トラクタ
【課題】前後進の変速操作方法が分かり易く、容易に変速操作を行うことができるトラクタを提供する。
【解決手段】動力を正転方向から逆転方向まで無段階に変速可能なHST6と、HST6における変速比を変更する変速ペダル9と、HST6における出力軸の回転方向を選択する前後進切換レバー10と、HST6、変速ペダル9及び前後進切換レバー10を連結する変速リンク機構100と、を具備し、変速リンク機構100は、変速ペダル9の操作量に応じた量だけ回動する第一リンク部材120と、第一リンク部材120の回動量に応じた量だけ回動する第二リンク部材130と、前後進切換レバーの操作に基づいて、第一リンク部材120の回動方向に対する第二リンク部材130の回動方向を切り換える第三リンク部材150と、を具備し、第二リンク部材130の回動方向及び回動量に基づいてHST6の出力軸の回転方向及び変速比が決定される。
【解決手段】動力を正転方向から逆転方向まで無段階に変速可能なHST6と、HST6における変速比を変更する変速ペダル9と、HST6における出力軸の回転方向を選択する前後進切換レバー10と、HST6、変速ペダル9及び前後進切換レバー10を連結する変速リンク機構100と、を具備し、変速リンク機構100は、変速ペダル9の操作量に応じた量だけ回動する第一リンク部材120と、第一リンク部材120の回動量に応じた量だけ回動する第二リンク部材130と、前後進切換レバーの操作に基づいて、第一リンク部材120の回動方向に対する第二リンク部材130の回動方向を切り換える第三リンク部材150と、を具備し、第二リンク部材130の回動方向及び回動量に基づいてHST6の出力軸の回転方向及び変速比が決定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタの技術に関し、より詳細には、変速操作具と無段変速装置とを連結する変速リンク機構の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動源からの動力を正転方向から逆転方向まで無段階に変速可能な無段変速装置を具備するトラクタの技術は公知となっている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1に記載のトラクタは、変速操作具としての前進用変速ペダル及び後進用変速ペダル、無段変速装置としてのHST並びにこれらを連結するHST操作リンク等を具備する。このトラクタにおいて、前進用変速ペダルを操作するとトラクタを所望の速度で前進させることができ、後進用変速ペダルを操作するとトラクタを所望の速度で後進させることができる。
【0004】
しかし、このようなトラクタにおいては、2つの変速操作具(前進用変速ペダル及び後進用変速ペダル)によってトラクタの前進操作と後進操作を行うため、特に当該トラクタに不慣れな作業者にとっては操作方法が分かり難く、変速操作が難しいという点で不利であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−55281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、前後進の変速操作方法が分かり易く、容易に変速操作を行うことができるトラクタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、駆動源からの動力を正転方向から逆転方向まで無段階に変速可能な無段変速装置と、前記無段変速装置における変速比を変更する変速操作具と、前記無段変速装置における出力軸の回転方向を選択する前後進切換操作具と、前記無段変速装置、前記変速操作具及び前記前後進切換操作具を連結する変速リンク機構と、を具備し、前記変速リンク機構は、前記変速操作具の操作量に応じた量だけ回動する第一リンク部材と、前記第一リンク部材の回動量に応じた量だけ回動する第二リンク部材と、前記前後進切換操作具の操作に基づいて、前記第一リンク部材の回動方向に対する前記第二リンク部材の回動方向を切り換える第三リンク部材と、を具備し、前記第二リンク部材の回動方向及び回動量に基づいて前記無段変速装置の出力軸の回転方向及び変速比が決定されるものである。
【0009】
請求項2においては、前記変速リンク機構は、前記第一リンク部材と前記第二リンク部材とを連結する切換部材をさらに具備し、前記第一リンク部材には、当該第一リンク部材の回動中心となる第一回動軸に垂直な平面上に長溝が形成され、前記切換部材は、その一端側を前記第二リンク部材に対して前記第一回動軸と平行な切換回動軸を中心として回動可能となるように連結されるとともに、その他端側を前記長溝に沿って摺動可能となるように前記第一リンク部材に連結され、前記第三リンク部材は、前記前後進切換操作具の操作に基づいて前記切換部材と前記第一リンク部材との連結位置を前記長溝に沿って移動させることによって、当該連結位置を前記第一回動軸の軸線及び前記切換回動軸の軸線を通る平面の一側又は他側のいずれか一方に切り換えるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
本発明は、前後進切換操作具を選択操作することによって、1つの変速操作具で前進から後進までの変速を行うことができる。従って、前後進の変速操作方法が分かり易く、容易に変速操作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るトラクタの全体的な構成を示した側面図。
【図2】変速リンク機構を示した斜視図。
【図3】変速リンクケースを示した分解斜視図。
【図4】変速リンク機構を示した分解斜視図。
【図5】同じく、左側面図。
【図6】第一リンク部材及び変速ペダルを示した斜視図。
【図7】同じく、左側面図。
【図8】第二リンク部材、切換部材140及びHSTを示した斜視図。
【図9】第三リンク部材及び前後進切換レバーを示した斜視図。
【図10】(a)前後進切換レバーを前進位置に切り換えた際の第三リンク部材を示した左側面図。(b)同じく、切換部材及び第二リンク部材を示した左側面図。
【図11】(a)第三リンク部材が前進位置にある場合に変速ペダルを操作した際の切換部材及び第二リンク部材を示した左側面図。(b)同じく、第三リンク部材を示した左側面図。
【図12】(a)前後進切換レバーを後進位置に切り換えた際の第三リンク部材を示した左側面図。(b)同じく、切換部材及び第二リンク部材を示した左側面図。
【図13】(a)第三リンク部材が後進位置にある場合に変速ペダルを操作した際の切換部材及び第二リンク部材を示した左側面図。(b)同じく、第三リンク部材を示した左側面図。
【図14】(a)前後進切換レバーを中立位置に切り換えた際の第三リンク部材を示した左側面図。(b)同じく、切換部材及び第二リンク部材を示した左側面図。
【図15】第三リンク部材を回動させるための他の構成を示した斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、図中の矢印Uの方向を上方向、矢印Fの方向を前方向、矢印Lの方向を左方向とそれぞれ規定して説明する。
【0014】
まず、図1を用いて、本発明に係るトラクタの一実施形態であるトラクタ1の全体構成について説明する。
【0015】
トラクタ1は、長手方向を前後方向として左右方向に所定の間隔をとって配置される一対の機体フレーム2・2を備える。機体フレームの前上部には駆動源としてのエンジン3が載置される。機体フレーム2・2の前部は、フロントアクスルケース(不図示)を介して左右一対の前輪4・4に支持される。機体フレーム2・2の後部は、無段変速装置としてのHST6が収納されたミッションケース(不図示)及び当該ミッションケースの左右両側面にそれぞれ設けられるリアアクスルケース(不図示)を介して左右一対の後輪5・5に支持される。
【0016】
機体フレーム2・2の上部には運転操作部7が配置され、当該運転操作部7に、操向ハンドル8、変速ペダル9及び前後進切換レバー10等が配置される。操向ハンドル8は、運転操作部7の前部に配置されたステアリングコラム11に支持され、当該操向ハンドル8の左側方(近傍)に前後進切換操作具としての前後進切換レバー10が配置される。変速操作具としての変速ペダル9は、ステアリングコラム11の右側方(運転操作部7のステップ上)に配置される。
【0017】
運転操作部7の下方には、変速ペダル9、前後進切換レバー10及びHST6を連結する変速リンク機構100が配置される。変速リンク機構100は、変速ペダル9及び前後進切換レバー10の操作に基づいて、HST6を変速させる。当該変速リンク機構100の詳細な構成については後述する。
【0018】
このように構成されたトラクタ1において、エンジン3の動力は、HST6において変速された後、前輪4・4及び後輪5・5に伝達され、トラクタ1は前進(又は後進)することができる。
また、作業者は、変速ペダル9及び前後進切換レバー10を操作することで、HST6の出力軸の回転方向及び当該HST6における変速比を任意に変更することができ、ひいてはトラクタ1を任意の速度で前進又は後進させることができる。
【0019】
次に、図2から図9までを用いて、変速リンク機構100の構成について詳細に説明する。
【0020】
図2から図4までに示す変速リンク機構100は、HST6、変速ペダル9及び前後進切換レバー10を連結するものである。変速リンク機構100は、主として変速リンクケース110、第一リンク部材120、第二リンク部材130、切換部材140、第三リンク部材150及びスプリング160を具備する。
【0021】
図2及び図3に示す変速リンクケース110は、変速リンク機構100を構成する部材の一部を収納するものである。変速リンクケース110は、主としてケース本体111及びケースカバー112を具備する。
