説明

トモグラフィ装置及びトモグラフィ計測方法

【課題】高さ方向又は計測断面に垂直な方向に断面積が変化する被計測物の計測断面における電気インピーダンス分布を正確に計測することができるトモグラフィ装置及び計測方法を提供する。
【解決手段】計測断面Bの外周に配置される複数の電極2と、電流負荷電極2aに電流を供給する電源3と、計測対象電極2bの電位差を計測する電圧計4と、電流負荷電極2a及び計測対象電極2bの全ての組合せについて電位差の計測データを取得し、電気インピーダンス・トモグラフィ法による演算を行い、被計測物Aの電気インピーダンスの分布を導出する演算部5と、を有し、演算部5は、電流負荷電極2aと計測対象電極2bとの間における計測断面Bの外周に沿った外縁距離L1と、電流負荷電極2aと計測対象電極2bとの間における被計測物Aの壁面に沿った最短距離L2と、の比率に基づいて計測データを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被計測物の内部断面における電気インピーダンスの分布を計測するトモグラフィ装置及びトモグラフィ計測方法に関し、特に、被計測物の形状に伴う電気インピーダンスの変化を補正するトモグラフィ装置及びトモグラフィ計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被計測物の内部断面における電気インピーダンスの分布を計測する方法として、電気インピーダンス・トモグラフィ法(Electrical Impedance Tomography)が用いられている(例えば、特許文献1乃至3参照)。電気インピーダンス・トモグラフィ法では、被計測物の外周に複数の電極を配置し、隣接する一対の電極間に電流を流して他の隣接する一対の電極間の電位差を測定することを全ての電極の組合せで繰り返し、測定した全電位差から所定のアルゴリズムを用いて被計測物の内部断面における電気インピーダンスの分布を算出する。
【0003】
例えば、電気インピーダンス・トモグラフィ法は、特許文献1等に記載されたように、患者の胸郭内部に癌細胞があるか否かを診断したり、アクリル樹脂等の電気的非伝導材料から構成された槽又はパイプライン内の内容物に異物が含まれるか否かを判別したりするために使用される。これらは、癌細胞と正常な細胞、内容物と異物との間における電気インピーダンスの違いを利用したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3759606号
【特許文献2】特表2010−504781号公報
【特許文献3】特表平9−510014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した電気インピーダンス・トモグラフィ法では、被計測物のある断面における電気インピーダンス分布を導出するものであり、計測断面以外の電気インピーダンスの影響を減少させるために、被計測物の断面積が高さ方向又は計測断面に垂直な方向で大きく変化しない、又は、計測断面内に電流が流れやすいことが前提であった。
【0006】
例えば、円筒形状の被計測物に電気インピーダンス・トモグラフィ法を適用する場合、被計測物の壁面付近を通る電流の経路は、計測断面上の円弧が最短経路となる。一方、下方に縮径した円錐形状のように、計測断面の高さ方向又は計測断面に垂直な方向に断面積が変化する被計測物に電気インピーダンス・トモグラフィ法を適用する場合、被計測物の壁面付近を通る電流の経路は、計測断面上の円弧ではなく、計測断面の下方を通る曲線が最短経路となることがある。このように、計測断面を通らない経路に電流が流れると、計測される電位差の値は実際よりも小さくなってしまい、導出される電気インピーダンス分布の誤差が大きくなってしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上述した問題点に鑑み創案されたものであり、高さ方向又は計測断面に垂直な方向に断面積が変化する被計測物の計測断面における電気インピーダンス分布を正確に計測することができるトモグラフィ装置及びトモグラフィ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、電気インピーダンス・トモグラフィ法を用いて、断面積が高さ方向又は計測断面に垂直な方向で変化する被計測物における計測断面の電気インピーダンス分布を計測するトモグラフィ装置であって、前記計測断面の外周に配置される複数の電極と、前記複数の電極から選択される隣接した一対の電流負荷電極に電流を供給する電源と、前記複数の電極から選択される他の隣接する一対の計測対象電極の電位差を計測する電圧計と、前記電流負荷電極に対して全ての前記計測対象電極の電位差を計測するとともに、前記複数の電極に対して全ての組合せの前記電流負荷電極を選択して前記計測対象電極の全ての電位差を計測することによって、前記電流負荷電極及び前記計測対象電極の全ての組合せについて電位差の計測データを取得し、該計測データに基づいて前記電気インピーダンス・トモグラフィ法による演算を行い、前記被計測物の電気インピーダンスの分布を導出する演算部と、を有し、前記演算部は、前記電流負荷電極と前記計測対象電極との間における前記計測断面の外周に沿った外縁距離と、前記電流負荷電極と前記計測対象電極との間における前記被計測物の壁面に沿った最短距離と、の比率に基づいて前記計測データを補正する、ことを特徴とするトモグラフィ装置が提供される。
【0009】
前記演算部は、前記外縁距離を前記最短距離で除すことにより求められる補正係数を前記計測データに乗じることによって前記計測データを補正するようにしてもよい。
【0010】
前記電流負荷電極及び前記計測対象電極の全ての組合せについて、前記外縁距離及び前記最短距離を求めて前記補正係数を算出しておき、前記電流負荷電極及び前記計測対象電極の組合せごとに前記補正係数を記憶したデータベースを有していてもよい。
【0011】
前記被計測物は、例えば、円錐面若しくは角錐面を有する容器又は湾曲若しくは屈曲した配管により壁面が構成されている。
【0012】
前記計測断面が多角形断面を有し、前記電極は前記多角形断面の各角部を構成する二辺に跨がって配置された電極を含んでいてもよい。さらに、前記電極は、前記各角部に配置された電極の中間部に均等な間隔で前記多角形断面の各辺に配置された電極を含んでいてもよい。また、前記計測断面が多角形断面を有し、前記電極は前記多角形断面の各辺の中間部に配置された電極を含んでいてもよい。
【0013】
また、前記隣接した一対の電流負荷電極に替えて、前記計測断面における中心部付近の等電位線分布が同一形状となるように一対の電極を選択して電流負荷電極とするようにしてもよい。
