説明

トラクタ

【課題】 原動部Aで発生した熱気を草刈り装置10の作業後に流れにくくするとともに運転部Bに流入しにくくしながら作業できるようにする。
【解決手段】 エンジンボンネット内空間21と運転部Bの居住空間とを仕切るパネル20に吸気口26を設けてある。エンジン4と吸気口26の間に後隔壁27を設け、エンジン4の前方に送風ガイド30を設けてある。後隔壁27に冷却風供給口27cを設けてある。送風ガイド30に導入口34及び排気口35を設けてある。導入口34は、エンジン4からのエンジン冷却風を送風ガイド30に導入し、排気口35は、導入口34からのエンジン冷却風を前車輪1よりも前方で、エンジンボンネット5よりも低い部位で車体前方向きに排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前部に配置されたエンジンを有する原動部、及び、前記原動部の後方に配置された運転座席を有する運転部を備えたトラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のトラクタにおいて、従来、たとえば特許文献1に示されるように、エンジンルーム3Aの後部壁を形成する操縦パネル11に吸気口11Bを設け、この吸気口11Bからエンジン冷却外気を吸引し、冷却排気をエンジンボンネット3の前面の排気口3′から前方に吹き出すように冷却風排気構造を構成したものを開発した。
【0003】
すなわち、車体の前後輪間に草刈り装置を装着して、芝刈り作業に使用されることがあるが、この場合、エンジンボンネット内で発生した熱気を、作業後の芝に触れにくいように車体前方に排出しながら作業することが可能なものを開発した。
【0004】
【特許文献1】特開平8−119146号公報(段落〔0016〕、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術を採用した場合、原動部から排出された熱気のために温度上昇した空気が運転部に流入しやすくなることがあり、この点を改善する余地があった。
【0006】
本発明の目的は、原動部からの熱気が作業後の芝にも運転部にも影響しにくいようにして作業することができるトラクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本第1発明にあっては、車体前部に配置されたエンジンを有する原動部、及び、前記原動部の後方に配置された運転座席を有する運転部を備えたトラクタにおいて、
前記原動部のエンジンボンネット内空間を前記エンジンの後方で前記運転部の居住空間と仕切るパネルに、エンジン冷却風をエンジンボンネット内空間に取り入れる吸気口を設け、
前記エンジンボンネット内空間の前記エンジンと前記吸気口の間に、後隔壁を設けるとともに、前記後隔壁に、前記吸気口からのエンジン冷却風をエンジンに供給する冷却風供給口を設け、
前記エンジンの前方でエンジンに向かって開口する導入口、及び、前車輪よりも前方においてエンジンボンネットの配置高さよりも低い配置高さで車体前方向きに開口する排気口を備え、かつ、エンジンに供給されたエンジン冷却風を前記導入口によって導入して前記排気口から排出する送風ガイドを、エンジンの前方に設けてある。
【0008】
すなわち、パネルの吸気口からエンジンボンネット内に導入されたエンジン冷却風が隔壁の冷却風供給口からエンジンに供給され、エンジン冷却処理を行なって温度上昇したエンジン冷却風は、パネルの吸気口に逆流することを後隔壁によって抑制されながら送風ガイドの導入口に流入する。送風ガイドに流入したエンジン冷却風は、送風ガイドの排気口から、エンジンボンネットよりも低い箇所で車体前方向きに排出される。
【0009】
これにより、エンジンボンネット内で発生した熱気は、エンジンボンネット内空間から下方に流出して草刈り装置による刈り込み処理後の芝に触れる事態が発生しにくくなる。送風ガイドの排気口から排出された熱気は、草刈り装置による刈り込み処理前の芝に触れても、草刈り装置による刈り込み処理後の芝には触れにくくなる。刈り込み処理前の芝に熱気が触れても、草刈り装置による刈り込み処理が行なわれた後の芝は、先に熱気が触れた葉先側を刈り取られた状態になる。また、エンジンボンネット内で発生した熱気がパネルの吸気口から流出して運転部に入る事態が発生しにくくなる。さらに、送風ガイドの排気口から排出される熱気は、エンジンボンネットよりも低い箇所で排出されるため、車体走行によって運転部が熱気排出箇所に移動しても、熱気が運転部に流入しにくくなる。
