説明

トラバース装置

【課題】パッケージを形成するに際してヤーンガイドのトラバース幅を簡単かつ確実に変更できるトラバース装置を提供する。
【解決手段】トラバース装置10は、ヤーンガイド125がトラバースガイド123に対してトラバース方向に回動可能に連結され、ヤーンガイド125と所定の連結関係にあり、往路側トラバース方向に移動するヤーンガイド125を所定の連結関係に応じた回動角だけ往路側トラバース方向に回動させるとともに、復路側トラバース方向に移動するヤーンガイド125を所定の連結関係に応じた回動角だけ復路側トラバース方向に回動させるリンク機構13と、リンク機構13を駆動するステッピングモータ15とを備え、ステッピングモータ15によりリンク機構13を駆動してリンク機構13とヤーンガイド125の間の所定の連結関係を変更することによりヤーンガイド125の回動角を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カムローラの回転によりトラバースガイドがカム溝を摺動しながらガイド部材に沿って往復移動し、該トラバースガイドの往復移動に伴ってヤーンガイドが往復移動することによって糸条部材をトラバースするカム式のトラバース装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、糸条部材を巻き取ってパッケージを形成する巻糸装置は、パッケージの軸方向にトラバースガイドを往復移動させることによって糸条部材をトラバースするトラバース装置が設けられている。
【0003】
このトラバース装置は、カム溝が形成された回転可能なカムローラと、カム溝と係合するトラバースガイドと、該トラバースガイドをカムローラの軸方向に案内するガイド部材と、トラバースガイドに連結され、糸条部材をガイドするヤーンガイドとを備え、カムローラの回転によりトラバースガイドがカム溝を摺動しながらガイド部材に沿って往復移動し、該トラバースガイドの往復移動に伴ってヤーンガイドが往復移動することによって糸条部材をトラバースする、いわゆるカム式のトラバース装置が知られている。
【0004】
ところが、従来のトラバース装置は、糸条部材を巻き取ってパッケージを形成していく際に、トラバースガイドの折り返し点に対応するパッケージの両端部が次第に膨らんでしまい、パッケージの両端部が耳高(鼓状)になってしまうという難点があった。
【0005】
そこで、パッケージの両端部の耳高を防止するトラバース装置として、往復移動の折り返し点においてトラバースガイドの速度を変更させる技術が従来より知られており、例えば下記特許文献1に開示されている。この特許文献1のトラバース装置は、カム溝がカムローラの一方端側から他方端側に向かってらせん状に形成されており、該カム溝は中央部の傾斜角度よりカムローラの両端部の傾斜角度が大きくなるように形成されている。そして、カムローラを回転させることにより、傾斜角度の大きいカムローラの端部では高速でトラバースガイドを移動させ、トラバースガイドがカム溝の一方端側に達すると、カムローラを正逆回転させてトラバースガイドを他方端側に向かって高速で折り返すように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−104730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の装置では、トラバースガイドの移動速度を精度良く設定する必要があることから制御が難しく、パッケージの両端部の耳高を防止するには十分とはいえないという問題があった。
【0008】
また、近年、パッケージの形状は円筒状のみならず、用途に応じて様々な形状で形成されることが求められているが、従来のカム式のトラバース装置ではトラバース幅が一定であるため、所望の形状のパッケージを形成することは難しいという問題があった。
