本ライゲーション混合物をTop10コンピテント細胞(Invitrogen)に形質転換した。
【0192】
製造元の取扱説明書に従い、dCTPを使用するcDNA末端の迅速増幅用の5'RACE系(Life Technologies)を用いて、ToTV配列の5'末端をシークエンスした。
【0193】
cDNAの解析
形質転換のすぐ後に、T3およびT7の両方の特異的プライマーを使用するPCRによって、組換えクローンをインサートの存在について解析した。PCR産物を1%アガロースゲル上でサイズについて解析した。約1500ヌクレオチドのインサートを含むクローンをさらなる配列解析用に使用した。結果として得られた配列データを、DNASTARプログラムパッケージを用いて解析した。
【0194】
ToTVの3つのカプシドタンパク質のアミノ酸配列の決定
精製したToTV粒子を変性PAGEゲル上に充填し、およびカプシドタンパク質を分離した。分離したカプシドタンパク質バンドをゲルから単離し、トリプシンで処理し、および本質的にKinter & Sherman、2000によって記載されたような方法を用いたタンデムマススペクトロメーター(MSMS)を使用して、消化物を解析した。これによって、小さいペプチドのアミノ酸(AA)配列がもたらされ、その各々はToTVのRNA2ヌクレオチド配列から推定されるアミノ酸配列との相同性を示した。その他のウイルス配列データとの比較は、PHYLIPパッケージからのプログラムで行った。
【0195】
結果
ウイルスの伝播および繁殖
ToTV繁殖用に、N.グルティノサおよびN.ベンタミナを使用することができた。N.エスペリス「67A」およびN.オッキデンタリス「P1」というタバコ種は、ToTVに対して非常に易罹患性であり、かつ3〜4日後に症状を示した。これらのタバコ種は短期間で極めて壊死性になり、およびそれゆえに繁殖宿主よりも指示植物として好適であると考えられた。N. グルティノサおよびN.ベンタミアナは退緑局所病変および全身退緑ならびに葉の中度の変性を伴って反応する。
【0196】
ウイルス精製
感染した葉組織からのビリオンの精製はかなり難しいことが分かった。ToTVは有機溶媒に耐えることができず、および低温で遠心分離した場合に凝集する傾向がある。使用した精製プロトコル(1.2.参照)により、硫酸セシウム勾配中に2本の目に見えるウイルス含有バンドが結果として得られた。バンドは勾配の最下層部に見られ、Cs2SO4中での1.4g/cm2と等しいまたは1.4g/cm2を上回るかなり高い浮遊密度を示した。
【0197】
ToTVの感染性は硫酸セシウムによって影響を受けるが、開始材料中のウイルス濃度が高い場合、完全には失われなかった。両ウイルスバンドを含む硫酸セシウム勾配の分画は、感染性であった。個々のバンドの感染性は決定しなかった。
【0198】
電子顕微鏡法
2本のバンドを電子顕微鏡法によって調べ、および両方が直径約28nmのウイルス粒子を含んでいた(図2)。
【0199】
PAGE解析
精製したウイルス分画のポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)、その後のゲルの銀染色によって、およそ23、26、および35kDaの3つのカプシドタンパク質(CP)が示された(精製したウイルスの最上層の(TAgV-T)分画および最下層の(TAgV-B)分画を示す、図3参照)。
【0200】
核酸単離およびcDNAの解析
両ウイルスバンドを合わせたRNA単離により:およそ5.5kbおよび8kbという2つのRNAが明らかになった(図4参照)。上のバンドのRNA単離により、5.5kb RNA断片のみが結果として得られた。
【0201】
最上層のバンドからの5.5kb RNAを、cDNA合成およびクローン化のための鋳型として使用した。異なるクローン上のフォワード配列プライマーおよびリバース配列プライマー(T3/T7またはM13F/M13R)を用いて配列反応を行った。c-DNA末端の5'迅速増幅(RACE)を行い、RNAの正確な5'末端を決定した。Lasergene(登録商標)ソフトウェアパッケージ(DNASTAR社, Madison, WI, USA)を用いた、結果として得られた配列データの解析により、ウイルスのRNA2の完全な配列が結果として得られた(SEQ ID NO:1;図5参照)。RNAのサイズは、ポリA尾部を除いて5389ヌクレオチドである。RNA上に2つのオープンリーディングフレーム(ORF)が見られる。ORF1はヌクレオチド182〜742に位置し、561ヌクレオチド長で、かつ187アミノ酸のタンパク質をコードしている。NCBIデータベース中でタンパク質レベルおよびヌクレオチドレベルでこの配列に対する相同性は見られなかった。