【0014】
また、本発明によれば、電気インピーダンス・トモグラフィ法を用いて、断面積が高さ方向又は計測断面に垂直な方向で変化する被計測物における計測断面の電気インピーダンス分布を計測するトモグラフィ計測方法であって、前記計測断面の外周に複数の電極を配置して前記計測断面を複数の計測領域に分割するメッシュ作成工程と、前記複数の電極から選択される隣接した一対の電流負荷電極に電流を供給して、前記複数の電極から選択される他の隣接する一対の計測対象電極の電位差を計測する電位差計測工程と、前記電流負荷電極と前記計測対象電極との間における前記計測断面の外周に沿った外縁距離と、前記電流負荷電極と前記計測対象電極との間における前記被計測物の壁面に沿った最短距離と、の比率に基づいて前記電位差を補正する電位差補正工程と、前記電位差計測工程及び前記電位差補正工程を繰り返して、前記電流負荷電極及び前記計測対象電極の全ての組合せについて補正された電位差の計測データを取得し、該計測データに基づいて前記電気インピーダンス・トモグラフィ法による演算を行い、前記被計測物の電気インピーダンスの分布を導出する電気インピーダンス分布導出工程と、を有する、ことを特徴とするトモグラフィ計測方法が提供される。
【0015】
前記電位差補正工程は、前記外縁距離を前記最短距離で除すことにより求められる補正係数を前記電位差に乗じることによって前記電位差を補正するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
上述した本発明に係るトモグラフィ装置及びトモグラフィ計測方法によれば、外縁距離と最短距離との比率に応じて電位差を補正したことにより、被計測物の断面積が高さ方向又は計測断面に垂直な方向で変化する場合であっても、従来と同様の電気インピーダンス・トモグラフィ法を用いて、計測断面における電気インピーダンス分布を正確に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第一実施形態に係るトモグラフィ装置を説明するための図であり、(a)は被計測物の外観図、(b)は装置の概略構成図、を示している。
【図2】被計測物の計測断面における電流の流れを示す図であり、(a)は導電率が一様である場合、(b)は壁面付近の導電率が高い場合、を示している。
【図3】外縁距離と最短距離との関係を示す図であり、(a)は被計測物の外観図、(b)は計測断面の平面図、(c)は被計測物の展開図、を示している。
【図4】本発明に係るトモグラフィ計測方法を示すフローチャートである。
【図5】円錐面を有する被計測物に対して本発明に係るトモグラフィ計測方法を使用した場合のシミュレーション結果を示す図であり、(a)は被計測物の壁面における電気インピーダンスの実際の変化、(b)は計測断面における電気インピーダンスの実際の変化、(c)はトモグラフィ法による画像再構成後の電気インピーダンス分布、を示している。
【図6】円錐面を有する被計測物に対して従来技術のトモグラフィ計測方法を使用した場合のシミュレーション結果を示す図であり、(a)は被計測物の壁面における電気インピーダンスの実際の変化、(b)は計測断面における電気インピーダンスの実際の変化、(c)はトモグラフィ法による画像再構成後の電気インピーダンス分布、を示している。
【図7】被計測物の変形例を示す図であり、(a)は第一変形例の外観図、(b)は第一変形例の展開図、(c)は第二変形例の外観図、である。
【図8】本発明の第二実施形態に係るトモグラフィ装置における電極配置及び電流の流れを示す図であり、(a)はE1電極とE2電極との間に電流を流した場合、(b)はE2電極とE3電極との間に電流を流した場合、(c)は比較例のE1電極とE2電極との間に電流を流した場合、(d)は比較例のE2電極とE3電極との間に電流を流した場合、を示している。
【図9】再構成した電気インピーダンス分布画像を示す図であり、(a)は真の分布、(b)は比較例、(c)は第二実施形態、を示している。
【図10】電極配置の変形例を示す図であり、(a)は第一変形例、(b)は第二変形例、(c)は第三変形例、(d)は第四変形例、(e)第五変形例、を示している。
【図11】本発明の実施形態に係るトモグラフィ装置の適用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係るトモグラフィ装置及びトモグラフィ計測方法について、図1乃至図11を用いて説明する。ここで、図1は、本発明の第一実施形態に係るトモグラフィ装置を説明するための図であり、(a)は被計測物の外観図、(b)は装置の概略構成図、を示している。図2は、被計測物の計測断面における電流の流れを示す図であり、(a)は導電率が一様である場合、(b)は壁面付近の導電率が高い場合、を示している。図3は、外縁距離と最短距離との関係を示す図であり、(a)は被計測物の外観図、(b)は計測断面の平面図、(c)は被計測物の展開図、を示している。図4は、本発明に係るトモグラフィ計測方法を示すフローチャートである。
【0019】
本発明の第一実施形態に係るトモグラフィ装置1は、図1に示したように、電気インピーダンス・トモグラフィ法を用いて、断面積が高さ方向で変化する被計測物Aにおける任意の断面(計測断面B)の電気インピーダンス分布を計測するトモグラフィ装置であって、計測断面Bの外周に配置される複数の電極2と、複数の電極2から選択される隣接した一対の電流負荷電極2a,2aに電流を供給する電源3と、複数の電極2から選択される他の隣接する一対の計測対象電極2b,2bの電位差を計測する電圧計4と、電流負荷電極2aに対して全ての計測対象電極2bの電位差を計測するとともに、複数の電極2に対して全ての組合せの電流負荷電極2aを選択して計測対象電極2bの全ての電位差を計測することによって、電流負荷電極2a及び計測対象電極2bの全ての組合せについて電位差の計測データを取得し、かかる計測データに基づいて電気インピーダンス・トモグラフィ法による演算を行い、被計測物Aの電気インピーダンスの分布を導出する演算部5と、を有し、演算部5は、電流負荷電極2aと計測対象電極2bとの間における計測断面Bの外周に沿った外縁距離L1と、電流負荷電極2aと計測対象電極2bとの間における被計測物Aの壁面に沿った最短距離L2と、の比率に基づいて計測データを補正するように構成されている。
【0020】
前記被計測物Aは、図1(a)に示すように、略円錐台形状の外形を有し、下方に向かって縮径した円錐面により構成される壁面を有する。計測断面Bは、例えば、被計測物Aの中心軸に垂直な面に設定される。すなわち、被計測物Aは、高さ方向又は計測断面Bに垂直な方向に断面積が変化する形状を有する。