【0009】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであって、カム式のトラバース装置において、パッケージを形成するに際してヤーンガイドのトラバース幅を簡単かつ確実に変更することができるトラバース装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のトラバース装置は、カム溝が形成された回転可能なカムローラと、カム溝に摺動可能に係合するトラバースガイドと、該トラバースガイドをカムローラの軸方向に案内する案内部材と、トラバースガイドに連結され、糸条部材をガイドするヤーンガイドとを備え、カムローラの回転によりトラバースガイドがカム溝を摺動しながら案内部材に沿って往復移動し、トラバースガイドの往復移動に伴ってヤーンガイドが往復移動することによって糸条部材をトラバースするものである。このトラバース装置においては、上記目的を達成するために、ヤーンガイドは、トラバースガイドに対してトラバース方向に回動可能に連結され、ヤーンガイドと所定の連結関係にあり、往路側トラバース方向に移動するヤーンガイドを所定の連結関係に応じた回動角だけ往路側トラバース方向に回動させるとともに、復路側トラバース方向に移動するヤーンガイドを所定の連結関係に応じた回動角だけ復路側トラバース方向に回動させるリンク機構と、リンク機構を駆動する駆動モータとを備え、駆動モータによりリンク機構を駆動してリンク機構とヤーンガイドの間の所定の連結関係を変更することによって、ヤーンガイドの回動角を変更することを特徴とする。
【0011】
これによれば、駆動モータによりリンク機構を駆動してリンク機構とヤーンガイドの間の所定の連結関係を変更することによって、ヤーンガイドの回動角度を変更することができるため、ヤーンガイドのトラバース幅を変更することが可能となる。
【0012】
また、リンク機構は、駆動モータによりトラバース方向と直交する方向に揺動可能な態様で設けられ、かつ長さ方向に沿ってスライダ溝が形成されたテーパーバーと、該テーパーバーのスライダ溝に摺動可能に設けられたスライダとを有し、ヤーンガイドは、トラバースガイドと別の位置で前記スライダに回動自在に連結され、トラバースガイドがトラバース方向に往復移動するときにスライダがトラバース方向と異なる方向に往復摺動することにより、トラバース方向に所定の回動角度で回動するのが好ましい。これによれば、駆動モータによりテーパーバーを所定位置まで揺動させると、それに伴ってテーパーバーにおけるスライダの摺動方向が変化することにより、ヤーンガイドとテーパーバーの所定の連結関係が変更されるため、ヤーンガイドの回動角度を簡単かつ確実に変更することができる。
【0013】
また、リンク機構は、一端部をテーパーバーに連結され、かつ他端部を駆動モータに連結されるとともに、回動可能に設けられたレバーを有するのがこのましい。これによれば、駆動モータの駆動力がレバーの回動を介してテーパーバーに伝導するため、駆動モータの小さな駆動力にてテーパーバーを所定位置までより簡単かつ確実に揺動させることができる。
【0014】
また、レバーの近傍位置にセンサが設けられ、該センサは前記レバーが所定角度以上に回動した場合に該レバーを検知するのが好ましい。これによれば、レバーが所定角度以上に回動した場合に該レバーを検知することにより、該レバーに連結されているテーパーバーが所定角度以上の位置まで揺動したことを検知することができ、必要に応じて駆動モータの駆動を停止したり、補正したりすることが可能となる。しかも、一般にレバーはテーパーバーよりも外側の装置端部に配置されるため、レバーを検知するセンサもテーパーバーやヤーンガイドなどの主要部材の配置の制限を受けることなく装置端部に配置することができる。
【0015】
また、駆動モータは、糸条部材が巻き取られたパッケージの巻径に基づいて駆動量が制御されるのが好ましい。これによれば、パッケージに糸条部材が巻き取られるに際して、パッケージの巻径に応じて駆動モータの駆動量を制御するため、駆動モータとリンク機構を介して連結されているヤーンガイドのトラバース幅もパッケージの巻径に基づいて変更することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、駆動モータによりリンク機構を駆動してリンク機構とヤーンガイドの間の所定の連結関係を変更することによって、ヤーンガイドの回動角度が変更し得るため、カム式のトラバース装置において、パッケージを形成するに際してヤーンガイドのトラバース幅を簡単かつ確実に変更することができる。
【0017】
また、駆動モータの駆動量は、予めのプラグラムにより制御したり、あるいはパッケージの巻取状態により制御することが容易に行えるため、その駆動モータの駆動量に応じてヤーンガイドの回動角度を精度良く変更することができる。
【0018】
