説明

トラック・バス用又はライトトラック用スタッドレスタイヤ

【課題】良好な氷上・雪上での制動力と、耐偏摩耗性、操縦安定性、更には良好な転がり抵抗特性と耐摩耗性までをも両立する高性能なトラック・バス用又はライトトラック用スタッドレスタイヤを提供する。
【解決手段】炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸の亜鉛塩、又は炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸及び酸化亜鉛を含み、ゴム成分100質量%中にブタジエンゴムを35質量%以上含有するゴム組成物をトレッドに用いたトラック・バス用又はライトトラック用スタッドレスタイヤに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラック・バス用又はライトトラック用スタッドレスタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
スパイクタイヤによる粉塵公害を防止するために、スパイクタイヤの使用を禁止することが法制化され、寒冷地では、スパイクタイヤに代わってスタッドレスタイヤが使用されるようになった。スタッドレスタイヤの氷上や雪上でのグリップ性能を向上させるためには、低温における弾性率を低下させて粘着摩擦を向上させる方法がある。特に、氷上での制動力は、ゴムと氷との有効接触面積による影響が大きいため、有効接触面積を大きくするために、低温で柔軟なゴムが求められている。
【0003】
他方、オイル量を増量するなどの方法により、単にゴムの硬度のみを下げてしまうと、トラック・バス又はライトトラック用スタッドレスタイヤでは、トレッド部分の耐偏摩耗性や操縦安定性が低下する。
【0004】
更に、近年、地球温暖化の影響又は夏用タイヤへのはきかえが面倒なのではきつぶすなどの理由により、氷雪路以外をスタッドレスタイヤで走行することも多く、スタッドレスタイヤのトレッド部分の耐摩耗性がより一層求められるようになってきている。特に、トラック・バス用又はライトトラック用スタッドレスタイヤでは、トレッド部分の耐摩耗性は特に重要な特性であって、前述したように、単にオイル量を増量するなどの方法により、氷上や雪上での制動性能を上げようとすると、耐摩耗性が低下するという問題が生じる。
【0005】
一般に、スタッドレスタイヤのトレッドゴムは、強度が高いがガラス転移温度が低く柔軟であるとの理由から、天然ゴムやブタジエンゴムを主成分として作製されることが多い(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、天然ゴムやブタジエンゴムは、硫黄加硫すると加硫戻り(リバージョン)を生じる。この現象は、ゴムが劣化したり、架橋状態が悪くなることであって、この際に低温での弾性率も低下するが、硬度も必要以上に低下し、操縦安定性や耐摩耗性が低下することが、本発明者らの研究の結果わかってきた。加えて、加硫戻りが起こると、不必要に高温のtanδが増大し、トラック・バス又はライトトラックでは、非常に重要な特性である燃費が低下することになる。
【0006】
スタッドレスタイヤに限らず、タイヤの生産性をあげるために、より高温で加硫が行われる場合もあるが、このような場合には、特に前記現象がより顕著になる。また、加硫戻りにより、更に耐摩耗性や燃費も低下するという問題も存在する。
【0007】
また、従来、タイヤなどのゴム製品に用いられる加硫可能なゴム組成物の加硫戻りを抑制し、耐熱性を改善する方法としては、加硫剤である硫黄に対する加硫促進剤の配合量を増量させる方法や加硫促進剤としてチウラム系の加硫促進剤を配合する手法などが知られている。また、−(CH−S−等で表される長鎖の架橋構造を形成できる架橋剤として、フレキシス社製のPERKALINK900やDuralink HTS、バイエル社製のVulcuren KA9188などが知られており、これらの架橋剤をゴム組成物に配合することで、ゴム組成物の加硫戻りを抑制できることが知られている。しかし、これらの手法を用いると、加硫戻りを抑制することはできるが、低燃費性や耐摩耗性が低下し、性能バランスが悪化するという問題があった。更には、これらの手法は、天然ゴムやイソプレンゴムの加硫戻りの抑制には効果があるが、ブタジエンゴムでは効果がない、又は少ないという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−169500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記課題を解決し、良好な氷上・雪上での制動力と、耐偏摩耗性、操縦安定性、更には良好な転がり抵抗特性と耐摩耗性までをも両立する高性能なトラック・バス用又はライトトラック用スタッドレスタイヤを提供することを目的とする。更には、該スタッドレスタイヤをより高い生産効率で生産して、より安価に消費者に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸の亜鉛塩、又は炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸及び酸化亜鉛を含み、ゴム成分100質量%中にブタジエンゴムを35質量%以上含有するゴム組成物をトレッドに用いたトラック・バス用又はライトトラック用スタッドレスタイヤに関する。
