説明

トラクタの安全フレーム構造

【課題】折り畳み式の安全フレームにおいて、孔加工誤差、溶接誤差、組立誤差などによるガタの個体差を吸収すると共に、摩耗に伴うガタ吸収性能の低下を回避する。
【解決手段】安全フレームの連結部9は、支持部材12及び上部ロールバー10に形成されたピン孔10b、12aに挿通されることにより、所定の展開位置で上部ロールバー10の回動をロックする固定ピン13と、上部ロールバー10の下端面に高さ調整自在に設けられるストッパボルト14と、ストッパボルト14の下端面に設けられ、上部ロールバー10の展開時に、支持部材12に囲まれる空間で下部ブラケット8の上端面に弾圧状に当接すると共に、下部ブラケット8の上端面に形成された水抜き用孔7bを塞ぐ防振ゴム15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転座席の後方に、背面視冂字状の安全フレームが立設されるトラクタの安全フレーム構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、キャビン仕様以外のトラクタでは、運転座席の後方に背面視冂字状の安全フレームが立設されるようになっている。この種の安全フレームでは、格納時などの機体高さを抑えるために、高さ方向の中間部で折り畳み自在に構成することが一般的となっている。例えば、特許文献1に示される安全フレームは、運転座席の後方に立設される下部ブラケットと、該下部ブラケットの上端部に折り畳み自在(前後回動自在)に連結される背面視冂字状の上部ロールバーとを備えて構成されている。
【0003】
上部ロールバーと下部ブラケットの連結部には、通常、上部ロールバー及び下部ブラケットのピン孔に挿通される固定ピンを備えており、該固定ピンを抜くことにより上部ロールの折り畳み/展開操作が許容されるようになっているが、ピン孔と固定ピンとの間にはガタが存在するので、機体振動により異音が発生するという問題があった。そこで、特許文献1に示されるトラクタでは、上部ロールバーと下部ブラケットの間に防振ゴムを介設することにより、異音の発生を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0252371号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ピン孔と固定ピンとの間に存在するガタは、孔加工誤差、溶接誤差、組立誤差などによる個体差があるので、特許文献1に示されるような固定式の防振ゴムで一様にガタ吸収することは難しく、しかも、特許文献1の防振ゴムは、上部ロールバーとの当接により徐々に摩耗するので、ガタ吸収性能が経時的に低下するという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、運転座席の後方に、背面視冂字状の安全フレームが立設されるトラクタにおいて、前記安全フレームは、運転座席の後方に立設される左右一対の下部ブラケットと、該下部ブラケットの上端部に連結部を介して折り畳み自在に連結される背面視冂字状の上部ロールバーとを備え、前記連結部は、上部ロールバーの下端部に設けられる支軸を、下部ブラケットの上端部に設けられる平面視コ字状の支持部材により回動自在に支持して構成されると共に、固定ピン、ストッパボルト及び防振ゴムを備え、前記固定ピンは、支持部材及び上部ロールバーに形成されたピン孔に挿通されることにより、所定の展開位置で上部ロールバーの回動をロックし、前記ストッパボルトは、上部ロールバーの下端面に高さ調整自在に設けられ、上部ロールバーの展開時に下部ブラケットの上端面に臨み、前記防振ゴムは、ストッパボルトの下端面に設けられ、上部ロールバーの展開時に、前記支持部材に囲まれる空間で下部ブラケットの上端面に弾圧状に当接すると共に、下部ブラケットの上端面に形成された水抜き用孔を塞ぐことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明によれば、上部ロールバーの展開状態において、固定ピンとピン孔の間のガタを吸収する防振ゴムを備えるものであるが、該防振ゴムを、上部ロールバーに対して高さ調整自在なストッパボルトに設けたので、ストッパボルトの高さ調整にもとづいて、孔加工誤差、溶接誤差、組立誤差などによるガタの個体差を吸収できるだけでなく、摩耗に伴うガタ吸収性能の低下を回避できる。