よって、ヤーンガイドのトラバース幅を精度良く変更することができるため、パッケージの両端部の耳高になることを簡単かつ確実に防止することが可能となる上に、また用途に応じて所望の形状のパッケージを簡単かつ確実に形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】巻糸装置における要部の斜視図である。
【図2】トラバース装置の正面図である。
【図3】トラバース装置の底面図である。
【図4】トラバース装置の側面図である。
【図5】トラバース装置の要部の分解斜視図である。
【図6】トラバース装置の動作を段階的に示す底面図である。
【図7】巻糸装置における電気的接続を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係るトラバース装置の一実施形態について図1〜図7を参照しつつ説明する。
【0021】
本実施形態に係るトラバース装置10は、図1に示すように、下方側から搬送されてくる糸条部材Y(以下「糸条Y」という)を巻き取ってパッケージPを形成する巻糸装置1に設けられている。該巻糸装置1においては、巻糸装置1本体から突設する巻取装置20の近傍位置に本トラバース装置10が設けられており、該トラバース装置10によって糸条Yをトラバースし、巻取装置20のボビン軸21に装着したボビン紙管22に糸条Yを巻き取ることでパッケージPを形成する。また、この巻糸装置1は、図7に示すように、エンコーダ30および制御装置40を備えている。
【0022】
前記トラバース装置10は、図1に示すように、巻糸装置1から巻取装置20の軸方向に突出する軸部材Rと連結される回転アーム11と、回転アーム11の先端部に連結されるカム機構12と、カム機構12に連結されるリンク機構13と、リンク機構13の近傍に設けられたセンサ14と、リンク機構13を駆動するステッピングモータ15と、カム機構12の巻取装置20側に設けられたプレッシャーローラ16とを備えている。
【0023】
前記回転アーム11は、ボビン軸21の軸回転と同一方向に回転可能な軸部材Rに直交固設されている。この回転アーム11は、巻取装置20におけるパッケージPの巻径が大きくなることによってパッケージPの表面を接圧するプレッシャーローラ16が押圧されると、その押圧に伴って軸部材Rを中心に回転する。
【0024】
前記カム機構12は、回転アーム11の先端部から軸方向に直交して設けられている。このカム機構12は、図2に示すように、カム機構12の各種部材を支持するカムボックス121と、カム溝122aが形成されたカムローラ122と、カム溝122aに摺動可能に係合するトラバースガイド123と、トラバースガイド123をカムローラ122の軸方向に案内するガイド板124と、トラバースガイド123に連結されたヤーンガイド125とを備えている。
【0025】
前記カムボックス121は、筺体状に形成され、基端部側(巻糸装置1側)の内部に支持プーリ121aを有しており、該支持プーリ121aによってカムローラ122のローラ軸122bを軸支する。
【0026】
前記カムローラ122は、外周面において螺旋状のカム溝122aが無端で形成されており、カムボックス121の支持プーリ121aによってボビン軸21に対して平行に軸支されている。
【0027】
前記トラバースガイド123は、カム溝122aに摺動可能に係合するトラバースシュー123aと、トラバースシュー123aに連結された往復移動用スライダ123bとを備える。トラバースシュー123aはカム溝122aに沿ってカムローラ122の表面を摺動可能であり、往復移動用スライダ123bは該トラバースシュー123aとともに移動可能である。ここにおける往復移動用スライダ123bは、図5に示すように、2つの孔A1および孔A2が穿設されている。先端側の孔A1がトラバースシュー123aと連結され、基端側の孔A2がヤーンガイド125の連結突片125cを枢支する。
【0028】
前記ガイド板124は、図4に示すように、第1ガイド板124aおよび第2ガイド板124bをカムローラ122の下方に備え、第1ガイド板124aおよび第2ガイド板124bを所定間隔を空けて軸方向に並列させている。この所定間隔がガイド溝124cとなされ、該ガイド溝124cに嵌合される前記往復移動用スライダ123bを軸方向に摺動可能にすることによって、トラバースガイド123を往復移動可能にさせる。
【0029】