【0010】
従って、本第1発明によれば、エンジンボンネット内で発生した熱気が刈り込み処理後の芝に触れにくいことにより、そして、刈り込み処理後の芝は、送風ガイドの排気口からの熱気が触れた葉先側を刈り取られた状態になることにより、作業後の芝には原動部からの熱気による悪影響が出にくいようにして作業をすることができる。それでありながら、原動部で発生した熱気がパネルの吸気口から運転部に流入しにくいとともに送風ガイドの排気口から排出された熱気も運転部に流入しにくく、運転部に快適に居住して作業を行なうことができる。
【0011】
本第2発明にあっては、本第1発明の構成において、前記エンジンの排気マフラーを、前記送風ガイドの内部に配置してある。
【0012】
すなわち、排気マフラーが送風ガイドによってカバーされ、送風ガイドに流入したエンジン冷却風が排気マフラーの周囲を流動して排気マフラーに冷却作用する。これにより、送風ガイドが排気マフラーの放熱のために温度上昇することを抑制しながら排気マフラーを送風ガイドによってカバーすることができる。
【0013】
従って、本第2発明によれば、送風ガイドをカバー手段に利用して、かつ、エンジン冷却風をカバー手段の昇温防止手段に利用して構造の簡略化を図りながら、排気マフラーを温度上昇しにくいカバー手段によってカバーすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、左右一対の操向操作及び駆動自在な前車輪1、左右一対の駆動自在な後車輪2を備えた自走車体の前側に、自走車体の車体フレーム3の前部に配置されたエンジン4及びエンジンボンネット5を有した原動部Aを設け、前記自走車体の後側に、前記原動部Aの後方で、かつ、自走車体の車体フレーム3の後端部に配置された運転座席6を有した運転部Bを設けて、トラクタを構成してある。このトラクタの自走車体の前後輪1,2間に、リンク機構7を介して草刈り装置10を連結するとともに、前記エンジン4からの駆動力を自走車体の後部に位置する伝動装置8から回転軸9を介して草刈り装置10に伝達するように構成して、草刈り機を構成してある。
【0015】
この草刈り機は、草刈りや芝刈り作業を行なうものであり、リンク機構7に連動された油圧シリンダ(図示せず)を伸縮操作すると、この油圧シリンダがリンク機構7を車体フレーム3に対して揺動昇降操作して、草刈り装置10を接地ゲージ輪11が接地した下降作業状態と、接地ゲージ輪11が地面から上昇した上昇非作業状態とに昇降操作する。草刈り装置10を下降作業状態にして自走車体を走行させると、草刈り装置10は、刈り刃ハウジング12の内部の車体横方向での複数箇所で車体上下向きの軸芯まわりで回動駆動されるブレード形の刈り刃13によって草や芝の刈り込みを行なっていく。
【0016】
原動部Aは、図2に示す如く構成してある。
すなわち、車体フレーム3に支持された下側エンジンボンネット5a、及び、この下側エンジンボンネット5aに対して上下に揺動開閉自在な上側エンジンボンネット5bを備えて成る前記エンジンボンネット5の内部に位置する空間であり、かつ、前記下側エンジンボンネット5aの車体後方側に配置して車体フレーム3に支持されたパネル20によって運転部Bの居住空間と仕切られたエンジンボンネット内空間21の車体前後方向での中央部に空冷式のガソリンエンジンで成る前記エンジン4を配置し、前記エンジンボンネット内空間21の前記エンジン4よりも車体前方側に、前記エンジン4のための排気マフラー22を配置し、前記エンジンボンネット内空間21の前記エンジン4のよりも車体後方側に電源用のバッテリー23を配置して構成してある。
【0017】