上記ゴム組成物が、更にシリカをゴム成分100質量部に対して5質量部以上含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸の亜鉛塩、又は炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸及び酸化亜鉛を含み、ゴム成分100質量%中にブタジエンゴムを35質量%以上含有するゴム組成物をトレッドに使用することにより、良好な氷上・雪上での制動力と、耐偏摩耗性、操縦安定性、更には良好な転がり抵抗特性と耐摩耗性までをも両立する高性能なトラック・バス用又はライトトラック用スタッドレスタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のトラック・バス用又はライトトラック用スタッドレスタイヤは、炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸の亜鉛塩、又は炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸及び酸化亜鉛を含み、ゴム成分100質量%中にブタジエンゴム(BR)を35質量%以上含有するゴム組成物をトレッド使用したものである。
【0013】
前記ゴム組成物は、ゴム成分100質量%中にBRを35質量%以上含有する。BRの含有量の下限は、40質量%が好ましく、45質量%がより好ましく、55質量%が最も好ましい。上限は、80質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、65質量%が最も好ましい。35質量%未満であると、ガラス転移温度を低くしにくくなり、氷上・雪上での制動力が低下し、80質量%を超えると、氷雪上性能が良好となるが、機械的強度や耐摩耗性が低下する傾向がある。本発明では、BRの比率をより高くし、耐摩耗性と氷雪上性能を両立することができる。
【0014】
BRとしては、シス含量が95質量%以上であって、25℃における5%トルエン溶液粘度が80cps以上のものを配合してもよい。このようなBRを配合することにより、耐摩耗性向上効果が向上する。トルエン溶液粘度は、200cps以下が好ましい。200cpsを超えると、粘度が高くなりすぎ、加工性が低下したり、他のゴム成分と混ざりにくくなる傾向にある。粘度の下限は110cps、上限は150cpsが好ましい。
【0015】
BRの分子量分布(Mw/Mn)は、3.0以下のものを使用すると、耐摩耗性を改善できる。更に、Mw/Mnが3.0〜3.4のBRを使用してもよい。このようなBRを使用することにより、加工性の改善と耐摩耗性の改善を両立することができる。
【0016】
ゴム成分としてBRと他のゴム成分の混合物を使用する場合、他のゴム成分としては、特に限定されないが、例えば、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)などが挙げられる。なかでも、環境に配慮することも、将来の石油供給量の減少に備えることもでき、更に、耐摩耗性を向上させることもできるという理由から、NR及び/又はENRを含むことが好ましい。
【0017】
前記ゴム成分は、アルコキシル基、アルコキシシリル基、エポキシ基、グリシジル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基及びシラノール基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基(以下、官能基とする)を含んでいてもよい。これらの官能基を有するゴムは、市販のものを用いてもよいし、適宜変性して用いてもよい。
【0018】
BRと、NR及び/又はIRとを混合して使用する場合には、ゴム成分中に、これらのゴム成分の配合量を合計70質量%以上含有することが好ましい。70質量%以上とすることにより、良好な氷雪上性能と耐摩耗性が達成でき、耐加硫戻り性の効果も大きくなる。これらのゴム成分の配合量は、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0019】
本発明のゴム組成物は、(a)炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸の亜鉛塩、又は(b)炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸及び酸化亜鉛を含有する。(a)の亜鉛塩の使用や(b)の混合物の使用により、BRの耐加硫戻り性を高めるとともに、シリカを配合した組成物の加工性も改善でき、シリカを配合した組成物のリバージョンをより効果的に抑制できる。なお、本発明のゴム組成物は、(a)の亜鉛塩と(b)の混合物との両方を含んでもよい。
【0020】
