説明

トラス架構及びトラス架構を備えた構造物

【課題】トラス架構に振動を低減する制振機能を付与する。
【解決手段】トラス棒材12は、外径がD2の鋼材で所要長に形成され、複数のトラス棒材12の端部がジョイント部材14で接合されている。トラス棒材12とジョイント部材14の組み合わせでトラスが構成される。ジョイント部材14は、表面に複数の挿入穴16が設けられた鋼製の球体であり、挿入穴16の大きさは内径がD1、深さがH1とされている。定常状態におけるトラス棒材12の先端は、挿入穴16の深さH1のほぼ半分の深さまで挿入されている。これにより、挿入穴16の中でトラス棒材12の先端が、定常状態における位置からH1/2の範囲で移動可能とされている。挿入穴16の中には粘弾性体18が充填され、粘弾性体18が挿入穴16の内壁、及びトラス棒材12の周壁と接する部分は、粘弾性体18と挿入穴16の内壁及びトラス棒材12の周壁が粘着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラス架構及びトラス架構を備えた構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
トラス架構は、軽量化が図れて大スパン空間を実現できるため、構造物の構造部材として広く利用されている。このとき、トラス架構には、構造部材としての強度確保に加え、地震時や生活活動に伴う振動を低減する制振機能が期待されている。
【0003】
そこで、トラス架構で振動を低減する制振装置が提案されている(特許文献1)。
特許文献1によれば、図6に示すように、制振装置80は、剛体からなる球体82と、球体82の周囲に形成されたトラス架構84を有している。なお、図6には、トラス架構84の一部が図示されている。
【0004】
トラス架構84は、球体82の表面に直交して形成された第1の制振要素86と、制振要素86の端部に設けられたジョイント部材(節点)88と、節点88に接合されトラス状に形成された第2の制振要素90とで構成されている。ここに、制振要素86、90は棒材とされ、それぞれの、両端間の一定部分には図示しないエネルギー吸収部が設けられている。
【0005】
これにより、外力によるエネルギーが加えられ、制振要素86、90の両端間に相対変位が生じた際に、エネルギー吸収部が相対変位に対して抵抗し、加えられたエネルギーを吸収する。これにより、制振要素86、90で振動が低減される。しかし、エネルギー吸収部の具体的な構成は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−325172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事実に鑑み、トラス架構に振動を低減する制振機能を付与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明に係るトラス架構は、棒材と、前記棒材の端部が移動可能に挿入される挿入穴が複数設けられ、挿入された前記棒材を接合してトラス構造とするジョイント部材と、前記挿入穴に充填され、前記棒材から前記ジョイント部材へ伝達される外力によるエネルギーを吸収する粘弾性体と、を有することを特徴としている。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、棒材とジョイント部材でトラス架構が構成され、棒材の端部が挿入されたジョイント部材の挿入穴には、粘弾性体が充填されている。
これにより、トラス架構に外力によるエネルギーが加えられ、棒材からジョイント部材へエネルギーが伝達されたとき、挿入穴の中を棒材の端部が移動し、挿入穴に充填された粘弾性体によりエネルギーが吸収される。
この結果、トラス架構に振動を低減する制振機能を付与することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のトラス架構において、前記粘弾性体は、圧縮変形、引張変形を繰返して外力による前記エネルギーを吸収し、前記棒材の端部を前記挿入穴の中立位置に復帰させることを特徴としている。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、粘弾性体は、棒材がジョイント部材に圧縮力を及ぼす時は圧縮変形されて圧縮力に抵抗し、棒材がジョイント部材に引張力を及ぼす時は、引張変形されて引張力に抵抗する。
そして、この圧縮変形、引張変形を繰返して外力によるエネルギーを吸収し、棒材の端部を、外力が加えられる前の位置である、挿入穴の中立位置に復帰させる。これにより、トラス架構の振動が低減する。
【0012】
請求項3に記載の発明に係る構造物は、請求項1、又は請求項2に記載のトラス架構を備えている。
これにより、外力によるエネルギーをトラス架構が吸収する構造物を提供できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上記構成としてあるので、振動を低減するトラス架構、及びトラス架構備えた構造物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るトラス架構の基本構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るトラス架構のトラス棒材とジョイント部材の相対変位を示す図である。
【図3】従来のトラス架構のエネルギー吸収のしくみを示す図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るトラス架構のエネルギー吸収のしくみを示す図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る建物の基本構成を示す図である。
【図6】従来例の制振機能を備えたトラス架構の基本構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施の形態)
図1に示すように、第1の実施の形態に係るトラス架構10は、軸力を受けるトラス棒材12を有している。トラス棒材12は、外径がD2の鋼材で所要長に形成され、複数のトラス棒材12の端部がジョイント部材14で接合されている。トラス棒材12とジョイント部材14の組み合わせでトラスが構成される。
