説明

トラクショングリース組成物

【課題】幅広い温度条件下において、高いトラクション係数を有すると共に、適正な混和ちょう度を有するトラクショングリース組成物を提供する。
【解決手段】ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン環化合物、ビシクロ〔3.2.1〕オクタン環化合物、ビシクロ〔3.3.0〕オクタン環化合物、ビシクロ〔2.2.2〕オクタン環化合物から選ばれる少なくとも一種の脂環化合物の二量体の水素化物を含有する基油に、増ちょう剤を分散させてなり、混和ちょう度が200〜475の範囲にあるトラクショングリース組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクショングリース組成物に関し、より詳しくは、広範囲の温度条件下で高いトラクション係数を有するトラクショングリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トラクションドライブは、油を介在した動力伝達機構として知られている。
代表的な減速機である歯車と比較して、トラクションドライブは、振動が少なく、円滑な動作が期待される。
近年、部品の高性能化・高付加価値化のなかで、トラクションドライブ機構を有する減速機・増速機等の変速機が求められることが多くなってきた。
【0003】
高いトラクション係数を有するトラクショングリース(特許文献1参照)及び広い温度特性を付与したグリース(特許文献2及び3参照)が提案されている。
しかし、低温から高温に渡る温度範囲で高いトラクション係数を有し、特に小型の機器に使用するグリースとしては、未だ性能が不十分である。
従って、更に性能が向上した広範囲の温度条件下で高いトラクション係数を有するグリースが要望されている。
一方、高温トラクション係数を有する化合物からなる潤滑油組成物(流体)(特許文献4及び5、非特許文献1参照)が知られている。
しかしながら、これらの化合物を基油として用いた場合、必ずしもトラクション係数を維持しつつ、優れたグリースを形成できるものではない。
【0004】
【特許文献1】特開2000−8058号公報
【特許文献2】特開2000−8059号公報
【特許文献3】特開2000−8067号公報
【特許文献4】特公平7−103387号公報
【特許文献5】特開2000−17280号公報
【非特許文献1】機械設計24巻11号117〜121頁(1980年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記観点からなされたもので、幅広い温度条件下において、高いトラクション係数を有すると共に、適正なちょう度を有するトラクショングリース組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは更に鋭意研究を続けた結果、特定の化学構造を有する化合物を含有する基油に、増ちょう剤を分散させ、特定の混和ちょう度とすることにより、上記目的を効果的に達成しうることを見出した。
本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明は、
1.ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン環化合物、ビシクロ〔3.2.1〕オクタン環化合物、ビシクロ〔3.3.0〕オクタン環化合物、ビシクロ〔2.2.2〕オクタン環化合物から選ばれる少なくとも一種の脂環化合物の二量体の水素化物を含有する基油に、増ちょう剤を分散させてなり、混和ちょう度が200〜475の範囲にあるトラクショングリース組成物、
2.脂環化合物の二量体の水素化物が、下記一般式(I)
【化1】

(式中、R1及びR2はそれぞれ水素原子あるいは炭素数1〜3のアルキル基を示し、R3は側鎖にメチル基、エチル基が置換してもよいメチレン基、エチレン基又はトリメチレン基を示し、nは0又は1を示し、p及びqはそれぞれ1〜3の整数を示す。)
で表される化合物である上記1に記載のトラクショングリース組成物
3.増ちょう剤が、ウレア化合物、リチウムコンプレックス石鹸、アルミニウムコンプレックス石鹸又はカルシウムコンプレックス石鹸である上記1又は2に記載のトラクショングリース組成物、
4.離油度(25℃、24時間)が20質量%以下である上記1〜3のいづれかに記載のトラクショングリース組成物、
5.滴点が210℃以上である上記1〜4のいづれかに記載のトラクショングリース組成物
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のトラクショングリース組成物は、幅広い温度条件下において、高いトラクション特性を有するため、トラクションにより動力を伝える部品・装置・減速機、特に小型・軽量・低振動を必要とする機器に有効に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
先ず、本発明のトラクショングリース組成物に基油として使用する化合物は、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン環化合物、ビシクロ〔3.2.1〕オクタン環化合物、ビシクロ〔3.3.0〕オクタン環化合物、ビシクロ〔2.2.2〕オクタン環化合物から選ばれる少なくとも一種の脂環化合物の二量体の水素化物から選択される。