(a)の亜鉛塩における脂肪族カルボン酸、(b)における脂肪族カルボン酸は、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、シクロアルキル基などの環状構造でもよい。また飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれでもよい。また、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸等の脂肪族ポリカルボン酸のいずれでもよい。(a)、(b)は液状の場合もあり、ハンドリング性が悪化することがあるが、その場合、シリカ等に担持したものを使用することもできる。
【0021】
(a)、(b)における脂肪族カルボン酸の炭素数は、4以上であり、好ましくは6以上、より好ましくは7以上である。脂肪族カルボン酸の炭素数が4未満では、分散性が悪化する傾向がある。脂肪族カルボン酸の炭素数は、12以下であり、好ましくは10以下、より好ましくは9以下である。脂肪族カルボン酸の炭素数が12を超えると、加硫戻りを充分に抑制できない可能性がある。
【0022】
(a)、(b)における脂肪族カルボン酸としては、例えば、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、イソ酪酸、イソペンタン酸、ピバリン酸、イソヘキサン酸、イソヘプタン酸、イソオクタン酸、ジメチルオクタン酸、イソノナン酸、イソデカン酸、イソウンデカン酸、イソドデカン酸、2−エチル酪酸、2−エチルヘキサン酸、2−ブチルオクタン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸等の飽和脂肪酸;ブテン酸、ペンテン酸、ヘキセン酸、ヘプテン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。なかでも、加硫戻り抑制効果が高い点、また工業的に豊富で安価に得られる点から、2−エチルヘキサン酸が特に好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
(b)における酸化亜鉛としては、従来からゴム工業で使用されるものが挙げられ、具体的には、三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛1号、2号などが挙げられる。
【0024】
(a)の亜鉛塩中の亜鉛含有率、(b)の混合物の合計量中の亜鉛含有率は、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。3質量%未満では、加硫戻りを充分に抑制できない傾向がある。また、該亜鉛含有率は95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下が更に好ましく、30質量%以下が最も好ましい。95質量%を超えると、加工性が低下する傾向があるとともに、コストが不必要に上昇する。
【0025】
(a)の亜鉛塩の含有量、(b)の混合物の含有量(脂肪族カルボン酸及び酸化亜鉛の合計量)は、ゴム成分100質量部に対して0.2質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上、最も好ましくは1.4質量部以上である。0.2質量部未満では、十分な耐加硫戻り性が確保できず、充分な改善効果等が得られにくい。該含有量は10質量部以下、好ましくは7質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。10質量部を超えると、ブリードやブルームする傾向が大きくなるとともに、添加量に対して効果の向上が小さくなり、不必要にコストが増大する傾向もある。
【0026】
なお、ゴム組成物が(a)の亜鉛塩と(b)の混合物との両方を含む場合、上記亜鉛含有率は、(a)及び(b)の合計量100質量%中の亜鉛含有率を意味し、上記含有量は、(a)及び(b)の合計量を意味する。他方、本発明のゴム組成物には、氷上でのグリップ力を向上させるために酸化亜鉛ウィスカを配合してもよい。酸化亜鉛ウィスカを含む場合、上記含有量、上記亜鉛含有率は該酸化亜鉛ウィスカの配合量や亜鉛量を含めない値を意味する。酸化亜鉛ウィスカを含む場合は、それ以外の酸化亜鉛の配合量や(a)、(b)における含有量を減じたり、配合しなくても構わない。
【0027】
オイル又は可塑剤を含有する場合には、これらの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、2質量部以下が更に好ましく、全く含有しないことが最も好ましい。これらの成分を多く含有すると、耐摩耗性が低下してしまう上に、耐加硫戻り性も低下する場合がある。また、耐摩耗性低下が比較的少ないアロマオイルや代替アロマオイルでも、低温特性が低下して、氷雪上性能が悪化したり、高温でのtanδが大きくなって転がり抵抗が特性が悪化する場合がある。
【0028】
前記ゴム組成物は、更にシリカを含有することが好ましい。シリカを配合することにより、スタッドレスタイヤとして重要な氷上制動性能や氷上操縦安定性を向上させることができる。特に、(a)の亜鉛塩や(b)の混合物は、シリカ配合の加工性を改善するとともに、シリカ配合でのリバージョンをより効果的に抑制することができる。シリカとしては、例えば、湿式法で製造されたシリカ、乾式法で製造されたシリカなどが挙げられるが、特に制限はない。