【0202】
ORF2はヌクレオチド702〜4298に及び、3597ヌクレオチド長で、かつ1199アミノ酸のタンパク質をコードしている。NCBIデータベース中のBLAST検索の後、幾つかのウイルスポリタンパク質との低い相同性が見られた。見られた相同性に対して、NCBIデータベースからのアクセッション番号が、ウイルス名およびタンパク質の種類と共に与えられている。核酸配列および3つのリーディングフレーム全てにおいて得られるアミノ酸配列をBLAST解析で用いた。Lasergene(登録商標)ソフトウェアパッケージからのMAPDRAWを用いてORFを同定した。
【0203】
両RNAのORF地図
RNA1
RNA1は、ヘリカーゼに典型的なモチーフのある1つのORF(ORF1)、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)を含む。さらに、アミノ酸位置106〜338について、22%の同一性がある、パチョリ微斑モザイクウイルス(PatMMV)(NP647592.1)のプロテアーゼ補助因子(Pro-Co)との低レベルのアミノ酸(aa)配列相同性が観察された。
【0204】
典型的なヘリカーゼモチーフA(GKS)、B(D)、C(N)を推定ポリペプチドのaa位置398〜400、444、および495において同定した。
【0205】
ヘリカーゼ領域について、イネツングロ球状(tungro spherical)ウイルス(RTSV;140aaの重なりの中で42%同一)、トウモロコシ退緑萎縮ウイルス(MCDV;137aaの重なりの中で43%同一)、イチゴ斑紋ウイルス(SMoV;135aaの重なりの中で42%同一)、およびパースニップ黄色斑点ウイルス(PYFV;138aaの重なりの中で42%同一)との最も近い同一性が見られた。推定VpG領域において、その他のウイルスとの配列類似性は見られなかった。
【0206】
プロテアーゼにおける最高の類似性はaa1000〜1100に対して見られ、25%の同一性がジャガイモウイルスV(PVV;86aaの重なりの中のNIaプロテアーゼ)に対して見られる。
【0207】
モチーフI(KDE)からVII(FLSR)までの間のRdRp領域はaa1303〜1554間に見られた(Koonin 1991)。
【0208】
ポリタンパク質配列の最も近い同一性が、以下に対して見られた:751aaの重なりの中で29%同一のイネツングロ球状ウイルス(RTSV)、742aaの重なりの中で28%同一のトウモロコシ退緑萎縮ウイルス(MCDV)、501aa中で33%同一のパースニップ黄色斑点ウイルス(PYFV)、472aa中で32%同一のリンゴ潜在球状ウイルス(ALSV)、680aa中で30%同一のイチゴ斑紋ウイルス(SMoV)、および465aa中で33%同一のサクランボラスプ葉(rasp leaf)ウイルス(CRLV)。
【0209】
(表2)ToTV RNA1上のORF1におけるRdRpモチーフとその他の植物ウイルスのRdRpモチーフの間の(%での)全体的な相同性のレベル

NIMV=ネーブルオレンジ感染性斑紋形成ウイルス(サドワ);PYFV=パースニップ黄色斑点ウイルス(セキウイルス);RTSV=イネツングロスペリカルウイルス(ワイカウイルス);SDV=温州ミカン萎縮ウイルス(サドワウイルス);SMoV=イチゴ斑紋ウイルス(サドワウイルス);ToTV-トマトトラードウイルス(提案されている属);ALSV=リンゴ潜在球状ウイルス(チェラウイルス);CRLV=サクランボラスプ葉ウイルス(チェラウイルス);MCDV=トウモロコシ退緑萎縮ウイルス(ワイカウイルス)
【0210】
(表3)ToTV RNA1上のORF1におけるヘリカーゼモチーフとその他の植物ウイルスのヘリカーゼモチーフの間の(%での)全体的な相同性のレベル

PYFV=パースニップ黄色斑点ウイルス(セキウイルス);RTSV=イネツングロスペリカルウイルス(ワイカウイルス);SDV=温州ミカン萎縮ウイルス(サドワウイルス);SMoV=イチゴ斑紋ウイルス(サドワウイルス);ToTV-トマトトラードウイルス(提案されている属);ALSV=リンゴ潜在球状ウイルス(チェラウイルス);CRLV=サクランボラスプ葉ウイルス(チェラウイルス);MCDV=トウモロコシ退緑萎縮ウイルス(ワイカウイルス)
【0211】
RNA2
RNA2は2つの潜在的ORFを含む(図7)。ORF1は20kDaという分子量を持つ187aaの予測タンパク質をコードしている。配列解析により、EMBLデータベース由来の任意のタンパク質と相同性がないことが明らかとなった。このORFが実際のタンパク質をコードしているかどうかは不明である。