また、防振ゴムは、下部ブラケットの上端面に形成された水抜き用孔を塞ぐ部材に兼用されているので、部品点数及びコストの削減に寄与することができる。さらに、防振ゴムは、支持部材に囲まれる空間で下部ブラケットの上端面に当接するので、防振ゴムの露出による外観の低下も回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】トラクタの側面図である。
【図2】トラクタの背面図である。
【図3】安全フレームの全体斜視図である。
【図4】安全フレームの下端部取付構造を示す背面図である。
【図5】安全フレームの連結部(展開状態)を示す側面図である。
【図6】安全フレームの連結部(水平固定状態)を示す側面図である。
【図7】安全フレームの連結部(折り畳み状態)を示す側面図である。
【図8】安全フレームの連結部(展開状態)を示す断面図である。
【図9】安全フレームの連結部(水平固定状態)を示す断面図である。
【図10】安全フレームの連結部(折り畳み状態)を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1及び図2において、1はトラクタの走行機体であって、該走行機体1は、エンジン(図示せず)が搭載されるエンジン搭載部2、ホイール式又はクローラ式の走行部3、運転座席4や各種の操作具が配置される操縦部5、各種の作業機を選択的に装着可能な作業機装着部6などを備えて構成されている。
【0010】
運転座席4の後方には、安全領域を確保する背面視冂字状の安全フレーム7が立設されている。安全フレーム7は、走行機体1の転倒に際して変形しない強度を有し、かつ、走行機体1に対して強固に取り付ける必要がある。例えば、図3及び図4に示すように、強度的に優れる金属製の角パイプ材で安全フレーム7を形成すると共に、安全フレーム7の下端部に取付板7aを溶着し、該取付板7aを、トランスミッションケース、リヤアクスルケースなどの高強度部材に固定することにより、必要な取り付け強度を確保する。尚、安全フレーム7の適所には、水抜き孔7bが形成されており、この水抜き孔7bは、塗装工程において洗浄液を抜くための孔としても利用される。
【0011】
また、安全フレーム7は、格納時などの機体高さを抑えるために、高さ方向の中間部で折り畳み自在に構成されている。具体的には、運転座席4の後方に立設される左右一対の下部ブラケット8と、該下部ブラケット8の上端部に連結部9を介して折り畳み自在(前後回動自在)に連結される背面視冂字状の上部ロールバー10とを備えて構成されている。
【0012】
近年、この種の安全フレーム7は、運転座席4の上方に安全領域を効率良く確保できることから、側面視で前方へ傾斜させたものが主流となっている。安全フレーム7を前傾させるには、安全フレーム7全体を前傾させる方法と、安全フレームの上部を前傾させる方法がある。しかしながら、前者の方法では、トランスミッションケースやリヤアクスルケースの取付面に対して安全フレーム7を傾斜状に取り付けることになるので、取付部(取付板7a)の形状が複雑になるだけでなく、取付強度が低下する惧れがある。
【0013】
一方、後者の方法では、上記のような問題を回避可能であるが、特開2004−322723号公報に示される安全フレームのように、上部ロールバーを側面視く字状に曲げ形成することにより、前傾状態を現出させると、上部ロールバーの製造工程において、背面視冂字状とするための第一方向の曲げ加工と、側面視く字状とするための第二方向の曲げ加工が必要になる。そのため、専用の曲げ型を作製する必要がある等、製造コストの上昇を招くだけでなく、曲げ加工誤差やスプリングバックにより三次元の捩れが発生し、下部ブラケットとの孔位置が合わなくなる等の問題が生じる惧れがあった。
【0014】