【0029】
シリカのチッ素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは40m/g以上、より好ましくは50m/g以上、更に好ましくは100m/g以上、特に好ましくは130m/g以上である。シリカのNSAが40m/g未満では、補強効果が不充分となるおそれがある。シリカのNSAは、好ましくは450m/g以下、より好ましくは400m/g以下、更に好ましくは300m/g以下、特に好ましくは200m/g以下である。シリカのNSAが450m/gを超えると、分散性が低下し、ゴム組成物の発熱性が増大してしまうため、好ましくない。
【0030】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上、最も好ましくは20質量部以上である。5質量部未満では、氷上制動性能や氷上操縦安定性を向上させにくくなる傾向がある。また、シリカの含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは120質量部以下、更に好ましくは100質量部以下である。150質量部を超えると、加工性及び作業性が悪化するため、好ましくない。
【0031】
シランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができ、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリメトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィドなどのスルフィド系、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどのグリシドキシ系、3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、2−クロロエチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリエトキシシランなどのクロロ系などが挙げられる。これらのシランカップリング剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上である。1質量部未満では、シランカップリング剤を含有することによる効果が充分ではない。また、シランカップリング剤の含有量は、同じくシリカ100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。20質量部を超えると、コストが増大する割にカップリング効果が得られず、補強性及び耐摩耗性が低下するため、好ましくない。
【0033】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、従来ゴム工業で使用される配合剤、例えば、カーボンブラックや卵殻紛などの充填剤、軟化剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、老化防止剤、加硫促進助剤、加硫促進助剤としての酸化亜鉛、ステアリン酸、過酸化物や硫黄などの加硫剤、加硫促進剤などを含有してもよい。
【0034】
カーボンブラックとしては、平均粒子径が22nm以下及び/又はDBP吸油量が115ml/100g以上のものが好ましい。このようなカーボンブラックを配合することによって、トラック・バス用又はライトトラック用スタッドレスタイヤとして必要な補強性をトレッドに付与し、ブロック剛性、操縦安定性、耐偏摩耗性、耐摩耗性を確保することができる。また、カーボンブラックを配合したゴム組成物は、加工性が低下しやすいが、本発明で使用するゴム組成物では、(a)の亜鉛塩や(b)の混合物を含有するので、それによって未加硫ゴムの粘度を低下させ、加工性を改善することができる。
【0035】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは15質量部以上、より好ましくは25質量部以上、更に好ましくは35質量部以上、最も好ましくは40質量部以上である。15質量部未満では、補強性が不足し、必要なブロック剛性、操縦安定性、耐偏摩耗性、耐摩耗性を確保しにくくなる傾向がある。また、カーボンブラックの含有量は、好ましくは120質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは60質量部以下である。120質量部を超えると、加工性が悪化したり、硬度が高くなりすぎる。
【0036】
卵殻紛は、前記ゴム成分に対して配合されることで、(A)鶏卵殻紛自体が氷雪路面を引っ掻く効果、(B)鶏卵殻紛粒子に存在する細孔が氷雪路面の水を吸水し除去する効果、(C)鶏卵殻紛粒子が脱落することによりできた細孔が氷雪路面の水を吸水し除去する効果、及び(D)鶏卵殻紛粒子が脱落することによりできた細孔の淵部分がエッジとしてはたらき、氷雪路面を引っ掻く効果という(A)〜(D)の効果が得られる。このように、氷上性能の向上には、引っかき効果とともに、鶏卵殻紛粒子中に存在する細孔又は鶏卵殻紛粒子の脱落することにより得られる細孔による水分の除去効果が大きく起因している。