【0022】
ケース本体111は、左側面が開放された略箱状の部材である。ケース本体111の右側面には、長手方向を左右方向に向けた円筒状の第一支持部111aが形成される。ケース本体111の内部(より詳細には、右側面上部)には、略直方体状のストッパ部111bが形成される。
【0023】
ケースカバー112は、略板状の部材である。ケースカバー112には、長手方向を左右方向に向けた円筒状の第二支持部112a及び第三支持部112bが形成される。
【0024】
ケース本体111及びケースカバー112に変速リンク機構100を構成する部材を適宜配置した後で、ケースカバー112をケース本体111の左側面に固定することで、当該変速リンク機構100を構成する部材の一部を当該変速リンクケース110に収納することができる(図2参照)。
【0025】
図4から図7までに示す第一リンク部材120は、変速ペダル9の踏み込み操作量に応じた量だけ回動する部材である。第一リンク部材120は、主として第一回動軸121、第一入力アーム122及び第一本体部123を具備する。
【0026】
図6及び図7に示す第一回動軸121は、長手方向を左右方向に向けて配置される円柱状の部材である。第一回動軸121は、ケース本体111の第一支持部111a(図2参照)に挿通されることにより、当該第一支持部111aに回動可能に支持される。
【0027】
第一入力アーム122は、略矩形板状の部材である。第一入力アーム122は、その板面を左右方向に向けて配置されるとともに、その長手方向を略前後方向に向けて配置される。
第一入力アーム122の一端(後端)は、第一支持部111aに挿通された第一回動軸121の一端(右端)に相対回転不能となるように固定される(図2参照)。
第一入力アーム122の他端(前端)は、当該第一入力アーム122の略上方に配置された変速ペダル9にロッド9aを介して連結される。
【0028】
第一本体部123は、第一リンク部材120の回動動作を後述する切換部材140に伝達するための部材である。第一本体部123の右側面は、第一回動軸121の他端(左端)に相対回転不能となるように固定される。第一本体部123の左側面は第一回動軸121に垂直な平面であり、当該左側面には第一長溝123aが形成される。第一長溝123aは、図7に実線で示す状態(変速ペダル9が、後述する中立位置(N)にある状態)では、側面視において後述する第三リンク部材150の第三回動軸151の軸線C3を中心とする円弧上に沿うように形成される。
第一長溝123aの後端部には、左側面視において略下方に向かって窪むような前進側凹部123bが形成される。また、第一長溝123aの前端部には、左側面視において略上方に向かって窪むような後進側凹部123cが形成される。
【0029】
図4及び図7に示すように、第一本体部123の後下部には、スプリング160の一端(上端)が連結される。当該スプリング160の他端(下端)は、後述する第二リンク部材130の第二回動軸131の右端に連結される。当該スプリング160によって、第一本体部123(第一リンク部材120)は、第一回動軸121を中心として左側面視(図7参照)時計回りに常時付勢される。
【0030】
図4及び図5に示すように、第一本体部123の前上方には、変速リンクケース110に形成されたストッパ部111bが位置する。当該ストッパ部111bが第一本体部123の上面に当接することにより、当該第一本体部123(第一リンク部材120)の左側面視時計回り方向への回動が所定の位置で規制される。
【0031】
図7に示すように、作業者が変速ペダル9を踏み込み操作しない場合、第一リンク部材120はスプリング160の付勢力によって第一回動軸121を中心として左側面視時計回りに回動し、第一本体部123がストッパ部111bに当接する位置で保持される。この際の変速ペダル9の位置を中立位置(N)とする。
【0032】
作業者が変速ペダル9を最大限まで踏み込み操作した場合、第一リンク部材120はスプリング160の付勢力に抗して第一回動軸121を中心として左側面視反時計回りに回動する。この際の変速ペダル9の位置を最高速位置(MAX)とする。
【0033】
図4、図5及び図8に示す第二リンク部材130は、第一リンク部材120の回動量に応じた量だけ回動する部材である。第二リンク部材130は、主として第二回動軸131、第二入力アーム132及び第二出力アーム133を具備する。
【0034】
第二回動軸131は、長手方向を左右方向に向けて配置される円柱状の部材である。第二回動軸131は、ケースカバー112の第二支持部112a(図2参照)に挿通されることにより、当該第二支持部112aに回動可能に支持される。
【0035】
第二入力アーム132は、板状の部材である。第二入力アーム132は、その板面を左右方向に向けて配置されるとともに、その長手方向を略前後方向に向けて配置される。
第二入力アーム132の一端(後端)には、第二支持部112aに挿通された第二回動軸131の一端(右端)側が挿通され、相対回転不能となるように固定される。
【0036】
第二出力アーム133は、第二リンク部材130の回動動作をHST6に伝達するための部材である。第二出力アーム133は、板状の部分と、当該板状の部分の一端に固定された円筒状の部分と、により構成される。変速リンクケース110の外部において、第二出力アーム133の一端(円筒状の部分)には、第二回動軸131の他端(左端)側が挿通され、相対回転不能となるように固定される(図2参照)。第二出力アーム133の他端(板状の部分)は、略下方に向けて延設される。
【0037】
図8に示すように、第二出力アーム133の他端(下端)には、プッシュプルケーブル6aの一端が連結される。プッシュプルケーブル6aの他端は、トラニオンレバー6bを介してHST6のトラニオン軸6cと連結される。
【0038】
トラニオン軸6cを回動させることによって、当該トラニオン軸6cと連結されたHST6の油圧ポンプ(又は油圧モータ)の可動斜板の傾斜角度を変更して、当該HST6の出力軸(不図示)の回転方向及び当該HST6における変速比を変更することができる。
【0039】
より具体的には、第二出力アーム133(第二リンク部材130)を、所定の中立位置(N)から前進方向(F)に(左側面視時計回りに)回動させると、プッシュプルケーブル6aを介してトラニオンレバー6bが所定の中立位置(N)から前進方向(F)に回動される。これによってトラニオン軸6cも前進方向に回動され、HST6の出力軸を前進方向(トラクタ1が前進する方向)に回転させることができる。また、トラニオン軸6cの回動量に応じてHST6における変速比(ひいては、トラクタ1の前進速度)を変更することができる。
また、第二出力アーム133(第二リンク部材130)を、所定の中立位置(N)から後進方向(R)に(左側面視反時計回りに)回動させると、プッシュプルケーブル6aを介してトラニオンレバー6bが所定の中立位置(N)から後進方向(R)に回動される。これによってトラニオン軸6cも後進方向に回動され、HST6の出力軸を後進方向(トラクタ1が後進する方向)に回転させることができる。また、トラニオン軸6cの回動量に応じてHST6における変速比(ひいては、トラクタ1の後進速度)を変更することができる。
なお、第二出力アーム133(第二リンク部材130)が中立位置(N)にある場合、トラニオンレバー6bも中立位置(N)に保持される。この場合におけるHST6の出力軸の回転数は0となり、トラクタ1は停止することになる。
【0040】
図4、図5及び図8に示す切換部材140は、第一リンク部材120と第二リンク部材130とを連結する部材である。切換部材140は板状の部材であり、その板面を左右方向に向けて配置されるとともに、その長手方向を略上下方向に向けて配置される。切換部材140には、切換回動軸141、ベアリング軸142、第一側ベアリング143及び第三側ベアリング144等が設けられる。
【0041】
切換回動軸141は、長手方向を左右方向に向けて配置される円柱状の部材である。切換回動軸141は、切換部材140の一端(下端)及び第二入力アーム132の他端(前端)に回動可能に挿通される。これによって、切換部材140と第二入力アーム132とが相対回転可能となるように連結される。
切換回動軸141は、第二リンク部材130が中立位置(N)にある場合において、当該切換回動軸141の軸線C4が後述する第三リンク部材150の第三回動軸151の軸線C3と同一軸線上に位置するように配置される。
【0042】
ベアリング軸142は、長手方向を左右方向に向けて配置される略円柱状の部材である。ベアリング軸142は、切換部材140の他端(上端)に挿通される。
【0043】
第一側ベアリング143は、切換部材140の右側方(第一リンク部材120が配置される側)においてベアリング軸142に挿通されることによって、回動可能に支持される。第一側ベアリング143は、第一リンク部材120の第一本体部123に形成された第一長溝123aの幅と略同一の直径を有する。第一側ベアリング143は、第一長溝123a内を当該第一長溝123aの形状(円弧状)に沿って移動可能となるように、当該第一長溝123aに挿入される。
【0044】
第三側ベアリング144は、切換部材140の左側方(後述する第三リンク部材150が配置される側)においてベアリング軸142に挿通されることによって、回動可能に支持される。第三側ベアリング144の直径は、第一側ベアリング143の直径と同一となるように形成される。
【0045】
図4、図5及び図9に示す第三リンク部材150は、前後進切換レバー10の操作に基づいて、第一リンク部材120の回動方向に対する第二リンク部材130の回動方向を切り換える部材である。第三リンク部材150は、主として第三回動軸151、第三入力アーム152及び第三出力アーム153を具備する。