前記ヤーンガイド125は、図3に示すように、平面視において直角の鉤状に形成されており、鉤状の一方端部を巻取装置20側に突出させており、その先端部に糸条Yを通すためのガイド孔125aが穿設されている。また、鉤状の他方端部においては後述するリンク機構13の回動用スライダ132と連結するための連結突片125bが設けられている。さらに、ヤーンガイド125は、図5に示すように、鉤状の屈曲部において往復移動用スライダ123bの孔A2に枢支される連結突片125cが設けられている。これにより、ヤーンガイド125は、トラバースガイド123の往復移動に伴って軸方向に往復移動し得るとともに、トラバースガイド123に対してトラバース方向に回動可能である。
【0030】
前記リンク機構13は、図3に示すように、ヤーンガイド125と所定の連結関係をなして設けられている。このリンク機構13は、トラバース方向(軸方向)を長さ方向とする板状のテーパーバー131と、該テーパーバー131において摺動可能に設けられた回動用スライダ132と、一端部をテーパーバー131と連結されているレバー133とを備えている。
【0031】
前記テーパーバー131は、図3および図5に示すように、ヤーンガイド125の下方側に設けられ、カバー部材134によって下方側から支持されている。また、このテーパーバー131は、ヤーンガイド125が往復移動するトラバース方向と直交する方向に揺動するための揺動軸131aが略中間部に設けられ、上記カバー部材134によって枢支されている。このテーパーバー131は、長さ方向に沿って回動用スライダ132を摺動させるスライダ溝131bが形成されている。したがって、テーパーバー131を揺動させることにより、スライダ溝131bの方向が変更されるため、回動用スライダ132の摺動方向を変更させることができる。
【0032】
前記回動用スライダ132は、テーパーバー131のスライダ溝131bに摺動可能に設けられるとともに、ヤーンガイド125の連結突片125bと回転自在に連結されている。したがって、回動用スライダ132は、ヤーンガイド125がトラバース方向に往復移動することに伴って、スライダ溝131bに沿って摺動する。
【0033】
前記レバー133は、図3に示すように、平面視において略十字状に形成されており、図5に示すように、軸受部材133Aによって枢支された回動軸133aを備えている。このレバー133は、一端部をテーパーバー131に連結されている。具体的には、テーパーバー131のスライダ溝131bにおいて摺動可能および回動自在な連結用スライダ133bが設けられている。したがって、レバー133を回動させることによって、連結用スライダ133bを介して、テーパーバー131を揺動させることができる。また、レバー133は、テーパーバー131と連結されている一端部の反時計側端部が、後述のステッピングモータ15と連結されている。
【0034】
以上のリンク機構13では、ヤーンガイド125と直接的に連結される回動用スライダ132の摺動方向が変更されることによって、リンク機構13とヤーンガイド125の間の連結関係を変更することができる。なお、この連結関係の変更の詳細について後述する。
【0035】
前記センサ14は、図3に示すように、レバー133の近傍位置に設けられ、レバー133が所定角度以上に回動した場合に該レバー133を検知するものである。具体的に、センサ14は、レバー133において回動軸133aを挟んでテーパーバー133と反対側の端部および回動軸133aを挟んでステッピングモータ15と反対側の端部を個別に検知する。これにより、テーパーバー131が両側方向に所定角度以上の位置まで揺動したことをレバー133の回動から検知することができるため、必要に応じてステッピングモータ15の駆動を停止したり、補正したりすることが可能になる。しかも、レバー133は、テーパーバー131よりも外側の装置10端部に配置されるため、レバー133を検知するセンサ14もテーパーバー131やヤーンガイド125の配置の制限を受けることなくトラバース装置10端部に配置することができる。
【0036】
前記ステッピングモータ15は、図3に示すように、カムボックス121の下方において、回転軸151aによってレバー133と同一平面方向に回転可能なモータブラケット151に保持されている。また、このステッピングモータ15は、レバー133と連結されている駆動バー152を有しており、該駆動バー152がレバー133と連結されていることよって、リンク機構13全体とヤーンガイド125の間の連結関係を変更することができる。すなわち、ステッピングモータ15が該駆動バー152を駆動することによってレバー133を回動させ、このレバー133の回動によってテーパーバー131を揺動させる。したがって、テーパーバー131のスライダ溝131bの方向が変化して、リンク機構13とヤーンガイド125の間の連結関係を変更することができる。ここでのステッピングモータ15の駆動力は、レバー133を介してテーパーバー131に伝導されるため、ステッピングモータ15の小さい駆動力にてテーパーバー131を所定位置より簡単かつ確実に揺動させることができる。また、上記ステッピングモータ15は、図7に示すように、制御装置40と接続されており、制御装置40からの命令信号に基づいて駆動される。