なかでも、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン環化合物の二量体の水素化物が好ましく、例えば、下記一般式(I)
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R1及びR2はそれぞれ水素原子あるいは炭素数1〜3のアルキル基を示し、R3は側鎖にメチル基、エチル基が置換してもよいメチレン基、エチレン基又はトリメチレン基を示し、nは0又は1を示し、p及びqはそれぞれ1〜3の整数を示す。)
で表される化合物を挙げることができる。
【0012】
一般式(I)で表される化合物の具体例としては、exo−2−メチル−exo−3−メチル−endo−2−〔(endo−3−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−exo−2−イル)メチル〕ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、exo−2−メチル−exo−3−メチル−endo−2−〔(endo−2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−exo−3−イル)メチル〕ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、endo−2−メチル−exo−3−メチル−exo−2−〔(exo−3−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−exo−2−イル)メチル〕ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、endo−2−メチル−exo−3−メチル−exo−2−〔(exo−2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−exo−3−イル)メチル〕ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、endo−2−メチル−exo−3−メチル−exo−2−〔(endo−3−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−endo−2−イル)メチル〕ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、endo−2−メチル−exo−3−メチル−exo−2−〔(endo−2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−endo−3−イル)メチル〕ビシクロ[2.2.1]ヘプタン等が挙げられる。
【0013】
一般式(I)で表される化合物の好ましい製造方法としては、例えば、メチル基、エチル基あるいはプロピル基等のアルキル基が置換してもよい下記オレフィンを二量化、水素化、蒸留の順に処理を行うことによって得ることができる。
上記原料のオレフィンとしては、例えば、3−メチレン−2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン;ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン;2−メチレンビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;2−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン;2−メチレン−3−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;2,3−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン;2−メチレン−7−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;2,7−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン;2−メチレン−5−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;2,5−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン;2−メチレン−6−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;2,6−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン;2−メチレン−1−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;1,2−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン;2−メチレン−4−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;2,4−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン;2−メチレン−3,7−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;2,3,7−トリメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン;2−メチレン−3,6−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;2−メチレン−3,3−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;2,3,6−トリメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン;2−メチレン−3−エチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;2−メチル−3−エチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エンなどを挙げることができる。
