説明

トマト粉体、その製造方法及び利用

【課題】トマト本来の高い栄養価をもつと共に、優れた生理活性作用をもち、摂取の容易なトマト粉体とその製造方法とその用途を提供する。
【解決手段】有機トマトから乾燥トマト粉体を得る過程で、滅菌等の処理も含めて低温を維持すると共に真空凍結低温乾燥法を利用することにより有効量のトマトステロイド配糖体を含有する可食性乾燥トマト粉体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナス科ナス属トマト(Solanum Jycopersium)の新規粉体、その製造方法及びその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年我が国の食生活の欧米化により動物性食品の増加による生活習慣病、メタボリックシンドローム、花粉症、アレルギー性疾患等の深刻さが増している。国民の健康思考が高まり食事療法の重要性が注視され健康維持の願望も大きく健康機能食品が期待される。
【0003】
従来から、トマトは浄血力が非常に強く肝臓、腎臓を助け、脂肪の吸収を抑える機能を有し高脂血を改善し、動脈硬化を防ぐ作用が知られている。加えてカリウムの含有量も多く血圧を下げる効果も実証されている。
【0004】
また、非特許文献1には、野原等が、トマトからステロイド配糖体エスクレオサイドA(3−O−β−リコテトラオシル(5S、22S、23S、25S)−23−アセトキシ−3β、27−ジヒドロキシスピロソラン27−O−β−D−グルコピラノサイド)及びエスクレオサイドB(3−O−β−リコテトラオシル(5S、22S、23R、25S)−22、26−エピミノ−16β、23−エポキシ−3β、23、27−トリヒドロキシコレスタン22−O−β−D−グリコピラノサイド)を抽出し、このステロイド配糖体(以下、「トマトステロイド配糖体」という)を服用すると体内でPregnane等のホルモンに変換されて種々抗癌作用等の生理活性を示すことを報告している。
【0005】
また、有姿のトマトを食することにより、悪玉コレステロールとして知られる低比重リポタンパク(LDL)のレベルを低下させる等のある程度の生理活性作用を示すことも知られている。
しかし、有姿のトマトを食して有効量のトマトステロイド配糖体を摂取するには大量のトマトを食する必要がある。
一方、粉体化したトマト製品も種々知られている。
従来のトマト粉末食品の一般的な製造工程では、洗浄を流水撹拌洗浄で行い、滅菌処理を次亜塩素酸ナトリウムでの処理と80℃以上での加熱処理で行っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Tetrahedron60(2004)4915〜4920
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等はトマトの粉体加工について種々検討した結果、従来一般的に用いられているトマトの粉体加工工程では高温乾燥・殺菌を行うこと等が原因し、トマトステロイド配糖体が分解し、従来知られた摂取可能なトマト粉体にはトマトステロイド配糖体が事実上含まれていないことを知見した。
【0008】
本発明の目的は、トマト本来の高い栄養価をもつと共に、優れた抗腫瘍作用等の生理活性作用を示し、摂取の容易なトマト粉体、その製造方法及びその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、第1に、有効量のトマトステロイド配糖体を含有することを特徴とする可食性乾燥トマト粉体である。
本発明は、第2に、成熟したトマトを洗浄・滅菌処理した後、ペースト状にし、真空凍結乾燥し、解砕して粉体化すると共に、上記の少なくとも洗浄・滅菌処理後の全工程を50℃以下で行うことを特徴とする上記第1に記載の可食性乾燥トマト粉体の製造方法である。
【0010】
本発明は、第3に、上記可食性乾燥トマト粉末(その溶解体を含む)からなる補助食品である。
本発明は、第4に、上記可食性乾燥粉末(その溶解体を含む)を製剤化してなる生理活性製剤である。
本発明は、第5に、上記可食性乾燥粉末(その溶解体を含む)を製剤化してなる皮膚疾患治療剤である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、乾燥粉体でありながら有効量のトマトステロイド配糖体を含有し、優れた生理活性作用等を有すると共に、ジュースや牛乳等への溶解性に優れ極めて容易に摂取可能な可食性の乾燥トマト粉体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に用いるトマトとしては、十分に成熟した完熟トマトと称されるものが好ましく用いられる。