【0046】
第三回動軸151は、長手方向を左右方向に向けて配置される円柱状の部材である。第三回動軸151は、ケースカバー112の第三支持部112b(図2参照)に挿通されることにより、当該第三支持部112bに回動可能に支持される。
【0047】
第三入力アーム152は、適宜に折り曲げられた板状の部分と、当該板状の部分の一端に固定された円筒状の部分と、により構成される部材である。変速リンクケース110の外部において、第三入力アーム152の一端(円筒状の部分)には、第三回動軸151の一端(左端)側が挿通され、相対回転不能となるように固定される(図2参照)。第三入力アーム152の他端(板状の部分)は、略下方に向けて延設される。
【0048】
図9に示すように、第三入力アーム152の他端(下端)には、プッシュプルケーブル10aの一端が連結される。プッシュプルケーブル10aの他端は、前後進切換レバー10と連結される。
【0049】
図4、図5及び図9に示す第三出力アーム153は、第三リンク部材150の回動動作を切換部材140に伝達するための部材である。第三出力アーム153は板状の部材であり、その板面を左右方向に向けて配置されるとともに、その長手方向を略上下方向に向けて配置される。
第三出力アーム153の一端(下端)は、第三回動軸151の他端(右端)に相対回転不能となるように固定される。
第三出力アーム153の他端(上端)側には、当該第三出力アーム153を左右方向に貫通する第三長溝153aが形成される。第三長溝153aは、第三出力アーム153の長手方向に概ね沿うような形状(第三回動軸151の半径方向に沿って延びるような形状)に形成される。第三長溝153aの幅は、第三側ベアリング144の直径と略同一となるように形成される。第三長溝153aには、当該第三長溝153a内を当該第三長溝153aの形状に沿って移動可能となるように、第三側ベアリング144が挿入される。
【0050】
前後進切換レバー10を所定の中立位置(N)から前進位置(F)まで回動させると、プッシュプルケーブル10aを介して第三入力アーム152(第三リンク部材150)が所定の中立位置(N)から前進位置(F)まで回動される。
また、前後進切換レバー10を所定の中立位置(N)から後進位置(R)まで回動させると、プッシュプルケーブル10aを介して第三入力アーム152(第三リンク部材150)が所定の中立位置(N)から後進位置(R)まで回動される。
【0051】
以下では、トラクタ1を走行(前進又は後進)させる際の変速リンク機構100の動作態様について説明する。
【0052】
まず、トラクタ1を前進させる場合について説明する。
【0053】
トラクタ1を前進させる場合、作業者は、まず変速ペダル9を踏み込まない状態(変速ペダル9が中立位置(N)にある状態)(図7参照)で、前後進切換レバー10(図9参照)を前進位置(F)まで回動させる。これによって、第三リンク部材150が前進位置(F)まで回動される(図4及び図10(a)参照)。
【0054】
第三リンク部材150が前進位置(F)まで回動すると、当該第三リンク部材150の回動に伴って、当該第三リンク部材150の第三長溝153aに挿入された第三側ベアリング144が略後方に移動する(図4及び図10(a)参照)。第三側ベアリング144が略後方に移動すると、当該第三側ベアリング144の移動に伴って、当該第三側ベアリング144と同軸上に配置された第一側ベアリング143が後方に移動するとともに、当該第一側ベアリング143及び第三側ベアリング144が設けられた切換部材140が切換回動軸141を中心として左側面視時計回りに回動する(図4及び図10(b)参照)。
【0055】
この際、第二リンク部材130が中立位置(N)にある場合、切換回動軸141は第三回動軸151の軸線C3上に配置されており、また変速ペダル9が中立位置(N)にある場合(図7参照)、第一側ベアリング143が挿入された第一リンク部材120の第一長溝123aは第三回動軸151の軸線C3を中心とする円弧状に形成されている。このため、第一側ベアリング143が移動する軌跡と第一長溝123aの形状とが一致し、当該第一側ベアリング143は第一リンク部材120(第一本体部123)と干渉することなく、第一長溝123a内を当該第一長溝123aの後端部まで移動(摺動)することができる。
【0056】
第一側ベアリング143が第一長溝123aの後端部まで移動した際、当該第一側ベアリング143は、第一回動軸121の軸線C1及び切換回動軸141の軸線C4を通る仮想平面Aの一側(後側)に位置している。すなわち、切換部材140と第一リンク部材120との連結位置(第一側ベアリング143が第一長溝123aに挿入されている位置)は仮想平面Aの一側(後側)となるように切り換えられている。
【0057】
次に、作業者は、変速ペダル9を踏み込み操作する。本実施形態においては、説明の便宜上、変速ペダル9を最高速位置(MAX)まで踏み込み操作するものとする(図7参照)。これによって、第一リンク部材120が第一回動軸121を中心として左側面視反時計回りに回動される(図4及び図11(a)参照)。
【0058】
第一リンク部材120が左側面視反時計回りに回動すると、第一長溝123aの後端部に挿入された第一側ベアリング143が、当該第一長溝123aの前進側凹部123bに掛止した状態で略上方に引き上げられる。第一側ベアリング143が略上方に引き上げられると、切換部材140を介して、第二リンク部材130が第二回動軸131を中心として中立位置(N)から前進最高速位置(FMAX)まで左側面視時計回りに回動される。
【0059】
第二リンク部材130が中立位置(N)から前進最高速位置(FMAX)まで回動することによって、プッシュプルケーブル6aを介してトラニオンレバー6bを前進方向(F)に最大まで回動させ(図8参照)、HST6の出力軸を前進方向に最高回転で回転させることができる。
【0060】
なお、第一リンク部材120の回動によって第一側ベアリング143が略上方に引き上げられる際、当該第一側ベアリング143とともに第三側ベアリング144も略上方に引き上げられることになる。この場合、第三側ベアリング144は第三出力アーム153の第三長溝153a内を当該第三長溝153aに沿って摺動するため、当該第三側ベアリング144が第三出力アーム153と干渉することはない(図11(b)参照)。
【0061】
また、上述の説明においては変速ペダル9を最高速位置(MAX)まで踏み込み操作するものとしたが、当該踏み込み操作量を調節することによって、HST6のトラニオン軸6cの回動量を調節し、トラクタ1の前進速度を任意に調節することができる。
【0062】
次に、トラクタ1を後進させる場合について説明する。
【0063】
トラクタ1を後進させる場合、作業者は、まず変速ペダル9を踏み込まない状態(変速ペダル9が中立位置(N)にある状態)(図7参照)で、前後進切換レバー10(図9参照)を後進位置(R)まで回動させる。これによって、第三リンク部材150が後進位置(R)まで回動される(図4及び図12(a)参照)。
【0064】
第三リンク部材150が後進位置(R)まで回動すると、当該第三リンク部材150の回動に伴って、当該第三リンク部材150の第三長溝153aに挿入された第三側ベアリング144が略前方に移動する(図4及び図12(a)参照)。第三側ベアリング144が略前方に移動すると、当該第三側ベアリング144の移動に伴って、当該第三側ベアリング144と同軸上に配置された第一側ベアリング143が前方に移動するとともに、当該第一側ベアリング143及び第三側ベアリング144が設けられた切換部材140が切換回動軸141を中心として左側面視反時計回りに回動する(図4及び図12(b)参照)。
【0065】
この際、トラクタ1を前進させる場合と同様に、第一側ベアリング143が移動する軌跡と第一長溝123aの形状とが一致し、当該第一側ベアリング143は第一リンク部材120(第一本体部123)と干渉することなく、第一長溝123a内を当該第一長溝123aの前端部まで移動(摺動)することができる。
【0066】
第一側ベアリング143が第一長溝123aの前端部まで移動した際、当該第一側ベアリング143は、第一回動軸121の軸線C1及び切換回動軸141の軸線C4を通る仮想平面Aの他側(前側)に位置している。すなわち、切換部材140と第一リンク部材120との連結位置(第一側ベアリング143が第一長溝123aに挿入されている位置)は仮想平面Aの他側(前側)となるように切り換えられている。
【0067】
次に、作業者は、変速ペダル9を踏み込み操作する。本実施形態においては、説明の便宜上、変速ペダル9を最高速位置(MAX)まで踏み込み操作するものとする(図7参照)。これによって、第一リンク部材120が第一回動軸121を中心として左側面視反時計回りに回動される(図4及び図13(a)参照)。
【0068】
第一リンク部材120が左側面視反時計回りに回動すると、第一長溝123aの前端部に挿入された第一側ベアリング143が、当該第一長溝123aの後進側凹部123cに掛止した状態で略下方に押し下げられる。第一側ベアリング143が略下方に押し下げられると、切換部材140を介して、第二リンク部材130が第二回動軸131を中心として中立位置(N)から後進最高速位置(RMAX)まで左側面視反時計回りに回動される。
【0069】
第二リンク部材130が中立位置(N)から後進最高速位置(RMAX)まで回動することによって、プッシュプルケーブル6aを介してトラニオンレバー6bを後進方向(R)に最大まで回動させ(図8参照)、HST6の出力軸を後進方向に最高回転で回転させることができる。
【0070】