【0037】
卵殻粉は、(1)平均粒子径が20μm以下の鶏卵殻粉と(2)平均粒子径が40〜200μmの鶏卵殻粉とからなることが好ましい。
【0038】
卵殻紛(1)のように粒子径の小さいものを配合すると、それより粒子径の大きいものを同量配合した場合よりも、より多くの凹凸がゴム組成物表面に生じるため、引掻き効果を向上させるという効果が得られる。
【0039】
また、卵殻紛(2)のように粒子径が大きいものを配合すると、ゴム組成物表面の表面粗さを大きくして、引掻き効果を向上させるという効果が得られる。
【0040】
卵殻紛(1)及び(2)を組み合わせることで、トレッド表面に大小の細孔を生じ、小さい孔は淵部分を多く生じさせることから引掻き効果を生じさせ、大きな孔は吸水効果を生じさせることで、鶏卵殻紛(1)及び(2)の相乗効果が生じ、氷上性能が大幅に向上する。
【0041】
卵殻粉(1)の平均粒子径は、20μm以下、好ましくは10μm以下である。20μmを超えると、生じる細孔が大きくなり淵部分が減少するため、十分な引掻き効果が得られない傾向がある。また、卵殻粉(1)の平均粒子径は、3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましい。3μm未満では、得られる凹凸がフラットになり、氷上性能が期待できない傾向がある。なお、卵殻粉(1)の平均粒子径は、粒度分布測定器を用いて測定される。
【0042】
卵殻粉(1)及び(2)の合計含有量に対する卵殻粉(1)の含有率は、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。含有率が30質量%未満では、小さな孔が少なくなり、十分なエッジ効果が得られない傾向がある。また、卵殻粉(1)の含有率は、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。含有率が70質量%を超えると、大きな孔が少なくなり、十分な吸水効果が得られない傾向がある。
【0043】
卵殻粉(2)の平均粒子径は、40μm以上、好ましくは45μm以上、より好ましくは50μm以上である。40μm未満では、十分な大きな孔が無くなり、十分な吸水効果が得られない傾向がある。また、卵殻粉(2)の平均粒子径は、200μm以下、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは80μm以下である。200μmを超えると、耐摩耗性が低下する、あるいは、一定以上の凹凸があることで、ゴムと氷雪路面との接触面積が極端に少なくなり、逆に氷上性能を低下させる傾向がある。なお、卵殻粉(2)の平均粒子径は、粒度分布測定器を用いて測定される。
【0044】
卵殻粉の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上である。5質量部未満では、氷上性能が向上しない傾向がある。また、卵殻粉の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは25質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。25質量部を超えると、ゴムへの混練り時に分散が悪くなり、耐摩耗性が低下する傾向がある。なお、鶏卵殻紛の含有量とは、卵殻紛(1)及び(2)の含有量を合計したものをいう。
【0045】
加硫促進助剤としての酸化亜鉛としては、例えば、上述した(b)における酸化亜鉛と同様のものが挙げられる。加硫促進助剤としての酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上である。1質量部未満では、配合による効果が得られないおそれがある。また、該含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下である。10質量部を超えると、配合による効果の上昇が見られず、コストアップする傾向がある。
【0046】
本発明で使用するゴム組成物の硬化前の粘度は、130℃のムーニー粘度で75以下が好ましく、70以下がより好ましく、65以下が更に好ましい。
【0047】
前記ゴム組成物の硬化物の硬度は、JIS−A硬度で好ましくは58度以上、より好ましくは60度以上、更に好ましくは62度以上、最も好ましくは64度以上である。硬度を58度以上にすることによって、良好なブロック剛性を確保し、操縦安定性と良好な耐偏摩耗性、耐摩耗性を確保することができる。一方、硬度は、好ましくは75度以下、より好ましくは70度以下、更に好ましくは67度以下である。硬度を75度以下にすることによって、優れた氷雪上性能を達成することができる。
【0048】
前記ゴム組成物を架橋した架橋物のtanδは、温度70℃、初期歪み10%、動歪み2%及び周波数10Hzの条件下で測定したtanδが0.17以下であることが好ましく、0.15以下であることがより好ましく、0.13以下であることが更に好ましい。
【0049】