【0021】
前記電極2は、計測断面Bの外周に沿って等間隔にm個配置される。mは任意の整数であり、例えば、8,12,16,32等に設定される(図では8個)。また、電極2は、被計測物Aの壁面を貫通し、内部の内容物に電流を流すことができるように配置されている。また、電極2は、被計測物Aの壁面と電気的に絶縁された状態に配置される。被計測物Aの壁面が絶縁材により構成されている場合には、電極2を挿通するだけでよいが、被計測物Aの壁面が導電材により構成されている場合には、電極2の外周に絶縁材を配置するようにしてもよい。電極2と被計測物Aの壁面とが絶縁されていない場合には、電極2から流される電流がほとんどの被計測物Aの壁面に流れてしまい、計測断面B内に流れなくなってしまうためである。
【0022】
前記電源3は、例えば、交流電源であり、複数の電極2から選択される電流負荷電極2a,2aに電流を供給する。電流負荷電極2aは、隣接した一対の電極2であり、図1(b)に示したように、8個の電極2を有する場合には、電流負荷電極2aは8通りの組合せを有する。ここでは、1組の電流負荷電極2aに電流を供給する場合を図示しているが、実際には、8組の全ての電流負荷電極2aに電流を供給するように配電されている。各組の電流負荷電極2aに電流を供給するには、一つの電源3から各組の電流負荷電極2aに電流を供給できるように配線してもよいし、各組に対応する個数の電源3を配置してもよい。なお、被計測物Aに電流を供給する電流負荷電極2aの切り換えや電流の供給は、演算部5の指令に基づいて処理される。
【0023】
前記電圧計4は、複数の電極2から選択される計測対象電極2b,2bの電位差を計測する。計測対象電極2bは、1組の電流負荷電極2aを除いた残りの電極2から選択される隣接した一対の電極2である。例えば、図1(b)に示したように、8個の電極2を有する場合には、1組の電流負荷電極2aを除いた6個の電極2から選択されるため、5通りの組合せを有する。ここでは、1組の計測対象電極2bの電位差を計測する場合を図示しているが、実際には、5組の全ての計測対象電極2bの電位差を計測できるように配線されている。また、電圧計4は、選択され得る8組の電流負荷電極2aに対して、それぞれ5組の計測対象電極2bが存在し、全ての組合せの計測対象電極2bについて電位差を計測できるように配線されている。各組の計測対象電極2bの電位差を計測するには、一つの電圧計4で全ての組合せの計測対象電極2bの電位差を計測できるように配線してもよいし、各組に対応する個数の電圧計4を配置してもよい。なお、電位差を計測する計測対象電極2bの切り換えや電位差の計測は演算部5の指令に基づいて処理される。
【0024】
ここで、電極2の個数に基づく計測断面Bの解像度について説明する。例えば、図1(b)に示したように、8個の電極を配置した場合、1組の電流負荷電極2aに対して5組の計測対象電極2bを有し、電流負荷電極2aは8通りの選択方法があるため、重複する組合せを考慮すれば、計測点数は、8×5/2=20と求めることができる。これを一般化すれば、m個の電極を配置した場合における計測点数xは、x=m(m−3)/2の計算式により求めることができる。そして、計測断面Bの解像度は、この計測点数xによって定められ、計測点数xと同じだけの解像度を有することから、計測点数xの個数以上の要素(計測領域U)に分割することが好ましい。例えば、図1(b)に示したように、8個の電極を有する場合には、20個の計測領域U1〜U20のメッシュを作成することができる。
【0025】
前記演算部5は、電極2の個数に応じて計測断面Bにおける計測領域U(例えば、U1〜U20)を設定し、電源3及び電圧計4を制御して20通りの計測点数についての電位差を計測した計測データを取得し、計測領域Uごとに電気インピーダンスを算出し、計測断面Bにおける電気インピーダンスの分布を導出する。また、演算部5は、計測断面Bにおける電気インピーダンスの分布を導出する際に、計測データの補正を行う。かかる演算部5の具体的な処理については後述する。なお、演算部5は、いわゆるコンピュータにより構成される。
【0026】
ところで、被計測物Aの計測断面Bにおける導電率が一様である場合には、電流負荷電極2aにより供給された電流は、図2(a)に示したように、計測断面B内において電流は一様に流れることとなる。一方、被計測物Aの計測断面Bにおける壁面付近の導電率が高い場合には、電流負荷電極2aにより供給された電流は、図2(b)に示したように、計測断面B内において電流は壁面付近に沿って流れやすくなる。例えば、図1(a)に示したような、被計測物Aが高さ方向に断面積が変化する形状を有する場合、被計測物Aの壁面に沈殿物や沈降物等の異物が堆積又は残留しやすくなる。この異物が導電性を有する場合、理想的には、電流負荷電極2aにより供給された電流は、図2(b)に示したように、計測断面Bにおける被計測物Aの壁面付近に沿って流れて欲しい。そのように電流が流れることによって、計測断面Bにおける異物の堆積量又は残留量を把握することができるためである。
【0027】
いま、図3(a)及び図3(b)に示したように、被計測物Aが高さ方向に断面積が変化する形状を有する場合において、計測断面Bの外縁上における点a〜dの関係について考える。ここで、点aは電流負荷電極2aの中間点、点b〜dは計測対象電極2bの中間点を示している。
【0028】
図3(c)に示したように、被計測物Aの円錐面を平面展開した場合、点a及び点b間における最短距離は、円弧ab(その距離を外縁距離L1とする)ではなく、直線ab(その距離を最短距離L2とする)となる。同様に、点a及び点c間における最短距離は、円弧ac(外縁距離L1)ではなく、直線ac(最短距離L2)となり、点a及び点d間における最短距離は、円弧ad(外縁距離L1)ではなく、直線ad(最短距離L2)となる。したがって、被計測物Aが高さ方向に断面積が変化する形状を有する場合の電流の経路は、計測断面B上の外縁距離L1を有する円弧ではなく、計測断面Bの下方を通る最短距離L2を有する曲線が最短経路となってしまう。その結果、電源3から電流負荷電極2aに電流を供給した場合、ほとんどの電流が最短距離L2を有する経路に流れてしまい、計測断面Bを流れる電流の量が少なくなってしまい、電圧計4により計測される電位差の値が実際よりも小さくなってしまうこととなる。これでは、正確な電気インピーダンスの分布を計測することができない。
【0029】