本発明の可食性乾燥トマト粉体は、成熟トマト自体に含有されていたトマトステロイド配糖体、即ちエスクレオサイドA(3−O−β−リコテトラオシル(5S、22S、23S、25S)−23−アセトキシ−3β、27−ジヒドロキシスピロソラン27−O−β−D−グルコピラノサイド)及び/又はエスクレオサイドB(3−O−β−リコテトラオシル(5S、22S、23R、25S)−22、26−エピミノ−16β、23−エポキシ−3β、23、27−トリヒドロキシコレスタン22−O−β−D−グリコピラノサイド)を含有するものである。トマトの産地や種類によって、エスクレオサイドAとBのいずれか一方が含まれる場合もあり、またいずれか一方が主体的に含まれる場合もある。
【0013】
本発明において「有効量」とは、乾燥トマト粉体100g当り通常100mg以上、好ましくは300mg以上、より好ましくは500〜5000mgの含有量をいう。
本発明の可食性乾燥トマト粉体は次の方法で製造することができる。
【0014】
成熟した有姿トマトを、洗浄し、滅菌処理した後、通常ミキサーを用いてペースト状にし、得られたペースト状物を真空凍結乾燥し、解砕して粉体化すると共に、上記の少なくとも滅菌処理後の全工程を50℃以下好ましくは40℃以下の低温で行う。
【0015】
洗浄工程では通常水で十分に行われるが、ナノ水(ナノバブル:1μm以下)を用い洗浄水の浄化と原材料トマトの活性化を行うことがより好ましい。
また洗浄と滅菌処理は同時に行うことも可能である。
【0016】
たとえば洗浄水にマンガンイオンを加えて酸素吸着作用をもたせることによって抗酸化条件下に洗浄して生菌を抑えることは好ましい方法である。
洗浄水にオゾンを注入して、殺菌、ウイルスの不活化、脱臭、有機物の除去等を行うことも好ましい。
【0017】
滅菌処理の典型例としては、適宜の殺菌剤を含有する水、たとえば次亜塩素酸を豊富に含むカンファ水に、へた取り処理した有姿トマトを浸漬する等の方法を挙げることができる。以上の工程も50℃以下で行うことが好ましい。
【0018】
このようにして、トマト中に含まれるトマトステロイド配糖体の含有量を低下させることがないように配慮して有姿トマトを洗浄・滅菌処理した後、ミキサーでジュース状ないしペースト状にし、得られたペーストを真空凍結低温乾燥処理に供し、解砕し、粉体化する。
本発明では、ペースト化から粉体製品を得るまでの工程を、50℃以下、好ましくは40℃以下、さらに好ましくは30℃以下の低温で行うことが重要である。
【0019】
このようにして、有効量のトマトステロイド配糖体を含有すると共に、一般生菌数・大腸菌群、真菌数が日本食品検査指針・微生物2004に定めた生菌規格基準以内にある真空凍結低温乾燥トマト粉体を高収率で得ることができる。
本発明において、「可食性」とは、上記のように、一般生菌数・大腸菌群、真菌数が日本食品検査指針・微生物2004に定めた生菌規格基準を満足する状態にあることをいう。
【0020】
このようにして得られた本発明の可食性乾燥トマト粉体は通常そのまま密封性に優れた包装体によって包装されたり、錠剤化して製品とされる。
錠剤化は、周知のように、可食性乾燥トマト粉体に賦型材や、増粘材を加えて打錠することによって行うことができる。
【0021】
本発明の可食性乾燥トマト粉体を補助食品として用いる場合は、通常、ジュース、牛乳、ヨーグルト、アイスクリーム等の流動性食品の飲食時にそれらに溶解ないし混合して用いうるが、菓子、パン、ソバ、飴等の非流動性食品と組合せて用いることもでき、また上記も含めた各種の食品の最終製造工程前に加熱処理を経ないことを条件にそれらに混入して用いることもできる。
【0022】
本発明の可食性乾燥トマト粉体は、有効量のトマトステロイド配糖体を含有することに由来し、たとえば0.1〜10g/kg・日の摂取で動脈硬化抑制作用や抗腫瘍作用等の優れた生理活性を示すと共に、皮膚疾患に対しても有効な治療効果を示す。
【0023】
皮膚炎の例としては肌荒れ、あかぎれ、ひびわれ、しもやけ、ドライスキン、さらには接触性皮膚炎やアトピー性皮膚炎等のアレルギー性皮膚疾患あるいは乾癬等の種々の炎症性皮膚疾患によるかぶれや肌荒れ症状等がある。
次に実施例によって本発明を例証する。
【実施例1】
【0024】
完熟ミニトマトを、ステンレスタンク(800L)に入れ、水とマンガンイオン液と洗剤を入れたナノ水のエアレーション30分で残留農薬やワックスを落した。洗浄液には野菜果物用洗浄液SAFE CARE SC−MAGIC PAN(米国GEMTEK社製)を使用した。この洗剤は分子レベルの絶え間ない活動により、脂肪、油、タンパク質、糖質等の有機的な汚れを剥離し、細かく分離した状態で保持する機能を持っている。これをナノ水バブリングエアーレーションで完全に洗い落した。その間温度は約30℃以下に維持した。ヘタの部分を器具を用いて除去した。このトマトの菌検査の結果は、一般生菌数・大腸菌群、真菌数が日本食品検査指針・微生物2004に定めた生菌規格基準を十分に満足するものであった。