本発明のトラック・バス用又はライトトラック用スタッドレスタイヤは、前記ゴム組成物から作製したタイヤトレッドを有する。ここで、ライトトラックとは、SUV、バン(大型のコンベンショナルバンとミニバン)、ピックアップトラックなどである。
【0050】
該スタッドレスタイヤは、前記ゴム組成物を用いて、通常の方法で製造される。すなわち、必要に応じて前記配合剤を適宜配合した前記ゴム組成物を用いてタイヤトレッドを作製し、他の部材とともに貼り合わせ、タイヤ成型機上にて加熱加圧することにより製造することができる。
【実施例】
【0051】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0052】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:RSS#3
BR1:宇部興産(株)製のBR150B(シス1,4結合量97%、ML1+4(100℃)40、25℃でのトルエン溶液粘度48cps、Mw/Mn3.3)
BR2:宇部興産(株)製のBR360L(シス1,4結合量98%、ML1+4(100℃)51、25℃でのトルエン溶液粘度124cps、Mw/Mn2.4)
BR3:宇部興産(株)製のBR A(試作品、シス1,4結合量98%、ML1+4(100℃)47、25℃でのトルエン溶液粘度122cps、Mw/Mn3.3)
カーボンブラック:三菱化学(株)社製のダイアブラックA(N110(SAF)カーボン、平均粒子径19nm、DBP吸油量116ml/100g、窒素吸着比表面積142m/g)
シリカ:デグッサ社製のUltrasil VN3(NSA:175m/g)
卵殻粉1:キューピー(株)製の卵カルシウム(カルホープ)(平均粒子径10μm)
卵殻粉2:キューピー(株)製の卵カルシウム(カルホープ)(平均粒子径50μm)
ステアリン酸:日油(株)製の桐
リバージョン防止剤1:シルウントザイラッハー社製のストラクトールZEH(2−エチルヘキサン酸亜鉛、炭素数:8、亜鉛含有率:23質量%)
リバージョン防止剤2:フレキシス社製のパーカリンク900(1,3−ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼン)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエースワックス
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤BBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0053】
実施例1〜9及び比較例1〜6
表1に示す配合処方にしたがい、バンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の表1の工程1に示す配合量の薬品を投入して、排出温度が約150℃となるよう5分間混練りした。その後、工程1で得られた混合物に対して、工程2に示す配合量の硫黄及び加硫促進剤を加え、オープンロールを用いて、約80℃で3分間混練りし、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物をトレッド形状に成形して、他のタイヤ部材と貼り合せ、150℃、25kgfの条件にて、35分間加硫することにより、各トラック・バス用スタッドレスタイヤ(タイヤサイズ:11R22.5)を作製した。
【0054】
以下に示す方法により、各サンプルを評価した。
【0055】
(耐加硫戻り性)
キュラストメーターを用いて、160℃における未加硫ゴム組成物の加硫曲線を測定した。最大トルク上昇値(MH−ML)値を100として、加硫開始時点から20分後のトルク上昇値(M(20分)−ML)を相対値で示し、相対値を100から引いた値をリバージョン率とした。リバージョン率が小さいほど、リバージョンが抑制され、良好であることを示す。
【0056】
(硬度)
JIS K6253の「加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法」に従って、タイプAデュロメーターにより、各加硫ゴム試験片(トレッド)の硬度を測定した。
【0057】
(氷雪上性能)
各スタッドレスタイヤを用いて、下記条件で氷雪上において実車性能を評価した。なお、冬用空気入りタイヤとしては11R22.5のトラック・バス用スタッドレスタイヤを製造し、これらのタイヤを4トン車に装着した。試験場所は、住友ゴム工業株式会社の北海道旭川テストコースで行い、氷上気温は−1〜−6℃、雪上気温は−2〜−10℃であった。
・制動性能(氷上制動停止距離):時速30km/hでロックブレーキを踏み停止させるまでに要した氷上の停止距離を測定した。そして、比較例1をリファレンスとして、下記式から算出した。
(制動性能指数)=(比較例1の制動停止距離)/(停止距離)×100
指数が大きいほど、制動性能が良好であることを示す。
・ハンドリング性能:同じ車輌を使用して、発進、加速及び停止についての測定を行い、フィーリングによる評価も行った。フィーリング評価は、比較例1を100とした基準とし、明らかに性能が向上したとテストドライバーが判断したものを120、これまで全く見られなかった良好なレベルであるものを140とするような評点付けを行った。
