説明

トラクタ

【課題】機体側で生じた砂埃等のキャビン内への侵入を、簡素な構成で効果的に防止すること。
【解決手段】複数の操作レバー16a,16b,16cのそれぞれに、横軸25の軸心を中心とする円弧の円弧状板34a,34b,34cを設け、隣接する円弧状板34a,34b,34cの端部同士が上下方向に互いに重なり、複数の操作レバー16a,16b,16cがガイド部材21のガイド孔30に貫通配備されて、各円弧状板34a,34b,34cが前記ガイド孔30の下側に配置され、ガイド孔30の下側周縁部と複数の円弧状板34a,34b,34cの外周部との間を、複数の操作レバー16a,16b,16cを貫通させる貫通孔36を備えるシール部材35によってシールする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機体側の横軸周りに揺動自在に支持され、横方向に並設される複数の操作レバーを運転部に備え、キャビンが前記運転部を取り囲むように機体に搭載されるトラクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記トラクタの操作レバーとしては、例えば、主変速レバー、副変速レバー、PTO変速レバー、PTOオンオフレバー等が挙げられる。
これらの操作レバーは、機体側の横軸周りに揺動自在に支持されており、ガイド部材のガイド孔に貫通配備される。
従来のトラクタでは、機体側で生じた砂埃が、ガイド孔の隙間からキャビンの中に入るのを防止するために、ゴムブーツを使用してガイド孔の隙間を埋めていた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−16819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、複数の操作レバーが横方向に並設されている状態において、各操作レバーの操作を制限しないようにしながらガイド孔の隙間を埋めることは、ゴムブーツでは困難な場合があり、砂埃等のキャビン内への侵入防止を図る上で改善する余地が残されていた。
【0005】
本発明の目的は、機体側で生じた砂埃等のキャビン内への侵入を簡素な構成で効果的に防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る第1特徴構成は、機体側の横軸周りに揺動自在に支持され、横方向に並設される複数の操作レバーを運転部に備え、キャビンが前記運転部を取り囲むように機体に搭載されるトラクタであって、前記複数の操作レバーのそれぞれに、前記横軸の軸心を中心とする円弧の円弧状板を設け、隣接する前記円弧状板の端部同士が上下方向に互いに重なり、前記複数の操作レバーがガイド部材のガイド孔に貫通配備されて、前記各円弧状板が前記ガイド孔の下側に配置され、前記ガイド孔の下側周縁部と前記複数の円弧状板の外周部との間を、前記複数の操作レバーを貫通させる貫通孔を備えるシール部材によってシールする点にある。
【0007】
〔作用及び効果〕
本構成においては、隣接する操作レバーの円弧状板の端部同士が上下方向に互いに重なり合うことによって、操作レバー間の隙間を塞いでいるため、機体側で生じた砂埃が操作レバーの間からキャビンの中に入ることはない。
また、ガイド孔の下側周縁部と、複数の円弧状板の外周部との間をシール部材によってシールしてあるため、前記砂埃が操作レバーの円弧状板の外側からキャビンの中に入ることも防止される。この場合、複数の円弧状板の外周部をシールすればよく、隣接する円弧状板の重なり合う部分はシール部材を当て付ける必要はないので、シール構造が簡素なものとなるのであり、複数の操作レバーの操作がシール部材によって制限を受けることはない。
従って、本構成によれば、端部同士が上下方向に互いに重なり合う円弧状板と、シール部材とを組み合わせるという簡素な構成を採用しながら、複数の操作レバーの操作を制限することはなく、機体側で生じた砂埃等のキャビン内への侵入を効果的に防止することができる。
【0008】
本発明に係る第2特徴構成は、前記キャビンに前記ガイド部材と前記シール部材とを設け、前記機体に前記複数の操作レバーを設ける点にある。
【0009】
〔作用及び効果〕
