説明

トラバーサ装置

【課題】ランニングコスト及び設置コストの削減を図ることのできるトラバーサ装置を提供すること。
【解決手段】搬送対象Wが載置される荷台部3を有し、搬送対象Wの搬送先に向けて低くなるように傾斜した傾斜レール1に沿って移動するキャリア2に、前記傾斜レール1に接し該キャリア2の移動に伴って回転する回転体5と、前記回転体5の回転に連動してスライドするスライダ6と、前記スライダ6のスライドに伴って弾性変形する弾性部材7とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、ワークの搬送に用いられるトラバーサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のトラバーサ装置として、搬入口P1にあるゴンドラ(荷台部)51に搬送対象であるワークWを載せると、ゴンドラ51を吊り下げ保持する台車部52が水平に延びるレール53上を走行して搬出口P2まで移動し、これにより搬出口P2に至ったゴンドラ51からワークWを下ろすと、台車部52が逆走してゴンドラ51が元の搬入口P1にまで自動的に戻るように構成されたものがある(図8、図9(A)及び(B)参照)。
【0003】
このトラバーサ装置では、上記の作動をするのに外部からの電力供給等を不要とするべく、搬入口P1においてゴンドラ51にワークWが載せられると、このワークWによってゴンドラ51に掛かる重力が、レール53に載った台車部52の車輪(回転体)を回転させて台車部52を搬入口P1から搬出口P2に移動させる力と、台車部52に設けられたばね54を弾性変形させる力とに機械的に変換されて働くようにしてある。
【0004】
また、搬出口P2にまで移動したゴンドラ51からワークWを下ろすと、弾性変形した状態のばね54の弾性復元力が、ゴンドラ51を上昇させる力と、台車部52の車輪を回転させて台車部52を搬入口P1にまで戻す力とに機械的に変換されて働くようにしてある。
【0005】
すなわち、上記トラバーサ装置では、搬入口P1においてワークWがゴンドラ51に載置されると、このワークW(の位置エネルギ)が往路を進むゴンドラ51の動力源となり、搬出口P2においてゴンドラ51からワークWが下ろされると、弾性変形した状態のばね54が復路を進むゴンドラ51の動力源となる。従って、斯かるトラバーサ装置では、ゴンドラ51にワークWを載せ下ろしするのみでゴンドラ51によるワークWの搬送及びゴンドラ51の帰還を自動的に行わせることができ、モータ等の他の動力源は不要であるため、ランニングコストを極めて低くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−290446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来のトラバーサ装置には以下のような問題がある。すなわち、このトラバーサ装置では、移動中のゴンドラ51が揺れるとその移動が妨げられるため、ゴンドラ51を吊り下げ保持する保持体55の昇降をガイドする昇降用ガイド56を鉛直方向に延ばした状態で台車部52に設けることにより、ゴンドラ51の揺れを防止するようにしてあり、さらに、昇降用ガイド56の上部にばね54を同じく鉛直方向に取り付けてある。
【0008】
斯かる構造を採用した結果、ワークWの搬送距離が長くなる場合、ゴンドラ51の昇降距離も長くなり、搬入口P1に位置するゴンドラ51におけるワークWの搬入高さh1と、搬出口P2に位置するゴンドラ51におけるワークWの搬出高さh2との間に大きな高低差ができてしまい、搬入口P1または搬出口P2の少なくとも何れか一方に、ワークWを昇降させるリフター装置を設けなければ、搬入口P1におけるゴンドラ51へのワークWの搬入あるいは搬出口P2におけるゴンドラ52からのワークWの搬出を行えなくなり兼ねず、リフター装置の設置はコストアップ要因となる。
【0009】
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、ランニングコスト及び設置コストの削減を図ることのできるトラバーサ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係るトラバーサ装置は、搬送対象が載置される荷台部を有し、搬送対象の搬送先に向けて低くなるように傾斜した傾斜レールに沿って移動するキャリアに、前記傾斜レールに接し該キャリアの移動に伴って回転する回転体と、前記回転体の回転に連動してスライドするスライダと、前記スライダのスライドに伴って弾性変形する弾性部材とを設ける(請求項1)。