そこで、本実施形態では、電流の経路の長さと流れる電流の量が反比例する関係を有することから、電流負荷電極2aと計測対象電極2bとの間における計測断面Bの外周に沿った外縁距離L1と、電流負荷電極2aと計測対象電極2bとの間における被計測物Aの壁面に沿った最短距離L2と、の比率に基づいて電位差を補正している。具体的には、外縁距離L1を最短距離L2で除すことにより求められる補正係数α(α=L1/L2)を計測された電位差に乗じることによって電位差を補正する。また、被計測物Aの形状や異物の性状によっては、高さ方向における異物の堆積量又は残留量が大きく変化し、電流の流れやすさが変化する場合もあり得る。かかる場合には、被計測物Aの形状や異物の堆積量又は残留量に基づく補正係数をシミュレーションや実験により算出して、計測された電位差を補正するようにしてもよい。
【0030】
かかる補正係数αは、例えば、データベース6等の記憶装置に記憶されている。すなわち、トモグラフィ装置1は、図1(b)に示したように、電流負荷電極2a及び計測対象電極2bの全ての組合せについて、外縁距離L1及び最短距離L2を求めて補正係数αを算出しておき、電流負荷電極2a及び計測対象電極2bの組合せごとに補正係数αを記憶したデータベース6を有する。図1(b)に示したように、8個の電極2を有する場合には、電流負荷電極2a及び計測対象電極2bの全ての組合せにより計測パターンは、幾何学的に、図3(c)に示した3パターンに集約される。したがって、上述した実施形態では、補正係数αは、円弧abの長さ/直線abの長さ、円弧acの長さ/直線acの長さ、円弧adの長さ/直線adの長さ、の3種類のいずれかに設定される。
【0031】
ここで、上述したトモグラフィ装置1を使用した本発明の実施形態に係るトモグラフィ計測方法について、図4に示したフローチャートを参照しつつ説明する。
【0032】
本発明の実施形態に係るトモグラフィ計測方法は、電気インピーダンス・トモグラフィ法を用いて、断面積が高さ方向で変化する被計測物Aにおける計測断面Bの電気インピーダンス分布を計測するトモグラフィ計測方法であって、計測断面Bの外周に複数の電極2を配置して計測断面Bを複数の計測領域Uに分割するメッシュ作成工程(SP101)と、複数の電極2から選択される隣接した一対の電流負荷電極2aに電流を供給して、複数の電極2から選択される他の隣接する一対の計測対象電極2bの電位差を計測する電位差計測工程(SP104)と、電流負荷電極2aと計測対象電極2bとの間における計測断面Bの外周に沿った外縁距離L1と、電流負荷電極2aと計測対象電極2bとの間における被計測物Aの壁面に沿った最短距離L2と、の比率に基づいて計測された電位差を補正する電位差補正工程(SP105)と、電位差計測工程(SP104)及び電位差補正工程(SP105)を繰り返して、電流負荷電極2a及び計測対象電極2bの全ての組合せについて補正された電位差の計測データを取得し、計測データに基づいて電気インピーダンス・トモグラフィ法による演算を行い、被計測物Aの電気インピーダンスの分布を導出する電気インピーダンス分布導出工程(SP106〜SP107)と、を有する。
【0033】
前記メッシュ作成工程(SP101)は、図1(b)に示したように、電極2の個数に応じた解像度が得られるように、計測断面Bを複数の計測領域U1〜U20に分割して計測用のメッシュを作成する工程である。
【0034】
次に、全ての計測領域Uが低抵抗の場合における計測番号nでの電位差V(n)firと、全ての計測領域Uが高抵抗の場合における計測番号nでの電位差V(n)objを求め、有限要素法を用いて、e番目の計測領域Uのみが高抵抗のときの計測番号nにおける電位差V(e,n)を求める(SP102)。
【0035】
次に、電位差V(n)firと電位差V(n)objと電位差V(e,n)とを以下の数式(数1)に代入して、感度行列S(e,n)を求める(SP103)。ただし、β(e)=D(e)/Dallであり、D(e)はe番目の計測領域Uの面積であり、Dallは全ての計測領域Uの面積の総和である。
【数1】

【0036】
前記電位差計測工程(SP104)は、電源3により電流負荷電極2aに電流を供給して、計測対象電極2bの電位差を電圧計4により計測する工程である。かかる工程は、1回の電位差計測ごとに次の工程(電位差補正工程)に移行してもよいし、全ての計測点数xについて電位差を計測してから次の工程(電位差補正工程)に移行してもよい。電圧計4により計測された電位差をV(n)measuredとする。なお、上述したメッシュ作成工程(SP101)〜電位差計測工程(SP104)までの工程は、従来技術におけるトモグラフィ計測方法と同じ処理を行う工程である。
【0037】
前記電位差補正工程(SP105)は、電圧計4により計測された電位差V(n)measuredを外縁距離L1と最短距離L2との比率に基づいて補正する工程である。具体的には、外縁距離L1を最短距離L2で除すことにより求められる補正係数α(α=L1/L2)を計測された電位差V(n)measuredに乗じることによって電位差を補正し、計測データを得る。かかる処理は、データベース6を用いて演算部5が行う。なお、補正係数αは単なる一例であり、被計測物Aの形状や異物の性状等を考慮した補正係数を併用又は代用するようにしてもよい。
【0038】
前記電気インピーダンス分布導出工程は、電気インピーダンス算出工程(SP106)とインピーダンス画像再構成工程(SP107)とに区分される。なお、電気インピーダンス分布導出工程において、補正された計測データを使用する点以外の処理については、従来技術におけるトモグラフィ計測方法と同じである。
【0039】
電気インピーダンス算出工程(SP106)は、補正された計測データに基づいて電気インピーダンスを算出する工程である。まず、補正された電位差V(n)measuredを以下の数式(数2)に代入することによって無次元化する。この無次元電位差を使用することにより、抵抗の最大値が1、最小値が0となり、画像化する際に好都合となる。
【数2】

【0040】
その後、感度行列S(e,n)と無次元電位差とを以下の数式(数3)に代入して、インピーダンス相当値P(e)を算出する。
【数3】

【0041】
インピーダンス画像再構成工程(SP107)は、算出したインピーダンス相当値P(e)に基づいて電気インピーダンス分布画像を再構成する工程である。かかる工程では、計測断面Bにおける1回の計測結果により求められる複数のインピーダンス相当値P(e)に対して、最大値を1として、最小値を0として、電気インピーダンス分布画像を再構成する。
【0042】
次に、所定時間又は所定回数、計測を実施したか否かを判別する(SP108)。かかる工程では、電気インピーダンス分布導出工程を必要な回数だけ繰り返したか否かを時間又は回数を基準にして判別する工程である。必要な回数とは、計測断面Bにおいて、電位差の計測ごとに電位差を補正係数αにより補正する場合には、全ての計測点数x(例えば、20通り)を計測したか否かにより判別される。また、全ての計測点数xにおける電位差を計測してから電位差を補正係数αにより補正する場合には、必要な回数を1回に設定してもよいし、複数回の平均値を算出するような場合には必要な回数を2回以上に設定してもよい。