図2に示すように、前記エンジン4の車体後方側に、エンジン4の出力軸4aに一体回転自在に連結された冷却ファン25、及び、ファンカバーに兼用の通気孔付きの回転ファン24を設け、前記パネル20に除塵ネット付きの吸気口26を設け、エンジンボンネット内空間21のエンジン4と前記吸気口26との間に、エンジンボンネット内空間21をエンジン4が位置する部分と前記バッテリー23が位置する部分とに車体前後方向に区画する後隔壁27を車体フレーム3に支持された状態で設け、エンジン4の後方で、かつ、前記後隔壁27の下部付近に、下隔壁28を車体フレーム3に支持された状態で設け、エンジン4の下方に、板金製のエンジン下隔壁29を車体フレーム3のエンジ搭載部分に支持された状態で設け、エンジン4の前方に、前記排気マフラー22が内部に配置された送風ガイド30を設けてある。
【0018】
図3に示すように、前記後隔壁27は、隔壁板部27a、この隔壁板部27aの両横端部に連なる横側板部27bなどを備えるように折り曲げ成形した板金部材によって構成してある。隔壁板部27aの下部に、エンジン4の後部壁から車体後方向きに突出している出力軸4aが挿通するように構成した車体前後方向視で円形の冷却風供給口27cを設けてある。この後隔壁27は、各横側板部27bの下端部に設けた連結ボルト孔27dによって車体フレーム3に連結されるようになっている。
【0019】
図2に示すように、下隔壁28は、底隔壁板28aと、この底隔壁板28aの後端側で車体上下向きに沿っている縦隔壁板28bとを備えて構成してある。図3に示すように、縦隔壁板28bは、連結ボルト孔28cが付いている連結片28dを上下に備えるように折り曲げ成形した板金部材で成り、連結片28dで車体フレーム3にボルト連結されるようになっている。図3に示すように、底隔壁板28aは、立ち上がり片28eを前端側に備えるように折り曲げ成形した板金部材で成り、底隔壁板28aの後端部をこの部位に位置する連結ボルト孔28fによって縦隔壁板28bの下端側に連結し、底隔壁板28aの前端部を車体フレーム3に支持させることによって原動部Aに固定するようになっている。
【0020】
送風ガイド30は、図3に示す如きマフラーカバーに兼用の主ガイド体31、図3に示す如き前ガイド体32、図3に示す如き下ガイド体33を、図2に示す如き組み合わせ配置の状態で車体フレーム3やエンジン4に支持させることによって構成してある。
【0021】
図3に示すように、主ガイド体31は、前ガイド板部31a、前ガイド板部31aの上端部から車体後方向きでかつ上方向きに延出する上傾斜ガイド板部31b、前ガイド板部31a及び上傾斜ガイド板部31bの両端部に連なる横ガイド板部31cを備えるように折り曲げ成形した板金部材によって構成してあり、各ガイド板部31a,31b,31cにより、これらの内面側に排気マフラー22を収容するマフラー収容室を形成している。この主ガイド体31は、上傾斜ガイド板部31bに設けた連結ボルト孔31dにより、排気マフラー22のステー22aに連結されるようになっている。
【0022】
図3に示すように、前ガイド体32は、前ガイド板部32a、前ガイド板部32aの両端部に連なる横ガイド板部32b、前ガイド板部32aの下端部から車体前方向きでかつ下方向きに延出する傾斜ガイド板部32cを備えるように折り曲げ成形した板金部材によって構成してある。この前ガイド体32は、左右の横ガイド板部32bに設けた連結ボルト孔32dによって車体フレーム3の支持部に連結されるようになっている。
【0023】
図3に示すように、下ガイド体33は、車体前方側ほど低い配置高さに位置する状態に傾斜した前下がり傾斜の傾斜ガイド板部33a、この傾斜ガイド板部33aの後端部に連なる後連結板部33b、前記傾斜ガイド板部33aの前端部から車体前方向きにほぼ水平に延出する水平ガイド板部33c、前記傾斜ガイド板部33aの先端部に連なる前連結板部33dを備えるように折り曲げ成形した板金部材によって構成してある。この下ガイド体33は、前記後連結板部33bに設けた連結ボルト孔33eによってエンジン4の前壁部に、左右の前連結板部33dに設けた連結ボルト孔33fによって車体フレーム3の支持部にそれぞれ連結されるようになっている。
【0024】