【0212】
ORF1と一部重なる第2のORFは、フレーム内の3つのATG開始コドンで始まる。それは134kDaという予測分子量を持つ1198aaの推定タンパク質をコードしている。単離された外被タンパク質のマススペクトロメトリーによるタンパク質同定によって、3つの外被タンパク質シストロンはRNA2-ORF2のC末端に明瞭にマッピングされる。
【0213】
提案されている移動タンパク質コンセンサス配列LxxPxL(Mushegian、1994)と極めて類似性のあるモチーフLRVPMLがaa位置262〜267に見られたので、RNA2-ORF2ポリタンパク質のN末端領域は推定移動タンパク質(MP)をコードしている可能性が最も高い。その他の配列相同性はRNA2 ORF2のN末端において見られなかった。
【0214】
ORF2は、タンパク質分解的切断によってポリタンパク質前駆体から切断されなければならない4つのタンパク質をコードしていると推定される。しかしながら、公知のポリタンパク質切断部位との明白な相同性は同定できなかった。これらの切断部位の正確な位置は依然として決定されないままである。
【0215】
CP1ポリタンパク質配列について、本発明者らは、103aaの中で21%同一性を持つヒトパレコウイルス(HPeV)との相同性しか見出さなかった。
【0216】
CP2ポリタンパク質配列の最も近い同一性が以下に対して見られた:168aa中で25%同一のムギクビレアブラムシ(Rhopalosiphum padi)ウイルス(RhPV)、74aa中で33%同一のトリ脳脊髄炎ウイルス(AEV)、37aa中で43%同一のブラッククイーン細胞ウイルス(BQCV)、および51aa中で30%同一のヒアリ(Solenopsis invicta)ウイルス(SINV-1)。CP3ポリタンパク質配列に対して、相同性は見られなかった。
【0217】
非翻訳領域(UTR)
RNA1およびRNA2の3'UTRはそれぞれ、1210ntおよび1092ntである。両RNAの最後の988ヌクレオチドにおいて98%の同一性がある。両RNAのUTRの3'-領域が同一であることを確認するために、トータルウイルスRNAに対して、同一の3'-UTR領域由来の1つのリバースプライマーおよび2つのRNA特異的フォワードプライマーで、RT-PCRを行った。結果として得られたPCR産物をシークエンスした。
【0218】
これらの結果から、以下のことが結論付けられた:トマト植物から単離され、および仮にトマトトラードウイルス(ToTV)と命名されたウイルスは、直径およそ28nmの球状の(20面体の)粒子を有する。精製によって、本ウイルスは硫酸セシウム勾配中に少なくとも2本のバンドを示す。タバコ植物に接種した場合、組み合わせた両バンドは伝染性である。ウイルス粒子は、およそ23、26、および35kDaの少なくとも3つのカプシドタンパク質からなるように見える。
【0219】
ウイルスの硫酸セシウム勾配の最上層の分画はおよそ5.5kbのRNA分子(RNA2;SEQ ID NO:1)を含み、および最下層の分画はおよそ8kbのRNA分子(RNA1;SEQ ID NO:2)を含む。
【0220】
ウイルスの最上層分画からの5.5kb RNAを用いた、cDNA合成およびクローン化、ならびにその後の配列情報の解析によって、幾つかのコンティグのSEQ ID NO:1への編集がもたらされた。2つのコンティグはポリA尾部をはっきりと含み、ウイルスRNAがポリA尾部を有することを示唆している。ヌクレオチド配列および得られたアミノ酸配列のBLAST解析によって、EMBLデータベースからの任意の公知のウイルスとのいかなる顕著な相同性も明らかにされなかった。
【0221】
上の情報により、ToTVが新しくかつこれまでに記載されていないウイルスであるということが示されている。これまでに得られた情報によって、特定の科または属における本ウイルスのグループ分けは未だ可能にならない。
【0222】
ウイルス検出および同定の目的のために、SEQ ID NO:1の配列に基づいて、2つのRT-PCRプライマーセットを設計した(表4)。
【0223】
(表4)ToTV検出用のRT-PCRプライマー

【0224】