【0043】
そして、電気インピーダンス分布導出工程の計測が所定の条件(時間又は回数)を満足していない場合には、電位差計測工程(SP104)に戻って電気インピーダンス分布導出工程を繰り返し、所定の条件(時間又は回数)を満足した場合には処理を終了する。
【0044】
ここで、上述した本実施形態に係るトモグラフィ計測方法を使用した場合のシミュレーション結果について、従来技術のトモグラフィ計測方法を使用した場合のシミュレーション結果と比較しつつ説明する。図5は、円錐面を有する被計測物に対して本発明に係るトモグラフィ計測方法を使用した場合のシミュレーション結果を示す図であり、(a)は被計測物の壁面における電気インピーダンスの実際の変化、(b)は計測断面における電気インピーダンスの実際の変化、(c)はトモグラフィ法による画像再構成後の電気インピーダンス分布、を示している。図6は、円錐面を有する被計測物に対して従来技術のトモグラフィ計測方法を使用した場合のシミュレーション結果を示す図であり、(a)は被計測物の壁面における電気インピーダンスの実際の変化、(b)は計測断面における電気インピーダンスの実際の変化、(c)はトモグラフィ法による画像再構成後の電気インピーダンス分布、を示している。なお、各図において、左右に並列した図は同じ時間における状態を表現している。
【0045】
上述したシミュレーションは、図1(a)に示したような、略円錐台形状の外形を有し、下方に向かって縮径した円錐面により構成される壁面を有する被計測物Aにおいて、内部に導電性流体を充填し、その最上面により導電性の高い物質(例えば、金属粒子)を平面一様に分布させ、時間経過とともに沈降していく状態を作り出し、電気インピーダンスの時間的変化を計測したものである。また、時間を示す指標として、計測時間tを、計測断面Bにおいて高導電性物質の濃度がピークとなる時間tsで割った数値を使用している。なお、図5(a)〜(b)及び図6(a)〜(b)において、色の濃い方が高導電性物質の濃度が高くなっており、電気インピーダンスが低く、電流が流れやすいことを意味し、図5(c)及び図6(c)において、色の濃い方が電気インピーダンスが低いことを意味している。
【0046】
図5(a)に示したように、t/ts=0.6,1.0,1.4,1.6と時間が経過するごとに、被計測物Aの壁面に高導電性物質が堆積又は残留していくことが容易に理解することができる。なお、図5(a)における節はシミュレーションの精度によるものであり、結果に影響するものではない。計測断面Bを示す図5(b)においても、同様に、被計測物Aの壁面に高導電性物質が堆積又は残留していく様子を把握することができる。
【0047】
そして、上述した本実施形態に係るトモグラフィ計測方法を使用した場合には、図5(c)に示したように、全ての時間帯において、計測断面Bにおける外縁部の計測領域Uの電気インピーダンスが低くなっていることを把握することができる。電気インピーダンスが低いということは、抵抗値が低いことを意味し、抵抗値が低いということは、高導電性物質を多く含んでいることを意味している。したがって、図5(c)に示したように、計測断面Bにおける外縁部の電気インピーダンスが低いということは、図5(a)及び(b)に示したような、被計測物Aの壁面に高導電性物質が堆積又は残留した状態を正確に計測していることを意味する。
【0048】
一方、図6に示したように、従来技術のトモグラフィ計測方法を使用した場合には、t/ts=0.6,1.0,1.4の時間帯においては、本実施形態の場合と同様に、計測断面Bにおける外縁部の電気インピーダンスが低く計測されている。しかしながら、t/ts=1.6の時間帯においては、計測断面Bにおける中心部の電気インピーダンスが低く計測されている。これは、被計測物Aの壁面に大量の高導電性物質が堆積又は残留し、電位差計測時における電流が、外縁距離L1ではなく最短距離L2を有する経路に多く流れているものと推測される。このことは、円錐面を有する被計測物Aでは、図3(c)に示したように、最短距離L2を通る電流は、被計測物Aの中心部の近くを流れることからも容易に理解することができる。したがって、従来技術のトモグラフィ計測方法を使用した場合には、図6(c)に示したように、計測断面Bにおける中心部の電気インピーダンスが低いということは、図6(a)及び(b)に示したような、被計測物Aの壁面に高導電性物質が堆積又は残留した状態を正確に計測できていないことを意味している。
【0049】
以上、上述した本実施形態に係るトモグラフィ装置1及びトモグラフィ計測方法によれば、外縁距離L1と最短距離L2との比率に応じて電位差を補正したことにより、被計測物Aの断面積が高さ方向又は計測断面Bに垂直な方向で変化する場合であっても、従来と同様の電気インピーダンス・トモグラフィ法を用いて、計測断面Bにおける電気インピーダンス分布を正確に計測することができる。
【0050】
続いて、被計測物Aの変形例について、図7を参照しつつ説明する。ここで、図7は、被計測物の変形例を示す図であり、(a)は第一変形例の外観図、(b)は第一変形例の展開図、(c)は第二変形例の外観図、である。
【0051】
図7(a)及び(b)に示した第一変形例は、被計測物Aが四角錐面を有する容器により壁面が構成されている場合を表している。被計測物Aは、図7(a)に示すように、略四角錐台形状の外形を有し、下方に向かって断面積が小さくなる四角錐面により構成される壁面を有する。計測断面Bは、例えば、被計測物Aの中心軸に垂直な面に設定され、正方形の形状を有する。すなわち、被計測物Aは、高さ方向又は計測断面Bに垂直な方向に断面積が変化する形状を有する。なお、ここでは被計測物Aが四角錐面を有する場合について図示したが、被計測物Aは三角錐面を有していてもよいし、五角錐面以上の多角錐面を有していてもよい。
【0052】
図7(a)及び(b)に示したように、計測断面Bの外縁上における点a〜cの関係について考える。図7(b)に示したように、被計測物Aの四角錐面を平面展開した場合、点a及び点b間における最短距離は、経路acb(外縁距離L1)ではなく、直線ab(最短距離L2)となる。したがって、上述した実施形態と同様に、補正係数αによって計測された電位差を補正する。また、点a及び点c間における最短距離は直線acとなり、外縁距離L1と最短距離L2とが等しくなる。このように、外縁距離L1=最短距離L2の関係を有する場合には、補正係数αによる補正をする必要はない。