【0058】
(耐摩耗性)
各トラック・バス用スタッドレスタイヤのトレッドから厚さ5mmの試験片を切り出し、(株)岩本製作所製のランボーン摩耗試験機を用いて、表面回転速度50m/分、付加荷重3.0kg、落砂量15g/分で、スリップ率20%の条件下で摩耗量を測定し、それらの摩耗量の逆数をとった。比較例1の摩耗量の逆数を100とし、そのほかの摩耗量の逆数を指数で表した。指数が大きいほど、耐摩耗性に優れることを示す。
【0059】
(転がり抵抗)
各トラック・バス用スタッドレスタイヤのトレッドからサンプルを切り出し、(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメーターVESを用いて、温度70℃、初期歪10%、動歪2%及び周波数10Hzの条件下で、損失正接(tanδ)を測定した。
【0060】
(ブルーム)
加硫後、目視にてブルーム状態を確認し、明らかに析出しているものを×、拡大鏡で見ると析出が確認されるものを△、ブルームが見られないものを〇とした。
【0061】
(粘度・加工性)
粘度は、JIS K 6300−1「未加硫ゴム−物理特性−第1部:ムーニー粘度計による粘度及びスコーチタイムの求め方」に準じて、ムーニー粘度試験機を用いて、1分間の予熱によって熱せられた130℃の温度条件にて、小ローターを回転させ、4分間経過した時点での未加硫ゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4/130℃)を測定した。なお、小数点以下は、四捨五入した。
加工性は、ムーニー粘度に基づき、76以上のものを×、71以上75以下のものを△、66以上70以下のものを〇、65以下のものを◎とした。
【0062】
上記各試験の評価結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
実施例のサンプルでは、いずれもリバージョン率が低く、硬度も適正であって、高いハンドリング性能と氷上制動性能、耐摩耗性能を両立していた。特にBR比率の高い実施例3〜9では、いずれもリバージョン率が低く、特に高いハンドリング性能と氷上制動性能を達成し、BR比率が高いにもかかわらず、耐摩耗性の低下を防止していた。
【0065】
更に、実施例6及び8では、シス含量95%以上、25℃におけるトルエン溶液粘度が80〜200cps、更には110〜150cpsのBRで、Mw/Mn3.0以下のBR、実施例7及び9では、Mw/Mn3.0〜3.4のBRを配合して、耐摩耗性が向上していた。特に加工性が改善されることにより、シリカの分散状態を良好にし、シリカの配合量が多い配合における耐摩耗性も改善されていた。また、炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸の亜鉛塩により、加硫戻りを改善するだけでなく、加工性も改善していた。
【0066】
炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸の亜鉛塩を含有しない比較例3〜6では、耐摩耗性が低下した。また硬度が低く、それに伴ってハンドリング性能や耐偏摩耗性も低下した。更に、加工性も非常に悪いものであった。比較例6では、別のタイプのリバージョン防止剤を用いたが、NRでは効果があるものの、BRで効果が出ないため、必要な性能を得ることができなかった。
【0067】
炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸の亜鉛塩と卵殻粉を含有しない比較例2では、耐摩耗性は良好であったが、氷上性能が著しく低いものであった。また、硬度も低く、転がり抵抗特性も悪く、更に加工性も悪いものであった。
【0068】
炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸の亜鉛塩を含有しない比較例1では、耐摩耗性があまり良くなく、転がり抵抗特性も悪いものであった。また、硬度が低く、それに伴ってハンドリング性能や耐偏摩耗性も良くないものであった。更に加工性も悪いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸の亜鉛塩、又は炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸及び酸化亜鉛を含み、ゴム成分100質量%中にブタジエンゴムを35質量%以上含有するゴム組成物をトレッドに用いたトラック・バス用又はライトトラック用スタッドレスタイヤ。
【請求項2】
ゴム組成物が、更にシリカをゴム成分100質量部に対して5質量部以上含有する請求項1記載のトラック・バス用又はライトトラック用スタッドレスタイヤ。

【公開番号】特開2010−285112(P2010−285112A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141480(P2009−141480)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】