説明

トマト微粒化処理物およびその製造法

【課題】トマトジュースは、安価で、GABA含量が高いことから、健康飲料としての利用が期待されているものの、他の野菜ジュースと比較し、GABA吸収効率が悪く、その向上が望まれている。
【解決手段】本発明は、トマト搾汁液を物理的に微砕化処理することを特徴とするトマトジュースの製造法を提供する。トマト搾汁の条件が一定でないことにより生じていた粒子のメディアン径に大きなばらつきを、スーパーマスコロイダー等の磨砕機や高圧ホモジナイザー等の機械的剪断力を用いる物理的磨砕処理を行い、当該高分子成分粒子のメディアン径を5〜10μmに均一化することで、トマトジュースを摂取した際のGABA吸収効率を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トマト微粒化処理物、特に摂食した場合に血漿中GABA濃度の上昇させることが可能で、GABAの優れた機能性を期待できるトマト微粒化処理物に関する。
【背景技術】
【0002】
γ−アミノ酪酸(GABA)は、生物界に広く分布するアミノ酸の一種で、哺乳類の脳や脊髄に分布する神経伝達物質である。GABAは、精神安定作用、脳機能改善作用など抗ストレス作用やリラックス作用もあるといわれている。高血圧モデルラットやヒトに対して経口摂取で血圧降下作用を示すことが報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、GABAは、優れた機能性を有するが、ヒトで十分な効果を得るためには相当量を摂取しなくてはならない。食品用の機能性素材として純度の高いGABAも市販されているが、効果が十分に発揮するように配合すると高コストとなる。
【0004】
このように安価で、グルタミン酸やGABAを添加することがなく、食品本来の味、香等のバランスに優れ、かつ、GABAの吸収効率が改善された食品素材が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−290129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、トマト及びその処理物は、安価で、GABA含量が高い飲食品ではあるが、他の野菜搾汁液と比較してGABAの吸収効率が低いことから、GABA吸収効率の向上が望まれており、よって、本発明は、GABAの吸収効率の高いトマト及びその処理物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来のトマト処理物、例えばトマトジュースは、トマトパルプ等の高分子成分の粒子径が比較的大きく5〜30μmあるいは50〜300μmの粒径を有する粒子の割合が高い粒度分布を示すことが多かった。また、搾汁の条件が一定でないため、粒子のメディアン径が75〜110μmであったり、6〜10μmであったりと、製造ロット間で大きな差異があった。そこで本発明者らは、前記課題を解決のために鋭意研究を重ねた結果、トマト搾汁液を物理的に微細化処理することにより、別途GABAを添加することなく、吸収効率の高いGABA含有トマトジュースを製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、(1)トマト又はトマト処理物を微粒化して得られ、その粒度分布において、10μm以下の粒子径を有する粒子が50%以上含まれることを特徴とするトマト微粒化処理物であって、(1)に記載の微粒化の手段が、酵素処理、膜処理又は物理的破砕処理であることを特徴とし、(1)に記載のトマト微粒化処理物を含有する飲食品を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で用いられるトマトは、本発明の効果を損なうものでない限り、いかなるものでもよい。トマトの産地は、特に限定されず、国産でも海外からの輸入品でもよい。
【0010】
本発明でトマト処理物とは、トマトを破砕又は搾汁して得られる処理物であり、トマトジュース、トマトピューレ。トマトペーストあるいはトマトケチャップ等の加工食品が含まれる。
【0011】
微粒化処理は、物理的粉砕処理、酵素処理、膜処理により行う。これによりトマト由来の高分子成分、例えば細胞壁を構成するペクチン質、セルロース、ヘミセルロース等のトマトパルプが低分子化され、食品中の栄養成分吸収向上が期待される。
【0012】
微粒化する手段としては、野菜用の細断機、ミキサー、ブレンダー、ミル、ハンマー式粉砕機等によって処理する方法が挙げられ、次いで、スーパーマスコロイダー等の磨砕機や高圧ホモジナイザー等の機械的剪断力を併用する物理的磨砕処理により行うことがのぞましい。
【0013】
上記、スーパーマスコロイダーでは、砥石間隙(回転グラインダークリアランス)0.01〜10mm、回転グラインダー回転数300rpm〜4,000rpmの条件下で処理量10〜1,000kg/hrの範囲で行うことが望ましい。
【0014】
また、物理的破砕処理に代えて、細胞壁分解酵素を添加しての酵素処理や、膜処理等の手段を行ってもよい。このようにして、本発明の製造方法により、GABA吸収効率の高いトマト微粒化処理物を得ることができる。
【0015】
トマト由来の粒子は、その粒度分布において、10μm以下の粒子径を有する粒子が50%以上あることが望ましい。より好ましくは、10μm以下の粒子径を有する粒子が70%以上であり、最も好ましくは10μm以下の粒子径を有する粒子が90%以上である。この場合、GABA吸収の向上が最も改善される。
【0016】
本発明のトマトジュースは、従来知られたトマトジュースよりもGABA吸収効率の高いトマトジュースである一方、現在の食品業界における天然物嗜好の流れや、食品本来の味や香り等のバランス等を考えるとき、GABAを添加して得られるトマトジュースなどより、好ましいトマトジュースといえる。
【0017】
さらに、また、トマト微粒化処理物のGABA含量を増やすために、例えば、植物由来のものとしては、米胚芽、カボチャ果実等由来のGABAを添加し、トマト処理物にグルタミン酸脱炭酸酵素やグルタミン酸脱炭酸酵素活性を有する微生物を作用させてGABA含量を増大させる工程を微砕化工程の前後に加えてもよい。
【0018】
また、本発明のトマト微粒化処理物は、血圧降下作用を有する未分解のペプチド等を含むことも期待され、血圧降下作用が期待される栄養医薬品の素材として使用することもできる。
【0019】
また、本発明のトマト微粒化処理物に、血圧降下作用を有するペプチドやニコチアナミン等を混合した健康機能飲食品とすることができる。さらには、本発明のトマトジュースを、パン、菓子、味噌、ヨーグルト、チーズ等の食品や、しょうゆ、つゆ、たれ、スープ、ジュース、ドリンク等の飲食品に添加して、健康志向食品を製造することもできる。
【0020】
なお、本発明でいう粒子径とは、トマト搾汁液(トマトジュース)の粒子径の平均値を、レーザ回折式粒度分布測定装置(例えば、島津製作所社製SALD−200V ER)を用いて個数基準で測定し、各粒子径の値に相対粒子量を掛けた総和を、相対粒子量の合計(100%)で除することで得られる平均値である。
【0021】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0022】
(トマト微粒化処理物の調製)
トマトジュース酵素処理品は、市販のトマトジュース100gにセルラーゼ製剤・オノズカ3S(ヤクルト薬品工業社製)を1%(w/w)添加することで調整した。セルラーゼ製剤添加後、40℃で16時間保持し、沸騰浴に10分間つけて酵素を失活させ、本発明1のトマトジュース微粒化処理物を得た。物理的破砕処理品は、市販のトマトジュース2kgをスーパーマスコロイダー(増幸産業社製)で回転グラインダークリアランス0.1mm、回転数500rpm、当該トマトジュース供給量50kg/hrの条件で磨砕化処理することで本発明2のトマトジュースの微粒化処理物を得た。各種トマトジュースの粒子径は、島津レーザ回折式粒度分布測定装置SALD−200V ER(島津製作所社製)にて測定した。このときの、粒度分布の様子を図1に示す。
【0023】
メディアン径などの数値のまとめは、表1に示した。トマトジュースの粒子径分布は5−300μmで、メディアン径は95.1μmであった。 酵素処理品は、5-10μmのメディアン径分布で、メディアン径の平均値は7.2μm、物理的破砕処理品は酵素処理品と同様の分布を示し、メディアン径の平均値は7.2μmの分布で、トマトジュースは、酵素的、あるいは物理的破砕処理で、メディアン径の平均値で7.2μmの微粒子であることが確認された。メディアン径の平均値が100μm前後のトマトジュースは、物理的な処理によって、メディアン径の平均値が7.2μmに均一に処理されることが明らかとなった。なお、本発明1のトマトジュースの微粒化処理品は、粒度分布において、10μm以下の粒子径を有する粒子は99%以上であり、本発明2のそれは、93.5%であった。
【0024】
【表1】