そこで、本実施形態の安全フレーム7は、運転座席4の後方に立設される左右一対の下部ブラケット8と、該下部ブラケット8の上端部に折り畳み自在に連結される背面視冂字状の上部ロールバー10とを備えて構成するにあたり、上部ロールバー10を、側面視直線状で、かつ、背面視冂字状(図3の曲げ部10a参照)に曲げ形成する一方、下部ブラケット8を、背面視直線状で、かつ、側面視く字状(図3の曲げ部8a参照)に曲げ形成することにより、上部ロールバー10を前傾させている。
【0015】
このようにすると、安全フレーム7の上部を前傾させるものでありながら、上部ロールバー10や下部ブラケット8において、二方向の曲げ加工を行う必要がなくなるので、専用の曲げ型を作製することなく、ベンダー加工のみで上部ロールバー10や下部ブラケット8を形成して製造コストの低減が図れ、また、三次元の捩れも抑制されるので、上部ロールバー10と下部ブラケット8を精度良く連結させることができる。
【0016】
次に、本発明の実施形態に係る安全フレーム7の連結部9について、図5〜図10を参照して説明する。
【0017】
連結部9は、上部ロールバー10の下端部に左右方向を向いて設けられる支軸11を、下部ブラケット8の上端部に設けられる平面視コ字状の支持部材12により前後方向回動自在に支持して構成されると共に、抜き挿し自在な固定ピン13を備えている。固定ピン13は、支持部材12及び上部ロールバー10に形成されたピン孔10b、12aに貫通状に挿通されることにより、少なくとも所定の展開位置(図5及び図8参照)で上部ロールバー10の回動をロックすることができる。また、固定ピン13を抜くと、上部ロールバー10の回動が許容され、安全フレーム7の折り畳みが可能になる(図7及び図10参照)。尚、本実施形態の支持部材12は、さらにピン孔12bを有し、該ピン孔12bに固定ピン13を挿通すると、所定の水平固定位置(図6及び図9参照)で上部ロールバー10の回動をロックすることができる。
【0018】
上記のような回動ロック構造では、ピン孔10b、12aと固定ピン13との間にガタが存在するので、機体振動により異音が発生する可能性があるので、例えば、米国特許出願公開第2007/0252371号明細書に示されるように、上部ロールバーと下部ブラケットの間に防振ゴムを介設し、異音の発生を防止することが望ましい。しかしながら、ピン孔10b、12aと固定ピン13との間に存在するガタは、孔加工誤差、溶接誤差、組立誤差などによる個体差があるので、米国特許出願公開第2007/0252371号明細書に示されるような固定式の防振ゴムで一様にガタ吸収することは難しく、しかも、防振ゴムは、上部ロールバーとの当接により徐々に摩耗するので、ガタ吸収性能が経時的に低下する可能性がある。
【0019】
そこで、本発明の実施形態では、連結部9にストッパボルト14及び防振ゴム15を設ける。ストッパボルト14は、上部ロールバー10の下端面に高さ調整自在(ねじ送りによる上下移動自在)に設けられ、上部ロールバー10の展開時に下部ブラケット8の上端面に臨む。また、防振ゴム15は、ストッパボルト14の下端面に設けられ、上部ロールバー10の展開時に、支持部材12に囲まれる空間で下部ブラケット8の上端面に弾圧状に当接する。
【0020】
つまり、上部ロールバー10の展開状態において、固定ピン13とピン孔10b、12aの間のガタを吸収する防振ゴム15を備えるものであるが、該防振ゴム15を、上部ロールバー10に対して高さ調整自在なストッパボルト14に設けたので、ストッパボルト14の高さ調整にもとづいて、孔加工誤差、溶接誤差、組立誤差などによるガタの個体差を吸収できるだけでなく、摩耗に伴うガタ吸収性能の低下を回避できる。また、防振ゴム15は、支持部材12に囲まれる空間で下部ブラケット8の上端面に当接するので、防振ゴム15の露出による外観の低下も回避することができる。
【0021】
また、防振ゴム15は、上部ロールバー10の展開状態において、下部ブラケット8の上端面に形成された水抜き用孔7bを塞ぐように当接位置が定められている。このようにすると、上部ロールバー10を展開させる作業時において、水抜き用孔7bからの雨水の浸入を防ぐことができ、また、防振ゴム15を水抜き用孔7bを塞ぐ部材に兼用できるので、部品点数及びコストの削減に寄与することができる