【0014】
二量化反応に用いる触媒としては、通常、酸性触媒が使用され、例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素1.5水錯体、三フッ化ホウ素アルコール錯体などの三フッ化ホウ素錯体が好ましく用いられる。
また、二量化反応温度としては、通常−70〜100℃が採用される。
原料オレフィンの二量体の水素化反応も、通常触媒の存在下行うが、その触媒としては、ニッケル、ルテニウム、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム等の水添用触媒を挙げることができる。
一般に、上記金属は、通常ケイソウ土、アルミナ、活性炭、シリカアルミナ等の担体に担持されたものが使用され、ニッケル/ケイソウ土等の担持触媒が特に好ましい。
水素化反応温度としては、通常100〜300℃、反応圧力としては、通常、常圧から19.6MPaG(200kg/cm2G)が採用される。
【0015】
本発明のトラクショングリース組成物は、上述の化合物を基油として含有するものである。
該化合物の基油中の含有量については、特に制限はないが、該化合物が有する特性を充分に発揮できるためには、基油中に、70質量%以上含有することが好ましく、更には80質量%以上、特に85質量%以上含有することが好ましい。
【0016】
本発明のトラクショングリース組成物においては、基油として、上述の化合物以外の基油を、30質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下の割合で含有するものを用いることができる。
他の基油としては、例えば、本発明で用いられる脂環化合物の二量体の水素化物以外の脂環式炭化水素化合物、鉱油、各種合成油が挙げられる。
上記脂環式炭化水素化合物としては、例えば、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタン、2,4−ジシクロヘキシルペンタンなどシクロヘキサン環を2個以上有するアルカン誘導体、1−シクロヘキシル−1−デカリルエタンなどのデカリン環とシクロヘキシル環をそれぞれ1個以上有するアルカン誘導体などが挙げられる。
また、鉱油としては、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油が、各種合成油としては、例えば、1−デセンのオリゴマーなどのポリアルファーオレフイン、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリアルキレングリコールなどが挙げられる。
【0017】
本発明のトラクショングリース組成物は、上記化合物を含有する基油に、増ちょう剤を配合分散することによって得ることができる。
本発明に用いられる増ちょう剤としては、特に制限がなく、石鹸系、非石鹸系いずれも使用できる。
石鹸系としては、カルボン酸又はそのエステルをアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属等の金属水酸化物でケン化した金属石鹸が挙げられる。
金属としては、ナトリウム、カルシウム、リチウム、アルミニウム等が挙げられ、カルボン酸としては、油脂やそれを加水分解してグリセリンを除いた粗製脂肪酸、ステアリン酸等のモノカルボン酸や、12−ヒドロキシステアリン酸等のモノヒドロキシカルボン酸、アゼライン酸等の二塩基酸、テレフタル酸、サルチル酸、安息香酸等の芳香族カルボン酸が挙げられる。
これらは、単独で用いても複合して用いてもよい。
金属石鹸の具体例としては、12−ヒドロキシステアリン酸を用いたリチウム石鹸が好適である。
この石鹸系の増ちょう剤を配合するに当たっては、基油にカルボン酸と上記金属水酸化物を投入して、基油中でケン化させて配合してもよい。
【0018】
また、他の石鹸系の増ちょう剤として各種コンプレックス石鹸が挙げられる。
このコンプレックス石鹸としては、リチウムコンプレックス石鹸、アルミニウムコンプレックス石鹸、カルシウムコンプレックス石鹸等が用いられる。
この内、リチウムコンプレックス石鹸は、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸等の脂肪酸及び/又は分子中に1個以上のヒドロキシル基を有する炭素数12〜24のヒドロキシ脂肪酸と、芳香族カルボン酸及び/又は炭素数2〜12(より好ましくは炭素数4〜9)の脂肪族ジカルボン酸とを、例えば、水酸化リチウムなどのリチウム化合物と反応させることにより得られ、リチウム石鹸と比べて耐熱性に優れるので、増ちょう剤として、より好ましい。