【実施例2】
【0025】
(酵素処理トマトジュースのGABA吸収試験)
実施例1で得た物理的破砕処理トマトジュースおよび酵素処理トマトジュースをラット(Wistar、オス、約300−350g、10週令、n=5)に、絶食下、経口投与し、15分後のラット血漿中に含まれるGABA濃度を測定した。比較例として、GABA水溶液および無処理のトマトジュースを用いた。いずれの試料もGABA摂取量が、各ラットの体重当たり11.8 mg/kgとなるよう調整した。各血液サンプルは、ハロタン麻酔下頚静脈から1.5mlの採血することで得た。採血後、定法によりヘパリン処理血漿を得、速やかに−80℃に凍結した。血漿中GABA濃度の測定は、株式会社エスアールエル(東京、立川市)に委託した。
【0026】
各血漿中に含まれていたGABA濃度を図2に示す。同量のGABA投与量でも、トマトジュース投与群の血中GABA濃度は、GABA水溶液投与群の血中GABA濃度よりも低かった。トマトジュース酵素処理品投与群の血中GABA濃度は、トマトジュース投与群の血中GABA濃度よりも高く、トマトジュース物理的破砕処理品投与群の血中GABA濃度は、トマトジュース投与群の血中GABA濃度と同程度であった。
【0027】
同量のGABA含有量でもトマトジュースのGABA吸収効率が酵素処理及び物理的破砕処理による微粉末化で向上することが明らかとなった。また、試験期間中のラットの体重変化や摂食量は各群で有意差がなく、行動、外見においても目立った変化は確認できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】各処理トマトジュースの粒子径分布
【図2】各処理トマトジュースをラットに単回投与した15分後の血漿中GABA濃度(平均値)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トマト又はトマト処理物を微粒化して得られ、その粒度分布において、10μm以下の粒子径を有する粒子が50%以上であることを特徴とするトマト微粒化処理物。
【請求項2】
微粒化の手段が、酵素処理、膜処理又は物理的破砕処理である請求項1に記載のトマト微粒化処理物。
【請求項3】
請求項1に記載のトマト微粒化処理物を含有する飲食品。
【請求項4】
飲食品がトマトジュースである請求項3の記載の飲食品。
【請求項5】
トマト又はトマト処理物を微粒化し、その粒度分布において、10μm以下の粒子径を有する粒子が50%以上のものを得ることを特徴とするトマト微粒化処理物の製造法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−81874(P2010−81874A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254473(P2008−254473)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【出願人】(000104559)日本デルモンテ株式会社 (44)
【Fターム(参考)】