【0022】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、運転座席4の後方に、背面視冂字状の安全フレーム7が立設されるトラクタにおいて、安全フレーム7は、運転座席4の後方に立設される左右一対の下部ブラケット8と、該下部ブラケット8の上端部に連結部9を介して折り畳み自在に連結される背面視冂字状の上部ロールバー10とを備え、連結部9は、上部ロールバー10の下端部に設けられる支軸11を、下部ブラケット8の上端部に設けられる平面視コ字状の支持部材12により回動自在に支持して構成されると共に、固定ピン13、ストッパボルト14及び防振ゴム15を備え、固定ピン13は、支持部材12及び上部ロールバー10に形成されたピン孔10b、12aに挿通されることにより、所定の展開位置で上部ロールバー10の回動をロックし、ストッパボルト14は、上部ロールバー10の下端面に高さ調整自在に設けられ、上部ロールバー10の展開時に下部ブラケット8の上端面に臨み、防振ゴム15は、ストッパボルト14の下端面に設けられ、上部ロールバー10の展開時に、支持部材12に囲まれる空間で下部ブラケット8の上端面に弾圧状に当接すると共に、下部ブラケット8の上端面に形成された水抜き用孔7bを塞ぐようになっている。つまり、上部ロールバー10の展開状態において、固定ピン13とピン孔10b、12aの間のガタを吸収する防振ゴム15を備えるものであるが、該防振ゴム15を、上部ロールバー10に対して高さ調整自在なストッパボルト14に設けたので、ストッパボルト14の高さ調整にもとづいて、孔加工誤差、溶接誤差、組立誤差などによるガタの個体差を吸収できるだけでなく、摩耗に伴うガタ吸収性能の低下を回避できる。また、防振ゴム15は、下部ブラケット8の上端面に形成された水抜き用孔7bを塞ぐ部材に兼用されているので、部品点数及びコストの削減に寄与することができる。さらに、防振ゴム15は、支持部材12に囲まれる空間で下部ブラケット8の上端面に当接するので、防振ゴム15の露出による外観の低下も回避することができる。
【符号の説明】
【0023】
1 走行機体
4 運転座席
7 安全フレーム
7b 水抜き孔
8 下部ブラケット
9 連結部
10 上部ロールバー
10b ピン孔
11 支軸
12 支持部材
12a ピン孔
13 固定ピン
14 ストッパボルト
15 防振ゴム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転座席の後方に、背面視冂字状の安全フレームが立設されるトラクタにおいて、
前記安全フレームは、運転座席の後方に立設される左右一対の下部ブラケットと、該下部ブラケットの上端部に連結部を介して折り畳み自在に連結される背面視冂字状の上部ロールバーとを備え、
前記連結部は、上部ロールバーの下端部に設けられる支軸を、下部ブラケットの上端部に設けられる平面視コ字状の支持部材により回動自在に支持して構成されると共に、固定ピン、ストッパボルト及び防振ゴムを備え、
前記固定ピンは、支持部材及び上部ロールバーに形成されたピン孔に挿通されることにより、所定の展開位置で上部ロールバーの回動をロックし、
前記ストッパボルトは、上部ロールバーの下端面に高さ調整自在に設けられ、上部ロールバーの展開時に下部ブラケットの上端面に臨み、
前記防振ゴムは、ストッパボルトの下端面に設けられ、上部ロールバーの展開時に、前記支持部材に囲まれる空間で下部ブラケットの上端面に弾圧状に当接すると共に、下部ブラケットの上端面に形成された水抜き用孔を塞ぐことを特徴とするトラクタの安全フレーム構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−116199(P2011−116199A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274076(P2009−274076)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】