【0053】
図7(c)に示した第二変形例は、被計測物Aが、屈曲した配管により壁面が構成されている場合を表している。被計測物Aが、湾曲又は屈曲した配管の場合、図示したように、斜めに配管が配置されることがある。この場合、内容物の表面は水平面を形成するため、計測断面Bは配管に垂直な方向ではなく、水平面に平行な方向となる。そして、配管の内面に導電性物質が付着している場合、電位差計測時に電流は図の破線で示した最短距離L2に流れやすくなってしまう。例えば、計測断面Bの外縁上における点a及びbの関係について考えた場合、点a及び点b間における最短距離は、経路ab(外縁距離L1)ではなく、経路ab´(最短距離L2)となる。したがって、上述した実施形態と同様に、補正係数αによって計測された電位差を補正する。なお、この場合における補正係数αは、例えば、円弧abの長さ(外縁距離L1)/円弧ab´の長さ(最短距離L2)によって定められる。
【0054】
次に、本発明の第二実施形態に係るトモグラフィ装置について、図8及び図9を参照しつつ説明する。ここで、図8は、本発明の第二実施形態に係るトモグラフィ装置における電極配置及び電流の流れを示す図であり、(a)はE1電極とE2電極との間に電流を流した場合、(b)はE2電極とE3電極との間に電流を流した場合、(c)は比較例のE1電極とE2電極との間に電流を流した場合、(d)は比較例のE2電極とE3電極との間に電流を流した場合、を示している。図9は、再構成した電気インピーダンス分布画像を示す図であり、(a)は真の分布、(b)は比較例、(c)は第二実施形態、を示している。なお、上述した第一実施形態に係るトモグラフィ装置1と同じ構成部品については、同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0055】
図8及び図9に示した第二実施形態は、計測断面Bが矩形断面(例えば、正方形断面)を有する場合を示したものである。上述した第一実施形態のように計測断面Bが円形状を有する場合には、その外周に沿って複数の電極2を等間隔に配置することができる。また、上述した第一実施形態では、複数の電極2のうち電流負荷電極2aをどのように選択しても、計測断面Bにおける導電率が一様である場合には、計測断面B内における電流の流れは略同じ状態(例えば、図2(a)に示した状態)となり、各計測時における等電位線分布は略一致する形状となる。したがって、計測断面Bにおける電位差の各計測条件は全て略同じ条件であることから、その計測データから電気インピーダンスの分布を導出し、温度補正後に電気インピーダンス分布画像を再構成した場合の誤差が少なく、精度の高い電気インピーダンス分布画像を得ることができる。
【0056】
一方、計測断面Bが矩形断面を有する場合には、単に外周に沿って電極2を等間隔に配置しただけでは、各計測時における等電位線分布は必ずしも一致しない。例えば、図8(c)及び(d)に示した比較例は、矩形断面を有する計測断面Bの各辺に均等な間隔で二つずつ電極2(E1電極〜E8電極)を配置した場合を示している。また、図8(c)では、E1電極とE2電極との間に電流を流した場合を図示しており、図8(d)では、E2電極とE3電極との間に電流を流した場合を図示している。なお、図8の各図に示した等電位線分布は、計測断面Bにおける導電率が一様である場合を示している。
【0057】
図8(c)及び図8(d)に示したように、同一辺上に配置された電極2(E1電極及びE2電極)に電流を流した場合と、異なる辺上に配置された電極2(E2電極及びE3電極)に電流を流した場合とでは、電流の流れる状態、すなわち、等電位線分布が異なった形状を有することとなる。したがって、計測断面Bにおける電位差の各計測条件は二種類の条件(同一辺上の電極2を選択した場合と異なる辺上の電極2を選択した場合)を有することとなり、この二種類の条件はそれぞれ再構成画像に与える感度が異なることから、電気インピーダンス分布画像を再構成した場合の精度が低下し、誤差が大きくなってしまう。
【0058】
ここで、図9(a)は、計測断面Bにおける真の電気インピーダンス分布を示しており、図9(b)は、図8(c)及び(d)に示した比較例の電気インピーダンス分布画像を示している。なお、図9の各図において、色が薄いほどインピーダンス(抵抗)が高く、色が濃いほどインピーダンス(抵抗)が低い状態を示している。図9(a)に示した真の分布では、計測断面Bの中心部のインピーダンスが高く、周辺部のインピーダンスが低い状態になっている。それに対して、図9(b)に示した比較例の分布では、計測断面Bの各辺の中間部のインピーダンスが最も高く、次いで中心部及び角部のインピーダンスが高くなる状態に表示されている。かかるシミュレーション結果によれば、計測断面Bにおいて電極2を比較例のように配置した場合には、電気インピーダンス分布画像を再構成した場合の精度が低下し、誤差が大きくなってしまうことが容易に理解できる。
【0059】
それに対して、図8(a)及び(b)に示した第二実施形態における電極配置では、計測断面Bが多角形断面(例えば、矩形断面)を有し、電極2は、矩形断面の各角部を構成する二辺に跨がって配置された電極(E1電極、E3電極、E5電極、E7電極)を含むとともに、各角部に配置された電極(E1電極、E3電極、E5電極、E7電極)の中間部に均等な間隔で矩形断面の各辺に配置された電極(E2電極、E4電極、E6電極、E8電極)を含んでいる。したがって、角部に配置された電極2(E1電極、E3電極、E5電極及びE7電極)は断面L字形状を有し、辺上に配置された電極2(E2電極、E4電極、E6電極及びE8電極)は平板形状を有している。
【0060】
かかる電極配置によれば、電流負荷電極2aとして隣り合った電極2を選択した場合に、必ず角部に配置された電極2(例えば、E1電極、E3電極、E5電極、E7電極)と辺上に配置された電極2(例えば、E2電極、E4電極、E6電極、E8電極)との組合せになることから、図8(a)及び図8(b)に示したように、電流の流れる状態、すなわち、等電位線分布は対称性を有する形状となる。したがって、計測断面Bにおける中心部付近においては、略同一形状の等電位線分布を有することとなり、電気インピーダンス分布画像を再構成した場合の誤差が少なく、精度の高い電気インピーダンス分布画像を得ることができる。
【0061】