本構成によれば、キャビン側のガイド部材のガイド孔に対して機体側の複数の操作レバーを挿入しながらキャビンを機体に搭載することにより、複数の操作レバーがガイド部材のガイド孔に貫通配備されるため、組み付けが容易である。
【0010】
本発明に係る第3特徴構成は、前記複数の操作レバーが、前記横軸側の基部に対して、操作のために把持する把持部を備えたレバー本体を連結して構成される点にある。
【0011】
〔作用及び効果〕
キャビンを機体に搭載するときに、操作レバーとガイド部材のガイド孔との間の位置に生じる製造誤差によって、長い操作レバーの場合に操作レバーをガイド部材のガイド孔に貫通させ難いことがある。
しかしながら、本構成によれば、操作レバーが、基部とレバー本体との連結により構成される。そのため、例えば、横軸側の基部が短く設定されており、キャビンを機体に搭載したときに、基部がガイド孔の下方に配置される場合には、キャビンを機体に搭載した後、レバー本体をガイド部材のガイド孔に貫通させて、ガイド孔の下方に配置される基部に連結することができる。また逆に横軸側の基部が長く、キャビンを機体に搭載したときに、基部がガイド孔の上方に突出して配置される場合には、キャビンを機体に搭載した後、レバー本体を、ガイド孔から突出した基部に連結させることができる。
従って、本構成によれば、たとえ前述のような製造誤差が生じていたとしても、操作レバーをガイド部材のガイド孔に容易に貫通配備させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】トラクタの全体側面図である。
【図2】トラクタの縦断正面図である。
【図3】操作レバー部分の平面図である。
【図4】操作レバー部分の縦断側面図である。
【図5】操作レバー部分の縦断正面図である。
【図6】操作レバーの要部を拡大した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態を、図面に沿って具体的に説明する。
〔トラクタの構成〕
図1に示すように、本実施形態のトラクタは、操向操作される前輪1と、推進車輪である後輪2と、機体3と、ロータリ等の作業装置(図示せず)を連結するためのリンク機構5と、リンク機構5を介して図示しない作業装置を昇降駆動する左右一対のリフトアーム6と、運転部7を取り囲むように機体3に搭載されるキャビン8とを備える。
【0014】
機体3は、エンジン9と、クラッチハウジング10と、ミッションケース11と、運転部7とを備える。エンジン9は機体3の前側に配置され、エンジン9の後方にクラッチハウジング10を介してミッションケース11が連設される。尚、エンジン9及び図示しないラジエータ等のエンジン補器は、開閉自在なボンネット12で被われている。
【0015】
運転部7は、ステアリングホイール14と、運転座席15と、運転座席15の左側に横方向に並設される3本の操作レバー16a,16b,16cと、運転座席15の右側に配置される2本の操作レバー16d,16eとを備える。尚、3本の操作レバー16a,16b,16cのそれぞれは、走行用の副変速装置を変速操作する副変速レバー16aと、作業装置を駆動するPTO変速用のPTO変速レバー16bと、作業装置を駆動するPTOを入り切りするPTOオンオフレバー16cとで構成されており、2本の操作レバー16d,16eは、作業装置を昇降する油圧昇降レバー16dと、作業装置の耕深を設定するポジションレバー16eとで構成されている。
【0016】
キャビン8は、左右一対の後輪2を上方から前方に亘って被う左右一対の後輪フェンダ20と、運転座席15を支持するもので左右一対の後輪フェンダ20に亘って設けたガイド板21(ガイド部材)と(図2参照)、左右一対の前支柱22と、左右一対の後支柱23と、これら支柱22,23の上端を連結する天井フレーム(図示せず)と、該天井フレームに固定された天井部24とによって箱形に構成されており、機体3の前後に設けた防振支持体17を介して搭載されている。
【0017】
〔操作レバーの構成〕
図2に示すように、3本の操作レバー16a,16b,16cのそれぞれは、いずれもミッションケース11の側面から突設される横軸部25(機体3側の横軸)において、その軸心周りに前後に揺動自在に支持される。
【0018】