【0011】
上記トラバーサ装置が、前記傾斜レールを支持する支持体を、該傾斜レールに対して該傾斜レールが延びる方向と垂直な軸まわりに揺動可能な状態で連結する連結手段を備えていてもよい(請求項2)。
【0012】
上記トラバーサ装置において、前記荷台部は、前記傾斜レールよりも下方の位置に吊り下げ保持されていてもよい(請求項3)。
【0013】
上記トラバーサ装置が、前記回転体の回転を減速させて前記スライダに伝達する減速機構を備えていてもよい(請求項4)。
【発明の効果】
【0014】
各請求項に係る発明では、ランニングコスト及び設置コストの削減を図ることのできるトラバーサ装置が得られる。
【0015】
すなわち、各請求項に係る発明のトラバーサ装置では、荷台部に搬送対象を載せ下ろしするのみでキャリアによる搬送対象の搬送及びキャリアの帰還を自動的に行わせることができ、モータ等の他の動力源は不要であるため、ランニングコストを極めて低くすることができる。
【0016】
しかも、このトラバーサ装置は、ゴンドラを上下動させる上記従来のトラバーサ装置とは異なり、キャリアが走行するレールを傾斜させるものであるので、より軽量なワークの搬送を可能とするばかりでなく、搬入口に位置するキャリアにおける搬送対象の搬入高さと、搬出口に位置するキャリアにおける搬送対象の搬出高さとの間の高低差を小さく抑えることができる。従って、搬入口または搬出口において、搬送対象を昇降させるリフター装置の設置は不要であり、このことは設置コストの削減へと繋がる。
【0017】
請求項2に係る発明のトラバーサ装置では、搬送対象の搬送距離(傾斜レール)が長くなっても、傾斜レールの傾斜角度を連結手段によって簡単に調整することができ、この調整は、傾斜レールの支持高さを調整する高さ調整機構を支持体に設けることにより一層簡便となる。
【0018】
請求項3に係る発明のトラバーサ装置では、傾斜レールをある程度高い位置に設置することにより、トラバーサ装置の不使用時には傾斜レール下のスペースを他の作業者の通行等にも用いることができるメリットが得られる。
【0019】
請求項4に係る発明のトラバーサ装置では、減速機構によりスライダのスライド範囲を狭めることによって、装置のコンパクト化を大いに図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態に係るトラバーサ装置の構成を概略的に示す正面図である。
【図2】キャリアが搬入口にあるときの前記トラバーサ装置の構成を概略的に示す部分透視右側面図である。
【図3】キャリアが搬出口にあるときの前記トラバーサ装置の構成を概略的に示す部分透視左側面図である。
【図4】前記トラバーサ装置の要部の構成を概略的に示す説明図である。
【図5】(A)及び(B)は、前記トラバーサ装置の要部の構成を概略的に示す部分透視平面図及び横断面図である。
【図6】(A)〜(C)は、図4のA−A線切断端面図、B−B線切断端面図及びC−C線切断端面図である。
【図7】(A)〜(C)は、前記トラバーサ装置のベルト固定用部材の構成を概略的に示す横断面図、説明図及び縦断面図である。
【図8】従来のトラバーサ装置の構成を概略的に示す説明図である。
【図9】従来のトラバーサ装置の要部の構成を概略的に示す正面図及び側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら以下に説明する。
【0022】
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係るトラバーサ装置は、傾斜レール1に沿って移動するキャリア2を備え、搬入口P1にあるキャリア2の荷台部(ゴンドラ)3に搬送対象であるワークWが載せられると、荷台部3を吊り下げ保持するキャリア本体4は、ワークWの搬送先(搬出口P2)に向けて低くなるように傾斜した傾斜レール1上を移動して搬出口P2まで移動し、これにより搬出口P2に至った荷台部3からワークWを下ろすと、キャリア本体4が逆走して荷台部3が元の搬入口P1にまで自動的に戻る。
【0023】
上記のような動きを実現するために、キャリア本体4には、傾斜レール1に接しキャリア本体4(キャリア2)の移動に伴って回転する回転体5と、回転体5の回転に連動してスライドするスライダ6と、スライダ6のスライドに伴って弾性変形するばね(弾性部材の一例)7とが設けられている(図4参照)。