ここで、図9(c)は、図8(a)及び(b)に示した第二実施形態の電気インピーダンス分布画像を示している。図示したように、図9(c)に示した第二実施形態の分布では、計測断面Bの中心部のインピーダンスが高く、周辺部のインピーダンスが低い状態になっており、図9(a)に示した真の分布と同一の傾向を有していることが容易に理解できる。したがって、図9(b)に示した比較例の電極配置よりも、第二実施形態における電極配置の方が、電気インピーダンス分布画像を再構成した場合の誤差が少なく、精度の高い電気インピーダンス分布画像を得ることができる。
【0062】
上述した第二実施形態における電極配置は、図示した配置に限定されるものではなく、例えば、計測断面Bは矩形断面以外の多角形断面であってもよいし、角部を構成する二辺に跨がって配置される電極2のみによって構成されていてもよい。ここで、図10は、電極配置の変形例を示す図であり、(a)は第一変形例、(b)は第二変形例、(c)は第三変形例、(d)は第四変形例、(e)第五変形例、を示している。なお、図10の各図において、計測断面B内の破線は複数に分割された計測領域の一例を示している。
【0063】
図10(a)に示した第一変形例は、計測断面Bが矩形断面(例えば、正方形断面)を有し、全ての電極2(E1電極、E2電極、E3電極及びE4電極)が矩形断面の各角部を構成する二辺に跨がって配置されている。かかる電極配置によれば、電流負荷電極2aとして隣り合った電極2を選択した場合に、必ず角部に配置された電極2によって組合されることから、電流の流れる状態、すなわち、等電位線分布は略同一形状を有することとなり、精度の高い電気インピーダンス分布画像を得ることができる。
【0064】
図10(b)に示した第二変形例は、計測断面Bが矩形断面(例えば、正方形断面)を有し、電極2は、矩形断面の各角部を構成する二辺に跨がって配置された電極(E1電極、E4電極、E7電極、E10電極)を含むとともに、各角部に配置された電極(E1電極、E4電極、E7電極、E10電極)の中間部に均等な間隔で矩形断面の各辺に配置された電極(E2電極、E3電極、E5電極、E6電極、E8電極、E9電極、E11電極、E12電極)を含んでいる。
【0065】
かかる電極配置によれば、電流負荷電極2aとして隣り合った電極2を選択した場合に、角部に配置された電極2と辺上に配置された電極2との組合せだけでなく、辺上に配置された電極2のみの組合せも存在することとなる。しかしながら、前者の組合せの方が後者の組合せよりも数が多いこと(ここでは2倍)、辺上に配置された二つの電極2を選んだ場合の等電位線分布は図8(c)に示したように略左右対称の形状を有しており計測断面Bの中心部における歪みが少ないこと等に鑑みれば、上述した比較例よりも誤差が少なく、精度の高い電気インピーダンス分布画像を得ることができる。
【0066】
図10(c)に示した第三変形例は、計測断面Bが正六角形断面を有し、全ての電極2(E1電極、E2電極、E3電極、E4電極、E5電極及びE6電極)が正六角形断面の各角部を構成する二辺に跨がって配置されている。かかる電極配置によれば、電流負荷電極2aとして隣り合った電極2を選択した場合に、必ず角部に配置された電極2によって組合されることから、電流の流れの分布、すなわち、等電位線分布は略同一形状を有することとなり、精度の高い電気インピーダンス分布画像を得ることができる。
【0067】
図10(d)に示した第四変形例は、計測断面Bが正六角形断面を有し、電極2は、正六角形断面の各角部を構成する二辺に跨がって配置された電極(E1電極、E3電極、E5電極、E7電極、E9電極、E11電極)を含むとともに、各角部に配置された電極(E1電極、E3電極、E5電極、E7電極、E9電極、E11電極)の中間部に均等な間隔で正六角形断面の各辺に配置された電極(E2電極、E4電極、E6電極、E8電極、E10電極、E12電極)を含んでいる。
【0068】
かかる電極配置によれば、電流負荷電極2aとして隣り合った電極2を選択した場合に、必ず角部に配置された電極2と辺上に配置された電極2との組合せになることから、上述した第二実施形態の場合と同様に、対称性を有する等電位分布を得ることができ、精度の高い電気インピーダンス分布画像を得ることができる。
【0069】
図10(e)に示した第五変形例は、計測断面Bが正六角形断面を有し、全ての電極2(E1電極、E2電極、E3電極、E4電極、E5電極及びE6電極)が正六角形断面の各辺の中間部に配置されている。かかる電極配置は、計測断面Bを構成する辺上に等間隔に電極を配置したものである。かかる電極配置によれば、電流負荷電極2aとして隣り合った電極2を選択した場合に、必ず辺上に配置された電極2によって組合されることから、電流の流れの分布、すなわち、等電位線分布は略同一形状を有することとなり、精度の高い電気インピーダンス分布画像を得ることができる。
【0070】
なお、計測断面Bは、上述した断面形状に限定されるものではなく、正三角形、正五角形、正八角形等の正多角形断面を有していてもよいし、許容できる誤差の範囲内であれば正多角形に近似した多角形断面を有していてもよい。
【0071】
また、上述した第一実施形態及び第二実施形態(変形例を含む。)において、電流負荷電極2aの組合せについては、必ずしも隣り合った電極2同士の組合せである必要はない。すなわち、隣接した一対の電流負荷電極2aに替えて、計測断面Bにおける中心部付近の等電位線分布が略同一形状となるように一対の電極2を選択して電流負荷電極2aとするようにしてもよい。例えば、等電位線分布が略同一形状を有する電極2の組合せであれば、対角線上に位置する電極2や一つおきに配置された電極2等を電流負荷電極2aとして選択するようにしてもよい。具体的には、第一実施形態に示した円形断面を有する計測断面Bでは、対角線上に位置する一対の電極2を電流負荷電極2aとしてもよいし、第二実施形態の第二変形例に示した計測断面Bでは、E1電極とE3電極やE2電極とE4電極等の組合せを電流負荷電極2aとして選択するようにしてもよい。
【0072】
最後に、上述した実施形態のトモグラフィ装置1をガラス溶融炉10に適用した場合について、図11を参照しつつ説明する。ここで、図11は、本発明の実施形態に係るトモグラフィ装置の適用例を示す図である。
【0073】
従来、原子力発電所から排出された放射性廃棄物をガラス固化するためにガラス溶融炉10が使用されている。国内における一般的なガラス溶融炉10は、上部から放射性廃棄物11とガラス原料12とを炉内に投入し、主電極13、底部電極14及び間接加熱装置15を使用して加熱し、下部の流下ノズル16から放射性廃棄物を含んだ溶融ガラスを流下し、炉下に設置されたキャニスタ17の中で固化するように構成されている。なお、ガラス溶融炉10の外壁は耐火レンガ等の断熱材18により構成されている。かかるガラス溶融炉10の炉底部側は、円錐面又は角錐面を有し、高さ方向に断面積が変化する形状を有している。
【0074】