操作レバー16a,16b,16cは、横軸部25に枢支される基部26a,26b,26cと、操作のために把持する把持部31a,31b,31cを備えたクランク状のレバー本体27a,27b,27cとから構成されており、基部26a,26b,26cの上端部とレバー本体27a,27b,27cの下端部とをボルト28を介して連結することができる。
【0019】
図2に示すように、操作レバー16a,16b,16cの基部26a,26b,26cはいずれも、クランク状に2段に折り曲げられた細長の板片を有する。そして、基部26aの下端部がミッションケース11の作動アーム29aに連結され、基部26b,26cの下端部のそれぞれが、ロッド29b,29cを介してミッションケース11の図示しない作動アームに連結される。
【0020】
図3〜図5に示すように、キャビン8のガイド板21には、上下に貫通する長方形の単一の第1ガイド孔30が設けられており、操作レバー16a,16b,16cの基部26a,26b,26cの上端部が第1ガイド孔30に貫通配備される。
【0021】
図2及び図5に示すように、操作レバー16a,16b,16cのレバー本体27a,27b,27cは、クランク状に3段に折り曲げられた細長の板片を有し、その上端部に把持部31a,31b,31cを備える。図3に示すように、キャビン8の左の後輪フェンダ20の上に、レバーガイド部32を設けており、レバーガイド部32に形成した3つの第2ガイド孔33a,33b,33cのそれぞれに、各操作レバー16a,16b,16cのレバー本体27a,27b,27cが貫通配備される。尚、第2ガイド孔33a,33bは、前後方向に並設されており、第2ガイド孔33cは、第2ガイド孔33a,33bの左横外側に設けられている。
【0022】
図3〜図5に示すように、操作レバー16a,16b,16cの基部26a,26b,26cのそれぞれには、横軸部25の軸心を中心とする円弧の円弧状板34a,34b,34cが設けられている。
【0023】
図5に示すように、円弧状板34a及び34bは、横軸部25の軸心を中心とする同一半径の円弧軌跡上に位置しており、同じ高さに配置される。そして円弧状板34cは、円弧状板34a及び34bの位置する円弧軌跡よりも大きな半径を有する円弧軌跡上に位置しており、その左右に隣接する円弧状板34a及び34bよりも上側に配置される。
【0024】
尚、円弧状板34cの右端及び左端のそれぞれの裏面には、円弧状の薄板38が裏打ちされており、隣接する円弧状板34aの右端と、円弧状板34cの薄板38を備える左端とが上下方向に互いに重なるように配置されると共に、隣接する円弧状板34bの左端と、円弧状板34cの薄板38を備える右端とが上下方向に互いに重なるように配置される。
【0025】
図4及び図5に示すように、円弧状板34a,34b,34cは第1ガイド孔30の下側に配置されており、第1ガイド孔30の下側周縁部と円弧状板34a,34b,34cの外周部との間が矩形のシール部材35(スポンジ等)によってシールされる。
【0026】
図4〜図6に示すように、シール部材35は、基部26a,26b,26cを貫通させる貫通孔36と、貫通孔36の周囲に位置するもので、円弧状板34a,34b,34cに接触する接触部37とを備える。接触部37は、その前後に設けられる直線部37a,37b、及びその左右に設けられる円弧部37c,37dを備える。円弧部37c,37dのそれぞれは、円弧状板34a,34bに沿う形状を有する。
【0027】
シール部材35は、ガイド板21の第1ガイド孔30の下側周縁部に固定されており、円弧状板34a,34b,34cの上に配置される。このとき、図2、図4、図6に示すように、接触部37の直線部37a,37bは、3つの円弧状板34a,34b,34cに亘って、これらの円弧状板34a,34b,34cとの間に隙間が生じないように配置される。また図5に示すように、接触部37の円弧部37cは、円弧状板34aの左端を覆うように隙間無く配置され、同じく円弧部37dは、円弧状板34bの右端を覆うように隙間無く配置される。
【0028】
円弧状板34a,34b,34cの前後方向長さ、及びシール部材35の貫通孔36の前後方向長さは、操作レバー16a,16b,16cのそれぞれをレバーガイド部32の第2ガイド孔33a,33b,33cの範囲で揺動させた場合に、円弧状板34a,34b,34cのそれぞれの前端又は後端と、シール部材35の接触部37との間に隙間が生じないような長さに設定される。