上記炭素数12〜24のヒドロキシ脂肪酸としては、最も好ましいものは12−ヒドロキシステアリン酸であるが、その他のものも全て使用し得る。
その他の使用し得るものとしては、例えば、12−ヒドロキシラウリン酸、16−ヒドロキシパルミチン酸等が挙げられる。
そして、芳香族カルボン酸としては、安息香酸、o−フタル酸、m−フタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、サリチル酸、p−ヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。
また、上記炭素数2〜12の脂肪族ジカルボン酸としては、アゼライン酸が最も好ましいが、その他のものも全て使用し得る。
その他の使用し得るものとしては、例えば、セバシン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸などを挙げることができる。
ここで、脂肪酸及び/又は分子中に1個以上のヒドロキシル基を有する炭素数12〜24のヒドロキシ脂肪酸と、芳香族カルボン酸及び/又は炭素数2〜12の脂肪族ジカルボン酸との全質量中、芳香族カルボン酸及び/又は炭素数2〜12の脂肪族ジカルボン酸が5〜70質量%であることが好ましい。
5〜70質量%の範囲内であれば、熱的に安定な増ちょう剤が得られ、グリースの高温での長寿命化を実現するのに有利である。
【0019】
また、非石鹸系として、ウレア化合物や有機処理されたベントナイトなども用いられる。
ここで、増ちょう剤としてのウレア化合物としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物が挙げられ、また、ウレア・ウレタン化合物も含まれる。
ウレア化合物は、耐熱性、耐水性ともに優れ、特に高温での安定性が良好なため、高温箇所に好適に用いられる。
【0020】
上記のジウレア化合物として、R4NHCONHR5NHCONHR4で示される化合物(式中、R4は炭素原子数6〜24である直鎖状または分岐状の飽和または不飽和のアルキル基を表し、R5は炭素原子数6〜15の2価の芳香族炭化水素基を表す。)が挙げられ、代表的なものとしては、ジイソシアネートとモノアミンを反応させたものであり、ジイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等が挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、トルイジン、オクタデシルアミン、オレイルアミン等が挙げられるが、従来公知のウレア系増ちょう剤のいずれをも使用することができる。
【0021】
上述の各種増ちょう剤の内、各種コンプレックス石鹸又はウレア化合物が好ましく、これら、各種コンプレックス石鹸及びウレア化合物を2種以上併用してもよい。
本発明のトラクショングリース組成物に用いる増ちょう剤は、得られるトラクショングリース組成物の混和ちょう度が200〜475の範囲になるように配合される。
その配合量は、グリース組成物基準で通常1〜40質量%、好ましくは2〜20質量%である。
【0022】
本発明のトラクショングリース組成物においては、更に本発明の目的に反しない範囲で公知の添加剤を配合できる。
そのような添加剤としては、例えば、硫黄化合物(硫化油脂、硫化オレフィン、ポリサルファイド、硫化鉱油、チオリン酸類、チオカルバミン酸類、チオテルペン類、ジアルキルチオジプロピオネート類等)、リン酸エステル、亜リン酸エステル(トリクレシルホスフェート、トリフェニルフォスファイト等)などの潤滑性向上剤、こはく酸イミド、ボロン系こはく酸イミドなどの清浄分散剤、フェノール系、アミン系などの酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系、チアゾール系などの腐食防止剤、金属スルホネート系、こはく酸エステル系などの錆止め剤、シリコン系、フッ素化シリコン系などの消泡剤、ポリメタアクリレート系、オレフィンコーポリマー系、スチレン系ポリマーなどの粘度指数向上剤などが挙げられる。
これらの添加剤の配合量は、目的に応じて適宜選定すればよいが、通常、これらの添加剤の合計がグリース組成物を基準にして20質量%以下になるように配合する。
【0023】
本発明のトラクショングリース組成物は、幅広い温度条件下において、高いトラクション係数を有しており、通常−20〜100℃に亘りトラクション係数が0.05以上である。
本発明のトラクショングリース組成物の混和ちょう度は、220〜475であり、好ましい混和ちょう度は220〜435、より好ましい混和ちょう度は265〜435である。
混和ちょう度が200〜475の範囲であると、部品の隙間からグリースが漏洩することなくグリースとしての機能を発揮し、トラクション面への油供給性が良好で摩耗等の問題を生じない。
本発明のトラクショングリース組成物の離油度(25℃、24時間)は、20質量%以下が好ましい。
離油度が20質量%以下であれば、シール部からの漏洩等を防ぐことができる。
本発明のトラクショングリース組成物は、滴点が210℃以上であるものが好ましく、230℃以上であるものがより好ましい。
滴点が210℃以上であれば、高温での軟化やそれに伴う漏洩、焼付け等の発生を抑制できる。
【0024】
本発明のトラクショングリース組成物の調製方法については、通常、次の方法を用いることができる。
先ず、基油に所定の割合の増ちょう剤を配合し、所定の温度に加熱して均質化する。