これより、送風ガイド30は、主ガイド体31の上傾斜ガイド板部31b及び左右の横ガイド板部31cと、下ガイド体33の後連結板部33bとにより、エンジン4の前方でエンジン4に向かって開口する導入口34を形成している。また、前ガイド体32の傾斜ガイド板部32cと、下ガイド体33の水平ガイド板部33cとにより、前車輪1よりも前方においてエンジンボンネット5の配置高さよりも低い配置高さで車体前方向きに開口する排気口35を形成している。また、主ガイド体31、前ガイド体32、下ガイド体33により、前記導入口34と前記排気口35を連通させている風路を形成している。
【0025】
これにより、この原動部にあっては、次の如くエンジン4の冷却を行うようになっている。
すなわち、エンジン4の駆動力によって回転駆動される冷却ファン24,25の吸引及び送風作用により、エンジンボンネット5外の空気をパネル20の吸気口26からエンジンボンネット内空間21の後隔壁27よりも車体後方側に位置する部位に吸引してエンジン冷却風を発生させ、このエンジン冷却風を後隔壁27の冷却風供給口27cからエンジンボンネット内空間の後隔壁27よりも車体前方側に位置する部位に導入してエンジン4に供給する。このとき、車体下方の比較的温度が高い空気や塵埃を下隔壁28によって冷却風供給口27cに流入しにくくする。エンジン4に供給されたエンジン冷却風は、エンジン4の周囲でエンジン4と熱交換することによってエンジン冷却を行う。エンジン冷却処理を行なって温度上昇したエンジン冷却風を、パネル20の吸気口26に逆流することを後隔壁27よって抑制しながら、かつ、エンジンボンネット内空間21から車体下方側に流出することをエンジン下隔壁29によって抑制しながらエンジンボンネット内空間21を車体前方側に流動させて送風ガイド30の導入口34に流入させ、送風ガイド30によって前車輪1よりもやや車体前方側で、かつ、エンジンボンネット5の配置高さよりも低い配置高さの部位に流動させ、この部位において送風ガイド30の排気口35から車体前方向きに排出する。すなわち、原動部Aから排出される熱気が草刈り装置10による作業後の箇所に流れにくいように、エンジン冷却風を前車輪1よりも前方側で車体前方向きに排出する。さらに、排気口35から熱気が排出された地面上箇所に運転部Bが車体走行のために移動してきた際、熱気が運転部Bに流入しにくくなるように、エンジン冷却風をエンジンボンネット5の配置高さよりも低い配置高さの部位に排出する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】草刈り機全体の側面図
【図2】原動部の断面図
【図3】後隔壁、下隔壁、送風ガイドの斜視図
【符号の説明】
【0027】
4 エンジン
6 運転座席
20 パネル
21 エンジンボンネット内空間
22 排気マフラー
26 吸気口
27 後隔壁
27c 冷却風供給口
30 送風ガイド
34 導入口
35 排気口
A 原動部
B 運転部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部に配置されたエンジンを有する原動部、及び、前記原動部の後方に配置された運転座席を有する運転部を備えたトラクタであって、
前記原動部のエンジンボンネット内空間を前記エンジンの後方で前記運転部の居住空間と仕切るパネルに、エンジン冷却風をエンジンボンネット内空間に取り入れる吸気口を設け、
前記エンジンボンネット内空間の前記エンジンと前記吸気口の間に、後隔壁を設けるとともに、前記後隔壁に、前記吸気口からのエンジン冷却風をエンジンに供給する冷却風供給口を設け、
前記エンジンの前方でエンジンに向かって開口する導入口、及び、前車輪よりも前方においてエンジンボンネットの配置高さよりも低い配置高さで車体前方向きに開口する排気口を備え、かつ、エンジンに供給されたエンジン冷却風を前記導入口によって導入して前記排気口から排出する送風ガイドを、エンジンの前方に設けてあるトラクタ。
【請求項2】
前記エンジンの排気マフラーを、前記送風ガイドの内部に配置してある請求項1記載のトラクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−248468(P2006−248468A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70845(P2005−70845)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】