【0029】
尚、図5に示すように、後輪フェンダ20の内部には、仕切り壁39が設けられているため、後輪2によって巻き上げられた埃等が、キャビン8内に侵入することはない。
【0030】
〔操作レバーの組み付け操作〕
上記構成の操作レバー16a,16b,16cをトラクタに組み付ける場合、先ず、機体3の上にキャビン8を配置する。次いで、キャビン8を下に降ろして機体3に搭載させる際、基部26a,26b,26cをガイド板21の第1ガイド孔30に挿入して、第1ガイド孔30から突出させる。このとき、シール部材35は、円弧状板34a,34b,34cの上に配置される。
次いで、レバー本体27a,27b,27cのそれぞれを、レバーガイド部32の第2ガイド孔33a,33b,33cに挿入して、基部26a,26b,26cの上端部とレバー本体27a,27b,27cの下端部とをボルト28を介して連結する。
【0031】
〔別実施形態〕
〔1〕前述の実施形態における基部26a,26b,26cの上端部を、第1ガイド孔30の下側に位置するように構成し、レバー本体27a,27b,27cの下端部を第1ガイド孔30に貫通配備する構成としても良い。
〔2〕前述の実施形態における操作レバーは、レバー本体と基部とを一体に構成したものを使用しても良い。
〔3〕操作レバーの数は、前述の実施形態に限定されるものではなく、2本又は4本以上であっても良い。また、操作レバーの種類も前述の実施形態に限定されるものではなく、走行用の主変速装置を変速操作する主変速レバーなどであっても良い。また、把持部の配置についても前述の実施形態に限定されるものではなく、例えば、全ての把持部を横方向に並べて設けるようにしても良い。
〔4〕前述の実施形態では、運転座席15の左側に配置された操作レバー16a,16b,16cのシール構造について説明したが、運転座席15の右側に配置された操作レバー16d,16eについて同様のシール構造を採用しても良い。この場合においても、操作レバーの数や種類などは異なるものであっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、並設される複数の操作レバーを備え、且つキャビンを搭載するトラクタにおいて有用である。
【符号の説明】
【0033】
3 機体
7 運転部
8 キャビン
16a,16b,16c 操作レバー
21 ガイド板(ガイド部材)
25 横軸部(機体側の横軸)
26a,26b,26c 基部
27a,27b,27c レバー本体
30 第1ガイド孔(ガイド孔)
31 把持部
34a,34b,34c 円弧状板
35 シール部材
36 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体側の横軸周りに揺動自在に支持され、横方向に並設される複数の操作レバーを運転部に備え、キャビンが前記運転部を取り囲むように機体に搭載されるトラクタであって、
前記複数の操作レバーのそれぞれに、前記横軸の軸心を中心とする円弧の円弧状板を設け、隣接する前記円弧状板の端部同士が上下方向に互いに重なり、
前記複数の操作レバーがガイド部材のガイド孔に貫通配備されて、前記各円弧状板が前記ガイド孔の下側に配置され、前記ガイド孔の下側周縁部と前記複数の円弧状板の外周部との間を、前記複数の操作レバーを貫通させる貫通孔を備えるシール部材によってシールするトラクタ。
【請求項2】
前記キャビンに前記ガイド部材と前記シール部材とを設け、前記機体に前記複数の操作レバーを設ける請求項1に記載のトラクタ。
【請求項3】
前記複数の操作レバーが、前記横軸側の基部に対して、操作のために把持する把持部を備えたレバー本体を連結して構成される請求項2に記載のトラクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−230639(P2011−230639A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102317(P2010−102317)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】