【0024】
以下、トラバーサ装置のより具体的な構成を、その作動とともに説明する。
【0025】
本例のトラバーサ装置では、搬入口P1において荷台部3にワークWが載せられると、このワークWの重量によってキャリア本体4が傾斜レール1上を搬入口P1から搬出口P2まで滑り落ち、また、この移動に伴って、キャリア2に設けられたばね7が弾性変形する。
【0026】
すなわち、まず、図4、図5(B)及び図6(B)に示すように、回転体5はプーリー(歯付きプーリー)であり、この回転体5と噛み合うベルト(例えば、商品名:アイアンラバーベルト、NOK(株)製)8が傾斜レール1に張設されている。尚、ベルト8の両端は、図1及び図7(A)〜(C)に示すように、ベルト固定用部材9によって固定される。
【0027】
そして、回転体5の回転は、キャリア本体4に設けられた減速機構10によって減速されつつスライダ6に伝達される。ここで、図4、図5(B)、図6(A)及び(B)に示すように、この減速機構10は、回転体5と同軸かつ一体的に設けられた小歯車11と、この小歯車11と噛み合い小歯車11よりも大径の大歯車12と、この大歯車12と同軸かつ一体的に設けられ大歯車12よりも小径のピニオン13とによって構成され、ピニオン13と噛み合うラック14がスライダ6に設けられている。尚、回転体5、小歯車11、大歯車12、ピニオン13はそれぞれ、傾斜レール1の長手方向と直角な横軸まわりに回転する。
【0028】
スライダ6は、キャリア本体4に設けられたリニアガイド15によってガイドされつつスライドする(図6(A)参照)。また、スライダ6は、ばね7の一端を保持する保持部16を有し、ばね7の他端は、キャリア本体4に設けられた保持部17によって保持される(図4及び図5(A)参照)。
【0029】
従って、搬入口P1においてワークWが荷台部3に載置され、キャリア本体4が搬入口P1から搬出口P2へと移動する際、ベルト8と噛み合う回転体5が回転し、この回転は、小歯車11、大歯車12、ピニオン13へと伝達され、ラック14によりスライダ6のスライドに変換される。そして、スライダ6のスライドによって保持部16は保持部17に近づく方向に移動し、これによりばね7は縮む方向に弾性変形する。
【0030】
搬入口P1から搬出口P2へと向けて移動するキャリア本体4は、図1に示すように、傾斜レール1に設けられたストッパ18により搬出口P2で停止する。そして、搬出口P2にまで移動したキャリア2の荷台部3からワークWを下ろすと、弾性変形した状態のばね7の弾性復元力により、スライダ6が上記と逆方向にスライドし、このスライドは、ラック14、ピニオン13、大歯車12、小歯車11を介して回転体5に伝達され、回転体5が上記と逆まわりに回転することにより、キャリア本体4は搬入口P1にまで戻ることになる。
【0031】
搬出口P2から搬入口P1へと向けて移動するキャリア本体4は、図1に示すように、傾斜レール1に設けられたストッパ19により搬入口P1で停止し、次のワークWの搬送が可能な状態となる。
【0032】
斯かるトラバーサ装置では、荷台部3にワークWを載せ下ろしするのみでキャリア2によるワークWの搬送及びキャリア2の帰還を自動的に行わせることができ、モータ等の他の動力源は不要であるため、ランニングコストを極めて低くすることができる。
【0033】
しかも、このトラバーサ装置は、ゴンドラを上下動させる上記従来のトラバーサ装置とは異なり、キャリア本体4が走行するレール1を傾斜させるものであるので、より軽量なワークWの搬送を可能とするばかりでなく、搬入口P1に位置するキャリア2におけるワークWの搬入高さと、搬出口P2に位置するキャリア2におけるワークWの搬出高さとの間の高低差を小さく抑えることができる。従って、搬入口P1または搬出口P2において、ワークWを昇降させるリフター装置の設置は不要であり、このことは設置コストの削減へと繋がる。
【0034】
さらに、このトラバーサ装置では、スライダ6のスライド方向を傾斜レール1が延びる方向と略平行としてある上、減速機構10によりスライダ6のスライド範囲を狭めてあるので、装置のコンパクト化を大いに図ることができる。
【0035】
本例のトラバーサ装置では、図4、図6(B)及び(C)に示すように、傾斜レール1に対して上方から接する遊転輪20と下方から接する遊転輪21とをキャリア本体4に設けてあるので、荷台部3の中心とワークWの重心と大きく外れるような場合でも、キャリア本体4の移動の際に荷台部3は殆ど揺れない。尚、遊転輪20、21はそれぞれ、傾斜レール1の長手方向と直角な横軸まわりに回転する。