【0037】
前記プレッシャーローラ16は、パッケージPの表面を接圧することによって、パッケージPの形状を整えるローラ部材である。
【0038】
前記エンコーダ30は、図1に示すように、軸部材Rと巻糸装置1本体の内部で連結されている。このエンコーダ30は、パッケージPの巻径が大きくなることによって回転アーム11が回転した回転角度を計測し、該回転角度を回転角度データにデジタル化する。また、図7に示すように、デジタル化した回転角度データを制御装置40に送信する。
【0039】
前記制御装置40は、図7に示すように、エンコーダ30から送信された回転角度データを受信する。また、該回転角度データに基づいてパッケージPの巻径を算出し、該巻径に基づいてステッピングモータ15の駆動量を設定する。そして、設定した駆動量でステッピングモータ15の駆動を制御する。これにより、リンク機構13を駆動してリンク機構13とヤーンガイド125の間の連結関係をパッケージPの巻径に基づいて変更することができる。すなわち、パッケージPに糸条Yを巻き取るに際して、その時々のパッケージPの巻径と巻幅の関係が重要となってくるが、このようにパッケージPの巻径に基づいてトラバース幅Trを変更することにより所望の形状のパッケージPをより一層簡単かつ確実に形成することが可能となる。
【0040】
次に、本トラバース装置10の動作について説明する。
【0041】
まず、糸条Yをトラバースする動作について説明する。トラバース装置10においては、カムローラ122を回転することによって、トラバースガイド123がカム溝122aを摺動しながらガイド板124に沿って軸方向に往復移動する。これに伴ってヤーンガイド125が往復移動することより、ヤーンガイド125のガイド孔125aに通した糸条Yをトラバースすることができる。したがって、トラバース装置10によってトラバースした糸条Yを、巻取装置20のボビン軸21に装着されたボビン紙管22に巻き取っていくことによって、パッケージPを形成することが可能となる。
【0042】
続いて、トラバース幅Trを変更する動作の例について図6を参照しつつ説明する。以下では、トラバース幅Trを段階的に狭くする場合について説明する。なお、説明の便宜上、ヤーンガイド125の連結突片125cと連結された往復移動用スライダ123bが摺動する方向を「摺動方向D」とし、ヤーンガイド125の連結突片125bと連結された回動用スライダ132が摺動する方向を「摺動方向dn」とする。また、図6では本動作に係る主要な構成を図示して説明する。
【0043】
まず、図6(a)に示すように、ステッピングモータ15によって駆動バー152を先端側に駆動させる。すると、駆動バー152と連結しているレバー133がその駆動量に応じて図中の時計方向に回動した状態となる。このため、テーパーバー131が揺動軸131aによって反時計方向に揺動し、回動用スライダ132の摺動方向は、往復移動用スライダ123bの摺動方向Dを反時計方向に角度αだけ回転させた方向(摺動方向d1)に配置される。したがって、リンク機構13の回動用スライダ132およびテーパーバー131とヤーンガイド125との連結関係は、摺動方向Dおよび摺動方向d1に基づいて設定される。
【0044】
この連結関係において、ヤーンガイド125が基端側(回転アーム11側)にある場合、回動用スライダ132は、往復移動用スライダ123bの摺動方向Dに対して前方側(図6において上方側)に配置される。これにより、ヤーンガイド125は、ガイド孔125aを有する側の端部が外側に傾斜角度θ11だけ傾斜した状態となる。そして、ヤーンガイド125が基端側から先端側(往路側トラバース方向)に移動するに際して、回動用スライダ132は、往復移動用スライダ123bの摺動位置Dの後方側(図6において下方側)に向かって次第に位置を変化されていく。ヤーンガイド125が先端側に到達したとき、回動用スライダ132は往復移動用スライダ123bの摺動方向Dの後方側に配置される。このため、ヤーンガイド125は、ガイド孔125aを有する側の他方端部が外側に角度θ12だけ傾斜した状態となる。このことより、往復移動用スライダ123bと連結する連結突片125cを軸にしてヤーンガイド125を回動角度θ1(基端側での傾斜角度θ11と先端部側での傾斜角度θ12との合計)だけ往路側トラバース方向(反時計方向)に回動させることができる。