なお、第一リンク部材120の回動によって第一側ベアリング143が略下方に押し下げられる際、当該第一側ベアリング143とともに第三側ベアリング144も略下方に押し下げられることになる。この場合、第三側ベアリング144は第三出力アーム153の第三長溝153a内を当該第三長溝153aに沿って摺動するため、当該第三側ベアリング144が第三出力アーム153と干渉することはない(図13(b)参照)。
【0071】
また、上述の説明においては変速ペダル9を最高速位置(MAX)まで踏み込み操作するものとしたが、当該踏み込み操作量を調節することによって、HST6のトラニオン軸6cの回動量を調節し、トラクタ1の後進速度を任意に調節することができる。
【0072】
なお、前後進切換レバー10(図9参照)が中立位置(N)にある場合、第三リンク部材150も中立位置にある。この場合、第三リンク部材150の第三長溝153aに挿入された第三側ベアリング144および第一リンク部材120の第一長溝123aに挿入された第一側ベアリング143は、第一リンク部材120の第一回動軸121の軸線C1と同一軸線上に位置する(図14参照)。この状態においては、作業者が変速ペダル9を踏み込み操作しても、第一側ベアリング143は略上方に引き上げられることも略下方に押し下げられることもないため、第二リンク部材130も回動することがなく、当該第二リンク部材130は中立位置(N)に保持される。このように、前後進切換レバー10が中立位置(N)にある場合は、変速ペダル9を踏み込み操作しても第二リンク部材130が回動することがないため、トラクタ1が前進又は後進することはない。
【0073】
以上の如く、本実施形態に係るトラクタ1は、エンジン3(駆動源)からの動力を正転方向から逆転方向まで無段階に変速可能なHST6(無段変速装置)と、HST6における変速比を変更する変速ペダル9(変速操作具)と、HST6における出力軸の回転方向を選択する前後進切換レバー10(前後進切換操作具)と、HST6、変速ペダル9及び前後進切換レバー10を連結する変速リンク機構100と、を具備し、変速リンク機構100は、変速ペダル9の操作量に応じた量だけ回動する第一リンク部材120と、第一リンク部材120の回動量に応じた量だけ回動する第二リンク部材130と、前後進切換レバーの操作に基づいて、第一リンク部材120の回動方向に対する第二リンク部材130の回動方向を切り換える第三リンク部材150と、を具備し、第二リンク部材130の回動方向及び回動量に基づいてHST6の出力軸の回転方向及び変速比が決定されるものである。
【0074】
また、変速リンク機構100は、第一リンク部材120と第二リンク部材130とを連結する切換部材140をさらに具備し、第一リンク部材120には、当該第一リンク部材120の回動中心となる第一回動軸121に垂直な平面上に第一長溝123a(長溝)が形成され、切換部材140は、その一端側を第二リンク部材130に対して第一回動軸121と平行な切換回動軸141を中心として回動可能となるように連結されるとともに、その他端側を第一長溝123aに沿って摺動可能となるように第一リンク部材120に連結され、第三リンク部材150は、前後進切換レバー10の操作に基づいて切換部材140と第一リンク部材120との連結位置を第一長溝123aに沿って移動させることによって、当該連結位置を第一回動軸121の軸線C1及び切換回動軸141の軸線C3を通る平面の一側又は他側のいずれか一方に切り換えるものである。
【0075】
このように構成することにより、前後進切換レバー10を選択操作することによって、1つの変速ペダル9で前進から後進までの変速を行うことができる。具体的には、前後進切換レバー10を前進位置(F)に切り換えた状態では、変速ペダル9を踏み込むことで前進することができ、前後進切換レバー10を後進位置(R)に切り換えた状態では、変速ペダル9を踏み込むことで後進することができる。従って、自動車と同様の感覚で前後進の変速が可能となり、前後進の変速操作方法が分かり易く、容易に変速操作を行うことができる。
【0076】
また、変速リンク機構100は、切換部材140に設けられた第一側ベアリング143を第一リンク部材120の第一長溝123aに摺動可能となるように挿入することによって、当該切換部材140と第一リンク部材120とを連結するものである。
このように構成することにより、切換部材140と第一リンク部材120との連結位置を滑らかに切り換えることができる。
【0077】
また、第一長溝123aには、第一リンク部材120を回動させる際に、当該第一長溝123a内に挿入された第一側ベアリング143を掛止するための凹部(前進側凹部123b及び後進側凹部123c)が形成される。
このように構成することにより、変速ペダル9を踏み込み操作して変速している最中に切換部材140と第一リンク部材120との連結位置が移動し、トラクタ1が作業者の予想に反する変速をしてしまうことを防止することができる。
【0078】
また、変速リンク機構100は、当該変速リンク機構100を構成する部材(第一リンク部材120、第二リンク部材130、切換部材140、第三リンク部材150及びスプリング160)の一部を変速リンクケース110に収納することにより、一体的に構成したものである。
このように構成することにより、変速リンク機構100を一体としてトラクタ1に組み付けることができるため、当該トラクタ1の製造工程の簡素化を図ることができる。また、変速リンク機構100に不具合等が生じた場合には、当該変速リンク機構100を一体として取り替えることで迅速に不具合に対応することができ、メンテナンスの容易化を図ることもできる。また、土や塵埃等が摺動部(第一長溝123a、第三長溝153a等)や回動部に噛み込むことがなく、前後進の切り換えや変速を容易に、かつ確実に行うことができる。
【0079】
なお、本発明に係る無段変速装置はHST6に限るものではなく、1つの操作具(本実施形態においては、トラニオン軸6c)を操作することで正転方向から逆転方向まで無段階に変速することができる変速装置であれば良い。例えば、HMTや、CVTと遊星歯車機構を組み合わせた変速装置等であっても良い。
【0080】
また、本発明に係る変速操作具は変速ペダル9に限るものではなく、作業者が手で操作するレバー等であっても良い。また、本発明に係る変速操作具は、作業者が所望の操作量だけ操作することができるものであれば良く、その構成(形状、リンク機構等)を限定するものではない。
【0081】
また、本実施形態においては、変速ペダル9と第一リンク部材120とをロッド9aで連結するものとしたが、本発明はこれに限るものではなく、変速ペダル9の操作量に応じて第一リンク部材120を回動させることができる構成であれば良い。例えば、プッシュプルケーブルで連結したり、変速ペダル9の操作量をセンサにより検出し、当該検出量に基づいてモータにより第一リンク部材120を回動させたりすることも可能である。
【0082】
また、本発明に係る前後進切換操作具は前後進切換レバー10に限るものではなく、作業者が前進、後進又は中立を選択操作することができるものであれば良く、その構成(形状、リンク機構等)を限定するものではない。また、本実施形態においては、前後進切換レバー10と変速リンク機構100(第三リンク部材150)とをプッシュプルケーブル10aで連結するものとしたが、ロッド等を用いたリンク機構により連結したり、前後進切換レバー10の操作位置をセンサにより検出し、当該検出に基づいてモータにより第三リンク部材150を回動させたりすることも可能である。
【0083】
また、図15に示すように、変速リンク機構100の第三リンク部材150を油圧シリンダ12によって回動させる構成とすることも可能である。この場合、前後進切換レバー10の操作に基づいて油圧シリンダ12に連通される油路を切り換えることで、当該油圧シリンダ12を伸縮させる構成とすることができる。
【0084】
また、本実施形態においては、HST6と変速リンク機構100(第二リンク部材130)とをプッシュプルケーブル6aで連結するものとしたが、ロッド等を用いたリンク機構により連結したり、第二リンク部材130の回動位置をセンサにより検出し、当該検出に基づいてモータによりHST6のトラニオン軸6cを回動させたりすることも可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 トラクタ
3 エンジン(駆動源)
6 HST(無段変速装置)
9 変速ペダル(変速操作具)
10 前後進切換レバー(前後進切換操作具)
100 変速リンク機構
120 第一リンク部材
121 第一回動軸
123a 第一長溝(長溝)
130 第二リンク部材
140 切換部材
141 切換回動軸
150 第三リンク部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタの技術に関し、より詳細には、変速操作具と無段変速装置とを連結する変速リンク機構の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動源からの動力を正転方向から逆転方向まで無段階に変速可能な無段変速装置を具備するトラクタの技術は公知となっている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1に記載のトラクタは、変速操作具としての前進用変速ペダル及び後進用変速ペダル、無段変速装置としてのHST並びにこれらを連結するHST操作リンク等を具備する。このトラクタにおいて、前進用変速ペダルを操作するとトラクタを所望の速度で前進させることができ、後進用変速ペダルを操作するとトラクタを所望の速度で後進させることができる。
【0004】