その後冷却し、所定の温度に達したところで所望により各種添加剤を、所定量配合することにより、本発明のトラクショングリース組成物を得ることができる。
【実施例】
【0025】
次に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、本発明のトラクショングリース組成物の性能は次の方法によって求めた。
(トラクション係数の測定)
2円筒試験機を用いて測定した。
一対の金属製円筒(材質:軸受鋼/SUJ−2、直径40mm、厚さ10mm、硬さRC61、表面粗さRms0.030μm、被駆動側は曲率半径20mmのタイコ型、駆動側はクラウニングなしのフラット型)を対向させ、面圧Pmax=1.15GPa〔荷重118N(12kgf)〕を負荷しながら、両円筒を平均速度1.24m/s(600rpm)で回転させ、両円筒のすべり率(駆動側と被駆動側との速度差を平均速度で除した値%)が1.68%になるように速度差を与え、そのとき2円筒接触部に発生する接線力F(トラクション力)を測定し、トラクション係数μ(=F/147.1)を測定した。
なお、試料グリースの給油は、5gのグリースを上記円筒に塗布して行なった。また、測定油温はグリース組成物については−20℃、25℃及び100℃、基油については40℃で行なった。
【0026】
(その他の性状の測定方法)
下記の規格に従って測定した。
混和ちょう度 :JIS K 2220.7.5
離油度(25℃):JIS K 2220.11に準じ、温度のみ25℃に変更した。
動粘度 :JIS K 2283
密度 :JIS K 2249
滴点 :JIS K 2220.8
【0027】
〔製造例1:ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン環化合物の二量体の水素化物の製造〕
1リットルのステンレス製オートクレーブに、クロトンアルデヒド350.5g(5モル)及びジシクロペンタジエン198.3g(1.5モル)を仕込み、170℃で2時間攪拌して反応させた。
反応溶液を室温まで冷却した後、5%ルテニウム−カーボン触媒〔NEケムキャット(株)製〕22gを加え、水素圧6.86MPa(70kg/cm2)G、反応温度180℃で4時間水素化を行った。
冷却後、触媒を濾別した後、濾液を70℃/0.12kPa(0.9mmHg)で蒸留し、242gを得た。
この留分をマススペクトル,核磁気共鳴スペクトルで分析した結果、この留分は2−ヒドロキシメチル−3−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタンであることが確認された。
次いで、外径20mm,長さ500mmの石英ガラス製流通式常圧反応管に、γ−アルミナ〔日化精工(株)製、ノートンアルミナSA−6273〕15gを入れ、反応温度270℃、重量空間速度(WHSV)1.07hr-1で脱水反応を行い、2−メチレン−3−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン65質量%及び2,3−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン28質量%を含有する2−ヒドロキシメチル−3−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタンの脱水反応生成物196gを得た。
【0028】
500ミリリットルの四つ口フラスコに活性白土〔水澤化学(株)製ガレオンアースNS〕9.5g及び上記で得たオレフィン化合物190gを入れ、145℃で3時間攪拌して二量化反応を行った。
この反応混合物から活性白土を濾過した後、1リットルオートクレーブに水素化用ニッケル/ケイソウ土触媒〔日揮化学(株)製、N−113〕6gを加え、水素圧3.92MPa(40kg/cm2)G、反応温度160℃、反応時間4時間の条件で水素化反応を行った。
反応終了後、濾過により触媒を除き、濾液を減圧で蒸留することにより、目的とする沸点126〜128℃/0.027kPa(0.2mmHg)留分の二量体水素化物116gを得た。
この留分をマススペクトル、核磁気共鳴スペクトルで分析した結果、この留分はノルボルナン環を分子中に2個持つ、一般式(I)で表わされる炭素数18の飽和炭化水素(分子量246)であることが確認された。
このものの性状は、次のとおりであった。
動粘度:21.80mm2/s(40℃)
密度:0.910g/cm3(15℃)
トラクション係数:0.114(40℃)
【0029】
実施例1〜4及び比較例1〜4
第1表に示す基油1(製造例1のビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン環化合物の二量体の水素化物)、基油2〔市販トラクション油:SANTOTRAC50(基油は、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタン)、Findett社製:動粘度;28.97mm2/s(40℃)、密度;0.906g/cm3(15℃)、トラクション係数:0.112(40℃)〕、基油3〔PAO6:動粘度;30.58mm2/s(40℃)、密度;0.826g/cm3(15℃)、トラクション係数:0.010(40℃)〕、リチウム系増ちょう剤として12ヒドロキシステアリン酸リチウム、ウレア系増ちょう剤としてジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネートとオクチルアミンの反応物、酸化防止剤としてフェニル−α−ナフチルアミン、潤滑性向上剤としてジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、防錆剤としてCaスルホネートを第1表に示す割合で配合し、下記の方法でグリースを調製した。