【0036】
また、本例のトラバーサ装置では、図1〜図3に示すように、高さ調整機構22を備えた支持体23によって傾斜レール1を支持してあり、支持体22は、連結手段24(図1参照)により、傾斜レール1に対して傾斜レール1が延びる方向と垂直な軸まわりに揺動可能な状態で連結されている。従って、ワークWの搬送距離が長くなっても、傾斜レール1の傾斜角度を高さ調整機構22及び連結手段24によって簡単に調整することができる。
【0037】
尚、高さ調整機構22や連結手段24には公知である種々の構成を採用可能であり、例えば連結手段24は、傾斜レール1と支持体23とにそれぞれ固定した玉軸受ユニット(ピロー形ユニット等)を支軸で連結したものや、玉継手等によって構成することができ、この連結手段24による連結に加えて、傾斜レール1と支持体23とを固定する適宜の固定部材を用いるようにしてもよい。
【0038】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。例えば、以下のような変形例を挙げることができる。
【0039】
例えば、上記実施の形態のトラバーサ装置は、荷台部3はキャリア本体4によって傾斜レール1よりも下方の位置に吊り下げ保持された吊下げ搬送装置として構成されているので、傾斜レール1をある程度高い位置に設置することにより、トラバーサ装置の不使用時には傾斜レール1下のスペースを他の作業者の通行等にも用いることができるメリットがある。しかし、荷台部3が、傾斜レール1(キャリア本体4)の下方ではなく上方に位置するように構成されていてもよい。
【0040】
上記実施の形態では、回転体5はプーリーであり、傾斜レール1に設けられたベルト8と噛み合う(接する)ようにしているが、これに代えて、傾斜レール1にラック(ラックガイド)を設け、回転体5をこれに噛み合う(接する)ピニオンとしてもよい。
【0041】
上記実施の形態では、キャリア本体4が搬入口P1から搬出口P2に移動する際にばね7は縮み、この縮んだばね7の弾性復元力を利用してキャリア本体4を搬入口P1に戻すようにしているが、このばね7に代えて、キャリア本体4が搬入口P1から搬出口P2に移動する際に伸びるばねを設け、この伸びたばねの弾性復元力を利用してキャリア本体4を搬入口P1に戻すようにしてもよく、あるいは、このばねと上記のばね7の両方を設けるようにしてもよい。
【0042】
スライダ6のスライド方向は、図1等に示すスライダ6のスライド方向に限らず、これと逆の方向や鉛直方向などとすることができる。
【0043】
減速機構10を設けず、回転体5とラック14とが直接噛み合うようにしてもよい。
【0044】
支持体23は、床面上に起立するものに限らず、例えば天井から吊り下げて設けられるものであってもよい。
【0045】
なお、上記変形例どうしを適宜組み合わせてもよいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0046】
1 傾斜レール
2 キャリア
3 荷台部
5 回転体
6 スライダ
7 弾性部材
10 減速機構
23 支持体
24 連結手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送対象が載置される荷台部を有し、搬送対象の搬送先に向けて低くなるように傾斜した傾斜レールに沿って移動するキャリアに、
前記傾斜レールに接し該キャリアの移動に伴って回転する回転体と、
前記回転体の回転に連動してスライドするスライダと、
前記スライダのスライドに伴って弾性変形する弾性部材とが設けられたトラバーサ装置。
【請求項2】
前記傾斜レールを支持する支持体を、該傾斜レールに対して該傾斜レールが延びる方向と垂直な軸まわりに揺動可能な状態で連結する連結手段を備えた請求項1に記載のトラバーサ装置。
【請求項3】
前記荷台部は、前記傾斜レールよりも下方の位置に吊り下げ保持される請求項1または2に記載のトラバーサ装置。
【請求項4】
前記回転体の回転を減速させて前記スライダに伝達する減速機構を備えた請求項1〜3の何れか一項に記載のトラバーサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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