【0016】
ジョイント部材14は、表面に複数の挿入穴16が設けられた鋼製の球体であり、挿入穴16の大きさは内径がD1、深さがH1とされている。挿入穴16の内径D1はトラス棒材12の外形D2より大きく、トラス棒材12の端部が挿入されたとき、挿入穴16の内壁とトラス棒材12の周壁の間には隙間δが生じている。
【0017】
また、トラス棒材12に軸力が作用していない定常状態において、トラス棒材12の先端は深さH2まで挿入されている。トラス棒材12が挿入された深さH2は、挿入穴16の深さH1のほぼ半分の深さであり、トラス棒材12の先端は、この定常状態における位置を基準に、挿入穴16の中を軸線Xの方向にH1/2の範囲で移動(振動)可能とされている。
【0018】
挿入穴16の中には粘弾性体18が充填され、粘弾性体18が挿入穴16の内壁と接する部分、及び粘弾性体18がトラス棒材12の周壁と接する部分は、粘弾性体18が挿入穴16の内壁及びトラス棒材12の周壁に粘着されている。
【0019】
この構成により、トラス棒材12が外力により振動を生じたとき、トラス棒材12の先端と挿入穴16の相対移動に対応して粘弾性体18が変形される。粘弾性体18を変形させることでエネルギーが消費されるため、トラス棒材12の先端と挿入穴16の相対移動が抑制される。
【0020】
具体的には、図2(A)に示すように、トラス棒材12に外力によるエネルギーが加えられ、トラス棒材12がジョイント部材14の挿入穴16から抜け出る方向(矢印P1)に移動しようとしたとき、引張変形された粘弾性体18が相対移動に抵抗し、トラス棒材12がジョイント部材14から抜け出るのを抑制する。
【0021】
一方、図2(B)に示すように、トラス棒材12に外力によるエネルギーが加えられ、トラス棒材12がジョイント部材14の挿入穴16の奥へ入り込む方向(矢印P2)に移動しようとしたとき、圧縮変形された粘弾性体18が相対移動に抵抗し、トラス棒材12がジョイント部材14の奥へ入り込むのを抑制する。
【0022】
このように、粘弾性体18が圧縮変形、引張変形を繰返して外力によるエネルギーを吸収し、トラス棒材12の端部を、外力が加えられる前の位置である、挿入穴16の中立位置(図1(A))に復帰させる。これにより、トラス架構10の振動が低減される。
【0023】
次に、粘弾性体でエネルギーが吸収される仕組みについて説明する。
図3に、複数のトラス棒材12とジョイント部材20〜25で構築された一般的なトラスをモデル化した、一般トラスモデル30を示す。
【0024】
一般トラスモデル30のジョイント部材20に作用する外力をP、外力Pによりジョイント部材20、22間のトラス棒材12に生じる軸力をNAとする。また、トラス棒材12の軸剛性をKtとし、トラス棒材12の軸変形量をδAとすれば(1)式が成立する。
NA=Kt×δA・・・(1)
【0025】
一方、図4に示すように、粘弾性体18を組み込んだトラスをモデル化した粘弾性体モデル32は、基本的なトラス構成は一般トラスモデル30と同じであるが、トラス棒材12の両端とジョイント部20〜25の間に粘弾性体18が設けられている。
【0026】
粘弾性体モデル32のジョイント部材20に作用する外力をP、外力Pによりジョイント部材20、22間のトラス棒材12に生じる軸力をNBとする。トラス棒材12の軸剛性をKtとし、粘弾性体18のトラス棒材12の軸線方向の剛性をKnとする。また、トラス棒材12の軸変形量をδB、粘弾性体の軸変形量をδBとすると(2)式が成立する。
NB=Kt×δB+Kn×δB・・・(2)
【0027】
ジョイント部材20、22間に生じる軸力NAとNBは、作用する外力Pが等しいため、いずれも大きさが等しく、(1)(2)式から(3)式が成立する。
Kt×δB+Kn×δB=Kt×δA・・・(3)
【0028】
ここで、Kn×δB>0であるから、(3)式は(4)式に変形できる。
Kt×δB<Kt×δA・・・(4)
よって、δB<δAとなる。
【0029】
図4におけるトラス棒材12に作用する軸力をNBBとすれば(5)式が成立する。
NBB=Kt×δB・・・(5)
従って、(1)(4)式から、NBB<NAが成立する。
この結果は、粘弾性体18をトラス棒材12の両端部に組み込むことで、トラス棒材12に生じる軸力を減らすことが可能となることを示している。即ち、トラス架構32に振動を低減する制振機能を付与することができる。
【0030】
(第2の実施の形態)
図5に示すように、第2の実施の形態に係る建物50は、柱56の間にトラス梁52、54が架け渡されている。トラス梁52、54は、第1の実施の形態で説明したトラス棒材12、ジョイント部材14、及び粘弾性体18(図示せず)で構成されている。
【0031】
これにより、トラス棒材12とジョイント部材14の相対変位(振動)は、トラス梁52、54に設けられた粘弾性体18で吸収され、外力によるエネルギーをトラス架構が吸収する制振機能を備えた構造物50を提供できる。
【符号の説明】
【0032】
10 トラス架構
12 トラス棒材(棒材)
14 ジョイント部材
16 挿入穴
18 粘弾性体
50 建物(構造物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒材と、
前記棒材の端部が移動可能に挿入される挿入穴が複数設けられ、挿入された前記棒材を接合してトラス構造とするジョイント部材と、
前記挿入穴に充填され、前記棒材から前記ジョイント部材へ伝達される外力によるエネルギーを吸収する粘弾性体と、
を有するトラス架構。
【請求項2】
前記粘弾性体は、圧縮変形、引張変形を繰返して外力による前記エネルギーを吸収し、前記棒材の端部を前記挿入穴の中立位置に復帰させる請求項1に記載のトラス架構。
【請求項3】
請求項1、又は請求項2に記載のトラス架構を備えた構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−140757(P2011−140757A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−613(P2010−613)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】