しかし、このようなトラクタにおいては、2つの変速操作具(前進用変速ペダル及び後進用変速ペダル)によってトラクタの前進操作と後進操作を行うため、特に当該トラクタに不慣れな作業者にとっては操作方法が分かり難く、変速操作が難しいという点で不利であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−55281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、前後進の変速操作方法が分かり易く、容易に変速操作を行うことができるトラクタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、駆動源からの動力を正転方向から逆転方向まで無段階に変速可能な無段変速装置と、前記無段変速装置における変速比を変更する変速操作具と、前記無段変速装置における出力軸の回転方向を選択する前後進切換操作具と、前記無段変速装置、前記変速操作具及び前記前後進切換操作具を連結する変速リンク機構と、を具備し、前記変速リンク機構は、前記変速操作具の操作量に応じた量だけ回動する第一リンク部材と、前記第一リンク部材の回動量に応じた量だけ回動する第二リンク部材と、前記前後進切換操作具の操作に基づいて、前記第一リンク部材の回動方向に対する前記第二リンク部材の回動方向を切り換える第三リンク部材と、を具備し、前記第二リンク部材の回動方向及び回動量に基づいて前記無段変速装置の出力軸の回転方向及び変速比が決定されるものである。
【0009】
請求項2においては、前記変速リンク機構は、前記第一リンク部材と前記第二リンク部材とを連結する切換部材をさらに具備し、前記第一リンク部材には、当該第一リンク部材の回動中心となる第一回動軸に垂直な平面上に長溝が形成され、前記切換部材は、その一端側を前記第二リンク部材に対して前記第一回動軸と平行な切換回動軸を中心として回動可能となるように連結されるとともに、その他端側を前記長溝に沿って摺動可能となるように前記第一リンク部材に連結され、前記第三リンク部材は、前記前後進切換操作具の操作に基づいて前記切換部材と前記第一リンク部材との連結位置を前記長溝に沿って移動させることによって、当該連結位置を前記第一回動軸の軸線及び前記切換回動軸の軸線を通る平面の一側又は他側のいずれか一方に切り換えるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
本発明は、前後進切換操作具を選択操作することによって、1つの変速操作具で前進から後進までの変速を行うことができる。従って、前後進の変速操作方法が分かり易く、容易に変速操作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るトラクタの全体的な構成を示した側面図。
【図2】変速リンク機構を示した斜視図。
【図3】変速リンクケースを示した分解斜視図。
【図4】変速リンク機構を示した分解斜視図。
【図5】同じく、左側面図。
【図6】第一リンク部材及び変速ペダルを示した斜視図。
【図7】同じく、左側面図。
【図8】第二リンク部材、切換部材140及びHSTを示した斜視図。
【図9】第三リンク部材及び前後進切換レバーを示した斜視図。
【図10】(a)前後進切換レバーを前進位置に切り換えた際の第三リンク部材を示した左側面図。(b)同じく、切換部材及び第二リンク部材を示した左側面図。
【図11】(a)第三リンク部材が前進位置にある場合に変速ペダルを操作した際の切換部材及び第二リンク部材を示した左側面図。(b)同じく、第三リンク部材を示した左側面図。
【図12】(a)前後進切換レバーを後進位置に切り換えた際の第三リンク部材を示した左側面図。(b)同じく、切換部材及び第二リンク部材を示した左側面図。
【図13】(a)第三リンク部材が後進位置にある場合に変速ペダルを操作した際の切換部材及び第二リンク部材を示した左側面図。(b)同じく、第三リンク部材を示した左側面図。
【図14】(a)前後進切換レバーを中立位置に切り換えた際の第三リンク部材を示した左側面図。(b)同じく、切換部材及び第二リンク部材を示した左側面図。
【図15】第三リンク部材を回動させるための他の構成を示した斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、図中の矢印Uの方向を上方向、矢印Fの方向を前方向、矢印Lの方向を左方向とそれぞれ規定して説明する。
【0014】
まず、図1を用いて、本発明に係るトラクタの一実施形態であるトラクタ1の全体構成について説明する。
【0015】
トラクタ1は、長手方向を前後方向として左右方向に所定の間隔をとって配置される一対の機体フレーム2・2を備える。機体フレームの前上部には駆動源としてのエンジン3が載置される。機体フレーム2・2の前部は、フロントアクスルケース(不図示)を介して左右一対の前輪4・4に支持される。機体フレーム2・2の後部は、無段変速装置としてのHST6が収納されたミッションケース(不図示)及び当該ミッションケースの左右両側面にそれぞれ設けられるリアアクスルケース(不図示)を介して左右一対の後輪5・5に支持される。
【0016】
機体フレーム2・2の上部には運転操作部7が配置され、当該運転操作部7に、操向ハンドル8、変速ペダル9及び前後進切換レバー10等が配置される。操向ハンドル8は、運転操作部7の前部に配置されたステアリングコラム11に支持され、当該操向ハンドル8の左側方(近傍)に前後進切換操作具としての前後進切換レバー10が配置される。変速操作具としての変速ペダル9は、ステアリングコラム11の右側方(運転操作部7のステップ上)に配置される。
【0017】
運転操作部7の下方には、変速ペダル9、前後進切換レバー10及びHST6を連結する変速リンク機構100が配置される。変速リンク機構100は、変速ペダル9及び前後進切換レバー10の操作に基づいて、HST6を変速させる。当該変速リンク機構100の詳細な構成については後述する。
【0018】
このように構成されたトラクタ1において、エンジン3の動力は、HST6において変速された後、前輪4・4及び後輪5・5に伝達され、トラクタ1は前進(又は後進)することができる。
また、作業者は、変速ペダル9及び前後進切換レバー10を操作することで、HST6の出力軸の回転方向及び当該HST6における変速比を任意に変更することができ、ひいてはトラクタ1を任意の速度で前進又は後進させることができる。
【0019】
次に、図2から図9までを用いて、変速リンク機構100の構成について詳細に説明する。
【0020】
図2から図4までに示す変速リンク機構100は、HST6、変速ペダル9及び前後進切換レバー10を連結するものである。変速リンク機構100は、主として変速リンクケース110、第一リンク部材120、第二リンク部材130、切換部材140、第三リンク部材150及びスプリング160を具備する。
【0021】
図2及び図3に示す変速リンクケース110は、変速リンク機構100を構成する部材の一部を収納するものである。変速リンクケース110は、主としてケース本体111及びケースカバー112を具備する。
【0022】
ケース本体111は、左側面が開放された略箱状の部材である。ケース本体111の右側面には、長手方向を左右方向に向けた円筒状の第一支持部111aが形成される。ケース本体111の内部(より詳細には、右側面上部)には、略直方体状のストッパ部111bが形成される。
【0023】
ケースカバー112は、略板状の部材である。ケースカバー112には、長手方向を左右方向に向けた円筒状の第二支持部112a及び第三支持部112bが形成される。
【0024】
ケース本体111及びケースカバー112に変速リンク機構100を構成する部材を適宜配置した後で、ケースカバー112をケース本体111の左側面に固定することで、当該変速リンク機構100を構成する部材の一部を当該変速リンクケース110に収納することができる(図2参照)。
【0025】
図4から図7までに示す第一リンク部材120は、変速ペダル9の踏み込み操作量に応じた量だけ回動する部材である。第一リンク部材120は、主として第一回動軸121、第一入力アーム122及び第一本体部123を具備する。
【0026】
図6及び図7に示す第一回動軸121は、長手方向を左右方向に向けて配置される円柱状の部材である。第一回動軸121は、ケース本体111の第一支持部111a(図2参照)に挿通されることにより、当該第一支持部111aに回動可能に支持される。
【0027】
第一入力アーム122は、略矩形板状の部材である。第一入力アーム122は、その板面を左右方向に向けて配置されるとともに、その長手方向を略前後方向に向けて配置される。
第一入力アーム122の一端(後端)は、第一支持部111aに挿通された第一回動軸121の一端(右端)に相対回転不能となるように固定される(図2参照)。
第一入力アーム122の他端(前端)は、当該第一入力アーム122の略上方に配置された変速ペダル9にロッド9aを介して連結される。
【0028】
第一本体部123は、第一リンク部材120の回動動作を後述する切換部材140に伝達するための部材である。第一本体部123の右側面は、第一回動軸121の他端(左端)に相対回転不能となるように固定される。第一本体部123の左側面は第一回動軸121に垂直な平面であり、当該左側面には第一長溝123aが形成される。第一長溝123aは、図7に実線で示す状態(変速ペダル9が、後述する中立位置(N)にある状態)では、側面視において後述する第三リンク部材150の第三回動軸151の軸線C3を中心とする円弧上に沿うように形成される。
第一長溝123aの後端部には、左側面視において略下方に向かって窪むような前進側凹部123bが形成される。また、第一長溝123aの前端部には、左側面視において略上方に向かって窪むような後進側凹部123cが形成される。
【0029】