【0025】
このトマトをミルクミキサーでペースト状にした後、乾燥用トレー(容量5kg)に電動ポンプを用いて充填した。次に充填したトレーを6時間かけてマイナス25〜30℃に凍結し、真空凍結乾燥処理に供した。この時の真空度は0.7前後以下であり、品温(トレー上の製品温度)はマイナス30〜40℃に設定した。乾燥が進むにつれ品温が徐々に上昇した。
【0026】
次いで乾燥品を取り出し、粉砕機(ピンミルタイプ)で粉砕処理した。粉砕処理した粉体を振動篩い機で篩いにかけて、60メッシュ(目開き0.246mm)パスした乾燥トマト粉体を得た。
この乾燥トマト粉体の菌検査を行い、日本食品検査指針・微生物編2004に定めた一般生菌規格基準内にあることを確認した。
【0027】
この可食性乾燥トマト粉体の栄養成分を分析した結果、粉体3g当りの栄養成分及びトマトステロイド配糖体は次のとおりであった。
粉体3g当りの栄養成分 エネルギー :9.4Kcal
たんぱく質 :0.36g
脂質 :0.06g
炭水化物 :2.23g
ナトリウム :3.18mg
トマトステロイド配糖体(トマトサポニン):5〜10mg
【0028】
上記の可食性乾燥トマト粉体に水を添加して遠心分離した。上清をDiaionHP−20に通して引き続き、水とメタノールで溶出した。次にメタノール溶出液をODSカラムクロマトグラフィーにかけ、40%水性メタノールから開始して100%メタノールまで濃度勾配して溶出した。60〜70%時の溶出液から析出された結晶をエスクレオサイドAとした。
真空凍結低温乾燥法によるトマト粉体60gからエスクレオサイドAを426.78mg抽出し産出比は0.711%と高率であった。
【0029】
トマトステロイド配糖体がin vitroで様々な腫瘍細胞株の細胞増殖抑制作用をもつことが知られており、本発明の粉体に含まれるステロイド配糖体は極めて強力な抗腫瘍作用を期待できる。そこでMCF(ヒト乳癌細胞)やB16F2F(マウス黒色腫細胞)に対するエスクレオサイドAの増殖抑制を評価した。細胞毒性はWST−8測定法を用いて評価した。エスクレオサイドAのGI50(50%細胞増殖阻害濃度)値はMCF7及びB16F2Fでは、夫々13.3及び7.9μMであった。エスクレオゲニンAの抗ヘルペス(HSV−1)作用も確認した。EC50(50%形成阻害濃度)は42μg/mlであった。
【0030】
次に、スティック状包装用にPT#300(セロハン)SPE15(サイドポリエチレン)にAL7(アルミニウム)コーティングして遮光、防湿を計りAL−7#35(エバ35番)で更にコーティングした防湿性の高いスティック状包装材をつくり、上記の有効量のトマトステロイド配糖体を一包装当り3gを入れて密封包装した。この包装品は4〜18℃、湿度60%以下の保管条件下で1年以上製造時の品質を維持した。
【0031】
次に、上記の可食性乾燥トマト粉体の5%水溶液をつくり、アトピー性皮膚炎を患っている患者の皮膚に1日3回塗布したところ、5日後に、塗布していない部位に比し、約80%の改善効果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量のトマトステロイド配糖体を含有することを特徴とする可食性乾燥トマト粉体。
【請求項2】
成熟したトマトを洗浄・滅菌処理した後、ペースト状にし、真空凍結乾燥し、解砕して粉体化すると共に、上記の少なくとも洗浄・滅菌処理後の全工程を50℃以下で行うことを特徴とする請求項1に記載の可食性乾燥トマト粉体の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の可食性乾燥トマト粉体又はその溶解体からなる補助食品。
【請求項4】
請求項1に記載の可食性乾燥トマト粉体又はその溶解体を製剤化してなる生理活性剤。
【請求項5】
請求項1に記載の可食性乾燥トマト粉体又はその溶解体を製剤化してなる皮膚疾患治療剤。

【公開番号】特開2010−273593(P2010−273593A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128712(P2009−128712)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年12月29日 発行の「熊本日日新聞」に発表
【出願人】(393027279)エヌディアール株式会社 (1)
【Fターム(参考)】