そして、本実施形態のトモグラフィ装置1は、放射性廃棄物に含まれる白金族類の炉内の堆積又は残留状況を把握するために使用される。具体的には、ガラス溶融炉10の炉底部側が被計測物Aであり、白金族類の堆積又は残留状況を把握したい箇所に複数の電極2を配置することにより計測断面Bを形成する。図示しないが、電源3、電圧計4、演算部5及びデータベース6は、炉外に配置される。また、ここでは、計測断面Bを一箇所に配置しているが、高さ方向に複数の計測断面Bを形成するようにしてもよい。
【0075】
白金族類は、溶融ガラスと比較して導電性が高く、かつ、壁面に堆積又は残留しやすいため、上述した本実施形態に係るトモグラフィ計測方法を使用することに適しており、計測断面Bにおける電気インピーダンスを計測することにより、白金族類の濃度分布を把握することができ、白金族類の炉内の堆積又は残留状況を把握することができる。
【0076】
上述した本実施形態に係るトモグラフィ装置1及びトモグラフィ計測方法は、かかるガラス溶融炉10に適用される場合に限定されるものではなく、高さ方向又は計測断面Bに垂直方向で断面積が変化する形状を有する部分における電気インピーダンスを計測したい場合には、種々の溶融炉や焼却炉等に適用することができる。例えば、ガス及び砂が混合される流動床炉や、気液二相流を構成する蒸発管等の配管系においても適用することが可能である。
【0077】
本発明は上述した実施形態に限定されず、電位差計測には電気抵抗式に替えてキャパシタ式等の電気信号方式を使用してもよい等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0078】
1 トモグラフィ装置
2 電極
2a 電流負荷電極
2b 計測対象電極
3 電源
4 電圧計
5 演算部
6 データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気インピーダンス・トモグラフィ法を用いて、断面積が高さ方向又は計測断面に垂直な方向で変化する被計測物における計測断面の電気インピーダンス分布を計測するトモグラフィ装置であって、
前記計測断面の外周に配置される複数の電極と、
前記複数の電極から選択される隣接した一対の電流負荷電極に電流を供給する電源と、
前記複数の電極から選択される他の隣接する一対の計測対象電極の電位差を計測する電圧計と、
前記電流負荷電極に対して全ての前記計測対象電極の電位差を計測するとともに、前記複数の電極に対して全ての組合せの前記電流負荷電極を選択して前記計測対象電極の全ての電位差を計測することによって、前記電流負荷電極及び前記計測対象電極の全ての組合せについて電位差の計測データを取得し、該計測データに基づいて前記電気インピーダンス・トモグラフィ法による演算を行い、前記被計測物の電気インピーダンスの分布を導出する演算部と、を有し、
前記演算部は、前記電流負荷電極と前記計測対象電極との間における前記計測断面の外周に沿った外縁距離と、前記電流負荷電極と前記計測対象電極との間における前記被計測物の壁面に沿った最短距離と、の比率に基づいて前記計測データを補正する、
ことを特徴とするトモグラフィ装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記外縁距離を前記最短距離で除すことにより求められる補正係数を前記計測データに乗じることによって前記計測データを補正する、ことを特徴とする請求項1に記載のトモグラフィ装置。
【請求項3】
前記電流負荷電極及び前記計測対象電極の全ての組合せについて、前記外縁距離及び前記最短距離を求めて前記補正係数を算出しておき、前記電流負荷電極及び前記計測対象電極の組合せごとに前記補正係数を記憶したデータベースを有する、ことを特徴とする請求項2に記載のトモグラフィ装置。
【請求項4】
前記被計測物は、円錐面若しくは角錐面を有する容器又は湾曲若しくは屈曲した配管により壁面が構成されている、ことを特徴とする請求項1に記載のトモグラフィ装置。
【請求項5】
前記計測断面が多角形断面を有し、前記電極は前記多角形断面の各角部を構成する二辺に跨がって配置された電極を含む、ことを特徴とする請求項1に記載のトモグラフィ装置。
【請求項6】
前記電極は、前記各角部に配置された電極の中間部に均等な間隔で前記多角形断面の各辺に配置された電極を含む、ことを特徴とする請求項5に記載のトモグラフィ装置。
【請求項7】
前記計測断面が多角形断面を有し、前記電極は前記多角形断面の各辺の中間部に配置された電極を含む、ことを特徴とする請求項1に記載のトモグラフィ装置。
【請求項8】
前記隣接した一対の電流負荷電極に替えて、前記計測断面における中心部付近の等電位線分布が同一形状となるように一対の電極を選択して電流負荷電極とした、ことを特徴とする請求項1に記載のトモグラフィ装置。
【請求項9】
電気インピーダンス・トモグラフィ法を用いて、断面積が高さ方向又は計測断面に垂直な方向で変化する被計測物における計測断面の電気インピーダンス分布を計測するトモグラフィ計測方法であって、
前記計測断面の外周に複数の電極を配置して前記計測断面を複数の計測領域に分割するメッシュ作成工程と、
前記複数の電極から選択される隣接した一対の電流負荷電極に電流を供給して、前記複数の電極から選択される他の隣接する一対の計測対象電極の電位差を計測する電位差計測工程と、
前記電流負荷電極と前記計測対象電極との間における前記計測断面の外周に沿った外縁距離と、前記電流負荷電極と前記計測対象電極との間における前記被計測物の壁面に沿った最短距離と、の比率に基づいて前記電位差を補正する電位差補正工程と、
前記電位差計測工程及び前記電位差補正工程を繰り返して、前記電流負荷電極及び前記計測対象電極の全ての組合せについて補正された電位差の計測データを取得し、該計測データに基づいて前記電気インピーダンス・トモグラフィ法による演算を行い、前記被計測物の電気インピーダンスの分布を導出する電気インピーダンス分布導出工程と、を有する、
ことを特徴とするトモグラフィ計測方法。
【請求項10】
前記電位差補正工程は、前記外縁距離を前記最短距離で除すことにより求められる補正係数を前記電位差に乗じることによって前記電位差を補正する、ことを特徴とする請求項9に記載のトモグラフィ計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−208113(P2012−208113A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−51622(P2012−51622)
【出願日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】