図4及び図7に示すように、第一本体部123の後下部には、スプリング160の一端(上端)が連結される。当該スプリング160の他端(下端)は、後述する第二リンク部材130の第二回動軸131の右端に連結される。当該スプリング160によって、第一本体部123(第一リンク部材120)は、第一回動軸121を中心として左側面視(図7参照)時計回りに常時付勢される。
【0030】
図4及び図5に示すように、第一本体部123の前上方には、変速リンクケース110に形成されたストッパ部111bが位置する。当該ストッパ部111bが第一本体部123の上面に当接することにより、当該第一本体部123(第一リンク部材120)の左側面視時計回り方向への回動が所定の位置で規制される。
【0031】
図7に示すように、作業者が変速ペダル9を踏み込み操作しない場合、第一リンク部材120はスプリング160の付勢力によって第一回動軸121を中心として左側面視時計回りに回動し、第一本体部123がストッパ部111bに当接する位置で保持される。この際の変速ペダル9の位置を中立位置(N)とする。
【0032】
作業者が変速ペダル9を最大限まで踏み込み操作した場合、第一リンク部材120はスプリング160の付勢力に抗して第一回動軸121を中心として左側面視反時計回りに回動する。この際の変速ペダル9の位置を最高速位置(MAX)とする。
【0033】
図4、図5及び図8に示す第二リンク部材130は、第一リンク部材120の回動量に応じた量だけ回動する部材である。第二リンク部材130は、主として第二回動軸131、第二入力アーム132及び第二出力アーム133を具備する。
【0034】
第二回動軸131は、長手方向を左右方向に向けて配置される円柱状の部材である。第二回動軸131は、ケースカバー112の第二支持部112a(図2参照)に挿通されることにより、当該第二支持部112aに回動可能に支持される。
【0035】
第二入力アーム132は、板状の部材である。第二入力アーム132は、その板面を左右方向に向けて配置されるとともに、その長手方向を略前後方向に向けて配置される。
第二入力アーム132の一端(後端)には、第二支持部112aに挿通された第二回動軸131の一端(右端)側が挿通され、相対回転不能となるように固定される。
【0036】
第二出力アーム133は、第二リンク部材130の回動動作をHST6に伝達するための部材である。第二出力アーム133は、板状の部分と、当該板状の部分の一端に固定された円筒状の部分と、により構成される。変速リンクケース110の外部において、第二出力アーム133の一端(円筒状の部分)には、第二回動軸131の他端(左端)側が挿通され、相対回転不能となるように固定される(図2参照)。第二出力アーム133の他端(板状の部分)は、略下方に向けて延設される。
【0037】
図8に示すように、第二出力アーム133の他端(下端)には、プッシュプルケーブル6aの一端が連結される。プッシュプルケーブル6aの他端は、トラニオンレバー6bを介してHST6のトラニオン軸6cと連結される。
【0038】
トラニオン軸6cを回動させることによって、当該トラニオン軸6cと連結されたHST6の油圧ポンプ(又は油圧モータ)の可動斜板の傾斜角度を変更して、当該HST6の出力軸(不図示)の回転方向及び当該HST6における変速比を変更することができる。
【0039】
より具体的には、第二出力アーム133(第二リンク部材130)を、所定の中立位置(N)から前進方向(F)に(左側面視時計回りに)回動させると、プッシュプルケーブル6aを介してトラニオンレバー6bが所定の中立位置(N)から前進方向(F)に回動される。これによってトラニオン軸6cも前進方向に回動され、HST6の出力軸を前進方向(トラクタ1が前進する方向)に回転させることができる。また、トラニオン軸6cの回動量に応じてHST6における変速比(ひいては、トラクタ1の前進速度)を変更することができる。
また、第二出力アーム133(第二リンク部材130)を、所定の中立位置(N)から後進方向(R)に(左側面視反時計回りに)回動させると、プッシュプルケーブル6aを介してトラニオンレバー6bが所定の中立位置(N)から後進方向(R)に回動される。これによってトラニオン軸6cも後進方向に回動され、HST6の出力軸を後進方向(トラクタ1が後進する方向)に回転させることができる。また、トラニオン軸6cの回動量に応じてHST6における変速比(ひいては、トラクタ1の後進速度)を変更することができる。
なお、第二出力アーム133(第二リンク部材130)が中立位置(N)にある場合、トラニオンレバー6bも中立位置(N)に保持される。この場合におけるHST6の出力軸の回転数は0となり、トラクタ1は停止することになる。
【0040】
図4、図5及び図8に示す切換部材140は、第一リンク部材120と第二リンク部材130とを連結する部材である。切換部材140は板状の部材であり、その板面を左右方向に向けて配置されるとともに、その長手方向を略上下方向に向けて配置される。切換部材140には、切換回動軸141、ベアリング軸142、第一側ベアリング143及び第三側ベアリング144等が設けられる。
【0041】
切換回動軸141は、長手方向を左右方向に向けて配置される円柱状の部材である。切換回動軸141は、切換部材140の一端(下端)及び第二入力アーム132の他端(前端)に回動可能に挿通される。これによって、切換部材140と第二入力アーム132とが相対回転可能となるように連結される。
切換回動軸141は、第二リンク部材130が中立位置(N)にある場合において、当該切換回動軸141の軸線C4が後述する第三リンク部材150の第三回動軸151の軸線C3と同一軸線上に位置するように配置される。
【0042】
ベアリング軸142は、長手方向を左右方向に向けて配置される略円柱状の部材である。ベアリング軸142は、切換部材140の他端(上端)に挿通される。
【0043】
第一側ベアリング143は、切換部材140の右側方(第一リンク部材120が配置される側)においてベアリング軸142に挿通されることによって、回動可能に支持される。第一側ベアリング143は、第一リンク部材120の第一本体部123に形成された第一長溝123aの幅と略同一の直径を有する。第一側ベアリング143は、第一長溝123a内を当該第一長溝123aの形状(円弧状)に沿って移動可能となるように、当該第一長溝123aに挿入される。
【0044】
第三側ベアリング144は、切換部材140の左側方(後述する第三リンク部材150が配置される側)においてベアリング軸142に挿通されることによって、回動可能に支持される。第三側ベアリング144の直径は、第一側ベアリング143の直径と同一となるように形成される。
【0045】
図4、図5及び図9に示す第三リンク部材150は、前後進切換レバー10の操作に基づいて、第一リンク部材120の回動方向に対する第二リンク部材130の回動方向を切り換える部材である。第三リンク部材150は、主として第三回動軸151、第三入力アーム152及び第三出力アーム153を具備する。
【0046】
第三回動軸151は、長手方向を左右方向に向けて配置される円柱状の部材である。第三回動軸151は、ケースカバー112の第三支持部112b(図2参照)に挿通されることにより、当該第三支持部112bに回動可能に支持される。
【0047】
第三入力アーム152は、適宜に折り曲げられた板状の部分と、当該板状の部分の一端に固定された円筒状の部分と、により構成される部材である。変速リンクケース110の外部において、第三入力アーム152の一端(円筒状の部分)には、第三回動軸151の一端(左端)側が挿通され、相対回転不能となるように固定される(図2参照)。第三入力アーム152の他端(板状の部分)は、略下方に向けて延設される。
【0048】
図9に示すように、第三入力アーム152の他端(下端)には、プッシュプルケーブル10aの一端が連結される。プッシュプルケーブル10aの他端は、前後進切換レバー10と連結される。
【0049】
図4、図5及び図9に示す第三出力アーム153は、第三リンク部材150の回動動作を切換部材140に伝達するための部材である。第三出力アーム153は板状の部材であり、その板面を左右方向に向けて配置されるとともに、その長手方向を略上下方向に向けて配置される。
第三出力アーム153の一端(下端)は、第三回動軸151の他端(右端)に相対回転不能となるように固定される。
第三出力アーム153の他端(上端)側には、当該第三出力アーム153を左右方向に貫通する第三長溝153aが形成される。第三長溝153aは、第三出力アーム153の長手方向に概ね沿うような形状(第三回動軸151の半径方向に沿って延びるような形状)に形成される。第三長溝153aの幅は、第三側ベアリング144の直径と略同一となるように形成される。第三長溝153aには、当該第三長溝153a内を当該第三長溝153aの形状に沿って移動可能となるように、第三側ベアリング144が挿入される。
【0050】
前後進切換レバー10を所定の中立位置(N)から前進位置(F)まで回動させると、プッシュプルケーブル10aを介して第三入力アーム152(第三リンク部材150)が所定の中立位置(N)から前進位置(F)まで回動される。
また、前後進切換レバー10を所定の中立位置(N)から後進位置(R)まで回動させると、プッシュプルケーブル10aを介して第三入力アーム152(第三リンク部材150)が所定の中立位置(N)から後進位置(R)まで回動される。
【0051】
以下では、トラクタ1を走行(前進又は後進)させる際の変速リンク機構100の動作態様について説明する。
【0052】
まず、トラクタ1を前進させる場合について説明する。
【0053】
トラクタ1を前進させる場合、作業者は、まず変速ペダル9を踏み込まない状態(変速ペダル9が中立位置(N)にある状態)(図7参照)で、前後進切換レバー10(図9参照)を前進位置(F)まで回動させる。これによって、第三リンク部材150が前進位置(F)まで回動される(図4及び図10(a)参照)。