【0045】
一方、ヤーンガイド125が先端側から基端側(復路側トラバース方向)に移動するに際して、回動用スライダ132は、往復移動用スライダ123bの摺動位置Dに対して後方側から前方側に向かって次第に位置を変化されていく。ヤーンガイド125が基端側に到達したとき、回動用スライダ132は往復移動用スライダ123bの摺動方向Dに対して前方側に配置される。このため、ヤーンガイド125は、ガイド孔125aを有する側の端部が外側に角度θ11だけ傾斜した状態となる。このことより、往復移動用スライダ123bと連結する連結突片125cを軸にしてヤーンガイド125を回動角度θ1だけ復路側トラバース方向(時計方向)に回動させることができる。
【0046】
また、このことによって、基端側においてヤーンガイド125が回動角度θ11だけ外側に回動した状態でガイド孔125aが配置されるため、このガイド孔125aの配置位置がトラバース幅Tr1の一方側端部となる。また、先端側においてヤーンガイド125が回動角度θ12だけ外側に回動した状態でガイド孔125aが配置されるため、このガイド孔125aの配置位置がトラバース幅Tr1の他方側端部となる。これにより、ヤーンガイド125の往復移動の幅より広いトラバース幅Tr1で糸条Yをトラバースすることができる。
【0047】
次に、上述したトラバース幅Tr1で糸条Yをトラバースしている最中に、図6(b)に示すように、ステッピングモータ15によって駆動バー152を該駆動バー152の中間部まで基端側に駆動させる。すると、駆動バー152と連結しているレバー133がその駆動量に応じて図中の反時計方向に回動する。このため、テーパーバー131が揺動軸131aによって時計方向に揺動し、回動用スライダ132の摺動方向d1は、往復移動用スライダ123bの摺動方向Dを反時計方向に角度αだけ回転させた方向(摺動方向d2)、つまり往復移動用スライダ123bの摺動方向Dと平行の方向(摺動方向d2)に配置される。したがって、リンク機構13の回動用スライダ132およびテーパーバー131とヤーンガイド125との連結関係は、摺動方向Dおよび摺動方向d2に基づいて設定される。
【0048】
この連結関係において、ヤーンガイド125が基端側から先端側のいずれの位置にある場合でも、回動用スライダ132は、往復移動用スライダ123bの摺動方向Dと同一の位置関係に配置される。このため、ヤーンガイド125は、ガイド孔125aを有する側の端部がトラバース方向に直交する方向に向いた状態を維持し続ける。したがって、ヤーンガイド125が往路側トラバース方向および復路側トラバース方向に移動するに際して、ヤーンガイド125を回動しないようにすることができる。すなわち、回動角度θ1で回動していたヤーンガイド125を回動角度ゼロに変更することができる。
【0049】
また、このことによって、往復移動している際のヤーンガイド125は、ガイド孔125aを有する側の端部がトラバース方向に直交する方向に向いた状態を維持し続けているため、ヤーンガイド125の往復移動の幅と同一のトラバース幅Tr2で糸条Yをトラバースすることができる。
【0050】
以上より、ステッピングモータ15によりリンク機構13とヤーンガイド125とにおける連結関係を変更することによって、ヤーンガイド125の回動角を変更したため、ヤーンガイド125のトラバース幅Trをトラバース幅Tr1からトラバース幅Tr2に変更することができる。
【0051】
次に、上述したトラバース幅Tr2で糸条Yをトラバースしている最中に、図6(c)に示すように、ステッピングモータ15によって駆動バー152をさらに基端側に駆動させる。すると、駆動バー152と連結しているレバー133がその駆動量に応じて図中の反時計方向に回動する。このため、テーパーバー131が揺動軸131aによって時計方向に揺動し、回動用スライダ132の摺動方向d2は、往復移動用スライダ123bの摺動方向Dを時計方向に角度βだけ回転させた方向(摺動方向d3)に配置される。したがって、リンク機構13の回動用スライダ132およびテーパーバー131とヤーンガイド125との連結関係は、摺動方向Dおよび摺動方向d3に基づいて設定される。