それらのグリースについて、トラクション係数(100℃、25℃、−20℃)、混和ちょう度、離油度及び滴点を測定した。その結果を第2表に示した。
(実施例1〜2、比較例1〜4のグリースの調製方法)
用いる試料基油の2/3量に、ジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネート1モルを加熱溶解した。
別に、残りの試料基油1/3量に、オクチルアミン2モルを加熱溶解した。
グリース製造釜中で、上記ジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネートを含有する基油を撹拌しながら、上記オクチルアミン含有基油を徐々に添加した。
攪拌しながら加熱し、グリースの温度が165℃に到達した後、この温度で1時間保持した。
次いで、50℃/hrで80℃まで冷却した後、第1表に示す、フェニル−α−ナフチルアミン、ジチオリン酸亜鉛、Caスルホネートを添加した。
その後、更に室温まで自然放冷した後、三本ロール装置を用いて仕上げ処理を行ってグリースを得た。
(実施例3〜4のグリースの調製方法)
グリース製造釜に、用いる試料基油の1/2量と、第1表に記載のリチウムコンプレックス系増ちょう剤量に対して、0.739倍量の12−ヒドロキシステアリン酸を添加し、95℃に加熱した。
次に、リチウムコンプレックス系増ちょう剤量に対して、0.104倍量の水酸化リチウム(1水和物)を純水で5倍に希釈したものを、グリース製造釜に除々に添加し反応させた。
その後、加熱脱水した後、リチウムコンプレックス系増ちょう剤量に対して、0.231倍量のアゼライン酸を添加し、30分間攪拌した。
次に、温度を95℃±5℃に保ちながら、リチウムコンプレックス系増ちょう剤量に対して、0.104倍量の水酸化リチウム(1水和物)を純水で5倍に希釈したものを、グリース製造釜に除々に添加し、更に反応させた。
その後、加熱混合し、グリース温度が195℃に達した後、5分間この温度に保持し、残りの基油2/3量を添加し、50℃/hrで80℃まで冷却した後、第1表に示すフェニル−α−ナフチルアミン、ジチオリン酸亜鉛、Caスルフォネートを加えた。
更に室温まで自然放冷した後、三本ロール装置を用いて仕上げ処理を行ってグリースを得た。
【0030】
【表1】

【0031】
表1から、実施例1〜4のグリースは、混和ちょう度が適正であると共に、広範囲の温度条件下でトラクション係数が高く、−20〜100℃に亘りトラクション係数0.050以上である。
これに対し、比較例1〜2のグリースは、混和ちょう度は適正であるが、−20℃におけるトラクション係数が各々0.039及び0.037であり、広範囲の温度条件下でトラクション係数を高く保てないことが分かる。
また、比較例3のグリースはトラクション係数は高いが、混和ちょう度が大きいため、離油度が大きくなりグリース又はグリースから分離した油分がシール等の隙間から漏れることが分かる。
比較例4のグリースは、混和ちょう度が小さいため、流動性が不十分となり、トラクション試験において、転動面に速やかにグリースを供給することができず、円筒間の金属接触を生じ、摩擦係数が急上昇してトラクション係数の測定が不能であった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のトラクショングリース組成物は、トラクションにより動力を伝える部品・装置・減速機、特に小型・軽量・低振動を必要とする機器に有効に利用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン環化合物、ビシクロ〔3.2.1〕オクタン環化合物、ビシクロ〔3.3.0〕オクタン環化合物、ビシクロ〔2.2.2〕オクタン環化合物から選ばれる少なくとも一種の脂環化合物の二量体の水素化物を含有する基油に、増ちょう剤を分散させてなり、混和ちょう度が200〜475の範囲にあるトラクショングリース組成物。
【請求項2】
脂環化合物の二量体の水素化物が、下記一般式(I)
【化1】

(式中、R1及びR2はそれぞれ水素原子あるいは炭素数1〜3のアルキル基を示し、R3は側鎖にメチル基、エチル基が置換してもよいメチレン基、エチレン基又はトリメチレン基を示し、nは0又は1を示し、p及びqはそれぞれ1〜3の整数を示す。)
で表される化合物である請求項1に記載のトラクショングリース組成物。
【請求項3】
増ちょう剤が、ウレア化合物、リチウムコンプレックス石鹸、アルミニウムコンプレックス石鹸又はカルシウムコンプレックス石鹸である請求項1又は2に記載のトラクショングリース組成物。
【請求項4】
離油度(25℃、24時間)が20質量%以下である請求項1〜3のいづれかに記載のトラクショングリース組成物。
【請求項5】
滴点が210℃以上である請求項1〜4のいづれかに記載のトラクショングリース組成物。

【公開番号】特開2007−146017(P2007−146017A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−343156(P2005−343156)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】