【0054】
第三リンク部材150が前進位置(F)まで回動すると、当該第三リンク部材150の回動に伴って、当該第三リンク部材150の第三長溝153aに挿入された第三側ベアリング144が略後方に移動する(図4及び図10(a)参照)。第三側ベアリング144が略後方に移動すると、当該第三側ベアリング144の移動に伴って、当該第三側ベアリング144と同軸上に配置された第一側ベアリング143が後方に移動するとともに、当該第一側ベアリング143及び第三側ベアリング144が設けられた切換部材140が切換回動軸141を中心として左側面視時計回りに回動する(図4及び図10(b)参照)。
【0055】
この際、第二リンク部材130が中立位置(N)にある場合、切換回動軸141は第三回動軸151の軸線C3上に配置されており、また変速ペダル9が中立位置(N)にある場合(図7参照)、第一側ベアリング143が挿入された第一リンク部材120の第一長溝123aは第三回動軸151の軸線C3を中心とする円弧状に形成されている。このため、第一側ベアリング143が移動する軌跡と第一長溝123aの形状とが一致し、当該第一側ベアリング143は第一リンク部材120(第一本体部123)と干渉することなく、第一長溝123a内を当該第一長溝123aの後端部まで移動(摺動)することができる。
【0056】
第一側ベアリング143が第一長溝123aの後端部まで移動した際、当該第一側ベアリング143は、第一回動軸121の軸線C1及び切換回動軸141の軸線C4を通る仮想平面Aの一側(後側)に位置している。すなわち、切換部材140と第一リンク部材120との連結位置(第一側ベアリング143が第一長溝123aに挿入されている位置)は仮想平面Aの一側(後側)となるように切り換えられている。
【0057】
次に、作業者は、変速ペダル9を踏み込み操作する。本実施形態においては、説明の便宜上、変速ペダル9を最高速位置(MAX)まで踏み込み操作するものとする(図7参照)。これによって、第一リンク部材120が第一回動軸121を中心として左側面視反時計回りに回動される(図4及び図11(a)参照)。
【0058】
第一リンク部材120が左側面視反時計回りに回動すると、第一長溝123aの後端部に挿入された第一側ベアリング143が、当該第一長溝123aの前進側凹部123bに掛止した状態で略上方に引き上げられる。第一側ベアリング143が略上方に引き上げられると、切換部材140を介して、第二リンク部材130が第二回動軸131を中心として中立位置(N)から前進最高速位置(FMAX)まで左側面視時計回りに回動される。
【0059】
第二リンク部材130が中立位置(N)から前進最高速位置(FMAX)まで回動することによって、プッシュプルケーブル6aを介してトラニオンレバー6bを前進方向(F)に最大まで回動させ(図8参照)、HST6の出力軸を前進方向に最高回転で回転させることができる。
【0060】
なお、第一リンク部材120の回動によって第一側ベアリング143が略上方に引き上げられる際、当該第一側ベアリング143とともに第三側ベアリング144も略上方に引き上げられることになる。この場合、第三側ベアリング144は第三出力アーム153の第三長溝153a内を当該第三長溝153aに沿って摺動するため、当該第三側ベアリング144が第三出力アーム153と干渉することはない(図11(b)参照)。
【0061】
また、上述の説明においては変速ペダル9を最高速位置(MAX)まで踏み込み操作するものとしたが、当該踏み込み操作量を調節することによって、HST6のトラニオン軸6cの回動量を調節し、トラクタ1の前進速度を任意に調節することができる。
【0062】
次に、トラクタ1を後進させる場合について説明する。
【0063】
トラクタ1を後進させる場合、作業者は、まず変速ペダル9を踏み込まない状態(変速ペダル9が中立位置(N)にある状態)(図7参照)で、前後進切換レバー10(図9参照)を後進位置(R)まで回動させる。これによって、第三リンク部材150が後進位置(R)まで回動される(図4及び図12(a)参照)。
【0064】
第三リンク部材150が後進位置(R)まで回動すると、当該第三リンク部材150の回動に伴って、当該第三リンク部材150の第三長溝153aに挿入された第三側ベアリング144が略前方に移動する(図4及び図12(a)参照)。第三側ベアリング144が略前方に移動すると、当該第三側ベアリング144の移動に伴って、当該第三側ベアリング144と同軸上に配置された第一側ベアリング143が前方に移動するとともに、当該第一側ベアリング143及び第三側ベアリング144が設けられた切換部材140が切換回動軸141を中心として左側面視反時計回りに回動する(図4及び図12(b)参照)。
【0065】
この際、トラクタ1を前進させる場合と同様に、第一側ベアリング143が移動する軌跡と第一長溝123aの形状とが一致し、当該第一側ベアリング143は第一リンク部材120(第一本体部123)と干渉することなく、第一長溝123a内を当該第一長溝123aの前端部まで移動(摺動)することができる。
【0066】
第一側ベアリング143が第一長溝123aの前端部まで移動した際、当該第一側ベアリング143は、第一回動軸121の軸線C1及び切換回動軸141の軸線C4を通る仮想平面Aの他側(前側)に位置している。すなわち、切換部材140と第一リンク部材120との連結位置(第一側ベアリング143が第一長溝123aに挿入されている位置)は仮想平面Aの他側(前側)となるように切り換えられている。
【0067】
次に、作業者は、変速ペダル9を踏み込み操作する。本実施形態においては、説明の便宜上、変速ペダル9を最高速位置(MAX)まで踏み込み操作するものとする(図7参照)。これによって、第一リンク部材120が第一回動軸121を中心として左側面視反時計回りに回動される(図4及び図13(a)参照)。
【0068】
第一リンク部材120が左側面視反時計回りに回動すると、第一長溝123aの前端部に挿入された第一側ベアリング143が、当該第一長溝123aの後進側凹部123cに掛止した状態で略下方に押し下げられる。第一側ベアリング143が略下方に押し下げられると、切換部材140を介して、第二リンク部材130が第二回動軸131を中心として中立位置(N)から後進最高速位置(RMAX)まで左側面視反時計回りに回動される。
【0069】
第二リンク部材130が中立位置(N)から後進最高速位置(RMAX)まで回動することによって、プッシュプルケーブル6aを介してトラニオンレバー6bを後進方向(R)に最大まで回動させ(図8参照)、HST6の出力軸を後進方向に最高回転で回転させることができる。
【0070】
なお、第一リンク部材120の回動によって第一側ベアリング143が略下方に押し下げられる際、当該第一側ベアリング143とともに第三側ベアリング144も略下方に押し下げられることになる。この場合、第三側ベアリング144は第三出力アーム153の第三長溝153a内を当該第三長溝153aに沿って摺動するため、当該第三側ベアリング144が第三出力アーム153と干渉することはない(図13(b)参照)。
【0071】
また、上述の説明においては変速ペダル9を最高速位置(MAX)まで踏み込み操作するものとしたが、当該踏み込み操作量を調節することによって、HST6のトラニオン軸6cの回動量を調節し、トラクタ1の後進速度を任意に調節することができる。
【0072】
なお、前後進切換レバー10(図9参照)が中立位置(N)にある場合、第三リンク部材150も中立位置にある。この場合、第三リンク部材150の第三長溝153aに挿入された第三側ベアリング144および第一リンク部材120の第一長溝123aに挿入された第一側ベアリング143は、第一リンク部材120の第一回動軸121の軸線C1と同一軸線上に位置する(図14参照)。この状態においては、作業者が変速ペダル9を踏み込み操作しても、第一側ベアリング143は略上方に引き上げられることも略下方に押し下げられることもないため、第二リンク部材130も回動することがなく、当該第二リンク部材130は中立位置(N)に保持される。このように、前後進切換レバー10が中立位置(N)にある場合は、変速ペダル9を踏み込み操作しても第二リンク部材130が回動することがないため、トラクタ1が前進又は後進することはない。
【0073】
以上の如く、本実施形態に係るトラクタ1は、エンジン3(駆動源)からの動力を正転方向から逆転方向まで無段階に変速可能なHST6(無段変速装置)と、HST6における変速比を変更する変速ペダル9(変速操作具)と、HST6における出力軸の回転方向を選択する前後進切換レバー10(前後進切換操作具)と、HST6、変速ペダル9及び前後進切換レバー10を連結する変速リンク機構100と、を具備し、変速リンク機構100は、変速ペダル9の操作量に応じた量だけ回動する第一リンク部材120と、第一リンク部材120の回動量に応じた量だけ回動する第二リンク部材130と、前後進切換レバーの操作に基づいて、第一リンク部材120の回動方向に対する第二リンク部材130の回動方向を切り換える第三リンク部材150と、を具備し、第二リンク部材130の回動方向及び回動量に基づいてHST6の出力軸の回転方向及び変速比が決定されるものである。
【0074】