【0052】
この連結関係において、ヤーンガイド125が基端側にある場合、回動用スライダ132は、往復移動用スライダ123bの摺動方向Dに対して後方側に配置される。このため、ヤーンガイド125は、ガイド孔125aを有する側の端部が内側に傾斜角度θ21だけ傾斜した状態となる。そして、ヤーンガイド125が基端側から先端側(往路側トラバース方向)に移動するに際して、往復移動用スライダ123bの摺動位置Dに対して後方側から前方側に向かって次第に位置を変化されていく。ヤーンガイド125が先端側に到達したとき、回動用スライダ132は、往復移動用スライダ123bの摺動方向Dに対して前方側に配置される。このため、ヤーンガイド125は、ガイド孔125aを有する側の端部が内側に角度θ22だけ傾斜した状態となる。このことより、往復移動用スライダ123bと連結する連結突片125cを軸にしてヤーンガイド125を回動角度θ2(基端側での傾斜角度θ21と先端部側での傾斜角度θ22との合計)だけ往路側トラバース方向(時計方向)に回動させることができる。
【0053】
一方、ヤーンガイド125が先端側から基端側(復路側トラバース方向)に移動するに際して、回動用スライダ132は、往復移動用スライダ123bの摺動位置Dに対して前方側から後方側に向かって次第に位置を変化されていく。ヤーンガイド125が基端側に到達したとき、回動用スライダ132は、往復移動用スライダ123bの摺動方向Dに対して後方側に配置される。このため、ヤーンガイド125は、ガイド孔125aを有する側の端部が内側に角度θ21だけ傾斜した状態となる。このことより、往復移動用スライダ123bと連結する連結突片125cを軸にしてヤーンガイド125を回動角度θ2だけ復路側トラバース方向と逆方向(反時計方向)に回動させて戻すことができる。
【0054】
また、このことによって、基端側においてヤーンガイド125が回動角度θ21だけ内側に回動した状態でガイド孔125aが配置されるため、このガイド孔125aの配置位置がトラバース幅Tr3の一方側端部となる。また、先端側においてヤーンガイド125が回動角度θ22だけ内側に回動した状態でガイド孔125aが配置されるため、このガイド孔125aの配置位置がトラバース幅Tr3の他方側端部となる。これにより、ヤーンガイド125の往復移動の幅より狭いトラバース幅Tr3で糸条Yをトラバースすることができる。
【0055】
以上より、ステッピングモータ15によりリンク機構13とヤーンガイド125とにおける連結関係を変更することによって、ヤーンガイド125の回動角を変更したため、ヤーンガイド125のトラバース幅Trをトラバース幅Tr2からトラバース幅Tr3に変更することができる。
【0056】
なお、上記実施形態においては、ヤーンガイド125の回動角を図6(a)から図6(b)、そして図6(b)から図6(c)の2段階で狭くなるように変更する場合について説明したが、1段階または3段階以上で変更してもよいし、無段階で連続的に変更するようにしてもよい。また、ヤーンガイド125の回動角を広くなるように変更してもよい。
【0057】
また、レバー133を介してステッピングモータ15の駆動によりテーパーバー131が揺動される場合について説明したが、レバー133を介さずに、ステッピングモータ15の駆動により直接的にテーパーバー131が揺動されるようにしてもよい。
【0058】
また、テーパーバー131が長さ方向にスライダ溝131bを有する場合について説明したが、長さ方向に限られない。要は、スライダ溝131bを摺動する回動用スライダ132がヤーンガイド125を回動させられればテーパーバー131の形状は任意でも良い。
【0059】
また、センサ14がレバー133の近傍位置に設けられる場合について説明したが、近傍でなくてもよい。
【0060】
また、ステッピングモータ15がパッケージPの巻径に基づいて駆動量が制御される場合について説明したが、その他の要素(例えば、糸条Yの繰出量、巻取時間など)に基づいて制御されてもよい。あるいは、ステッピングモータ15が何らかの要素によって制御されなくてもよい。
【0061】
また、図6を用いてヤーンガイド125が回動せずに一定の姿勢を維持したままの場合も説明したが、これはヤーンガイド125が往路側および復路側トラバース方向に0(ゼロ)という角度で回動しているものに含まれているものとする。