好適なRT-PCRプロトコルは以下を含むと考えられる。例えばQiagen RNA-Easyなどの、RNA精製キットを用いて、約100μgの感染した葉物質からトータルRNAを単離および精製した。このトータルRNAのうち、約1μgの量を、50μl のSuperscript 1-工程RT-PCR反応(Invitrogen)の反応混合液中で使用し、反応混合液はさらに25μl 2×反応混合物、1μl(100ng)のアッパープライマーおよびダウンプライマーの両方、1μlのRT/Taq混合物、ならびに22μlのミリQ水を含む。RNAをcDNAに逆転写し、およびこのcDNAを増幅するために、以下のRT-PCRプログラムを用いてもよい:工程1:30分@50℃(逆転写反応);工程2:3分@94℃(Taqポリメラーゼの活性化);工程3:30秒@94℃;工程4:30秒@55℃;工程5:1分@72℃;工程6:工程(3〜5)を繰り返す 40×;工程7:10分@72℃;工程8:必要な限り10℃。TAE緩衝液またはTBE緩衝液中の1%アガロースゲル上で、PCR産物を解析してもよい。
【0225】
2.6.ToTVの3つのカプシドタンパク質のアミノ酸配列の決定
最も大きい外被タンパク質(CP1:およそ35kDa)の断片を、RNA2のORF2(AA487〜729)における領域の部分とアラインすることができた。真ん中の外被タンパク質バンド(CP2:およそ26kDa)の断片を、AA730〜983間のRNA2のORF2の領域とアラインすることができた。
【0226】
最も小さい外被タンパク質(CP3:およそ23kDa)の断片を、RNA2のORF2(AA984〜1195)のC末端とアラインすることができた。これらの結果から、3つのカプシドタンパク質のコード配列はToTVのRNA2(5.5kb)のORF2上に位置するということ、およびしたがって単離されたウイルスRNA分子はToTVウイルス粒子の一部であるということを結論付けることができる。
【0227】
実施例2. マルチテスの原因となる作用物質の単離および特性解析
2003年、中央アメリカ(メキシコおよびグアテマラ)で成長した、ToTVの症状に類似した症状があるトマト植物が発見された。原因となる作用物質はウイルスであると疑われた。この病気は、「チョコレート」、「マルチテス(ウイルス)」、または「チョコレート斑点病」という名で現地では公知である。野外で成長する易罹患性植物は、2003年以降、ひどく感染するようになった。
【0228】
本検討の目的は、「チョコレート斑点病」を引き起こすこれまで未知のウイルスの配列を、実施例1で単離されたようなToTVの配列と比較することであった。
【0229】
方法
トータルRNA単離系(Promega SV96)を用いて、約100μgの「チョコレート斑点病」に感染した葉物質からRNAを単離した。2μlのトータルRNAを、50μl のSuperscript 1-工程RT-PCR反応(Invitrogen)の反応混合液中で使用し、反応混合液はさらに25μl 2×反応混合物、1μl(100ng)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーの両方、1μlのRT/Taq混合物、ならびに22μlのミリQ水を含んでいた。RNAをcDNAに逆転写し、およびこのcDNAを増幅するために、以下のRT-PCRプログラムを用いてもよい:工程1:30分@50℃(逆転写反応);工程2:3分@94℃(Taqポリメラーゼの活性化);工程3:30秒@94℃;工程4:30秒@55℃;工程5:1分@72℃;工程6:工程(3〜5)を繰り返す 40×;工程7:10分@72℃;工程8:必要な限り10℃。TAE緩衝液またはTBE緩衝液中の1%アガロースゲル上で、PCR産物を解析した。
【0230】
異なる場所でToTVゲノムのRNA1またはRNA2とアニールすることが公知である、異なるプライマーセットをRT-PCRで使用した。
【0231】
(表5)実施例2で使用されたようなおよび図7で示されたようなチョコレート斑点病の原因ウイルスの特性解析のために使用されるToTVのRNA-2配列に基づくRT-PCRプライマー

【0232】
結果
使用したプライマーセットは期待した通りにToTV配列の部分の増幅を促進したが、RT-PCRにおけるRNA-2配列(P1048/1049、P1056/1057、P1060/1061、およびP1064/1065)に基づく4つの異なるプライマーセットの使用によって、「チョコレート斑点病」ゲノムの部分の増幅ももたらされた。これらのプライマーセットのアニーリングの部位を図1に図示する。
【0233】
「チョコレート斑点病」の断片を増幅する4つのプライマーセットのRT-PCR産物をシークエンスし、および実施例1で記載されたようなウイルスのウイルスゲノムの配列の対応する部分との100%の同一性が示された。
【0234】
参照






【図面の簡単な説明】
【0235】
【図1】トマト植物の葉の上のToTV病の症状の写真を示す。
【図2】精製したToTV粒子の電子顕微鏡写真を示す。粒子は直径約28nmである。