また、変速リンク機構100は、第一リンク部材120と第二リンク部材130とを連結する切換部材140をさらに具備し、第一リンク部材120には、当該第一リンク部材120の回動中心となる第一回動軸121に垂直な平面上に第一長溝123a(長溝)が形成され、切換部材140は、その一端側を第二リンク部材130に対して第一回動軸121と平行な切換回動軸141を中心として回動可能となるように連結されるとともに、その他端側を第一長溝123aに沿って摺動可能となるように第一リンク部材120に連結され、第三リンク部材150は、前後進切換レバー10の操作に基づいて切換部材140と第一リンク部材120との連結位置を第一長溝123aに沿って移動させることによって、当該連結位置を第一回動軸121の軸線C1及び切換回動軸141の軸線C3を通る平面の一側又は他側のいずれか一方に切り換えるものである。
【0075】
このように構成することにより、前後進切換レバー10を選択操作することによって、1つの変速ペダル9で前進から後進までの変速を行うことができる。具体的には、前後進切換レバー10を前進位置(F)に切り換えた状態では、変速ペダル9を踏み込むことで前進することができ、前後進切換レバー10を後進位置(R)に切り換えた状態では、変速ペダル9を踏み込むことで後進することができる。従って、自動車と同様の感覚で前後進の変速が可能となり、前後進の変速操作方法が分かり易く、容易に変速操作を行うことができる。
【0076】
また、変速リンク機構100は、切換部材140に設けられた第一側ベアリング143を第一リンク部材120の第一長溝123aに摺動可能となるように挿入することによって、当該切換部材140と第一リンク部材120とを連結するものである。
このように構成することにより、切換部材140と第一リンク部材120との連結位置を滑らかに切り換えることができる。
【0077】
また、第一長溝123aには、第一リンク部材120を回動させる際に、当該第一長溝123a内に挿入された第一側ベアリング143を掛止するための凹部(前進側凹部123b及び後進側凹部123c)が形成される。
このように構成することにより、変速ペダル9を踏み込み操作して変速している最中に切換部材140と第一リンク部材120との連結位置が移動し、トラクタ1が作業者の予想に反する変速をしてしまうことを防止することができる。
【0078】
また、変速リンク機構100は、当該変速リンク機構100を構成する部材(第一リンク部材120、第二リンク部材130、切換部材140、第三リンク部材150及びスプリング160)の一部を変速リンクケース110に収納することにより、一体的に構成したものである。
このように構成することにより、変速リンク機構100を一体としてトラクタ1に組み付けることができるため、当該トラクタ1の製造工程の簡素化を図ることができる。また、変速リンク機構100に不具合等が生じた場合には、当該変速リンク機構100を一体として取り替えることで迅速に不具合に対応することができ、メンテナンスの容易化を図ることもできる。また、土や塵埃等が摺動部(第一長溝123a、第三長溝153a等)や回動部に噛み込むことがなく、前後進の切り換えや変速を容易に、かつ確実に行うことができる。
【0079】
なお、本発明に係る無段変速装置はHST6に限るものではなく、1つの操作具(本実施形態においては、トラニオン軸6c)を操作することで正転方向から逆転方向まで無段階に変速することができる変速装置であれば良い。例えば、HMTや、CVTと遊星歯車機構を組み合わせた変速装置等であっても良い。
【0080】
また、本発明に係る変速操作具は変速ペダル9に限るものではなく、作業者が手で操作するレバー等であっても良い。また、本発明に係る変速操作具は、作業者が所望の操作量だけ操作することができるものであれば良く、その構成(形状、リンク機構等)を限定するものではない。
【0081】
また、本実施形態においては、変速ペダル9と第一リンク部材120とをロッド9aで連結するものとしたが、本発明はこれに限るものではなく、変速ペダル9の操作量に応じて第一リンク部材120を回動させることができる構成であれば良い。例えば、プッシュプルケーブルで連結したり、変速ペダル9の操作量をセンサにより検出し、当該検出量に基づいてモータにより第一リンク部材120を回動させたりすることも可能である。
【0082】
また、本発明に係る前後進切換操作具は前後進切換レバー10に限るものではなく、作業者が前進、後進又は中立を選択操作することができるものであれば良く、その構成(形状、リンク機構等)を限定するものではない。また、本実施形態においては、前後進切換レバー10と変速リンク機構100(第三リンク部材150)とをプッシュプルケーブル10aで連結するものとしたが、ロッド等を用いたリンク機構により連結したり、前後進切換レバー10の操作位置をセンサにより検出し、当該検出に基づいてモータにより第三リンク部材150を回動させたりすることも可能である。
【0083】
また、図15に示すように、変速リンク機構100の第三リンク部材150を油圧シリンダ12によって回動させる構成とすることも可能である。この場合、前後進切換レバー10の操作に基づいて油圧シリンダ12に連通される油路を切り換えることで、当該油圧シリンダ12を伸縮させる構成とすることができる。
【0084】
また、本実施形態においては、HST6と変速リンク機構100(第二リンク部材130)とをプッシュプルケーブル6aで連結するものとしたが、ロッド等を用いたリンク機構により連結したり、第二リンク部材130の回動位置をセンサにより検出し、当該検出に基づいてモータによりHST6のトラニオン軸6cを回動させたりすることも可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 トラクタ
3 エンジン(駆動源)
6 HST(無段変速装置)
9 変速ペダル(変速操作具)
10 前後進切換レバー(前後進切換操作具)
100 変速リンク機構
120 第一リンク部材
121 第一回動軸
123a 第一長溝(長溝)
130 第二リンク部材
140 切換部材
141 切換回動軸
150 第三リンク部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの動力を正転方向から逆転方向まで無段階に変速可能な無段変速装置と、
前記無段変速装置における変速比を変更する変速操作具と、
前記無段変速装置における出力軸の回転方向を選択する前後進切換操作具と、
前記無段変速装置、前記変速操作具及び前記前後進切換操作具を連結する変速リンク機構と、
を具備し、
前記変速リンク機構は、
前記変速操作具の操作量に応じた量だけ回動する第一リンク部材と、
前記第一リンク部材の回動量に応じた量だけ回動する第二リンク部材と、
前記前後進切換操作具の操作に基づいて、前記第一リンク部材の回動方向に対する前記第二リンク部材の回動方向を切り換える第三リンク部材と、
を具備し、
前記第二リンク部材の回動方向及び回動量に基づいて前記無段変速装置の出力軸の回転方向及び変速比が決定される、
トラクタ。
【請求項2】
前記変速リンク機構は、
前記第一リンク部材と前記第二リンク部材とを連結する切換部材をさらに具備し、
前記第一リンク部材には、
当該第一リンク部材の回動中心となる第一回動軸に垂直な平面上に長溝が形成され、
前記切換部材は、
その一端側を前記第二リンク部材に対して前記第一回動軸と平行な切換回動軸を中心として回動可能となるように連結されるとともに、
その他端側を前記長溝に沿って摺動可能となるように前記第一リンク部材に連結され、
前記第三リンク部材は、
前記前後進切換操作具の操作に基づいて前記切換部材と前記第一リンク部材との連結位置を前記長溝に沿って移動させることによって、当該連結位置を前記第一回動軸の軸線及び前記切換回動軸の軸線を通る平面の一側又は他側のいずれか一方に切り換える、
請求項1に記載のトラクタ。
【請求項1】
駆動源からの動力を正転方向から逆転方向まで無段階に変速可能な無段変速装置と、
前記無段変速装置における変速比を変更する変速操作具と、
前記無段変速装置における出力軸の回転方向を選択する前後進切換操作具と、
前記無段変速装置、前記変速操作具及び前記前後進切換操作具を連結する変速リンク機構と、
を具備し、
前記変速リンク機構は、
前記変速操作具の操作量に応じた量だけ回動する第一リンク部材と、
前記第一リンク部材の回動量に応じた量だけ回動する第二リンク部材と、
前記前後進切換操作具の操作に基づいて、前記第一リンク部材の回動方向に対する前記第二リンク部材の回動方向を切り換える第三リンク部材と、
を具備し、
前記第二リンク部材の回動方向及び回動量に基づいて前記無段変速装置の出力軸の回転方向及び変速比が決定される、
トラクタ。
【請求項2】
前記変速リンク機構は、
前記第一リンク部材と前記第二リンク部材とを連結する切換部材をさらに具備し、
前記第一リンク部材には、
当該第一リンク部材の回動中心となる第一回動軸に垂直な平面上に長溝が形成され、
前記切換部材は、
その一端側を前記第二リンク部材に対して前記第一回動軸と平行な切換回動軸を中心として回動可能となるように連結されるとともに、
その他端側を前記長溝に沿って摺動可能となるように前記第一リンク部材に連結され、
前記第三リンク部材は、
前記前後進切換操作具の操作に基づいて前記切換部材と前記第一リンク部材との連結位置を前記長溝に沿って移動させることによって、当該連結位置を前記第一回動軸の軸線及び前記切換回動軸の軸線を通る平面の一側又は他側のいずれか一方に切り換える、
請求項1に記載のトラクタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−53658(P2013−53658A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191795(P2011−191795)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】
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