【0062】
以上、図面を参照して本発明の実施形態を説明したが、本発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、本発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…巻糸装置
10…トラバース装置
11…回転アーム
12…カム機構
121…カムボックス
121a…支持プーリ
122…カムローラ
122a…カム溝
122b…ローラ軸
123…トラバースガイド
123a…トラバースシュー
123b…往復移動用スライダ
124…ガイド板
124a…第1ガイド板
124b…第2ガイド板
125…ヤーンガイド
125a…ガイド孔
125b、125c…連結突片
13…リンク機構
131…テーパーバー
131a…揺動軸
131b…スライダ溝
132…回動用スライダ
133…レバー
133a…回転軸
133A…軸受部材
133b…連結用スライダ
134…カバー部材
14…センサ
15…ステッピングモータ
151…モータブラケット
151a…回転軸
152…駆動バー
16…プレッシャーローラ
20…巻取装置
21…ボビン軸
22…ボビン紙管
30…エンコーダ
40…制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カム溝が形成された回転可能なカムローラと、前記カム溝に摺動可能に係合するトラバースガイドと、該トラバースガイドを前記カムローラの軸方向に案内する案内部材と、前記トラバースガイドに連結され、糸条部材をガイドするヤーンガイドとを備え、前記カムローラの回転により前記トラバースガイドが前記カム溝を摺動しながら案内部材に沿って往復移動し、前記トラバースガイドの往復移動に伴って前記ヤーンガイドが往復移動することによって糸条部材をトラバースするトラバース装置において、
前記ヤーンガイドは、前記トラバースガイドに対してトラバース方向に回動可能に連結され、
前記ヤーンガイドと所定の連結関係にあり、往路側トラバース方向に移動する前記ヤーンガイドを前記所定の連結関係に応じた回動角だけ往路側トラバース方向に回動させるとともに、復路側トラバース方向に移動する前記ヤーンガイドを前記所定の連結関係に応じた回動角だけ復路側トラバース方向に回動させるリンク機構と、
前記リンク機構を駆動する駆動モータとを備え、
前記駆動モータにより前記リンク機構を駆動して前記リンク機構と前記ヤーンガイドの間の前記所定の連結関係を変更することによって、前記ヤーンガイドの回動角を変更することを特徴とするトラバース装置。
【請求項2】
前記リンク機構は、前記駆動モータによりトラバース方向と直交する方向に揺動可能な態様で設けられ、かつ長さ方向に沿ってスライダ溝が形成されたテーパーバーと、該テーパーバーのスライダ溝に摺動可能に設けられたスライダとを有し、
前記ヤーンガイドは、前記トラバースガイドと別の位置で前記スライダに回動自在に連結され、前記トラバースガイドがトラバース方向に往復移動するときに前記スライダがトラバース方向と異なる方向に往復摺動することにより、トラバース方向に所定の回動角度で回動する請求項1に記載のトラバース装置。
【請求項3】
前記リンク機構は、一端部を前記テーパーバーに連結され、かつ他端部を前記駆動モータに連結されるとともに、回動可能に設けられたレバーを有する請求項2に記載のトラバース装置。
【請求項4】
前記レバーの近傍位置にセンサが設けられ、該センサは前記レバーが所定角度以上に回動した場合に該レバーを検知する請求項3に記載のトラバース装置。
【請求項5】
前記駆動モータは、糸条部材が巻き取られたパッケージの巻径に基づいて駆動量が制御される請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のトラバース装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−56755(P2013−56755A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196695(P2011−196695)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000146984)株式会社神津製作所 (8)
【Fターム(参考)】