【図3】およそ23、26、および35kDaの3つのカプシドタンパク質を表す精製したToTVウイルスの最上層(TAgV-T)分画および最下層(TAgV-B)分画の銀染色したPAGEゲルの結果を示す。
【図4】変性アガロースゲル電気泳動の結果を示す。断片のサイズをキロベース(kb)で表す。オルソトルイジンブルーを用いてゲルを染色した。M:分子サイズ標準。TAgV:1μgの単離されたToTV RNA。
【図5】ToTV RNA2分子(SEQ ID NO:1)の完全配列を示す。
【図6】ToTV RNA1分子(SEQ ID NO:2)の完全配列を示す。
【図7】実施例2で使用されたような様々なプライマーセットのRNA2に対するアニーリングの部位を表すToTVウイルスの一般構造を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ToTV-E01(DSM16999)という寄託者参照番号で、2004年11月24日にDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託された、トマトトラード(Tomato torrado)ウイルス(ToTV)と命名された植物ウイルス。
【請求項2】
SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2からなる群より選択される少なくとも1つの核酸配列、ならびにそれに対して少なくとも50%のヌクレオチド配列相同性を有する配列を含むウイルス。
【請求項3】
「トラード」、「マルチテス(Marchitez)」、および/もしくは「チョコレート斑点病」という名前で公知のトマトの病気と関連し、ならびに/または本質的に表1で定義されたような分類学的記述子の数量分類学的解析に基づいて、任意のその他のウイルスよりも請求項1で定義されたウイルスとより近縁関係にあることが示され、ならびにトマトで壊死病変を引き起こす病気と関連する、請求項2記載のウイルス。
【請求項4】
SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:1もしくはSEQ ID NO:2に対して少なくとも50%のヌクレオチド配列相同性を有する配列、およびそれらの相補鎖、ならびにそれらのToTV特異的断片からなる群より選択される核酸配列を含む、単離された核酸もしくは組換え核酸またはそれらのToTV特異的断片。
【請求項5】
請求項4記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項6】
ストリンジェントな条件下で請求項4記載の核酸にハイブリダイズすることができるポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項記載のウイルスから得られる単離されたポリペプチドもしくは組換えポリペプチド、またはそれらのToTV特異的断片。
【請求項8】
ToTVの23、26、および35kDaのカプシドタンパク質、ヘリカーゼ、RNA依存性RNAポリメラーゼ、および推定移動タンパク質(MP)、ならびにそれらのToTV特異的断片からなる群より選択される、請求項7記載のポリペプチド。
【請求項9】
請求項7または8記載のポリペプチドを含む抗原。
【請求項10】
請求項9記載の抗原を特異的に対象とする抗体。
【請求項11】
ToTVに対する抗体を産生するための方法であって、以下の工程を含む方法:
a)ToTVウイルス、またはタンパク質もしくはそのペプチド断片を提供する工程、
b)適切な脊椎動物宿主を該ウイルス、タンパク質、またはペプチド断片で免疫する工程、ならびに
c)脊椎動物宿主の血液または脾細胞から、該ウイルス、タンパク質、またはペプチド断片に対する抗体を採取する工程。
【請求項12】
1つの抗体産生脾細胞を選択し、該脾細胞を、不死化したハイブリドーマ細胞株に融合させ、ハイブリドーマ融合体にモノクローナル抗体を産生させる工程をさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
請求項11または12記載の方法によって得られる抗体。
【請求項14】
ウイルス単離体をToTVウイルスであると同定するための方法であって、ウイルス単離体またはその構成要素を請求項10または13記載の抗体と反応させる工程を含む方法。
【請求項15】
ウイルス単離体をToTVウイルスであると同定するための方法であって、ウイルス単離体またはその構成要素を請求項6記載のポリヌクレオチドと反応させる工程を含む方法。
【請求項16】
試料におけるToTVの存在を検出するための方法であって、試料を請求項6記載のポリヌクレオチドまたは請求項10もしくは13記載の抗体と反応させることによって、試料におけるToTVウイルスまたはその構成要素の存在を判定する工程を含む方法。
【請求項17】
ToTV抵抗性植物を同定するための方法であって、以下の工程を含む方法:
a)植物または植物部分を感染量のToTVに曝露する工程、および
b)曝露後、
−易罹患性の対照植物と比較して、植物もしくは植物部分における病気-症状が存在しないままである、もしくは発現が遅延する、もしくは少なくとも重症度が低下する、もしくは局在化する、および/または
−ToTVウイルスもしくはToTVゲノム配列が植物もしくは植物部分に存在しない、または易罹患性の対照植物と比較して、ToTVウイルスの存在が少なくとも量的に低下している
のいずれかである場合に、植物をToTV抵抗性植物であると同定する工程。
【請求項18】
工程b)において、植物または植物部分におけるToTVの存在を、請求項16記載の方法を実行することによって判定する、請求項17記載の方法。
【請求項19】
ToTV抵抗性植物を産生する方法であって、以下の工程を含む方法:
a)請求項17または18記載の方法を実行することによって、ToTV抵抗性ドナー植物を同定する工程、
b)ToTV抵抗性ドナー植物をレシピエント植物と交配する工程、および
c)請求項17または18記載の方法を実行することによって、子孫植物から抵抗性植物を選択する工程。
【請求項20】
ドナー植物がナス科(Solanaceae)またはウリ科(Cucurbitaceae)の植物である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
ドナー植物が、トマト植物、ナス植物、コショウ植物、メロン植物、スイカ植物、またはキュウリ植物である、請求項19記載の方法。
【請求項22】
レシピエント植物がナス科またはウリ科の植物である、請求項19〜21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
レシピエント植物が、トマト植物、ナス植物、コショウ植物、メロン植物、スイカ植物、またはキュウリ植物である、請求項19〜21のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
レシピエント植物がトマト(Solanum lycopersicum)種のトマト植物、より好ましくは商業的に望ましい特徴を保有するトマト株である、請求項19〜21のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
請求項19〜24のいずれか一項記載の方法によって得られる、ToTV抵抗性植物、またはその部分。
【請求項26】
請求項1〜3のいずれか一項記載のウイルス、請求項6記載のポリヌクレオチド、請求項7または8記載のポリペプチド、請求項9記載の抗原、および請求項10または13記載の抗体からなる群より選択される少なくとも1つの構成要素を含む、請求項16記載の方法を実施するための診断キット。
【請求項27】
診断組成物の産生のための、請求項1〜3のいずれか一項記載のウイルス、請求項6記載のポリヌクレオチド、請求項7もしくは8記載のポリペプチド、請求項9記載の抗原、または請求項10もしくは13記載の抗体の使用。
【請求項28】
請求項1〜3のいずれか一項記載のウイルス、請求項6記載のポリヌクレオチド、請求項7もしくは8記載のポリペプチド、請求項9記載の抗原、または請求項10もしくは13記載の抗体を含む診断組成物。
【請求項29】
請求項1〜3のいずれか一項記載のウイルス、そのゲノム、または抵抗性を付与するそれらの部分の抗ウイルス剤としての使用。
【請求項30】
請求項1〜3のいずれか一項記載のウイルス、もしくはそのゲノム、またはそれらの部分の発現ベクターとしての使用。
【請求項31】
植物の相関免疫のための、弱毒型の請求項1〜3のいずれか一項記載のウイルス、もしくはそのゲノム、またはそれらの部分の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−526224(P2008−526224A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550317(P2007−550317)
【出願日】平成18年1月9日(2006.1.9)
【国際出願番号】PCT/NL2006/000009
【国際公開番号】WO2006/085749
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(507107899)デルイター シーズ アール アンド ディー ビー.ブイ. (4)
【Fターム(参考)】